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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08G
管理番号 1388163
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-22 
確定日 2022-08-12 
事件の表示 特願2017−144300「混雑予測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年2月21日出願公開、特開2019−28526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月26日の出願であって、令和3年3月31日付け(発送日:令和3年4月6日)で拒絶の理由が通知され、同年6月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月5日付け(発送日:同年8月10日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年10月22日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年10月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年10月22日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の令和3年6月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
出発地から目的地まで移動体が移動する経路にて混雑の発生する区間を予測する混雑予測装置であって、
前記出発地から前記目的地までの移動に利用可能な複数の経路を取得する経路情報取得部と、
前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量を所定の分配割合で前記複数の経路に分配し、前記複数の経路ごとの交通量を示す経路交通量を算出する経路交通量予測部と、
前記経路交通量と、前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離または前記各区間を通過するのに要する時間である区間所要時間とに基づいて、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出する通過交通量予測部と、
前記時間帯毎区間毎交通量に基づいて各時刻における各区間の混雑レベルを算出する混雑予測部と、を有し、
前記経路交通量予測部は、前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間と前記区間の通行料金とが予測変数として入力され、各経路の選ばれやすさに関する効用を出力する効用関数を用いて、各経路の選択される確率を示す経路選択確率を算出し、前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量に前記経路選択確率を乗算することにより、前記複数の経路ごとの前記経路交通量を算出する、
混雑予測装置。」

(2)そして、本件補正は、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおり補正するものである(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。

「【請求項1】
出発地から目的地まで移動体が移動する経路にて混雑の発生する区間を予測する混雑予測装置であって、
前記出発地から前記目的地までの移動に利用可能な複数の経路を取得する経路情報取得部と、
前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量を所定の分配割合で前記複数の経路に分配し、前記複数の経路ごとの交通量を示す経路交通量を算出する経路交通量予測部と、
前記経路交通量と、前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離または前記各区間を通過するのに要する時間である区間所要時間とに基づいて、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出する通過交通量予測部と、
前記時間帯毎区間毎交通量に基づいて各時刻における各区間の混雑レベルを算出する混雑予測部と、を有し、
前記経路交通量予測部は、前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間と前記区間の通行料金とが予測変数として入力され、各経路の選ばれやすさに関する効用を出力する効用関数を用いて、各経路の選択される確率を示す経路選択確率を算出し、前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量に前記経路選択確率を乗算することにより、
前記複数の経路ごとの前記経路交通量を算出し、
前記通過交通量予測部は、前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間に基づき、前記経路に含まれる第1区間に進入した時刻に、当該第1区間の区間所要時間を加算した時刻を当該第1区間から出た時刻とし、当該第1区間から出た時刻を、前記経路において前記第1区間の次の区間である第2区間に進入した時刻とすることを前記経路に亘って実行することにより、前記経路交通量から前記時間帯毎区間毎交通量を算出する、
混雑予測装置。」

2.補正の適否
(1)独立特許要件について
本件補正は、本件補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであって、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「通過交通量予測部」について「前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間に基づき、前記経路に含まれる第1区間に進入した時刻に、当該第1区間の区間所要時間を加算した時刻を当該第1区間から出た時刻とし、当該第1区間から出た時刻を、前記経路において前記第1区間の次の区間である第2区間に進入した時刻とすることを前記経路に亘って実行することにより、前記経路交通量から前記時間帯毎区間毎交通量を算出」するとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2016−133843号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「交通調整支援装置、交通調整支援方法、およびコンピュータプログラム」に関して、図面(特に、図1ないし図5及び図9を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付したものである。)。

(ア)「【0005】
本発明の実施形態は、道路交通網における対象区域の混雑緩和とユーザの不満の低減を図りつつ、対象区域の交通調整を支援することを目的とする。
【0006】
本発明の実施形態に係る交通調整支援装置は、少なくとも1つの入口と、少なくとも1つの出口と、前記入口と前記出口とを結ぶ複数の経路とを含む対象区域に対する交通調整支援装置であって、流量チェック部と、スケジューリング処理部とを備える。
【0007】
前記流量チェック部は、前記入口から進入する車両の流量と前記出口から退出する車両の流量とに関する流量情報を取得する。
【0008】
前記スケジューリング処理部は、各経路に存在する車両の台数と各経路の特性とに応じて定まる各経路の混雑度と、各経路を走行する場合のドライバーの不満度と、各経路を走行させる車両の流量とを用いて定義される目的関数が予め定めた条件を満たすように、前記各経路を走行させる車両の流量を算出する。」

