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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1388330
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-22 
確定日 2022-06-17 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6687444号発明「液体スープパックの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6687444号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6687444号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6687444号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成28年3月30日の出願であって、令和2年4月6日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月22日にその特許公報が発行され、令和2年10月22日に、その請求項1、2に係る発明の特許に対し、森田 弘潤(以下「申立人1」という。)及び山本 美映子(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 2月19日付け 取消理由通知
同年 4月26日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 6月25日付け 訂正拒絶理由通知
同年 7月29日 意見書・手続補正書の提出(特許権者)
同年 8月30日付け 特許法第120条の5第5項の規定に
基づく通知書
同年10月 4日 意見書の提出(申立人1)
令和 4年 1月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 4月 4日 意見書の提出(特許権者)
なお、令和3年8月30日付けの特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知書に対し、申立人2による意見書の提出はなかった。

第2 手続補正について

1 補正の内容
令和3年7月29日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、令和3年4月26日提出の訂正請求書を補正するものであって、「明細書の段落【0029】の【表3】の記載を以下に訂正する(訂正部分は下線部)。(当審注:訂正後の【表3】の摘示は省略。)」ことを内容とする訂正事項3の削除とそれに整合させるための補正のみからなるものである。

2 補正の適否
本件補正は、訂正事項3を削除するためものであって、審理対象の拡張変更を伴わないため、令和3年4月26日提出の訂正請求書の要旨を変更するものでなく、認められる。

第3 訂正の適否について

1 訂正の内容
前記第2のとおり、本件補正は認められるから、令和3年4月26日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、「特許第6687444号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜2について訂正することを求める。」ものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜2からなるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、訂正前の「含水性部分の重量の40重量%以内」を、訂正後「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」(当審注:下線は訂正部分を示す。以下同様。)に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、訂正前の「含水性部分の重量の40重量%以内」を、訂正後「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」に訂正する。

2 訂正の適否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「含水性部分と油脂部分を含み・・液体スープパックの充填」において、予め油脂部分の一部を含水性部分と混合する際の、混合油脂割合(重量%)につき、訂正前「含水性部分の重量の40重量%以内」と上限値しか特定されていなかったところ、訂正後「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」と、下限値を特定することにより、混合油脂割合(重量%)を限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項1の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」とする事項については、願書に添付した明細書の【表1】〜【表2】(【0029】)の試験区1−3、2−3、3−3、5−3、6−3、7−3、8−3、9−3に、含水性部分に対し、予め混合する油脂部分の「混合油脂割合(重量%)」として、「9.1重量%」(当審注:下線は当審が付与。以下同様。)が記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであるとともに、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2の「含水性部分と油脂部分を含み・・液体スープパックの充填」において、予め油脂部分の一部を含水性部分と混合する際の、混合油脂割合(重量%)につき、訂正前「含水性部分の重量の40重量%以内」と上限値しか特定されていなかったところ、訂正後「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」と、下限値を特定することにより、混合油脂割合(重量%)を限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項2の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」とする事項については、願書に添付した明細書の【表1】〜【表2】(【0029】)の試験区1−3、2−3、3−3、5−3、6−3、7−3、8−3、9−3に、含水性部分に対し、予め混合する油脂部分の「混合油脂割合(重量%)」として、「9.1重量%」が記載されている。
そうすると、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであるとともに、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2についての訂正を認める。

第4 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの製造方法。
【請求項2】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの充填方法。」

第5 令和4年1月31日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由の概要
本件発明1、2に対して、令和4年1月31日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由3(実施可能要件)本件発明1、2は、発明の詳細な説明が、以下に示すとおり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、液体スープパックの喫食時の官能試験方法について、官能試験を行った人数やどのような人が行ったのか明らかでなく、評価基準も不明であり、また、段落【0029】に記載の【表1】及び【表2】の評価結果と【表3】の評価結果とが整合していないことから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。

理由4(サポート要件)本件発明1、2は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

理由3で述べたように、発明の詳細な説明の記載では、液体スープパックの喫食時の官能試験の評価をどのように行えばよいのか不明であり、官能試験の評価結果も整合していないから、本件発明1、2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

第6 当審の判断
当審は、本件発明1、2に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について、以下に述べるように、理由3及び理由4には理由があると判断する。

1 理由4(サポート要件)について

(1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提について
一般に「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。」とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
また、一般に「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該変数が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)。」とされている〔平成28年(行ケ)第10147号判決参照。〕。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
前記第4に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載

