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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47L |
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管理番号 | 1388207 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-11-19 |
確定日 | 2022-08-26 |
事件の表示 | 特願2017−191317「不織布ダスター及び不織布ダスターの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開、特開2019− 63221、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年9月29日の出願であって、令和3年5月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月3日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1 特開平5−179545号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和3年11月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 ・本願発明1 「合成樹脂繊維によるスパンボンド不織布に対してパルプ繊維が一方面から水流絡合されたパルプ混合不織布からなる不織布ダスターであり、 坪量が40〜70g/m2であり、 スパンボンド不織布の目付量が10〜25g/m2であり、 パルプ繊維の割合が60〜80質量%、スパンボンド不織布の割合が20〜40質量%であり、 乾燥引張強度が、縦方向で2,000〜3,400cN/25mm、横方向で700〜1,600cN/25mmであり、 前記スパンボンド不織布を構成する合成樹脂繊維が、着色料が練りこまれて色付けされ、ヘプタン、20%エタノール、4%酢酸及び水に対する溶出試験において、ヘプタンが150μg/ml以下、20%エタノール、4%酢酸及び水が30μg/ml以下である、着色繊維であり、 かつ、前記パルプ繊維とスパンボンド不織布を構成する着色繊維の色が異なり、合成樹脂繊維及びパルプ繊維がインキによって外的に着色されておらず、パルプ繊維面とスパンボンド不織布面の色の差が視認される、 ことを特徴とする不織布ダスター。」 ・本願発明2 「パルプ繊維が非着色であってISO白色度が85%以上の漂白パルプであるとともにNBKPを95質量%以上含み、合成樹脂繊維が白色以外の色に着色されているものであって、その太さが18〜22μmである、請求項1記載の不織布ダスター。」 ・本願発明3 「着色料が練りこまれて色付けされ、ヘプタン、20%エタノール、4%酢酸及び水に対する溶出試験において、ヘプタンが150μg/ml以下、20%エタノール、4%酢酸及び水が30μg/ml以下である、合成樹脂繊維による目付量10〜25g/m2のスパンボンド不織布の上に、乾燥パルプシートを積層する積層工程と、 ノズル径0.5〜1.5mmφのノズルから乾燥パルプシート面に100〜110barの圧力で水流を噴射する水流絡合工程と、 を有し、 合成樹脂繊維及びパルプ繊維がインキによって外的に着色する工程を有さず、 乾燥引張強度が、縦方向で2,000〜3,400cN/25mm、横方向で700〜1,600cN/25mmであり、前記パルプ繊維とスパンボンド不織布を構成する着色繊維の色が異なり、パルプ繊維面とスパンボンド不織布面の色の差が視認される不織布ダスターとする、 ことを特徴とする不織布ダスターの製造方法。」 ・本願発明4 「パルプ繊維が非着色であってISO白色度が85%以上の漂白パルプであるとともにNBKPを95質量%以上含み、合成樹脂繊維が白色以外の色に着色されているものであって、その太さが18〜22μmである、請求項3記載の不織布ダスターの製造方法。」 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1 (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 約30重量パーセント以下の不織連続フィラメント支持体と、約70重量パーセント以上のパルプ繊維を含むことを特徴とする水圧による交絡によって形成されたパルプ含有率の高い不織複合布。 【請求項2】 請求項1において、約10から25重量パーセントの不織連続フィラメント支持体と、約75から約90重量パーセントのパルプ繊維を含むことを特徴とする不織複合布。 【請求項3】 請求項1において、前記連続フィラメント不織支持体は、連続スパンボンデッド・フィラメントからなる不織ウエブであることを特徴とする不織複合布。」 イ 「【0014】 【課題を解決するための手段】本発明の複合布は、重量で約70%以上のパルプ繊維を含有しており、このパルプ繊維は、水圧によって絡み合わされて、布重量の約30%未満の不織連続フィラメントの支持材を形成している。