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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01G
管理番号 1388361
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-16 
確定日 2022-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6800834号発明「植物体葉緑素増加方法及び害虫定着阻害方法並びにこれらの方法に適用可能な組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6800834号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。 特許第6800834号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6800834号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成29年12月20日(優先権主張 平成28年12月20日)に出願され、令和2年11月27日にその特許権の設定登録がされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行された。
そして、その請求項1ないし3に係る特許に対して、令和3年6月16日に特許異議申立人川▲崎▼ 義孝(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。

令和3年 8月16日付け:取消理由通知
同年10月18日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年11月26日 :申立人による意見書の提出
令和4年 1月13日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 3月 1日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 4月15日 :申立人による意見書の提出

なお、令和4年3月1日付けの訂正請求書が提出されたことにより、令和3年10月18日付けの訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和4年3月1日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、「特許第6800834号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜3について訂正することを求める」というものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「有機酸を有効成分として含む組成物を準備する工程と、」と記載されているのを、「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、」に、訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「有機酸を有効成分として含む組成物を準備する工程と、」と記載されているのを、「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、」に、訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「組成物。」と記載されているのを、「組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)。」に、訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、「植物体葉緑素の増加による害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、」と記載されているのを、「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、」に、さらに、「前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、」と記載されているのを、「前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる」に、訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「有機酸を有効成分として含む組成物」を、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢」を除くものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に記載された「有機酸を有効成分として含む組成物」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、組成物から分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除外することで、新たな技術的事項が導入されるものでもない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「有機酸を有効成分として含む組成物」を、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢」を除くものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項2に記載された「有機酸を有効成分として含む組成物」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、有機酸を有効成分として含む組成物から分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除外することで、新たな技術的事項が導入されるものでもない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載された「組成物」を、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢」を除くものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項3は、上記アのとおり、訂正前の請求項3に記載された「組成物」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、組成物から分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除外することで、新たな技術的事項が導入されるものでもない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項3に記載された「組成物」の用途に係る記載における葉緑素増加と害虫定着阻害との関係を明細書の記載に基づいて整理して、組成物が「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として」用いられるものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項4は、上記アのとおり、訂正前の請求項3に記載された「組成物」の用途を明瞭にするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、組成物が「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として」用いられることについて、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0015】に、「本発明は、有機酸を有効成分として含有する組成物(植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤)を提供する。この組成物は上記植物体葉緑素増加方法及び上記害虫定着阻害方法において植物体に処理する組成物として適用可能なものである。なお、「植物体葉緑素増加剤」及び「害虫定着阻害剤」は上記組成物の用途を主に示すものであり、両者は有効成分として有機酸を含有すればよく、両者の組成は同じであってもよい。」と記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加方法。
【請求項2】
植物体に対する害虫定着阻害方法であって、
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、
前記植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、害虫定着阻害方法。
【請求項3】
植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、
有機酸を有効成分として含有し、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)。」

第4 取消理由(決定の予告)について
1 取消理由(決定の予告)の概要
令和3年10月18日付けの訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項3に係る特許に対して、当審が令和4年1月13日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。

新規性
令和3年10月18日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由についての当審の判断
(1)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証は、後記第5の2に示す、申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して提出した証拠であり、甲第2号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「2015 アース園芸用品総合カタログ」(表紙)
(イ)「お酢のチカラで病気と虫予防
病気と虫の発生前にスプレーすることで、
うどんこ病やアブラムシやハダニなどの害虫を予防します。
安心・安全な食酢を原料とする、病気と虫の予防スプレーシリーズに
ぶどう酢から作られた果樹用とプルーン酢から作られたトマト用が仲間入りしました。」(第12頁)
(ウ)「3 病気と虫の予防スプレー。
発生前にスプレーでうどんこ病などの病気を予防し、アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどの害虫も予防します。」(第13頁左欄第7〜9行)
(エ)「

」(第13頁左欄 上記(ウ)の「3.病気と虫の予防スプレー。」の欄)
上記画像のうち左の画像は、上部に「うどんこ病」、下部に「無処理区(何も処理せずそのまま栽培)」と記載され、
上記画像のうち右の画像は、下部に「処理区(定植後、1日1回処理20日後)」と記載されているのが看取される。
(オ)「4 毎日の水やりの後のスプレー習慣。
毎日の水やりの後にスプレーするなど定期的な散布が効果的です。葉の表裏や茎に、病害虫が付く前にまんべんなくスプレーしてください。たっぷり使える1000ml入とベランダガーデニング用の250ml入があります。」(第13頁右欄第6〜15行)
(カ)「特定防除資材
トマトをまもる
病気と虫の予防スプレー
特定防除資材
○原材料
合成酢、プルーン酢
○1000ml入りは
逆さ噴霧もOK」(第13頁右欄第16〜23行)

イ 甲2発明
上記アからみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「お酢のチカラで病気と虫予防する、食酢を原料とする病気と虫の予防スプレーであって、
葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーし、うどんこ病を予防し、アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどの害虫も予防し、定期的な散布が効果的であり、
特定防除資材であるトマトをまもる病気と虫の予防スプレーは、原材料が合成酢及びプルーン酢である、
病気と虫の予防スプレー。」

(2)本件訂正発明3の新規性
ア 対比
本件訂正発明3と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「病気と虫の予防スプレー」は、虫の定着を予防するといえるから、組成物の用途である本件訂正発明3の「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤」と甲2発明の「病気と虫の予防スプレー」が「虫の定着を予防する」こととは、「害虫定着阻害剤」の点で共通する。
(イ)「合成酢」や「プルーン酢」などの「食酢」に酢酸が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識であるから、甲2発明の「食酢を原料とする病気と虫の予防スプレー」の内容物が「組成物」であることは明らかである。
ここで、本件訂正発明3の「組成物」は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く」ものであるところ、甲2発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「プルーン酢」としか記載されていないから、甲2発明の「食酢を原料とする病気と虫の予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然である。
そうすると、本件訂正発明3の「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」と甲2発明の「病気と虫の予防スプレー」の内容物とは、「害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」の点で共通する。
(ウ)甲2発明は、「お酢のチカラで虫予防する」「食酢を原料とする病気と虫の予防スプレー」であるから、害虫定着阻害剤として用いられる組成物の有効成分が食酢であることは明らかである。そして、「食酢」に酢酸が含まれることは技術常識であるから、甲2発明は、本件訂正発明3の「有機酸を有効成分として含有し、前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、」との構成を備える。
(エ)甲2発明が、「トマト」を対象とし、「アブラムシ、コナジラミ、ハダニ」などの害虫を予防することは、本件訂正発明3の「前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である」ことに相当する。
(オ)そうすると、本件訂正発明3と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、
有機酸を有効成分として含有し、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)。

(相違点2C)
組成物が、本件訂正発明3では、「葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤」として用いられるものであるのに対し、甲2発明は、「葉緑素増加剤」として用いられるものではない点。