ア 背景技術に関する記載
「【背景技術】
【0002】
液体スープは種々の分野で使用されている。例えば、生麺、冷凍麺又は即席麺には、麺に濃縮された液体スープが添付されており、当該液体スープをお湯や水で薄めてから汁もののつゆやつけ麺のつけ汁に使用される。
液体スープは通常、澱粉等や増粘剤、肉や野菜等のエキス成分、グルタミン酸ナトリウム、IMP、GMP等を水に溶解又は懸濁した含水性部分と、これとは別にラードや植物油脂などの油脂類が同一のパックに入っていることが多い。
【0003】
また、近年より濃厚な液体スープが求められるようになってきており、エキス分や油脂分の含量が多く使用されている液体スープも種々利用されている。
液体スープパックは通常、上述の水溶液部分と油脂部分を原料タンクに保存しておき、これらを殺菌等の加熱処理を施し、充填機により別のノズルでプラスチック製の軟包材の袋に充填する方法が一般的である(図1参照)。
ここで、この従来までの方法で充填したスープは、パック内で含水性部分と油脂部分が分離して存在しており、当該スープを希釈等して喫食する際の液体スープは、“マイルドさ”にかける場合があった。
このような、液体調味料の充填方法として、例えば、以下の特許文献がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開平4−207172 但し、当該特許文献は、多種類の調味原料成分を増粘剤により増粘させたものを多層状に充填するもので、増粘剤の使用を前提としており、含水率の高い一般的な液体スープとは対象が異なることが予想される。」

イ 発明が解決しようとする課題に関する記載
「【0005】
そこで、本発明者らは、このような液体スープを一つのパックに充填する際の手順について見直し、よりマイルドさに優れた液体スープパックを製造する方法を開発することを目的とした。」

ウ 含水性部分に添加しておくことのできる油脂部分の量に関する記載
「【0018】
─含水性部分に添加しておくことのできる油脂部分の量─
・・・・・
含水性部分に添加しておく油脂部分の量は、微量でも効果が生じるが、概ね含水性部分の重量に対して1重量%以上あれば、明確に効果を奏することができる。
【0019】
さらに、好ましくは、概ね含水性部分100重量部に対して、2部〜20部程度の油脂部分の添加・混合が好ましい。・・・」

エ 「マイルドさ」に関する記載
「【0021】
−“マイルドさ”−
本発明にいう“マイルドさ”とは、口あたりをやわらかくする効果であり、含水性部分の持つ塩味などの鋭さをやわらげることであり、油特有のうま味の付与によるスープ全体のうま味の相乗効果である。」

オ 実施例に関する記載
「【実施例】
・・・・・
【0023】
[試験例]
以下に本発明の試験例について説明する。本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。含水性部分と油脂部分の一部を含む液体スープとして、含水性部分としては、キサンタンガム及びグアガムの混合品(キサンタンガム:13%+グアガム:87%、以下、「増粘剤ミックス」とする)を水に溶解させて調製したものを用いた。
また、前記増粘剤ミックスの水に対する溶解量を変えることで、種々の粘度の含水性部分を用いて試験した。
【0024】
具体的には、上記増粘剤ミックスを0.03(試験区1)、0.13(試験区2)、0.23(試験区3)、0.26(試験区4)、0.33(試験区5)、0.36(試験区6)、0.39(試験区7)、0.43(試験区8)、0.46(試験区9)の各重量に対して水を加えて、合計が33gとなるようにし、これを十分に混合して各含水性部分を調製した。
本含水性部分に対する油脂部分として、油脂(ラード)を21g用いた。液体スープパック全体としては、上記の含水性部分33g及び油脂部分21gの合計54gとなるようにした。
【0025】
前記の増粘剤ミックスの量を変えて調製した各試験区の含水性部分に対して、油脂部分の一部についてその量を変えて添加・混合して、油脂部分を予め混合した含水性部分を調製した。
本調製は25℃の温度下で行い、当該温度での水の粘度は、0.51Pa・sであった。
各試験区の含水性部分に対して油脂部分の添加量を変えて、プロペラ撹拌によって混合し、含水性部分に油脂部分の一部を包含させるように処理した。但し、後述するように、一部の試験区においては、油脂部分の添加量が多すぎると分離が起こってしまう現象が見られた。混合後に得られた油脂部分の一部を含む含水性部分については、上記の分離がないかを確認した。
【0026】
さらに、ノズルから排出の際の充填適性についても評価した。すなわち、各試験区のサンプルについて油分離度合と粘度液性度合から工業生産的に行えるかを判断した。ノズルからの押し出しの際に粘度が低く油が分離している場合、充填適性は悪くなる。また、粘度が高すぎるとノズルから押出すことができないため、充填適性は悪くなる。このような評価基準より評価を行った。
評価基準(充填適性)最良:5 ⇔ 不良:1
【0027】
次に、上記試験区の中の油脂部分を一部含む含水性部分について、適宜、ピックアップして粘度を測定した。測定した粘度計は、TOKIMEC社製のデジタル粘度系 DVL−B2を用いてロータ;No.4、ダイヤル;60として行った。
上記各試験区の油脂部分を含む含水性部分について、液体スープパックを調整するために、実際に工場にて使用する材質PET12//VMPET12/LLDPE40、サイズ200mm幅の折りたたみ部分、長さ100mm部分で三方をシールしたプラスチック袋に対して、上述の油脂含有含水性部分と、残りの油脂部分(油脂:ラード21gのうちから予め含水性部分に添加・混合した油脂部分を除いた残りの油脂部分)を別のノズルから充填して開口部をヒートシールして各試験区の液体スープパックを完成させた。
【0028】
得られた各液体スープパックの喫食時の官能検査については以下のように行った。すなわち、陶器製の丼状の容器に各試験区の液体スープパックをすべて押し出して、上部より熱湯を100g注加して溶解後、調理後の各スープを喫食し、各試験区を試食・官能試験を行った。
評価の基準は、喫食時のスープの“マイルドさ”を5段階で評価を行った。評価は以下の基準で行った。
評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1
以上の試験結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

