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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
管理番号 1388339
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-28 
確定日 2022-07-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6716072号発明「樹脂組成物、及びそれを用いた積層体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6716072号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−2]、[3−5]について訂正することを認める。 特許第6716072号の請求項2、5に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6716072号の請求項1、3−4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6716072号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成27年7月31日を出願日とする特許出願(特願2015−151905号)であって、令和2年6月12日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年7月1日である。)。
その後、令和2年12月28日に、本件特許の請求項1〜5に係る特許に対して、特許異議申立人である岡林茂(以下、「申立人A」という。)から、また、令和3年1月4日に、本件特許の請求項1〜5に係る特許に対して、特許異議申立人である林誠一(以下、「申立人B」という。)から、それぞれ特許異議の申立てがなされた。

1 特許異議申立て以降の経緯
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。

令和3年 5月27日付け:取消理由通知
同年 7月30日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 8月26日付け:通知書(申立人A及び申立人B宛て)
同年 9月30日 :上申書の提出(申立人B)
同年 9月30日付け:通知書(申立人B宛て)
同年10月26日 :意見書(申立人B)
同年12月22日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和4年 3月 3日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 3月 9日付け:通知書(申立人A及び申立人B宛て)

なお、令和4年3月9日付け通知書に対し、申立人A及び申立人Bからの応答はなかった。
また、令和4年3月3日付けの訂正請求がされたことにより、令和3年7月30日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。

2 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法
申立人Aが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014−189758号公報
甲第2号証:特開2010−37456号公報
甲第3号証:特開平9−173911号公報
甲第4号証:富山和照、「ディスペンサに見る最新技術動向」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.7、No.6、501〜505頁、2004年
甲第5号証:日本レオロジー学会編、「講座・レオロジー」、(株)高分子刊行会、228〜231頁、1992年
甲第6号証:特開2014−201593号公報
甲第7号証:石原治彦、「新たなモノづくりを可能にする高粘度インクジェットヘッド」、東芝レビュー、Vol.67、No.11、64〜65頁、2012年
(以下、申立人Aが提出した上記甲第1号証〜甲第7号証を「甲1A」〜「甲7A」という。)

(2)申立人Bが提出した証拠方法
ア 特許異議申立書に添付して提出した証拠方法
申立人Bが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014−189758号公報
甲第2号証:特開2010−37456号公報
甲第3号証:特開2010−235486号公報
甲第4号証:特開2014−74774号公報
甲第5号証:特開2013−67711号公報
甲第6号証:特開2014−209542号公報
甲第7号証:特開2014−118508号公報
甲第8号証:特開2015−122232号公報
甲第9号証:特開2012−247787号公報
甲第10号証:特開2014−56250号公報
甲第11号証:特開2014−118450号公報
甲第12号証:特開2014−237745号公報
甲第13号証:国際公開2008/123551号
甲第14号証:国際公開2015/046422号
甲第15号証:試験結果報告書、作成者:富山県産業技術研究開発センター、丹保浩行、試験日:令和2年11月2日
甲第16号証:試験結果報告書、作成者:富山県産業技術研究開発センター、丹保浩行、試験日:令和2年12月11日
甲第17号証:試験結果報告書、作成者:富山県産業技術研究開発センター、丹保浩行、試験日:令和2年12月18日、令和2年12月21日

イ 令和3年10月26日付け意見書に添付して提出した証拠方法
申立人Bが、令和3年10月26日付け意見書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第18号証:「樹脂(機能性組成物)の粘弾性試験」試験成績通知書、作成者:富山県産業技術研究開発センター、令和3年10月15日

(以下、申立人Bが提出した上記甲第1号証〜甲第18号証を「甲1B」〜「甲18B」という。)

(3)特許権者が提出した証拠方法
特許権者が、令和3年7月30日付け意見書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。

乙第1号証:甘利武司、「高分子溶液のレオロジー」、生産研究、第24巻第9号第384〜392頁、1972年
(以下、特許権者が提出した上記乙第1号証を「乙1」という。)


第2 本件訂正の内容
令和4年3月3日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は「特許第6716072号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める。」というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(また、本件の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

1 訂正の内容
(1)各訂正事項について
ア 訂正事項1について
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において
「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含み、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、(水素添加)ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、(水素添加)ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上であり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートとの組合せ、又は、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートと脂環式(メタ)アクリレートとの組合せである、
硬化物付き基材の製造方法。」と記載されているのを、
「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2,000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法。」に訂正する。

イ 訂正事項2について
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3について
訂正前の特許請求の範囲の請求項3において
「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程
を含み、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含み、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、(水素添加)ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、(水素添加)ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上であり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートとの組合せ、又は、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートと脂環式(メタ)アクリレートとの組合せである、
2つの基材を含む積層体の製造方法。」と記載されているのを
「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程
を含み、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2,000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
2つの基材を含む積層体の製造方法。」に訂正する。

エ 訂正事項4について
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(2)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1〜2について、請求項2は請求項1を直接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正事項3に係る訂正前の請求項3〜5について、請求項4〜5は請求項3を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は2つの一群の請求項に対してされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「樹脂組成物」の成分について、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含み」と他の成分を含み得るものであったものを「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり」と「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」のみからなると特定し、
さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について「(メタ)アクリレートオリゴマーは、(水素添加)ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、(水素添加)ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上」の選択肢の中から「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」のみと特定するとともに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「重量平均分子量」及び「樹脂組成物」中の配合量を特定し、
「(B)(メタ)アクリレートモノマー」について、「アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートとの組合せ、又は、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレートと脂環式(メタ)アクリレートとの組合せである」との選択肢の中から「アルキル(メタ)アクリレート」のみと特定し、
「(C)光重合開始剤」の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」に対する配合量を特定したものであるから、特許請求の範囲をより限定したものであり、特許請求の範囲を減縮するものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による訂正における請求項1の「樹脂組成物」の成分について、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり」と「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」のみからなるとする特定、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について複数の選択肢の中から「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」のみとする特定、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」について複数の選択肢の中から「アルキル(メタ)アクリレート」のみとする特定は、本件明細書の段落【0055】〜【0070】の実施例1、3、5、7、8、11、10、11、14に「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」のみからなる「樹脂組成物」が示されていることに基づくものであるといえる。また、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「重量平均分子量」について「2,000〜50,000であり」と特定する訂正及び「樹脂組成物」中の配合量を「10〜60重量%であり」と特定する訂正は、本件明細書の段落【0023】の「(A)オリゴマーの分子量は、・・・、2,000〜50,000であるのがより好ましい」、段落【0026】の「樹脂組成物における(A)オリゴマーの量は、・・・10〜60重量%であってもよい」との記載に基づくものであり、「(C)光重合開始剤」の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部」に対する配合量を「1〜10質量部」と特定する訂正は本件明細書の段落【0032】の「樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)オリゴマー100質量部に対して、・・・さらに好ましくは1〜10質量部である」との記載に基づくものであるから、訂正事項1による請求項1の訂正は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。

(2)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項3に対して、訂正事項1と同じ内容の訂正を行うものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(3)訂正事項2、4について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項4による訂正は訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6716072号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜5の以下のとおりのものである(以下、請求項1〜5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。本件の願書に添付した明細書については、訂正の対象ではなく、本件訂正により訂正されていないので、以下においても「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2,000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程
を含み、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2,000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
2つの基材を含む積層体の製造方法。
【請求項4】
工程(1A)の前に、(1C)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物のダムを形成する工程を含む、請求項3記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
(削除)」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
取消理由及び異議申立の概要は、以下のとおりである。
なお、以下の記載において、本件特許の設定登録時の請求項1〜5に記載された発明は「本件訂正前の本件発明1〜5」といい、令和3年7月30日付け訂正請求書により訂正された請求項1〜5に記載された発明は「令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1〜5」といい、令和4年3月3日付けの訂正請求書により訂正された請求項1〜5に記載された発明は、上記「第3 特許請求の範囲の記載」に記載したとおり、「本件発明1〜5」ないしは「訂正後の本件発明1〜5」という。本件の願書に添付した明細書については、いずれの訂正請求においても訂正されていないので、以下においても「本件明細書」という。

1 取消理由通知の概要
(1)令和3年5月27日付けの取消理由通知で通知した取消理由について
当審が令和3年5月27日付けの取消理由通知で通知した取消理由(以下「取消理由1」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。

ア 取消理由1A(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「ア 取消理由1A、2A、申立理由A2、申立理由B4の概要」「(ア)取消理由1Aの概要」に記載した点で、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が本件訂正前の本件発明1〜5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

イ 取消理由1B(サポート要件)
本件訂正前の本件発明1〜5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1B(サポート要件)について」「ア 取消理由1B、申立理由B2(サポート要件)の概要」「(ア)取消理由1B、申立理由B2(サポート要件)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)令和3年12月22日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について
当審が令和3年12月22日付け:取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由(以下「取消理由2」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。

ア 取消理由2A(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「ア 取消理由1A、2A、申立理由A2、申立理由B4の概要」「(イ)取消理由2Aの概要」に記載した点で、当業者が令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1〜5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人Aによる特許異議申立理由の概要
申立人Aによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

ア 申立理由A1
(ア)本件訂正前の本件発明1〜5は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Aに記載された発明及び甲2A〜甲5Aに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1−1」という。)。
(イ)本件訂正前の本件発明1〜5は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6Aに記載された発明及び甲7に記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1−2」という。)。

イ 申立理由A2
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「ア 取消理由1A、2A、申立理由A2、申立理由B4の概要」に記載した点で、当業者が本件訂正前の本件発明1〜5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立人Bによる特許異議申立理由の概要
申立人Bによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

ア 申立理由B1
(ア)本件訂正前の本件発明1〜2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1Bに記載された発明及び甲2B〜甲4Bに記載された周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1−1」という。)。
(イ)本件訂正前の本件発明1は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5Bに記載された発明及び甲2B〜甲4Bに記載された周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1−2」という。)。
(ウ)本件訂正前の本件発明1〜2は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6Bに記載された発明及び甲2B〜甲4Bに記載された周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1−3」という。)。
(エ)本件訂正前の本件発明3〜5は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7Bに記載された発明及び甲2B〜甲4Bに記載された周知技術、甲7B〜甲8Bに記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1−4」という。)。

イ 申立理由B2(サポート要件)
本件訂正前の本件発明1〜5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由1B(サポート要件)について」「ア 取消理由1B、申立理由B2(サポート要件)の概要」「(ア)取消理由1B、申立理由2B(サポート要件)の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ウ 申立理由B3(明確性
本件訂正前の本件発明1〜5の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、「第5 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(1)申立理由B3(明確性)について」「ア 申立理由B3の概要」に記載した点で不備があるから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

エ 取消理由B4(実施可能要件
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第5 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「ア 取消理由1A、2A、申立理由A2、申立理由B4の概要」に記載した点で、当業者が本件訂正前の本件発明1〜5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の本件発明1〜5についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。


第5 当審の判断
特許異議の申立ての審理対象である請求項1〜5のうち、上記「第2 本件訂正の内容」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項2、5は、本件訂正により削除されているので、請求項2、5についての申立てを却下する。

