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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1388048
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-10 
確定日 2022-08-08 
事件の表示 特願2019−557692「射出成形シールリングおよびそれらを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 2日国際公開、WO2018/138575、令和 2年 2月 6日国内公表、特表2020−504277〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願は、2018年(平成30年)1月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年1月10日(以下、「優先日」という。) US(アメリカ合衆国))に国際出願されたものであって、令和2年9月2日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月18日に意見書が提出されたが、令和3年4月2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して同年8月10日に審判請求書が提出されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年8月10日にした手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年8月10日にした手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正の内容
補正前の特許請求の範囲の請求項1は、本件補正により、補正後の請求項1となった。補正前の請求項1及び補正後の請求項1は以下のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。

ア 補正前の請求項1
「【請求項1】
第1の端部と前記第1の端部と係合可能な第2の端部との間に延在する円形リング本体を備える射出成形シールリングにおいて、前記円形リング本体が、
内周面と、
第1の横方向端縁および対向する第2の横方向端縁を有する前記内周面に対向する外周面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に延在する第1の側面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に配置された、前記第1の側面と対向する第2の側面と、
前記外周面に形成され、前記外周面の前記第1の横方向端縁および前記第2の横方向端縁の両方までには延在していない凹部と、
前記凹部に配置され、前記外周面を越えて延在していない射出成形ゲート痕とを備える、射出成形シールリング。」

イ 補正後の請求項1
「【請求項1】
第1の端部と前記第1の端部と係合可能な第2の端部との間に延在する円形リング本体を備える射出成形シールリングにおいて、前記円形リング本体が、
内周面と、
第1の横方向端縁および対向する第2の横方向端縁を有する前記内周面に対向し、シール面である外周面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に延在する第1の側面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に配置された、前記第1の側面と対向する第2の側面と、
前記外周面に形成され、前記外周面の前記第1の横方向端縁および前記第2の横方向端縁の両方までには延在していない凹部と、
前記凹部に配置され、前記外周面を越えて延在していない、突出している射出成形ゲート痕と、を備え、
前記シールリングは、2mm〜20mmの範囲の前記第1の側面から前記第2の側面までの幅を有し、
前記凹部と前記外周面の前記第2の横方向端縁との間の前記横方向距離が、少なくとも1mmであり、
前記射出成形ゲート痕が、前記外周面のレベルの0.2mm以内まで延在していない、射出成形シールリング。」

(2)本件補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項に関して、
「外周面」を、「シール面である外周面」に特定し、
「射出成形ゲート痕」を「突出している射出成形ゲート痕」に特定し、
「シールリング」を「2mm〜20mmの範囲の前記第1の側面から前記第2の側面までの幅を有し、
前記凹部と前記外周面の前記第2の横方向端縁との間の前記横方向距離が、少なくとも1mmであり、
前記射出成形ゲート痕が、前記外周面のレベルの0.2mm以内まで延在していない」ものに特定するものである。

上記の補正の内容について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、
「シールリングの外周面は、シャフトおよびシールリングが配置されているハウジングに対してシールする。」(段落【0004】)、
「当業者には理解されるように、射出成形ゲート痕は、射出成形プロセスの結果として射出成形ゲートの部位の部分に残った隆起、粗さ、または他のマークである。」(段落【0024】)、
「本明細書に別途記載されるシールリングの特定の実施形態では、その第1の側面から第2の側面までのシールリングの幅は(省略)または2〜20mm(省略)である。」(段落【0033】)、
「凹部と外周面の第2の横方向端縁との間の横方向距離は、少なくとも0.2mm、例えば少なくとも0.5mm、さらには少なくとも1.0mmである。」(段落【0026】)及び
「射出成形ゲート痕は、外周面のレベルの0.2mm以内、さらには0.5mm以内までは延在していない。」(段落【0030】)と記載されているから、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

また、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項を、補正後の請求項1において、さらに限定することを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含む。

