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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1388359
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-08 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6796984号発明「カーボンナノチューブ集合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6796984号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。 特許第6796984号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 特許第6796984号の請求項7、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6796984号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成28年10月3日に出願され、令和2年11月19日にその特許権の設定登録がされ、同年12月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1〜8に係る特許に対して、令和3年6月8日に特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年9月28日付けで取消理由が通知され、同年12月1日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、令和4年1月5日に申立人により意見書の提出がされ、同年3月29日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年4月21日に特許権者により意見書及び手続補正書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求書の補正及びその適否
令和4年4月21日提出の手続補正書による補正の内容は、令和3年12月1日提出の訂正請求書に対して、特許請求の範囲の請求項8を削除するという訂正事項を追加するものであるから、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、前記補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するから、当該補正を認める。
2 訂正の内容
令和4年4月21日提出の手続補正書により補正された、令和3年12月1日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1〜8を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5である、」との記載を、
「25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5であり、
該非配向部の厚みの割合が、該カーボンナノチューブ集合体の厚みに対して、0.1%〜40%である、」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項7及び願書に添付された明細書の段落【0026】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「非配向部」の厚みの割合を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、それぞれ、訂正前の請求項7、8を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
複数のカーボナノチューブから構成されるシート状のカーボンナノチューブ集合体であって、
該カーボンナノチューブ集合体が、カーボンナノチューブの非配向部を有し、
該カーボナノチューブ集合体の表面および/または裏面において、走査型プローブ顕微鏡のプローブを接触させた状態で、該プローブを走査してフリクショナルカーブを取得したときのFFM差分電圧について、
25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5であり、
該非配向部の厚みの割合が、該カーボンナノチューブ集合体の厚みに対して、0.1%〜40%である、
カーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
前記FFM差分電圧について、25℃におけるFFM差分電圧に対する300℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
搬送固定治具に用いられる、請求項1または2に記載のカーボナノチューブ集合体。
【請求項4】
前記非配向部が、前記カーボンナノチューブ集合体の長さ方向の端部近傍に存在する、請求項1から3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項5】
前記非配向部が、前記カーボンナノチューブ集合体の中間部近傍に存在する、請求項1から4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項6】
前記非配向部の厚みが、1μm〜20μmである、請求項1から5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。」