例えば、本発明の不織複合布は、重量で約10から約25%の不織連続フィラメントの基材と、同じく重量で約75から約90%のパルプ繊維とを含有していてもよい。」 ウ 「【0019】本発明の不織複合布は、丈夫な払拭布あるいは吸収性のパーソナル・ケア製品における流体分散材として使用することができる。一つの実施形態においては、本発明の不織複合材料を、平方メートル当たりの秤量が約20から約200グラム(gsm)までの範囲の単一プライあるいはマルチ・プライの払拭布としている。一例として、このような払拭布の秤量は、約25から約150gsmであり、さらに特定すると、約30から約110gsmの範囲内である。このような払拭布の吸水量は約450%以上とし、その油吸収量は約250%以上とし、その水吸い上げ速度を縦方向において15秒間当たり約2.0cm以上とし、その油吸い上げ速度を縦方向において15秒間当たり約0.5cm以上とすることが望ましい。・・・ 【0020】本発明は、さらに、高パルプ含有量の不織複合布の製造方法に関するものである。本発明の方法は、パルプ繊維の層を、合計ボンド面積が約30パーセント未満で、ボンド密度が約100ピンボンド位置/平方インチ以上の不織連続フィラメント支持材の上に重ね合わせて、これらの層を水圧によって絡み合わせて、複合素材を形成し、しかる後にこの複合素材を乾燥させる工程を有している。」 エ 「【0028】連続フィラメントの不織支持体20は供給ロール22から巻き出されて、この供給ロール22がそこに付されている方向に回転するのに伴って、矢印で示す方向に移動する。不織支持体20は、スタック・ローラ28、30から形成されているS形ロール列26のニップ部24を通過する。不織支持体20は公知の連続フィラメント不織押し出し工程、例えば公知の溶剤スピニング工程あるいは溶融スピニング工程により形成することができ、供給ロールに巻き取られることなく、ただちにニップ部16を通過する。この連続フィラメント不織支持体20はスパンボンド処理によって形成された連続溶融スパンフィラメントの不織ウエブであることが好ましい。このスパンボンドフィラメントは、溶融スピンが可能なポリマーあるいはコーポリマー、またはそれらのブレンドから形成することができる。例えば、スパンボンドフィラメントは、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリウレタン類、A−BおよびA−B−A’ブロック・コーポリマー類(ここに、AおよびA’は熱可塑性エンドブロックであり、Bはエラストマー・ミッドブロックである。)、エチレンと少なくとの1種類のビニルモノマーのコーポリマー類(ビニルモノマーとしては、ビニルアセテート類、不飽和脂肪族モノカルボン酸類およびこれらのモノカルボン酸類のエステル類等がある。)から形成することができる。フィラメントが、ポリオレフィン、例えばポリプロピレンから形成される場合には、不織支持体20の秤量は約3.5から約70gsmになる。さらに言及すると、不織支持体20の秤量は約10から約35gsmとなる。ポリマー類には、色素、酸化防止剤、流動促進剤、安定剤などの材料が含まれる。」 オ 「【0032】パルプ繊維の層18は次に、従来の水圧交絡機構における孔付きの交絡用表面32に乗っている不織支持体20の上に置かれる。パルプ層18を、水圧交絡用のマニフォールド34と不織支持体20の間に位置させることが望ましい。これらのパルプ繊維層18と不織支持体20は、一つあるいはそれ以上の水圧交絡用マニホールド34の下側を通過して、流体ジェットによって処理されて、パルプ繊維が連続フィラメント不織支持体20のフィラメントに絡み合った状態とされる。流体ジェットにより、パルプ繊維が不織支持体20の内部に入り、あるいはそれを貫通し、これによって複合材料36が形成される。」 カ 「【0043】 ・・・ 実験例 Instron Model 1122 Universal 試験機を用いて、合衆国試験方法基準No.191Aの方法5100に従って、引張強さと伸びの測定を行った。引張強度はサンプルを破断するまで伸張させたとみに最大荷重(ピーク荷重)である。最大荷重の測定は湿りサンプルと乾燥サンプルの商法に対して縦方向および横方向についてそれぞれ行った。各サンプルは幅3インチ、長さ6インチであり、試験結果の単位はグラム重である。」 キ 「【0062】実験例 9 高パルプ含有率の不織複合布を次のようにして製造した。北方軟木パルプ繊維(Kimberly−Clark Corporationから入手可能な「Longlac 19」)を約70重量パーセントと、南方軟木パルプ繊維(ジョージア州のアトランタ所在のGeorgia Pacific Corporationから入手可能な「Brunswickパルプ」)を約30重量パーセント含む混合体から73gsmのウエブを形成し、このウエブを、ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなる0.4オンス/平方ヤード(osy)(14gsm)のウエブの上に搬送した。