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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01B
管理番号 1387970
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-25 
確定日 2022-08-04 
事件の表示 特願2017− 17937「自律走行作業車両」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018−121594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月2日の出願であって、手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 1月15日付け:拒絶理由通知
令和 2年 3月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月25日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 3年 3月24日付け:拒絶査定
令和 3年 6月25日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願において、審判請求時の補正はなされておらず、本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和2年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の、請求項1ないし3に記載された事項により特定されるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
車体部と、
前記車体部の自律走行を制御する自律走行制御部と、
作業に用いられる作業体を有し、前記車体部に装着される作業機と、
前記車体部に取り付けられて測位システムからの測位信号を受信する測位アンテナと、
前記測位信号に基づいて前記測位アンテナの位置情報を取得可能な位置情報取得部と、
前記車体部における前記測位アンテナの取付位置と前記作業機における前記作業体の作業中心位置との水平距離を取得する距離取得部と、
前記作業機による作業が行われる作業領域と前記作業機による作業が行われない非作業領域を記憶する領域記憶部と、
前記作業体を作業状態と非作業状態とに切り換える制御が可能な作業体制御部と、
を備え、
前記自律走行制御部は、
前記車体部が作業領域から非作業領域に移動する場合は、前記作業中心位置が前記作業領域と前記非作業領域との境界を越えたときに前記作業体が非作業状態であるように前記作業体制御部に前記作業体を第1切換制御させ、
前記作業体制御部は、前記自律走行制御部から出力される制御信号に基づいて前記作業体の状態を切り換えるように構成され、
前記第1切換制御において、前記作業体制御部は、前記作業体を非作業状態とさせる第1制御信号を出力し、所定時間の経過後、前記作業機を上昇させることを特徴とする自律走行作業車両。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1 特開2016−95660号公報
引用文献2 特開2015−223096号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1.引用文献1の記載及び引用発明1
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア.「【0011】
無人で自動走行可能な自律走行作業車両1、及び、この自律走行作業車両1に随伴してオペレータが搭乗して操向操作する随伴走行作業車両100をトラクタとし、自律走行作業車両1及び随伴走行作業車両100に装着される作業機としてロータリ耕耘装置24が装着された実施形態について説明する。但し、作業車両はトラクタに限定するものではなく、コンバイン等でもよく、また、作業機はロータリ耕耘装置24に限定するものではなく、施肥播種機や草刈機や薬剤散布機や消毒機や収穫機等であってもよい。」


イ.「【0012】
図1、図2において、自律走行作業車両1となるトラクタの全体構成について説明する。ボンネット2内にエンジン3が内設され、該ボンネット2の後部のキャビン11内にダッシュボード14が設けられ、ダッシュボード14上に操向操作手段となるステアリングハンドル4が設けられている。該ステアリングハンドル4の回動により操向装置を介して前輪9・9の向きが回動される。自律走行作業車両1の操向方向は操向センサ20により検知される。操向センサ20はロータリエンコーダ等の角度センサからなり、前輪9の回動基部に配置される。但し、操向センサ20の検知構成は限定するものではなく操舵方向が認識されるものであればよく、ステアリングハンドル4の回動を検知したり、パワーステアリングの作動量を検知してもよい。操向センサ20により得られた検出値は制御装置30に入力される。制御装置30はCPU(中央演算処理装置)やRAMやROM等の記憶装置30mやインターフェース等を備え、記憶装置30mには自律走行作業車両1を動作させるためのプログラムやデータ等が記憶される。」

ウ.「【0018】
また、トラクタ機体後方に作業機装着装置23を介して作業機としてロータリ耕耘装置24が昇降自在に装設させている。前記ミッションケース6上に昇降シリンダ26が設けられ、該昇降シリンダ26を伸縮させることにより、作業機装着装置23を構成する昇降アームを回動させてロータリ耕耘装置24を昇降できるようにしている。昇降シリンダ26は昇降アクチュエータ25の作動により伸縮され、昇降アクチュエータ25は制御装置30と接続されている。」

