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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1388019
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-20 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2020−513343「膨張ベースの非侵襲的血圧モニター用の膨張装置及びその作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月21日国際公開、WO2019/052918、令和 2年10月 1日国内公表、特表2020−528808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)9月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年9月14日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和2年3月4日に手続補正がなされ、その後、同年8月25日付けの拒絶理由の通知に対し、令和3年2月22日に意見書が提出されたが、同年3年30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年7月20日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和3年7月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
膨張ベースの非侵襲的血圧NIBP測定装置で使用される膨張装置であって、
前記膨張ベースのNIBP測定装置のカフに結合される出口と、
出力流量でガスの流れを出力するポンプと、
前記ポンプ及び前記出口の間の流路に沿って配置され、前記カフの膨張中に前記ポンプにより出力されるガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁であって、前記ポンプより出力されるガスが必ず通過するように配置された弁と、
前記弁の流動抵抗を制御し、前記カフを膨張させるのに必要な流量で前記出口にガスの流れを提供する制御ユニットとを有する、膨張装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
膨張ベースの非侵襲的血圧NIBP測定装置で使用される膨張装置であって、
前記膨張ベースのNIBP測定装置のカフに結合される出口と、
出力流量でガスの流れを出力するポンプと、
前記ポンプ及び前記出口の間の流路に沿って配置され、前記カフの膨張中に前記ポンプにより出力されるガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁と、
前記弁の流動抵抗を制御し、前記カフを膨張させるのに必要な流量で前記出口にガスの流れを提供する制御ユニットとを有する、膨張装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「弁」について、その配置を上記のとおり限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

ア 引用文献1

(ア)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開2002−34938号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下、同様。)。

(引1ア)
「【0002】
【従来の技術】従来より、カフ圧に重畳される心拍毎の動脈脈波成分を抽出し、動脈脈波成分の変化に基づいて、最高血圧値及び最低血圧値を示す時点を判定するオシロメトリック法を採用した血圧計が知られている。図14は従来の血圧計を示すブロック図であり、被測定者の要部に装着するカフ1に加圧ポンプ(加圧手段)3、急速排気弁(第2の排気手段)4、徐々排気弁(第1の排気手段)5をそれぞれ接続して、カフ圧を制御演算部7で制御する。そのカフ圧を圧力センサ2で電圧信号に変換し、A/D変換部(A/D変換手段)6によってデジタル信号に変換して制御演算部7に入力する。」

(引1イ)
「【0022】(実施形態1)本発明の実施形態1を図1乃至図5を参照して説明する。尚、血圧計の基本的な構成は従来例と共通するので、共通する構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。また、制御演算部7の内部ブロックは従来例と同様であるので、図示及び説明は省略する。
【0023】本実施形態では徐々排気弁5に、制御演算部7から入力されるPWM信号のデューティ比に応じて弁開度が変化する制御弁を用いており、排気量制御手段としての制御演算部7は、徐々排気弁5に出力するPWM信号のデューティ比を変化させることによって、徐々排気弁5の弁開度を変化させ、その排気量を変化させている。
【0024】また、制御演算部7は、従来の血圧計と同様に、一定電圧の電圧信号或いはデューティ比が一定のPWM信号からなる制御信号を加圧ポンプ3に対して出力しており、加圧ポンプ3による空気の送出量を略一定に制御している。
【0025】制御演算部7では、血圧測定開始によりカフ1の中に空気を送って加圧する時(以下、単に「加圧時」と略す)に、徐々排気弁5の排気量を制御することにより、加圧ポンプ3の送出量に対して徐々排気弁5の排気量を変化させ、カフ圧の加圧速度を変化させているので、カフ圧を加圧するのに要する時間を略一定に制御することができ、加圧中に後述する最高血圧値の推定動作を確実に行うことができる。
・・・
【0034】また、制御演算部7は加圧時の加圧速度を十分遅い値(例えば2〜6mmHg/sec)に制御し、演算手段15が血圧値の判定に用いる生体信号を測定するのに必要な時間より加圧時間を長くしても良く(図6参照)、演算手段15が血圧値の判定に用いる生体信号を加圧中に測定することができるから、加圧中に最高血圧値や最低血圧値の測定を行え、血圧の測定時間を短縮できる。」

