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審決分類 審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:122  H01L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 一部申し立て 特29条の2  H01L
管理番号 1388323
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-31 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6644745号発明「紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6644745号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕、6及び7について訂正することを認める。 特許第6644745号の請求項1、3〜6に係る特許を維持する。 特許第6644745号の請求項2及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6644745号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年8月25日に出願され、令和2年1月10日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月12日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 7月 31日 :特許異議申立人中野圭二による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年11月 4日付け:取消理由通知書(以下「第1次取消理由通知書」という。)
令和 3年 1月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正を「第1次訂正」という。)
令和 3年 4月 2日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 3年 6月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第2次取消理由通知書」という。)
令和 3年 8月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正請求を「第2次訂正請求」といい、第2次訂正請求に係る訂正を「第2次訂正」という。)
令和 3年10月14日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 4年 3月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第3次取消理由通知書」という。)
令和 4年 6月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)

本件訂正請求によって、第2次訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

なお、本件訂正請求があったものの、当審は、特許法第120条の5第5項ただし書の規定に基づき、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと判断した。すなわち、本件訂正は、後記第2によれば、第2次訂正と比べて、請求項7が削除されたことに加えて、「メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成され」た場所が「前記基板のうち前記光学部材との接合部」というやや曖昧な表現から「前記基板のうち前記周壁の上端部」という明瞭な表現に訂正されたことを加えたに実質的にとどまることから、訂正の請求の内容が実質的な判断に影響を与えるものとはいえない上、これまでの経緯において特許異議申立人は、「前記基板のうち前記光学部材との接合部」が「前記基板のうち前記周壁の上端部」を含むことを当然の前提とした主張をしていると解され(特許異議申立書19頁「(g)」。なお、令和3年4月2日付け意見書(特許異議申立人)の3頁下から6行〜4頁7行でも、特許異議申立人は、特段の根拠なく留保を付しつつ、そのように想像できる旨主張している。)、よって、特許異議申立人には既に意見を提出する機会が与えられているといえることから、当審は、このように判断した。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜5〕、6及び7に対して請求されたものである。また、本件特許の登録時の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0009】及び【0010】に係る訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜5〕について、同【0014】に係る訂正は、訂正後の請求項6について、同【0015】に係る訂正は、訂正後の請求項7について、それぞれ、請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、該接合部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が一体的に接合されており、前記基板のうち前記光学部材との接合部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」とあるのを、
「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は請求項2に記載の紫外線光素子。」とあるのを「請求項1に記載の紫外線光素子。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の紫外線光素子。」とあるのを、
「請求項1又は請求項3に記載の紫外線光素子。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の紫外線光素子。」とあるのを、
「請求項1、請求項3、請求項4のいずれか一項に記載の紫外線光素子。」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件明細書等の【0009】に「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、該接合部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が一体的に接合されており、前記基板のうち前記光学部材との接合部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」とあるのを、
「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件明細書等の【0010】を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、該接合部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が一体的に接合されており、前記基板のうち前記光学部材との接合部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」とあるのを、
「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」に訂正する。

(9)訂正事項9
本件明細書等の【0014】に「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、該接合部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が一体的に接合されており、前記基板のうち前記光学部材との接合部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」とあるのを、
「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(11)訂正事項11
本件明細書等の【0015】を削除する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に対して、次の内容、すなわち、
(i)本件訂正前の請求項1における「該接合部」(「前記光学部材のうち前記基板との接合部」)をどのように観念すればよいのかが不明であるために、「該接合部と略同形状」とされた「枠体」がどのような形状であるのかが明瞭でなかったのを、「枠体」の形状が「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」であると明瞭にすること、
(ii)本件訂正前の請求項1における「枠体が一体的に接合され」たことを、「枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合され」たことに限定すること、
(iii)本件訂正前の請求項1における「前記基板のうち前記光学部材との接合部」をどのように観念すればよいのかが不明であるために、「メタライズ部が形成され」る場所がどこであるのかが明瞭でなかったのを、当該場所が「前記基板のうち前記周壁の上端部」であると明瞭にすること。
からなるものである。
したがって、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
本件明細書等の【0023】には「パッケージ基板3は、・・・光素子2が実装される有底凹部31と、有底凹部31の周囲を隙間無く取り囲む周壁32を有している。」と記載されており、同【0024】には「周壁32の上端部との接合部には、周壁32の上端部33と略同形状であって、・・・枠体5」と記載されている。
よって、上記ア(i)の点は、新規事項を追加するものではない。

(イ)上記ア(ii)について
本件明細書等の【0027】には、「枠体5と一体的に接合された光学部材4」と記載され、本件明細書等の【0030】には、(溶融して光学部材4となる)「ガラスペレット10が溶融した時、枠体5の表面に形成された酸化膜により、枠体5とガラスとの濡れ性が良くなり、ガラス・金属界面の密着性が向上し、それらが封止(ハーメチック)接合される。」と記載されている。
よって、上記ア(ii)の点は、新規事項を追加するものではない。

(ウ)上記ア(iii)について
本件明細書等の【0024】には、「パッケージ基板3の周壁32の上端部33は、・・・メタライズ処理が施されている。」と記載されている。
よって、上記ア(iii)の点は、新規事項を追加するものではない。

(エ)小括
よって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
(ア)訂正事項1のうち上記ア(i)に係る訂正は、上記のとおり、「枠体」の形状が、訂正前においては、「該接合部」(「前記光学部材のうち前記基板との接合部」)と「略同形状」とされていたのを、「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」と「略同形状」であるとするものである。
まず、訂正前の請求項1において、「枠体」の形状が「該接合部」と「略同形状」とされていたことについて、上記イ(ア)のとおり、本件明細書等の【0024】には、「枠体」が「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」である態様を含むことが記載されており、訂正前の請求項1の文言上、そのような態様を含むように解することを妨げる事情はないから、訂正前の請求項1の「枠体」の形状は、そのような態様を含んでいたといえる。
そして、訂正後の請求項1では、「枠体」の形状が、そのような態様であることが特定されている。
そうすると、上記訂正の前後により、実質上特許請求の範囲が拡張され、又は変更されることはない。

(イ)訂正事項1のうち上記ア(ii)に係る訂正は、上記ア及びイにも照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(ウ)訂正事項1のうち上記ア(iii)に係る訂正は、上記のとおり、「メタライズ部が形成され」る場所が、訂正前においては、「前記基板のうち前記光学部材との接合部」とされていたのを、「前記基板のうち前記周壁の上端部」であるとするものである。
まず、訂正前の請求項1において、「メタライズ部が形成され」る場所が「前記基板のうち前記光学部材との接合部」とされていたことについて、上記イ(ウ)のとおり、本件明細書等の【0024】には、「メタライズ処理」がなされる場所が「パッケージ基板3の周壁32の上端部33」である態様を含むことが記載されており、しかも、同段落には、「本実施例では、上端部33が光学部材4との接合部であ」ると記載されている。そして、訂正前の請求項1の文言上、そのような態様を含むように解することを妨げる事情はない。よって、訂正前の請求項1の「メタライズ部が形成され」る場所は、そのような態様を含んでいたといえる。
そして、訂正後の請求項1では、「メタライズ部が形成され」る場所が、そのような態様であることが特定されている。
そうすると、上記訂正の前後により、実質上特許請求の範囲が拡張され、又は変更されることはない。

(エ)したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものである。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものである。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものである。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4の小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものである。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5が引用していた請求項のうち、請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項5の小括
よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、上記(1)で説示した請求項1の訂正に伴う本件明細書等の【0009】の訂正である。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項6は、上記(1)で説示した請求項1の訂正に伴う本件明細書等の【0009】の訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項6の小括
よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、上記(2)で説示した請求項2の削除に伴い、本件明細書等の【0010】を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項7は、本件明細書等の【0010】を削除する訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項7の小括
よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、本件訂正前の請求項6に対して、次の内容、すなわち、
(i)本件訂正前の請求項6における「該接合部」(「前記光学部材のうち前記基板との接合部」)をどのように観念すればよいのかが不明であるために、「該接合部と略同形状」とされた「枠体」がどのような形状であるのかが明瞭でなかったのを、「枠体」が「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」であると明瞭にすること、
(ii)本件訂正前の請求項6における「枠体が一体的に接合され」たことを、「枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合され」たことに限定すること、
(iii)本件訂正前の請求項1における「前記基板のうち前記光学部材との接合部」をどのように観念すればよいのかが不明であるために、「メタライズ部が形成され」る場所がどこであるのかが明瞭でなかったのを、当該場所が「前記基板のうち前記周壁の上端部」であると明瞭にすること。
からなるものである。
したがって、訂正事項8は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項8は、上記(1)イと同様の理由で、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
訂正事項8は、上記(1)ウと同様の理由で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項8の小括
よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、上記(8)で説示した請求項6の訂正に伴う本件明細書等の【0014】の訂正である。
そうすると、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項9は、上記(8)で説示した請求項6の訂正に伴う本件明細書等の【0014】の訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項9の小括
よって、訂正事項9は、訂正要件を満たす。

(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的
訂正事項10は、本件訂正前の請求項7を削除するものである。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項10は、本件訂正前の請求項7を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項10の小括
よって、訂正事項10は、訂正要件を満たす。

(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的
訂正事項11は、上記(10)で説示した請求項2の訂正に伴い、本件明細書等の【0015】を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項11は、本件明細書等の【0015】を削除する訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
そうすると、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項9の小括
よって、訂正事項11は、訂正要件を満たす。

3 訂正の適否の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1〜5〕、6及び7について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は上記第2のとおり認められたところ、本件訂正後の請求項1〜7に係る発明(以下「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明7」という。)は、次のとおりであると認められる。
[本件訂正発明1]
「紫外線を発光する光素子と、
前記光素子が実装されるセラミック製の基板と、
前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子であって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする紫外線光素子。」

[本件訂正発明2]
(削除)

[本件訂正発明3]
「前記枠体と前記メタライズ部とは、金属プリフォームにより接合されることを特徴とする請求項1に記載の紫外線光素子。」

[本件訂正発明4]
「前記枠体は、前記メタライズ部と接合される面が前記光学部材の前記基板と対向する面から露出するように、前記光学部材に埋没されていることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の紫外線光素子。」

[本件訂正発明5]
「前記基板には、複数の前記光素子が所定の配列パターンで実装され、
前記光学部材は、前記光素子の配列パターンに対応するように配列された複数のレンズを有することを特徴とする請求項1、請求項3、請求項4のいずれか一項に記載の紫外線光素子。」

[本件訂正発明6]
「紫外線を発光する光素子が実装されるセラミック製の基板と、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子用パッケージであって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする紫外線光素子用パッケージ。」

[本件訂正発明7]
(削除)

第4 第3次取消理由通知書(令和4年3月25日付け取消理由通知書(決定の予告))で通知した取消理由の概要
第3次取消理由通知書に係る取消理由は、第2次訂正請求に係る訂正後の請求項1、3〜7に係る特許に対するものであって、その要旨は、次のとおりである。
1 当該請求項1、3〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(明確性要件違反)。
2 当該請求項7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願(甲第1号証(以下、「第」と「号証」を略して表記する。他の証拠についても同じ。))の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、当該請求項7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(拡大先願要件違反)。