上記のとおり、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものを含むから、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件について
(1)本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記1(1)イに記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載された事項及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平9−42455号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(ア)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、シールリング製造方法、例えば、AT車のオートマティックトランスミッション等の油圧制御を必要とする部分のシールに使用されるシールリングの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に、図1に示すような円周上の1か所にカット部2を有するシールリング1を成形する場合には、図2に示すように、ゲート3から成形型4Aのキャビティ4a内に溶融した成形材料を高圧力で圧入し、冷却又は加熱して硬化させる射出成形により製造する。」

(イ)「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明にあっては、成形型のキャビティ内に成形材料をゲートから注入して、円周上の一か所にカット部を有するシールリングを製造するシールリング製造方法において、前記シールリングの前記カット部を拡張した場合に応力の集中するカット部対向部に対応する成形型のカット部対向部以外に前記ゲートを設けたことを特徴とする。」

(ウ)「【0012】(第1の実施の形態)本発明の第1の実施の形態として、PEEKをベースとした成形材料によって成形する場合を以下に説明する。」

(エ)「【0017】そこで、図6、図7のようにゲート3をカット部12及びカット部対向部15を除いた位置に設けている。ここで、図7のカット部近傍の概略構造は図4(b)と同様である。」

(オ)「【0021】図6に示す成形型4Eで成形する場合のゲート位置の設定方法について、図8に示すように52mmの外径を有するシールリング6を例にとって説明する。
【0022】図8のシールリング6について、図6の成形型4Eでカット部12に対するゲート3の位置を90°、135°、180°と変化させた場合のカット部の許容拡張量l(図9)の変化を示すグラフが図10である。図10のグラフからみるとカット部許容拡張量に急激な変化は見られないが、カット部対向部(180°)にゲートを設けた場合よりも、ゲートをカット部対向部からずらした場合の方がカット部の許容拡張量が大きくなっており、強度が向上していることがわかる。
【0023】但し、この場合、上述したように、ゲート3の位置をカット部対向部15から離しすぎると流動長のバランスが悪くなり、充填不良が生じやすくなるため、カット部と135°程度の角度をなす位置にゲート3を設定することが望ましい。図7の成形型4Fで成形する場合も、カット部を拡張した場合にカット部対向部に応力が集中することは同様であるので、上記の方法でゲート位置を設定することができる。」

(カ)【図4】

(キ)【図7】

(ク)【図8】

(ケ)上記記載事項(エ)の「ここで、図7のカット部近傍の概略構造は図4(b)と同様である。」との記載並びに【図4】(b)、【図7】及び【図8】から、【図7】に係る成形型4Fでの射出成形により製造されたシールリング6は、カット部2の一方側の端と他方側の端が、外周側において凹凸が相互にかみあい、軸方向中央付近の平坦面で接触可能な形状を有しており、シールリング6の外周側の円筒面に、ゲート部3を除去した箇所が形成されることが見て取れる。

(コ)【図8】(a)及び(b)から、シールリング6は、カット部2の一方側の端と他方側の端との間のリング状の部分に、
内周側の円筒面と、前記内周側の円筒面に対向する外周側の円筒面と、一方の平面状の側面と、前記一方の平面状の側面と対向する他方の平面状の側面とを有し、
前記外周側の円筒面は、一方の平面状の側面側の縁および前記一方の平面状の側面側の縁に対向する他方の平面状の側面側の縁を有し、
一方の平面状の側面及び他方の平面状の側面は、前記内周側の円筒面と前記外周側の円筒面との間に配置されることが見て取れる。

(サ)段落【0021】において、「図8に示すように52mmの外径を有するシールリング6を例にとって説明する。」と記載されていることから、【図8】(b)の数値の単位は「mm」であることが理解でき、【図8】(b)の寸法線及び「2.3」という数値から、シールリング6の一方の平面状の側面から他方の平面状の側面までの幅が2.3mmであることが見て取れる。

イ 引用発明
上記アの記載事項(ア)〜(ク)及び図示内容(ケ)〜(サ)を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