スパンボンドフィラメントの接合を、ほぼ278ピンボンド位置/平方インチを有し、平滑なアンビルロールに接触した際に約17.2パーセントの最大ボンド面積を形成するパターンを用いて行った。このようにして得た合計秤量が約87gsmの積層体を、3個のマニホールドを用いて、水圧によって絡み合わせて、複合素材を形成した。各マニホールドには、1インチ当たり30孔の密度となる0.007インチ孔の列を一列備えたジェット・ストリップを配置した。マニホールド内の水圧を1050psi(ゲージ)とした。各層を、約100fpmの速度でマニホールドの下を通過する100メッシュのステインレススチール製の形成用ワイヤ上に支持した。この複合布を一般的なスチーム缶乾燥器具を用いて乾燥した。この布に冷間エンボス加工を施して図8に示すパターンを付けた。この布の物理的特性および吸収特性を測定した。測定結果を表3に掲げてある。」 ク 引用文献1には、表3として、次の表が記載されている。 「 ![]() 」 ケ 前記オと前記キの記載をあわせてみると、キに示される「ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなる0.4オンス/平方ヤード(osy)(14gsm)のウエブ」は、オに示される「不織支持体20」であり、キに示される「北方軟木パルプ繊維」と「南方軟木パルプ繊維」を「含む混合体から73gsmのウエブを形成し」たものは、オに示される「パルプ繊維の層18」であるといえる。そして、オの記載より、パルプ繊維層18と不織支持体20は、水圧交絡用マニホールド34の下側を通過することにより、流体ジェットによって処理されているから、パルプ繊維層18と不織支持体20の一方面からの流体ジェットによって処理されているといえる。 コ 前記キに記載された高パルプ含有率の不織複合布は、北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18が73gsmであるに対し、合計秤量が87gsmであるから、北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18の割合が84質量%であり、ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなるウエブが14gsmであるから、ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の割合が16質量%である。 サ 前記カの記載及び前記クに示す表3より、引用文献1に記載された実験例9の不織複合布は、坪量が87GSM、乾燥サンプルに対して引張最大荷重は、MDDが12.2グラム重/3インチ、CDDが8.9グラム重/6インチである。 シ 前記エの記載より、不織支持体20のスパンボンドフィラメントは色素を含んでいるといえ、これより、スパンボンドフィラメントは、色素により着色されたフィラメントであるといえる。 (2)引用文献1に記載された発明 前記(1)より、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなる不織支持体20に対して北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18が一方面からの流体ジェットによって処理された高パルプ含有率の不織複合布からなる払拭布であり、 秤量が87gsmであり、 スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の面積あたりの重量が14gsmであり、 北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18の割合が84質量%、スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の割合が16質量%であり、 乾燥サンプルに対する引張最大荷重が、MDDが12.2グラム重/3インチ、CDDが8.9グラム重/6インチであり、 前記不織支持体20のスパンボンドフィラメントが、色素を含み、着色されたフィラメントである、 不織複合布からなる払拭布。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリプロピレンのスパンボンドフィラメントからなる不織支持体20」は、本願発明1の「合成樹脂繊維によるスパンボンド不織布」に相当し、以下同様に、「北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18」は「パルプ繊維」に、「一方面からの流体ジェットによって処理された」という事項は「一方面から水流絡合された」という事項にそれぞれ相当する。また、引用発明の「高パルプ含有率の不織複合布からなる払拭布」と本願発明1の「パルプ混合不織布からなる不織布ダスター」とは、パルプ混合不織布からなる拭き取り用不織布である限りで一致する。 