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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1388352
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-27 
確定日 2022-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6777276号発明「全固体電池用外装材、その製造方法、及び全固体電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6777276号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕、〔7〕、〔8〕について訂正することを認める。 特許第6777276号の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6777276号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願(以下「本願」という。)は、2020年(令和 2年) 1月23日(優先権主張平成31年 1月23日)を国際出願日とする特許出願であって、令和 2年10月12日にその特許権の設定の登録がされ、同年 同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和 3年 4月27日に、特許異議申立人 浜 俊彦(以下「申立人」という。)により、請求項1〜4、6〜8に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年 9月13日付けで取消理由が通知され、同年11月15日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年12月 6日付けで訂正拒絶理由が通知され、令和 4年 1月 6日に意見書が提出され、同年 2月 7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年 4月11日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年 6月 2日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和 4年 4月11日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)に記載の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〕、〔8〕について訂正することを求める、というものである。なお、令和 3年11月15日提出の訂正請求書による訂正請求は、本件訂正請求により取り下げたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。

2 訂正事項
下線は訂正箇所に対応し当審で付した。
(1)訂正事項1
(訂正事項1−1)
訂正前の請求項1に
「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、」と記載されているのを、
「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6も同様に訂正する。

(訂正事項1−2)
訂正前の請求項1に
「全固体電池用外装材。」と記載されているのを、
「全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に
「前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上である、請求項1に記載の全固体電池用外装材。」と記載されているのを、独立形式に改め、さらに「前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、」及び「前記熱融着性樹脂層は、ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでおり、」の各記載を追加して、
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上であり、
前記熱融着性樹脂層は、ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでおり、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材。」に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項5に
「前記バリア層保護膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材。」と記載されているのを、請求項1を引用する部分について独立形式に改め、さらに「前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、」の記載を追加して、
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上であり、
前記バリア層保護膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある、全固体電池用外装材。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
(訂正事項4−1)
訂正前の請求項7に
「前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池。」と記載されているのを、
「前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池。」に訂正する。

(訂正事項4−2)
訂正前の請求項7に
「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、」と記載されているのを、
「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、」に訂正する。

(5)訂正事項5
(訂正事項5−1)
訂正前の請求項8に
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、」と記載されているのを、
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、」に訂正する。

(訂正事項5−2)
訂正前の請求項8に
「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材の製造方法。」と記載されているのを、
「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)の製造方法。」に訂正する。

3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1−1は、バリア層について、金属材料により構成された層を含む旨を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、バリア層として金属材料により構成された層が挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0093】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

イ 訂正事項1−2は、特開2015−179618号公報(後記第4の4に示す甲1)に記載された発明との関係において、当該発明に係る外装材を、いわゆる「除くクレーム」により除外しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記甲1に記載された発明に係る外装材の除外は、新たな技術的事項を追加するものでなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

ウ(ア)申立人は、令和 4年 6月 2日提出の意見書において、訂正事項1−2のうち「半透明」という文言は技術的に明確であるとはいえず、その結果、訂正特許発明1の記載も、技術的に明確でないから、訂正事項1−2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでない旨を主張する(上記意見書第1〜4頁)。

(イ)そこで検討するに、甲1には、「外装ケースが透明又は半透明である」ため、「何等かの原因で電池モジュールの内部に異常が発生したとしても、外装ケースを開放又は破壊することなく、電池モジュール内の異常の状況(電池の膨張等)を視覚によって確認することができる。」(段落【0016】)と記載されている。そうすると、甲1に記載された発明における「半透明」とは、電池モジュール内が視認できる程度の透明度を有していればよいことが技術的に明確であるから、訂正事項1−2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。よって、上記主張は採用できない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、(i)訂正前の請求項2が請求項1を引用していたものを、独立形式に改めるとともに、(ii)上記(1)アと同様、バリア層について、金属材料により構成された層を含む旨を特定し、かつ、(iii)熱融着性樹脂層について、特定のポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンの少なくとも一方を含む旨を限定するものである。よって、上記(i)は「請求項間の引用関係の解消」を、上記(ii)及び(iii)は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(i)に関しては、請求項間の引用関係の解消により、新たな技術的事項の追加ないし実質上特許請求の範囲の拡張又は変更が生じるものではない。
また、上記(ii)に関しては、上記(1)アと同様、バリア層として金属材料により構成された層が挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0093】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。
更に、上記(iii)に関しては、熱融着性樹脂層について、特定のポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンが挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0126】、【0127】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5において、(i)引用していた請求項1〜4のうち請求項1を引用するものについて、(ii)独立形式に改めるとともに、(iii)上記(1)アと同様、バリア層について、金属材料により構成された層を含む旨を特定するものであるから、上記(i)及び(iii)は「特許請求の範囲の減縮」を、上記(ii)は「請求項間の引用関係の解消」を目的とするものである。
そして、上記(i)及び(ii)により、新たな技術的事項の追加ないし実質上特許請求の範囲の拡張又は変更が生じるものではない。また、上記(iii)に関しては、上記(1)アと同様、バリア層として金属材料により構成された層が挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0093】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4−1は、上記(1)アと同様、バリア層について、金属材料により構成された層を含む旨を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(1)アと同様、バリア層として金属材料が挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0093】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