第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、要するに、設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、設定登録時の請求項1〜8に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものである。
(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2012/018117号
甲第2号証 R. W. Carpick et al., Lateral stiffness: A new nanomec
hanical measurement for the determination of shear str
engths with friction force microscopy, Applied Physics
Letters, 1997, Vol.70, No.12, p.1548-1550
甲第3号証 特開2016−46520号公報
甲第4号証 Jeung-hyun Jeong et al., Evaluation of Elastic Propert
ies and Temperature Effects in Si Thin Films Using an
Electrostatic Microresonator, Journal of Microelectrom
echanical Systems, 2003, Vol.12, No.4, p.524-530
2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
令和3年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由は、要するに、設定登録時の請求項1、2、4、5、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、設定登録時の請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1、2、4〜6、8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものである。
3 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「CNT集合体及び積層体」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した(以下、同様である。)。
ア 「[請求項9]複数本のCNTで構成されるCNT集合体であり、該CNT集合体は、
分布極大が50nm以下の液体窒素の吸着等温線からBJH法で求めた細孔径を備え、かつ、
該CNT集合体は、周波数1Hzの剪断モードでの動的粘弾性測定により得られる25℃での貯蔵弾性率(G25℃’)と、100以上1000℃以下の温度範囲内の貯蔵弾性率(Gx℃’)との比(Gx℃’/G25℃’)が0.75以上1.5以下を備える貯蔵弾性率(Gx℃’)が100以上1000℃以下の温度範囲において存在し、かつ、周波数1Hzの剪断モードでの動的粘弾性測定により得られる25℃での損失弾性率(G25℃”)と、100以上1000℃以下の温度範囲内の損失弾性率(Gx℃”)との比(Gx℃”/G25℃”)が0.75以上1.5以下を備える損失弾性率(Gx℃”)が100以上1000℃以下の範囲において存在することを特徴とするCNT集合体。」
イ 「[0035]本明細書において、CNT集合体(以下、CNT集合体100という)は、CNT集合体そのものでもよく、またCNT集合体が積層されているものでもよい。CNT集合体の形状、材質、装着方法はCNT集合体の少なくとも一部が粘弾性を示せば、適宜の形態でよい。図1に示すように、CNT集合体として、CNT集合体を水平方向(図1(b))又は垂直方向(図1(c))に複数積層してなるCNT集合体でもよい。・・・」
ウ 「実施例
[0094]上述した本発明に係るCNT集合体の一例について、以下に詳細に説明する。なお、以下の実施例は、一例であってこれらに限定されるものではない。
[0095](CNT集合体の製造方法)
本発明の本実施に係るCNT集合体は、酸化層(600nm)を有する1センチ角のシリコン基板を用い、基板10の上部表面に、アルミナ(Al2O3)からなる厚さ30nmの助触媒層を高周波スパッタリング(RFスパッタリング)法により形成した。次に、アルミナ層上に鉄(Fe)からなる厚さ2nmの触媒層をRFスパッタリングによって形成した。
[0096]助触媒層及び触媒層を形成した基板10をRIEで処理した。背圧5×10-3PaのRIE装置で、アルゴンを10sccm流しながら、圧力を10Paにし、20Wで、助触媒層及び触媒層を形成した基板10を15〜20分処理した。
[0097]CNT製造装置の合成炉で金属粒子20を形成するためフォーメーション工程を行った。フォーメーションは、炉内圧力:1.02×105Paに保持されたCVD装置の合成炉内にRIE処理を施した、助触媒層及び触媒層を形成した基板10を搬送・設置し、合成炉内のガス流量の総量が1000sccmとなるように、雰囲気ガスとしてHeを100sccm、還元ガスとしてH2を900sccmで流しつつ、15分間で室温から、750℃まで昇温した。つづいて、750℃で6分間、雰囲気ガスとしてHeを100sccm、還元ガスとしてH2を900sccm流した。フォーメーション工程は、触媒(Fe)を微粒子化する工程であり、炉内温度、還元ガス流量、ガスの種類、還元時間で、触媒粒子の大きさや個数密度を調整するものである。
