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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 特174条1項 C08F |
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管理番号 | 1388321 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-05-11 |
確定日 | 2022-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6606387号発明「懸濁重合用分散助剤およびその水性液、並びに、それらを用いるビニル系樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6606387号の特許請求の範囲を令和3年11月8日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 特許第6606387号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6606387号(請求項の数10。以下、「本件特許」という。)は、平成27年9月25日を出願日とする特許出願(特願2015−188953号、以下「本願」という。)に係るものであって、その請求項1〜10に係る発明について、令和1年10月25日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年11月13日である。) その後、令和2年5月11日に、本件特許の請求項1〜10に係る特許に対して、特許異議申立人である株式会社クラレ(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 (1)特許異議申立以降の経緯 本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 令和2年 5月11日 :特許異議の申し立て 令和2年 9月 3日付け:取消理由通知 令和2年11月 5日 :意見書、訂正請求書(特許権者) 令和2年11月26日付け:通知書(申立人宛て) 令和2年12月25日 :意見書(申立人) 令和3年 3月11日付け:訂正拒絶理由通知書 令和3年 6月30日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和3年 8月31日付け:上申書(特許権者、電子メールにより提出) 令和3年 9月 2日付け:通知書(特許権者宛て) 令和3年 9月21日付け:上申書(特許権者、電子メールにより提出) 令和3年 9月29日付け:通知書(特許権者宛て) 令和3年11月 8日 :意見書、訂正請求書(特許権者) 令和3年11月15日付け:通知書(申立人宛て) 令和3年12月15日 :意見書(申立人) 令和4年 3月 3日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和4年 5月 9日 :意見書(特許権者) なお、令和3年11月8日付けの訂正請求がされたことにより、令和2年11月5日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。 令和3年8月31日付け上申書、令和3年9月21日付け上申書は、新型コロナ感染症の影響による指定期間の延長を求めるものであり、令和3年9月2日付け通知書及び令和3年9月29日付け通知書は、指定期間を延長する旨の通知書である。 (2)証拠方法 申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:特開平5−186506号公報 ・甲第2号証:国際公開第2015/19614号 第2 訂正の適否についての判断 令和3年11月8日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は「特許第6606387号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜10について訂正することを求める。」というものである。 請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(また、本件の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。) 1 訂正事項について (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、 「ケン化度が45〜65モル%であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)250≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(i)又は下記(ii)である場合を除く。 (i)末端に脂肪族炭化水素基を有する (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」 と記載されているのを、 「ケン化度が45〜65モル%、ブロックキャラクターが0.45〜0.9であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)257≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(i)又は下記(ii)である場合を除く。 (i)末端に脂肪族炭化水素基を有する (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」 に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、 「重合度が160〜400、ブロックキャラクターが0.6〜0.9であるポリビニルアルコール系重合体である、請求項1記載の懸濁重合用分散助剤。」 と記載されているのを 「重合度が160〜350、ブロックキャラクターが0.6〜0.9であるポリビニルアルコール系重合体である、請求項1記載の懸濁重合用分散助剤。」 に訂正する。 (3)一群の請求項 訂正事項1〜2に係る訂正前の請求項1〜10について、請求項2〜10はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る「ケン化度が45〜65モル%であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体」について、「ブロックキャラクターが0.45〜0.9」であることをさらに特定するとともに、「(式1)250≦X/Y≦400」を「(式1)257≦X/Y≦400」と下限の値の「250」を「257」とし「式(1)」の範囲をより限定する訂正であり、「ポリビニルアルコール系重合体」についてさらに限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項1の「ブロックキャラクターが0.45〜0.9」であることをさらに特定する訂正は、本件明細書等の(本b)((本b)は、下記「第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項」「1 本件明細書に記載された事項」において示す本件明細書の記載箇所を示す記号である。(本a)〜(本h)の記号も同様である)の段落【0032】の「PVA系重合体(A)のブロックキャラクターは、特に限定されないが、0.6〜0.9であることが好ましく・・・」との記載及び(本h)の段落【0073】の【表1】の実施例1〜9の「ブロックキャラクター」の値が0.45〜0.78であることに基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1の「(式1)250≦X/Y≦400」の下限の値の「250」を「257」とする訂正は、本件明細書等の段落【0073】の【表1】の実施例1〜9の「X/Y」である「式1の値」が257〜400であることに基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る「ポリビニルアルコール系重合体」の「重合度」について、「160〜400」を「160〜350」と上限の値を「400」から「350」とし、「重合度」の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであるといえる。 イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項2の「重合度」について、「160〜400」の上限の値を「400」から「350」とする訂正は、本件明細書等の(本b)の段落【0027】の「PVA系重合体(A)の重合度は、特に限定されないが、・・・、より好ましくは180〜350である」の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項2による訂正も、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。 (2)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1〜2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6606387号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜10の以下のとおりのものである(以下、請求項1〜10に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ともいう。本件の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】ケン化度が45〜65モル%、ブロックキャラクターが0.45〜0.9であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)257≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(i)又は下記(ii)である場合を除く。 (i)末端に脂肪族炭化水素基を有する (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である 【請求項2】重合度が160〜350、ブロックキャラクターが0.6〜0.9であるポリビニルアルコール系重合体である、請求項1記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項3】水溶性高分子とともに重合系に存在させて懸濁重合させるための請求項1又は2記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項4】水溶性高分子が、ケン化度65〜90モル%のポリビニルアルコールである請求項3記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項5】塩化ビニルを含むビニル系化合物の懸濁重合に用いるための請求項1〜4のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項6】請求項1〜5のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤を含有する水性液であって、前記ポリビニルアルコール系重合体を30〜50質量%含有する水性液。 【請求項7】請求項1〜5のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤存在下で、ビニル系化合物を水性溶媒中で懸濁重合させるビニル系樹脂の製造方法。 【請求項8】さらに、水溶性高分子の存在下で懸濁重合させる請求項7記載の製造方法。 【請求項9】水溶性高分子が、ケン化度65〜90モル%のポリビニルアルコールである請求項8記載の製造方法。 【請求項10】ビニル系化合物が塩化ビニルを含む請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 (1)令和2年9月3日付けの取消理由通知で通知した取消理由について 当審が令和2年9月3日付けの取消理由通知で通知した取消理由(以下「取消理由1」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。 (取消理由1及び申立理由は、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲及び明細書等に対するものであり、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲1〜10は、以下、「本件訂正前の本件発明1〜本件発明10」という。 令和2年11月5日付けの訂正請求は、令和3年3月11日付けで訂正拒絶理由通知書が通知され、特許権者からの応答はなく、令和3年6月30日付け取消理由通知(決定の予告)(以下「取消理由2」という。)で訂正請求を認めないものとしたことから、取消理由2は、本件訂正前の本件発明1〜本件発明10に対するものである。 令和3年11月8日付けの訂正請求は、令和4年3月3日付け取消理由通知(決定の予告)(以下「取消理由3」という。)において訂正請求を認めたものであり、その後は訂正請求はなされなかったから、取消理由3は、本件訂正後の特許請求の範囲及び明細書等に対するものであり、「第3 本件発明」で定義したとおり、本件訂正後の特許請求の範囲1〜10は、以下、「本件発明1〜10」ないしは「本件訂正後の本件発明1〜本件発明10」という。) ア 取消理由1A(明確性) 本件訂正前の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 イ 取消理由1B(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1B、2B(サポート要件)について」「ア 取消理由1B、2B、申立理由5(サポート要件)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 ウ 取消理由1C(新規性) (ア)本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 エ 取消理由1D(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件訂正前の本件発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)令和3年6月30日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について 当審が取消理由2で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 ア 取消理由2A(明確性) 本件訂正前の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 イ 取消理由2B(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1B、2B(サポート要件)について」「ア 取消理由1B、2B、申立理由5(サポート要件)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 ウ 取消理由2C(新規性) (ア)本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 エ 取消理由2D(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件訂正前の本件発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)令和4年3月3日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について 当審が取消理由通知3で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 ア 取消理由3A(明確性) 本件訂正後の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正後の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(新規性) 本件訂正前の本件発明1〜5、7〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(進歩性) (ア)本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (イ)本件訂正前の本件発明1〜10は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(新規事項) 本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(1)申立理由3(新規事項)について」「ア 申立理由3(新規事項)の概要」に記載した理由により、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に係るものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(2)申立理由4(実施可能要件)について」「ア 申立理由4(実施可能要件)の概要」に記載した点で、当業者が本件訂正前の本件発明1〜10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (5)申立理由5(サポート要件) 本件訂正前の本件発明1〜10の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1B、2B(サポート要件)について」「ア 取消理由1B、2B、申立理由5(サポート要件)の概要」に記載した点で不備があるから、下記の点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の本件発明1〜10についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項 1 本件明細書に記載された事項 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 (本a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、ビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤として好適に使用出来るポリビニルアルコール系重合体、このポリビニルアルコール系重合体を含有する水性液、このポリビニルアルコール系重合体を分散助剤として使用するビニル系樹脂の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 塩化ビニル系樹脂(又は、以下、塩化ビニル系重合体ということがある)は、一般に、塩化ビニルモノマーを、重合開始剤及び分散安定剤などと共に水性媒体中に分散させて重合を行う懸濁重合法により製造されている。 その際使用される分散安定剤としては、塩化ビニルモノマーの分散性を安定化して、製造される塩化ビニル系樹脂の粒径を調節するために添加されるいわゆる「分散安定剤」と、製造される塩化ビニル系樹脂粒子中の空孔率(ポロシティ)を上げるために添加されるいわゆる「分散助剤」とがある。 ・・・ 【0007】 しかしながら、特許文献8〜19に記載された様なイオン性基を導入した分散助剤では、水溶性や水分散性は改善されているものの、懸濁重合時の緩衝剤の使用量、緩衝剤の投入時期、重合系内の酸素濃度等により重合系内のpH値の範囲(3〜8)が変化するためか、その特性(ポロシティの向上、ポロシティ分布の均一性、脱モノマー性や可塑剤吸収能の向上等)を十分発揮することができない場合があり、更には重合安定性が不良になったり、スケールの付着等が著しくなったりするなどの懸念があった。 また、イオン性基を導入して水溶性や水分散性を改善した分散助剤は、10質量%以下の含有量の水性液を得ることはできるが、20質量%以上の含有量では分散助剤の凝集が起こり水性液を得ることができないという問題があった。 【0008】 また、近年、環境に対する配慮や作業性の向上の観点から、アルコール類などの有機溶剤を使用しなくとも、水単独で水性液とすることが可能であり、さらに、高濃度の水性液を得ることができ、かつ重合安定性に優れ、本来の使用目的である塩化ビニル系樹脂の空孔率を高める効果に優れた分散助剤の開発が望まれていた。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、良好な安定性や取り扱いやすい粘度を有した高濃度の水性液を得ることができ、ビニル系化合物の重合に有用な分散助剤を提供することを目的とする。 また、本発明は、ビニル系化合物の懸濁重合に用いた際には、幅広い重合条件で安定的に良好な重合物(ビニル系樹脂)が得られる分散助剤を提供することを目的とする。 特に、本発明は、高い空孔率を持ち、可塑剤吸収性等に優れたビニル系樹脂(特に、塩化ビニル系樹脂)を得ることができる懸濁重合用分散助剤を提供することを目的とする。 また、本発明は、該分散助剤を用いることで、可塑剤吸収性等に優れたビニル系樹脂の製造方法を提供することをも目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 重合度の大きいPVAを含む水性液は、粘度が高いため、高濃度のPVA水性液とすると特に高粘度になり取り扱い性が悪いが、本発明者らは、重合度の大きいPVAに含まれる疎水性の脂肪酸基(例えば、酢酸基等)のランダム性を高くすることにより、疎水性基がPVA分子鎖中にランダムに配置されることによってPVA分子同士の相互作用が小さくなりPVAの水溶性や水分散性が向上するためか、重合度の大きいPVAを高濃度で含む水性液であっても、粘度が低く取り扱い性に優れた水性液とできることを見出した。 また、重合度の小さいPVAは、ビニル系モノマーの分散能力が低いが、本発明者らは、重合度の小さいPVAに含まれる疎水性の脂肪酸基(例えば、酢酸基等)のブロック性を高くすることにより、PVA分子鎖中において疎水性ブロック(すなわち、脂肪酸基を含む構成単位によって形成されるブロック)と親水性ブロック(すなわち、ヒドロキシ基を含む構成単位によって形成されるブロック)の各ブロック鎖長が長くなり、PVAの界面活性力が向上するためか、重合度の小さいPVAであっても、十分なビニル系モノマー分散能力が得られることを見出した。 【0011】 詳細には、本発明者らは、重合度の大きいPVAを使用する場合は、PVAに含まれる脂肪酸基のランダム性を高くする(すなわち、脂肪酸基のブロックキャラクターを1に近い値とする)ことにより、重合度の大きいPVAを高濃度で含む水性液であっても、水性液の粘度を低くできることを見出した。 