イ 訂正事項4−2は、上記(1)イと同様、甲1に記載された発明との関係において、当該発明に係る外装材を、いわゆる「除くクレーム」により除外しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(1)イと同様、上記甲1に記載された発明に係る外装材の除外は、新たな技術的事項を追加するものでなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(5)訂正事項5について
ア 訂正事項5−1は、上記(1)アと同様、バリア層について、金属材料により構成された層を含む旨を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(1)アと同様、バリア層として金属材料が挙げられることは、願書に添付した明細書の段落【0093】に記載されるとおりであって、新たな技術的事項を追加するものではなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

イ 訂正事項5−2は、上記(1)イと同様、甲1に記載された発明との関係において、当該発明に係る外装材を、いわゆる「除くクレーム」により除外しようとするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(1)イと同様、上記甲1に記載された発明に係る外装材の除外は、新たな技術的事項を追加するものでなく、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(6)独立特許要件について
ア 本件特許の請求項1〜4、6〜8に対しては特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2、4、5について、訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

イ(ア)本件特許の請求項5に対し特許異議の申立てはされておらず、また、訂正事項3は、上記(3)で検討したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、訂正事項3が認められるためには、訂正後の請求項5に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(これに反する訂正請求書の第11頁(d)の主張は採用しない。)。

(イ)そこで検討するに、後記第5の1(3)に示すとおり、訂正後の請求項5は、「バリア層」が金属材料を含む旨が特定され、サポート要件に係る取消理由が解消するとともに、後記第5の2(2)オ(エ)aに示すとおり、訂正後の請求項5に係る発明は進歩性を有するものである。また、その外に取消理由を発見しないから、訂正後の請求項5に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、請求項1に連動して訂正されるものであるから、一群の請求項である。

4 訂正請求についてのまとめ
以上、訂正事項1〜5のいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
よって、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〕、〔8〕について、本件訂正請求を認める。

第3 本件発明
以上のとおり、令和 4年 4月11日提出の訂正請求書による訂正請求は認められるので、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)。
【請求項2】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上であり、
前記熱融着性樹脂層は、ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでおり、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材。
【請求項3】
前記基材層は、外側から、ポリエステル、接着剤層、及びポリアミドをこの順に備える、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項4】
前記基材層は、ポリエステル樹脂の単層により構成されている、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項5】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上であり、
前記バリア層保護膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある、全固体電池用外装材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材が成形されてなる、全固体電池用包装体。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池。
【請求項8】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、
硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)の製造方法。」

第4 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、本件特許に対する異議理由として下記1〜3を主張し、証拠方法として下記4の甲第1〜7号証を提示した。

1 サポート要件
本件特許の訂正前の請求項1〜4、6〜8の記載は、下記(1)〜(3)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の請求項1〜4、6〜8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当する。
(1)熱融着性樹脂と硫化物固体電解質とが互いに接触し得る位置に配置されていなければ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)は、発明が解決しようとする課題に直面できないといえるが、訂正前の請求項1には、熱融着性樹脂と硫化物固体電解質とが互いに接触し得る位置に配置されることについての特定はない。

(2)熱融着性樹脂層に孔が形成されていなければ、当業者は、発明が解決しようとする課題に直面することを理解できないといえるが、訂正前の請求項1には、熱融着性樹脂層に孔が形成されていることについての特定はない。

(3)バリア層が導電性材料で構成されていなければ、当業者は、発明が解決しようとする課題に直面することを理解できないといえるが、訂正前の請求項1では、バリア層が導電性材料で構成されていることについての特定はない(取消理由1として採用。なお、特許異議申立書第22頁第3行の「熱融着性樹脂層に孔が形成されている」との記載は「バリア層が導電性材料で構成されている」の誤記と認める。)。

