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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F |
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管理番号 | 1388362 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-06-18 |
確定日 | 2022-06-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6804567号発明「組成物、膜、赤外線透過フィルタ、固体撮像素子、画像表示装置および赤外線センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6804567号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−19〕について訂正することを認める。 特許第6804567号の請求項1ないし5、7ないし19に係る特許を維持する。 特許第6804567号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 特許異議申立の経緯 特許第6804567号(請求項の数19。以下、「本件特許」という。)は、2018年(平成30年)1月25日(優先権主張 平成29年1月30日)を国際出願日とする特許出願(特願2018−564627号)に係るものであって、令和2年12月4日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年12月23日である。)。 その後、令和3年6月18日に、本件特許の請求項1〜19に係る特許に対して、特許異議申立人である特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 以後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年11月 4日付け 取消理由通知書 令和4年 1月 6日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 1月20日付け 通知書(申立人宛て) 同年 2月 7日 意見書(申立人) 2 証拠方法 (1)申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証 国際公開第2016/190162号 ・甲第2号証 国際公開第2016/158114号 ・甲第3号証 特開2008−189747号公報 ・甲第4号証 特開2015−25116号公報 ・甲第5号証 特開平11−209554号公報 ・甲第6号証 特開2002−226587号公報 ・甲第7号証 特開平11−172128号公報 ・甲第8号証 国際公開第2016/129324号 以下、「甲第1号証」〜「甲第8号証」を「甲1」〜「甲8」という。 第2 訂正の適否についての判断 特許権者は、令和3年11月4日付け取消理由通知において特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和4年1月6日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1〜19について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正事項1は、以下の訂正事項を含むものである。 ア 訂正前の請求項1の「遮光材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、」の後に、「前記遮光材は、有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており、」を加入する(以下「訂正事項1−1」という。)。 イ 訂正前の請求項1に「前記化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、」とあるのを、「前記化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり、」に訂正する(以下「訂正事項1−2」という。)。 ウ 訂正前の請求項1に、「前記組成物の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である、」とあるのを、「前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である、」に訂正する(以下「訂正事項1−3」という。)。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項6を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項7に「請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7、8のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の請求項10に「請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜9のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の請求項11に「請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜10のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (8)訂正事項8 訂正前の請求項12に「請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜11のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (9)訂正事項9 訂正前の請求項13に「請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜12のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (10)訂正事項10 訂正前の請求項14に「請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜13のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (11)訂正事項11 訂正前の請求項15に「請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。」とあるのを、「請求項1〜5、7〜14のいずれか1項に記載の組成物。」に訂正する。 (12)一群の請求項 請求項2〜19はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正は、一群の請求項ごとに対してなされたものである。 