一方で、本発明者らは、重合度の小さいPVAを使用する場合は、PVAに含まれる脂肪酸基のブロック性を高くする(すなわち、脂肪酸基のブロックキャラクターを0に近い値とする)ことにより、重合度の小さいPVAを含む水性液であっても、十分なビニル系モノマーの分散能力が得られることを見出した。 【0012】 そして、本発明者らは、これらのことから、PVAの重合度やPVAに含まれる脂肪酸基のブロックキャラクターを単に規定するのではなくこれらの比を一定の範囲とすることにより、取り扱い性やビニル系モノマーの分散能力に優れた水性液が得られることを見出した。 【0013】 すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するためにさらに鋭意研究を重ねた結果、ケン化度が45〜65モル%のポリビニルアルコール系重合体で、該重合体の重合度とブロックキャラクターのとの関係を以下の(式1)の範囲に調整すれば、ポリビニルアルコール系重合体を30〜50質量%含有できる高濃度の水性液を得ることができ、該ポリビニルアルコール系重合体を使用して塩化ビニル単量体を懸濁重合すると、空孔率に優れた塩化ビニル系樹脂を得ることができることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成した。 (式1)250≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ・・・ 【発明の効果】 【0015】 本発明は、良好な安定性や取り扱いやすい粘度を有した高濃度の水性液を得ることができ、ビニル系化合物の懸濁重合に有用な分散助剤を提供することができる。良好な安定性や取り扱いやすい粘度を有する水性液とすることにより、分散助剤の性能(例えば、懸濁重合によって得られるビニル系樹脂の空孔率や可塑剤吸収量の向上)を十分に発揮することができる。 また、本発明によれば、有機溶媒を使用しなくても高濃度の水性液を得ることができ、ビニル系化合物の懸濁重合に有用な分散助剤を提供することができる。 また、本発明によれば、ビニル系化合物の懸濁重合に用いた際には、幅広い重合条件で安定的に良好な重合物が得られる分散助剤を提供することができる。 特に、本発明によれば、高い空孔率を持ち、可塑剤吸収性、脱モノマー性等に優れたビニル系樹脂(特に、塩化ビニル系樹脂)を得ることができる懸濁重合用の分散助剤を提供することができる。 また、本発明によれば、該分散助剤を用いることで、可塑剤吸収性等に優れたビニル系樹脂の製造方法を提供することができる。」 (本b)「【0016】 以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。 本発明のビニル系化合物(又は、ビニル系モノマー、ビニル系単量体ともいう)の懸濁重合用分散助剤(添加剤、分散剤)は、特定のポリビニルアルコール系重合体である。 【0017】 [ポリビニルアルコール系重合体] 本発明の分散助剤に使用されるポリビニルアルコール系重合体(以下、ポリビニルアルコール系重合体をPVA系重合体と略記することがある)としては、例えば、ビニルエステル系重合体をケン化反応することにより得られるPVA系重合体(A)を使用することができる。 該ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル系単量体を重合することにより得ることができる。重合方法としては、特に限定されず、従来公知の方法に従って良いが、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、重合度の制御や重合後に行うケン化反応のこと等を考慮すると、メタノールを溶媒とした溶液重合、あるいは、水又は水及びメタノールを分散媒とする懸濁重合が好ましいが、これらに限定されるものではない。 【0018】 前記重合に用いることができるビニルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル(オクタン酸ビニル)、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル等を挙げることができ、これらのビニルエステル系単量体は1種又は2種以上使用することができる。これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。 【0019】 ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の効果を奏する限り、ビニルエステル系単量体を他の単量体と共重合させても差し支えない。 ・・・ 【0022】 また、ビニルエステル系単量体の重合に際して、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。 連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の有機ハロゲン類が挙げられ、中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。これらの連鎖移動剤は1種又は2種以上使用することができる。 連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10質量%が望ましい。 【0023】 上述のようにして得られたビニルエステル系重合体をケン化反応することにより、PVA系重合体(A)を製造することができる。 ビニルエステル系重合体のケン化反応方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又は塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。 ケン化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。 【0024】 PVA系重合体(A)のケン化度については、JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるPVA系重合体のケン化度が、通常45モル%〜65モル%、好ましくは45モル%〜60モル%である。ケン化度が45モル%以上であれば、PVA系重合体を含む水性液の粘度が高くなりすぎず、また、水性液の安定性が優れる。ケン化度が60モル%以下であれば、ビニル系化合物の懸濁重合の安定性が優れる。 【0025】 また、本発明に用いられるPVA重合体は、通常、以下の(式1)を満足する。 (式1)250≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) 【0026】 (式1)の値が、400以下であれば、PVA系重合体を含む水性液の流動性が向上したり、水性液の安定性が優れる。 また、(式1)の値が、250以上であれば、ビニル系化合物の懸濁重合の安定性が優れ、また、高空孔率のビニル系樹脂[特に、塩化ビニル系樹脂(以下、PVC系樹脂ということがある)]を得やすい。 【0027】 式1において、重合度Xは、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる重合度である。 PVA系重合体(A)の重合度は、特に限定されないが、好ましくは160〜400、より好ましくは180〜350である。 PVA系重合体(A)の重合度が160以上であれば、ビニル系化合物の懸濁重合の安定性が優れ、重合度が400以下であれば、ビニル系化合物の懸濁重合時にPVA系重合体(A)の析出が起こることを防止でき、分散助剤としての本来の性能を発現しやすい。 【0028】 また、ブロックキャラクターYは、PVA系重合体(A)の残存脂肪酸基のブロックキャラクター(η)であり、PVA系重合体の残存脂肪酸基の分布を示す指標であり、13C−NMRスペクトル中のメチレン領域に現れる3本のピークの解析により求められる。前記の3本のピークは、(OH、OH)、(OH、OR)、(OR、OR)に相当する3個の2単位連鎖構造に相当し、その吸収強度は3個の構造に比例している。ブロックキャラクター(η)は、下記(式2)で表される。尚、残存脂肪酸基(OR基)は、脂肪酸ビニルエステル単位(すなわち、脂肪酸ビニルエステル由来の単位)に含まれる脂肪酸基であり、例えば、脂肪酸ビニルエステルとして酢酸ビニルが使用された場合は、アセトキシ基(OAc基)を示す。 【0029】 (式2) η=(OH、OR)/[2(OH)(OR)] 〔式中、(OH、OR)は、OH基とOR基が隣接する2単位連鎖構造(OH、OR)の割合を表し、13C−NMRスペクトルのメチレン炭素の強度比より求められる。また、式中、(OH)は、ケン化度を表し、(OR)は、残存脂肪酸基の割合を表し、それぞれモル分率で表される。〕 【0030】 尚、(式2)において、(OH、OR)とは、(OH、OH)、(OH、OR)及び(OR、OR)の総量に対する、(OH、OR)の割合を表す。 また、(OH)、(OR)とは、PVA系重合体(A)に含まれる(OH)及び(OR)の総量に対する(OH)、(OR)の割合を表す。 【0031】 このブロックキャラクターは、通常0〜2の値をとり、0に近いほど残存脂肪酸基分布のブロック性が高いことを示し、1に近いほどランダム性が高いことを示し、2に近いほど交互性が高いことを示す。残存脂肪酸基のブロック性は、塩化ビニルモノマー等のビニル系単量体の分散性に影響を与える。尚、このブロックキャラクターに関しては、「ポバール」、高分子刊行会(1981年発行)の第246〜249頁及びMacromolecules,10,532(1977年)にその測定法等が詳述されている。 【0032】 PVA系重合体(A)のブロックキャラクターは、特に限定されないが、0.6〜0.9であることが好ましく、さらに好ましくは0.6〜0.8である。 ブロックキャラクターが0.9以下であれば、得られるPVC系樹脂等のビニル系樹脂の空孔性が向上する。ブロックキャラクターが0.6以上であれば、PVA系重合体を含む水性液の流動性が向上し、水性液の取扱い性が良好となる。 【0033】 本発明において、PVA系重合体(A)の残存脂肪酸基のブロックキャラクターは、ビニルエステル系重合体をケン化してPVA系重合体(A)を製造する際に使用するケン化触媒及び溶媒の種類等により調整できる。 0.6以上のブロックキャラクターを得るためには、硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いて酸ケン化する方法が簡便である。 また、得られたPVA系重合体(A)を加熱しブロックキャラクターを増加させることによって調整する方法もある。 【0034】 本発明において、特に好ましいPVA系重合体(A)には、重合度が160〜400、ブロックキャラクターが0.6〜0.9、ケン化度が45〜65モル%であるPVA系重合体や、重合度が180〜350、ブロックキャラクターが0.6〜0.8、ケン化度が45〜60モル%であるPVA系重合体等が含まれる。」 (本c)「【0035】 [水性液] 本発明の分散助剤は、そのまま使用してもよいし、水性液として使用してもよい。 水性液とする場合は、上記のポリビニルアルコール系重合体(A)を分散質として、水性溶媒中に分散又は溶解させればよい。 【0036】 水性液に使用される水性溶媒は、特に限定されないが、通常は水である。 水性溶媒には、放置安定性向上の観点から水溶性の有機溶媒などが含まれていてもよい。 水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコール誘導体;などが挙げられる。なお、これら有機溶媒は、1種であってもよく、2種以上を混合して使用してもよい。 【0037】 水性液におけるPVA系重合体の含有量は、特に限定されず、水性液に対して、例えば30〜50質量%である。該PVA系重合体の割合が30質量%以上であれば、水性液の放置安定性が向上し、50質量%以下であれば、水性液の流動性が優れ、また、水性液がゲル状となることを防止しやすい。 【0038】 水性液において、水性溶媒中の水の含有量は、例えば50〜100質量%である。 水性溶媒が水溶性有機溶媒を含む場合は、環境に対する配慮や作業性の向上の観点から、水溶性有機溶媒の含有量は、水性液に対して3.0質量%以下(例えば、0.1〜3.0質量%)であることが好ましい。 【0039】 かかる水性液を得る方法としては、特に限定されず、ビニルエステル系重合体をケン化する際のアルコールをスチーム等の吹き込みにより水性溶媒に置換する方法、撹拌下で水性溶媒中へポリビニルアルコール系重合体(A)を投入し、引き続き撹拌する方法、更に加熱を併用する方法等が挙げられる。 本発明の水性液は、ポリビニルアルコール系重合体(A)の含有量が30〜50質量%である場合でも、有機溶媒や分散剤や乳化剤を使用しなくても1年以上の良好な放置安定性(例えば、常温での放置安定性)が得られる。 【0040】 本発明の分散助剤を含む水性液の粘度は、例えば、B型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度が、取り扱い性に優れる等の観点から、例えば1〜10000mPa・sである。」 (本d)「【0041】 [ビニル系樹脂の製造方法] 本発明の分散助剤を用いたビニル系化合物の懸濁重合法について説明する。 本発明の分散助剤存在下で、ビニル系化合物を懸濁重合させることにより、ビニル系樹脂を製造することができる。 【0042】 懸濁重合は、通常、水性溶媒に、本発明の分散助剤を添加し、ビニル系モノマーを分散させて行う。尚、懸濁重合は、通常、重合開始剤の存在下で行う。水性溶媒は、通常は水であり、加熱された水であってもよい。また、懸濁重合は、重合系内に分散安定剤を存在させて行ってもよい。 【0043】 懸濁重合の対象となるビニル系化合物(又は、ビニル系モノマー、ビニル系単量体)としては、ビニル系化合物であれば特に限定されない。 ビニル系化合物としては、例えば、塩化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)クリル酸アルキルエステル等)、スチレン系モノマー(例えば、スチレン等)、不飽和ジカルボン酸(例えば、マレイン酸等)又はその無水物、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)等が挙げられるが、少なくとも塩化ビニルを含むことが好ましい。これらビニル系モノマーは、1種又は2種以上を使用することができる。 【0044】 塩化ビニルを含むビニル系化合物を懸濁重合させることにより、塩化ビニル系樹脂を得ることができる。塩化ビニル系樹脂の製造においては、使用するビニル系化合物総量に対して、50〜100モル%(又は50〜100質量%)が塩化ビニルであることが好ましい。」 (本e)「【0045】 分散安定剤としては、例えば、水溶性高分子(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)等が挙げられる。 これらの中でも、PVAが好ましい。PVAとしては、PVA系重合体(A)の範疇に属さないPVAであればよく、このようなPVAのケン化度は、65〜90モル%であってもよい。中でも、ケン化度65〜90モル%のポリビニルアルコールや、重合度500〜3500のポリビニルアルコールが好適に用いられる。 【0046】 分散安定剤の添加量は分散安定剤の種類等によって一概に言えないが、通常はビニル系単量体100質量部に対して5質量部以下であり、0.005〜1質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がさらに好ましい。」 (本f)「【0047】 ビニル系単量体の懸濁重合において、本発明の分散助剤の使用量は、特に制限はないが、ビニル系単量体100質量部に対して、分散助剤中に含有されるPVA系重合体の質量が、通常は1質量部以下(例えば、0.001〜1質量部)であり、0.001〜0.5質量部が好ましく、0.005〜0.2質量部がさらに好ましい。 【0048】 分散安定剤と本発明の分散助剤に含有されるPVA系重合体との添加量の質量比は、分散安定剤の種類等によって一概に言えないが、90/10〜30/70の範囲が好ましく、特に80/20〜50/50が好ましい。 尚、該分散安定剤及び分散助剤は、重合の初期に重合系内に一括仕込みしても、重合の途中で分割して仕込んでもよい。 【0049】 本発明の分散助剤は、粉体の状態でビニル系単量体の重合系内に添加してもよいし、水性液として(好ましくは、PVA系重合体30〜50質量%の水性液として)調製してから使用してもよい。また、本発明の分散助剤は、ビニル系単量体を重合系内に仕込む際又は仕込んだ後に重合系内に仕込んでもよいが、ビニル系単量体を重合系内に仕込む前に重合系内に仕込むことが好ましい。 【0050】 また、重合開始剤は限定されないが、特に、油溶性であってよく、例えば、パーカーボネート化合物(例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等)、パーオキシエステル化合物(例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシ−2−ネオデカノエート等)、アゾ化合物[例えば、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル等]、パーオキシド化合物(例えば、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等)等が挙げられる。 【0051】 重合開始剤の添加量は、ビニル単量体又はそれを含む単量体混合物100質量部に対して、0.02〜0.2質量部であることが好ましい。 更に、重合開始剤は、水性溶媒又は単量体を重合系内に仕込む前と仕込む後のどちらに添加してもよい。又は、予め水性エマルジョンとしてから重合槽に添加してもよい。 【0052】 本発明の効果を阻害しない範囲において、カチオン系、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤等を、懸濁重合の際に加えてもよい。 【0053】 なお、本発明のビニル系樹脂の製造方法における種々の条件は、公知の技術を用いることができる。例えば、各原料化合物の仕込み方法、単量体と水性溶媒との仕込み比率、重合温度、重合転化率、攪拌回転数等の重合条件は、特に限定されない。また、必要に応じて、消泡剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、耐電防止剤等の公知の各種添加剤を併用しても差し支えない。」 (本g)「【0054】 [塩化ビニル系樹脂] 本発明には、特定の塩化ビニル系樹脂も含まれる。塩化ビニル系樹脂の製造方法は、特に限定されないが、通常、上記したビニル系化合物の懸濁重合により製造することができる。 【0055】 塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂の用途により最適値は異なるが、塩化ビニル系樹脂の可塑剤として用いられるジオクチルフタレートを、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、通常10質量部以上、好ましくは13〜40質量部、より好ましくは15〜40質量部吸収し得る。可塑剤吸収量が高い方が塩化ビニル系樹脂成形物を得るときにフィッシュアイが少なくなるため好ましい。ただし、通常可塑剤吸収量が高くなると、嵩比重が低くなるので、パイプ用途や窓枠用途のような可塑剤をあまり多く必要としない硬質塩化ビニル系樹脂用途に用いられる場合は、可塑剤吸収量はあまり高い必要はなく10質量部以上等が好ましいが、シートやフィルム用途のような可塑剤を多く含有する必要がある軟質塩化ビニル系樹脂用途に用いられる場合は、可塑剤の吸収量が20質量部以上であることが好ましい。尚、分散助剤は主に可塑剤吸収量を高めるため用いられ、添加量の増減により可塑剤吸収量の高低を調整することができる。本発明の分散助剤は、硬質塩化ビニル系樹脂用途、軟質塩化ビニル系樹脂用途のどちらに用いてもよい。可塑剤吸収量の測定方法は、特に限定されず、例えば、後述の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。 【0056】 塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば100〜200μm、好ましくは110〜190μm、より好ましくは120〜180μmである。平均粒子径の測定方法は、特に限定されず、例えば、ロータップ式振動篩(JIS篩を使用)を用いて粒度分布を測定することにより、測定することができる。 【0057】 塩化ビニル系樹脂の最大粒子径は、通常250μm以下である。塩化ビニル系樹脂は、JIS規格の#60篩を通過できない粒子の量が0.1質量%未満であることが好ましい。また、塩化ビニル系樹脂の粒度分布は、60〜250μmの範囲内にあることが好ましい。 また、塩化ビニル系樹脂は、JIS規格の#250篩を通過する粒子の量が0.1質量%未満であることが好ましい。 最大粒子径および粒度分布の測定方法は、特に限定されず、例えば、ロータップ式振動篩(JIS篩を使用)を用いた粒度分布の測定により、測定することができる。 【0058】 塩化ビニル系樹脂の嵩比重(嵩密度)は、例えば0.35〜0.65g/ml、好ましくは0.4〜0.6g/ml、より好ましくは0.5〜0.6g/mlである。 嵩比重は、押出し速度が向上できるため高い方が好ましい。嵩比重は、JIS K 6721に従って測定することができる。 【0059】 また、本発明の塩化ビニル系樹脂は、高い空孔率を持ち、脱モノマー性や可塑剤吸収性に優れ、フィッシュアイが発生しにくい等の優れた特性を持っている。」 (本h)「【実施例】 【0060】 以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。 なお、以下の実施例及び比較例において「%」及び「部」は、特にことわりのない限り、「質量%」及び「質量部」を意味する。 【0061】 はじめに、本実施例におけるポリビニルアルコール系重合体(PVA系重合体)水性液の評価方法を、以下に示す。 (PVA系重合体水性液の特性評価) 得られたポリビニルアルコール系重合体水性液について、安定性、粘度、流動性を、それぞれ下記の方法によって確認、測定した。 a)安定性:水性液200gを200mlのトールビカーに入れ、20℃で一日間放置した後の状態を目視で観察した。○:均一(析出又は、相分離なし)、×:不均一(析出又は、相分離あり) b)粘度:水性液の20℃における粘度を、B型回転粘度計を用いて測定した。 c)流動性:水性液の流動性を以下の基準に従って評価した。 ○:粘度=10000mP・s以下、×:粘度=10000mP・s以上 【0062】 次に、本実施例における塩化ビニル重合体(塩化ビニル樹脂)の評価方法を、以下に示す。 (塩化ビニル重合体の評価) 塩化ビニル重合体について、平均粒子径、粗大粒子含有量、嵩比重、可塑剤吸収性を、次のようにして評価した。 【0063】 <平均粒子径、粗大粒子含有量> ロータップ式振動篩(JIS篩を使用)により粒度分布を測定し、平均粒子径を求めた。尚、塩化ビニル重合体の平均粒子径は、100μm〜200μmの範囲が一般的である。 測定した粒子径分布より、60メッシュオン(すなわち、粒子径が250μm以上)の粗大粒子の含有量を%で表した。