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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E01D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 E01D |
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管理番号 | 1388349 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-03-30 |
確定日 | 2022-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6766471号発明「活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6766471号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第6766471号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6766471号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年6月29日に出願され、令和2年9月23日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 3年 3月30日 :特許異議申立人佐藤文(以下「申立人」 という。)による請求項1ないし3に係 る特許に対する特許異議の申立て 令和 3年 7月26日付け:取消理由通知書 令和 3年 9月24日受付:特許権者による意見書の提出及び訂正の 請求 令和 3年10月25日 :申立人による意見書の提出 令和 3年11月26日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和 4年 1月31日受付:特許権者による意見書の提出及び訂正の 請求(以下、「本件訂正請求」という。) 令和 4年 3月 8日 :申立人による意見書の提出 なお、令和4年1月31日(受付日)に訂正の請求がなされたので、令和3年9月24日(受付日)になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を、 「ウレタン(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリル単量体(B)、及び光重合開始剤(C)を含有するコンクリート保護材料であって、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が27,000〜50,000の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。」 に訂正する。請求項1を引用する請求項2及び3も同様とする。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量」の数値範囲をより狭いものに限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正後の請求項1に記載の「ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が27,000〜50,000の範囲である」ことについては、本件明細書等の段落【0030】に「前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量は、5,000〜200,000の範囲であるが、良好な作業性を付与できる観点から、8,000〜100,000の範囲が好ましく、10,000〜50,000の範囲がより好ましい。」との記載があり、段落【0069】に「ウレタン(メタ)アクリレート(A−1)(重量平均分子量:27,000)」を用いた点が記載されている。 よって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし3について、訂正前の請求項2及び3は請求項1を引用しており、請求項2及び3は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものであるから、請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。 4 まとめ したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜3]について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、本件訂正発明1ないし3をまとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 1 本件訂正発明1 「【請求項1】 ウレタン(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリル単量体(B)、及び光重合開始剤(C)を含有するコンクリート保護材料であって、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が27,000〜50,000の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。」 2 本件訂正発明2 「【請求項2】 前記(メタ)アクリル単量体(B)が、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、30〜200質量部の範囲である請求項1記載の活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。」 3 本件訂正発明3 「【請求項3】 前記光重合開始剤(C)が、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲である請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由(決定の予告)の概要 当審が令和3年11月26日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。 令和3年9月24日受付の訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められず、また、出願時の技術常識に照らしても、「ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量」について、「10,000〜50,000の範囲」まで、拡張できるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その請求項1ないし3に係る特許は、取り消されるべきものである。 2 当審の判断 (1)発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には次の記載がある。 ア「【背景技術】 【0002】 屋外コンクリート構造物の防水材料には、短時間で施工を完了できる速硬化性に加え、低温条件下においても基材に追従する柔軟性が求められる。このような材料としては、低温(−10℃)での引張伸び率が10%以上のラジカル硬化型樹脂からなる床版防水材料が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。 