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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1388333
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-09 
確定日 2022-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6693633号発明「炭素繊維前駆体用処理剤の水性液及び炭素繊維前駆体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6693633号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6693633号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6693633号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和元年10月7日の出願であって、令和2年4月20日に特許権の設定登録がされ、令和2年5月13日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年11月9日:特許異議申立人瀬田宏(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年1月19日付け:取消理由通知書
令和3年3月17日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年5月13日:申立人による意見書の提出
令和3年9月3日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年11月5日:特許権者による意見書、訂正請求書及び上申書の提出
令和3年12月15日:申立人による意見書の提出
令和4年2月9日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年4月13日:特許権者による意見書、訂正請求書及び上申書の提出
令和4年6月1日:申立人による意見書の提出

なお、令和3年3月17日提出の訂正請求書及び令和3年11月5日提出の訂正請求書による訂正の請求は、令和4年4月13日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和4年4月13日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6693633号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、」とあるのを、
「アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2〜5についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件訂正前の明細書の【0007】に
「上記課題を解決するために本発明の一態様である炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含むことを特徴とする。」とあるのを、
「上記課題を解決するために本発明の一態様である炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含むことを特徴とする。」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項1〜5は、請求項2〜5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1〜5〕について請求されている。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1において、「非イオン界面活性剤」の「分子量分布(Mw/Mn)」の範囲について、「1.05〜1.50」から「1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、明細書の【0057】の【表3】中の「実施例5」、「実施例6」、「実施例8」、「実施例9」及び「実施例11」の「非イオン界面活性剤分子量分布(Mw/Mn)」の欄の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正事項1が、請求項1において、「非イオン界面活性剤」の「分子量分布(Mw/Mn)」の範囲について、「1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50」のものに限定したことに伴い、本件特許明細書の【0007】の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、明細書の【0057】の【表3】中の「実施例5」、「実施例6」、「実施例8」、「実施例9」及び「実施例11」の「非イオン界面活性剤分子量分布(Mw/Mn)」の欄の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4〜6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1〜5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、
前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものであることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)
【請求項2】
前記アミノ変性シリコーンが、25℃の動粘度が50〜4000mm2/sのものである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項3】
前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミノ変性シリコーンと前記非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び前記水が50〜80質量部の割合で含有するものである請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比が、前記アミノ変性シリコーン/前記非イオン界面活性剤=95/5〜75/25である請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。」


第4 当審の判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和4年2月9日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
(1)(新規性)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)(進歩性)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明及び周知・慣用の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等>
甲第1号証:特開2016−56497号公報
甲第2号証:国際公開第2018/100788号
甲第3号証:株式会社東ソー分析センター,2020年10月13日付け“分析・試験報告書”,報告No QK2010006
甲第4号証:株式会社日本触媒,“界面活性剤 ソフタノ−ル”カタログ
甲第5号証:株式会社東ソー分析センター,2020年10月14日付け“分析・試験報告書”,報告No QK2010010
甲第6号証:“TSKgel/TOYOPERL総合カタログ2016−2018”[online],p.116〜119,インターネット<URL:https://separations.asia.tosohbioscience.com/litjp/productcat>

2 当審の判断
(1−1)本件発明1の甲第1号証を主引用発明とした進歩性について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、以下の記載がある。
・「【請求項1】
下記式(1a)で示されるヒドロキシ安息香酸エステル(A)と;
下記式(3e)で示されるアミノ変性シリコーン(H)と;
前記ヒドロキシ安息香酸エステル(A)と相溶し、空気雰囲気下での熱質量分析において300℃における残質量率R1が70質量%以上100質量%以下であり、かつ100℃で液体である有機化合物(X)と;
を含む、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤。
【化1】

(式(1a)中、R1aは炭素数8以上20以下の炭化水素基である。)
【化2】

(式(3e)中、qeおよびreは1以上の任意の数であり、seは1以上5以下であり、ジメチルシロキサンユニットとメチルアミノアルキルシロキサンユニットはランダムである。)」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液に関する。」
・「【0013】
本発明の目的は、炭素繊維束製造工程における単繊維間の融着を効果的に防止すると共に、操業性低下を抑制し、かつ集束性が良好な炭素繊維前駆体アクリル繊維束および機械的物性に優れた炭素繊維束を生産性よく得ることができ、しかも乳化剤の使用量が少なくても容易に乳化できる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液を提供することにある。」
・「【0036】
<アミノ変性シリコーン(H)>
アミノ変性シリコーン(H)は、前駆体繊維束との馴染みが良く、言い換えれば、アミノ変性シリコーン(H)のアミノ基とアクリル繊維構造のニトリル基との相互作用が強く、油剤の前駆体繊維束との親和性および耐熱性の向上に有効である。
アミノ変性シリコーン(H)は、下記式(3e)で示される。
【0037】
【化7】

