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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1388006
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-16 
確定日 2022-08-05 
事件の表示 特願2017−560763「ビームジオメトリを選択する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月 1日国際公開、WO2016/188754、平成30年 6月14日国内公表、特表2018−515274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)5月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年5月28日 (IN)インド)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年11月21日 :国内書面の提出
令和 2年 5月26日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月 4日付け:拒絶査定
令和 3年 7月16日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 令和3年7月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月16日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「放射線治療用のビームジオメトリの組を選択する方法であって、
複数の候補ビームジオメトリを提供するステップと、
すべての前記候補ビームジオメトリを用いて放射線治療計画を最適化するステップと、
すべての前記候補ビームジオメトリに基づいてコスト関数値を計算するステップと、
前記複数の候補ビームジオメトリから第1のビームジオメトリを除去するステップと、
前記除去された第1のビームジオメトリを含まない前記複数の候補ビームジオメトリに基づいて、第1の修正されたコスト関数値を計算するステップと、
前記第1のビームジオメトリを、前記除去された第1のビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに復元するステップと、
前記第1のビームジオメトリ以外のすべての他の前記候補ビームジオメトリのそれぞれについて、
前記複数の候補ビームジオメトリからビームジオメトリを除去するステップ、前記除去されたビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに基づいて、修正されたコスト関数値を計算するステップ、及び前記除去されたビームジオメトリを、前記除去されたビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに復元するステップ、
を繰り返すステップと、
前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正されたコスト関数値が、前記すべての候補ビームジオメトリに基づいて計算される元のコスト関数値より大きな1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップと、
を含む方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年12月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「放射線治療用のビームジオメトリの組を選択する方法であって、
複数の候補ビームジオメトリを提供するステップと、
すべての前記候補ビームジオメトリを用いて放射線治療計画を最適化するステップと、
すべての前記候補ビームジオメトリに基づいてコスト関数値を計算するステップと、
前記複数の候補ビームジオメトリから第1のビームジオメトリを除去するステップと、
除去された第1のビームジオメトリを含まない前記複数の候補ビームジオメトリに基づいて、第1の修正されたコスト関数値を計算するステップと、
前記第1のビームジオメトリを前記複数の候補ビームジオメトリに復元するステップと、
すべての他の候補ビームジオメトリについて、ビームジオメトリを除去する前記ステップ、修正されたコスト関数値を計算する前記ステップ、及び除去されたビームジオメトリを復元する前記ステップ、を繰り返すステップと、
前記修正されたコスト関数値に基づいて、前記複数の候補ビームジオメトリから1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップと、
を含む方法。」

2 補正の適否
本件補正の補正事項の内、「前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正されたコスト関数値が、前記すべての候補ビームジオメトリに基づいて計算される元のコスト関数値より大きな1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」という補正事項は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記修正されたコスト関数値に基づいて、前記複数の候補ビームジオメトリから1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」について、上記のとおり限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正の補正事項の内、その余の補正事項は、令和3年3月4日付け拒絶査定において付記された特許法第36条第6項第2号の拒絶の理由を解消するためになされたものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物であるK. Pesola,2835 Optimizing Beam Angles for IMRT Treatment Planning,International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics,2006年,Vol.66, No.3,P.S680(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、仮訳は当審で作成し、下線は当審で付した。

「Purpose/Objective(s): In conventional IMRT treatment planning, beam angles are selected manually. This selection is followed by an optimization of beam profiles (fluences) using inverse optimization methods in order to minimize the value of an objective function (OF). Typically, the OF value is proportional to the fulfillment of the user-given dose-volume histogram (DVH) based constraints. Several trial-and-error attempts in selecting beam angles may be needed in order to produce an acceptable treatment plan. This study presents a novel approach for optimizing beam angles for IMRT treatments. Special attention has been paid to the quality of dose calculation within beam angle optimization while maintaining the runtime of the algorithm acceptable for routine clinical work.