エ.「【0019】
制御装置30には衛星測位システムを構成する移動通信機33が接続されている。移動通信機33には移動GPSアンテナ34とデータ受信アンテナ38が接続され、移動GPSアンテナ34とデータ受信アンテナ38は前記キャビン11上に設けられる。該移動通信機33には、位置算出手段を備えて緯度と経度を制御装置30に送信し、現在位置を把握できるようにしている。なお、GPS(米国)に加えて準天頂衛星(日本)やグロナス衛星(ロシア)等の衛星測位システム(GNSS)を利用することで精度の高い測位ができるが、本実施形態ではGPSを用いて説明する。」

オ.「【0026】
自律走行作業車両1に配置された移動GPSアンテナ34はGPS衛星37・37・・・からの信号を受信する。この信号は移動通信機33に送信され測位される。そして、同時に基準局となる固定GPSアンテナ36でGPS衛星37・37・・・からの信号を受信し、固定通信機35で測位し移動通信機33に送信し、観測されたデータを解析して移動局の位置を決定する。こうして得られた位置情報は制御装置30に送信される。」

カ.「【0027】
こうして、この自律走行作業車両1における制御装置30は自動走行させる自動走行手段を備えて、自動走行手段はGPS衛星37・37・・・から送信される電波を受信して移動通信機33において設定時間間隔で機体の位置情報を求め、ジャイロセンサ31及び方位センサ32から機体の変位情報および方位情報を求め、これら位置情報と変位情報と方位情報に基づいて機体が予め設定した設定経路Rに沿って走行するように、操舵アクチュエータ40、変速手段44、昇降アクチュエータ25、PTO入切手段45、エンジンコントローラ60等を制御して自動走行し自動で作業できるようにしている。なお、作業範囲となる圃場Hの外周の位置情報も周知の方法によって予め設定され、記憶装置30mに記憶されている。」

キ.「【0034】
このような構成において、図3に示すような圃場Hに設定走行経路Rを予め設定して記憶装置30mに記憶し、自動走行開始制御モードのとき自律走行作業車両1が設定走行経路Rに沿って走行させることができる。なお、前記圃場Hの位置を定めたり、衛星測位システムを利用して走行したり、走行経路Rを設定したりするために地図データ(情報)が参照されるが、この地図データは、インターネットに公開されている地図データや地図メーカ等が配信している地図データやカーナビ地図データ等が用いられる。
本実施形態での作業はロータリ耕耘装置24による耕耘作業とし、設定走行経路Rは往復耕耘とし、随伴走行作業車両100と共に併走作業を行うため、枕地で旋回したときに1列飛ばして次の条に移動して作業を行うが、自律走行作業車両1による単独作業では、枕地旋回した後隣接の条に移動して作業を行う。なお、枕地はロータリ耕耘装置24による耕耘作業の場合、作業機の左右幅W1の二倍の長さとする。」

ク.「【0036】
また、自律走行作業車両(トラクタ)1と作業機(ロータリ耕耘装置24)の大きさ(基準長さ)は、自動走行させるときに圃場Hからはみ出したり障害物を避けたりするため等のために必要であり、作業前に予め記憶装置30aに記憶させている。基準長さとしては、図4に示すように、トラクタの全長L0と全幅W0と、トラクタに作業機(ロータリ耕耘装置24)を装着した状態において、GPSアンテナ34から機体前端までの距離L1、GPSアンテナ34から作業機の後端までの距離L2、GPSアンテナ34から作業機の作用位置までの距離L3、作業機の左右幅W1(作業機に幅がトラクタの幅より広い場合)、作業オーバーラップ量(重複幅)W2、作業機が偏心して配置される場合は左右中心からの偏心量S1(図示せず)等であり、それぞれトラクタ及び作業機の諸元表から得て制御装置30の記憶装置30aに保存する。」

ケ.「【0038】
前記作業機の作用位置は作業機によって決まり、ロータリ耕耘装置24の場合、耕耘爪軸の下方となり、ロータリ耕耘装置24の平面視における中央とは多少ずれる。また、ブームスプレーヤの作業作用位置は噴霧杆の下方となり、ブームスプレーヤ(散布装置全体)の平面視における中央と異なる位置となる。このように、作業機の作用位置は平面視の中央とは限らず、作業機毎に異なるため、作業機毎に設定する必要がある。」

