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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1388071 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-08-30 |
確定日 | 2022-08-12 |
事件の表示 | 特願2017− 50381「偏光板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018−155811〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2017−50381号(以下「本件出願」という。)は、平成29年3月15日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年11月11日付け:拒絶理由通知書 令和3年 1月12日提出:手続補正書、意見書 令和3年 6月10日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和3年 8月30日提出:審判請求書 令和3年 8月30日提出:手続補正書 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和3年8月30日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1〜9の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムと、を有し、 前記保護フィルムは、アクリル系樹脂と、該アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子とを含み、 前記保護フィルムの厚みが5μm〜40μmであり、 切断により前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である、偏光板。 【請求項2】 前記アクリル系樹脂が、グルタルイミド単位、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、マレイミド単位および無水グルタル酸単位からなる群から選択される少なくとも1つを有する、請求項1に記載の偏光板。 【請求項3】 前記保護フィルム中の前記コアシェル型粒子の含有量が、前記アクリル系樹脂100重量部に対して20重量部以下である、請求項1または2に記載の偏光板。 【請求項4】 前記アクリル系樹脂は、イミド化率が2.5〜20.0%、酸価が0.10〜0.50mmol/gの範囲であり、かつ、アクリル酸エステル単位が1重量%未満であるイミド樹脂からなる、請求項1から3のいずれかに記載の偏光板。 【請求項5】 前記コアシェル型粒子が、ゴム状重合体で構成されたコアと、ガラス状重合体で構成され該コアを被覆する被覆層と、を有する、請求項1から4のいずれかに記載の偏光板。 【請求項6】 前記保護フィルムは、面内位相差Re(550)が0nm〜40nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が−40nm〜40nmである、請求項1から5のいずれかに記載の偏光板。 【請求項7】 前記保護フィルム側の一方の面側に配置されたハードコート層および/または防汚層を有する、請求項1から6のいずれかに記載の偏光板。 【請求項8】 少なくとも一方の最外層に粘着剤層を有し、前記粘着剤層が導電性材料を含む、請求項1から7のいずれかに記載の偏光板。 【請求項9】 請求項1から8のいずれかに記載の偏光板を備える、画像表示装置。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。 「 【請求項1】 偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムと、を有し、 偏光子と保護フィルムとが接着剤を介して積層されており、 前記保護フィルムは、アクリル系樹脂と、該アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子とを含み、 前記保護フィルムの厚みが5μm〜40μmであり、 偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である、偏光板。」 2 本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の、発明を特定するために必要な事項である「偏光板」の構造を、本件明細書の【0077】の記載に基づいて、「偏光子と保護フィルムとが接着剤を介して積層されており、」と限定して、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)とする補正事項を含むものである。 また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は、同一である(本件明細書の【0001】及び【0005】)。 そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。 そこで、本件補正発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。 3 独立特許要件についての判断 (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された、特開2008−276207号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 アクリル系樹脂(A)及びアクリル系ゴム(C)を含む樹脂組成物を成形してなる光学フィルムであって、ヘイズ値が0.0〜0.8%である、光学フィルム。 ・・・中略・・・ 【請求項4】 前記アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、前記アクリル系ゴム(C)の含有量が0.5重量部以上50重量部以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルム。 【請求項5】 前記アクリル系ゴム(C)が多層構造粒子形態である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルム。 ・・・中略・・・ 【請求項7】 請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、主に偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして用いるための、新規な光学フィルムに関する。 【背景技術】 ・・・中略・・・ 【0004】 光弾性係数が小さく、負の複屈折性を持つ材料としてアクリル系樹脂が知られている。しかし、アクリル系樹脂は、靭性(トリミング性)に劣るため脆くて割れやすく、フィルムの破断等の際には亀裂が生じ、生産性が乏しい。この問題を解決する為にアクリル系樹脂に強靭性改良剤を含有させた組成物が開示されている(特許文献1)。しかし、強靭性改良剤を大量に用いているために、延伸されたフィルムは透明性を失うという問題がある。また、上記文献には、トリミング工程におけるマイクロクラックや亀裂発生の解決(トリミング性)に係わる記載は全く無い。 ・・・中略・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐熱性及び優れたトリミング性を有し、かつ、延伸時においても透明性の維持された光学フィルムを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、アクリル系樹脂(A)及びアクリル系ゴム(C)を必須成分として含む樹脂組成物を成形してなる光学フィルムであって、さらに、ヘイズ値を特定の範囲に設定することで、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。 ・・・中略・・・ 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、耐熱性及び優れたトリミング性を有し、かつ、延伸時においても透明性の維持された光学フィルムを提供することができる。本発明の光学フィルムは、優れたトリミング性を有しているため、トリミング工程におけるマイクロクラックや亀裂等の発生を低減することが可能であり、光学フィルムの生産性を向上させることができる。また、本発明の光学フィルムは、一定の倍率で延伸された場合でも優れた透明性を維持するため、液晶ディスプレイ等の位相差フィルムや偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 以下、本発明を、好ましい実施の形態とともに詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。 【0014】 本発明の光学フィルムは、必須成分として、アクリル系樹脂(A)及びアクリル系ゴム(C)を含有し、さらに、ヘイズ値が0.0%〜0.8%である。 ・・・中略・・・ 【0061】 本発明において、アクリル系ゴム(C)とは、常温でゴム状のアクリル系ポリマーであれば特に限定されないが、透明性及び強度の観点から、多層構造粒子の形態を有するゴム粒子が好ましい。多層構造粒子とは、コア−シェル構造からなる2層構造、中心硬質層、軟質層、最外硬質層からなる3層構造、軟質層と最外硬質層との間にさらに中間硬質層を有する4層構造等の多層構造を有する粒子を意味する。 【0062】 2層構造のアクリル系ゴム粒子とは、ゴム状ポリマーからなるコア層と、アクリル系のガラス状ポリマーからなるシェル層からなるコア−シェル構造のゴム粒子を言う。2層構造のアクリル系ゴム粒子では、コア層にゴム状ポリマーを使用することで、該ポリマーが応力の集中点として働くため光学フィルムのトリミング性が向上する。また、シェル層にアクリル系のガラス状ポリマーを使用することで、ゴム粒子とマトリクス樹脂(アクリル系樹脂(A)及びスチレン系樹脂(B))との相溶性が向上しゴム粒子の樹脂中への分散性が高まる。 【0063】 コア層に用いられるゴム状ポリマーとしては、常温でゴム状であれば特に限定されず、例えば、ブタジエンを主成分とするゴム状重合体(例えば、ブタジエン単独重合体、ブタジエン−芳香族ビニル共重合体等)や、アクリル酸アルキルエステルを主成分とするゴム状重合体(例えば、ブチルアクリレート−スチレン共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート−スチレン共重合体等)等を用いることができ、中でも、強度、生産性及び透明性の観点から、ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。 【0064】 シェル層に用いられるガラス状ポリマーとしては、常温でガラス状のアクリル系ポリマーであれば特に限定されず、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体等を用いることができる。 ・・・中略・・・ 【0066】 3層構造又は4層構造等のアクリル系ゴム粒子とは、ゴム状ポリマーからなる軟質層と、ガラス状ポリマーからなる硬質層が、3層以上積層した多層構造のゴム粒子を言う。これらの軟質層に用いられるゴム状ポリマー及び硬質層に用いられるガラス状ポリマーは、上記2層構造のアクリル系ゴム粒子で挙げたものと同様なものを用いることができる。 ・・・中略・・・ 【0072】 本発明の樹脂組成物中のアクリル系ゴムの含有量は、トリミング性及び透明性の観点からアクリル系樹脂(A)の総量100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上50重量部以下であり、より好ましくは2重量部以上35重量部以下であり、さらに好ましくは5重量部以上19重量部以下である。