[引用文献等一覧]
1.特願2016−171231号(甲1、特開2018−37582号公報参照)
2.特開2016−219505号公報(甲2、周知例)
3.英興株式会社,“ホウケイ酸ガラスの熱特性”,[online],2020年7月15日印刷,インターネット<URL:http://www.duran-glass.com/feature/heat.html>(甲3、周知例)
4.特開2002−76494号公報(甲4、周知例)
5.特開昭61−42936号公報(甲5、周知例)
6.特開2017−73489号公報(甲6、周知例)
7.特開2004−235652号公報(甲7、周知例)
8.SCHOTT社,“GLASS TUBING EXPLORER(SCHOTT 8337B)”,[online],2020年7月15日印刷 ,インターネット<URL:https://www.schott.com/tubing/english/product_selector/#!/region--all/la
ng--japanese/product--8337B>(甲8、周知例)
9.池田 豊,“ガラスと金属の接着機構(I)”,材料,日本材料学会, 昭和43年9月,第17巻,第180号,p.783−792(甲11、周知例)
10.Albert W. Hull, and E. E. Burger, “Glass-to-Metal Seals”,Journal of Applied Physics, (米), the American Institute of Physics, 1934年12月,Volume 5, Issue 12, p. 384−405(甲12、周知例)
11.特開2013−91593号公報(周知文献1、周知例)

第5 当審の判断
1 第3次取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)明確性要件違反
ア 第3次取消理由通知書は、第2次訂正後の請求項1の「前記基板のうち前記光学部材との接合部」の記載が、「前記周壁の上端部」を意味しているとも解される一方で、そのように記載されていないことから、当該記載は明確でない旨説示したものであるが、本件訂正により当該記載が「前記周壁の上端部」に訂正されたことから、当該理由は解消した。

イ 第3次取消理由通知書は、第2次訂正後の請求項7の「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、・・・枠体が、・・・ガラスと一体的に封止接合されていることを特徴とする枠体つきの光学部材。」の記載における「枠体」を「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」にするとの特定事項が、「枠体つきの光学部材」の「枠体」の構造をどのように特定したことになるのか不明である旨説示したものであるが、本件訂正により請求項7が削除されたことから、当該理由は解消した。

(2)拡大先願要件違反
第3次取消理由通知書は、第2次訂正後の請求項7に係る発明が、本件特許に係る出願前の他の特許出願であって、当該出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に係る甲1に記載された発明と同一であって、当該発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである旨説示したものであるが、本件訂正により請求項7が削除されたことから、当該理由は解消した。

(3)第3次取消理由通知書に記載した取消理由についての小括
よって、第3次取消理由通知書に記載した取消理由は、解消した。

2 第3次取消理由通知書において採用しなかった取消理由について
(1)明確性要件違反
ア 第1次取消理由通知書及び第2次取消理由通知書は、請求項7について、明確性要件違反を説示したものであるが、本件訂正により請求項7は削除されたので、当該理由は解消した。

イ 第2次取消理由通知書は、第1次訂正後の請求項1の記載では、「前記基板に接合される光学部材」及び「前記光学部材のうち前記接合部」という「基板」と「光学部材」とが直接的に接合していると解される記載がある一方で、両者の間に「枠体」が存在することを意味する記載もあることから、「基板」、「光学部材」(ガラス)及び「枠体」の相互配置関係が明確でない旨説示した。さらに、同通知書は、当該請求項1の記載では、「基板」と「光学部材」との間に「枠体」が存在することを意味する記載があることから、「前記光学部材のうち前記基板との接合部」及び「前記基板のうち前記光学部材との接合部」がどこを指すのか不明であり、「前記光学部材のうち前記基板との接合部」と「略同形状」がどのような形状であるのか不明である旨説示した。
これらの取消理由は、要するに、第1次訂正後の請求項1では、(i)「前記光学部材のうち前記基板との接合部」及び(ii)「前記基板のうち前記光学部材との接合部」との文言が用いられている一方で、光学部材と基板との間には「枠体」等が存在しているので、上記各文言の「接合部」には、一定のわかりにくさが包含されていると言わざるを得ないところ、それにもかかわらず、そのような(i)の「接合部」の形状をもって、「枠体」の形状が特定されていたことから、(i)及び(ii)の文言の明確性を問題としたものである。
しかしながら、本件訂正により、「枠体」の形状が、「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」との関係で特定されたため、(i)の文言で特定されることはなくなった。さらに、本件訂正により、(ii)の文言も使用されなくなった。そして、(i)の「接合部」の具体的形状が問題となる特定事項は他に存在せず、(i)の文言は、光学部材と基板との間に「枠体」等が存在しているとしても、単に、その状態をもって、そのように称していると解すれば足りる。
よって、当該理由は解消した。

(2)第3次取消理由通知書において採用しなかった取消理由についての小括
したがって、第3次取消理由通知書において採用しなかった取消理由は、解消した。

3 第3次取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)明確性要件違反
ア 特許異議申立人は、本件特許の登録時の請求項1の「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、該接合部と略同形状であ(る)・・・枠体」の記載について、光学部材と基板とが直接接触していないことから、「該接合部と略同形状」という「枠体」の形状がどのようなものであるのか不明である旨主張する。
しかしながら、本件訂正により、当該記載が「記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であ(る)枠体」と訂正されたため、「枠体」の形状が「該接合部」(「前記光学部材のうち前記基板との接合部」)との関係で特定されることはなくなった。そして、「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」の意味は明確である。
よって、当該理由は、理由がない。請求項6についても同様である。

イ 特許異議申立人は、本件訂正発明1における「枠体」が「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」であるとの記載について、「周壁の上端部と略同形状」の意味する範囲が本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の記載に照らしても明確でない旨主張し、その根拠として、「略同形状」の「略」が意味する範囲が不明であること、「周壁の上端部」を、面的なものではなく、周壁の上下方向の構造を含めた体積的なものとして観念することを前提とした上で、当該上端部が上下方向でどの範囲を指すのかが不明であるとともに、当該上端部の形状によっては、枠体がそれと略同形状であることを観念し難いこと、を挙げる。
そこで検討すると、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件訂正明細書等の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
(ア)まず、本件訂正発明1の「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」との記載について、「周壁の上端部」という文言が、周壁の上下方向の構造を含めた体積的なものを指すのか、又は、周壁の上端に存在する面を指し、体積的なものを含まないのか、について検討する。
当該「周壁の上端部」は、「枠体」の形状を特定するためのものであるところ、「枠体」は、「ガラス」及び「基板」(の「メタライズ部」)の双方に「接合」されるためのものであって、「接合」のための物であることが予定されているから、「枠体」の形状も、「接合」との関連において特定されていると解するのが自然であり、よって、当該「周壁の上端部」も、そのように解された「枠体」の形状に基づいて理解されるべきものである。そして、「接合」は、「接合」される物どうしの対向する接合「面」にてなされるのが一般的であり、本件訂正発明1においてもそのように解するのを妨げる特段の事情はないから、「接合」との関連で特定されている「枠体」の形状も、面的な意味で特定されていると解するのが自然である。したがって、「周壁の上端部」とは、体積的な概念ではなく、周壁の上端に存在する面と解することが相当である。
以上の理解は、本件訂正明細書等の【0024】の「パッケージ基板3の周壁32の上端部33は、・・・メタライズ処理が施されている。すなわち、本実施例では、上端部33が光学部材4との接合部であり、これがメタライズ部とされている。」との記載、図1からは、上端部33が周壁32の上端に存在する面であることが見て取れる点、及び、同【0043】の「光学部材4と一体化された枠体5と、メタライズ処理されたパッケージ基板3の周壁32の上端部33とは、互いの接合面が金属となるので、金属プリフォーム6を用いることで、容易に無機材料(フィレット)で接合でき」るとの記載のとおり、本件訂正明細書等では、上記「周壁の上端部」が、周壁32の上下方向の構造を含む体積的なものではなく、もっぱら、周壁32の上端に存在する面の意味で記載されていることからも裏付けられる。

(イ)次に、本件訂正発明1の「枠体」が「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」との記載における「略同形状」との文言の意味について検討する。
a 本件訂正発明1には、「枠体」が当該「周壁の上端部」と「略同形状」と特定されているところ、当該「周壁の上端部」は、上記(ア)のとおり、当該周壁の上端に存在する面と解され、また、「略」の字義は、「およそ」(広辞苑第六版)である。
そうすると、本件訂正発明1には、「枠体」の形状が、当該周壁の上端に存在する面と同形状か、それと、およそ同形状であることが特定されていることになり、それ自体の意味は、日本語として問題なく理解できるものである。

b もっとも、「枠体」の形状が当該周壁の上端に存在する面と「略」(およそ)同形状といっても、何をもって、そう判断するのかが問題となる。
(a)そこで、本件訂正明細書等の記載をみると、「枠体」を設ける技術的意義は、従来技術では、光学部材として、加工が困難な石英ガラスを用いており(【0004】)、基板との接合に際しては、光学部材の所定の場所をマスキングしてメタライズ処理を施していたが、マスキングが容易ではないという課題がある(【0006】)ことから、光学部材として、軟化点が1000℃以下のガラスを用いて、その光学部材の成形と同時に、金属の枠体を当該光学部材に一体的に封止接合させることにより、光学部材に対するメタライズ処理のためのマスキング等を不要にでき、その枠体を基板のメタライズ部と接合すれば、基板と光学部材とを簡易に接合できる(【0019】)ことにあると認められる。
このように、「枠体」は、従来技術における、光学部材に対するメタライズ処理の代替手段として位置づけられていることが理解できる。

(b)上記a及び(a)のとおり、「枠体」が「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」との記載における「略同形状」との文言自体の意味は、問題なく理解できるものであり、さらに、「枠体」が、従来技術における、光学部材に対するメタライズ処理の代替手段として位置づけられるという技術的意味も理解できることに照らせば、当業者ならば、当該周壁の上端に存在する面と「略同形状」とされた枠体の形状を理解することができるというべきである。

c よって、本件訂正発明1における、「枠体」が「前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」との記載は、特許請求の範囲の記載のみならず、本件訂正明細書等の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
独立項に係る本件訂正発明6についても同様である。

(ウ)特許異議申立人は、本件特許の登録時の請求項1における「枠体」が「該接合部と略同形状」であることについて、「枠体」の形状を体積的なものと捉える一方で、「該接合部」を面的なものと捉えた上で、本件訂正明細書等の図1〜図4においては、両者が同形状でないことが明らかであることから、両者の形状がどの程度異なっていてもよいか明確でない旨も主張するが、上記(ア)で説示したとおり、「枠体」の形状は面的な意味で特定されていると解されるから、その前提が失当である。

(2)甲1に記載された発明に基づく拡大先願要件違反並びに甲2に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如
項を改めて判断する。

