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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B05D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B05D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B05D |
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管理番号 | 1388335 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-14 |
確定日 | 2022-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6718216号発明「基板を被覆する方法および被覆装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6718216号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔14ないし17〕について訂正することを認める。 特許第6718216号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6718216号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、平成27年9月17日(パリ条約による優先権主張2014年9月25日 ドイツ連邦共和国)の出願であって、令和2年6月16日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年7月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月14日に特許異議申立人 エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハー(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされたものであり、令和3年3月29日付けで取消理由が通知され、同年6月30日に特許権者 ズス・マイクロテック・リソグラフィ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年7月21日付けで特許異議申立人に対して審尋がされ、同年8月23日に特許異議申立人から回答書が提出され、同年9月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月28日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、令和4年1月7日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)が通知され、同年3月2日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和3年12月28日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項14に「基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置であって、 基板ホルダー(12)、ラッカーノズル(20)、溶剤ノズル(22)、およびラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)を含み、 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板ホルダー(12)の上方で、移動装置(14)の手段により一緒に移動できることを特徴とする被覆装置。」と記載されているのを、 「基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置であって、 基板ホルダー(12)、ラッカーノズル(20)、溶剤ノズル(22)、およびラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)を含み、 ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し、 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板ホルダー(12)の上方で、移動装置(14)の手段により一緒に移動できることを特徴とする被覆装置。」に訂正する。 併せて、請求項14を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様の訂正をする。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0024】に「目的は、また、特に地形形状を有する基板のような基板にラッカーを塗布するための被覆装置により達成され、この装置は、基板ホルダー、ラッカーノズル、溶剤ノズル、および、その上にラッカーノズルと溶剤ノズルが互いに所定の距離で配置される移動装置、を含み、ラッカーノズルと溶剤ノズルは、基板ホルダーの上を、移動装置の手段により、共に移動できる。ラッカーノズルと共に移動できる分離した溶剤ノズルの手段により、基板の上に塗布されたラッカーに、同じ処理工程で溶剤を噴霧することが可能となり、これにより、塗布されたラッカーの上に集められたラッカー粒子を分解し、噴霧中に形成された不規則を平坦化できる。」と記載されているのを、 「目的は、また、特に地形形状を有する基板のような基板にラッカーを塗布するための被覆装置により達成され、この装置は、基板ホルダー、ラッカーノズル、溶剤ノズル、および、その上にラッカーノズルと溶剤ノズルが互いに所定の距離で配置される移動装置、を含み、ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し、ラッカーノズルと溶剤ノズルは、基板ホルダーの上を、移動装置の手段により、共に移動できる。ラッカーノズルと共に移動できる分離した溶剤ノズルの手段により、基板の上に塗布されたラッカーに、同じ処理工程で溶剤を噴霧することが可能となり、これにより、塗布されたラッカーの上に集められたラッカー粒子を分解し、噴霧中に形成された不規則を平坦化できる。」に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項14についての訂正について 訂正事項1による請求項14についての訂正は、訂正前は「ラッカーノズル(20)」が「ラッカー」を「噴霧」するものであることに特定されていなかったのを、「ラッカーノズル(20)」が「ラッカー」を「噴霧」するものであることに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項14についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項15ないし17についての訂正について 訂正事項1による請求項15ないし17についての訂正は、請求項14についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項15ないし17についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)明細書についての訂正について 訂正事項2による明細書についての訂正は、訂正事項1により特許請求の範囲の請求項14ないし17を訂正したことに伴い、明細書の記載を特許請求の範囲の請求項14ないし17の記載と整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2による明細書についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび したがって、訂正事項1による請求項14ないし17についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 また、訂正事項2による明細書についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 さらに、訂正事項2による明細書についての訂正に係る請求項の全てについて訂正請求は行われているので、訂正事項2による明細書についての訂正は特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項14ないし17は、一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1による請求項14ないし17についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし17に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔14ないし17〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基板(16)をラッカーで被覆する方法であって、ラッカーはフォトレジストであり、この方法は、 基板(16)の上方を移動可能なノズル(20)を用いて、基板(16)の上にラッカーを噴霧する工程であって、移動は予め決められた経路に従い、ノズル(20)はこれにより予め決められたスプレーパターンの上を移動する工程と、 続いて、移動可能なノズル(22)を用いて、基板(16)に塗布されたラッカーに溶剤を噴霧する工程と、を含み、 溶剤は、塗布されたラッカーの上に局所的に噴霧されることを特徴とする方法。 