イ 判断
本件訂正発明3と甲2発明とは、相違点2Cで相違するから、本件訂正発明3は甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、甲2発明の組成物が葉緑素を増加させることについて、概略以下のとおり主張している。
a 甲第2号証の第13頁には、「自社試験」の結果として、何も処理せずそのまま栽培した無処理の葉の写真と、定植後、1日1回処理20日後の処理区の葉の写真とが比較可能な形態で載せられており、処理区の葉の方が無処理区の葉に比べて緑が濃く鮮やかであるところ、緑色が濃く、鮮やかである葉の方が葉緑素の量が多いことは明白であり、甲2発明は、組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素が増加するので、組成物は、葉緑素の増加による害虫定着阻害剤として用いられる組成物である。(申立書第21頁第7〜19行、第27頁第11〜15行)
b 甲2、3発明においても葉緑素が増加していること、すなわち、葉の緑が濃くなることは示されており、何ら新しいものではない。甲2、3発明は結果的に「葉緑素増加剤」として機能していると言える。(令和4年4月15日付け意見書「3 意見の内容」第1〜4行)
(イ)主張の検討
甲第2号証の第13頁における無処理区と処理区の比較(上記(1)ア(エ))は、無処理区を示す左の画像の上部に「うどんこ病」との記載があることから、無処理区においてはうどんこ病が発生したため葉が白くなったものと理解できる。また、処理区の画像は、処理によってうどんこ病が予防されて、うどんこ病が発生していない葉の画像であって、左右の画像は異なる葉を撮影した画像であると理解できる。
そうすると、処理区の葉の方が無処理区の葉に比べて緑が濃く鮮やかであることをもって、「組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素が増加する」ことが示されているとはいえない。
よって、甲2発明が組成物を葉面散布することで葉の葉緑素が増加するものであり、組成物が「葉緑体増加剤」として機能するとはいえず、上記申立人の主張は採用できない。

エ 小括
本件訂正発明3は、甲第2号証に記載された発明ではない。

第5 特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)に対して、証拠方法として下記2に示す甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。

(1)本件発明1について
ア 本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

イ 本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第3号証に記載の発明、または従来周知の技術事項を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(2)本件発明2、3について
ア 本件発明2、3は、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

イ 本件発明2、3は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証ないし甲第4号証に記載の発明、または従来周知の技術事項を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開平6−219876号公報
甲第2号証:2015 アース園芸用品総合カタログ 第12〜13頁
甲第3号証:2016 アース園芸用品総合カタログ 第13〜14頁
甲第4号証:Thomas Felix Doering他、“Visual ecology of aphids-a critical review on the role of colours in host finding”、Arthropod-Plant Interactions(2007) 2007年3月2日(当審注:Doeringのoeはoウムラウトを表す。)

3 証拠の記載事項
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】食酢に無機養分を配合することにより得られることを特徴とする作物栄養補助剤。
・・・
【請求項5】葉果面散布用、土壌栽培用、水耕栽培用である請求項1記載の作物栄養補助剤。」
(イ)「【産業上の利用分野】本発明は食品である食酢を利用した作物栄養補助剤に関するものであり、詳述すると、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢に無機養分を配合することにより作物の成長促進、作物の緑化とその期間の延長、作物の病気に対する抵抗性向上、果樹の結実増加と落下減少、果実の糖度と味の向上、花の色及び肌つやの向上、作物の日持ち向上等に効果があり、更には食用作物、工芸作物、緑肥作物及び園芸作物として蔬菜、果物、草花、その他温帯作物、熱帯作物、亜熱帯作物、温室作物、観賞作物、薬用作物、加工用作物等に有効な食品である食酢を利用した作物栄養補助剤に関する。
【従来の技術】一般に、作物は衣食住の用途のために耕地に栽培される植物のことであり、その植物体の種実、茎、葉、花、根等が利用されるものである。例えば、「キャベツ、茶 等の如く葉が利用される作物」、「アスパラガス、ウド等の如く茎が利用される作物」、「サツマイモ、バレイショ等の如く根及び地下茎が利用される作物」、「ホップ、サフラン等の如く花が利用される作物」、「ムギ、トウモロコシ、ダイズ等の如く種子が利用される作物」、「キュウリ、ブドウやバナナ等の如く果実が利用される作物」等がある。各種の作物が生育するために必要な物質は無機養分と糖であることが知られている。無機養分は養分吸収として土中から取り入れられ、糖は光合成として生産される。この生育に関与する基本元素、即ち、植物の体に含まれる元素としては30種以上が知られているが、このうち16元素は生育に欠くことの出来ない必須元素とされていて、炭素、酸素、水素、窒素、リン、イオウ、カリウム、カルシウム、マグネシウムの多量元素と鉄、銅、マンガン、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素の微量元素である。炭素、水素、酸素は作物体内の存在量は多いが、大気(炭酸ガス)及び水として天然供給量が豊富であるために、通常においては特に与える必要はないものとされている。窒素、リン、カリウムは土壌中での存在量が比較的少なく、外部からの補給に対する植物の反応が高いことから、特に肥料三要素としてよく知られている。イオウ、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、マンガン、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素は土壌中における全存在量ではなく、作物に吸収され易い形態(可給能)の量や他の元素との不均衡から、欠乏症を発生することもある。炭素、酸素、水素以外の元素は、全て土中から一般に水溶液として吸収されるので、土にこれらの元素が欠乏すれば、これを人工的に供給しなければ、土は生産力を保つことはできない。そこで、従来、肥料取締法において特殊肥料から普通肥料に分類される数多くの肥料製品が利用されてきた。一方、炭素、酸素、水素は光合成により炭水化物(糖)となり、植物体の骨格を作る。炭水化物は、タンパク質、脂質の生成に関与する。また、炭水化物は成長のためのエネルギー源としても重要である。この光合成は二酸化炭素の固定機構として知られている。二酸化炭素は一連の反応を経過して炭水化物(糖)その他の化合物に変わるが、最初の産物が炭素が三つの三炭糖でカルビン酸回路だけで光合成を行う場合(C3型植物)と、最初の産物が炭素が四つのジカルボン酸でカルビン酸回路の他にジカルボン酸回路を持つ場合(C4型植物)及び一度リンゴ酸として固定されるCAM植物等に分けられている。この光合成及び解糖系において主体となる糖はシュクロース、グルコース、フラクトース等である。そこで、従来、葉の光合成作用の促進等のために、法律上の肥料ではないが、植物活性剤等の名称でシュクロース(砂糖)、グルコース(ぶどう糖)、フラクトース(果糖)等を溶解して作物に与えることが行われてきた。例えば「花卉園芸の辞典」朝倉書店(1986年10月25日発行)の702頁には薬剤を含む切花保存剤(延命剤)が示されているが、その主成分はシュクロース(ショ糖)或いはグルコースとなっている。また、光合成及び解糖系には有機酸が関与するので、有機酸を含有する米酢や玄米酢を同時に使用することも経験的に行われていた。」(公報第2頁第1欄第22行〜第2欄第40行)
(ウ)「・・・酢酸発酵は、酢酸菌がエチルアルコールを酸化して酢酸に変えるもので、醸造酢の有機酸の大部分は酢酸で酸味の主体となっているが、酢酸以外の有機酸も含まれる。例えば、グルコン酸、コハク酸、フマール酸、リンゴ酸、クエン酸等は食酢の呈味、酸味の利きの良否に影響を与えているが、これらを含むことは作物栄養補助剤として食酢を使用する上で好影響でもある。」(公報第3頁第4欄第30〜36行)
(エ)「・・・本発明の作物栄養補助剤は、例えば、イネ、ムギ、アワ、キビ、ソバ、トウモロコシ、ダイズ、アズキ、、カンショ、バレイショ、キャツサバ等の食用作物、ワタ、アサ、アマ、イグサ、クワ、テンサイ、サトウキビ、ステビア、ナタネ、ゴマ、ラッカセイ、オリーブ、ベニバナ、サフラン、タバコ、チヤ、ジョチュウギク、ラベンダー、ユーカリ苗、シチトウイ、ハッカ、コショウ、ホップ、タデアイ等の工芸作物、レンゲソウ、クローバ等の緑肥作物、レッドクローバー、コンモンベッチ、オーチャードグラス等の飼料作物、ベントグラス類、フェスク類、ライグラス類、バミューダグラス類、ノシバ、コウライシバ等の芝草、キュウリ、シロウリ、カボチャ、マクワ、メロン、スイカ、ナス、トマト、トウガラシ、ピーマン、オクラ、イチゴ、ソラマメ、エンドウ、インゲンマメ、エダマメ、モヤシ、コーヒー、ココア、ハス、クワイ、ショウガ、ヤマノイモ、サトイモ、ナガイモ、コンニャク、タマネギ、ネギ、ニンニク、ラッキョ、ダイコン、ニンジン、オタネニンジン(朝鮮人参)、カブ、ゴボウ、ハクサイ、ツケナ、クレソン、サラダナ、ミツバ、青ジソ、カイワレダイコン、コマツナ、ゴガツナ、チンゲンサイ、ミズナ、カラシナ、キャベツ、コモチカンラン、ハナヤサイ、レタス、ブロッコリー、セルリ、パセリ、ワサビ、チシヤ、ドクダミ、ゼンマイ、ミョウガ、サンショウ、シュンギク、ホウレンソウ、フダンソウ、アスパラガス、モウソウダケ、タケノコ、マシュルーム、シイタケ、ナメコ、エノキダケ、ヒラタケ、ハラタケ等の蔬菜、リンゴ、ナシ、サンザシ、マルメロ、カリン、モモ、スモモ、サクランボ、アンズ、ウメ、アセロラ、クルミ、クリ、ペカン、アーモンド、ハシバミ、カキ、ナツメ、ザクロ、イチヂク、ビワ、バナナ、パイナップル、オレンジ、レモン、シトロン、ブンタン、グレープフルーツ、温州ミカン、夏ミカン、キンカン、ブドウ、キイチゴ、スグリ、フサスグリ、クランベリー、キウイフルーツ等の果物、花卉としてはスイトピー、アサガオ、キンセンカ等の1・2年草、マーガレット、キク、カーネション等の宿根草、ユリ、チューリップ、シクラメン等の球根、バラ、タケ、ササ、アジサイ等の花木、セントポーリア、ブーゲンビレア、ハイビスカス等の温室植物、ヤシ、ゴム、オモト等の観葉植物、カトレア、デンドロビウム、バンダ等のラン類、シャコバサボテン、ユーフォルビア、アロエ等のサボテンと多肉食物、モウセンゴケ、ムシトリスミレ、ネペンテス等の食虫植物、スイレン、ハス、カキツバタ等の水生植物、アオキ、マンリョウ、ツバキ等の斑入植物、フウセンカズラ、クレマチス、トケイソウ等のつる性植物、カンノンチク、シュロチク、フェニックス等のヤシ科植物、その他の高山植物、山菜、漢方薬草或いは海草等に施肥することにより、作物の成長促進、作物の緑化とその期間の延長、作物の病気に対する抵抗性向上、果樹の結実増加と落果減少、果実の糖度及び味の向上、花の色及び肌つやの向上、作物の日持ち向上等に顕著な効果がある。」(公報第5頁第7欄第18行〜第8欄第20行)
(オ)「・・・食酢の有する本来の生理作用は、栄養素の体内での燃焼を促進してエネルギーの利用率を高めるものとされている。炭水化物が体内で利用されるときには、酢酸をはじめとする有機酸がエネルギーを発生する。この酢酸や有機酸が充分存在しない場合、不完全燃焼を起こし、栄養素は無駄になるばかりでなく、体に害を与えると言われている。この現象の本質は動物或いは植物においても同じものと考えられているが、植物の生理においてはエネルギー物質の生産である光合成の促進にも影響するものと考えられている。」(公報第5頁第8欄第20〜29行)
(カ)「【実施例】以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[実施例1](作物栄養補助剤の製造)
先ず、下記表2に示した市販の分岐オリゴ糖含有糖類[群栄化学工業株式会社製:グンエイオリゴS(商標登録)]を純水にて30%w/wに調製して1000mlを原料とした。これに酵母サッカロミセス・エリプソイデス(Saccharomyces ellipoideus)の培養液10mlと酵母エキス1g、リン酸一カリウム0.5g、リン酸二アンモニウム0.5gを加え、温度25〜30℃にて、10日間アルコール発酵を行った。上記発酵後のアルコール濃度は6.5%v/vであった。これを温度65℃で、10分間加熱して酵母を殺菌した後、アルコール濃度を5.5%v/vに調製した。次に、種酢アセトバクター・アセチ(Acetobacter Aceti)の酢酸発酵液30mlを加えて、酸度1.5%に調製した後、温度35〜40℃で、10日間酢酸発酵を行った。発酵後の酢酸濃度4.5%v/w、アルコール濃度0.3%v/vであった。これを濾過して菌体を除き、75℃で加熱処理して分岐オリゴ糖を主成分とする食酢とした。(公報第5頁第8欄第47行〜第6頁第10欄第6行)
(キ)「本実施例1において用いた市販の食酢[私市醸造株式会社製:発酵オリゴ酢(商標)]96.5部、乳酸カルシウム((CH3CHOHCOO)2Ca・5H2O)2.5部、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)1.0部を混合溶解して作物栄養補助剤を製造した。下記表3に、本実施例1により得られた作物栄養補助剤の成分を示す。
【表3】

