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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01P
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 F01P
管理番号 1388140
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-05 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2018−243349「車両用熱マネジメントシステム、熱輸送媒体、および車両走行用の電池の冷却方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年7月9日出願公開、特開2020−105942〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成30年12月26日の出願であって、令和2年11月11日に上申書及び手続補正書が提出され、同年12月2日付け(発送日:同年12月8日)で拒絶理由が通知され、令和3年2月5日に意見書が提出され、同年3月11日付け(発送日:同年3月16日)で拒絶理由が通知され、同年5月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月29日付け(発送日:同年7月6日)で拒絶査定がされた。これに対して、同年10月5日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、令和3年10月5日提出の手続補正書の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は、以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

「【請求項1】
車両に搭載される車両用熱マネジメントシステムであって、
外部電源から供給される電力の充電が可能に構成され、充放電に伴い発熱する車両走行用の電池(4)と、
前記電池から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(14)と、
前記熱輸送媒体と接触する部分がアルミニウムを含む部材で構成され、前記電池との熱交換によって前記熱輸送媒体を受熱させる受熱部(16)と、
前記熱輸送媒体と接触する部分がアルミニウムを含む部材で構成され、前記車両の外部の空気(21)との熱交換によって前記熱輸送媒体を放熱させる放熱器(20)とを備え、
前記熱輸送媒体は、水を含む液状の基材と、前記基材に相溶するオルト珪酸エステルとを含み、かつ、イオン性防錆剤を含まず、
前記オルト珪酸エステルは、前記熱輸送媒体の全体に対するケイ素の濃度が、2000質量ppmより高く10000質量ppm以下である、車両用熱マネジメントシステム。」

第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1−4、6−8

・請求項 2−8
・引用文献等 1−8

<引用文献等一覧>
1.特開2018−153074号公報
2.特開2014−203739号公報
3.特開2018−60594号公報(周知技術を示す文献)
4.国際公開第2018/095759号(特表2020−512440号公報を参照)
5.特開2018−66279号公報
6.特開2018−200785号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2006−216303号公報(周知技術を示す文献)
8.特開昭59−81376号公報

第3 引用文献の記載事項
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された特開2018−153074号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審で付与した。以下、同様。)。

ア 「【0002】
電気自動車等で使用されるバッテリは、エネルギー効率や充放電特性の観点から、一般に、一定温度(例えば、0℃)以上での充放電動作が求められる。そのため、かかるバッテリにおいては、低温環境下で充電を行う場合、抵抗式ヒータ(例えば、PTCヒータ)を用いて、充電を開始する前に一定温度まで昇温することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。」

イ 「【0014】
本実施形態に係る充電装置10は、例えば、バッテリ11と一体的に車輌に搭載され、車載電源装置を構成する。
【0015】
本実施形態に係る充電装置10は、外部電源20から電力を受電して、バッテリ11に充電する。尚、本実施形態に係る充電装置10は、例えば、端子C1を介して外部電源20と接続され、端子C2を介してインバータ装置30と接続される。
【0016】
充電装置10は、バッテリ11、充電器12、PTCヒータ13、ヒータ側開閉器14、バッテリ側開閉器15、冷却部16、各種センサ17a〜17c、及びECU18を備えている。
【0017】
外部電源20は、バッテリ11に対して充電を行う際に、接続プラグ等を介して充電装置10と接続される。外部電源20は、例えば、60Hz、200Vの単相交流電力を供給する商用電源であって、充電器12の入力段に対して交流電力を供給する。
【0018】
バッテリ11は、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等、任意の種別のバッテリであってよい。バッテリ11は、電力ラインLに接続されており、当該電力ラインLを介して充放電が可能となっている。尚、バッテリ11の充放電は、例えば、ECU18からの制御信号に基づいてバッテリ側開閉器15が開閉制御されることによって行われる。」