コ.「【0041】
こうして、自律走行作業車両1により作業を行う場合、枕地の作業開始位置に自律走行作業車両1を位置させ、始動スイッチを操作して作業を開始する。自律走行作業車両1の制御装置30は設定走行経路Rに沿うように操向装置となる操舵アクチュエータ40を制御し、圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置Eに到達すると、PTO入切手段45をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータ25を作動させて昇降シリンダ26伸長させてロータリ耕耘装置24を上昇させる。
そして、枕地旋回して逆方向を向いて進行し、作業機の作用位置が作業開始・終了位置Eに至ると、PTO入切手段45をオンとしてロータリを回転させて作業機を駆動すると同時に昇降アクチュエータ25を作動させて昇降シリンダ26縮小させてロータリ耕耘装置24を下降させ、作業を開始する。こうして、作業を繰り返すことで、圃場端の枕地において、作業開始・終了位置Eが揃い、きれいな仕上がりとすることができ、作業効率を向上することができる。」

サ.図1及び図4は次のものである。
【図1】


【図4】


シ.上記図1の記載より、「移動GPSアンテナ」は「トラクタ機体」に取り付けられていることが看取される。

ス.上記図4の記載より、「GPSアンテナから作業機の作用位置までの距離L3」は、GPSアンテナから作業機の作用位置までの水平距離であることが看取される。

セ.上記ケ.の記載より、「ロータリ耕耘装置」が「耕耘爪軸」を備えていることが理解でき、また、耕耘爪軸の周囲には耕耘爪が複数設けられることが技術常識であるから、「ロータリ耕耘装置」は、周囲に複数の耕耘爪を設けた耕耘爪軸を備えているといえる。

ソ.上記ケ.の記載から、作用位置は耕耘爪軸の下方を意味するから、上記ス.の「「GPSアンテナから作業機の作用位置までの距離L3」は、GPSアンテナから耕耘爪軸までの水平距離といえる。

(2)引用発明1
上記(1)に基いて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「自動走行手段及び記憶装置を備えた制御装置と、
制御装置に接続された移動通信機と、
移動通信機に接続された移動GPSアンテナと、が設けられ、
無人で自動走行が可能なトラクタである自立走行作業車両であって、
周囲に複数の耕耘爪を設けた耕耘爪軸を備え、耕耘作業に用いられるロータリ耕耘装置がトラクタ機体後方に昇降自在に装設され、
移動GPSアンテナは、トラクタ機体に取り付けられ、GPS衛星からの信号を受信し、この信号を移動通信機に送信して測位され、
自動走行手段は、位置情報と変位情報と方位情報に基づいて機体が予め設定した設定経路に沿って走行するように、操舵アクチュエータ、変速手段、昇降アクチュエータ、PTO入切手段、エンジンコントローラ等を制御して自動走行し自動で作業できるようにしており、
記憶装置は、トラクタ及び作業機の諸元表から得たGPSアンテナから耕耘爪軸までの水平距離を保存し、圃場に予め設定された設定走行経路と予め設定された作業範囲となる圃場の外周の位置情報を記憶し、
制御装置は、設定走行経路に沿うように操向装置となる操舵アクチュエータを制御し、圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達すると、PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ、枕地旋回して逆方向に向いて進行し、作業機の作用位置が作業開始・終了位置に至ると、PTO入切手段をオンとしてロータリを回転させて作業機を駆動すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を下降させ、作業を開始させることで、作業を繰り返す、
自立走行作業車両。」

2.引用文献2の記載及び引用発明2
(1)引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0001】
本発明は、車輌本機に昇降自在に連結され且つ昇降アクチュエータによって昇降されるロータリー耕耘装置を備えたトラクタに関する。」

イ.「【0003】
前記ロータリー耕耘装置は、前記車輌本機にリンク機構を介して連結されるフレーム構造体と、前記車輌本機に備えられるエンジンからPTOクラッチ装置及びPTO軸を介して作動的に伝達される回転動力によって駆動される耕耘軸と、前記耕耘軸に設けられた耕耘爪と、前記耕耘爪の回転軌跡の上方を覆うメインカバーと、前記耕耘爪の回転軌跡の後方を覆うように前端部が前記メインカバーの後端部に回動可能に連結されたリヤカバーとを有している。」