続けて、表2に結果を示す。
【表2】

−結果−
含水性部分に油脂部分を予め少しでも入れると入れない場合に比べて、喫食時のスープに“マイルドさ”が付与されることがわかった。
但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。
次に、上述の各試験区の中から複数の試験区について選択して、その粘度を測定したが、これらの結果を併せたものを以下の表3に示す。
【表3】

上述のように、所定の充填性を満たすには、粘度が0.5〜5.0Pa・s程度が必要であることが判明した。また、試験区4−1〜4−4及び試験区6―1〜〜6―6に示すように含水性部分に添加する油脂の量が40重量%を超えると含水性部分と油脂部分が分離する傾向が見られた。
これらの結果より、本発明においては、油脂部分の一部を添加し、混合後の含水性部分の粘度が0.5〜5.0Pa・sが好ましいことがわかった。
尚、油脂部分の添加前の含水性部分の粘度について0.6程度であると、油脂部分の添加量を増加させるに従い粘度が増加していることがわかった。また、同粘度について、3.0程度であると、油脂部分の添加量を増加させるに従い粘度が低下していることが判明した。」

(4)判断

ア 本件発明1、2の解決しようとする課題について
発明の詳細な説明の背景技術の記載(【0002】〜【0004】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0005】)及び実施例の記載(【0022】〜【0029】)からみて、本件発明1の解決しようとする課題は、含水性部分と油脂部分の分離は発生せず、より「マイルドさ」に優れた液体スープパックの製造方法を提供すること、及び、本件発明2の解決しようとする課題は、含水性部分と油脂部分の分離は発生せず、より「マイルドさ」に優れた液体スープパックの充填方法を提供することであると認める。

イ 液体スープパックの喫食時の官能試験について

(ア)発明の詳細な説明には、液体スープパックの喫食時の官能試験方法について、「【0028】・・陶器製の丼状の容器に各試験区の液体スープパックをすべて押し出して、上部より熱湯を100g注加して溶解後、調理後の各スープを喫食し、各試験区を試食・官能試験を行った。評価の基準は、喫食時のスープの“マイルドさ”を5段階で評価を行った。評価は以下の基準で行った。評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1」と記載されているに留まり、官能試験を行った人数や、どのような人が行ったのかにより官能試験結果は大きく左右され得るにもかかわらず、官能試験を行った人数や、どのような人が行ったのか、明らかでない。
また、評価基準についても「評価の基準は、喫食時のスープの“マイルドさ”を5段階で評価を行った。・・・評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1」と記載されているにすぎず、「最良:5 ⇔ 不良:1」の各点数における具体的な評価基準の説明がなされていないので、評価基準が不明である。

(イ)段落【0029】には、【表1】に試験区1−1〜試験区4−4で調製された液体スープパックの喫食時の官能評価、及び、【表2】に試験区5−1〜試験区9−3で調製された液体スープパックの喫食時の官能評価が示されており、さらに、【表3】にこれらの内から選択された試験区(試験区1−1〜試験区9−2)で調製された液体スープパックの粘度及び喫食時の官能評価が示されている。【表3】において、【表1】又は【表2】に記載の試験区と同じ試験区で調製された液体スープパックは、原料の種類・添加量や調製条件(温度、混合方法等)が同じであり、同じ液体スープパックが調製されるから、喫食時の官能評価の結果も同じと理解されるところ、多数の試験区(試験区3−2、試験区3−3、試験区3−4、試験区3−5、試験区4−2、試験区4−3、試験区4−4、試験区6−5及び試験区6−6)の官能評価結果に関し、以下に示すように、【表1】又は【表2】の評価結果と、【表3】の評価結果とが異なっており、整合していない。