第6 第3次取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由のうち拡大先願要件違反に対する当審の判断
1 引用文献等の記載事項
(1)甲1(特願2016−171231号、特開2018−37582号公報参照)に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「上面に開口する凹部を有するパッケージ基板と、
前記凹部に収容される光半導体素子と、
前記凹部の開口を覆うように配置される窓部材と、
前記パッケージ基板と前記窓部材の間を封止する封止構造と、を備え、
前記窓部材は、前記光半導体素子に対向する内面を有するガラス板と、前記ガラス板の前記内面上に設けられる枠体とを有し、
前記封止構造は、前記パッケージ基板の前記上面に枠状に設けられる第1金属層と、前記枠体の下面および内周面に設けられる第2金属層と、前記第1金属層と前記第2金属層の間に設けられる金属接合部とを有し、前記金属接合部の少なくとも一部が前記内周面上に設けられることを特徴とする光半導体装置。」(【請求項1】)、
「前記枠体の外形寸法は前記パッケージ基板の外形寸法より小さく、前記枠体の内形寸法は前記パッケージ基板の前記凹部の内形寸法より大きいことを特徴とする請求項1に記載の光半導体装置。」(【請求項2】)、
「前記光半導体素子は、深紫外光を発する発光素子であり、前記窓部材は、前記深紫外光の透過率が80%以上となるよう構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光半導体装置。」(【請求項4】)、
「前記ガラス板は、厚さが300μm以下のホウ酸塩ガラスで構成され、
前記枠体は、コバール合金で構成され、
前記金属接合部は、金錫(AuSn)を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光半導体装置。」(【請求項5】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「基板と蓋体をろう材を介して接合する際、接合性を向上させるために基板と蓋体の間でろう材に荷重をかけながら封止することが望ましい。このとき、基板と蓋体の間から押し出されたろう材の一部が発光素子の実装面に向けて流れ出してしまうと、配線間をショートさせてしまい、製造歩留まりを低下させてしまう懸念がある。」(【0005】)、
「本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、光半導体装置の信頼性および製造歩留まりを向上させる技術を提供することにある。」(【0006】)

(ウ)「【課題を解決するための手段】」、
「上記課題を解決するために、本発明のある態様の光半導体装置は、上面に開口する凹部を有するパッケージ基板と、凹部に収容される光半導体素子と、凹部の開口を覆うように配置される窓部材と、パッケージ基板と窓部材の間を封止する封止構造と、を備える。窓部材は、光半導体素子に対向する内面を有するガラス板と、ガラス板の内面上に設けられる枠体とを有する。封止構造は、パッケージ基板の上面に枠状に設けられる第1金属層と、枠体の下面および内周面に設けられる第2金属層と、第1金属層と第2金属層の間に設けられる金属接合部とを有し、金属接合部の少なくとも一部が内周面上に設けられる。」(【0007】)、
「この態様によると、枠体の内周面に金属層が設けられているため、パッケージ基板の上面と枠体の間で荷重をかけながら金属接合部を形成する際、下面と枠体の間から押し出される接合材が枠体の内周面に沿って上方向に延伸するようになる。その結果、押し出された接合材が基板の凹部に向けて流れ出すことを防ぎ、枠体の近傍に接合材を留めることができる。これにより、接合時の製造歩留まりを向上させるとともに、荷重を加えた接合プロセスによって信頼性の高い封止構造を実現できる。」(【0008】)

(エ)「【発明を実施するための形態】」、
「図1は、実施の形態に係る発光装置10を概略的に示す断面図であり、図2は、図1の発光装置10を概略的に示す上面図である。発光装置10は、発光素子20と、パッケージ基板30と、窓部材40と、封止構造50とを備える。発光装置10は、光半導体素子である発光素子20を有する光半導体装置である。」(【0020】)、


「枠体46は、いわゆるシールリングであり、矩形枠状に形成され、四隅がR面取りされている。枠体46は、ガラス板42と同じ外形寸法を有し、パッケージ基板30の凹部34よりも大きい内形寸法を有する。枠体46は、ガラス板42の内面44上に設けられ、ガラス板42の外周に沿って取り付けられる。枠体46は、ガラス板42と熱膨張係数が近似した材料であることが好ましく、例えば、鉄−ニッケル−コバルト合金であるコバール合金で構成されることが望ましい。」(【0029】)、
「パッケージ基板30は、上面31と下面32を有する矩形状の部材である。パッケージ基板30は、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)などを含むセラミック基板であり、いわゆる高温焼成セラミック多層基板(HTCC、High Temperature Co-fired Ceramic)である。」(【0030】)、
「図2は、パッケージ基板30および窓部材40の寸法を概略的に示す。図示されるように、窓部材40(枠体46)の外形寸法w20は、パッケージ基板30の外形寸法w10より小さい。第1金属層51の外形寸法w11は、枠体46の外形寸法w20より小さく、第1金属層51の内形寸法w12は、枠体46の内形寸法w22より小さい。」(【0037】)、
「ある実施例において、パッケージ基板30の外形寸法w10は3.5mmであり、第1金属層51の外形寸法w11は3.2mmであり、第1金属層51の内形寸法w12は2.3mmであり、第1金属層51の幅w13は0.45mmである。また、窓部材40の外形寸法w20は3.4mmであり、枠体46の内形寸法w22は2.8mmであり、枠体46の幅w23は0.3mmである。また、ガラス板42の厚さt1は170μmであり、枠体46の厚さt2は150μmである。この実施例において、第1金属層51と枠体46の内形寸法差は0.5mmであり、第1金属層51の内形(凹部34の外周)と枠体46の内周面46bの間の幅w3は250μmである。したがって、第1金属層51の領域上で枠体46が重畳していない範囲の幅w3は、枠体46の厚さt2より大きい。」(【0038】)、
「一方、本実施の形態によれば、第1金属層51の上に枠体46の内周面46bが位置するため、第1金属層51と枠体46の下面46aとの間からはみ出した金属接合材をガラス板42に向けて鉛直上方向に延伸させることができる。これにより、金属接合材が水平方向にのみ延伸して張出部154を形成したり、凹部34の内部に流れ落ちたりすることを防ぐことができる。したがって、本実施の形態によれば、製造不良による歩留低下を防ぎつつ、封止に十分な量の金属接合材を用いて荷重をかけながら信頼性の高い封止接合を実現することができる。」(【0046】)

イ 上記アによれば、甲1に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、引用発明の認定に用いた記載箇所等を、参考までに括弧内に示している。以下同じ。)。
「上面に開口する凹部を有するパッケージ基板と、
前記凹部に収容される光半導体素子と、
前記凹部の開口を覆うように配置される窓部材と、
前記パッケージ基板と前記窓部材の間を封止する封止構造と、を備え、
前記窓部材は、前記光半導体素子に対向する内面を有するガラス板と、前記ガラス板の前記内面上に設けられる枠体とを有し、
前記封止構造は、前記パッケージ基板の前記上面に枠状に設けられる第1金属層と、前記枠体の下面および内周面に設けられる第2金属層と、前記第1金属層と前記第2金属層の間に設けられる金属接合部とを有し、前記金属接合部の少なくとも一部が前記内周面上に設けられる光半導体装置であって、(【請求項1】)
前記枠体の外形寸法は前記パッケージ基板の外形寸法より小さく、前記枠体の内形寸法は前記パッケージ基板の前記凹部の内形寸法より大きくてもよく、(【請求項2】)
前記光半導体素子は、深紫外光を発する発光素子であり、前記窓部材は、前記深紫外光の透過率が80%以上となるよう構成されており、(【請求項4】)
前記ガラス板は、厚さが300μm以下のホウ酸塩ガラスで構成され、前記枠体は、コバール合金で構成されており、(【請求項5】)
枠体46は、ガラス板42と熱膨張係数が近似した材料であることが好ましく、例えば、鉄−ニッケル−コバルト合金であるコバール合金で構成されることが望ましく、(【0029】)
パッケージ基板30は、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)などを含むセラミック基板である、(【0030】)
光半導体装置。」

(2)甲2(特開2016−219505号公報)に記載された事項
甲2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「紫外線発光素子を備えた発光装置において、実装基板に実装された紫外線発光素子から放射される紫外線を透過する、ガラスにより形成されたキャップ本体の一部にレンズを構成すること。」(【0001】・【0016】・【0059】)

(3)甲3(英興株式会社,“ホウケイ酸ガラスの熱特性”,[online],2020年7月15日印刷 ,インターネット<URL:http://www.duran-glass.com/feature/heat.html>)に記載された事項
甲3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「ホウ珪酸ガラスの軟化点が、1000℃未満の値であること。」(3/4頁)

(4)甲4(特開2002−76494号公報)に記載された事項
甲4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「金属とガラスとを一体的に接合するにあたり、金属の表面に形成された酸化膜によってガラスと金属を一体的に封止接合すること。」(【0020】・【0025】・【0029】)

(5)甲5(特開昭61−42936号公報)に記載された事項
甲5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「金属とガラスとを一体的に接合するにあたり、金属の表面に形成された酸化膜によってガラスと金属を一体的に封止接合すること。」(1頁右下欄14行〜2頁左上欄3行)

(6)甲6(特開2017−73489号公報)に記載された事項
甲6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「DUV−LEDの基板容器を封止するための、金属からなる枠体と、DUV光透過性のホウ珪酸ガラスからなるウインドを備えるメタル−ガラスリッドにおいて、金属からなる枠体が、ウインドの基板容器と対向する面から露出しつつも、ガラスに埋没するように構成すること。」(【0016】・【0017】・図1・図2)

(7)甲7(特開2004−235652号公報)に記載された事項
甲7には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「所定の配列パターンで実装された複数の発光素子の配列パターンに対応するように複数のレンズを配列する構成とすること。」(図1・図2)

(8)甲8(SCHOTT社,“GLASS TUBING EXPLORER(SCHOTT 8337B)”,[online],2020年7月15日印刷 ,インターネット<URL:https://www.schott.com/tubing/english/product_selector/#!/region--all/la
ng--japanese/product--8337B>)に記載された事項
甲8には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「深紫外線を透過するホウ珪酸ガラスの分光透過率は、深紫外線よりも長い波長に対して、深紫外線の透過率と同等以上の、一様に高い値を示すこと。」(2/4頁)

(9)甲9(理科年表 平成27年(机上版))に記載された事項
甲9には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「クロムの線膨張率は、4.9×10−6K−1(20℃)であり、白金の線膨張率は、8.8×10−6K−1(20℃)であること。」

(10)甲10(特表2007−528591号公報)に記載された事項
甲10には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「カバー基板とパッケージ基板を接合してシール(seal)(好ましくは密封(hermetically seal))するために、シーリング媒体106が、それらの基板の間に配置されるが、シーリング媒体は、好ましくは、安定で、信頼性が高く、コスト効率が良い材料であり、そして、パッケージ基板およびカバー基板のような他の構成部材と相性が良い熱的性質(例えば熱膨張係数(CET)、熱伝導率など)を有していること。」(【0029】)