(イ)「【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る道路交通網の一例を示す。図1の道路交通網は、本実施形態に係る対象区域(対象交通網)と、その外側の非対象区域とを含む。対象区域内の道路は白抜きで、非対象区域の道路は斜線で表されている。対象区域と非対象区域の境界には、対象区域に対する入口および出口がある。図1では、この入口および出口を、半円状の周曲線で表している。第1の実施形態では、対象区域と非対象区域の境界に、入口および出口の両方があるが、入口および出口のいずれか一方のみがあってもかまわない。本例では、入口および出口ともそれぞれ複数存在するが、それぞれ少なくとも1つ存在すればよい。道路交通網内の丸で示された部分は、交差点などの合流地点を表す。各合流地点の間は道路区間を表す。
【0012】
図1において実線の矢印で示された経路A、ピッチの粗い破線の矢印で示された経路B、ピッチの細かい破線の矢印で示された経路Cは、入口2から出口7までの車両の走行経路の一例を表している。すなわち経路A、B、Cは、いずれも入口2と出口7間を結ぶ経路である。また、一点長鎖線で示された経路Hは、入口9から出口7までの走行ルートの一例を表している。対象区域または非対象区域にいる車両のドライバーに対し、道路交通管制センターにいるオペレーター等が、経路変更の誘導等、交通調整を行う状況を想定する。例えば、信号、道路標識、電光掲示板等の操作を行い、経路誘導や道路交通網への流入制御など(交通調整)を行うことができる。例えば経路Aの走行を予定していたドライバーは、オペレーターによる他の経路(経路Bまたは経路Cなど)への誘導により他の経路変更することができる。なお、実際に経路変更するか否かは、ドライバーの意思に従う。本実施形態に係る交通調整支援システムは、このような対象区域内の交通状況に応じて、道路交通網の混雑緩和とドライバーの不満低減とを図るような交通調整の案を算出して、オペレーターに提示することで、オペレーターによる交通調整の判断を支援しようとするものである。
【0013】
図2は、本実施形態に係る交通調整支援システムを示すブロック図である。図2の交通調整支援システムは、進入センサ101、退出センサ102、交通調整支援装置100、出力部109、入力部110を備える。交通調整支援装置100は、流量チェック部103、利用可能経路算出部104、経路選択情報格納部105、およびスケジューリング処理部120を備える。スケジューリング処理部120は、混雑度算出部106、不便度算出部107およびスケジューラ108を備える。」

(ウ)「【0015】
流量チェック部103は、流量情報格納部103Aを備える。流量チェック部103は、進入センサ101および退出センサ102の検知情報を取得し、情報格納部103Aに蓄積する。検知情報は、進入センサ101および退出センサ102から直接、有線または無線の通信により取得してもよいし、検知情報を収集する別のサーバから検知情報を取得してもよい。流量チェック部103は、進入センサ101および退出センサ102の検知情報に基づき、対象区域に入退出した車両の交通流量を表す情報(交通流量情報)を生成する。流量チェック部は、例えば一定時間ごとに、当該時間内に取得された検知情報から交通流量情報を作成してもよい。流量チェック部103は、生成した交通流量情報を流量情報格納部103Aに保存してもよい。
【0016】
図3は、交通流量情報の一例を示す。図3(A)が進入に係る交通流量情報、図3(B)が退出に係る交通流量情報を表す。進入に係る交通流量情報は、進入センサからの検知情報に基づき生成できる。退出に係る交通流量情報は、退出センサからの検知情報に基づき生成できる。図3の交通流量情報は、入退出の時刻と入口または出口の情報を保持しており、これによりいつの時刻または時間帯にどの程度の交通量(流量)があったかを表現できる。交通流量情報に、図3に示した以外の情報を含めてもよい。例えば、二輪車、大型車両(バスやトラックなど)、電気自動車といった車両の種類や、ナンバープレートの情報などの車両情報を含めてもよい。これらの情報は、進入センサ101および退出センサ102にカメラを搭載し、センサ通過時に撮影し、ナンバープレート等から読み取ってもよいし、車両と無線通信を行うことにより取得してもよい。また車両情報の一部として、無線通信により電池の種類や電池残量等の情報を車両(電気自動車)から取得してもよい。また、進入センサの検知情報および退出センサの検知情報に基づき、将来の交通流量の予測情報を生成し、予測情報を交通流量情報に含めてもよい。例えば、現在の交通流量が、続く将来の一定時間継続すると仮定して、将来の交通流量を予測してもよいし、その他公知の予測手法を用いてもよい。」