アクリル系ゴムの含有量が、0.5重量部よりも少ないと、光学フィルムのトリミング性が劣るため、トリミング工程においてマイクロクラックや亀裂等が生じるおそれがあり、50重量部を超えると、光学フィルムを延伸した場合に透明性が悪化するおそれがある。 【0073】 なお、トリミング工程とは、光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程を意味する。この際、フィルムがトリミング性に劣っていると、該工程中にマイクロクラックや亀裂現象等が起こり、光学フィルムの生産性が著しく低下することとなる。 ・・・中略・・・ 【0087】 本発明において、フィルムとは厚さが300μm以下のものを意味し、シートとは厚さが300μmを超えるものを意味する。また、本発明において、フィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、シートの厚さは、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。」 エ 「【実施例】 【0095】 以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。 【0096】 (1)測定方法 ・・・中略・・・ 【0101】 (VI)トリミング性の評価 トリミング工程における、光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び避けの発生の有無を観察する。 マイクロクラック、亀裂及び裂けの状態を、以下の評価基準を用いて評価する。 ○ : マイクロクラック、亀裂、裂けが認められない状態 × : マイクロクラック、亀裂、裂けが認められる状態 ・・・中略・・・ 【0102】 (2)原料の準備 (i)アクリル系樹脂(A) (i−1)アクリル系樹脂(A−3) メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体ペレットを得た。得られた共重合体のアクリル酸メチルの共重合割合は6.0質量%であり、重量平均分子量は145,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は1.0g/10分であった。 【0103】 (i−2)耐熱アクリル系樹脂(A−1)(スチレン/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体) 特公昭63−1964号公報の実施例に記載の方法を参考として、スチレン/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体を得た。得られた共重合体の組成は、メタクリル酸メチル単位74質量%、スチレン単位10質量%、無水マレイン酸単位16質量%であり、共重合体のメルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は1.3g/10分であった。固有複屈折は負であり、光弾性係数(未延伸)は−3.0×10−12Pa−1であった。 【0104】 (ii)アクリル系ゴム(C) 攪拌機、コンデンサーを備えた10Lビーカーに蒸留水5.7L、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ソーダ20g、還元剤としてロンガリツトl.2gを加え、均一に溶解した。これに、コア(第一層)を生成するために、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略す。)220g、n−ブチルアクリレート(以下、「BA」と略す。)30g、アリルメタクリレート(以下、「ALMA」と略す。)0.8g、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド(以下、「PBP」と略す。)0.2gからなる均一溶液を加え80℃で重合した。約15分で反応は完了した。得られた重合体のTgは108℃であった。 次いで、コア(第一層)に第二層(シェル)を形成するために、BA1270g、スチレン(以下、「ST」と略す。)320g、ジエチレングリコールジアクリレート(以下、「DEGA」と略す。)20g、ALMA13.0g、PBP1.6gからなる均一溶液を、前述のコア(第一層)を生成した溶液に1時間にわたって滴下した。滴下終了後40分で反応は完了した。なお、この均一溶液を単独で重合して得られた重合体のTgは-38℃であった。 次に、第三層1段を形成するため、MMA340g、BA2.0g、PBP0.3g、n−オクチルメルカプタン(以下、「OM」と略す。)0.1gからなる均一溶液を、前述の第二層を形成したコア−シェル粒子の溶液に加えた。この反応は約15分で完了した。なお、この均一溶液を単独で重合させて得た重合体の分子量は、1,220,000、Tgは109℃であった。 次に、第三層2段を形成するために、OMの量を1.0gにした他は第三層1段と同じ組成の均一溶液を、前述の第三層1段を形成したコア−シェル粒子の溶液に加えた。この段階は約15分で反応が完了した。なお、この均一溶液を単独で重合させて得た重合体の分子量は、117,000、Tgは108℃であった。 次いで、温度を95℃に上げ、1時間保持した。得られた乳化溶液を0.5%塩化アルミニウム水溶液中に投入して重合体を凝集させ、温水で5回洗浄後、乾燥して白色フロック状の粒子を得た。 得られたアクリル系ゴム(C)の粒子の平均粒径は0.1μmであった。 【0105】 (3)光学フィルムの製造 表1に記載された配合比の樹脂組成物を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数、押し出し機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を表1に示す条件に調整し押し出し成形をすることにより実施例1未延伸フィルム、実施例5、6及び比較例1、3を製造するための未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。 そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1に示す条件で1軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例2〜6、比較例1〜3の一軸延伸フィルムを得た。 表1には、組成、成形条件、延伸条件、樹脂組成物のガラス転移温度、得られたフィルムの厚み、面内レタデーション(Re)、厚み方向のレタデーション(Rth)、光弾性係数の絶対値、ヘイズ及びトリミング評価を示した。 【0106】 【表1】 【0107】 表1に示した結果から明らかなように、本発明の実施例1〜6の光学フィルムは、優れたトリミング性を有しているため、トリミング工程においてマイクロクラックや亀裂等が発生しなかった。また、延伸した場合においても、一定の倍率まではヘイズ値が光学フィルムとして良好な範囲内(0〜0.8%)にあり、透明性が維持されていることが確認できた。 これに対して、比較例1及び3の光学フィルムは、アクリル系ゴム(C)を含有していないために、トリミング性に劣り、トリミング工程において、マイクロクラック、亀裂及び裂けの発生が観察された。また、比較例2の光学フィルムは、ヘイズ値が光学フィルムとして良好な範囲内にはなく、透明性に劣っていた。」 (2)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、実施例における原料の準備として、以下の「耐熱アクリル系樹脂(A−1)」、「アクリル系樹脂(A−3)」及び「アクリル系ゴム(C)」の発明(以下、それぞれ「引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)」、「引用アクリル系樹脂発明(A−3)」及び「引用アクリル系ゴム発明(C)」という。)が記載されている。 また、上記「(1)エ」の【0105】には、「表1に記載された配合比の樹脂組成物を用い」と記載されているところ、同【表1】によると、実施例5に係る「光学フィルム」は、「耐熱アクリル系樹脂(A−1)」が80質量部、「アクリル系樹脂(A−3)」が20質量部、「アクリル系ゴム(C)」が10質量部である配合比の樹脂組成物を用いて得られていると認められる。同様に、成形条件は、スクリュー回転数が100rpm、押し出し機のシリンダー内樹脂温度が253℃、Tダイの温度が253℃であり、延伸条件は、延伸温度が145℃、MDの延伸倍率が100%であり、得られたフィルムの厚みが100μm、トリミング性が○であると認められる。 そして、上記「トリミング性が○である」とは、引用文献1の【0101】によると、「トリミング工程における、光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び裂けの発生の有無を観察」(当合議体注:【0101】の「避け」は「裂け」の誤記である。)した際に、「マイクロクラック、亀裂、裂けが認められない状態」であることを意味すると認められる。また、上記「トリミング工程」とは、上記同【0073】によると、「光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程を意味する」と理解される。 さらに、上記「アクリル系ゴム(C)」は、同【0104】によると、最外層である第三層第2段の重合体は、メチルメタクリレートとn−ブチルアクリレートから合成されており、そのTgは108℃であるから常温より高い。したがって、「アクリル系ゴム(C)」は、常温でガラス状のアクリル系ポリマーを最外層に用いていると認められる。このため、上記「(1)ウ」の【0062】、【0064】及び【0066】によると、ゴム粒子と「耐熱アクリル系樹脂(A−1)」及び「アクリル系樹脂(A−3)」からなるアクリル系樹脂(A)であるマトリクス樹脂との相溶性が向上しゴム粒子の樹脂中への分散性が高まっているといえる。 そうしてみると、同文献には、引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)、引用アクリル系樹脂発明(A−3)及び引用アクリル系ゴム発明(C)を用いて、実施例5として、上記「(1)エ」の【0105】から理解される方法で作製された、以下の「光学フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 ア 引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1) 「特公昭63−1964号公報の実施例に記載の方法を参考として、スチレン/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体を得、得られた共重合体の組成は、メタクリル酸メチル単位74質量%、スチレン単位10質量%、無水マレイン酸単位16質量%であり、共重合体のメルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は1.3g/10分であった。固有複屈折は負であり、光弾性係数(未延伸)は−3.0×10−12Pa−1であった、耐熱アクリル系樹脂(A−1)」 イ 引用アクリル系樹脂発明(A−3) 「メタクリル酸メチル89.2重量部、アクリル酸メチル5.8重量部、及びキシレン5重量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294重量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115重量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体ペレットを得、得られた共重合体のアクリル酸メチルの共重合割合は6.0質量%であり、重量平均分子量は145,000、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は1.0g/10分であった、アクリル系樹脂(A−3)」 ウ 引用アクリル系ゴム発明(C) 「攪拌機、コンデンサーを備えた10Lビーカーに蒸留水5.7L、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ソーダ20g、還元剤としてロンガリツトl.2gを加え、均一に溶解し、これに、コア(第一層)を生成するために、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略す。)