[0098]つづいて、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×105Pa(大気圧)に保持された状態の合成炉内に、ガス流量の総量が1000sccmとなるようにHe(雰囲気ガス):885sccm、C2H4(原料ガス):75sccm、H2O含有He(相対湿度23%)(キャリアガスに混入した触媒賦活物質):40sccmをガス供給管から22〜35分間供給し、密度が0.007g/cm3のCNT集合体を高さ4mmまで成長させた。
[0099]つづいて、成長させたCNT集合体は、圧縮工程により圧縮した。成長させたCNT集合体の上面と下面を動的機械分析装置(DMA)の測定ヘッドに取付け、CNT集合体を固定するために2つの測定ヘッドの間隔を調整し、CNT集合体の高さの初期値を記録した。ここで、測定ヘッドの間隔は、CNT集合体の高さの初期値に等しい。次に、所望のCNT集合体の高さを入力した。高さの初期値が4mm、密度が0.007g/cm3のCNT集合体を、0.028g/cm3に圧縮する場合、高さを1mmとして入力した。これにより、動的機械分析装置(DMA)は、CNT集合体を加圧し、高さを1/4に、CNT集合体の密度を4倍の、密度が0.028g/cm3に圧縮する。この圧縮工程において、測定ヘッドとCNT集合体との接触面積は変化しない。CNT集合体は、圧縮状態の均衡を取るため、5〜10分程度加圧状態を維持する。このようにして、密度が0.028g/cm3の1センチ角で厚みが1mmのCNT集合体を得た。
[0100]このようにして製造した、CNT集合体を複数、基板から剥離し、20mgをBELSORP-MINI(株式会社日本ベル製)を用いて77Kで液体窒素の吸脱着等温線を計測した(吸着平衡時間は600秒とした)。液体窒素の吸着等温線からBJHの方法で細孔径の分布極大を計測したところ、13nmであった。
[0101](CNT集合体の構造)
上述の製造工程により、本発明に係る本実施例のCNT集合体100を製造した。製造されたCNT集合体100を横方向(厚み方向)から日立S−4800を用いて撮影したSEM画像を図19に示す。SEM画像はCNT集合体100の実質的に無配向であるか、低い配向性しか有さないことを示し、かつ、CNTは高密度に相互接続していることを示す。図24(a)に示すように、CNT集合体100において、平行に接触するCNTから成る、接触域35を高密度で有する。図26(a)にCNT集合体100のJEOL JEM−2000FXで撮影したTEM画像を示し、図26(b)にCNTの直径の分布のヒストグラムをSWCNT、DWCNT及びTWCNT(三層CNT)で示し、図26(c)に平均直径とCNTのタイプとの相対的な数を示す。
・・・
[0103](動的粘弾性測定(DMA))
粘弾性特性はTAインスツルメンツのねじれ方式動的粘弾性測定装置、AR−2000ex及びARES−G2を用いて、測定した。断りがない限り、測定の温度は室温の25℃である。CNT30の試料は、滑り止めのギザギザの表面の2枚のステンレス鋼平行板の間に固定した。ステンレス鋼は高温試験に耐性であるため選択し、試験中、熱膨張は補正した。循環試験は正弦関数の応力/歪みパターンを用いた振幅モードで実施した。DMAには150℃から600℃の温度で試験可能な加熱冷却装置を用意した。
[0104]図27及び図28は粘弾性ねじれ剪断モードのDMA試験を示す。図27は、異なる正弦関数の応力又は歪みのはねじれモード(剪断)DMA試験の模式図である。図28は応力−歪み関係から計算した粘弾性特性を示す。
[0105]図27(a)及び図27(b)に示すように、正弦関数の応力を試料に加え、合力の正弦関数の歪を測定する、ねじれモードでの動的振動試験を用いた。応力−歪みループのループに相当する2つの正弦波の間に中間位相角δが存在する。貯蔵弾性率G’は弾性要素であり、試料の剛性を示す。損失弾性率G”は粘性要素であり、試料のエネルギー散逸能力を示す(図28)。
・・・
[0108]ここで、図20(b)を参照して、本発明の本実施例に係るCNT集合体100の歪みとヘルマンの配向係数(HOF)の関係について説明する。HOFの計算は、CNT集合体100を1万倍の倍率で横方向(厚み方向)から観察した走査型電子顕微鏡画像から計算したFFT画像から計算した。た走査型電子顕微鏡画像は、CNT集合体の厚みの中心部で行い、異なる5つの場所から、1万倍の倍率で5枚の画像を得た。HOFは5枚の画像から得られた、それぞれのHOFの平均値とした。
[0109]また、表2に各歪みに対するHOFを示す。HOFは、歪みがない、初期状態では、0.06であり、CNT集合体100が質的に無配向であるか、低い配向性しか有さないことを示す。また、100%歪みまでは、HOFは歪みとともに単調に増加した。100%歪み以上では、HOFは増加せず、0.5の略一定の値となった。
・・・
[0110]図30は低温から高温に渡る広い温度範囲でのCNT集合体100と、比較例として従来のシリコンゴム900の粘弾性特性を示す図である。図30(a)はCNT集合体100(黒線)とシリコンゴム900(灰色線)の貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接の温度依存性を示す。表3はCNT集合体100の代表的な温度における貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接を示す。また、表4は従来のシリコンゴム900の代表的な温度における貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接を示す。シリコンゴム900は、400℃を超えると融解するため、図30(a)及び表4において、これ以上の温度条件での測定結果は示していない。図30(a)、表3及び表4に示したように、粘弾性の特徴をN2環境下でDMAにより測定した結果、シリコンゴム900が大きな変化を示したのに対して、CNT集合体100では非常に広い温度範囲(−140℃以上600℃以下)にわたりほぼ一定であった。
