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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1388034
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-02 
確定日 2022-08-04 
事件の表示 特願2017−123663号「画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月17日出願公開、特開2019−8135号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月23日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年12月 2日付け:拒絶理由通知書
令和3年 1月21日:意見書、手続補正書の提出
令和3年 6月 3日付け:拒絶査定(謄本発送 同年6月8日)
令和3年 8月 2日:審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和3年8月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年8月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
レーザ光を出射する光源と、
前記レーザ光で2次元に走査されることにより画像が描画されるスクリーンと、
前記レーザ光が入射するミラーを互いに垂直な2つの回動軸について個別に回動させることにより前記レーザ光を前記スクリーンに対し走査させる走査部と、
所定間隔の複数の走査ラインに沿って前記レーザ光が前記スクリーン上を移動するよう前記走査部を駆動する駆動部と、
前記スクリーンに描画された画像の虚像を生成する光学系と、を備え、
前記スクリーンに対して前記レーザ光を主走査方向に走査させる前記ミラーの前記回動軸が前記スクリーンに対して非平行に設定され、
前記走査ラインは、前記スクリーンに対する前記レーザ光の前記主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪んでおり、
前記スクリーンには、互いに異なる2方向にそれぞれ並ぶように複数のレンズ領域が配置され、
前記レンズ領域の一方の列が、前記主走査方向に対して所定の傾き角だけ相対的に傾いている、
ことを特徴とする画像表示装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年1月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
レーザ光を出射する光源と、
前記レーザ光で2次元に走査されることにより画像が描画されるスクリーンと、
前記レーザ光を前記スクリーンに対し走査させる走査部と、
所定間隔の複数の走査ラインに沿って前記レーザ光が前記スクリーン上を移動するよう前記走査部を駆動する駆動部と、
前記スクリーンに描画された画像の虚像を生成する光学系と、を備え、
前記走査ラインは、前記スクリーンに対する前記レーザ光の主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪んでおり、
前記スクリーンには、互いに異なる2方向にそれぞれ並ぶように複数のレンズ領域が配置され、
前記レンズ領域の一方の列が、前記主走査方向に対して所定の傾き角だけ相対的に傾いている、
ことを特徴とする画像表示装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明における「前記レーザ光を前記スクリーンに対し走査させる走査部」に関して、「前記レーザ光が入射するミラーを互いに垂直な2つの回動軸について個別に回動させることにより」との限定を付加するとともに、当該「回動軸」に関して、さらに、「前記スクリーンに対して前記レーザ光を主走査方向に走査させる前記ミラーの前記回動軸が前記スクリーンに対して非平行に設定され」るとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
(2−1)引用文献1について
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2017−97171号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関し、たとえばハーフミラー等を介して虚像を表示させる形態に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス表面での表面反射(或いはハーフミラー)と自由曲面ミラーなどとを組み合わせた虚像光学系により、空間上に映像を表示させる画像表示装置の開発が進んできている。
【0003】
特に乗用車等の移動体に搭載されているヘッドアップディスプレイと称される画像表示装置への応用が期待されている。たとえば、乗用車に搭載されるヘッドアップディスプレイでは、画像情報により変調された光がウインドシールド(フロントガラス)に向けて投射され、その反射光が運転者の目に照射される。これにより、運転者は、ウインドシールドの前方に、画像の虚像を見ることができる。・・・」