混合油脂割合 油水の
(重量%) 分離状態
試験区3−2: 3.0 : 無し :表1の官能評価結果 3、 表3の官能評価結果 2
試験区3−3: 9.1 : 無し :表1の官能評価結果 3、 表3の官能評価結果 5
試験区3−4:21.2 : 無し :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 5
試験区3−5:27.3 : 無し :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 5
試験区4−2:27.3 : 無し :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 5
試験区4−3:45.5 : 分離 :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区4−4:63.6 : 分離 :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区6−5:45.5 : 分離 :表2の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区6−6:63.6 : 分離 :表2の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2

(ウ)さらに、【表1】の試験区1−3及び試験区2−3には以下のような官能評価結果の記載があり、前記(イ)で示した、【表1】及び【表3】の試験区4−3及び試験区4−4、並びに、【表2】及び【表3】の試験区6−5及び試験区6−6の官能評価結果と並べて記載すると、以下のとおりである。

混合油脂割合 油水の
(重量%) 分離状態
試験区1−3: 9.1 : 無し :表1の官能評価結果 2 (表3の官能評価記載なし)
試験区2−3: 9.1 : 無し :表1の官能評価結果 2 (表3の官能評価記載なし)
試験区4−3:45.5 : 分離 :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区4−4:63.6 : 分離 :表1の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区6−5:45.5 : 分離 :表2の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2
試験区6−6:63.6 : 分離 :表2の官能評価結果 4、 表3の官能評価結果 2

ここで、官能評価結果「2」の意味について検討する。
段落【0029】の【表2】の下には、「−結果−
含水性部分に油脂部分を予め少しでも入れると入れない場合に比べて、喫食時のスープに“マイルドさ”が付与されることがわかった。
但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。」との記載がある。
このうち、「含水性部分に油脂部分を予め少しでも入れると入れない場合に比べて、喫食時のスープに“マイルドさ”が付与されることがわかった。」(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)との記載と、「【0018】・・含水性部分に添加しておく油脂部分の量は、微量でも効果が生じるが、概ね含水性部分の重量に対して1重量%以上あれば、明確に効果を奏することができる。」との記載を踏まえると、【表1】の試験区1−3(混合油脂割合9.1重量%)及び試験区2−3(混合油脂割合9.1重量%)の官能評価「2」は、「マイルドさが付与される」という意味であると、一応認識される。
しかしながら、【表3】の試験区4−3(混合油脂割合45.5重量%)、試験区4−4(混合油脂割合63.6重量%)、試験区6−5(混合油脂割合45.5重量%)及び試験区6−6(混合油脂割合63.6重量%)の官能評価も「2」であり(上記のとおり、【表1】及び【表2】の記載と、【表3】の記載に齟齬がある。)、上記「−結果−・・・但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。」との記載を踏まえると、【表3】の試験区4−3(混合油脂割合45.5重量%)、試験区4−4(混合油脂割合63.6重量%)、試験区6−5(混合油脂割合45.5重量%)及び試験区6−6(混合油脂割合63.6重量%)の官能評価「2」は、「マイルドさを得ることができない」という意味であると、認識される。
このような状況下では、官能評価「2」がどのような評価内容を意味するものであるのか、当業者は見当がつかない。
また、官能評価の各段階がどのような評価内容を意味するものであるかの記載や示唆がなくとも、当業者が本件発明1、2が前記課題を解決できると認識できる、出願時の技術常識があったものとも認められない。