[表3]


エ 「[図19]


オ 「[図30]


(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「Lateral stiffness: A new nanomechanical measurement for the determination of shear strengths with friction force microscopy」(文献のタイトル)(当審仮訳:横方向剛性:摩擦力顕微鏡によるせん断強度の決定のための新しいナノメカニカル測定法)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「With FFM, the plane corresponds to the sample, and the sphere corresponds to the tip. In addition, the sphere is attached to a spring, i.e., the cantilever, which has its own stiffness (the normal spring constant klever). The cantilever and the contact are thus two springs in series [Fig.1(a)].」(第1548頁右欄第9〜13行)
(当審仮訳:FFMでは、平面はサンプルに対応し、球は先端に対応する。さらに、球は、それ自身の剛性(垂直ばね定数klever)を有するばね、すなわちカンチレバーに取り付けられている。したがって、カンチレバーと接触部とは、直列の2つのばねである[図1(a)]。)
イ 「

」(第1548頁右欄)
(図1の説明の当審仮訳:FFMにおける通常剛性及び水平剛性のモデル)
ウ 「However, the typical lateral stiffness of commercial FFM cantilevers, klever, is around 50-200 N/m, i.e., of the same order as the lateral contact stiffness, kcontact, so typical cantilevers can accurately measure variations in the lateral stiffness of nanometer-sized contacts, i.e.,

where Flateral is the lateral force (cantilever torsion), and x is the lateral displacement [Fig 1(b)]. For a sphere-plane contact, kcontact is given by

where G*=[(2-ν1)/G1+(2-ν2)/G2]-1. Here G1 and G2 are the tip and sample shear moduli, respectively. Again, kcontact is directly proportional to the contact radius. A further advantage is that Eq. (4) holds, regardless of the tip-sample interaction forces, unlike the analogous equation for normal stiffness, Eq. (2), which must be modified for non-Hertzian contacts.」(第1549頁左欄第1〜17行)
(当審仮訳:しかしながら、市販のFFMカンチレバーの代表的な「水平」剛性であるkleverは、約50〜200N/mであり、即ち、水平の接触剛性であるkcontactと同じオーダーの数値であり、そのため、代表的なカンチレバーは、ナノメートルサイズの接触の「水平」剛性の変化、すなわち、下記式を正確に測定することができる。

式中、Flateralが水平力(カンチレバーねじり)であり、xは水平移動距離である[図1(b)]。球平面接点について、kcontactは、下式で与えられる。

式中、G*=[(2−ν1)/G1+(2−ν2)/G2]-1である。ここでG1およびG2は、それぞれ、チップおよびサンプルのせん断弾性率である。再度述べるが、kcontactは接触半径に正比例する。さらなる利点は、式(4)が、通常の剛性用の類似の方的式である式(2)(非ヘルツ接触用に改変する必要がある)とは異なり、チップ/サンプル相互作用と無関係に成立することである。)
(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「半導体搬送部材および半導体載置部材」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0042】
繊維状柱状構造体が、複数のカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブ集合体であることにより、より強いグリップ力が発現できるとともに汚染物が半導体側により付着残存しにくい半導体載置部材を有する半導体搬送部材を提供することができる。」
イ 「【0086】
〔実施例1〕