(イ)「【0022】
図1は、本発明の実施の形態における画像表示装置120の使用形態を模式的に示す図である。図1(a)は、車両101の側方から車両101の内部を透視した模式図、図1(b)は、車両101の内部から走行方向前方を見た図である。図1(c)は、画像表示装置120の内部構成を示す図である。なお、本実施の形態は、車載用のヘッドアップディスプレイに本発明を適用したものである。
【0023】
図1(a)に示すように、画像表示装置120は、車両101のダッシュボード111の内部に設置される。
【0024】
図1(a)、(b)に示すように、画像表示装置120は、映像信号により変調されたレーザ光を、ウインドシールド112の下側の運転席寄りに配置された投射領域113に投射する。レーザ光は、投射領域113で反射され、運転者102の目の位置周辺の横長の領域(アイボックス領域)に照射される。これにより、運転者102の前方の視界に、虚像として所定の画像130が表示される。運転者102は、ウインドシールド112の前方の景色上に、虚像である画像130を重ね合わせて見ることができる。すなわち、画像表示装置120は、虚像である画像130をウインドシールド112の投射領域113の前方の空間に結像させる。
【0025】
図1(c)に示すように、画像表示装置120は、走査光学モジュール121と、虚像光学系122と、スクリーン123と、スクリーン入射角補正光学系としてテレセントリックf-θレンズ(以下、f-θレンズ124と記す)とを備える。走査光学モジュール121は、赤色、青色、緑色を発するレーザ光源としてレーザ光源125a,レーザ光源125b,レーザ光源125cを有し、映像信号により変調されたレーザ光が出射される。各レーザ光源から発せられたレーザ光は、合波ミラー126a,合波ミラー126b,合波ミラー126cを介して、同軸なレーザビームとして成形され、走査ミラー127へ照射される。
【0026】
その後、レーザビームは、走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査される。走査ミラーは、20kHz程度の共振周波数で往復運動する軸(便宜的に高速軸と呼ぶ)と、画像のフレームレート(実施例の場合60Hz)で往復運動する軸(便宜的に低速軸と呼ぶ)の二つの回転軸を有している。
【0027】
以後、本実施の形態において高速軸に沿った方向をx軸、低速軸に沿った方向をy軸として説明を進める。なお、本実施の形態におけるx軸は第1走査の走査方向に相当し、y軸は第2走査の走査方向に相当する。また、x軸はy軸に直交し、x軸方向の走査速度はy軸方向の走査速度よりも速い。
【0028】
虚像光学系122は、曲面状の反射面122aと、平面状の反射面122bとを有する。走査光学モジュール121から出射されたレーザ光は、f-θレンズ124、スクリーン123を経由して、虚像光学系122でウインドシールド112に向けて反射される。ウインドシールド112で反射されたレーザ光は、運転者102の目102aに照射される。走査光学モジュール121の光学系と虚像光学系122は、ウインドシールド112の前方に虚像による画像130が所定の大きさで表示されるように設定されている。」

(ウ)「【0080】
図10は、本発明の実施の形態におけるスクリーンの構成図であり、スクリーン123をクロスレンチキュラー構成で形成したものである。図10(a)は、クロスレンチキュラー構成のスクリーンを示す図である。図10(c)は、クロスレンチキュラースクリーン1000を拡大した図である。
【0081】
クロスレンチキュラー構成で形成されたクロスレンチキュラースクリーン1000は、そのスクリーン表面1001がレンズ構造を有するだけでなく、スクリーン裏面1002にもレンズ構造を有する。クロスレンチキュラースクリーン1000は、それぞれx軸方向にPx、y軸方向にPyのピッチを有する。ここで、x軸は高速軸に平行な軸であり、y軸は低速軸に平行な軸である。y軸方向のレンズピッチPyについては、レーザビームのビーム直径(D)との間にスペックルノイズに関する相関は見られないため、レンズピッチの下限側が拡大され、以下の範囲でなめらかな映像となることが確認できた。
【0082】
【数3】


【0083】
なお、この式が適用可能な虚像光学系122の光学倍率は4≦A≦30の範囲である。
【0084】
PxとPyの周期を持つマイクロレンズアレイにしても、同様の効果が得られるが、画面内の輝度ムラを抑制するために2枚重ねにする必要がある。輝度ムラ抑制の効果を得るには、それぞれのマイクロレンズアレイの間隔を合わせ込む必要があるため製造が難しく、表示がぼけてしまう場合があるという欠点があるため、クロスレンチキュラー構成の方が適している。・・・
【0092】
外光による明所コントラスト低下を抑制する対策として、先行例で提案されているマイクロレンズアレイとアパーチャーアレイとを組み合わせて使用した場合、マイクロレンズアレイとアパーチャーアレイとの間隔調整の精度が必要となる。マイクロレンズアレイとアパーチャーアレイの組み合わせは、干渉パターンが発生する原因となっていたため、本実施の形態のようにレンチキュラーレンズと直交する形に配置することで、コントラストを向上させながら、干渉縞、ギラツキ等を抑えた映像表示が可能になる。」

