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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1388331
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-28 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6690808号発明「反射防止フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6690808号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕、〔10〜15〕について訂正することを認める。 特許第6690808号の請求項1ないし5、7ないし15に係る特許を維持する。 特許第6690808号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6690808号の請求項1〜15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年)12月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年1月13日、韓国)を国際出願日とする出願であって、令和2年4月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月28日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和2年10月28日に特許異議申立人 高石恵子(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和3年 2月 9日付け:取消理由通知書
令和3年 6月17日付け:意見書(特許権者)
令和3年 6月17日付け:訂正請求書
令和3年 9月 1日付け:意見書(特許異議申立人)
令和3年11月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 3月22日付け:意見書(特許権者)
令和4年 3月22日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和4年 5月18日付け:意見書(特許異議申立人)

なお、令和3年6月17日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6690808号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜15について訂正することを求める、というものである。

2 本件訂正請求について
本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜9〕、〔10〜15〕に対して請求されたものである。

3 請求項1〜9についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1〜9について訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。以下「第2」において同じ。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.3以下」と記載されているのを、「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜9についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ソリッド状シリカナノ粒子である、」と記載されているのを、「ソリッド状シリカナノ粒子であり、前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜9についても、同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、前記訂正事項2の記載の後に続けて、「前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、」を挿入する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜9についても、同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、前記訂正事項3の記載の後に続けて、「前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、」を挿入する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜9についても、同様に訂正する。)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1から6のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1から5のいずれか1項」に訂正する(請求項7の記載を引用して記載された、請求項8〜9についても、同様に訂正する。)。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1から5、及び7のいずれか1項」に訂正する(請求項8の記載を引用して記載された、請求項9についても、同様に訂正する。)。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1から8のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1から5、7〜8のいずれか1項」に訂正する。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率」の数値範囲を、「0.3以下」から「0.21以上0.3以下」に限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2〜9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書の【0033】及び【0129】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項1に記載された「ソリッド状無機ナノ粒子」が「1〜30nmの半径を有」すると限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2〜9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書の【0049】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、請求項1に記載された「バインダー樹脂」が「光重合性化合物の(共)重合体を含」むと限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2〜9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項3による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、本件特許の明細書の【0052】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項3による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、請求項1に記載された「低屈折層」が「前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む」と限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2〜9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項4による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、本件特許の明細書の【0069】及び【0130】【表1】(特に、実施例3)の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項4による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

オ 訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

カ 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項6を削除することに伴って、これと整合するように請求項7の記載を改める訂正である。そして、この点は、請求項7の記載を引用して記載された請求項8〜9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

キ 訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項6を削除することに伴って、これと整合するように請求項8の記載を改める訂正である。そして、この点は、請求項8の記載を引用して記載された請求項9についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ク 訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項6を削除することに伴って、これと整合するように請求項9の記載を改める訂正である。
そうすると、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1〜9についての訂正(訂正事項1〜8による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。

4 請求項10〜15についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項10〜15について訂正は、以下のとおりである。

ア 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.3以下」と記載されているのを、「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下」に訂正する(請求項10の記載を引用して記載された、請求項11〜15についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「ソリッド状シリカナノ粒子である、」と記載されているのを、「ソリッド状シリカナノ粒子であり、前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、」に訂正する(請求項10の記載を引用して記載された、請求項11〜15についても、同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10において、前記訂正事項2の記載の後に続けて、「前記低屈折層形成用樹脂組成物は、光硬化型化合物またはその(共)重合体100重量部に対して、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、」を挿入する(請求項10の記載を引用して記載された、請求項11〜15についても、同様に訂正する。)。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、請求項10に記載された「数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率」の数値範囲を、「0.3以下」から「0.21以上0.3以下」に限定する訂正である。そして、この点は、請求項10の記載を引用して記載された請求項11〜15についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項9による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、本件特許の明細書の【0033】及び【0129】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項9による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項9による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

イ 訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、請求項10に記載された「ソリッド状無機ナノ粒子」が「1〜30nmの半径を有」すると限定する訂正である。そして、この点は、請求項10の記載を引用して記載された請求項11〜15についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項10による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、本件特許の明細書の【0049】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項10による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項10による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ウ 訂正事項11について
訂正事項11による訂正は、請求項10に記載された「低屈折層形成用樹脂組成物」が「光硬化型化合物またはその(共)重合体100重量部に対して、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む」と限定する訂正である。そして、この点は、請求項10の記載を引用して記載された請求項11〜15についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項11による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項11による訂正は、本件特許の明細書の【0102】及び【0130】【表1】(特に、実施例3)の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項11による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項11による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項10〜15についての訂正(訂正事項9〜11による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔10〜15〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1〜5、7〜15に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1〜5、7〜15に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

「【請求項1】
ハードコート層;並びに
前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層全体厚さの30%以内に前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から上記低屈折層全体厚さの30%超過の領域に上記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、
前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、
反射防止フィルム:
[数式1]
中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。
【請求項2】
前記中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さは、0.1nm〜60nmである、
請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記中空状無機ナノ粒子の粒子半径が35nm〜100nmである、
請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記低屈折層は、
前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、
前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み、
前記第1層が第2層に比べて前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記反射防止フィルムは、380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.8%以下の平均反射率を示す、
請求項1から4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
「【請求項7】
前記低屈折層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体および光反応性官能基を含む含フッ素化合物の間の架橋(共)重合体を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層は、
光硬化性樹脂を含むバインダー樹脂;
および前記バインダー樹脂に分散した帯電防止剤を含む、
請求項1から5、及び7のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層の他の一面に結合された基材をさらに含む、
請求項1から5、7〜8のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
「【請求項10】
光硬化型化合物またはその(共)重合体、光反応性官能基を含む含フッ素化合物、光開始剤、中空状無機ナノ粒子、およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折層形成用樹脂組成物をハードコート層上に塗布し、35℃〜100℃の温度で乾燥する段階と、
前記低屈折層形成用樹脂組成物の乾燥物を光硬化する段階と、を含み、
前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記低屈折層形成用樹脂組成物は、光硬化型化合物またはその(共)重合体100重量部に対して、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、
反射防止フィルムの製造方法:
[数式1]
中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。
【請求項11】
前記中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さは、0.1nm〜60nmである、
請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ハードコート層上に塗布された低屈折層形成用樹脂組成物は、40℃〜80℃の温度で乾燥する、
請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥する段階は、10秒〜5分間行われる、
請求項10から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、2.00g/cm3〜4.00g/cm3の密度を有し、
前記中空状無機ナノ粒子は、1.20g/cm3〜3.50g/cm3の密度を有する、
請求項10から13のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項15】
光硬化型化合物またはその(共)重合体、光開始剤、および帯電防止剤を含むハードコート層形成用高分子樹脂組成物を基材上に塗布し、光硬化する段階をさらに含む、
請求項10から14のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。」


第4 取消しの理由の概要
1 令和3年2月9日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
(1)サポート要件
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)新規性
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜2、4、6〜13及び15に係る発明は、本件特許の出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲13(特開2013−130865号公報)に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項1〜2、4、6〜13及び15に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)進歩性
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲13(特開2013−130865号公報)に記載された発明及び本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲12(特開2013−228741号公報)に記載された事項に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)進歩性
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明は、いずれも、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1(国際公開第2012/147527号)に記載された発明及び本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲12(特開2013−228741号公報)に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 令和3年11月18日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
(1)サポート要件
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 甲号証
特許異議申立人が提出した甲号証は以下のとおりである。

甲第1号証:国際公開第2012/147527号(甲1)
甲第2号証:“オルガノシリカゾル”,[online],日産化学株式会社,インターネット
<URL:https://www.nissanchem.co.jp/products/materials/inorganic/products/02/>(甲2)
甲第3号証:特表2014−529762号公報(甲3)
甲第4号証:国際公開第2012/157682号(甲4)
甲第5号証:特開2001−233611号公報(甲5)
甲第6号証:特開2009−244382号公報(甲6)
甲第7号証:特開2011−88787号公報(甲7)
甲第8号証:特開2007−272132号公報(甲8)
甲第9号証:国際公開第2013/018187号(甲9)
甲第10号証:“ナノマテリアル情報提供シート、材料名:非晶質コロイダルシリカ、事業者名:日産化学工業株式会社”,平成27年7月,経済産業省発行、<URL:http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10977616/www.meti.go.jp/policy/chemical_management/files/nanomaterial/150626SiO3.pdf>(甲10)
甲第11号証:“ナノマテリアル情報提供シート、材料名:火炎加水分解法、または燃焼加水分解法と呼ばれる乾式法によって製造されたシリカ、事業者名:日本アエロジル株式会社”,平成27年7月,経済産業省発行、<URL:http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10977616/www.meti.go.jp/policy/chemical_management/files/nanomaterial/150626SiO2.pdf>(甲11)
甲第12号証:特開2013−228741号公報(甲12)
甲第13号証:特開2013−130865号公報(甲13)
甲第14号証:特開2007−78711号公報(甲14)
甲第15号証:永田公一,“連載(II)セラミックグリーンシートにおけるサスペンジョンの3要素とその相互作用”,ニューセラミックスレター,No.60,2017年2月,<URL:http://tri-osaka.jp/dantai/ncf/newsletter/No60/No60-3.pdf>(甲15)


第5 当合議体の判断
1 サポート要件について
(1)本件特許の明細書の【0010】には、本件特許の発明が解決しようとする課題として、「本発明は、低い反射率および高い透光率を有しかつ、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる反射防止フィルムを提供する。」と記載されており、「高い耐スクラッチ性」「を実現すること」が課題の一つと認められる。
そして、本件特許の明細書の【0035】〜【0036】及び【0129】〜【0143】によれば、シェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であれば上記課題が解決できることを当業者は認識することができるというべきである。
ここで、本件訂正請求による訂正により、本件特許発明1は、「前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、」「[数式1]中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。」という構成を有することとなった。そして、上記比率は、中空状無機ナノ粒子の空隙率が高すぎたり、外殻が薄すぎたりして、耐スクラッチ性が良好であることを期待し得ないほどの数値範囲ともいえない。
そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
請求項1を引用して記載される本件特許発明2〜5及び7〜9についても同様である。また、本件特許発明10〜15についても同様である。