220g、n−ブチルアクリレート(以下、「BA」と略す。)30g、アリルメタクリレート(以下、「ALMA」と略す。)0.8g、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド(以下、「PBP」と略す。)0.2gからなる均一溶液を加え80℃で重合し、約15分で反応は完了し、得られた重合体のTgは108℃であり、 次いで、コア(第一層)に第二層(シェル)を形成するために、BA1270g、スチレン(以下、「ST」と略す。)320g、ジエチレングリコールジアクリレート(以下、「DEGA」と略す。)20g、ALMA13.0g、PBP1.6gからなる均一溶液を、前述のコア(第一層)を生成した溶液に1時間にわたって滴下し、滴下終了後40分で反応は完了し、なお、この均一溶液を単独で重合して得られた重合体のTgは-38℃であり、 次に、第三層1段を形成するため、MMA340g、BA2.0g、PBP0.3g、n−オクチルメルカプタン(以下、「OM」と略す。)0.1gからなる均一溶液を、前述の第二層を形成したコア−シェル粒子の溶液に加え、この反応は約15分で完了し、なお、この均一溶液を単独で重合させて得た重合体の分子量は、1,220,000、Tgは109℃であり、 次に、第三層2段を形成するために、OMの量を1.0gにした他は第三層1段と同じ組成の均一溶液を、前述の第三層1段を形成したコア−シェル粒子の溶液に加え、この段階は約15分で反応が完了し、なお、この均一溶液を単独で重合させて得た重合体の分子量は、117,000、Tgは108℃であり、 次いで、温度を95℃に上げ、1時間保持し、得られた乳化溶液を0.5%塩化アルミニウム水溶液中に投入して重合体を凝集させ、温水で5回洗浄後、乾燥して白色フロック状の粒子を得、 得られたアクリル系ゴム(C)の粒子の平均粒径は0.1μmであった、アクリル系ゴム(C)」 エ 引用発明 「引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)が80質量部、引用アクリル系樹脂発明(A−3)が20質量部、引用アクリル系ゴム発明(C)が10質量部である配合比の樹脂組成物を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)を用いて、スクリュー回転数を100rpm、押し出し機のシリンダー内樹脂温度を253℃、Tダイの温度を253℃に調整し押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得、フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とし、 そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、延伸温度が145℃、MDの延伸倍率が100%である条件で、1軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得、 得られたフィルムの厚みが100μmであり、 トリミング性の評価として、トリミング工程における、光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び裂けの発生の有無を観察した際に、マイクロクラック、亀裂、裂けが認められない状態とされ、 前記トリミング工程とは、光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程を意味し、 引用アクリル系ゴム発明(C)の、引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)及び引用アクリル系樹脂発明(A−3)への分散性が高まっている、 光学フィルム。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア フィルム 引用発明の「光学フィルム」は、本件補正発明の「フィルム」に相当する。 イ アクリル系樹脂 引用発明の「引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)」と「引用アクリル系樹脂発明(A−3)」は、いずれも、本件補正発明の「アクリル系樹脂」に相当する。 ウ アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子 上記(2)ウによると、引用発明の「引用アクリル系ゴム発明(C)」は、「第1層」、「第2層」及び「第3層」を有している。「第1層」は、上記(2)ウのとおり「コア」である。「第2層」は、上記(2)ウのとおり「シェル」であるともいえるし、技術的に見て、最外層ではないため「コア」に相当するともいえる。「第3層」は、最外層であるため、「シェル」に相当することが技術的に見て明らかである。そうしてみると、引用発明の「引用アクリル系ゴム発明(C)」は、「コア」と「シェル」とを含む粒子であるから、本件補正発明の「コアシェル型粒子」に相当する。 また、引用発明は、「引用アクリル系ゴム発明(C)の、引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)及び引用アクリル系樹脂発明(A−3)への分散性が高まっている」。 そうしてみると、引用発明の「引用アクリル系ゴム発明(C)」(アクリル系ゴム(C)の粒子)は、「引用耐熱アクリル系樹脂発明(A−1)及び引用アクリル系樹脂発明(A−3)」に「分散」しているといえるので、本件補正発明の「アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子」に相当する。