新規性(取消理由2として採用。)
本件特許の訂正前の請求項1、4、6、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当する。

進歩性(取消理由3として採用。)
本件特許の訂正前の請求項2、3、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜7号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当する。

4 証拠方法
甲第1号証 特開2015−179618号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証 武田 文七「プラスチックスの気体透過性について」日本ゴム協会誌29巻8号667〜675頁(1956年)(以下「甲2」という。)
甲第3号証 国際公開第2014/073467号(以下「甲3」という。)
甲第4号証 阿知波 敬「固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術」コベルコ科研・技術ノート「こべるにくす」26巻47号13〜16頁(2017年4月)(以下「甲4」という。)
甲第5号証 特開2017−4914号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証 特開2011−113803号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証 特開2002−56824号公報(以下「甲7」という。)

第5 取消理由について
当審は、上記第4の1〜3の異議申立理由を採用(一部職権により条文を変更)し、次のとおり、取消理由1(サポート要件)、同2(新規性)、及び、同3(進歩性)を取消理由として通知した(決定の予告についても同様。)。

取消理由1(サポート要件)本件特許の訂正前の請求項1〜4、6〜8の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜4、6〜8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当する。
すなわち、訂正前の請求項1、7、8の「バリア層」は、金属以外の材料を含む点において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求しようとするものである。訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項2〜4、6についても同様である。

取消理由2(新規性)本件特許の訂正前の請求項1、6〜8に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、訂正前の請求項1、6〜8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

取消理由3(進歩性)本件特許の訂正前の請求項1〜4、6〜8に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1〜4、6〜8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(2)これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。

ア 発明が解決しようとする課題は、「硫化物固体電解質材料を含む固体電解質を用いた全固体電池に適用される外装材であって、全固体電池が高圧の状態で拘束された場合にも、外装材のバリア層の劣化が効果的に抑制され、かつ、全固体電池の内部で発生した硫化水素を外部に排出することができる、全固体電池用外装材を提供する」ことである(段落【0014】)。

イ 外装材において、バリア層は、少なくとも水分の侵入を抑止する層であり、バリア性を有する金属箔、蒸着膜、樹脂層などが挙げられる。金属材料により構成された層を含むことが好ましく、金属箔として用いる場合は、アルミニウム合金箔及びステンレス鋼箔の少なくとも一方を含むことが好ましい(段落【0092】、【0093】)。

ウ バリア層保護膜が外装材のバリア層の表面に設けられていることにより、全固体電池が高圧の状態で拘束されることによって、硫化物固体電解質材料を含む固体電解質が熱融着性樹脂層や接着層を貫通するなどした状態で、バリア層と固体電解質層との間で通電した場合にも、バリア層の表面に合金が生成し難く、バリア層の劣化が効果的に抑制される(段落【0100】)。

エ アルミニウム合金箔からなるバリア層を用意し、基材層(ポリエチレンテレフタレートフィルム/接着剤層/二軸延伸ナイロンフィルム)/接着剤層/バリア層保護膜/バリア層/バリア層保護膜/接着層/熱融着性樹脂層がこの順に積層された積層体からなる外装材(実施例1、2、5)、及び、バリア層保護膜を形成しなかったこと以外は上記と同様の積層体からなる外装材(実施例3、4)について、高圧プレスでの拘束によるバリア層の劣化評価を確認したところ、実施例1、2、5は評価A(バリア層の表面に合金が形成されていない)であったのに対し、実施例3、4は評価C(バリア層の表面に合金が形成されている)であった(段落【0175】〜【0180】、【0183】、【0184】表2)。

(3)ここで、発明が解決しようとする課題のうち、外装材のバリア層の劣化の効果的な抑制(上記(2)ア)は、バリア層として金属材料が好ましいこと(上記(2)イ)を前提として、バリア層保護膜がバリア層の表面に設けられていることで、バリア層と固体電解質層との間で通電した場合にも、バリア層の表面に合金が生成し難くなること(上記(2)ウ)によって解決しようとするものであり、実施例に係る外装材のバリア層はアルミニウム合金箔である(上記(2)エ)。
そうすると、上記課題は、バリア層が金属材料、すなわち、固体電解質層との間で通電した場合に合金を生成するような材料を採用した場合に特有のものであるといえる。
そして、訂正後の請求項1、2、7、8においては、「前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、」とされ、金属以外の材料を含むことがないように特定されたから、上記課題のうち、少なくとも、外装材のバリア層の劣化の効果的な抑制が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものとなった。訂正後の請求項1、2を直接又は間接的に引用する請求項3、4、6についても同様である。