該含有量が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布がシャープであり、重合安定性に優れていることを示す。尚、後述の表1において、該含有量は#60オンと示す。 【0064】 <嵩比重> JIS K 6721に準拠して測定した。嵩比重が大きいほど、押出し速度を向上でき、加工性が良いことを示す。 【0065】 <可塑剤吸収性> 底にグラスファイバーを詰めた円筒状容器に得られた樹脂を入れ、過剰のジオクチルフタレート(以下、DOPと略記する)を加え、30分放置することによって樹脂にDOPを浸透させた後、3000rpmで遠心分離することによって余分なDOPを除去した後、樹脂の重量を測定して、重合体100質量%あたりのDOP吸収量を算出した。DOP吸収量が大きいほど、可塑剤吸収性がよく、成形加工性に優れることを示す。また、可塑剤吸収性が高いほど、塩化ビニル重合体の空孔率が高いことを示す。 【0066】 <実施例1> (PVA系重合体の合成) 攪拌機、コンデンサー、窒素ガス導入口及び開始剤投入口を備えた反応槽に、予め酢酸ビニル10質量部、メタノール67質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.02質量部を重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温した。そして、反応液温度が60℃以上になったら、重合缶上部より、酢酸ビニル140質量部を、13時間かけて少しずつ連続的に滴下した。滴下が終了してから1時間後、重合率95%に達した時点で系を冷却し、重合を停止した。 次に、常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られたポリ酢酸ビニルの50%メタノール溶液100質量部に、パラトルエンスルホン酸の50%メタノール溶液2質量部を加えてよく混合し、50℃でケン化反応を行い、水酸化ナトリウムの5質量%メタノール溶液4.5質量部を加え中和しケン化反応を停止し、PVA系重合体(A)の溶液を得た。得られた溶液を乾燥して、ケン化度55.0モル%、平均重合度(PA)210、ブロックキャラクター0.70、前述の式1より求められる値が300のPVA系重合体を得た。 【0067】 (水性液の作成) 得られたPVA系重合体を溶質として40質量%含有するように、水中に投入し、80℃で1時間撹拌することにより溶解し、室温まで冷却することにより水性液を得た。得られた水性液の評価結果を表1に示す。 得られた水性液は、析出、相分離はなく安定で、粘度は、1380mPa・sであり、流動性は良好であった。 【0068】 (塩化ビニルの懸濁重合) 内容積100リットルの重合機(耐圧オートクレーブ)に、塩化ビニル単量体100質量部に対して、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度80モル%、重合度2500)0.056質量部、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度72モル%、重合度800)0.014質量部を脱イオン水112.5質量部に溶解し仕込み、更に、上記で得られた本発明の水性液0.0625質量部(含有される分散助剤(PVA系重合体)換算で0.025質量部)、および、t−ブチルパーオキシネオデカノエート0.05質量部を投入した。 次に、重合機内を40mmHgまで脱気した後、塩化ビニル単量体を100質量部仕込み、攪拌を開始した。重合温度は57℃とし、重合終了までこの温度を保持した。 重合転化率が80%に達した時点で反応を終了し、重合機内の未反応単量体を回収した後、重合体スラリーを系外に取り出し、脱水乾燥し、塩化ビニル重合体を得た。塩化ビニル重合体の評価結果を表1に示す。 粗大粒子が無く、可塑剤吸収量が十分高い、高い空孔率を持った塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)が得られた。 【0069】 <実施例2〜9、比較例1〜5> ケン化度、重合度、ブロックキャラクター、式1より求められる値が表1に示す値となるようにした以外は実施例1と同様にしてPVA系重合体を作製し、実施例1と同様の方法で表1に示されるPVA系重合体含有量の水性液を調製した。 さらに、その水性液を用いて、実施例1と同様の条件で(本発明の分散助剤の添加量が(PVA系重合体)換算で0.025質量部となるように水性液の仕込み量を調整し)、塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル樹脂を得た。 水性液の評価結果と得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に併せて示す。 【0070】 <比較例6> 本発明のPVA系重合体を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル樹脂を得た。 得られた塩化ビニル樹脂の評価結果を表1に併せて示す。 【0071】 表1から、実施例は比較例に対して優れていることが判る。結果について下記の通り記す。 実施例2〜9:得られた水性液は、析出や相分離はなく安定で、流動性も良好であった。また、粗大粒子が無く、可塑剤吸収量が十分高い、高い空孔率を持ったPVC樹脂が得られた。 比較例1:式1より求められる値が400より大きいことから、水性液の流動性が著しく低かった。その結果、分散剤本来の性能が発揮できず、PVC樹脂の可塑剤吸収量が少し低くなり、平均粒子径が少し肥大化してしまった。 比較例2:式1より求められる値が400より大きいことから、水性液の流動性が著しく低かった。その結果、分散剤本来の性能が発揮できず、PVCの懸濁重合でPVC粒子がブロック化してしまい評価可能なPVC樹脂を得ることができなかった。 比較例3:式1より求められる値が250より小さいことから、塩化ビニルの懸濁重合の安定性が悪くなり、また、PVC樹脂は、平均粒子径が肥大化してしまい、空孔率が低く可塑剤吸収性が劣った。 比較例4:ケン化度が低すぎるため、水性液の安定性が悪く、水性液からPVA系重合体が析出してしまい、水性液を作製することができなかった。 比較例5:ケン化度が高すぎるため、さらに、式1より求められる値が400より大きいことから、PVC樹脂は、平均粒子径は肥大化し、空孔率が低く、可塑剤吸収量が低かった。 比較例6:本発明のPVA系重合体を用いなかったため、得られたPVC樹脂は空孔率が非常に低く、可塑剤吸収量が非常に低かった。 【0072】 これらの結果の様に、実施例1〜9は、比較例1〜6に比べて、水性液の安定性、流動性に優れ、塩化ビニル系樹脂の空孔率が高く、結果として可塑剤吸収性が高く、一次分散剤への悪影響が少ないことから、塩化ビニル系樹脂の平均粒径が肥大化しない等の優れた特性を示すことがわかる。 【0073】 【表1】 ![]() 」 2 各甲号証に記載された事項 (1)甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 塩化ビニル又は塩化ビニルを含む単量体混合物の懸濁重合による塩化ビニル系重合体の製造方法であって、水性媒体及び前記単量体の少なくとも1種を予め加熱し、重合器に前記水性媒体及び単量体を同時に仕込む工程と、分散剤を水の仕込み中に仕込む工程を有する製造方法において、前記分散剤に平均重合度 150〜600 、けん化度20〜60モル%、けん化度に関するブロックキャラクタが 0.6以上の部分けん化ポリビニルアルコールが含有されていることを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。」 (甲1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、塩化ビニル又は塩化ビニルを含む単量体混合物の懸濁重合による重合体の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】塩化ビニル又は塩化ビニルを含む単量体混合物(以下、塩化ビニル等という)の懸濁重合は、通常バッチ式で行われている。即ち、重合器中に水性媒体及び分散剤を仕込み、続いて重合開始剤を仕込み、次に重合器内を排気した後、単量体を仕込み、更に必要に応じてその他の添加剤を加えた後、昇温して重合反応を行わせるという方法である。 【0003】近年、生産性向上のために、重合器の大型化、コンデンサの使用に加えて、重合1バッチに要する時間の短縮化を図っている。重合1バッチに要する時間を短縮する方法としては、仕込み時間の短縮、昇温時間の短縮等がある。仕込み時間を短縮する方法としては、前記の水性媒体及び単量体を同時に仕込み、かつ水性媒体仕込み中に分散剤を仕込む方法(所謂パラレル仕込み)が採られている。更に、その仕込み時間の短縮方法に加えて、昇温時間も短縮するために、水性媒体及び塩化ビニル等の単量体の少なくとも1種を予め加熱して、それらを仕込んでいる間に分散剤を仕込む方法(所謂ホットチャージ)が提案されている(特公昭62−39601 号)。このホットチャージ方法は、重合器の大型化、コンデンサの使用に伴う重合器の加熱能力不足を補う点からも優れている。然しながら、このホットチャージ方法によれば、重合開始剤を仕込と、その重合開始剤が急激に分解するため、原料の仕込み中に重合が開始され、得られる製品重合体のフィッシュアイが著しく増大し、かつ粗粒が発生し、重合器壁等へのスケール付着も増大するという問題がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、重合1バッチに要する時間を短縮することができるとともに、得られる製品重合体のフィッシュアイが少なく、粗粒の発生を防止することができ、更に、重合器内のスケール付着を効果的に防止することができる製造方法を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決した。本発明は、塩化ビニル又は塩化ビニルを含む単量体混合物の懸濁重合による塩化ビニル系重合体の製造方法であって、水性媒体及び前記単量体の少なくとも1種を予め加熱し、重合器に前記水性媒体及び単量体を同時に仕込む工程と、分散剤を水の仕込み中に仕込む工程を有する製造方法において、前記分散剤に平均重合度 150〜600 、けん化度20〜60モル%、けん化度に関するブロックキャラクタが 0.6以上の部分けん化ポリビニルアルコールが含有されていることを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法を提供するものである。・・・」 (甲1c)「【0006】部分けん化ポリビニルアルコール 本発明者らは、重合器に予め加熱された水性媒体及び/又は塩化ビニル等を同時に仕込む工程を有する製造において、平均重合度 150〜600 、けん化度20〜60モル%、けん化度に関するブロックキャラクタηが 0.6以上の部分けん化ポリビニルアルコール(以下、低けん化度ポリビニルアルコールという)を含有してなる分散剤を水性媒体仕込み中に添加すると、フィッシュアイが少なく、粗粒も少ない製品重合体が得られ、重合器内のスケール付着も低く抑えることができることを見いだした。 【0007】ここで、ブロックキャラクターηとは、部分けん化ポリビニルアルコールの残存酢酸基の連鎖分布状態を表すための指標であり、13 C−NMR スペクトル中のメチレン領域に現れる3本のピークの解析により得られる。前記の3本のピークは、左側より(OH,OH) 、(OH,OAc)、(OAc,OAc) に相当する3個の2単位連鎖構造(dyad)に相当し、その吸収強度は3個の構造に比例している。ブロックキャラクターηは、式(1): η=(OH,OH)/[2(OH)(OAc)] (1) (式中、(OH,OAc)は、上記の測定から求められる2単位連鎖構造(OH,OAc)の割合を表し、(OH)は、けん化度を表し、(OAc) は、残存酢酸基の割合を表し、それぞれ分率で用いられる。)で表され、0から2までの値を取ることができる。酢酸基の連鎖分布は、η=0の場合、完全にブロック的であり、0<η<1の場合、0に近づく程ブロック性、1に近づく程ランダム性が強い。η=1の場合は完全にランダムであり、1<η≦2の場合はブロック部とランダム部とが交互に存在することを示す(「ポバール」((株)高分子刊行会、1981年4月1日改定新版発行)第 246頁〜第 249頁参照)。 【0008】前記部分けん化ポリビニルアルコールは、平均重合度が 150未満、けん化度が20モル%未満又はブロックキャラクタが 0.6未満であると、製品重合体の粗粒の発生が多くなり、スケール付着も多くなる。また、平均重合度が 600を越えたり、けん化度が60モル%を越えると、製品重合体のフィッシュアイが多くなる。上記した低けん化度ポリビニルアルコールは、市販のものを使用することができる。 【0009】上記の低けん化度ポリビニルアルコールは、分散剤として通常使用されている化合物、例えば水溶性の高分子化合物とともに使用することができる。そのような高分子化合物として好ましいものは、けん化度75〜85モル%、平均重合度1500〜3000の部分けん化ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等である。低けん化度ポリビニルアルコールの使用量は、分散剤合計量の10〜80重量%が好ましい。また、低けん化度ポリビニルアルコールは、単量体仕込み量に対して 0.005重量%以上が好ましい。低けん化度ポリビニルアルコールを含む分散剤は、予め前記水性媒体中に溶解していてもよく、また、水性媒体を仕込んでいる間に添加してもよい。」 (甲1d)「【0010】重合体製造方法 本発明によると、塩化ビニル等の懸濁重合による重合体は、水性媒体及び塩化ビニル等単量体の少なくとも1種を予め加熱しておく。次に、重合器内を排気した後、前記水性媒体及び単量体を仕込む。前記水性媒体と単量体の仕込みは、同時に仕込んでいる時間があればよく、その前後に水性媒体又は単量体を単独で仕込む時間が存在してもよい。更に、前記水性媒体を仕込んでいる間に低けん化度ポリビニルアルコールを含有する分散剤を仕込み、適当な時期に重合開始剤、その他添加剤等を仕込み、所定の重合反応温度に制御しながら重合を行うことにより製造される。 【0011】水性媒体及び塩化ビニル等の加熱温度は、仕込み中及び仕込み完了時の重合系の温度T〔℃〕が重合反応温度T′〔℃〕に対し、(T′−5)≦T≦(T′+2)となるようにすることが好ましい。仕込み中及び仕込み完了時の重合系の温度があまりに高くなりすぎると、重合反応が急激に進むので反応制御が困難となり、低くなりすぎると設定温度に昇温するまでに長時間要することになり、重合1バッチに要する時間を短縮することができない。 【0012】また、仕込みは、攪拌下に行う必要があり、仕込み速度はなるべく速くすることが好ましく、通常30分以内に仕込みを終えるようにする。仕込みに長時間かかると重合器へのスケール付着が多くなり、製品重合体のフィッシュアイも多くなる。 【0013】本発明の製造方法を適用して重合を行う単量体は、塩化ビニル単独のほか、塩化ビニルを主体とする単量体混合物(通常、塩化ビニル50重量%以上)が包含され、この塩化ビニルと共重合されるコモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル、エチレン、プロピレン等のオレフィン、無水マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、その他塩化ビニルと共重合可能な単量体が例示される。 【0014】重合開始剤も、従来塩化ビニル等の重合に使用されているものでよく、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート等のパーオキシエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、 2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ− 2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を単独又は組み合わせて使用することができる。重合開始剤は、水又は単量体の仕込み中、或いは仕込み終了後に添加すればよく、予め単量体に均一に混合して単量体とともに仕込んでもよいし、水性エマルジョンとして水性媒体とともに仕込んでもよい。 【0015】重合の際に仕込まれる水性媒体、重合開始剤及び分散剤は、単量体 100重量部に対して、通常、水性媒体 100〜200 重量部、重合開始剤0.03〜0.3 重量部、分散剤0.03〜2.0 重量部である。 【0016】さらに、塩化ビニル等の重合に適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、pH調整剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤等を添加することも任意である。以下、本発明における一般的な懸濁重合方法を具体例を挙げて説明する。 【0017】まず、重合器内を排気して10〜100mmHg に減圧した後、水(予め40〜90℃に加熱したもの)及び単量体を同時に仕込む。なお、前後に水又は単量体を単独で仕込む時間があってもよい。更に、水を仕込んでいる間に低けん化度ポリビニルアルコールを含有してなる分散剤を仕込み、重合開始剤を仕込む。その後、30〜70℃の反応温度で重合する。重合の反応温度は、重合される単量体の種類によって異なる。重合中には必要に応じて、各種添加剤を添加する。重合は、重合器の内圧が運転圧より 0.3〜5kgf/cm2 G 低下した時点で、あるいは重合器外周に装備されたジャケット内に流入、流出させる冷却水の入口温度と出口温度との差がほぼなくなった時(すなわち重合反応による発熱がなくなった時)に、完了したと判断される。」 (甲1e)「【0018】 【実施例】 分散剤 分散剤としては、下記のものを使用した。 分散剤1:平均重合度 190、けん化度54.7モル%、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコール 分散剤2:平均重合度2500、けん化度80モル%の部分けん化ポリビニルアルコール 分散剤3:ヒドロキシプロピルメチルセルロース 分散剤4:平均重合度 235、けん化度50.7モル%、ブロックキャラクタ0.46の部分けん化ポリビニルアルコール 尚、上記のブロックキャラクタは、FT-NMR(商品名: GSX-270型、日本電子製)で測定した13C-NMR スペクトルのメチレン領域のピークから求めた。 【0019】実施例1 内容積が 2.1 m3 のステンレススチール製重合器(攪拌装置及びジャケット付き)を使用して、以下の重合を行った。重合器内を50mmHgになるまで脱気した後、塩化ビニル単量体 700kgと70℃に加熱した脱イオン水 910kgの仕込みを同時に開始した。これらの仕込み開始から1分後に攪拌を開始して、分散剤の仕込みを開始した。使用した分散剤とその仕込み量は、表1に示したとおりであり、表1中の仕込み量(重量%)は、単量体仕込み量に対する割合である。前記分散剤に続いて重合開始剤としてジ−2−エチルヘキシルジカーボネート 350gを圧入した。塩化ビニル単量体と脱イオン水の仕込みには、12分かかった。その間に分散剤及び重合開始剤の仕込みは終了していた。仕込み終了時の重合器内の温度は56℃であった。重合器内の温度を57℃に保ちながら重合反応を行った。重合器内圧が 6.0kg/cm2 G に達した時点で重合を停止して、未反応の単量体を回収し、得られた重合体をスラリー状で器外に抜き出し、脱水乾燥した。 【0020】得られた塩化ビニル重合体について、嵩比重、粒度分布、可塑剤吸収量及びフィッシュアイを下記の方法で測定した。その結果を表1に示す。 (1) 嵩比重:JIS K 6721にしたがって測定した。 (2) 粒度分布:JIS Z-8801に準じた♯60、♯100 、♯200 の各篩を用いて篩分けし、通過量(重量%)を計量した。 (3) 可塑剤吸収量:内径25mm、深さ85mmのアルミニウム合金製容器の底にグラスファイバーを詰め、試料の塩化ビニル重合体10gを採取して投入する。これにジオクチルフタレート(以下DOPとする)15ccを加え、30分放置してDOPを重合体に充分浸透させる。その後1500Gの加速度下に過剰のDOPを遠心分離し、重合体10gに吸収されたDOPの量を測定して、重合体 100g当たりに換算した。 (4) フィッシュアイ:試料の塩化ビニル重合体を 100重量部、三塩基性硫酸鉛を1重量部、ステアリン酸鉛を 1.5重量部、酸化チタンを 0.2重量部、カーボンブラックを 0.1重量部及びDOPを50重量部の割合で調製した混合物をロールを用いて 145℃で5分間混練した後、厚さ0.2mm のシートに成形し、シート 100cm2当たりに含まれるフィッシュアイの個数を計数した。 【0021】実施例2、3 実施例1において、分散剤としてそれぞれ表1に示したものを使用した以外は実施例1と同様に重合を行って塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体について実施例1と同様に嵩比重、粒度分布、可塑剤吸収量及びフィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。 【0022】比較例1、2 実施例1において、分散剤としてそれぞれ表1に示したものを使用した以外は実施例1と同様に重合を行って塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体について実施例1と同様に嵩比重、粒度分布、可塑剤吸収量及びフィッシュアイを測定した。その結果を表1に示す。 【0023】 【表1】 ![]() 」 (2)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (甲2a)「請求の範囲 [請求項1] けん化度が35モル%以上65モル%以下、かつ粘度平均重合度が100以上480以下であり、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有し、残存エステル基のブロックキャラクターが0.5以上であるビニルアルコール系重合体(A)、および水を含有する、水性液形態の懸濁重合用分散安定剤であって、 前記ビニルアルコール系重合体(A)の濃度が20質量%以上50質量%以下であり、 前記ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度Pと脂肪族炭化水素基の変性量Sの関係が次に示す式(1)の範囲内にある懸濁重合用分散安定剤。 50≦S×P/1.880≦100 (1) [請求項2] 前記ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度が150以上である請求項1に記載の懸濁重合用分散安定剤。 [請求項3] さらにけん化度が65モル%を超え、かつ粘度平均重合度が480を超えるビニルアルコール系重合体(B)を含む請求項1または2に記載の懸濁重合用分散安定剤。 [請求項4] 前記ビニルアルコール系重合体(A)と前記ビニルアルコール系重合体(B)との質量比〔ビニルアルコール系重合体(A)〕/〔ビニルアルコール系重合体(B)〕が、固形分比で10/90〜55/45である請求項3に記載の懸濁重合用分散安定剤。 [請求項5] 請求項1に記載の懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法。 [請求項6] 前記懸濁重合が水の存在下に行われ、前記ビニル化合物と前記水の質量比〔ビニル系化合物〕/〔水〕が、3/4より大きい請求項5に記載の製造方法。」 (甲2b)「技術分野 [0001] 本発明は、ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。また、本発明は、該懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行うビニル系樹脂の製造方法に関する。 【背景技術】 [0002] 従来より、ビニル化合物(例えば、塩化ビニル)からビニル系樹脂を得るために、ビニル化合物を懸濁重合することが行われている。ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として、部分けん化ビニルアルコール系重合体(以下、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)を用いることが知られている。 [0003] ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤に要求される性能としては、(1)懸濁重合用分散安定剤の使用量が少量であっても、可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂が得られること、(2)得られるビニル系樹脂から残存するモノマー成分を除去することが容易であること、(3)得られるビニル系樹脂に粗大粒子の形成が少ないこと、(4)懸濁重合用分散安定剤がハンドリング性に優れること等が挙げられる。 [0004] これらの性能(1)〜(4)への要求レベルは日々高まってきており、特に上記(2)に記載のモノマー成分の除去性に関し、例えば医療用途、食品用途等のポリ塩化ビニルについては、残存モノマー量の規制が非常にハイレベルになっている。また、重合終了後の乾燥工程においてポリ塩化ビニル粒子中に残存する塩化ビニルモノマーが除去しづらい場合、残存モノマー除去のために、高温条件または長時間の乾燥が必要となるが、汎用のポリ塩化ビニルについても、乾燥エネルギーコストの削減等の要求が厳しくなってきている。また、上記(4)に記載のハンドリング性については、メタノール等の有機溶媒を使用することは環境問題上、現在好まれておらず、懸濁重合用分散安定剤が、低粘度で高濃度の水性液の形態で提供されることへの要望がある。 [0005] このような要求レベルの高まりに対し、従来用いられていた通常の部分けん化PVAを懸濁重合用分散安定剤として用いたのでは、これらの要求性能すべてを十分に満たすことが困難となっている。 [0006] 部分けん化PVAを用いた懸濁重合用分散安定剤を高性能化する方法として、特許文献1〜2では、末端にアルキル基を有するPVAをビニル化合物の懸濁重合に用いる方法が提案されている。しかしながらこの方法では、PVAのけん化度および重合度が低い場合、上記(1)〜(2)の要求性能についてはある程度の効果を発揮するが、水に不溶となってしまうため(4)の要求性能を満足できない。けん化度を高めることで水溶性は改善されるが、(1)〜(2)の要求性能を満足できなくなる。 [0007] このように、高まった(1)〜(4)の要求性能に対し、現在のところ、特許文献1〜2に記載のPVAを用いた懸濁重合用分散安定剤を含め、これらの要求性能を十分満足させるビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤が存在するとは言いがたい。 ・・・ 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0009] 本発明は、ハンドリング性に優れる懸濁重合用分散安定剤であって、該懸濁重合用分散安定剤をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合に、使用量が少量であっても可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂が得られ、得られるビニル系樹脂から残存するモノマー成分を除去することが容易であり、かつ得られるビニル系樹脂に粗大粒子の形成が少ない、懸濁重合用分散安定剤を提供することを目的とする。 ・・・ 発明の効果 [0012] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、低粘度で高濃度の水性液の形態にあるため、ハンドリング性に優れる。本発明の懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行った場合には、重合安定性が高いため、粗大粒子の形成が少なく、粒径が均一なビニル系樹脂粒子が得られる。さらに、本発明の懸濁重合用分散安定剤の使用量が少量であっても、可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂粒子が得られる。またさらに、ビニル系樹脂粒子における単位時間当たりの残存ビニル化合物の除去割合が高く、脱モノマー性に優れたビニル系樹脂粒子が得られる。」 (甲2c)「[0013] <懸濁重合用分散安定剤> 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特定の構造を有するビニルアルコール系重合体(A)および水を含有する(なお、本明細書において、特に断らない限り、該ビニルアルコール系重合体(A)のことを単にPVA(A)と略記することがある)。該懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、PVA(A)以外のPVA(例えば、後述のけん化度が65モル%を超え、かつ粘度平均重合度が480を超えるビニルアルコール系重合体(B))および他の成分を含有してもよい。以下、各成分について詳述する。 [0014][PVA(A)] 本発明で用いられるPVA(A)は、末端に脂肪族炭化水素基を有するが、PVA(A)の生産効率および分散安定剤の性能の観点から、PVA(A)に含まれる末端脂肪族炭化水素基の炭素数が6以上12以下であることが重要である。末端脂肪族炭化水素基の炭素数が6未満である場合、脂肪族炭化水素基を導入するための連鎖移動剤の沸点が低くなりすぎ、PVA(A)を製造する際の回収工程で他物質(酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体およびメタノール等の溶媒)との分離が困難になる。また、該炭素数が6未満である場合、得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去することが困難になるとともに、ビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下する。PVA(A)の末端脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上であることが好ましい。一方、PVA(A)の末端脂肪族炭化水素基の炭素数が12を超える場合、PVA(A)を製造する際の重合過程で好適に用いられるメタノール等の溶媒への溶解性が低下する。そのため、重合時に脂肪族炭化水素基を導入するための連鎖移動剤をメタノール等の溶媒に溶解し、逐次添加する操作において溶解性が低いことに起因する連鎖移動剤の析出等が発生し添加が困難になる。また、連鎖移動剤が溶解しないまま添加することによる重合反応ムラも生じる。このように該炭素数が12を超える場合、製造過程での操作の煩雑さおよび製品の品質管理面で問題が生じ、さらに、製造できたPVAを懸濁重合用分散安定剤に使用したとしても、得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去することが困難である。 [0015] PVA(A)の末端の炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基の構造に特に制限はなく、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)、二重結合を有する脂肪族炭化水素基(アルケニル基)、三重結合を有する脂肪族炭化水素基(アルキニル基)等を挙げることができる。脂肪族炭化水素基を導入するための連鎖移動剤の経済性、生産性を考えると、脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、直鎖アルキル基および分岐アルキル基がより好ましい。 [0016] 脂肪族炭化水素基がPVA(A)の末端に結合する様式としては特に限定はないが、製造の容易さの観点から、チオエーテル(−S−)を介してPVA(A)主鎖の末端に直接結合していることが好ましい。すなわち、PVA(A)は末端に、主鎖に直接結合する、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、またはアルキニルチオ基を有することが好ましく、主鎖に直接結合するアルキルチオ基を有することがより好ましい。 [0017] 炭素数6以上12以下のアルキルチオ基の例としては、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、アダマンチルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、n−ノニルチオ基、n−デシルチオ基、n−ウンデシルチオ基、n−ドデシルチオ基、t−ドデシルチオ基等を挙げる事ができる。 [0018] 本発明で用いられるPVA(A)は、部分けん化PVAであり、したがって、繰り返し単位としてビニルアルコール単位およびビニルエステル系単量体単位を含む。PVA(A)のけん化度は、分散安定剤の性能の面から35モル%以上65モル%以下であることが重要である。PVA(A)のけん化度が35モル%未満であると、ビニル化合物の懸濁重合により得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下したり、PVA(A)の水溶性が低下し、水を加えた際、析出する、沈殿物が生じる等の問題が生じ、高濃度水性液としての提供が困難となる。PVA(A)のけん化度は、40モル%以上であることが好ましく、44モル%以上であることがより好ましく、47モル%以上であることがさらに好ましい。一方、PVA(A)のけん化度が65モル%を超える場合はビニル化合物の懸濁重合により得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下したり、高濃度水性液とした際の粘度が増大しハンドリング性が低下する。PVA(A)のけん化度は、63モル%以下であることが好ましく、61モル%以下であることがより好ましく、60モル%未満であることがさらに好ましく、58モル%以下であることが最も好ましい。 [0019] PVA(A)のけん化度は、1H−NMR測定によってビニルアルコール単位の水酸基とビニルエステル系単量体単位の残存エステル基の比率から求める方法やJIS K 6726(1994)に記載の方法により求めることができる。 [0020] 本発明で用いられるPVA(A)は、本発明の主旨を損なわない範囲で、ビニルエステル系単量体単位およびビニルアルコール単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。該繰り返し単位としては、ビニルエステル系単量体と共重合可能なコモノマーに由来する単位(以下、コモノマー単位ともいう)が挙げられる。該コモノマーの例については後述する。該コモノマー単位は、PVA(A)の全繰り返し単位中、10モル%以下であることが好ましい。 [0021] なお、上記任意のコモノマー単位を有するPVA(A)のけん化度も、1H−NMRによって水酸基と残存酢酸基の比率から求める方法やJIS K 6726(1994)に記載の方法により求めることができる。ただし、後者の方法で求める場合、PVAの繰り返し単位の中にビニルエステル系単量体単位およびビニルアルコール単位以外に、共重合させたコモノマー単位が存在することとなり、そのままけん化度を求めるとビニルエステル系単量体単位およびビニルアルコール単位以外の繰り返し単位の分子量や変性量が大きくなるほど、真のけん化度から外れた値となってしまう。そのため、ビニルエステル系単量体単位およびビニルアルコール単位以外の繰り返し単位を有するPVAのけん化度をJIS K 6726(1994)に記載の方法により求める場合、JIS K 6726(1994)に記載のけん化度を求める式中の平均分子量の項において、ビニルエステル系単量体およびビニルアルコール単位以外の繰り返し単位を加味した平均分子量を用いて計算する必要がある。なおこの求め方で求めるけん化度は1H−NMR測定によって求められる値とほぼ一致する。 [0022] 本発明で用いられるPVA(A)の粘度平均重合度Pが100以上であることが重要である。PVA(A)の粘度平均重合度Pが100未満になるとビニル化合物の懸濁重合の重合安定性が低下し、懸濁重合によって得られるビニル系樹脂粒子が粗粒となる、均一な粒子径の粒子が得られない等の問題が生じる。PVA(A)の粘度平均重合度Pは、110以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、150以上であることがさらに好ましく、180以上であることが最も好ましい。一方、PVA(A)の粘度平均重合度Pが480以下であることも重要である。PVA(A)の粘度平均重合度Pが480を超えると、ビニル化合物の懸濁重合により得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下したり、高濃度水性液として提供する際に粘度が非常に高くなり、ハンドリング性が低下する。PVA(A)の粘度平均重合度Pは、400以下であることが好ましく、370以下であることがより好ましく、320以下であることがさらに好ましい。 [0023] PVA(A)の粘度平均重合度Pは、PVAを実質的に完全にけん化した後、アセチル化してビニルエステル系重合体とし、該ビニルエステル系重合体のアセトン溶液の極限粘度測定から中島の式(中島章夫:高分子化学6(1949))を用いて算出することができる。 [0024] PVA(A)の残存エステル基のブロックキャラクターは0.5以上であることが低粘度の高濃度水性液として提供する際に重要である。ブロックキャラクターが0.5未満のPVAは水溶性が低く、水性液を形成できない、あるいは高濃度水性液とした際の粘度が高すぎてハンドリング性が悪い等の問題を生じる。ブロックキャラクターは、0.56以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。 [0025] なお、上述のブロックキャラクターとは、残存エステル基と、エステル基のけん化によって生じる水酸基の分布を表した数値であり、0から2の間の値をとる。0が完全にブロック的に残存エステル基または水酸基が分布しているということを示し、値が増加するにつれて交互性が増していき、1が残存エステル基と水酸基が完全にランダムに存在し、2が残存エステル基と水酸基が完全に交互に存在することを示している。前記残存エステル基とは、けん化処理を経て得られるビニルアルコール系重合体(A)におけるビニルエステル系単量体単位に含まれるエステル基(−O−C(=O)−Y(Yは、ビニルエステル系単量体に含まれる、CH2=CH−O−C(=O)部分以外の炭化水素基を表す。))を意味する。なお、ブロックキャラクターは、13C−NMR測定により求めることができる。PVA(A)が、ビニルエステル系単量体単位および/またはビニルアルコール単位以外の繰り返し単位を含む場合には、ブロックキャラクターは、PVA(A)中のビニルエステル系単量体単位および/またはビニルアルコール単位が連続する部位すべてを対象として算出される。 [0026] 上述のブロックキャラクターはビニルエステル系単量体の種類、触媒や溶媒等のけん化条件、けん化後の熱処理等で調整することができる。具体的には、酸触媒を用いてけん化すれば、ブロックキャラクターの値を容易に高くすることができる。また、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒を用いてけん化を行った場合には、通常ブロックキャラクターは0.5未満となるが、その後熱処理を行うことによって、ブロックキャラクターを0.5以上の値にすることができる。 [0027] 本発明の懸濁重合用分散安定剤において、PVA(A)の粘度平均重合度Pと脂肪族炭化水素基の変性率S(モル%)の関係が次に示す式(1)を満たすことが重要である。 50≦S×P/1.880≦100 (1) [0028] 上記式(1)中の「S×P/1.880」で示される値は、PVA(A)を合成した際の、脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の導入率を概ね表すものである。「S×P/1.880」が50以上であることが重要であり、「S×P/1.880」が50未満の場合、得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下したりして、分散安定剤の性能が低下する。「S×P/1.880」は、55以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。 [0029] また、「S×P/1.880」が100以下であることが重要である。「S×P/1.880」が100を超えるPVA(A)は合成することが困難であるためである。連鎖移動重合においては、連鎖移動剤は得られるPVA(A)の片末端にのみ導入される反応が主反応となる。そのため、「S×P/1.880」を100を超えるようにするためには、例えばPVA(A)を製造する重合過程で、二分子停止を促進させるような特殊な操作を導入したり、特殊な触媒等を添加することで、脂肪族炭化水素基が2つ以上導入されたPVA(A)が生成する確率を上げる必要がある。そしてさらに、重合率を非常に低くしたり、重合に使用する溶媒の比率を酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体に対して非常に小さくすることによって、溶媒がPVA(A)の片末端に導入される副反応を抑制する操作が必要となる。このような操作を採用することは、コストがかかる、生産性が悪化する、品質が制御できないなどの問題が生じるので、現実的ではない。「S×P/1.880」は100未満であることが好ましい。 [0030] 上記式(1)の中で、粘度平均重合度Pを1.880で割ることで粘度平均重合度Pから数平均重合度Pnへの変換を行っている。PVA(A)を合成する際のラジカル重合工程において、理想的に重合が進行したとみなし、数平均重合度Pnと重量平均重合度Pwとの比(Pn/Pw)の値を1/2とした際の数平均重合度Pnと粘度平均重合度Pとの関係はMark−Houwink−桜田の式[η]=KMαで求めることができる。ここで[η]は高分子の極限粘度、Mは分子量、K、αは定数である。この式において、アセトン中におけるポリ酢酸ビニルのαの値0.74を用いることで粘度平均重合度Pと数平均重合度Pnとの比(P/Pn)の値が1.880と算出される。この比を脂肪族炭化水素基の変性率S(モル%)と組み合わせることで、PVA(A)を合成した際の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の導入率を概ね表せる式を導いた。(大津隆行:改訂高分子合成の化学,11(1979)、中島章夫:高分子化学6(1949)、高分子学会:高分子科学実験法) [0031] 上述の脂肪族炭化水素基の変性率S(モル%)は、PVA(A)を構成する全繰り返し単位に対する脂肪族炭化水素基のモル百分率のことをいい、1H−NMR測定により求めることができる。例えば、測定した1H−NMRスペクトルから、PVA(A)を構成する各繰り返し単位に特徴的なプロトンのピークの積分値と、末端脂肪族炭化水素基に特徴的なプロトンのピーク積分値を用いて算出することができる。なお、特徴的なピークとは他のピークと重ならない、または重なったとしても他のピークとの関係からそのピークの積分値を計算可能なピークを指す。上述の式(1)の数値は、ビニルエステル系単量体の種類、量、連鎖移動剤の種類、量、触媒や溶媒等の重合条件等で調整することができる。 [0032] PVA(A)の製造法については特に制限はなく、種々の方法を採用することができる。製造法としては、例えば(i)炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の存在下にビニルエステル系単量体を重合させてビニルエステル系重合体を得て、次いで該ビニルエステル系重合体を部分けん化する方法、(ii)部分けん化PVAの末端に官能基を導入し、該官能基に対する反応性を有する基と炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する化合物を、前記末端基の官能基と反応させる方法などが挙げられる。これらの内でも、より経済的かつ効率的に脂肪族炭化水素基を導入できることから、(i)の方法が好ましく、特に、連鎖移動剤としてのアルキルチオールの存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステルを重合してビニルエステル系重合体を得て、次いで該ビニルエステル系重合体を部分けん化する方法が好ましい(特開昭57−28121号公報および特開昭57−105410号公報参照)。 ・・・ [0035] 炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤としては、例えば、炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有する、アルコール、アルデヒド、チオール等を用いることができ、好ましくは、炭素数6以上12以下のアルキルチオールが用いられる。炭素数6以上12以下のアルキルチオールの例としては、n−ヘキサンチオール、シクロヘキサンチオール、アダマンタンチオール、n−ヘプタンチオール、n−オクタンチオール、n−ノナンチオール、n−デカンチオール、n−ウンデカンチオール、n−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール等を挙げることができる。 [0036] PVA(A)の合成に際して、連鎖移動剤の存在下にビニルエステル系単量体を重合させる際の温度は特に限定されないが、0℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましい。重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とする重合体が得られにくい。