ウ.「【0025】
図1及び図2に示すように、前記トラクタ1は、車輌フレーム10と、前記車輌フレーム10に支持された運転席15と、前記車輌フレーム10に支持されたエンジン50と、左右一対の前輪20Fと、左右一対の後輪20Rと、前記エンジン50からの回転動力を駆動輪に伝達する走行系伝動構造60と、外部に向けて回転動力を出力するPTO軸95と、前記エンジン50からの回転動力を前記PTO軸95に伝達するPTO系伝動構造80と、制御装置100(下記図3参照)と、車輌本機に昇降自在に連結されたロータリー耕耘装置300とを有している。」

エ.「【0118】
昇降連動モードの選択時には、前記制御装置100は、前記主クラッチ連動制御に加えて、前記PTOクラッチ装置81が伝動状態で且つ前記ロータリー耕耘装置300が作業位置に位置されている際に前記ロータリー耕耘装置300を非作業位置に上昇させる所定の上昇指令を受けると、前記PTO入切操作部材160の操作状態に拘わらず、前記PTOクラッチ装置81を強制的に動力遮断状態とさせるように前記PTOクラッチアクチュエータ260を作動させる(以下、昇降連動制御という)。」

オ.「【0119】
ここで、本実施の形態においては、前記制御装置100は、前記昇降連動制御を実行する際には、前記ロータリー耕耘装置300を作業位置に保持したままで前記PTOクラッチ装置81を動力遮断状態に移行させる遮断制御を実行し、前記遮断制御の実行後に前記ロータリー耕耘装置300を作業位置から非作業位置へ上昇させる前記昇降アクチュエータ320の上昇制御を実行するように構成されている。」

カ.「【0129】
これに対し、本実施の形態においては、前述の通り、前記制御装置100は、前記昇降連動制御を実行する際には、前記ロータリー耕耘装置300を作業位置に保持したままで前記PTOクラッチ装置81を動力遮断状態に移行させる遮断制御を実行し、前記遮断制御の実行後に前記ロータリー耕耘装置300を作業位置から非作業位置へ上昇させる前記昇降アクチュエータ320の上昇制御を実行するように構成されている。
斯かる構成によれば、前記未均平領域Gaの発生を有効に防止乃至は低減できる。」

キ.「【0130】
前記上昇制御の開始は、例えば、前記遮断制御を実行してから所定時間経過したことをトリガ信号とすることも可能であるし、若しくは、前記遮断制御を実行してから所定距離走行したことをトリガ信号とすることも可能である。」

ク.「【0143】
ここで、本実施の形態においては、前記昇降連動モードが選択されている状態で、前記旋回時作業機上昇機能による前記ロータリー耕耘装置300の上昇指令又は前記ワンタッチ昇降操作部材182での上昇操作による前記ロータリー耕耘装置300の上昇指令を受けた際には、前記制御装置100は、前記ロータリー耕耘装置300を作業位置に保持したままで前記PTOクラッチ装置81を伝動状態から遮断状態に移行させる遮断制御を実行し、次いで、前記通常制御を解除して前記減速制御を実行するエンジン出力制御の変更を行い、その後に、前記ロータリー耕耘装置300を所定の非作業位置まで上昇動作させる上昇制御を実行する。
斯かる構成によれば、前記リヤカバー311による均平作用をより有効に得ることができる。」