Materials/Methods: There are two modes in the current algorithm: the global optimization mode and the local optimization mode. In the global mode, either a 2D (plane) or a 3D search space may be used. The initial search space is covered with a preset number of uniformly distributed fields. Thereafter, a few fluence optimization iterations are calculated in order to produce an optimal beam profile for each field. Throughout the optimization process, the 3D dose distribution is completely calculated in order to fully account for long range scatter effects. The relative importance of each field is determined by removing the field from the plan and calculating the corresponding OF value. The fields with a low importance value are thereafter removed. The beam angle optimization iterations are continued until the desired number of fields has been reached. The local beam angle optimization mode is used for locally expanding the initially discrete search space into a continuous one in order to minimize the value of the objective function. Two possibilities for the optimization algorithm to be used in the local optimization mode have been implemented: the downhill Simplex method and the Powell method.

Results: In order to clarify the goodness of the plans obtained with the novel beam angle optimization algorithm, an evaluation study has been carried out for 10 prostate cases. In addition to the PTV, the rectum, the bladder and the femoral heads were segmented and set with DVH-based constraints. Beam angles were optimized for treatment plans including 5, 7 and 9 fields. The optimized beam angles were compared both with equispaced field setups and with class solution beam directions. The initial field geometry in beam angle optimization consisted of 72 fields in a 2D (coplanar) field geometry. The results show that with beam angle optimization it is possible to obtain 11 % decrease in the OF value for five field plans and a 14 % decrease in the OF value for seven field plans when compared to class solution plans. The decrease in the OF value can be observed also in the corresponding DVHs for PTV, bladder, rectum and femoral heads.

Conclusions: This study shows that the novel beam angle optimization algorithm is able to improve the OF values obtained with the class solution plans for five field and for seven field prostate treatments. The runtime of the novel beam angle optimization algorithm (around 10?30 min) makes it usable in routine clinical work. By taking the beam angle optimization algorithm into clinical use, the workload of the personnel constructing the IMRT plans would be significantly reduced.」(4行〜32行)
(用途/目的:従来のIMRT治療計画では、ビーム角度は手動で選択される。この選択に続いて、目的関数(OF)の値を最小化するために、逆最適化法を使用してビームプロファイル(フルエンス)が最適化される。通常、OF値は、ユーザー指定の線量-体積ヒストグラム(DVH)ベースの制約の実現に比例する。許容できる治療計画を作成するために、ビーム角度を選択する際に何度か試行錯誤が必要になる場合がある。この研究は、IMRT治療のためにビーム角度を最適化するための新しいアプローチを提示する。日常的な臨床作業に許容可能なアルゴリズムの実行時間を維持しながら、ビーム角度最適化内の線量計算の品質に特別な注意が払われてきた。

材料/方法:現在のアルゴリズムには2つのモードがある。グローバル最適化モードとローカル最適化モードである。グローバルモードでは、2D(平面)または3D探索空間のいずれかを使用できる。最初の探索空間は、あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーされる。その後、各フィールドについて1つの最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復が計算される。最適化プロセス全体を通して、長距離散乱効果を完全に説明するために、3D線量分布が完全に計算される。各フィールドの相対的な重要度は、計画からそのフィールドを除去し、対応するOF値を計算することによって決定される。その後、重要度の低いフィールドは除去される。ビーム角度の最適化の反復は、所望のフィールド数に達するまで続けられる。ローカルビーム角度最適化モードは、目的関数の値を最小化するために、最初は離散的な探索空間を連続的な探索空間に局所的に拡張するために使用される。ローカル最適化モードで使用される最適化アルゴリズムの2つの可能性が実装されている。ダウンヒルシンプレックス法とパウエル法である。

結果:新しいビーム角度最適化アルゴリズムで得られた計画の良さを明らかにするために、10の前立腺症例に対して評価研究を行った。PTVに加えて、直腸、膀胱及び大腿骨頭をセグメント化し、DVHベースの制約で設定した。ビーム角度は、5、7及び9フィールドを含む治療計画に対して最適化した。最適化されたビーム角度を、等間隔フィールド設定とクラスソリューションビーム方向との両方で比較した。ビーム角度最適化における初期フィールドジオメトリは、2D(共面)フィールドジオメトリにおける72のフィールドで構成された。結果は、ビーム角度の最適化により、クラスソリューションプランと比較した場合、5つのフィールドプランでOF値を11%減少させ、7つのフィールドプランでOF値を14%減少させることができることを示している。OF値の減少は、PTV、膀胱、直腸、大腿骨頭の対応するDVHでも観察することができる。