」(公報第6頁第9欄第29行〜第10欄第32行)
(ク)「[実施例2](食酢中の含有糖の抽出調製)
分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵して得られた食酢をイオン交換樹脂[三菱化成工業製、ダイヤイオン(登録商標)]を用いて脱塩、精製を行って、食酢中の含有糖を抽出調製した。前記表1中のNo.1−1に示され本実施例1において用いた市販の分岐オリゴ糖含有糖類よりつくった食酢[私市醸造株式会社製:発酵オリゴ酢(商標)]3000mlを、内径5cm、長さ50cmのカラム3本に、「強酸性陽イオン交換樹脂(PK218)」、「弱塩基性陰イオン交換樹脂(WA30)」及び「強酸性陽イオン交換樹脂(PK218)と強塩基性陰イオン交換樹脂(PA408)との混床」の順に充填した後、空間速度(SV.hr-1)0.5で通液した。この操作を3回繰り返して完全に脱塩、精製した後、更に活性炭にて精製後、固形分75%(w/w)まで減圧濃縮して食酢中の含有糖を抽出調整した。この含有糖の糖組成は、前記表1中のNo.1−1に示した如く、固形あたりマルトース5%、イソマルトース18%、マルトトリオース4%、パノース13%、イソマルトトリオース10%、その他のイソマルトオリゴ糖50%であり、難発酵性糖類であるイソマルトースやパノース、イソマルトトリオース等の分岐オリゴ糖を計91%含有するもので、グルコースは含んでいないものである。」(公報第6頁第9欄第46行〜第7頁第11欄第14行)
(ケ)「[試験例1]前記実施例1において得られた本発明に係る作物栄養補助剤を水で薄めて、定期的にシバ草に葉面散布し、シバ草の緑化状態を観察し、シバ草の生育促進効果を判定した。試験場所は、群馬県高崎市の緑地シバ草で実施した。品種はC4型植物に属するコウライシバ草である。試験区はシバ草1m2を1試験区とし、隣接する4m2(4区)を設定した。この内、(No.1区)に前記実施例1において得られた本発明の作物栄養補助剤を1回あたり、1g/m2、試験期間あたり7g/m2施用した。
[比較例1]試験例1と同1条件で、試験例1に隣接するシバ草1m2(No.2区)に前記実施例2において抽出調整された食酢中の含有糖を1回あたり0.27g/m2、試験期間あたり1.89g/m2施用した。この施用量は糖分が試験例1と同一になるように調整したものである。
[比較例2]試験例1と同1条件で、試験例1に隣接するシバ草1m2(No.3区)に砂糖(グラニュー糖)を1回あたり0.2g/m2、試験期間あたり1.4g/m2施用した。この施用量は糖分が試験例1と同一になるように調整したものである。
[比較例3]試験例1と同1条件で、試験例1に隣接するシバ草1m2(No.4区)に1回あたり及び試験期間あたり水のみを施用した。これを対照区とした。下記表4にシバ草の施用量を記す。
【表4】


