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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 A61K |
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管理番号 | 1388350 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-20 |
確定日 | 2022-06-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6774065号発明「血流改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6774065号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第6774065号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6774065号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年5月14日に出願した特願2015−99432号の一部を平成31年4月19日に新たな出願とした特願2019−79785号であって、令和2年10月6日にその特許権の設定登録(請求項の数:1)がなされ、令和2年10月21日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。 令和3年 4月20日 :特許異議申立人 寺村祥幸(以下「申立人」と いう。)による請求項1に係る特許に対する特 許異議の申立て 同年 6月30日付け:取消理由通知書 同年 8月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月16日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出(上 記訂正請求書の「請求の趣旨」の欄に「、訂正 後の請求項1について」という記載を追加する 補正) 同年10月29日 :申立人による意見書の提出 同年12月 2日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和4年 1月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 その後、令和4年1月26日付けで、当審から申立人に対して意見書を提出する機会を与えたが(特許法第120条の5第5項)、申立人から意見書は提出されなかった。また、令和3年8月26日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 なお、令和4年2月2日に、合議体から、訂正請求書(令和3年8月26日及び令和4年1月21日提出)の「請求の趣旨」の欄の記載は「・・・訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める」と解する旨を特許権者に連絡し、了承を得た。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨 令和4年1月21日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許第6774065号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めることを、請求の趣旨とするものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当審合議体が付した。 ・訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有することを特徴とする血流改善剤。」 と記載されているのを、 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有することを特徴とする血流改善剤(ただし、以下の(1)〜(3)の血流改善剤を除く)。 (1)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、松樹皮抽出物、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、トリアセチン、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (2)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン、松樹皮抽出物、トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、メトセル、トリアセチン、アカシアガム、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」 に訂正する。 なお、以下では、上記のただし書で除かれている(1)、(2)及び(3)の血流改善剤を、それぞれ「除外対象血流改善剤(1)」、「除外対象血流改善剤(2)」及び「除外対象血流改善剤(3)」という。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「アスパラギン酸」から「アスパラギン酸アルギニン」を除き、さらに、訂正前の請求項1における「血流改善剤」から上記「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0028】には「本発明の血流改善剤においては、松樹皮抽出物と共に、有効成分として、アスパラギン、アスパラギン酸、・・・から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(塩を含む)を用いることが好ましい。」(下線は当審による。以下同様。)と記載されており、アスパラギン酸からアスパラギン酸アルギニンを除外することで、新たな技術的事項が導入されるわけでもない。また、上記「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除く点についても、新たな技術的事項を導入するものではない。 よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)独立特許要件について 本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有することを特徴とする血流改善剤(ただし、以下の(1)〜(3)の血流改善剤を除く)。 (1)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、松樹皮抽出物、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、トリアセチン、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (2)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン、松樹皮抽出物、トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、メトセル、トリアセチン、アカシアガム、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」 以下、本件訂正発明ともいう。 第4 取消理由の概要 1 令和3年6月30日付け取消理由の概要 令和3年8月26日提出の訂正請求書による訂正請求による訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和3年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 [取消理由1]本件特許の下記の請求項に係る発明は、下記の点でその出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するので、下記の請求項に係る本件特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 ・請求項1 ・甲1、2 [取消理由2]本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、下記の請求項に係る本件特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 ・請求項1 ・甲1〜2、5〜7、9〜11、13 2 令和3年12月2日付け取消理由(決定の予告)の概要 本件訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和3年12月2日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 [取消理由3]本件特許の下記の請求項に係る発明は、下記の点でその出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するので、下記の請求項に係る本件特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 ・請求項1 ・甲7、12 <甲号証一覧> 申立人が証拠方法として提出した各甲号証を、簡略化して、「甲1」等と記載する。 甲1:ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)記録番号(ID#)10126370、掲載時期2003年1月 甲2:ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)記録番号(ID#)1613473、掲載時期2011年9月 甲3:ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)記録番号(ID#)394722、掲載時期2005年9月 甲4:ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)記録番号(ID#)990041、掲載時期2008年10月 甲5:米国特許第6,565,851号公報 甲6:LAMM, S. et al., European Bulletin of Drug Research, 2003, Vol.11, No.3, p.29-37 甲7:STANISLAVOV, R. and NIKOLOVA, V., Journal of Sex & Marital Therapy, 2003, Vol.29, No.3, p.207-213 甲8:STANISLAVOV, R. et al., International Journal of Impotence Research, 2007, p.1-8 甲9:LAMM, S., European Endocrinology, 2009, Vol.5, p.70-74 甲10:LEDDA, A. et al., BJU International, 2010, Vol.106, No.7, p.1030-1033 甲11:STANISLAVOV, R. and NIKOLOVA, V., Botanical Medicine in Clinical Practice, 2008, p.767-774 甲12:AOKI, H. et al., Phytotherapy Research, 2012, Vol.26, p.204-207 甲13:特表2013−530985号公報 甲14:日刊ゲンダイ, 2007年7月27日(26日発行), 第37面 甲15:ENSELEIT, F. et al., European Heart Journal. 2012, Vol.33, p.1589-1597 甲16:松下昌史, New Food Industry, 2008, Vol.50, No.9, p.1-7 甲17:岩本邦彦, 食品工業, 2008, Vol.51, No.10, p.26-34 甲18:RATNER, S. and PETRACK, B., Journal of Biological Chemistry, 1953, Vol.200, Issue 1, p.175-185 甲19:Internet Archiveに2005年5月28日時点で記録された株式会社いせこのホームページ, URL:https://www.iseko.com/page/kaisou.html <以上、申立人が特許異議申立書に添付して提出> 甲20:夕刊フジ, 2013年9月28日(27日発行), 第39面 甲21:欧州食品科学委員会報告書「Statement of the Scientific Committee on Food on L-serine and some amino acid salts for use in foods for particular nutritional purposes」,2003年4月4日 甲22:2014年2月8日以前に掲載されたウェブページ「What Is Arginine Aspartate?」,URL:https://www.wise-geek.com/what-is-arginine-aspartate.htm#comments <以上、申立人が令和3年10月29日提出の意見書に添付して提出> 第5 取消理由についての当審の判断 1 取消理由1、2の「請求項1に係る発明に対する、甲1、2を主引用例とする新規性欠如」について (1)甲1、2、16に記載された事項及び甲1、2に記載された発明 甲1、2、16には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付した。以下同様である。 ア 甲1について ア−1 甲1に記載された事項 本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲1には、以下の記載がある。なお、外国語で記載されている部分については、日本語訳で摘記する。 (摘記1a) 「製品詳細 会社 Herbalife, USA ・・・ カテゴリー【ヘルスケア製品】>ビタミン/サプリメント>タブレット 市場 アメリカ ・・・ 掲載時期 1月 2003 ・・・」(「製品詳細」) (摘記1b) 「会社情報、購入先情報 小売店 Herbalife, USA ・・・ 店舗形態 インターネット、通信販売」(「会社情報、購入先情報」) (摘記1c) 「商品説明 本会社はPrelox Blue Dietary Supplementを発表しました。