(2)特許異議申立人は、令和4年5月18日付け意見書において、[A]中空状無機ナノ粒子の粒子半径が0.1nmの場合、シェル層の厚みが0.021〜0.030nmとなるが、本件明細書には、シェル層の厚みが0.021〜0.030nmという薄い場合においても耐スクラッチ性を良好にし得ることを理解し得る記載はない、[B]中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率の分布は、反射防止フィルムの耐スクラッチ性に影響を与えると思料されるが、本件明細書の実施例1〜4の記載からは、中空状無機ナノ粒子の前記比率が0.21に偏って存在する反射防止フィルムが、良好な耐スクラッチ性を示すことがサポートされているとはいえない、と主張する。
[A]について検討すると、「ナノ粒子」の径は、通常、数nm〜数十nmであるから、「中空状無機ナノ粒子の粒子半径が0.1nmの場合」を前提とする主張[A]は、そもそも「ナノ粒子」の範疇に属するとはいいがたい粒径の粒子を前提とした主張とであって、採用できない。
また、[B]について検討すると、中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率の分布が反射防止フィルムの耐スクラッチ性に影響を与えることは否定できないかもしれないが、本件特許の明細書の【0035】〜【0036】及び【0129】〜【0143】に記載された実験例等の結果からみて、シェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であれば十分に上記課題を解決できると当業者は認識するといえる。
したがって、主張[B]は採用できない。

(3)まとめ
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

2 甲13を主たる引用例とする場合の新規性進歩性について
(1)引用文献の記載・引用発明
ア 甲13の記載
令和3年2月9日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由で引用された甲13(特開2013−130865号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止反射防止フィルム、帯電防止反射防止フィルムの製造方法、偏光板、及び画像表示装置に関する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射防止性と同時に帯電防止性とハードコート性に優れ、より高度な耐擦傷性、耐摩耗性、防汚性に優れる反射防止フィルを得るために、帯電防止ハードコート層の上に低屈折率層を設けた反射防止フィルムが考えられる。
本発明者ら検討したところ、4級アンモニウム塩基を有する化合物を用いてハードコート層を形成した場合、帯電防止性に優れるものの、該ハードコート層上に、特許文献1及び2に記載されるような含フッ素化合物を含む組成物により低屈折率層を形成すると、耐擦傷性が悪化し、更に低屈折率層が白濁するという面状故障が生じることが分かった。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の目的は、反射防止性と帯電防止性に優れ、面状故障がなく、かつ耐擦傷性、耐磨耗性、防汚性に優れる帯電防止性反射防止フィルムを提供することである。
また、本発明の別の目的は、該帯電防止性反射防止フィルムの製造方法、該帯電防止性反射防止フィルムを用いた偏光板、及び該帯電防止性反射防止フィルム又は該偏光板を有する画像表示装置を提供することである。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
屈折率が低く、耐擦傷性、対磨耗性、防汚性に優れた低屈折率層を得る観点から、特定のフッ素ポリマー及びフッ素含有多官能モノマー等のフッ素化合物を、シリカ微粒子及び特定のシロキサン化合物を低屈折率層用組成物に用いることが好適である。上記課題を解決すべく本発明者らが検討したところ、4級アンモニウム塩基を有する化合物を含むハードコート層上に低屈折率層を形成する場合、低屈折率層用組成物の含フッ素化合物のうち、フッ素含有多官能モノマーとして分子内に−CF3基を多数有し表面自由エネルギーが低いモノマーが含まれると、ハードコート層との密着性が悪く耐擦傷性を悪化させ、また低屈折率層の塗膜に白濁が生じることが分かった。このメカニズムとしてはよく分かっていないが、構造的に非常に親水的な4級アンモニウム塩基を有する化合物を含有するハードコート層に対して、耐擦傷性を良化させるために低屈折率層に添加するフッ素モノマーが非常に疎水的であると親和性が悪くなるためではないかと推測される。本発明者らは検討の結果、含フッ素モノマーとして−CF3基が4 個以下であり、表面自由エネルギーが高く、かつ反応性官能基を多く有するモノマーを用いることで、耐擦傷性の悪化と白濁の抑制が図れることを見出した。
即ち、本発明の上記課題は、下記手段により解決できる。
【0009】
[1]
支持体上に、4級アンモニウム塩基を有する化合物を少なくとも含有するハードコート層用組成物から形成されたハードコート層と、下記(a)、(b)、(c)、及び(d)を少なくとも含有する低屈折率層用組成物から形成された低屈折率層とをこの順で有する帯電防止反射防止フィルム。
(a)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体
(b)単独で成膜した際の表面自由エネルギーが23mN/m以上であり、分子内に有する−C F3基が4個以下であり、フッ素含率が30%以上で、1分子中に反応性官能基を少なくとも3 つ以上有するフッ素含有多官能モノマー
(c)平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子
(d)ジメチルシロキサン骨格を有する化合物
[2]
前記低屈折率層用組成物が、更に(e)平均粒子径が40〜100nm の中実シリカ粒子を全固形分中0.1〜10質量%含有する[1]に記載の帯電防止反射防止フィルム。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、帯電防止性に優れ、低反射率で塗膜が白濁という面状故障がなく、かつ高度な耐擦傷性、耐摩耗性、防汚性を有する反射防止フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、該反射防止フィルムの製造方法、該反射防止フィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板、及び該反射防止フィルム又は偏光板を有する画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜 (数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との記載は、「アクリレート及びメタクリレートの少なくともいずれか」の意味を表す。「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリロイル」等も同様である。
なお、本発明においては、「モノマーに相当する繰り返し単位」、及び「モノマーに由来する繰り返し単位」とは、モノマーの重合後に得られる成分が繰り返し単位となることを意味している。
【0012】
本発明の帯電防止反射防止フィルムは、支持体上に、4 級アンモニウム塩基を有する化合物を少なくとも含有するハードコート層用組成物から形成されたハードコート層と、下記(a)、(b)、(c)、及び(d) を少なくとも含有する低屈折率層用組成物から形成された低屈折率層とをこの順で有する。
(a)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体
(b)単独で成膜した際の表面自由エネルギーが23mN/m以上であり、分子内に有する−CF3基の数が4個以下であり、フッ素含率が30%以上で、1分子中に反応性官能基を少なくとも3つ以上有するフッ素含有多官能モノマー
(c)平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子
(d)ジメチルシロキサン骨格を有する化合物
【0013】
以下、本発明の帯電防止反射防止フィルムに用いる低屈折率層用組成物について説明する。
<低屈折率層用組成物>
(a)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、フッ素系オレフィンの重合物である。該含フッ素重合体を低屈折率層用組成物に用いることにより、低屈折率で、防汚性、耐薬品性、耐水性等の基本性能を発現する低屈折率層が得られる。
エチレン性不飽和基含有含フッ素化合物としては、側鎖に(メタ)アクリル基を有することが好ましい。これにより、(b)成分であるフッ素含有多官能モノマーと共架橋化することができ、耐擦傷性が向上する。
【0014】
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、エチレン性不飽和基含有イソシアネート化合物と、水酸基含有含フッ素重合体とを反応させて得ることができる。即ち、この場合のエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、水酸基含有含フッ素重合体の水酸基が、エチレン性不飽和基含有イソシアネート化合物により変性されたものである。
・・・(中略)・・・
【0063】
低屈折率層用組成物における(a)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体の含有量は、特に制限されるものではないが、硬化塗膜の屈折率、耐擦傷性の観点から、組成物の全固形分に対して10〜60質量%であることが好ましく、15〜55質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることが更に好ましい。
【0064】
(b)フッ素含有多官能モノマー
本発明に係る低屈折率層用組成物に用いられるフッ素含有多官能モノマーは、単独で成膜した際の表面自由エネルギーが23mN/m以上であり、分子内に有する−CF3基の数が4個以下であり、フッ素含率が30%以上で、1分子中に反応性官能基を少なくとも3つ以上有する。
【0065】
フッ素含有多官能モノマーが、分子内に有する−CF3基の数が4個以下であり、単独で成膜した際の表面自由エネルギーが23mN/m以上であることにより、4級アンモニウム塩基を有する化合物を含有するハードコート層との密着性が向上し、耐擦傷性が向上する。また、低屈折率層の塗膜の白濁も抑制できる。
分子内に有する−CF3基の数は3個以下であることが好ましく、2個以下であることが更に好ましく、実質的に1個も有さないことが最も好ましい。低屈折率化を実現するためには分子中のフッ素含率を上げることが必要となるが、フッ素含率を上げる分子設計として−CF3基が分子中に4個より多く存在すると表面自由エネルギーが低くなりすぎるため好ましくない。−CF2−基を有効に用いながらフッ素含率を上げることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0102】
低屈折率層用組成物における(b)フッ素含有多官能モノマーの含有量は、特に制限されるものではないが、耐擦傷性付与、面状故障を防ぐという観点から、組成物の全固形分に対して5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることが更に好ましい。
・・・(中略)・・・
【0104】
(c)中空シリカ微粒子
以下、本発明に係る低屈折率層用組成物に用いられる中空シリカ微粒子について説明する。
本発明に係る低屈折率層用組成物は、低屈折率化と耐擦傷性の観点から、平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子を含有する。
中空シリカ微粒子の空隙率は、低屈折率化と耐擦傷性の観点から、好ましくは10〜80%、更に好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。
【0105】
中空シリカ微粒子の屈折率は、1.10〜1.40が好ましく、更に好ましくは1.15〜1.35、最もに好ましくは1.15〜1.30である。ここでの屈折率は粒子全体として屈折率を表し、シリカ粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。
【0106】
中空シリカ微粒子の製造方法は、例えば、特開2001−233611号公報や特開2002−79616号公報に記載されている。特にシェルの内部に空洞を有している粒子で、そのシェルの細孔が閉塞されている粒子が特に好ましい。なお、これら中空シリカ微粒子の屈折率は特開2002−79616号公報に記載の方法で算出することができる。
【0107】
本発明の帯電防止性反射防止フィルムにおいて、中空シリカ微粒子の塗設量は、1mg/m2〜100mg/m2が好ましく、より好ましくは5mg/m2〜80mg/m2、更に好ましくは10mg/m2〜60mg/m2である。この範囲であると、低屈折率化の効果や耐擦傷性の改良効果が得られ、黒締りなど外観や積分反射率も良好なものとすることができる。
【0108】
中空シリカ微粒子の平均粒子径は、低屈折率化、耐擦傷性の改良効果、黒締りなどの外観、反射率などの観点から、10〜100nmであり、好ましくは30〜80nmであり、更に好ましくは40〜60nmである。中空シリカ粒子はサイズ分布を有していてもよく、その変動係数は好ましくは60%〜5%、更に好ましくは50%〜10%である。
中空シリカ微粒子は、結晶質でも、アモルファスのいずれでも良く、また単分散粒子が好ましい。形状は、球径が最も好ましいが、不定形であってもよい。
また、中空シリカ微粒子は粒子平均粒子サイズの異なるものを2種以上併用して用いることができる。ここで、中空シリカ微粒子の平均粒子径は電子顕微鏡写真から求めることができる。
【0109】
中空シリカ微粒子は、特開2007−298974号の[0103]〜[0105]に記載の方法により製造することができる。
【0110】
低屈折率層用組成物における(c)中空シリカ微粒子の含有量は、低屈折率と耐擦傷性の観点から、組成物の全固形分に対して10〜70質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましく、30〜50質量% であることが更に好ましい。
【0111】
(e)中実シリカ微粒子
本発明に係る低屈折率層用組成物には、平均粒子径40〜100nmの中実シリカ微粒子を用いることもできる。該中実シリカ微粒子を用いることで、耐摩耗性等を向上させることができる。
平均粒子径は、好ましくは40〜90nmであり、更に好ましくは40〜80nmである。平均粒子径は、電子顕微鏡写真から求めることができる。
中実シリカ微粒子は、公知のものを使用することができ、また、その形状も球状に限らず、不定形の粒子であってもよい。
【0112】
低屈折率層用組成物における(e)中実シリカ微粒子の含有量は、耐磨耗性、低屈折率化の観点から、組成物の全固形分に対して0.1〜10質量%であり、2〜8質量%であることが好ましく、3〜6質量%であることがより好ましい。
【0113】
[シリカ微粒子の表面処理方法]
本発明に係る低屈折率層形成用組成物に用いる(c)中空シリカ微粒子及び(e)中実シリカ微粒子は、分散性を改良するために表面処理を行うことも好ましい。
シリカ微粒子の表面は下記一般式(10)で表されるオルガノシランの加水分解物及び/又はその部分縮合物により処理がされているのが好ましく、処理の際に、酸触媒及び金属キレート化合物のいずれか、あるいは両者が使用されることが更に好ましい。
・・・(中略)・・・
【0141】
(d)ジメチルシロキサン骨格を有する化合物
以下、本発明に係る低屈折率層用組成物に用いられるジメチルシロキサン骨格を有する化合物について説明する。
ジメチルシロキサン骨格を有する化合物を用いることで、表面滑り性を改善し、硬化塗膜の耐擦傷性を向上に効果があるとともに、防汚性を付与することができる。該化合物は、(メタ)アクリロイル基やビニル基等の反応性基を有することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0169】
以下、本発明の帯電防止反射防止フィルムに用いるハードコート層用組成物について説明する。
<ハードコート層用組成物>
(4級アンモニウム塩基を有する化合物)
本発明におけるハードコート層形成用組成物は、4級アンモニウム塩基を有する化合物を含有する。
4級アンモニウム塩基を有する化合物としては、低分子型又は高分子型のいずれを用いることもできるが、ブリードアウト等による帯電防止性の変動がないことから高分子型のカチオン化合物がより好ましく用いられる。
高分子型の4級アンモニウム塩基を有するカチオン化合物としては、公知化合物の中から適宜選択して用いることができるが、イオン伝導性が高い観点から、4級アンモニウム塩基含有ポリマーであることが好ましく、下記一般式(I)〜(III)で現される構造単位の少なくとも1つの単位を有するポリマーが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0219】
[帯電防止反射防止フィルム]
以下、本発明の光学フィルムについて説明する。
本発明の帯電防止反射フィルムは、透明支持体上に前記ハードコート層用組成物を用いて形成されたハードコート層(帯電防止ハードコート層)と、該ハードコート層上に前記低屈折率層用組成物を用いて形成された低屈折率層を有する。
本発明の帯電防止性反射防止フィルムは、更に目的に応じて、必要な機能層を単独又は複数層設けてもよい
・・・(中略)・・・
【0230】
(帯電防止性反射防止フィルムの製造方法)
本発明の帯電防止性反射防止フィルムは以下の方法で形成することができるが、この方法に制限されない。
まずハードコート層用組成物が調製される。次に、該組成物をディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法等により透明支持体上に塗布し、加熱・乾燥する。マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法(米国特許2681294号明細書、特開2006−122889号公報参照) がより好ましく、ダイコート法が特に好ましい。
【0231】
塗布した後、乾燥、光照射してハードコート層用組成物から形成される層を硬化し、これによりハードコート層を形成することができる。必要に応じて、透明支持体上にあらかじめその他の層(防眩層など) を塗設しておき、その上にハードコート層を形成することも可能である。」