【0003】 しかしながら、この床版防水材料は、−30℃などの極低温条件下では引張伸度が低く、寒冷地等での使用には柔軟性が不十分であるという問題があった。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明が解決しようとする課題は、速硬化性に優れ、極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られるコンクリート保護材料を提供することである。 【0007】 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、重量平均分子量が5,000〜200,000の範囲であるウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル単量体、及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料を用いることで、速硬化性に優れ、極低温においても高伸度の塗膜が得られることを見出し、本発明を完成した。」 イ「【0030】 前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量は、5,000〜200,000の範囲であるが、良好な作業性を付与できる観点から、8,000〜100,000の範囲が好ましく、10,000〜50,000の範囲がより好ましい。 ・・・ 【0032】 前記(メタ)アクリル単量体(B)の使用量は、硬化性及び塗膜柔軟性のバランスがより向上することから、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、30〜200質量部の範囲であることが好ましく、50〜150質量部の範囲であることがより好ましい。 ・・・ 【0035】 前記光重合開始剤(C)の使用量は、硬化性及び塗膜柔軟性のバランスがより向上することから、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で用いることが好ましく、0.05〜10質量部の範囲であることがより好ましく、0.1〜5質量部の範囲であることが特に好ましい。」 ウ「【0044】 (合成例1:ウレタン(メタ)アクリレート(A−1)の合成) 攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、数平均分子量3000のポリオキシプロピレングリコール(以下、「PPG3000」と略記する。)を86.8質量部、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(以下、「PTMG1000」と略記する。)202.5質量部、数平均分子量400のポリエチレングリコール(以下、「PEG400」と略記する。)100.3質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、「HEA」と略記する。)4.1質量部、2,6−ジ−ターシャリーブチル−クレゾールを1.5質量部、p−メトキシフェノール0.2質量部を添加した。反応容器内温度が40℃になるまで昇温した後、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略記する)105.7質量部添加した。そこで、ジオクチルスズジネオデカネート0.01質量部添加し、1時間かけて80℃まで昇温した。その後、80℃で12時間ホールドし、全てのイソシアネート基が消失していることを確認後、冷却し、アクリロイル当量14000g/eq、重量平均分子量27,000のウレタン(メタ)アクリレート(A−1)を得た。」 エ「【0050】 (実施例1:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(1)の調製及び評価) 合成例1で得たウレタン(メタ)アクリレート(A−1)100質量部に対し、ノルマルオクチルアクリレート(以下、「nOA」と略記する。)が60質量部、アクリロイルモルホリン(以下、「ACMO」と略記する。)が40質量部となるように投入し、80℃で均一になるまで撹拌し、さらに、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド(以下、「光重合開始剤(C−1)」と略記する。)0.3質量部を添加し溶解を確認後、室温まで冷却し、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(1)を調製した。 【0051】 [硬化性の評価] 上記で得られた活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(1)をコンクリート平板に刷毛で0.5kg/m2塗布し、蛍光ケミカルランプ(3mW)を5分間照射した。23℃の環境下、5分後に塗膜表面を指触し、下記基準により硬化性を評価した。 ○:タックなし ×:タックあり 【0052】 [塗膜の作製] 上記で得られた活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(1)を、表面を離型処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(離型PET50)の表面に、UV照射後における膜厚が175μmとなるように塗布し、離型PET50を貼り合せた。その後、UV照射装置にて、離型PET50透過後のUV−A領域の波長の積算光量が1000mJ/cm2となるようにUV照射し、塗膜を作成した。 【0053】 [塗膜柔軟性の評価] 上記で得た塗膜について、JIS K 6911に準拠し、引張試験を実施し、引張伸度を測定した。 【0054】 (実施例2:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(2)の調製及び評価) 実施例1で用いたnOA 60質量部を、50質量部に変更し、ACMO 40質量部を、50質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(2)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0055】 (実施例3:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(3)の調製及び評価) 実施例1で用いたnOA 60質量部を、40質量部に変更し、ACMO 40質量部を、60質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(3)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0056】 (実施例4:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(4)の調製及び評価) 実施例1で用いた光重合開始剤(C−1)0.3質量部を、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(以下、光重合開始剤(C−2)と略記する。)0.