【0038】
式(3e)中、qeおよびreは1以上の任意の数であり、seは1以上5以下であり、ジメチルシロキサンユニットとメチルアミノアルキルシロキサンユニットはランダムである。
【0039】
式(3e)中のアミノ変性シリコーンのqeは1以上の任意の数であることが好ましく、10以上300以下であることがより好ましく、50以上200以下であることがさらに好ましい。また、reは1以上の任意の数であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、2以上5以下であることがさらに好ましい。式(3e)中のqeおよびreが上記範囲内であれば、十分な耐熱性や炭素繊維束の性能発現性を得ることができる。また、qeが10以上であると、十分な耐熱性が得られ単繊維間の融着を効果的に防止することができる。また、qeが300以下であれば油剤、界面活性剤および水を乳化処理して得られる油剤処理液の調製が容易であり、安定な油剤処理液が得られる。また、reが2以上であると、前駆体繊維束と十分な親和性が得られ、単繊維間の融着を効果的に防止することができる。また、reが10以下であると、油剤組成物そのものが十分な耐熱性を有するため、やはり単繊維間の融着を防止することができる。
式(3e)中のアミノ変性シリコーンのseは1以上5以下であることが好ましく、アミノ変性部がアミノプロピル基、すなわちseが3であることがより好ましい。なお、式(3e)で示されるアミノ変性シリコーンは複数の化合物の混合物である場合もある。従って、qe、re、seはそれぞれ整数でない場合もあり得る。」
・「【0078】
(界面活性剤)
界面活性剤の含有量は、油剤100質量部に対し、10質量部以上100質量部以下が好ましく、20質量部以上75質量部以下がより好ましい。界面活性剤の含有量が20質量部以上であれば乳化しやすく、乳化物の安定性が良好となる。一方、界面活性剤の含有量が75質量部以下であれば、油剤組成物が付着した前駆体繊維束の集束性が低下するのを抑制できる。加えて、該前駆体繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の機械的物性が低下しにくい。
また、界面活性剤の含有量は、油剤組成物の総質量に対して20質量%以上40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以上40質量%以下である。
【0079】
界面活性剤としては公知の様々な物質を用いることができるが、炭素繊維前駆体アクリル繊維束用油剤の界面活性剤としては特に非イオン系界面活性剤が好適である。
非イオン系界面活性剤としては、例えば高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪族エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物などのポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤;グリセロールの脂肪族エステル、ペンタエリストールの脂肪族エステル、ソルビトールの脂肪族エステル、ソルビタンの脂肪族エステル、ショ糖の脂肪族エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどの多価アルコール型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
これら非イオン系界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
非イオン系界面活性剤としては、下記式(4e)で示されるプロピレンオキサイド(PO)ユニットとエチレンオキサイド(EO)ユニットからなるブロック共重合型ポリエーテル、および/または、下記式(5e)で示されるEOユニットからなるポリオキシエチレンのアルキルエーテルが特に好ましい。
【0081】
【化11】

【0082】
【化12】


・「【0087】
一方、式(5e)中、R8eは炭素数10以上20以下の炭化水素基である。炭素数が10以上であると、油剤組成物が十分な熱的安定性を有すると共に、適切な親油性を発現しやすくなる。一方、炭素数が20以下であると、油剤組成物の粘度が高くなりすぎず、油剤組成物が液体であるため、十分な操業性を維持できる。また、親水基とのバランスがよく、十分な乳化安定性が得られる。」
・「【0089】
式(5e)中、teはEOの平均付加モル数を示し、3以上20以下であり、5以上15以下が好ましく、5以上10以下がより好ましい。teが3以上であると、水と十分馴染みやすく、十分な乳化安定性が得られる。一方、teが20以下であると、粘性が高くなりすぎず、油剤組成物の構成成分として用いた場合、得られる油剤組成物が付着した前駆体繊維束は十分に分繊しやすくなる。
なお、R8eは親油性に関与する要素であり、teは親水性に関与する要素である。従って、teの値は、R8eとの組み合わせにより適宜決定される。」
・「【0110】
水系乳化液中の油剤組成物の濃度は、2質量%以上40質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましく、20質量%以上30質量%以下が特に好ましい。油剤組成物の濃度が2質量%以上であれば、必要な量の油剤を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与し易くなる。一方、油剤組成物の濃度が40質量%以下であれば、水系乳化液の安定性が優れ、乳化の破壊が起こり難い。」
・「【0133】
<アミノ変性シリコーン(H)>
・H−1:上記式(3e)の構造で、qe≒80、re≒2、se=3であり、25℃における動粘度が90mm2/s、アミノ当量が2500g/molであるアミノ変性シリコーン(Gelest,Inc.製、商品名:AMS−132)。
・H−9:上記式(3e)の構造で、qe≒120、re≒1、se=3であり、25℃における粘度が150mm2/s、アミノ当量が6000g/molであるアミノ変性シリコーン。」
・「【0143】
<非イオン系界面活性剤>
・K−1:上記式(4e)の構造で、xe≒75、ye≒30、ze≒75、R6eおよびR7eが共に水素原子であるPO/EOブロック共重合型ポリエーテル(三洋化成工業株式会社製、商品名:ニューポールPE−68)。
・K−2:上記式(5e)の構造で、te≒9、R8eがラウリル基であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(和光純薬工業株式会社、商品名:ニッコールBL−9EX)。
・K−3:上記式(5e)の構造で、te≒7、R8eがラウリル基であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(日本エマルジョン株式会社、商品名:EMALEX707)。
・K−4:上記式(5e)の構造で、te≒9、R8eがドデシル基であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社、商品名:エマルゲン109P)。
・K−5:上記式(4e)の構造で、xe≒10、ye≒20、ze≒10、R6eおよびR7eが共に水素原子であるPO/EOブロック共重合型ポリエーテル(株式会社ADEKA製、商品名:アデカプルロニック L−44)。
・K−6:上記式(4e)の構造で、xe≒75、ye≒30、ze≒75、R6eおよびR7eが共に水素原子であるPO/EOブロック共重合型ポリエーテル(BASFジャパン株式会社製、商品名:Pluronic PE6800)。
・K−7:上記式(5e)の構造で、te≒9、R8eがドデシル基であるノナエチレングリコールドデシルエーテル(日光ケミカルズ株式会社、商品名:NIKKOL BL−9EX)。
・K−10:上記式(5e)の構造で、te≒5、R8eがトリデシル基であるポリオキシエチレントリデシルエーテル(日本乳化剤株式会社、商品名:ニューコール 1305)。」
・「【0154】
「実施例1」
<油剤組成物および油剤処理液の調製>
ヒドロキシ安息香酸エステル(A−1)、アミノ変性シリコーン(H−9)、シクロヘキサンジカルボン酸エステル(C−2)、帯電防止剤(M−2)を混合し、この混合物にさらに非イオン系界面活性剤(K−4)を加えて十分に混合攪拌し、油剤組成物を調製した。
ついで、油剤組成物の濃度が30質量%になるように、油剤組成物を攪拌しながらイオン交換水を加え、ホモミキサーで乳化した。この状態での乳化粒子の平均粒子径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定したところ、3.0μm程度であった。
その後、さらに高圧ホモジナイザーにより、乳化粒子の平均粒子径が0.2μmになるまで油剤組成物を分散させ、水系乳化液を得た。得られた水系乳化液をイオン交換水でさらに希釈し、油剤組成物の濃度が1.3質量%の油剤処理液を調製した。 油剤組成物中の各成分の種類と配合量(質量部)を表1に示す。
また、乳化時のハンドリング性を評価した。結果を表1に示す。
【0155】
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
油剤を付着させる前駆体繊維束は、次の方法で調製した。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96.5/2.7/0.8(質量比))を21質量%の割合でジメチルアセトアミドに分散し、加熱溶解して紡糸原液を調製し、濃度67質量%のジメチルアセトアミド水溶液を満たした38℃の凝固浴中に孔径(直径)45μm、孔数60000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は、水洗槽中で脱溶媒するとともに3倍に延伸して水膨潤状態の前駆体繊維束とした。
先に得られた油剤処理液を満たした油剤処理槽に水膨潤状態の前駆体繊維束を導き、油剤を付与させた。
その後、油剤が付与された前駆体繊維束を表面温度150℃のローラーにて乾燥緻密化した後に、圧力0.3MPaの水蒸気中で5倍延伸を施し、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束のフィラメント数は60000本、単繊維繊度は1.0dTexであった。
製造工程における集束性および操業性を評価し、得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の油剤組成物の付着量を測定した。これらの結果を表1に示す。」
・「【0157】
「実施例2〜19、参考例20」
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1、2、3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして油剤組成物および油剤処理液を調製し、炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。これらの結果を表1、2、3に示す。」
・「【0161】
【表3】