(4)取消理由1(サポート要件)についての小括
したがって、取消理由1(サポート要件)によって、本件特許の訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項7、段落【0024】、【0026】〜【0030】、【0034】、【0057】、図1〜3)よりみて、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「電池要素12を包含する外装材20であって、
基材層21の一方の面に、基材接着剤層22、腐食防止処理層23、金属箔層24、腐食防止処理層25、接着剤層26及び熱融着性樹脂層27がこの順番で順次積層された積層体フィルムであり、基材層21が最外層であり、熱融着性樹脂層27が最内層であり、
基材層21は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリオレフィン樹脂等の延伸又は未延伸フィルム等を用いることができ、
金属箔層24は、水分(水蒸気)の電池セル14内への浸入を防止するための水蒸気バリア層であり、高い水蒸気バリア性を有し、
腐食防止処理層25は、金属箔層24の熱融着性樹脂層27側に形成され、
熱融着性樹脂層27は、2枚の外装材20の熱融着性樹脂層27同士を向かい合わせにし、その中に電池要素12を内包して熱融着性樹脂層27の融解温度以上でヒートシールすることにより、電池要素12を密閉するための融着層であり、ポリオレフィン樹脂である、
硫化物系全固体電池の電池モジュール内の電池セルに使用される、外装材20」(以下「甲1発明」という。)

「2つの甲1発明の外装材20を、基材層21が電池セル14の外部側、熱融着性樹脂層27が電池セル14の内部側となるように熱融着することにより、内部に電池要素12を包含した構成となるようにした、包装体」(以下「甲1包装体発明」という。)

「電池要素12及び電池要素12を包含する甲1発明の外装体20からなる、電池セル14」(以下「甲1電池発明」という。)

「甲1発明の外装体20を、公知のドライラミネート法、押出しサンドラミネート法、共押出しラミネート法などによって製造する、外装体20の製造方法」(以下「甲1製法発明」という。)

(2)検討
ア 訂正後の請求項1に係る発明について
(ア)甲1発明の「電池要素12を包含する外装材20」であって「硫化物系全固体電池の電池モジュール内の電池セルに使用される、外装材20」は、訂正後の請求項1に係る発明の「全固体電池に用いるための全固体電池用外装材」に相当する。

(イ)甲1発明の「積層体フィルム」を構成する「基材層21」、「金属箔層24」、「腐食防止処理層25」及び「熱融着性樹脂層27」は、各々、訂正後の請求項1に係る発明の「積層体」を構成する「基材層」、「バリア層」、「バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜」及び「熱融着性樹脂層」に相当し、その積層順序も同一である。

(ウ)よって、訂正後の請求項1に係る発明と、甲1発明とは、

「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含む、全固体電池用外装材」

である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1−1)全固体電池の電解質材料が、訂正後の請求項1に係る発明では「硫化物固体電解質材料」を含むのに対し、甲1発明では明らかでない点。

(相違点1−2)「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量」が、訂正後の請求項1に係る発明では「1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上」であるのに対し、甲1発明では明らかでない点。

(相違点1−3)訂正後の請求項1に係る発明では「但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。」との事項を有するのに対し、甲1発明ではそのような事項を有しない点。

(エ)事案に鑑み、上記相違点1−3について検討する。
a 甲1の請求項7には、次のとおり記載されている。
「水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなる外装材で電池要素を包含して構成される電池セルと、
水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記電池セルを収容する外装ケースとを備え、
前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする電池モジュール」

b ここで、上記「外装材」は、「第1の水蒸気バリア層」及び「第1の熱融着性樹脂層」を積層したラミネートフィルムからなるものであり、甲1発明の外装材20を包含するものである。そして、甲1の請求項7には、上記「外装材」を含む電池セルが所定の外装ケースによって収容された態様が特定されているところ、主語を「外装材」として再整理すると、これは、訂正後の請求項1に係る発明で除かれる事項、すなわち、
「電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材」
に外ならない。

c そうすると、甲1発明に係る外装材は、当該外装材を含む電池セルが所定の外装ケースによって収容された態様に含まれるものである一方、訂正後の請求項1に係る発明は、当該態様を除くというものであるから、上記相違点1−3が実質的でないということはできず、また、甲1発明に係る外装材を、所定の外装ケースによって収容された態様以外に用いることの動機付けも認められない。