(エ)加えて、令和4年4月4日提出の意見書15頁6行から17頁2行において、「本願の段落【0029】の【表1】及び【表2】から【表3】への記入の際に誤記が生じておりました。正しくは、【表1】及び【表2】の記載で、これが正しいことになります。・・・訂正後の特許請求の範囲につきましては、訂正後の請求項1及び請求項2とも、“予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する”としており、含水性部分に混合する油脂部分の量の範囲を限定しております。先に述べました本願明細書の段落【0029】や【0018】等の記載からも少なくともこの範囲においてサポート要件に違反するとは決して言えないと確信致します。」と主張している。
しかしながら、当該【表1】の記載において、訂正後の「9.1重量%以上40重量%以内」の範囲内にある、試験区1−3(混合油脂割合9.1重量%)の喫食時の官能評価が「2」とされ、試験区4−2(同27.3重量%)の同評価が「4」とされているのに対して、同範囲外にある、試験区4−3(同45.5重量%)及び試験区4−4(同63.6重量%)の同評価が「4」とされているので、範囲内の同評価が「2」や「4」であるのに対して、範囲外の同評価が「4」であることから、本件発明1、2の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」が示す範囲と、得られる効果(「マイルドさ」)との関係の技術的な意味を、合理的に理解することができない。
また、当該【表2】の記載において、試験区6−1〜6−6における、混合油脂割合(0.0、3.0、9.1、27.3、45.5、及び63.6重量%)と喫食時の官能評価(1、3、5、5、4、及び4)との関係において、混合油脂割合の増加に応じて、喫食時の官能評価が、比例関係で増大しないことが示されていることから、本件発明1、2の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」が示す範囲と、得られる効果(「マイルドさ」)との関係の技術的な意味を、合理的に理解することができず、訂正後の「9.1重量%以上40重量%以内」という範囲のうち、9.1重量%以上27.3重量%以下の範囲については同評価が「5」になると推認できるとしても、27.3重量%超40重量%以内の全ての範囲において、同評価が前記課題を解決できると認識できる(範囲外の試験区6−5及び6−6よりも高い評価を示し得る)と直ちに認めることはできない。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件発明1、2の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」が示す範囲と、得られる効果(「マイルドさ」)との関係の技術的な意味が、特許出願時の技術常識を参酌して、当該範囲内であれば、所望の効果である「マイルドさ」が得られると、当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載されているとは認められず、また、そのような具体例の開示がなくとも、その示す範囲と、得られる効果(性能)との関係の技術的な意味を、特許出願時の技術常識を参酌して、当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明が記載されているとも認められない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1、2の「含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内」が示す範囲が、前記課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

(オ)以上より、本件発明1、2が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

ウ 特許権者の主張について

(ア)特許権者は、令和4年4月4日提出の意見書11頁下から2行〜17頁2行において、以下a〜eより、本件発明1、2は、サポート要件を満たしている旨を主張している。

a 官能試験について、本件明細書の段落【0021】の「マイルドさ」の定義、段落【0028】の評価基準の記載、段落【0029】の試験結果の【表1】、【表2】、【表3】及び「−結果−」の記載、段落【0018】の「含水性部分に添加しておく油脂部分の量は・・概ね含水性部分の重量に対して1重量%以上あれば、明確に効果を奏することができる」という記載から、本件発明の官能評価について、「マイルドさ」の相対的な程度によって、「最良:5 ⇔ 不良:1」の5段階に分けて評価することは容易であり、評価基準は明確であり、官能評価を実施した人数や、どのような人が行ったかが明確に記載されていなくても、当業者は通常の常識に従って、官能評価をすることは当然に可能であると確信する旨。

b 官能試験の実施について、人数やどのような人が行ったかを記載せずに登録となっている例(乙第1号証〜乙第10号証)がある旨。

c 官能評価について、具体的な評価基準の説明が比較的簡素な場合であっても、登録されている例も多く存在し、例えば、乙第1号証における「官能評価は、○:「適度な酸味と発酵風味があり好ましい」、×:「酸味と発酵風味が弱く好ましくない」」という記載のみで明確とするならば、本件発明においても明確であるという点は疑う余地がないものと確信する旨。

d 本件発明1、2とも、「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」としており、段落【0029】や【0018】等の記載から、少なくともこの範囲においてサポート要件に違反するとは決して言えないと確信する旨。

e 官能試験の評価結果の整合性について、以下の(a)〜(c)より、本件明細書において効果の“ある”又は“なし”については、【表1】及び【表2】と、【表3】との間に齟齬は生じていないと考える旨、さらに、本件発明1、2の「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」との範囲においてサポート要件に違反するとは決して言えないと確信する旨。
(a)【表1】及び【表2】の官能試験の評価結果の記載が正しく、【表3】の官能試験の評価結果に誤記があり、したがって、正しい評価結果の記載も存在すること。
(b)誤記のあった【表3】の試験区3−2、3−3、3−4、3−5、4−2、4−3、4−4、6−5、6−6のいすれについても、“評価2”以上の範囲内における誤記であり、段落【0029】、【0028】、【0021】及び【0018】等の記載より、“評価2”であれば、官能評価上のマイルドさにおいて効果があることは明確であること。
(c)【表1】の試験区1−3及び2−3について、“評価2”であり、混合油脂割合(重量5)9.1で、水油の分離状態も“無し”であるから、喫食時のスープの「マイルドさ」が付与され、効果あると判断できる点は疑う余地はないものと確信すること。