(引1ウ)
「【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1の血圧計のブロック図である。」

(引1エ)図1


(イ)(引1ア)の【0002】「カフ1に加圧ポンプ・・・3、・・・徐々排気弁・・・5をそれぞれ接続して、カフ圧を制御演算部7で制御する」、(引1イ)の【0025】「制御演算部7では、血圧測定開始によりカフ1の中に空気を送って加圧する時・・・に、徐々排気弁5の排気量を制御する」との記載や、(引1ウ)「血圧計のブロック図」を示す(引1エ)の図1を見ると、カフ1に流路を介して加圧ポンプ3が接続され、流路の途中に徐々排気弁5が配置され、カフ圧を制御演算部7で制御する機構が、カフ1の中に空気を送るための加圧装置であることが理解できる。
このことを含め上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「加圧中に最高血圧値や最低血圧値の測定を行えるオシロメトリック法を採用した血圧計における、カフ1の中に空気を送る加圧装置であって、
カフ1に流路を介して加圧ポンプ3が接続され、流路の途中に徐々排気弁5が配置され、カフ圧を制御演算部7で制御する機構からなり、
制御演算部7は、徐々排気弁5の弁開度を変化させ、その排気量を変化させており、
制御演算部7は、加圧ポンプ3による空気の送出量を略一定に制御しており、
制御演算部7では、血圧測定開始によりカフ1の中に空気を送って加圧する時に、徐々排気弁5の排気量を制御することにより、加圧ポンプ3の送出量に対して徐々排気弁5の排気量を変化させ、カフ圧の加圧速度を変化させている、
加圧装置。」

イ 引用文献3

(ア)原査定で引用文献3として引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2012/0059267号明細書(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている(原文に続けて当審訳を記載する。)。

(引3ア)
「[0159]・・・ Similar to the blood pressure monitoring system 2100 of FIG.20, the blood pressure monitoring system 2200 of FIG.21 includes a gas reservoir 2202, an inflatable cuff 2204, a patient monitor 2206, and a sensor 2226. In addition, the blood pressure monitoring system 2200 includes a gas pathway having a number of gas pathway segments 2210, 2214, 2218 and valves 2212, 2216, 2222 facilitating the movement of gas throughout the system.」
「[0159]・・・図20の血圧監視システム2100と同様に、図21の血圧監視システム2200は、ガスリザーバ2202と、膨張可能なカフ2204と、患者モニタ2206と、センサ2226とを含む。さらに、血圧監視システム2200は、システム全体のガスの移動を容易にする多数のガス経路セグメント2210、2214、2218及び弁2212、2216、2222を有するガス経路を含む。」

(引3イ)
「[0163] By measuring the blood pressure during inflation of the inflatable cuff, the blood pressure monitoring system 2200 can measure the blood pressure in less time and using less pressure.」
「[0163]膨張式カフの膨張中に血圧を測定することによって、血圧監視システム2200 は、より少ない時間で、より少ない圧力を使用して血圧を測定することができる。」

(引3ウ)
「[0164] The gas reservoir 2202 is operatively connected with the inflatable cuff 2204 via the regulator 2208, gas pathway segments 2210, 2214, 2218 and valves 2212, 2216. The gas pathway and gas pathway segments 2210, 2214, 2218 can be made of any air-tight material, such as a plastic tube, metal, cloth, or the like. Gas from the gas reservoir 2202 flows through the gas pathway segments 2210, 2214, 2218 to inflate the inflatable cuff 2204. In an embodiment, the regulator 2208, the gas pathway segments 2210, 2214, 2218 and the valves 2212, 2216, 2222 control the direction and rate of gas flow throughout the blood pressure monitoring system 2200. The regulator 2208, which can also be a valve, located near the opening of the gas reservoir 2202, controls the pressure of the gas exiting the gas reservoir 2202 and along the gas pathway segment 2210. The valve 2212 controls the pressure of the gas exiting gas pathway segment 2210 and along gas pathway segments 2214, 2218 to the inflatable cuff 2204. The regulator 2208 and valve 2212 can be configured as a two-stage pressure regulator and used to maintain an approximately constant pressure of gas entering the inflatable cuff 2204. The approximately constant pressure of gas leads to an approximately constant rate of inflation of the inflatable cuff 2204. The regulator 2208 and valve 2212 can be configured to maintain any number of pressure levels in the gas pathway segments 2210, 2214, 2218. In one embodiment, the regulator 2208 and valve 2212 are configured to maintain a pressure of approximately 6 PSI (pounds per square inch) along the gas pathway segment 2214 and gas pathway segment 2218.」
「[0164]ガスリザーバ2202は、レギュレータ2208、ガス経路セグメント2210、2214、2218、及び弁2212、2216を介して、膨張式カフ2204と動作可能に接続されている。ガス経路及びガス経路セグメント2210、2214、2218は、プラスチックチューブ、金属、布など、任意の気密性の高い材料で作ることができる。ガスリザーバ2202からのガスは、ガス経路セグメント2210、2214、2218を通って流れ、膨張式カフ2204を膨張させる。一実施形態では、レギュレータ2208、ガス経路セグメント2210、2214、2218、及び弁2212、2216、2222は、血圧監視システム2200全体のガスの流れの方向及び速度を制御する。ガスリザーバ2202の開口部付近に配置された、弁でもあるレギュレータ2208は、ガスリザーバ2202から出るガスの圧力を制御し、ガス経路セグメント2210に沿っている。弁2212は、ガス経路セグメント2210を出て、ガス経路セグメント2214、2218に沿って膨張式カフ2204に至るガスの圧力を制御する。レギュレータ2208及び弁2212は、2段の圧力調整器として構成することができ、膨張式カフ2204に入る気体の圧力をほぼ一定に維持するために使用される。ガスのほぼ一定の圧力は、膨張式カフ2204のほぼ一定の膨張速度につながる。レギュレータ2208及び弁2212は、ガス経路セグメント2210、2214、2218において任意の数の圧力レベルを維持するように構成することができる。一実施形態では、レギュレータ2208および弁2212は、ガス経路セグメント2214及びガス経路セグメント2218に沿って、約6PSI(ポンド/平方インチ)の圧力を維持するように構成される。」