(ウ)「【実施例】
【0242】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによって限定して解釈されるものではない。なお、特別の断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0243】
[実施例1]
〔帯電防止性反射防止フィルムの作製〕
下記に示す通りに、ハードコート層形成用の塗布液を調製し、透明支持体上に、ハードコート層及び低屈折率層を形成して、フィルム試料No.1〜35を作製した。
【0244】
((a)4級アンモニウム塩基を有する化合物の合成)
イオン伝導性化合物を、特許第4600605号の合成例1と同様に実施し、AN−1(30%エタノール溶液)を合成した。
【0245】
(ハードコート層用塗布液の調製)
下記表1に記載のハードコート層用塗布液HC−1の組成となるように各成分を添加し、得られた組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して帯電防止性ハードコート層塗布液HC−1(固形分濃度50質量%)とした。
ハードコート層用塗布液HC−1と同様の方法で、各成分を下記表1のように混合して溶剤に溶解して表1記載の組成比率になるように調整し、固形分濃度50質量%の帯電防止性ハードコート層用塗布液HC−2〜HC−7を作製した。帯電防止性ハードコート層用塗布液HC−2においては、4級アンモニウム塩化合物を用いなかった。また、帯電防止性ハードコート層用塗布液HC−6においては、レベリング剤を用いなかった。
【0246】
【表1】

【0247】
それぞれ使用した化合物を以下に示す。
MEK:メチルエチルケトン
AN−1:前記4級アンモニウム塩基を有する化合物AN−1
PET30:ペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
Irg.184:光重合開始剤、イルガキュア184(チバ・ジャパン(株)製)
A−TMMT:ペンタエリスリトールテトラアクリレート( 新中村化学工業(株)NKエステル)
DQ100:「ライトエステルDQ−100」、4級アンモニウム塩系化合物、多官能モノマー、光重合開始剤含有ハードコート剤(共栄社化学(株)製)
LAS1211:「リオデュラスLAS−1211」、4級アンモニウム塩系化合物、多官能モノマー、光重合開始剤含有ハードコート剤(東洋インキ製造(株)製)
UV−AS−102:「紫光UV−AS−102」、4級アンモニウム塩系化合物、多官能モノマー、光重合開始剤含有ハードコート剤(日本合成化薬(株)製)
FP1:下記式で示されるフッ素含有レベリング剤
【0248】
【化50】

【0249】
FP2:下記式で示されるフッ素含有レベリング剤
【0250】
【化51】

【0251】
(ハードコート層の作製)
膜厚60μmの透明支持体としてのセルローストリアセテートフィルム(TDH60UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)上に、前記ハードコート層用塗布液HC−1をグラビアコーターを用いて塗布した。60℃で約2分間乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量150mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ12μmの帯電防止性ハードコートフィルムHC−1を形成した。
【0252】
同様の方法で帯電防止性ハードコート層用塗布液HC−2〜HC−7を用いて帯電防止性ハードコートフィルムHC−2〜HC−7を作製した。
【0253】
(低屈折率層用塗布液の調製)
(エチレン性不飽和基を有する含フッ素重合体A(メタアクリル変性フッ素重合体)の合成)
まず、水酸基含有含フッ素重合体の合成を行った。内容積2.0リットルの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル400g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)53.2g、エチルビニルエーテル36.1g、ヒドロキシエチルビニルエーテル44.0g、過酸化ラウロイル1.00g、下記式(107)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサン(VPS1001(商品名)、和光純薬工業(株)製)6.0g及びノニオン性反応性乳化剤(NE−30(商品名)、旭電化工業(株)製)20.0g を仕込み、ドライアイス−メタノールで−50℃まで冷却した後、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
【0254】
【化53】

【0255】
yは1〜200の数、zは1〜20の数を示す。
【0256】
次いでヘキサフルオロプロピレン120.0gを仕込み、昇温を開始した。オートクレーブ内の温度が60℃ に達した時点での圧力は5.3×105Paを示した。その後、70℃で20時間攪拌下に反応を継続し、圧力が1.7×105Paに低下した時点でオートクレーブを水冷し、反応を停止させた。室温に達した後、未反応モノマーを放出してオートクレーブを開放し、固形分濃度26.4%のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をメタノールに投入しポリマーを析出させた後、メタノールにて洗浄し、50℃ にて真空乾燥を行い220gの水酸基含有含フッ素重合体を得た。これを水酸基含有含フッ素重合体とする。使用した単量体と溶剤を表2に示す。
【0257】
【表2】

【0258】
得られた水酸基含有含フッ素重合体に付き、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算数平均分子量を測定した。また、1H−NMR、13C−NMRの両NMR分析結果及び元素分析結果から、水酸基含有含フッ素重合体を構成する各単量体成分の割合を決定した。結果を表3に示す。
【0259】
【表3】

【0260】
NE−30は、下記式(110)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤である。
【0261】
【化54】

【0262】
続いて、得られた水酸基含有含フッ素重合体を用いてエチレン性不飽和基含有フッ素重合体A を合成した。電磁攪拌機、ガラス製冷却管及び温度計を備えた容量1リットルのセパラブルフラスコに、製造例1で得られた水酸基含有含フッ素重合体を50.0g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール0.01g及びメチルイソブチルケトン(MIBK)370g を仕込み、20℃で水酸基含有含フッ素重合体がMIBKに溶解して、溶液が透明、均一になるまで攪拌を行った。
次いで、この系に、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを15.1g添加し、溶液が均一になるまで攪拌した後、ジブチルチンジラウレート0.1gを添加して反応を開始し、系の温度を55〜65℃に保持し5時間攪拌を継続することにより、エチレン性不飽和基を有する含フッ素重合体AのMIBK溶液を得た。
この溶液をアルミ皿に2g秤量後、150℃のホットプレート上で5分間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、15.2質量%であった。使用した化合物、溶剤及び固形分含量を表4 に示す。
【0263】
【表4】