(エ)「【0017】
利用可能経路算出部104は、道路交通網に関する情報(全道路区間、全入口および出口の位置、各道路区間の距離、車線数、道路容量(後述)および平均走行速度など)を事前に保持している。あるいは、道路交通網に関する情報が記憶装置に保持されており、利用可能経路算出部104は、当該記憶装置にアクセスして当該情報を読み出してもよい。利用可能経路算出部104は、道路交通網に関する情報に基づき、対象区域の各入口から各出口までの経路を算出する。
【0018】
この際、利用可能経路算出部104は、流量チェック部103が生成した交通流量情報に含まれる入口と出口のみを考慮して、経路を算出してもよい。全入口から全出口までの経路を算出すると、経路数が多くなり、後述する各処理部(混雑度算出部106、不便度算出部107および算出部スケジュール部108)の処理負荷や処理時間が増大する可能性があるからである。例えば、図3の交通流量情報では、入口として入口2、入口2、入口9、入口5、出口として出口7、出口8、出口4、出口6のみが含まれる。この場合、入口と出口の組み合わせは、(2、7)、(2、8)、(2、4)、(2、6)、(9、7)、(9、8)、(9、4)、(9、6)、(5、7)、(5、8)、(5、4)、(5、6)の12通りとなり、利用可能経路算出部104は、上記各組み合わせの経路を算出する。なお、入口と出口が同じ組み合わせは、考慮しなくてよい。また、経路算出の際、個々に進入した車両が実際にどの出口に向かおうとするかは考慮する必要はない。このように、交通流量情報に含まれている入口と出口のみを対象に経路を算出することで、算出する経路数を少なくして、各処理部の処理負荷および処理時間を減らすことができる。当然、処理負荷や、処理時間の増大が問題にならなければ、対象区域のすべての入口とすべての出口を対象に、経路を算出することも可能である。
【0019】
経路選択情報格納部105は、各入口から進入する車両のドライバーが、当該入口に結合された経路のうちどの経路を選択するかの経路選択の可能性に関する経路選択情報を格納している。
【0020】
図4は、経路選択情報格納部105に格納される経路選択情報の一例を示す。図4の経路選択情報は、テーブルの形式を有し、車両が進入する入口、当該車両が走行する経路、当該車両が当該経路を走行する確率(経路選択確率)を含む。例えば、図4の一番上の行は、入口1から進入した車両は、50%の確率で、経路Jを走行することを意味する。また、2番目の行は、入口1から進入した車両は、50%の確率で経路Lを走行することを意味する。
【0021】
この経路選択情報は、過去の交通流量等の統計データから算出され、事前に格納されている。情報格納部103Aに蓄積した検知情報を利用して経路選択情報を生成してもよい。」