[引用発明]
「カット部2の一方側の端及び前記一方側の端と外周側において凹凸が相互にかみあい、軸方向中央付近の平坦面で接触可能なカット部2の他方側の端との間に形成されるリング状の部分を有する、射出成形により製造されたシールリング6において、前記円周状の部分が、
内周側の円筒面と、
一方の平面状の側面側の縁および前記一方の平面状の側面側の縁に対向する他方の平面状の側面側の縁を有する前記内周側の円筒面に対向する外周側の円筒面と、
前記内周側の円筒面と前記対向する外周側の円筒面との間に配置される一方の平面状の側面と、
前記内周側の円筒面と前記対向する外周側の円筒面との間に配置される、前記一方の平面状の側面と対向する他方の平面状の側面と、
前記外周側の円筒面に形成されるゲート部3を除去した箇所を備え、
前記シールリング6は、2.3mmの前記一方の平面状の側面から前記他方の平面状の側面までの幅を有する、射出成形により製造されたシールリング6。」

ウ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭59−77921号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「そして、このゲート残余部7aは最終的にハサミ等によりカツトされるものの、そのカツト状態のばらつきにより製品の一部までもカツトしてしまつたり、あるいはゲート残余部7aが部分的に残つてしまつて切り残し部7bが存在すると(第2図)、それによつてシール性能が低下して水洩れ誘発の原因になるという問題がある。」(第2ページ左上欄第11行〜右上欄第3行)

(イ)「しかも、ゲート残余部7aをカツトする際に第8図に示すように切り残し部7bが発生したとしても、前記の狭窄部9が凹陥部8の深さh範囲内に収まるように設定されていることから、切り残し部7bの頂部がクツシヨンリツプ6の外表面より突出するようなことはなく、たとえ若干の切り残し部7bが存在したとしてもこれがウエザーストリツプ本来のシール性能に何ら影響を及ぼすものではない。」(第3ページ左上欄第4〜12行)

(ウ)「加えて本発明によれば、ゲート残余部のカツトにあたつて若干の切り残しがあつたとしても、狭窄部そのものが窪んだ凹陥部内に収まるように設定されているために前記の切り残し部がクツシヨンリツプの外表面より突出するようなことはなく、それによつてゲート残余部の切り残しを原因とするシール不良ひいては水洩れを未然に防止できる効果がある。」(第3ページ右上欄第7〜14行)

(エ)第8図


エ 引用文献4の記載事項
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、実願平3―105075号(実開平5−52359号)のCD−ROM(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0008】
このため、パッキンの焼付け後に金型を型開きして製品を取り出した際に、ゲートに残る溶融ゴムが切れて図8に示すように、パッキン16のシール面20にバリ21が残り、そのバリ21のため、シール面20の全体が外輪11の側面に密着せず、シールの信頼性に問題があった。」

「【0018】
この考案においては、切欠部18の底面22をゲートの対向面としているため、図4(a)、(b)で示すように、底面22にバリ21が残る。
【0019】
このため、図1に示すカバー14の組立て時、バリ21がシール性を阻害することはなく、パッキン16によってカバー14と外輪11の対向面間を良好にシールすることができる。
【0020】
図4(a)、(b)では、パッキン16のシール面20の内径部に切欠部22を形成したが、図5(a)に示すように、シール面20の幅方向中央部に切欠部18を形成してもよく、あるいは図5(b)で示すように、シール面20の外径部に設けてもよい。」

(ウ)【図4】

(エ)【図5】


オ 引用文献3に記載された技術
引用文献3には、ゲート残余部7aをカットした切り残し部7bについて、「狭窄部そのものが窪んだ凹陥部内に収まる」構成によって「シール性能に何ら影響を及ぼすものではない」ことが記載されているから、引用文献3に記載された凹陥部8の構成も、「シール性能に何ら影響を及ぼすものではない」ことが理解できる。
そして、仮に凹陥部8がシール面を横断する構成であれば、シール対象となる流体が凹陥部8を通過して、シール性能を低下させることは、明らかである。
そうであれば、凹陥部8は、仮にシール面の境界の一部に達するもの(例えば上記引用文献4の【図4】(a)及び(b)並びに【図5】(b)の切欠部18参照。)であったとしても、シール面を横断するものでないことは、明らかである。
そうすると、上記引用文献3の記載事項から、射出成形時に用いるゲート残余部7aをカットした切り残し部7bが、シール面のシール不良をおこさないように、ゲートの周囲にシール面を横断しない凹陥部8を設け、当該凹陥部8の縁から切り残し部7bが出ないように、凹陥部8の底から突き出た切り残し部7bの先端を凹陥部8の縁より深い位置とする技術が、引用文献3に記載されていると認められる。