(イ)前記主張a〜eについて、以下検討する。

a 主張aについて
本件発明の官能評価について、「マイルドさ」の相対的な程度によって、「評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1」の5段階に分けて評価しようとしても、前記(2)で詳細に説明したように、段落【0029】の試験結果の【表1】、【表2】及び【表3】の記載を踏まえると、官能評価「2」がどのような評価を意味するものであるのか、当業者は見当がつかず、本件発明の官能評価基準は明確であるとはいえないから、当業者は通常の常識に従って、本件発明の官能評価をすることは当然に可能であるとはいえない。

b 主張bについて
乙第1号証〜乙第10号証については、以下に示すように、いずれも、官能評価基準の説明が具体的に明確に示されている。さらに、各々実施例における官能評価結果に齟齬や矛盾はなく、特許出願時の技術常識を参酌して、乙第1号証〜乙10号証の各特許請求の範囲に記載の発明の範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例が開示されているものと認められる。
したがって、乙第1号証〜乙第10号証は、官能試験を実施した人数やどのような人が行ったかが明細書に記載されていなくても、具体的な官能評価基準の説明に沿って当業者は評価することができると理解されるものであり、本件発明の官能評価に関する判断に影響を及ぼすものではない。

乙第1号証については、評価試験(【0031】〜【0043】)における、段落【0033】の官能評価基準の説明の記載、並びに、【表1】〜【表4】の各官能評価結果の記載。
乙第2号証については、実施例(【0031】〜【0074】)における、段落【0031】の官能評価基準の説明の記載、並びに、【表1】〜【表10】及び【表12】における「官能評価」結果の具体的な説明の記載。
乙第3号証については、実施例(【0023】〜【0039】)における、段落【0032】、【0037】及び【0037】の官能評価基準の説明の記載、並びに、【表2】及び【表3】の各官能評価結果の記載。
乙第4号証については、【表1】(【0018】)及び【表2】(【0025】)における、官能評価基準及び「総合評価」での具体的な評価結果の説明の記載。
乙第5号証については、実施例1(【0018】〜【0021】)における、段落【0020】の官能評価基準の説明の記載、並びに、【表2】の「官能検査評価」の具体的な説明の記載。
乙第6号証については、実施例(【0048】〜【0058】)における、【表3】の「評価ポイント」及び「評価基準」の説明の記載、並びに、【表5】の各官能評価結果の記載。
乙第7号証については、実施例1〜2(【0020】〜【0026】)における、【表1】及び【表2】の各官能評価結果の説明の記載。
乙第8号証については、[試験例4]官能試験(【0062】〜【0063】)における、「評価基準」の詳細な説明の記載、並びに、段落【0064】〜【0066】における、実施例1〜4及び比較例1〜7の評価結果の具体的な説明の記載。
乙第9号証については、実施例(【0005】)の【表1】〜【表11】における、各官能評価基準の説明の記載、並びに、官能評価結果の点数及びコメントの具体的な記載。
乙第10号証については、実施例(【0029】〜【0055】)の【表1】〜【表2】の官能評価の結果の具体的な記載、及び、各官能評価の記号の説明の記載。

c 主張cについて
乙第1号証における官能評価は、○及び×の2種類ではあるものの、各官能評価の基準について、「適度な酸味と発酵風味があり好ましい」場合、官能評価は「○」、「酸味と発酵風味が弱く好ましくない」場合、官能評価は「×」と、2種類の官能評価基準の説明が具体的に明確になされている(【0033】)。そして、実施例における官能評価結果にも齟齬や矛盾はなく、特許出願時の技術常識を参酌して、乙第1号証の特許請求の範囲に記載の発明の範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に、具体例が開示されているといえる。
他方、本件発明の官能評価は、「評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1」としか記載されておらず、この5段階の各段階における「マイルドさ」の評価基準がどのような評価になるのか不明であり、「マイルドさ」の相対的な程度によって、「評価基準(スープのマイルドさ)最良:5 ⇔ 不良:1」の5段階に分けて評価しようとしても、前記(2)で詳細に説明したように、段落【0029】の試験結果の【表1】、【表2】及び【表3】の記載を踏まえると、官能評価「2」がどのような評価を意味するものであるのか、当業者は見当がつかず、本件発明の官能評価基準は明確であるとはいえない。

d 主張dについて
主張eで同じ主張をしており、以下の「e 主張eについて」で詳細に述べる。

e 主張eについて
以下の「(a)について」〜「(c)について」より、特許権者の主張する、「本件明細書において効果の“ある”又は“なし”については、【表1】及び【表2】と、【表3】との間に齟齬は生じていない」とはいえず、さらに、「本件発明1、2の「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」との範囲においてサポート要件に違反するとは決して言えない」ともいえない。

