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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1388142 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-10-06 |
確定日 | 2022-08-12 |
事件の表示 | 特願2018−528840「偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月25日国際公開、WO2018/016542〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2018−528840号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)7月19日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年7月20日)を国際出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年12月25日付け:拒絶理由通知書 令和3年 3月 4日付け:意見書 令和3年 3月 4日付け:手続補正書 (この手続補正書による補正を、以下「本件補正」ということがある。) 令和3年 6月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和3年10月 6日付け:審判請求書 2 本願発明 本件出願の請求項1〜7に係る発明は、それぞれ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のものである。 「【請求項1】 ポリビニルアルコールフィルムに対して、少なくとも膨潤工程、染色工程および延伸工程を施す偏光フィルムの製造方法であって、 原料として乾燥厚みBが0.001mm以上0.045mm以下であるポリビニルアルコールフィルムを用い、 前記工程のうち少なくとも一つにおいて、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬した後、水から取り出して前記フィルムの両面から両端部に付着した水を除去する際に、前記フィルムが水から出る位置から水が除去される位置までの距離Aを28mm以下とするとともに、前記フィルムを一対のスポンジロールでニップすることによって前記フィルムの両端部に付着した水を除去し、 前記スポンジロールの保水率が50%以上95%以下であることを特徴とする偏光フィルムの製造方法。」 3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 ●理由1:(進歩性)本件出願の請求項1〜7に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の文献に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2015−102615号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載 引用文献1(特開2015−102615号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 厚みが65μm以下である長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させながら、膨潤浴に浸漬した後に引き出す膨潤処理と、染色浴に浸漬した後に引き出す染色処理と、架橋浴に浸漬した後に引き出す架橋処理とを施して長尺の偏光フィルムを製造する方法であって、 膨潤浴、染色浴及び架橋浴からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対して、その両面における幅方向両端部の液付着量を低減させる処理を施す、偏光フィルムの製造方法。 ・・・中略・・・ 【請求項3】 前記液付着量を低減させる処理は、前記少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対してロール又はバーを接触させる処理を含む、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。 【請求項4】 前記液付着量を低減させる処理を前記幅方向両端部のみに対して行う、請求項2又は3に記載の偏光フィルムの製造方法。 ・・・中略・・・ 【請求項6】 前記液付着量を低減させる処理を施したフィルムを、フラットロールを用いて搬送する、請求項4に記載の偏光フィルムの製造方法。 【請求項7】 前記少なくとも1つの処理浴から引き出された直後のフィルム幅が該処理浴に浸漬される前のフィルム幅以下になるように、該処理浴中で延伸処理を施す、請求項6に記載の偏光フィルムの製造方法。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、偏光板の構成部材として用いることのできる偏光フィルムの製造方法に関する。 【背景技術】 ・・・中略・・・ 【0004】 近年では、市場において液晶表示装置の大型化、薄型化、軽量化、原材料の低コスト化等を求める傾向があり、これに伴い偏光フィルムの幅広化や薄膜化を達成できる製造方法が開発されている。」 (3)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上記のように、より薄い偏光フィルムが求められているが、この要求を満たすべく原料フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムとして厚みが薄いものを用いると、当該フィルムを処理浴から引き出したとき、フィルムの幅方向両端部に付着した液の表面張力によって両端部が内側へ丸く折れ曲がるカールや、カールが強く、内側へカールした部分がフィルム内側部分とくっついた状態となる折れ込みが生じるという問題がある。また、カールや折れ込みが発生したフィルムは、その後ニップロールを通過するときや延伸処理を施すときなどに折れ目ができたり、折れ目で裂けたり、破断が生じたりすることもある。 【0007】 そこで本発明の目的は、薄いポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する方法において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向両端部に発生するカールや折れ込みを抑制することのできる製造方法を提供することにある。」 (4)「【発明を実施するための形態】 【0021】 <偏光フィルムの製造方法> 本発明において偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素(ヨウ素や二色性染料)が吸着配向しているものである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。 ・・・中略・・・ 【0023】 本発明では、偏光フィルム製造の開始材料として、厚みが65μm以下、好ましくは約10〜50μm、より好ましくは約10〜35μmの未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いる。原反フィルムの厚みが65μmより厚い場合には、フィルムの機械的強度が十分に高いため、フィルムを処理浴から取り出した後に生じるフィルム幅方向端部のカールや折れ込みはほとんど発生しない。 ・・・中略・・・ 【0027】 以下、図1を参照しながら、本発明に係る偏光フィルムの製造方法についてより詳細に説明する。本発明に係る偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルム製造装置の一例を模式的に示す断面図である。図1に示される偏光フィルム製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10を、繰出しロール11から連続的に巻き出しながらフィルム搬送経路に沿って搬送させることにより、膨潤浴13、染色浴15、架橋浴17及び洗浄浴19を順次通過させ、最後に乾燥炉21を通るように構成されている。得られた偏光フィルム23は、例えば、そのまま次の偏光板作製工程(偏光フィルム23の片面又は両面に保護フィルムを貼合する工程)に搬送することができる。 ・・・中略・・・ 【0030】 また、図1に示される偏光フィルム製造装置は、各処理浴の前後にニップロールが配置されており(ニップロール50〜54)、これにより、いずれか1以上の処理浴中で、その前後に配置されるニップロール間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸を実施することが可能になっている。 【0031】 処理浴が引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、その両面に処理液が付着した状態で処理浴から引き出される。本発明では、上述のカールや折れ込みを抑制すべく、膨潤浴13、染色浴15及び架橋浴17からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して、その両面における幅方向両端部の液付着量を低減させる処理を行う。以下、各処理工程について説明する。 【0032】 (膨潤処理) 膨潤処理は、原反フィルム10表面の異物除去、原反フィルム10中の可塑剤除去、易染色性の付与、原反フィルム10の可塑化等の目的で行われる。 ・・・中略・・・ 【0040】 (染色処理) 染色処理は、膨潤処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着、配向させる等の目的で行われる。 ・・・中略・・・ 【0046】 (架橋処理) 架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(フィルムが青味がかるのを防止する等)などの目的で行う処理である。 ・・・中略・・・ 【0054】 (洗浄処理) 本発明の製造方法は、架橋処理後の洗浄処理を含むことができる。洗浄処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分なホウ酸やヨウ素等の薬剤を除去する目的で行われる。」 (5)「【0057】 (ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向両端部の液付着量を低減させる処理) 本発明では、上述のカールや折れ込みを抑制すべく、膨潤浴13、染色浴15及び架橋浴17からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して、その両面における幅方向両端部の液付着量を低減させる処理を行う。フィルムの幅方向両端部とは、好ましくは両端部合計でフィルム幅全体の2〜20%程度である。幅方向両端部の液付着量を低減させる処理は、例えば次の1)〜3)の方法によって行うことができる。 