【請求項2】 ラッカーを噴霧する工程と、塗布されたラッカーに溶剤を噴霧する工程との間に、塗布されたラッカーの溶剤比率が、塗布されたラッカーが固定される程度に減らされることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 基板(16)および/または塗布されたラッカーは、ラッカーの噴霧中および/または噴霧後に加熱されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 ラッカーは、基板(16)の上に、予め決められたスプレーパターンで、平行な経路(B)で噴霧され、溶剤は、同様に、このスプレーパターンで、塗布されたラッカーの上に噴霧されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 基板の1つの位置にラッカーが噴霧される時点と、この位置に溶剤が噴霧される時点との間の時間は一定であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 【請求項6】 ラッカーは、ラッカーノズル(20)の手段により基板(16)の上に噴霧され、溶剤は、ラッカーノズル(20)から分離された溶剤ノズル(22)の手段により噴霧されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板(16)の上方を、基板(16)に対して平行に、同時に、移動することを特徴とする請求項6に記載の方法。 【請求項8】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)の移動の間、溶剤ノズル(22)は、ラッカーノズル(20)の経路に従うことを特徴とする請求項7に記載の方法。 【請求項9】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板(16)に平行な、少なくとも1つの面内を、基板(16)の上方の平行な経路(B)で移動し、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)との間の距離(a)は、経路(B)の間の距離(b)の2倍または整数倍に等しいことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。 【請求項10】 複数のラッカー層が基板(16)の上に塗布される場合、最後のラッカー層が噴霧された後に、塗布された層に溶剤が噴霧されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。 【請求項11】 最後のラッカー層が噴霧された場合、ラッカーは、先の噴霧されたラッカー層のラッカーより大きな溶剤比率を有することを特徴とする請求項10に記載の方法。 【請求項12】 塗布されたラッカーは、溶剤が繰り返し噴霧されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。 【請求項13】 溶剤は、アセトンまたはメチルケトンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。 【請求項14】 基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置であって、 基板ホルダー(12)、ラッカーノズル(20)、溶剤ノズル(22)、およびラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)を含み、 ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し、 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板ホルダー(12)の上方で、移動装置(14)の手段により一緒に移動できることを特徴とする被覆装置。 【請求項15】 被覆装置(10)は加熱装置を含み、基板ホルダー(12)は加熱要素(18)を備えることを特徴とする請求項14に記載の被覆装置。 【請求項16】 移動装置(14)は、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)を、基板(12)に平行な、少なくとも1つの面内で、基板(12)の上方の平行な経路(B)で移動できるように設計され、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)との間の距離(a)は、経路(B)の間の距離(b)の2倍または整数倍に等しいことを特徴とする請求項14または15に記載の被覆装置。 【請求項17】 経路(B)の間の距離(b)は、被覆される基板(16)の上に、ラッカーノズル(20)で形成されるラッカージェットの直径におおよそ対応することを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の被覆装置。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和2年12月14日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1及び14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし5及び10ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1は、同一のノズルを用いてラッカーと溶剤とを基板に噴霧する実施形態も包含するものといえる。 しかしながら、発明の詳細な説明では、図1に示されているように、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22とが常に分離されている実施形態のみが記載されている。 したがって、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 また、請求項1を直接又は間接的に引用している本件特許発明2ないし5及び10ないし13についても同様である。 4 申立理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許の請求項1に「基板(16)の上方を移動可能なノズル(20)を用いて、基板(16)の上にラッカーを噴霧する工程であって、移動は予め決められた経路に従い、ノズル(20)はこれにより予め決められたスプレーパターンの上を移動する工程」と記載されているが、この記載からは、「予め決められた経路に従った移動」と「ノズル(20)の予め決められたスプレーパターンの上の移動」とが、同一の移動を指しているのか又は別個の移動(つまり、第1の移動に依存して第2の移動が生じている)を指しているのかが明確でなく、これにより本件特許発明1が不明確になっている。 また、請求項1を直接又は間接的に引用している本件特許発明2ないし13についても同様である。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2013−78748号公報 甲第2号証:特開2005−334810号公報 甲第3号証:独国特許出願公開第10351963号明細書 甲第4号証:米国特許第5942035号明細書 甲第5号証:SUSS report,"THE CUSTOMER MAGAZINE OF SUSS MICROTEC","DEVELOPMENTS TO IMPROVE PROCESS STABILITY ON THE NEW MA200 GEN3",2014年1月 甲第6号証:米国特許第6248168号明細書 甲第7号証:国際公開第2009/124935号 甲第8号証: Nozzles: Selection and Sizing, Communications and Marketing, College of Agriculture and Life Sciences, Virginia Polytechnic Institute and State University,2013年,p.1 なお、甲第7及び8号証は令和4年3月2日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載に従った。