(2)引用発明2
上記(1)に基いて、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「フレーム構造体と、PTO軸からの回転動力によって回転駆動される耕耘軸と、前記耕耘軸に設けられた耕耘爪と、耕耘爪の回転軌跡の上方を覆うメインカバーと、前記耕耘爪の回転軌跡の後方を覆うように前記メインカバーに揺動可能に連結されたリアカバーとを有し、車輌本機に昇降自在に連結されたロータリー耕耘装置、及び制御装置を有したトラクタであって、
制御装置は、PTOクラッチ装置が伝動状態で且つロータリー耕耘装置が作業位置に位置されている際にロータリー作業装置の非作業位置に上昇させる所定の上昇指令を受けると、PTOクラッチ装置を強制的に動力遮断状態とさせる昇降連動制御を行い、
昇降連動制御を実行する際には、ロータリー耕耘装置を作業位置に保持したままでPTOクラッチ装置を動力遮断状態に移行させる遮断制御を実行し、遮断制御の実行後に遮断制御を実行してから所定時間経過したことをトリガ信号としてロータリー耕耘装置を作業位置から非作業位置へ上昇させる昇降アクチュエータの上昇制御を実行するように構成されて、リアカバーによる均平作用をより有効に得ることができる、
トラクタ。」

第5 対比
本願発明と、引用発明1とを対比する。

ア.引用発明1の「トラクタ機体」、「耕耘爪」、「ロータリ耕耘装置」、「GPS衛星からの信号」、「移動GPSアンテナ」、「移動通信機」及び「作業範囲」は、本願発明の「車体部」、「作業体」、「作業機」、「測位システムからの測位信号」、「測位アンテナ」、「位置情報取得部」及び「作業領域」に相当する。

イ.引用発明1において、「制御装置」は「自動走行手段」が、「位置情報と変位情報と方位情報に基づいて機体が予め設定した設定経路に沿って走行するように、操舵アクチュエータ、変速手段、昇降アクチュエータ、PTO入切手段、エンジンコントローラ等を制御して自動走行し自動で作業できるようにして」おり、また、PTO入切手段を「オン」または「オフ」とし、「昇降アクチュエータ」を作動させて、「ロータリ耕耘装置」を「上昇」または「下降」させている。そして、PTO入切手段の「オン」・「オフ」、「ロータリ耕耘装置」の「上昇」・「下降」は、「作業体」を「作業状態」と「非作業状態」に切り換えているといえるから、引用発明1の「制御装置」の「自動走行手段」は、作業車両の自動走行を制御する制御手段と作業車両の自動作業を制御する制御手段を備えており、各制御手段は、本願発明の「前記車体部の自律走行を制御する自律走行制御部」と「前記作業体を作業状態と非作業状態とに切り換える制御が可能な作業体制御部」に相当する。

ウ.引用発明1の「耕耘作業に用いられるロータリ耕耘装置」において、「耕耘爪」は耕耘作業に用いられることは技術常識であるから、引用発明1の「周囲に複数の耕耘爪を設けた耕耘爪軸を備え、」「トラクタ機体後方に昇降自在に装設され」た「耕耘作業に用いられるロータリ耕耘装置」は、本願発明の「作業に用いられる作業体を有し、前記車体部に装着される作業機」に相当する。

エ.引用発明1の「トラクタ機体に取り付けられ、GPS衛星からの信号を受信」する「移動GPSアンテナ」は、本願発明の「前記車体部に取り付けられて測位システムからの測位信号を受信する測位アンテナ」に相当する。

オ.本願発明の「距離取得部」について本願明細書をみると、「記憶部55は、距離記憶部(距離取得部)30と、・・・と、を備える。」(段落【0070】)、及び「距離記憶部30は、・・・水平距離L(すなわち、耕耘爪25の回転軸線26の位置からの測位アンテナ6の位置までの水平距離)を記憶する。・・・水平距離Lは、トラクタ1の自律走行開始前にユーザによって入力される。・・・」(段落【0071】)と記載されているように、本願発明の「距離取得部」は、「記憶部」の一部であって、「水平距離」を記憶するための手段である。
これに対して、引用発明1においては、「記憶装置」が、「トラクタ及び作業機の諸元表から得たGPSアンテナから耕耘爪軸までの水平距離を保存」しており、また「耕耘爪軸」は複数の「耕耘爪」の中心部に配置されることは技術常識であるから、引用発明1の「トラクタ及び作業機の諸元表から得たGPSアンテナから耕耘爪軸までの水平距離を保存」する「記憶装置」には、本願発明の「前記車体部における前記測位アンテナの取付位置と前記作業機における前記作業体の作業中心位置との水平距離を取得する距離取得部」に相当する構成を備えている。