2 判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1−1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1−1による訂正は、訂正前の請求項1における「遮光材」を、「機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (イ)実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について 本件明細書等の特許請求の範囲の請求項12には、「前記遮光材は、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。」と記載され、同請求項13には、「前記遮光剤は、有機系黒色着色剤を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。」と記載されているから、訂正事項1−1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。 イ 訂正事項1−2について (ア)訂正の目的について 訂正事項1−2による訂正は、訂正前の請求項1における「グラフト鎖を有する繰り返し単位を含」む「化合物A」について、「グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 (イ)実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について 本件明細書等の特許請求の範囲の請求項6には、「前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物」と記載されているから、訂正事項1−2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえ、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないことは明らかである。 ウ 訂正事項1−3について (ア)訂正の目的について 訂正事項1−3による訂正は、訂正前の請求項1における「組成物」が、「波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」ものを、「前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」とする訂正である。この訂正は、吸光度を測定する対象物が明確でなかったものを、吸光度を測定する対象物を「ガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜」と特定して明瞭にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 (イ)実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について 当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0019】には、吸光度Aλは、Aλ=−log(Tλ/100)(Aλは、波長λにおける吸光度であり、Tλは、波長λにおける透過率(%)である。)により定義されることが記載され、吸光度の値は、溶液の状態で測定した値であってもよく、組成物を用いて製膜した膜での値であってもよいこと、また、膜の状態で吸光度を測定する場合は、ガラス基板上にスピンコート等の方法により、乾燥後の膜の厚さが所定の厚さとなるように組成物を塗布し、ホットプレートを用いて100℃、120秒間乾燥して調製した膜を用いて測定することが好ましい、と記載されている。そして、同【0230】には、実施例においては、各組成物をガラス基板上にスピンコートし、ポストベーク後の膜厚が下記表に記載の膜厚となるように塗布し、100℃、120秒間ホットプレートで乾燥した後、さらに、200℃のホットプレートを用いて300秒間加熱処理(ポストベーク)を行い、膜を形成した。膜が形成されたガラス基板を、紫外可視近赤外分光光度計U−4100(日立ハイテク製)(ref.ガラス基板)を用いて、波長300〜1300nmの範囲における透過率、波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Amin、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxを測定した、と記載されている。 これらの記載によれば、吸光度を測定する対象物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜とすることは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえ、また、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (3)訂正事項3〜11について 訂正事項3〜11による訂正は、上記訂正事項2による訂正に伴い、引用する請求項から請求項6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。 (4)訂正事項のまとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1〜11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6804567号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の次のとおりのものである(以下、請求項1〜19に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明19」といい、本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 遮光材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、 前記遮光材は、有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており、 前記化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり、 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種であり、 前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である、組成物。 【請求項2】 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基、スチレン基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基である、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 前記グラフト鎖は、ポリエステル構造、ポリエーテル構造、ポリ(メタ)アクリル構造、ポリウレタン構造、ポリウレア構造およびポリアミド構造から選ばれる少なくとも1種の構造を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 前記グラフト鎖は、ポリエステル構造を含む、請求項4に記載の組成物。