以下、「甲第1号証」を「甲1」という。 第5 取消理由(決定の予告)の概要 令和3年9月17日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 なお、該取消理由(決定の予告)は、申立理由1(甲1に基づく新規性)のうち請求項14に対する理由及び申立理由2(甲1に基づく進歩性)のうち請求項14ないし17に対する理由を包含するものである。 ・甲1を主引用文献とする新規性・進歩性 本件特許の請求項14及び16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか本件特許の請求項14ないし17に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項14ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 1 甲1に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項 甲1には、「塗布方法および塗布装置」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【請求項1】 基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布方法であって、 インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程と、 前記塗布液供給工程を行いながら、基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する平滑化工程と を備えていることを特徴とする塗布方法。 ・・・ 【請求項3】 請求項1または2に記載の塗布方法において、 前記平滑化工程では、前記気体に塗布液の溶剤の蒸気を含ませる塗布方法。 ・・・ 【請求項7】 基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布装置であって、 基板を水平姿勢に保持する基板保持台と、 基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構と、 基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構と、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とを、前記基板保持台に保持された基板に対して相対的に移動させる移動機構と を備えていることを特徴とする塗布装置。 ・・・ 【請求項9】 請求項7または8に記載の塗布装置において、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とは連結されて一体に構成されている塗布装置。 ・・・ 【請求項11】 請求項7〜10のいずれかに記載の塗布装置において、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とが前記基板に対して相対的に移動する移動方向の前側に、基板上に塗布液の溶剤を供給する溶剤供給機構を備える塗布装置。 ・・・ 【請求項14】 請求項11〜13のいずれかに記載の塗布装置において、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構と前記溶剤供給機構とは連結されて一体に構成されている塗布装置。 ・・・ 【請求項16】 請求項14または15に記載の塗布装置において、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構と前記溶剤供給機構とに、温度調節機構が付設されて一体に構成されている塗布装置。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、半導体ウエハや液晶表示パネル用ガラス基板あるいは半導体製造装置用マスク基板等の基板の表面にフォトレジスト等の塗布液を均一に塗布する塗布方法および塗布装置に係り、特に、基板に対してインクジェット方式により塗布液を塗布する技術に関する。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、インクジェット方式によれば、微細な塗布液の粒子が基板の表面に噴出されるので、基板表面に形成された塗布液の薄膜に粒子の凹凸が残存しやすく、その結果、薄膜の膜厚均一性が悪くなるという問題がある。 【0006】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、インクジェット方式によって形成した塗布液の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる塗布方法および塗布装置を提供することを目的とする。」 ・「【0010】 本発明方法において、平滑化工程では、基板上に供給された塗布液に向けて噴射される気体に塗布液の溶剤の蒸気を含ませるのが好ましい。このようにすれば、溶剤蒸気の雰囲気によって塗布液が硬化するのが抑制されて塗布液の流動性が長く維持されるので、塗布液の薄膜表面がより一層平滑化されやすくなる。」 ・「【0027】 <塗布ヘッド10の概略構成> ここでは半導体ウエハにフォトレジストを塗布する塗布装置を例に採って説明する。この塗布装置は、半導体ウエハである基板Wにフォトレジストである塗布液を塗布するための塗布ヘッド10を備えている。塗布ヘッド10は、基板Wに対向した状態で、基板Wに対して相対移動可能に構成され、図1では矢印で示すように右方向に移動する。 【0028】 塗布ヘッド10は、インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構12を備えている。塗布液供給機構12に隣接して、具体的には塗布ヘッド10の進行方向の後側にあたる側面位置に気体噴射機構14が連結して一体に設けられている。気体噴射機構14は、基板Wの上に供給された塗布液に気体(本実施例では、空気)を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化するためのものである。塗布液供給機構12の進行方向の前側にあたる側面位置に温度調節機構16を介して溶剤供給機構18が連結して一体に設けられている。温度調節機構16は恒温水を流通させて塗布ヘッド10、特に塗布液供給機構12の塗布液の温度を一定に維持するために設けられている。溶剤供給機構18は、基板W上に塗布液の溶剤を供給するために設けられている。以下、各部の構成を詳細に説明する。 ・・・ 【0030】 <気体噴射機構14の構成> 気体噴射機構14は、塗布液供給機構12が有する複数個のノズル20の配列長さと同等の長さを有するスリット状ノズルで構成されている。図1及び図5に示すように、気体噴射機構14は、基板W上に供給された塗布液(特に、基板Wに塗布液のドットdが被着した直後で、塗布液の表面が凹凸状になっている部分領域)dEに対して気体Gを斜め方向から噴射するように取り付け配置されている。気体噴射機構14には基板W上に供給された塗布液(特に上述した塗布液の部分領域)dEの乾燥を抑制するために温度および湿度が調整された気体が導入される。上述した気体の温度および湿度は、一般のスピンコータでの塗布環境と同程度の温度及び湿度で、例えば、温度が23±0.2°C程度、相対湿度が45±0.2%に管理されていることが好ましい。 【0031】 <溶剤供給機構18の構成> 溶剤供給機構18は、塗布液供給機構12と同様にインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成されている。塗布液供給機構12によって基板W上に供給される塗布液の領域に溶剤Sを行き渡らすために、ノズルの配列長さは塗布液供給機構12と同程度に設定されている。溶剤は塗布液の種類に応じて適宜に選択される。例えば、塗布液がフォトレジストである場合、通常フォトレジストに含まれるPGMEAや乳化エチル等を用いるのが好ましい。なお、溶剤はこれらに限定されるものでなく、揮発性の溶剤であれば、例えばIPAであってもよい。 【0032】 <塗布ヘッド10の構成> 塗布ヘッド10は、上述した塗布液供給機構12、気体噴出機構14、温度調節機構16、溶剤供給機構18が連結されて一体となって構成されている。そして、塗布ヘッド10が基板Wに対向して相対移動するとき、塗布ヘッド10の進行方向に対して溶剤供給機構18が前側になり、その次に塗布液供給機構12が続き、最後に気体噴出機構14がくるように一体となって移動する。塗布ヘッド10と基板Wとの間隔は概ね1mm程度である。 【0033】 <塗布装置の全体構成> 次に上述した塗布ヘッド10を備えた塗布装置の構成例を図3および図4を参照して説明する。図3は塗布装置の全体平面図、図4は塗布装置の全体正面図である。 この塗布装置は、塗布液が塗布される基板Wを水平姿勢で保持する基板保持台32を備えている。