(オ)よって、相違点1−1、1−2について検討するまでもなく、訂正後の請求項1に係る発明は、甲1発明でないのはもちろん、甲1発明に基いて、又は,甲1発明及び甲2〜甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 訂正後の請求項2に係る発明について
(ア)訂正後の請求項2に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明のうち「但し、…外装材を除く。」との事項以外をすべて有し、さらに、「前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上である」とともに、「前記熱融着性樹脂層は、ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んで」いるものである。よって、甲1発明は、上記相違点1−1、1−2のほか、熱融着性樹脂層に係る次の2点(以下、各々「相違点2−1」、「相違点2−2」とする。)で、訂正後の請求項2に係る発明と相違する。

(相違点2−1)熱融着性樹脂層の厚みが、訂正後の請求項2に係る発明では「10μm以上である」のに対し、甲1発明では明らかでない点。

(相違点2−2)熱融着性樹脂層が、訂正後の請求項2に係る発明では「ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んで」いるのに対し、甲1発明では「ポリオレフィン樹脂」である点。

(イ)事案に鑑み、上記相違点1−2、2−2を併せて検討する。
a 甲1発明の「熱融着性樹脂層27」は「ポリオレフィン樹脂」であるが、甲1には、ポリオレフィン樹脂として「低密度、中密度、高密度のポリエチレン、ホモ、ブロック又はランダムポリプロピレンなどが挙げられる。」、「耐熱性の観点から、使用するポリオレフィン樹脂はポリエチレンよりも、ポリプロピレンが好ましい。」(段落【0034】)とされ、実施例でもポリプロピレンフィルムが用いられている(段落【0057】、【0058】)。

b これに対し、訂正後の請求項2に係る発明における「熱融着性樹脂層」は、ポリオレフィンとして「ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種」を含むものであるから、甲1発明のポリオレフィン樹脂は、「ポリプロピレン」という点では共通する。しかしながら、ポリプロピレン樹脂の硫化水素透過量については、硫化水素透過量が記載されている唯一の甲号証である甲2をみても、種々のポリオレフィンのうちポリエチレンのデータが示されているだけであって、ポリプロピレンの硫化水素透過量は不明であるといわざるを得ない。

(ウ)申立人は、令和 4年 6月 2日提出の意見書において、本件特許明細書の記載(段落【0126】、【0127】)を踏まえると、「ホモ、ブロック又はランダムポリプロピレン」の硫化水素透過量も同様の値であるといえる旨を主張する(上記意見書第8頁)。
そこで検討するに、当該主張は、本件特許明細書の記載のみに依拠するものであり、本件特許に係る出願の優先日前、ポリプロピレンの硫化水素透過量が同様の値であることについては、甲1及び甲2はもちろん、その余の甲号証をみても、何ら根拠が示されていないものである。

(エ)よって、相違点1−1、2−1について検討するまでもなく、訂正後の請求項2に係る発明は、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 請求項3に係る発明について
(ア)請求項3に係る発明は、訂正後の請求項1又は2に係る発明において、さらに「前記基材層は、外側から、ポリエステル、接着剤層、及びポリアミドをこの順に備える」というものである。よって、甲1発明は、少なくとも、上記各相違点1−1、1−2、1−3、2−1、2−2で、請求項3に係る発明と相違する。

(イ)そして、請求項3に係る発明のうち訂正後の請求項1を引用するものについては、上記ア(エ)で相違点1−3について検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲7の記載事項に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4、甲7の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(ウ)また、請求項3に係る発明のうち訂正後の請求項2を引用するものについては、上記イ(イ)で1−2、2−2を併せて検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲7の記載事項に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4、甲7の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 請求項4に係る発明について
(ア)請求項4に係る発明は、訂正後の請求項1又は2に係る発明において、さらに「前記基材層は、ポリエステル樹脂の単層により構成されている」というものである。よって、甲1発明は、少なくとも、上記各相違点1−1、1−2、1−3、2−1、2−2で、請求項4に係る発明と相違する。