当該製品は健康な血流をサポートし、血管の応答性を強化します。・・・」(「商品説明」) (摘記1d) 「成分 Preloxの独自の配合(L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、ピクノジェノール(Pycnogenol))、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、トリアセチン、FD&C青1号、及びFD&C青2号」(「成分」) ア−2 甲1に記載された発明 上記摘記1a、1c〜1dの記載によれば、甲1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。 「L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、ピクノジェノールを有効成分として含有する、健康な血流をサポートし、血管の応答性を強化するためのタブレット。」 そして、摘記1aにおける「掲載時期 1月 2003」、及び摘記1bにおける「店舗形態 インターネット、通信販売」という記載から、上記タブレットは、2003年1月頃からインターネットで通信販売されていた製品であるといえる。 よって、甲1発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であると認められる。 イ 甲2について イ−1 甲2に記載された事項 本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲2には、以下の記載がある。なお、外国語で記載されている部分については、日本語訳で摘記する。 (摘記2a) 「製品詳細 会社 Herbalife International, USA ・・・ カテゴリー【ヘルスケア製品】>避妊薬及び関連商品>タブレット 市場 アメリカ ・・・ 掲載時期 9月 2011 ・・・」(「製品詳細」) (摘記2b) 「会社情報、購入先情報 小売店 Herbalife, USA ・・・」(「会社情報、購入先情報」) (摘記2c) 「商品説明 ・・・Prelox Blueは、性器領域の循環及び血流をサポートし、性機能への影響を補助するであろう特許取得済みの成分配合によって製造されます。・・・」(「商品説明」) (摘記2d) 「サプリメント成分: Preloxの独自の配合(L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン、ピクノジェノール(Pycnogenol)(乾燥松樹皮抽出物)(樹皮)) 他の成分: トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、メトセル、トリアセチン、アカシアガム、FD&C青1号、及びFD&C青2号」(「成分」) イ−2 甲2に記載された発明 上記摘記2a、2c〜2dの記載によれば、甲2には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。 「L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン及びピクノジェノールを有効成分として含有する、性器領域の循環及び血流をサポートするためのタブレット。」 そして、摘記2aにおける「掲載時期 9月 2011」、及び摘記2bにおける「小売店 Herbalife International, USA」という記載から、上記タブレットは、2011年9月頃から上記小売店の所在地である外国で販売されていた製品であるといえる。 よって、甲2発明は、本件特許の出願前に外国において公然実施をされた発明であると認められる。 ウ 甲16に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲16には、 以下の記載がある。 (摘記16a) 「ピクノジェノール(R)はホーファーリサーチ社(本社・スイス)が1970年に開発したフランス海岸松樹皮エキスのブランド名称である。」(p.1の左欄「はじめに」第1-3行、当審注:「(R)」は上付きRの丸囲みを示す。以下同じ。) (2)対比・判断 ア 甲1発明に基づく新規性欠如について (ア)甲1発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(1)」を含むものであることについて 甲1発明は「L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸及びピクノジェノールを有効成分として含有する、健康な血流をサポートし、血管の応答性を強化するためのタブレット。」(上記(1)ア−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲1発明の「ピクノジェノール」は甲16(摘記16a)によれば「松樹皮抽出物」に相当し、甲1発明の「L−アルギニン塩酸塩」は「L−アルギニン」を含む成分であり、甲1発明の「健康な血流をサポートし、血管の応答性を強化するためのタブレット」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明である。 よって、甲1発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 さらに、甲1には、甲1発明の具体例として、L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、ピクノジェノール、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、トリアセチン、FD&C青1号、及びFD&C青2号という組成のものが記載されており(摘記1d)、この組成は「除外対象血流改善剤(1)」の組成に相当するから、甲1発明は「除外対象血流改善剤(1)」を含むものである。 (イ)本件訂正発明と甲1発明との対比・判断 甲1発明の「ピクノジェノール」、「アスパラギン酸」及び「健康な血流をサポートし、血管の応答性を強化するためのタブレット。」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」及び「血流改善剤」に相当する。 そうすると、本件訂正発明と甲1発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点1> 本件訂正発明では「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲1発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(1)」を含むものである点。 そして、上記相違点1は、本件訂正発明から甲1発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲1発明に該当しない。 また、本件訂正発明は、甲1発明に該当しないから、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 イ 甲2発明に基づく新規性欠如について (ア)甲2発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(2)」を含むことについて 甲2発明は「L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン及びピクノジェノールを有効成分として含有する、性器領域の循環及び血流をサポートするためのタブレット。」(上記(1)イ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲2発明の「ピクノジェノール」は甲16(摘記16a)によれば「松樹皮抽出物」に相当し、甲2発明の「L−アルギニン塩酸塩」は「L−アルギニン」を含む成分であり、甲2発明の「性器領域の循環及び血流をサポートするためのタブレット。」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明である。 よって、甲2発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 さらに、甲2には、甲2発明の具体例として、L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン、ピクノジェノール(Pycnogenol)、トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、メトセル、トリアセチン、アカシアガム、FD&C青1号、及びFD&C青2号という組成のものが記載されており(摘記2d)、この組成は「除外対象血流改善剤(2)」の組成に相当するから、甲2発明は「除外対象血流改善剤(2)」を含むものである。 (イ)本件訂正発明と甲2発明との対比・判断 甲2発明の「ピクノジェノール」、「アスパラギン酸」及び「性器領域の循環及び血流をサポートするためのタブレット」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」及び「血流改善剤」に相当する。 そうすると、本件訂正発明と甲2発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点2> 本件訂正発明では「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲2発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(2)」を含むものである点。 そして、上記相違点2は、本件訂正発明から甲2発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲2発明に該当しない。 また、本件訂正発明は、甲2発明に該当しないから、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 (3)小括 したがって、本件訂正発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に該当しないし、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 2 取消理由2の「請求項1に係る発明に対する、甲5、6、9〜11、13を主引用例とする新規性欠如」について (1)各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明 ア 甲5について ア−1 甲5に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲5には、以下の記載がある。なお、甲5は外国語で記載されているため日本語訳で摘記する。 (摘記5a) 「本発明は、L−アルギニン(又はその塩)から一酸化窒素を放出するための触媒として作用する酵素NOシンターゼを刺激するために、プロアントシアニジンを使用することに関する。これは、勃起障害の症状改善に有利である。」(第1欄14-17行) (摘記5b) 「正常な陰茎反応は、勃起組織における血流の一連の神経媒介変化に基づいて起こる。血液供給量が増加する条件は、勃起組織内の平滑筋の弛緩である。弛緩は次のように起こる: 性的刺激を受けると、勃起組織の内皮細胞内で、酵素NOシンターゼ(NOS)が活性化する。この酵素は、アミノ酸L−アルギニンを基質として一酸化窒素(NO)を合成するための触媒として作用する。次に、NOは、グアニリルシクラーゼを活性化して、環状グアノシン一リン酸(cGMP)の産生を促進する。 cGMPは平滑筋の弛緩を引き起こす。」(第1欄19-31行) (摘記5c) 「本発明の一側面において、一酸化窒素源、具体的にはアミノ酸L−アルギニン又はその塩と、活性成分、具体的にはプロアントシアニジンを組み合わせて用いる刺激技術である。プロアントシアニジンと、L−アルギニン又はその塩量は、両方とも、勃起障害の症状を改善し、血管を拡張するのに治療上有効な量である。」(第2欄59-65行) (摘記5d) 「広く知られた松樹皮抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)補助食品は、勃起障害を治療するためのプロアントシアニジン含有治療薬として使用される。」(第3欄37-39行) (摘記5e) 「臨床試験結果についての下記の統計分析により、2つの処置の間に観察された相違が統計学的にあるレベルで有意であるか否かを計算する。 NS=有意差無し、n=参加者/患者の人数、D=分布%、A=アスパラギン酸アルギニン(各月において1日当たり1000mgを3回)、P=ピクノジェノール(R)食品サプリメント(2か月目は1日当たり40mgを2回、3か月目は1日当たり40mgを3回)、P=有意確率。 臨床試験の結果を見ると、1日当たり200mg〜2gのアルギニンと、1日当たり60〜360mgのピクノジェノール(R)食品サプリメントの併用が勃起機能不全を改善するための治療有効量であろう。本臨床試験によると、それぞれ566.85mgのアルギニンを含むアスパラギン酸アルギニンを3回投与したことから計算すると、1日当たりに投与されたアルギニンの量は1.7グラムであった。」(第5欄1〜31行) (摘記5f) 「1.プロアントシアニジン並びに、アルギニン源及びその後一酸化窒素源となる基質の両方を投与し、内皮のNOシンターゼ酵素をプロアントシアニジンで刺激し、一酸化窒素合成触媒として作用する刺激された内皮NOシンターゼ酵素に反応して基質から一酸化窒素を放出させることを含み、プロアントシアニジン及び基質の量は、勃起障害の症状を改善するために十分な量の一酸化窒素の放出を合成により引き起こすために治療上有効な量である、NOシンターゼ酵素をプロアントシアニジンで刺激すること及び一酸化窒素を放出させることにより、勃起障害の症状を改善する方法。」(請求項1) ア−2 甲5に記載された発明 甲5には、アスパラギン酸アルギニンと松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)を組み合わせて用いることによって、勃起障害の症状が改善することが(摘記5e、5f)記載されている。 