基板としてのシリコンウェハ(シリコンテクノロジー製)上に、スパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)により、Al薄膜(厚み10nm)を形成した。このAl薄膜上に、さらにスパッタ装置(ULVAC製、RFS−200)にてFe薄膜(厚み1nm)を蒸着した。
その後、この基板を30mmφの石英管内に載置し、水分600ppmに保ったヘリウム/水素(90/50sccm)混合ガスを石英管内に30分間流して、管内を置換した。その後、電気管状炉を用いて管内を765℃まで昇温させ、765℃にて安定させた。765℃にて温度を保持したまま、ヘリウム/水素/エチレン(85/50/5sccm、水分率600ppm)混合ガスを管内に充填させ、5分間放置してカーボンナノチューブを基板上に成長させ、カーボンナノチューブが長さ方向に配向しているカーボンナノチューブ集合体(1)を得た。
カーボンナノチューブ集合体(1)が備えるカーボンナノチューブの長さは100μmであった。
カーボンナノチューブ集合体(1)が備えるカーボンナノチューブの層数分布において、最頻値は2層に存在し、相対頻度は75%であった。
基板上に形成されたカーボンナノチューブ集合体(1)を、基板から剥離することにより、半導体載置部材(1)を得た。
得られた半導体載置部材(1)を、基板から剥離した側の端面を超耐熱カーボンペースト(EM Japan製)に埋め込み、硬化(室温×2時間、90℃×2時間、260℃×2時間、450℃×3時間)して搬送テーブルに固定することにより、半導体搬送部材(1)を得た。
評価結果を表1に示した。」
(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、「Evaluation of Elastic Properties and Temperature Effects in Si Thin Films Using an Electrostatic Microresonator」(文献のタイトル)(当審仮訳:静電マイクロレゾネーターを用いたSi薄膜における弾性特性と温度効果の評価)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「The temperature dependency of the elastic modulus of pure Si was estimated using the short-dwell-time experiment such as described above: each data at various temperatures were measured independently from each different specimen. Twenty-minute dwell time data were also measured for the comparison of the no oxidation data and, as expected, they were a little lower than the no oxidation data because of the existence of SiO2 (see Fig. 8).」(第528頁右欄第22〜29行)
(当審仮訳:純粋なSiの弾性率の温度依存性は、上記のような短滞留時間実験を使用して見積もりした:様々な温度での各データを、各異なる試料から独立して測定した。20分滞留時間のデータもまた、無酸化データの比較のために測定したが、予想したとおり、SiO2の存在により無酸化データよりも少し低かった(図8参照)。)
イ 「

」(第528頁)
(当審仮訳:

図8.無酸化及び20分酸化の弾性率の温度依存性)
4 当審の判断
事案に鑑み、前記1の申立理由及び前記2の取消理由を纏めて検討する。
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記3(1)アには、細孔径の分布極大値、及び、特定温度範囲における貯蔵弾性率と損失弾性率の温度依存性が特定された、複数本のCNTで構成されるCNT集合体が記載され、前記3(1)ウ〜オには、その実施例が記載されているところ、これら記載を、実施例の「CNT集合体」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「助触媒層及び触媒層を形成したシリコン基板上に、密度が0.007g/cm3のCNT集合体を高さ4mmまで成長させた後、高さを1/4に、密度が0.028g/cm3に圧縮し、基板から剥離した、1センチメートル角で厚みが1mmの複数本のCNTで構成されたCNT集合体であって、
該CNT集合体は、ヘルマンの配向係数が0.06であり、実質的に無配向であるか、低い配向性を有し、
液体窒素の吸着等温線からBJH法で求めた細孔径の分布極大が13nmであり、
剪断モードで動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G”)は、広い温度範囲(−140℃以上600℃以下)にわたりほぼ一定であり、25℃での貯蔵弾性率に対する200℃、250℃での貯蔵弾性率の比G'200/G'25、G'250/G'25が、それぞれ、0.89、0.88であり、25℃での損失弾性率に対する200℃、250℃での損失弾性率の比G”200/G”25、G”250/G”25が、それぞれ、1.03、1.05である、CNT集合体。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「1センチメートル角で厚みが1mmの複数本のCNTで構成されたCNT集合体」は、本件発明1の「複数のカーボンナノチューブから構成されるシート状のカーボンナノチューブ集合体」に相当する。