当審は、当審が通知した取消理由1A、1B、2A及び申立人Aがした申立理由A1、A2、申立人Bがした申立理由B1、B2、B3、B4によっては、いずれも、本件発明1、3〜4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

なお、取消理由1A、2Aと申立理由A2、申立理由B4は、いずれも同じ趣旨もしくは関連するものであるので、以下「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」において、併せて検討する。
取消理由1Bと申立理由B2は、同趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(2)取消理由1B(サポート要件)について」において、併せて検討する。
申立理由A1−1と申立理由B1−1とは、いずれも同じ証拠を主引用例とするものであるから、以下「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(2)申立理由A1−1及び申立理由B1−1について」において、併せて検討する。

1 取消理由について
(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について
ア 取消理由1A、2A、申立理由A2、申立理由B4の概要
(ア)取消理由1Aの概要
取消理由1A(実施可能要件)の概要は、以下のとおりである。

(a)本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」は、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」を必須成分とするものであり、さらに、「可塑剤」及び他の成分も含む態様を包含しているものである。そして、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」及び「可塑剤」について、本件明細書をみると、それぞれ多様なものが例示され、さらに、「接着付与剤、酸化防止剤、消泡剤、顔料、充填剤、連鎖移動剤、光安定剤、表面張力調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、抑泡剤等」を含む態様も包含しており、これらを組み合わせて用いることを考慮すると、本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」は膨大な態様の組成物を包含しているといえる。また、「可塑剤」や「接着付与剤」、「充填剤」、「表面張力調整剤」等については、その種類や配合量によっては、「樹脂組成物」の粘度に大きな影響を与えることは技術常識であるといえる。
そして、本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」の製造方法について、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」(以下「SPI値」という。)が「300s−1以下」の値を有する「樹脂組成物」を得るための製造方法の手掛かりとなる記載であるといえるのは、本件明細書の段落【0029】の「(B)(メタ)アクリレートモノマーの含有量が増加すると、粘度及び第一法線応力差が低下する傾向がある。これにより、樹脂組成物のSPI値を所望の値とすることができる」との記載、及び、段落【0069】の実施例・比較例についての「せん断粘度」と「第一法線応力差」の傾向の記載のみである。

(b)本件明細書の比較例について
本件明細書の比較例1〜3は、いずれも「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」及び「可塑剤」として本件明細書において列記されている化合物を用いているにもかかわらず、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を満たさないことについて本件明細書をみても説明はなく、また、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を満たさず「吐出可能温度(℃)」が高くなると判断・推測できる技術常識があるともいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載を参酌しても、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得ることができるとはいえない。

(c)本件明細書の段落【0069】の記載について
本件明細書の段落【0069】には、(b1)「実施例1、3及び5の比較により、同じオリゴマーを用いた場合、ラウリルアクリレートの含有量を増加させることで、せん断粘度が低下し、第一法線応力差が非常に大きく低下した」こと、(b2)「実施例7及び14と比較例4との比較」(本件明細書の原文では「比較例4」と記載されているが、段落【0066】の【表2】には、比較例4の記載はなく、本記載の他の成分からみると、「比較例3」の誤記であることは明らかである。)でも「ラウリルアクリレートの含有量を増加させることで、せん断粘度が低下し、第一法線応力差が非常に大きく低下した」こと、(b3)「実施例1及び2の比較により、ほぼ同じ量のラウリルアクリレートを用いた場合、オリゴマーをポリブタジエンから水素添加ポリブタジエンとすることで、せん断粘度が減少し、第一法線応力差が非常に大きく減少した」こと、(b4)「実施例1及び8の比較により、ほぼ同じ量のラウリルアクリレートを用いた場合、オリゴマーの分子量が減少することで、せん断粘度が減少し、第一法線応力差が非常に大きく減少した」こと、(b5)「実施例9及び10の比較により、同じオリゴマーを用いた場合、ラウリルアクリレートを、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートと4−ヒドロキシブチルアクリレートとにしても、せん断粘度が減少し、第一法線応力差が非常に大きく減少した」ことが記載されており、これらの記載事項について本件明細書の実施例・比較例のデータをみると、これらの記載事項は事実としては一応確認できる。
一方で、上記(b3)について、例えば、実施例2と実施例8とを比較すると、ほぼ同じ量のラウリルアクリレートを用いているにもかかわらず(実施例2は25部、実施例8は27.5部)、オリゴマーについて、「TE−2000」である「ポリブタジエンウレタンアクリレート」から「ポリゴマーC」の「水素添加ポリブタジエンウレタンアクリレート」とした場合に、せん断粘度が減少し、第一法線応力差が増加していることから、(b3)の記載を一般的な傾向として直ちに把握することはできない。
また、上記(b4)について、例えば、実施例11と実施例14とを比較すると、ほぼ同じ量のラウリルアクリレートを用いており(実施例11は45部、実施例14は50部)、オリゴマーの分子量が減少しているにもかかわらず(実施例11は、重量平均分子量が43,000、実施例14は33,000)、せん断粘度が増加し、第一法線応力差が非常に大きく減少していることから、(b3)の記載も一般的な傾向として直ちに把握することはできない。
さらに、本件明細書には、上記(b1)〜(b5)について、そのような傾向が発現される理由について何ら説明されておらず、上記(b1)〜(b5)の傾向を裏付ける一般的な技術常識が存在するともいえない。また、(b1)〜(b5)には、「・・・せん断粘度が低下し、第一法線応力差が非常に大きく低下した」、「せん断粘度が減少し、第一法線応力差が非常に大きく減少した」と記載されているが、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」は「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」であり、「せん断粘度」が減少しても「第一法線応力差」も減少すれば大きな変化はないといえるから、両者の減少の程度を制御できなければ、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」の制御はできないといえる。
したがって、本件明細書の段落【0069】を参酌すれば直ちに、本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」全般にわたって、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を有するものを得ることができるとはいえない。

(d)本件明細書の実施例・比較例全般について
本件明細書の実施例・比較例は、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」については比較的多様なものを用いた例が示されているものの、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」、「(D)可塑剤」については、本件明細書の段落【0020】及び【0023】、段落【0027】、段落【0030】〜【0031】、段落【0034】の例示と比べるとごく限られたものしか用いられていない。
さらには、本件明細書の実施例・比較例では、「接着付与剤、酸化防止剤、消泡剤、顔料、充填剤、連鎖移動剤、光安定剤、表面張力調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、抑泡剤等」を配合した例は示されていない。
したがって、本件明細書の実施例の「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」、「(D)可塑剤」以外の「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」、「(D)可塑剤」を用いた場合や「接着付与剤、酸化防止剤、消泡剤、顔料、充填剤、連鎖移動剤、光安定剤、表面張力調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、抑泡剤等」を配合した場合であっても、本件明細書の実施例・比較例と同様に上記(b)の本件明細書の段落【0069】の記載を参照できるかは、本件明細書からは把握できないし、そのような場合に、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を、過度な試行錯誤なく得ることができるとはいえない。

(e)甲9B〜甲17Bについて
甲9Bの実施例樹脂組成物4、甲10Bの樹脂組成物1、甲11Bの比較例2の光硬化性樹脂組成物、甲12Bの実施例5の光硬化性樹脂組成物、甲13Bの樹脂組成物a、甲14の実施例1の光硬化性樹脂組成物(以下「甲9B〜甲14Bの樹脂組成物」という。)は、本件明細書の段落【0018】〜【0039】の記載からみて、「SPI値」に関する発明特定事項以外については、本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」に相当する組成物であるといえる。
また、甲15B及び甲16Bは、本件明細書の段落【0013】、段落【0056】の記載からみて、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」の測定方法に従う方法により、上記甲9B〜甲14Bの樹脂組成物の「SPI値」を測定した結果を示すものであるところ、この測定した結果をみると、甲9B〜甲14Bの樹脂組成物のいずれも本件訂正前の本件発明1の「SPI値」をいずれも満たさなかったばかりか、「せん断速度1000s−1」にも到達しなかったことが示されている。
したがって、本件明細書の記載からみて本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」に相当する組成を有する組成物であったとしても、本件発明1の「SPI値」をいずれも満たさなかったばかりか、「せん断速度1000s−1」にも到達しないものがあるといえる。

以上の(a)〜(e)を踏まえると、本件訂正前の本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得るためには、膨大な態様を包含する本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」に相当する組成物について、1つ1つ「せん断粘度」と「第一法線応力差」を本件明細書の段落【0013】及び【0056】の方法に従って測定し、計算をして確認することを要するものであり、当業者に過度な試行錯誤を要求するものであるといえる。
本件訂正前の本件発明1と同様の発明特定事項を有する本件訂正前の本件発明3、及び、本件訂正前の本件発明1、3を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の本件発明2、4〜5も同様である。

(イ)取消理由2Aの概要
取消理由2A(実施可能要件)の概要は、以下のとおりである。

(a)令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」の測定について
令和3年7月30日付けで訂正された「本件発明1」の「SPI値」は、本件明細書の段落【0013】及び【0056】の記載の測定方法・条件で、「第一法線応力差」及び「粘度」の測定値から、「第一法線応力差」の測定値を「粘度」の測定値で除することにより求めるものと定義づけられると理解できる。
しかしながら、特許権者は、令和3年7月30日付け意見書の、「い 「b 本件発明の「SPI値」を有する「樹脂組成物」について」について」(第6頁)において、「本件明細書には、SPI値を得る方法が詳細かつ明確に記載されている。即ち、本件明細書の段落0013には、・・・測定方法が明確に記載されており、本件明細書の段落0056には、・・・・具体的な記載がある。このような記載に基づけば、当業者は、各樹脂組成物のSPI値を簡単にかつ正確に一義的に求めることができるといえる」と本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された方法で測定すればよいと述べている一方で、「い 「甲9B〜甲17Bについて」について」(第12頁)においては、「ここで、レオメーターを用いて第一法線応力差及び粘度を測定するにあたり、測定対象物の粘度に応じたコーンローターを用いることは当業者にとって明らかである。また、2b〜2gで示されている『「せん断速度1000s−1」にも達しなかった』というのは、粘度が高すぎるため、コーンローター(φ=50mm、ローター角度1°)では装置(レオメータ)のトルク上限となってしまい、「せん断速度1000s−1」まで達することができなかったものと考えられる。・・・このように樹脂組成物の粘度が高い場合、面積の小さいコーン(例えば、コーンローター(φ=25mm、ローター角度2°))を用いることで、「せん断速度1000s−1」での測定は可能である」と述べており、本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された方法だけでなく、当該方法で測定できない場合は、「面積の小さいコーン」を用いる等本件明細書に記載された方法以外の方法での測定の必要性についても述べている。
一方、申立人Bは、令和3年10月26日付け意見書(第8頁)において、特許権者が上記意見書において「樹脂組成物の粘度が高い場合」に用いるとした「面積の小さいコーン(例えば、コーンローター(φ=25mm、ローター角度2°))」を用いた方法で測定した値について、「甲第18号証の表1の結果及び表Eの結果、並びに、令和3年1月4日付けで提出した甲第15号証、甲第16号証の表1の結果及び特許異議申立書の第52頁表Dの結果から次のことが分かりました。まず、本件特許権者が主張したように、コーンプレート(コーンローター)の大きさを変更(面積を小さく)すると、測定できる試料は増えたものの、コーンプレートの変更に伴って、樹脂組成物の粘度や第一法線応力差も変わることが分かりました」と述べ、甲18Bを提出して、その具体的なデータも示している。
そうすると、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を製造・選別するための前提となる「第一法線応力差」及び「粘度」の測定について、本件明細書の段落【0013】及び【0056】には測定方法について明確に記載されており、令和3年7月30日付け意見書において特許権者は本件明細書の当該記載について「このような記載に基づけば、当業者は、各樹脂組成物のSPI値を簡単にかつ正確に一義的に求めることができるといえる」(第6頁)と述べる一方で、同意見書において、上記本件明細書の方法で測定できない場合は本件明細書に記載されていない「面積の小さいコーン(例えば、コーンローター(φ=25mm、ローター角度2°))を用いる」方法で測定することも主張しており(第8頁)、本件明細書に記載された方法のみで測定できるのか否かも明らかでない。
また、当該意見書の主張に基づく「面積の小さいコーン(例えば、コーンローター(φ=25mm、ローター角度2°))を用いる」方法での測定値は、同じサンプルを用いた本件明細書に記載された方法に基づく測定値と大きく異なっている例もあり、測定方法によって測定値が異なるものとなった場合の取り扱いについて本件明細書には記載されていない。さらには、当該意見書の主張に基づく測定方法によっても測定できないサンプルもあるが、そのようなサンプルの場合は、さらに、大きさを変更したコーンローターを用いる必要があるのかどうかも、本件明細書からは明らかではない。