(3)対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「カット部2の一方側の端」は、本件補正発明の「第1の端部」に相当し、以下同様に、
「外周側において凹凸が相互にかみあい、軸方向中央付近の平坦面で接触可能」であることは「係合可能」であることに、
「カット部2の他方側の端」は「第2の端部」に、
「間に形成される」ことは「間に延在する」ことに、
「リング状の部分」は「円形リング本体」に、
「リング状の部分を有する」ことは「円形リング本体を備える」ことに、
「射出成形により製造されたシールリング6」は「射出成形シールリング」に、
「内周側の円筒面」は「内周面」に、
「一方の平面状の側面側の縁」は「第1の横方向端縁」に、
「前記一方の平面状の側面側の縁に対向する他方の平面状の側面側の縁」は「対向する第2の横方向端縁」に、
「内周側の円筒面に対向する」ことは「内周面に対向」することに、
「外周側の円筒面」は「外周面」に、
「前記内周側の円筒面と前記対向する外周側の円筒面との間に配置される」ことは「前記内周面と前記対向する外周面との間に延在する」ことに、
「一方の平面状の側面」は「第1の側面」に、
「前記内周側の円筒面と前記対向する外周側の円筒面との間に配置される」ことは「前記内周面と前記対向する外周面との間に配置され」ることに、
「一方の平面状の側面と対向する」ことは「第1の側面と対向する」ことに、
「他方の平面状の側面」は「第2の側面」に、
「ゲート部3を除去した箇所」は「射出成形ゲート痕」に、
「2.3mm」は「2mm〜20mmの範囲」に、
「前記一方の平面状の側面から前記他方の平面状の側面までの幅」は「前記第1の側面から前記第2の側面までの幅」に、それぞれ相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点1及び2で相違する。
[一致点]
「第1の端部と前記第1の端部と係合可能な第2の端部との間に延在する円形リング本体を備える射出成形シールリングにおいて、前記円形リング本体が、
内周面と、
第1の横方向端縁および対向する第2の横方向端縁を有する前記内周面に対向する外周面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に延在する第1の側面と、
前記内周面と前記対向する外周面との間に配置された、前記第1の側面と対向する第2の側面と、
前記外周面に形成された射出成形ゲート痕と、を備え、
前記シールリングは、2mm〜20mmの範囲の前記第1の側面から前記第2の側面までの幅を有する、
射出成形シールリング。」

[相違点1]
本件補正発明の「外周面」は、「シール面である」のに対し、引用発明の「外周側の円筒面」は、「シール面」であるか不明である点。

[相違点2]
本件補正発明の「射出成形ゲート痕」は「凹部に配置され、前記外周面を越えて延在していない、突出している」構成であり、当該「凹部」が「前記外周面に形成され、前記外周面の前記第1の横方向端縁および前記第2の横方向端縁の両方までには延在していない」構成であり、
「前記凹部と前記外周面の前記第2の横方向端縁との間の前記横方向距離が、少なくとも1mmであり、
前記射出成形ゲート痕が、前記外周面のレベルの0.2mm以内まで延在していない、」のに対し、引用発明の「ゲート部3を除去した箇所」は、このような構成を有しない点。

イ 相違点の検討
(ア)相違点1について
以下、相違点1について検討する。
引用発明は、「カット部2の一方側の端及び前記一方側の端と外周側において凹凸が相互にかみあい、軸方向中央付近の平坦面で接触可能」に構成されることで、外周側の円筒面が、カット部2においても周方向に連続する構造であって、外周側の円筒面に、一方の平面状の側面と他方の平面状の側面の間に液体の通路が形成されていない構造となっているから、外周側の円筒面がシール面であることは、当業者にとって構造上明らかである(必要であれば、特開2013−155846号公報の段落【0026】及び【図1】〜【図3】等参照。)。
そうであれば、上記相違点1は、実質的な相違点でない。