また、甲1発明の「該CNT集合体は、ヘルマンの配向係数が0.06であり、実質的に無配向であるか、低い配向性を有」することは、当該CNT集合体の横方向(厚み方向)から撮影したSEM画像(前記3(1)エの図19)や本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0022】の記載からして、本件発明1の「該カーボンナノチューブ集合体が、カーボンナノチューブの非配向部を有」することに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「複数のカーボナノチューブから構成されるシート状のカーボンナノチューブ集合体であって、
該カーボンナノチューブ集合体が、カーボンナノチューブの非配向部を有するカーボンナノチューブ集合体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
・相違点1
本件発明1は、「該カーボナノチューブ集合体の表面および/または裏面において、走査型プローブ顕微鏡のプローブを接触させた状態で、該プローブを走査してフリクショナルカーブを取得したときのFFM差分電圧について、25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5である」のに対して、甲1発明は、「剪断モードで動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G”)は、広い温度範囲(−140℃以上600℃以下)にわたりほぼ一定であり、25℃での貯蔵弾性率に対する200℃、250℃での貯蔵弾性率の比G'200/G'25、G'250/G'25が、それぞれ、0.89、0.88であり、25℃での損失弾性率に対する200℃、250℃での損失弾性率の比G”200/G”25、G”250/G”25が、それぞれ、1.03、1.05である」ものの、「カーボナノチューブ集合体の表面および/または裏面において、走査型プローブ顕微鏡のプローブを接触させた状態で、該プローブを走査してフリクショナルカーブを取得したときのFFM差分電圧」に関する点は明らかでない点。
・相違点2
本件発明1は、「該非配向部の厚みの割合が、該カーボンナノチューブ集合体の厚みに対して、0.1%〜40%である」のに対して、甲1発明は、「助触媒層及び触媒層を形成したシリコン基板上に、密度が0.007g/cm3のCNT集合体を高さ4mmまで成長させた後、高さを1/4に、密度が0.028g/cm3に圧縮し、基板から剥離した」ものであり、「非配向部の厚みの割合」は明らかでない点。
イ 相違点の検討
(ア)相違点1について
本件発明1の「FFM差分電圧」は、本件特許明細書の段落【0013】によれば、チップレスカンチレバーを備えた走査型プローブ顕微鏡を使用して、カーボナノチューブ集合体の測定面上で、Siプローブを接触させ、該プローブをカンチレバーの長手方向に対して垂直な方向に走査したときのカンチレバーのねじれ量を電気的に検出したものといえる。
また、甲第2号証(前記3(2)ア〜ウ参照)には、FFMカンチレバーのねじれ量(Flateral)が、FFMカンチレバーの水平方向の剛性kleverと水平方向の接触剛性kcontactとの関数であり、また、接触剛性kcontactは、カンチレバー先端のせん断弾性率G1と測定対象サンプルのせん断弾性率G2との関数であることが記載され、さらに、甲第4号証(前記3(4)ア及びイ参照)には、シリコンの弾性率は、室温及び300℃で、それぞれ、168GPa、164GPa程度であって、その差が2%程度のほぼ変わらない値であることが示されている。
したがって、これら記載を併せ考えると、本件特許明細書のFFM差分電圧の検出方法において、チップレスカンチレバー(Siプローブ)の水平方向の剛性kleverやチップレスカンチレバー(Siプローブ)先端のせん断弾性率G1は、室温から300℃の範囲でほぼ一定であるといえるから、本件発明1の「FFM差分電圧」は、測定対象サンプルのせん断弾性率G2に依存する変数になっているといえる。
そして、甲1発明では、「剪断モードで動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G”)は、広い温度範囲(−140℃以上600℃以下)にわたりほぼ一定であり、25℃での貯蔵弾性率に対する200℃、250℃での貯蔵弾性率の比G'200/G'25、G'250/G'25が、それぞれ、0.89、0.88であり、25℃での損失弾性率に対する200℃、250℃での損失弾性率の比G”200/G”25、G”250/G”25が、それぞれ、1.03、1.05である」であることから、25℃におけるFFM差分電圧に対する200〜250℃におけるFFM差分電圧の比は、0.88〜1.05程度であるといえ、25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比も、同程度の数値になるといえる。
そうしてみると、甲1発明は、本件発明1の「カーボナノチューブ集合体の表面および/または裏面において、25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比は、0.3〜5の範囲にある」との特定事項を満足しているといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点といえない。
(イ)相違点2について
甲1発明のCNT集合体は、「助触媒層及び触媒層を形成したシリコン基板上に、密度が0.007g/cm3のCNT集合体を高さ4mmまで成長させた後、高さを1/4に、密度が0.028g/cm3に圧縮し、基板から剥離した」ものであるから、甲1発明において、「実質的に無配向であるか、低い配向性を有し」ている部分は、CNT集合体の全体に形成されたものといえるため、相違点2は実質的なものである。