(b)令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」の製造について
(b−1)本件明細書の実施例1〜14の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」、「可塑剤」を用いた場合に、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得ることができることは理解できるものの、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の種類が異なる場合、「(B)モノマー」の種類が異なる場合、以下に述べる「(D)可塑剤の種類」や「更なる成分」の種類等により、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」がどの程度変化する傾向になるのかは、本件明細書をみても何の記載もないため理解できず、依然として、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の特定の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を製造するには、当業者に過度な試行錯誤を課すものである。
(b−2)令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1は、「可塑剤」を含む態様を包含するものであり、実施例・比較例をみると、実施例9、12、13、比較例1のように、最も多い成分、すなわち主成分として「可塑剤」を含む「樹脂組成物」の例もある。また、「可塑剤」について、段落【0034】の記載からみて、多様な種類のものが記載されており、さらに、「フタル酸エステル」、「多価カルボン酸アルキルエステル」等の比較的低分子量のものから、「熱可塑性エラストマー;石油樹脂;脂環族飽和炭化水素樹脂;・・・等のテルペン系樹脂;・・・等のロジンエステル系樹脂;キシレン樹脂等;・・・等のアクリル系樹脂;シリコーン系樹脂」と高分子量のものまで記載されている。
上述のとおり、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1における「組成物」において「可塑剤」は主成分になり得るにもかかわらず、本件明細書には、「可塑剤」の種類や分子量、配合量によって、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「SPI値」がどのように変化するのか記載されておらず、また、「可塑剤」の種類や分子量、配合量と本件発明1の「SPI値」との関係に関する一般的な技術常識があるとも認められない。
そうすると、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の「樹脂組成物」において「可塑剤」が含まれる場合に、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1の特定の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を製造するには、当業者に過度な試行錯誤を課すものである。
令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1と同様の発明特定事項を有する令和3年7月30日付けで訂正された本件発明3、及び、令和3年7月30日付けで訂正された本件発明1、3を直接的又は間接的に引用する令和3年7月30日付けで訂正された本件発明2、4〜5も同様である。

この取消理由2Aの上記(a)(b)の理由は、申立人Bの令和3年10月26日付け意見書の3(2)〜(5)における主張と同旨である。

(ウ)申立理由A2の概要
上記「(ア)取消理由1Aの概要」の(a)及び(c)の理由とほぼ同旨である。
(エ)申立理由B4の概要
上記「(ア)取消理由1Aの概要」の(a)、(d)及び(e)の理由とほぼ同旨である。

イ 判断
(ア)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物を生産する方法の発明では、その方法を使用でき、かつ、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
また、物を生産する方法の発明において、ある「物」を用いることを前提にしている場合には、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点に立って検討する。

(イ)判断
a 訂正後の本件発明1の実施可能要件について
本件訂正により、本件発明1の「樹脂組成物」について、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり」と「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」のみからなるとする特定がなされ、「可塑剤」や「更なる成分」を含む態様は本件発明1の「樹脂組成物」の範囲外のものとなった。さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」であり「重量平均分子量」について「2,000〜50,000」であると特定され、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」について「アルキル(メタ)アクリレート」と特定され、さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「樹脂組成物」中の配合量について「10〜60重量%」であると特定され、「(C)光重合開始剤」の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部」に対する配合量を「1〜10質量部」であると特定された。
本件明細書の実施例・比較例をみると、本件訂正後の本件発明1の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり」と「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」及び「(C)光重合開始剤」のみからなり、本願発明1の「SPI値」の範囲内である「樹脂組成物」の具体的な態様である実施例1、3、5、7、8、10、11、14が示され、さらに、本願発明1の「SPI値」の範囲外となる比較例2〜3も示されている。
そして、実施例1、3、5、7、8、10、11、14及び比較例2〜3をみると、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「分子量」が、「6000」の「水素添加ポリブタジエンウレタンアクリレートA」を用いた実施例1、3、5、「12000」のものを用いた実施例8、「26000」のものを用いた実施例10、「33000」のものを用いた実施例11、「43000」のものを用いた実施例14、「48000」のものを用いた比較例2をみると、本件明細書の段落【0069】に記載の「オリゴマーの分子量が減少することで、せん断粘度が減少し、第一法線応力差が非常に大きく減少した」との傾向、さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「分子量」が大きくなると「SPI値」が大きくなるとの傾向を読み取ることができる。
また、実施例1、3、5の比較から、段落【0069】に記載の「ラウリルアクリレートの含有量を増加させることで、せん断粘度が低下し、第一法線応力差が非常に大きく低下した」との傾向を読み取ることができるし、また、実施例1、3、5との対比、実施例7、14、比較例3の対比からは、「ラウリルアクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」の量が増えるほど「SPI値」が低くなる傾向が読み取れる。

さらに、訂正後の本件発明1の「SPI値」の測定に関して、令和4年3月3日付けの意見書の「(3−2)理由Aについて」「(3−2−1)「ア 本件発明1の「SPI値」の測定について」について」において、特許権者は「・・・当業者は、「本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された測定条件で測定できない「樹脂組成物」が、本件発明1〜5の対象外であると理解できるといえる。即ち、令和3年7月30日付け意見書の・・・『本件明細書の段落【0013】 及び【0056】に記載された方法だけでなく、当該方法で測定できない場合は、「面積の小さいコーン」を用いる等本件明細書に記載された方法以外の方法での測定の必要性』は無く、本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された測定条件で測定できない「樹脂組成物」は、本件発明1〜5の対象外である」と述べている。すなわち、本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された測定条件で測定できない「樹脂組成物」については、改めて測定条件を変えて測定する必要はなく、訂正後の本件発明1の対象外のものとして扱ってよいことを述べている。

以上を踏まえると、訂正後の本件発明1の「樹脂組成物」の調整は、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみ」からなり、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」が「重量平均分子量」「2,000〜50,000」の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」であり、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」が「アルキル(メタ)アクリレート」であって、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「樹脂組成物」中の配合量が「10〜60重量%」であり、「(C)光重合開始剤」の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部」に対する配合量が「1〜10質量部」のものについて、実施例・比較例のデータの上記傾向を考慮して調整すればよいといえるから、多少の試行錯誤は必要であるものの、当業者に過度の試行錯誤を課すものではないといえる。

b 取消理由1A(a)〜(e)、取消理由2A(a)、(b−1)及び(b−2)について
上記「a 訂正後の本件発明1の実施可能要件について」での検討を踏まえて、取消理由1A(a)〜(e)、取消理由2A(a)、(b−1)及び(b−2)について確認する。

取消理由1A(a)、(c)及び(d)及び取消理由2A(b−1)及び(b−2)については、本件訂正により、本件発明1の「樹脂組成物」について、「可塑剤」や「更なる成分」を含む態様は本件発明1の「樹脂組成物」の範囲外のものとなり、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(B)(メタ)アクリレートモノマー」が特定され、さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(C)光重合開始剤」の配合量が特定されたことから、試行錯誤をすべき範囲が大幅に縮小され、また、実施例1、3、5、7、8、10、11、14及び比較例2〜3のデータから、本件発明1の「SPI値」に影響を与える要因が明らかになったことから、解消されたといえる。
また、取消理由1A(b)については、比較例2は、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「分子量」が大きいため、本件発明1の「SPI値」を満たさず「吐出可能温度(℃)」が高くなったと推測でき、また、比較例3は、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「分子量」が比較的大きく、かつ、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」の量が少ないため本件発明1の「SPI値」を満たさず「吐出可能温度(℃)」が高くなったと推測できるから、解消されたといえる。
さらに、取消理由1A(e)及び取消理由2A(a)について、令和4年3月3日付けの意見書における特許権者の「本件明細書の段落【0013】及び【0056】に記載された測定条件で測定できない「樹脂組成物」は、本件発明1〜5の対象外である」との説明により、解消されたといえる。

c 本件発明3〜4について
「樹脂組成物」について本件訂正後の本件発明1と同様の発明特定事項を有する本件訂正後の本件発明3についても、上記「a 訂正後の本件発明1の実施可能要件について」での検討した理由と同様の理由により、「樹脂組成物」の調整について、多少の試行錯誤は必要であるものの、当業者に過度の試行錯誤を課すものではないといえる。
本件訂正後の本件発明3を直接的に引用する本件訂正後の本件発明4も同様である。

(ウ)まとめ
上記のとおり、取消理由1A、2Aと申立理由A2、申立理由B4は理由がない。

(2)取消理由1B(サポート要件)について
ア 取消理由1B、申立理由B2(サポート要件)の概要
取消理由1B、申立理由B2(サポート要件)はほぼ同旨であり、その概要は、以下のとおりである。

本件訂正前の本件発明1は、特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を用いることを前提とした「硬化物付き基材の製造方法」に係る物を生産する方法の発明であるが、本件発明の課題を解決するためには、当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を用いた場合に本件発明の課題を解決できると認識できることに加えて、本件明細書の記載から、あるいは、当業者が出願当時の技術常識に照らし、当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得ることができると認識できることも必要であるといえる。
本件訂正前の本件発明1の当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を用いた場合に、本件発明の上記課題を解決できると認識できることについては、本件明細書の実施例・比較例により、一応確認することができる。
一方、本件明細書の記載から、あるいは、当業者が出願当時の技術常識に照らし、当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得ることができると認識できることについて、本件訂正前の本件発明1の「樹脂組成物」は、膨大な態様の組成物を包含しているといえる。
一方、本件明細書の実施例において、本件訂正前の本件発明1の当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得て本件発明の上記課題を解決したことを確認しているのは、実施例1〜14のみであり、本件明細書の発明の詳細な説明には、当該特定の範囲の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得るための方法が十分に記載されているとはいえないし、また、本件明細書を参酌すれば、実施例1〜14のみから、本件発明1の「SPI値」を有する「樹脂組成物」を得て本件発明の上記課題を解決できることを認識できる技術常識があるともいえない。
したがって、本件訂正前の本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明によりサポートされているとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとは認められないから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない。