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記化合物Aは、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する繰り返し単位と、グラフト鎖を有する繰り返し単位とを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項8】 前記化合物Aは、下記式(A−1−1)で表される繰り返し単位と、下記式(A−1−2)で表される繰り返し単位とを含む、請求項1〜5、7のいずれか1項に記載の組成物; 【化1】 式(A−1−1)において、X1は繰り返し単位の主鎖を表し、L1は単結合または2価の連結基を表し、Y1はラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する基を表す; 式(A−1−2)において、X2は繰り返し単位の主鎖を表し、L2は単結合または2価の連結基を表し、W1はグラフト鎖を表す。 【請求項9】 前記化合物Aは、更に、酸基を有する繰り返し単位を含む、請求項1〜5、7、8のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項10】 前記化合物Aのラジカル重合性のエチレン性不飽和基量が0.2〜5.0mmol/gである、請求項1〜5、7〜9のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項11】 前記化合物Aの酸価が20〜150mgKOH/gである、請求項1〜5、7〜10のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項12】 前記遮光材は、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している、請求項1〜5、7〜11のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項13】 前記遮光剤は、有機系黒色着色剤を含む、請求項1〜5、7〜12のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項14】 更に、近赤外線吸収剤を含む、請求項1〜5、7〜13のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項15】 請求項1〜5、7〜14のいずれか1項に記載の組成物から得られる膜。 【請求項16】 請求項15に記載の膜を有する赤外線透過フィルタ。 【請求項17】 請求項15に記載の膜を有する固体撮像素子。 【請求項18】 請求項15に記載の膜を有する画像表示装置。 【請求項19】 請求項15に記載の膜を有する赤外線センサ。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由の概要 (1)取消理由1(明確性) 本件訂正前の請求項1〜19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 取消理由1(明確性)の内容の概要は、「第5 2(1)ア」で示すとおりである。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件訂正前の請求項1〜19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 取消理由2(サポート要件)の内容の概要は、「第5 2(2)」で示すとおりである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書でした申立の理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(新規性) 本件訂正前の請求項1〜19に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1又は甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(進歩性) 本件訂正前の請求項1〜19に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明及び甲3〜甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 申立理由3(サポート要件)の内容の概要は、「第5 3(2)ア」で示すとおりである。 (4)申立理由4(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件訂正前の請求項1〜19に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 記 申立理由4(明確性)の内容の概要は、「第5 3(3)ア」で示すとおりである。 第5 当審の判断 当審は、本件発明6に係る特許については、特許異議申立を却下することとし、また、当審が通知した取消理由1及び2、並びに申立人がした申立理由1〜4によっては、いずれも、本件発明1〜5、7〜19に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 申立ての却下 上記第2及び第3で示したとおり、請求項6は、本件訂正により削除されているので、本件発明6に係る特許についての申立てを却下する。 2 取消理由について (1)取消理由1(明確性)について ア 取消理由1(明確性)の概要 取消理由1(明確性)の概要は、以下に示すとおりである。 本件訂正前の請求項1に係る発明は、組成物が「波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」という特定を含む発明である。 この組成物の吸光度を測定する測定方法について、発明の詳細な説明の段落【0019】には、溶液の状態で測定した値であってもよく、組成物を用いて製膜した膜での値であってもよいことが記載されるところ、同【0215】以降に記載された実施例においては、所定の膜厚の膜に対し光度計を使用して吸光度を測定したこと、その測定値及びAmin/Bmaxの比の値が記載されている。 しかしながら、吸光度を測定するに当たり、試料セルの光路長を調整して組成物の状態で吸光度を測定する場合と、膜厚を調整して膜の状態で吸光度を測定する場合とで、吸光度が同じ値となるという技術常識はなく、両者の値が同じであるとは直ちにはいえないので、Amin/Bmaxの比の値も同様にその測定方法により異なる値となってしまうため、本件発明1は明確であるとはいえない。 