カ.引用発明1の「圃場に予め設定された設定走行経路と作業範囲となる圃場の外周の位置情報を記憶し」た「記憶装置」には、本願発明の「作業機による作業が行われる作業領域と作業機による作業が行われない非作業領域を記憶する領域記憶部」に相当する構成を備えている。

キ.上記イ.より、引用発明1の「制御装置」が「設定走行経路に沿うように操向装置となる操舵アクチュエータを制御し、圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達すると、PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ていることは、作業車両の自動走行を制御する制御手段が「設定走行経路に沿うように操向装置となる操舵アクチュエータを制御し」ており、「圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達すると、」作業車両の自動作業を制御する制御手段が「PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ていることであり、当該制御を達成するために、「圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達」したときに、作業車両の自動走行を制御する制御手段が作業車両の自動作業を制御する制御手段に「PTO入切手段」と「昇降アクチュエータ」の切換を指令する信号を送信することは、技術常識からみて当然のことといえる。
これらの検討を踏まえると、引用発明1において、作業車両の自動走行を制御する制御手段と作業車両の自動作業を制御する制御手段を有する「制御装置は、設定走行経路に沿うように操向装置となる操舵アクチュエータを制御し、圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達すると、PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ることは、本願発明の「前記自律走行制御部は、前記車体部が作業領域から非作業領域に移動する場合は、前記作業中心位置が前記作業領域と前記非作業領域との境界を越えたときに前記作業体が非作業状態であるように前記作業体制御部に前記作業体を第1切換制御させ」ることに相当し、引用発明1において、「圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達」したときに、作業車両の自動走行を制御する制御手段が作業車両の自動作業を制御する制御手段に「PTO入切手段」と「昇降アクチュエータ」の切換を指令する信号を送信することは、本願発明の「前記作業体制御部は、前記自律走行制御部から出力される制御信号に基づいて前記作業体の状態を切り換えるように構成され」ることに相当する。

ク.上記キ.の検討を踏まえると、本願発明の「前記第1切替制御において、前記作業体制御部は、前記作業体を非作業状態とさせる第1制御信号を出力し、所定時間の経過後、前記作業機を上昇させること」と、引用発明1の「制御装置は、設定走行経路に沿うように操向装置となる操舵アクチュエータを制御し、圃場端に至り作業機の作用位置が作業開始・終了位置に到達すると、PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ることとは、「前記第1切替制御において、前記作業体制御部は、前記作業体を非作業状態とさせる第1制御信号を出力し、前記作業機を上昇させること」で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明1とは、以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「車体部と、
車体部の自律走行を制御する自律走行制御部と、
作業に用いられる作業体を有し、車体部に装着される作業機と、
車体部に取り付けられて測位システムからの測位信号を受信する測位アンテナと、
測位信号に基づいて測位アンテナの位置情報を取得可能な位置情報取得部と、
車体部における測位アンテナの取付位置と作業機における作業体の作業中心位置との水平距離を取得する距離取得部と、
作業機による作業が行われる作業領域と作業機による作業が行われない非作業領域を記憶する領域記憶部と、
作業体を作業状態と非作業状態とに切り換える制御が可能な作業体制御部と、
を備え、
自律走行制御部は、
車体部が作業領域から非作業領域に移動する場合は、作業中心位置が作業領域と非作業領域との境界を越えたときに作業体が非作業状態であるように作業体を第1切換制御させ、
作業体制御部は、自律走行制御部から出力される制御信号に基づいて作業体の状態を切り換えるように構成され、
第1切替制御において、作業体制御部は、作業体を非作業状態とさせる第1制御信号を出力し、作業機を上昇させる
自律走行作業車両。」

(相違点)
作業体を非作業状態とさせる第1制御信号を出力した際の作業機を上昇させるタイミングについて、本願発明は、第1制御信号の出力から所定時間の経過後であるのに対し、引用発明1は、所定時間の経過後との特定がない点。