【0264】
[内部に空孔を有する粒子の調製]
(分散液B−1の調製)
特開2002−79616号公報の調製例4から調製時の条件を変更して、内部に空洞を有するシリカ微粒子を作製した。最終ステップで水分散液状態からメタノールに溶媒置換し、20%シリカ分散液とし、平均粒子径60nm、シェル厚み約7nm、シリカ粒子の屈折率1.25の粒子が得られた。これを分散液(A−1)とする。
【0265】
分散液(A−1)の500部に対してアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン20部、およびジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート1.5部加え混合した後に、イオン交換水を9部を加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8部を添加した。総液量がほぼ一定になるようにMEKを添加しながら減圧蒸留により溶媒を置換した。最終的に固形分が20%になるように調節して分散液B−1を調製した。
【0266】
(低屈折率層用塗布液の調製)
各成分を下記表5のように混合し、全溶剤中プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが20質量%になるように添加した後メチルエチルケトンで希釈し、最終的に固形分濃度が5質量%にした。攪拌機をつけたガラス製セパラブルフラスコに仕込み、室温にて1時間攪拌後、孔径0.5μmのポリプロピレン製デプスフィルターでろ過し、各低屈折率層用塗布液を得た。なお、表5において、各成分の添加量は「質量%」を表す。
【0267】
【表5】

(当合議体注:【表5】は、便宜上、時計回りに90°回転したものである。)
【0268】
表5に示すフッ素モノマーの単独膜の表面自由エネルギーは、前述の方法に従って、セルローストリアセテートフィルム(TDH60UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)上にフッ素含有多官能モノマーの単独膜の試料を作製し、25℃50%RHで2時間調湿した後に、水とヨウ化メチレンに対する接触角を測定して算出した。
【0269】
以下、使用した化合物について説明する。
・B−2:MEK−ST、日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ(平均粒子サイズ約15nm)
・B−3:MEK−ST−L、日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ(平均粒子サイズ約50nm)
・B−4:MEK−ST−ZL、日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ(平均粒子サイズ約85nm)
・SI−1:Rad2600、EVONIK社製シリコーン変性アクリレート、数平均分子量:16,000
・SI−2:Rad2500、EVONIK社製シリコーン変性アクリレート、数平均分子量:1,500
・SI−3:サイラプレーンFM−0725、下記式(24)で示されるシリコーン化合物、チッソ社製、数平均分子量:10,000
【0270】
【化55】

[式(24)中、nは、化合物の数平均分子量が10,000となる整数である。]
・F−1:下記の化合物(前述のX−22)
【0271】
【化56】

【0272】
・F−2:トリアクリロイルヘプタデカフルオロノネニルペンタエリスリトール(下記構造)(LINC3A、共栄社化学製(ペンタエリスリトールテトラアクリレートを35質量%含む))
【0273】
【化57】

【0274】
・F−3:下記の化合物
【0275】
【化58】

【0276】
・F−4:下記の化合物(前述のX−31)
【0277】
【化59】

【0278】
・F−5:下記の化合物(前述のM−12)
【0279】
【化60】

【0280】
・F−6:HFPO−CONH−C−(CH2OCOCH=CH2)2H(ここで、“HFPO−”は、F(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)−においてpの平均値が6〜7のもの)
・F−7:LINC5A(下記構造)(共栄社化学製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物)
【0281】
【化61】

【0282】
・F−8:下記の化合物
【0283】
【化62】

【0284】
・F−9:下記の化合物(前述のFM−6)
【0285】
【化63】

【0286】
・F−10:下記の化合物(前述のFM−12)
【0287】
【化64】

【0288】
・F−11:下記の化合物(前述のMA14)
【化65】

【0289】
・DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
・A−TMMT:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業(株)NKエステル)
・PET30:ペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
【0290】
・IRGACURE 127:下記式(16)で示される化合物、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製
【0291】
【化66】

【0292】
(低屈折率層の作製)
作製したハードコートフィルム試料HC1の上に低屈折率層形成用組成物Ln−1をグラビアコーターを用いて塗布し、反射防止フィルム試料No.1を得た。乾燥条件は60℃、60秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600mW/cm2、照射量300mJ/cm2の照射量とした。低屈折率層の膜厚は95nmとした。
【0293】
ハードコートフィルム試料、及び低屈折率層形成用組成物を表に示す組み合わせで使用した以外は反射防止フィルムNo1と同様にしてそれぞれ反射防止フィルム試料No.2〜35を得た。
【0294】
(反射防止フィルムの鹸化処理)
作製した全ての反射防止フィルムに対して以下の処理を行った。1.5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.01mol/lの希硫酸水溶液を調製し、35℃ に保温した。作製した光学フィルムを前記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、前記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
このようにして、鹸化処理済みの反射防止フィルムを作製した。
【0295】
(反射防止フィルムの評価)
以下の方法により鹸化処理済みの反射防止フィルムの諸特性の評価を行った。結果を表6に示す。
【0296】
(1)反射率
反射防止フィルムの裏面に油性黒インキを塗った後、分光光度計V−550(日本分光(株)製)にアダプターARV−474を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5 °における出射角5 °の鏡面反射率を測定した。450〜650nmの平均反射率を算出し(表6に「反射率」として記載)、反射防止性を評価した。この平均反射率が小さいほど反射防止性に優れる。平均反射率としては1.4%以下が好ましい。
【0297】
(2)SW(スチールウール)耐傷性試験
ラビングテスターを用いて、以下の条件でこすりテストをおこなうことで、耐擦傷性の指標とした。
評価環境条件:25℃、60%RH
こすり材:スチールウール(日本スチールウール(株)製、ゲレードNo.0000)
試料と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に巻いて、バンド固定。
移動距離(片道):13cm、
こすり速度:13cm/秒、
荷重:500g/cm2、
先端部接触面積:1cm×1cm、こすり回数:10往復。
こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、こすり部分の傷を反射光で目視観察し、以下の基準で評価した。評価は上記テストを3回繰り返し、平均して5段階で評価した。
A :非常に注意深く見ても、全く傷が見えない。
B :非常に注意深く見ると僅かに傷が見える。
C :弱い傷が見える。
D :中程度の傷が見える。
E :一目見ただけで分かる傷がある。
【0298】
(3)消しゴム耐摩耗性試験
裏面に油性黒インキを塗ったガラス面上に反射防止フィルムを粘着剤で固定し、直径8mm、厚さ4mmにくりぬいた消しゴム、MONO(商品名、(株)トンボ鉛筆製)を擦り試験機のヘッドとして反射防止フィルムの表面に500g/cm2の荷重で垂直に上方から押し付けた後、25℃60RH%の条件下においてストローク長3.5cm、擦り速度1.8cm/sにて100往復擦った後、付着した消しゴムを除去後、試料の擦り部を目視で確認し、表面の傷つき度合いを評価した。評価は上記テストを3回繰り返し、平均して4段階で評価した。
A :キズが視認されない。
B :僅かにキズが認められる。
C :はっきりとキズが認められる。
D :擦りあと全面に強いキズが認められる。
【0299】
(4)表面抵抗値測定
20℃、15%RH条件下に試料を2時間置いた後に超絶縁抵抗/微小電流計TR8601((株)アドバンテスト製)を用いて測定し、表面抵抗値の常用対数(logSR)で示した。logSRがより低い方が帯電防止性が良好であり、本発明においては11.0未満であることが好ましい。
【0300】
(5)白濁
試料の裏側に油性黒インキを塗り、裏面の光反射を防止したA4サイズのサンプルを作製した。このサンプルを周囲が全て黒色の部屋で光を全て遮断し、太陽光源下で目視観察する事により以下の基準で評価した。
A:注意深く見ても膜表面が白味がかっていることがわからない。
B:注意深く見ると膜表面がやや白味がかっているのがわかるが気にならない。
C:膜表面が白味を帯びており気になる。
D:一目見ただけで膜表面が白濁しているのがわかり非常に気になる。
【0301】
(6)白汚れ
試料の裏側に油性黒インキを塗り、裏面の光反射を防止したA4サイズのサンプルを作製した。このサンプルの一部を木綿の布で拭いた後、周囲が全て黒色の部屋で光を全て遮断し、太陽光源下で目視観察する事により以下の基準で評価した。
A:注意深く見ても拭き跡がわからない。
B:拭いたところの白味がなくなったのがうっすらと見える。
C:拭いたところの白味がなくなったのがはっきりと見える。
【0302】
(7)点状欠陥評価
試料の裏側に油性黒インキを塗り、裏面の光反射を防止したサンプルを作製した。周囲が全て黒色の部屋で光を全て遮断し、三波長蛍光灯(FL20SS・EX−N/18(松下電器産業(株)製)の付いた電気スタンド(蛍光灯部に拡散シートを貼り拡散光とする)で試料面を照射し、30m2分の試料を目視観察する事により点状欠陥個数を数えた。
【0303】
(8)防汚性試験<マジック拭き取り耐久性>
フィルムをガラス面上に粘着剤で固定し、25℃60RH%の条件下で黒マジック「マッキー極細(商品名:ZEBRA製)」のペン先(細)にて直径5mmの円形を3周書き込み、5秒後に10枚重ねに折り束ねたベンコット(商品名、旭化成(株))でベンコットの束がへこむ程度の荷重で5往復拭き取る。マジック後が拭き取りで消えなくなるまで前記の書き込みと拭き取りを前記条件で繰り返し、拭き取りできた回数により防汚性を評価する。
消えなくなるまでの回数は5回以上であることが好ましく、10回以上であることが更に好ましい。
【0304】
【表6】

【0305】
また、いずれの実施例の光学フィルムにおいても、透明支持体として膜厚60μmのセルローストリアセテートフィルムの代わりに膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(TDH80UF)、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルム(T40UZ)(以上、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)を用いた場合にも、本発明の実施例と同様の効果が得られた。」

イ 引用発明
前記(ア)〜(ウ)(特に(ウ))によると、甲13には、比較例に係る反射防止フィルム6(反射防止フィルム試料No.6)として、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明13」という。)。

「膜厚60μmの透明支持体としてのセルローストリアセテートフィルム(TDH60UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48)上に、下記ハードコート層用塗布液HC−2をグラビアコーターを用いて塗布し、60℃で約2分間乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2、照射量150mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ12μmのハードコートフィルムHC−2を形成し、
作製したハードコートフィルムHC−2の上に下記低屈折率層組成物をグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥条件は60℃、60秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600mW/cm2、照射量300mJ/cm2として、低屈折率層の膜厚が95nmの反射防止フィルム試料No6を得て、鹸化処理を行い、反射率が1.20%である、反射防止フィルム。
ここで、
ハードコート層用塗布液HC−2は、多官能モノマー:A−TMMT 97%、Irg.184 3%、レベリング剤:FP1 0.1%、溶剤:MEK/酢酸メチルからなり、
・A−TMMT:ペンタエリスリトールテトラアクリレート( 新中村化学工業(株)NKエステル)、
・Irg.184:光重合開始剤、イルガキュア184(チバ・ジャパン(株)製)、
・FP1:下記式で示されるフッ素含有レベリング剤、