イ 検討 (ア)特許法第36条第6項第2号の考え方について 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (イ)判断 本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、吸光度に関しては、「前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」とされた。 このように、本件発明1においては、吸光度を測定するに当たり、膜厚を調整して膜の状態で吸光度を測定すると特定されたから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではなく取消理由1(明確性)が解消したことは明らかである。 よって、取消理由1(明確性)は理由がない。 (2)取消理由2(サポート要件)について ア 取消理由2(サポート要件)の概要 取消理由2(サポート要件)の概要は、以下に示すとおりである。 (ア)本件訂正前の請求項に係る発明の課題について 本件訂正前の請求項に係る発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0008】の記載からすると、遮光材として複数の着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することであると認める。 (イ)化合物Aについて 本件訂正前の請求項1に係る発明において化合物Aは、「ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上」であり、「グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み」「ラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種であ」ことが特定されているが、グラフト鎖の長さが特定されていない。 一方、発明の詳細な説明の記載をみると、化合物Aのグラフト鎖の長さが短い場合には、立体反発効果が生じず遮光材が凝集してしまうと解され、その結果、色ムラが改善せず本件発明の課題が解決できると認識できるとはいえないといえる。また、化合物Aのグラフト鎖の長さが短い場合であっても、本件発明の課題が解決できると認識できる技術常識もない。 そうすると、化合物Aのグラフト鎖の長さが特定されていない本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題が解決できると認識できる範囲であるとはいえない。 (ウ)遮光剤について 本件訂正前の請求項1に係る発明では、組成物には遮光材は含むと特定されているだけであり、遮光材として複数の着色剤を含むという特定はされていない。 一方、本件発明の課題は、上記(ア)で示したとおり、遮光材として複数の着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することであるといえ、一般的に色ムラとは複数の着色剤を含むことにより生じる課題であるといえる。そして、発明の詳細な説明の実施例においても、複数の着色剤を含む分散液を用いた場合に色ムラに優れることが具体的なデータと共に記載されている。 そうすると、遮光材として複数の着色剤を含むということが特定されていない本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題が解決できると認識できる範囲であるとはいえない。 イ 判断 (ア)特許法第36条第6項第1号の考え方について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)本件発明の課題について a 本件発明の課題を検討するに当たり、発明の詳細な説明の記載をみてみると、段落【0007】には「製膜時に遮光材などが凝集して色ムラが生じやすいことが分かった。特に、遮光材として複数の着色剤を含む場合においては、凝集が生じやすく、色ムラが生じやすかった。」と記載され、この背景技術の下、同【0008】には「よって、本発明の目的は、色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することにある。」と記載されている。 b また、特許権者は、令和4年1月6日に提出した意見書において、「色ムラは、着色剤が1種のみしか含まない場合であっても起こりうる課題である。すなわち、着色剤が1種のみしか含まない場合であっても、膜中で着色剤が局所的に凝集することで、膜の透過率が面内でばらつき、その結果、色ムラとなることもある。 また、本件特許の明細書の段落0007には、「しかしながら、本発明者の検討によれば、このような組成物を用いて形成される膜においては、製膜時に遮光材などが凝集して色ムラが生じやすいことが分かった。特に、遮光材として複数の着色剤を含む場合においては、凝集が生じやすく、色ムラが生じやすかった。」とあり、着色剤が1種のみの場合であっても色ムラが生じることがあることを示唆している。」(令和4年1月6日提出の意見書第5頁第7〜16行)と説明する。 c これらのことからすると、本件発明の課題は、遮光材として着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することであると認める。 (ウ)本件発明1について a 本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみてみると、段落【0014】には、「本発明の組成物は、色ムラの抑制された膜を製造できる。このような効果が得られる理由としては次によるものであると推測される。化合物Aのラジカル重合性のエチレン性不飽和基や酸基と、遮光材とが相互作用することにより化合物Aが遮光材と近接し、遮光材は化合物Aに包まれるようにして組成物中に存在していると推測される。そして、この化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を有するので、グラフト鎖による立体障害によって遮光材の凝集などを抑制できると推測される。また、化合物Aはラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有するが、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、反応性に優れるため、遮光材の近傍で化合物Aが硬化すると考えられる。このため、製膜時において遮光材などの凝集を効果的に抑制できると推測される。このため、本発明によれば、色ムラの少ない膜を製造することができる推測される。」と記載されている。 また、同【0023】には、「本発明の組成物は、遮光材を含有する。本発明において、遮光材は、紫色から赤色の波長領域の光を吸収する色材であることが好ましい。・・・本発明において、遮光材は、以下の(A)および(B)の少なくとも一方の要件を満たすことが好ましい。 (1):2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している。 (2):有機系黒色着色剤を含む。(2)の態様において、更に有彩色着色剤を含有することも好ましい。」と記載されている。 さらに、同【0038】〜【0084】には、本件発明1で特定される化合物Aの具体的な記載がされている。 