結論:この研究は、新規なビーム角度最適化アルゴリズムが、5つのフィールド及び7つのフィールドの前立腺治療のためのクラスソリューションプランで得られたOF値を改善できることを示している。新規なビーム角度最適化アルゴリズムの実行時間(約10〜30分)は、日常的な臨床作業において使用できるようにする。ビーム角最適化アルゴリズムを臨床的に使用することにより、IMRT計画を作成する担当者の作業負荷が大幅に削減される。)

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、IMRT治療計画のビーム角度を最適化する方法に関するものであり、そのための新しいアプローチを提示することを課題としたものである。
b 最初に、探索空間をあらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーし、
各フィールドについて1つの最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復を計算し、
各フィールドの相対的な重要度は、計画からそのフィールドを除去し、対応するOF(目的関数)値を計算することによって決定され、その後、重要度の低いフィールドを除去している。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「IMRT治療計画のビーム角度を最適化する方法であって、
最初に、探索空間をあらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーし、
各フィールドについて1つの最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復を計算し、
各フィールドの相対的な重要度は、計画からそのフィールドを除去し、対応するOF(目的関数)値を計算することによって決定され、その後、重要度の低いフィールドを除去する、
方法。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「IMRT治療計画のビーム角度を最適化する方法」は、IMRTとは強度変調放射線治療のことであるから、本件補正発明の「放射線治療用のビームジオメトリの組を選択する方法」に相当する。
(イ)引用発明の「フィールド」は、各フィールドに1つのビームプロファイルが生成されており、探索空間をあらかじめ設定された数で均一に分布されたものである。そして、引用発明は、あらかじめ設定された数の均一に分布されたフィールドから重要度の低いフィールドを除去して「ビーム角度を最適化」しているのであるから、当該「均一に分布」とは、等角度で分布されているものといえる。すなわち、各フィールドは、それぞれに1つのビームプロファイルが生成されたものであり、探索空間に等角度で分布したものであるから、当該「フィールド」は本願補正発明の「ビームジオメトリ」に相当する。すると、引用発明の「最初に、探索空間をあらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーし」は、本件補正発明の「複数の候補ビームジオメトリを提供するステップ」に相当し、同様に、「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」は「複数の候補ビームジオメトリ」に相当する。
(ウ)引用発明の「各フィールドについて1つの最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復を計算し」は本件補正発明の「すべての前記候補ビームジオメトリを用いて放射線治療計画を最適化するステップ」に相当する。
(エ)引用発明の「計画からそのフィールドを除去し」に関し、「計画からそのフィールドを除去」しているのであるから、「計画」とは、複数のフィールドからなるフィールドの集合体であることが理解できる。そして、当該計画に関し、引用文献1には「the plan」と定冠詞が付されていることから、当該記載以前に記載されたフィールドの集合体であることも理解できる。すると、当該計画とは、「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」であると解釈することが妥当である。
すると、上記(イ)に示したとおり、引用発明の「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」は本件補正発明の「複数の候補ビームジオメトリ」に相当するのであるから、同様に「計画からそのフィールドを除去し」は「複数の候補ビームジオメトリから第1のビームジオメトリを除去するステップ」に相当する。
(オ)引用発明の「計画からそのフィールドを除去し、対応するOF(目的関数)値を計算する」と本件補正発明の「前記除去された第1のビームジオメトリを含まない前記複数の候補ビームジオメトリに基づいて、第1の修正されたコスト関数値を計算するステップ」とは、「除去された第1のビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに基づいて、第1の修正された目的とする関数の値を計算するステップ」という点で一致する。
(カ)引用発明の「各フィールドの相対的な重要度は・・・対応するOF(目的関数)値を計算することによって決定され、その後、重要度の低いフィールドを除去する」と本件補正発明の「前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正されたコスト関数値が、前記すべての候補ビームジオメトリに基づいて計算される元のコスト関数値より大きな1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」とは、「複数の候補ビームジオメトリから、修正された目的とする関数の値に基づいて1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」という点で一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「放射線治療用のビームジオメトリの組を選択する方法であって、
複数の候補ビームジオメトリを提供するステップと、
すべての前記候補ビームジオメトリを用いて放射線治療計画を最適化するステップと、
前記複数の候補ビームジオメトリから第1のビームジオメトリを除去するステップと、
前記除去された第1のビームジオメトリを含まない前記複数の候補ビームジオメトリに基づいて、第1の修正された目的とする関数の値を計算するステップと、
前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正された目的とする関数の値に基づいて1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップと、
を含む方法。」