(オ)「【0022】
混雑度算出部106は、利用可能経路算出部104から情報(利用可能経路、交通流量、道路交通網の情報)を受け取り、当該情報と、経路選択情報格納部105の経路選択情報に基づき、混雑度算出処理を行う。混雑度算出処理では、対象区域に進入した車両が経路選択情報に従って経路を選択した場合(交通調整をしない場合)における各道路区間の混雑度を、一定時間間隔の各時間帯について算出する。また、経路選択情報に従わずに、車両の走行経路を指示し、その走行経路を走行する場合(すなわち、交通調整により経路を変更した場合)における当該混雑度の変化量を、各時間帯の各道路区間について算出する。以下、より詳細に説明する。
【0023】
まず、混雑度について説明する。混雑度は、対象となる道路区間がどの程度混雑しているかを表し、道路区間に存在する車両の台数と道路区間の特性とに応じて定まる。一例として、混雑度は、道路区間に存在する車両数(混雑量と呼ぶ)を、道路区間の特性の一例である道路区間の道路容量で割ったもので算出できる。道路容量は、車両の収容可能台数に関する能力を数値化したものであり、例えば、道路区間の距離または車線数などに応じた値を有する。車線数の場合、車線数が多いほど、道路容量は大きい値となる。道路容量は、利用可能経路算出部104から取得した道路交通網の情報などに含まれているものとする。上述した混雑度の算出は一例であり、他の方法で算出してもよい。例えば、対象となる道路区間に存在する車両数から道路容量を減算したものでもよい。この場合の混雑度を、特に突出量と呼ぶ。以下では、特に断りの無い限り、混雑度は、対象となる道路区間に存在する車両数(混雑量と呼ぶ)を、対象の道路区間の道路容量で割ったものを指し、突出量は、対象となる道路区間に存在する車両数から道路容量を減算したものを指すものとして説明を行う。
【0024】
混雑度算出部106は、対象区域に進入した車両が経路選択情報に従って経路を選択した場合における各道路区間の混雑度を算出するため、まず、各道路区間の混雑量を計算する。具体的に、進入に係る交通流量情報に含まれる1台の車両に対し、経路選択情報から、その車両が走行する経路毎の確率を判断し、確率に応じた車両数を経路毎に求める。例えば、図3(A)の進入に係る交通流量情報の一番上の行から、2014年11月18日6:00に入口2から進入した車両が存在することが分かる。経路選択情報から、入口2から進入したこの車両は、確率40%で経路Aを、確率60%で経路Bを選択する。そこで、経路Aに0.4台分の車両が、経路Bに0.6台分の車両が進入したと考える。このようにして、各経路に進入する車両数を求める。
【0025】
経路Aに進入した0.4台分の車両が、時間帯毎にどの道路区間に存在しているかを推定する。例えば、車両は一定時速で走行すると仮定し、各時間帯で経路Aのどの道路区間を走行しているかを算出する。走行速度は、その時間帯における各道路区間の平均走行速度を用いてもよい。この平均走行速度は、事前の統計により算出されているとする。また、高速道路であれば時速80km、市街地であれば時速60kmと定めてもよい。速度は、道路区間ごとに異なっていてもよい。また速度は、時間帯によって異なっていてもよい。このようにして、経路Aに進入した0.4台分の車両が、時間帯毎にどの道路区間に存在しているかを把握できる。同様に、経路Bに進入した0.6台分の車両が、時間帯毎にどの道路区間に存在しているかを把握できる。
【0026】
このような処理を、一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行うことで、対象の全車両がそれぞれ存在する位置を予測できる。そして、各道路区間に存在する車両数を足し合わせることで、各道路区間の混雑量を算出できる。混雑量を、該当する道路区間の道路容量で除算することで、当該道路区間の混雑度を算出する。
【0027】
図5は、混雑度算出部106が算出した各時間帯の各道路区間における混雑度の一例を示す。この混雑度は、対象区域に進入した車両が経路選択情報に従って経路を選択した場合(交通調整をしない場合)における混雑度である。この図では、7:00から7:30、7:30から8:00、8:00から8:30といったように、30分間隔で区切られた時間帯における各道路区間の混雑度を表している。各時間帯の幅は、任意で定めてよい。時間帯t(tは1からTまでの整数、Tは1以上の整数)における道路区間k(kは1からKまでの整数、Kは1以上の整数)で交通調整を行わなかった場合の混雑度をdktと表す。図5では、8:00から8:30の時間帯における道路区間2の混雑度が200%以上と非常に高い。なお、道路区間kの道路容量をqkと表す。」

(カ)「【0029】
まず、混雑度算出部106は、経路変更に伴い各経路に進入する車両数の増減を求める。前述した混雑度の算出の際には、2014年11月18日6:00に入口2から進入した車両は、経路Aに0.4台分の車両が、経路Bに0.6台分の車両が進入したとみなした。したがって、その車両が経路Cに経路変更した場合、経路Aは0.4台分の車両が、経路Bは0.6台分の車両が減少し、経路Cは1台分の車両が増加することとなる。つまり、経路Aには−0.4台分の車両が、経路Bには−0.6台分の車両が、経路Cには+1台分の車両が走行するとみなすことができる。次に、混雑度算出部106は、各経路に進入した車両が、各時間帯において、どの道路区間に存在しているかを推定する。これは混雑度の算出のときと同じ方法で求めればよい。
【0030】
図6の例において、道路区間1は経路Aの最初の道路区間、道路区間2は経路Bの最初の道路区間、道路区間3は経路Cの最初の道路区間に相当する。車両が経路A、B、Cに進入した場合、7:00〜7:30の時間帯には、それらの道路区間を走行中であるとすると、経路Cへの変更により、道路区間1の車両数は−0.4(百分率表記では−40)、道路区間2の車両数は−0.6(百分率表記では−60)、道路区間3の車両数は+1(百分率表記では+100)となる。また、ここでは、混雑度は、混雑量/道路容量で算出するため、混雑度の変化量は、混雑量の変化量/道路容量で算出される。これによって、経路Cへの変更による混雑量の変化量および混雑度の変化量は、図6のように算出される。次に7:30から8:00の時間帯では、道路区間1はすでに車両が通過し、道路区間2および3では、まだそれらの道路区間を走行中(道路区間2および3に存在する)とする。この場合、道路区間1の変化量は0であり、道路区間2および3の変化量は先ほどと同じとなる。8:00から8:30の時間帯では、既にどの道路区間も通過済みとすると、変化量は0となる。」