(エ)図1及び図10は次のものである。



(オ)上記(イ)の「その後、レーザビームは、走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査される。走査ミラーは、20kHz程度の共振周波数で往復運動する軸(便宜的に高速軸と呼ぶ)と、画像のフレームレート(実施例の場合60Hz)で往復運動する軸(便宜的に低速軸と呼ぶ)の二つの回転軸を有している。」(【0026】)及び「以後、本実施の形態において高速軸に沿った方向をx軸、低速軸に沿った方向をy軸として説明を進める。なお、本実施の形態におけるx軸は第1走査の走査方向に相当し、y軸は第2走査の走査方向に相当する。また、x軸はy軸に直交し、x軸方向の走査速度はy軸方向の走査速度よりも速い。」(【0027】)との記載によれば、レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであるといえる。

イ 上記アから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、認定の根拠となる記載等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。
「走査光学モジュール121と、虚像光学系122と、スクリーン123と、f-θレンズ124とを備える画像表示装置120であって、(【0025】)
前記走査光学モジュール121は、赤色、青色、緑色を発するレーザ光源としてレーザ光源125a,レーザ光源125b,レーザ光源125cを有し、(【0025】)
各レーザ光源から発せられたレーザ光は、合波ミラー126a,合波ミラー126b,合波ミラー126cを介して、同軸なレーザビームとして成形され、走査ミラー127へ照射され、(【0025】)
前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであり、(上記ア(オ))
前記虚像光学系122は、曲面状の反射面122aと、平面状の反射面122bとを有し、前記走査光学モジュール121から出射されたレーザ光は、f-θレンズ124、スクリーン123を経由して、虚像光学系122でウインドシールド112に向けて反射され、(【0028】)
前記スクリーン123をクロスレンチキュラー構成で形成したものであって、(【0080】)、前記クロスレンチキュラー構成で形成されたクロスレンチキュラースクリーンは、そのスクリーン表面がレンズ構造を有するだけでなく、スクリーン裏面にもレンズ構造を有し、それぞれx軸方向にPx、y軸方向にPyのピッチを有する、(【0081】)
車載用のヘッドアップディスプレイである(【0003】、【0022】)画像表示装置120。(【0001】)」

(2−2)引用文献2について
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平6−202233号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本願の発明は、画像をスクリーンへ投射して表示するプロジェクションテレビに用いられるスクリーンに関するものである。」
「【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1のプロジェクションテレビ用スクリーンは、表示すべき画像の走査線の方向に対して夫々のレンチキュラレンズの延在方向が垂直及び平行の状態で重畳されている2枚のレンチキュラレンズスクリーン14、23を具備しており、少なくとも一方の前記レンチキュラレンズスクリーン14、23には光拡散剤21が混入されていない。」
「【0034】図3、4が、第4実施例を示している。この第4実施例は、図3に示す様に、縦ストライプのレンチキュラレンズスクリーン14と横ストライプのレンチキュラレンズスクリーン23とのストライプ方向が互いに直交している状態で、双方のレンチキュラレンズスクリーン14、23が画像の走査線の方向に対して45°だけ回転していることを除いて、図9に示した従来例と実質的に同様の構成を有している。
【0035】この様な第4実施例では、図4(a)に示す様に、レンチキュラレンズスクリーン14、23のストライプのピッチをP1とすると、図2(b)に示す様に、画像の垂直方向におけるストライプのピッチP2 はP1 /21/2と狭くなる。このため、レンチキュラレンズと画像の走査線との間のモアレの周波数が、図9に示した従来例よりもこの第4実施例の方が高く、モアレが目立ちにくい。」