・MEK:メチルエチルケトン、
であり、
低屈折率層組成物は、フッ素ポリマー:A 29%、フッ素モノマー:F−2 25%、無機微粒子:B−1/B−2 35%/5%、Irg.127 3%、シリコーン化合物:SI−1/SI−2/SI−3 1.5%/0.5%/1%からなり、各成分の添加量は「質量%」を表し、
・A:エチレン性不飽和基を有する含フッ素重合体(メタアクリル変性フッ素重合体)、
・F−2:トリアクリロイルヘプタデカフルオロノネニルペンタエリスリトール(下記構造)(LINC3A、共栄社化学製(ペンタエリスリトールテトラアクリレートを35質量%含む))、

・B−1:特開2002−79616号公報の調製例4から調製時の条件を変更して、内部に空洞を有するシリカ微粒子を作製し、最終ステップで水分散液状態からメタノールに溶媒置換し、20%シリカ分散液とし、平均粒子径60nm、シェル厚み約7nm、シリカ粒子の屈折率1.25の粒子が得られ、これを分散液(A−1)とし、分散液(A−1)の500部に対してアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン20部、およびジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート1.5部加え混合した後に、イオン交換水を9部を加え、60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8部を添加し、総液量がほぼ一定になるようにMEKを添加しながら減圧蒸留により溶媒を置換し、最終的に固形分が20%になるように調節して調製した分散液、
・B−2:MEK−ST、日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ(平均粒子サイズ約15nm)、
・Irg.127:下記式(16)で示される化合物、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、

・SI−1:Rad2600、EVONIK社製シリコーン変性アクリレート、数平均分子量:16,000、
・SI−2:Rad2500、EVONIK社製シリコーン変性アクリレート、数平均分子量:1,500、
・SI−3:サイラプレーンFM−0725、下記式(24)で示されるシリコーン化合物、チッソ社製、数平均分子量:10,000、

[式(24)中、nは、化合物の数平均分子量が10,000となる整数である。]、
である。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明13とを対比する。
(ア)引用発明13の「ハードコートフィルムHC−2」は、技術的にみて、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当する。

(イ)引用発明13の「低屈折率層」は、技術的にみて、本件特許発明1の「低屈折層」に相当する。
また、引用発明13の「低屈折率層組成物」の構成(組成)からみて、「低屈折率層組成物」が光硬化した樹脂は、低屈折率層のバインダー樹脂であるといえる。
そうすると、引用発明13の「低屈折率層組成物」が光硬化した樹脂は、本件特許発明1の「低屈折率層」の「バインダー樹脂」に相当する。

(ウ)引用発明13の「分散液」「B−1」の「内部に空洞を有するシリカ微粒子」は、「平均粒子径60nm、シェル厚み約7nm」であるから、中空状の無機ナノ粒子であるといえる。また、「シリカ微粒子」の半径に対する「シェル厚み」の比率は、約0.23(7/30)である。
そうすると、引用発明13の「分散液」「B−1」の「内部に空洞を有するシリカ微粒子」は、本件特許発明1の「中空状無機ナノ粒子」に相当し、本件特許発明1の「前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、」「[数式1] 中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)」という要件を満たしている。

(エ)引用発明13の「B−2」は、「MEK−ST、日産化学工業(株)製、コロイダルシリカ(平均粒子サイズ約15nm)」であるから、「B−2」のシリカ粒子は、無機ナノ粒子であるといえる。また、このコロイダルシリカの商品名、及びこのコロイダルシリカのシリカ粒子が「中空状シリカ微粒子」と区別され、対比されるものであることに鑑みると、引用発明13の「B−2」のシリカ粒子は、中実状であるといえる。
そうすると、引用発明13の「B−2」のシリカ粒子は、本件特許発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子」に相当し、本件特許発明1の「前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり」という要件を満たしている。

(オ)引用発明13の「低屈折率層」の形成方法からみて、引用発明13の「分散液」「B−1」の「内部に空洞を有するシリカ微粒子」及び「B−2」のシリカ粒子は、「低屈折率層組成物」が光硬化した樹脂に分散しているといえる。

(カ)引用発明1においては、「ハードコートフィルムHC−2の上に」「低屈折率層組成物」が「グラビアコーターを用いて塗布」されているから、「低屈折率層」は「ハードコートフィルムHC−2」の一面に形成されているといえる。

(キ)前記(イ)〜(カ)により、引用発明13の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「低屈折層」における、「前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む」という要件を満たしている。

(ク)引用発明13の「反射防止フィルム」は、その文言のとおり、本件特許発明1の「反射防止フィルム」に相当する。また、前記(ア)〜(キ)及び引用発明13の構成からみて、引用発明13の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「ハードコート層;並びに 前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み」という要件を満たしている。

(ケ)前記(エ)より、引用発明13の「B−2」のシリカ粒子は、本件特許発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し」という要件を満たしている。

(コ)引用発明13の「低屈折率層組成物」に含まれる「フッ素モノマー:F−2」「トリアクリロイルヘプタデカフルオロノネニルペンタエリスリトール」「(LINC3A、共栄社化学製(ペンタエリスリトールテトラアクリレートを35質量%含む)」は、光重合性化合物である。そうすると、引用発明13の「低屈折率層組成物」が光硬化したものは、光重合性化合物の重合体を含んでいるといえる。
したがって、引用発明1の「低屈折率層組成物」が光硬化したものは、本件特許発明1の「前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み」という要件を満たしている。

イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と引用発明13は次の点で一致する。
「ハードコート層;並びに
前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含む、
反射防止フィルム。
[数式1]
中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。」

ウ 相違点
他方、本件特許発明1と引用発明13は次の点で相違する。
(相違点13−1)
本件特許発明1は、「前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層全体厚さの30%以内に前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から上記低屈折層全体厚さの30%超過の領域に上記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、」ているのに対し、引用発明13は、そのような構成を有しているのかが明らかでない点。

(相違点13−2)
本件特許発明1は、「前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有」するのに対し、引用発明13は、そのような構成を有しているのかが明らかでない点。

(相違点13−3)
「低屈折層における」「ソリッド状無機ナノ粒子」の含有量が、本件特許発明1は、「光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部」であるのに対し、引用発明13は、後述するように「62.5〜200重量部」の範囲内であるとはいえない点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点13−3について検討する。

(ア)相違点13−3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲13記載された発明であるということはできない。

(イ)引用発明13の「B−2」はコロイダルシリカであり、一般にコロイダルシリカ中に分散されているシリカの濃度が20〜30重量%程度であることを考慮すると、引用発明13において、「B−2」のシリカ粒子は、「フッ素モノマー:F−2」の重合体100重量部に対し、6重量部程度であり(100×(5%/25%)×0.3)、「62.5重量部」と大きく離れている。また、引用発明13において、低屈折率層が、「B−2」のシリカ粒子を、「フッ素モノマー:F−2」の重合体100重量部対比で、62.5〜200重量部含むようにする動機付けを見いだすことはできない。たしかに、甲13(【0102】、【0112】)に、「フッ素含有多官能モノマーの含有量」や「中実シリカ微粒子の含有量」を調整できることは記載されているものの、「B−2」のシリカ粒子を、「フッ素モノマー:F−2」の重合体100重量部対比で、62.5〜200重量部とすることは示唆されていないし、具体的に何をどのように調整して、「B−2」のシリカ粒子を、「フッ素モノマー:F−2」の重合体100重量部対比で、62.5〜200重量部とするのかも明らかでない。
また、特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項が周知技術であったとしても、前記動機付けがない以上、引用発明13において当該技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、引用発明13において、相違点13−3に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、前記相違点13−3に係る構成を有することにより、「低い反射率および高い透光率を有しかつ、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる」(本件特許明細書【0124】)という効果を奏するものである。

オ 甲13に実施例又は比較例として記載された反射防止フィルムNo7〜28、31〜35を引用発明としても、前記エと同様である。

カ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲13に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3)本件特許発明2〜5及び7〜9について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜5及び7〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜5及び7〜9は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲13に記載された発明ではなく、また、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2〜5及び7〜9も、甲13に記載された発明ではなく、また、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲13に記載された、引用発明13の反射防止フィルムの製造方法の発明とを対比すると、両者は少なくとも前記相違点13−3と同様の点で相違する。
そうすると、前記相違点13−3についての検討において示した理由と同様の理由により、本件特許発明10は、甲13に記載された発明ではなく、また、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(5)本件特許発明11〜15について
本件特許の特許請求の範囲の請求項11〜15は、いずれも、請求項10を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明11〜15は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(4)のとおり、本件特許発明10が、甲13に記載された発明ではなく、また、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明11〜15も、甲13に記載された発明ではなく、また、甲13に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 甲1を主たる引用例とする場合の進歩性について
(1)引用文献の記載・引用発明
ア 甲1の記載
令和3年2月9日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由で引用された甲1(国際公開第2012/147527号)には、次の事項が記載されている。なお、下線([0012]の「低屈折率層」の下線、[0050]の「ハードコート層」の下線を除く。)は当合議体が付した。

(ア)「技術分野
[0001]本発明は、反射防止フィルム、偏光板及び画像表示装置に関する。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0007]本発明は、上記現状に鑑みて、充分な防汚性能と表面硬度と均一な表面とを有するとともに、低屈折率層の屈折率が充分に低い低屈折率層を備え、優れた反射防止性能を有する反射防止フィルム、該反射防止フィルムを用いてなる偏光板及び画像表示装置を提供することを目的とするものである。」