(イ)そして、請求項4に係る発明のうち訂正後の請求項1を引用するものについては、上記ア(エ)で相違点1−3について検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(ウ)また、請求項4に係る発明のうち訂正後の請求項2を引用するものについては、上記イ(イ)で1−2、2−2を併せて検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 請求項6に係る発明について
(ア)甲1包装体発明の「2つの甲1発明の外装材20を、基材層21が電池セル14の外部側、熱融着性樹脂層27が電池セル14の内部側となるように熱融着する」ことは、請求項6に係る発明の「請求項1〜5のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材が成形され」ることに相当する。
よって、甲1包装体発明のうち訂正後の請求項1、2を直接又は間接的に引用するものは、少なくとも、上記各相違点1−1、1−2、1−3、2−1、2−2で、請求項6に係る発明と相違する。

(イ)そして、請求項6に係る発明のうち訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものについては、上記ア(エ)で相違点1−3について検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1包装体発明でないのはもちろん、甲1包装体発明に基いて、又は、甲1包装体発明及び甲2〜甲4及び甲7の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)また、請求項6に係る発明のうち訂正後の請求項2を直接又は間接的に引用するものについては、上記イ(イ)で1−2、2−2を併せて検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1包装体発明でないのはもちろん、甲1包装体発明に基いて、又は、甲1包装体発明及び甲2〜甲4、甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(エ)さらに、請求項6に係る発明のうち訂正後の請求項5を引用するものについて、訂正後の請求項5に係る発明の進歩性を踏まえて、検討する。
a(a)訂正後の請求項5に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明のうち「但し、…外装材を除く。」との事項以外をすべて有し、さらに、バリア層保護膜の物性(ピーク強度比)を特定するものである。
そうすると、訂正後の請求項5に係る発明は、上記各相違点1−1、1−2のほか、バリア層保護膜に係る次の点(以下「相違点6」とする。)で、甲1発明と相違する。

(相違点6)バリア層保護膜が、訂正後の請求項5に係る発明では「飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある」のに対し、甲1発明では明らかでない点。

(b)事案に鑑み、上記相違点6について検討するに、外装材を構成するバリア層保護膜が、「飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある」ことは、甲第1号証はもちろん、その余の各甲号証のいずれにも、記載も示唆もされていない。

(c)よって、相違点1−1、1−2について検討するまでもなく、訂正後の請求項5に係る発明は、甲1発明でないのはもちろん、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜甲4、甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

b 請求項6に係る発明のうち訂正後の請求項5を引用するものも、上記a(a)で検討した上記各相違点1−1、1−2、6で、甲1包装体発明と相違する。
そして、上記a(b)で相違点6について検討したのと同様の理由により、相違点1−1、1−2について検討するまでもなく、請求項6に係る発明は、甲1包装体発明でないのはもちろん、甲1包装体発明に基いて、又は、甲1包装体発明及び甲2〜甲4、甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

カ 訂正後の請求項7に係る発明について
(ア)甲1電池発明の「電池要素12」及び「電池セル14」は、各々、訂正後の請求項7に係る発明の「単電池を少なくとも含む電池素子」及び「全固体電池」に相当する。

(イ)甲1電池発明は甲1発明の外装材20を備えるものであり、その「積層体フィルム」を構成する「基材層21」、「金属箔層24」、「腐食防止処理層25」及び「熱融着性樹脂層27」は、各々、訂正後の請求項7に係る発明の「積層体」を構成する「基材層」、「バリア層」、「バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜」及び「熱融着性樹脂層」に相当し、その積層順序も同一である。

(ウ)よって、訂正後の請求項7に係る発明と、甲1電池発明とは、

「単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含む、
全固体電池」

である点で一致し、次の4点で相違する。

(相違点7−1)単電池が、訂正後の請求項7に係る発明では「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む」ものであるのに対し、甲1電池発明では「電池要素12」の詳細が明らかでない点。

(相違点7−2)全固体電池が、訂正後の請求項7に係る発明では「硫化物固体電解質材料を含む」のに対し、甲1電池発明では明らかでない点。

(相違点7−3)熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、訂正後の請求項7に係る発明では「1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上」であるのに対し、甲1電池発明では明らかでない点。

(相違点7−4)訂正後の請求項7に係る発明では「但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。」との事項を有するのに対し、甲1電池発明ではそのような事項を有しない点。

(エ)事案に鑑み、上記相違点7−4について検討すると、これは、上記ア(ウ)の相違点1−3と同様である。そして、上記ア(エ)で検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、訂正後の請求項7に係る発明は、甲1電池発明でないのはもちろん、甲1電池発明に基いて、又は、甲1電池発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