イ 上記アから、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「画像をスクリーンへ投射して表示するプロジェクションテレビに用いられるスクリーンは(【0001】)は、縦ストライプのレンチキュラレンズスクリーンと横ストライプのレンチキュラレンズスクリーンとのストライプ方向が互いに直交している状態で、双方のレンチキュラレンズスクリーンが画像の走査線の方向に対して45°だけ回転している(【0034】)と、表示すべき画像の走査線の方向に対して夫々のレンチキュラレンズの延在方向が垂直及び平行の状態で重畳されている2枚のレンチキュラレンズスクリーンを具備している(【0011】)従来例よりも、モアレが目立ちにくくなる(【0035】)こと。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「赤色、青色、緑色を発するレーザ光源としてレーザ光源125a,レーザ光源125b,レーザ光源125」は、本件補正発明の「レーザ光を出射する光源」に相当する。

(イ)引用発明の「スクリーン123」は、「前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」るから、本件補正発明の「前記レーザ光で2次元に走査されることにより画像が描画されるスクリーン」に相当する。

(ウ)引用発明の「レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」る「走査ミラー127」は、本件補正発明の「前記レーザ光が入射するミラーを互いに垂直な2つの回動軸について個別に回動させることにより前記レーザ光を前記スクリーンに対し走査させる走査部」に相当する。

(エ)引用発明の「前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」る「走査ミラー127」が、当該「走査ミラー127」を駆動する駆動部を備えることは明らかである。
したがって、引用発明の「走査ミラー127」を駆動する駆動部を備えることが明らかである「前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」る「走査ミラー127」は、本件補正発明の「所定間隔の複数の走査ラインに沿って前記レーザ光が前記スクリーン上を移動するよう前記走査部を駆動する駆動部」に相当する。

(オ)引用発明の「曲面状の反射面122aと、平面状の反射面122bとを有し、前記走査光学モジュール121から出射されたレーザ光は、f-θレンズ124、スクリーン123を経由して、虚像光学系122でウインドシールド112に向けて反射され」る「虚像光学系122」は、本件補正発明の「前記スクリーンに描画された画像の虚像を生成する光学系」に相当する。

(カ)引用発明の「前記スクリーン123をクロスレンチキュラー構成で形成したものであって、前記クロスレンチキュラー構成で形成されたクロスレンチキュラースクリーンは、そのスクリーン表面がレンズ構造を有するだけでなく、スクリーン裏面にもレンズ構造を有し、それぞれx軸方向にPx、y軸方向にPyのピッチを有する」ことは、本件補正発明の「前記スクリーンには、互いに異なる2方向にそれぞれ並ぶように複数のレンズ領域が配置され」ることに相当する。

(キ)引用発明の「画像表示装置120」は、本件補正発明の「画像表示装置」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「レーザ光を出射する光源と、
前記レーザ光で2次元に走査されることにより画像が描画されるスクリーンと、
前記レーザ光が入射するミラーを互いに垂直な2つの回動軸について個別に回動させることにより前記レーザ光を前記スクリーンに対し走査させる走査部と、
所定間隔の複数の走査ラインに沿って前記レーザ光が前記スクリーン上を移動するよう前記走査部を駆動する駆動部と、
前記スクリーンに描画された画像の虚像を生成する光学系と、を備え、
前記スクリーンには、互いに異なる2方向にそれぞれ並ぶように複数のレンズ領域が配置されている、
画像表示装置。」

【相違点】
(相違点1)
本件補正発明は、「前記スクリーンに対して前記レーザ光を主走査方向に走査させる前記ミラーの前記回動軸が前記スクリーンに対して非平行に設定され、前記走査ラインは、前記スクリーンに対する前記レーザ光の前記主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪んで」いると特定されるのに対して、引用発明はこのように特定されない点。

(相違点2)
本件補正発明は、「前記レンズ領域の一方の列が、前記主走査方向に対して所定の傾き角だけ相対的に傾いている」と特定されるのに対して、引用発明はこのように特定されない点。