ここで、アスパラギン酸アルギニンは、一酸化窒素源のL−アルギニンの塩に相当し(摘記5c)、ピクノジェノール(R)はプロアントシアニジンを含有する(摘記5d)ものであるから、甲5には、一酸化窒素源のL−アルギニンの塩とプロアントシアニジンとを用いることが記載されているといえる。 また、プロアントシアニジンがNOシンターゼを刺激するとL−アルギニン(又はその塩)から一酸化窒素が放出されること(摘記5a)、NOは、勃起組織の内皮細胞内でグアニリルシクラーゼを活性化してcGMPの産生を促進することによって、勃起組織内の平滑筋の弛緩を引き起こし、血液供給量が増加すること(摘記5b)から、勃起障害の症状が改善することは、勃起組織内の血液供給量が増加することに相当する。 そうすると、甲5には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲5発明」という。)。 「一酸化窒素源としてのアスパラギン酸アルギニンと、松樹皮抽出物ピクノジェノールとを有効成分として組み合わせて用いる剤であって、一酸化窒素(NO)を放出させ、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して平滑筋の弛緩を引き起こし、勃起組織への血液供給を増加するための、剤。」 イ 甲6について イ−1 甲6に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲6には、以下の記載がある。なお、甲6は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。 (摘記6a) 「陰茎勃起は、心理学的制御の下における血管の現象である。最初の性的な刺激は脊髄を通じて海綿体に到達する。海綿体神経の末端枝はいくつかの神経伝達物質を放出しそのうち最も重要なものは一酸化窒素(NO)、アセチルコリン及びプロスタグランジンである。これらの勃起誘導性神経伝達物質は、血管内皮の血管拡張因子、主にNOと協調して作用する。陰茎動脈を通じた血流の増大は血管内皮を刺激し、更なるNOの増大をもたらす(・・・)。NOは平滑筋層に拡散し、グアニルシクラーゼを刺激し、二次メッセンジャーとしての細胞内環状グアノシン一リン酸を増大させ、細胞内環状グアノシン一リン酸は続いて筋肉弛緩を引き起こす。最終的に、これらの過程は、陰茎動脈および毛細血管への血液流入を増強し、静脈からの血液流出を制限し、陰茎海綿体での加圧された血液保持をもたらす。 通常の加齢に伴い、男性の性的活動には生理学的変化が生じる。これらの変化の大部分は内分泌系(ホルモン型)及び血管系の異常を含む(・・・)。陰茎への及び陰茎からの血流の変化は、男性勃起不全の最も多い原因であると考えられている(・・・)。陰茎動脈内皮細胞の機能変化の多くは、アテローム硬化及び高血圧といった動脈リスクに関係しており、これらは高齢においてより高頻度に出現する。加齢に伴う血管内皮機能の全般的な低下は、NOの生物学的活性及び利用可能性に影響する(・・・)。高齢における勃起障害に対処する有望な戦略は、NOの供給又はNOの二次メッセンジャーである環状グアノシン一リン酸の生物学的利用性の延長を標的にしている。」(p.30の左欄下から10行- p.31の左欄2行(ただし、「Figure 1」とその説明は除く。)) (摘記6b) 「Prelox(R)は、Horphag Research Ltd.が世界中で独占的に販売する、フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)及びアスパラギン酸L−アルギニンを含む、ブランド付された独自処方である。」(p.31の左欄「COMPOSITION AND PHARMACOLOGY OF PRELOX(R)」の第1段落) (摘記6c) 「ピクノジェノール(R)の中心的役割は、一酸化窒素合成酵素による、血管内皮における基質アスパラギン酸L−アルギニンからの一酸化窒素産生亢進能力である。薬理学的研究によりピクノジェノール(R)は用量依存的にアドレナリン収縮した動脈血管の径を増大することが示されている(・・・)。」(p.31の左欄最終段落の1-7行) (摘記6d) 「ピクノジェノール(R)はより効率的にNOを産生するようにeNOSを刺激することから、前駆体としてのL−アルギニンがより多く存在すると、さらに作用が増強されるであろう。Prelox(R)では、L−アルギニンはアスパラギン酸L−アルギニンとしてピクノジェノール (R)と組み合わされている。イオン化したアルギニンは易水溶性であり、より高い吸収を促進する。L−アスパラギン酸は、エネルギーを増強し、代謝物を合成するための中心的な生化学的細胞経路であるKrebs回路(クエン酸回路)において重要な役割を果たしている。」(p.31の右欄第3段落1-10行) (摘記6e) 「LammとCouzensは、軽度の勃起障害を改善するためのPrelox(R)の有効性を評価した(・・・)。」(p.34の左欄「AMERICAN PRELOX(R) STUDY」の1-2行) (摘記6f) 「被験者は6週間にわたって、1日4つのPrelox(R)錠剤を服用するよう指示され、各錠剤は20mgピクノジェノール(R)及び750mgのアスパラギン酸L−アルギニンを含んでいた。」(p.34の右欄4-7行) (摘記6g) 「試験の結果、合計30名(81.1%)の男性が、治療によって性行為を行う能力が向上したと回答した。」(p.34の右欄最終段落1-3行) イ−2 甲6に記載された発明 甲6には、フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)及びアスパラギン酸L−アルギニンを含むPrelox(R)(摘記6b、d、f)によって、勃起障害が改善する(摘記6e、g)ことが記載されている。 ここで、ピクノジェノール(R)は、一酸化窒素合成酵素による、血管内皮における基質アスパラギン酸L−アルギニンからの一酸化窒素産生能力を亢進することができるものであって(摘記6c)、NOは平滑筋層に拡散し、グアニルシクラーゼを刺激し、二次メッセンジャーとしての細胞内環状グアノシン一リン酸を増大させ、細胞内環状グアノシン一リン酸は続いて筋肉弛緩を引き起こすことによって、陰茎動脈および毛細血管への血液流入を増強するものである(摘記6a)から、甲6には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲6発明」という。)。 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール及びアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含む組成物であって、一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物。」 ウ 甲9について ウ−1 甲9に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲9には、以下の記載がある。なお、甲9は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。 (摘記9a) 「陰茎勃起は、陰茎組織及び血管系の、最低限の灌流を有する軟弱な状態から充血状態への転換である。性的刺激(視覚、聴覚、触覚又は想像)の後、副交感神経は刺激を陰茎の海綿体に伝達する。そこで副交感神経線維は、2種の異なる神経末端に分枝する:コリン作用性末端と非アドレナリン作用性、非コリン作用性(NANC) 末端である。コリン作用性神経末端はアセチルコリンを放出し、アセチルコリンは血管内皮の一酸化窒素合成酵素(eNOS)を刺激して、L−アルギニンとO2からの血管内一酸化窒素(NO)産生を増強し、一方、NANC末端は主に神経細胞NOS(nNOS)から神経細胞NOを放出する。動脈の平滑筋細胞内で、NOはグアニル酸シクラーゼを活性化し、グアニル酸シクラーゼはグアノシン三リン酸(GTP)を3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)へ分解するのを触媒する。 cGMPは、平滑筋収縮を解放し、動脈血流を増強し、陰茎を充血させるための二次メッセンジャーとして重要な役割を果たす。」(p.70の右欄下から10行目-p.71の左欄7行) (摘記9b) 「Prelox(R)は、Horphag Research Ltdの、フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)とアスパラギン酸L−アルギニンの特許保護された(米国特許第6,565,851 B2)独自のブレンドの登録商標である。PreloxはNO合成を改善し、その結果、男性における勃起性質を改善することを目的に開発された。勃起は、神経NOおよび血管内皮NOの両方に絶対的に依存しており、Preloxにより供給される栄養因子は関係する生理学的過程を促進する。」(p.71の左欄24-31行) (摘記9c) 「2件の探索的な研究により、Preloxは20mgのピクノジェノールと700−750mgのアスパラギン酸L−アルギニンを含むことが確立されている。」(p.72の左欄21-23行) (摘記9d) 「Preloxは、EDの軽度から中等度の病因に対して安全で、忍容性が高く、有効な治療である。その有効性は4つの臨床試験で証明されている。」(p.74の「Conclusion」1-3行)。 ウ−2 甲9に記載された発明 甲9には、フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)とアスパラギン酸L−アルギニンを含むブレンドであるPrelox(R)(摘記9b、c)は、EDの軽度から中等度の病因に対して有効な治療である(摘記9d)ことが記載されている。 ここで、Preloxは一酸化窒素(NO)合成を改善するものであり(摘記9b)、3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して動脈血流を増加させることで、勃起を誘導するものである(摘記9a)から、甲9には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲9発明」という。)。 「フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)とアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含むブレンドであって、一酸化窒素(NO)合成を改善し、3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して動脈血流を増加させることで、勃起を誘導するための、前記ブレンド。」 エ 甲10について エ−1 甲10に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲10には、以下の記載がある。なお、甲10は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。 (摘記10a) 「ピクノジェノール(Pycnogenol)は、フランス海岸松樹皮の標準化された抽出物であり、米国薬局方仕様に従って、70±5%のプロシアニジン、カテキン及びエピカテキンのオリゴマーからなる。」(p.1030の中欄1-5行) (摘記10b) 「さらに、パイロット試験において、ピクノジェノール単独でも勃起機能を改善することが見出されている[5]。酵素の基質であるL−アルギニンと組み合わせることにより、相乗的に一酸化窒素の合成が増加するが、一酸化窒素は血流を改善し、陰茎を充血させるカギとなる要素である [2]。」(p.1030の中欄下から3行目-右欄5行) (摘記10c) 「標準的な投与方法は、200mLの水と共に、朝食後7:00から9:00の間にPrelox錠剤を2錠、夕食後19:00から21:00の間にPrelox錠剤を2錠であった。各Prelox錠剤は20mgのピクノジェノールに加えて700mgのアスパラギン酸L−アルギニンを含んでいた。」(p.1031の中欄第3段落1-7行) (摘記10d) 「結論として、Preloxは再度、軽度から中度のED治療に有効であることが確認された。重要なことに、本研究では慣化によるPreloxの勃起誘導作用減少は無く、若干の時間依存的な効力増強が見られた。」(p.1032の右欄第2段落1-7行) エ−2 甲10に記載された発明 甲10には、フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)とアスパラギン酸L−アルギニンを含む錠剤であるPrelox(R)(摘記10a、c)は、軽度から中等度のED治療に有効である(摘記10d)ことが記載されている。 ここで、Preloxは一酸化窒素の合成を増加させて血流を改善することで、勃起を誘導するものである(摘記10b、d)から、甲10には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲10発明」という。)。 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノールとアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含む錠剤であって、一酸化窒素の合成を増加させて血流を改善することで、勃起を誘導するための、前記錠剤。」 オ 甲11について オ−1 甲11に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲11には、以下の記載がある。なお、甲11は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。 (摘記11a) 「陰茎勃起は心理学的制御の下における血管の動的現象である。性的な刺激は脊髄を通じて海綿体に到達する。海綿体神経の末端枝はいくつかの神経伝達物質を放出しそのうち最も重要なものは一酸化窒素(NO)、アセチルコリン及びプロスタグランジンである。これらの勃起誘導性神経伝達物質は、血管内皮の血管拡張因子、主にNOと協調して作用する。陰茎動脈を通じた血流の増大は血管内皮を刺激し、更なるNO増大をもたらす(・・・)。NOは平滑筋層に拡散し、グアニルシクラーゼを刺激し、二次メッセンジャーとしての細胞内環状グアノシン一リン酸(cGMP)を増大させ、cGMPは続いて筋肉弛緩を引き起こす。