イ 判断
(ア)特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点から検討する。

(イ)判断
a 本件発明の課題について
本件発明の課題は、段落【0006】の「本発明は、上記の問題を解決し、塗布温度が低温であっても、ジェットディスペンサを用いて、安定的に描画できる、塗工しやすい樹脂組成物を提供することを目的とする」の記載からみて、「塗布温度が低温であっても、ジェットディスペンサを用いて、安定的に描画できる、塗工しやすい樹脂組成物」を適用する工程を含む硬化物付き基材の製造方法を提供することであるといえる。

b 判断
上記「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「イ 判断」「(イ) 判断」で述べたように、本件訂正により、本件発明1の「樹脂組成物」について、「可塑剤」や「更なる成分」を含む態様は本件発明1の「樹脂組成物」の範囲外のものとなり、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(B)(メタ)アクリレートモノマー」が特定され、さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(C)光重合開始剤」の配合量が特定された。
そして、本件明細書の実施例1、3、5、7、8、10、11、14及び比較例2〜3をみると、樹脂組成物の「SPI値」が「300s−1以下」である実施例1、3、5、7、8、10、11、14は「吐出可能温度」が80℃以下であるのに対し、「SPI値」が「300s−1以下」との発明特定事項を満たさない比較例2〜3は、「吐出可能温度」がそれぞれ95℃、100℃となっており、訂正後の本件発明1の発明特定事項を満たす実施例については、本件発明の上記課題を解決できたことが確認されている。
そうすると、当業者であれば、本件明細書の実施例・比較例のデータから、本件訂正後の本件発明1の発明特定事項を満たせば、本件発明の上記課題を解決できると認識できるといえる。

「樹脂組成物」について本件訂正後の本件発明1と同様の発明特定事項を有する本件訂正後の本件発明3、及び、本件発明3を直接的に引用する本件訂正後の本件発明4についても同様である。

(ウ)まとめ
上記のとおり、取消理由1B、申立理由B2は理由がない。

2 特許異議申立書に記載された申立理由について
申立理由A2(実施可能要件)、申立理由B2(サポート要件)、申立理由B4(実施可能要件)については、上記「1 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由A1(進歩性)、申立理由B1(進歩性)、申立理由B3(明確性)について検討を行う。
事案に鑑みて、申立理由B3(明確性)を行った後、申立理由A1(ア)(イ)(進歩性)、申立理由B1(ア)〜(エ)(進歩性)の検討を行う。
また、申立理由A1−1の主引用文献である甲1Aと、申立理由B1−1の主引用文献である甲1Bは同じ文献であるから、申立理由A1−1と申立理由B1−1は、以下「(2)申立理由A1−1について」で併せて検討を行う。(以下において、甲1A及び甲1Bは、「甲1A」という。また、甲2Aと甲2Bも同じ文献であり、以下「甲2A」という。)

(1)申立理由B3(明確性)について
ア 申立理由B3の概要
申立理由B3の概要は、以下のとおりである。

本件訂正前の本件発明1では、「樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」(以下「SPI値」という。)が「300s−1以下」であると、「SPI値」を「25℃」で測定しているが、本件明細書の実施例14の「樹脂組成物」の「吐出可能温度」は「80℃」となっており、「25℃」では実際には塗布できないと認められる。本件明細書の実施例14の「樹脂組成物」の「SPI値」と、実施例1の「樹脂組成物」の「SPI値」を関連づけ、本件訂正前の本件発明1において「SPI値」の数値範囲を「300s−1以下」と規定しても、当業者はその「SPI値」の技術的意味を理解することができない。
本件訂正前の本件発明1と同様の発明特定事項を有する本件訂正前の本件発明3、及び、本件訂正前の本件発明1、3を直接的に引用する本件訂正前の本件発明2、4、5についても同様である。

イ 判断
上記「1 取消理由について」「(1)取消理由1A、2A(実施可能要件)について」「イ 判断」「(イ) 判断」で述べたように、本件訂正により、本件発明1の「樹脂組成物」について、「可塑剤」や「更なる成分」を含む態様は本件発明1の「樹脂組成物」の範囲外のものとなり、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(B)(メタ)アクリレートモノマー」が特定され、さらに、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」及び「(C)光重合開始剤」の配合量が特定された。
そして、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」については、本件明細書の段落【0019】に具体的に記載され、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」については段落【0027】に具体的に記載され、「(C)光重合開始剤」は段落【0030】に具体的に記載されており、これらの物質は比較的汎用のものであるといえる。さらに、本件発明1の「樹脂組成物」の「SPI値」については、その測定方法について段落【0013】及び【0056】に具体的に記載されている。
そうすると、本件訂正後の本件発明1の記載について、第三者に不測の不利益をもたらすほどの不明確な記載があるとはいえない。
「樹脂組成物」について本件訂正後の本件発明1と同様の発明特定事項を有する本件訂正後の本件発明3、及び、本件発明3を直接的に引用する本件訂正後の本件発明4についても同様である。

なお、付言すると、上記「ア 申立理由B3の概要」に記載した理由に関して、本願明細書の段落【0011】には「本発明者らの知見によれば、樹脂組成物の粘度と吐出可能温度との相関がなかった。また、樹脂組成物の第一法線応力差と吐出可能温度との相関が良好ではなかった。一方、第一法線応力を粘度で除した値であるSPI値と吐出可能温度との相関が非常に良好であり、SPI値を下げることで、吐出可能温度を効率的に下げることができることを見出した」と記載され、さらに、「第一法線応力を粘度で除した値であるSPI値と吐出可能温度との相関」に関して、特許権者は、令和3年7月30日付け意見書の第15〜18頁において、「SPI値」と「吐出可能温度」との間に「R2値=0.9289」の高い相関があることをデータとして示している。そうすると、特許権者は、「SPI値」と「吐出可能温度」との間の相関を具体的にデータとして示していることから、申立理由B3を採用することはできない。

ウ まとめ
以上のとおり、申立理由B3は理由がない。

(2)申立理由A1−1について
ア 甲1Aに記載された発明について
甲1Aの段落【0125】〜【0157】の実施例、特に、段落【0144】、【0148】〜【0149】、【0155】〜【0157】の組成物No.9の「紫外線硬化型樹脂組成物」及び【0135】の「屈折率」の測定のための試験片の作成方法に着目すると、

「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000) 25質量部
トリデシルアクリレート 35質量部
水素化ポリブタジエン(日本曹達株式会社の「BI−2000」(数平均分子量2100)) 40質量部
光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、品番イルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンに該当)) 1質量部
を混合して、紫外線硬化型樹脂組成物No.9を調製し、
得られた樹脂組成物を、ガラス板上に膜厚が300μmとなるように、アプリケーターバーを用いて塗布し、3.0J/cm2の紫外線を窒素下で照射して硬化させた、
試験片の作製方法」の発明(以下「甲1A発明1」という。)が記載されているといえる。

また、同様に、組成物No.9の「紫外線硬化型樹脂組成物」及び段落【0148】に記載された試験片の作成方法に着目すると、
「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000) 25質量部
トリデシルアクリレート 35質量部
水素化ポリブタジエン(日本曹達株式会社の「BI−2000」(数平均分子量2100)) 40質量部
光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、品番イルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンに該当)) 1質量部
を混合して、紫外線硬化型樹脂組成物No.9を調製し、
得られた樹脂組成物を、所定厚みのシリコーンスペーサーを4辺に配置した所定寸法のガラス板上に滴下し、ガラス板に充填させ、
次に、その上から同寸法のガラス板を被せ、
次に、高圧水銀灯により3J/cm2光照射して硬化させた、
ガラス板/組成物の硬化物層/ガラス板の積層構造を有する試験片の作製方法」の発明(以下「甲1A発明2」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1A発明1とを対比する。

甲1A発明1の「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000)」は、本件明細書の段落【0019】の「(水素添加)ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーは、(水素添加)ポリブタジエン(メタ)アクリレート、及び、(水素添加)ポリブタジエンウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、(水素添加)ポリブタジエン骨格の末端がウレタン結合により(メタ)アクリロイル基と連結されているオリゴマーは、(水素添加)ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーとする」との記載からみて、本件発明1の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当するといえる。
そして、甲1A発明1の「紫外線硬化型樹脂組成物No.9」中の「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000)」は、24.8質量%(=25/(25+35+40+1)×100)であり、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%」であるといえる。

甲1A発明1の「トリデシルアクリレート」は、本件発明1の「(B)(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。

甲1A発明1の「光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、品番イルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンに該当))」は、本件発明1の「(C)光重合開始剤」に相当することは明らかである。
そして、甲1A発明1の「光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、品番イルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンに該当))」の量は、「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000)」の量に対して、4質量部(=1/25×100)であるから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である」といえる。

また、甲1A発明1の「ガラス板」は、本件発明1の「基材」に相当する。
そして、甲1A発明1の「樹脂組成物を、ガラス板上に膜厚が300μmとなるように、アプリケーターバーを用いて塗布し、3.0J/cm2の紫外線を窒素下で照射して硬化させた、試験片の作製方法」は、本件発明1の「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」と、「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」である限りにおいて、一致するといえる。

そうすると、本件発明1と甲1A発明1とは、
「基材に樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
樹脂組成物は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含有し、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「基材に樹脂組成物を適用する工程」において、本件発明1では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲1A発明1では、「アプリケーターバー」を用いる点。

相違点2:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」であるのに対し、甲1A発明1では、そのような物性が明らかではない点。

相違点3:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「重量平均分子量」について、本件発明1では、「2,000〜50,000」であるのに対し、甲1A発明1では、「多量体型アクリロイル変性ポリブタジエン(水添型)(数平均分子量9000)」の「重量平均分子量」が明らかでない点。

相違点4:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」のみからなるのに対し、甲1A発明1では、それ以外に、「水素化ポリブタジエン(日本曹達株式会社の「BI−2000」(数平均分子量2100))」を含む点。

(イ)判断
上記相違点1、2について併せて検討する。

本件発明1は、本件明細書の段落【0006】に記載の「塗布温度が低温であっても、ジェットディスペンサを用いて、安定的に描画できる、塗工しやすい樹脂組成物を提供すること」を課題とし、「第一法線応力を粘度で除した値であるSPI値と吐出可能温度との相関が非常に良好であり、SPI値を下げることで、吐出可能温度を効率的に下げることができることを見出し」たものであり(段落【0011】を参照)、この点については、本件明細書の実施例・比較例で具体的なデータとともに裏付けられている。したがって、本件発明1は、「ジェットディスペンサ」を用いることを前提として、「第一法線応力を粘度で除した値であるSPI値」を一定以下とすることにより、「吐出可能温度を効率的に下げる」発明であるといえる。

甲1Aには、「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」及び「樹脂組成物」の流動性や粘性等の物性に関して、以下の記載がある。