図3に示すように平面視で基板保持台32に並んで、塗布ヘッド10を一方向(X方向)に往復移動させるための第1移動機構34が配置されている。さらに図4に示すよう基板保持台32の下側に、基板保持台32を塗布ヘッド10の移動方向とは直交する方向(Y方向)に往復移動させるための第2移動機構35が配置されている。第1移動機構34および第2移動機構35は、本発明装置における移動機構に相当する。以下、各移動機構34、35の構成を説明する。 ・・・ 【0036】 <塗布装置の動作> ・・・ 【0039】 上述した溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程を同時並行して実施しながら基板W上に塗布液を塗布してゆく。具体的には、図6(1a)の塗布開始位置P1から塗布ヘッド10が第1移動機構34によって−X方向に走査されることにより、基板Wの端部領域である第1領域A1に塗布液が塗布される。第1領域A1の塗布が終わると塗布ヘッド10がX方向に移動すると共に、基板保持台32が第2駆動機構35によって−Y方向に走査されることにより、塗布ヘッド10が隣接する第2領域A2の塗布開始位置P2に移動する。続いて溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程を同時並行して実施しながら第2領域A2に塗布液を塗布してゆく(図6(2a)、(2b)参照)。第2領域A2への塗布が終わると塗布ヘッド10を隣接する第3領域A3の塗布開始位置P3に移動させて、同様にして第3領域A3に塗布液を塗布してゆく(図6(3a)、(3b)参照)。以上の動作を繰り返して基板Wの全面に塗布液を塗布する(図6(4a)、(4b)参照)。」 ・「【図1】 」 ・「【図5】 」 ・「【図6】 」 (2)甲1に記載された発明 甲1の【請求項9】、【0001】、【0010】、【0027】、【0028】、【0030】、【図1】及び【図5】に記載された事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1装置発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1装置発明> 「基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布装置であって、 基板を水平姿勢に保持する基板保持台と、 基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構と、 基板上に供給された塗布液に、塗布液の溶剤の蒸気を含ませた気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構と、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とを、前記基板保持台に保持された基板に対して相対的に移動させる移動機構と を備えており、 塗布液は、フォトレジストであって、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とは連結されて一体に構成されている塗布装置。」 2 本件特許発明14について (1)対比 本件特許発明14と甲1装置発明を対比する。 甲1装置発明における「基板」は、本件特許発明14における「基板(16)」に相当し、本件特許明細書の【0003】には、「基板が地形分布(topography)を有する場合、すなわち基板自体が既に表面上に垂直で3次元の構造を有する場合」と記載されており、また、甲1装置発明において、フォトレジストを塗布する対象である基板は、何らかの三次元構造を有するのが通常であるから、甲1装置発明における「基板」は、本件特許発明14における「地形形状を有する基板(16)」にも相当する。 甲1装置発明における「塗布液」は、「フォトレジスト」であるから、本件特許発明14における「ラッカー」に相当する。 甲1装置発明における「基板を水平姿勢に保持する基板保持台」、「基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構」及び「基板上に供給された塗布液に、塗布液の溶剤の蒸気を含ませた気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構」は、それぞれ本件特許発明14における「基板ホルダー(12)」、「ラッカーノズル(20)」及び「溶剤ノズル(22)」に相当する。 甲1装置発明における「インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構」及び「基板上に供給された塗布液に、塗布液の溶剤の蒸気を含ませた気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構」が互いに対して所定の距離を離した状態で固定されていることは明らかであるから、甲1装置発明における「前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とを、前記基板保持台に保持された基板に対して相対的に移動させる移動機構」は、本件特許発明14における「ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)」に相当する。 甲1装置発明における「インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構」及び「基板上に供給された塗布液に、塗布液の溶剤の蒸気を含ませた気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構」が「基板」の上方で一緒に移動できることも明らかである。 甲1装置発明における「基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布装置」は、本件特許発明14における「基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置であって、 基板ホルダー(12)、ラッカーノズル(20)、溶剤ノズル(22)、およびラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)を含み、 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板ホルダー(12)の上方で、移動装置(14)の手段により一緒に移動できる被覆装置。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1> 本件特許発明14においては、「ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し」と特定されているのに対し、甲1装置発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 そこで、相違点1について判断する。 本件特許発明14における「ラッカーノズル」に相当する甲1装置発明における「基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構」は、「インクジェット方式」で「塗布液」を「供給」する「塗布液供給機構」であるところ、「インクジェット方式」での「供給」は「噴霧」であるとはいえないから、相違点1は実質的な相違点である。 そして、甲1には、甲1装置発明における「基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構」を「噴霧」による「塗布液供給機構」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 なお、特許異議申立人は、令和4年3月2日に提出された意見書において、「甲1の段落0052に、「実施例おいて、溶剤供給機構は、塗布液供給機構と同様に、インクジェット方式の複数個のノズルを並べて構成されているが、溶剤供給機構は別の構成、例えばスプレーノズルからスプレー状に溶剤を供給するような構成であってもよい。」と記載されていることから分かるように、インクジェット方式の代替として、溶剤の塗布のためにスプレーコーティングを用いることも明示的に記載されています。本件特許発明14も甲1装置発明も、基板上にラッカーを噴霧する工程に続いて、ラッカーに溶剤を噴霧する工程を行うことが本質であり、塗布方式が技術的に異なるか否かは重要ではありません。」(第3ページ下から5行ないし第4ページ第4行)と主張するが、甲1の【0052】には、溶剤供給機構として、スプレー状に溶剤を供給するような構成を採用できる旨の記載はあるものの、塗布液供給機構についてスプレーノズルからスプレー状に塗布液を供給するような構成とすることは記載されていないので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 したがって、甲1装置発明において、他の証拠に記載された事項を参酌しても、相違点1に係る本件特許発明14の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (3)まとめ したがって、本件特許発明14は甲1装置発明であるとはいえない。 