(11)甲11(池田 豊,“ガラスと金属の接着機構(I)”,材料,日本材料学会, 昭和43年9月,第17巻,第180号,p.783−792)に記載された事項
甲11には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「コバール合金は、ガラスと金属の気密封止に理想されたものとして開発された合金であること、熱膨張曲線がホウケイ酸ガラスときわめてよく近似していること、コバールとガラスの封止の良否に最も大きな効果を示すものは酸化物と膜厚であること、及び、コバールとホウケイ酸ガラスの接着性はきわめて良好であるが、酸化物のコントロールが接着の機構に重要な働きを持っていること。」(786頁左欄下から10行〜同頁同欄末行・788頁右欄3行〜同頁同欄20行・789頁右欄下から11行〜末行・790頁右欄6行〜同頁同欄25行・図22・図23)

(12)甲12(Albert W. Hull, and E. E. Burger, “Glass-to-Metal Seals”,Journal of Applied Physics, (米), the American Institute of Physics, 1934年12月,Volume 5, Issue 12, p. 384−405)に記載された事項
甲12には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「金属とガラスとを一体的に接合するにあたり、金属の表面に形成された酸化膜によってガラスと金属とを一体的に封止接合すること。」(384頁右欄「3.WETTING」の行〜同頁同欄下から11行・401頁右欄「Fernico」との見出しが付された段落)

(13)周知文献1(特開2013−91593号公報)に記載された事項
周知文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「深紫外線を透過するホウ珪酸ガラスの分光透過率は、深紫外線よりも長い波長に対して、深紫外線の透過率と同等以上の、一様に高い値を示すこと。」(図3)

2 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明との対比
(ア)本件訂正発明1の「紫外線を発光する光素子」との特定事項について
甲1発明の「光半導体素子」である「深紫外光を発する発光素子」は、本件訂正発明1の「紫外線を発光する光素子」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(イ)本件訂正発明1の「前記光素子が実装されるセラミック製の基板」との特定事項について
甲1発明における「アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)などを含むセラミック基板」である「パッケージ基板30」が、本件訂正発明1の「セラミック製の基板」に相当する。
甲1発明の「パッケージ基板」は、「光半導体素子」(本件訂正発明1の「光素子」に相当。)を、それが「有する」「凹部に収容」するものであるから、本件訂正発明1でいう「前記光素子が実装される」ものである。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(ウ)本件訂正発明1の「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、」との特定事項について
甲1発明の「窓部材」のうちの「ガラス板」が、本件訂正発明1における「光学部材」に相当する。
甲1発明の「窓部材」のうちの「ガラス板」は、「前記パッケージ基板と前記窓部材の間を封止する封止構造」が存在することに照らせば、本件訂正発明1でいう「前記基板に接合される」ものといえる。
よって、甲1発明の「窓部材」は、「前記基板に接合される」とともに「前記基板に実装された前記光素子」を備えるものの、その光素子「と対向する部分にレンズを有し」ていない。

(エ)本件訂正発明1の「を備えた紫外線光素子」との特定事項について
甲1発明の「光半導体装置」は、「深紫外光を発する発光素子」を備えているから、本件訂正発明1の「紫外線光素子」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(オ)本件訂正発明1の「前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、」との特定事項について
甲1発明の「窓部材」のうちの「ガラス板」は、「前記深紫外光の透過率が80%以上となる」とともに、「厚さが300μm以下のホウ酸塩ガラスで構成されて」いるものの、上記特定事項を備えるのかは不明である。

(カ)本件訂正発明1の「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、」との特定事項について
甲1発明の「窓部材」のうちの「前記ガラス板の前記内面上に設けられる枠体」が、本件訂正発明1の「枠体」に相当する。
甲1発明の上記「枠体」は、「コバール合金で構成されて」おり、「ガラス板42と熱膨張係数が近似した材料であることが好ましく、例えば、鉄−ニッケル−コバルト合金であるコバール合金で構成されることが望まし」いものであるから、本件訂正発明1でいう「前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された」ものといえる。
甲1発明の上記「枠体」は、「前記ガラス板の前記内面上に設けられる」ところ、「前記パッケージ基板と前記窓部材の間を封止する封止構造」が存在することに照らせば、本件訂正発明1でいう「前記光学部材のうち前記基板との接合部に」設けられるものであって、「前記ガラスと一体的に封止接合されて」いるものといえる。
甲1発明の「パッケージ基板」は、「上面に開口する凹部を有する」ものであって、「前記凹部の開口を覆うように配置される窓部材」を備えていることから、本件訂正発明1でいう「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」を備えているといえる。
よって、甲1発明は、本件訂正発明1でいう「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、」「前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、」「前記ガラスと一体的に封止接合されて」いるとともに、「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」を備えるものであるが、「枠体」が、当該「周壁の上端部と略同形状」とはいえるか不明であり、「その表面に形成された酸化膜によって」前記ガラスと一体的に封止接合されているといえるか不明である。

(キ)本件訂正発明1の「前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」との特定事項について
甲1発明の「前記パッケージ基板の前記上面に枠状に設けられる第1金属層」は、本件訂正発明1の「前記基板のうち前記周壁の上端部に」「形成され」た「メタライズ処理が施されたメタライズ部」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(ク)本件訂正発明1の「前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されること」との特定事項について
甲1発明は、「前記封止構造」は、「前記パッケージ基板の前記上面に枠状に設けられる第1金属層」(本件訂正発明1の「メタライズ部」に相当。)と、「前記枠体の下面および内周面に設けられる第2金属層と、前記第1金属層と前記第2金属層の間に設けられる金属接合部とを有し」ているところ、当該「金属接合部」は、本件訂正発明1の「無機材料」に相当し、本件訂正発明1でいう「前記枠体と前記メタライズ部と」を「接合」するものであるといえる。
したがって、甲1発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「紫外線を発光する光素子と、
前記光素子が実装されるセラミック製の基板と、
前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子であって、
前記光学部材は、ガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記光学部材との接合部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合される紫外線光素子。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
「光学部材」が、本件訂正発明1は、「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有」するのに対し、甲1発明は、そうであるのか不明である点。

[相違点2]
「光学部材」を「形成」する「ガラス」が、本件訂正発明1は、「軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上である」のに対し、甲1発明は、「厚さが300μm以下のホウ酸塩ガラス」であって、「前記深紫外光の透過率が80%以上となるよう構成されて」いるものである点。

[相違点3]
「枠体」の形状が、本件訂正発明1は、「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」であるのに対し、甲1発明は、「前記金属接合部の少なくとも一部が」「枠体の」「前記内周面上に設けられる」ものであるとともに、「前記枠体の外形寸法は前記パッケージ基板の外形寸法より小さく、前記枠体の内形寸法は前記パッケージ基板の前記凹部の内形寸法より大きくてもよ」い点。

[相違点4]
「枠体」と「前記ガラスとの一体的な封止接合」が、本件訂正発明1は、「枠体」「の表面に形成された酸化膜によって」なされているのに対し、甲1発明は、そうであるのか不明である点。

ウ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点3より判断する。
甲1発明は、基板と蓋体をろう材を介して接合する際、接合性を向上させるために基板と蓋体の間でろう材に荷重をかけながら封止することが望ましいところ、基板と蓋体の間から押し出されたろう材の一部が発光素子の実装面に向けて流れ出してしまうと、配線間をショートさせてしまい、製造歩留まりを低下させてしまう懸念があるという課題(【0006】)を解決するためのものであるところ、その課題解決原理は、枠体の内周面に第2金属層が設けられているため、パッケージ基板の上面と枠体の間で荷重をかけながら金属接合部を形成する際、枠体の下面とパッケージ基板の上面に設けられる第1金属層の間から押し出される接合材が枠体の内周面に沿って上方向に延伸するようになり、その結果、押し出された接合材が基板の凹部に向けて流れ出すことを防ぎ、枠体の近傍に接合材を留めることができる(【0007】・【0008】・【0046】)というものであると解される。
このように、甲1発明は、パッケージ基板の上面にある金属接合部を構成する接合材が、パッケージ基板の凹部に向けて流れ出すことを防ぐためのものであることから、当該接合材を枠体の内周面に沿って上方向に移動されるようにすることを企図しているとしても、それを実現するためには、当該パッケージ基板の上面が、枠体の内周面よりも内側においてもなお存在していることが前提とならざるを得ないと解される。そうであるならば、甲1発明において、「前記枠体の内形寸法は前記パッケージ基板の前記凹部の内形寸法より大き」いとの構成が、甲1の請求項1には記載されておらず、従属項である請求項2に記載されているものであって、そのため、形式的には付加的ないし任意的なものとみる余地があるとしても、当業者が、甲1の記載に基づいて、その構成を採用しない構成、つまり、枠体の内径寸法を前記凹部の内径寸法により近づけるような構成を読み取ることができるとは言い難く、この理解を覆すに足りる記載を甲1からは見いだせない。
また、甲1発明の「枠体」は、上記の課題解決原理に係るものであるから、本件訂正発明1のような光学部材に対するメタライズ処理の代替手段として位置づけられるものでもない。
よって、甲1発明の「枠体」の形状は、相違点3に係る構成である「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状」であるとは言い難い。
なお、甲2〜甲12及び周知文献1の記載のいずれにも、相違点3に係る構成は記載されていない。

(イ)特許異議申立人は、本件訂正発明1においては、周壁の上端部と枠体の形状が異なっていてもよく、甲1発明における「枠体46」と「パッケージ基板30」の「上面31」とは、それぞれが同様の矩形環状を呈することから略同形状であるといえる旨主張するが、上記(ア)で説示したとおりである。

(ウ)したがって、相違点3は実質的な相違点である。

エ 本件訂正発明1の小括
以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

(2)本件訂正発明3〜5について
本件訂正発明3〜5は、いずれも本件訂正発明1をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正発明3〜5は、上記(1)で説示したことと同様の理由により、甲1に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

(3)本件訂正発明6について
ア 本件訂正発明6と甲1発明との対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明6は、「紫外線光素子用パッケージ」に係る発明であり、本件訂正発明1で特定された「紫外線を発光する光素子」の存在、「光学部材」が「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズ」を備えること、及び、「有底凹部」が「前記基板にお」けるものであることが、特定されていないものである。
よって、本件訂正発明6と甲1発明との間には、少なくとも、上記(1)イで認定した相違点3が存在するところ、これは、上記(1)ウで判断したとおり、実質的な相違点である。

イ 本件訂正発明6の小括
したがって、本件訂正発明6は、甲1発明と実質的に同一であるとはいえない。

3 第3次取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由のうち拡大先願要件違反に対する当審の判断についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3〜6は、甲1発明と実質的に同一であるとはいえないから、当該各発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものとはいえない。
よって、本件訂正発明1、3〜6に係る特許は、当該理由によっては、取り消すことができない。

