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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01V
管理番号 1388287
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-02-10 
確定日 2022-09-02 
事件の表示 特願2018−111960「検出装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月19日出願公開、特開2019−215218、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成30年6月12日の出願であって、令和3年6月15日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月10日に手続補正書が提出され、同年11月2日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和4年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2.原査定の概要
原査定(令和3年11月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1−7に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1.特開2009−236751号公報
2.特開2007−101217号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2010−145323号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2017−073315号公報

第3.本願発明
本願請求項1−7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明7」という。)は、令和3年9月10に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1−7に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
検出範囲に対象物が到来したか否かに応じて値が変化する物理量に対応する信号値に基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したことを検出する検出装置であって、
前記物理量を逐次前記信号値に変換する測定部と、
所定数の前記信号値を前記測定部から取得した順に順序付けて記憶するための記憶領域を備え、第1周期で、記憶している所定数の前記信号値を前記測定部から新たに取得した前記信号値により更新する記憶部と、
前記更新を1回または複数回行う毎に一度の頻度で、前記記憶部に記憶されている前記信号値のうちの3以上の所定の複数の順位の前記信号値が立ち上がり波形又は立ち下がり波形を構成する信号値に該当するか否かを判定するための判定条件を満たすか否かに基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したか否かを判定する判定部と、
を備える検出装置。」

なお、本願発明2−7は、本願発明1を減縮した発明である。

第4.引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の記載がある。
ア.「【0022】
実施形態1の赤外線センサでは、赤外線検出素子が出力する信号の値(以下、実施形態1〜3では「出力値」と記す)と、出力値の微分値とを連続して入力している。微分値は、人体の移動によって赤外線センサが人体を検知していない状態から検知した状態に移行したとき、または検知している状態から検知しない状態に移行したとき特に大きく変化する。
【0023】
実施形態1では、微分値が予め定められたしきい値(基準値設定しきい値V0)より大きい値に達したか否かを判定する。図1(a)では、図中に示したピークP1が基準値設定しきい値V0を上回ったものとする。このような場合、ピークP1は赤外線センサが人体を検知したと考えられる。したがって、ピークP1が発生した時刻t1以前に検知されている赤外線はバックグラウンドであると判定できる。実施形態1は、この点に着目し、時刻t1の直前に検出された出力値(直前検出信号)を基準値b1に設定する。
【0024】
基準値b1を設定した後、実施形態1の赤外線センサは、図1(b)に示す出力値のうち、ピークP1に対応する出力値の出力タイミング以降に順次出力される出力値(実施形態1〜3では「後続出力値」とも記す)を基準値b1と比較する。そして、この出力値と基準値b1との差分Vdiffが人体検知しきい値V1より大きくなった場合、赤外線センサの検知範囲内に人体があると判定する。また、後続出力値と基準値b1との差分Vdiffが人体検知しきい値V1以下になった場合、検知範囲に人体がないと判定する。
・・・
【0026】
図2は、以上説明した実施形態1の赤外線センサの構成を説明するための図である。実施形態1の赤外線センサは、量子型の赤外線検出素子201が出力値を出力する。また、実施形態1の赤外線センサは、入力された出力値を微分して微分値を得る微分回路203と、微分回路203によって得られた微分値を基準値設定しきい値V0(第1しきい値)と比較し、微分値が基準値設定しきい値V0より大きい場合、この微分値に対応する出力値の出力タイミングに基づいて所定の出力値を基準値b1に設定する第1判定回路204と、基準値b1と、この出力タイミング以降に入力された後続出力値との差分である差分Vdiffと人体検知しきい値(第2しきい値)とを比較し、比較の結果に基づいて、検知対象の有無を判定する第2判定回路205と、を備えている。
【0028】
さらに、実施形態1の赤外線センサは、記憶回路202を備え、設定された基準値b1は、記憶回路202に格納されている。ここで、「微分値に対応する検出信号の出力タイミングに基づいて所定の出力値を基準値に設定する」の内容について具体的に説明する。実施形態1では、基準値設定しきい値V0よりも大きい微分値に対応する出力値の出力タイミングの直前に入力された出力値を基準値b1に設定している。なお、説明の簡単のため、入力された出力値Onと、出力値Onの次に入力された出力値On+1との差分を微分値とする。この説明では、出力値を基準値b1に設定するとは、記憶回路202に所定の出力値を格納することを指すものとする。出力値を記憶回路202に格納する具体的な方法としては、記憶回路202が周期的に出力値を順次入力し、先に入力されている出力値を後に入力された出力値によって更新するものがある。また、第1判定回路204が基準値となる出力値を記憶回路202に記憶させるものがある。
【0029】
記憶回路202が周期的に順次出力値を入力する場合、記憶回路202に出力値が入力されるタイミングを、微分回路203が微分演算するタイミングより1周期遅らせて設定する。微分回路203は、出力値Onと出力値On+1とを使って微分値を算出する。そして、第1判定回路204によって微分値が基準値設定しきい値V0より大きいと判定された場合、第1判定回路204が、現在入力されている出力値Onを更新せずに保持させる(格納させる)ように記憶回路202を制御する。
【0030】
また、第1判定回路204が記憶回路202に出力値を記憶させる場合、微分回路203にのみ出力値Onと出力値On+1とが入力される。微分回路203は、出力値Onと出力値On+1とを使って微分値を算出する。第1判定回路204は、微分値が基準値設定しきい値V0より大きいと判定した場合、演算に使われた出力値のうち先に入力された出力値Onを記憶回路202に格納する。以上のように構成した場合、「微分値に対応する出力値とは、微分値の演算に使用された出力値を指す」。
【0031】
また、実施形態1はこのような構成に限定されるものではない。例えば、基準値設定しきい値V0より大きい微分値の算出に使用された出力値On、あるいは出力値On+1よりも先に入力された所定の数の出力値を直前に入力された出力値として扱うものであってもよい。この例では、所定の数を3個、出力値Onを基準にしたとすると、出力値On-1、出力値On-2、出力値On-3が直前に入力された出力値に該当する。該当する出力値が複数ある場合、それらの出力値の平均をとって基準値とするものであってもよい。また、出力値Onあるいは出力値On+1の入力以前の所定の時間内に入力された出力値を直前に入力された出力値として扱うものであってもよい。
【0032】
さらに、例えば、上記したように、2つの出力値を使って微分値を算出する構成に限定されるものではなく、所定の時定数をもつアナログ微分回路の出力信号を用いてもよいし、さらに多くの出力値を使って算出するものであってもよい。このような場合、基準値b1は、複数の出力値の平均をとる等の方法により加工された値であってもよい。さらに、基準値設定しきい値V0よりも大きい微分値の算出に用いられた検出信号の入力直前に入力された出力値を基準値b1に設定する構成であればどのようなものであってもよい。
【0033】
また、記憶回路202は、所謂1チップマイコン等と呼ばれる小型のコンピュータのメモリを利用するものであってもよい。また、コンデンサ等の電子部品であってもよい。・・」
イ.図1、図2、図8は、次のものである。
「【図1】