(引3エ)図21


(イ)上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「膨張式カフの膨張中に血圧を測定する血圧監視システム2200であって、
ガスリザーバ2202は、レギュレータ2208、ガス経路セグメント2210、2214、2218、及び弁2212、2216を介して、膨張式カフ2204と動作可能に接続され、
弁でもあるレギュレータ2208は、ガス経路セグメント2210に沿って、弁2212は、ガス経路セグメント2210を出て、ガス経路セグメント2214、2218に沿って配置され、
レギュレータ2208及び弁2212は、膨張式カフ2204に入る気体の圧力をほぼ一定に維持するために使用される、
血圧監視システム2200。」

ウ 引用文献4
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、特公平6−85764号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。

(引4ア)第3欄第5行〜第7行
「[産業上の利用分野]
本発明は、電子血圧計などに使用される気体流通弁に関するものである。」

(引4イ)第8欄第45行〜第50行
「以上の構成の気体流通弁のニツプル部52aには二点鎖線図示のホースを介して送気球が接続される一方、ニツプル部52bには二点鎖線図示のホースを介してカフが接続されて、送気球から矢印S方向に送気が行なわれ、カフの減圧時の血圧測定時には矢印E方向に定速排気が行なわれる。」

(引4ウ)第7図


(イ)上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「気体流通弁を使用する電子血圧計であって、
気体流通弁のニツプル部52aには、ホースを介して送気球が接続される一方、ニツプル部52bには、ホースを介してカフが接続されて、送気球から送気が行なわれ、カフの減圧時の血圧測定時には定速排気が行なわれる、
電子血圧計。」

エ 引用文献5

(ア)本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、特開2008−228916号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。

(引5ア)
「【要約】
【課題】カフを人体に巻き付け徐々にカフ圧を上昇させながら血圧測定する方式において、カフ容量が異なる場合であって、カフサイズおよび人体サイズが小さい場合から大きい場合まで、カフ圧を目標の加圧速度で等速加圧でき、その結果、精度のよい測定結果を得られる血圧測定装置を提供する。
【解決手段】ポンプ電圧を制御することでカフ圧を加圧するための流量を制御してカフ圧を等速加圧させる際に、カフサイズおよび人体サイズが小さく上記流量が最小値となるまでポンプ電圧を制御してもカフ圧の加圧速度が目標より速い場合には、カフからコントロール弁または微速排気弁で空気を排出する。目標より遅い場合には、カフからの空気の排出を抑える。このようにして、加圧速度Vで等速加圧するために必要な流量をポンプから吐出される流量Qと一致させる。このため、容量の小さいカフから大きなカフまで等速加圧できる。」

(引5イ)
「【0027】
なお、好ましくは、上記排出手段はコントロール弁を含む。
または、好ましくは、上記排出手段は微速排気弁を含む。より好ましくは、微速排気弁は測定用流体袋の容積が所定値よりも小さい場合に排出手段に含まれ、測定用流体袋および測定用流体袋に接合される管に設置される。」