【相違点1】
本件補正発明は、「すべての前記候補ビームジオメトリに基づいてコスト関数値を計算するステップ」を含んでいるのに対し、引用発明は、そのようなステップを含んでいるのか、一見不明な点。
【相違点2】
「目的とする関数の値」に関し、本件補正発明は、「コスト関数値」であるのに対し、引用発明は、「OF(目的関数)値」である点。
【相違点3】
本件補正発明は、「前記第1のビームジオメトリを、前記除去された第1のビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに復元するステップと、
前記第1のビームジオメトリ以外のすべての他の前記候補ビームジオメトリのそれぞれについて、
前記複数の候補ビームジオメトリからビームジオメトリを除去するステップ、前記除去されたビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに基づいて、修正されたコスト関数値を計算するステップ、及び前記除去されたビームジオメトリを、前記除去されたビームジオメトリを含まない複数の候補ビームジオメトリに復元するステップ、
を繰り返すステップ」を含んでいるのに対し、引用発明は、そのようなステップを含んでいるのか、一見不明な点。
【相違点4】
「前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正された目的とする関数の値に基づいて1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」に関し、本件補正発明は、「前記複数の候補ビームジオメトリから、前記修正されたコスト関数値が、前記すべての候補ビームジオメトリに基づいて計算される元のコスト関数値より大きな1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」であるのに対し、引用発明は、「各フィールドの相対的な重要度は・・・対応するOF(目的関数)値を計算することによって決定され、その後、重要度の低いフィールドを除去」している点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明は、「最初に、探索空間をあらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーし、
各フィールドについて最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復を計算し」ているから、上記(3)ア(ウ)にて示したとおり、すべてのフィールドを用いてIMRT治療計画の最適化を行っているといえる。そうである以上、最適化の課程において、当然にすべてのフィールドに基づいてOF(目的関数)値を計算しているといえるし、または、そうすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点1については、目的とする関数の値に関する「コスト関数値」と「OF(目的関数)値」との相違(上記相違点2)以外、実質的な相違点ではないか、または、当業者が容易になし得たことである。
そして、相違点2については、後述する。

イ 相違点2について
最適化において、コスト関数は目的関数の下位概念と理解されることがあるが(例えば、特表2012−532067号公報(特に、【0051】)参照。)、両者は用語として、明確な区別をすることなく用いられていることが多く(例えば、特開2011−150333号公報(特に、【0009】)、特表2012−505581号公報(特に、【0024】)、特開2000−3377号公報(特に、【0002】)、特開平6−318249号公報(特に、【0036】)、特表2000−501249号公報(特に、29頁4〜5行)、特開平10−60519号公報(特に、【0018】)、特開2007−242021号公報(特に、【0038】)参照)、また、どちらも最適化において通常用いられる周知の関数である。
そして、本件補正発明における「コスト関数値」に関し、発明の詳細な説明の【0008】に規定するために使用できるパラメータが例示されているものの、これらパラメータは、コスト関数以外、例えば目的関数では使用できないパラメータであるとはいえない。また、当該「コスト関数値」は、発明の詳細な説明で具体的な数式等で定義されたものではなく、「コスト関数値」を用いることによる格別な効果を奏する旨の説明はない。さらに、本願の発明の詳細な説明の【0077】に「目的関数」という用語があるが、目的関数とコスト関数との異同について、何ら説明はない。
よって、引用発明の「OF(目的関数)値」を「コスト関数値」とすることは、同じことを意味するものであるか、あるいは、当業者が適宜なし得ることであり、また、それにより作用効果上格別な差異を生じさせるものでもない。
よって、相違点2は、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明の「計画からそのフィールドを除去し」の「計画」とは、上記(3)ア(エ)で示したとおり、「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」であると解釈することが相当である。
すなわち、引用発明の「計画からそのフィールドを除去し、対応するOF(目的関数)値を計算することによって各フィールドの相対的な重要度を決定し」とは、「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」から1つのフィールドを除去して、OF(目的関数)値を計算することによって、その除去したフィールドの重要度を決定するものである。そして、「各フィールドの相対的な重要度を決定し」ているのであるから、その重要度の決定をすべてのフィールドで行っていると理解できる。そうである以上、引用発明は、具体的には、削除した1つのフィールドを復元して、「あらかじめ設定された数の均一に分布したフィールド」としてから、他のフィールドを除去して、OF(目的関数)値を計算することによって、その除去した他のフィールドの重要度を決定し、さらに除去した他のフィールドを復元することをひとつずつ順番に繰り返しているものといえるし、または、そうすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点3については、上記「コスト関数値」と「OF(目的関数)値」との相違(上記相違点2)以外、実質的な相違点ではないか、または、当業者が容易になし得たことである。
そして、相違点2については、上記イのとおりである。