キ 訂正後の請求項8に係る発明について
(ア)甲1製法発明において、甲1発明の外装体20を「公知のドライラミネート法、押出しサンドラミネート法、共押出しラミネート法などによって製造する」事項は、訂正後の請求項8に係る発明において、「積層体を得る工程」に相当する。

(イ)甲1製法発明は甲1発明の外装材20の製造方法であるところ、外装体20は、硫化物系全固体電池の電池モジュールにおいて、電池要素12を包含するためのものであるから、訂正後の請求項8に係る発明の「全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材」に相当する。
また、その「積層体フィルム」を構成する「基材層21」、「金属箔層24」、「腐食防止処理層25」及び「熱融着性樹脂層27」は、各々、訂正後の請求項8に係る発明の「積層体」を構成する「基材層」、「バリア層」、「バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜」及び「熱融着性樹脂層」に相当し、その積層順序も同一である。

(ウ)よって、訂正後の請求項8に係る発明と、甲1製法発明とは,

「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含む、
全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材の製造方法」

である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点8−1)全固体電池が、訂正後の請求項8に係る発明では「硫化物固体電解質材料を含む」のに対し、甲1製法発明では明らかでない点。

(相違点8−2)熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、訂正後の請求項8に係る発明では「1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上」であるのに対し、甲1製法発明では明らかでない点。

(相違点8−3)訂正後の請求項8に係る発明では「但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。」との事項を有するのに対し、甲1製法発明ではそのような事項を有しない点。

(エ)事案に鑑み、上記相違点8−3について検討すると、これは、上記ア(ウ)の相違点1−3と同様である。そして、上記ア(エ)で検討したのと同様の理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、訂正後の請求項8に係る発明は、甲1製法発明でないのはもちろん、甲1製法発明に基いて、又は、甲1製法発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)についての小括
以上のとおり、請求項1、6〜8に係る発明は,甲1に記載された発明でない。
同じく、請求項1〜4、6〜8に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び甲2〜甲7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)によって、本件特許の訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由に採用しなかった理由について
(1)サポート要件1(熱融着性樹脂と硫化物固体電解質との接触)
ア 申立人は、熱融着性樹脂と硫化物固体電解質とが互いに接触し得る位置に配置されていなければ、当業者は、発明が解決しようとする課題に直面できないといえるが、訂正前の請求項1には、熱融着性樹脂と硫化物固体電解質とが互いに接触し得る位置に配置されることについての特定はない旨を主張する(特許異議申立書第20〜21頁)。

イ 上記アは、発明が解決しようとする課題(全固体電池が高圧の状態で拘束された場合にも、外装材のバリア層の劣化が効果的に抑制され、かつ、全固体電池の内部で発生した硫化水素を外部に排出することができる、全固体電池用外装材を提供すること。段落【0014】)における「バリア層の劣化」が、硫化物固体電解質とバリア層とが互いに接触した状態で通電すると、バリア層の表面に合金が生成することで生じることから、硫化物固体電解質とバリア層との間に、活物質層や集電体を介することなく熱融着性樹脂層が存在することが必須である旨を前提とするものと解される。

ウ そこで検討するに、発明の詳細な説明には、「図1から図3の模式図に示すように、本開示の全固体電池30は、正極活物質層31と、負極活物質層21と、正極活物質層31と負極活物質層21との間に積層された固体電解質層40とを含む単電池50を少なくとも含む電池素子が、本開示の全固体電池用外装材10により形成された包装体中に収容されたものである。…なお、本開示の全固体電池用外装材10により形成された包装体中に電池素子を収容する場合、本開示の全固体電池用外装材10の熱融着性樹脂部分が内側(電池素子と接する面)になるようにして、包装体を形成する。」(段落【0028】、【0029】)と記載され、また、図1及び図2を参照すると、固体電解質層40の端面の少なくとも一部が、外装材10と接触可能な状態になっていることが看取できる。

【図1】


【図2】


エ 訂正後の請求項1には、熱融着性樹脂と硫化物固体電解質とが互いに接触し得る位置に配置されることについての明示的な記載はされていないが、熱融着性樹脂層は、積層体の一番内側に形成されていることから、図2の全固体電池の構造も参照すると、硫化物固体電解質材料の端面と接触しうる位置にあることが明らかであり、全固体電池を高圧の状態で拘束した場合には、熱融着性樹脂層が薄くなって、バリア層と固体電解質とが接触し得るものであることは理解できるので、当業者であれば、バリア層の劣化という課題に直面しているものであると理解し得るものであるといえる。