第6 判断

(1)検討
上記相違点について検討する。
本願発明において、第1制御信号は、作業体を非作業状態とさせるものであるから、上記相違点における、第1制御信号の出力から所定時間の経過後とは、作業体を非作業状態とさせた後の所定時間の経過後ということができ、上記相違点を言い換えると、作業体を非作業状態とした後に、作業機を上昇させるタイミングを所定時間の経過後とするかどうかの違いといえる。
この点について、引用文献2をみると、「ロータリー耕耘装置を作業位置に保持したままでPTOクラッチ装置を動力遮断状態に移行させる遮断制御を実行し、遮断制御の実行後に遮断制御を実行してから所定時間経過したことをトリガ信号としてロータリー耕耘装置を作業位置から非作業位置へ上昇させる昇降アクチュエータの上昇制御を実行する」構成を備える引用発明2が記載されている。
そして引用文献2には、「ところで、従来のトラクタにおいては、昇降連動制御は、ロータリー耕耘装置を作業位置から非作業位置に上昇させるロータリー耕耘装置の上昇動作と、前記ロータリー耕耘装置を駆動状態から停止状態へ移行させるロータリー耕耘装置の回転停止動作とを同時に行うように構成されていた。」(段落【0127】)、「その為、前記従来のトラクタにおいて昇降連動制御を実行すると、耕耘爪によって耕耘されたものの、リアカバーによる均平作用を受けない領域(図7におけるGa参照。以下、未均平領域という)が存在することになる。」(段落【0128】)と記載されているように、ロータリー耕耘装置の上昇動作とロータリー耕耘装置を駆動状態から停止状態へ移行させるロータリー耕耘装置の回転停止動作が同時に行われることによる未均平領域の存在という課題が把握されるから、引用文献2に接した当業者であれば、引用文献1に記載された引用発明1の「PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ることに課題があることを認識することができ、当該課題に対処するために、引用発明1に引用発明2の構成を適用しようとすることは、当業者が適宜行い得ることである。
したがって、引用発明1の「PTO入切手段をオフとしてロータリの回転を停止して作業機を停止すると同時に昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」ることについて、作業機の停止に続き、引用発明2の「所定時間経過したことをトリガ信号としてロータリー耕耘装置を作業位置から非作業位置へ上昇させる昇降アクチュエータの上昇制御を実行する」ことを適用して、所定時間後に、昇降アクチュエータを作動させてロータリ耕耘装置を上昇させ」るものとすることにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の作用・効果についても、引用文献1及び引用文献2の記載事項から、当業者が予測しうる範囲内のものにすぎない。

(2)請求人の主張について
ア.請求人は審判請求書において以下のように主張している。
「引用文献2ではロータリー耕耘装置300が自動的に上昇するケースについても触れられていますが、その条件は、旋回操作部材115の操作角、又は、前後進切換操作部材130の後進操作となります(引用文献2の段落0108及び段落0111)。結局、ロータリー耕耘装置300が上昇するトリガが人為的な操作に依存するという事実は変わりません。
自動走行と手動走行では前提が大幅に異なるのですから、引用文献2のように人為的な操作を契機としてロータリー耕耘装置300の作業状態/非作業状態を切り換える構成を、引用文献1の自律走行トラクタに適用するには、相応に大きな発想の転換が必要になります。」

イ.上記ア.の請求人の主張について検討する。
引用発明1と引用発明2とは、作業機を作業状態から非作業状態への切り替えを、自動的に行うか人為的に行うかの違いはあるものの、上記第5で述べたように、本願発明と引用発明1の相違点は、単に作業機を上昇させるタイミングの違いでしかなく、このタイミングの違いは、上記の切り替えが自動的であるか人為的であるかに関わるものではないから、引用発明2が有する構成を引用発明1に適用することに、請求人が主張するような相応に大きな発想の転換が必要になるとは認められないし、さらに、上記(1)で説示したように、引用文献2には、引用発明1が備える構成に課題が存在することを認識させる記載が存在しており、引用発明1に引用発明2の構成を積極的に適用する動機付けが存在しているといえる。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1及び引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-09 
結審通知日 2022-06-10 
審決日 2022-06-23 
出願番号 P2017-017937
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 前川 慎喜
佐藤 美紗子
発明の名称 自律走行作業車両  
代理人 桂川 直己  

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