葉面散布方法は、各試験区の供試剤を水100mlに溶解して、2週間間隔(計7回)で散布した。緑化状態の測定は同じ時期における同じ葉齢、同じ葉位、同じ部位の単位面積(2mm×3mm)あたりを2波長光学濃度差法による葉緑素計にて現場で測定して生育促進効果を診断した。測定器は葉緑素計SPAD−502(ミノルタカメラ社製)を使用した。試験期間は平成4年9月7日〜11月7日(3カ月間)で、期間中は施肥、刈り取り等は一切せず、自然環境にまかせた。各試験区のシバ草は正常な生育状態を示す同様なシバ草の10葉を選んで試料とし、葉の中葉の葉緑素を試験開始時(平成4年9月7日)と終了時(平成4年11月7日)に測定して、葉緑素示度値の平均値を求め、開始時の値を100とした指数で比較した。その結果を下記表5に示す。
【表5】

上記表5中におけるNo.4区は試験開始時に対して試験終了時の葉緑素含有量は少なく、葉緑素の生成が抑制されている。これはコウライシバ草は暖地型シバ草であり、冬になると休眠状態となり光合成が緩慢になる性質のためと考えられる。表5中のNo.4区に比較してNo.1区は開始時に対して終了時の葉緑素含有量は増加し、光合成が活性化され、緑化状態よりみてシバ草の生育が促進されていることが分かる。表5中のNo.2区は、No.1区よりも光合成の活性化はやや劣るが、No.3区よりも光合成の活性化が高かった。これは、難発酵性のイソマルトオリゴ糖の方が発酵性のシュクロースよりも光合成の活性化に及ぼす影響が大きいことを示すものである。」(公報第7頁第11欄第15行〜第8頁第13欄第38行)

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アからみて、甲第1号証には、次の2の発明(以下、それぞれ、「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「食酢に無機養分を配合することにより得られる葉果面散布用作物栄養補助剤であって、
食酢の有する本来の生理作用は、栄養素の体内での燃焼を促進してエネルギーの利用率を高めるものとされ、炭水化物が体内で利用されるときには、酢酸をはじめとする有機酸がエネルギーを発生し、
醸造酢の有機酸の大部分は酢酸であるが、酢酸以外の有機酸として、例えば、リンゴ酸、クエン酸等が含まれ、これらを含むことは作物栄養補助剤として食酢を使用する上で好影響でもあり、
キャベツ、チヤ、タバコ、アスパラガス、カンショ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ、バナナに施肥することにより、作物の成長促進、作物の緑化とその期間の延長に顕著な効果があり、
作物栄養補助剤の製造は、分岐オリゴ糖含有糖類を原料とし、アルコール発酵を行い、次に、酢酸発酵を行って食酢とし、食酢、乳酸カルシウム、硫酸マグネシウムを混合溶解して作物栄養補助剤を製造し、
作物栄養補助剤を水で薄めて、定期的にシバ草に葉面散布し、シバ草の緑化状態を観察し、シバ草の生育促進効果を判定する試験では、
得られた作物栄養補助剤を1回あたり、1g/m2、水に溶解して、2週間間隔(計7回)でシバ草に葉面散布し、
シバ草は正常な生育状態を示す同様なシバ草の10葉を選んで試料とし、葉の中葉の葉緑素を試験開始時と終了時に測定して、葉緑素示度値の平均値を求め、開始時の値を100とした指数で比較し、
結果、指数は114であり、開始時に対して終了時の葉緑素含有量は増加し、光合成が活性化され、緑化状態よりみてシバ草の生育が促進されていることが分かった、
作物栄養補助剤。」

(甲1方法発明)
「甲1発明の作物栄養補助剤を、分岐オリゴ糖含有糖類を原料とし、アルコール発酵を行い、次に、酢酸発酵を行って食酢とし、食酢、乳酸カルシウム、硫酸マグネシウムを混合溶解して製造し、
得られた作物栄養補助剤を水で薄めて、1回あたり、1g/m2、水に溶解して、2週間間隔(計7回)でシバ草に葉面散布し、
シバ草は正常な生育状態を示す同様なシバ草の10葉を選んで試料とし、葉の中葉の葉緑素を試験開始時と終了時に測定して、葉緑素示度値の平均値を求め、開始時の値を100とした指数で比較した結果、
指数は114であり、開始時に対して終了時の葉緑素含有量は増加し、光合成が活性化され、緑化状態よりみてシバ草の生育が促進されている、方法。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証の記載事項は、上記第4の2(1)アに示したとおりである。

イ 甲2方法発明
上記第4の2(1)アからみて、甲第2号証には、上記第4の2(1)イの甲2発明に加え、次の発明(以下、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲2方法発明)
「お酢のチカラで病気と虫予防する、食酢を原料とする病気と虫の予防スプレーを、
葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーし、うどんこ病を予防し、アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどの害虫も予防し、定期的な散布が効果的であり、
特定防除資材であるトマトをまもる病気と虫の予防スプレーは、原材料が合成酢及びプルーン酢である、
病気と虫を予防する方法。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「2016 アース園芸用品総合カタログ」(表紙)
(イ)「はなをまもる
病気と虫の予防スプレー
特定防除資材
○原材料:合成酢、リンゴ酢
○1000ml入りは逆さ噴霧もOK

食酢100%で病害虫を予防。
食酢からつくられた安心・安全な病害虫予防スプレー、発生前にスプレーして、アブラムシ、コナジラミ、ハダニ、うどんこ病を予防します。」(第13頁左欄)
(イ)「

」(13頁「食酢100%で病害虫を予防」の項右下)
(ウ)上記(ア)の記載を踏まえると、上記(イ)の「ナス・アブラムシに対する試験(平成25年自社試験)」からは、なすのアブラムシ発生初期に、1日1回十分量を散布した結果、16日目には、比較対象の無処理のなすの花にアブラムシが定着しているのに対し、処理がされたなすの花にはアブラムシが定着していない様子が看取される。
(エ)「

」(13頁「食酢100%で病害虫を予防」の項左下)

イ 甲第3号証に記載された発明
上記アからみて、甲第3号証には、次の2の発明(以下、それぞれ、「甲3発明」及び「甲3方法発明)という。)が記載されていると認められる。

(甲3発明)
「食酢からつくられた病害虫予防スプレーであって、
原材料が合成酢及びりんご酢であり、
発生前にスプレーして、アブラムシ、コナジラミ、ハダニ、うどんこ病を予防する、
なすのアブラムシ発生初期に、1日1回十分量を散布した結果、16日目には、比較対象の無処理のなすの花にアブラムシが定着しているのに対し、処理がされたなすの花にはアブラムシが定着していなかった、
病害虫予防スプレー。」