【図2】

【図8】



したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「赤外線センサは、
赤外線検出素子が出力する信号の出力値と、出力値の微分値とを連続して入力し、微分値は、人体の移動によって赤外線センサが人体を検知していない状態から検知した状態に移行したとき特に大きく変化するものであり、
微分値が予め定められたしきい値V0より大きい値に達したか否かを判定し、ピークP1が基準値設定しきい値V0を上回った場合、赤外線センサが人体を検知したと考えられ、ピークP1が発生した時刻t1の直前に検出された直前検出信号を基準値b1に設定し、
基準値b1を設定した後、ピークP1に対応する出力値の出力タイミング以降に順次出力される後続出力値を基準値b1と比較し、この出力値と基準値b1との差分Vdiffが人体検知しきい値V1より大きくなった場合、赤外線センサの検知範囲内に人体があると判定し、後続出力値と基準値b1との差分Vdiffが人体検知しきい値V1以下になった場合、検知範囲に人体がないと判定し、
入力された出力値Onと、出力値Onの次に入力された出力値On+1との差分を微分値とするものである、
赤外線センサ。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「赤外線センサ」は、「赤外線検出素子が出力する信号の出力値と、出力値の微分値とを連続して入力し、微分値は、人体の移動によって赤外線センサが人体を検知していない状態から検知した状態に移行したとき特に大きく変化するものであ」るところ、引用発明における「赤外線検出素子が出力する信号の出力値」は、本願発明1における「検出範囲に対象物が到来したか否かに応じて値が変化する物理量に対応する信号値」に相当し、引用発明おける「赤外線センサ」が「人体を検知していない状態から検知した状態に移行」することは、本願発明1における「検査装置」が「検出範囲に対象物が到来した」「ことを検出する」ことに相当する。
以上を踏まえると、引用発明における「赤外線センサ」は、本願発明1の「検出装置」が備えている「検出範囲に対象物が到来したか否かに応じて値が変化する物理量に対応する信号値に基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したことを検出する」に相当する構成を備えている。

イ.引用発明における「赤外線検出素子」は、当該赤外線検出素子が検出した赤外線を「信号の出力値」として「出力」するものであるから、本願発明1における「前記物理量を逐次前記信号値に変換する測定部」に相当する。

