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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B62D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1387994
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-07 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2016−208454号「車体下部構造」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018− 69778号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 6月16日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 8月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月10日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 2年11月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 5月21日付け:令和2年11月10日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 3年 7月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和3年7月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示す。)。
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するピラーと、
前記ピラーの下部に接続され、車体前後方向に延在する第1骨格部材と、
前記第1骨格部材よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル上に設けられ、車体前後方向に延在する第2骨格部材と、
前記ピラーよりも車体後方で前記フロアパネル上に設けられ、車幅方向に延在する第3骨格部材と、
前記フロアパネル上に設けられて、一端が前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が前記第2骨格部材に接続される荷重伝達部材と、を有し、
前記ピラーは、車体上下方向に延在するピラー上部と、ピラー上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びるピラー下部と、を有し、
前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の中央に位置しており、
前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続され、前記他端が前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材に接続されており、
前記第2骨格部材は、前記第1骨格部材と車体前後方向に延在するフロアトンネルとの間に設けられ、
前記第3骨格部材は、車幅方向外側の端部が前記第1骨格部材に接続され、車幅方向内側の端部が前記フロアトンネルに接続され、
前記第2骨格部材は、車体後方の端部が前記第3骨格部材の車体前方側部に突き当て接続されていることを特徴とする車体下部構造。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年8月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するピラーと、
前記ピラーの下部に接続され、車体前後方向に延在する第1骨格部材と、
前記第1骨格部材よりも車幅方向内側に位置し、車体前後方向に延在する第2骨格部材と、
前記ピラーよりも車体後方で車幅方向に延在する第3骨格部材と、
一端が前記ピラーから車体後方に離れた位置で、かつ前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材と前記第3骨格部材との少なくともいずれか一方に接続される荷重伝達部材と、を有し、
前記ピラーは、車体上下方向に延在するピラー上部と、ピラー上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びるピラー下部と、を有し、
前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の中央に位置しており、
前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続されていることを特徴とする車体下部構造。」