ウ 「【0028】
冷却部16は、バッテリ11及び充電器12を冷却する共通の冷却系統である。冷却部16は、共通の冷却媒体(本実施形態では、冷却液)を用いて、バッテリ11及び充電器12を冷却する構成となっている。
【0029】
図2は、本実施形態に係る充電装置10の冷却部16の構成の一例を示す図である。
【0030】
冷却部16は、例えば、冷却媒体として冷却液を用いた冷却系統であって、循環回路16a、ポンプ16b、及びラジエータ16cを含んで構成される。
【0031】
循環回路16aには、バッテリ11及び充電器12それぞれと熱交換する冷却媒体が循環する。この循環回路16aには、充電器12側からバッテリ11側に向かって、共通の冷却媒体が通流するように、充電器12及びバッテリ11が直列に接続されている。
【0032】
ポンプ16bは、循環回路16a内の冷却媒体の通流を制御する。又、ラジエータ16cは、冷却媒体と熱交換して、当該冷却媒体から放熱する。
【0033】
尚、充電器12には、冷却媒体と熱交換するためのヒートシンク12aが筐体に配設されている。又、バッテリ11にも、同様に、冷却媒体と熱交換するためのヒートシンク11aが筐体に配設されている。
【0034】
冷却部16は、かかる構成によって、バッテリ11又は充電器12が常温(例えば、0℃以上)で動作する際には、バッテリ11及び/又は充電器12から吸熱して、ラジエータ16cから放熱する。」

エ 「【0107】
上記実施形態では、充電装置10を適用する対象の一例として、電気自動車を示した。しかしながら、充電装置10は、ハイブリッド自動車、特殊車輌、又はその他の種々の電動装置に搭載することができる。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「車両に搭載される充電装置10であって、
外部電源20から電力を受電して充電される、電気自動車のバッテリ11と、
前記バッテリ11と熱交換し、循環回路16aを循環する冷却液と、
前記冷却液と熱交換するための、前記バッテリ11に配設されたヒートシンク11aと、
前記冷却液と熱交換し、前記冷却液から放熱させるラジエータ16cとを備える、充電装置10。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された特開2014−203739号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、燃料電池、特に、燃料電池用冷却液に関する。」

イ「【0020】
以下、本発明に係る燃料電池用冷却液について説明する。本発明における燃料電池用冷却液は、凝固点降下剤、希釈水、腐食抑制剤、腐食抑制助剤、及び安定化剤からなる。」

ウ 「【0022】
希釈水としては、低導電性を得るため、イオン性物質を除去したイオン交換水が用いられる。また、上述したジオール化合物の凍結温度は原液よりも希釈時の方が低くなる、原液は高粘度であるためポンプ損失(ポンプへの負荷)が大きくなる等の理由により、ジオール化合物は水で希釈して用いるのが一般的である。
【0023】
腐食抑制剤は、燃料電池用冷却液が接液するセパレータ、ラジエータ、金属配管等に用いられるステンレス鋼、チタン、アルミニウム等を防食対象金属とする。腐食抑制剤としては、チアゾール類、イミダゾール類、ピラゾール類、トリアゾール類等のアゾール系化合物、脂肪族、芳香族カルボン酸類等が用いられる。本発明においては、3,5-ジメチルピラゾールが用いられる。3,5-ジメチルピラゾールの構造(化学式3)を以下に示す。
【化3】

なお、腐食抑制剤には、SH基やカルボキシル基のようなイオン化する官能基を持つ化合物や、熱劣化によりイオン性物質を生成する化合物があるため、使用する際は導電性、熱劣化性について検証する必要がある。
【0024】
腐食抑制助剤は、上述した腐食抑制剤と併用することにより、防食性を向上することができる。腐食抑制助剤としては、シランカップリング剤が用いられ、本発明においては、テトラエトキシシラン化合物が用いられる。テトラエトキシシランの構造(化学式4)を以下に示す。
【化4】

シランカップリング剤は、分子構造中に反応性の異なる2種類の官能基を持ち、無機材料と有機材料を結合する働きを持つ。無機材料と結合する官能基としてはメトキシ基、エトキシ基があり、有機材料と結合する官能基としてはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等がある。そのため、使用する際はイオン化による導電性、シラン化合物の加水分解によるイオン性物質の生成等について検証する必要がある。」

エ 「【0046】
(金属腐食性試験)
JIS K 2234:2006 不凍液、8.6項に規定された金属腐食性試験を行った。ただし、当該規格は内燃機関用冷却液を想定したものであり、燃料電池冷却系統の材料として通常使用しない鋳鉄、黄銅、はんだ、銅等も対象金属となっているため、本試験においては試験対象金属をアルミニウム合金のみとした。ラジエータ材料を想定し、2種類のアルミニウム合金(A7072、A3003)を金属試験片として用いた。」