重合を行う際に採用される温度を0℃以上200℃以下に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。 [0037] 上述の重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の方法の中から、任意の方法を採用することができる。その中でも、無溶媒下で重合を行う塊状重合法やアルコール系溶媒存在下で重合を行う溶液重合法が好適に採用される。高重合度の重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。溶液重合法に用いられるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を併用することができる。 [0038] 重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。 ・・・ [0040] また、重合に際して得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で他の連鎖移動剤の存在下で重合を行ってもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられる。中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定すればよく、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1質量%以上10質量%以下が望ましい。 ・・・ [0042] ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液、または水を溶媒とし、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、硝酸等の酸性触媒を触媒に用いてけん化反応を行うことが、ブロックキャラクターを簡便に上昇させることが可能であるため好ましい。アルコール中のビニルエステル系重合体の濃度は、特に限定するものではないが、10〜80質量%の範囲から選ばれる。用いるアルカリや酸の使用量は目標とするけん化度に合わせて調整を行うが、ビニルエステル系重合体に対して1〜100ミリモル当量にすることがPVAの着色防止や酢酸、酢酸ナトリウム、触媒由来の副生成物の量を低く抑えるという点から好ましい。けん化を行うに際して、ビニルエステル系重合体に導入した官能基が、けん化触媒を消費する官能基である場合には、触媒の量を消費される分だけ上記範囲より多く加えて、けん化を実施してもよい。けん化温度は特に限定されるものではないが、10℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃の範囲がよい。また、酸を用いてけん化反応を行う場合、アルカリを用いる場合に比べ反応速度が低下する可能性があるため、アルカリを用いる場合よりも高温でけん化を実施してもよい。反応時間は特に限定されるものではないが30分〜5時間程度である。 [0043] また、塩基性触媒を使用してけん化反応を行った場合には、ブロックキャラクターの値が0.5未満となるため、けん化後に熱処理を行う必要がある。該熱処理は、熱処理温度としては、通常60〜200℃、好ましくは80〜160℃であり、熱処理時間としては、通常5分〜20時間、好ましくは30分〜15時間である。 [0044] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、水性液の形態をとる。したがって、水を含む。そして、水性液におけるPVA(A)の濃度が、20質量%以上50質量%以下であることが重要である。濃度が20質量%未満となると経済性が低下したり、水性液の安定性が低下し、沈殿等を生じやすくなる。PVA(A)の濃度は26質量%以上が好ましく、31質量%以上がさらに好ましい。濃度が50質量%を超えると粘度が増大し、ハンドリング性が低下する。なお、本発明において水性液とは、水溶液または水分散液のことをいい、水分散液とは、水以外の成分が沈殿または相分離することなく水に均一に分散している混合物を指す。」 (甲2d)「[0047][PVA(B)] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、上記PVA(A)に加えて、けん化度が65モル%を超え、かつ粘度平均重合度が480を超えるPVA(B)を、さらに含有することが好ましい。けん化度および粘度平均重合度がPVA(A)よりも高いPVA(B)をさらに含有することで、重合安定性がさらに向上し、粗粒化をさらに防止できる。 [0048] 本発明で用いられるPVA(B)のけん化度は65モル%を超えるものであり、65モル%を超え95モル%以下であることが好ましく、68モル%以上90モル%以下であることがより好ましい。PVA(B)のけん化度が65モル%以下の場合には、PVA(B)の水溶性が低下してハンドリング性が悪化する場合がある。また、重合が不安定となり得られるビニル系樹脂粒子が粗粒となる場合がある。なお、PVA(B)のけん化度は、JIS K 6726(1994)に準じて測定することができる。 [0049] また、PVA(B)の粘度平均重合度は480を超えるものであり、500以上8000以下であることが好ましく、600以上3500以下であることがより好ましい。PVA(B)の粘度平均重合度が480以下の場合には、ビニル化合物を懸濁重合する際の重合安定性が低下するおそれがある。なお、PVA(B)の粘度平均重合度は、上述のPVA(A)と同様の方法により算出できる他、JIS K 6726(1994)に準じて測定することができる。 [0050] PVA(B)は一種類を使用してもよいし、特性の異なる二種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。 [0051] 使用するPVA(A)とPVA(B)との質量比は固形分比で〔PVA(A)〕/〔PVA(B)〕=10/90〜55/45が好ましく、15/85〜50/50がより好ましい。当該固形分比が10/90より少なくなるとビニル化合物の懸濁重合により得られるビニル系樹脂粒子からモノマー成分を除去するのが困難になったり、また得られるビニル系樹脂粒子の可塑剤吸収性が低下したりと分散安定剤の性能が低下する場合がある。一方、当該固形分比が55/45よりも多くなるとビニル化合物の懸濁重合の重合安定性が低下し、懸濁重合によって得られるビニル系樹脂粒子が粗粒となる、均一な粒子径の粒子が得られない等の問題が生じる場合がある。 [0052] 本発明の懸濁重合用分散安定剤がPVA(B)を含む場合には、本発明の懸濁重合用分散安定剤は、PVA(A)の水性液に固形または水性液のPVA(B)が添加された製品形態にあってもよいし、PVA(A)の水性液と、固形のPVA(B)またはPVA(B)の水性液とが分包された製品形態にあってもよい。」 (甲2e)「[0053][その他の成分] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、上記のPVA(A)およびPVA(B)以外のPVAを含有していてもよい。例えば、けん化度が35モル%以上65モル%以下、かつ粘度平均重合度が100以上480以下であり、残存エステル基のブロックキャラクターが0.5以上であり、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有さないPVAを含んでいてもよい。該PVAは、PVA(A)の合成時に、連鎖移動剤が有する脂肪族炭化水素基がPVAの末端に導入されなかったときに生成し得るものである。 [0054] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の各種添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調節剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキサイド化合物などの重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤、相溶化剤等が挙げられる。」 (甲2f)「[0055][用途(ビニル系樹脂の製造方法)] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、ビニル化合物の懸濁重合に用いられる。そこで本発明は、別の側面から、上記の懸濁重合用分散安定剤の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法である。 [0056] ビニル化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステルおよび塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステルおよび無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、塩化ビニルが好ましい。また、塩化ビニルおよびそれと共重合可能な単量体との組み合わせも好ましい。塩化ビニルと共重合可能な単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。 [0057] ビニル化合物の懸濁重合には、従来から塩化ビニル等の重合に使用されている、油溶性または水溶性の重合開始剤を用いることができる。・・・ [0058] ビニル化合物の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度の低い温度はもとより、90℃を超える高い温度に調整することもできる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることも好ましい実施態様の一つである。 [0059] ビニル系樹脂を上記の懸濁重合用分散安定剤を用いて製造する場合、重合温度によらず得られたビニル系樹脂からモノマー成分を除去することに関して顕著な効果を発揮する。ビニル系樹脂に残留するモノマー成分が比較的除去しやすい重合温度60℃未満で懸濁重合する際に上記の懸濁重合用分散安定剤を用いるよりも、残留するモノマー成分が除去しづらい重合温度60℃以上で懸濁重合する際に上記の懸濁重合用分散安定剤を用いた方が特に効果を発揮するため好ましい。 ・・・ [0061] ビニル化合物の懸濁重合に際し、上記の懸濁重合用分散安定剤の重合槽への仕込み方には特に制限はない。例えば、上記の懸濁重合用分散安定剤がPVA(B)を含む場合には、PVA(A)およびPVA(B)を混合して仕込んでもよい。また、PVA(A)およびPVA(B)は別々に仕込んでもよく、例えば、重合開始前にPVA(A)およびPVA(B)をそれぞれ仕込んでもよいし、重合開始前にPVA(A)を仕込み、重合開始後にPVA(B)を仕込んでもよい。 [0062] 上記の懸濁重合用分散安定剤を重合槽へ仕込む場合にはハンドリング性、環境への影響の観点から、メタノール等の有機溶剤を用いずに、懸濁重合用分散安定剤はそのまま、あるいは水で希釈してから流し込む。PVA(B)は水溶液または水分散液として仕込むことが好ましい。」 (甲2g)「[0064] 本発明の懸濁重合用分散安定剤は、低粘度で高濃度の水性液の形態にあるため、ハンドリング性に優れる。また、本発明の懸濁重合用分散安定剤によれば、メタノール等の有機溶剤を使用する必要がないため、環境負荷が低く、経済性にも優れる。本発明の懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行った場合には、重合安定性が高いため、粗大粒子の形成が少なく、粒径が均一なビニル系樹脂粒子が得られる。さらに、本発明の懸濁重合用分散安定剤の使用量が少量であっても、可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂粒子が得られる。またさらに、ビニル系樹脂粒子における単位時間当たりの残存ビニル化合物の除去割合が高く、脱モノマー性に優れたビニル系樹脂粒子が得られる。得られた粒子は、適宜可塑剤などを配合して、各種の成形品用途に用いることができる。」 (甲2h)「実施例 [0065] 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を示す。 [0066] 下記の製造例により得られたPVAについて、以下の方法にしたがって評価を行った。 [0067][PVAの粘度平均重合度] PVAの粘度平均重合度は、PVAを実質的に完全にけん化した後、アセチル化してビニルエステル系重合体とし、該ビニルエステル系重合体のアセトン溶液の極限粘度測定から中島の式(中島章夫:高分子化学6(1949))を用いて算出した。 [0068][PVAのけん化度] PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994)に記載の方法で求めた。ただし、不飽和単量体を共重合したPVAの場合、JIS K 6726(1994)に記載のけん化度を求める式において、共重合した不飽和単量体ユニットを加味した平均分子量を用いてなすべき補正を行い計算した。 [0069][PVAのブロックキャラクター] PVAの残存エステル基のブロックキャラクターは、PVAを重水/重メタノール混合溶媒に溶解させた試料について、測定温度70℃、積算回数18000回で13C−NMR測定を行い、メチレン領域に現れる2単位連鎖構造(dyad)に関する3本のピークの解析により、ピークの積分値から求めた。前記3本のピークは、残存エステル基(−O−C(=O)−Y(Yは上記と同一意味を有する))に結合した主鎖の炭素原子と、水酸基に結合した主鎖の炭素原子とに挟まれたメチレン炭素;残存エステル基に結合した主鎖の炭素原子と、該炭素原子に近接し、残存エステル基に結合した主鎖の炭素原子とに挟まれたメチレン炭素;および水酸基に結合した主鎖の炭素原子と、該炭素原子に近接し、水酸基に結合した主鎖の炭素原子とに挟まれたメチレン炭素に相当する。測定法、計算法についてはポバール(高分子刊行会、1984年発行、第246〜249頁)およびMacromolecules,10,532(1977年)に記載されている。 [0070][S×P/1.880値] Pには、上記測定したPVAの粘度平均重合度の値を用いた。Sは、PVAを構成する全繰り返し単位に対する脂肪族炭化水素基のモル百分率(モル%)として、1H−NMR測定により求めた。具体的には、PVAを構成する各繰り返し単位の主鎖メチンのプロトンに由来する全ピークの面積と脂肪族炭化水素末端メチルのプロトンに由来するピークの面積との比をプロトン数を考慮して用いて求めた。このPとSの値を用いて、S×P/1.880値を求めた。 [0071][水性液の安定性] PVAを水に溶解したのち、25℃で1日放置して沈殿の有無を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。 A:沈殿が生じておらず、透明な溶液となっている。 B:沈殿が生じている。または相分離している。 C:水に溶解せず相分離したままである。 [0072][懸濁重合用分散安定剤の粘度] 水性液とした懸濁重合用分散安定剤の粘度はB型粘度計を用いて20℃での値を測定した。 <10000mPa…流動性良 10000〜15000mPa…流動性有 >15000mPa…流動性不良 [0073]製造例1(懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)の製造) 酢酸ビニル(以下VAcと略す)1404部、メタノール396部、およびn−ドデカンチオール(以下DDMと略す)0.54部を重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点まで昇温させたVAcに対して0.15%の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルと、メタノール10部を加えた。直ちに室温のDDMメタノール溶液(濃度5wt%)を重合缶内に添加開始し、該重合缶内部のDDMの濃度がVAcに対して常に一定になるように、DDMメタノール溶液を添加し続け重合を行った。重合率が70%となったところで重合を停止し、減圧下残存するVAcをメタノールとともに系外に追い出す操作をメタノールを添加しながら行い、ポリ酢酸ビニル(以下PVAcと略す)のメタノール溶液(濃度75%)を得た。次いでメタノール溶媒中で、PVAc濃度30%、温度60℃、けん化反応液含水率1%の条件下で、けん化触媒としてPVAcに対してモル比0.027の割合でp−トルエンスルホン酸を用い、3時間けん化反応を行った。炭酸水素ナトリウムを酸触媒のモル比×1.15の割合で添加して中和を行い、次いで乾燥を行い、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739、式(1)の「S×P/1.880」が77のPVAを得た。乾燥後水を加えて固形分濃度40wt%、粘度6000mPa・sの懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)を得た。 [0074]製造例2〜12、17〜26(PVA(A2〜A12、A17〜A26)の製造) 酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合時に使用する脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の種類およびその使用量や添加濃度、開始剤使用量、目標重合率等の重合条件およびけん化条件、水性液濃度を変更したこと以外は、製造例1と同様にして表2に示す懸濁重合用分散安定剤:PVA(A2〜A12、A17〜A26)を製造した。製造条件を表1に、用いた連鎖移動剤の種類、およびけん化条件をそれぞれ表3、5に示す。 [0075]製造例13〜15(PVA(A13〜A15)の製造) 重合時に使用する脂肪族炭化水素基を有する連鎖移動剤の種類およびその使用量や添加濃度、開始剤使用量等の重合条件を変更したこと、共重合を行う不飽和単量体を予め仕込み、かつ重合開始後共重合を行う不飽和単量体の濃度がVAcに対して常に一定になるように、不飽和単量体のメタノール溶液を添加し続け重合を行ったこと以外は、製造例1と同様にして表2に示す懸濁重合用分散安定剤:PVA(A13〜A15)を製造した。製造条件を表1に、用いた連鎖移動剤の種類、および用いた不飽和単量体をそれぞれ表3、4に示す。 ・・・ [0078] [表1] ![]() [0079] [表2] ![]() [0080] [表3] ![]() [0081] [表4] ![]() [0082] [表5] ![]() [0083]実施例1 容量5Lのオートクレーブに粘度平均重合度2400、けん化度80モル%のPVA(B)を塩化ビニル単量体に対して1000ppmとなるように100部の脱イオン水溶液として仕込み、上記懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)を、懸濁重合用分散安定剤中のPVAが塩化ビニル単量体に対して400ppmとなるように仕込み、仕込む脱イオン水の合計が1230部となるように脱イオン水を追加して仕込んだ。次いで、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートの70%トルエン溶液1.07部をオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内の圧力が0.2MPaとなるように窒素を導入、導入した窒素のパージ、という作業を計5回行い、オートクレーブ内を十分に窒素置換して酸素を除いた後、塩化ビニル940部を仕込み、オートクレーブ内の内容物を65℃に昇温して攪拌下で塩化ビニル単量体の重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は1.03MPaであった。重合を開始してから約3時間経過後、オートクレーブ内の圧力が0.70MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。 [0084](塩化ビニル重合体粒子の評価) 実施例1で得られた塩化ビニル重合体粒子について、(1)平均粒子径、(2)粒度分布、(3)可塑剤吸収性および(4)脱モノマー性を以下の方法にしたがって評価した。評価結果を表6に示す。 [0085](1)平均粒子径 タイラーメッシュ基準の金網を使用して、乾式篩分析により粒度分布を測定し、塩化ビニル重合体粒子の平均粒子径を求めた。 [0086] (2)粒度分布 JIS標準篩い42メッシュオンの含有量を質量%で表示した。 A:0.5%未満 B:0.5%以上1%未満 C:1%以上 JIS標準篩い60メッシュオンの含有量を質量%で表示した。 A:5%未満 B:5%以上10%未満 C:10%以上 なお、42メッシュオンの含有量および60メッシュオンの含有量はともに、値が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布が狭く、重合安定性に優れていることを示している。 [0087](3)可塑剤吸収性 脱脂綿を0.02g詰めた容量5mLのシリンジの質量を量り(Agとする)、そこに塩化ビニル重合体粒子0.5gを入れ質量を量り(Bgとする)、そこにジオクチルフタレート(DOP)1gを入れ15分静置後、3000rpmで40分間遠心分離して質量を量った(Cgとする)。そして、下記の計算式より可塑剤吸収性(%)を求めた。 可塑剤吸収性(%)=100×[{(C−A)/(B−A)}−1] [0088](4)脱モノマー性(残留モノマー割合) 塩化ビニルの懸濁重合における重合反応物を取り出したのち、75℃にて乾燥を1時間、および3時間行い、それぞれの時点での残留モノマー量をヘッドスペースガスクロマトグラフィーにて測定し、(3時間乾燥時の残留モノマー量/1時間乾燥時の残留モノマー量)×100の式より残留モノマー割合を求めた。この値が小さいほど1時間乾燥時から3時間乾燥時、すなわち2時間のうちに塩化ビニル重合体粒子に残存するモノマーが乾燥によって除去された割合が多いということであり、この値が残存するモノマーの除去され易さ、すなわち脱モノマー性を表す指標となる。 [0089]実施例2〜16 PVA(A2〜16)をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表6に示す。 [0090]実施例17 仕込んだ脱イオン水の合計を1640部としたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体の粒子を得た。得られた重合体粒子の評価結果を表7に示す。 ・・・ [0104] [表6] ![]() [0105] [表7] ![]() [0106] 上記実施例において示されているように、本発明のけん化度が35モル%以上65モル%以下、かつ粘度平均重合度が100以上480以下であり、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有し、残存エステル基のブロックキャラクターが0.5以上であるPVA(A)を濃度20質量%以上50質量%以下で含有する水性液形態の懸濁重合用分散安定剤であって、PVA(A)の粘度平均重合度Pと脂肪族炭化水素基の変性量Sが特定の関係を満たす懸濁重合用分散安定剤を、ビニル化合物の懸濁重合に用いた場合には、重合安定性が高いため粗大粒子の形成が少なく、粒子径が均一な粒子が得られる。