(a)について
【表1】の試験区4−3(混合油脂割合45.5重量%)及び試験区4−4(混合油脂割合63.6重量%)、並びに、【表2】の試験区6−5(混合油脂割合45.5重量%)及び試験区6−6(混合油脂割合63.6重量%)は、いずれも「水油の分離状態」が「分離」であるにもかかわらず、「官能評価」は「4」と記載されており、段落【0029】の「−結果−・・・但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。」との記載を踏まえると、【表1】及び【表2】の「官能評価」「4」という記載は、「評価基準(スープのマイルドさ)最良:5」に近い良好な評価結果ということであり、段落【0029】の「含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができない」という記載と矛盾するから、【表1】及び【表2】の官能試験の評価結果の記載が正しいとは言えない。
したがって、【表1】、【表2】及び【表3】のうち、いずれかに正しい記載が存在し得るであろうが、【表1】及び【表2】の官能試験の評価結果の記載が正しいとは言い難く、【表1】、【表2】及び【表3】のどの記載が正しいのか不明である。

(b)について
前記イで述べたように、官能評価結果「2」の意味については、段落【0029】の【表2】の下の「含水性部分に油脂部分を予め少しでも入れると入れない場合に比べて、喫食時のスープに“マイルドさ”が付与されることがわかった。」との記載と、段落【0018】の記載を踏まえると、【表1】の試験区1−3(混合油脂割合9.1重量%)及び試験区2−3(混合油脂割合9.1重量%)の官能評価「2」は、「マイルドさが付与される」という意味であると、一応認識されるものの、【表3】の試験区4−3(混合油脂割合45.5重量%)、試験区4−4(混合油脂割合63.6重量%)、試験区6−5(混合油脂割合45.5重量%)及び試験区6−6(混合油脂割合63.6重量%)の官能評価「2」(【表1】及び【表2】の記載と、【表3】の記載に齟齬がある。)は、段落【0029】の【表2】の下の「−結果−・・・但し、試験区4−1〜4−4、6−1〜6−6に示したように、予め混合する油脂部分を含水性部分に対する重量比で40重量%よりも大きくすると、含水性部分と油脂部分の分離が生じてしまい。“マイルドさ”を得ることができないことがわかった。」との記載を踏まえると、「マイルドさを得ることができない」という意味であると、認識されることから、官能評価「2」がどのような評価内容を意味するものであるのか、不明である。
したがって、「“評価2”であれば、官能評価上のマイルドさにおいて効果があることは明確である」とはいえない。

よって、前記「(a)について」で述べたことも踏まえると、【表1】、【表2】及び【表3】のどの記載が正しいのか不明であり、かつ、官能評価結果「2」の意味は、「マイルドさが付与される」という意味であるのか、「マイルドさを得ることができない」という意味であるのか、すなわち、効果を確認することができるのか、不明であり、この点で【表1】及び【表2】の記載と【表3】の記載の間に齟齬がある以上、特許権者の主張する、「本件明細書において効果の“ある”又は“なし”については、【表1】及び【表2】と、【表3】との間に齟齬は生じていない」とはいえない。

(c)について
前記「(b)について」で述べたように、【表1】の試験区1−3(混合油脂割合9.1重量%)及び試験区2−3(混合油脂割合9.1重量%)の官能評価「2」は、「マイルドさを得ることができない」という意味であるとも認識される以上、効果があるとはいえず、本件発明1、2の課題を解決し得るものとはいえないとも理解されることから、特許権者の主張する「【表1】の試験区1−3及び2−3について、“評価2”であり、混合油脂割合(重量%)9.1で、水油の分離状態も“無し”であるから、喫食時のスープの「マイルドさ」が付与され、効果あると判断できる点は疑う余地はない」とはいえない。

そして、【表1】の試験区1−3(混合油脂割合9.1重量%)及び試験区2−3(混合油脂割合9.1重量%)の官能評価「2」は、「マイルドさを得ることができない」という意味であるとも認識され、本件発明1、2の課題を解決し得るものであるのか明らかでない以上、特許権者の主張する、「本件発明1、2の「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」との範囲においてサポート要件に違反するとは決して言えない」とはいえない。

f 以上より、特許権者の前記主張は採用することができない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1、2は発明の詳細な説明に記載したものであるといえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