【0058】 1)少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両面に対してガスを吹き付けることにより、少なくともフィルム幅方向両端部の表面に付着した液を除去して液付着量を低減させる方法。図1は、この方法を用いて液付着量を低減させる処理を行う例を示しており、ガス吹き付け装置60及び61を用いて、膨潤浴13から引き出されたフィルムの両面における幅方向両端部にガスを噴射して当該両端部の表面に付着した液を除去している。 ・・・中略・・・ 【0063】 2)少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両面にロール又はバーを接触させる(押し当てる)ことにより、少なくともフィルム幅方向両端部の表面に付着した液をこのロール又はバーで落として液付着量を低減させる方法。 【0064】 処理浴から引き出されたフィルムがニップロール(例えば図1におけるニップロール51)を通過する場合、このロール又はバーとの接触処理は、このニップロールを通過する前に実施する。また、処理浴から引き出されたフィルムがガイドロール(例えば図1におけるガイドロール32)をまず通過し、その後にニップロール(例えば図1におけるニップロール51)を通過する場合、このロール又はバーとの接触処理は、このガイドロールを通過する前、及びこのガイドロールとこのニップロールとの間の双方で実施してもよいし、これらのいずれか一方のみで実施してもよい。好ましくは、少なくとも上記ガイドロールを通過する前に実施する。より好ましくは、このロール又はバーとの接触処理は、少なくとも処理浴の液面から引き出された直後のフィルムに対して実施する。 【0065】 フィルム幅方向両端部の表面に接触させるロールは、例えばクロスガイダーのような、処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む一対のロールであることができる。この一対のロール間を通ったフィルムは、ロールに接触した表面領域において、付着した液が剥ぎ落される。一方、フィルム幅方向両端部の表面に接触させるバーは、ロールのようなそれ自身が回転するものではない、処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む、もしくは片面ずつ順にフィルムと接触される一対の棒状物である。このようなバーを用いる場合においても、バー間を通ったフィルムは、バーに接触した表面領域において、付着した液が剥ぎ落される。 【0066】 上記ロール及びバーにおけるフィルムと接触する表面は、例えばステンレス等の金属で構成されていてもよく、ゴム、スポンジ等で構成されていてもよい。ロール及びバーの形状は、フィルムに接触する面が曲面状となっていればよいが、好ましくは円筒形である。円筒状のロール又はバーを用いる場合、その径は5〜100mm程度、好ましくは10〜50mmである。径がこの範囲であれば滑らかにフィルムを搬送することが可能となる。 【0067】 処理浴から引き出されたフィルムのカールや折れ込みを抑制するためには、フィルム両面における幅方向両端部のみにロール又はバーを接触させる処理を行えば十分であるが、幅方向両端部に加えて、他のフィルム表面領域にも当該接触処理を併せて実施することもできる。例えば、フィルム両面の全体に当該接触処理を行ってもよい。ロール及びバーの設置角度は特に制限されず、ロール及びバーの長手方向はフィルム幅方向と平行であってもよいし、フィルム幅方向に対して傾斜していてもよい。 【0068】 3)少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをニップロールに導入し、フィルム表面に付着した液をこのニップロールで落として液付着量を低減させる方法。この方法においては通常、フィルム両面の全体に付着した液が剥ぎ落される。この方法に従う例を図2に示す。 【0069】 図2では、膨潤浴13から引き出されたフィルムをニップロールに導入する例を示している。図2(a)の例では、膨潤浴13から引き出されたフィルムをまずガイドロールによってその搬送方向を変え、その後、地面に対して水平に設置されたニップロールに導入している。図2(b)の例では、膨潤浴13から引き出されたフィルムを、地面に対して水平に設置されたニップロールに直接導入している。いずれの例においても、ニップロールが地面に対して水平に配置されていることにより、フィルムに付着した液がフィルム幅方向両端部に流れ込むことを防止できるため、フィルム両端部のカールや折れ込みをより効果的に抑制することができる。 ・・・中略・・・ 【0071】 図1には、膨潤浴13から引き出されたフィルムについて液付着量を低減させる処理を施した例を示しているが、当該処理は、膨潤浴13、染色浴15及び架橋浴17からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対して行うことができる。 ・・・中略・・・ 【0072】 概して処理浴の温度が高いほどカールや折れ込みが生じやすいが、本発明によれば、処理浴の温度が比較的高い場合であってもフィルム両端部のカールや折れ込みを効果的に抑制することができる。 ・・・中略・・・ (延伸工程) 上述のように原反フィルム10は、上記一連の処理工程の間(すなわち、いずれか1以上の処理工程の前又は工程中)に、湿式又は乾式にて一軸延伸処理される。