また、本件特許発明14は甲1装置発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 本件特許発明15及び17について 本件特許発明15及び17は、請求項14を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明14の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明14と同様に、甲1装置発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 本件特許発明16について 本件特許発明16は、請求項14を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明14の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明14と同様に、甲1装置発明であるとはいえないし、甲1装置発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび したがって、本件特許発明14及び16は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明14ないし17は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。 よって、本件特許の請求項14ないし17に係る特許は特許法第113条第2号に該当しないので、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性)のうち請求項1に対する理由、申立理由2(甲1に基づく進歩性)のうち請求項1ないし13に対する理由、申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(明確性要件)である。 以下、検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性)のうち請求項1に対する理由及び申立理由2(甲1に基づく進歩性)のうち請求項1ないし13に対する理由について (1)甲1に記載された発明 甲1の【請求項3】、【0001】、【0010】、【0027】及び【0028】に記載された事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1方法発明> 「基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布方法であって、 塗布液は、フォトレジストであって、 インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程と、 前記塗布液供給工程を行いながら、基板上に供給された塗布液に、塗布液の溶剤の蒸気を含ませた気体を気体噴射機構から噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する平滑化工程とを備え、 前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とは連結されて一体に構成されている塗布方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1方法発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「基板(16)の上方を移動可能なノズル(20)を用いて、基板(16)の上にラッカーを噴霧する工程」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点2について判断する。 甲1方法発明における「インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程」は、「インクジェット方式」で「塗布液」を「供給」する「塗布液供給工程」であるところ、「インクジェット方式」での「供給」は「噴霧」であるとはいえないから、相違点2は実質的な相違点である。 そして、甲1には、甲1方法発明における「インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程」を「噴霧」による「塗布液供給工程」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1方法発明において、他の証拠に記載された事項を参酌しても、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は甲1方法発明であるとはいえない。 また、本件特許発明1は甲1方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2ないし13について 本件特許発明2ないし13は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由1のうち請求項1に対する理由及び申立理由2のうち請求項1ないし13に対する理由についてのむすび したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1に係る特許は同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1のうち請求項1に対する理由によっては取り消すことはできない。 また、本件特許発明1ないし13は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は同法第113条第2号に該当しないので、申立理由2のうち請求項1ないし13に対する理由によっては取り消すことはできない。 2 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明1ないし5及び10ないし13の課題(以下、「発明の課題」という。)は「基板上に塗布されたラッカー層が均一でラッカー粒子を有さない方法」を提供することであるといえるところ、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「溶剤が、塗布されたラッカーの上に局所的に噴霧される」方法は発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし5及び10ないし13についても同様である。 なお、特許異議申立人の上記第4 3における主張について検討する。 本件特許の請求項1の記載によると、本件特許発明1は、常に分離されているノズル及び同一のノズルのいずれを用いて、ラッカーと溶剤とを基板に噴霧する実施形態も包含するものである。 他方、本件特許の発明の詳細な説明の【0032】ないし【0077】及び図1ないし3には、「ラッカーノズル20」と「溶剤ノズル22」とが常に分離されている実施形態が記載されており、【0078】には、「同様に、ラッカーと溶剤が同じノズルから噴霧されることも設定可能である。」と記載されており、「ラッカーノズル20」と「溶剤ノズル22」が同一のノズルでもよいことが記載されている。 したがって、特許異議申立人の「ラッカーノズル20と溶剤ノズル22とが常に分離されている実施形態のみが記載されている」旨の主張は採用できない。 (3)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし5及び10ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 3 申立理由4(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1の「移動は予め決められた経路に従い、ノズル(20)はこれにより予め決められたスプレーパターンの上を移動する」(当審注:下線は当審で付した。)という記載によると、「スプレーパターン」は「これ」すなわち「予め決められた経路」により「予め決められた」ものであるから、「予め決められた経路」に従った「移動」と「予め決められたスプレーパターン」の上の「移動」とが同一の移動を指していることは当業者に明らかである。 したがって、本件特許の請求項1の「基板(16)の上方を移動可能なノズル(20)を用いて、基板(16)の上にラッカーを噴霧する工程であって、移動は予め決められた経路に従い、ノズル(20)はこれにより予め決められたスプレーパターンの上を移動する工程」という記載は不明確な記載ではない。 また、他に本件特許の請求項1に不明確な記載はない。 したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、本件特許発明1は明確である。 また、本件特許発明2ないし13に関しても同様である。 (3)申立理由4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項14ないし17に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、上記第7のとおり、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 そして、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】基板を被覆する方法および被覆装置 【技術分野】 【0001】 本発明は、ラッカーで基板を被覆する方法と、基板にラッカーを塗布するための被覆装置に関する。 【背景技術】 【0002】 マイクロ加工プロセスおよびナノ加工プロセスは、一般に、処理される基板の上に層として塗布されるラッカーを使用する。それらのラッカーを用いて、基板の上に例えばマスクを形成することが可能となり、これを用いて、所望の構造が形成でき、または基板上で処理が達成される。この目的のために、ラッカーは例えば感光性で、光学画像を用いて、所望の構造が、フォトマスクから感光性ラッカーに転写される。 【0003】 最適の結果を得るために、塗布されたラッカー層には不規則(凹凸)や粒子が無いことが非常に重要である。回転する方法に加えて、スプレー(噴霧)する方法がまた、基板上にラッカーを塗布するために使用され、このスプレー方法では、ラッカーはノズル手段により基板上に噴霧される。特に、基板が地形分布(topography)を有する場合、すなわち基板自体が既に表面上に垂直で3次元の構造を有する場合、最も均質になりそうなラッカー層は、スプレーオンラッカー(spraying−on the lacquer)の方法によってのみ経済的に達成できる。 【0004】 しかしながら、ラッカーをスプレーした場合、ラッカー層の上にラッカー粒子が形成されるが、ノズルと基板との間を飛んでいる最中に所定の数のラッカー滴は乾燥し、殆ど乾燥したラッカー粒子として、基板の表面またはその位置に存在するラッカーに衝突する。それらのラッカー粒子は、スプレーオンラッカー層の上に集まり、例えば露光のような更なる処理の間に問題となり、最後に作製された基板の上で部分的な欠陥となる。 【発明の概要】 【0005】 本発明の目的は、基板上に塗布されたラッカー層が均一でラッカー粒子を有さない方法および装置を提供することである。 【0006】 この目的は、ラッカーが基板上に噴霧され、次に基板上に塗布されたラッカーに溶剤が噴霧される、ラッカーで基板を被覆する方法で達成される。 【0007】 続いて、塗布されたラッカーに溶剤を噴霧することにより、基板上に形成された不規則が平坦化され、基板に付着したラッカー粒子が分解され、基板の表面が平坦で(少なくとも本質的に)ラッカー粒子がなくなる。 【0008】 この文脈の「ラッカー(lacquer)」の用語は、所望の応用に適した溶剤とラッカーの混合物であると理解される。 【0009】 好適には、溶剤は塗布されたラッカーの上に部分的に噴霧され、これによりラッカーの制御された後処理を可能にする。 【0010】 1つの具体例では、ラッカーの噴霧と、塗布されたラッカーへの溶剤の塗布と間に、塗布されたラッカーの溶剤比率が減少して、塗布されたラッカーは固定される。ここで「固定する(set)」の用語は、塗布されたラッカーの粘度が増加して、さらなる処理まで塗布されたラッカーがもはや流れないことを意味すると理解される。特に、基板が地形形状を有する場合、ラッカーを固定して、基板のエッジやスロープをラッカーで信頼できるように覆ったままに維持することは重要である。 【0011】 溶剤を塗布するまでおよび塗布する間、塗布されたラッカーの溶剤比率は、一方では、塗布されたラッカーの粘度が十分に高くてラッカーがこれ以上流れないことを確実にするような範囲に維持しなければならない。他方では、溶剤比率は、溶剤の噴霧中に、ラッカー粒子や不規則がもはや分解や平坦化されない程度にまで低減してはいけない。 【0012】 好適には、基板および/または塗布されたラッカーは、ラッカーの噴霧中におよび/または噴霧後に加熱され、これにより塗布されたラッカーの溶剤比率は簡単な方法で減らすことができる。 【0013】 本発明の1つの具体例では、予め決められたスプレーパターンに従って、好ましくは並行に、基板上にラッカーが塗布され、ここでは、溶剤も同様にスプレーパターンに従って塗布されたラッカーの上に噴霧される。これにより、塗布されたラッカーに確実に溶剤が噴霧される。 【0014】 好適には、基板の上の位置にラッカーが塗布される時点と、この位置に溶剤が塗布される時点の間の時間は一定で、これにより溶剤が塗布された場合に、塗布されたラッカーは常に同じ溶剤比率を有することが確実になる。 【0015】 本発明の1つの具体例では、ラッカーは、ラッカーノズルの手段で基板上に噴霧され、溶剤は、ラッカーノズルから分離された溶剤ノズルの手段を用いて噴霧され、これにより、基板は迅速で効果的にラッカーで塗布できる。 【0016】 好適には、ラッカーノズルと溶剤ノズルは、基板の上方を、基板に対して並行に、特に同時に動かされ、2つのノズルに対して1つの駆動メカニズムが必要となる。 【0017】 好適な具体例では、ラッカーノズルと溶剤ノズルが移動する場合、溶剤ノズルはラッカーノズルの経路に従い、これにより、噴霧されたラッカーに、続いて溶剤が噴霧されるのを確実にするように設定される。 【0018】 1つの具体例の変形では、ラッカーノズルと溶剤ノズルは、基板に並行な少なくとも1つの面内を、基板の上方の並行な経路で移動し、ここでは、ラッカーノズルと溶剤ノズルとの間の距離は、経路の間の距離の2倍または整数倍で、これにより、一方で、簡単な噴霧パターンが使用でき、他方で、溶剤ノズルがラッカーノズルと同じ経路を確実に通るようにする。 【0019】 本発明の1つの具体例では、複数のラッカー層が基板上に塗布された場合は、塗布されたラッカーには、最後のラッカー層が塗布された後に溶剤が塗布され、最後の塗布されたラッカー層の不規則およびラッカー粒子が平坦化または除去される。 【0020】 最後のラッカー層が塗布された場合、このラッカーは、先に塗布されたラッカー層のラッカーよりも大きな溶剤比率を有することができる。これは、塗布されたラッカーに溶剤が噴霧されるまで、ラッカー粒子および不規則の除去がもはや起こらない程度にまで塗布されたラッカーの溶剤比率が減らないことを確実にする。 【0021】 単一のラッカー層が基板上に塗布された場合でも、使用されるラッカーの溶剤比率は、続いて溶剤を噴霧しない従来のスプレーコートプロセスの場合より高くなるように選択される。 【0022】 本発明の1つの具体例では、塗布されたラッカーの表面の品質を更に改良するために、塗布されたラッカーに繰り返し溶剤が噴霧される。 【0023】 溶剤は、アセトンまたはメチルエチルケトンでも良く、それゆえに公知の溶剤を使用しても良い。 【0024】 目的は、また、特に地形形状を有する基板のような基板にラッカーを塗布するための被覆装置により達成され、この装置は、基板ホルダー、ラッカーノズル、溶剤ノズル、および、その上にラッカーノズルと溶剤ノズルが互いに所定の距離で配置される移動装置、を含み、ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し、ラッカーノズルと溶剤ノズルは、基板ホルダーの上を、移動装置の手段により、共に移動できる。ラッカーノズルと共に移動できる分離した溶剤ノズルの手段により、基板の上に塗布されたラッカーに、同じ処理工程で溶剤を噴霧することが可能となり、これにより、塗布されたラッカーの上に集められたラッカー粒子を分解し、噴霧中に形成された不規則を平坦化できる。 【0025】 好適には、被覆装置は加熱装置を含み、特に基板ホルダーが加熱要素を備え、これにより簡単な方法で、塗布されたラッカーの溶剤比率を減らすことができる。 【0026】 1つの具体例では、移動装置が、基板ホルダーに平行な少なくとも1つの面の中を、基板ホルダーの上方の平行な経路で、ラッカーノズルと溶剤ノズルを動かし、ラッカーノズルと溶剤ノズルとの間の距離は、経路の間の距離の2倍または整数倍に等しい。 【0027】 経路の間の距離は、覆われる基板上で、ラッカーノズルにより形成されたラッカージェットの直径におおよそ対応し、これにより基板上にどの位置も残されたり、繰り返し噴霧されたりすることの無いような特別に効果的な方法で、基板を塗布することが可能となる。 【0028】 ラッカーノズルと溶剤ノズルが平行な経路を移動する間に、それらは、溶剤ノズルとラッカーノズルの双方またはノズルにより形成された双方のジェットが基板のエッジに到達し、またはすでにエッジを超えて移動した場合に、経路の間の距離だけ、経路の長手方向に対して好適には横方向に互いに置き換えられる。 【0029】 隣り合う経路は、それぞれ互いに逆の移動方向である。 【図面の簡単な説明】 【0030】 更なる長所と特徴は、以下の記載および参照される添付された図面から明らかになるであろう。図面は以下の通りである。 