エ 相違点4について
最適化におけるパラメータの重要度の決定に関し、パラメータを変化させる前後の目的関数の変化によって、そのパラメータの重要度を決定することは、例えば、特開2006−321340号(特に、【0154】、【0187】〜【0190】参照。)、特表2006−526140号(特に、【0286】参照。)に見られるように、技術常識である。
そして、そのような技術常識を鑑みると、引用発明の「各フィールドの相対的な重要度は、計画からそのフィールドを除去し、対応するOF(目的関数)値を計算することによって決定され、その後、重要度の低いフィールドを除去する」とは、フィールドを除去したときに、除去前と除去後のOF(目的関数)値の変化が大きければ、そのフィールドがOF(目的関数)値に大きな影響を及ぼすものであることが理解でき、すなわち、そのフィールドの重要度が高いことが理解できる。
よって、引用発明の当該構成は、フィールドを除去した後に計算したOF(目的関数)値とすべてのフィールドに基づいて計算される元のOF(目的関数)値との差が大きいフィールドを重要度が高いとして残し、差が小さいフィールドを重要度が低いとして除去するものと解釈するのが妥当である。
さらに、引用文献1には、「目的関数(OF)の値を最小化するために、逆最適化法を使用してビームプロファイル(フルエンス)が最適化される。」と記載されており、引用発明は、「最初に、探索空間をあらかじめ設定された数の均一に分布したフィールドでカバーし、
各フィールドについて1つの最適なビームプロファイルを生成するために、いくつかのフルエンス最適化の反復を計算し」ている。すなわち、すべてのフィールドに基づいて計算される元のOF(目的関数)値を最小化するように最適化を行っているのであるから、フィールドを除去した後に計算したOF(目的関数)値は、当然に前記元のOF(目的関数)値よりも大きくなっている。
したがって、引用発明の当該構成は、フィールドを除去した後に計算したOF(目的関数)値が、すべてのフィールドに基づいて計算される元のOF(目的関数)値より、特に大きなフィールドを選んでいるといえるから、相違点4については、上記「コスト関数値」と「OF(目的関数)値」との相違(上記相違点2)以外、実質的な相違点ではない。
そして、相違点2については、上記イのとおりである。

オ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

カ 以上より、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年12月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:K. Pesola,2835 Optimizing Beam Angles for IMRT Treatment Planning,International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics,2006年,Vol.66, No.3,P.S680

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「1又は複数のビームジオメトリを選ぶステップ」に関し、「前記修正されたコスト関数値が、前記すべての候補ビームジオメトリに基づいて計算される元のコスト関数値より大きな」ビームジオメトリを選ぶという補正事項に係る限定事項を削除したものである。
なお、その余の補正事項については、明瞭でない記載の釈明を目的としてなされたものであり、発明の要旨を変更するものではない。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 千壽 哲郎
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-09 
結審通知日 2022-03-10 
審決日 2022-03-23 
出願番号 P2017-560763
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 莊司 英史
倉橋 紀夫
発明の名称 ビームジオメトリを選択する方法  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

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