(甲3方法発明)
「食酢からつくられた病害虫予防スプレーであって、
原材料が合成酢及びりんご酢であり、
発生前にスプレーして、アブラムシ、コナジラミ、ハダニ、うどんこ病を予防するスプレーを、なすに1日1回十分量を散布した結果、アブラムシが定着していない状態となった、
アブラムシ、コナジラミ、ハダニ、うどんこ病を予防する方法。」

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 本件訂正発明1の新規性
(1)甲1方法発明を主引例とした場合
ア 対比
本件訂正発明1と甲1方法発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明1は「植物体葉緑素増加方法」に係る発明であるから、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物」における「有効成分」とは、植物体葉緑素の増加に有効な成分を意味すると解される。
一方、甲1方法発明は、「作物栄養補助剤」を「1回あたり、1g/m2、水に溶解して、2週間間隔(計7回)でシバ草に葉面散布」することによりシバ草(植物体)の「葉緑素含有量は増加」するものであることに鑑みると、甲1方法発明において使用される「作物栄養補助剤」の中の「分岐オリゴ糖含有糖類を原料とし、アルコール発酵を行い、次に、酢酸発酵を行って」得られた「食酢」は、本件訂正発明1の「有機酸」に相当し、甲1方法発明の「分岐オリゴ糖含有糖類を原料とし、アルコール発酵を行い、次に、酢酸発酵を行って食酢とし、食酢、乳酸カルシウム、硫酸マグネシウムを混合溶解」した「作物栄養補助剤」と本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」とは、「有機酸を有効成分として含む組成物」である点で共通する。
(イ)甲1方法発明の「分岐オリゴ糖含有糖類を原料とし、アルコール発酵を行い、次に、酢酸発酵を行って食酢とし、食酢、乳酸カルシウム、硫酸マグネシウムを混合溶解して作物栄養補助剤を製造」することと、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程」とは、「有機酸を有効成分として含む組成物を準備する工程」で共通する。
(ウ)甲1方法発明の「シバ草」は、本件訂正発明1の「植物体」に相当する。
(エ)甲1方法発明の「作物栄養補助剤」を「1回あたり、1g/m2、水に溶解して、2週間間隔(計7回)でシバ草に葉面散布」することは、それによりシバ草(植物体)の「葉緑素含有量は増加」するものであるから、本件訂正発明1の「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」に相当する。
(オ)甲1方法発明において使用される甲1発明の「作物栄養補助剤」が含む「食酢」が、「酢酸をはじめとする有機酸」を含み、「酢酸以外の有機酸として、例えば、リンゴ酸、クエン酸等」が含まれることは、本件訂正発明1において、「組成物」が含む「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」ことに相当する。
(カ)上記(エ)で検討したことを踏まえると、甲1方法発明の「葉緑素含有量は増加し」ている「方法」は、本件訂正発明1の「植物体葉緑素増加方法」に相当する。
(キ)以上を総合すると、本件訂正発明1と甲1方法発明とは、
「有機酸を有効成分として含む組成物を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加方法。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点1A)
組成物が、本件訂正発明1は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものであるのに対し、甲1方法発明は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢である点。

イ 判断
本件訂正発明1と甲1方法発明とは、相違点1Aで相違するから、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明であることについて、概略以下のとおり主張している。
甲第1号証には、食酢を有効成分として含む組成物をシバ草に葉面散布することによって葉緑素の包含量を増加させているが、甲第1号証の第5頁には「本発明はこの実施例に限定されるものではない」との記載があり、この記載に接した当業者であれば、分岐オリゴ糖を含む食酢以外の有機酸をシバ草に葉面塗布しようと試みるものであるから、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くと訂正されても、甲第1号証に開示されている発明と実質的に同じであり、新規性を有さない発明である。(令和3年11月26日付け意見書第1頁最終行〜第2頁第7行)
(イ)主張の検討
甲第1号証において、葉緑素増加の効果の確認がなされたのは、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢による作物栄養補助剤のみであって、それ以外の食酢ないし有機酸については、葉緑素を増加させることについて何ら示されていない。
そして、甲第1号証の、作物栄養補助剤をシバ草に葉面散布する試験の結果(上記第5の3(1)ア(ケ)中の表5)において、試験例1と糖分が同一になるように含有糖の量を調整して散布した比較例1においても葉緑素示度値が相当程度増加していることに鑑みると、食酢を葉面散布したことによる葉緑素の増加には、含有糖の影響も相当程度あると理解できる。
そうすると、甲第1号証において、葉緑素増加の効果が確認されたのは、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢(実施例1・試験例1)、及び、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られた食酢中の含有糖を抽出調整したもの(実施例2・比較例1)についてのみであり、甲第1号証に「本発明はこの実施例に限定されるものではない。」という記載があるからといって、分岐オリゴ糖を主成分としない他の有機酸を用いて葉緑素の含有量を増加させることが、甲第1号証に記載されているとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)甲2方法発明を主引例とした場合
ア 対比
本件訂正発明1と甲2方法発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明1は「植物体葉緑素増加方法」に係る発明であるから、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物」における「有効成分」とは、植物体葉緑素の増加に有効な成分を意味すると解される。
甲2方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「プルーン酢」とされるところ、「合成酢」や「プルーン酢」などの「食酢」に「有機酸」である「酢酸」が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識である。また、甲2方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「プルーン酢」としか記載されていないため、甲2方法発明の「食酢を原料とする病気と虫の予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然である。そうすると、甲2方法発明の「原材料が合成酢及びプルーン酢である」「病気と虫の予防スプレー」の内容物と、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」とは、「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」である点で共通する。
(イ)甲2方法発明において、組成物を準備する工程を備えることは自明であり、上記(ア)の対比を踏まえると、甲2方法発明は、本件訂正発明1の「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程」に相当する構成を備える。
(ウ)甲2方法発明の「病気と虫の予防スプレー」を「葉の表裏や茎にまんべんなくスプレー」する工程と、本件訂正発明1の「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」とは、「組成物で植物体を処理する工程」で共通する。
(エ)「合成酢」や「プルーン酢」などの「食酢」に「酢酸」が含まれることは技術常識であるから、甲2方法発明は、本件訂正発明1の「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」との構成を備える。
(オ)以上を総合すると、本件訂正発明1と甲2方法発明とは、
「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、方法。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点2A)
本件訂正発明1は、有機酸を有効成分として含む組成物によって「植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程を含む植物体葉緑素増加方法」であるのに対し、甲2方法発明は、そのように特定されない点。

イ 判断
本件訂正発明1と甲2方法発明とは、相違点2Aで相違するから、本件訂正発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明1が甲第2号証に記載された発明であることについて、概略以下のとおり主張している。
甲第2号証の第13頁には、「自社試験」の結果として、何も処理せずそのまま栽培した無処理の葉の写真と、定植後、1日1回処理20日後の処理区の葉の写真とが比較可能な形態で載せられており、処理区の葉の方が無処理区の葉に比べて緑が濃く鮮やかであるところ、緑色が濃く、鮮やかである葉の方が葉緑素の量が多いことは明白であり、甲2発明は、合成酢、ぶどう酢、プルーン酢、黒酢、リンゴ酢を有効成分として含む組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素を増加させる方法であり、本件特許発明1の構成要件を全て開示している。(申立書第21頁第7〜21行)
(イ)主張の検討
上記主張については、上記第4の2(2)ウ(イ)で甲2発明について検討したのと同様の理由により、甲2方法発明が組成物を葉面散布することによって、葉の葉緑素が増加するものであるとはいえず、上記申立人の主張は採用できない。