そこで、相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、前記3(1)イに摘記したとおり、「CNT集合体の形状、材質、装着方法はCNT集合体の少なくとも一部が粘弾性を示せば、適宜の形態でよい。」ことが記載されているから、甲1発明において、「実質的に無配向であるか、低い配向性を有し」ている部分を、CNT集合体の一部とすることは、当業者にとって容易想到な事項といえる。
しかしながら、甲第1号証には、「実質的に無配向であるか、低い配向性を有し」ている部分を一部とした場合の貯蔵弾性率(G')や損失弾性率(G”)又はFFM差分電圧の温度依存性は記載も示唆もされていないし、また、甲第2号証〜甲第4号証にも、CNT集合体の一部分を非配向部としたときの貯蔵弾性率(G')、損失弾性率(G”)及びFFM差分電圧の温度依存性に関する記載はないため、甲1発明において、本件発明1の「25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比は、0.3〜5の範囲にある」との特定事項を満たしつつ、「実質的に無配向であるか、低い配向性を有し」ている部分の厚みの割合を、「該カーボンナノチューブ集合体の厚みに対して、0.1%〜40%である」とすることは、当業者が容易に想到し得る事項といえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、甲1発明に係るCNT集合体は、異なるCNT間での接触点(接触域)を少なくとも一つ有し、少なくとも一部が粘弾性を示すものであればよいことを論拠として、甲1発明において、衝撃吸収性に優れた粘弾性体を得るために、非配向部の厚みの割合を調整し、CNT集合体の厚みに対して、0.1〜40%とすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化に過ぎないことを主張している(令和4年1月5日提出の意見書)。
しかしながら、前記イ(イ)で検討したとおりであるから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証〜甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記(2)で検討した理由により、本件発明2〜6は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証〜甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
(4)当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由及び取消理由に理由はない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項7、8に係る発明は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項7、8に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブから構成されるシート状のカーボンナノチューブ集合体であって、
該カーボンナノチューブ集合体が、カーボンナノチューブの非配向部を有し、
該カーボンナノチューブ集合体の表面および/または裏面において、走査型プローブ顕微鏡のプローブを接触させた状態で、該プローブを走査してフリクショナルカーブを取得したときのFFM差分電圧について、
25℃におけるFFM差分電圧に対する210℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5であり、
該非配向部の厚みの割合が、該カーボンナノチューブ集合体の厚みに対して、0.1%〜40%である、
カーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
前記FFM差分電圧について、25℃におけるFFM差分電圧に対する300℃におけるFFM差分電圧の比が、0.3〜5である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
搬送固定治具に用いられる、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項4】
前記非配向部が、前記カーボンナノチューブ集合体の長さ方向の端部近傍に存在する、請求項1から3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項5】
前記非配向部が、前記カーボンナノチューブ集合体の中間部近傍に存在する、請求項1から4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項6】
前記非配向部の厚みが、1μm〜20μmである、請求項1から5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-27 
出願番号 P2016-195769
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 関根 崇
宮澤 尚之
登録日 2020-11-19 
登録番号 6796984
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 カーボンナノチューブ集合体  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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