2.補正の適否
本件補正に係る請求項1の補正のうち、本件補正前の「一端が前記ピラーから車体後方に離れた位置で、かつ前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され」という事項のうち、「前記ピラーから車体後方に離れた位置で」を削除して、「一端が前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され」にする補正は、令和2年9月10日付け拒絶理由通知書における特許法第36条第6項第2号に関する通知に対応する部分の補正であるから、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
本件補正のその他の部分は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「第2骨格部材」について「フロアパネル上に設けられ」との限定を、「第3骨格部材」について「前記フロアパネル上に設けられ」との限定を、「荷重伝達部材」について「前記フロアパネル上に設けられ」との限定を、「荷重伝達部材」について「前記他端が前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材に接続されており」との限定を、「第2骨格部材」について「前記第2骨格部材は、前記第1骨格部材と車体前後方向に延在するフロアトンネルとの間に設けられ」との限定を、「第3骨格部材」について「車幅方向外側の端部が前記第1骨格部材に接続され、車幅方向内側の端部が前記フロアトンネルに接続され」との限定を、「第2骨格部材」に関して「前記第2骨格部材は、車体後方の端部が前記第3骨格部材の車体前方側部に突き当て接続され」と、の限定をそれぞれ付すものであると共に、「荷重伝達部材」に関して「他端が前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材と前記第3骨格部材との少なくともいずれか一方に接続される」という選択的な事項について、「他端が前記第2骨格部材に接続される」ことを選択して限定するものである。
さらに、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明及び特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア.引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2014/162493号(以下「引用文献1」という。2014年(平成26年)10月9日国際公開)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審が付与。以下同じ。)
・「[請求項1]
車両幅方向の中間部に車両前後方向に沿って延在しかつ車両上方側へ膨出された鞍形のフロアトンネル部が形成されたフロアパネルと、
前記フロアパネルの車両幅方向の両端部に車両前後方向に沿って配置された左右一対のロッカと、
各ロッカの前端部から車両上方側へ立設された左右一対のフロントピラーと、
前記左右一対のフロントピラー間に配置されてキャビンと車体前部室とを区画すると共に前記フロアパネルの前端部が接合され、更に車両幅方向の中間部の下部に鞍形に形成されて前記フロアトンネル部が接合されるトンネル接続部が形成されたダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルの下部の車室内側に配置されると共に車両幅方向を長手方向として延在され、長手方向の端部は前記ロッカに接合されると共に長手方向の中間部は鞍形に形成されて前記トンネル接続部に接合されることで、前記左右一対のロッカ間に車両幅方向に連続しかつ前記フロアトンネル部とも前記トンネル接続部を介して連結された閉断面構造の車体骨格部を形成するダッシュクロスメンバと、
を有する車体構造。」
・「[0001] 本発明は、車体構造に関する。
[0002] 下記特許文献1には、前面衝突時にフロントサイドメンバのキック部の変形を抑制するための車両前部構造が開示されている。簡単に説明すると、フロントサイドメンバのキック部の車両上下方向の中間部に車室外側へ凹む凹部を形成すると共に、ダッシュパネルの車両上下方向の中間部に形成された傾斜璧部にも前記凹部に重なる凹部を車両幅方向に沿って形成している。そして、フロントサイドメンバのキック部の凹部にダッシュパネルの凹部を重ね、更に後者の凹部に断面形状がハット形状とされたダッシュクロスメンバが車室内側から被せられて相互に結合される。これにより、上記先行技術は、車室内空間を狭めずにフロントサイドメンバのキック部をダッシュクロスメンバで補強することができる、というものである。
特許文献1:特開2008−94134号公報
[0003] しかしながら、上記先行技術による場合、以下の点で改良の余地がある。
すなわち、上記先行技術による場合、フロントサイドメンバのキック部に凹部を形成すると共にダッシュパネルの下部にも同一断面形状の凹部を形成し、双方の凹部を重ねてそこにダッシュクロスメンバを被せて閉断面構造を形成しているため、車体構造が複雑であり、適用可能な車種が制限される。
[0004] また、一般に、フロアパネルの車両幅方向中間部には、車両上方側へ突出しかつ車両前後方向に沿って延在する鞍形のフロアトンネル部が配設されており、これに伴ってダッシュパネルの下部にもフロアトンネル部へ接続させるための鞍型のトンネル接続部が形成されている。上記先行技術では、ダッシュクロスメンバはトンネル接続部の頂壁部のみに接合される構造になっているため、ダッシュクロスメンバの中央部側では衝突荷重は主としてフロアトンネル部の頂壁部側へ伝達されることになる。このため、フロアトンネル部が備えている剛性を充分に活かしきれておらず、この点において上記先行技術は改良の余地がある。特に、昨今では、前面衝突時にブレーキブースタが車両後方側へ押し込まれることによりダッシュパネルが根元から倒れる方向へ変形するような、大荷重が入力される衝突形態に対する車体構造の改良が求められており、この観点からも上記課題が解決されることが求められている。
[0005] 本発明は上記事実を考慮し、適用車種の自由度を高めることができると共に荷重伝達性能を向上させることで前面衝突時にキャビンの変形を抑制することができる車体構造を得ることが目的である。
[0006] 第1の態様に係る車体構造は、車両幅方向の中間部に車両前後方向に沿って延在しかつ車両上方側へ膨出された鞍形のフロアトンネル部が形成されたフロアパネルと、前記フロアパネルの車両幅方向の両端部に車両前後方向に沿って配置された左右一対のロッカと、各ロッカの前端部から車両上方側へ立設された左右一対のフロントピラーと、前記左右一対のフロントピラー間に配置されてキャビンと車体前部室とを区画すると共に前記フロアパネルの前端部が接合され、更に車両幅方向の中間部の下部に鞍形に形成されて前記フロアトンネル部が接合されるトンネル接続部が形成されたダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの下部の車室内側に配置されると共に車両幅方向を長手方向として延在され、長手方向の端部は前記ロッカに接合されると共に長手方向の中間部は鞍形に形成されて前記トンネル接続部に接合されることで、前記左右一対のロッカ間に車両幅方向に連続しかつ前記フロアトンネル部とも前記トンネル接続部を介して連結された閉断面構造の車体骨格部を形成するダッシュクロスメンバと、を有している。」
・「[0014] 第1の態様によれば、以下の作用が得られる。すなわち、前面衝突した場合、その際の衝突荷重が大きいと、キャビンと車体前部室とを区画しているダッシュパネルが、車体前部室に配置されている剛体(例えば、ブレーキブースタ等)に押されて、ダッシュパネルが根元からキャビン側へ倒れ込むような変形をしようとすることがある。
[0015] ここで、本態様では、長手方向の中間部が鞍形に形成されたダッシュクロスメンバが、ダッシュパネルの下部の車室内側に車両幅方向を長手方向として配置されている。そして、ダッシュパネルの車両幅方向の中間部の下部に形成された鞍形のトンネル接続部に、ダッシュクロスメンバの長手方向の中間部が接合されている。さらに、ダッシュクロスメンバの長手方向の端部はロッカの前端部に接合されている。これにより、左右一対のロッカ間に車両幅方向に連続しかつフロアトンネル部ともトンネル接続部を介して連結された閉断面構造の車体骨格部が形成される。その結果、ダッシュパネルの根元が補強される。特に、ダッシュパネルにおけるトンネル接続部の周りが頂部だけでなく両側部も含めて一本の骨が通ることで効果的に補強される。このため、前面衝突時の衝突荷重のうち、ダッシュクロスメンバの長手方向の中間部側に伝達されてきた衝突荷重は、フロアトンネル部の頂部のみならず両側部も含めて車両後方側へ伝達されていく。従って、ダッシュパネルの根元を中心としたキャビン側への倒れ込み変形が効果的に抑制又は防止される。
[0016] また、本態様では、主としてダッシュクロスメンバの形状を工夫することによりダッシュパネルのトンネル接続部の周りを補強する構成となっているので、ダッシュパネルのトンネル接続部周りの車体構造が非常にシンプルになる。」
・「[0034] 以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る車体構造の一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。また、左ハンドル車で図示している。
[0035] <ダッシュパネル12>
図1〜図4に示されるように、キャビン10の前端部には、車両幅方向及び車両上下方向に沿って延在するダッシュパネル12が立設されている。このダッシュパネル12によってキャビン10と車体前部室14とが区画されている。また、ダッシュパネル12は、垂直に配置された上部12Aと、この上部12Aの下端から車両斜め後方下側へ屈曲された下部12Bと、を含んで構成されている。上部12Aの上端部は、図示しないウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在するU字状のカウル16(図3参照)にスポット溶接等によって接合されている。下部12Bの下端部は、後述するフロアパネル32の前端部32A(図5、図6参照)にスポット溶接等によって接合されている。
[0036] また、ダッシュパネル12の上部12Aの運転席側には、大きさが異なる二つの開口部18、20が形成されている。上部12Aの上側に形成された開口部18は略円形に形成されており、図示しないブレーキブースタとブレーキペダルとを車両前後方向に連結してブレーキペダルのペダルパッドに付与された踏力をブレーキブースタに伝達するプッシュロッドを挿通させるための開口部である。また、上部12Aの下側に形成された開口部20は略楕円形に形成されており、図示しないステアリングシャフト(インターミディエイトシャフト)を挿入させるための開口部である。なお、開口部20の開口面積は開口部18の開口面積よりも大きく設定されている。
[0037] また、図2に示されるように、ダッシュパネル12の下部12Bには、トンネル接続部22が一体に形成されている。トンネル接続部22は、ダッシュパネル12の車両幅方向の中間部に形成されており、頂部22Aと頂部22Aの車両幅方向の両端部から車両下方側へ屈曲された両側部22Bとを備えた鞍形に形成されている。
[0038] <フロントピラー24>
図1〜図4に示されるように、上述したダッシュパネル12の車両幅方向両端部には、各々柱状骨格部材として構成された左右一対のフロントピラー24が立設されている。各フロントピラー24は、平断面形状がハット状に形成されると共に開放側を車室外側に向けて車両幅方向内側に配置されたフロントピラーインナパネル26と、平断面形状がハット状に形成されると共に開放側を車室内側に向けてフロントピラーインナパネル26の車両幅方向外側に配置されたフロントピラーアウタパネル28(図3、図4参照)と、によって閉断面構造に構成されている。
[0039] フロントピラーインナパネル26の細部構造について補足すると、図3及び図4に示されるように、フロントピラーインナパネル26の下部30は、車両側面視での形状が裾広がり形状(スカート状)とされた底壁部30Aと、この底壁部30Aの後端部から車両幅方向外側へ屈曲された後壁部30Bと、底壁部30Aの下端部から車両下方側へ延出された下フランジ部30Cと、後壁部30Bの車両幅方向外側の端部からドア開口部18側へ屈曲された後フランジ部30Dと、を備えている。なお、図3、図4には図示されていないが、底壁部30Aの前端部側は底壁部30Aの後端部側と同様に構成されている。上記構成のフロントピラーインナパネル26の下部30は、後述するロッカインナパネル40の上壁部40Bの前端部(ロッカ38の前端部)に載置されて、ロッカインナパネル40の縦壁部40A、上壁部40B及び上フランジ部40Dにスポット溶接等によって接合されている。
[0040] <フロアパネル32>