ウ.引用発明は、「赤外線検出素子が出力する信号の出力値」の「微分値が予め定められたしきい値V0より大きい値に達したか否かを判定し、ピークP1が基準値設定しきい値V0を上回った場合、赤外線センサが人体を検知した」とするものであり、ここで「微分値」とは、入力された「出力値On(信号値)」と、出力値On(信号値)の次に入力された「出力値On+1」との差分であり、微分値が正であることは立ち上がりを意味するから、「予め定められたしきい値V0より大きい値に達した」「微分値」は、「前記信号値が立ち上がり波形」「を構成する信号値」といえる。
また、引用発明は、「赤外線検出素子が出力する信号の出力値」の「微分値が予め定められたしきい値V0より大きい値に達したか否かを判定」するものであるから、「判定部」に相当する構成を備えているといえる。
そうすると、本願発明1における「判定部」と、引用発明において「赤外線検出素子が出力する信号の出力値」の「微分値が予め定められたしきい値V0より大きい値に達したか否かを判定し、ピークP1が基準値設定しきい値V0を上回った場合、赤外線センサが人体を検知」することとは、「判定部」が、「前記信号値が立ち上がり波形」「を構成する信号値に該当するか否かを判定するための判定条件を満たすか否かに基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したか否かを判定する」ものである点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「検出範囲に対象物が到来したか否かに応じて値が変化する物理量に対応する信号値に基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したことを検出する検出装置であって、
前記物理量を逐次前記信号値に変換する測定部と、
前記信号値が立ち上がり波形を構成する信号値に該当するか否かを判定するための判定条件を満たすか否かに基づいて、前記検出範囲に前記対象物が到来したか否かを判定する判定部と、
を備える検出装置」

(相違点1)
本願発明1は、「所定数の前記信号値を前記測定部から取得した順に順序付けて記憶するための記憶領域を備え、第1周期で、記憶している所定数の前記信号値を前記測定部から新たに取得した前記信号値により更新する記憶部」を備え、
「判定部」が「前記更新を1回または複数回行う毎に一度の頻度で、前記記憶部に記憶されている前記信号値のうちの3以上の所定の複数の順位の前記信号値が立ち上がり波形又は立ち下がり波形を構成する信号値に該当するか否かを判定するための判定条件を満たすか否か」に基づいて判定するのに対し、
引用発明は、本願発明1が備える「記憶部」を有しておらず、「入力された出力値Onと、出力値Onの次に入力された出力値On+1との差分である微分値が、微分値が予め定められたしきい値V0より大きい値に達したか否か」に基づいて「判定」する点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1に係る「前記記憶部に記憶されている前記信号値のうちの3以上の所定の複数の順位の前記信号値」を「前記検出範囲に前記対象物が到来したか否か」を「判定する」ために用いる構成について、引用発明では、「出力値On」と「出力値On+1」という時系列的に連続した2つの信号値を用いて判定するものであるところ、引用文献1の段落【0032】には、「2つの出力値を使って微分値を算出する構成に限定されるものではなく、所定の時定数をもつアナログ微分回路の出力信号を用いてもよいし、さらに多くの出力値を使って算出するものであってもよい」との記載があることから、「出力値On」と「出力値On+1」の2つの出力値を用いる場合以外に「多くの出力値」を用いて微分値を算出することが示唆されているといえる。
しかし、引用文献1には、「多くの出力値」を用いてどのように微分値を算出し、どのようにしきい値V0と比較するのかについての具体的な方法が記載されておらず、そのような方法は具体的な記載がなくても当然に想起される事項であるとも認められないから、引用発明において、「多くの出力値」を用いて微分値を算出することが動機付けられたとしても、「多くの出力値」が、「所定数の前記信号値を前記測定部から取得した順に順序付けて記憶するための記憶領域を備え、第1周期で、記憶している所定数の前記信号値を前記測定部から新たに取得した前記信号値により更新する記憶部」「に記憶されている前記信号値のうちの3以上の所定の複数の順位の前記信号値(出力値)」であるものとすることは、引用文献1の図2に示される引用発明の回路構成を大きく変更するものであることからしても、当業者が容易に想到し得ることと認め難い。

なお、引用文献1の図8に示される実施形態2に係るフローチャートにおいて、「S803」で「Yes」とされ、「S809」で「No」とされ、「S810」で「Yes」とされた場合に「人体なし」と判定され、その後のループにおいて「人体あり」と「判定」される場合に着目すると、「人体なし/あり」の判定に、微分値の算出に用いる2つの出力値と後続出力値という3つの出力値が関与しているとみることができる点について検討しても、後続出力値は、本願発明1における『所定の複数の順位の前記信号値』に属するものとみることはできないから、引用文献1には、上記相違点1に係る「前記記憶部に記憶されている前記信号値のうちの3以上の所定の複数の順位の前記信号値」を判定に用いる点は開示されていない。

したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2や引用文献3に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

2.本願発明2、4−6について
本願発明2、4−6は、本願発明1の構成をすべて備えるから、本願発明1で検討したのと同様の理由により、引用発明及び引用文献2や引用文献3に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

3.本願発明3、7について
原査定で引用した引用文献4にも、上記相違点1に係る構成は記載されていない。
そうすると、本願発明3、7は、本願発明1の構成をすべて備えるから、本願発明1で検討したのと同様の理由により、引用発明、引用文献2や引用文献3に記載の周知技術及び引用文献4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1−7は、当業者が、引用発明、引用文献2や引用文献3等に記載の周知技術及び引用文献4に記載の技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-08-23 
出願番号 P2018-111960
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01V)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
長井 真一
発明の名称 検出装置  
代理人 内藤 和彦  
代理人 阿部 豊隆  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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