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(4)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0057】 (実施例5:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(5)の調製及び評価) 実施例1で用いた光重合開始剤(C−1)0.3質量部を、0.15質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(5)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0058】 (実施例6:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(6)の調製及び評価) 実施例1で用いた光重合開始剤(C−1)0.3質量部を、0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(6)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0059】 (実施例7:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(7)の調製及び評価) 実施例1で用いた光重合開始剤(C−1)0.3質量部を、光重合開始剤(C−1)2.8質量部及び光重合開始剤(C−2)0.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(7)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。 【0060】 (実施例8:活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(8)の調製及び評価) 実施例1で用いた光重合開始剤(C−1)0.3質量部を、光重合開始剤(C−1)2.5質量部及び光重合開始剤(C−2)0.6質量部に変更した以外は、実施例1と同様に、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料(8)を調製後、塗膜を作製し、塗膜物性を評価した。」 オ「【0069】 【表1】 ・・・ 【0071】 実施例1〜8の本発明のコンクリート保護材料は、速硬化性に優れ、極低温においても引張伸度に優れる塗膜が得られることが確認された。」 (2)検討 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 ア 発明の課題について 発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0003】の「−30℃などの極低温条件下では引張伸度が低く、寒冷地等での使用には柔軟性が不十分であるという問題あった。」との記載、さらに、「本発明が解決しようとする課題は、速硬化性に優れ、極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られるコンクリート保護材料を提供することである。」との記載からみて、「速硬化性に優れ、−30℃などの極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られるコンクリート保護材料」を提供することであると認められる。 イ 課題を解決する手段について (ア)発明の詳細な説明の段落【0069】の【表1】には、重量平均分子量が27,000のウレタン(メタ)アクリレートと、アクリル単量体と、光重合開始剤を含む、エネルギー線硬化型コンクリート保護材料の実施例1ないし8が示されている。 上記実施例1ないし8の「硬化性」については、段落【0051】の評価方法により評価された結果が「〇」であることから、優れていると認められ、また、引張伸度(%)が662〜1212となっていることから、「柔軟性」についても優れていると認められる。 ところで、発明の課題は、「速硬化性に優れ、−30℃などの極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られるコンクリート保護材料」を提供すること(上記ア)であり、また、発明の詳細な説明の段落【0007】には、「本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、重量平均分子量が5,000〜200,000の範囲であるウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル単量体、及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料を用いることで、速硬化性に優れ、極低温においても高伸度の塗膜が得られることを見出し、本発明を完成した。」(上記(1)ア)と記載されていることから、研究の過程において得られた塗膜について、極低温下における引張伸度の試験をすることは当然のことであるといえる。また、段落【0071】には、段落【0069】の【表1】を受けて「実施例1〜8の本発明のコンクリート保護材料は、・・・極低温においても引張伸度に優れる塗膜が得られることが確認された。」(上記(1)オ)と記載されているところ、このような結果を確認するためには、極低温における引張伸度の試験が行われていることが前提となる。 そうすると、段落【0069】の【表1】の実施例について、柔軟性の評価の指標となる「引張伸度(%)」は、極低温下において測定されたと解するのが自然である。 ここで、特許権者が提出した令和4年1月28日受付の意見書に添付した実験成績証明書(乙第1号証)をみると、実施例1ないし8の引張伸度(%)(−30℃条件下)の数値が、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0069】の【表1】における実施例1ないし8の引張伸度(%)の数値と同じであることが示されているところ、このことも上記理解と整合する。なお、乙第1号証は、本件特許の発明の詳細な説明から上記のとおり理解できる条件での実験結果を示すものであって、本件特許の発明の詳細な説明に記載のない事項を補うものではない。 (イ)発明の詳細な説明の段落【0032】には、「前記(メタ)アクリル単量体(B)の使用量は、硬化性及び塗膜柔軟性のバランスがより向上することから、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、30〜200質量部の範囲であることが好ましく」と記載され、また、段落【0035】には、「前記光重合開始剤(C)の使用量は、硬化性及び塗膜柔軟性のバランスがより向上することから、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で用いることが好ましく」と記載されていることから(上記(1)イ)、「(メタ)アクリル単量体(B)」及び「光重合開始剤(C)」は、「ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部」に対する使用量を特定すれば、硬化性及び塗膜柔軟性のバランスをより向上させることができるものと解される。 そうすると、実施例1ないし8において使用されている「(メタ)アクリル単量体(B)」及び「光重合開始剤(C)」の「ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部」に対する使用量に限定しなくとも、ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が27,000であれば、速硬化性に優れ、極低温においても高伸度の塗膜が得られる材料となるといえる。 (ウ)さらに、活性エネルギー線の照射による二重結合の反応により架橋された塗膜は、架橋点間の分子量が大きくなるほど高伸度となるという技術常識(令和4年1月31日受付の特許権者意見書2頁29〜30行)を踏まえれば、当業者は、重量平均分子量が27,000よりある程度大きいウレタン(メタ)アクリレートを用いたエネルギー線硬化型コンクリート保護材料も、重量平均分子量が27,000のウレタン(メタ)アクリレートを用いたものと同様に、速硬化性に優れ、極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られる材料であると理解することができる。 (エ)以上のことを踏まえると、発明の課題は、重量平均分子量が27,000〜50,000のウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル単量体と、光重合開始剤を含有するエネルギー線硬化型コンクリート保護材料により、解決できると認められる。 ウ 小括 したがって、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合しているといえる。 また、本件訂正発明2及び3も、本件訂正発明1を引用して記載するものであるから同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合しているといえる。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件訂正発明に係る成分を含有し、実際に極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られている材料について、1点の実施例である重量平均分子量が27,000であるウレタン(メタ)アクリレートを用いた材料をたとえ考慮したとしても、これを含めて具体的な実施例が記載されていると認めることはできない。 また、本件明細書の発明の詳細な説明に、上記一例をもっても、本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず、その他、そのように認めるに足る証拠もない以上、本件特許発明1ないし3の材料を生産でき、かつ、使用することができるように具体的に記載されているものとはいえない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に定める実施可能要件を満たすものと認めることはできない旨主張する。 (申立書4頁2行〜6頁21行、令和4年3月8日付け申立人意見書の3(1)1〜17行) しかしながら、発明の詳細な説明に記載された実施例1ないし8(上記第4の2(1)エ及びオ)は、上記第4の2(2)イ(ア)で説示したとおり速硬化性に優れ、極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られる材料であると認められ、また、実施例1ないし8のウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は27,000であって、本件訂正発明1ないし3における数値範囲内のものであるから、発明の詳細な説明には、本件訂正発明1ないし3の具体的な実施例が記載されていると認められる。 また、技術常識を踏まえれば、ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量が27,000を超え、50,000までのものを採用したものでも、速硬化性に優れ、極低温においても柔軟性に優れる塗膜が得られる材料となると認められるから(上記第4の2(2)イ(ウ))、本件特許の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1ないし3が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認められる。 さらに、発明の詳細な説明の段落【0012】〜【0030】には、ウレタン(メタ)アクリレート(A)を製造するための物質や製造方法が記載されており、段落【0031】及び【0032】には、(メタ)アクリル単量体(B)の具体的物質及び使用量が記載されており、段落【0033】〜【0035】には、光重合開始剤(C)の具体的物質及び使用量が記載されている。そして、段落【0044】〜【0049】には、ウレタン(メタ)アクリレート(A)の合成例1〜6が記載され、段落【0050】〜【0059】には、活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料の実施例1ないし8が記載されているから、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1ないし3の材料を生産でき、かつ、使用することができるように具体的に記載されていることは明らかである。 以上のとおりであるから、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に定める実施可能要件を満たしている。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及びに申立人が申し立てた理由によっては、本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ウレタン(メタ)アクリレート(A)、(メタ)アクリル単量体(B)、及び光重合開始剤(C)を含有するコンクリート保護材料であって、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)の重量平均分子量が27,000〜50,000の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。 【請求項2】 前記(メタ)アクリル単量体(B)が、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、30〜200質量部の範囲である請求項1記載の活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。 【請求項3】 前記光重合開始剤(C)が、前記ウレタン(メタ)アクリレート(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲である請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-03 |
出願番号 | P2016-128868 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(E01D)
P 1 651・ 537- YAA (E01D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
住田 秀弘 |
特許庁審判官 |
森次 顕 西田 秀彦 |
登録日 | 2020-09-23 |
登録番号 | 6766471 |
権利者 | DIC株式会社 |
発明の名称 | 活性エネルギー線硬化型コンクリート保護材料 |
代理人 | 岩本 明洋 |
代理人 | 小川 眞治 |
代理人 | 大野 孝幸 |
代理人 | 小川 眞治 |
代理人 | 岩本 明洋 |
代理人 | 大野 孝幸 |