引用発明の「スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の面積あたりの重量が14gsmであ」ることは、本願発明1の「スパンボンド不織布の目付量が10〜25g/m2であ」ることに相当する。 引用発明の「秤量」は本願発明1の「坪量」に相当する。 引用発明の「スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の面積あたりの重量」は、本願発明1の「スパンボンド不織布の目付量」に相当する。 引用発明の「スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20」は、本願発明1の「スパンボンド不織布」に相当する。 引用発明の「乾燥サンプルに対する引張最大荷重」は、本願発明1の「乾燥引張強度」に相当する。 引用発明の「不織支持体20のスパンボンドフィラメント」は、本願発明1の「スパンボンド不織布を構成する合成樹脂繊維」に相当し、同様に、「色素を含み」という事項は、「着色料が練りこまれて色付けされ」という事項に、「着色されたフィラメント」は、「着色繊維」に、それぞれ相当する。 引用発明の「不織複合布からなる払拭布」は、本願発明1の「不織布ダスター」と拭き取り用不織布である限りで一致する。 そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 ・一致点 「合成樹脂繊維によるスパンボンド不織布に対してパルプ繊維が一方面から水流絡合されたパルプ混合不織布からなる拭き取り用不織布であり、 スパンボンド不織布の目付量が10〜25g/m2であり、 前記スパンボンド不織布を構成する合成樹脂繊維が、着色料が練りこまれて色付けされた、着色繊維である、 拭き取り用不織布。」 ・相違点1 拭き取り用不織布である点について、本願発明1は、パルプ混合不織布からなる不織布ダスターであるのに対し、引用発明は、高パルプ含有率の不織複合布からなる払拭布である点。 ・相違点2 本願発明1は、「坪量が40〜70g/m2であり」、「パルプ繊維の割合が60〜80質量%、スパンボンド不織布の割合が20〜40質量%であ」るのに対し、引用発明は、「秤量が87gsmであり」、「北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18の割合が84質量%、スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の割合が16質量%であ」る点。 ・相違点3 乾燥引張強度が、本願発明1は、「縦方向で2,000〜3,400cN/25mm、横方向で700〜1,600cN/25mmであ」るのに対し、引用発明は、「MDDが12.2グラム重/3インチ、CDDが8.9グラム重/6インチであ」る点。 ・相違点4 本願発明1は、着色料が練り込まれて色付けされたスパンボンド不織布を構成する合成樹脂繊維が、「ヘプタン、20%エタノール、4%酢酸及び水に対する溶出試験において、ヘプタンが150μg/ml以下、20%エタノール、4%酢酸及び水が30μg/ml以下であ」るのに対し、引用発明は、この点について特定されていない点。 ・相違点5 本願発明1は、「前記パルプ繊維とスパンボンド不織布を構成する着色繊維の色が異なり、合成樹脂繊維及びパルプ繊維がインキによって外的に着色されておらず、パルプ繊維面とスパンボンド不織布面の色の差が視認される」のに対し、引用発明は、この点について特定されていない点。 (2)判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1及び3について 相違点1及び3は、拭き取り用不織布の使途とそのために必要な強度についての関連した相違点であるのであわせて検討する。 引用発明の払拭布は、引用文献1に「このような払拭布の吸水量は約450%以上とし、その油吸収量は約250%以上とし、その水吸い上げ速度を縦方向において15秒間当たり約2.0cm以上とし、その油吸い上げ速度を縦方向において15秒間当たり約0.5cm以上とすることが望ましい」(段落0019(前記第4・1(1)ウ参照))と記載されているように、水又は油を吸い上げることを目的とし、この目的のために、引用発明の払拭布は、MDDが12.2グラム重/3インチ、CDDが8.9グラム重/6インチとなる引張最大荷重を有していると理解できる。そして、これらの引張最大荷重が本願発明1の乾燥引張強度の範囲内にないことは、明らかである。 これに対し、本願発明1の不織布ダスターは、発明の詳細な説明に「不織布ダスターは、使用場所や拭き取り対象物によって異なるダスターを使い分けしやすいように、表裏に視認しやすい色柄が設けられている」(段落0003)と記載されているように、対象物を拭き取りするために用いられるものであり、乾燥引張強度を「縦方向で2,000〜3,400cN/25mm、横方向で700〜1,600cN/25mm」として、拭き取りに十分な強度を有するようにしたものである(段落0023参照)。 これらのことから、引用発明の払拭布は、水や油を吸い上げることを目的とし、その目的において、十分な強度を有するようにしたものといえる。