「【0078】
得られる不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマーの数平均分子量、粘度は、繰り返し単位となる共役ジエンの種類、多量体化の有無等によって異なるが、一般に多量体化によって分子量、粘度が増大し、多量体数の増大に伴って、さらに分子量、粘度が増大する。
【0079】
具体的には、単体型不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマー(A2)の数平均分子量は、繰り返し単位となる共役ジエンの種類にもよるが、通常、500〜10000、好ましくは1000〜9000、より好ましくは1500〜8000、さらに好ましくは2000〜5000である。また、25℃における粘度は、繰り返し単位となる共役ジエンの種類、反応条件等により異なるが、3〜1000Pa・s、好ましくは20〜800Pa・sである。
【0080】
多量体型不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマー(A1)の数平均分子量は、繰り返し単位となる共役ジエンの種類、共役ジエン系ポリマーの連結数にもよるが、2量体化、3量体化により、1000〜60000、好ましくは3000〜50000、より好ましくは5000〜40000、さらに好ましくは8000〜30000の高分子量化合物となる。また、25℃における粘度は、繰り返し単位となる共役ジエンの種類、反応条件等により異なるが、10〜2000Pa・sである。」
「【0093】
(B2)その他の重合性成分
重合性成分としては、親水基含有(メタ)アクリレート系化合物(B1)の他、α,β−不飽和カルボニル変性ポリマーと共硬化可能な、(メタ)アクリレート系モノマー(水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物を除く)もしくはオリゴマー、ビニル基含有化合物を含有してもよい。親水基含有(メタ)アクリレート系化合物(B1)の含有量を低減するとともに、他の重合性成分(B2)の含有量を増大することで、得られる樹脂組成物の粘度、作業性を容易に調整できる。」
「【0113】
〔エネルギー線硬化型樹脂組成物の使用方法〕
本発明のエネルギー線硬化型樹脂組成物の塗布、塗工方法としては、従来の塗工液で採用される、刷毛塗り、ローラー塗工、バーコーター、アプリケーター、エアナイフコーター、カーテンコーター等の塗工方法の他、ディスペンサーのように、一定量ずつ滴下、吐き出しできる装置を用いて塗工することができる。圧送式ディスペンサー等のように微量で高精度に調節して吐き出すことができる装置を用いた場合、幅0.5〜3.0mm程度の限定的領域に塗布することができる。
【0114】
不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマーは、粘度が高いため、重合性成分、他の非反応性樹脂を配合しても、高粘度の樹脂組成物を得ることができる。このため、塗工部分を印刷枠で画定した部分にスクイジーでインキを転写させるスクリーン印刷も適用できる。塗布後、硬化までの間の流れ出し、ダレが少なくて済むので、被塗膜の厚みを0.1〜4.0mmといった厚膜とすることが可能である。」
「【0123】
さらに、多量体型不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマーを用いた場合、不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマーの特徴を保持しつつ、且つ単体型不飽和カルボニル変性共役ジエン系ポリマーを用いた樹脂組成物と比べて高粘度の液状組成物とすることができる。このため、塗工部分の形状保持に優れ、細幅の限定的領域に塗工することができ、また、被塗膜の厚みを厚くできるという特性を有し、ディスペンサーの他、スキージを用いるスクリーン印刷を利用した接着剤として用いることもできる。
【0124】
よって、第2の用途として、印刷部分に重厚性が求められるスクリーン印刷用インキが挙げられる。すなわち、本発明のエネルギー線硬化型組成物は、高粘度で、だれたりすることを防止でき、印刷部分の形状保持だけでなく、インクの膜厚を大きくすることも可能であることから、スクリーン印刷用インキとして好適に用いることができる。」

「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」に関して、甲1Aの上記摘記の段落【0113】には、多様な「塗布、塗工方法」の1つとして、「圧送式ディスペンサー」を例示しており、「ジェットディスペンサ」は「圧送式ディスペンサー」の一種であると解されるものの、段落【0114】〜【0115】、【0124】には「高粘度の樹脂組成物」を得ることができることの有利な点が記載されていることから、甲1A発明1の「樹脂組成物」の「基材」への適用において、積極的に「ジェットディスペンサ」を用いることを動機づける記載があるとはいえないし、さらに、その際に、本件発明1の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」を動機づける記載があるとはいえないし、「樹脂組成物」の「吐出可能温度」を低下させるという思想も記載されていない。

また、甲2Aには、特許請求の範囲に、「【請求項1】紫外線硬化型樹脂及び熱硬化性樹脂からなる溶質と、揮発性有機溶媒と、を含有する接着性樹脂組成物であって、前記溶質の接着性樹脂組成物中における含有量が5〜50質量%であり、かつ、前記接着性樹脂組成物の25℃における粘度が100mPa・s以下であることを特徴とする非接触塗布用の接着性樹脂組成物」、「【請求項4】被接着面上に、非接触型の塗布装置を用いて、請求項1乃至3のいずれか1項記載の接着性樹脂組成物を塗布する塗布工程と、前記塗布された接着性樹脂組成物から溶媒を除去する溶媒除去工程と、前記溶媒除去工程により得られた乾燥後の接着性樹脂組成物に紫外線を照射する紫外線照射工程と、を有することを特徴とする接着層の形成方法」が記載され、段落【0018】には「本発明に用いる非接触型の塗布装置は、接着層を形成する被接着面に対して、非接触で接着層を形成することができるものであれば、特に限定されずに用いることができるが、定量吐出性、吐出精度等を考慮すると、印刷機で用いられるインクジェット装置、ジェットディスペンサ等が挙げられ、インクジェット装置であることが好ましい」ことが記載されているものの、段落【0051】〜【0082】の実施例で用いられている「接着性樹脂溶液」は、本件発明1の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」である「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」を用いるものではないため、甲1A発明1の「樹脂組成物」の「基材」への適用において、積極的に「ジェットディスペンサ」を用いることを動機づける記載があるとはいえないし、ましてや、「樹脂組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」を動機づける記載があるとはいえない。

甲3Aには、「微少定量吐出装置」に係る発明について記載され(請求項1、段落【0002】、【0004】、【0010】)、甲4Aには、「ジェットディスペンサー」についての記載があり(第504頁右欄下から第2行〜505頁左欄第22行)、甲5Aには、「第一法線応力差」についての記載があり(第230頁)、甲7Aには、「インクジェットヘッド」に関する記載(文献全般を参照)がある。また、甲3Bには「インクジェットノズル」(段落【0041】)について、甲4Bには「塗布方法」として「ジェットディスペンス法」、「インクジェット法」について(段落【0098】)、甲8Bには「ジェットディスペンサーまたはインクジェット方式」について(請求項1)記載されており、「インクジェット」や「ジェットディスペンサー」を用いた塗工方法自体はよく知られたものといえるが、塗工する組成物について、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることは記載されていない。また、以下に検討するとおり、甲6A及び甲5〜7Bにも塗工する組成物について、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることは記載されていない。
そうすると、いずれの証拠を参照しても、甲1A発明1の「樹脂組成物」の「基材」への適用において、積極的に「ジェットディスペンサ」を用いることを動機づける記載があるとはいえないし、ましてや、「樹脂組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」を動機づける記載があるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲1Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1A発明2とを、上記「イ 本件発明1について」「(ア)対比」での検討を踏まえて対比する。

甲1A発明2の「樹脂組成物を、所定厚みのシリコーンスペーサーを4辺に配置した所定寸法のガラス板上に滴下し、ガラス板に充填させ、次に、その上から同寸法のガラス板を被せ、次に、高圧水銀灯により3J/cm2光照射して硬化させた、ガラス板/組成物の硬化物層/ガラス板の積層構造を有する試験片の作製方法」は、
本件発明3の「工程(1A)及び(1B):(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程」を含む「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法」と、
「工程(1A)及び(1B):(1A)一方の基材に、樹脂組成物を適用する工程、及び(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程」を含む「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法」である限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明3と甲1A発明2とは、
「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程
を含み、
樹脂組成物は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含有し、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
2つの基材を含む積層体の製造方法」である点で一致し、上記「イ 本件発明1について」「(ア)対比」の相違点2〜4と同じ点で相違し、相違点1の代わりに以下の点で相違する。

相違点1’ :「基材に樹脂組成物を適用する工程」において、本件発明1では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲1A発明2では、「樹脂組成物」を「ガラス板上に滴下」するものであり、具体的な適用手段が明らかでない点。

(イ)判断
相違点1も相違点1’も、「基材に樹脂組成物を適用する工程」に用いる適用手段に関するものであり、相違点1’及び相違点2については、上記「イ 本件発明1について」「(イ)判断」で検討したとおりであり、本件発明3についても、本件発明1と同様に、甲1Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲1Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明4は、上記ウ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲1Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ まとめ
以上のとおり、申立理由A1−1、申立理由B1−1は理由がない。

(3)申立理由A1−2について
ア 甲6Aに記載された発明について
甲6Aの段落【0079】〜【0105】の実施例、特に、段落【0080】、【0090】の【表1】の実施例1の「光硬化型組成物」及び、【0085】の「冷熱衝撃性」の「評価用サンプル」の作成方法に着目すると、

「・(A)成分:水素添加ポリブタジエン系ウレタンアクリレートオリゴマー〔日本曹達(株)製TEAI−1000。水素添化ポリブタジエンジオール、ジイソシアネート化合物及び水酸基含有アクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:2000。以下、「TEAI−1000」という〕;18部
・(A)成分:ポリブタジエン系アクリレート〔大阪有機化学工業(株)製BAC−45。ポリブタジエンジオール及びアクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:5000。以下、「BAC−45」という〕;12部
・(B)成分:ラウリルアクリレート〔大阪有機化学工業(株)製LA。25℃における粘度5mPa・s。101.3kPaにおける沸点:約305℃。ホモポリマーのTg:−3℃。以下、「LA」という〕;35部
・(C)成分:ポリイソシアネート〔旭化成ケミカルズ(株)製MHG−80B。以下、「MHG−80B」という〕;5部
・(C)成分:ポリイソシアネート〔三井化学(株)製タケネート600。以下、「T−600」という〕;8部
・(D)成分:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド〔BASFジャパン(株)製DARCURE TPO。以下、「TPO」という〕;1部
・チノパールOB:2,2‘−(2,5−チオフェンジイル)ビス[5−(1,1−ジメチルエチル)ベンソキサゾール]、BASFジャパン(株)製チノパールOB
・レベリング剤〔ビックケミージャパン(株)製BYK UV−3500。以下、「BYK」という〕:0.5部、
・重合禁止剤;2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」という):0.1部、
・酸化防止剤〔BASFジャパン(株)製IRGANOX1010。〕:0.3部
・溶剤〔シクロヘキサノン〕:20部
均一に攪拌することにより湿気硬化を付与した、粘度が50mPa・s(25℃)である光硬化型組成物を製造し、
無洗浄フラックス及びハンダが塗布されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板(電極幅:318μm、ピッチ:318μm)上に、得られた組成物を厚さ25μmで塗布し、メタルハライドランプの光(紫外線:UV−A、照射エネルギー:1J/cm2)又は発光波長が385nmのLED(照射エネルギー:1J/cm2)を用いて紫外線硬化した
評価用サンプルの作成方法」の発明(以下「甲6A発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲6A発明とを対比する。