最終的に、これらの過程は陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強し、静脈からの血液流出を制限し、陰茎海綿体での加圧された血液保持をもたらす。 通常の加齢に伴い、男性の性的活動には生理学的変化が生じる。これらの変化の大部分は内分泌系(ホルモン型)及び血管系の異常を含む(・・・)。陰茎への及び陰茎からの血流の変化は、男性EDの最も多い原因であると考えられている(・・・)。陰茎動脈内皮細胞の機能変化の多くは、アテローム硬化及び高血圧といった動脈リスクに関係しており、これらは高齢においてより高頻度に出現する。加齢に伴う血管内皮機能の全般的な低下は、NOの生物学的活性及び利用可能性に影響する(・・・)。したがって、高齢における勃起障害に対処する有望な戦略は、NOの供給又はNOの二次メッセンジャーであるcGMPの生物活性の延長を標的にしている。」(p.768の左欄第3段落1行-右欄7行) (摘記11b) 「Prelox(R)は、Horphag Research Ltd.UKが独占的に販売する、フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)及びアスパラギン酸L−アルギニンを含む、ブランド付された独自処方である。」(p.768の右欄「Composition and pharmacology of Prelox(R)」の第1段落) (摘記11c) 「ピクノジェノール(R)の中心的役割は、一酸化窒素合成酵素による、血管内皮における基質アスパラギン酸L−アルギニンからの一酸化窒素産生亢進能力である。薬理学的研究によりピクノジェノール(R)は用量依存的にアドレナリン収縮した動脈血管の径を増大することが示されている(・・・)。」(p.768の右欄「Composition and pharmacology of Prelox(R)」の第3段落1-6行) (摘記11d) 「ピクノジェノール(R)はより効率的にNOを産生するようにeNOSを刺激することから、前駆体としてのL−アルギニンがより多く存在すると、さらに作用が増強されるであろう。Prelox(R)では、L−アルギニンはアスパラギン酸L−アルギニンとしてピクノジェノール (R)と組み合わされている。イオン化したアルギニンは易水溶性であり、より高い吸収を促進する。L−アスパラギン酸は、エネルギーを増強し、代謝物を合成するための中心的な生化学的細胞経路であるKrebs回路(クエン酸回路)において重要な役割を果たしている。」(p.769の左欄3-10行) (摘記11e) 「LammとCouzens(2003)は、軽度の勃EDを改善するためのPrelox(R)の有効性を評価した。」(p.772の左欄「American Prelox(R) Study」の1-2行) (摘記11f) 「被験者は6週間にわたって、1日4つのPrelox(R)錠剤を服用するよう指示され、各錠剤は20mgピクノジェノール(R)及び750mgのアスパラギン酸L−アルギニンを含んでいた。」(p.772の右欄20-22行) (摘記11g) 「試験の結果、合計30名(81.1%)の男性が、治療によって性行為を行う能力が向上したと回答した。」(p.772の右欄37-39行) オ−2 甲11に記載された発明 甲11には、フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)及びアスパラギン酸L−アルギニンを含むPrelox(R)(摘記11b、d、f)によって、勃起障害が改善する(摘記11e、g)ことが記載されている。 ここで、ピクノジェノール(R)は、一酸化窒素合成酵素による、血管内皮における基質アスパラギン酸L−アルギニンからの一酸化窒素産生能力を亢進することができるものであって(摘記11c)、NOは平滑筋層に拡散し、グアニルシクラーゼを刺激し、二次メッセンジャーとしての細胞内環状グアノシン一リン酸を増大させ、細胞内環状グアノシン一リン酸は続いて筋肉弛緩を引き起こすことによって、陰茎動脈および毛細血管への血液流入を増強するものである(摘記11a)から、甲11には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲11発明」という。)。 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール及びアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含む組成物であって、一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物。」 カ 甲13について カ−1 甲13に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲13には、以下の記載がある。 (摘記13a) 「【請求項1】 プロアントシアニジン源と、 アルギニン源と、 ローズヒップおよび/もしくはその抽出物またはQuercus roburおよび/もしくはその抽出物あるいはそれらの混合物と、好適な賦形剤 との組み合わせで存在する、調製物。 ・・・ 【請求項3】 前記アルギニン源が、L−アルギニンおよびアスパラギン酸の塩またはジペプチドである、請求項1または2記載の調製物。」 ・・・ 【請求項4】 前記プロアントシアニジン源が、植物抽出物または合成された材料を起源とする、請求項1〜3のいずれかに記載の調製物。 ・・・ 【請求項6】 前記植物抽出物が、マツの樹皮、好ましくは、フランスカイガンショウの樹皮を起源とする、請求項5記載の調製物。」(特許請求の範囲の請求項1〜6) (摘記13b) 「【0001】 本発明は、プロアントシアニジン源、アルギニン源、ローズヒップ抽出物および/またはQuercus robur抽出物を含む成分を用いた、男女の性的適応度またはセクシャルウェルネス(sexual wellness)の改善、男性の性的増強、性機能障害の処置および男女の性器血管系の健康に関する。プロアントシアニジン源は、植物の抽出物であり得、アルギニン源は、アスパラギン酸アルギニンに由来し得る。」(【0001】) (摘記13c) 「【0004】 ・・・女性または男性の生殖器への血流を増加させる別の方法は、一酸化窒素の産生を増加させることである(その後、その一酸化窒素はcGMPの放出を引き起こす)。・・・一酸化窒素産生の生理学的供給源として、アミノ酸であるL−アルギニンが用いられる。」(【0004】) (摘記13d) 「【0005】 内皮一酸化窒素シンターゼ酵素は、L−アルギニンから一酸化窒素を生成する。生殖器への持続した血流の増加をもたらすために、まず第一に、その生物に基質であるL−アルギニンを十分量補給することが必要である。しかしながら、L−アルギニンだけが高濃度で存在しても、生殖器に対して実質的に多い血流がもたらされるわけではない。L−アルギニンからの一酸化窒素の生成が、活性な酵素によって触媒されるように、内皮一酸化窒素シンターゼをさらに刺激することが必要である。内皮一酸化窒素シンターゼの強力な刺激物質は、プロアントシアニジン類を含む抽出物である。」(【0005】) (摘記13e) 「【0006】 プロアントシアニジン類は、渋い味を有する、根、樹皮および果実に見られる植物ポリフェノール類の一群である。プロアントシアニジン類は、プロシアニジン類およびプロデルフィニジン類の亜群を含む。・・・ 【0007】 フランスカイガンショウ(French maritime pine)の樹皮由来のプロアントシアニジンリッチ抽出物は、Horphag Research,SwitzerlandによってPycnogenol(登録商標)という商品名で流通している。その抽出物は、70〜75重量%のプロシアニジン類および他のフラバノール類(例えば、カテキン、エピカテキンおよびタキシホリン)を含む。・・・マツの樹皮の抽出物のPycnogenol(登録商標)は、内皮一酸化窒素シンターゼを刺激することおよび血管拡張を誘導することが示されている(・・・)。」(【0006】〜【0007】) (摘記13f) 「【0029】 本明細書中で使用されるとき、用語「マツの樹皮の抽出物」は、例えば、Pycnogenol(登録商標)(Horphag)として商業的に入手可能な、フランスカイガンショウの樹皮の抽出物のことを指す。用語「Pycnogenol(登録商標)」と「マツの樹皮の抽出物」と「フランスカイガンショウの樹皮の抽出物」とは、相互交換可能である。Pinus pinaster(P.pinaster)およびPinus maritima(P.maritime)は、通常「フランスカイガンショウ」と呼ばれる同じ生物体のことを指すと理解される。ゆえに、これらの用語は、相互交換可能である。」 (摘記13g) 「【0049】 上記植物抽出物は、マツの樹皮、イトスギの球果、ブドウの種子、リンゴ、ラッカセイの殻、クルミ、ザクロ、トマト、アーモンド、チャ、サンザシ、カカオノキの抽出物またはそれらの組み合わせから選択されるプロアントシアニジン類含有抽出物からなる群から選択され得る。・・・。好ましくは、本発明に係る植物抽出物は、マツの樹皮を起源とし、より好ましくは、その植物抽出物は、Pycnogenol(登録商標)である。」(【0049】) (摘記13h) 「【0056】 投与レジメンに従った長期間にわたる上記混和物の経口投与によって、ある特定の利点(血管の健康の保護、回復および持続、ならびに生殖領域への血流の改善を助けることを含む)がもたらされ、その結果、自然に男性の勃起または女性の腫脹が増強され、自然に身体の性的応答が増強され、性器血管系の健康が改善される。」(【0056】) (摘記13i) 「【0134】 Horphag Researchの登録商標であるPrelox Lady(登録商標)は、女性の生活の質および性機能を改善するために開発された。この専売の製剤は、Pycnogenol、L−アルギニン、L−シトルリンおよびローズヒップ抽出物からなる。L−アルギニンに関する探索的調査研究の予備レポートは、微小血管障害およびニューロパシーを改善することによって、ならびに末梢浮腫の重要な作用によって、正常の被験体と糖尿病の被験体の両方において感覚の作用を改善する際のPrelox Lady(登録商標)の特定の活性を指摘している。一酸化窒素(NO)の前駆体としてのL−アルギニンは、単独で、および性機能を改善するいくつかの化合物と組み合わせて、使用されている。NOは、性機能に関する血行を媒介する環状グアノシン一リン酸(cGMP)をアップレギュレーションするための重要なメディエーターである。L−アルギニンからNOへの変換は、NOシンターゼ(NOS)によって媒介される。局所的なL−アルギニンレベルが上昇すると、NOおよびCgmpが増加する。L−アルギニンは、NO産生の減少を伴う状態、すなわち、高齢女性の糖尿病、高コレステロール血症および高血圧症において、内皮由来のNO産生を回復させる。Pycnogenolによる血行の健康改善は、多種多様な病態において、内皮の機能の改善およびNO合成の増加に関連すると理解されている。女性における性的応答の第1段階は、神経伝達物質によって媒介される血管平滑筋の弛緩であり、それにより、膣への血流の増加(vaginal increase in flow)、粘膜の腺の活性化、膣壁の充血、膣管腔の直径の拡大および陰核の灌流の増加(increased clitoral perfusion)が生じる。・・・」(【0134】) カ−2 甲13に記載された発明 甲13には、「プロアントシアニジン源と、アルギニン源と、ローズヒップおよび/もしくはその抽出物またはQuercus roburおよび/もしくはその抽出物あるいはそれらの混合物と、好適な賦形剤との組み合わせで存在する、調製物」が記載されており(摘記13aの請求項1、摘記13b)、プロアントシアニジン源がマツの樹皮の抽出物であること(摘記13aの請求項4、6、摘記13e、f、g)、アルギニン源がL−アルギニンおよびアスパラギン酸の塩、すなわちアスパラギン酸L−アルギニンであること(摘記13aの請求項3)も記載されている。 ここで、プロアントシアニジン類を含む抽出物は、内皮一酸化窒素シンターゼの強力な刺激物質であり(摘記13d)、内皮一酸化窒素シンターゼ酵素は、L−アルギニンから一酸化窒素を生成し、NOは、環状グアノシン一リン酸(cGMP)をアップレギュレーションして性機能に関する血行を媒介し生殖器への持続した血流の増加をもたらすものであること(摘記13d、i)、及び、一酸化窒素の産生を増加することによって、女性または男性の生殖器への血流を増加させることも記載されている(摘記13c)。 そうすると、甲13には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲13発明」という。)。 「プロアントシアニジン源としてのマツの樹皮の抽出物と、 アルギニン源としてのアスパラギン酸L−アルギニンと、 ローズヒップおよび/もしくはその抽出物またはQuercus roburおよび/もしくはその抽出物あるいはそれらの混合物を有効成分として、好適な賦形剤との組み合わせで存在する、調製物であって、女性または男性の生殖器への血流を増加させるための、前記調製物。」 (2)対比・判断 ア 甲5発明に基づく新規性欠如について (ア)甲5発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲5発明は、「一酸化窒素源としてのアスパラギン酸アルギニンと、松樹皮抽出物ピクノジェノールとを組み合わせて用いる剤であって、一酸化窒素(NO)を放出させ、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して平滑筋の弛緩を引き起こし、勃起組織への血液供給を増加するための、剤。」であり(上記(1)ア−2)、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲5発明の「松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲5発明の「一酸化窒素源としてのアスパラギン酸アルギニン」は「L−アルギニン」(摘記5a)及び「アスパラギン酸」を含む成分である。 そして、一酸化窒素(NO)の作用によって血管が拡張して血液が流れやすくなり血流が改善されることは本件特許の原出願時(以下「本件原出願時」という。)