そして、引用文献1には、本願発明1の不織布ダスターのように、払拭布を拭き取りに用いるものとすることや、拭き取りを行うときに必要な十分な強度とすることは記載されていない。 そうすると、引用発明の払拭布を本願発明1の不織布ダスターとし、その乾燥引張強度を本願発明1の範囲とすることは、単に当業者が定める設計事項とはいえず、当業者であっても容易になしえたこととはいえない。 よって、引用文献1の記載に基づいて、前記相違点1及び3の本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者であっても容易になしえたこととはいえない。 イ 相違点4について 次に、事案に鑑み、相違点4について判断する。 引用発明の不織支持体20のスパンボンドフィラメントは、色素を含むものであるが、引用文献1には、当該色素に関して溶出試験を行うことは記載も示唆もなく、溶出試験における結果も何ら示されていない。 一方、本願発明1は、スパンボンド不織布を構成する合成樹脂繊維が、「ヘプタン、20%エタノール、4%酢酸及び水に対する溶出試験において、ヘプタンが150μg/ml以下、20%エタノール、4%酢酸及び水が30μg/ml以下であ」ることにより、色落ちがし難い不織布ダスターであるという効果を奏するものである(段落0042参照)。 そうすると、色素を含むスパンボンドフィラメントの溶出試験について、何ら記載されていない引用文献1から、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を得ることが、当業者にとって容易であるとはいえない。 ウ 相違点5について 引用発明は、「不織支持体20のスパンボンドフィラメントが、色素を含み、着色されたフィラメントである」ことが特定されているものの、引用文献1には、北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の色については、何ら記載されておらず、北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維の層18の面と、スパンボンドフィラメントからなる不織支持体20の面の色の差が視認されること、及び、スパンボンドフィラメントと北方軟木パルプ繊維と南方軟木パルプ繊維がインキによって外的に着色されていない点について記載されておらず、さらには、引用発明の払拭布を表裏で使い分けることについても記載されていない。すなわち、引用発明は、払拭布の表裏を色で認識することにより、表裏での使い分けがしやすくしたものであるとはいえない。 これに対し、本件発明1は、「前記パルプ繊維とスパンボンド不織布を構成する着色繊維の色が異なり、合成樹脂繊維及びパルプ繊維がインキによって外的に着色されておらず、パルプ繊維面とスパンボンド不織布面の色の差が視認される」ことにより、「表裏の色柄が同じであるため、表裏での使い分けがし難い」(段落0005)ことから、「表裏での使い分けがしやす」い不織布ダスターを提供するという課題(段落0008参照)を解決したものといえる。 そうすると、払拭布の表裏を色で認識することにより、表裏での使い分けがしやすくしたものであるとはいえない引用発明において、「前記パルプ繊維とスパンボンド不織布を構成する着色繊維の色が異なり、合成樹脂繊維及びパルプ繊維がインキによって外的に着色されておらず、パルプ繊維面とスパンボンド不織布面の色の差が視認される」ようにする動機付けがあるとはいえず、上記相違点5に係る本願発明1の発明特定事項を得ることが、当業者にとって容易であるとはいえない。 エ 本願発明1についてのまとめ 以上のことから、相違点1、3ないし5に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易であるとは、いえないから、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2について 本願発明2は、本願発明1と同一の発明特定事項を備え、さらに限定されたものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 3.本願発明3、4について 本願発明3、4は、本願発明1、2に対応する製造方法の発明であり、本願発明1の前記相違点1及び3ないし5に対応する発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし4は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-08-10 |
出願番号 | P2017-191317 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A47L)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
熊谷 健治 長馬 望 |
発明の名称 | 不織布ダスター及び不織布ダスターの製造方法 |
代理人 | 弁理士法人永井国際特許事務所 |