(引5ウ)
「【0034】
図3を参照して、血圧計1は上記測定用空気袋13を含み、測定用エアー系20に接続されている。測定用エアー系20には、測定用空気袋13の内圧を測定する圧力センサ23、測定用空気袋13に対する給気/排気を行なうポンプ21、およびコントロール弁22が含まれる。
・・・
【0087】
[第2の実施の形態]
図14は、第2の実施の形態にかかる血圧計1の、計測用空気袋13の内圧の加減圧を制御し血圧測定するための機能構成の具体例を示すブロック図である。
【0088】
図14を参照して、第2の実施の形態にかかる血圧計1は、図3に示された第1の実施の形態にかかる血圧計1のコントロール弁22に換えて、測定用エアー系20に急速排気弁31および微速排気弁32を含む。
・・・
【0095】
なお、第2の実施の形態にかかる血圧計1の上記構成は、変形例として、図17に示されるように、微速排気弁32は測定用エアー系20に含まれずに、計測用空気袋13に接続される構成であってもよい。」

(引5エ)図14


(イ)上記(ア)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「カフ13を人体に巻き付け徐々にカフ圧を上昇させながら血圧測定する血圧計1であって、
血圧計1は、カフ13を含み、測定用エアー系20に接続されており、
カフ圧を等速加圧させる際に、カフ圧の加圧速度が目標より速い場合には、カフ13から微速排気弁32で空気を排出するものであり、
微速排気弁32は、測定用エアー系20に含まれる構成でも、カフ13に接続される構成でもよい、
血圧計1。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「加圧中に最高血圧値や最低血圧値の測定を行えるオシロメトリック法を採用した血圧計」は、本件補正発明の「膨張ベースの非侵襲的血圧NIBP測定装置」に相当する。また、引用発明の「加圧装置」は、「カフ1の中に空気を送る」ことで「カフ1」を膨張させる装置であるから、引用発明の「カフ1の中に空気を送る加圧装置」は、本件補正発明の「膨張装置」に相当する。よって、引用発明の「加圧中に最高血圧値や最低血圧値の測定を行えるオシロメトリック法を採用した血圧計における、カフ1の中に空気を送る加圧装置」は、本件補正発明の「膨張ベースの非侵襲的血圧NIBP測定装置で使用される膨張装置」に相当する。

イ 引用発明では、「血圧計」の「カフ1に流路を介して加圧ポンプ3が接続され」ているから、「カフ1」と「流路」との接続箇所が、「血圧計」の「カフ1」に接続される出口といえる。よって、引用発明は、本件補正発明の「前記膨張ベースのNIBP測定装置のカフに結合される出口」に相当する構成を備えているといえる。

ウ 引用発明の「空気」を「送出」する「加圧ポンプ3」は、本件補正発明の「出力流量でガスの流れを出力するポンプ」に相当する。

エ 引用発明の「弁開度を変化させ、その排気量を変化させ」る「徐々排気弁5」は、本件補正発明の「ガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁」に相当する。よって、引用発明の「流路の途中に」「配置され」、「カフ1の中に空気を送って加圧する時に」、「弁開度を変化させ、その排気量を変化させ」る「徐々排気弁5」と、本件補正発明の「前記ポンプ及び前記出口の間の流路に沿って配置され、前記カフの膨張中に前記ポンプにより出力されるガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁」とは、「前記ポンプ及び前記出口の間の流路の途中に配置され、前記カフの膨張中に前記ポンプにより出力されるガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁」である点で共通する。

オ 引用発明の「徐々排気弁5の弁開度を変化させ」、そ「の排気量を制御することにより」、「カフ圧の加圧速度を変化させている」「制御演算部7」は、本件補正発明の「前記弁の流動抵抗を制御し、前記カフを膨張させるのに必要な流量で前記出口にガスの流れを提供する制御ユニット」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「膨張ベースの非侵襲的血圧NIBP測定装置で使用される膨張装置であって、
前記膨張ベースのNIBP測定装置のカフに結合される出口と、
出力流量でガスの流れを出力するポンプと、
前記ポンプ及び前記出口の間の流路の途中に配置され、前記カフの膨張中に前記ポンプにより出力されるガスの流れの一部を大気に選択的に通過させる弁と、
前記弁の流動抵抗を制御し、前記カフを膨張させるのに必要な流量で前記出口にガスの流れを提供する制御ユニットとを有する、膨張装置。」