また、可塑剤吸収性に優れた重合体粒子を得ることが可能であり、特に脱モノマー性の面で非常に優れた効果を発揮し、残留モノマーの除去効率のよい重合体粒子を得ることが可能である。さらに、本懸濁重合用分散安定剤はメタノール等の有機溶剤を意図的に使用することのない低粘度の高濃度水性液であり、ハンドリング性に非常に優れ、環境への負荷も低い。かつ、製造時の生産性も高い。よって本発明の懸濁重合用分散安定剤の工業的な有用性はきわめて高い。」 第6 当審の判断 当審は、当審が通知した取消理由1A〜1D、2A〜2D、3A及び申立人がした申立理由1〜5によっては、いずれも、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 なお、取消理由1A、2A、3A(明確性)は、同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」において、併せて検討する。 取消理由1B、2B、申立理由5は、同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(2)取消理由1B、2B(サポート要件)について」において、併せて検討する。 取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)と申立理由1及び2(ア)は、いずれも甲第1号証を主引用例とした新規性、進歩性の理由であるため、以下「1 取消理由について」「(3)取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)(新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 また、取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)(新規性、進歩性)と申立理由2(イ)(進歩性)は、いずれも甲第2号証を主引用例とした新規性、進歩性の理由であるため、以下「1 取消理由について」「(4)取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)(新規性、進歩性)について」において、併せて検討する。 1 取消理由について (1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要 (ア)取消理由1A、2A(明確性)の概要 取消理由1A、2A(明確性)は同旨であり、その概要は、以下のとおりである。 本件訂正前の本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載について、どのように解すべきか明らかでない。 本件訂正前の本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」は、本件明細書の(本h)の実施例の記載からみて、単量体として酢酸ビニルを用いて製造される重合体であるが、請求項1に記載される「i)末端に脂肪族炭化水素基を有する・・・」の「末端」とは、一般的には、単量体以外の化合物に由来する化学構造を意味することは技術常識であるが、当該「末端に脂肪族炭化水素基」の記載について、例えば、サポート要件、新規性、進歩性の判断にあたり、便宜的に、以下の(A)あるいは(B)に分けた場合に、どちらを意図しているか不明確である。 (A)「末端に脂肪族炭化水素基」は、C(炭素)とH(水素)のみからなるものであって、N(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)等の異種原子を含まないものであり、「ポリビニルアルコール系重合体」の末端に直接C(炭素)とH(水素)のみからなる「脂肪族炭化水素基」が直接結合しているものを意図している。 (B)「末端に脂肪族炭化水素基」はN(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)等の異種原子を含み得ることを意図している。(例えば、N(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)等の異種原子を介して「ポリビニルアルコール系重合体」にC(炭素)とH(水素)のみからなる「脂肪族炭化水素基」が結合している態様や、「脂肪族炭化水素基」にCN(ニトリル基)などの異種原子を含む態様も包含する。) 本件訂正前の本件発明1を直接又は間接に引用する本件訂正前の本件発明2〜10も同様に不明確である。 (イ)取消理由3A(明確性)の概要 取消理由3Aは、上記取消理由1A、2A(明確性)と同旨であるが、令和3年11月8日付け意見書における特許権者の主張の検討を行ったものである。その概要は、以下のとおりである。 本件発明1の「ケン化度が45〜65モル%であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤・・・ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(i)又は下記(ii)である場合を除く。(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する・・・」の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載について、以下で述べるように、どのように解すべきか明らかでない。 まず、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載の具体的な内容については、本件明細書には何ら記載されていない。 次に、令和3年11月8日付け意見書において、特許権者は、(1)脂肪族炭化水素基は炭素及び水素のみからなる脂肪族であること、(2)「末端に脂肪族炭化水素基を有する」とは、ポリマーの末端と「チオエーテル等を介して有する」ものも含むと解するべきと主張しているが、仮に、当該解釈を採用したとしても、依然として、本件明細書の(本h)の段落【0066】の実施例1、及び、甲第2号証の(甲2h)の段落[0073]の製造例1のような重合開始剤として「アゾビスイソブチロニトリル(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)」を用いた場合のPVAの末端基を除いているのか否かが、以下で述べるように明確でない。 a 上記本件明細書及び甲第2号証の記載に関し、「アゾビスイソブチロニトリル」を重合開始剤として用いた場合のPVAの末端は、CH3−C(CH3)(CN)−PVAという構造となることは明らかである。 ここで、上記(1)の特許権者の主張のとおり解釈したとしても、当該技術分野においては、脂肪族炭化水素基にCN等の置換基を有する場合であっても、脂肪族炭化水素基と称することがあり、また、請求項1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載は、単に「脂肪族炭化水素基を有する」と記載するのみであるところ、ニトリル基である「CN」を除く「CH3−C(CH3)=」基は、炭素及び水素のみからなる「脂肪族炭化水素基」といえるから、請求項1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」について末端の「CH3−C(CH3)(CN)−」は当然に含まれないと解するべき理由は明らかではない。 b また、上記(2)の特許権者の主張のとおり、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」の「脂肪族炭化水素基」について、「ニトリル基(CN)」のような「炭素及び水素」以外の原子を含む置換基は含まれないと解し、一方で、「末端(モノマー等に由来する単位ないし部位)に直接的に結合して「有する」ものの他、チオエーテル(−S−) 等を介して「有する」ものも当然に含まれ」ると解釈したとしても、ポリマーの末端と末端の脂肪族炭化水素基とを介する基の範囲、具体的には、「チオエーテル(−S−)」以外の基としてどのような基であれば「脂肪族炭化水素基を有する」といえるのか明らかではない。 例えば、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた場合の、PVAの末端が「CH3−C(CH3)(CN)−」の場合でも、1つの「CH3」基は炭素及び水素のみからなる「脂肪族炭化水素基」といえるところ、この1つの「CH3」基が「末端(モノマー等に由来する単位ないし部位)」に「−C(CH3)(CN)−」基を解して結合していると解することもできるため、請求項1の「(i)脂肪族炭化水素基を有する」と解することもできる。 また、例えば、本件明細書の(本b)の段落【0022】及び甲第2号証の[0040]に記載されたアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類やアセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類を、「ポリビニルアルコール系重合体」の製造にあたって「連鎖移動剤」として用いた場合に、「炭化水素基」が「−C(=O)−」基を介して「末端(モノマー等に由来する単位ないし部位)」に結合ししたものになるところ、このような場合も、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」と解することができるため、結局のところ、どのような基であれば「脂肪族炭化水素基を有する」といえるのか、その範囲が明らかではない。 イ 判断 上記取消理由1A、2A、3Aについて、併せて検討する。 (ア)令和4年5月9日付け意見書における特許権者の主張について 令和4年5月9日付け意見書において、特許権者は、上記「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」「(イ)取消理由3A(明確性)の概要」に示した理由のうちaの理由に対して、令和4年5月9日付け意見書において、特許権者は、「「脂肪族炭化水素基」は、「脂肪族」「炭化水素」 基なのですから、文言上(命名法上)、炭素及び水素のみからなる、脂肪族のものであることは明確です」、本願発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載を発明特定事項とする契機となった甲第2号証の段落[0015]〜[0017]の記載に触れて「甲2においても、脂肪族炭化水素基に関するものとして下記のようにCNのような置換基を想定した記載は一切なく、脂肪族炭化水素基に、CN等の置換基を有するものが含まれると解釈できる理由はありませんし、実際、後述のように、AIBNにより導入される「CH3−C(CH3)(CN)−」は脂肪族炭化水素基とはされていません。」、「AIBNにより末端に導入される基[チオエーテル(−S−)のような基を介すること なく直接的に結合して導入される基]が、「CH3−C(CH3)(CN)−」全体であることは当業者において明らかなことであり、この基を「CN」と「CH3−C(CH3)−」 に分節して、「CH3−C(CH3)−」のみをもって「末端に脂肪族炭化水素基を有する」という、明らかに不自然な解釈を行う道理はありません。」「1−ブチル基・・・を有するケースを、本来、一義的に1−ブチル基を有すると解釈すべきところ、メチル基・・・を有する、エチル基・・・、プロピル基・・・を 有する、メチル基・・・が置換したプロピル基を有する等ということもできるわけで、いかにご指摘のような分節は奇妙なものであるか、ご理解頂けるものと思います」と述べている。 すなわち、「脂肪族炭化水素基」は、「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解すべきであり、CN等の置換基を有するものが含まれると解釈すべきでないこと、「CH3−C(CH3)(CN)−」について、「CN」と「CH3−C(CH3)−」 に分節して解すべきでないことを述べている。 また、同意見書において、特許権者は、上記「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」「(イ)取消理由3A(明確性)の概要」に示した理由のうちbの理由に対して、「前述の通り、AIBNでは、末端に「CH3−C(CH3)(CN)−」が結合することが明らかなのであって、当業者においても、AIBNが末端基としてのメチル基を導入するためのものとして認識されているといった特段の事情も無いわけですから、ご指摘のような「CH3」が「C(CH3)(CN)−」を介して末端に有するといった明らかに不自然な解釈を行う合理性はありません」、「これに対して、チオール(R−SH)の場合には、末端に「RS−」が結合するわけですが、連鎖移動剤として周知である他、甲2にも記載の通り、末端にR−を導入するための成分なのですから、「R」そのものが脂肪族炭化水素基であれば、チオエーテル(−S−) を介して「末端に脂肪族炭化水素基を有する」と合理的に解釈できます」、「チオール以外には、どのように末端に脂肪族炭化水素基が導入される のかについて全く開示も示唆もされていませんので、チオールと同様の形式で末端に脂肪族炭化水素基を有するケース(範疇のもの)を想定すれば良いと言えます[例えば、ご指摘のアルデヒド(R−CHO)であれば、末端に「RCO−」が導入され(結合し)、Rが脂肪族炭化水素基である場合には、カルボニル(−CO−)を介して、末端に脂肪族炭化水素基Rを有すると解釈する等]。」「つまり、「末端に脂肪族炭化水素基を有する」とは、末端に結合した部分が「全体として」 脂肪族炭化水素基であればよく、この際、末端に特定の連鎖移動剤(前記(A)のケース) や官能基と反応性基との反応(前記(B)のケース)等に由来する連結部分(−S−等) が脂肪族炭化水素基との間に形成される場合には、末端に当該連結部分を介して脂肪族炭化水素基を有する(「全体として」には連結部分は含まれず、脂肪族炭化水素基を有する) と何ら疑義を生じることなく明確に解釈できます」と述べている。 すなわち、「CH3−C(CH3)(CN)−」について、「CH3」と「C(CH3)(CN)−」に分節して解すべきでないこと、「チオール(R−SH)」の場合には「チオエーテル(−S−) を介して「末端に脂肪族炭化水素基を有する」と合理的に解釈できること、「アルデヒド(R−CHO)であれば、末端に「RCO−」が導入され(結合し)、Rが脂肪族炭化水素基である場合には、カルボニル(−CO−)を介して、末端に脂肪族炭化水素基Rを有すると解釈する」ことを述べている。 上記、特許権者の主張について、以下に検討する。 (イ)「脂肪族炭化水素基」の解釈について 本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の記載の具体的な内容については、本件明細書には何ら記載されていない。 次に、「脂肪族炭化水素基」の解釈について検討すると、一般には「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解されると認識するが、CN等の置換基を有する「脂肪族炭化水素基」であっても、文献によっては「脂肪族炭化水素基」とされるケースもあり、明確な技術常識があるわけではない。 しかしながら、「脂肪族炭化水素基」については、「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解することが多いと推察されるから、特許権者の当該主張については、一応の合理性があるといえる。 また、「脂肪族炭化水素基」を「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解することについて、甲第2号証の(甲2a)の「末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基」に関する甲第2号証の(甲2c)段落[0014]〜[0017]、[0032]、[0035]の等の記載や(甲2h)の実施例の態様と矛盾が生じることもない。 そうすると、請求項1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の「脂肪族炭化水素基」とは、置換基を有しない「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と合理的に理解できる。 (ウ)「脂肪族炭化水素基」の分節の可否について 特許権者の「CH3−C(CH3)(CN)−」について「CH3」と「C(CH3)(CN)−」に分節して解すべきでないとの主張について、この点も明確な技術常識があるわけではないものの、特許権者の主張のとおり「1−ブチル基」を有するケースについて、「メチル基」が置換した「プロピル基」を有するとは一般に解しないことからすれば、「CH3」と「C(CH3)(CN)−」に分節して解すべきでないとの主張も、一応の合理性があるといえる。 (エ)「末端に脂肪族炭化水素基を有する」の解釈について 「末端に脂肪族炭化水素基を有する」の解釈について、「「末端に脂肪族炭化水素基を有する」とは、末端に結合した部分が「全体として」 脂肪族炭化水素基であればよく、この際、末端に特定の連鎖移動剤・・・や官能基と反応性基との反応・・・等に由来する連結部分・・・ が脂肪族炭化水素基との間に形成される場合には、末端に当該連結部分を介して脂肪族炭化水素基を有する(「全体として」には連結部分は含まれず、脂肪族炭化水素基を有する)」との解釈も一応の合理性があるといえる。 そして、特許権者の主張により、チオール(R−SH)の場合に「R」そのものが脂肪族炭化水素基であれば、チオエーテル(−S−) を介して「末端に脂肪族炭化水素基を有する」と合理的に解釈でき、また、アルデヒド(R−CHO)であれば、末端に「RCO−」が導入され、Rが脂肪族炭化水素基である場合には、カルボニル(−CO−)を介して、末端に脂肪族炭化水素基Rを有すると解釈でき、これらの場合は、本件発明1の発明特定事項を満たさないことが明らかとなった。 (オ)まとめ 上記(イ)〜(エ)の検討を踏まえると、請求項1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の「脂肪族炭化水素基」とは、置換基を有しない「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」であり、「脂肪族炭化水素基」について分節して解すべきものではないとの解釈は一応の合理性があるといえる。さらに、「末端に脂肪族炭化水素基を有する」の解釈について、「「末端に脂肪族炭化水素基を有する」とは、末端に結合した部分が「全体として」 「脂肪族炭化水素基」であればよく、このような場合は、本件発明1の発明特定事項を満たさないことが明らかとなった。そうすると本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基」の解釈は、置換基を有せず、分節されることのない「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解釈され、この解釈に基づけば、本件発明1は明確になったといえる。 したがって、取消理由1A、2A、3Aは、当該意見書における特許権者の説明により、解消されたといえる。 ウ 小括 以上のとおり、取消理由1A、2A、3Aは、理由がない。 そして、当該解釈により、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた場合に導入される「CH3−C(CH3)(CN)−」の基を末端に有する「ポリビニルアルコール系重合体」は、「末端」の化学構造が置換基を有しない「炭化水素基」ではないので除かれず、本件発明1の発明特定事項を満たすものであり、一方、「ポリビニルアルコール系重合体」の末端に「チオ−ル基(−S−)」や「カルボニル基(−CO−)」を解して置換基のない「脂肪族炭化水素基」を有する場合は本件発明1から除かれる態様であり本件発明1の発明特定事項を満たさないものと解して、以下の検討を行う。 (2)取消理由1B、2B(サポート要件)について ア 取消理由1B、2B、申立理由5(サポート要件)の概要 (ア)取消理由1B、2B(サポート要件)の概要 取消理由1B、2B(サポート要件)は同旨であり、その概要は、以下のとおりである。 a 本件訂正前の本件発明1の末端構造の解釈について 本件訂正前の本件発明1は、「ポリビニルアルコール系重合体」について「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」態様を「除く」ことを発明特定事項とするものである。 本件訂正前の本件発明1の「脂肪族炭化水素基」についてCN等の置換基もう包含していると解した場合(例えば、上記「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「ア 取消理由1A、2A、3A(明確性)の概要」「(ア)取消理由1A、2A(明確性)の概要」における、本件訂正前の本件発明1の「脂肪族炭化水素基」について、「(B)「末端に脂肪族炭化水素基」はN(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)等の異種原子を含み得ることを意図している。(例えば、N(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)等の異種原子を介して「ポリビニルアルコール系重合体」にC(炭素)とH(水素)のみからなる「脂肪族炭化水素基」が結合している態様や、「脂肪族炭化水素基」にCN(ニトリル基)などの異種原子を含む態様も包含する。)」と解した場合)、本件明細書の(本h)の実施例1〜9及び比較例1〜5では、「PVA系重合体の合成」において、重合開始剤として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いており、その結果、「ポリビニルアルコール系重合体」の末端には「CH3−C(CH3)(CN)−」の基が結合しているといえ、「末端」に「脂肪族炭化水素基」を有する態様となり、本件訂正前の本件発明1の発明特定事項を満たさないものとなる。 また、本件明細書の実施例では、「アゾビスイソブチロニトリル」を用いない態様については、その製造について記載されていないし、本件明細書の(本a)の段落【0009】に記載される課題に関連する「PVA系重合体水溶液の特性評価」、「PVA系重合体」である「懸濁重合用分散剤」を用いた「塩化ビニル重合体(塩化ビニル樹脂)の評価」(本件明細書の(本h)の実施例に関する段落【0061】〜【0073】を参照)も行っていない。また、本件明細書の「ポリビニルアルコール系重合体」に関する記載がある(本b)にも、他の「重合開始剤」を用いることは記載されていないから、仮に重合開始剤として「過硫酸塩」や「過酸化水素」が汎用のものであるとしても、その点について本件明細書に記載されていないし、実施例においても実施されておらず、評価も行われていない。 