そして、上記【0161】の【表3】の「実施例14」、「実施例17」、「参考例20」には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「エステル化合物A−1を40、35又は5質量%、エステル化合物C−2を10、40又は5質量%、アミノ変性シリコーンH−1を20、5又は30質量%、非イオン系界面活性剤K−4を15、10又は30質量%、非イオン系界面活性剤K−10を15、10又は30質量%からなる油剤組成物の濃度が30質量%になるように、油剤組成物を攪拌しながらイオン交換水を加え、油剤組成物を分散させた水系乳化液。」
(なお、上記認定した水系乳化液については、甲1の【0157】において得られた水系乳化液をイオン交換水でさらに希釈しているが、本件発明も同様に希釈して用いるものである(【0052】)。)

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「アミノ変性シリコーンH−1」は、本件発明1の「アミノ変性シリコーン」に相当する。
(イ)甲1発明の「非イオン系界面活性剤K−4を15、10又は30質量%、非イオン系界面活性剤K−10を15、10又は30質量%」は、甲第1号証の【0082】、【0143】の記載及び甲第3号証によると、Mw/Mnが1.16であるから、甲1発明の当該事項と、本件発明1の「分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤」であって、「前記非イオン界面活性剤が下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むもの」「
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)」とは、「前記非イオン界面活性剤が下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むもの」「【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)」の限りで一致する。
(ウ)甲1発明の「イオン交換水」は、本件発明1の「水」に相当する。
(エ)甲1発明の「水系乳化液」は、本件明細書の【0154】及び【0155】を参照すると、さらにイオン交換水で希釈して、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造に用いるものであるから、本件発明1の「炭素繊維前駆体用処理剤の水性液」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、一致する。
<一致点>
「アミノ変性シリコーン及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、
前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものである炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)」

<相違点1>
本件発明1は、「分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50」であるのに対して、甲1発明は、1.16である点。

ウ 判断
<相違点1について>
上記相違点1について検討する。
本件発明1の課題は、「経時安定性及び炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤の水性液、及び炭素繊維前駆体を提供する」(【0005】)ことであり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の非イオン界面活性剤を含有することを構成要件の一つとして、経時安定性及び炭素繊維の強度を向上させるものである。
他方、甲1発明の課題は、「炭素繊維束製造工程における単繊維間の融着を効果的に防止すると共に、操業性低下を抑制し、かつ集束性が良好な炭素繊維前駆体アクリル繊維束および機械的物性に優れた炭素繊維束を生産性よく得ることができ、しかも乳化剤の使用量が少なくても容易に乳化できる炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤、炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物、および炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤処理液を提供すること」(【0013】)であり、本件発明とは課題が異なり、その上、甲第1号証には、分子量分布(Mw/Mn)を制御することの記載ないし示唆もない。
甲1発明の分子量分布(Mw/Mn)は1.16であるが、当該分子量分布は本件訂正により本件発明1から除かれているものである。
したがって、甲1発明に接した当業者が、経時安定性及び炭素繊維の強度の向上のために、分子量分布(Mw/Mn)を制御して、1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の範囲とする動機付けはない。

したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の技術的事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1−2)本件発明2〜5の甲第1号証を主引用発明とした進歩性について
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付した発明であるから、本件発明2〜5と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1の点で相違し、相違点1については、上記(1−1)ウで検討したとおりである。