オ 「【0050】
(金属腐食性判定基準)
金属腐食が不凍液の導電率上昇に与える影響を考慮して、金属試験片の試験後の質量変化許容値を、−0.10〜0.10mg/cm2に設定し、2種類のアルミニウム合金(A7072、A3003)のうち、腐食量が多い試験片の値を判定対象とした。すなわち、本発明においては、88℃、336時間での金属腐食性試験による金属片の質量変化量が、−0.10〜0.10mg/cm2の範囲であることが好適である。これにより、冷却系部材の腐食を防止できるため、腐食部からのイオン溶出による冷却液の導電率上昇を抑制することができ、イオン溶出による冷却液の絶縁抵抗低下を防ぐことができる。また、腐食部からのイオン溶出を防止できるため、冷却液中の溶出イオン除去のための、イオン交換樹脂の延命、交換頻度の低減を図ることができる。 」

カ 「【0054】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
プロピレングリコール(凝固点降下剤)を50重量部とし、プロピレングリコールに対して3,5-ジメチルピラゾール(腐食抑制剤)を0.1重量部、テトラエトキシシラン化合物B(腐食抑制助剤)(東レダウコーニング製、AY43-101)を0.1重量部、2-メルカプトチアゾリン(安定化剤)を0.1重量部、イオン交換水(希釈水)を49.7重量部として、冷却液を処方した。」

上記記載事項を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「ラジエータ材料としてアルミニウム合金を想定するとともに、ラジエータに用いられるアルミニウム等に接液する冷却液として、アルミニウム等の腐食を抑制するために、プロピレングリコール(凝固点降下剤)を50重量部とし、プロピレングリコールに対して3,5-ジメチルピラゾール(腐食抑制剤)を0.1重量部、テトラエトキシシラン化合物B(腐食抑制助剤)(東レダウコーニング製、AY43-101)を0.1重量部、2-メルカプトチアゾリン(安定化剤)を0.1重量部、イオン交換水(希釈水)を49.7重量部として、冷却液を処方すること。」

3 引用文献8
原査定の拒絶の理由で引用された特開昭59−81376号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「有機オルトケイ酸エステルも、水性アルコール熱伝達溶液中で有用な腐食抑制剤であると技術上認識されている。例えば、米国特許第3,349,338号明細書は、アルミニウム等の金属用の必須の腐食防止剤として一価アルコールおよび多価アルコールからなる群から選択される一員のケイ酸エステルの加水分解生成物を含有する抑制剤、およびアルコールの水溶液からなる非腐食熱伝達液体(前記液体は好ましくは約9.0〜約12.0のpHを有する)を開示している。」(第2頁右下欄第1ないし10行)

イ 「発明の具体的説明
水性腐食抑制熱伝達組成物は、使用場所において濃厚物を水で希釈することによって、組成物濃厚物から調製され得る。組成物濃厚物自体は、濃厚物の総重量に基づき約10重量%まで(好ましくは約2〜約8重量%)の水を含有できる。本発明の組成物濃厚物は、一般に濃厚物内に少なくとも約25ppmのケイ素を与えるのに十分な量のオルトケイ酸エステルを含有すべきであるが、ケイ素は濃厚物内にケイ素約25〜約4000ppm(更に好ましくは約50〜約2000ppm、最も好ましくは約100〜約800ppm)の量で与えられることが好ましい。オルトケイ酸エステルが約25ppmよりも少ないケイ素しか与えない場合には、作動不凍液中に希釈した場合に腐食抑制剤としての役割において有効ではないと予期される。オルトケイ酸エステルが4000ppmより多いケイ素を与える場合には、経済的見地から余りに高価であると予期される。」(第3頁右上欄第1ないし18行)

上記記載事項を総合すると、引用文献8には、次の事項(以下「引用文献8記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献8記載事項〕
「アルミニウム等の金属用の腐食防止剤として、水性腐食抑制熱伝達組成物の濃厚物にオルトケイ酸エステルを含有させ、濃厚物内にケイ素約25〜約4000ppmの量で与えること。」