(キ)「【0064】
図9は、出力部109に表示された交通調整情報と予測情報の一例を示す。第1の予測情報として、図1で示した道路交通網の画像において、各道路区間の混雑度が、その混雑度に応じた色によって表示されている。なお、表示する道路交通網の画像は、出力部109が保持しておいてもよいし、スケジューラ108が保持しておいてもよい。また、道路交通網の画像ではなく、道路区間と混雑度との対応表を表示してもよい。この場合、混雑度の降順で道路区間を表示してもよい。また、第2の予測情報として、ドライバーの不満度の変化量の合計を表示している。オペレーターは、これらの表示された情報を参考にして、実際の交通調整を行うことができる。交通調整の具体的な手法としては、道路上の電光掲示板の表示変更やランプウェイの開放・閉鎖、道路通行料金や施設利用料金などの経路選択のインセンティブとなる要素の変更といった施策を行うことで、ドライバーを所望経路へ誘導することが考えられる。このように交通調整情報と予測情報は、対象区域の混雑緩和とドライバーの不満を低減とを両立する交通調整のための、オペレーターの判断の指標となる。」

(ク)「【0070】
図10は、第1の実施形態に係る基本的な処理のフローチャートである。
【0071】
進入センサ101および退出センサ102が、検知情報を取得する度に、検知情報を流量チェック部103に送信する(S101)。
【0072】
流量チェック部103は、受信した検知情報に基づき交通流量情報を生成し、利用可能算出部104に送る(S102)。流量チェック部103は、一定時間ごとに交通流量情報を生成してもよいし、検知情報の受信の度に交通流量情報を生成してもよい。交通流量情報は、作成したタイミングで出力しても、一定時間経過ごとに出力しても、利用可能経路算出部104やスケジューラ108からの指令を受けた場合に出力してもよい。
【0073】
利用可能経路算出部104は、交通流量情報を受け取り、交通流量情報に含まれる入口と出口を元に、利用可能経路を算出する(S103)。利用可能経路算出部104は、算出した利用可能経路と、交通流量情報と、道路交通網との情報を、混雑度算出部106、不便度算出部107、スケジューラ108に送る(S104)。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「入口から出口までの車両の走行経路における各道路区間の混雑度を算出する交通調整支援装置100であって、
前記入口から前記出口までの複数の経路を算出する利用可能経路算出部104と、
前記入口から前記出口まで走行する車両の経路毎の確率を判断し、確率に応じた車両数を経路毎に求め、
車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行い、対象の全車両が存在する道路区間を予測し、各道路区間に存在する車両数を足し合わせ、道路区間の道路容量で割ることで混雑度を算出する、混雑度算出部106と、を有する、
交通支援調整装置100。」

また、原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2008−9639号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「道路料金設定装置および道路料金設定プログラム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(ケ)「【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、過去の交通データや距離等から求めた目標交通量配分を各経路の料金設定に採用することによって、各経路相互間における交通量の極端な不均等の発生を抑制し、交通渋滞の発生を極力抑制し、大気汚染等の環境悪化を抑制し、環境管理者、道路管理者、及び車輌の運転者にとって有益な料金の設定が可能となる道路料金設定装置及び道路料金設定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解消するために本発明は、道路網内に設定された複数の起点から終点までの、複数区間で形成された各経路を走行する車輌から徴収する料金を設定する道路料金設定装置において、道路網内の過去の交通データを記憶する交通データ記憶手段と、この交通データ記憶手段に記憶された過去の交通データに基づいて、各車輌が通過する起点・終点の組合せ毎の対象日における交通需要を推定する交通需要推定手段と、予め設定された各経路に対する交通量配分の初期値と推定された交通需要とに基づいて、各経路及び各区間の交通量と走行時間とを予測する交通状況予測手段と、この交通状況予測手段の予測に基づいて、交通量配分の初期値を修正して目標交通量配分として出力する目標交通量配分設定手段と、予め設定された各経路の初期料金と当該経路の距離とに基づいて、各経路の交通量配分の予測を行う交通量配分予測手段と、この交通量配分予測手段で予測された交通量配分が前記目標配分に近似するように初期料金を修正して各経路に対する最終の料金として出力する料金設定手段とを備えている。」