図1〜図4に示されるように、キャビン10の底部には、平面視で略矩形状に形成されたフロアパネル32が配設されている。フロアパネル32の前端部32A(図5、図6参照)は、前述したようにダッシュパネル12の下部12Bの端部にスポット溶接等によって接合されている。また、フロアパネル32は、図示しないフロントシート及びリヤシートが設置される平板状のフロア一般部34と、運転席と助手席との間に車両前後方向を長手方向として配設されたフロアトンネル部36と、を備えている。フロアトンネル部36はフロア一般部34に対して車両上方側へ膨出された鞍形に形成されており、頂部36A(図3、図4参照)と頂部36Aの車両幅方向の両端部から車両下方側へ屈曲された左右一対の両側部36Bとを備えている。また、フロアトンネル部36の前端部は、前述したダッシュパネル12のトンネル接続部22にスポット溶接等によって接合されている。このようにフロアトンネル部36は、車両下方側が開放された開断面形状とされている。また、本形態では、フロアトンネル部36がフロア一般部34と一体に形成されているが、これに限らず、フロアトンネル部36とフロア一般部34とを別々に形成してスポット溶接等で接合することにより両者を一体化してフロアパネルを構成するようにしてもよい。
[0041] <ロッカ38>
上述したフロアパネル32の車両幅方向の両端部には、車両前後方向に沿って延在するロッカ38が配設されている。ロッカ38は、縦断面形状がハット状に形成されると共に開放側を車室外側に向けて車両幅方向内側に配置されたロッカインナパネル40と、縦断面形状がハット状に形成されると共に開放側を車室内側に向けてロッカインナパネル40の車両幅方向外側に配置されたロッカアウタパネル41(図3、図4参照)と、によって矩形の閉断面構造に構成されている。
[0042] ロッカインナパネル40の細部構造について補足すると、図3及び図4に示されるように、ロッカインナパネル40は、車両上下方向及び車両前後方向に沿って延在しフロアパネル32に対して垂直に配置された縦壁部40Aと、この縦壁部40Aの上端部から車両幅方向外側へ屈曲された上壁部40Bと、縦壁部40Aの下端部から車両幅方向外側へ屈曲された下壁部40Cと、上壁部40Bの車両幅方向外側の端部から直角に屈曲された上フランジ部40Dと、下壁部40Cの車両幅方向外側の端部から直角に屈曲された下フランジ部40Eと、によって構成されている。縦壁部40Aには、前述したフロア一般部34の車両幅方向外側に形成されたフロア端末部32Bがスポット溶接等によって接合されている。また、上述したようにロッカインナパネル40の前端部には、フロントピラーインナパネル26の下部30が載置されており、この状態で下部30の底壁部30A、下フランジ部30C、後フランジ部30Dがロッカインナパネル40の上壁部40B、縦壁部40A、上フランジ部40Dにスポット溶接等によって接合されている。
[0043] <フロントサイドメンバ42>
一方、車体前部室14の車両幅方向外側には、左右一対のフロントサイドメンバ42が配設されている。構造的には、フロントサイドメンバ42は 車体前部室14の車両幅方向外側に車両前後方向に沿って配置されたメンバ本体部42Aと、このメンバ本体部42Aの後端部からダッシュパネル12の下部12Bの湾曲面に沿って車両後方かつ車両下方側へ斜めに延出されたキック部42Bと、を備えている。なお、フロントサイドメンバ42のキック部42Bには、フロアパネル32の下面側に配置されて車両前後方向に沿って延在するフロアサイドメンバ44の前端部44Aがスポット溶接等によって接合されている。
[0044] <ダッシュクロスメンバ50>
図1〜図4に示されるように、上述したダッシュパネル12の下部12Bの車室内側には、ダッシュクロスメンバ50が配設されている。以下、ダッシュクロスメンバ50の構成について詳細に説明する。
[0045] ダッシュクロスメンバ50は、車両幅方向を長手方向として延在されており、左右のフロントピラー24間に亘って配設されている。また、ダッシュクロスメンバ50は、要素的には、長手方向の両端部に配置されたロッカ結合部52と、長手方向の中間部に配置されたトンネル補強部54と、ロッカ結合部52とトンネル補強部54と間に配置された左右一対の中間支持部56と、によって構成されている。
[0046] また、上記ダッシュクロスメンバ50の縦断面形状はハット形とされている。これにより、ダッシュクロスメンバ50は、開放側がダッシュパネル12の下部12Bを向くように配置された略U字状の本体部50Aと、この本体部50Aの上壁前端から車両上方側へ屈曲された上フランジ部50Bと、本体部50Aの下壁前端から車両下方側へ屈曲された下フランジ部50Cと、本体部50Aの長手方向の両端から車両幅方向外側へ屈曲された横フランジ部50Dと、を備えている。
[0047] 図3及び図4に示されるように、ダッシュクロスメンバ50におけるトンネル補強部54及び中間支持部56が備えている上フランジ部50B及び下フランジ部50Cは、ダッシュパネル12の下部12Bにスポット溶接等によって接合されている。また、ダッシュクロスメンバ50におけるロッカ結合部52が備えている上フランジ部50Bは、前述したフロントピラーアウタパネル28の底壁部30Aにスポット溶接等によって接合されている。さらに、ロッカ結合部52における下フランジ部50Cは、ダッシュパネル12の下部12Bにスポット溶接等によって接合されている。ロッカ結合部52が備えている横フランジ部50Dは、フロントピラーアウタパネル28の底壁部30A及びロッカインナパネル40の縦壁部40Aに跨ってスポット溶接等によって接合されている。これにより、ロッカ結合部52は、フロントピラー24とロッカ38とフロアパネル32の三者に接合されている。
[0048] 補足すると、図4に示されるように、ダッシュクロスメンバ50のロッカ結合部52の上壁と縦壁とで形成されるダッシュクロスメンバ側折り曲げ部としての第1稜線部58が、ロッカインナパネル40の上壁と縦壁とで形成されるロッカ側折り曲げ部としての第2稜線部60と高さが揃うように接続されている。第1稜線部58はダッシュクロスメンバ50の車両後方側かつ車両上方側に位置しており、又第2稜線部60はロッカ38の車両幅方向内側かつ車両上方側に位置されている。
[0049] 図1及び図2に示されるように、ダッシュクロスメンバ50の中間支持部56は、ダッシュパネル12に形成された前述した開口部20の直下に配置されている。さらに、ダッシュクロスメンバ50の中間支持部56は、キャビン10側から見てフロントサイドメンバ42のキック部42Bの背面側に配置されている(図5参照)。
[0050] ダッシュクロスメンバ50のトンネル補強部54は、ダッシュパネル12のトンネル接続部22の形状に添うように鞍形に形成されており、頂部補強部54Aと、この頂部補強部54Aの車両幅方向の両端から車両下方外側へ斜めに屈曲された左右一対の側部補強部54Bと、によって構成されている。なお、「鞍形」とは、トンネル補強部54を車両後方側から見たときに「上下逆向きの略U字状」となる形状のことである。上記構成のトンネル補強部54がトンネル接続部22に車室内側から接合されることにより、トンネル接続部22の周りに(全周に)、閉断面構造の車体骨格部が形成されている。また、トンネル接続部22には、フロアトンネル部36の前端部がスポット溶接等によって接合されている。従って、トンネル補強部54は、ダッシュパネル12のトンネル接続部22を介してフロアパネル32のフロアトンネル部36とも連結されている。
[0051] また、ダッシュクロスメンバ50を中心とした以上の構成により、ダッシュクロスメンバ50は、左右のロッカ38の前端部同士を連結した車体骨格部を構成した上で、ダッシュパネル12の下部12B、即ちダッシュパネル12の根元に、車両幅方向に沿って配設されている。特に、ロッカ38の高さよりも高い位置まで車両上方側に膨出されたフロアトンネル部36が接続されるダッシュパネル12のトンネル接続部22の全周に亘って、ダッシュクロスメンバ50とダッシュパネル12とによる閉断面構造の車体骨格部が一本の骨として途切れることなく連続して配設された構造となっている。
[0052] <ダッシュクロスメンバ50の周辺構造>
また、ダッシュパネル12の上部12Aには、ダッシュリインフォースメント62が車両幅方向に沿って配設されている。ダッシュリインフォースメント62は縦断面形状がハット形とされており、ダッシュパネル12の左右両側の膨出部64間に亘って配設されている。また、ダッシュクロスメンバ50は運転席側の上下の開口部18、20間を通るように配設されており、ダッシュクロスメンバ50の中間支持部56とで下側の開口部20を上下に挟むように配設されている。
[0053] また、上述したフロアトンネル部36の頂部36Aには、縦断面形状がハット形とされたトンネルリインフォースメント66が配設されている。トンネルリインフォースメント66は、車両下方側が開放されたハット形の本体部68と、この本体部68の前端部から扇形に屈曲された先端支持部70と、によって構成されている。本体部68は、フロアトンネル部36に被嵌されてスポット溶接等によって接合されている。また、先端支持部70はL字状に屈曲されており、ダッシュクロスメンバ50のトンネル補強部54の後壁を車両後方側から支える後方支持部70Aと、トンネル補強部54の上壁を車両上方側から押え込むと共に両側壁を車両幅方向外側から押え込む上方・側方支持部70Bと、によって構成されている。
[0054] さらに、上述したフロアパネル32のフロア一般部34には、ロッカ38とフロアトンネル部36との間にフロアリインフォースメント72が車両前後方向に沿って配設されている。フロアリインフォースメント72は、車両下方側が開放されたハット形の本体部74と、この本体部74の前端部からL字状に屈曲された先端支持部76と、によって構成されている。本体部74は、フロア一般部34の上面にスポット溶接等によって接合されている。また、先端支持部76は、ダッシュクロスメンバ50の中間支持部56の後壁を車両後方側から支える後方支持部76Aと、中間支持部56の上壁を車両上方側から押え込む上方支持部76Bと、によって構成されている。さらに、フロアリインフォースメント72の前部とロッカ38との間には、車両下方側が開放されたハット形に形成された小クロスメンバ78が配置されている。これにより、フロアリインフォースメント72とロッカ38とが車両幅方向に連結されている。
[0055] また、フロアパネル32のフロア一般部34には、ダッシュクロスメンバ50の車両後方側にフロアクロスメンバ80が平行に配設されている。フロアクロスメンバ80は、車両下方側が開放されたハット形に形成されており、フロア一般部34にスポット溶接等によって接合されている。さらに、フロアクロスメンバ80の車両幅方向の内側の端部はフロアトンネル部36の側部36Bにスポット溶接等によって接合されており、フロアクロスメンバ80の車両幅方向の外側の端部はロッカインナパネル40の縦壁部40Aにスポット溶接等によって接合されている。これにより、フロアクロスメンバ80とフロアパネル32とによって、車両幅方向に沿った閉断面構造の車体骨格部が形成されている。更に言及すると、フロアトンネル部36とロッカ38とダッシュクロスメンバ50とフロアクロスメンバ80とで平面視で矩形枠状とされた枠状骨格部82が形成されている、
[0056] (作用及び効果)
以下に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
[0057] 前面衝突した場合、その際の衝突荷重が大きいと、キャビン10と車体前部室14とを区画しているダッシュパネル12が、車体前部室14に配置されている剛体(例えば、ブレーキブースタ等)に押されて、ダッシュパネル12が根元からキャビン10側へ倒れ込むような変形をしようとすることがある。このような衝突は、例えばフロントサイドメンバ42の車両幅方向外側でバリアと衝突する微小ラップ衝突や、オフセット衝突の中でも微小ラップ衝突のときよりバリアとのオーバーラップ量が多い衝突や、車体前部の斜め前方からバリアと衝突する斜突のときであって、衝突速度が比較的速い場合やバリアの重量が比較的重い場合に起こり易い。
[0058] ここで、本実施形態では、長手方向の中間部が鞍形に形成されたダッシュクロスメンバ50が、ダッシュパネル12の下部12Bの車室内側に車両幅方向を長手方向として配置されている。そして、ダッシュパネル12の車両幅方向の中間部の下部12Bに形成された鞍形のトンネル接続部22に、ダッシュクロスメンバ50の長手方向の中間部に配置されたトンネル補強部54が接合されている。さらに、ダッシュクロスメンバ50の長手方向の端部のロッカ結合部52はロッカ38の前端部に接合されている。これにより、左右一対のロッカ38の前端部間に車両幅方向に連続しかつフロアトンネル部36ともトンネル接続部22を介して連結された閉断面構造の車体骨格部が形成される。その結果、ダッシュパネル12の根元が補強される。特に、トンネル接続部22の周りが頂部22Aだけでなく両側部22Bも含めて一本の骨が通ることで効果的に補強される。このため、前面衝突時の衝突荷重のうち、ダッシュクロスメンバ50のトンネル補強部54側に伝達されてきた衝突荷重は、フロアトンネル部36の頂部36Aのみならず両側部36Bも含めて車両後方側へ伝達されていく。従って、ダッシュパネル12の根元を中心としたキャビン10側への倒れ込み変形が効果的に抑制又は防止される。
[0059] また、本実施形態では、主としてダッシュクロスメンバ50の形状を工夫することによりダッシュパネル12のトンネル接続部22の周りを補強する構成となっているので、ダッシュパネル12のトンネル接続部22周りの車体構造が非常にシンプルになる。
[0060] 以上により、本実施形態によれば、適用車種の自由度を高めることができると共に荷重伝達性能を向上させることで前面衝突時にキャビン10の変形を抑制することができる。」
・図1、図3には、以下の内容が示されている。
[図1]