の技術常識であること(参考文献A Bruce Albertsほか著, 中村桂子ほか監訳, Essential細胞生物学(原書第3版), 株式会社南江堂, 2014年10月10日, p.538-539、特に「水に溶けた気体には細胞膜を透過し酵素を直接活性化するものがある」の項の図16-11の記載を参照。)を参酌すると、甲5発明の「一酸化窒素(NO)を放出させ、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して平滑筋の弛緩を引き起こし、勃起組織への血液供給を増加するための、剤」が、「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるので、甲5発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲5発明との対比・判断 甲5発明の「松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「一酸化窒素源としてのアスパラギン酸アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素(NO)を放出させ、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して平滑筋の弛緩を引き起こし、勃起組織への血液供給を増加するための、剤」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲5発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点5> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲5発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点5は、本件訂正発明から甲5発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲5発明に該当しない。 イ 甲6発明に基づく新規性欠如について (ア)甲6発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲6発明は、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール及びアスパラギン酸L−アルギニンを含む組成物であって、一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物。」(上記(1)イ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 そして、甲6発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲6発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲6発明の「一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲6発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲6発明とを対比する。 甲6発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲6発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点6> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲6発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点6は、本件訂正発明から甲6発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲6発明に該当しない。 ウ 甲9発明に基づく新規性欠如について (ア)甲9発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲9発明は、「フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)とアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含むブレンドであって、一酸化窒素(NO)合成を改善し、3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して動脈血流を増加させることで、勃起を誘導するための、前記ブレンド。」(上記2(1)ウ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲9発明の「フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)」は甲16(摘記16a)によれば「松樹皮抽出物」に相当し、甲9発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲9発明の「一酸化窒素(NO)合成を改善し、3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して動脈血流を増加させることで、勃起を誘導するための、前記ブレンド」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲9発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲9発明との対比・判断 甲9発明の「フランス海岸松抽出物ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素(NO)合成を改善し、3′5′−環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して動脈血流を増加させることで、勃起を誘導するための、前記ブレンド」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲9発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点9> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲9発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点9は、本件訂正発明から甲9発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲9発明に該当しない。 エ 甲10発明に基づく新規性欠如について (ア)甲10発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲10発明は、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノールとアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含む錠剤であって、一酸化窒素の合成を増加させて血流を改善することで、勃起を誘導するための、前記錠剤。」(上記(1)エ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲10発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲10発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲10発明の「一酸化窒素の合成を増加させて血流を改善することで、勃起を誘導するための、前記錠剤」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲10発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲10発明との対比・判断 甲10発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素の合成を増加させて血流を改善することで、勃起を誘導するための、前記錠剤」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲10発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点10> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲10発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点10は、本件訂正発明から甲10発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲10発明に該当しない。 オ 甲11発明に基づく新規性欠如について (ア)甲11発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲11発明は、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール及びアスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含む組成物であって、一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物。」(上記(1)オ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲11発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲11発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲11発明の「一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲11発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲11発明との対比・判断 甲11発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素(NO)の産生を亢進し、細胞内環状グアノシン一リン酸を介して筋肉弛緩を引き起こし、陰茎動脈及び毛細血管への血液流入を増強するための、組成物」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲11発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点11> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲11発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点11は、本件訂正発明から甲11発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲11発明に該当しない。 カ 甲13発明に基づく新規性欠如について (ア)甲13発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲13発明は、「プロアントシアニジン源としてのマツの樹皮の抽出物と、アルギニン源としてのアスパラギン酸L−アルギニンと、ローズヒップおよび/もしくはその抽出物またはQuercus roburおよび/もしくはその抽出物あるいはそれらの混合物を有効成分として、好適な賦形剤との組み合わせで存在する、調製物であって、女性または男性の生殖器への血流を増加させるための、前記調製物。」(上記(1)カ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 そして、甲13発明の「プロアントシアニジン源としてのマツの樹皮の抽出物」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲13発明の「アルギニン源としてのアスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲13発明の「女性または男性の生殖器への血流を増加させるための、前記調製物」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲13発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲13発明との対比・判断 甲13発明の「プロアントシアニジン源としてのマツの樹皮の抽出物」、「アルギニン源としてのアスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「女性または男性の生殖器への血流を増加させるための、前記調製物」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲13発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点13> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲13発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点13は、本件訂正発明から甲13発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲13発明に該当しない。 (3)小括 したがって、本件訂正発明は、甲5、6、9〜11、13に記載された発明に該当しない。 なお、甲7を主引用例とする新規性欠如については下記3で検討する。 3 取消理由2、3の「請求項1に係る発明に対する、甲7、12を主引用例とする新規性欠如」について (1)各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明 ア 甲7について ア−1 甲7に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲7には、以下の記載がある。