(4)判断
以下、各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」る「走査ミラー127」は、スクリーン123に対してレーザ光を第1走査の走査方向(x軸方向)に走査させる走査ミラー127の回動軸が前記スクリーン123に対して非平行に設定されているとはいえないが、車載用のヘッドアップディスプレイである引用発明1の画像表示装置120においては、配置する車内の場所の大きさが限られるため、光学系をコンパクトにする必要があることは周知の技術課題であったといえる。そして、光路を変更するミラーの配置等を工夫して、光学系をコンパクトにすることは、当業者が当然配慮する事項である。
したがって、車載用のヘッドアップディスプレイである引用発明1の画像表示装置120において、走査ミラー127の回転軸を「非平行」となすことは、当業者が適宜選択可能な設計上の事項であると認められる。
さらに、後記オのとおり、走査ミラーの回転軸が傾くと、主走査方向の主走査ラインは、スクリーンに対して、湾曲し、始端と終端が一方向にシフトするように歪むことは周知の技術事項であったから、引用発明の「走査ミラー127」が、「第1走査の走査方向であるx軸」ないし「当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸」の「二つの回転軸」の少なくとも一方の軸に関しては、走査するにしたがって「走査ミラー127」の回転軸を傾けていくことにより、主走査方向の主走査ラインは、スクリーン123に対するレーザビームの前記主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪むこととなることも周知の技術事項にすぎない。
したがって、引用発明の「前記レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査されるものであ」る「走査ミラー127」は、「第1走査の走査方向であるx軸」ないし「当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸」の「二つの回転軸」の少なくとも一方の軸に関しては、走査するにしたがって「走査ミラー127」の回転軸を傾けていくこととなるものであり、かつ、引用発明の「走査ミラー127」が、「第1走査の走査方向であるx軸」ないし「当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸」の「二つの回転軸」の少なくとも一方の軸に関して、走査するにしたがって「走査ミラー127」の回転軸を傾けていくことにより、主走査方向の主走査ラインは、スクリーン123に対するレーザビームの前記主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪むこととなるから、引用発明は、実質的に「前記スクリーンに対して前記レーザ光を主走査方向に走査させる前記ミラーの前記回動軸が前記スクリーンに対して非平行に設定され、前記走査ラインは、前記スクリーンに対する前記レーザ光の前記主走査方向に対して、始端と終端が一方向にシフトするように歪んで」いる構成を備えているといえる。
そうすると、相違点1は実質的な相違であるとはいえない。