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「アクリル系樹脂と、該アクリル系樹脂に分散されたコアシェル型粒子とを含む、フィルム」 イ 相違点 本件補正発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は一応相違する。 (相違点1) 本件補正発明は、「フィルム」を「保護フィルム」として用い、「偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムと、を有し、偏光子と保護フィルムとが接着剤を介して積層され」た「偏光板」であるのに対し、引用発明は、光学フィルムと特定されるにとどまり、偏光板ではない点。 (相違点2) フィルムの厚みが、本件補正発明は「5μm〜40μm」であるのに対し、引用発明は「100μm」である点。 (相違点3) 本件補正発明は、「偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である」のに対し、引用発明は、「光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程を意味」する「トリミング工程」において、「光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び裂けの発生の有無を観察した際に、マイクロクラック、亀裂、裂けが認められない状態とされ」ているにとどまる点。 (5)判断 ア 相違点1及び2について 引用文献1には、「本発明は、主に偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして用いるための、新規な光学フィルムに関する。」(【0001】)及び「本発明の光学フィルムは、一定の倍率で延伸された場合でも優れた透明性を維持するため、液晶ディスプレイ等の位相差フィルムや偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる。」(【0012】)と記載されている。また、引用文献1には、引用発明の「光学フィルム」の厚みについて、「本発明において、フィルムとは厚さが300μm以下のものを意味し、・・・中略・・・、フィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり」(【0087】)と記載されている。 上記記載によれば、引用発明の「光学フィルム」の用途として、偏光板保護フィルムが想定されていること及びその厚みは「100μm」に限定されないことを理解する。 さらに、上記用途において、[A]偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムを有する偏光板を作成する際に、偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して積層すること及び[B]偏光板保護フィルムの厚みを40μmや20μm程度とすることは、いずれも本件出願時における当業者にとって周知技術であったと認められる(必要であれば、[A]については、特開2016−139027号公報の【0023】等、[B]については、特開2016−139027号公報の【0124】及び【0126】等の記載を参照。)。 そうしてみると、上記周知技術を心得た当業者が、引用発明の上記記載に従って、引用発明の「光学フィルム」を偏光板保護フィルムに用いること、その際に、偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムとを有する偏光板であって、偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して積層した構造とすること(相違点1に係る本件補正発明の構成)、前記保護フィルムの厚みを40μmや20μmとすること(相違点2に係る本件補正発明の構成を満たす厚みとすること)は容易に想到し得たことである。 したがって、当業者が、相違点1及び相違点2に係る上記事項に想到することに格別の困難性は見いだせない。 イ 相違点3について (ア)トリミング性の評価結果からの検討 トリミング性の評価に関連して、本件補正発明において特定されるものは、「偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さ」である。 一方、引用発明において特定されるものは、「光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程」である「トリミング工程」において、「光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び裂けの発生の有無を観察した際に、マイクロクラック、亀裂、裂けが認められない状態とされ」である。ここで、引用文献1には上記観察方法について詳細に記載されていないが、上記観察方法が仮に肉眼によるものであれば、150μmを超える長さであればクラック等は十分認識可能であり、また、顕微鏡によるものであればなおさら認識可能であることからみて、引用発明のマイクロクラック、亀裂、裂けの長さが150μm以上とは認められない。 したがって、引用発明は、上記「トリミング工程」において、光学フィルムの切断面における、光学フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満であるといえる。 次に、偏光子と保護フィルムを積層して偏光板して切断した場合における、保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの長さへの影響を検討する。 