[図3]

・[0038]の「ダッシュパネル12の車両幅方向両端部には、各々柱状骨格部材として構成された左右一対のフロントピラー24が立設されている。」という記載事項と図1からみて、フロントピラー24は、車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在することが理解できる。
・[0039]の「フロントピラーインナパネル26の下部30は、後述するロッカインナパネル40の上壁部40Bの前端部(ロッカ38の前端部)に載置されて、ロッカインナパネル40の縦壁部40A、上壁部40B及び上フランジ部40Dにスポット溶接等によって接合されている」という記載事項、[0041]の「フロアパネル32の車両幅方向の両端部には、車両前後方向に沿って延在するロッカ38が配設されている。」という記載事項及び図1からみて、ロッカ38は、フロントピラー24の下部に接続され、車体前後方向に延在することが理解できる。
・[0054]の「フロアパネル32のフロア一般部34には、ロッカ38とフロアトンネル部36との間にフロアリインフォースメント72が車両前後方向に沿って配設されている。」という記載事項及び図1からみて、フロアリインフォースメント72は、ロッカ38よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル上に設けられ、車体前後方向に延在することが理解できる。
・[0055]の「フロアパネル32のフロア一般部34には、ダッシュクロスメンバ50の車両後方側にフロアクロスメンバ80が平行に配設されている。フロアクロスメンバ80は、車両下方側が開放されたハット形に形成されており、フロア一般部34にスポット溶接等によって接合されている。」という記載事項及び図1より、フロアクロスメンバ80は、フロントピラー24よりも車体後方でフロアパネル32上に設けられ、車幅方向に延在することが理解できる。
・[0054]の「フロアリインフォースメント72の前部とロッカ38との間には、車両下方側が開放されたハット形に形成された小クロスメンバ78が配置されている。これにより、フロアリインフォースメント72とロッカ38とが車両幅方向に連結されている。」という記載事項及び図1によれば、小クロスメンバ78は、フロアパネル32上に設けられていて、さらに、車両外側寄りの端部がフロアクロスメンバ80より車体前方でロッカ38に接続され、車両内側寄りの端部が車両外側寄りの端部と車体前後方向でみて同程度の位置でフロアリインフォースメント72に接続されることが理解できる。
・[0038]の「各フロントピラー24は、・・・フロントピラーインナパネル26と、・・・フロントピラーアウタパネル28(図3、図4参照)と、によって閉断面構造に構成されている。」という記載事項、[0039]の「フロントピラーインナパネル26の下部30は、車両側面視での形状が裾広がり形状(スカート状)とされた底壁部30Aと、この底壁部30Aの後端部から車両幅方向外側へ屈曲された後壁部30Bと、底壁部30Aの下端部から車両下方側へ延出された下フランジ部30Cと、後壁部30Bの車両幅方向外側の端部からドア開口部18側へ屈曲された後フランジ部30Dと、を備えている。」という記載事項及び図1からは、フロントピラー24は、屈曲部分を境にして上部の部位と下部の部位とを分けて考えると、車体上下方向に延在するフロントピラー24上部と、フロントピラー24上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びる下部30を含むフロントピラー24下部と、を有することが理解できる。
・図3によれば、フロントピラー24下部は、その下端縁が、下部30における下フランジ部30Cの下端縁であることが理解できる。さらに、同図3によれば、下フランジ部30Cの下端縁は、ロッカ38の上下方向の略中央に位置していることが理解できる。
・[0054]の「フロアリインフォースメント72の前部とロッカ38との間には、車両下方側が開放されたハット形に形成された小クロスメンバ78が配置されている。これにより、フロアリインフォースメント72とロッカ38とが車両幅方向に連結されている。」という記載事項及び図1からみて、小クロスメンバ78は、当該小クロスメンバ78の車両外側寄りの端部がフロントピラー24下部の下端縁(即ち、前記下部30の下フランジ部30Cの下端縁)の下方に位置するロッカ38の縦壁部40Aに接続されることが理解できる。さらに、小クロスメンバ78の車両外側寄りの端部が、フロアリインフォースメント72に接続されており、その接続位置が車両内側寄りの端部と車体前後方向でみて同程度の位置であることが理解できる。
・[0054]の「フロアパネル32のフロア一般部34には、ロッカ38とフロアトンネル部36との間にフロアリインフォースメント72が車両前後方向に沿って配設されている」という記載事項及び図1からみて、フロアリインフォースメント72は、ロッカ38と車体前後方向に延在するフロアトンネル部36との間に設けられていることが理解できる。
・[0055]の「フロアクロスメンバ80の車両幅方向の内側の端部はフロアトンネル部36の側部36Bにスポット溶接等によって接合されており、フロアクロスメンバ80の車両幅方向の外側の端部はロッカインナパネル40の縦壁部40Aにスポット溶接等によって接合されている。」という記載事項及び図1からみて、フロアクロスメンバ80は、車幅方向外側の端部がロッカ38に接続され、車幅方向内側の端部がフロアトンネル部36に接続されていることが理解できる。
・[0055]によれば、フロアクロスメンバ80はフロア一般部34にスポット溶接等によって接合されるものであり、その接合の箇所は、図1において、ハット形に形成されたフロアクロスメンバ80のフランジ部がフロア一般部34に当接する部分において接合されるものであることは、当業者にとって明らかである。そうすると、図1において、フロアクロスメンバ80のフランジ部がフロアリインフォースメント72と交差する部分にも記載されていることから、フロアリインフォースメント72とフロアクロスメンバ80とはその交差する部分で接合していることが理解できる。