第7 第3次取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由(新規性欠如・進歩性欠如)に対する当審の判断
1 引用文献等の記載事項
(1)甲2(特開2016−219505号公報)に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「実装基板と、前記実装基板に実装された紫外線発光素子と、前記実装基板上に配置され前記紫外線発光素子を収納する凹部が形成されたキャップと、を備え、
前記キャップは、表面及び裏面を有し前記裏面に前記凹部が形成されたキャップ本体を備え、
前記キャップ本体は、前記紫外線発光素子から放射される紫外線を透過するガラスにより形成され、
前記凹部の内底面を覆う樹脂部を更に備え、
前記樹脂部を形成している樹脂材料は、前記紫外線発光素子から放射される紫外線に対して耐紫外線性を有し、かつ前記紫外線発光素子から放射される紫外線を透過する材料である、
ことを特徴とする発光装置。」(【請求項1】)、
「前記実装基板は、支持体と、前記支持体に支持された第1接合用金属層と、を備え、
前記キャップは、前記キャップ本体の前記裏面における前記凹部の周部で前記第1接合用金属層に対向して配置された第2接合用金属層を備え、
前記第1接合用金属層と前記第2接合用金属層とが、接合部により接合されている、
ことを特徴とする請求項1記載の発光装置。」(【請求項2】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「紫外線発光素子を備えた発光装置の分野では、光取り出し効率の向上が望まれている。」(【0009】)、
「本発明の目的は、光取り出し効率の向上を図ることが可能な発光装置を提供することにある。」(【0010】)

(ウ)「【発明を実施するための形態】」、
「(実施形態1)
以下では、本実施形態の発光装置1aについて、図1〜4、5A及び5Bに基づいて説明する。なお、図1は、図2のX−X断面に対応する模式的な概略断面図である。」(【0015】)、


「発光装置1aは、実装基板2aと、実装基板2aに実装された紫外線発光素子3と、実装基板2a上に配置され紫外線発光素子3を収納する凹部663が形成されたキャップ6aと、を備える。キャップ6aは、表面661及び裏面662を有し裏面662に凹部663が形成されたキャップ本体660を備える。キャップ本体660は、紫外線発光素子3から放射される紫外線を透過するガラスにより形成されている。発光装置1aは、凹部663の内底面664を覆う樹脂部80を更に備える。樹脂部80を形成している樹脂材料は、紫外線発光素子3から放射される紫外線に対して耐紫外線性を有し、かつ紫外線発光素子3から放射される紫外線を透過する材料である。以上説明した構成の発光装置1aでは、光取り出し効率の向上を図ることが可能となる。より詳細には、発光装置1aは、樹脂部80を備えているので、紫外線発光素子3から凹部663の内底面664へ向かって放射される紫外線がキャップ本体660を透過しやすくなる。これにより、発光装置1aでは、紫外線発光素子3から放射された紫外線をキャップ6aの表面661から効率良く出射させることが可能となる。」(【0016】)、
「実装基板2aは、支持体20aと、支持体20aに支持された第1接合用金属層23と、を備えるのが好ましい。キャップ6aは、キャップ本体660の裏面662における凹部663の周部で第1接合用金属層23に対向して配置された第2接合用金属層43を備えるのが好ましい。発光装置1aでは、第1接合用金属層23と第2接合用金属層43とが、AuSnにより形成された接合部63により接合されているのが好ましい。これにより、発光装置1aでは、製造時に、キャップ6aと実装基板2aとの接合温度を低減することが可能となり、樹脂部80の熱ダメージを低減することが可能となる。接合部63は、キャップ本体660の裏面662における外周縁の全周に沿って形成されているのが好ましい。これにより、発光装置1aでは、紫外線発光素子3を気密封止することが可能となる。よって、発光装置1aでは、外気、水分等が紫外線発光素子3に到達するのを抑制することが可能となり、信頼性の向上を図ることが可能となる。」(【0017】)、
発光装置1aは、実装基板2aとキャップ6aと第3接合部63とで、紫外線発光素子3を収納するパッケージ7aを構成している。(【0022】)、
「実装基板2aは、支持体20aが平板状に形成されており、支持体20aの厚さ方向に直交する表面201上に第1導体部21、第2導体部22及び第1接合用金属層23が形成されている。」(【0028】)、
「第1導体部21、第2導体部22及び第1接合用金属層23の各々は、例えば、Ti膜とPt膜とAu膜との積層膜により構成することができる。第1導体部21、第2導体部22及び第1接合用金属層23の各々は、例えば、Al膜とNi膜とPd膜とAu膜との積層膜、Ni膜とAu膜との積層膜、Cu膜とNi膜とAu膜との積層膜等により構成してもよい。第1導体部21、第2導体部22及び第1接合用金属層23の各々は、積層膜により構成する場合、支持体20aから最も離れた最上層がAuにより形成され、支持体20aに最も近い最下層が支持体20aとの密着性の高い材料により形成されているのが好ましい。第1導体部21、第2導体部22及び第1接合用金属層23は、積層膜に限らず、単層膜により構成してもよい。」(【0031】)、
「支持体20aは、AlNセラミックにより形成されているのが好ましい。これにより、発光装置1aは、支持体20aが樹脂基板により構成されている場合に比べて、紫外線発光素子3で発生した熱を支持体20aから効率良く放熱させることが可能となる。よって、発光装置1aは、放熱性を向上させることが可能となる。AlNセラミックは、電気絶縁性を有するが、熱伝導率が比較的高く、Siよりも熱伝導率が高い。」(【0036】)、
「キャップ6aを形成するガラスは、紫外線発光素子3が放射する紫外線に対する透過率が70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。紫外線発光素子3がUV−Cの波長域に発光ピーク波長を有する場合には、キャップ6aを形成するガラスとして、例えば、硼珪酸ガラスを採用することができる。キャップ6aでは、硼珪酸ガラスとして、例えば、SCHOTT社製の8347やSCHOTT社製の8337B、等を採用することにより、波長265nmの紫外線に対する透過率を80%以上とすることができる。」(【0057】)、
「キャップ6aは、キャップ本体660の表面661と凹部663の内底面664との間の紫外線透過部666が平板状に形成されているが、平板状に限らず、例えば、レンズが一体に形成された形状でもよい。要するに、発光装置1aは、キャップ6aの一部がレンズを構成してもよい。発光装置1aでは、紫外線発光素子3から放射された紫外線がキャップ6aにおける紫外線透過部666以外の部分を透過してもよい。」(【0059】)、
「樹脂部80は、凹部663の内底面664と内側面665とに跨って形成されている。要するに、樹脂部80は、凹部663の内底面664と内側面665とを覆うように形成されている。ここで、樹脂部80は、実装基板2a側が開放された形状となっている。この場合、樹脂部80は、キャップ本体660の内底面664から離れるにつれて開口面積が漸次増加しているのが好ましい。要するに、樹脂部80は、実装基板2aの厚さ方向に沿った方向において実装基板2aに近づくにつれて開口面積が徐々に大きくなっている。樹脂部80は、凹部663の内側面665に直交する方向の厚さで見れば、凹部663の内底面から離れるにつれて厚さが薄くなっている。これにより、発光装置1aは、紫外線発光素子3から側方へ放射された紫外線を効率良く取り出すことが可能となる。樹脂部80は、キャップ6aの凹部663の内底面664上において厚さが略一定となるように形成されていてもよい。」(【0061】)、
「第2接合用金属層43は、例えば、下地膜431とAu膜432との積層膜により構成されているのが好ましい。下地膜431は、例えば、キャップ本体660の裏面662上に形成されたCr膜とCr膜上に形成されたPt膜との積層膜により構成することができる。発光装置1aでは、第2接合用金属層43における下地膜431がCr膜を備えることにより、ガラスにより形成されたキャップ本体660と第2接合用金属層43との密着性を向上させることが可能となる。第2接合用金属層43は、例えば、蒸着法、スパッタ法、めっき法等の膜形成技術と、フォトリソグラフィ技術と、エッチング技術と、を利用して形成することができる。発光装置1aでは、樹脂部80を備えているので、製造時において、凹部663をドリル加工によって形成した後にフッ酸溶液(hydrofluoric acid)等による内底面664の円滑化処理を行う必要がない。これにより、発光装置1aでは、製造時において、円滑化処理によって第2接合用金属層43が侵食されることがないので、凹部663の形成前に第2接合用金属層43を形成することが可能となる。」(【0066】)

イ 上記アによれば、甲2には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。
「実装基板と、前記実装基板に実装された紫外線発光素子と、前記実装基板上に配置され前記紫外線発光素子を収納する凹部が形成されたキャップと、を備え、
前記キャップは、表面及び裏面を有し前記裏面に前記凹部が形成されたキャップ本体を備え、
前記キャップ本体は、前記紫外線発光素子から放射される紫外線を透過するガラスにより形成され、
前記凹部の内底面を覆う樹脂部を更に備え、
前記樹脂部を形成している樹脂材料は、前記紫外線発光素子から放射される紫外線に対して耐紫外線性を有し、かつ前記紫外線発光素子から放射される紫外線を透過する材料である、
発光装置であって、(【請求項1】)
前記実装基板は、支持体と、前記支持体に支持された第1接合用金属層と、を備え、
前記キャップは、前記キャップ本体の前記裏面における前記凹部の周部で前記第1接合用金属層に対向して配置された第2接合用金属層を備え、
前記第1接合用金属層と前記第2接合用金属層とが、接合部により接合されており、(【請求項2】)
キャップ6aでは、硼珪酸ガラスとして、例えば、SCHOTT社製の8347やSCHOTT社製の8337B、等を採用することにより、波長265nmの紫外線に対する透過率を80%以上とすることができ、(【0057】)
キャップ6aの一部がレンズを構成してもよい、(【0059】)
支持体20aは、AlNセラミックにより形成されているのが好ましく、(【0036】)
接合部63がAuSnにより形成されている、(【0017】)
発光装置。」

(2)甲3〜甲12及び周知文献1の記載事項
甲3〜甲12及び周知文献1には、それぞれ、上記第6の1(3)〜(13)において認定したとおりの技術的事項が記載されている。

2 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲2発明との対比
(ア)本件訂正発明1の「紫外線を発光する光素子」との特定事項について
甲2発明における「紫外線発光素子」は、本件訂正発明1の「紫外線を発光する光素子」に相当する。
したがって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(イ)本件訂正発明1の「前記光素子が実装されるセラミック製の基板」との特定事項について
甲2発明における「実装基板」であって、「AlNセラミックにより形成されている」「支持体20a」を備える「実装基板」は、本件訂正発明1の「前記光素子が実装されるセラミック製の基板」に相当する。
したがって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(ウ)本件訂正発明1の「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、」との特定事項について
甲2発明の「前記実装基板上に配置され前記紫外線発光素子を収納する凹部が形成されたキャップ」が備える「キャップ本体」は、「前記紫外線発光素子から放射される紫外線を透過するガラスにより形成され」ているから、本件訂正発明1の「光学部材」に相当する。
甲2発明の「キャップ本体」を備える「キャップ」が、「実装基板」に接合されているのは明らかであるから、本件訂正発明1でいう「前記基板に接合される」ものである。
甲2発明の「キャップ本体」は、「キャップ6aの一部がレンズを構成してもよ」いことに照らせば、本件訂正発明1でいう「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し」ていることが明らかである。
したがって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(エ)本件訂正発明1の「を備えた紫外線光素子」との特定事項について
甲2発明の「発光装置」は、「紫外線発光素子」を備えているから、本件訂正発明1の「紫外線光素子」に相当する。
したがって、甲2発明は、本件訂正発明1の上記特定事項を備える。