(2)サポート要件2(熱融着性樹脂層に孔が形成)
ア 申立人は、熱融着性樹脂層に孔が形成されていなければ、当業者は、発明が解決しようとする課題に直面することを理解できないといえるが、訂正前の請求項1には、熱融着性樹脂層に孔が形成されていることについての特定はない旨を主張する(特許異議申立書第21頁)。

イ 上記アは、発明が解決しようとする課題(段落【0014】)における「バリア層の劣化」が、上記(1)イの事情に加えて、硫化物固体電解質とバリア層との間に存在する熱融着性樹脂層に孔が形成されることを必須とするというものである。

ウ そこで検討するに、上記(1)ウで摘示したとおり、発明の詳細な説明に開示される全固体電池30は、固体電解質層40の端面の少なくとも一部が、外装材10と接触可能な状態になっていることが看取できる。そして、発明の詳細な説明には、「全固体電池の外装材の外側から固体電解質と負極活物質層や正極活物質層とを高圧の状態で拘束し続けると、外装材の熱融着性樹脂層が電池素子に強く押しつけられ、外装材の熱融着性樹脂層(内側)の厚みが薄くなり、外装材に積層されているバリア層と、固体電解質とが接触する虞がある。」(段落【0011】)ところ、当該事情は固体電解質層40の端面でも同様であると解される。

エ 訂正後の請求項1には、熱融着性樹脂層に孔が形成されていることについての明示的な記載はされていないが、上記(1)エと同様に、バリア層と固体電解質とが接触し得るものであることは理解できるので、当業者であれば、バリア層の劣化という課題に直面しているものであると理解し得るものであるといえる。

(3)明確性(半透明)
ア 申立人は、令和 4年 6月 2日提出の意見書において、訂正後の請求項1、7、8には「半透明」という文言を含んでいるところ、この文言は技術的に明確であるとはいえず、その結果、訂正後の請求項1、3、4、6〜8は特許を受けようとする発明が明確でない旨を主張する(上記意見書第4〜5頁)。

イ そこで検討するに、甲1段落【0016】の記載よりみて、甲1に記載された「半透明」とは、電池モジュール内が視認できる程度の透明度を有していればよいことが技術的に明確であるから、これを引用した訂正後の請求項1、3、4、6〜8の記載も明確であるといえる。

(4)取消理由に採用しなかった申立理由についての小括
したがって、取消理由に採用しなかった申立理由(サポート要件1、2、明確性)によって、本件特許の訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、当審が通知した取消理由、及び、申立人が主張する理由によっては、本件特許の訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る特許を取り消すことはできない。また、その外に、本件特許の訂正後の請求項1〜4、6〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)。
【請求項2】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上であり、
前記熱融着性樹脂層は、ポリオレフィン及び酸変性ポリオレフィンのうち少なくとも一方を含み、
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体及びエチレン−ブテン−プロピレンのターポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでおり、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池用外装材。
【請求項3】
前記基材層は、外側から、ポリエステル、接着剤層、及びポリアミドをこの順に備える、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項4】
前記基材層は、ポリエステル樹脂の単層により構成されている、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項5】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上であり、
前記バリア層保護膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO4−に由来するピーク強度PCrPO4に対するPO3−に由来するピーク強度PPO3の比PPO3/CrPO4が、6以上120以下の範囲内にある、全固体電池用外装材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材が成形されてなる、全固体電池用包装体。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、全固体電池。
【請求項8】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記バリア層は、金属材料により構成された層を含み、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10−8cc・mm/cm2・sec・cmHg以上である、
硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材(但し、電池要素を包含して電池セルを構成するための外装材であって、前記外装材は、水蒸気バリア性を有する第1の水蒸気バリア層及び当該第1の水蒸気バリア層に積層される第1の熱融着性樹脂層を含むラミネートフィルムからなり、前記電池セルが外装ケースによって収容されたものであり、前記外装ケースが、水蒸気バリア性を有する第2の水蒸気バリア層及び当該第2の水蒸気バリア層に積層される第2の熱融着性樹脂層を含んで構成され、 前記外装ケースが透明又は半透明であることを特徴とする、外装材を除く。)の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2020-542177
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (H01M)
P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
土屋 知久
登録日 2020-10-12 
登録番号 6777276
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 全固体電池用外装材、その製造方法、及び全固体電池  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  

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