エ 小括
本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(3)甲3方法発明を主引例とした場合
ア 対比
本件訂正発明1と甲3方法発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明1は「植物体葉緑素増加方法」に係る発明であるから、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物」における「有効成分」とは、植物体葉緑素の増加に有効な成分を意味すると解される。
甲3方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「りんご酢」とされるところ、「合成酢」や「りんご酢」などの「食酢」に「有機酸」である「酢酸」が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識である。また、甲3方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「りんご酢」としか記載されていないため、甲3方法発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然である。そうすると、甲3方法発明の「原材料が合成酢及びりんご酢である」「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物と、本件訂正発明1の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」とは、「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」の点で共通する。
(イ)甲3方法発明において、組成物を準備する工程を備えることは自明であり、上記(ア)の対比を踏まえると、甲3方法発明は、本件訂正発明1の「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程」に相当する構成を備える。
(ウ)甲3方法発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」を「なす」に「散布」する工程と、本件訂正発明1の「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」とは、「組成物で植物体を処理する工程」で共通する。
(エ)「合成酢」や「りんご酢」などの「食酢」に「有機酸」である「酢酸」が含まれることは技術常識であるから、甲3方法発明は、本件訂正発明1の「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」との構成を備える。
(オ)以上を総合すると、本件訂正発明1と甲3方法発明とは、
「有機酸を含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、方法。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点3A)
本件訂正発明1は、有機酸を有効成分として含む組成物によって「植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程を含む植物体葉緑素増加方法」であるのに対し、甲3方法発明は、そのように特定されない点。

イ 判断
本件訂正発明1と甲3方法発明とは、相違点3Aで相違するから、本件訂正発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明1が甲第3号証に記載された発明であることについて、概略以下のとおり主張している。
甲第3号証の第13頁には、甲第2号証と同様に、無処理の葉の写真と、処理区の葉の写真とが比較可能な形態で載せられており、処理区の葉の方が無処理区の葉に比べて緑が濃く鮮やかであるから、甲3発明は、合成酢、ぶどう酢、プルーン酢、黒酢、リンゴ酢を有効成分として含む組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素を増加させる方法であり、本件特許発明1の構成要件を全て開示している。(申立書第22頁第3〜8行)
(イ)主張の検討
上記主張については、上記第4の2(2)ウ(イ)で甲2発明について検討したのと同様の理由により、甲3方法発明が組成物を葉面散布することによって、葉の葉緑素が増加するものであるとはいえず、上記申立人の主張は採用できない。

エ 小括
本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明ではない。

2 本件訂正発明2の新規性
(1)甲2方法発明を主引例とした場合
ア 対比
本件訂正発明2と甲2方法発明とを対比する。
(ア)甲2方法発明の「葉の表裏や茎に」まんべんなくスプレーし、「アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどの害虫」を「予防する方法」は、本件訂正発明2の「植物体に対する害虫定着阻害方法」に相当する。
(イ)甲2方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「プルーン酢」とされるところ、「合成酢」や「プルーン酢」などの「食酢」に「有機酸」である「酢酸」が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識である。また、甲2方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「プルーン酢」としか記載されていないため、甲2方法発明の「食酢を原料とする病気と虫の予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然である。そうすると、甲2方法発明の「原材料が合成酢及びプルーン酢である」「病気と虫の予防スプレー」の内容物は、本件訂正発明2の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く」に相当する。
そして、甲2方法発明において、組成物を準備する工程を備えることは自明であるから、甲2方法発明は、本件訂正発明2の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程」に相当する構成を備える。
(ウ)甲2方法発明の「病気と虫の予防スプレー」を「葉の表裏や茎にまんべんなくスプレー」する工程と、本件訂正発明2の「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」とは、「組成物で植物体を処理する工程」で共通する。
(エ)「合成酢」や「プルーン酢」などの「食酢」に「酢酸」が含まれることは技術常識であるから、甲2方法発明は、本件訂正発明2の「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」に相当する構成を備える。
(オ)以上を総合すると、本件訂正発明2と甲2方法発明とは、
「植物体に対する害虫定着阻害方法であって、
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、害虫定着阻害方法。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点2B)
本件訂正発明2は、前記組成物で植物体を処理することによって「前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、前記植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程と、」を含むのに対し、甲2方法発明は、そのように特定されない点。

イ 判断
本件訂正発明2と甲2方法発明とは、相違点2Bで相違するから、本件訂正発明2は甲第2号証に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明2が甲第2号証に記載された発明であることについて、概略以下のとおり主張している。
a 上述したように・・・組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させる工程も、甲2発明は含んでいる。(申立書第22頁下から5〜2行)
b 「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」について、甲2発明は、甲第2号証に「ブドウ酢に含まれるリン・カリウムなどにより果実を元気にします」、「プルーン酢に含まれる鉄分とカルシウムによりトマトが元気に育ちます」とあるとおり、果実や野菜を元気にする効果を期待して使用されるものであるから、葉が元気になっているかどうかは使用者の重要な関心事であり、合成酢、ぶどう酢、プルーン酢、黒酢、リンゴ酢を有効成分として含む組成物で処理した後、効果が思っているよりも低くて葉の色が薄く、葉緑素の増加がみられなければ、処理を継続すると判断して当該組成物で処理し、一方、効果が思っている程度で葉の色が濃く鮮やかになり、葉緑素の増加がみられれば、処理を継続しないと判断するのは当然のことである。また、当該工程は、植物体を育てている者が経験的に行っていた工程でもある。(申立書第23頁第14〜24行)

(イ)主張の検討
a 上記(ア)aについて
上記(ア)aの主張については、上記第4の2(2)ウ(イ)で甲2発明について検討したのと同様の理由により、甲2方法発明が組成物を葉面散布することによって、葉の葉緑素が増加するものであるとはいえず、上記申立人の主張は採用できない。
b 上記(ア)bについて
上記(ア)aの主張について、上記aにおいて検討したように、甲2方法発明は、組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させる工程を開示しない。そうすると、前提となる工程が存在しないのであるから、その工程に続く「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する」工程も、当然、開示しない。
また、上記(ア)bで申立人が言及する甲第2号証中のリン・カリウムなどにより果実を元気にすることや、鉄分とカルシウムによりトマトが元気に育つことの記載は、「組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させる工程」及び「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」について何らの記載も示唆もしていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
本件訂正発明2は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(2)甲3方法発明を主引例とした場合
ア 対比
本件訂正発明2と甲3方法発明とを対比する。
(ア)甲3方法発明の「なす」に、「アブラムシが定着していない状態」となるようにする方法は、本件訂正発明2の「植物体に対する害虫定着阻害方法」に相当する。
(イ)甲3方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「りんご酢」とされるところ、「合成酢」や「りんご酢」などの「食酢」に「有機酸」である「酢酸」が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識である。また、甲3方法発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「りんご酢」としか記載されていないため、甲3方法発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然である。そうすると、甲3方法発明の「原材料が合成酢及びりんご酢である」「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物は、本件訂正発明2の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」に相当する。
そして、甲3方法発明において、組成物を準備する工程を備えることは自明であるから、甲3方法発明は、本件訂正発明2の「有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程」に相当する構成を備える。
(ウ)甲3方法発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」を「なす」に「1日1回十分量を散布」する工程と、本件訂正発明2の「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」とは、「組成物で植物体を処理する工程」で共通する。
(エ)「合成酢」や「りんご酢」などの「食酢」に「酢酸」が含まれることは技術常識であるから、甲3方法発明は、本件訂正発明2の「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」に相当する構成を備える。
(オ)以上を総合すると、本件訂正発明2と甲3方法発明とは、
「植物体に対する害虫定着阻害方法であって、
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、害虫定着阻害方法。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点3B)
本件訂正発明2は、前記組成物で植物体を処理することによって「前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、前記植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程と、」を含むのに対し、甲3方法発明は、そのように特定されない点。