【0031】 【図1】本発明にかかる被覆装置の側面図を模式的に示す。 【図2】図1の被覆装置の平面図を模式的に示す。 【図3】本発明にかかる方法で、時間の異なる点における、被覆される基板の断面図をa〜cに模式的に示す。 【発明を実施するための形態】 【0032】 図1は、基板を被覆し取り扱うために使用される、被覆装置10を模式的に示す。基板は、例えば続いて更なる処理が行われる半導体である。 【0033】 被覆装置10は、基板ホルダー12および移動装置14を含む。 【0034】 基板ホルダー12の上には、被覆装置10を用いてラッカーが被覆される基板16が配置される。 【0035】 基板ホルダー12は、好適には被覆装置10のための加熱装置を構成する加熱要素18を備える。 【0036】 加熱要素は、基板16を加熱し、これにより基板上に塗布されたラッカーを加熱するために使用される。 【0037】 移動装置14は、2つのノズル、すなわちラッカーノズル20と溶剤ノズル22とを備え、これらは互いに所定の間隔で配置される。距離は、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22との出口開口部の間の距離である。 【0038】 ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、基板16の上方に配置され、すなわち基板ホルダー12に面して、基板から離れて配置される。これにより、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、基板ホルダー12の上方に配置される。 【0039】 移動装置14は、また、アクチュエータ24を含み、これを用いてラッカーノズル20と溶剤ノズル22を動かすことができる。 【0040】 示された具体例では、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、移動装置14を用いて、空間に拡がる3つの軸X、Y、Zに沿って、基板16および基板ホルダー12の上方を移動し、特にX軸およびY軸により拡がる面の中で移動できる。必要な場合、ノズルと基板との間の距離が変化するように、すなわち、ノズルが基板に対してZ方向に調整されるように、更に準備がなされる。 【0041】 特に、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、ノズル20、22の間の距離が変わらないように、移動蔵置14の上で固定配置される。しかしながら、距離を可動にして、被覆装置10をよりフレキシブルに使用することも実行可能である。 【0042】 基板16を被覆するために、ラッカーノズル20を用いて、基板16の上にラッカーが最初に噴霧される。図3aには、ラッカーが噴霧される前の基板16が部分的に示される。 【0043】 図3bでは、ラッカーノズル20は、図3aに示される位置を通って、基板16の上のこの位置にラッカーが噴霧される。ラッカー層26が基板16の上に形成される。 【0044】 しかしながら、ラッカー層26、すなわち塗布されたラッカーは、基板16の噴霧中に形成された不規則28およびラッカー粒子30を有する。 【0045】 基板16の上に形成されたラッカーが流れるのを防止するために、基板16とそれゆえに基板16の上に形成されたラッカー層26が加熱される。この結果、ラッカーから溶剤が蒸発し、ラッカーの溶剤比率が減り、ラッカーの粘度が増える。これにより形成されたラッカーが固定される。 【0046】 「固定(set)」の用語は、ラッカーが完全に乾燥することを意味せず、むしろ望まない方法でもはや流れない程度に、単にその流動性が減らされることを意味する。特に、急勾配のエッジやスロープを有する縦の地形形状を有する基板の場合、塗布されたラッカーが可能な限り迅速に固定し、塗布されたラッカーがエッジやより高い位置から流れずに、それらの位置に殆どラッカーが無いか、ラッカーが全く無い状態で残される。 【0047】 ラッカーが基板16の上に噴霧された後、ラッカーノズル20から分離された溶剤ノズル22は、丁度ラッカーが塗布された位置を通り、ラッカー層26の上に溶剤を噴霧する。 【0048】 溶剤ノズル22により形成された溶剤ジェットは、ラッカー層26が局所的に、すなわち所定の位置に、溶剤が噴霧されるような、制限された直径を有する。 【0049】 基板16の一つの位置にラッカーが噴霧された時点と、この位置に溶剤が噴霧された時点との間の時間は、基板16のそれぞれの位置において一定である。 【0050】 噴霧された溶剤の効力により、ラッカー層26の上に存在するラッカー粒子30は分解され、ラッカー層26と均一に結合する。さらに、ラッカー層26の不規則28も平坦化される。 【0051】 これにより、図3cに示すような、平坦なラッカー層26が形成される。 【0052】 基板16の上にラッカーを噴霧するために、ラッカーノズル20は基板16の上方を移動する。移動は予め決められた経路に従い、ラッカーノズル20は、これにより予め決められたスプレーパターンを移動する。 【0053】 溶剤ノズル22は、ラッカーノズル20と同時に移動するが、距離aだけオフセットされている。ラッカーノズル20に対する溶剤ノズル22の位置、特に距離aは、スプレーパターンに一致するように選択され、溶剤ノズル22はラッカーノズル20の経路に従い、これにより同じスプレーパターンを移動する。 【0054】 基板16の上方で、溶剤ノズル22の経路がラッカーノズル20の経路に対応すれば十分である。 【0055】 これにより、ラッカーおよび溶剤は、同じスプレーパターンで塗布される。 【0056】 ありそうなスプレーパターンを記載するために、塗布される基板16、ラッカーノズル20、および溶液ノズル22が、図2の平面図に記載される。明確化の理由から、移動装置14は示されない。 【0057】 破線はラッカーノズル20の経路を示し、点線は溶液ノズル22の経路を示す。被覆手順の最初の、ラッカーノズル20と溶液ノズル22の位置が、矩形で示される。被覆手順の最後のラッカーノズル20と溶剤ノズル22の位置は、破線と点線の矩形でそれぞれ示される。 【0058】 ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、基板16または基板ホルダー12の上方の平行な経路Bで、移動装置14により移動する。 【0059】 移動は、基板156または基板ホルダー12と平行な面、例えばX軸とY軸に拡がる面で行われる。 【0060】 Z軸に沿ったノズル20、22の高さは、被覆される基板16の上で、ラッカーノズル20により形成されるラッカージェットの直径におおよそ対応する、経路Bの間の距離で選択される。 【0061】 溶剤ノズル22により形成される溶剤ジェットの直径は、好適には、基板16の上で、ラッカージェットと同じ直径を有する。 【0062】 図2に示す具体例では、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22との間の距離は、距離bのおおよそ2倍に対応する。 【0063】 もちろん、距離aは、距離bの異なる整数倍でも良い。 【0064】 経路Bは、交互に、反対方向に移動し、例えばY軸に平行に移動する。隣り合う経路Bは、互いに、反対の移動方向に移動する。 【0065】 ラッカーノズル20と溶剤ノズル22、またはノズル20、22により形成されるジェットが基板16のエッジに到達するか、または基板16のエッジを超えて移動するとすぐに、Y方向の移動が停止し、2つのノズル20、22は、X軸に沿った、経路Bの間の距離bだけ、オフセットされる。 【0066】 続いて、ノズル20、22はY方向の先の移動とは反対の方向に、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22またはノズル20、22で形成されるジェットが、基板16のエッジに到達するか、またはこれを超えるまで、同様にY軸に沿って移動する。 【0067】 溶剤ノズル22の移動は、距離aとbの比により規定されて、ラッカーノズル20の移動と同じ経路Bに沿って行われ、溶剤ノズル22は、ラッカーノズル20の経路に従う。 【0068】 塗布手順は、ラッカーノズル20および溶剤ノズル22が、基板16の上を完全に通り過ぎるとすぐに終了する。これは、ラッカーまたは溶剤のジェットが、基板16の表面全体の上を通ることを意味する。 【0069】 ラッカーノズル20および溶剤ノズル22は、破線および点線の矩形でそれぞれ図2に表すような、それらの最終位置に配置される。 【0070】 ラッカーノズル20が溶剤ノズル22に固く結合されているという事実の長所により、記載された具体例では、溶剤ノズル22の最初の2つの経路Bは、塗布手順の最初において、基板16または基板ホルダー12に隣接する平面図の中に延び、一方、ラッカーノズル20の最後の2つの経路Bは、塗布手順の最後において、基板16または基板ホルダー12に隣接する平面図の中に延びる。 