一軸延伸処理の具体的方法は、例えば、フィルム搬送経路を構成する2つのニップロール(例えば、処理浴の前後に配置される2つのニップロール)間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、特許第2731813号公報に記載されるような熱ロール延伸、テンター延伸等であることができ、好ましくはロール間延伸である。一軸延伸処理工程は、原反フィルム10から偏光フィルム23を得るまでの間に複数回にわたって実施することができる。 【0073】 原反フィルム10を基準とする、偏光フィルム23の最終的な累積延伸倍率は通常、4.5〜7倍程度であり、好ましくは5〜6.5倍である。」 (6)「【実施例】 ・・・中略・・・ 【0089】 <実施例1> 3つの架橋浴17(以下では、1つ目の架橋浴を17aといい、2つ目の架橋浴を17bといい、3つ目の架橋浴を17cという。)を用いたこと以外は図1に示される偏光フィルム製造装置と同様の装置を用いて偏光フィルムを製造した。ガイドロール30〜41にはすべてフラットロールを使用した。 【0090】 まず、厚み30μmのポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名「クラレポバールフィルムVF−PE#3000」、重合度2400、ケン化度99.9モル%以上〕を連続的に搬送し、20℃の純水が入った膨潤浴13に30秒間浸漬した。この膨潤処理では、膨潤浴13から引き出された直後のフィルム幅が膨潤浴13浸漬前のフィルム幅以下になるように、ニップロール50,51間に周速差をつけてロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。原反フィルム10を基準とする延伸倍率は2.5倍とした。 【0091】 膨潤浴13から引き出されたフィルムに対し、ガイドロール32の手前に設置されたガス吹き付け装置60(エアー噴射ノズル)及びガイドロール32とニップロール51との間に設置されたガス吹き付け装置61(エアー噴射ノズル)を用いて、フィルム両面における幅方向両端部にエアーを噴射して、そこに付着していた液を除去した。 【0092】 次に、ニップロール51を通過したフィルムを、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水が重量比で0.05/2/100である30℃の染色浴15に120秒間浸漬した。この染色処理においても、染色浴15から引き出された直後のフィルム幅が染色浴15浸漬前のフィルム幅以下になるように、ニップロール51,52間に周速差をつけてロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。原反フィルム10を基準とする膨潤処理及び染色処理における累積の延伸倍率は、2.7倍とした。 【0093】 次に、耐水化を目的とする第1の架橋処理を施すため、ニップロール52を通過したフィルムを、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/4.4/100である55℃の架橋浴17aに30秒間浸漬した。この第1の架橋処理においても、架橋浴17aから引き出された直後のフィルム幅が架橋浴17a浸漬前のフィルム幅以下になるように、ニップロール52と、架橋浴17aと架橋浴17bとの間に設置されたニップロールとの間に周速差をつけてロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。原反フィルム10を基準とする膨潤処理、染色処理及び第1の架橋処理における累積の延伸倍率は、5.5倍とした。 【0094】 次いで、第1の架橋処理後のフィルムを、架橋浴17aと同一組成である59℃の架橋浴17bに30秒間浸漬した後(第2の架橋処理)、色相調整を目的とする架橋処理を施すため、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で9/2.9/100である40℃の架橋浴17cに15秒間浸漬した(第3の架橋処理)。 【0095】 その後、第3の架橋処理後のフィルムを5℃の純水が入った洗浄浴19に浸漬し、次いで乾燥炉21を通過させることにより70℃で3分間乾燥させて、偏光フィルム23を作製した。 【0096】 以上の偏光フィルム製造を連続して24時間実施したところ、染色浴15にてフィルム両端部に折れ込みが生じ、この状態でニップロール52を通過することにより、フィルム端部に折れ目ができ、フィルムの破断が生じた。ただし、このフィルムの切断は、24時間の稼働中、1回のみであった。」 (7)「【図1】 」 (当合議体中:便宜上、90度時計回りに回転して摘記した。) (8)「【図2】 」 2 引用発明 引用文献1の特許請求の範囲には、請求項1、3、4、6を直接ないし間接的に引用する請求項7に係る偏光フィルムの製造方法の発明が記載されているところ、当該発明(幅方向両端部の液付着量を低減させる処理が、ロールを接触させる処理である態様の発明)を具現化した発明が、同文献の【0063】〜【0067】等に記載されている。 また、引用文献1の請求項1の「厚みが65μm以下である」における「厚み」は、引用文献1の【0023】の記載によれば、偏光フィルム製造の開始材料、すなわち、「原反フィルム」の厚みを意味していると理解される。 