甲6A発明の「水素添加ポリブタジエン系ウレタンアクリレートオリゴマー〔日本曹達(株)製TEAI−1000。水素添化ポリブタジエンジオール、ジイソシアネート化合物及び水酸基含有アクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:2000。以下、「TEAI−1000」という〕」は、本件発明1の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。
そして、甲6A発明の「TEAI−1000」は、「光硬化型組成物」100部中に「18部」含まれているから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量」が「10〜60重量%」の範囲内で含まれているといえる。
仮に、甲6A発明の、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」ではない、「ポリブタジエン系アクリレート〔大阪有機化学工業(株)製BAC−45。ポリブタジエンジオール及びアクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:5000。以下、「BAC−45」という〕」を、本件発明1の「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」として扱ったとしても、「TEAI−1000」と「BAC−45」の合計量は30部であるから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量」が「10〜60重量%」の範囲内で含まれているといえる。

甲6A発明の「ラウリルアクリレート〔大阪有機化学工業(株)製LA。25℃における粘度5mPa・s。101.3kPaにおける沸点:約305℃。ホモポリマーのTg:−3℃。以下、「LA」という〕」は、本件発明1の「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。

甲6A発明の「2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド〔BASFジャパン(株)製DARCURE TPO。以下、「TPO」という〕」は、(C)光重合開始剤」に相当する。
そして、甲6A発明の「光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、品番イルガキュア184D(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンに該当))」の量は、「TEAI−1000」に対して、5.5(=1/18×100)であるから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である」といえる。

また、甲6A発明の「無洗浄フラックス及びハンダが塗布されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板(電極幅:318μm、ピッチ:318μm)」は、本件発明1の「基材」に相当する。
そして、甲6A発明の「無洗浄フラックス及びハンダが塗布されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板(電極幅:318μm、ピッチ:318μm)上に、得られた組成物を厚さ25μmで塗布し、メタルハライドランプの光(紫外線:UV−A、照射エネルギー:1J/cm2)又は発光波長が385nmのLED(照射エネルギー:1J/cm2)を用いて紫外線硬化した、評価用サンプルの作成方法」は、本件発明1の「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」と、「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」である限りにおいて、一致するといえる。

そうすると、本件発明1と甲6A発明とは、
「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含有し、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5:「基材に樹脂組成物を適用する工程」について、本件発明1では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲6A発明では、適用手段が明らかでない点。

相違点6:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」であるのに対し、甲6A発明では、そのような物性が明らかではない点。

相違点7:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」のみからなるのに対し、甲6A発明では、それ以外に、「ポリブタジエン系アクリレート〔大阪有機化学工業(株)製BAC−45。ポリブタジエンジオール及びアクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:5000。以下、「BAC−45」という〕」、「ポリイソシアネート〔旭化成ケミカルズ(株)製MHG−80B。以下、「MHG−80B」という〕」、「ポリイソシアネート〔三井化学(株)製タケネート600。以下、「T−600」という〕」、「チノパールOB:2,2‘−(2,5−チオフェンジイル)ビス[5−(1,1−ジメチルエチル)ベンソキサゾール]、BASFジャパン(株)製チノパールOB」、「レベリング剤〔ビックケミージャパン(株)製BYK UV−3500。以下、「BYK」という〕」、「重合禁止剤;2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」という)」、「酸化防止剤〔BASFジャパン(株)製IRGANOX1010。以下、チノパールOB」という〕」、「溶剤〔シクロヘキサノン〕」を含む点。

相違点8:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」の「重量平均分子量」について、本件発明1では、「2,000〜50,000」であるのに対し、甲6A発明では、「水素添加ポリブタジエン系ウレタンアクリレートオリゴマー〔日本曹達(株)製TEAI−1000。水素添化ポリブタジエンジオール、ジイソシアネート化合物及び水酸基含有アクリレートの反応物である分子末端にアクリロイル基を2個有するウレタンアクリレートオリゴマー。数平均分子量:2000。以下、「TEAI−1000」という〕」の「重量平均分子量」が明らかでない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点7についてまず検討し、次に相違点5、6を検討する。

a 相違点7について
相違点7のうち、「ポリイソシアネート〔旭化成ケミカルズ(株)製MHG−80B。以下、「MHG−80B」という〕」、「ポリイソシアネート〔三井化学(株)製タケネート600。以下、「T−600」という〕」の「ポリイソシアネート」に着目すると、甲6Aには、段落【0006】に、課題について「本発明は、ハンドリングが良好で、紫外線照射箇所だけでなく紫外線照射が不十分な箇所も硬化性が良好で、且つ硬化物の電気絶縁性に優れる湿気硬化併用光硬化型組成物及びその組成物の硬化膜を含む電子回路装置を提供することを目的とする」と記載され、請求項1には、「1分子中に平均1.5個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、且つジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する(メタ)アクリレートオリゴマー(A)、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物であって、イソシアネート反応性基を有しない化合物(B)、2個以上のイソシアネート基を有する化合物(C)及びイソシアネート反応性基を有しない光重合開始剤(D)を含有する組成物であって、(A)〜(D)成分を、組成物中に以下の割合で含む電子回路被覆のための湿気硬化併用光硬化型組成物。・・・」と「2個以上のイソシアネート基を有する化合物(C)」が必須成分であると記載され、段落【0031】には「(C)成分は、2個以上のイソシアネート基を有する化合物である」こと、段落【0034】には「(C)成分の配合割合としては、組成物中に1〜40重量%であり、好ましくは3〜30重量%である。この割合が1重量%に満たない場合は、湿気硬化性を発現させることができず、一方、40重量%を超える場合は、光硬化した箇所の絶縁信頼性が低下してしまうことがある」ことが記載されている。さらに、段落【0079】〜【0105】の実施例においては、比較例3として「ポリイソシアネート」を含まない「組成物」が記載され、「湿気硬化性」に劣るとの評価が示されている。
そうすると、甲6A発明において、「ポリイソシアネート〔旭化成ケミカルズ(株)製MHG−80B。以下、「MHG−80B」という〕」、「ポリイソシアネート〔三井化学(株)製タケネート600。以下、「T−600」という〕」を除くものとすることには、阻害要因があるといえ、本件発明1は、甲6A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 相違点5〜6について
甲6Aには、「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」及び「樹脂組成物」の流動性や粘性等の物性に関して、以下の記載がある。

「【0075】
8.使用方法及び用途
組成物の粘度としては、使用する目的に応じて適宜設定すれば良いが、組成物をスプレー塗工して使用する場合には、5〜500mPa・s(25℃)が好ましく、7〜300mPa・s(25℃)がより好ましい。
粘度を5mPa・s(25℃)以上にすることで、溶液のハジキを低減することができ、粘度を500mPa・s(25℃)以下にすることでスプレー塗工性が良好になる。
【0076】
本発明の組成物の使用方法は、常法に従えば良い。
例えば、被覆を目的としている電極に、組成物を塗布又は注入した後、光照射して組成物を硬化させ、その後数時間〜数日間放置して空気中の湿気により硬化させる方法等が挙げられる。
塗工方法としては、常法に従えば良く、前記した粘度のものを使用して、スプレー塗工やインクジェット塗工することもできる。」

甲6Aには、「粘度」を「5〜500mPa・s(25℃)」として「インクジェット塗工」することが記載されているものの、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」は明らかでなく、また、本件発明1の「樹脂組成物」の「吐出可能温度」を低下させるために、「樹脂組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。
また、他の甲号証を参酌しても、甲6A発明において、「光硬化型組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲6Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲6A発明とを、上記「イ 本件発明1について」「(ア)対比」での検討を踏まえて対比すると、上記相違点5〜8に加えて、さらに、以下の点で相違する。

相違点9:「基材」への「樹脂組成物」への適用に関して、本件発明3では、「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):(1A)一方の基材に、樹脂組成物を適用する工程、及び(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程」を含む「2つの基材を含む積層体の製造方法」であるのに対して、甲6A発明では、「2つの基材を含む積層体」を製造するものではない点。

(イ)判断
相違点5〜7については、上記「イ 本件発明1について」「(イ)判断」で検討したとおりであり、本件発明3についても、本件発明1と同様に、甲6Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲6Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明4は、上記ウ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲6Aに記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ まとめ
以上のとおり、申立理由A1−2は理由がない。

(4)申立理由B1−2について
ア 甲5Bに記載された発明について
甲5Bの段落【0075】〜【0092】の実施例、特に、段落【0079】、【0091】の【表1】の実施例1の「感光性組成物」及び【0089】の「UV照射による塗膜の作成」のに着目すると、

「イソボルニルアクリレート[大阪有機工業製「IBXA」](A−1)85部、
i−ステアリルアクリレート[大阪有機工業(株)「ISTA」](B−1)10部、
ポリブタジエンジアクリレート[大阪有機工業製「BAC−15」;数平均分子量1200](C−1)5部、
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド[BASF製「ルシリン TPO」](D1−1)8部、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン[BASF製(DAROCUR 1173)](D4−1)4部、
増感剤としてジエチルチオキサントン[日本化薬製「DETX」]0.5部及び
レベリング剤としてポリエーテルシリコーン[信越化学工業製「KF−615A」]1部
を一括で配合し、ディスパーサーで均一に混合攪拌し、感光性組成物(Q−1)を得て、表面処理を施した厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム[東洋紡(株)製コスモシャインA4300]及び表面未処理のOPP(二軸延伸ポリプロピレン)[東洋紡(株)製パイレンフィルム−OT]フィルムに、アプリケーターを用いて膜厚20μmとなるように塗布した、
フィルムに塗膜を作製する方法」の発明(以下「甲5B発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5B発明とを対比する。

甲5B発明の「ポリブタジエンジアクリレート[大阪有機工業製「BAC−15」;数平均分子量1200](C−1)」は、本件発明1の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」と、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」である限りにおいて一致する。
そして、甲5B発明の「ポリブタジエンジアクリレート[大阪有機工業製「BAC−15」;数平均分子量1200](C−1)」は、「感光性組成物(Q−1)」100部中に「4.4部」(=5/(85+10+5+8+4+0.5+1))含まれているといえる。

甲5B発明の「i−ステアリルアクリレート[大阪有機工業(株)「ISTA」](B−1)」は、本件発明1の「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」に相当する。

甲5B発明の「2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド[BASF製「ルシリン TPO」](D1−1)」及び「2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン[BASF製(DAROCUR 1173)](D4−1)」は、本件発明1の「(C)光重合開始剤」に相当する。
そして、甲5B発明の「2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド[BASF製「ルシリン TPO」](D1−1)」及び「2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン[BASF製(DAROCUR 1173)](D4−1)」の量は、「ポリブタジエンジアクリレート[大阪有機工業製「BAC−15」;数平均分子量1200](C−1)」に対して、240部(=(8+4)/5×100)含まれているといえる。