したがって、本件発明2〜5は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2−1)本件発明1の甲第2号証を主引用発明とした新規性進歩性について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、以下の記載がある。
・「[0001]
本発明は、炭素繊維前駆体用油剤及び炭素繊維前駆体に関し、更に詳しくは炭素繊維前駆体に優れた制電性と集束性を付与すると共に、炭素繊維前駆体の製造機械等に錆が発生するのを抑制することができる炭素繊維前駆体用油剤及びかかる炭素繊維前駆体用油剤が付着した炭素繊維前駆体に関する。」
・「[0012]
本発明の油剤に供するベース成分としては特に制限はないが、25℃で液状のエポキシ変性シリコーン、25℃で液状のアミノ変性シリコーン及び25℃で液状のアミド変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つが好ましい。これらは市販品を使用することができ、25℃で液状のエポキシ変性シリコーンとしては、東レダウコーニング社製の商品名SF−8413(25℃の粘度:17000mm2/s、エポキシ当量:3800g/mol)、東レダウコーニング社製の商品名BY16−876(25℃の粘度:2400mm2/s、エポキシ当量:2800g/mol)、信越化学工業社製の商品名X−22−343(25℃の粘度:25mm2/s、エポキシ当量:620g/mol)等が挙げられる。また25℃で液状のアミノ変性シリコーンとしては、信越化学工業社製の商品名KF−880(25℃の粘度:650mm2/s、アミノ当量:1800g/mol)、信越化学工業社製の商品名KF−8012(25℃の粘度:90mm2/s、アミノ当量:2200g/mol)、信越化学工業社製の商品名KF−8008(25℃の粘度:450mm2/s、アミノ当量:5700g/mol)、信越化学工業社製の商品名KF−8005(25℃の粘度:1200mm2/s、アミノ当量:11000g/mol)、信越化学工業社製の商品名KF−860(25℃の粘度:250mm2/s、アミノ当量:7600g/mol)、信越化学工業社製の商品名KF−393(25℃の粘度:70mm2/s、アミノ当量:350g/mol)、東レダウコーニング社製の商品名FZ−3505(25℃の粘度:90mm2/s、アミノ当量:4000g/mol)、東レダウコーニング社製の商品名BY16−872(25℃の粘度:20000mm2/s、アミノ当量:1800g/mol)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同社製の商品名TSF4702(25℃の粘度:500mm2/s、アミノ当量:1600g/mol)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同社製の商品名TSF4706(25℃の粘度:50mm2/s、アミノ当量:1600g/mol)等が挙げられる。更に25℃で液状のアミド変性シリコーンとしては、信越化学工業社製の商品名KF−3935(25℃の粘度:25mm2/s)等が挙げられる。なかでも25℃で液状のアミノ変性シリコーンがより好ましい。これらは、単独で用いることも、また2種以上を併用することもできる。」
・「[0024]
試験区分1(ベース成分の用意)
下記のベース成分を用意した。
A−1:25℃における動粘度が650mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性ポリオルガノシロキサン(信越化学工業社製の商品名KF−880)
A−2:25℃における動粘度が90mm2/s、アミノ当量が2200g/molであるアミノ変性ポリオルガノシロキサン(信越化学工業社製の商品名KF−8012)
A−3:25℃における動粘度が450mm2/s、アミノ当量が5700g/molであるアミノ変性ポリオルガノシロキサン(信越化学工業社製の商品名KF−8008)
A−4:25℃における動粘度が250mm2/s、アミノ当量が7600g/molであるアミノ変性ポリオルガノシロキサン(信越化学工業社製の商品名KF−860)
A−5:25℃における動粘度が17000mm2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性ポリオルガノシロキサン(東レダウコーニング社製の商品名SF−8413)」
・「[0035]
試験区分3(非イオン界面活性剤の合成)
ポリオキシエチレン(n=7)ドデシルエーテルC−1の合成:ドデカン−1−オール186部(1.0モル)及び水酸化カリウム1部をオートクレーブに仕込み、窒素ガスでパージ後、120℃に加温し、エチレンオキサイド308部(7モル)を圧入して、反応させた。1時間の熟成反応後、触媒を吸着材処理により除去し、反応物を得た。得られた反応物を分析したところ、1分子に1個のドデカン−1−オール基と、合計7個のオキシエチレン単位から構成される化合物であった。これを非イオン界面活性剤C−1とした。
[0036]
非イオン界面活性剤をC−1と同様にして、下記の非イオン界面活性剤を合成又は用意した。
C−2:ポリオキシエチレン(n=5)オクチルエーテル
C−3:ポリオキシエチレン(n=40)ドコサニルエーテル
C−4:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(日本触媒社製の商品名ソフタノール50)
C−5:ポリオキシエチレン(n=40)オクタデシルエーテル
C−6:ポリオキシエチレン(n=10)ノニルフェニルエーテル
rC−1:β-オクタデシルチオプロピオン酸オクタデセンエステル
rC−2:ジオクチルオクタデセンアミンオキサイド
rC−3:ヘキサデカン酸ポリエチレングリコール(n=8)
rC−4:ポリオキシエチレン(n=30)硬化ひまし油エーテル
rC−5:トリメリット酸トリイソデシルエステル」
・「[0042]
実施例4
実施例1と同様にして、ベース成分A−4を190部、カチオン界面活性剤B−3を3部、非イオン界面活性剤C−4を6部、有機多塩基酸塩D−2を1部、以上をビーカーに加えてよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が50%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例4の油剤の50%水性液を調製した。」
・「[0045]
実施例7
実施例1と同様にして、ベース成分A−3を160部、カチオン界面活性剤B−1を20部、非イオン界面活性剤C−4を10部、有機多塩基酸塩D−2を10部、以上をビーカーに加えてよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が50%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例7の油剤の50%水性液を調製した。」
・「[0048]
実施例10
実施例1と同様にして、ベース成分A−2を176部、カチオン界面活性剤B−3を8部、非イオン界面活性剤C−1を6部、C−4を10部、以上をビーカーに加えてよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が50%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例10の油剤の50%水性液を調製した。」
・「[0054]
比較例1
実施例1と同様にして、ベース成分A−1を176部、非イオン界面活性剤C−4を24部、以上をビーカーに加えてよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が50%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで比較例1の油剤の50%水性液を調整した。」
・「[0060]
比較例7
実施例1と同様にして、ベース成分A−2を140部、非イオン界面活性剤C−4を40部、有機多塩基酸塩rD−1を20部、以上をビーカーに加えてよく混合し、撹拌を続けながら固形分濃度が50%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで比較例8の油剤の50%水性液を調製した。」
・「[0064][表2]