以上によれば、引用文献1には、次の「偏光フィルムの製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「原反フィルムの厚みが65μm以下である長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させながら、膨潤浴に浸漬した後に引き出す膨潤処理と、染色浴に浸漬した後に引き出す染色処理と、架橋浴に浸漬した後に引き出す架橋処理とを施して長尺の偏光フィルムを製造する方法であって、 膨潤浴、染色浴及び架橋浴からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対して、その両面における幅方向両端部のみに対して液付着量を低減させる処理として、前記少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対してロールを接触させる処理を施し、 前記処理浴から引き出されたフィルムがガイドロールをまず通過し、その後にニップロールを通過し、前記ロールを接触させる処理は、このガイドロールを通過する前、及びこのガイドロールとこのニップロールとの間の双方で実施するものであり、 フィルム幅方向両端部の表面に接触させるロールは、処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む一対のロールであって、この一対のロール間を通ったフィルムは、ロールに接触した表面領域において、付着した液が剥ぎ落されるものであり、 前記フィルム両面における幅方向両端部のみにロールを接触させる処理は、処理浴から引き出されたフィルムのカールや折れ込みを抑制するためのものであり、 前記少なくとも1つの処理浴から引き出された直後のフィルム幅が該処理浴に浸漬される前のフィルム幅以下になるように、該処理浴中で延伸処理を施すものであり、 前記液付着量を低減させる処理を施したフィルムを、フラットロールを用いて搬送する、偏光フィルムの製造方法。」 3 対比及び判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。 ア 偏光フィルム 引用発明の「偏光フィルム」は、その文言が示すとおり、本願発明1の「偏光フィルム」に相当する。 イ ポリビニルアルコールフィルム 引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」は、「搬送させながら、膨潤浴に浸漬した後に引き出す膨潤処理と、染色浴に浸漬した後に引き出す染色処理と、架橋浴に浸漬した後に引き出す架橋処理とを施して長尺の偏光フィルムを製造する」ものである。 ここで、本願発明1の「ポリビニルアルコールフィルム」について、本件出願の明細書の発明の詳細な説明(以下「本件明細書等」という。)には、「本発明において、PVAフィルムの製造に用いられるPVAは・・・中略・・・酢酸ビニル、・・中略・・・等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化する方法等によって製造することができる。・・・中略・・・前記ビニルエステルの中でも・・・中略・・・酢酸ビニルがより好ましい。」(【0014】)と記載されている(当合議体注:「PVAフィルム」は、「ポリビニルアルコールフィルム」のことである。)。他方、引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」について、引用文献1には、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。」(【0021】)と記載されている。 以上の記載に照らせば、引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」は、実質的に、本願発明1の「ポリビニルアルコールフィルム」に相当する。 ウ 膨潤工程、染色工程および延伸工程 引用発明の「膨潤処理」は、「偏光フィルムの製造方法」において、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」を「膨潤浴に浸漬した後に引き出す」という処理工程である。また、引用発明の「染色処理」は、「偏光フィルムの製造方法」において、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」を「染色浴に浸漬した後に引き出す」という処理工程である。 そうすると、引用発明の「膨潤処理」(工程)及び「染色処理」(工程)は、技術的にみて、それぞれ本願発明1の「膨潤工程」及び「染色工程」に相当する。 また、引用発明の「製造方法」は、「少なくとも1つの処理浴から引き出された直後のフィルム幅が該処理浴に浸漬される前のフィルム幅以下になるように、該処理浴中で延伸処理を施す」工程を含むところ、引用発明の前記「少なくとも1つの処理浴」は、「膨潤浴、染色浴及び架橋浴からなる群から選択される」ものであるから、引用発明の「膨潤処理」工程及び「染色処理」工程のいずれかの工程が、延伸処理も並行して行う工程といえる。 そうすると、引用発明の「膨潤処理」(工程)及び「染色処理」(工程)のうちのいずれかの工程は、実質的にみて、本願発明1の「延伸工程」にも相当する。 エ 水を除去する工程 例えば、本件出願の明細書の【0037】には、「なお、水に浸漬する際の水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合物であってもよい。」と記載されている。当該記載によれば、本願発明1の「水」とは、純水に限らず、各種成分を溶解した水溶液を含んだ意味である理解される。 したがって、引用発明の「付着した液」を「剥ぎ落と」す工程は、本願発明1の「水を除去」する工程に相当するといえる。 