イ 判断
本件訂正発明2と甲3方法発明とは、相違点3Bで相違するから、本件訂正発明2は甲第3号証に記載された発明ではない。

ウ 小括
本件訂正発明2は、甲第3号証に記載された発明ではない。

3 本件訂正発明3の新規性
(1)甲3発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)甲3発明の「病害虫予防スプレー」は、「アブラムシ、コナジラミ、ハダニ」を「予防する」ものであるから、組成物の用途である本件訂正発明3の「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤」と甲3発明の「病気と虫の予防スプレー」が「アブラムシ、コナジラミ、ハダニ」を「予防する」こととは、「害虫定着阻害剤」の点で共通する。
(イ)「合成酢」や「りんご酢」などの「食酢」に酢酸が含まれること、及び、食酢を葉の表裏や茎にまんべんなくスプレーして用いるにあたり、食酢が希釈して用いられることは技術常識であるから、甲3発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物が「組成物」であることは明らかであり、また、甲3発明は、原材料である「食酢」について「合成酢」及び「りんご酢」としか記載されていないため、甲3発明の「食酢からつくられた病害虫予防スプレー」の内容物は、「分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする」ものではないと解するのが自然であるから、上記(ア)の対比を踏まえると、本件訂正発明3の「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く」と甲3発明の「病害虫予防スプレー」の内容物とは、「害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)」の点で共通する。
(ウ)甲3発明は、害虫定着阻害剤として用いられる組成物の有効成分が食酢であることは明らかである。そして、「食酢」に酢酸が含まれることは技術常識であるから、甲3発明は、本件訂正発明3の「有機酸を有効成分として含有し、前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、」に相当する構成を備える。
(エ)甲3発明が、「なす」を対象とし、「アブラムシ、コナジラミ、ハダニ」を予防することは、本件訂正発明3の「前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である」ことに相当する。
(オ)そうすると、本件訂正発明3と甲3発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、
有機酸を有効成分として含有し、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)。

(相違点3C)
組成物が、本件訂正発明3では、「葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤」として用いられるものであるのに対し、甲3発明は、「葉緑素増加剤」として用いられるものではない点。

イ 判断
本件訂正発明3と甲3発明とは、相違点3Cで相違するから、本件訂正発明3は甲第3号証に記載された発明ではない。

ウ 小括
本件訂正発明3は、甲第3号証に記載された発明ではない。

4 本件訂正発明1の進歩性
(1)甲1方法発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明1と甲1方法発明との対比は、上記1(1)アで検討したとおりであり、本件訂正発明1と甲1方法発明とは、相違点1Aで相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1Aについて
分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることは、甲第1号証ないし甲第3号証には、記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
そうすると、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び周知の技術事項から相違点1Aに係る発明の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明1が甲1方法発明から容易に想到し得たものであることについて、概略以下のとおり主張している。
食酢を葉面散布することが知られているのであれば、食酢を他の有機酸に置き換えてみようと考えるのは開発活動を行っている当業者であれば当然のことであり、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く組成物を使用することに困難性や意外性は全くない。(令和3年11月26日付け意見書第2頁第8〜13行)
(イ)主張の検討
上記1(1)で検討したように、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物を用いて葉緑素の含有量を増加させることは、甲第1号証に記載されているとはいえない。また、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸で植物体を処理することで葉緑素が増加することは、甲第2号証及び甲第3号証にも記載されておらず、周知の技術事項であるともいえない。
そうすると、甲1方法発明の食酢を、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸で置換した場合に、本件訂正発明1の「組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」を備えるものとなるとは直ちには認められない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(2)甲2方法発明、甲3方法発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明1と甲2方法発明、甲3方法発明との対比は、それぞれ、上記1(2)ア、1(3)アで検討したとおりであり、本件訂正発明1と甲2方法発明、甲3方法発明とは、それぞれ、相違点2A、相違点3Aで相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点2A、3Aについて
相違点2A、3Aは、同様の相違点であるので、あわせて検討する。
a 本件訂正発明1の組成物は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものである。
b 分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることは、甲第1号証ないし甲第3号証には、記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
c そうすると、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び周知の技術事項から、相違点2Aまたは3Aに係る、有機酸を有効成分として含む組成物であって、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものによって植物体を処理することによって「前記植物体の葉緑素を増加させる工程を含む植物体葉緑素増加方法」とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明1が甲2方法発明または甲3方法発明から容易に想到し得たものであることについて、概略以下のとおり主張している。
甲第2号証の第13頁には、「自社試験」の結果として、何も処理せずそのまま栽培した無処理の葉の写真と、定植後、1日1回処理20日後の処理区の葉の写真とが比較可能な形態で載せられており、処理区の葉の方が無処理区の葉に比べて緑が濃く鮮やかであるところ、緑色が濃く、鮮やかである葉の方が葉緑素の量が多いことは明白であり、甲2発明は、合成酢、ぶどう酢、プルーン酢、黒酢、リンゴ酢を有効成分として含む組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素を増加させる方法であり、本件特許発明1の構成要件を全て開示している。
・・・
仮に、無処理区の葉の写真と処理区の葉の写真とで葉緑素の増加を数値的に明確に示すことができなかったとしても、葉の色の相違から処理区の葉の方が、葉緑素が多いことは当業者が見れば明らかである。(申立書第21頁第7〜25行)。
(イ)主張の検討
上記第4の2(2)ウ(イ)で検討したとおり、甲第2号証は、「組成物を、スプレーで葉面散布することによって葉の葉緑素が増加する」ことが示されているとはいえないものであり、本件訂正発明1の進歩性の存否は、葉緑素の増加を数値的に明確に示されるか否かによるものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
本件訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明、または従来周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件訂正発明2の進歩性
(1)甲1方法発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明2と甲1方法発明とを対比する。
a 本件訂正発明2が「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」を含み、本件訂正発明2の「有機酸を有効成分として含む組成物」における「有効成分」が、植物体葉緑素の増加に有効な成分を含むと解されることを踏まえると、上記1(1)ア(ア)ないし(カ)でした本件訂正発明1と甲1方法発明との対比は、本件訂正発明2と甲1方法発明との対比においても同様である。
b 甲1方法発明において、「作物栄養補助剤」を「製造」し、「シバ草に葉面散布」することで「葉緑素含有量」を「増加」し、シバ草の「生育」を「促進」する「方法」と、本件発明2の「植物体に対する害虫定着阻害方法」とは、「植物体に対する方法」である点で共通する。
c そうすると、本件訂正発明2と甲1方法発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「有機酸を有効成分として含む組成物を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体に対する方法。」