甲5B発明の「表面処理を施した厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム[東洋紡(株)製コスモシャインA4300]」及び「表面未処理のOPP(二軸延伸ポリプロピレン)[東洋紡(株)製パイレンフィルム−OT]フィルム」は本件発明1の「基材」に相当する。
また、甲5B発明の「表面処理を施した厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム[東洋紡(株)製コスモシャインA4300]」及び「表面未処理のOPP(二軸延伸ポリプロピレン)[東洋紡(株)製パイレンフィルム−OT]フィルム」に「塗膜を作製」したものは、本件発明1の「硬化物付き基材」であるといえる。
そして、甲5B発明の「感光性組成物(Q−1)」を「表面処理を施した厚さ100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム[東洋紡(株)製コスモシャインA4300]及び表面未処理のOPP(二軸延伸ポリプロピレン)[東洋紡(株)製パイレンフィルム−OT]フィルムに、アプリケーターを用いて膜厚20μmとなるように塗布した、フィルムに塗膜を作製する方法」は、本件発明1の「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」と、「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」である限りにおいて、一致するといえる。

そうすると、本件発明1と甲5B発明とは、
「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含む、
硬化物付き基材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点10:「基材に樹脂組成物を適用する工程」において、本件発明1では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲5B発明では、「アプリケーター」を用いる点。

相違点11:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」であるのに対し、甲5B発明では、そのような物性が明らかではない点。

相違点12:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」のみからなるのに対し、甲5B発明では、それ以外に、「イソボルニルアクリレート[大阪有機工業製「IBXA」](A−1)」、「増感剤としてジエチルチオキサントン[日本化薬製「DETX」]」、「レベリング剤としてポリエーテルシリコーン[信越化学工業製「KF−615A」]」を含む点。

相違点13:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について、本件発明1では、「重量平均分子量」が「2,000〜50,000」であり、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」であるのに対し、甲5B発明では、「重量平均分子量」及び「水素添加」物か否か明らかではない「ポリブタジエンジアクリレート[大阪有機工業製「BAC−15」;数平均分子量1200](C−1)」である点。

相違点14:「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量」について、本件発明1では、「10〜60重量%」であるのに対し、甲5B発明では「4.4重量%」である点。

相違点15:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部」に対する「(C)光重合開始剤」の量について、本件発明1では、「1〜10質量部」であるのに対し、甲5B発明では、「240重量部」である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点12についてまず検討し、次に相違点10、11を検討する。

a 相違点12について
相違点12のうち、「脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)」である「イソボルニルアクリレート[大阪有機工業製「IBXA」](A−1)」に着目すると、甲5Bには、
段落【0005】に、課題について「本発明の目的は、塗工適性及び速硬化性に優れる高速印刷可能な感光性組成物を提供することにある」と記載され、
請求項1には、「脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)、アルキル基の炭素数が1〜24であるアルキル(メタ)アクリレート(B)、ポリイソプレン骨格、ポリブタジエン骨格及び水素化ポリブタジエン骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する(メタ)アクリレート(C)及び重合開始剤(D)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型感光性組成物」と「脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)」が必須成分であると記載され、
段落【0008】には「本発明の活性エネルギー線硬化型感光性組成物は、脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)、・・・・を含有する。重合性化合物として、(A)、(B)及び(C)を同時に含有する事で、塗工適性及び速硬化性が発現可能である」と記載され、
段落【0010】には「本発明の感光性組成物中の脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)の含有量は、塗工適性、速硬化性及び基材密着性の観点から、感光性組成物の重量を基準として、好ましくは1〜90重量%、更に好ましくは8〜85重量%である」と記載されている。
さらに、段落【0075】〜【0092】の実施例では、比較例1として「脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)」を含まない「感光性組成物」は「硬化性評価」、「塗工適性」、「密着性」とも劣るものであったことが示されている。
そうすると、甲5B発明の「感光性組成物」において、「脂環式ビシクロ骨格を有する(メタ)アクリレート(A)」である「イソボルニルアクリレート[大阪有機工業製「IBXA」](A−1)」を除くものとすることには、阻害要因があるといえ、本件発明1は、甲5B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 相違点10〜11について
甲5Bには、「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」に関して以下の記載がある。「樹脂組成物」の流動性や粘性等の物性に関する記載は、段落【0003】における従来技術である特許文献1に関する記載以外は、特にない。

「【0071】
本発明の感光性組成物の基材への塗布方法としては、スピンコート、ロールコート及びスプレーコート等の公知のコーティング法並びに平版印刷、カルトン印刷、金属印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷及びグラビア印刷といった公知の印刷法を適用できる。また、微細液滴を連続して吐出するインクジェット方式の塗布も適用できる。
塗工膜厚は、硬化乾燥後の膜厚として、好ましくは0.5〜300μmである。乾燥性、硬化性の観点から更に好ましい上限は250μmであり、耐摩耗性、耐溶剤性、耐汚染性の観点から更に好ましい下限は1μmである。」
「【0090】
[性能評価方法]
・・・
(2)塗工適性試験
実施例1〜7及び比較例1〜3で得た各感光性組成物を、吐出性評価装置(マイクロジェット(株)製「インクジェット吐出実験キット;IJHC−10」)を用いて、吐出性を以下の基準により評価した。
◎;ノズル詰まり無し
○;ノズルは完全には詰まらないが、やや詰まる。
×;ノズルは完全に詰まる。」

甲5Bには、「インクジェット方式の塗布」について記載されているものの、「感光性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」は明らかでなく、また、本件発明1の「樹脂組成物」の「吐出可能温度」を低下させるために「樹脂組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。
また、他の甲号証を参酌しても、甲5B発明において、「感光性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲5Bに記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、申立理由B1−2は理由がない。

(5)申立理由B1−3について
ア 甲6Bに記載された発明について
甲6Bの段落【0072】〜【0092】の実施例、特に、段落【0073】、【0086】の【表1】、【0087】の実施例9の「硬化型組成物」及び【0077】の「ポリイミドとの密着性」の評価に着目すると、

「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製)) 30質量部
4HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製)) 60質量部
ダロキュア1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASFジャパン社製)) 1質量部
2−エチルAQ(2-エチルアントラキノン(BASFジャパン社製)) 2質量部
ルシリン TPO(2,4,6-トリメチルエンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(BASFジャパン社製)) 2質量部
BYK−307(シリコン系添加剤(ビックケミー・ジャパン社製)) 0.1質量部
配合し、攪拌機にて予備混合し、硬化型組成物を調製し、
硬化型組成物を30μmのアプリケーター(ERICHSEN社製)を使ってポリイミド基材(ユーピレックス25S)上に塗布し、高圧水銀灯(ORC社製HMW−713)150mJ/cm2にて硬化を行った、
ポリイミド基材(ユーピレックス25S)に硬化膜を作製する方法」の発明(以下「甲6B発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲6B発明とを対比する。

甲6B発明の「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製))」は、本件発明1の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」と、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」である限りにおいて一致する。
そして、甲6B発明の「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製))」は、「感光性組成物(Q−1)」100部中に「31.5質量部」(=30/95.1)含まれているから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量」が「10〜60重量%」の範囲内で含まれているといえる。

甲6B発明の「4HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製))」は、「本件発明1の「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」と、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」である限りにおいて一致する。

甲6B発明の「ダロキュア1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASFジャパン社製))」及び「2−エチルAQ(2-エチルアントラキノン(BASFジャパン社製))」は、本件発明1の「(C)光重合開始剤」に相当する。
そして、甲6B発明の「ダロキュア1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASFジャパン社製))」及び「2−エチルAQ(2-エチルアントラキノン(BASFジャパン社製))」の合計量は、「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製))」100質量部に対して、10質量部(=(1+2)/30)であるから、本件発明1と同様に、「樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である」といえる。

また、甲6B発明の「ポリイミド基材(ユーピレックス25S)」は、本件発明1の「基材」に相当する。
甲6B発明の「ポリイミド基材(ユーピレックス25S)」に「硬化膜を作製」したものは、本件発明1の「硬化物付き基材」であるといえる。
そして、甲6B発明の「硬化型組成物を30μmのアプリケーター(ERICHSEN社製)を使ってポリイミド基材(ユーピレックス25S)上に塗布し、高圧水銀灯(ORC社製HMW−713)150mJ/cm2にて硬化を行った、ポリイミド基材(ユーピレックス25S)に硬化膜を作製する方法」は、本件発明1の「基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」と、「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法」である限りにおいて、一致するといえる。

そうすると、本件発明1と甲6B発明とは、
「基材に、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含み、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点16:「基材に樹脂組成物を適用する工程」について、本件発明1では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲6B発明では、「アプリケーター(ERICHSEN社製)」を用いている点。

相違点17:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」であるのに対し、甲6B発明では、そのような物性が明らかではない点。

相違点18:「樹脂組成物」について、本件発明1では、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」のみからなるのに対し、甲6B発明では、それ以外に、「ルシリン TPO(2,4,6-トリメチルエンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド(BASFジャパン社製))」、「BYK−307(シリコン系添加剤(ビックケミー・ジャパン社製))」を含む点。

相違点19:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について、本件発明1では、「重量平均分子量」が「2,000〜50,000」であり、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」であるのに対し、甲6B発明では、「重量平均分子量」及び「水素添加」物か否か明らかではない「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製))」である点。

相違点20:「(B)(メタ)アクリレートモノマー」について、本件発明1では、「アルキル(メタ)アクリレート」であるのに対し、甲6B発明では、「4HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製))」である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点20についてまず検討し、次に相違点16〜17を検討する。

a 相違点20について
相違点20について、甲6Bには、
段落【0005】に、課題について、「その主たる目的は、はんだ耐熱等の諸特性を維持しつつ、柔軟性に優れ、プラスチック基板と導体層双方の密着性に優れる硬化型組成物を提供することにある」と記載され、
請求項1には、「(A)ポリエン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物と、(B)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物と、(C)光重合開始剤と、を含むことを特徴とするプリント配線板用硬化型組成物」と「(B)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物」が必須成分であることが記載され、
段落【0036】には、「本発明の硬化型組成物は、このような(A)成分と(B)成分の組み合わせにより、プラスチック基板と導体回路金属の双方に対して優れた密着性を有し、例えばプリント配線板用のレジストインキ(エッチングレジストインキ、ソルダーレジストインキ、メッキレジストインキ)として、優れた基板保護性能を発揮する。また、低露光量であっても、優れた硬化塗膜特性を発揮する」ことが記載されている。
さらに、段落【0072】〜【0091】の実施例では、比較例3として「(B)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物」を含まない組成物が記載され、ポリイミド密着性や折り曲げ性に劣るものであったことが示されている。
そうすると、甲6B発明において、「(B)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物」である「4HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製))」を除く、あるいは、これに代えて「アルキル(メタ)アクリレート」を用いるものとすることには、阻害要因があるといえ、本件発明1は、甲6B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 相違点16〜17について
甲6Bには、「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」及び「樹脂組成物」の流動性や粘性等の物性に関して、以下の記載がある。