また、引用発明の「剥ぎ落と」す工程においては、「膨潤浴、染色浴及び架橋浴からなる群から選択される少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対して、その両面における幅方向両端部のみに対して液付着量を低減させる処理として、前記少なくとも1つの処理浴から引き出されたフィルムに対してロールを接触させる処理を施し、」「フィルム幅方向両端部の表面に接触させるロールは、処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む一対のロールであって、この一対のロール間を通ったフィルムは、ロールに接触した表面領域において、付着した液が剥ぎ落される」。 上記工程の詳細及び上記ア〜イの対比結果からみて、「水を除去」する工程において、本願発明1と引用発明とは、「膨潤工程、染色工程および延伸工程のうち少なくとも一つにおいて、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬した後、水から取り出して前記フィルムの両面から両端部に付着した水を除去する際に、」「前記フィルムを一対のロールでニップすることによって前記フィルムの両端部に付着した水を除去し」という点で共通する。 オ 距離A 上記エに示したとおり、引用発明は、本願発明1の「水から取り出して前記フィルムの両面から両端部に付着した水を除去する際に、」「前記フィルムを一対の」「ロールでニップする」との構成を具備するのであるから、引用発明においても、本願発明1における「フィルムが水から出る位置から水が除去される位置までの距離A」に相当する距離を観念することができる。 カ 偏光フィルムの製造方法 引用発明は、「原反フィルムの厚みが65μm以下である長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させながら、膨潤浴に浸漬した後に引き出す膨潤処理と、染色浴に浸漬した後に引き出す染色処理と、架橋浴に浸漬した後に引き出す架橋処理とを施して長尺の偏光フィルムを製造する方法」の発明である。 引用発明の「偏光フィルムの製造方法」の発明の全体構成及び上記ア〜オの対比結果を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、「ポリビニルアルコールフィルムに対して、少なくとも膨潤工程、染色工程および延伸工程を施す偏光フィルムの製造方法であって、原料としてポリビニルアルコールフィルムを用い、前記工程のうち少なくとも一つにおいて、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬した後、水から取り出して前記フィルムの両面から両端部に付着した水を除去する際に、前記フィルムを一対のロールでニップすることによって前記フィルムの両端部に付着した水を除去する偏光フィルムの製造方法。」という点で共通する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は、上記「(1)カ」に示した点で一致する。 イ 相違点 本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。 (相違点1) 「原料」となる「ポリビニルアルコールフィルム」(原反フィルム)が、本願発明1では、「乾燥厚みBが0.001mm以上0.045mm以下である」のに対して、引用発明では、「原反フィルムの厚みが65μm以下である」点。 (相違点2) 「水を除去する」工程について、本願発明1では、「フィルムが水から出る位置から水が除去される位置までの距離Aを28mm以下とするとともに、前記フィルムを一対のスポンジロールでニップすることによって前記フィルムの両端部に付着した水を除去し、前記スポンジロールの保水率が50%以上95%以下である」のに対して、引用発明では、[A]一対のロールが上記数値範囲の保水率を具備したスポンジロールであること及び[B]距離Aがどの程度であるかが特定されていない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用発明の「原反フィルム」に関して、引用文献1には、「本発明では、偏光フィルム製造の開始材料として、厚みが65μm以下、好ましくは約10〜50μm、より好ましくは約10〜35μmの未延伸のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(原反フィルム)を用いる。」(【0023】)と記載されている。 上記記載に基づいて、引用発明の「原反フィルム」として、より好ましいとされる「約10〜35μm」(0.01mm〜0.035mm)の厚みのフィルムを採用することは当業者が容易に想到し得たことである。 ところで、引用文献1の上記箇所には、原反フィルムの上記「厚み」が「乾燥厚み」であることは特定されていない。しかしながら、上記「厚み」として、例えば30μm(0.03mm)(引用文献1の実施例1で用いられている原反フィルムの厚み)を採用した場合、その乾燥厚みが本願発明1の下限値(0.001mm)を下回ることはないと考えられる。 イ 相違点2について (ア)スポンジロール(相違点2の[A]) 引用発明の「ロール」について、引用文献1には、「ロール及びバーにおけるフィルムと接触する表面は、例えばステンレス等の金属で構成されていてもよく、ゴム、スポンジ等で構成されていてもよい。」(【0066】)と記載されている。 