(イ)「課題を解決するための手段
[0008]本発明は、光透過性基材の上にハードコート層が形成され、上記ハードコート層の上に低屈折率層が形成された反射防止フィルムであって、上記低屈折率層は、(メタ)アクリル樹脂、中空状シリカ微粒子、反応性シリカ微粒子及び防汚剤を含有し、かつ、上記低屈折率層中の反応性シリカ微粒子は、上記ハードコート層側の界面近傍及び/又は前記ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在していることを特徴とする反射防止フィルムである。
・・・(中略)・・・
以下に、本発明を詳細に説明する。
[0011]本発明は、光透過性基材の上にハードコート層が形成され、上記ハードコート層の上に低屈折率層が形成された反射防止フィルムである。
本発明者らは、上記構成の反射防止フィルムについて鋭意検討した結果、ハードコート層に反応性シリカ微粒子を含有させ、更に、低屈折率層に反応性シリカ微粒子と中空状シリカ微粒子とを含有させることで、上記低屈折率層中の反応性シリカ微粒子がハードコート層と反対側界面近傍に偏在し、また、低屈折率層中の中空状シリカ微粒子が密に充填された状態となり、所望の効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明の反射防止フィルムを構成する各層について詳細に説明する。
[0012]低屈折率層
上記低屈折率層とは、本発明の反射防止フィルムを構成する光透過性基材やハードコート層等、低屈折率層以外の構成物の屈折率よりも低い屈折率であるものをいう。
本発明の反射防止フィルムにおいて、上記低屈折率層は、(メタ)アクリル樹脂、中空状シリカ微粒子、反応性シリカ微粒子及び防汚剤を含有するものである。
[0013]上記中空状シリカ微粒子は、低屈折率層の層強度を保持しつつ、その屈折率を下げる役割を果たすものである。なお、本明細書において、「中空状シリカ微粒子」とは、内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体であり、シリカ微粒子本来の屈折率に比べて気体の占有率に比例して屈折率が低下するシリカ微粒子を意味する。
また、本発明においては、シリカ微粒子の形態、構造、凝集状態、上記低屈折率層を形成する際に用いられる後述する低屈折率層用組成物を用いて形成した塗膜の内部での分散状態により、内部及び/又は表面の少なくとも一部にナノポーラス構造の形成が可能なシリカ微粒子も含まれる。
[0014]本発明の反射防止フィルムにおいて、上記中空状シリカ微粒子は、上記低屈折率層中で密に充填された状態で含有されている。このため、上記低屈折率層の表面の均一性が優れたものとなり、本発明の反射防止フィルムは、表面硬度に優れたものとなる。
なお、上記「密に充填された状態」とは、隣接する中空状シリカ微粒子間に後述する反応性シリカ微粒子が殆ど存在しておらず、最密充填構造に類似の状態を形成していることを意味する。
[0015]上記中空状シリカ微粒子が上記低屈折率層中で密に充填された状態で含有されるのは、後述するように上記低屈折率層に含まれる反応性シリカ微粒子が、低屈折率層のハードコート層側界面近傍又はハードコート層と反対側界面近傍に偏在しているからであると推測される。すなわち、上記低屈折率層は、中空状シリカ微粒子、反応性シリカ微粒子及び(メタ)アクリル樹脂のモノマー成分を含む組成物(以下、低屈折率層用組成物ともいう)を、ハードコート層上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥、硬化させることで形成される。上記塗膜を形成したとき、該塗膜に含まれる反応性シリカ微粒子は、後述するように上記ハードコート層側の界面近傍又はハードコート層の反対側の界面近傍に移動する。このため、形成した塗膜中において、隣接する中空状シリカ微粒子間に反応性シリカ微粒子が殆ど存在していないこととなり、その結果、形成する低屈折率層における中空状シリカ微粒子は、密に充填された状態になるものと推測される。
[0016]上記中空状シリカ微粒子の具体例としては特に限定されず、例えば、特開2001−233611号公報で開示されている技術を用いて調製したシリカ微粒子が好ましく挙げられる。中空状シリカ微粒子は、製造が容易でそれ自身の硬度が高いため、有機系バインダーと混合して低屈折率層を形成した際、その層強度が向上され、かつ、屈折率が低くなるよう調整することが可能となる。
・・・(中略)・・・
[0018]上記中空状シリカ微粒子の平均粒子径としては、10〜100nmであることが好ましい。中空状シリカ微粒子の平均粒子径がこの範囲内にあることにより、低屈折率層に優れた透明性を付与することができる。より好ましい下限は40nm、より好ましい上限は80nm、更に好ましい下限は45nm、更に好ましい上限は75nm、最も好ましい下限は50nm、最も好ましい上限は70nmである。
なお、上記中空状シリカ微粒子の平均粒子径は、該中空状シリカ微粒子単独の場合、動的光散乱法により測定された値を意味する。一方、上記低屈折率層中の中空状シリカ微粒子の平均粒子径は、低屈折率層の断面をSTEM等で観察し、任意の中空状シリカ微粒子30個を選択してその断面の粒子径を測定し、その平均値として算出される値である。
[0019]また、上記中空状シリカ微粒子の空隙率としては、1.5〜80.0%であることが好ましい。1.5%未満であると、低屈折率層の屈折率を充分に低くできず、本発明の反射防止フィルムの反射防止性能が不充分となることがある。80.0%を超えると、上記中空状シリカ微粒子の強度が低下して低屈折率層全体の強度が不充分となることがある。上記中空状シリカ微粒子の空隙率は、より好ましい下限が6.4%、より好ましい上限が76.4%であり、更に好ましい下限が20.0%、更に好ましい上限が55.0%である。この範囲の空隙率を有することで、低屈折率層を、充分に低屈折率化させることができるとともに、優れた強度を有するものとすることができる。
なお、上記中空状シリカ微粒子の空隙率は、中空状シリカ微粒子の断面STEM観察等により、その直径及び空隙部分を除いた外殻部分の厚みを測定し、中空状シリカ微粒子が球体であるとして、中空状シリカ微粒子の空隙部分の体積、及び、空隙部分がないとしたときの中空状シリカ微粒子の体積を算出し、{(中空状シリカ微粒子の空隙部分の体積)/(空隙部分がないとしたときの中空状シリカ微粒子の体積)}×100より算出することができる。
・・・(中略)・・・
[0021]また、上記中空状シリカ微粒子は、低屈折率層に含まれる後述する(メタ)アクリル樹脂に対する配合比(中空状シリカ微粒子の含有量/(メタ)アクリル樹脂の含有量)が、0.90〜1.60であることが好ましい。上記配合比が0.90未満であると、上記低屈折率層の屈折率が充分に低くならず、本発明の反射防止フィルムの反射防止性能が不充分となることがある。上記配合比が1.60を超えると、低屈折率層の表面の均一性が不充分となり、本発明の反射防止フィルムの表面硬度が不充分となることがある。上記配合比のより好ましい下限は1.00、より好ましい上限は1.50である。この範囲内にあることで、より優れた反射防止性能と表面均一性及び表面硬度とを備えた反射防止フィルムとすることができる。また、低屈折率層の表面均一性が上がることにより、表面硬度(耐擦傷性)が向上する。
[0022]本発明の反射防止フィルムにおいて、上記中空状シリカ微粒子は、低屈折率層の厚さ方向に2段に積層された最密充填構造であることが好ましい。このような状態で含有されていることで、本発明の反射防止フィルムの透明性、表面の均一性及び低屈折率性等を極めて優れたものとすることができる。
[0023]上記反応性シリカ微粒子は、低屈折率層の後述するハードコート層側の界面近傍及び/又は後述するハードコート層と反対側の界面近傍に偏在しており、該低屈折率層の屈折率を下げるとともに、その表面硬度を高くする役割を果たすものである。
上記反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層側の界面近傍及び該ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在している場合、表面硬度と防汚性とがともに優れたものができる。
また、上記反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在している場合、低屈折率層のハードコート層と反対側界面近傍に後述する防汚剤が偏在し、最表面に反応性シリカが存在する場合と比較して防汚剤の最表面での存在量が増えるため、本発明の反射防止フィルムの防汚性能が極めて優れたものとなる。一方、上記反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層と反対側の界面近傍に偏在している場合、該反応性シリカ微粒子の偏在による低屈折率層の表面硬度の更なる向上が得られる。
また、上記低屈折率層中では上述のように中空状シリカ微粒子が密に充填された状態となっているため、低屈折率層の表面均一性が優れたものとなることによる表面硬度の向上も図ることができる。この結果、本発明の反射防止フィルムの耐擦傷性が優れたものとなる。
ここで、上記「ハードコート層側の界面近傍、又は、後述するハードコート層と反対側の界面近傍に偏在している」とは、上記低屈折率層中で、上記反応性シリカ微粒子が密に充填された状態にある上述した中空状シリカ微粒子の下方(ハードコート層側)又は上方(ハードコート層と反対側)に存在していることを意味する。より具体的には、上記低屈折率層の断面において、該低屈折率層の厚さを3等分し、上記ハードコート層側の界面から順に1/3領域、2/3領域、3/3領域としたとき、1/3領域に反応性シリカ微粒子の70%以上が含まれている場合を、反応性シリカ微粒子がハードコート層側の界面近傍に偏在していると判断し、上記3/3領域に反応性シリカ微粒子の70%以上が含まれている場合を、反応性シリカ微粒子がハードコート層と反対側の界面近傍に偏在していると判断する。そして、上記1/3領域と3/3領域とに上記反応性シリカ微粒子の合計70%以上が偏在しており、かつ、1/3領域、3/3領域のそれぞれ偏在している反応性シリカ微粒子の量が、2/3領域に含まれる反応性シリカ微粒子の量よりも多い場合、上記反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層側の界面近傍及び該ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在していると判断する。
なお、このような反応性シリカ微粒子が偏在している状態は、本発明の反射防止フィルムを厚さ方向に切断した際の低屈折率層の断面顕微鏡観察(STEM、TEM)により容易に判別することができる。
[0024]上記反応性シリカ微粒子が上記低屈折率層中でハードコート層側界面近傍及び/又はハードコート層と反対側界面近傍に偏在している理由は明確ではない。しかしながら、例えば、後述するハードコート層が反応性シリカ微粒子を含有する場合、該ハードコート層中の反応性シリカ微粒子の添加量を調整することで、上記低屈折率層中の反応性シリカ微粒子の偏在を制御することが可能である。
すなわち、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を含有しない場合、該ハードコート層上に低屈折率層を形成すると、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層側界面近傍に偏在させることができる。一方、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を、ハードコート層を構成する樹脂成分100質量部に対して25質量部を超え、60質量部以下の範囲で含有する場合、該ハードコート層上に低屈折率層を形成すると、低屈折率層の反応性シリカ微粒子をハードコート層と反対側界面近傍に偏在させることができる。更に、上記ハードコート層が反応性シリカ微粒子を、ハードコート層を構成する樹脂成分100質量部に対して、15〜25質量部の範囲で含有する場合、上記低屈折率層の反応性シリカ微粒子を上記低屈折率層のハードコート層側界面近傍及びハードコート層と反対側界面近傍に偏在させることができる。
[0025]上記反応性シリカ微粒子としては、市販品を用いることもでき、例えば、MIBK−SDL、MIBK−SDMS、MIBK−SD(以上、いずれも日産化学工業社製)、DP1021SIV、DP1039SIV、DP1117SIV(以上、いずれも日揮触媒化成社製)等が挙げられる。
[0026]上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径としては、1〜25nmであることが好ましい。1nm未満であると、凝集しやすく、充填度が低くなって得られる低屈折率層に充分な強度が得られないことがある。一方、25nmを超えると、低屈折率層に表面凹凸が形成され、充分な強度が得られないことがある。また、反射率の上昇を引き起こし、後述する防汚剤を含有することによる充分な防汚性を発現しにくくなる。
上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径のより好ましい下限は5nm、より好ましい上限は20nmである。この範囲にあることで、本発明の反射防止フィルムの低反射率・高硬度を維持できる。
なお、本明細書において、上記反応性シリカ微粒子の平均粒子径は、BET法やSTEMなどの断面観察(30個の平均値)により測定した値を意味する。
[0027]上記低屈折率層における上記反応性シリカ微粒子の含有量としては、後述する(メタ)アクリル樹脂100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましい。5質量部未満であると、上記低屈折率層の表面硬度を充分に高くすることができず、本発明の反射防止フィルムの耐擦傷性が劣ることがある。60質量部を超えると、上述した低屈折率層中で偏在した状態にない反応性シリカ微粒子量が増え、中空状シリカ微粒子が上述した密に充填された状態とならず、その結果、低屈折率層の表面の均一性が劣ることがあり、反射率の上昇を引き起こす可能性もある。上記反応性シリカ微粒子の含有量のより好ましい下限は10質量部、より好ましい上限は50質量部である。この範囲で反応性シリカ微粒子が含有されていることで、本発明の反射防止フィルムの表面硬度を極めて優れたものとすることができる。
[0028]上記(メタ)アクリル樹脂は、上記低屈折率層において、上述した中空状シリカ微粒子や反応性シリカ微粒子のバインダー成分として機能するものである。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリルモノマーの重合体又は共重合体が挙げられ、上記(メタ)アクリルモノマーとしては特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等が好適に挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0043]上記低屈折率層用組成物は、溶剤を含有することが好ましい。
上記溶剤としては、なかでも、メチルイソブチルケトン(MIBK)と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)との混合溶剤であることが好ましい。このような混合溶剤を用いることで、含有する溶剤の乾燥時間が異なるため、上述した構造の低屈折率層を好適に形成することができる。
上記混合溶剤におけるMIBKと、PGME又はPGMEAとの混合比としては、好ましくは質量比で(MIBK/PGME又はPGMEA)=(95/5)〜(30/70)である。上記範囲の混合比を満たすことで、特に好適に上述した構造の低屈折率層を形成することが可能となる。より好ましくは(80/20)〜(40/60)である。
・・・(中略)・・・
[0050]ハードコート層
本発明の反射防止フィルムは、光透過性基材と低屈折率層との間にハードコート層を有する。
なお、本明細書において、「ハードコート層」とは、JIS K5600−5−4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で2H以上の硬度を示すものをいう。上記鉛筆硬度は、3H以上であることがより好ましい。また、上記ハードコート層の膜厚(硬化時)としては1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは2〜15μmである。
・・・(中略)・・・
[0054]上記ハードコート層は、上記反応性シリカ微粒子と、樹脂とその他の任意成分とを含有するハードコート層用組成物により形成されてなるものが挙げられる。
上記樹脂としては、透明性のものが好適に用いられ、具体的には、紫外線若しくは電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂と溶剤乾燥型樹脂(塗工時に固形分を調整するために添加した溶剤を乾燥させるだけで、被膜となるような樹脂)との混合物、又は、熱硬化型樹脂等が挙げられ、好ましくは電離放射線硬化型樹脂が挙げられる。
[0055]上記電離放射線硬化型樹脂の具体例としては、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のモノマー、オリゴマー又はプレポリマー等が挙げられる。その他、上記低屈折率層で用いられた(メタ)アクリル樹脂がハードコート層にも用いられ、なかでも、官能基数が3以上の(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0077]本発明の反射防止フィルムは、低屈折率層が、その表面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子を有することにより表面硬度が優れたものとなる。また、従来の反射防止フィルムは、低屈折率層の表面に微小な凹凸が存在していたことが耐擦傷性に劣る原因の一つであったが、上記構造の低屈折率層は、中空状シリカ微粒子が密に充填された状態にあるため、極めて均一な表面を有する。このため、本発明の反射防止フィルムは、表面硬度に極めて優れたものとなる。更に、本発明の反射防止フィルムは、低屈折率層が上記中空状シリカ微粒子と反応性シリカ微粒子で主に構成されるため、屈折率を充分に低いものとすることができ、優れた反射防止性能を有するものとすることができる。」