そして、段落【0215】以降に記載された実施例においては、段落【0221】に記載された【表9−1】及び【表9−2】をみると、顔料分散液として、複数の着色剤を含む分散液が用いられることが記載され、同【0230】〜【0233】の記載、特に【表10】の記載をみると、色ムラが少なく優れることが具体的なデータと共に記載されている。 b 加えて、特許権者は、令和4年1月6日に提出した意見書において、「色ムラは、着色剤が1種のみしか含まない場合であっても起こりうる課題である。すなわち、着色剤が1種のみしか含まない場合であっても、膜中で着色剤が局所的に凝集することで、膜の透過率が面内でばらつき、その結果、色ムラとなることもある。 また、本件特許の明細書の段落0007には、「しかしながら、本発明者の検討によれば、このような組成物を用いて形成される膜においては、製膜時に遮光材などが凝集して色ムラが生じやすいことが分かった。特に、遮光材として複数の着色剤を含む場合においては、凝集が生じやすく、色ムラが生じやすかった。」とあり、着色剤が1種のみの場合であっても色ムラが生じることがあることを示唆している。」(令和4年1月6日提出の意見書第5頁第7〜16行)と説明する。 c 上記した発明の詳細な説明の記載及び特許権者の説明に接した当業者であれば、本件発明1は、課題を解決できると認識できるといえることは明らかであるといえる。 (エ)化合物Aについて a 本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、化合物Aのグラフト鎖の長さに関しては、「前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり」とされた。 このように、本件発明1においては、化合物Aが有するグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上でありと特定され、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、上記(イ)で述べた取消理由が解消したことは明らかである。 b 令和4年2月7日に提出した意見書における申立人の主張 申立人は、同意見書において、上記の点に関係して、グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量の上限が規定されていない。本件明細書の発明の詳細な説明において記載される具体例は、上記重量平均分子量は1000〜7000程度のものが開示されているだけであり、極めて高分子量の場合には、溶剤に対する溶解性や、溶液中の挙動は大きく異なるため、遮光材に対する相互作用なども変化するから、この範囲を超える場合において、発明の課題を解決できると認識できない旨を主張する(同意見書第4頁第1〜26行)。 この点について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0063】には、「グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量(Mw)としては、1000以上であることが好ましく、1000〜10000であることがより好ましく、」と記載されており、請求項1にグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量の上限が規定されていなくても、実際上はここに記載された程度であるということができるから、申立人の主張は採用できない。 c 小括 よって、取消理由2(サポート要件)の(イ)は理由がない。 (オ)遮光剤について a 本件発明の課題について 本件発明の課題は、上記(イ)で述べたとおり、「遮光材として着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供すること」であり、当審が通知した令和3年11月4日付け取消理由通知書で示した「遮光材として複数の着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供すること」とは異なるものである。 以下、ここで示した本件発明の課題が解決できる認識できるかについて検討する。 b 判断 (a)本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、遮光材に関しては、「有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており」とされた。 (b)そこで、具体的に遮光材についてみてみると、遮光材が、「2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成して」いると特定される本件発明1は、課題を解決できると認識できるといえることは明らかであるといえ、また、遮光材が、「有機系黒色着色剤を含むものである」場合、すなわち、1つの着色剤を用いた場合であっても、着色剤が凝集し色ムラとなる課題が生じるといえ、発明の詳細な説明に記載された実施例の記載や段落【0014】の記載を参酌すれば、本件発明1で特定される化合物Aを用いた組成物により、本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 c 小括 したがって、取消理由2(サポート要件)の(ウ)は理由がない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人がした申立理由について (1)申立理由1及び2(新規性及び進歩性)について ア 各甲号証の記載事項 (ア)甲1 甲1には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「【請求項1】 可視域の光を遮光する色材と、赤外線吸収剤とを含有する着色組成物。 【請求項2】 前記可視域の光を遮光する色材は、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している、請求項1に記載の着色組成物。 【請求項3】 前記可視域の光を遮光する色材は、有機系黒色着色剤を含む、請求項1に記載の着色組成物。 ・・・ 【請求項10】 さらに、重合性化合物を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の着色組成物。」 (甲1b)「実施例 [0302]以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は、質量基準である。 [0303](試験例1) ・・・ [0304][顔料分散液2−1〜2−12、3−1、3−2の調製] 下記組成の混合液を、0.3mm径のジルコニアビーズを使用して、ビーズミル(減圧機構付き高圧分散機NANO−3000−10(日本ビーイーイー(株)製))で、3時間混合、分散して、顔料分散液を調製した。下記表には、該当する成分の使用量(単位:質量部)を示す。 表中の各成分の略語は以下である。 [0305] [表13] ・・・ [0308][可視域の光を遮光する色材] ・・・ ・黒色材1 :Irgaphor Black(BASF社製) ・・・ [0310][樹脂] ・・・ ・アルカリ可溶性樹脂1:下記構造(Mw:12000) [化79] ・・・ [0313] [表14] [表15] 」 (イ)甲2 甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2a)「【請求項1】 フッ素原子を含むオキシムエステル系光重合開始剤と、 エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、 アルカリ可溶性樹脂と、 着色剤と、 を含む着色感光性組成物であって、 前記着色感光性組成物を用いて、乾燥後の膜厚が2.0μmの膜を製膜した際に、前記膜の波長365nmにおける光学濃度が1.5以上である着色感光性組成物。」が記載されている。 (甲2b)「[0333]<試験例2> [チタンブラックA−1の作製] BET比表面積110m2/gの酸化チタン(「TTO−51N」商品名:石原産業製)を120g、BET表面積300m2/gのシリカ粒子(「AEROSIL(登録商標)300」、エボニック製)を25g、及び、分散剤(「Disperbyk190」(商品名:ビックケミー社製)を100g、イオン電気交換水を71g秤量し、KURABO製MAZERSTAR KK−400Wを使用して、公転回転数1360rpm、自転回転数1047rpmにて30分間処理することにより、均一な混合物水溶液を得た。この混合物水溶液を石英容器に充填し、小型ロータリーキルン(株式会社モトヤマ製)を用いて酸素雰囲気中で920℃に加熱した後、窒素で雰囲気を置換し、同温度でアンモニアガスを100mL/minで5時間流すことにより窒化還元処理した。終了後、回収した粉末を乳鉢で粉砕した。このようにして、粉末状でありSi原子を含む、比表面積85m2/gのチタンブラック(A−1)〔チタンブラック粒子及びSi原子を含む被分散体〕を得た。 [0334][チタンブラック分散物(TB分散液1)の調製] 下記組成1に示す成分を、攪拌機(IKA社製EUROSTAR)を使用して、15分間混合し、分散物aを得た。 得られた分散物aを、寿工業(株)製のウルトラアペックスミルUAM015を使用して、下記分散条件にて分散処理した。次いで、これを孔径0.45μmのナイロン製フィルタ(日本ポール(株)社製、DFA4201NXEY)を用いてろ過した。このようにして、チタンブラック分散物(以下、TB分散液1と表記する。)を得た。 [0335](組成1) ・上記のようにして得られたチタンブラック(A−1)・・・25質量部 ・樹脂1のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)30質量%溶液・・・25質量部 ・PGMEA・・・50質量部 ・樹脂1:下記構造。特開2013−249417号公報の記載を参照して合成した。なお、樹脂1の式中、xは43質量%、yは49質量%、zは8質量%であった。また、樹脂1の重量平均分子量は30000であり、酸価は60mgKOH/gであり、グラフト鎖の原子数(水素原子を除く)は117であった。 [化53] 」 (甲2c)「[0337]下記の表2に示す原料を、下記組成に示す割合で混合した後、孔径0.45μmのナイロン製フィルタ(日本ポール(株)社製、DFA4201NXEY)を用いてろ過して、着色組成物を調製した。 以下のメガファックRS−72−Kには、フッ素原子を有するアルキレン基、及び、アクリロイルオキシ基が含まれていた。より具体的には、メガファックRS−72−Kは、以下のように、式(B1−1)で表される繰り返し単位及び式(B3−1)で表される繰り返し単位が含まれ、重量平均分子量は7400であった。なお、式(B3−1)中、Xは、パーフルオロメチレン基またはパーフルオロエチレン基を表し、rは繰り返し単位数を表す。 [化54] [0338](組成) ・TB分散液1・・・63.9質量部 ・アルカリ可溶性樹脂(下記特定樹脂2または3)・・・10.24質量部 ・光重合開始剤・・・1.81質量部 ・重合性化合物・・・6.29質量部 ・界面活性剤・・・0.02質量部 ・溶剤(シクロヘキサノン)・・・4.66質量部 ・硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA)):10.65質量部 ・シランカップリング剤(KBM−4803(信越化学工業(株)製):0.36質量部」 (甲2d)「[0342] [表2] 」 (ウ)甲3 甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3a)「【請求項1】 (A)エチレン性不飽和二重結合がペンダントされた構造単位を少なくとも2以上含む枝ポリマー部を有するグラフトポリマーを含有することを特徴とする硬化性組成物。 ・・・ 【請求項3】 更に、(C)着色剤を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。」 (甲3b)「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、極めて高感度で硬化し、硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、硬化領域では硬質材料表面との密着性が高く、未硬化領域ではその除去性に優れる硬化性組成物を提供することを目的とし、この目的を達成することを第1の課題とする。 また、基板との密着性に優れ、所望の断面形状の着色パターンを備えたカラーフィルタ、及び該カラーフィルタを高い生産性で製造しうる製造方法を提供することを目的とし、この目的を達成することを第2の課題とする。 加えて、本発明の硬化性組成物に好適な新規グラフトポリマーを提供することを目的とし、この目的を達成することを第3の課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。 本発明の硬化性組成物は、(A)エチレン性不飽和二重結合がペンダントされた構造単位を少なくとも2以上含む枝ポリマー部を有するグラフトポリマーを含有することを特徴とする。 また、本発明の硬化性組成物は、(B)光重合開始剤、(C)着色剤、及び(D)増感剤の少なくとも1つを含有することが好ましい。」 (甲3c)「【0018】 本発明の硬化性組成物の作用は明確ではないが、以下のように推定される。 即ち、本発明の硬化性組成物中に含まれるグラフトポリマーは、運動性の高いグラフト枝ポリマー部にエチレン性不飽和二重結合性基(以下、単に「重合性基」と称する場合がある。)を有するため、重合の進行に伴う未反応の重合性基の運動性低下の度合いが小さく、重合反応が十分に進行する。また、露光感度が高いため、本発明の硬化性組成物を硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、深部まで(硬質基材の近くまで)重合が進行し、硬化領域では硬質材料表面との密着性が高くなる。 また、本発明の硬化性組成物中に含まれるグラフトポリマーは、枝ポリマー部を有するグラフト構造であるため、分子量のわりに占有体積が小さい。