上記記載に接した当業者であれば、引用発明の「ロール」の材質として、明示的に選択肢の1つとして列挙された、スポンジを選択してみることは、まず試みることであって、一般的に金属やゴムと比較して、保水性に優れるスポンジを選択するからには、「ロールに接触した表面領域において、付着した液が剥ぎ落とす」というロールを設ける目的に照らし、水を効率的に除去できるよう、その保水率を最適化することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件出願の明細書の発明の詳細な説明をみても、本願発明1に係る「スポンジロールの保水率」の数値範囲とすることによる、効果上の臨界的意義も認められない。 (イ)距離A(相違点2の[B]) 引用文献1の【0006】には、カール及び折れ込み等が発生する作用機序について、「フィルムを処理浴から引き出したとき、フィルムの幅方向両端部に付着した液の表面張力によって両端部が内側へ丸く折れ曲がるカールや、カールが強く、内側へカールした部分がフィルム内側部分とくっついた状態となる折れ込みが生じるという問題がある。また、カールや折れ込みが発生したフィルムは、その後ニップロールを通過するときや延伸処理を施すときなどに折れ目ができたり、折れ目で裂けたり、破断が生じたりすることもある。」と記載されている(以下、上記下線部の作用機序を「本件機序」という。)。 上記記載から、当業者は、偏光フィルムの製造方法において発生するカールや折れ込み等は、フィルムの幅方向両端部に付着した液の表面張力に起因して発生する現象であることを直ちに認識する。そして、ひとたび上記認識に至った当業者が、引用文献1の「より好ましくは、このロール又はバーとの接触処理は、少なくとも処理浴の液面から引き出された直後のフィルムに対して実施する。」(【0064】、下線は当合議体が付したものである。)との記載に接すれば、引用発明の「処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む一対のロール」の設置位置を、フィルムが処理液から出る位置に可能な限り近接した位置にして、カールや折れ込み等の不具合が発生する前に可能な限り速やかに、前記フィルムに付着した液を除去することは自然な解決策といえる。 ところで、上記解決策においては、引用発明の上記「ロール」の設置位置を、フィルムが処理液から出る位置からどの程度近接した位置とすべきか、すなわち、距離Aをどの程度とすべきかが問題となる。しかしながら、本件機序に照らせば、引用発明において、距離Aに特段の下限値は想定されていないと理解するのが自然である。そして、架橋浴17の処理液面の近傍に引用発明の「一対のロール」を設置することが技術的に困難であるとの事情も存在しない。 そうしてみると、フィルムにカールや折れ込みが発生するリスクを軽減するために、引用発明において、距離Aを実験的に最適化し、相違点2に係る本願発明の構成を満たす距離とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (4)発明の効果 本件出願の明細書の【0011】には、発明の効果として、「本発明の製造方法によれば、薄いPVAフィルムを用いた場合であっても延伸時や乾燥時などにフィルムの破断が発生しにくく、偏光性能に優れた偏光フィルムを容易に製造することができる。」と記載されている。 しかしながら、上記効果は、当業者が引用発明から容易に想到し得る発明(構成)が奏する効果であって、本件機序からみて、当業者が予想し得る範囲内のものであって、かつ、顕著なものでもない。 なお、距離Aの数値限定に基づく効果については、後記(5)で詳述する。 (5)審判請求人の主張 ア 主張の内容 審判請求人は、令和3年10月6日付け審判請求書(4頁〜7頁)において、概略、以下の点を主張する。 (ア)引用文献2(特開2004−109698号公報)の[0013]及び[0025]の記載並びに引用文献1の実施例におけるガス吹き付け装置60やバーとガイドロール32との位置関係(図1)の記載等に照らせば、引用文献1の【0064】の「このロール又はバーとの接触処理は、少なくとも処理浴の液面から引き出された直後のフィルムに対して実施する。」における「直後」とは、通常、50mm程度であって、本願発明1で規定された「水から出る位置から水が除去される位置までの距離Aを28mm以下」というような、液面から極めて近い位置を示してはいないと考えられる点。 (イ)フィルムの幅方向両端部の液付着量を低減させる処理として、引用文献1に記載された3つの方法のうち、「3)少なくとも1つの処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをニップロールに導入し、フィルム表面に付着した液をこのニップロールで落として液付着量を低減させる方法が、本発明で用いられる「前記フィルムを一対のスポンジロールでニップする」方法と最も近いものであると考えられ、引用文献1には、1)、2)の方法について「少なくとも処理浴の液面から引き出された直後のフィルムに対して実施する。」(引用文献1の[0059]、[0064])と記載されているが、3)のニップロールを用いる方法についてこのような記載がない点。 (ウ)本願実施例には、一対のスポンジロールでニップすることによって水を除去する際に、フィルムが水から出る位置から水が除去される位置までの距離Aを20、25又は10mmとした場合(実施例2〜4)、フィルムの端部に折れ込みが発生しなかったのに対して、距離Aが30mmの場合(比較例3)、折れ込みが多数発生したことが示されている(本件出願の明細書[0073]、表1)ことから、距離Aの僅かな違いによって効果に大きな差が生じるという点。 イ 判断 上記主張について検討する。 (ア)上記主張(ア)について 引用文献2には、次の記載がある。 「第1〜第3水切りローラ対11〜13は、配置位置を変更することができ、PVAフィルム6が各槽7〜9を通過後10秒以内、好ましくは5秒以内、さらに好ましくは3秒以内、最も好ましくは各槽7〜9を通過した直後(例えば0.5秒)に到達する位置に配置される。したがって、PVAフィルム6の搬送速度Vに応じて、各槽7〜9の液体表面から第1〜第3水切りローラ対11〜13までの距離Dを決定する。例えば、PVAフィルム6の搬送速度Vが100mm/sの場合には、各槽7〜9の液体表面から1000mm以内に第1〜第3水切りローラ対11〜13を配置する。その際、好ましくは100mm以内、さらに好ましくは60mm以内に配置する。第1〜第3水切りローラ対11〜13の配置位置を変更することにより、PVAフィルム6の搬送速度、各槽7〜9の液面高さの変化に対応することができる。」(【0013】) 「なお、上記実施形態では、フィルムの搬送速度を100mm/sとし、各槽の液体面から各水切りローラ対までの距離を60mmとし、フィルムが各槽を通過して0.6秒後に各水切りローラ対に到達する構成にしたが、これに限定されることなく、搬送速度に応じて、10秒以内に到達する位置であれば、距離は適宜変更してもよく、フィルムが各槽を通過した直後(例えば0.5秒後)に到達する位置に水切りローラ対を配置することが最も好ましい。」(【0025】) 上記記載によれば、確かに、引用文献2の【0025】には、「搬送速度に応じて距離は適宜変更してもよく」との記載に続けて、「フィルムが各槽を通過した直後(例えば0.5秒後)に到達する位置に水切りローラ対を配置することが最も好ましい。」との記載があり、事情は明らかではないが、「直後」に何らかの下限値の存在を示唆する記載があることは否定できない。しかしながら、原査定の拒絶の理由は、引用発明に基づいて、当業者が本願発明1に容易に想到することができたというものである。そうすると、引用発明2において上記下限値を考慮すべき何らかの事情が、引用発明においても存在するのであれば格別、そのような事情を引用発明に見出すことはできない。すなわち、上記「(3)ウ(イ)」で検討したとおり、引用文献1の記載によれば、引用発明は、本件機序に着目したものであって、「処理浴から引き出されたフィルムのカールや折れ込みを抑制する」ことを目的とする発明であって、距離Aの下限値を特に意識すべき事情を見出すことはできない。かえって、引用文献2には、搬送速度に応じて距離は適宜変更してよいとの記載があるのであるから、当該技術分野において、搬送速度にかかわらず、「直後」の意味が50mm程度であるなどということはできない。 したがって、引用文献2の記載を根拠とした、引用文献1における「直後」の記載が、通常、50mm程度であるという主張は採用すべき理由がない。 (イ)上記主張(ウ)について 主張(ア)との技術的関連性に鑑み、主張(ウ)を先に検討する。 主張(ア)についての項でも述べたとおり、そもそも、搬送速度によって、水が除去されるまでの距離は異なり得るところ、距離を28mm以下としたからといって、搬送速度その他の条件が多種多様の場合についてまで、同じ効果が奏されるなどとはいえない。そして、明細書の発明の詳細な説明の実施例と比較例からは、小さければ小さいほどよいという定性的な事項が読み取れるにとどまり、28nmは、フィルムの厚み、搬送速度が特定の場合についての、単なる上限の目安にすぎず、28nm前後において効果に顕著な差が生じるとは認めがたい。 したがって、本願発明の実施例及び比較例から得られた実験結果が示す効果(本件出願の明細書【0084】【表1】における「距離A」と各種評価結果の相関関係)は、引用文献1に記載された本件機序を認識した当業者が予想可能な範囲のものであって、その効果の程度が格別顕著であるとまではいえない。 以上によれば、主張(ウ)は採用すべき理由がない。 (ウ)上記主張(イ)について 本願発明1の「フィルムを一対のスポンジロールでニップすること」は、その文言が示すとおり、一対の(スポンジ)ロールでニップする(「・・・をつまむ、つねる、はさむ」(ウィズダム英和辞典第3版(2013年)三省堂)を意味すると解される。他方、引用発明の「フィルム幅方向両端部の表面に接触させるロールは、処理浴から引き出されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをその両面から挟む一対のロールであ」る。 そうすると、引用文献1に記載された3つの方法のうち、いずれの方法が本願発明1の「フィルムを一対のスポンジロールでニップする方法」と最も近いものであるかはさておき、本願発明1の「フィルムを一対の(スポンジ)ロールでニップする方法」と、引用文献1の「2)の方法」に基づいて認定した引用発明と対比判断したことに誤りはない。 したがって、主張(イ)は採用すべき理由がない。 以上によれば、請求人の主張はいずれも採用すべき理由がない。 4 小括 本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-06-03 |
結審通知日 | 2022-06-07 |
審決日 | 2022-06-29 |
出願番号 | P2018-528840 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
松波 由美子 |
特許庁審判官 |
里村 利光 石附 直弥 |
発明の名称 | 偏光フィルムの製造方法 |
代理人 | 弁理士法人せとうち国際特許事務所 |