(オ)本件訂正発明1の「前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、」との特定事項について
甲2発明の「キャップ本体」は、「キャップ6aでは、硼珪酸ガラスとして、SCHOTT社製の8337B、等を採用することにより、波長265nmの紫外線に対する透過率を80%以上とすることができ」るものであって、本件訂正発明1でいう「ガラスで形成されて」いるものであるが、その「ガラス」が「前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上である」ものであるのかは不明である。

(カ)本件訂正発明1の「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、」「前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、」「前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されること」との特定事項について
甲2発明は、「実装基板」と「キャップ」との接合が、「実装基板」に備えられた「第1接合用金属層」と「キャップ」に備えられた「第2接合用金属層」と両者の間にある「AuSnにより形成されている」「接合部」によりなされているといえるから、甲2発明の「第1接合用金属層」及び「接合部」は、それぞれ、本件訂正発明1の「メタライズ部」及び「無機材料」に相当する。
他方、甲2発明の「第2接合用金属層」は、本件訂正発明1の「枠体」に相当するかは不明である。
甲2発明の「実装基板」は、本件訂正発明1でいう「前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部」を備えない。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
「紫外線を発光する光素子と、
前記光素子が実装されるセラミック製の基板と、
前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子であって、
前記光学部材は、ガラスで形成されており、
前記基板には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されている、
紫外線光素子。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点5]
「光学部材」を「形成」する「ガラスが」、本件訂正発明1は、「軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上である」のに対し、甲2発明は、波長265nmの紫外線に対する透過率を80%以上とすることができるものであり、また、硼珪酸ガラスとして、例えば、SCHOTT社製の8347やSCHOTT社製の8337B、等である点。

[相違点6]
本件訂正発明1は、「前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されて」いるのに対し、甲2発明は、そもそも、それが備える「第2接合用金属層」が本件訂正発明1でいう「枠体」といえるか不明である点。

[相違点7]
「メタライズ処理が施されたメタライズ部」が、本件訂正発明1は、「前記基板のうち前記周壁の上端部に」形成されているのに対し、甲2発明は、「実装基板」が備える「支持体に支持された」ものである点。

[相違点8]
「無機材料」が、本件訂正発明1は、「前記枠体と前記メタライズ部と」を「接合」するものであるのに対し、甲2発明は、「第2接合用金属層」と「第1接合用金属層」とを「接合」するものである点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点6より判断する。
(ア)まず、本件訂正発明1の「枠体」の意味について検討する。
「枠体」は、その文言に照らせば、枠状の物体を意味すると解されるところ、このような「枠体」の字義に加え、本件訂正発明1は、「枠体」について、「前記ガラスと一体的に封止接合され」るものであるとともに、「前記周壁の上端部」に「形成され」た「メタライズ部」に「無機材料により接合される」ものと特定しており、両側にある他の部材のいずれにも「接合される」と特定しているのであって、両側にある他の部材のうち一方の部材に「形成される」などとは特定していないことから、「枠体」には、その両側への配置が予定される「前記ガラス」にも「メタライズ部」にも接合していないという意味で別個のものとして観念できる状態が存在する(端的にいえば「部品」である。)と解するのが自然である。そして、本件訂正明細書等には、以上の理解に反する記載は存在せず、むしろ、図3、図7及び図9の「枠体5」のように、上記の理解に整合するもののみが記載されている。

(イ)他方、甲2発明の「第2接合用金属層」につき、甲2には、「第2接合用金属層43は、例えば、蒸着法、スパッタ法、めっき法等の膜形成技術と、フォトリソグラフィ技術と、エッチング技術と、を利用して形成することができる。」(【0066】)と記載されているものの、「前記ガラス」にも「メタライズ部」にも接合していない意味で別個のものとして観念できる状態が存在するものとはいえない。
よって、甲2発明の「第2接合用金属層」は、本件訂正発明1の「枠体」であるとはいえず、相違点6は実質的である。
この点、特許異議申立人は、甲2発明の「第2接合用金属層」が本件訂正発明1の「枠体」に相当する旨主張するが、上記の説示に照らして採用できない。

(ウ)そうすると、甲2発明において、相違点6に係る構成に至るには、少なくとも、「第2接合用金属層」を「枠体」とすることが必要である。しかしながら、甲2の記載をみても、そのように構成することは記載も示唆もされていないから、甲2発明から出発した当業者は、相違点6に係る構成に至らない。
また、甲3〜甲12及び周知文献1をみても、上記の判断を左右しない。
よって、甲2発明、甲2〜甲12及び周知文献1に記載された技術的事項に基づいて、相違点6に係る本件訂正発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

エ 本件訂正発明1の小括
以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明、甲2〜甲12及び周知文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件訂正発明3〜5について
本件訂正発明3〜5は、いずれも本件訂正発明1をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正発明3〜5は、上記(1)で説示したことと同様の理由により、甲2発明、甲2〜甲12及び周知文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件訂正発明6について
ア 本件訂正発明6と甲2発明との対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明6は、「紫外線光素子用パッケージ」に係る発明であり、本件訂正発明1で特定された「紫外線を発光する光素子」の存在、「光学部材」が「前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズ」を備えること、及び、「有底凹部」が「前記基板にお」けるものであることが、特定されていないものである。
よって、本件訂正発明6と甲2発明との間には、少なくとも、上記(1)イで認定した相違点6が存在するところ、これは、上記(1)ウで判断したとおり、実質的なものであるとともに、当業者が容易に想到し得たものでもない。

イ 本件訂正発明6の小括
したがって、本件訂正発明6は、甲2発明ではなく、また、甲2発明、甲2〜甲12及び周知文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 第3次取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由(新規性欠如・進歩性欠如)に対する当審の判断についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1及び6は、甲2発明ではなく、また、本件訂正発明1、3〜6は、甲2発明、甲2〜甲12及び周知文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、当該各発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえない。
よって、本件訂正発明1、3〜6に係る特許は、当該理由によっては、取り消すことができない。