なお、甲7は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審合議体によるものである。 (摘記7a) 「陰茎勃起は陰茎への動脈血液流入増加、血液による陰茎鬱血、陰茎からの静脈流出減少を含む、血管の動的な過程である。血液流入の増加は、海綿体動脈及び小柱の平滑筋弛緩を伴う。反対に、陰茎平滑筋の収縮はベースラインの弛緩を維持する(・・・)。一酸化窒素(NO)は陰茎勃起の主要なメディエーターであると考えられており、陰茎の非アドレナリン作動性、非コリン作動性(NANC)神経末端から放出される神経伝達物質として作用するとともに、陰茎動脈及び毛細血管内皮細胞で産生される血管拡張因子としても作用する(・・・)。」(p.208の10-20行) (摘記7b) 「したがって、我々は、ED患者を、プロシアニジン及び単量体成分カテキン及びタキシフォリン並びに相当量のフェノール酸からなる物質である、フランス海岸松樹皮(Pinus pinaster)の抽出物であるピクノジェノール(Pycnogenol)で治療した(・・・)。ピクノジェノールは非常に強力な抗酸化剤であり、一酸化窒素合成(NOS)を刺激し、NO産生を増強することが示されている(・・・)。NO産生を刺激することにより、ピクノジェノールはエピネフリン及びノルエピネフリン誘導性動脈血管閉塞を用量依存的に遅延する。我々はL−アルギニンとピクノジェノールの併用経口投与がEDを有する男性に効果的か否かを調べるために本研究を行った。」(p.208の下から11行目-最終行) (摘記7c) 「全ての患者は最初の1カ月間一日あたり3アンプルのSargenor(Sarget Pharma、Sedex、フランス)によって処置された。Sargenorの各アンプルは5ml溶液に溶解した1gのアスパラギン酸L−アルギニン(0.57gのL−アルギニンに相当)を含む。次の1カ月間、患者らはSargenor処置を継続しつつ追加的に40mgのピクノジェノール錠剤(Horphag Reserch Ltd.、Geneva、スイスの販売)によって、朝及び夕刻の一日2回処置された。第3の1カ月間、患者らはSargenorの使用を継続しながら、ピクノジェノールを40mgの用量を一日3回に増加させた。」(p.209の下から8行目-p.210の1行) (摘記7d) 「Sargenorによる処置に反応した2名の患者は反応が出現するまで10分しか要しなかった。Sargenor及びピクノジェノールによる併用投与は必要な時間を劇的に短縮した。患者がSargenor単独で治療された場合には平均勃起時間は短かったのに対して、一日80mgのピクノジェノールを追加するのに応じて、当該平均勃起時間は2倍となった。ピクノジェノールの用量を一日120mgに増加させると、勃起時間が劇的に延長された(表2)。」(p.211の表1の下1-7行) (摘記7e) 「表2. 勃起機能の回復を経験した患者の勃起応答の主な特徴 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 治療前 Sargenorのみ Sargenorと Sargenorと Pycnogenol Pycnogenol (80mg/d) (120mg/d) (1ヶ月) (2ヶ月) (3ヶ月) ――――――――――――――――――――――――――――――――― 応答あり 0(0%) 2(5%) 32(80%) 37(92.5%) 応答発生までの 平均時間 − 10±2分 4±1分 2±1分 応答継続の 平均時間 − 2±1分 4±1分 15±3分 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 自発的な性的刺激に応答して勃起が生じるまでの平均時間(SEM)と勃起の持続時間を示す。」(p.211「TABLE 2.」) ア−2 甲7に記載された発明 上記摘記7a〜7eの記載によれば、甲7には、一酸化窒素(NO)産生増強により陰茎への血液流入を増大するための経口剤(摘記7a及び7b)について、L−アルギニンとフランス海岸松樹皮(Pinus pinaster)の抽出物であるピクノジェノール(Pycnogenol)の併用経口投与をすること(摘記7b)が記載されており、具体的に、ED患者に対し、ピクノジェノール錠剤と、アスパラギン酸L−アルギニンを溶解した溶液とを併用投与することによって、ED患者の勃起時間が延長したこと(摘記7c〜摘記7e)が記載されている。(当審注:「ED」は勃起障害を意味する記載である。) そうすると、甲7には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲7発明」という。)。 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノールを有効成分とする錠剤と、有効成分であるアスパラギン酸L−アルギニンを溶解した溶液とを併用投与する経口剤であって、一酸化窒素(NO)産生増強により陰茎への血液流入を増大するための、前記経口剤。」 イ 甲12について イ−1 甲12に記載された事項 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲12には、以下の記載がある。なお、甲12は外国語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審合議体によるものである。 (摘記12a) 「ピクノジェノール(Pycnogenol)(R)(当審注:(R)は上付きの丸囲みのRである。以下同様。)及びL−アルギニンを含有するサプリメントの有効性を調査するために、軽度から中程度の勃起不全を有する日本人患者において二重盲検並行群比較設計臨床試験を行った。対象は、サプリメント(ピクノジェノール(R)60mg/日、L−アルギニン690mg/日及びアスパラギン酸552mg/日)又は同一のプラセボを8週間摂取するように指示され、結果は、国際勃起機能スコアの5項目勃起ドメイン(IIEF−5)を使用して評価した。さらに、血液生化学、尿分析及び唾液テストステロンを測定した。8週間のサプリメント摂取は、IIEF−5の総スコアを改善した。特に、「勃起硬度」および「性交満足度」に顕著な改善が認められた。サプリメント群において、血圧、アスパラギン酸トランスアミナーゼ及びγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ−GTP)の低下、並びに唾液テストステロンのわずかな増加が観察された。試験期間中、有害反応は観察されなかった。結論として、栄養補助食品としてのL−アルギニンと組み合わせたピクノジェノール(R)は、軽度から中程度の勃起不全を有する日本人患者において有効かつ安全である。」(p.204の要旨) (摘記12b) 「ピクノジェノール(R)は主にポリシアニジンであるポリフェノールの濃縮物からなる特定の松樹皮抽出物であり、米国薬局方30のリストの中にフランス海岸松(Maritime Pine)樹皮として記載されている(・・・)。ピクノジェノール(R)は内皮一酸化窒素合成酵素(e−NOS)を活性化し、それにより一酸化窒素の産生を増強し、血管拡張を促進することにより、ED改善作用を発揮する(・・・)。」(p.204本文左欄「INTRODUCTION」項の12〜20行) (摘記12c) 「サプリメントの使用。市販食品サプリメントEdicare(小林製薬株式会社製造、1錠あたりピクノジェノール(R)10mg、L−アルギニン115mg、アスパラギン酸92mgを含む、を本研究において使用した。」(p.205左欄「Supplement use.」項の1〜5行) (摘記12d) 「ピクノジェノール(R)及びL−アルギニンがどのようにテストステロンを増加させ得るかの機構は不明である。1つの潜在的な機構は、NO産生の増加の結果としてのcGMPの増加に関連する。PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害剤の連続投与は、cGMP濃度を増加させる同様の機構によってテストステロンレベルを増加させることが示唆されている(・・・)。また、末梢血管の拡張により精巣の血流量が増加し、精巣機能が改善される可能性もある。」(p.206右欄下から11〜2行) (摘記12e) 「日本人被験者においてピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸のサプリメントを8週間摂取することにより、軽度から中程度のED症状が著明に改善された。特に、勃起硬度及び性交満足度において特筆すべき結果が得られた。」(p.207右欄「CONCLUSION」項) イ−2 甲12に記載された発明 上記摘記12a〜12eの記載によれば、甲12には、フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)及びL−アルギニンを含有するサプリメントの有効性について(摘記12a)、日本人被験者にピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸を含むサプリメントを摂取させることにより、軽度から中程度のED症状が改善されたこと(摘記12b〜12d)が記載されている。 そして、甲12には、上記のようにED症状が改善される作用機序について、血管拡張を促進することによりED改善作用が発揮されること(摘記12b)、及び末梢血管の拡張により精巣の血流が増加すること(摘記12d)が記載されている。 そうすると、甲12には、以下の発明が記載されていると認められる。 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸を有効成分として含むサプリメントであって、血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための、前記サプリメント。」(以下「甲12発明A」という。) 「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸を有効成分として含むサプリメントであって、末梢血管の拡張により精巣の血流量を増加させるための、前記サプリメント。」(以下「甲12発明B」という。) (2)対比・判断 ア 甲7発明に基づく新規性欠如について (ア)甲7発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲7発明は、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノールを有効成分とする錠剤と、有効成分であるアスパラギン酸L−アルギニンを溶解した溶液とを併用投与する経口剤であって、一酸化窒素(NO)産生増強により陰茎への血液流入を増大するための、前記経口剤。」(上記(1)ア−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲7発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲7発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」と「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲7発明の「一酸化窒素(NO)産生増強により陰茎への血液流入を増大するための、前記経口剤」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲7発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件補正発明と甲7発明との対比・判断 甲7発明の「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「一酸化窒素(NO)産生増強により陰茎への血液流入を増大するための、前記経口剤」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当する。 また、本件明細書の【0042】における「有効成分の添加は、それぞれの成分を別々に添加してもよいし、同時に添加してもよく」という記載を参酌すると、本件訂正発明は、甲7発明のように複数の製剤を併用投与するものを包含すると認められる。 そうすると、本件訂正発明と甲7発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点7> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲7発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、上記相違点7は、本件訂正発明から甲7発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲7発明に該当しない。 イ 甲12発明に基づく新規性欠如について イ−1 甲12発明Aに基づく新規性欠如について (イ−1−ア)甲12発明Aが「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲12発明Aは、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸を含むサプリメントであって、血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための、前記サプリメント。」(上記(1)イ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 そして、甲12発明Aの「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲12発明Aの「血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための、前記サプリメント」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲12発明Aは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ−1−イ)本件補正発明と甲12発明Aとの対比・判断 甲12発明Aの「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸」、及び「血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための、前記サプリメント」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く。)」