(コ)「【0015】
また、別の発明は、上述した発明の道路料金設定装置に対して、交通量配分予測手段は、各経路の初期料金と距離とに加えて交通状況予測手段にて予測された走行時間に基づいて各経路の交通量配分の予測を行う。」

(サ)「【0023】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の道路料金設定プログラムが組込まれたコンピュータで構成された道路料金設定装置の概略構成を示すブロック構成図である。この実施形態の道路料金設定装置は、例えば図2に示すロードプライシングの対象地域15内に進入、又はこの対象地域15内を通過する車輌から徴収する経路毎の料金を設定する。
【0024】
この第1実施形態の道路料金設定装置は、大きく分けて、交通量配分設定部1と料金設定部2とで構成されている。さらに、図2に示すロードプライシングの対象地域15内の道路情報を記憶する道路データベース3、このロードプライシングの対象地域15内における過去の交通データを記憶する交通データ記憶手段としての交通需要データベース4、この交通需要データベース4に記憶された過去の交通データから対象日の交通需要を推定する交通需要推定部5、及び最終的に決定された経路毎の通行料金25を表示する表示部6が組込まれている。
【0025】
前記交通配分設定部1内には、配分初期設定部7、配分記憶部8、交通状況予測部9、配分判定部10が設けられている。さらに、料金設定部2内には、料金初期設定部11、料金記憶部12、分配予測部13、及び料金判定部14が設けられている。」

(シ)「【0059】
配分予測部13は、初期料金24と道路データベース3に記憶されている経路テーブル17に設定されている経路の距離に基づいて、各経路の交通量配分の予測を行って、交通量配分予測として、料金判定部14へ送出する。
【0060】
交通量配分の予測方法には様々な方法が考えられるが、この実施形態では、運転手の経路選択モデルを用いた方法について説明する。
【0061】
経路の料金Rと距離Dとを変数とする評価関数Eを定義する。料金R、距離Dの評価関数Eに対する寄与度を示す係数(パラメータ)をk1、k2とすると、評価関数Eは次式で示される。そして、各経路の交通量配分は当該経路の評価関数Eにて定まる。
【0062】
E=k1R+k2D
例えば、料金R、距離Dに対する、寄与度を示す各パラメータk1、k2を、k1=1.0、k2=25.0と設定すると、各経路P5,P6の評価関数E5、E6は以下の値となる。
【0063】
E5=1.0×520+25.0×20.8=1040
E6=1.0×520+25.0×28.0=1220
各経路P5、P6に対する交通量配分は、評価関数E5、E6の逆数に比例するので、
(1/E5):(1/E6)=(1/1040):(1/1220)=0.54:0.46
となる。
【0064】
配分予測部13は、初期料金24と各経路の距離とから算出した交通量配分予測を料金判定部14へ送出する。」

(ス)「【0127】
この第5実施形態の道路料金設定装置においては、分配判定部10が各経路に対する交通量配分の修正を実施する必要ないと判断して、配分記憶部8に記憶されている修正後の交通量配分22が目標配分として、料金判定部14へ送出された時点における、交通量配分設定部1の交通状況予測部9が配分判定部10へ送出している交通状況の予測である図9に示す最終予測の各経路の走行時間23a、各道路リンクの走行時間23bを、料金設定部2の配分予測部13へ送出する。
【0128】
料金設定部2の配分予測部13は、初期料金24と道路データベース3に記憶されている経路テーブル17に設定されている経路の距離、及び交通状況予測部9から入力された各経路の走行時間23a、各道路リンクの走行時間23bに基づいて、各経路の交通量配分の予測を行って、交通量配分予測として、料金判定部14へ送出する。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。