・「[0065]
試験区分7
炭素繊維前駆体用油剤の付着 アクリルフィラメント糸(75デニール/40フィラメント)に、試験区分6で調製した各例の油剤の50%水性液を、炭素繊維前駆体用油剤として0.5±0.1%となるようにローラー給油法で付着させた後、乾燥ローラーを用いて115℃で4秒間乾燥して試料糸Aを得た。この試料糸Aを、後述する電気抵抗値及び発生電気の評価に用いた。またアクリルフィラメント糸(16000デニール/12000フィラメント)に、試験区分6で調製した各例の油剤の50%水性液を、炭素繊維前駆体用油剤として0.5±0.1%となるように浸漬法で付着させた後、乾燥ローラーを用いて115℃で4秒間乾燥して試料糸Bを得た。この試料糸Bを、後述する集束性の評価に用いた。」

そして、甲第2号証には、実施例4、実施例7、実施例10、比較例1及び比較例7の油剤の50%水性液に係る以下の発明(以下、それぞれ「甲2−実4発明」、「甲2−比1発明」等といい、まとめて「甲2発明」という。)が記載されている。
<甲2−実4発明>
「ベース成分A−4 95%、カチオン界面活性剤B−3 1.5%、非イオン界面活性剤C−4 3%、有機多塩基酸塩D−2 0.5%の油剤にイオン交換水を添加した50%水性液。」
<甲2−実7発明>
「ベース成分A−3 80%、カチオン界面活性剤B−1 10%、非イオン界面活性剤C−4 5%、有機多塩基酸塩D−2 5%の油剤にイオン交換水を添加した50%水性液。」
<甲2−実10発明>
「ベース成分A−2 88%、カチオン界面活性剤B−3 4%、非イオン界面活性剤C−1 3%、C−4 5%の油剤にイオン交換水を添加した50%水性液。」
<甲2−比1発明>
「ベース成分A−1 88%、非イオン界面活性剤C−4 12%の油剤にイオン交換水を添加した50%水性液。」
<甲2−比7発明>
「ベース成分A−2 70%、非イオン界面活性剤C−4 20%、有機多塩基酸塩rD−1 10%の油剤にイオン交換水を添加した50%水性液。」

イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「ベース成分A−1」、「ベース成分A−2」、「ベース成分A−3」、「ベース成分A−4」は、[0024]を参照すると、「アミノ変性ポリオルガノシロキサン」であるから、本件発明1の「アミノ変性シリコーン」に相当する。
(イ)甲2発明の「非イオン系界面活性剤C−4」([0036]から「ソフタノール50」)は、甲第5号証(4,5頁の<分子量計算結果>の欄のMw/Mn参照。)によるとMw/Mnが1.082であり、また、甲第4号証の9頁の「表A ソフタノール各種製品の特性値一覧表の「組成」の欄に「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C12〜14第2級アルコール)」と記載されているから、C12〜14の炭素数が異なる2種以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含んでいるといえる。
そうすると、甲2発明の「非イオン系界面活性剤C−4」と、本件発明1の「分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤」であって、「前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むもの」とは、「前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むもの」の限りで一致する。
(ウ)甲2発明の「イオン交換水」は、本件発明1の「水」に相当する。
(エ)甲2発明の「油剤の50%水性液」は、[0001]及び[0065]を参照すると、炭素繊維前駆体に油剤の50%水性液を付着させるものであるから、本件発明1の「炭素繊維前駆体用処理剤の水性液」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「アミノ変性シリコーン及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、
前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものであることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)」

<相違点2>
本件発明1は、「分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50」であるのに対して、甲2発明は、1.082である点。

ウ 判断
<相違点2について>
上記相違点2について検討する。
本件発明1の課題は、「経時安定性及び炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤の水性液、及び炭素繊維前駆体を提供する」(【0005】)ことであり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の非イオン界面活性剤を含有することを構成要件の一つとして、経時安定性及び炭素繊維の強度を向上させるものである。
他方、甲2発明の課題は、「炭素繊維前駆体を製造する際の工程通過性を向上させ、また炭素繊維前駆体の製造機械等に錆が発生するのを抑制することができる炭素繊維前駆体用油剤及びかかる炭素繊維前駆体用油剤が付着した炭素繊維前駆体を提供する」([0004])ことであり、本件発明1とは課題が異なり、その上、甲第2号証には、分子量分布(Mw/Mn)を制御することの記載ないし示唆もない。
甲2発明の分子量分布(Mw/Mn)は1.082であるが、当該分子量分布は本件訂正により本件発明1から除かれているものである。
したがって、甲2発明に接した当業者が、経時安定性及び炭素繊維の強度の向上のために、分子量分布(Mw/Mn)を制御して、1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の範囲とする動機付けはない。