(相違点)
本件補正発明では、弁が流路に「沿って」、「ポンプより出力されるガスが必ず通過するように」配置されるのに対し、引用発明では、流路の途中にある徐々排気弁5が流路に「沿って」配置されることの特定はなく、また、流路の途中にある徐々排気弁5が「ポンプより出力されるガスが必ず通過するように」配置されることの特定もない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

引用文献3(上記(2)イ(イ)を参照。)には、膨張式カフの膨張中に血圧を測定する際に用いる圧力調整弁(レギュレータ2208及び弁2212)を、ガスリザーバと膨張式カフの間のガス経路セグメントに沿って配置することが記載されているから、この圧力調整弁は、流路に「沿って」、加圧源からのガスが「必ず通過する」ように配置されていることが理解できる。
また、引用文献4(上記(2)ウ(イ)を参照。)には、送気球とカフの間のホースに、排気弁(気体流通弁)を接続することが記載されているから、この排気弁は、流路に「沿って」、加圧源からのガスが「必ず通過する」ように配置されていることが理解できる。
そして、引用文献5(上記(2)エ(イ)を参照。)には、カフ圧を上昇させながら血圧測定する際に用いる微速排気弁32は、測定用エアー系20に含まれる構成でも、カフ13に接続される構成でもよい、と記載されているから、微速排気弁32をどこに配置にするかは、カフの減圧効果が達成される限りにおいて、当業者が適宜なし得ることといえる。
してみると、引用発明において、流路の途中にある「徐々排気弁5」をどこに配置にするかは、引用文献5によれば、カフの減圧効果が達成される限りにおいて、当業者が適宜なし得ることといえる。
加えて、引用発明の「徐々排気弁5」は、「排気量を制御することにより」、「カフ圧の加圧速度を変化させている」圧力調整する排気弁であり、引用文献3の「圧力調整弁」にも引用文献4の「排気弁」にも属することから、引用発明の、圧力調整する排気弁である「徐々排気弁5」の配置について、流路に「沿って」加圧源からのガスが「必ず通過する」引用文献3、4における「圧力調整弁」や「排気弁」の配置を参考にして、引用発明において、「徐々排気弁5」を流路に「沿って」、加圧ポンプ3からの空気が「必ず通過する」ように配置することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、3〜5の記載から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(5)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、
「(c)引用例の説明及び本願発明との対比
これに対し、引用文献1の排気弁5は、同文献の図1から明らかであるとおり、加圧ポンプ3とカフ1との間に配置されたものではなく、本願請求項1の「弁」のように、「ポンプより出力されるガスが必ず通過するように配置された」ものには該当し得ない。引用文献1の排気弁5はあくまで、ポンプとカフとの間の分岐に結合されたものに過ぎない。
本願発明においては、本願図3からも明らかであるように、ポンプから送られるガスは、必ず弁130を通過する。一方の引用文献1においては、加圧ポンプから送られるガスは、排気弁5を全く通らない。例えば、排気弁5を完全に閉めれば、ガスは排気弁5を通過せずにカフ1へと送られることとなる。この相違をみれば、本願発明と引用文献1との構成の違いは明らかである。
斯かる引用文献1の構成においては、ガスを適切に制御するために、弁の開閉等を大きくしなくてはならないといった欠点があり、更には、必要な部品の数が多く、故障のリスクが高いといった欠点や、完成後の装置自体が嵩張るといった欠点もある。」と主張している。
上記主張について検討する。
請求人は、引用文献1の図1から、引用文献1の徐々排気弁5は、ポンプとカフとの間の分岐に結合されたものと主張するが、上記(引1ウ)のとおり、図1は血圧計のブロック図にすぎないから、図1から引用文献1の徐々排気弁5は、ポンプとカフとの間の流路から分岐された位置に配置されたものと認定していない。仮に、引用文献1の徐々排気弁5がそのように分岐された位置に配置されたものであったとしても、分岐された位置に配置された徐々排気弁5を、上記(4)での検討のとおり、「徐々排気弁5」を流路に「沿って」、加圧ポンプ3からの空気が「必ず通過する」ように配置することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
令和3年7月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2002−34938号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「弁」の配置に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福島 浩司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-16 
結審通知日 2022-03-17 
審決日 2022-03-30 
出願番号 P2020-513343
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
発明の名称 膨張ベースの非侵襲的血圧モニター用の膨張装置及びその作動方法  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

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