これらの記載事項及び図示の開示を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するフロントピラー24と、
前記フロントピラー24の下部に接続され、車体前後方向に延在するロッカ38と、
前記ロッカ38よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル32上に設けられ、車体前後方向に延在するフロアリインフォースメント72と、
前記フロントピラー24よりも車体後方で前記フロアパネル32上に設けられ、車幅方向に延在するフロアクロスメンバ80と、
前記フロアパネル32上に設けられて、車両外側寄りの端部が前記フロアクロスメンバ80より車体前方で前記ロッカ38に接続され、車両内側寄りの端部が前記フロアリインフォースメント72に接続される小クロスメンバ78と、を有し、
前記フロントピラー24は、車体上下方向に延在するフロントピラー24上部と、 フロントピラー24上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びるフロントピラー24下部と、を有し、
前記フロントピラー24下部は、その下端縁である下フランジ部30Cの下端縁が、前記ロッカ38の上下方向の略中央に位置しており、
前記小クロスメンバ78の前記車両外側寄りの端部は、前記下部30の下フランジ部30Cの下端縁の下方に位置する前記ロッカ38の縦壁部40Aに接続され、前記車両内側寄りの端部が、車両外側寄りの端部と車体前後方向でみて同程度の位置で、前記フロアリインフォースメント72に接続されており、
前記フロアリインフォースメント72は、前記ロッカ38と車体前後方向に延在するフロアトンネル部36との間に設けられ、
前記フロアクロスメンバ80は、車幅方向外側の端部が前記ロッカ38に接続され、車幅方向内側の端部が前記フロアトンネル部36に接続され、
前記フロアリインフォースメント72と前記フロアクロスメンバ80とはその交差する部分で接合している、
車体下部構造。」