(ウ)「発明を実施するための形態
[0079]本発明の内容を下記の実施例により説明するが、本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。特別に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。更に、特に断りの無い限り、各成分量は固形分量である。
・・・(中略)・・・
[0081](ハードコート層用組成物(2)の調製)
下記に示す各成分を混合してハードコート層用組成物(2)を調製した。
ポリエステルアクリレート(アロニックスM−9050、東亞合成社製、3官能) 5質量部
ウレタンアクリレート(UV1700B、日本合成社製、10官能) 11質量部
重合開始剤(イルガキュア184;BASF社製) 0.5質量部
メチルエチルケトン 10質量部
なお、ハードコート層用組成物(2)中のレベリング剤の固形分質量比は0.10%であった。
・・・(中略)・・・
[0084](低屈折率層用組成物(2)の調製)
下記に示す成分を混合して低屈折率層用組成物(2)を調製した。
中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部
反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部
防汚剤(RS−74、DIC社製、20質量%溶液;メチルエチルケトン) 0.01質量部
防汚剤(TU2225、JSR社製、15質量%溶液;メチルイソブチルチルケトン) 0.01質量部
重合開始剤(イルガキュア127;BASF社製) 0.01質量部
MIBK 3質量部
PGME 2質量部
・・・(中略)・・・
[0094](実施例1)
セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(1)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布した。50℃にて30秒乾燥し、紫外線50mJ/cm2を照射してハードコート層を形成した。
次に、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(1)を、乾燥(25℃×30秒−70℃×30秒)後の膜厚が0.1μmとなるように塗布した。そして、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、照射線量192mJ/m2で紫外線照射を行って硬化させて、反射防止フィルムを得た。膜厚は、反射率の極小値が波長550nm付近になるように調整して行った。
得られた反射防止フィルムの低屈折率層において、中空状シリカ微粒子の(メタ)アクリル樹脂に対する配合比(中空状シリカ微粒子の含有量/(メタ)アクリル樹脂の含有量)は1.60であった。
・・・(中略)・・・
[0096](実施例3)
セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(2)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布してハードコート層を形成し、次いで、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(2)を用いて低屈折率層を形成した以外は、実施例1と同様にして反射防止フィルムを得た。
・・・(中略)・・・
[0109](評価)
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムについて、以下に示す各評価を行った。結果を表1に示した。
[0110](反射率の測定)
得られた各反射防止フィルムの裏面反射を防止するための黒色テープを貼り、低屈折率層の面から、島津製作所製、分光反射率測定機「MCP3100」を用い、波長域380〜780nmでの5°正反射Y値を測定した。結果を下記の基準にて評価した。5°正反射Y値は、5°正反射率を380〜780nmまでの波長範囲で測定し、その後、人間が目で感じる明度として換算するソフト(MCP3100に内蔵)で算出される、視感反射率で示す値である。
評価基準
○:5°正反射Y値が、1.5%未満
×:5°正反射Y値が、1.5%以上
[0111](耐擦傷性)
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムの低屈折率層の表面を、#0000番のスチールウールを用いて、所定の摩擦荷重300g/cm2で10往復摩擦し、その後の塗膜の剥がれの有無を目視し、結果を下記の基準にて評価した。
:傷なし
○:傷が僅かにある
×:傷あり
[0112](防汚性)
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムの表面に、指紋を付着させた後、日本製紙クレシア社製キムワイプ(登録商標)を、150g/cm2荷重で30往復させて拭き取り、拭き取り性(指紋の残り具合)を、黒テープを貼り、蛍光灯下で目視にて下記の基準にて評価した。
◎:指紋が残らない
○:指紋が僅かに残っている
×:指紋が残っている
[0113]
[表1]

(当合議体注:[表1]は、便宜上、時計回りに90°回転したものである。)
[0114](低屈折率層の断面観察)
実施例及び比較例で得られた反射防止フィルムを厚さ方向に切断し、それぞれの断面をSTEM(印加電圧:30.0kV、倍率:20万倍)で観察した。実施例1の結果を図1、実施例7の結果を図2、比較例1の結果を図3、比較例2の結果を図4にそれぞれ示した。なお、比較例1で得られた反射防止フィルムは、断面観察時に厚さ約150nmのカーボンからなる蒸着層を形成した。また、図1〜4の右下には、1目盛が20nmのスケールを示している。
[0115]図1、2より、実施例1に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、また、実施例7に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層側の界面近傍及び該ハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、いずれも中空状シリカ微粒子が密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態であった。
また、図示しないが、実施例3に係る反射防止フィルムは、低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、中空状シリカ微粒子も密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態にあった。また、図示しないが、実施例2、4〜6、8に係る反射防止フィルムは、いずれも、低屈折率層のハードコート層と反対側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、中空状シリカ微粒子も密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態であった。
また、表1より、実施例に係る反射防止フィルムは、いずれも充分な防汚性、反射防止性能及び耐擦傷性を有していた。
実施例の結果より、耐擦傷性は、以下の場合に最も良好となることが分かった。
反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層と反対側に偏在しており、かつ、偏在している反応性シリカ微粒子量が最適((メタ)アクリル樹脂100質量部に対して30質量部以上)である場合。
ハードコート層にも反応性シリカ微粒子が含有されていることで、低屈折率層の下地となる層(光透過性基材及びハードコート層)全体の硬度が高い場合。
また、防汚性については、反応性シリカ微粒子が低屈折率層のハードコート層側に偏在している場合に最も良好となることが分かった。これは、低屈折率層の最表面に反応性シリカ微粒子がない分、防汚剤自身が低屈折率層の表面に出てきやすく、低屈折率層の最表面全体に防汚剤が存在しているためと推測される。」

イ 引用発明
前記(ア)〜(ウ)(特に(ウ))によると、甲1には、実施例3に係る発明として、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明1」という。)。

「セルローストリアセテートフィルム(厚み80μm)の片面に、ハードコート層用組成物(2)を湿潤重量30g/m2(乾燥重量15g/m2)塗布し、50℃にて30秒乾燥し、紫外線50mJ/cm2を照射してハードコート層を形成し、
次いで、形成したハードコート層の上に、低屈折率層用組成物(2)を、乾燥(25℃×30秒−70℃×30秒)後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、そして、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、照射線量192mJ/m2で紫外線照射を行って硬化させて、低屈折率層を形成し、
前記ハードコート層用組成物(2)は、
ポリエステルアクリレート(アロニックスM−9050、東亞合成社製、3官能) 5質量部
ウレタンアクリレート(UV1700B、日本合成社製、10官能) 11質量部
重合開始剤(イルガキュア184;BASF社製) 0.5質量部
メチルエチルケトン 10質量部
ハードコート層用組成物(2)中のレベリング剤の固形分質量比は0.10%、
を混合して調製され、
前記低屈折率層用組成物(2)は、
中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部
反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部
防汚剤(RS−74、DIC社製、20質量%溶液;メチルエチルケトン) 0.01質量部
防汚剤(TU2225、JSR社製、15質量%溶液;メチルイソブチルチルケトン) 0.01質量部
重合開始剤(イルガキュア127;BASF社製) 0.01質量部
MIBK 3質量部
PGME 2質量部
を混合して調製され、
波長域380〜780nmでの5°正反射Y値が1.5%未満であり、
低屈折率層のハードコート層側の界面近傍に偏在した反応性シリカ微粒子が確認され、中空状シリカ微粒子も密に充填された状態にあり、低屈折率層の表面が極めて均一な状態である、
反射防止フィルム。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「ハードコート層」は、その文言のとおり、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当する。