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲12発明Aとは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く。)を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点12A> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲12発明Aは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する点。 そして、上記相違点12Aは、本件訂正発明から甲12発明Aが除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲12発明Aに該当しない。 イ−2 甲12発明Bに基づく新規性欠如について (イ−2−ア)甲12発明Bが「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 甲12発明Bは、「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール(R)、L−アルギニン及びアスパラギン酸を有効成分として含むサプリメントであって、末梢血管の拡張により精巣の血流量を増加させるための、前記サプリメント。」(上記(1)イ−2)であり、「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 甲12発明Bの「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」は「松樹皮抽出物」に相当し、甲12発明Bの「末梢血管の拡張により精巣の血流量を増加させるための、前記サプリメント」が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲12発明Bは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ−2−イ)本件補正発明と甲12発明Bとの対比・判断 甲12発明Bの「フランス海岸松樹皮抽出物ピクノジェノール」、「アスパラギン酸」、及び「末梢血管の拡張により精巣の血流量を増加させるための、前記サプリメント」は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く。)」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲12発明Bとは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く。)を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点12B> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲12発明Bは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する点。 そして、上記相違点12Bは、本件訂正発明から甲12発明Bが除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲12発明Bに該当しない。 (3)小括 したがって、本件訂正発明は、甲7及び甲12に記載された発明に該当しない。 第6 令和3年6月30日付け取消理由通知書に記載した取消理由及び令和3年12月2日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての、当審の判断 1 本件訂正前の請求項1に係る発明に対する、甲3を主引用例とする新規性欠如について ア 甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲3の記載(商品説明、訴求内容、成分の項)によれば、甲3には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲3発明」という。)。 「Preloxの独自混合物、ピクノジェノール、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、及びタウリンを有効成分として含有する、男性機能亢進のためのサプリメント。」 イ 甲3発明に基づく新規性欠如についての判断 本件訂正発明と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「ピクノジェノール」は甲16(摘記16a)によれば松樹皮抽出物に相当し、甲3発明の「L−アスパラギン酸」は、本件訂正発明の「アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」に相当する。 そして、甲3発明の「男性機能亢進のためのサプリメント」と本件訂正発明の「血流改善剤」とは、ヒトに投与される「剤」である点に限り、一致する。 そうすると、本件訂正発明と甲3発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有する、剤。」 <相違点3> 本件訂正発明の剤は「血流改善剤」であるのに対し、甲3発明の剤は「男性機能亢進のためのサプリメント」である点。 上記相違点3について検討する。 「男性機能亢進」作用を有する剤であれば「血流改善」作用も有するという本件原出願時の技術常識があるとはいえないので、上記相違点3は実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲3発明に該当しない。 また、本件訂正発明は、甲3発明に該当しないから、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 2 本件訂正前の請求項1に係る発明に対する、甲4を主引用例とする新規性欠如について ア 甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲4の記載(商品説明、栄養表示、成分の項)によれば、甲4には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲4発明」という。)。 「ピクノジェノール、アスパラギン酸L−アルギニンを有効成分として含み、性生活を改善するための男性向け食品サプリメント。」 イ 甲4発明に基づく新規性欠如についての判断 本件訂正発明と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「ピクノジェノール」は甲16(摘記16a)によれば「松樹皮抽出物」に相当し、甲4発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」は、本件訂正発明の「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」に相当する。 そして、甲4発明の「性生活を改善するための男性向け食品サプリメント」と本件訂正発明の「血流改善剤」とは、ヒトに投与される「剤」である点に限り、一致する。 そうすると、本件訂正発明と甲4発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有する、剤。」 <相違点4> 本件訂正発明では「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定され、かつ、本件訂正発明の剤は「血流改善剤」であるのに対し、甲4発明は「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものであり、かつ、甲4発明の剤は「性生活を改善するための男性向け食品サプリメント」である点。 上記相違点4について検討する。 甲4発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は本件訂正発明で除かれている「アスパラギン酸アルギニン」に相当するので、本件訂正発明から甲4発明が除かれているといえる。また、「性生活を改善するための男性向け食品サプリメント」であれば「血流改善」作用も有するという本件原出願時の技術常識があるとはいえない。 よって、上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明は、甲4発明に該当しない。 また、本件訂正発明は、甲4発明に該当しないから、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 3 本件訂正前の請求項1に係る発明に対する、甲8を主引用例とする新規性欠如について ア 甲8に記載された事項及び甲8に記載された発明 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲8の記載(要約、1頁左欄1〜9行、2頁右欄「Medication」の項、)によれば、甲8には以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲8発明」という。)。 「アスパラギン酸L−アルギニンとピクノジェノールとを有効成分として含み、血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための、剤。」 イ 甲8発明に基づく新規性欠如についての判断 (ア)甲8発明が「除外対象血流改善剤(3)」に相当することについて 「除外対象血流改善剤(3)」は「(3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤」(上記第2 2)である。 そして、甲8発明の「ピクノジェノール」は甲16(摘記16a)によれば「松樹皮抽出物」に相当し、甲8発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は「L−アルギニン」及び「アスパラギン酸」を含む成分であり、甲8発明の「血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための」剤が「血流改善剤」としての作用を有することは自明であるから、甲8発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 (イ)本件訂正発明と甲8発明との対比・判断 甲8発明の「ピクノジェノール」、「アスパラギン酸L−アルギニン」が含む「アスパラギン酸」、及び「血管拡張を促進することによりED改善作用を発揮するための」剤は、それぞれ本件訂正発明の「松樹皮抽出物」、「アスパラギン及びアスパラギン酸」「から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸」、及び「血流改善剤」に相当するので、本件訂正発明と甲8発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点8> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲8発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものである点。 そして、甲8発明の「アスパラギン酸L−アルギニン」は本件訂正発明で除かれている「アスパラギン酸アルギニン」に相当し、上記相違点8は、本件訂正発明から甲8発明が除かれていることを意味するものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件訂正発明は、甲8発明に該当しない。 4 本件訂正前の請求項1に係る発明に対する、甲12を主引用例とする新規性欠如について (1)甲12に記載された事項及び甲12に記載された発明 甲12には、上記第5 3(1)イ−1に示した事項が記載されている。 また、甲12発明A及び甲12発明Bは、上記第5 3(1)イ−2に示したとおりである。 (2)対比・判断 上記第5 3(2)イ−1及びイ−2で説示したとおり、本件訂正発明は、甲12発明A及び甲12発明Bに該当しない。 よって、本件訂正発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明にも該当しない。 5 本件訂正前の請求項1に係る発明に対する、甲1〜13のいずれかを主引用例とする進歩性欠如について (1)本件原出願時の技術常識 各甲号証の記載からみて、本件原出願時において、以下の技術的事項が当業者に知られていたといえる。 ア 「松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸」を含み、血流改善剤としての作用を有する組成物が知られている(各甲号証)。 イ 血流改善剤に用いられる「松樹皮抽出物」は、プロアントシアニジンを含むものであって、血管内皮細胞に存在する一酸化窒素合成酵素(eNOS)を活性化させる作用があり、ピクノジェノール(R)というブランド名で流通しているものもある(摘記5a、f、6c、7b、9a、11c、13d、i)。 ウ 血流改善剤に用いられる「L−アルギニン」は、イオン化により易水溶性となりよく吸収されるものとなり、吸収されたL−アルギニンは、eNOSの基質として一酸化窒素(NO)産生のための前駆体として利用される(摘記5b、f、6d、9a、11d、13d、i)。 エ 血流改善剤に用いられる「アスパラギン酸」は、エネルギーを増強し、代謝物を合成するための中心的な生化学的細胞経路であるKrebs回路(クエン酸回路)において重要な役割を果たしている(摘記6d、11d)。 オ 一酸化窒素(NO)は、基質をNOに変換するeNOSによって生成するものであり、生成したNOは、cGMPの増大に伴う血管拡張や血流増大が生じて血流が改善される(摘記5b、f、6a、7a、9a、11a、13i)。 (2)当審の判断 ア 甲1を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲1発明とを対比すると、上記第5 1(2)アで説示した次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点1> 本件訂正発明では「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲1発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(1)」を含むものである点。 