イ.引用文献2
原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された、本願の出願前に頒布された特開2013−166435号公報(以下「引用文献2」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与。)
・「【発明の名称】車体下部構造」」
・「【請求項1】
車体の車幅方向外側の端部に沿って車体前後方向に延設されたサイドシルを備えた車体下部構造において、
前記サイドシルは、当該サイドシルの前端部に設けられ、車両が衝突した際に、衝突荷重を受けて潰れることで前記衝突荷重を吸収する潰し領域と、
前記潰し領域の後方の前記サイドシル内に配置されたバルクヘッドと、を備え、
前記サイドシルの車室側の側面には、一端を、前記サイドシル内の前記バルクヘッドの設置箇所の車室内側の外面に結合して車幅方向の内側且つ後方に傾斜して設け、他端を、フロアフレームに結合した補強フレームを有し、
前記潰し領域には、車体上下方向の荷重に対して強く、車体前後方向の荷重に対して弱いジャッキアップ補強プレートが設けられ、
前記ジャッキアップ補強プレートには、前輪の中心と略同一の高さに位置し車体前後方向に延在する変形部材が一体に設けられることを特徴とする車体下部構造。」
・「【0017】
本発明では、ナローオフセット衝突した際の衝突荷重の吸収性をより一層向上させることが可能な車体下部構造を得ることができる。」
・「【0020】
図1に示されるように車両C1は、車体前部1aに配置される動力搭載室MRと、動力搭載室MRと隔壁6を介して配置される車室Rとを有する自動車からなる。この自動車は、例えば、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)タイプ、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプ、四輪駆動タイプ等の自動車が含まれる。
【0021】
なお、本発明が適用される車両C1としては、車体1の左右外側に配置される左右一対のサイドシル10と、このサイドシル10の車体中央側に配置されるフロアフレーム17とを有するものであればよい。以下、FRタイプの自動車に対し、本実施形態に係る車体下部構造が適用された場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1に示されるように、車体1は、車両C1の全体を形成するものであって、例えば、サイドシル10やフロアフレーム17やフロントサイドフレーム3等の種々の金属製車体フレームと、図示しないボンネット、フェンダパネル等の金属製車体パネルと、樹脂製又は金属製のバンパフェイス等を主として備えている。
【0023】
車体1の車体前部1a及び車体下部1bは、それぞれ後記するフロントバルクヘッド2、図示しないバンパビーム、フロントサイドフレーム3、ウインドシールドロア4、フロントホイールハウスアッパメンバ5、隔壁6、フロントピラ7、サイドシル10、補強フレーム12、フロアフレーム17、ジャッキアップ補強プレート13、アウトリガ20(図4参照)、ダッシュボードクロスメンバ16等が左右一対に前後方向に延設されるか、又は、横設されて、略左右対称に配置されている。このように車体下部1bは、略左右対称に配置されるため、以下、車体1の左側の部分を主として説明し、車体1の右側の部分の説明を省略する。
【0024】
動力搭載室MRは、例えば、電動モータ、エンジン、トランスミッション等から構成されるパワーユニット(図示せず)が配置される収納空間であり、その周辺に配置されるフレームとパネル部材とによって形成されている。動力搭載室MRは、前側にフロントバルクヘッド2、図示しないバンパビーム等が配置され、後方側に隔壁6が配置される。また、動力搭載室MRの上方側の左右には、フロントホイールハウスアッパメンバ5、フロントピラ7等が配置されている。動力搭載室MRの下方側の左右には、車体1の前後方向に向けて延在する一対のフロントサイドフレーム3が配置されている。
【0025】
図1に示されるように、フロントバルクヘッド2は、動力搭載室MRの車体前側部位の図示しないラジエータを囲繞するように略矩形状の枠体からなるフレーム部材であり、全体が車幅方向に向けて配置されている。
【0026】
図1に示されるように、フロントサイドフレーム3は、車体前部1aに配置され、車体1の前後方向に延在する左右一対のフレーム部材であり、例えば、前端から後端にわたって剛性を有する断面矩形状(角筒状)のスチール製角パイプ材等によって構成される。フロントサイドフレーム3の先端には、図示しないバンパビームエクステンションを介してバンパビームが連結されている。フロントサイドフレーム3の後端部には、後方に向けてフロアフレーム17が連設されると共に、このフロントサイドフレーム3、3間には、隔壁6が架設されている。
【0027】
フロントホイールハウスアッパメンバ5は、動力搭載室MRの車体側部上側に車体前後方向に向けて配置されたフレーム部材である。フロントホイールハウスアッパメンバ5は、前端がフロントバルクヘッド2のヘッドアッパサイドに連結され、後端がフロントピラ7に連結されている。
【0028】
図1に示されるように、隔壁6は、動力搭載室MRと車室Rとの仕切る仕切り部材であり、例えば、鋼板等からなるダッシュボードアッパ6aと、左右端部がサイドシル10の内側側壁に接合されたダッシュボードロア6bと、フレーム部材からなるダッシュボードクロスメンバ16と、補強用の補強部材等によって構成される。
【0029】
フロントピラ7は、車体下部1bに配置されたサイドシル10の前端部10c(潰し領域S)からその上方の図示しないフロントガラスの左右側部まで延設されるフレーム部材である。後記するように、フロントピラインナ7aの下端には、ジャッキアップ補強プレート13の上端が接合される(図4参照)。
【0030】
図1に示されるように、サイドシル10は、フロントピラ7の下端部から車体1のフロアパネル18の車幅方向外側の端部に沿って車体前後方向に延設され、縦断面視して略矩形からなる鋼板等の金属板で形成された中空フレーム部材である。サイドシル10は、車体内側に配置され縦断面視して略コ字状の高強度鋼板製のサイドシルインナ10aと、車体外側に配置され縦断面視して略コ字状のサイドシルアウタ10bとの間で閉断面34を形成するように接合されている(図6参照)。」
・「【0046】
図1及び図2に示されるように、補強フレーム12は、衝突物が車両C1にナローオフセット衝突した際、サイドシル10が変形して内倒れしないように、サイドシル10の車室内側の側面を保持して衝突荷重を受け止めるための補強用のフレーム部材である。この補強フレーム12は、縦断面視して略ハット形状にプレス等で折曲形成された鋼板からなる。補強フレーム12の一端側は、バルクヘッド26に内設されたサイドシル10の設置部位の車室内側の外面に接合され、その接合部位から車幅方向の内側且つ後方に傾斜して設けられる。補強フレーム12の他端側は、フロアフレーム17に接合される。
【0047】
図1に示されるように、サイドシル10の前端のサイドシルインナ10aには、ダッシュボードクロスメンバ16が接合される。このダッシュボードクロスメンバ16は、左右両側のサイドシル10、10間に車幅方向に沿って横架された横架部材であり、下側が開口し、縦断面が略ハット形状の剛性を有する鋼板等の金属製厚板材によって形成される。
【0048】
このダッシュボードクロスメンバ16は、前後下端部及び左右端部に、接合用及び補強用のフランジ部16aが形成されている。具体的には、左右両端部に形成された接合用フランジ部16aがサイドシル10の内側の側面に接合され、下面の接合用フランジ部16bがダッシュボードロア6bに接合されて、車幅方向に沿って延設されている。
【0049】
一対のサイドシル10、10の前端のサイドシルインナ10a、10aの間にダッシュボードクロスメンバ16が結合されることにより、ナローオフセット衝突時における前輪Tの車室内側への進入量を減少させることができる。
【0050】
図1に示されるように、フロアクロスメンバ19は、左右のサイドシル10、10とトンネル部1cとの間にそれぞれ架設された縦断面が略ハット形状の鋼板からなるフレーム部材である。各フロアクロスメンバ19の車幅方向の略中央部下面には、それぞれフロアフレーム17が直交するように配置されている。
【0051】
図1に示されるように、フロアフレーム17は、車体フロアのフロアパネル18を保持する縦断面が略ハット形状のフレーム部材であり、フロアパネル18のフロア面の上下両面の同じ位置にそれぞれ接合されている。フロアフレーム17は、前端がフロントサイドフレーム3の後部に連結され、車体中央側が補強フレーム12の車内側接合部及びフロアクロスメンバ19の下面に連結され、後端は外側に折れ曲がり車体外側が左右のサイドシル10の車室側の側面に接合されている。」
・図1、2には以下の内容が示されている。
【図1】

【図2】

・【発明の名称】及び図1からみて、「車体下部構造」の発明が記載されていることが理解できる。
・【0029】の「フロントピラ7は、車体下部1bに配置されたサイドシル10の前端部10c(潰し領域S)からその上方の図示しないフロントガラスの左右側部まで延設されるフレーム部材である。」という記載事項及び図1からみて、フロントピラ7は、車体前方の側部に設けられ車体上下方向に延在することが理解できる。
・【0030】の「サイドシル10は、フロントピラ7の下端部から車体1のフロアパネル18の車幅方向外側の端部に沿って車体前後方向に延設され」という記載事項及び図1からみて、サイドシル10は、フロントピラ7の下部に接続され、車体前後方向に延在することが理解できる。
・【0051】の「フロアフレーム17は、車体フロアのフロアパネル18を保持する縦断面が略ハット形状のフレーム部材であり、フロアパネル18のフロア面の上下両面の同じ位置にそれぞれ接合されている。」という記載事項及び図1からみて、フロアフレーム17は、サイドシル10よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル18上に設けられ、車体前後方向に延在すること、及び、フロアフレーム17は、サイドシル10と車体前後方向に延在するトンネル部1cとの間に設けられていることが理解できる。
・【0050】の「フロアクロスメンバ19は、左右のサイドシル10、10とトンネル部1cとの間にそれぞれ架設された縦断面が略ハット形状の鋼板からなるフレーム部材である。」という記載事項及び図1からみて、フロアクロスメンバ19は、フロントピラ7よりも車体後方で、車幅方向に延在することが理解できる。
・【0046】の「補強フレーム12の一端側は、バルクヘッド26に内設されたサイドシル10の設置部位の車室内側の外面に接合され、その接合部位から車幅方向の内側且つ後方に傾斜して設けられる。補強フレーム12の他端側は、フロアフレーム17に接合される。」という記載事項及び図1、2からみて、補強フレーム12は、前記フロアパネル18上に設けられて、一端が前記フロアクロスメンバ19より車体前方で前記サイドシル10に接続され、他端が前記フロアフレーム17に接続されることが理解できる。
・【0050】の「フロアクロスメンバ19は、左右のサイドシル10、10とトンネル部1cとの間にそれぞれ架設された縦断面が略ハット形状の鋼板からなるフレーム部材である。」という記載事項及び図1からみて、フロアクロスメンバ19は、車幅方向外側の端部がサイドシル10に接続され、車幅方向内側の端部がトンネル部1cに接続されることが理解できる。
・【0046】の「補強フレーム12の一端側は、バルクヘッド26に内設されたサイドシル10の設置部位の車室内側の外面に接合され、その接合部位から車幅方向の内側且つ後方に傾斜して設けられる。補強フレーム12の他端側は、フロアフレーム17に接合される」という記載事項及び図1、2からみて、補強フレーム12の一端を、フロントピラ7の下部の下端部の下方に位置するサイドシル10に接続し、前記他端を前記一端よりも車体後方でフロアフレーム17に接続していることが理解できる。