「予め設定された各経路の初期料金と当該経路の距離とに基づいて、または、各経路の初期料金と距離とに加えて交通状況予測手段にて予測された走行時間に基づいて、評価関数Eにより各経路の交通量配分の予測を行うこと。」

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「入口」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「出発地」に相当する。同様に、「出口」は「目的地」に、「車両」は「移動体」に、「走行」は「移動」にそれぞれ相当する。
また、後者の「入口から出口までの車両の走行経路における各道路区間の混雑度を算出する」ことは、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「出発地から目的地まで移動体が移動する経路にて混雑の発生する区間を予測する」に相当し、同様に後者の「前記入口から前記出口までの走行に利用可能な複数の経路を算出する」ことは前者の「前記出発地から前記目的地までの移動に利用可能な複数の経路を取得する」に相当する。そうすると、後者の「利用可能経路算出部104」は前者の「経路情報取得部」に相当する。
そして、後者の「前記入口から前記出口まで走行する車両の経路毎の確率を判断し、確率に応じた車両数を経路毎に求め」、「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行い、対象の全車両が存在する道路区間を予測し、各道路区間に存在する車両数を足し合わせ、道路区間の道路容量で割ることで混雑度を算出する」、「混雑度算出部106」について、「前記入口から前記出口まで走行する車両の経路毎の確率を判断し、確率に応じた車両数を経路毎に求め」ることは、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量を所定の分配割合で前記複数の経路に分配し、前記複数の経路ごとの交通量を示す経路交通量を算出する」ことに相当する。よって、後者の「混雑度算出部106」は、前者の「経路交通量予測部」に相当する。また、(オ)の段落【0025】を参照すると、後者の「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行い、対象の全車両が存在する道路区間を予測」することと、前者の「経路交通量と、前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離または前記各区間を通過するのに要する時間である区間所要時間とに基づいて、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出する」こととは、「経路交通量と、前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離に基づいて、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出する」ことという限りで一致する。してみると、後者の「混雑度算出部106」は、前者の「通過交通量予測部」に相当する。さらに、後者の「各道路区間に存在する車両数を足し合わせ、道路区間の道路容量で割ることで混雑度を算出する」ことは、前者の「時間帯毎区間毎交通量に基づいて各時刻における各区間の混雑レベルを算出する」ことに相当する。よって、後者の「混雑度算出部106」は、前者の「混雑予測部」に相当する。
加えて、後者の「車両が走行する経路毎の確率を判断し、確率に応じた車両数を経路毎に求め」、「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行」うことと、前者の「経路交通量予測部は、前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間と前記区間の通行料金とが予測変数として入力され、各経路の選ばれやすさに関する効用を出力する効用関数を用いて、各経路の選択される確率を示す経路選択確率を算出し、前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量に前記経路選択確率を乗算することにより、前記複数の経路ごとの前記経路交通量を算出」することとは、「前記経路交通量予測部は、各経路の選択される確率を示す経路選択確率を算出し、前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量に前記経路選択確率を乗算することにより、前記複数の経路ごとの前記経路交通量を算出」すること、という限りで一致する。
このような事項を備えた後者の「交通調整支援装置100」は、前者の「混雑予測装置」に相当する。

したがって、両者は、
「出発地から目的地まで移動体が移動する経路にて混雑の発生する区間を予測する混雑予測装置であって、
前記出発地から前記目的地までの移動に利用可能な複数の経路を取得する経路情報取得部と、
前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量を所定の分配割合で前記複数の経路に分配し、前記複数の経路ごとの交通量を示す経路交通量を算出する経路交通量予測部と、
前記経路交通量と、前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離とに基づいて、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出する通過交通量予測部と、
前記時間帯毎区間毎交通量に基づいて各時刻における各区間の混雑レベルを算出する混雑予測部と、を有し、
前記経路交通量予測部は、各経路の選択される確率を示す経路選択確率を算出し、前記出発地から前記目的地まで移動する移動体の交通量に前記経路選択確率を乗算することにより、前記複数の経路ごとの前記経路交通量を算出する、
混雑予測装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「経路交通量予測部」における、「各経路の選択される確率を示す経路選択確率」の算出に関し、前者は「前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間と前記区間の通行料金とが予測変数として入力され、各経路の選ばれやすさに関する効用を出力する効用関数を用い」るものであるのに対し、後者は車両の経路毎の確率が具体的に記載されていない点。