「【請求項5】
前記2官能(メタ)アクリレート化合物(水酸基を有するものを除く)の25℃における粘度が5〜50mPa・sである請求項4に記載のプリント配線板用硬化型組成物。
・・・
【請求項7】
50℃における粘度が5〜50mPa・sである請求項1〜6のいずれか一項に記載のプリント配線板用硬化型組成物。。
・・・
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のプリント配線板用硬化型組成物がインクジェット印刷法により基板上に印刷され、これを光照射することにより得られるパターン硬化塗膜を有するプリント配線板。」
「【0001】
本発明は、プリント配線板用の硬化型組成物、特にインクジェット方式により用いられる紫外線硬化型の組成物、これを用いたレジスト、マーキング及びエッチング等のプリント配線板用硬化塗膜、及びこれを用いて得られたパターンを有するプリント配線板に関する。」
「【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、はんだ耐熱等の諸特性を維持しつつ、柔軟性に富み、プラスチック基板と導体回路金属の双方に対して優れた密着性を有する硬化塗膜が得られる。また、本発明の硬化型組成物はインクジェット用組成物として好適に用いることができる。」
「【0067】
上記各成分を有する本発明のプリント配線板用硬化型組成物は、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、カーテンコート法などの印刷方法に適用可能である。特に、インクジェット法に適用する場合、50℃における粘度が5〜50mPa・s、特に5〜15mPa・sが好ましい。これにより、インクジェットプリンターに不要な負荷を与えることなく、円滑な印刷が可能となる。」
「【0081】
6.折り曲げ耐性
厚さ25μmのポリイミドフィルムと、厚さ12μmの銅箔により形成された櫛形の銅配線(配線パターン)とから構成されるフレキシブル銅張り積層板(長さ110mm、幅60mm、銅配線幅/銅配線間幅=200μm/200μm)を準備した。このフレキシブル銅張り積層板の基板にピエゾ型インクジェット印刷機を用いてインクジェット印刷により膜厚が15μmになるように塗布した。この時、印刷直後にインクジェットヘッドに付帯の高圧水銀灯にてUV仮硬化を行った。」

甲6Bには、「25℃における粘度が5〜50mPa・s」として「インクジェット印刷」することが記載されているものの、「硬化性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」は明らかでなく、また、本件発明1の「樹脂組成物」の「吐出可能温度」を低下させるために「硬化性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。
また、他の甲号証を参酌しても、甲6B発明において、「感光性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲6Bに記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、申立理由B1−3は理由がない。

(6)申立理由B1−4について
ア 甲7Bに記載された発明について
甲7Bの段落【0069】〜【0077】の実施例、特に、段落【0070】〜【0072】、【0076】の【表1】の実施例4の「感光性組成物」及び【0070】に記載された「試験片」の作成方法に着目すると、

「UN7700(アートレジンUN7700(1分子中に2個のアクリロイル基を有するウレタンアクリレート、根上工業(株)製)) 50質量部
4HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成(株)製)) 5質量部
CHA(シクロヘキシルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製)) 23質量部
PEG600(ポリエチレングリコール600(純正化学(株)製)、ポリエーテルジオール) 20質量部
#184(イルガキュア#184(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製)) 2質量部
の配合で接着剤組成物を調製し、
1mm厚ガラス板を2枚用意し、一方のガラス板に調製した接着剤組成物を滴下した後、もう一方のガラス板を貼り合わせ、UV照射をして硬化させることで、2枚のガラス板を貼り合わせた試験片を得た、
試験片の作成方法」の発明(以下「甲7B発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲7B発明とを対比する。

甲7B発明の「UN7700(アートレジンUN7700(1分子中に2個のアクリロイル基を有するウレタンアクリレート、根上工業(株)製))」は、本件発明3の「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」と、「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」である限りにおいて一致する。
そして、甲7B発明の「EY RESIN BR−45UAS(ポリブタジエンジオールのIPDI(イソシアン酸イソホロン)変性ウレタンアクリレート(ライトケミカル工業社製))」は、「接着剤組成物」100質量部中に「50質量部」含まれているから、本件発明3と同様に、「樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量」が「10〜60重量%」の範囲内で含まれているといえる。

甲7B発明の「4HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成(株)製))」は、本件発明3の「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」と、「(B)(メタ)アクリレートモノマー」である限りにおいて一致する。

甲7B発明の「#184(イルガキュア#184(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製))」は、本件発明3の「(C)光重合開始剤」に相当する。
そして、甲7B発明の「#184(イルガキュア#184(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製))」の合計量は、「UN7700(アートレジンUN7700(1分子中に2個のアクリロイル基を有するウレタンアクリレート、根上工業(株)製))」100質量部に対して、4質量部(=2/50)であるから、本件発明3と同様に、「樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である」といえる。

甲7B発明の2枚の「1mm厚ガラス板」は、本件発明3の「2つの基材」に相当する。
また、甲7B発明の「1mm厚ガラス板を2枚用意し、一方のガラス板に調製した接着剤組成物を滴下した後、もう一方のガラス板を貼り合わせ、UV照射をして硬化させることで、2枚のガラス板を貼り合わせた試験片」は、本件発明3の「2つの基剤を含む積層体」であるといえる。
そして、甲7B発明の「1mm厚ガラス板を2枚用意し、一方のガラス板に調製した接着剤組成物を滴下した後、もう一方のガラス板を貼り合わせ、UV照射をして硬化させることで、2枚のガラス板を貼り合わせた試験片を得た、試験片の作成方法」は、本件発明3の「工程(1A)及び(1B):(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程」を含む「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法」と、「工程(1A)及び(1B):(1A)一方の基材に、樹脂組成物を適用する工程、及び(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程」を含む「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法」である限りにおいて、一致する。

そうすると、本件発明3と甲7B発明とは、
「2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程
を含み、
樹脂組成物は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤を含み、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
2つの基材を含む積層体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点21:「一方の基材に、樹脂組成物を適用する工程」について、本件発明3では、「ジェットディスペンサ」を用いるのに対し、甲7B発明では、「接着剤組成物を滴下」と記載するのみであり、具体的な適用手段が明らかでない点。

相違点22:「樹脂組成物」について、本件発明3では、「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」であるのに対し、甲7B発明では、そのような物性が明らかではない点。

相違点23:「樹脂組成物」について、本件発明3では、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」、「アルキル(メタ)アクリレート」である「(B)(メタ)アクリレートモノマー」、「(C)光重合開始剤」のみからなるのに対し、甲7B発明では、それ以外に、「PEG600(ポリエチレングリコール600(純正化学(株)製)、ポリエーテルジオール)」を含む点。

相違点24:「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」について、本件発明3では、「重量平均分子量」が「2,000〜50,000」であり、「水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー」である「(A)(メタ)アクリレートオリゴマー」であるのに対し、甲6B発明では、「重量平均分子量」及び「水素添加」物か否か明らかではない「UN7700(アートレジンUN7700(1分子中に2個のアクリロイル基を有するウレタンアクリレート、根上工業(株)製))」である点。

相違点25:「(B)(メタ)アクリレートモノマー」について、本件発明3では、「アルキル(メタ)アクリレート」であるのに対し、甲7B発明では、「4HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成(株)製))」及び「CHA(シクロヘキシルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製))である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点25についてまず検討し、次に相違点21〜22を検討する。

a 相違点25について
相違点25の「4HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成(株)製))」である「水酸基を有する(メタ)アクリレート(B)」に着目すると、甲7Bには、
段落【0010】に、課題について、「本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、硬化物の透明性、柔軟性及び耐水性に優れる紫外線硬化型接着剤組成物、それを用いた積層体を提供することを目的とする」と記載され、
請求項1には、「1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(A)と、水酸基を有する(メタ)アクリレート(B)と、非ラジカル重合性柔軟性成分(D)と、光ラジカル重合開始剤(E)と、を含有することを特徴とする接着剤組成物」と、「水酸基を有する(メタ)アクリレート(B)」が必須成分であることが記載され、
段落【0026】には、「1分子中に2個の水酸基を有する(メタ)アクリレートは、水酸基が適度に水分を吸収し、水分となじむ為に接着剤を透明に保ち、耐湿性、耐沸騰水性を向上させるのに有効と考えられる。1分子中に3個以上の水酸基を有する(メタ)アクリレートでは、効果は見られるものの接着剤と水分との界面で僅かな白化を生ずる傾向がある。一方、水酸基を全く含まない場合には、接着剤全体において白化を生じる傾向がある」ことが記載され、
段落【0069】〜【0077】の比較例4〜6においては、「水酸基を有する(メタ)アクリレート(B)」を含まない「接着剤組成物」が記載され、接着強度や耐湿性、耐沸騰水性に劣るものであったことが示されている。
そうすると、甲7B発明において、「(B)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物」である「4HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成(株)製))」を除く、あるいは、これに代えて「アルキル(メタ)アクリレート」を用いるものとすることには、阻害要因があるといえ、本件発明3は、甲7B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 相違点21〜22について
甲7Bには、「基材」への「樹脂組成物を適用する工程」に関して以下の記載がある。「樹脂組成物」の流動性や粘性等の物性に関する記載は特になかった。

「【0062】
本発明の接着剤組成物を用いて光学部材を製造する場合には、前記ガラス板又はプラスチック基材上に本発明の接着剤組成物を塗布し、必要により乾燥(揮発分除去)させた後、他のガラス板又はプラスチック基材を積層し、透光性部材の外側から紫外線を照射することにより接着剤組成物を硬化する。塗布は、例えば、ロールコート方式、スプレー方式、ディップ方式、刷毛塗り方式、インクジェット方式、静電塗装方式等の公知の方法を用いればよい。」

甲7Bには、「インクジェット方式」での塗布について記載されているものの、「接着剤組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値」は明らかでなく、また、本件発明3の「樹脂組成物」の「吐出可能温度」を低下させるために「硬化性組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。
また、他の甲号証を参酌しても、甲7B発明において、「接着剤組成物」の「せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下」とすることを動機づける記載があるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明3は、甲7Bに記載された発明及び甲2B〜甲4Bに記載された周知技術、甲8Bに記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用して限定した発明であるから、本件発明4は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲7Bに記載された発明及び他の甲号証に記載された周知技術、甲8Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由B1−4も理由がない。


第6 むすび
特許第6716072号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−2]、[3−5]について訂正することを認める。
特許第6716072号の請求項2、5に係る特許に対する申立てを却下する。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1、3−4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1、3−4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程と、適用された樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物の硬化物を形成する工程とを含む、硬化物付き基材の製造方法であって、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
硬化物付き基材の製造方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
2つの基材が樹脂組成物を介して積層された積層体の製造方法であって、工程(1A)及び(1B):
(1A)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物を適用する工程、及び
(1B)もう一方の基材を、前記樹脂組成物を介して貼り合わせる工程を含み、
樹脂組成物は、せん断速度1000s−1及び25℃での第一法線応力差を、25℃での粘度で除した値が300s−1以下であり、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー、(B)(メタ)アクリレートモノマー及び(C)光重合開始剤のみからなり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーであり、
(B)(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートであり、
(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、2000〜50,000であり、
樹脂組成物における(A)(メタ)アクリレートオリゴマーの量は、10〜60重量%であり、
樹脂組成物における(C)光重合開始剤の量は、(A)(メタ)アクリレートオリゴマー100質量部に対して、1〜10質量部である、
2つの基材を含む積層体の製造方法。
【請求項4】
工程(1A)の前に、(1C)一方の基材に、ジェットディスペンサを用いて、樹脂組成物のダムを形成する工程を含む、請求項3記載の積層体の製造方法。
【請求項5】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2015-151905
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 土橋 敬介
杉江 渉
登録日 2020-06-12 
登録番号 6716072
権利者 協立化学産業株式会社
発明の名称 樹脂組成物、及びそれを用いた積層体の製造方法  
代理人 弁理士法人 津国  
代理人 弁理士法人 津国  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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