これらの記載事項及び図示内容からみて、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するフロントピラ7と、
前記フロントピラ7の下部に接続され、車体前後方向に延在するサイドシル10と、
前記サイドシル10よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル18上に設けられ、車体前後方向に延在するフロアフレーム17と、
前記フロントピラ7よりも車体後方で、車幅方向に延在するフロアクロスメンバ19と、
前記フロアパネル18上に設けられて、一端が前記フロアクロスメンバ19より車体前方で前記サイドシル10に接続され、他端が前記フロアフレーム17に接続される補強フレーム12と、を有し、
前記フロアフレーム17は、前記サイドシル10と車体前後方向に延在するトンネル部1cとの間に設けられ、
前記フロアクロスメンバ19は、車幅方向外側の端部が前記サイドシル10に接続され、車幅方向内側の端部が前記トンネル部1cに接続された車体下部構造において、
前記補強フレーム12の前記一端を、前記フロントピラ7の下部の下端縁の下方に位置する前記サイドシル10に接続し、前記他端を前記一端よりも車体後方で前記フロアフレーム17に接続すること。」

(3)対比
ア.本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「フロントピラー24」は、その構造からみて、前者の「ピラー」に相当し、以下同様に、「ロッカ38」は「第1骨格部材」に、「フロアパネル32」は「フロアパネル」に、「フロアリインフォースメント72」は「第2骨格部材」に、「フロアクロスメンバ80」は「第3骨格部材」に、「車両外側寄りの端部」は「一端」に、「車体内側寄りの端部」は「他端」に、「小クロスメンバ78」は「荷重伝達部材」に、「フロントピラー24上部」は「ピラー上部」に、「フロントピラー24下部」は「ピラー下部」に、「フロアトンネル部36」は「フロアトンネル」に、それぞれ相当する。
イ.後者の「前記フロントピラー24下部は、その下端縁である下フランジ部30Cの下端縁が、前記ロッカ38の上下方向の略中央に位置して」いることと、前者の「前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の中央に位置して」いることとは、「前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の略中央に位置して」いることにおいて共通する。
ウ.後者の「小クロスメンバ78」の「前記車両内側寄りの端部が、車両外側寄りの端部と車体前後方向でみて同程度の位置で、前記フロアリインフォースメント72に接続され」ていることと、前者の「前記荷重伝達部材の」「前記他端が前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材に接続され」ていることとは、上記アの相当関係を踏まえると、「前記荷重伝達部材の」「前記他端が前記第2骨格部材に接続され」ていることにおいて共通する。
エ.後者の「フロアリインフォースメント72とフロアクロスメンバ80とはその交差する部分で接合している」構成と、前者の「前記第2骨格部材は、車体後方の端部が前記第3骨格部材の車体前方側部に突き当て接続されている」構成とは、「前記第2骨格部材は、前記第3骨格部材に接続されている」ことにおいて共通する。
そうすると、両者は、
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するピラーと、
前記ピラーの下部に接続され、車体前後方向に延在する第1骨格部材と、
前記第1骨格部材よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル上に設けられ、車体前後方向に延在する第2骨格部材と、
前記ピラーよりも車体後方で前記フロアパネル上に設けられ、車幅方向に延在する第3骨格部材と、
前記フロアパネル上に設けられて、一端が前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が前記第2骨格部材に接続される荷重伝達部材と、を有し、
前記ピラーは、車体上下方向に延在するピラー上部と、ピラー上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びるピラー下部と、を有し、
前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の略中央に位置しており、
前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続され、前記他端が第2骨格部材に接続されており、
前記第2骨格部材は、前記第1骨格部材と車体前後方向に延在するフロアトンネルとの間に設けられ、
前記第3骨格部材は、車幅方向外側の端部が前記第1骨格部材に接続され、車幅方向内側の端部が前記フロアトンネルに接続された、
前記第2骨格部材は、前記第3骨格部材に接続されている、
車体下部構造。」
の点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

<相違点1>
前記ピラー下部の下端縁の位置について、本件補正発明では、第1骨格部材の上下方向の「中央」であるのに対して、引用発明では、第1骨格部材の上下方向の「略中央」である点。
<相違点2>
前記他端が第2骨格部材に接続されている位置について、本件補正発明では、一端よりも車体後方であるのに対して、引用発明では、一端(車両外側寄りの端部)と車体前後方向でみて同程度の位置である点。
<相違点3>
前記第2骨格部材が第3骨格部材に接続されている構成について、本件補正発明では、「前記第2骨格部材は、車体後方の端部が前記第3骨格部材の車体前方側部に突き当て接続されている」のに対して、引用発明では、第2骨格部材(フロアリインフォースメント72)と第3骨格部材(フロアクロスメンバ80)とはその交差する部分で接続されている点。

(4)相違点の判断
<相違点1について>
本件補正発明の「中央」が引用発明のような略中央の位置を元々意味しているのであれば、相違点1は実質的な相違点ではない。
また、本件補正発明の「中央」が厳密な意味における「中央」を表しているとしても、引用発明のピラー下部の下端縁の位置について、第1骨格部材の上下方向の「略中央」になっているものを、本件補正発明のように、第1骨格部材の上下方向の「中央」にすることは、当業者であれば適宜なし得ることにすぎない。

<相違点2について>
ア.本件補正発明と引用文献2に記載された事項とを対比すると、後者の「フロントピラ7」は前者の「ピラー」に相当し、以下同様に、「サイドシル10」は「第1骨格部材」に、「フロアパネル18」は「フロアパネル」に、「フロアフレーム17」は「第2骨格部材」に、「補強フレーム12」は「荷重伝達部材」に、「フロアクロスメンバ19」は「第3骨格部材」に、「フロントピラ7の下部」は「ピラー下部」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件補正発明の用語に倣えば、引用文献2に記載された事項は、以下のとおり整理される。
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するピラーと、
前記ピラーの下部に接続され、車体前後方向に延在する第1骨格部材と、
前記第1骨格部材よりも車幅方向内側に位置してフロアパネル上に設けられ、車体前後方向に延在する第2骨格部材と、
前記ピラーよりも車体後方で前記フロアパネル上に設けられ、車幅方向に延在する第3骨格部材と、
前記フロアパネル上に設けられて、一端が前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が前記第2骨格部材に接続される荷重伝達部材と、を有し、
前記第2骨格部材は、前記第1骨格部材と車体前後方向に延在するフロアトンネルとの間に設けられ、
前記第3骨格部材は、車幅方向外側の端部が前記第1骨格部材に接続され、車幅方向内側の端部が前記フロアトンネルに接続された車体下部構造において、
前記荷重伝達部材の前記一端を、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続し、前記他端を前記一端よりも車体後方で前記第2骨格部材に接続すること。」

イ.引用文献2に記載された事項は、引用発明と「車体下部構造」という技術分野で共通する。
引用文献2に記載されたナローオフセット衝突時の衝突荷重を吸収する課題は、スモール・オーバーラップ・テストとして車体構造設計ではよく知られた課題であり、引用文献1の[0057]にも「このような衝突は、例えばフロントサイドメンバ42の車両幅方向外側でバリアと衝突する微小ラップ衝突や、オフセット衝突の中でも微小ラップ衝突のときよりバリアとのオーバーラップ量が多い衝突や、車体前部の斜め前方からバリアと衝突する斜突のときであって、衝突速度が比較的速い場合やバリアの重量が比較的重い場合に起こり易い。」と記載されていることから、引用発明にも当然に内在する課題であるといえる。
そうすると、引用発明の小クロスメンバ78(荷重伝達部材)の配置に関して、ナローオフセット衝突した際に、ロッカ38(サイドシル)が変形して内倒れしないように、ロッカ38(サイドシル)の車室内側の側面を保持して衝突荷重を受け止めるため、引用文献2に記載された事項を採用することで相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。