したがって、甲2発明において、上記相違点2に係る本件発明1の技術的事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲2発明ではない。
また、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2−2)本件発明2〜5の甲第2号証を主引用発明とした新規性進歩性について
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付した発明であるから、本件発明2〜5と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2の点で相違し、相違点2については、上記(2−1)ウで検討したとおりである。

したがって、本件発明2〜5は、本件発明1は、甲2発明ではない。
また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 令和4年2月9日付け取消理由通知に採用しなかった取消理由について
<本件発明1、2、5の甲第1号証を主引用発明とした新規性について>
申立人は、本件発明1、2、5は、甲1発明である旨主張する。
しかし、本件発明1、2、5と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記1(1−1)イの<相違点1>の点で相違し、<相違点1>は実質的な相違点であるから、本件発明1、2、5は、甲1発明でない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤の水性液及び炭素繊維前駆体
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時安定性及び炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤の水性液、及びかかる炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を付与して得られた炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。通常炭素繊維は、炭素繊維前駆体として、例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化処理工程、及び炭素化処理工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維の製造工程において繊維の収束性を向上させたり、繊維間の膠着又は融着を抑制するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1〜3に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、所定の粘度を有するアミノ変性ポリシロキサンを含むシリコーン油剤及びノニオン界面活性剤を含む乳化剤等を含有するアミノ変性シリコーン油剤組成物について開示する。特許文献2は、所定の化学式を有する多環芳香族系ノニオン乳化剤、アミノ変性シリコーン等を含有する合成繊維処理油剤について開示する。特許文献3は、シリコーン、アルキル鎖とポリオキシアルキレン鎖とからなる非イオン界面活性剤を含有するシリコーンオイル組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3459305号公報
【特許文献2】特許第4311246号公報
【特許文献3】特開2005−298689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、水性液の状態で保存された際、経時安定性が低下したり、最終的に得られる炭素繊維の強度が低下するという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、経時安定性及び炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤の水性液、及び炭素繊維前駆体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、アミノ変性シリコーンの他、所定の分子量分布を有する非イオン界面活性剤を併用した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液が正しく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために本発明の一態様である炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含むことを特徴とする。
【0008】
さらに、前記炭素繊維前駆体用処理剤の水性液において、前記非イオン界面活性剤は、下記の化1で示されるものであることを特徴とする。
【0009】
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)
さらに、前記炭素繊維前駆体用処理剤の水性液において、前記非イオン界面活性剤は、前記化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものであることを特徴とする。
【0010】
前記炭素繊維前駆体用処理剤の水性液において、前記アミノ変性シリコーンは、25℃の動粘度が50〜4000mm2/sのものであってもよい。
前記炭素繊維前駆体用処理剤の水性液において、前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミノ変性シリコーンと前記非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び前記水が50〜80質量部の割合で含有するものであってもよい。
【0011】
前記炭素繊維前駆体用処理剤の水性液において、前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比が、前記アミノ変性シリコーン/前記非イオン界面活性剤=95/5〜75/25であってもよい。
【0012】
本発明の別の態様である炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、経時安定性及び炭素繊維の強度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液(以下、単に水性液という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の水性液は、アミノ変性シリコーンの他、所定の分子量分布を有する非イオン界面活性剤を必須成分として含有する。
【0015】
アミノ変性シリコーンとは、(−Si−O−)の繰り返しからなるポリシロキサン骨格を持ち、そのケイ素原子のアルキル側鎖の一部がアミノ変性基により変性されたものである。アミノ変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、またその両方と結合していてもよい。アミノ変性基としては、例えばアミノ基、アミノ基を有する有機基等が挙げられる。アミノ基を有する有機基としては、下記の化2が例示される。
【0016】
【化2】

(化2中、R1及びR2は、炭素数2〜4のアルキレン基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。zは、0又は1の整数である。)
化2のアミノ変性基を有するアミノ変性シリコーンの具体例としては、例えばジメチルシロキサン・メチル(アミノプロピル)シロキサン共重合体(アミノプロピルジメチコン)、アミノエチルアミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(アモジメチコン)等が挙げられる。
【0017】
アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは50mm2/s以上である。動粘度の下限が50mm2/s以上の場合、炭素繊維の強度をより向上させる。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは4000mm2/s以下である。動粘度の上限が4000mm2/s以下の場合、水性液の経時安定性をより向上させる。なお、アミノ変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のアミノ変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。
【0018】
非イオン界面活性剤は、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の範囲を有する。非イオン界面活性剤の分子量分布は、水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物を試験試料としてGPC法により求められる。水性液に配合される非イオン界面活性剤は、単分散のものではなく、所定の分子量分布を有するブロード状態のものを使用することにより、水性液の経時安定性を向上させる。
【0019】
非イオン界面活性剤の種類は、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。本発明においては、下記の化3で示される化合物が含まれるものが用いられる。
【0020】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0021】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば(7)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(8)2−エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(9)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(10)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。一種の原料であるアルコール類又はカルボン酸類を使用してもよく、また二種以上のアルコール類又はカルボン酸類を組み合わせて使用してもよい。これらの中で分子量分布をブロードにし、水性液の経時安定性をより向上させる観点から二種以上のアルコール類又はカルボン酸類を組み合わせて使用することが好ましい。
【0022】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1〜60モル、より好ましくは1〜40モル、さらに好ましくは2〜30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドの付加モル数が0.1モル以上の場合、分子量分布をブロードに調整することが容易となる。一方、アルキレンオキサイドの付加モル数が60モル以下の場合、炭素繊維の強度をより向上させる。
【0023】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、グリセリン、2−メチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチルー1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0024】
一種の原料としてのアルキレンオキサイド又は多価アルコールを使用してもよく、また二種以上のアルキレンオキサイド又は多価アルコールを組み合わせて使用してもよい。
非イオン界面活性剤の分子量分布を調整するためには、複数種類の非イオン界面活性剤を使用することにより分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤が得られる。分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤を得るためには、複数種類の非イオン界面活性剤を混合する方法が挙げられる。また、複数種類のアルコール類又はカルボン酸類等の原料を使用したり、反応条件を変更、例えば触媒の量を通常使用する量より減らしたりすることにより、分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤が得られる。
【0025】
本発明においては、これらのノニオン界面活性剤の中でも下記の化3で示される化合物が含まれるものが用いられ、かかる化合物を使用することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0026】
【化3】