第4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「冷却液」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明における「熱輸送媒体」に相当する。
引用発明の「車両に搭載される充電装置10」は、引用文献1の段落【0014】、【0016】及び【0028】ないし【0034】の記載並びに図1及び2の図示内容を参照すると、冷却部16によりバッテリ11の冷却を制御しているから、本願発明における「車両に搭載される車両用熱マネジメントシステム」に相当する。
また、引用発明の「外部電源20から電力を受電して充電される、電気自動車のバッテリ11」は、外部電源により充電される電気自動車のバッテリが、車両走行用のものであること及び充放電に伴い発熱することは、当業者にとって技術常識であるから、本願発明の「外部電源から供給される電力の充電が可能に構成され、充放電に伴い発熱する車両走行用の電池」に相当する。
そして、引用発明の「前記冷却液と熱交換するための、前記バッテリ11に配設されたヒートシンク11a」と、本願発明の「前記熱輸送媒体と接触する部分がアルミニウムを含む部材で構成され、前記電池との熱交換によって前記熱輸送媒体を受熱させる受熱部」とは、「前記熱輸送媒体と接触する部分を有し、前記電池との熱交換によって前記熱輸送媒体を受熱させる受熱部」という限りにおいて一致する。
更に、引用発明の「前記冷却液と熱交換し、前記冷却液から放熱させるラジエータ16c」は、車両に設けられるラジエータ16cが車両の外部の空気との熱交換によって冷却液を放熱させるものであるから、本願発明の「前記熱輸送媒体と接触する部分がアルミニウムを含む部材で構成され、前記車両の外部の空気(21)との熱交換によって前記熱輸送媒体を放熱させる放熱器」と、「前記熱輸送媒体と接触する部分を有し、前記車両の外部の空気との熱交換によって前記熱輸送媒体を放熱させる放熱器」という限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。

〔一致点〕
「車両に搭載される車両用熱マネジメントシステムであって、
外部電源から供給される電力の充電が可能に構成され、充放電に伴い発熱する車両走行用の電池と、
前記電池から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体と、
前記熱輸送媒体と接触する部分を有し、前記電池との熱交換によって前記熱輸送媒体を受熱させる受熱部と、
前記熱輸送媒体と接触する部分を有し、前記車両の外部の空気との熱交換によって前記熱輸送媒体を放熱させる放熱器とを備える、車両用熱マネジメントシステム。」

〔相違点1〕
本願発明においては、受熱部及び放熱器の熱輸送媒体と接触する部分が「アルミニウムを含む部材」であるのに対して、引用発明においては、ヒートシンク11a及びラジエータ16cの材質が不明である点。

〔相違点2〕
熱輸送媒体に関して、本願発明においては、「水を含む液状の基材と、前記基材に相溶するオルト珪酸エステルとを含み、かつ、イオン性防錆剤を含まず、前記オルト珪酸エステルは、前記熱輸送媒体の全体に対するケイ素の濃度が、2000質量ppmより高く10000質量ppm以下」であるのに対して、引用発明においては、具体的に特定されていない点。

上記相違点1及び上記相違点2について検討する。
ラジエータや、電池と冷却液との熱交換を行う部分をアルミニウムを含む材料で形成することは、当業者にとって従来周知の技術である(以下「周知技術1」という。例えば、引用文献2記載事項、特開2018−60594号公報の段落【0027】−【0032】及び図5(d)等、特開2018−200785号公報の段落【0029】等、及び、特開2006−216303号公報の段落【0077】−【0080】等を参照。なお、これらの文献は、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3、6及び7である。)。
また、アルミニウムが腐食しないようにするために、オルト珪酸エステルを腐食抑制剤として含む冷却液を用いることは、従来周知の技術である(以下「周知技術2」という。例えば、引用文献2記載事項及び引用文献8記載事項を参照。)。
そうすると、引用発明において、ラジエータ16c及びヒートシンク11aをアルミニウムを含む材料で形成することは、当業者が通常行うことであって、その際、アルミニウムが腐食しないようにするために、オルト珪酸エステルを腐食抑制剤として含む冷却液として引用文献2記載事項で示されるものを用いることは、当業者が容易になし得たことである。また、テトラエトキシシラン化合物を、冷却液の全体に対するケイ素の濃度としてどの程度含ませるかは、所望の腐食抑制効果が得られるように、当業者が適宜最適化し得るものにすぎない(例えば、引用文献8の第2頁右下欄第1ないし10行及び第3頁右上欄第1ないし18行を参照すると、アルミニウムの腐食防止剤としてオルトケイ酸エステルを用いる際に、所定のケイ素濃度以上である場合に腐食抑制剤として有効であることが記載されている。)。
そして、本願発明において、「熱輸送媒体の全体に対するケイ素の濃度」を「2000質量ppmより高く10000質量ppm以下」という数値範囲に限定することに臨界的意義を有するものとも認められず、「2000質量ppmより高く10000質量ppm以下」に含まれる範囲とすることに格別の困難性も見いだせない。