そうすると、「(i)末端に脂肪族炭化水素基」を有しない「PVA系重合体」について、本件明細書にはこれを裏付ける実施例はなく、また本件明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないことから、どのように製造するのか具体的に記載されているとはいえないし、また、本件明細書の段落【0009】に記載される課題に関連する評価も行っておらず、本件発明の課題を解決できたことを確認できない。 したがって、本件訂正前の本件発明1は、本件明細書に具体的に記載されているとはいえない。 本件訂正前の本件発明1を引用する本件発明2〜10も同様である。 b 本件訂正前の本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」の「重合度」ないしは「ブロックキャラクター」について 本件訂正前の本件発明1は、「ケン化度が45〜65モル%であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)250≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。)・・・」を発明特定事項とするものであり、「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」及び「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」については、その範囲を特定していない。すなわち、「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」が「0」に近く、「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」がかなり大きいものや、「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」の値が大きく「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」がかなり小さい「ポリビニルアルコール系重合体」の態様も包含するものである。 一方、本件明細書の(本h)の実施例1〜9及び比較例1〜5において、上記課題に関連する「PVA系重合体水溶液の特性評価」、「PVA系重合体」である「懸濁重合用分散剤」を用いた「塩化ビニル重合体(塩化ビニル樹脂)の評価」等を行っているのは、「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」が180〜300の範囲であり、且つ、「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」が0.45〜0.78の「ポリビニルアルコール系重合体」のみである。 本件訂正前の本件発明1は、上述したとおり、「(式1)250≦X/Y≦400」の範囲を満たせば、「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」が「0」に近く、「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」がかなり大きいものや、「Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター」の値が大きく「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」がかなり小さい「ポリビニルアルコール系重合体」の態様も包含するものであるが、そのような場合でも、本件発明の上記課題を解決できることは、本件明細書の実施例や比較例により示されていないし、技術常識を勘案しても、上記課題を解決できるとも認められない。 そうすると、本件訂正前の本件発明1は、本件発明の上記課題に照らして、本件明細書に記載されているとは認められない。 本件発明1を引用する本件発明3〜10についても同様である。 (イ)申立理由5(サポート要件)の概要 申立理由5(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。 a 本件訂正前の本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体の重合度(X)」及び「ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクター(Y)」に関し、本件明細書においては、「重合度(X)」が180〜300の範囲であり且つ「ブロックキャラクター(Y)」が0.45〜0.78の範囲であるものが課題を解決できることが裏付けられているのみであり、本件訂正前の本件発明1〜10は、その全般にわたり本件特許の課題を解決できるものとはいえない。 b 本件特許明細書の実施例において製造されているのは、重合開始剤として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた、末端に「CH3−C(CH3)(CN)−」の基が結合している「ポリビニルアルコール系重合体」のみであり、「CH3−C(CH3)(CN)−」の基は「脂肪族炭化水素基を有する」といえる。そうすると、本件特許明細書において実施され、その効果が裏付けられているのは、「末端に脂肪族炭化水素基を有する」「ポリビニルアルコール系重合体」の場合のみであり、本件明細書には、「末端に脂肪族炭化水素基」を有さない「ポリビニルアルコール系重合体」の場合も同様に課題を解決できることは記載されていない。 申立理由5の上記bは、取消理由1B、2Bのaと実質的に同旨であり、また、申立理由5の上記aは、取消理由1B、2Bのbと実質的に同旨であるから、以下の「イ 判断」においては、併せて検討する。 イ 判断 (ア)特許法第36条第6項第1号について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点から検討する。 (イ)判断 a 本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件明細書の(本a)の段落【0009】の記載からみて、「良好な安定性や取り扱いやすい粘度を有した高濃度の水性液を得ることができ、ビニル系化合物の重合に有用な分散助剤を提供すること」、「ビニル系化合物の懸濁重合に用いた際には、幅広い重合条件で安定的に良好な重合物(ビニル系樹脂)が得られる分散助剤を提供すること」、「高い空孔率を持ち、可塑剤吸収性等に優れたビニル系樹脂(特に、塩化ビニル系樹脂)を得ることができる懸濁重合用分散助剤を提供すること」、「該分散助剤を用いることで、可塑剤吸収性等に優れたビニル系樹脂の製造方法を提供すること」であると認められる。 b 判断 (a)取消理由1B、2Bのa、申立理由5のbについて 上記「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「イ 判断」で検討したとおり、本決定においては、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の解釈について、「脂肪族炭化水素基」とは、置換基を有せず、分節されることのない「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」と解釈され、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた場合に導入される「CH3−C(CH3)(CN)−」の基を末端に有する「ポリビニルアルコール系重合体」は本件発明1の発明特定事項を満たすものと解することとなった。 そして、本件明細書の(本h)の実施例1〜9及び比較例1〜5では、「PVA系重合体の合成」において、重合開始剤として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いており、その結果、「ポリビニルアルコール系重合体」の末端には「CH3−C(CH3)(CN)−」の基が結合しており、「炭素及び水素のみからなる、脂肪族のもの」である「脂肪族炭化水素基」を有しないものである。 そうすると、本件明細書の(本h)の実施例1〜9の「ポリビニルアルコール系重合体」は本件発明1の発明特定事項を満たすものであるといえるから、本件発明1は、本件明細書の実施例や比較例により示されており、本件発明の上記課題を解決できることを確認しているといえる。 したがって、取消理由1B、2Bのa、申立理由5のbは理由がない。 (b)取消理由1B、2Bのb、申立理由5のaについて 本件訂正により、本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」について、「ブロックキャラクターが0.45〜0.9」であることが特定され、さらに、「(式1)」についても「(式1)257≦X/Y≦400」と下限がより特定され、本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」は「ブロックキャラクターが0.45〜0.9」の範囲であり、「重合度」についても「115.65」(=257×0.45)〜「360」(=400×0.9)の範囲のものとなった。 そして、本件明細書の(本h)の実施例1〜9では、「重合度(X)」が180〜300の範囲であり且つ「ブロックキャラクター(Y)」が0.45〜0.78の範囲であるものが課題を解決できることが裏付けられているから、本件訂正後の上記「重合度(X)」及び「ブロックキャラクター(Y)」の範囲の「ポリビニルアルコール系重合体」であれば、本件発明の上記課題を解決できることは当業者が認識できるといえる。 したがって、本件訂正により、取消理由1B及び2Bのbの理由、申立理由5のaの理由は、解消されたといえる。 (ウ)まとめ 上記のとおり、取消理由1B、2B、申立理由5は理由がない。 (3)取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)(新規性、進歩性)について 上述したとおり、取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)、申立理由1及び2(ア)は、いずれも甲第1号証を主引用例とした新規性、進歩性の理由であるため、併せて検討する。 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の上記摘記(甲1e)の段落【0018】には、「分散剤1」として「平均重合度 190、けん化度54.7モル%、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコール」が記載されており、この「分散剤1」は、段落【0023】の【表1】をみると「実施例1」において使用されている。そして段落【0019】〜【0020】の「実施例1・・・ステンレススチール製重合器(攪拌装置及びジャケット付き)を使用して、以下の重合を行った。・・・、塩化ビニル単量体 700kgと70℃に加熱した脱イオン水910kgの仕込みを同時に開始した。これらの仕込み開始から1分後に攪拌を開始して、分散剤の仕込みを開始した。使用した分散剤とその仕込み量は、表1に示したとおりであり、・・・。塩化ビニル単量体と脱イオン水の仕込みには、12分かかった。その間に分散剤及び重合開始剤の仕込みは終了していた。仕込み終了時の重合器内の温度は56℃であった。重合器内の温度を57℃に保ちながら重合反応を行った。・・・得られた塩化ビニル重合体について・・・測定した」の記載からみて、「塩化ビニル単量体」の重合、すなわち、「塩化ビニル重合体」の製造に用いられたことは明らかであり、当該重合反応は甲第1号証の上記摘記(甲1a)の請求項1及び(甲1d)の段落【0010】の記載からみて「懸濁重合」反応といえるから、甲第1号証には、 「平均重合度 190、けん化度54.7モル%、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコールからなる、塩化ビニルの懸濁重合に用いる分散剤1」の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 まず、本件発明1と甲1発明1とを対比する。 甲1発明1における「・・・、けん化度54.7モル%、・・・の部分けん化ポリビニルアルコール」は、「部分けん化ポリビニルアルコール」は「ポリビニルアルコール系重合体」であることは明らかであり、その「けん化度」は「54.7モル%」であるから、本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」であって「ケン化度が45〜65モル%」の範囲を満たすものであるといえる。 甲1発明1における「ブロックキャラクタ」と本件発明1の「ブロックキャラクター」とは、同義のものといえるところ、甲1発明1における「平均重合度 190、・・・、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「ポリビニルアルコール系重合体」であって「ブロックキャラクターが0.45〜0.9」の範囲を満たすものであるといえる。 また、甲1発明1の「平均重合度 190、けん化度54.7モル%、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコール」は、「重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687」ではないから、本件発明1の「「(ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」に該当しないといえる。 甲1発明1の「塩化ビニルの懸濁重合に用いる」ことについて、「塩化ビニル」は「ビニル系化合物」であるから、本件発明1の「ビニル系化合物の懸濁重合用」と同義であるといえる。 本件発明1の「分散助剤」について、本件明細書の(本a)の段落【0002】には「その際使用される分散安定剤としては、塩化ビニルモノマーの分散性を安定化して、製造される塩化ビニル系樹脂の粒径を調節するために添加されるいわゆる「分散安定剤」と、製造される塩化ビニル系樹脂粒子中の空孔率(ポロシティ)を上げるために添加されるいわゆる「分散助剤」とがある」と記載されていることから、「分散助剤」は「製造される塩化ビニル系樹脂粒子中の空孔率(ポロシティ)を上げるために添加される」ものといえる。また、(本h)の段落【0065】の「可塑剤吸収性が高いほど、塩化ビニル重合体の空孔率が高いことを示す」の記載からみて、「塩化ビニル重合体の空孔率が高い」ほど「可塑剤吸収性が高い」といえるから、本件発明1における「分散助剤」は「可塑剤吸収性」を高くするためものものであるといえる。 甲第1号証の(甲1e)の段落【0023】の【表1】には、「分散剤1」を含む実施例1〜3と「分散剤1」を含まない比較例1〜2をみると、実施例1〜3の方が「可塑剤吸収量」が高くなっていることから、「分散剤1」は「可塑剤吸収性」を高くするものといえる。 そうすると、甲1発明1の「平均重合度 190、けん化度54.7モル%、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコールからなる」「分散剤1」は、本件発明1における「分散助剤」に相当するといえる。 したがって、本件発明1と甲1発明1とは、 「ケン化度が45〜65モル%、ブロックキャラクターが0.45〜0.9であるポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(ii)である場合を除く。 (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」 点で一致し、以下の点で一応相違する。 相違点1:「ポリビニルアルコール系重合体」について、本件発明1では、「(式1)257≦X/Y≦400(ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。)」を満たすものであるのに対し、甲1発明1では、「平均重合度 190、・・・、ブロックキャラクタ0.75の部分けん化ポリビニルアルコール」であり、「X/Y」が253(=190/0.75)である点。 相違点2:「ポリビニルアルコール系重合体」について、本件発明1では、「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」ものであるのに対し、甲1発明1の「部分けん化ポリビニルアルコール」の末端の構造が明らかでない点。 (イ)判断 相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。 次に、甲1発明1において、本件発明1の「X/Y」の値を「(式1)257≦X/Y≦400」とする動機付けがあるかどうかについて検討すると、(甲1c)の段落【0006】には、「重合器に予め加熱された水性媒体及び/又は塩化ビニル等を同時に仕込む工程を有する製造において、平均重合度 150〜600 、けん化度20〜60モル%、けん化度に関するブロックキャラクタηが 0.6以上の部分けん化ポリビニルアルコール(以下、低けん化度ポリビニルアルコールという)を含有してなる分散剤を水性媒体仕込み中に添加すると、フィッシュアイが少なく、粗粒も少ない製品重合体が得られ、重合器内のスケール付着も低く抑えることができることを見いだした」こと、段落【0008】には「前記部分けん化ポリビニルアルコールは、平均重合度が 150未満、けん化度が20モル%未満又はブロックキャラクタが 0.6未満であると、製品重合体の粗粒の発生が多くなり、スケール付着も多くなる。また、平均重合度が 600を越えたり、けん化度が60モル%を越えると、製品重合体のフィッシュアイが多くなる。上記した低けん化度ポリビニルアルコールは、市販のものを使用することができる」ことは記載され、「平均重合度」や「ブロックキャラクタη」を特定の範囲内で変更し得ることは記載されているものの、本件発明1の「(式1)257≦X/Y≦400(ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。)」の範囲のものを選択することまでは記載されていない。 また、甲第2号証には、「ハンドリング性に優れる懸濁重合用分散安定剤であって、該懸濁重合用分散安定剤をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合に、使用量が少量であっても可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂が得られ、得られるビニル系樹脂から残存するモノマー成分を除去することが容易であり、かつ得られるビニル系樹脂に粗大粒子の形成が少ない、懸濁重合用分散安定剤を提供することを目的」とした((甲2b)の段落[0009]を参照)、「けん化度が35モル%以上65モル%以下、かつ粘度平均重合度が100以上480以下であり、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有し、残存エステル基のブロックキャラクターが0.5以上であるビニルアルコール系重合体(A)、および水を含有する、水性液形態の懸濁重合用分散安定剤・・・」についての発明が記載されており((甲2a)の請求項1を参照)、また、実施例1〜4、8〜9、12〜15、17として、本件発明1の「(式1)」の範囲を満たす「ポリビニル系重合体」が記載されている。しかしながら、甲第2号証においては、本件発明1の「式(1)」の範囲を満たさない実施例5〜7、10〜11、16も実施例としており、また、本件発明1の「式(1)」を満たすことの意義について記載されていないから、甲1発明1において、本件発明1の「(式1)」の範囲のものを選択する動機付けとなる記載があるとはいえない。 そうすると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)令和3年12月15日付け意見書における申立人の主張 令和3年12月15日付け意見書において、申立人は、「・・・本件明細書の比較例1〜5のうち、257≦X/Y≦400の要件のみを満たさない比較例は比較例2、3のみであり、比較例2 はいずれの実施例よりも重合度が大きく(重合度500)、比較例3はいずれの実施例よりも重合度が小さく(重合度120)、重合度が180〜300の範囲である実施例1〜9は、重合度が適度であるから効果が生じているに過ぎない。ここで、本件発明と同じ技術分野(懸渦重合用 分散助剤)の発明が記載されている甲第2号証の段落[0022]にも、PVAの重合度が低い場合は得られるビニル系樹脂粒子が粗粒になり、大きい場合は粘度が非常に高くなる旨が記載されているように、PVAの重合度を調整することで懸濁重合用分散助剤として良好な効果が生じるものになることは当該技術分野における公知の事項である。すなわち、本件明細書にはX/Yを所定の範囲とすることによる効果は裏付けられておらず、予測できない顕著な効果であるとの特許権者の主張は根拠がない」と主張している。 申立人の指摘のとおり、「257≦X/Y≦400の要件のみを満たさない比較例は比較例2、3のみであり、比較例2 はいずれの実施例よりも重合度が大きく(重合度500)、比較例3はいずれの実施例よりも重合度が小さ(重合度120)」いものとなっているものの、本件発明1の全ての要件を満たす実施例1〜9は、いずれかの要件を満たさない比較例1〜5に比べて優れた評価となることが記載されていることから、少なくとも効果を奏するものではないと評価することはできない。 また、上記(イ)で検討したように、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、甲1発明1において、本件発明1の「(式1)」の範囲のものを選択する動機付けとなる記載があるとはいえないから、本件発明1を甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたとは判断することはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1には、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件発明2〜10について 本件発明2〜10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜10は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)(新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)、申立理由1及び2(ア)によって、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 (4)取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)(新規性、進歩性)について 上述したとおり、取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)(新規性、進歩性)と申立理由2(イ)(進歩性)は、いずれも甲第2号証を主引用例とした新規性、進歩性の理由であるため、併せて検討する。 