(化3において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)
さらに、本発明において非イオン界面活性剤は、上述した化3中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものが用いられる。かかる非イオン界面活性剤を使用することにより、分子量分布をブロードに調整することが容易となる。それにより水性液の経時安定性をより向上させる。
【0027】
水性液中において、前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合は、特に限定されない。アミノ変性シリコーン、水、及び非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、アミノ変性シリコーンと非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び水が50〜80質量部の割合で含有するものが好ましい。かかる配合割合に規定することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0028】
水性液中において、前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、特に限定されない。非イオン界面活性剤に対するアミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、アミノ変性シリコーン/非イオン界面活性剤=95/5〜75/25であることが好ましい。かかる配合割合に規定することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体(以下、前駆体という)を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の前駆体は、炭素繊維前駆体に第1実施形態に記載の炭素繊維用処理剤が付着している。
【0030】
本実施形態の前駆体を用いた炭素繊維の製造方法は、例えば炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の水性液を付着させて前駆体を得た後、必要により乾燥処理が行われた後、製糸する製糸工程が行われる。次に、その製糸工程で製造された前駆体を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程が行われる。
【0031】
製糸工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の水性液を付着させて得られた前駆体を製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。付着処理工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維を紡糸した後、水性液を付着させる工程である。つまり、付着処理工程で炭素繊維前駆体の原料繊維に水性液を付着させる。またこの炭素繊維前駆体の原料繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気を用いた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーを用いた乾熱延伸法でもよい。
【0032】
炭素繊維前駆体の原料繊維は、例えばアクリル繊維等が挙げられる。アクリル繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。炭素繊維前駆体の単繊維繊度については、特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、炭素繊維前駆体の繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0033】
水性液は、製糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。また、延伸工程前の段階であればどの段階でも付着させてもよい。例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。製糸工程中、付着させる回数は特に限定されない。また、水性液が炭素繊維前駆体に付着させた後、必要により乾燥処理されてもよい。付着処理工程後、水性液由来の水分は蒸発され、炭素繊維には、炭素繊維用処理剤が付着している。
【0034】
第1実施形態の炭素繊維前駆体用処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、炭素繊維前駆体用処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。第1実施形態の水性液の付着方法としては公知の方法が適用でき、これには例えば、スプレー給油法、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の水性液及び炭素繊維前駆体の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、アミノ変性シリコーン及び水を含む水性液を調製するに際し、所定の分子量分布を有する非イオン界面活性剤を使用した。したがって、水性液の経時安定性を向上できる。特に、夏場の高温時における経時安定性を向上させる。また、かかる水性液が付与されて得られた炭素繊維前駆体により合成された炭素繊維の強度を向上させる。
【0036】
尚、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、その他の界面活性剤、その他のシリコーン類等の通常炭素繊維前駆体用処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0038】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の調製)
・非イオン界面活性剤(N−1)の製造方法
オートクレープ内に上記化3のR1を構成する原料アルコールとしてデカノール20部、ウンデカノール50部、ドデカノール30部を加え、さらに水酸化カリウム0.05部を加え、雰囲気を窒素ガスで置換した。150℃でエチレンオキサイド76部を徐々に加えて、エーテル化反応を行った。水酸化カリウムを吸着処理した後、濾過する事で、非イオン界面活性剤(N−1)を合成した。
【0039】
化3によって示される非イオン界面活性剤(N−1)を構成する各構造(R1、AO、R2)について、表1の「化3中のR1のアルキル基の炭素数」欄、「R1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、「化3中のR2の種類」欄にそれぞれ示す。
【0040】
・非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)の製造方法
下記表1の「化3中のR1のアルキル基の炭素数」欄、「R1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、及び「化3中のR2の種類」欄に基づいて、上記と同様の処方で非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)を合成した。
【0041】
化3によって示される非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)を構成する各構造(R1、AO、R2)について、表1の「化3中のR1のアルキル基の炭素数」欄、「R1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、「化3中のR2の種類」欄にそれぞれ示す。
【0042】
(実施例1)
(A)アミノ変性シリコーン(Si−1)を30部、(B)非イオン界面活性剤(N−4)を5部、及びイオン交換水65部をよく撹拌した後、ホモジナイザーを用いて乳化する事で、実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の固形分濃度35%水性液を調製した。
【0043】
(実施例2〜11,14〜16、参考例12,13、比較例1〜4)
実施例2〜11,14〜16、参考例12,13、及び比較例1〜4の各炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、表3の各「質量部」欄に記載の(A)アミノ変性シリコーン、(B)非イオン界面活性剤、及び水の各配合量に基づいて、実施例1と同様の処方で調製した。
【0044】
各実施例及び比較例で用いたシリコーン(Si−1)〜(Si−5)、(rSi−6)、(rSi−7)の構造及び動粘度を、表2の「シリコーン構造」欄及び「動粘度」欄に示す。
【0045】
各実施例及び比較例で用いた(A)アミノ変性シリコーン及び(B)非イオン界面活性剤の種類を、表3の各成分の「種類」欄に示す。また(A)アミノ変性シリコーン、(B)非イオン界面活性剤、及び水の水性液中における各配合量を、表3の各成分の「質量部」欄に示す。また、各水性液中における(A)アミノ変性シリコーン及び(B)非イオン界面活性剤の合計質量、並びに(B)非イオン界面活性剤の含有量に対する(A)シリコーンの含有量の質量比を、表3の「A成分とB成分の合計質量」欄、及び「A成分/B成分の質量比」欄にそれぞれ示す。
【0046】
・分子量分布の測定方法
非イオン界面活性剤の分子量分布は、下記に示される方法により求めた。
まず、各実施例及び比較例の水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物0.02gをバイアル瓶に採取し、テトラヒドロフラン(THF)を30mL加えて希釈し、試料溶液を得た。その試料溶液1mLをGPC用濾過フィルターを装着した注射器を用いて、GPC用試料瓶に異物を除去することにより試料溶液を調製した。リファレンスカラムとしてTSKgel SuperH−RC、測定用カラムとしてTSKguardcolumn SuperH−L、TSKgel SuperH4000、TSKgel SuperH3000、TSKgelSuperH2000を装着した、東ソー社製HLC−8320GPCを使用して、GPCを測定した。数平均分子量(=Mn)と質量平均分子量(=Mw)は、標準試料として、TSKgel標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、各実施例及び比較例の水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物のMn及びMwを求めた。その数値を用いて、分子量分布(=Mw/Mn)を算出した。分子量分布の結果を表3の「分子量分布」欄に示す。
【0047】
【表1】