(イ)引用発明1の「低屈折率層」は、技術的にみて、本件特許発明1の「低屈折層」に相当する。
また、引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」の構成(組成)からみて、「低屈折率層用組成物(2)」が硬化した樹脂は、低屈折率層のバインダー樹脂であるといえる。
そうすると、引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」が硬化した樹脂は、本件特許発明1の「低屈折率層」の「バインダー樹脂」に相当する。

(ウ)引用発明1の「中空状シリカ微粒子」は、平均粒子径が60nmであるから、無機ナノ粒子であるといえる。
そうすると、引用発明1の「中空状シリカ微粒子」は、本件特許発明1の「中空状無機ナノ粒子」に相当する。

(エ)引用発明1の「反応性シリカ微粒子」は、平均粒子径が12nmであるから、無機ナノ粒子であるといえる。また、甲1[0025]に例示された「反応性シリカ微粒子」の商品名、及び「反応性シリカ微粒子」が「中空状シリカ微粒子」と区別され、対比されるものであることに鑑みると、引用発明1の「反応性シリカ微粒子」は、ソリッド状(中実状)であるといえる。
そうすると、引用発明1の「反応性シリカ微粒子」は、本件特許発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子」に相当し、本件特許発明1の「前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり」という要件を満たしている。

(オ)前記(イ)及び引用発明1の「低屈折率層」の形成方法からみて、引用発明2の「中空状シリカ微粒子」及び「反応性シリカ微粒子」は、「低屈折率層用組成物(2)」が硬化した樹脂に分散しているといえる(甲1[0028]冒頭の記載からも確認できる。)。

(カ)引用発明1においては、「ハードコート層の上に」「低屈折率層を形成」するから、「低屈折率層」は「ハードコート層」の一面に形成されているといえる。

(キ)前記(イ)〜(カ)により、引用発明1の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む」という要件を満たしている。

(ク)引用発明1の「反射防止フィルム」は、その文言のとおり、本件特許発明1の「反射防止フィルム」に相当する。また、前記(ア)〜(キ)及び引用発明1の構成からみて、引用発明1の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「ハードコート層;並びに 前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み」という要件を満たしている。

(ケ)前記(エ)より、引用発明1の「反応性シリカ微粒子」は、本件特許発明1の「ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し」という要件を満たしている。

(コ)引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」に含まれる「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」は、光重合性化合物である。そうすると、引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」が硬化したものは、光重合性化合物の(共)重合体を含んでいるといえる。
したがって、引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」が硬化したものは、本件特許発明1の「前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み」という要件を満たしている。

(サ)引用発明1の「低屈折率層用組成物(2)」は、「中空状シリカ微粒子(該中空状シリカ微粒子の固形分:20質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:60nm、平均空隙率:29.6%) 0.8質量部」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 0.1質量部」、「反応性シリカ微粒子(該反応性シリカ微粒子の固形分:30質量%溶液;メチルイソブチルケトン、平均粒子径:12nm) 0.1質量部」を含んでいる。
そうすると、引用発明1の「低屈折率層」は、光重合性化合物である「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」の重合体100重量部対比、「反応性シリカ微粒子」30重量部を含んでいるといえる。

イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と引用発明1は次の点で一致する。
「ハードコート層;並びに
前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含む、
反射防止フィルム。」

ウ 相違点
他方、本件特許発明1と引用発明1は次の点で相違する。
(相違点1−1)
本件特許発明1は、「前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、」「[数式1] 中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)」であるのに対し、引用発明1は、そのような構成を有しているのかが明らかでない点。

(相違点1−2)
本件特許発明1は、「前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層全体厚さの30%以内に前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から上記低屈折層全体厚さの30%超過の領域に上記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、」いるのに対し、引用発明1は、そのような構成を有しているのかが明らかでない点。

(相違点1−3)
本件特許発明1は、「前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有」するのに対し、引用発明1は、そのような構成を有しているのかが明らかでない点。

(相違点1−4)
本件特許発明1は、「前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む」のに対し、引用発明1の「低屈折率層」は、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」の重合体100重量部対比、「反応性シリカ微粒子」30重量部を含む点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点1−4について検討する。
甲1の[0027]には、「上記低屈折率層における上記反応性シリカ微粒子の含有量としては、後述する(メタ)アクリル樹脂100質量部に対して、5〜60質量部であることが好ましい。・・・(中略)・・・60質量部を超えると、上述した低屈折率層中で偏在した状態にない反応性シリカ微粒子量が増え、中空状シリカ微粒子が上述した密に充填された状態とならず、その結果、低屈折率層の表面の均一性が劣ることがあり、反射率の上昇を引き起こす可能性もある。上記反応性シリカ微粒子の含有量のより好ましい下限は10質量部、より好ましい上限は50質量部である。この範囲で反応性シリカ微粒子が含有されていることで、本発明の反射防止フィルムの表面硬度を極めて優れたものとすることができる」と記載されている。
そうすると、引用発明1において、「反応性シリカ微粒子」を、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)」の重合体0.1質量部対比で0.06質量部を超えて含有させようとする動機付けはないといえる。
また、特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項が周知技術であったとしても、前記動機付けがない以上、引用発明1において当該技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、引用発明1において、相違点1−4に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、前記相違点1−4に係る構成を有することにより、「低い反射率および高い透光率を有しかつ、高い耐スクラッチ性および防汚性を同時に実現することができ、ディスプレイ装置の画面の鮮明度を高めることができる」(本件特許明細書【0124】)という効果を奏するものである。

オ 特許異議申立人が甲1に記載されているとする「甲1発明A」(特許異議申立書29〜30頁)を引用発明とした場合も、前記エと同様である。

カ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3)本件特許発明2〜5及び7〜9について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜5及び7〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜5及び7〜9は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2〜5及び7〜9も、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明10について
ア 本件特許発明10と甲1に記載された、引用発明1の反射防止フィルムの製造方法発明とを対比すると、両者は少なくとも前記相違点1−4と同様の点で相違する。
そうすると、前記相違点1−4についての検討において示した理由と同様の理由により、本件特許発明10は、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

イ 特許異議申立人が甲1に記載されているとする「甲1発明B」(特許異議申立書30〜31頁)を引用発明とした場合も、前記アと同様である。

(5)本件特許発明11〜15について
本件特許の特許請求の範囲の請求項11〜15は、いずれも、請求項10を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明11〜15は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(4)のとおり、本件特許発明10が、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明11〜15も、甲1に記載された発明及び特許異議申立人が提出した甲2〜15に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
1 請求項1〜5及び7〜15に係る特許は、いずれも、令和3年2月9日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由、令和3年11月18日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1〜5及び7〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

2 本件特許の請求項6は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

3 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層;並びに
前記ハードコート層の一面に形成され、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂に分散した中空状無機ナノ粒子およびソリッド状無機ナノ粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層全体厚さの30%以内に前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から上記低屈折層全体厚さの30%超過の領域に上記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記バインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体を含み、
前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比、前記ソリ ッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、
反射防止フィルム:
[数式1]
中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。
【請求項2】
前記中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さは、0.1nm〜60nmである、
請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記中空状無機ナノ粒子の粒子半径が35nm〜100nmである、
請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記低屈折層は、
前記ソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、
前記中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層とを含み、前記第1層が第2層に比べて前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面に
より近く位置する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記反射防止フィルムは、380nm〜780nmの可視光線波長帯領域で0.8%以下の平均反射率を示す、
請求項1から4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記低屈折層に含まれるバインダー樹脂は、光重合性化合物の(共)重合体および光反応性官能基を含む含フッ素化合物の間の架橋(共)重合体を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層は、
光硬化性樹脂を含むバインダー樹脂;
および前記バインダー樹脂に分散した帯電防止剤を含む、
請求項1から5、及び7のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層の他の一面に結合された基材をさらに含む、
請求項1から5、7〜8のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
光硬化型化合物またはその(共)重合体、光反応性官能基を含む含フッ素化合物、光開始剤、中空状無機ナノ粒子、およびソリッド状無機ナノ粒子を含む低屈折層形成用樹脂組成物をハードコート層上に塗布し、35℃〜100℃の温度で乾燥する段階と、
前記低屈折層形成用樹脂組成物の乾燥物を光硬化する段階と、を含み、
前記中空状無機ナノ粒子は、下記数式1による粒子半径に対するシェル層の厚さの比率が0.21以上0.3以下であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子が前記中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm3〜2.00g/cm3高い密度を有し、
前記ソリッド状無機ナノ粒子はソリッド状シリカナノ粒子であり、
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、1〜30nmの半径を有し、
前記低屈折層形成用樹脂組成物は、光硬化型化合物またはその(共)重合体100重量部に対して、前記ソリッド状無機ナノ粒子62.5〜200重量部を含む、
反射防止フイルムの製造方法:
[数式1]
中空状無機ナノ粒子の半径に対するシェル層の厚さの比率=(中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さ)/(中空状無機ナノ粒子の半径)。
【請求項11】
前記中空状無機ナノ粒子のシェル層の厚さは、0.1nm〜60nmである、
請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ハードコート層上に塗布された低屈折層形成用樹脂組成物は、40℃〜80℃の温度で乾燥する、
請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥する段階は、10秒〜5分間行われる、
請求項10から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ソリッド状無機ナノ粒子は、2.00g/cm3〜4.00g/cm3の密度を有し、
前記中空状無機ナノ粒子は、1.20g/cm3〜3.50g/cm3の密度を有する、
請求項10から13のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項15】
光硬化型化合物またはその(共)重合体、光開始剤、および帯電防止剤を含むハードコート層形成用高分子樹脂組成物を基材上に塗布し、光硬化する段階をさらに含む、
請求項10から14のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-01 
出願番号 P2018-503479
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
登録日 2020-04-13 
登録番号 6690808
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 反射防止フィルムおよびその製造方法  
代理人 重森 一輝  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 重森 一輝  
代理人 小野 誠  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 小野 誠  

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