第8 むすび
以上によれば、本件訂正発明1、3〜6に係る特許は、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。そして、他に本件訂正発明1、3〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正発明2及び7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項2及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、本件訂正発明2及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】 紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、紫外線殺菌に用いられる深紫外線LED等の紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線殺菌に際しては、従来から広く水銀灯が使用されてきたが、「水銀に関する水俣条約」の発効により、2020年以降、水銀製品の製造や輸出入が制限される。そのため、現在使用されている水銀灯の寿命が尽きた後の代替光源として、紫外線LED(LightEmitting Diode)、特に波長280nm以下の深紫外線LEDが注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、波長200nm〜360nmの紫外光を出力する発光モジュールが開示されている。この発光モジュールは、中央に発光素子が実装される有底凹部を有するセラミック製のパッケージ基板と、有底凹部の開口を覆うように取り付けられた窓部材を備えている。窓部材のうち発光素子と対向する部分にレンズ部が形成され、またレンズ部の周囲には、パッケージ基板に接合するためのフランジ部が、レンズ部と共に一体的に形成されている。紫外線LEDも発光面は平面であるため、所望する方向に光を配光させるためには、レンズが必要である。
【0004】
上記特許文献1では、窓部材は、石英ガラスのペレット等を材料とする溶融石英を金型に流し込むことで形成される(段落0034参照)。しかしながら、石英ガラスの軟化点が約1700℃と非常に高温であり、1900℃に加熱しても非常に固く、加工するのが困難である。また、石英ガラスは、気体の蒸気圧が大きいために固体から直接気体に移行するので融液状態にはならないこともあり、溶融石英から所望するレンズ形状を得ることは非常に困難である。そのため、一般的に、インゴット状で供給される石英ガラスを所定形状に切削、研削し、さらに表面を鏡面研磨する、伝統的なガラスレンズの製造方法が用いられており、非常に高価なレンズとなってしまう。
【0005】
また、波長300nm以下の深紫外線を高透過率で透過させる物質として、従来は石英ガラスが用いられていたが、近年、特許文献2に開示されているように、波長300nm以下の深紫外線を高透過率で透過させるガラスも開発されている。この種のガラスの軟化点は、1000℃以下であり、上記のような伝統的なガラスレンズの製造方法以外の製造方法によって所望するレンズ形状が得られる可能性がある。
【0006】
また、特許文献1の発光モジュールでは、窓部材のうち、レンズ部やフランジ部のうち、光が通過する部分以外にマスキングが施され、マスキングされていない部分に対して、真空蒸着やスパッタリング等の方法によりチタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)を順に積層した多層膜で形成されたメタライズ処理が施されている。しかしながら、微細且つ立体形状のレンズ部やフランジ部をマスキングしてメタライズすることは容易でなく、マスキングが不十分となってメタライズ処理が適切に施されなければ、パッケージ基板と窓部材との接合及び封止が不完全となる虞がある。紫外線、特に波長の短い深紫外線は、樹脂材料等を著しく劣化させるので、深紫外線を取り扱う、発光素子及び受光素子を含む光モジュールのパッケージからの深紫外線の漏れを防止する必要があり、パッケージの接合及び封止は、製品の信頼性に大きく影響する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−59716号公報
【特許文献2】特開2013−91593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、石英ガラスよりも軟化点が低く、波長250〜400nm以下の光の平均透過率が高いガラスを用い、簡単な方法により所望する形状のレンズを有する光学部材を得ることができ、且つ、簡易な工程でセラミック製のパッケージ基板と光学部材とを接合させることができる紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る紫外線光素子は、
紫外線を発光する光素子と、
前記光素子が実装されるセラミック製の基板と、
前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子であって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする。
【0010】(削除)
【0011】
上記紫外線光素子において、前記枠体と前記メタライズ部とは、金属プリフォームにより接合されることが好ましい。
【0012】
上記紫外線光素子において、前記枠体は、前記メタライズ部と接合される面が前記光学部材の前記基板と対向する面から露出するように、前記光学部材に埋没されていてもよい。
【0013】
上記紫外線光素子において、前記基板には、複数の前記光素子が所定の配列パターンで実装され、前記光学部材は、前記光素子の配列パターンに対応するように配列された複数のレンズを有するものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る紫外線光素子用パッケージは、
紫外線を発光する光素子が実装されるセラミック製のパッケージ基板と、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子用パッケージであって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする。
【0015】
(削除)
【0016】
また、本発明に係る光学部材の製造方法は、
紫外線を発光する光素子が実装されるセラミック製の基板に接合される光学部材の製造方法であって、
軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスを所定サイズのガラスペレットに切断する工程と、
前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属を、前記基板のうち前記光学部材との接合部と略同形状の枠体に形成する工程と、
前記枠体の表面に酸化膜を形成し、該酸化膜によって前記枠体と前記ガラスと封止接合する工程と、
窒素ガス環境下において、所定形状に形成された治具に前記枠体及び前記ガラスペレットを載置し、前記軟化点よりも高い第1の温度に加熱して前記ガラスペレットを溶融させ、前記治具の形状を転写させた所定形状の光学部材を成形する工程と、
前記枠体のうち前記ガラスと接合していない面の酸化膜を除去する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
上記光学部材の製造方法において、
前記ガラスの軟化点よりも高く前記第1の温度よりも低い第2の温度に加熱し、前記光学部材の表面を熱研磨する工程を更に備えることが好ましい。
【0018】
上記光学部材の製造方法において、
前記治具は、カーボンパウダーを固めて成形したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融又は軟化したガラスペレットに治具の形状を転写させて光学部材を加圧成形しているので、石英ガラスのインゴットを切削、研削する伝統的なガラスレンズの製造方法に比べて、製造工程を簡易化することができる。また、光学部材の成形と同時に、金属の枠体を光学部材に一体的に封止接合させるので、メタライズ処理のためのマスキングや蒸着工程が不要になる。更に、光学部材と一体化された枠体と、メタライズ処理されたパッケージ基板のメタライズ部とを、金属プリフォームで接合することで、パッケージ基板と光学部材とを簡易に接合させることができる。結果的に、低コストで、信頼性の高い紫外線光素子及び紫外線光素子用パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る紫外線光素子の構成を示す分解斜視図。
【図2】上記紫外線光素子に用いられる光学部材を構成するガラスの透過率分布を示すグラフ。
【図3】(a)〜(f)は上記紫外線光素子の製造方法を示す工程図であり、特に枠体と一体化された光学部材の製造工程を示す図。
【図4】(a)は上記紫外線光素子の製造方法を示す工程図であり、(b)は特に第2段階としてのパッケージ基板と枠体と一体化された光学部材の接合工程を示す図。
【図5】上記紫外線光素子の変形例を示す図。
【図6】本発明の一実施形態における光学素子の変形例として、複数の球面又は非球面レンズを所定のパターンに配列したレンズアレイを示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面図。
【図7】(a)〜(f)は上記紫外線光素子の製造方法の変形例を示す工程図であり、特に第1段階としての枠体と一体化された光学部材の製造工程を示す図。
【図8】上記紫外線光素子の製造方法の変形例を示す工程図であり、特に第2段階としてのパッケージ基板と枠体と一体化された光学部材の接合工程を示す図。
【図9】(a)〜(f)は上記紫外線光素子の製造方法の別の変形例を示す工程図であり、特に第1段階としての枠体と一体化された光学部材の製造工程を示す図。
【図10】上記紫外線光素子の製造方法の別の変形例を示す工程図であり、特に第2段階としてのパッケージ基板と枠体と一体化された光学部材の接合工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紫外線光素子の構成を示す。なお、紫外線光素子から発光素子を除いたものが紫外線光素子用パッケージである。
【0022】
紫外線光素子1は、深紫外線を出力する光素子2と、セラミック製のパッケージ基板3と、パッケージ基板3に接合される光学部材4を備えている。ここで、光素子2は、一例として、波長300nm以下、より好ましくは波長280nm以下、さらに好ましくは波長265nmの深紫外線を発光する深紫外線発光素子である。また、光素子2は、例えば、サファイア基板上に単一のLED構造が形成された単一のチップであってもよいし(図例)、サファイア基板上に複数のLED構造が形成された集積型のチップであってもよい。
【0023】
パッケージ基板3は、例えば、平面視で略正方形であり、光素子2が実装される有底凹部31と、有底凹部31の周囲を隙間無く取り囲む周壁32を有している。光学部材4は、図例の構成では、単一の球面又は単一の非球面レンズであって、有底凹部31の開口に対向する部分にレンズ41が形成され、パッケージ基板3の有底凹部31に実装された光素子2の発光面が、ちょうど光学部材4のレンズの焦点となるように、レンズ41及びパッケージ基板3の有底凹部31の深さや周壁32の高さ等が設計されている。
【0024】
光学部材4は、平面視で略正方形であり、その外形寸法はパッケージ基板3の外形寸法と略同じであり、パッケージ基板3の周壁32の上端部33に接合される。パッケージ基板3の周壁32の上端部33は、例えば、金メッキや金蒸着等によってメタライズ処理が施されている。すなわち、本実施例では、上端部33が光学部材4との接合部であり、これがメタライズ部とされている。一方、光学部材4のパッケージ基板3に対向する側の面のうち、周壁32の上端部との接合部には、周壁32の上端部33と略同形状であって、ガラスの熱膨張係数と略同じ熱膨張係数を有する金属で形成された枠体5が一体的に封止接合されている。すなわち、枠体5も、平面視で略正方形であり、その外形寸法はパッケージ基板3の外形寸法と略同じである。
【0025】
ここで、光学部材4は、一例として、軟化点が1000℃以下で、図2に示すように、波長250〜400nmの光に対して、厚み2.0mmの資料における平均透過率が80%以上であるガラスで形成されている。このガラスの成分としては、SiO2及びB2O3を主体とし、更に、Al2O3、Li2O、Na2O、K2O、CaO、BaO、ZnO、Y2O3、ZrO2、La2O3、Sb2O、を含有する(詳細な組成は上記特許文献2参照)。
【0026】
また、ガラス及び枠体5の熱膨張係数は、例えば、常温で4.5×10−6K−1程度であり、枠体5の材料としては、例えば厚さ0.1〜0.2mm程度のコバール(Kovar)を使用することができる。コバールは、鉄とニッケル及びコバルト等の合金であり、硬質ガラスの接着に使用される一般的な材料である。コバールの融点は1450℃程度であり、ガラスの融点よりも高い。パッケージ基板3と光学部材4とは、金属の枠体5と、パッケージ基板3の周壁32の上端部33のメタライズ処理層とを、金属プリフォーム6で溶接することで接合される。金属プリフォーム6は、金・スズといった貴金属を含む薄い金属(合金)を接合部分の形状に成形したものである。
【0027】
次に、紫外線光素子1の製造方法について、図3及び図4を参照しつつ説明する。図3は、紫外線光素子1の製造方法における第1段階として、紫外線光素子1に用いられる光学部材4の製造方法であり、枠体5と一体的に接合された光学部材4の製造工程を示す。また、図4は、紫外線光素子1の製造方法における第2段階として、パッケージ基板3と光学部材4との接合工程を示す。
【0028】
この紫外線光素子1の製造方法において、光学部材4は、ガラスを加熱し、溶融又は軟化させた後、所定の型(治具)で圧縮成形している(いわゆるコンプレッション成形)。図3(a)に示すように、固定された治具20の上面には、枠体5と略同形状の窪み21が形成されており、図3(b)に示すように、枠体5はこの窪み21に嵌装される。ここで、枠体5には酸化処理が施されており、その表面には酸化膜が形成されている。治具20は、例えば、カーボンパウダーを図示のような所定形状に圧縮成形したものである。なお、便宜上、枠体5は平面視で環状に描かれているが、正方形又は長方形丸型であってもよい。また、枠体5の厚みは実際のものよりも誇張して描かれている。
【0029】
次に、図3(b)に示すように、例えば、棒状で供給されるガラスを所定サイズ(所定体積又は所定重量)のガラスペレット10に切断し、図3(c)に示すように、枠体5の中心とガラスペレット10の中心が一致するように、治具20上に載置する。次に、図3(d)に示すように、枠体5及びガラスペレット10が載置された治具20と、成形すべきレンズ形状と同形状の曲面を有する窪み26が形成された可動式の治具25とを、第1加熱炉40内に収納し、窒素ガス環境下においてガラスの軟化点よりも高い第1の温度(例えば1000℃)に加熱する。図3(d)では、ガラスペレット10が溶融又は軟化した状態を描いている。治具20も、例えば、カーボンパウダーを図示のような所定形状に圧縮成形したものであり、治具20の窪み21の中心と治具25の窪み26の中心が一致するように、治具20及び治具25が配置されている。
【0030】
ガラスペレット10が、コンプレッション成形可能な程度に溶融又は軟化されると、図3(e)に示すように、可動式の治具25を治具20に向かって徐々に下降させ、窪み26の表面によってガラスペレット10を加圧変形させる。それによって、溶融したガラスペレット10の表面に窪み26の曲面が転写される。また、ガラスペレット10が溶融した時、枠体5の表面に形成された酸化膜により、枠体5とガラスとの濡れ性が良くなり、ガラス・金属界面の密着性が向上し、それらが封止(ハーメチック)接合される。このようにして治具25を所定時間所定圧力で治具20に押しつけて光学部材4を圧縮成形した後、第1加熱炉40内の温度を低下させ、治具20、治具25、成形された光学部材4及び枠体5を冷却する。