以上より、引用発明において相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用文献2記載事項並びに周知技術1及び2から当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項並びに周知技術1及び2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項並びに周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 審判請求人の主張について
請求人は審判請求書において、
「引用文献8(特に3ページ右上欄1行−18行を参照)の「4000ppmより多いと経済的な見地から余りに高価である」との記載に触れた当業者であれば、ケイ素の濃度を高濃度側にシフトさせることは、コストの増大につながることが、容易に理解できる。このため、審査官の指摘通り、ケイ素の濃度を「コストを考慮して」設定する場合、当業者は、引用文献4に記載の「2〜2000質量ppm」を、コスト増大につながる、高濃度側にシフトさせないと考えることが自然である。よって、引用文献4のケイ素の濃度を高濃度側にシフトさせることは、当業者が容易に想到し得たことではないと思料する。
また、引用文献8には、ケイ素の濃度が約25〜約4000ppmと記載されており、一見すると、「2000〜4000ppm」の範囲が、本願請求項1と重複しているかのように思われる。
しかし、引用文献8に記載のケイ素の濃度の数値は、水で希釈する前の濃度であり、熱伝達流体の回路に使用されているときの使用状態での濃度ではない。引用文献8において、熱伝達流体として使用されるときのケイ素の濃度は、不明である。これに対して、本願発明1に記載のケイ素の濃度の数値は、熱輸送媒体の回路に使用されているときの使用状態での濃度である。このため、引用文献8に記載のケイ素の濃度の数値範囲は、本願発明1に記載のケイ素の濃度の数値範囲と重複しておらず、引用文献8には、本願発明1に記載のケイ素の濃度の数値範囲は、記載も示唆もされていない。」
と主張している。

しかしながら、一般的に、添加物等は、その濃度(または量)が少なすぎると十分な効果が得られず、その濃度の増加と共に効果が上昇するものの、その濃度が高すぎると効果の上昇の鈍化あるいは添加物のコストの上昇等の弊害が生じることは、当業者にとって技術常識であり(例えば、引用文献8(特に第3頁右上欄第1ないし18行を参照。)の、自動車冷却器システムの熱伝達流体に腐食抑制剤として含有させるオルトケイ酸エステルのケイ素に関する、「オルトケイ酸エステルが約25ppmよりも少ないケイ素しか与えない場合には、作動不凍液中に希釈した場合に腐食抑制剤としての役割において有効ではないと予期される。オルトケイ酸エステルが4000ppmより多いケイ素を与える場合には、経済的見地から余りに高価であると予期される。」との記載を参照。)、コスト増大につながる高濃度側にシフトさせるかどうかは、コストの増大と所望の効果との関係を考慮して、当業者が適宜決定し得ることにすぎない。
また、引用文献8の第3頁右上欄第2ないし6行には、「水性腐食抑制熱伝達組成物は、使用場所において濃厚物を水で希釈することによって、組成物濃厚物から調製され得る。組成物濃厚物自体は、濃厚物の総重量に基づき約10重量%まで(好ましくは約2〜約8重量%)の水を含有できる。」と記載されており、仮にケイ素の濃度が約25〜約4000ppmである濃厚物において、その総重量の10重量%の水で希釈した場合には、熱輸送媒体としての使用状態におけるケイ素の濃度は、依然として2000ppmを超える部分を有し、本願発明における数値範囲と重複するものと認められ、本願発明の濃度範囲は通常採用される範囲内のものでしかない。

したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-02 
結審通知日 2022-06-07 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2018-243349
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01P)
P 1 8・ 573- Z (F01P)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 正章
特許庁審判官 沼生 泰伸
山本 信平
発明の名称 車両用熱マネジメントシステム、熱輸送媒体、および車両走行用の電池の冷却方法  
代理人 特許業務法人ゆうあい特許事務所  

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