表1の区分欄に記載するN−1〜N−11の各非イオン界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
【0048】
N−1:ポリオキシエチレン(n=3:エチレンオキサイドの付加モルを示す。以下同じ。)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=3)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=3)ドデシルエーテルの混合物
N−2:ポリオキシエチレン(n=9)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=9)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=9)ドデシルエーテルの混合物
N−3:ポリオキシエチレン(n=12)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=12)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=12)ドデシルエーテルの混合物
N−4:ポリオキシエチレン(n=5)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=5)トリデシルエーテルの混合物
N−5:ポリオキシエチレン(n=10)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=10)トリデシルエーテルの混合物
N−6:ポリオキシエチレン(n=25)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=25)テトラデシルエーテルの混合物
N−7:ポリオキシエチレン(n=15)ポリオキシプロピレン(m=10:プロピレンオキサイドの付加モルを示す。以下同じ。)テトラデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=15)ポリオキシプロピレン(m=10)ペンタデシルエーテルの混合物
N−8:ポリオキシエチレン(n=40)ポリオキシプロピレン(m=10)テトラデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=40)ポリオキシプロピレン(m=10)ペンタデシルエーテルの混合物
N−9:ポリオキシエチレン(n=5)ヘキサデシルエチルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=5)オクタデシルエチルエーテルの混合物
N−10:ポリオキシエチレン(n=7)オクチルエーテル
N−11:ポリオキシエチレン(n=5)ポリオキシプロピレン(m=5)ブチルエーテル
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0051】
アクリロニトリル95%、アクリル酸メチル3.5%、メタクリル酸1.5%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0052】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。これを試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液をさらに希釈した4%イオン交換水溶液を浸漬法にて炭素繊維前駆体用処理剤の固形分付着量が1%(溶媒を含まない)となるように給油した。その後、このアクリル繊維ストランドを130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。この炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間耐炎化処理した後、連続して窒素雰囲気下で300〜1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取った。
【0053】
炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の経時安定性、炭素繊維の強度を以下に示されるように評価した。
試験区分3(評価)
・乳化安定性の評価
炭素繊維前駆体用処理剤の水性液100mLを透明な密閉容器に保管し、40℃で3日間静置した後、容器を10回振盪し、再度、40℃で3日間静置した。静置後の外観を目視にて観察した。また、保管後の処理剤を固形分5%となるように、さらにイオン交換水で希釈し、希釈後の外観を目視にて観察した。以下の基準で評価し、結果を表3の「経時安定性」欄に示した。
【0054】
・乳化安定性の評価基準
◎:ほとんど分離、沈殿は見られず、外観均一となった。また、希釈後は、良好な乳化性を保っていた。
【0055】
○:わずかにクリーミングや分離が見られるが、乳化性は良好であり実用上問題ないレベルであった。また、希釈後は、良好な乳化性を保っていた。
×:明らかなクリーミングや分離が見られた。若しくは、希釈後に沈殿又は分離が発生した。
【0056】
・炭素繊維強度の評価
JIS R 7606に準じて、上記得られた炭素繊維の強度を測定し、以下の基準で評価した。結果を表3の「強度」欄に示した。
【0057】
・炭素繊維強度の評価基準
○:3.3GPa以上。
×:3.3GPa未満。
【0058】
−:安定性不良の為、未評価。
以上表3の結果からも明らかなように、本発明によれば、炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の経時安定性を向上できると共に、炭素繊維の強度を向上できるという効果が示された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.081,1.087〜1.109,1.155,1.161〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含み、
前記非イオン界面活性剤が、下記の化1で示され、且つ化1中のR1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むものであることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【化1】

(化1において
R1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)
【請求項2】
前記アミノ変性シリコーンが、25℃の動粘度が50〜4000mm2/sのものである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項3】
前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミノ変性シリコーンと前記非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び前記水が50〜80質量部の割合で含有するものである請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比が、前記アミノ変性シリコーン/前記非イオン界面活性剤=95/5〜75/25である請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着している ことを特徴とする炭素繊維前駆体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-29 
出願番号 P2019-184527
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 藤井 眞吾
佐々木 正章
登録日 2020-04-20 
登録番号 6693633
権利者 竹本油脂株式会社
発明の名称 炭素繊維前駆体用処理剤の水性液及び炭素繊維前駆体  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
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