[相違点2]
「通過交通量予測部」に関し、前者は「前記経路に含まれる各区間の距離である区間距離または前記各区間を通過するのに要する時間である区間所要時間とに基づいて」、各時間帯に前記各区間を通過する移動体の交通量である時間帯毎区間毎交通量を算出するものであって、「前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間に基づき、前記経路に含まれる第1区間に進入した時刻に、当該第1区間の区間所要時間を加算した時刻を当該第1区間から出た時刻とし、当該第1区間から出た時刻を、前記経路において前記第1区間の次の区間である第2区間に進入した時刻とすることを前記経路に亘って実行することにより、前記経路交通量から前記時間帯毎区間毎交通量を算出する」ものであるのに対し、後者は「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行い、対象の全車両が存在する道路区間を予測」するものである点。

エ 判断
相違点について検討する。
相違点1について検討する。
引用文献2の記載事項は、「予め設定された各経路の初期料金(本件補正発明の「区間の通行料金」に相当。)と当該経路の距離(「各区間の区間距離」に相当。)とに基づいて、または、各経路の初期料金と距離とに加えて交通状況予測手段にて予測された走行時間(「区間所要時間」に相当)に基づいて、評価関数E(「各経路の選ばれやすさに関する効用関数」に相当)により各経路の交通量配分の予測を行うこと。」であって、評価関数Eは少なくとも経路の料金Rと距離Dとを変数とする関数であるから、引用文献2記載事項は、「各区間の区間距離または区間所要時間と区間の通行料金とが予測変数として入力され、各経路の選ばれやすさに関する効用を出力する効用関数を用い」て各経路の選択される確率を示す経路選択確率により各経路の交通量配分の予測を行うことを開示するものといえる。そして、引用発明と引用文献2の記載事項とは、混雑緩和を目的として交通量の調整を行うために、調整前の交通状況を算出するものである点で共通する。
そうすると、引用発明の「経路交通量予測部」における「各経路の選択される確率を示す経路選択確率」を具体化するにあたり、引用文献2の記載事項を踏まえて当業者の創作能力の範囲内で上記相違点1に係る本件補正発明とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点2について検討する。
引用発明は、「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定」しているから、それぞれの時間帯において、既に通過した道路区間及び現在存在する道路区間の推定を行うものである。そして、引用発明の道路区間は距離に関する情報を持ち、時間帯毎にどの道路区間に存在するかの推定は、走行速度を用いるものであるから((オ)段落【0025】を参照。)、道路区間の車両の通過あるいは存在については、各道路区間の繋がりと各道路区間における車両の滞在時間から推定されること、そして、走行中の車両の道路区間における滞在時間は道路区間の距離、または車両速度と道路区間の距離で求められる「区間所要時間」に基づくものとなることは、技術常識又は物理法則上明らかである。同様に繋がりがある複数の道路区間において、走行中の車両が一の道路区間を出て他の道路区間に進入する際、一の道路区間をから出る時刻と他の道路区間に進入する時刻が同じであることもまた、当業者の通常の創作能力の範囲で当然理解し得たことである。そして、引用発明は「車両が時間帯毎にどの道路区間に存在しているか推定し、このような処理を一定時間内に対象区域に進入した全車両に対し行」うものであるから、「経路に亘って実行することにより、経路交通量から時間帯毎区間毎交通量を算出」するものである。
そうすると、上記相違点2にかかる本件補正発明の構成は、引用発明の通過交通量予測部も実質的に備えているか、当業者の通常の創作能力の範囲内で容易になし得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
上記2.(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和3年10月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和3年6月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2016−133843号
引用文献2:特開2008−9639号

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにその記載事項は、前記第2[理由]2.(1)イに記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.(1)で検討した本件補正発明から、「通過交通量予測部」についての「前記各区間の前記区間距離または前記区間所要時間に基づき、前記経路に含まれる第1区間に進入した時刻に、当該第1区間の区間所要時間を加算した時刻を当該第1区間から出た時刻とし、当該第1区間から出た時刻を、前記経路において前記第1区間の次の区間である第2区間に進入した時刻とすることを前記経路に亘って実行することにより、前記経路交通量から前記時間帯毎区間毎交通量を算出」するとの限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(1)ウ及びエに記載したとおり、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-09 
結審通知日 2022-06-14 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2017-144300
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G08G)
P 1 8・ 121- Z (G08G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 正章
特許庁審判官 水野 治彦
木村 麻乃
発明の名称 混雑予測装置  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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