保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの長さは、切断時における保護フィルムへの衝撃の大小がその長さを左右する一因となり得ると考えられるところ、切断時における保護フィルムへの衝撃の大小は、保護フィルム自体に加えて、当該保護フィルムに積層された偏光子にも依存すると解釈する余地はある。 しかしながら、引用発明を偏光板保護フィルムとして用い、周知の偏光子(例えば、特開2016−139027号公報の【0123】には、ポリビニルアルコールフィルムを延伸して厚さ30μmとした偏光子が記載されている。)を積層したところで、その積層により、保護フィルムの層内クラックの長さが150μm未満であることを満たさなくなるとは考え難い。 例えば、本件の明細書の【0086】【表1】を参照すると、実施例7と実施例3、5、6とはコアシェル型粒子の配合量が共通しているところ、偏光板の厚みは、実施例7と比べて、実施例3、5、6はそれぞれ20μm、10μm、5μm増大している。ここで、層内クラックの幅は、実施例7が68μmであり、実施例3、5、6は、それぞれ、73μm、67μm、68μmであるので、厚みの増大による層内クラックの幅への寄与は格別なものでない。厚みの増加によるクラックの長さへの寄与は格別なものでないところ、周知の偏光子(30μm程度)を積層して偏光板とした場合に、偏光子に起因して厚みが増大したとしても、その場合のクラックの長さへの寄与は格別なものでないといえる。その他、周知の偏光子の積層が、保護フィルムの層内クラックの長さが150μm以上となる程度まで影響する特段の事情も存在しない。 したがって、本件補正発明と引用発明は、問題視する保護フィルムの切断面に形成される層内クラックが、偏光板を切断する際のものであるか、保護フィルムを切断する際のものであるかで一応相違するものの、引用発明の「光学フィルム」を保護フィルムとし、偏光子と積層して偏光板としたうえで切断を行った場合も、当該偏光板の保護フィルムは、マイクロクラック、亀裂、裂けが生じず、「偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である」という、相違点3に係る本件補正発明の構成を満たす蓋然性が高い。 なお、保護フィルムの厚みによる、層内クラックの長さへの寄与が格別なものでないことは上記アのとおりであるから、引用発明のフィルムの厚みを相違点2の構成を満たすように変更したとしても、「150μm未満」を満たさなくなる程度までクラックの長さが変わるとは考え難い。 したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。 (イ)光学フィルムの組成からの検討 さらに進んで検討する。 本件明細書の実施例1〜実施例8と比較例1とを参照すると、コアシェル型粒子が第1の保護フィルムに配合されていない比較例1は層内クラックが267μmであるのに対し、コアシェル型粒子が第1の保護フィルムに配合されている実施例1〜実施例8は、層内クラックが150μm未満である。 また、層内クラックの発生に関して、本件明細書の【0060】には、「上記保護フィルムにおいて、コアシェル型粒子は、アクリル系樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部〜20重量部、より好ましくは3重量部〜10重量部配合される。これにより、保護フィルムの端部加工性が向上し得、偏光板を裁断した際の保護フィルムの切断面における層内クラックの発生を抑制し得る。」と記載され、同【0066】には、「フィルム形成に用いられるコアシェル型粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm〜500nmである。このような平均粒子径であれば、偏光板を裁断した際の保護フィルムの切断面における層内クラックの発生を抑制し得る。コアの平均粒子径は、好ましくは50nm〜300nmであり、より好ましくは70nm〜300nmである。」と記載されている。また、コアシェル型粒子の構造や組成は、同【0061】〜【0063】にも記載されている。 一方、引用発明は、上記「(2)エ」に記載したとおり、フィルムに、コアシェル型粒子に相当する引用アクリル系ゴム発明(C)を含んでおり、かつ、上記「(2)ウ」によると、その引用アクリル系ゴム発明(C)は、本件明細書の【0060】と【0066】に記載される、偏光板を裁断した際の保護フィルムの切断面における層内クラックの発生を抑制し得るための、より好ましい配合量と、より好ましい粒径を満たしている。また、引用アクリル系ゴム発明(C)は、同【0061】〜【0063】に記載される構造や組成にも該当している。このため、引用発明の「光学フィルム」を保護フィルムとし、偏光子と積層して偏光板としたうえで切断を行った場合に、当該偏光板が、「偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である」という要件を満たす蓋然性は高いといえる。 したがって、相違点3は、この点から検討しても、実質的な相違点ではない。 (当合議体注:上記(ア)と同様に、引用発明のフィルムの厚みを変更した場合であっても、「150μm未満」を満たさなくなる程度にまでクラックの長さが変わるとは考え難い。) (ウ)相違点3が実質的な相違点であった場合の検討 仮に、相違点3が実質的な相違点であったとしても、以下に示すとおり、当該相違点は当業者が容易に想到し得たものである。 引用文献1の【0004】には、「トリミング性」として、「トリミング工程におけるマイクロクラックや亀裂発生の解決」が記載されており、同【0007】には、「優れたトリミング性を有」する光学フィルムとすることが、発明が解決しようとする課題として記載されている。したがって、引用発明は、トリミング工程におけるマイクロクラックや亀裂発生の解決が課題となっている。 引用文献1の【0073】には、「トリミング工程とは、光学フィルムを製造する際に、フィルムの幅を一定に揃えるために両端を切り落とす工程を意味する」と記載されている。 