【0071】 ラッカーノズル20と溶剤ノズル22が基板の上を移動する間、ラッカーはラッカーノズル20から噴霧され、溶剤は溶剤ノズル22から噴霧される。 【0072】 ラッカーは、溶剤と純粋なラッカーとの混合物、例えばフォトレジストであり、「ラッカー(lacquer)」の用語は、ラッカーと溶剤の混合物を意味すると理解される。 【0073】 使用される溶剤は、アセトンまたはメチルケトンである。しかしながら、使用されるラッカーを分解できる他の溶剤または溶剤の混合物も実行可能である。 【0074】 好適には、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22は、それらにより形成されるジェットが、基板の上で重ならないように配置される。逆に、ジェットは互いに隣接しても良い。 【0075】 さらに、ラッカーノズル20と溶剤ノズル22が、基板16または基板ホルダー12の上を移動する間、基板ホルダー12は加熱要素18により加熱されても良い。この方法では、基板16とすでにその上に噴霧されたラッカー層が加熱される。 【0076】 記載した被覆手順と、特に実際に説明したスプレーパターンは、単に例示の方法によるものと理解される。例えば、溶剤ノズル22が直接ラッカーノズル20に従うことも可能である。この場合、それらが配置されるキャリアは、それぞれの経路の終わりで180°だけ回転し、続く経路において、溶剤ノズル22が、ラッカーノズル20の背後に配置されなければならない。 【0077】 ラッカー層26の上のラッカー粒子30の数と不規則28を更に減らすために、塗布されたラッカーに対して溶剤を繰り返す噴霧することもまた実施可能である。 【0078】 同様に、ラッカーと溶剤が、同じノズルから噴霧されることも、設定可能である。この場合、ノズルは基板の上を繰り返し移動し、ラッカーは1つの経路で噴霧され、溶剤は他の経路で噴霧される。 【0079】 もちろん、基板の上に複数のラッカー層を塗布することも可能である、この場合、塗布されたラッカーは、最後のラッカー層が噴霧された後に、溶剤が噴霧される。 【0080】 最後のラッカー層を噴霧するためのラッカーの溶剤比率は、先に使用されたラッカーの溶剤比率より大きくなるように選択されても良い。 【0081】 一般に、1つの層のラッカーのみが噴霧される場合、続いて溶剤を噴霧しない比較の噴霧プロセスの場合より、ラッカーの溶剤比率は、より大きくなるように選択されても良い。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 【請求項1】 基板(16)をラッカーで被覆する方法であって、ラッカーはフォトレジストであり、この方法は、 基板(16)の上方を移動可能なノズル(20)を用いて、基板(16)の上にラッカーを噴霧する工程であって、移動は予め決められた経路に従い、ノズル(20)はこれにより予め決められたスプレーパターンの上を移動する工程と、 続いて、移動可能なノズル(22)を用いて、基板(16)に塗布されたラッカーに溶剤を噴霧する工程と、を含み、 溶剤は、塗布されたラッカーの上に局所的に噴霧されることを特徴とする方法。 【請求項2】 ラッカーを噴霧する工程と、塗布されたラッカーに溶剤を噴霧する工程との間に、塗布されたラッカーの溶剤比率が、塗布されたラッカーが固定される程度に減らされることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 基板(16)および/または塗布されたラッカーは、ラッカーの噴霧中および/または噴霧後に加熱されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 ラッカーは、基板(16)の上に、予め決められたスプレーパターンで、平行な経路(B)で噴霧され、溶剤は、同様に、このスプレーパターンで、塗布されたラッカーの上に噴霧されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 基板の1つの位置にラッカーが噴霧される時点と、この位置に溶剤が噴霧される時点との間の時間は一定であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 【請求項6】 ラッカーは、ラッカーノズル(20)の手段により基板(16)の上に噴霧され、溶剤は、ラッカーノズル(20)から分離された溶剤ノズル(22)の手段により噴霧されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板(16)の上方を、基板(16)に対して平行に、同時に、移動することを特徴とする請求項6に記載の方法。 【請求項8】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)の移動の間、溶剤ノズル(22)は、ラッカーノズル(20)の経路に従うことを特徴とする請求項7に記載の方法。 【請求項9】 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板(16)に平行な、少なくとも1つの面内を、基板(16)の上方の平行な経路(B)で移動し、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)との間の距離(a)は、経路(B)の間の距離(b)の2倍または整数倍に等しいことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。 【請求項10】 複数のラッカー層が基板(16)の上に塗布される場合、最後のラッカー層が噴霧された後に、塗布された層に溶剤が噴霧されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。 【請求項11】 最後のラッカー層が噴霧された場合、ラッカーは、先の噴霧されたラッカー層のラッカーより大きな溶剤比率を有することを特徴とする請求項10に記載の方法。 【請求項12】 塗布されたラッカーは、溶剤が繰り返し噴霧されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。 【請求項13】 溶剤は、アセトンまたはメチルケトンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。 【請求項14】 基板(16)、地形形状を有する基板(16)に、ラッカーを塗布する被覆装置であって、 基板ホルダー(12)、ラッカーノズル(20)、溶剤ノズル(22)、およびラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)がその上に、互いに対して所定の距離(a)で配置された移動装置(14)を含み、 ラッカーノズル(20)は基板(16)の上にラッカーを噴霧し、 ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)は、基板ホルダー(12)の上方で、移動装置(14)の手段により一緒に移動できることを特徴とする被覆装置。 【請求項15】 被覆装置(10)は加熱装置を含み、基板ホルダー(12)は加熱要素(18)を備えることを特徴とする請求項14に記載の被覆装置。 【請求項16】 移動装置(14)は、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)を、基板(12)に平行な、少なくとも1つの面内で、基板(12)の上方の平行な経路(B)で移動できるように設計され、ラッカーノズル(20)と溶剤ノズル(22)との間の距離(a)は、経路(B)の間の距離(b)の2倍または整数倍に等しいことを特徴とする請求項14または15に記載の被覆装置。 【請求項17】 経路(B)の間の距離(b)は、被覆される基板(16)の上に、ラッカーノズル(20)で形成されるラッカージェットの直径におおよそ対応することを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の被覆装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-02 |
出願番号 | P2015-183995 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B05D)
P 1 651・ 113- YAA (B05D) P 1 651・ 121- YAA (B05D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 細井 龍史 |
登録日 | 2020-06-16 |
登録番号 | 6718216 |
権利者 | ズス・マイクロテック・リソグラフィ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング |
発明の名称 | 基板を被覆する方法および被覆装置 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 中野 晴夫 |
代理人 | 中野 晴夫 |
代理人 | 永島 秀郎 |