イ 相違点2について
引用文献2には「画像をスクリーンへ投射して表示するプロジェクションテレビに用いられるスクリーンは、縦ストライプのレンチキュラレンズスクリーンと横ストライプのレンチキュラレンズスクリーンとのストライプ方向が互いに直交している状態で、双方のレンチキュラレンズスクリーンが画像の走査線の方向に対して45°だけ回転していると、表示すべき画像の走査線の方向に対して夫々のレンチキュラレンズの延在方向が垂直及び平行の状態で重畳されている2枚のレンチキュラレンズスクリーンを具備している従来例よりも、モアレが目立ちにくくなること」が記載されている。ここで、引用文献2に記載されたプロジェクションテレビは、陰極線管11の内側で、陰極線管の表示面に走査される電子線が蛍光物質に衝突することにより得られる光が、陰極線管の外側に放出されることにより画像が表示され、表示された画像をスクリーンに投影するものであり、引用文献2に記載された事項における「画像の走査線」とは、スクリーン上を光が走査する際の軌跡である。
そして、引用発明は「レーザビームは、第1走査の走査方向であるx軸と、当該x軸に直交する第2走査の走査方向であるy軸の二つの回転軸を有する走査ミラー127でf-θレンズ124を介してスクリーン123上を走査」することによりスクリーン上に画像を形成しており、「前記スクリーン123をクロスレンチキュラー構成で形成したものであって、前記クロスレンチキュラー構成で形成されたクロスレンチキュラースクリーンは、そのスクリーン表面がレンズ構造を有するだけでなく、スクリーン裏面にもレンズ構造を有し、それぞれx軸方向にPx、y軸方向にPyのピッチを有する」ものであるから、レーザビームがスクリーン123上を走査する際の軌跡である走査線と、一方のレンチキュラーレンズの配列方向が平行であり、モアレが生じうるという課題を有するものであるといえる。
そうすると、引用発明には、上記の課題を解決するべく、引用文献2に記載された技術事項を適用する動機があるといえ、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用して、クロスレンチキュラー構成で形成したスクリーン123のスクリーン表面のレンズ構造及びスクリーン裏面のレンズ構造が主走査方向に対して45°だけ回転させる構成となし、上記相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 周知文献
(ア)周知文献1:特開2008−65337号公報
「本発明は、カバーガラスの表面に付着している塵埃等を確実に除去することができる構成とした、光走査装置のカバーガラス清掃機構に関するものである。」
「【0044】
図3は、偏向反射面11で1回目の反射を行った光ビームa1の走査線軌跡b’の湾曲を説明するための図である。入射光ビームa0が偏向反射面11の回転面(回転軸12に垂直な面)に平行でない場合に、偏向反射面11で反射された光ビームa1の走査線軌跡b’は、図3に示すように湾曲する。図3において、走査線軌跡b’の湾曲量δは入射平面内にある光ビームa1に垂直な面内での湾曲のない走査線軌跡b”からのずれ量で定義される。なお、走査線bと走査線軌跡b’、b”の違いは、走査光学系23を経て被走査面24上に集光された走査線軌跡が走査線bとなるもので、偏向反射面11から被走査面24に至る任意の位置での射出光ビームa4の軌跡が走査線軌跡である。」
・図3は次のものである。


(イ)周知文献2:特開平1−306813号公報
「〔産業上の利用分野〕
本発明はレーザビームを用いたレーザ記録、レーザ画像読み取り、レーザ加工、レーザ表面検査装置等に使用される光走査装置に関し、特にその走査光の湾曲歪を補正する装置に関する。」(2頁左上欄1〜5行)
「一般的に、偏向ミラーMの回転軸線Oに対し光ビームを垂直に入射すると、第1図(1)に示す如く、その偏向ビームの軌跡B0は投影面Sで観察した場合直線となる。他方、ミラー回転軸線Oに対し斜め方向からビームを入射すると、偏向ビームの軌跡B0は光路長が同一とならなくなるために第1図(2)、(3)に示す如く弧状に湾曲するという現象が見られる。第1図(2)は斜め上方から入射した場合、同図(3)は斜め下方から入射した場合を夫々示す。湾曲度はビーム入射角に左右される。」(2頁右下欄最下行から3頁左上欄10行)
・第1図は次のものである。


(ウ)周知文献3:特開平10−206782号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はレーザビームプリンタ等に用いられる光走査装置に係り、特に走査器の回転軸に垂直な走査面に対して角度を有して光ビームを入射させる光走査装置において、走査面で偏向されたれ光ビームが湾曲し、光ビームが回転してビームスポットが崩れるので、これを補正するように構成した光走査装置に関するものである。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば、走査ミラーの回転軸が傾くと、主走査方向の主走査ラインは、スクリーンに対して、湾曲し、始端と終端が一方向にシフトするように歪むことは従来周知の技術事項であったといえる。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年8月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年2月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1〜4に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

引用文献1:特開2017−97171号公報
引用文献2:特開平6−202233号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記レーザ光が入射するミラーを互いに垂直な2つの回動軸について個別に回動させることにより」との限定、及び、「前記スクリーンに対して前記レーザ光を主走査方向に走査させる前記ミラーの前記回動軸が前記スクリーンに対して非平行に設定され」るとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-05-23 
結審通知日 2022-06-07 
審決日 2022-06-20 
出願番号 P2017-123663
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
加々美 一恵
発明の名称 画像表示装置  
代理人 芝野 正雅  

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