ア 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証の(甲2h)の段落[0073]には、「粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739、・・・のPVA」の発明が記載されており、さらに、「乾燥後水を加えて固形分濃度40wt%、粘度6000mPa・sの懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)を得た」と記載されているから、「粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739、・・・のPVA」は「水を加えて固形分濃度40wt%、・・・の懸濁重合用分散安定剤」として用いられるものといえる。 また、甲第2号証の(甲2h)の段落[0083]には、「容量5Lのオートクレーブに粘度平均重合度2400、けん化度80モル%のPVA(B)を・・・100部の脱イオン水溶液として仕込み、上記懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)を、懸濁重合用分散安定剤中のPVAが塩化ビニル単量体に対して400ppmとなるように仕込み、仕込む脱イオン水の合計が1230部となるように脱イオン水を追加して仕込んだ。・・・、塩化ビニル940部を仕込み、・・・攪拌下で塩化ビニル単量体の重合を開始した。・・・時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニル単量体を除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。」ことが記載されているから、「懸濁重合用分散安定剤:PVA(A1)」は、「粘度平均重合度2400、けん化度80モル%のPVA(B)」とともに用いられること、「脱イオン水」の存在下で「塩化ビニル単量体の重合」に用いられることが記載されているといえる。 さらに、段落[0073]には、「粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739、・・・のPVA」の製造について、「酢酸ビニル(以下VAcと略す)1404部、メタノール396部、およびn−ドデカンチオール(以下DDMと略す)0.54部を重合缶に仕込み、・・・重合を行った。重合率が70%となったところで重合を停止し、・・・、ポリ酢酸ビニル(以下PVAcと略す)のメタノール溶液(濃度75%)を得た。次いでメタノール溶媒中で、・・・、3時間けん化反応を行った」ことが記載されており、「n−ドデカンチオール(以下DDMと略す)」は(甲2c)の段落[0035]からみて「連鎖移動剤」であり、段落[0016]の記載からみて、「粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739、・・・のPVA」の末端に「チオエーテル(−S−)を介して」「脂肪族炭化水素基」が形成されるといえる。 そうすると、甲第2号証には、 「水を加えて固形分濃度40wt%に調整して、塩化ビニル単量体の懸濁重合用分散安定剤として用いられた、末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」の発明(以下「甲2発明1」という。) が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明1を対比する。 甲2発明1の「・・・、けん化度54モル%、・・・のPVA」は、「けん化度」が「54モル%」であり、「PVA」は「ポリビニルアルコール系重合体」であることは明らかであるから、本件発明1と同様に「ポリビニルアルコール系重合体」の「ケン化度が45〜65%」の範囲を満たすものであるといえる。 本件発明1の「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」について、本件明細書の(本b)の段落【0026】には、「式1において、重合度Xは、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる重合度である」と記載されており、「JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法」について、特開平6−118321号公報の段落【0006】には「ここで粘度平均重合度とは、JIS−K6726に準じて測定した値をいう。」と記載されていることから、本件発明1の「X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度」は実質的に「粘度平均重合度」と解することができ、甲2発明1の「粘度平均重合度」と同義であるといえる。 そして、甲2発明1における「・・・粘度平均重合度250、・・・、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」は、本件発明1の「(式1)」の値が「338」(=250/0.739)となるから、本件発明1の「ブロックキャラクターが0.45〜0.9であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体・・・(式1)257≦X/Y≦400(ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。)」の範囲を満たすものであるといえる。 また、甲2発明1の「・・・末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」は、「重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687」ではないから、本件発明1の「(ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」に該当しないといえる。 甲2発明1の「・・・、末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるであるn−ドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」は、「水を加えて固形分濃度40wt%に調整して、塩化ビニル単量体の懸濁重合用分散安定剤として用いられた」ものであるが、「水」自体に「懸濁重合用分散安定剤」の機能がなく、「末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基」を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」自体に「懸濁重合用分散安定剤」の機能があることは明らかであるから、「末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」自体が「懸濁重合用分散安定剤」であるといえる。 また、甲2発明1の「塩化ビニル単量体の懸濁重合用分散安定剤」について、「塩化ビニル単量体」は「ビニル系化合物」であるから、本件発明1の「ビニル系化合物の懸濁重合用」のものであるといえる。 そして、上記「(3)取消理由1C(ア)、1D(ア)、2C(ア)、2D(ア)(新規性、進歩性)について」「イ 本件発明1について」「(ア)対比」で検討したとおり、本件発明1の「分散助剤」は、本件明細書の(本a)の段落【0002】、(本h)の【0065】の記載からみて、「可塑剤吸収性」を高くするためものものであるといえる。 一方、甲2発明1の「末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」である「懸濁重合用分散安定剤」も、上記摘記(甲2b)の段落[0009]の記載からみて、「本発明の懸濁重合用分散安定剤の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行った場合には、・・・可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂粒子が得られる」との記載からみて、「可塑剤の吸収性」を高くするものといえるから、甲2発明1の「末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基を有する、粘度平均重合度250、けん化度54モル%、ブロックキャラクターの値が0.739のPVA」は、本件発明1と同様に「懸濁重合用分散助剤」であるといえる。 そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、 「ケン化度が45〜65モル%、ブロックキャラクターが0.45〜0.9であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)257≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(ii)である場合を除く。 (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である」 点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3:「ポリビニルアルコール系重合体」について、本件発明1では、「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」ものを「除く」のに対し、甲2発明1では、末端にチオール基を介して脂肪族炭化水素基であるn−ドデカン基を有するものである点 (イ)判断 上記相違点3について検討する。 まず、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえない。 次に、甲2発明1において、「(i)末端に脂肪族炭化水素基」を有しないものとすることが動機付けられるか検討する。 甲第2号証の(甲2b)の段落[0009]には、「ハンドリング性に優れる懸濁重合用分散安定剤であって、該懸濁重合用分散安定剤をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合に、使用量が少量であっても可塑剤の吸収性が高く加工が容易なビニル系樹脂が得られ、得られるビニル系樹脂から残存するモノマー成分を除去することが容易であり、かつ得られるビニル系樹脂に粗大粒子の形成が少ない、懸濁重合用分散安定剤を提供することを目的」とするものであること、(甲2a)の請求項1として「・・・、末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有し、・・・であるビニルアルコール系重合体(A)、および水を含有する、水性液形態の懸濁重合用分散安定剤・・・」、すなわち、「末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基」を有する「ビニルアルコール系重合体(A)、を用いること、(甲2c)の段落[0014]には「本発明で用いられるPVA(A)は、末端に脂肪族炭化水素基を有するが、PVA(A)の生産効率および分散安定剤の性能の観点から、PVA(A)に含まれる末端脂肪族炭化水素基の炭素数が6以上12以下であることが重要である」ことが記載されており、甲第2号証の課題を解決するために、「ビニルアルコール系重合体(A)」の「炭素数が6以上12以下」の「末端脂肪族炭化水素基」を有することが記載されている。そうすると、甲第2号証においては、「ビニルアルコール系重合体(A)」の「炭素数が6以上12以下」の「末端脂肪族炭化水素基」を有することはその課題を解決するために必要な事項であるといえるから、甲2発明1において、「(i)末端に脂肪族炭化水素基」を有しないものとすることを動機付けることはできない。 また、甲第1号証にも、甲2発明1において、「(i)末端に脂肪族炭化水素基」を有しないものとすることを動機付ける記載があるとはいえない。 そうすると、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)令和3年12月15日付け意見書における申立人の主張 令和3年12月15日付け意見書において、申立人は、「・・・また、甲第2号証に記載の発明は、本件発明1に対して、効果をいっそう高めるために末端に炭素数6以上12以下の脂肪族炭化水素基を有すること・・・などに更に限定したものであるといえるので、末端に脂肪族炭化水素基を有する場合を除いた本件発明1は、甲第2号証に記載の発明に対して後退する発明であるといえる。そして、進歩した技術(甲第2号証に記載の発明)を進歩する前の技術(本件発明1) に戻すことには、・・・格別の動機づけが必要とはいえない。すなわち、PVAが末端にチオエーテル・・・を介して脂肪族炭化水素基を有する甲第2号証に記載の発明に対して、PVAが末端に脂肪族炭化水素基を有さない本件発明1に想到することは、甲第2号証に記載の発明を従来の技術に戻すことに過ぎず、当業者が容易になし得ることである」と主張している。 しかしながら、申立人の主張する「本件発明1は、甲第2号証に記載の発明に対して後退する発明であるといえる」ことについては、甲第2号証の(甲2b)段落[0006]に「部分けん化PVAを用いた懸濁重合用分散安定剤を高性能化する方法として、特許文献1〜2では、末端にアルキル基を有するPVAをビニル化合物の懸濁重合に用いる方法が提案されている」と記載されているのみで、甲第1〜2号証には当該主張の根拠が示されていないし、「進歩した技術(甲第2号証に記載の発明)を進歩する前の技術(本件発明1)に戻すことには、・・・格別の動機づけが必要とはいえない」との主張も「進歩した技術」をみた当業者がわざわざ「進歩する前の技術」に戻すとする動機付けの根拠は見いだせない。 そして、上記(イ)で述べたように、甲第2号証においては、「ビニルアルコール系重合体(A)」の「炭素数が6以上12以下」の「末端脂肪族炭化水素基」を有することはその課題を解決するために必要な事項であるといえるから、甲2発明1において、「(i)末端に脂肪族炭化水素基」を有しないものとすることを動機付けることはできない。 したがって、上記申立人の主張を採用することができない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1には、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件発明2〜10について 本件発明2〜10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜10は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)(新規性、進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由1C(イ)、1D(イ)、2C(イ)、2D(イ)、申立理由2(イ)によって、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 (5)取消理由についてのまとめ 以上のとおり、取消理由1A〜1D、2A〜2D、3A及び申立理由1〜2、5によっては、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことができない。 2 特許異議申立書に記載された申立理由について 申立理由1(新規性)、2(進歩性)、5(サポート要件)については、上記「1 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由3(新規事項)及び申立理由4(実施可能要件)について検討を行う。 (1)申立理由3(新規事項)について ア 申立理由3(新規事項)の概要 申立理由3(新規事項)の概要は、以下のとおりである。 本件発明1の「ポリビニルアルコール共重合体」の末端に「脂肪族炭化水素を有する」場合を除いた補正は、本件特許の出願当初の明細書において記載のない新たな技術的事項を導入するものであるから、新規事項を追加する補正である。 イ 判断 上記「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「イ 判断」で検討したとおり、本決定においては、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の解釈について、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた場合に導入される「CH3−C(CH3)(CN)−」の基を末端に有する「ポリビニルアルコール系重合体」は本件発明1の発明特定事項を満たすものと解することとなった。 そして、本件の当初明細書から記載されている(本h)の実施例1〜9は、本件発明1の発明特定事項を満たすものであるといえるから、本件特許に係る出願において、本件発明1の「ポリビニルアルコール共重合体」の末端に「脂肪族炭化水素を有する」場合を除いた補正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 なお、付言すると、本件発明1の「ポリビニルアルコール共重合体」の末端に「脂肪族炭化水素を有する」場合を除いた補正は、当該発明特定事項を有さない特許請求の範囲の記載から、末端に「脂肪族炭化水素を有する」場合を除いたに過ぎないため、いずれにしても、新たな技術的事項を導入するものと判断することはできない。 ウ 申立理由3(新規事項)のまとめ 以上のとおり、申立理由3は、理由がない。 (2)申立理由4(実施可能要件)について ア 申立理由4(実施可能要件)の概要 申立理由4(実施可能要件)の概要は、以下のとおりである。 本件特許明細書において実際に製造したことが記載されているのは、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いて合成された、「末端に脂肪族炭化水素基を有する」「ポリビニルアルコール系重合体」のみである。本件明細書においては、「ケン化度が45〜65モル%」であり、「(式1)257≦X/Y≦400」を満足し、かつ「末端に脂肪族炭化水素基」を有しない「ポリビニルアルコール系重合体」を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分な記載がない。 イ 判断 上記「(1)取消理由1A、2A、3A(明確性)について」「イ 判断」で検討したとおり、本決定においては、本件発明1の「(i)末端に脂肪族炭化水素基を有する」場合を「除く」の解釈について、「重合開始剤」として「アゾビスイソブチロニトリル」を用いた場合に導入される「CH3−C(CH3)(CN)−」の基を末端に有する「ポリビニルアルコール系重合体」は本件発明1の発明特定事項を満たすものと解することとなった。 そして、本件の当初明細書から記載されている(本h)の実施例1〜9は、本件発明1の発明特定事項を満たす「ポリビニルアルコール系共重合体」であるから、本件発明1の発明特定事項を満たす「ポリビニルアルコール系共重合体」は実施例として実際に製造されたことが記載されているといえる。 なお、付言すると、「ポリビニルアルコール系共重合体」の前駆体であるポリビニル酢酸の合成に用いる「重合開始剤」として、「過硫酸塩」や「過酸化水素」は本件特許に係る出願の出願時からよく知られたものであり、これらの「重合開始剤」を用いれば、「末端に脂肪族炭化水素基」を有しない「ポリビニルアルコール系共重合体」が得られることも当業者によく知られた事項であるといえる。 ウ 申立理由4(実施可能要件)のまとめ 以上のとおり、申立理由4は、理由がない。 第7 むすび 特許第6606387号の特許請求の範囲を令和3年11月8日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1−10に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1−10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ケン化度が45〜65モル%、ブロックキャラクターが0.45〜0.9であり、以下の(式1)を満足するポリビニルアルコール系重合体であるビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤 (式1)257≦X/Y≦400 (ここで、X:ポリビニルアルコール系重合体の重合度、Y:ポリビニルアルコール系重合体のブロックキャラクターを示す。) ただし、ポリビニルアルコール系重合体が、下記(i)又は下記(ii)である場合を除く。 (i)末端に脂肪族炭化水素基を有する (ii)重合度が250、ケン化度が55モル%及びブロックキャラクターが0.687である 【請求項2】 重合度が160〜350、ブロックキャラクターが0.6〜0.9であるポリビニルアルコール系重合体である、請求項1記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項3】 水溶性高分子とともに重合系に存在させて懸濁重合させるための請求項1又は2記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項4】 水溶性高分子が、ケン化度65〜90モル%のポリビニルアルコールである請求項3記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項5】 塩化ビニルを含むビニル系化合物の懸濁重合に用いるための請求項1〜4のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤。 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤を含有する水性液であって、前記ポリビニルアルコール系重合体を30〜50質量%含有する水性液。 【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載の懸濁重合用分散助剤存在下で、ビニル系化合物を水性溶媒中で懸濁重合させるビニル系樹脂の製造方法。 【請求項8】 さらに、水溶性高分子の存在下で懸濁重合させる請求項7記載の製造方法。 【請求項9】 水溶性高分子が、ケン化度65〜90モル%のポリビニルアルコールである請求項8記載の製造方法。 【請求項10】 ビニル系化合物が塩化ビニルを含む請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-29 |
出願番号 | P2015-188953 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F) P 1 651・ 113- YAA (C08F) P 1 651・ 536- YAA (C08F) P 1 651・ 55- YAA (C08F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
土橋 敬介 杉江 渉 |
登録日 | 2019-10-25 |
登録番号 | 6606387 |
権利者 | 日本酢ビ・ポバール株式会社 |
発明の名称 | 懸濁重合用分散助剤およびその水性液、並びに、それらを用いるビニル系樹脂の製造方法 |
代理人 | 岩谷 龍 |
代理人 | 勝又 政徳 |
代理人 | 天野 一規 |
代理人 | 勝又 政徳 |
代理人 | 岩谷 龍 |