上記相違点1について検討する。 甲1発明は、松樹皮抽出物、L−アルギニン及びアスパラギン酸を必須の有効成分とするものであり、上記有効成分から「L−アルギニン」を除いて、甲1発明を本件訂正発明の構成を備えたものとする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲1及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 甲2を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲2発明とを対比すると、上記第5 1(2)イで説示した次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点2 > 本件訂正発明では「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲2発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「除外対象血流改善剤(2)」を含むものである点。 上記相違点2について検討する。 甲2発明は、松樹皮抽出物、L−アルギニン及びアスパラギン酸を必須の有効成分とするものであり、上記有効成分から「L−アルギニン」を除いて、甲2発明を本件訂正発明の構成を備えたものとする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲2及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 甲3を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲3発明とを対比すると、上記1イで説示した次の一致点及び相違点3があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有する、剤。」 <相違点3> 本件訂正発明の剤は「血流改善剤」であるのに対し、甲3発明の剤は「男性機能亢進のためのサプリメント」である点。 上記相違点3について検討する。 「男性機能亢進」作用を有する剤であれば「血流改善」作用も有するという本件原出願時の技術常識があるとはいえないので、甲3発明を「血流改善剤」にすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲3及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、甲3発明の剤は「Preloxの独自混合物、ピクノジェノール、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、及びタウリンを有効成分として含有する、男性機能亢進のためのサプリメント。」であるので、仮に、甲3発明の剤を「血流改善剤」にした場合に得られる剤は、ピクノジェノール(松樹皮抽出物)、L−アルギニン、及びL−アスパラギン酸(アスパラギン酸)を含む血流改善剤であり、当該血流改善剤は、本件訂正発明から除かれている「除外対象血流改善剤(3)」に相当する。 よって、仮に、甲3発明を「血流改善剤」にすることを当業者が容易に想到し得たとしても、甲3発明を、「除外対象血流改善剤(3)」が除かれている本件訂正発明の構成を備えたものとすることはできない。 エ 甲4を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲4発明とを対比すると、上記2イで説示した次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有する、剤。」 <相違点4> 本件訂正発明では「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定され、かつ、本件訂正発明の剤は「血流改善剤」であるのに対し、甲4発明は「アスパラギン酸L−アルギニン」を含むものであり、かつ、甲4発明の剤は「性生活を改善するための男性向け食品サプリメント」である点。 上記相違点4について検討する。 甲4発明は、松樹皮抽出物、アスパラギン酸L−アルギニンを必須の有効成分とするものであり、上記有効成分から「L−アルギニン」を除いて、甲4発明を本件訂正発明の構成を備えたものとする動機付けがあるとはいえない。 そして、「性生活を改善するための男性向け食品サプリメント」であれば「血流改善」作用も有するという本件特許の出願日当時の技術常識があるとはいえないので、甲4発明を「血流改善剤」にすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲4及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 甲5を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲5発明とを対比すると、上記第5 2(2)アで説示した次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点5> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」及び「アスパラギン酸アルギニン」を除くことが特定されているのに対し、甲5発明は「除外対象血流改善剤(3)」に相当し、かつ「アスパラギン酸アルギニン」を含むものである点。 上記相違点5について検討する。 甲5発明は、「一酸化窒素源としてのアスパラギン酸アルギニンと、松樹皮抽出物ピクノジェノールとを組み合わせて用いる剤であって、一酸化窒素(NO)を放出させ、環状グアノシン一リン酸(cGMP)を介して平滑筋の弛緩を引き起こし、勃起組織への血液供給を増加するための、剤。」である。 そして、甲5における「本発明の一側面において、一酸化窒素源、具体的にはアミノ酸L−アルギニン又はその塩と、活性成分、具体的にはプロアントシアニジンを組み合わせて用いる刺激技術である。プロアントシアニジンと、L−アルギニン又はその塩量は、両方とも、勃起障害の症状を改善し、血管を拡張するのに治療上有効な量である。」(摘記5c)という記載から、L−アルギニンは勃起障害の症状を改善し、血管を拡張するために必須の有効成分であるから、甲5発明の「アスパラギン酸アルギニン」を、アスパラギン酸とアルギニン(L−アルギニン)ではない他の化合物との塩にする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲5及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 甲6〜11、13を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲6〜11、13発明とを対比すると、上記第5 2(2)イ〜カ、3(2)ア、及び、上記第6 3イで説示した一致点及び相違点6〜11、13があると認められる。 そして、上記の一致点及び相違点6〜11、13は、上記オで示した一致点及び相違点5と同じであるから、上記オで説示したとおり、本件訂正発明は、甲6〜11、13及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 キ 甲12を主引用例とする進歩性欠如について 本件訂正発明と甲12発明A又は甲12発明Bとを対比すると、上記第5 3(2)イで説示した次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く。)を有効成分として含有する血流改善剤。」の発明である点。 <相違点12A> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲12発明Aは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する点。 <相違点12B> 本件訂正発明では、「除外対象血流改善剤(1)」〜「除外対象血流改善剤(3)」を除くことが特定されているのに対し、甲12発明Bは「除外対象血流改善剤(3)」に相当する点。 上記相違点12A及び相違点12Bについて検討する。 甲12発明A及び甲12発明Bは、松樹皮抽出物、L−アルギニン及びアスパラギン酸を必須の有効成分とするものであり、上記有効成分から「L−アルギニン」を除いて、甲12発明A又は甲12発明Bを本件訂正発明の構成を備えたものとする動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件訂正発明は、甲12及び他の甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 本件訂正前の請求項1に対する、サポート要件違反及び実施可能要件違反について 申立人は、申立書において、本件発明の課題は「有効成分の組合せの相乗効果により高い血流改善効果を有する血流改善剤を提供すること」であると解されるところ、本件発明は、松樹皮抽出物の種類又は構成、並びに松樹皮抽出物、アスパラギン及びアスパラギン酸の含有量について限定しないものであるから、本件明細書には、松樹皮抽出物が単独ではNOの産生量増加を示さないような条件におけるアスパラギン又はアスパラギン酸の併用効果を理解できるにとどまり、松樹皮抽出物が単独でもNO産生量増加を示す条件、例えば、松樹皮抽出物の種類や濃度を変えた場合における松樹皮抽出物とアスパラギン又はアスパラギン酸の併用効果は明細書に記載された実験結果からは理解することができない。よって、本件発明は、サポート要件違反及び実施可能要件違反の取消理由があるという趣旨の主張をしている(申立書68〜70頁の「エ サポート要件について」及び「オ 実施可能要件について」)。 そこで、申立人の上記主張について検討する。 本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【0006】の記載によれば、本件訂正発明の課題は、「高い血流改善効果を有する血流改善剤を提供すること」にあるといえる。そして、「高い血流改善効果」とは、「松樹皮抽出物」単独あるいは「血流改善能がほとんどないか・・・他の成分」と比較して、高い血流改善効果を有することで足りる。 そして、本件明細書の【実施例】には、フランス海岸松の樹皮の熱水抽出物(乾燥粉末)である松樹皮抽出物(5μg/mL)とアスパラギン(20μg/mL)又はアスパラギン酸(10μg/mL)とを併用したものが、松樹皮抽出物(5μg/mL)単独、アスパラギン(20μg/mL)単独又はアスパラギン酸(10μg/mL)単独のものと比較して、ブタ肺動脈血管内皮細胞(PPAEC)におけるNO産生量を増大させたことが記載されている(【0013】、【0045】〜【0049】、【0054】【表3】、【0057】、【図5】) 本件明細書における上記記載を参酌すれば、本件明細書には、松樹皮抽出物とアスパラギン及びアスパラギン酸とを組み合わせたものは、それぞれ単独のものと比較してNO産生量が増大させたことが記載されているといえる。 さらに、一酸化窒素(NO)の作用によって血管が拡張して血液が流れやすくなり血流が改善されることは、本件原出願時の技術常識である(参考文献A Bruce Albertsほか著, 中村桂子ほか監訳, Essential細胞生物学(原書第3版), 株式会社南江堂, 2014年10月10日, p.538-539、特に「水に溶けた気体には細胞膜を透過し酵素を直接活性化するものがある」の項の図16-11の記載を参照。)。 そうすると、当業者であれば、本件明細書の記載及び本件原出願時の技術常識から、本件訂正発明が「高い血流改善効果を有する血流改善剤」であることを認識でき、そして、本件訂正発明の剤を製造できること及び本件訂正発明の剤を使用できることを理解できるといえる。 したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているといえる。 よって、申立人の上記主張を採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、令和3年6月30日付け取消理由通知書に記載した取消理由、令和3年12月2日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 松樹皮抽出物と、アスパラギン及びアスパラギン酸(ただし、アスパラギン酸アルギニンを除く)から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸とを有効成分として含有することを特徴とする血流改善剤(ただし、以下の(1)〜(3)の血流改善剤を除く)。 (1)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、松樹皮抽出物、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、トリアセチン、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (2)L−アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸、L−タウリン、松樹皮抽出物、トウモロコシデンプン、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素、メトセル、トリアセチン、アカシアガム、FD&C青1号、及びFD&C青2号を含む血流改善剤 (3)松樹皮抽出物、L−アルギニン、及びアスパラギン酸を含む血流改善剤 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-05-31 |
出願番号 | P2019-079785 |
審決分類 |
P
1
651・
112-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
前田 佳与子 |
特許庁審判官 |
田中 耕一郎 渕野 留香 |
登録日 | 2020-10-06 |
登録番号 | 6774065 |
権利者 | 株式会社東洋新薬 |
発明の名称 | 血流改善剤 |
代理人 | ▲高▼津 一也 |
代理人 | ▲高▼津 一也 |