(相違点1B−1)
「前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程」における「組成物」が、本件訂正発明2は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものであるのに対し、甲1方法発明は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢である点。
(相違点1B−2)
本件訂正発明2は、「植物体に対する害虫定着阻害方法」であるのに対し、甲1方法発明は、「植物体に対する害虫定着阻害方法」とはされていない点。
(相違点1B−3)
本件訂正発明2は、「前記植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」をさらに含むのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1B−1について検討する。
a 分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることは、甲第1号証ないし甲第3号証には、記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
b 甲第4号証は、摘記は省略するが、アブラムシの色の嗜好性について記載した論文であって、有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させることに関して、何ら記載するものではない。
c そうすると、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術事項から本件訂正発明2の相違点1B−1に係る発明の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明2が甲1方法発明から容易に想到し得たものであることについて、概略以下のとおり主張している。
甲4発明に接した当業者が、葉の色をアブラムシの好まない色である緑色にすることでアブラムシの防除が可能になることを知った場合に、甲1発明の葉緑素の含有量を増加させる方法を適用して、本件特許発明2のような植物体に対する害虫定着阻害法に想到することは何らの困難性もない。(申立書第25頁下から7〜4行))
(イ)主張の検討
甲第1号証ないし甲第4号証には、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることについて記載も示唆もないものであり、本件訂正発明2の進歩性の存否は、甲1方法発明から害虫定着阻害方法を想到し得たか否かによらない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(2)甲2方法発明、甲3方法発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明2と甲2方法発明、甲3方法発明との対比は、それぞれ、上記2(1)ア、2(2)アで検討したとおりであり、本件訂正発明2と甲2方法発明、甲3方法発明とは、それぞれ、相違点2B、相違点3Bで相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点2B、3Bについて
相違点2B、3Bは、同様の相違点であるので、あわせて検討する。
a 本件訂正発明2の組成物は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものである。
b 分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることは、甲第1号証ないし甲第3号証には、記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
c 甲第4号証は、摘記は省略するが、アブラムシの色の嗜好性について記載した論文であって、有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させることに関して、何ら記載するものではない。
d そうすると、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術事項から本件訂正発明2の相違点2B、3Bに係る発明の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明2が甲2方法発明または甲3方法発明から容易に想到し得たものであることについて、概略以下のとおり主張している。
仮に、「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」の有無において本件特許発明2と甲2発明とが相違していたとしても、「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」は上述したように植物体を育てている者が経験的に行うことが通常のことであり、「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」を付加することは容易になし得ることである。(申立書第24頁第2〜10行)。
(イ)主張の検討
甲第1号証ないし甲第4号証には、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含む組成物で植物体を処理することによって植物体の葉緑素を増加させることについて記載も示唆もないものであり、本件訂正発明2の進歩性の存否は、「植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程」の有無によらない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
本件訂正発明2は、甲第1号証とのその余の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明、または従来周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 本件訂正発明3の進歩性
(1)甲1発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明3と甲1発明とを対比する。
本件訂正発明3と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「作物栄養補助剤」は、施肥によって、植物体の「作物の緑化とその期間の延長」をさせるものであり、「シバ草」に用いることで「葉緑素含有量は増加」するから、本件訂正発明3の「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物」と、「植物体葉緑素の増加に用いられる組成物」である点で共通する。
b 甲1発明の「作物栄養補助剤」に、「食酢」が「配合」されることは、「食酢」が、「栄養素の体内での燃焼を促進してエネルギーの利用率を高め」、「酢酸をはじめとする有機酸がエネルギーを発生」するものであり、「作物の緑化」に寄与しているといえるから、本件訂正発明3の「有機酸を有効成分として含有し、」に相当する。
c 甲1発明の「作物栄養補助剤」が含む「食酢」が、「酢酸をはじめとする有機酸」を含み、「酢酸以外の有機酸として、例えば、リンゴ酸、クエン酸等」が含まれることは、本件訂正発明3において、「組成物」が含む「前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である」ことに相当する。
d 甲1発明において、「作物栄養補助剤」が「キャベツ、チヤ、タバコ、アスパラガス、カンショ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ、バナナ」に施肥されることは、本件訂正発明3の「前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、」に相当する。
e そうすると、本件訂正発明3と甲1発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「植物体葉緑素増加剤として用いられる組成物であって、
有機酸を有効成分として含有し、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種である、組成物。」

(相違点1C−1)
植物体葉緑素増加剤として用いられる組成物が、本件訂正発明3は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものであるのに対し、甲1発明は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢である点。
(相違点1C−2)
本件訂正発明3は、組成物の用途が、「植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤」であり、「前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、」と特定されるのに対し、甲1発明は、「害虫定着阻害剤として用いられる」とは特定されておらず、定着阻害対象の害虫も特定されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1C−1について検討する。
a 分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を有効成分として含有する組成物を植物体葉緑素増加剤とすることは、甲第1号証ないし甲第3号証には、記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
b 甲第4号証は、摘記は省略するが、アブラムシの色の嗜好性について記載した論文であって、有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させることに関して、何ら記載するものではない。
c そうすると、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術事項から本件訂正発明3の相違点1C−1に係る発明の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、本件訂正発明3が甲1発明から容易に想到し得たものであることについて、概略以下のとおり主張している。
甲4発明に接した当業者が、葉の色をアブラムシの好まない色である緑色にすることでアブラムシの防除が可能になることを知った場合に、甲1発明の葉緑素の含有量を増加させる組成物を適用して、本件特許発明3のような植物体に対する害虫定着阻害剤に想到することは何らの困難性もない。
(イ)主張の検討
甲第1号証ないし甲第4号証には、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を含有する組成物を葉緑素含有量増加剤として用いることについて記載も示唆もないものであり、本件訂正発明3の進歩性の存否は、甲1発明から害虫定着阻害剤を想到し得たか否かによらない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(2)甲2発明、甲3発明を主引例とした場合
ア 対比
(ア)本件訂正発明3と甲2発明、甲3発明との対比は、それぞれ、上記第4の2(2)ア、3(1)アで検討したとおりであり、本件訂正発明2と甲2発明、甲3発明とは、それぞれ、相違点2C、相違点3Cで相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点2C、3Cについて
相違点2C、3Cは、同様の相違点であるので、あわせて検討する。
a 本件訂正発明2の組成物は、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除くものである。
b 分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く食酢ないし有機酸を有効成分として含有する組成物を植物体葉緑素増加剤とすることは、甲第1号証ないし甲第3号証には記載も示唆もされておらず、また、周知の技術事項でもない。
c 甲第4号証は、摘記は省略するが、アブラムシの色の嗜好性について記載した論文であって、有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を植物体葉緑素増加剤とすることに関して、何らの記載も示唆もするものではない。
d そうすると、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術事項から本件訂正発明3の相違点2C、3Cに係る発明の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明3は、甲1発明とのその余の相違点について検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明、または従来周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び申立人が申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加方法。
【請求項2】
植物体に対する害虫定着阻害方法であって、
有機酸を有効成分として含む組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)を準備する工程と、
前記組成物で植物体を処理することによって前記植物体の葉緑素を増加させる工程と、
前記植物体の葉緑素の増加の程度に応じて前記組成物による処理を継続するか否かを判断する工程と、
を含み、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、害虫定着阻害方法。
【請求項3】
植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物であって、
有機酸を有効成分として含有し、
前記有機酸が、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体が、キャベツ、茶、タバコ、アスパラガス、ウド、サツマイモ、バレイショ、ホップ、サフラン、ムギ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ及びバナナからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、
前記植物体への定着阻害対象の害虫が、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ガ類及びハエ類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、植物体葉緑素増加剤及び害虫定着阻害剤として用いられる組成物(ただし、分岐オリゴ糖含有糖類をアルコール発酵と酢酸発酵することにより得られ、且つ、分岐オリゴ糖を主成分とする食酢を除く。)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-27 
出願番号 P2017-244039
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A01G)
P 1 651・ 121- YAA (A01G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
土屋 真理子
登録日 2020-11-27 
登録番号 6800834
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 植物体葉緑素増加方法及び害虫定着阻害方法並びにこれらの方法に適用可能な組成物  
代理人 太田 千香子  
代理人 山田 泰之  
代理人 太田 千香子  
代理人 山田 泰之  

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