ここで、上記アで述べたとおり、引用発明の「光学フィルム」を偏光板保護フィルムとして用い、偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して積層した偏光板を得ることは、当業者が適宜になし得たことである。そして、偏光板の製造工程において、偏光体をパネルサイズなどに切断すること(例えば、国際公開第2012/035837号([0002]等)及び特開2009−37228号公報(【0005】)等参照。)及び偏光板の切断面から保護フィルムの内部へとクラックが生じること(例えば、特開2004−80005号公報(【0003】等)参照。)は、本件出願時の当業者にとって周知であるところ、偏光板の切断時においても、保護フィルムが優れたトリミング性を有することが好ましいことは当業者にとって明らかである。 そうしてみると、光学フィルムの製造時のトリミング性のみならず、偏光板としたときのトリミング性をも優れたものとしようとすることは、当業者が当然考慮すべき事項といえる。 したがって、引用発明において、トリミング性の評価として、「トリミング工程における、光学フィルムのマイクロクラック、亀裂及び裂けの発生の有無」を観察することに代えて、偏光板の切断面における、保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの長さに着目し、当該クラックの長さを低減させるために、例えば、引用文献1の【0072】の教示にしたがって、透明性が許容される範囲内で「引用アクリルゴム発明(C)」の含有量を増やす等の手段を講じることは、当業者が適宜になし得たことである。 また、本件明細書には、偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さの数値範囲を、150μm未満にしたことの臨界的意義は記載されていない。 したがって、当業者が、相違点3に係る本件補正発明の構成に想到することに格別の困難性は見いだせない。 (6)請求人の主張について ア 主張の内容 審判請求人は、令和3年8月30日提出の審判請求書(3頁)において、「本願発明においては、上記の通り、偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満です。一方、引用文献1は、本願発明のように光学フィルムを含む偏光板での端面の加工性を評価していません。引用文献1は、光学フィルム単体におけるトリミング性(端面の加工性)を評価するのみです。光学フィルムの端面の加工性の評価と、光学フィルムを含む偏光板の端面の加工性の評価とは、明確に異なります。さらに、引用文献1においては、光学フィルムが偏光板保護フィルムとして用いられる旨を開示するのみであり、トリミング性(端面の加工性)の評価はあくまで光学フィルム単体を対象とします。したがって、引用文献1において、本願発明のように偏光板を切断した際のクラックの発生を評価し、さらに当該クラックの長さを特定の値以下に規定する動機付けはありません。」と主張する。 イ 判断 上記主張について検討する。 まず、「光学フィルムの端面の加工性の評価と、光学フィルムを含む偏光板の端面の加工性の評価とは、明確に異な」るとしても、上記「(5)イ(ア)」や上記「(5)イ(イ)」で述べたとおり、引用発明のトリミング性の評価結果やフィルムの組成を踏まえると、引用発明を偏光板に積層した場合、その偏光板は、「偏光板の切断面における、前記保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの、前記切断面から内部の方向に沿った長さが150μm未満である」という特定を満たす蓋然性が高い。したがって、この点は、実質的な相違点でない。 仮に、実質的な相違点であったとしても、上記「(5)イ(ウ)」で述べたとおり、引用発明の光学フィルムを偏光板の保護フィルムとして偏光子に積層した偏光板としたときにも優れたトリミング性を有することが好ましいことは、当業者にとって明らかである。そして、引用発明は、光学フィルムを切断した際のクラックの発生を評価しているので、偏光板としたときのトリミング性を評価しようとする当業者が、偏光板の切断面における、保護フィルムの切断面に形成される層内クラックの長さを特定の値以下に規定することは、適宜になし得た事項であり、格別の困難性は見いだせない。 (7)本件発明の効果 本件明細書の【0007】には、発明の効果として、「本発明によれば、端部加工性を向上させた偏光板、および上記偏光板を備える画像表示装置を提供し得る。」と記載されている。 しかしながら、上記(6)で説示したとおり、引用発明は、光学フィルムを切断した際のトリミング性が良好であるところ、当該光学フィルムを偏光子に積層して偏光板とした際にも端部加工性が良好であることは、当業者が予測し得る範囲内のものであって、かつ、顕著なものでもない。 (8)小括 本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 4 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3 引用文献及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は、前記「第2」[理由]3で検討した本件補正発明から「偏光子と保護フィルムとが接着剤を介して積層されており」と、「偏光板の切断面における」との限定を省いたものに相当する。そして、本願発明の構成を全て具備し、さらに上記限定を有する、本件補正発明は、前記「第2」[理由]3で述べたとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-06-13 |
結審通知日 | 2022-06-14 |
審決日 | 2022-06-29 |
出願番号 | P2017-050381 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
松波 由美子 石附 直弥 |
発明の名称 | 偏光板および画像表示装置 |
代理人 | 籾井 孝文 |