【0031】
また、前述のように、枠体5の材料と光学部材4の熱膨張係数が略同じであるので、冷却の際、光学部材4と枠体5とは略同じ割合で収縮するため、光学部材4と枠体5とが分離することはなく、冷却後であっても光学部材4と枠体5は一体的に封止接合されている。そして、常温に冷却した後、第1加熱炉40から治具20、治具25及び光学部材4及び枠体5を取り出し、治具25を治具20から分離する。それによって、図3(f)に示すように、封止接合された光学部材4及び枠体5が得られる。
【0032】
また、枠体5及び光学部材4は、別途の加熱炉(不図示)に収納し、酸素を含む空気環境下においてガラスの軟化点よりも高く、第1の温度(例えば、1000℃)よりも低い第2の温度(例えば、800℃)に再加熱されることが好ましい。この加熱処理により、カーボンパウダーの転写によるシボ加工状の光学部材4の表面が、再溶融又は再軟化されると、表面張力によって溶融又は軟化したガラスが凸部から凹部に異動し、光学部材4の表面の凹凸が徐々に均され、平滑化される。すなわち、簡易な熱処理により、レンズの表面を熱研磨することで、レンズの表面を鏡面仕上げとすることができる。
【0033】
光学部材4は、各面稜線が加圧成形時にR状の曲面となるように形成されており、図1で示したように、熱研磨により上記曲面のRが更に大きくなる。なお、上記曲面を鋭角にする必要がある場合には、光学部材の表面を機械加工で切削すればよい。上記処理を経て、光学部材4及び枠体5を接合させた後、枠体5のうちガラスと接合していない面の酸化膜が、洗浄、除去される。枠体5と接合された光学部材4は、それ自体が独立して製造及び商取引され得るものであり、以下に説明するパッケージ基板3との接合工程は、光学部材4の製造者と異なる製造者によって実施されてもよい。
【0034】
次に、図4(a)に示すように、別途、セラミックを用いて、有底凹部31と、有底凹部31の周囲を隙間無く取り囲む周壁32を有するパッケージ基板3を製造する工程と、パッケージ基板3の周壁32の上端部33に金メッキや金蒸着によりメタライズ処理を施す工程と、パッケージ基板3の有底凹部31に深紫外線LED等の光素子2を実装する工程とを経て、光素子2が実装されたパッケージ基板3を用意しておく。この段階では、枠体5のうちガラスと接合していない面の酸化膜は除去されている。また、パッケージ基板3の周壁32の上端部33は、メタライズ処理として金メッキや金蒸着(不図示)が施されている。そして、用意されたパッケージ基板3と、上記のようにして形成された枠体5と一体的に接合された光学部材4との間に、金・錫又は金・ゲルマニウムといった貴金属を含む合金等で形成された金属プリフォーム6を配置し、パッケージ基板3側の上端部33及び枠体5の下面51とが略密着するように、位置合わせを行う。そして、図4(b)に示すように、パッケージ基板3、金属プリフォーム6、及び光学部材4を、第2の加熱炉50内で、少なくとも金属プリフォーム6の溶融温度(200〜400℃)以上の温度まで加熱し、それらを溶接する。そして、金属プリフォーム6の溶融温度以下の温度まで冷却することで、金属プリフォーム6が硬化して、光学部材4と一体化された枠体5と、及びパッケージ基板3の周壁32の上端部33とが無機材料(フィレット)により接合される。
【0035】
このようにして得られた紫外線光素子1又はその紫外線光素子用パッケージでは、パッケージ基板3と光学部材4が、共に平面視で略同じ大きさ及び形状であり、また、枠体5とパッケージ基板3の周壁32の上端部33も、共に平面視で略同じ大きさ及び形状である。
【0036】
枠体5は、光学部材4のパッケージ基板3に対向する側の下面43のうち、周壁32の上端部33に接合される部分に一体的に封止接合されている。そのため、枠体5の下面51とパッケージ基板3の周壁32のメタライズ化された上端部33とが、金属プリフォーム6により密着接合されると、パッケージ基板3の有底凹部31と光学部材4のパッケージ基板3に対向する側の下面43とで形成される空間は密閉され、紫外線光素子1又はその紫外線光素子用パッケージの外部とは遮断される。光素子2が発光素子の場合、発光素子から出力される深紫外線はパッケージ基板3と光学部材4の接合部の隙間から漏れることはなく、紫外線光素子1の周囲に存在する樹脂製品等に悪影響を与えることはほとんどなくなる。
【0037】
ところで、図3に示す枠体5と一体的に接合された光学部材4の製造工程において、治具20及び治具25は、それぞれカーボンパウダーを圧縮して形成されたものを用いている。そのため、図3(f)において成形された光学部材4の表面には、微小なカーボンパウダーの形状が転写されてシボ加工状になっており、いわゆるつや消し処理がなされたような状態になっている。また、光学部材4の表面に、剥離したカーボンパウダーが付着している場合もあり得る。そこで、図3(f)に示す工程の後、成形された光学部材4の表面を洗浄し付着したカーボンパウダーを除去する洗浄工程を設けてもよい。具体的には、塩酸、フッ化水素水、脱イオン水等を用いて光学部材4の表面を洗浄する。
【0038】
なお、光素子2から出射された深紫外線を拡散して照射したい場合、光学部材4の表面に凹凸が残っていた方がよい場合もある。その場合は、図4(b)で示したパッケージ基板3と光学部材4の接合工程における加熱温度をやや低く設定するか、加熱時間をやや短く設定することによって、光学部材4の表面の再溶融又は再軟化の程度を小さくしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、有底凹部31、周壁32及び上端部33を有するパッケージ基板3を用い、有底凹部31に光素子2が実装される構成例を示したが、枠体5に所定の厚みがあれば、図5に示すように、有底凹部31等が無い平坦な基板3Fが用いられてもよい。この場合、光学部材4が枠体5の厚みで基板3Fに対して下駄を履かせた状態で保持され、光学部材4(下面43)と基板3Fとの間に形成された隙間に、光素子2が収容される。また、上記実施形態では、光学部材4として平凸単レンズを例示したが、これに限定されるものではなく、両凸単レンズ、凸メニスカス単レンズ、あるいは、用途によっては凹単レンズ等であってもよい。それらの場合、治具20の表面にもレンズ形状に応じた窪み又は突起が形成されている。また、パッケージ基板3及び光学部材4は、平面視で略正方形の他に、略円形であってもよい。
【0040】
あるいは、光学部材4として、球面又は非球面の単レンズの他に、図6に示すように、光学部材4は、光学部材4は所定のパターンに配列された複数の球面レンズ又は複数の非球面レンズ41で構成されていてもよい(いわゆるレンズアレイ)。この場合も、パッケージ基板3及び光学部材4は、平面視で略正方形の他に、略円形であったり、長方形であってもよい。特に、光学部材4がレンズアレイの場合、従来の石英ガラスの研削及び研磨処理では製造不可能であり、本発明による効果は顕著である。さらに、光学部材4が単一の球面又は非球面レンズの場合であっても、レンズの厚みを薄くするためにフレネルレンズとしてもよい(図示せず)。フレネルレンズの場合も、従来の石英ガラスの研削及び研磨処理では製造不可能であり、本発明による効果は顕著である。
【0041】
図7及び図8は、上記紫外線光素子及びそれに用いる光学部材の製造方法の変形例を示す。図3では、枠体5と略同形状の窪み21を有する治具20を用いているが、この変形例では、図7(a)及び(b)に示すように、上面22に凸部23を有する治具20を用い、図3等で示したものよりも厚みの薄い枠体5を、凸部23の外周部であって、治具20の上面22に直接的に載置している。そして、図7(c)(d)に示すように、溶融又は軟化したガラスペレット10は、凸部23の形状が転写されて、図7(e)(f)に示すように、成形された光学部材4の下面43は、凹部44が形成される。この場合、図8に示すように、枠体5の厚みが薄くても、光学部材4の凹部44があるので、図5で示した構成と同様に、有底凹部31等が無い平坦な基板3Fを用い、光学部材4の凹部44と基板3Fとの間に形成された空間に、光素子2を収容することができる。なお、図7の工程で作成された枠体5付きの光学部材4と、基板3Fとを接合する工程は、上記図4と同様であり、図8では、金属プリフォーム6の記載を省略している。
【0042】
図9及び図10は、上記紫外線光素子及びそれに用いる光学部材の製造方法の別の変形例を示す。図3では、枠体5と略同形状の窪み21を有する治具20を用いているが、この変形例では、図9(a)及び(b)に示すように、上面22がフラットな治具20を用い、枠体5を直接治具20の上面22に載置している。そして、図9(c)(d)に示すように、溶融又は軟化したガラスペレット10は枠体5の内側の空洞部に流れ込み、図9(e)(f)に示すように、成形された光学部材4の下面43は枠体5の下面と面一(つらいち)となる。また、図10に示すように、枠体5は、パッケージ基板3の周壁32の上端部33に接合される下面51が光学部材4のパッケージ基板3に対向する側の下面43から露出されるように、光学部材4に埋没されている。ここで、枠体5の環状を成す部分の内周面52に適度な大きさの凹凸部を形成しておけば、溶融又は軟化したガラスがその凹凸部に流れ込み、アンカー効果を発揮するので、光学部材4と枠体5が強固に固定される。なお、図9の工程で作成された枠体5付きの光学部材4と、パッケージ基板3とを接合する工程は、上記図4と同様であり、図10では、金属プリフォーム6の記載を省略している。
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、軟化点が1000℃以下で、波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスを用い、溶融又は軟化したガラスペレット10に治具25を押しつけて光学部材4を加圧成形しているので、製造工程数が少なく、且つ、工程自体が簡単である。また、光学部材4の成形と同時に、枠体5が光学部材4に一体的に接合されているため、メタライズ処理のためのマスキングや蒸着工程が不要になる。さらに、光学部材4と一体化された枠体5と、メタライズ処理されたパッケージ基板3の周壁32の上端部33とは、互いの接合面が金属となるので、金属プリフォーム6を用いることで、容易に無機材料(フィレット)で接合でき、製造工程をさらに簡単にすることができる。結果的に、低コストで、信頼性の高い紫外線光素子1や紫外線光素子用パッケージを提供することができる。また、ガラスの材料は、上記で例示したものに限定されず、さらに波長の短い深紫外線(例えば265nm)等に対する透過率が80%よりも低くても、実用上十分な透過率(例えば70%以上)を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 紫外線光素子
2 光素子
3 パッケージ基板(基板)
3F 基板
4 光学部材
5 枠体
10 ガラスペレット
25 治具
33 上端部(接合部、メタライズ部)
41、42 レンズ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を発光する光素子と、
前記光素子が実装されるセラミック製の基板と、
前記基板に実装された前記光素子と対向する部分にレンズを有し、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子であって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記基板において前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする紫外線光素子。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記枠体と前記メタライズ部とは、金属プリフォームにより接合されることを特徴とする請求項1に記載の紫外線光素子。
【請求項4】
前記枠体は、前記メタライズ部と接合される面が前記光学部材の前記基板と対向する面から露出するように、前記光学部材に埋没されていることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の紫外線光素子。
【請求項5】
前記基板には、複数の前記光素子が所定の配列パターンで実装され、
前記光学部材は、前記光素子の配列パターンに対応するように配列された複数のレンズを有することを特徴とする請求項1、請求項3、請求項4のいずれか一項に記載の紫外線光素子。
【請求項6】
紫外線を発光する光素子が実装されるセラミック製の基板と、前記基板に接合される光学部材と、を備えた紫外線光素子用パッケージであって、
前記光学部材は、軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスで形成されており、
前記光学部材のうち前記基板との接合部には、前記光素子が実装される有底凹部の周囲を隙間無く取り囲む周壁の上端部と略同形状であって、前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属で形成された枠体が、その表面に形成された酸化膜によって前記ガラスと一体的に封止接合されており、
前記基板のうち前記周壁の上端部には、メタライズ処理が施されたメタライズ部が形成されており、
前記枠体と前記メタライズ部とが無機材料により接合されることを特徴とする紫外線光素子用パッケージ。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
紫外線を発光する光素子が実装されるセラミック製の基板に接合される光学部材の製造方法であって、
軟化点が1000℃以下であり、且つ波長250〜400nmの光に対する平均透過率が80%以上であるガラスを所定サイズのガラスペレットに切断する工程と、
前記ガラスの熱膨張係数と略等しい熱膨張係数を有する金属を、前記基板のうち前記光学部材との接合部と略同形状の枠体に形成する工程と、
前記枠体の表面に酸化膜を形成し、該酸化膜によって前記枠体と前記ガラスと封止接合する工程と、
窒素ガス環境下において、所定形状に形成された治具に前記枠体及び前記ガラスペレットを載置し、前記軟化点よりも高い第1の温度に加熱して前記ガラスペレットを溶融させ 、前記治具の形状を転写させた所定形状の光学部材を成形する工程と、
前記枠体のうち前記ガラスと接合していない面の酸化膜を除去する工程と、を備えたことを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項9】
前記ガラスの軟化点よりも高く前記第1の温度よりも低い第2の温度に加熱し、前記光学部材の表面を熱研磨する工程を更に備えることを特徴とする請求項8に記載の光学部材 の製造方法。
【請求項10】
前記治具は、カーボンパウダーを固めて成形したものであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の光学部材の製造方法。
 
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2017-161907
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (H01L)
P 1 652・ 122- YAA (H01L)
P 1 652・ 16- YAA (H01L)
P 1 652・ 113- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加々美 一恵
特許庁審判官 吉野 三寛
山村 浩
登録日 2020-01-10 
登録番号 6644745
権利者 エーディーワイ株式会社
発明の名称 紫外線光素子、紫外線光素子用パッケージ及び紫外線光素子に用いられる光学部材並びにその光学部材の製造方法  
代理人 板谷 康夫  
代理人 板谷 真之  
代理人 板谷 康夫  
代理人 板谷 真之  

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