2 理由3(実施可能要件)について

(1)発明の詳細な説明の記載
前記1(3)で述べたとおりである。

(2)液体スープパックの喫食時の官能試験について
前記1(4)で述べたように、発明の詳細な説明には、液体スープパックの喫食時の官能試験方法について、官能試験を行った人数や、どのような人が行ったのかにより官能試験結果は大きく左右され得るにもかかわらず、官能試験を行った人数や、どのような人が行ったのか、明らかでなく、また、評価基準についても、「最良:5 ⇔ 不良:1」の各点数における具体的な評価基準の説明がなされておらず、評価基準が不明である上、実施例における、【表1】又は【表2】の評価結果と【表3】の評価結果とが異なっており、整合していない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載では、液体スープパックの喫食時の官能試験の評価をどのように行えばよいのか不明であり、官能試験の評価結果も整合していない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。

(3)特許権者の主張について

ア 特許権者は、令和4年4月4日提出の意見書4頁下から5行〜9頁末行において、以下a〜eより、本件発明1、2は、実施可能要件を満たしている旨を主張している。

a 官能試験について、本件明細書の段落【0021】の「マイルドさ」の定義、段落【0028】の評価基準の記載、段落【0029】の試験結果の【表1】、【表2】、【表3】及び「−結果−」の記載、段落【0018】の「含水性部分に添加しておく油脂部分の量は・・概ね含水性部分の重量に対して1重量%以上あれば、明確に効果を奏することができる」という記載から、本件発明の官能評価について、評価基準は明確であり、官能評価を実施した人数や、どのような人が行ったかが明確に記載されていなくても、当業者は通常の常識に従って、官能評価をすることは当然に可能であると確信する旨。

b 官能試験の実施について、人数やどのような人が行ったかを記載せずに登録となっている例(乙第1号証〜乙第10号証)がある旨。

c 官能評価について、具体的な評価基準の説明が比較的簡素な場合であっても、登録されている例も多く存在し、例えば、乙第1号証における「官能評価は、○:「適度な酸味と発酵風味があり好ましい」、×:「酸味と発酵風味が弱く好ましくない」」という記載のみで明確とするならば、本件発明においても明確であるという点は疑う余地がないものと確信する旨。

d 本件発明1、2とも、「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」としており、段落【0029】や【0018】等の記載から、少なくともこの範囲において実施可能要件に違反するとは決して言えないと確信する旨。

e 官能試験の評価結果の整合性について、以下の(a)〜(c)より、本件明細書において効果の“ある”又は“なし”については、【表1】及び【表2】と、【表3】との間に齟齬は生じていないと考える旨、さらに、本件発明1、2の「予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合する」との範囲において実施可能要件に違反するとは決して言えないと確信する旨。
(a)【表1】及び【表2】の官能試験の評価結果の記載が正しく、【表3】の官能試験の評価結果に誤記があり、したがって、正しい評価結果の記載も存在すること。
(b)誤記のあった【表3】の試験区3−2、3−3、3−4、3−5、4−2、4−3、4−4、6−5、6−6のいすれについても、“評価2”以上の範囲内における誤記であり、段落【0029】、【0028】、【0021】及び【0018】等の記載より、“評価2”であれば、官能評価上のマイルドさにおいて効果があることは明確であること。
(c)【表1】の試験区1−3及び2−3について、“評価2”であり、混合油脂割合(重量5)9.1で、水油の分離状態も“無し”であるから、喫食時のスープの「マイルドさ」が付与され、効果あると判断できる点は疑う余地はないものと確信すること。

イ 前記主張a〜eについて、以下検討する。
前記アの主張a〜eは、前記1(4)ウ(ア)の主張a〜eと同様であり、前記1(4)ウ(イ)で述べたとおりであるから、同様に、特許権者の前記主張は採用することができない。

(4)まとめ
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものではなく、かつ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものでもないから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合して当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの製造方法。
【請求項2】
含水性部分と油脂部分を含み、使用時にお湯又は水に溶かして使用するタイプの液体スープパックの充填おいて、予め含水性部分の重量の9.1重量%以上40重量%以内となるように油脂部分の一部を含水性部分と混合した後、当該混合後の油脂部分を含有する含水性部分と、残りの油脂部分を一つのパックに充填する液体スープパックの充填方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-06 
出願番号 P2016-066983
審決分類 P 1 651・ 536- ZAA (A23L)
P 1 651・ 537- ZAA (A23L)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 木村 敏康
特許庁審判官 大熊 幸治
齊藤 真由美
登録日 2020-04-06 
登録番号 6687444
権利者 日清食品ホールディングス株式会社
発明の名称 液体スープパックの製造方法  
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