<相違点3について>
車体構造において、正面衝突時の荷重を分散させるために、フロアの車体前後方向に延びるフロアリインフォースの端部をフロアクロスメンバとを突き当てる構造とすることは本願出願前において周知の技術(必要であれば、特に、特開2013−18370号公報の【0034】〜【0038】、【0041】、図1〜6、特開2008−37238号公報の【0061】〜【0064】、図20〜22等を参照のこと。以下「周知技術」という。)であることから、引用発明のフロアリインフォースメント72とフロアクロスメンバ80の接続構造として採用して、相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性はない。

本件補正発明の効果について検討しても、引用発明、引用文献2に記載された事項及び上記周知技術から予測される程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)請求人の主張の検討
上記<相違点3について>において、述べたとおりである。

(6)まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、「第2 1.(2)」に示したとおりのものと認められる。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<理由1(明確性)>
・請求項 1〜3
請求項1には「一端が前記ピラーから車体後方に離れた位置で、かつ前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され・・・荷重伝達部材」及び「前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の中央に位置しており、前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続されている」と記載されている。当該記載について、ピラーから車体後方に離れた位置で第1骨格部材に接続される荷重伝達部材において、荷重伝達部材の一端をピラー下部の下端縁の下方に位置する第1骨格部材と接続する、すなわち前後方向においてピラーと重なる位置で接続することは、記載が整合せず、十分明確でない。
また、請求項3についても同様である。
よって、請求項1〜3に係る発明は明確でない。

<理由2(進歩性)>
・請求項 1及び2
・引用文献 1及び2

・請求項 1
・引用文献 1及び3

・請求項 3
・引用文献 1及び2

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2014/162493号(上記第2 2.(2)ア.で示した「引用文献1」と同じ。)
2.特開2013−166435号公報 (上記第2 2.(2)イ.で示した「引用文献2」と同じ。)
3.特開2003−237636号公報

3.引用文献とその記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1に記載された引用発明は、上記「第2 2.(2)ア.」に記載したとおりである。
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2に記載された事項は、上記「第2 2.(2)イ.」に記載したとおりである。

4.対比・判断
(1)<理由1(明確性)> について
請求項1には「一端が前記ピラーから車体後方に離れた位置で、かつ前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され・・・荷重伝達部材」及び「前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の中央に位置しており、前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続されている」と記載されている。
当該記載は、ピラーから車体後方に離れた位置で第1骨格部材に接続される荷重伝達部材において、荷重伝達部材の一端をピラー下部の下端縁の下方に位置する第1骨格部材と接続する、すなわち前後方向においてピラーと重なる位置で接続するものとなっているが、この記載では、荷重伝達部材の接続位置が、ピラーと離れた位置であり且つ重なる位置という空集合と示すこととなってしまい、記載が整合しているとはいえず、明確でない。
よって、本願発明1は明確でない。

(2)<理由2(進歩性)>について
ア.本願発明と引用発明とを上記「第2 2.(3)対比」を参照して対比すると、両者は、
「車体前方の側部に設けられ、車体上下方向に延在するピラーと、
前記ピラーの下部に接続され、車体前後方向に延在する第1骨格部材と、
前記第1骨格部材よりも車幅方向内側に位置し、車体前後方向に延在する第2骨格部材と、
前記ピラーよりも車体後方で車幅方向に延在する第3骨格部材と、
一端が前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が前記第2骨格部材と前記第3骨格部材との少なくともいずれか一方に接続される荷重伝達部材と、を有し、
前記ピラーは、車体上下方向に延在するピラー上部と、ピラー上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びるピラー下部と、を有し、
前記ピラー下部は、下端縁が前記第1骨格部材の上下方向の略中央に位置しており、前記荷重伝達部材の前記一端は、前記ピラー下部の下端縁の下方に位置する前記第1骨格部材に接続されている、車体下部構造。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
前記ピラー下部の下端縁の位置について、本件発明1では、第1骨格部材の上下方向の「中央」であるのに対して、引用発明では、第1骨格部材の上下方向の「略中央」である点。
<相違点2’>
本願発明は、荷重伝達部材の一端が「前記ピラーから車体後方に離れた位置」かつ前記第3骨格部材より車体前方で前記第1骨格部材に接続され、他端が「前記一端よりも車体後方で」前記第2骨格部材と第3骨格部材との少なくともいずれか一方に接続されるのに対して、引用発明は、「前記小クロスメンバ78(荷重伝達部材)の前記車両外側寄りの端部(一端)は、前記下部30の下フランジ部30Cの下端縁の下方に位置する前記ロッカ38(第1骨格部材)の縦壁部40Aに接続され、前記車両内側寄りの端部(他端)が、車両外側寄りの端部と車体前後方向でみて同程度の位置で、前記フロアリインフォースメント72(第2骨格部材)に接続されて」いる点。

イ.<相違点1’について>
「第2 2.(4)」の<相違点1について>にて検討したとおり、実質的な相違点とはいえない。または、実質的に相違するとしても、当業者が適宜なし得ることにすぎない。

ウ.<相違点2’について>
上記(1)で検討したように、上記「ピラーから車体後方に離れた位置」で第1骨格部材に接続される荷重伝達部材と、荷重伝達部材の一端をピラー下部の下端縁の下方に位置する第1骨格部材と接続する、すなわち前後方向においてピラーと重なる位置で接続することとは、記載が整合しないが、本願明細書の【0017】の「すなわち、荷重伝達部材17の一端17fの側面5aへの接続位置は、ピラー上部1aから車体後方へ離れた位置である。」という記載を参酌して、「ピラーから車体後方に離れた位置」を「ピラー上部から車体後方に離れた位置」と解して検討する。
まず、上記相違点2’の本願発明の構成のうち、一端が「前記ピラーから車体後方に離れた位置」で第1骨格部材に接続される構成について検討する。引用発明は、「前記フロントピラー24は、車体上下方向に延在するフロントピラー24上部と、フロントピラー24上部の下端から車体後方に向けて屈曲して延びて下部30を含むフロントピラー24下部と、を有し、」「前記小クロスメンバ78の前記車両外側寄りの端部は、前記下部30の下フランジ部30Cの下端縁の下方に位置する前記ロッカ38(第1骨格部材)の縦壁部40Aに接続され」ることから、引用発明は、小クロスメンバ78(荷重伝達部材)の一端が「フロントピラー24上部の下端から車体後方に離れた位置」でロッカ38(第1骨格部材)に接続されているといえる。よって、相違点2’の実質的な相違点であるとはいえない。
また仮に、荷重伝達部材の一端が「ピラーから車体後方に離れた位置」で第1骨格部材に接続されるものであると解したとしても、例えば、引用文献2の図1の補強フレーム12(荷重伝達部材)の一端がピラーから車体後方に離れた位置でサイドシル10(第1骨格部材)に接続された記載を参考にすれば、衝撃荷重の吸収性を向上させる効果を期待して、引用発明における小クロスメンバ78(荷重伝達部材)の車両外側寄りの端部(一端)をピラーから車体後方に離れた位置にする程度のことは、当業者が適宜なし得る事項である。
次に、上記相違点2’の本願発明の構成のうち、「他端が「前記一端よりも車体後方で」前記第2骨格部材と第3骨格部材との少なくともいずれか一方に接続される」構成については、上記「第2 2.(4)」の<相違点2について>に示した理由と同様の理由により、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、当業者が容易に想到し得たことである。

そうすると、本願発明1は、引用発明、引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。さらに、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項を検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-01 
結審通知日 2022-06-07 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2016-208454
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
P 1 8・ 575- Z (B62D)
P 1 8・ 121- Z (B62D)
P 1 8・ 537- Z (B62D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 筑波 茂樹
三宅 龍平
発明の名称 車体下部構造  
代理人 三好 秀和  

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