(イ)相違点2について
以下、相違点2について検討する。
上記(2)オで述べたとおり、射出成形時に用いるゲートを除去した部分が、シール面のシール不良をおこさないように、ゲートの周囲にシール面を横断しない凹みを設け、当該凹みの縁からゲート痕が出ないように、凹みの底から突き出たゲート痕の先端を、凹みの縁より深い位置とすることは、引用文献3に記載された技術であるといえる。
また、引用発明のゲート部3を除去した箇所にも、ゲート部3の除去の仕上がりのばらつきに伴うシール性能のばらつきが生じ得ることを考慮すると、引用発明に上記引用文献3に記載された技術を適用する動機付けはあるといえる。
そうであれば、引用発明に上記引用文献3に記載された技術を適用し、リング状の部分の外周側の円筒面に形成される、ゲート部3を除去した箇所の周囲に凹みを設け、当該凹みが外周側の円筒面を横断しないよう、一方の平面状の側面側の縁と他方の平面状の側面側の縁の両方には達しない凹みとし、当該凹みの縁からゲート部3を除去した箇所が出ないように、凹みの底から突き出たゲート部3を除去した箇所の先端を、凹みの縁より深い位置とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
そして、引用文献3に記載された技術における凹みの縁からシール面の縁までの寸法は、シール面がシールの機能を維持できる寸法であることが必要であるが、その寸法は、引用発明においては、カット部2の凹凸の形状からみて2.3mmの半分の寸法があればシールできること、シールする流体の粘度や圧力によって変化すること等を考慮すると、有効桁数1桁の範囲で1mmと数値を特定することに格別の困難性はなく、また、本件補正発明における「少なくとも1mm」という数値限定に、臨界的意義は認められない。
また、凹みの縁からゲート部3を除去した箇所までの深さは、ゲート部3を除去する際の工業的なばらつきや、シール面の摩耗等による変化があっても、ゲート部3を除去した箇所がシール面に影響を与えない程度の深さが必要であることは、当業者であれば、通常考慮することであって、「前記外周面のレベルの0.2mm以内まで延在していない」という数値限定をすることに格別の困難性はなく、また、本件補正発明における「0.2mm」という数値に臨界的な意義は認めらない。
そうすると、引用発明を上記引用文献3に記載された技術に基いて上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。

また、全体的にみて、本件補正発明による作用・効果は、引用発明及び引用文献3に記載された技術から当業者が予測可能なものであって、格別顕著なものとは認められない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件に係る出願の請求項1〜39に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1〜39に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)アに記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された技術又は引用文献3に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平9−42455号公報
引用文献2:特開2011−163516号公報
引用文献3:特開昭59−77921号公報

3 引用文献に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項及び引用発明並びに引用文献3に記載された事項及び技術は、前記第2の[理由]2(2)ア〜ウ及びオに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、
(1)「外周面」を、「シール面である外周面」とすること、
(2)「射出成形ゲート痕」を「突出している射出成形ゲート痕」とすること、
(3)「シールリング」を「2mm〜20mmの範囲の前記第1の側面から前記第2の側面までの幅を有し、
前記凹部と前記外周面の前記第2の横方向端縁との間の前記横方向距離が、少なくとも1mmであり、
前記射出成形ゲート痕が、前記外周面のレベルの0.2mm以内まで延在していない」とすること、
以上(1)〜(3)の発明特定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献3に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 田村 嘉章
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-02 
結審通知日 2022-03-07 
審決日 2022-03-23 
出願番号 P2019-557692
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16J)
P 1 8・ 121- Z (F16J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 中村 大輔
内田 博之
発明の名称 射出成形シールリングおよびそれらを製造する方法  
代理人 特許業務法人大塚国際特許事務所  

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