そのため、本発明の硬化性組成物を硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、未硬化領域では、現像液等による溶媒和や現像液中への拡散が速やかに進行し、結果的に、未硬化領域の優れた除去性を得ることができる。一方、硬化領域では、十分な硬化性が得られるために現像液等の影響を抑制することができる。したがって、本発明の硬化性組成物を用いたパターン形成においては、硬化領域における優れた硬化性と、未硬化領域における優れた除去性と、が両立され、所望の断面形状を有する良好なパターンが形成できるものと考えられる。」 (甲3d)「【0021】 <特定グラフトポリマー> 本発明の新規グラフトポリマー(特定グラフトポリマー)は、エチレン性不飽和二重結合がペンダントされた構造単位を少なくとも2以上含む枝ポリマー部を有することを特徴とする。 特定グラフトポリマーは、運動性の高いグラフト枝ポリマー部にエチレン性不飽和二重結合性基を有するため、重合の進行に伴う未反応のエチレン性不飽和二重結合性基の運動性低下の度合いが小さく、また、ペンダントする構造を変えることで、合成上、容易に幹ポリマー部と枝ポリマー部との極性差を付与でき、分散剤としても使用することができるため、重合反応を用いた硬化性組成物や、有機、又は無機顔料、金属等の微粒子を溶液中に分散した分散物、及びこれを含む硬化性組成物に用いることが好適である。」 (甲3e)「【0109】 <硬化性組成物> 本発明の硬化性組成物は、(A)本発明のグラフトポリマー(特定グラフトポリマー)を含有することを必須とし、その他、(B)光重合開始剤、(C)着色剤、(D)増感剤等を含有することが好ましい。 本発明の硬化性組成物は、極めて高感度で硬化し、硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、硬化領域では硬質材料表面との密着性が高く、未硬化領域ではその除去性に優れる。このことから、本発明の硬化性組成物は、3次元光造形やホログラフィー、カラーフィルタやフォトレジスト、平版印刷版材及びカラープルーフといった画像形成材料や、インク、塗料、接着剤、コーティング剤、歯科材料等の分野において好ましく使用することができる。特に、固体撮像素子用又はLCD用カラーフィルタ用途において、基板との密着性に優れ、所望の断面形状の着色パターンを形成することができる。 以下、本発明の硬化性組成物に含有される各成分について順次説明する。」 (甲3f)「【実施例】 【0288】 [合成例1:(A)特定グラフトポリマー(I)の合成] (A)特定グラフトポリマー(I)の具体的な合成方法(ステップ1〜3)を、以下に示す反応スキームを用いて説明する。 【0289】 【化54】 ・・・ 【0297】 [合成例2:特定グラフトポリマー(II)の合成] 特定グラフトポリマー(II)の具体的な合成方法(ステップ1〜4)を、以下に示す反応スキームを用いて説明する。 【0298】 【化55】 ・・・ 【0308】 また、合成例1、又は合成例2と同様の方法を用いて、前記構造の(A)特定グラフトポリマーの具体例(III)〜(IX)を合成した。 得られた(A)特定グラフトポリマー(I)〜(IX)、及び比較用ポリマー(X)の各物性を下記表1に示す。 【0309】 【表1】 【0310】 [実施例1] ここでは、液晶表示素子用途のカラーフィルタ形成用として顔料を含有する硬化性組成物を調製した例を挙げて説明する。 【0311】 〔A1.硬化性組成物の調製〕 A1−1.顔料分散液の調製 顔料としてC.I.ピグメントグリーン36とC.I.ピグメントイエロー219との30/70(質量比)混合物40質量部(一次粒経32nm)、分散剤としてBYK2001(Disperbyk:ビックケミー(BYK)社製、固形分濃度45.1質量%)50質量部(固形分換算約22.6質量部)、(A)特定グラフトポリマー(I)5質量部、及び溶媒として3−エトキシプロピオン酸エチル110質量部からなる混合液を、ビーズミルにより15時間混合・分散して、顔料分散液P1を調製した。 顔料分散液P1について、顔料の平均粒径を動的光散乱法(Microtrac Nanotrac UPA−EX150(日機装社製)を用いて、P1を更に希釈することなく測定した)により測定したところ、61nmであった。 【0312】 A1−2.硬化性組成物(塗布液)の調製 前記分散処理した顔料分散液P1を用いて下記組成比となるように各種成分を撹拌混合して、硬化性組成物(塗布液)を調製した。 ・(C)着色剤(前記顔料分散液P1) 600質量部 ・(B)光重合開始剤(2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール) 30質量部 ・(E)エチレン製不飽和二重結合を有する化合物(ペンタエリスリトールテトラアクリレート) 50質量部 ・(F)バインダーポリマー(ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、モル比:80/10/10、Mw:10000) 5質量部 ・(J)溶媒(PGMEA) 900質量部 ・基板密着剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン) 1質量部 ・(D)増感剤(下記化合物α) 15質量部 ・(H)共増感剤(2−メルカプトベンゾイミダゾール) 15質量部 (化合物αの記載は省略する。) ・・・ 【0328】 【表2】 」 (エ)甲4 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4a)「【請求項1】 (A)顔料、ならびに、 (B)(b−1)バルキーアミン部位、(b−2)酸基、および(b−3)重量平均分子量が1000以上50000以下のマクロモノマーに由来する構成単位を有する重合体、 を含み、 前記(b−1)バルキーアミン部位は、窒素原子と、前記窒素原子に結合する炭素原子X1と、前記炭素原子X1に結合する炭素原子Y1とを有し、前記炭素原子X1と前記炭素原子Y1の合計炭素数が7以上となる、組成物。 ・・・ 【請求項18】 (B)(b−1)バルキーアミン部位、(b−2)酸基、および(b−3)重量平均分子量が1000以上50000以下のマクロモノマーに由来する構成単位を有する重合体を含み、 前記(b−1)バルキーアミン部位は、窒素原子と、前記窒素原子に結合する炭素原子X1と、前記炭素原子X1に結合する炭素原子Y1を有し、前記炭素原子X1と炭素原子Y1の合計炭素数が7以上となる、顔料分散剤。」 (甲4b)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本願発明者が検討した結果、分散剤の種類によっては、かかる分散剤と顔料とを含む組成物を低酸素濃度下に長時間置いたときに、耐光性が劣る場合があることが分かった。 本願発明は、かかる問題点を解決するものであって、顔料の分散性および分散安定性を維持しつつ、低酸素濃度下に長時間置いても、良好な耐光性を維持できる分散剤および組成物、硬化膜、カラーフィルタ、積層体および顔料分散剤を提供することを目的とする。」 (甲4c)「【実施例】 【0069】 ・・・ 【0075】 [合成例24] <重合体(B−24)の合成> ・・・ 【0085】 <実施例1> <<顔料分散液の調製>> 顔料として下記式(A5)で表される化合物を8.9部、PY139を2.7部、顔料誘導体として下記式(D1)で表される化合物を1.4部、分散剤として重合体B−1の30質量%MFG溶液を17.3部、溶剤としてPGMEAを69.7部からなる混合物を均一に攪拌混合した後、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、ビーズミル(減圧機構付き高圧分散機NANO−3000−10(日本ビーイーイー(株)製))により5時間分散して、顔料分散液を調製した。(式(A5)及び式(D1)の記載は省略する。) ・・・ 【0088】 <着色感光性組成物の調製> 顔料分散液を65.8部、バインダー(B−1)を2.4部、A−DPH−12E(新中村化学工業(株)社製)を1.1部、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1?[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、BASFジャパン(株)社製)を0.5部、p−メトキシフェノールを0.01部、メガファックF781(DIC(株)社製)の1.0%PGMEA溶液を4.2部、PGMEAを26.0部取り、これらを混合・攪拌した後、孔径0.45μmのナイロン製フィルタ(日本ポール(株)社製)でろ過して、着色感光性組成物を調製した。 ・・・ 【0094】 <分散安定性評価> 上記で得られた顔料分散液の粘度を、東機産業(株)製「RE−85L」にて測定後、分散液を45℃3日の条件にて静置した後、再度粘度を測定し、この前後での粘度差(ΔVis)を下記評価基準に従って分散安定性を評価した。この数値が小さいほど、分散安定性が良好であるといえる。A〜Cが実際の使用に問題のないレベルである。 ・・・ 【0098】 <実施例2〜41、比較例1〜9> ・・・ 【表3】 」 (オ)甲5 甲5には、以下の事項が記載されている。 (甲5a)「【請求項1】 主鎖を親水性部とし側鎖を疎水性部とするか、あるいは主鎖を疎水性部とし側鎖を親水性部とするグラフトポリマーであって、該グラフトポリマーがエチレン性不飽和二重結合を主鎖、側鎖の少なくとも一方に有するものであることを特徴とする光重合性顔料分散剤。 ・・・ 【請求項3】 グラフトポリマーの重量平均分子量が5,000〜200,000、グラフトポリマーの側鎖の重量平均分子量が1,000〜30,000で、かつグラフトポリマーの主鎖と側鎖の重量比が95/5〜10/90であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光重合性顔料分散剤。 【請求項4】 エチレン性不飽和二重結合基導入量が、グラフトポリマー1gあたり0.1ミリモル〜5ミリモルであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一つ記載の光重合性顔料分散剤。 ・・・ 【請求項6】 アルカリ可溶性バインダー、光重合性モノマー、光重合性開始剤、分散剤、無機黒色顔料、及び溶剤を主成分とし、該分散剤が、主鎖を親水性部とし側鎖を疎水性部とするか、あるいは主鎖を疎水性部とし側鎖を親水性部とし、エチレン性不飽和二重結合を主鎖、側鎖の少なくとも一方に有するグラフトポリマーを少なくとも1種含むことを特徴とする遮光層用組成物。」 (甲5b)「【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するものであり、その目的は、分散安定性が高い光重合性顔料分散剤であって、レジスト特性の向上に有効な顔料分散レジスト用分散剤、およびカラーフィルターの作製に適した感光性着色組成物、特に遮光層用組成物を提供することにある。」 (甲5c)「【0044】以下、本発明の感光性着色組成物として、特に、遮光層用組成物である場合について詳述する。 【0045】本発明の光重合性顔料分散剤は、無機黒色顔料を用いた遮光層用組成に対して優れた効果を示す。これは遮光性のため膜中の露光量の低下が著しく、硬化不足となり、非反応性成分の悪影響が出やすくなるが、本発明の分散剤によって感度が上がるためである。既に本発明者らが提案している、少なくとも銅、マンガン、鉄の金属を含む複合金属酸化物微粒子を用いた遮光層用組成物に対しては、分散性という観点では特に優れた効果を発揮する。」 (甲5d)「【0085】 【実施例】(1)光重合性顔料分散剤(A)の作製 (グラフトポリマー(a)の合成)温度計、攪拌機、滴下ロート、ガス導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器にAA−6(東亜合成化学工業(株)製、片末端メタクリロイル化ポリメタクリル酸メチルオリゴマー、Mw:12,000)52.4部と、エチルセルソルブ980部とをそれぞれ仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、90℃に加熱した。 【0086】その後、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル71部、メタクリル酸7.8部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.22部、エチルセルソルブ200部の混合溶液を8分割して15分間隔で滴下した。添加開始後、10時間、90℃に温度を保持して重合反応を完了し、グラフト重合体の溶液を得た。この共重合体溶液をヘキサン1050部に滴下し、再沈澱精製を行った。濾過後、室温で減圧乾燥し、カルボキシル基含有グラフトポリマー111部を得た。 【0087】カルボキシル基含有グラフトポリマーは、主鎖(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル/メタクリル酸コポリマー)/側鎖ポリメタクリル酸メチル(重量比54/6/40)であり、Mwは18,000、酸価31.6mgKOH/gであり、側鎖ポリメタクリル酸メチルのMwは12,000であった。 【0088】(エチレン性不飽和二重結合の導入)次に、得られたカルボキル基含有グラフトポリマー60部、エチルセルソルブ1200部、ヒドロキノン1.05部、亜硫酸ナトリウム1.225部、トリエチルアミン5.25部を温度計、撹拌機、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に仕込み、撹拌下に、90℃に加熱した。 【0089】グリシジルメタクリレート16.8部を添加し、その後60℃で20時間反応させた。反応終了後、ヘキサン6リットルで再沈殿精製を行った。濾過後、室温で減圧乾燥し、主鎖にメタクロイル基を、グラフトポリマー1g当たり0.45ミリモル含有し、Mw18,000、酸価6.7mgKOH/gの光重合性顔料分散剤(A)を62.9部得た。 ・・・ 【0097】 (実施例1) (1)黒色顔料分散液の調製 ・黒色顔料:TMブラック#3952(CuMn2 O4 のMnの一部をFeに置換した複合酸化物微粒子表面付近にZrをZrO2 換算で複合金属酸化物に対し2.5重量%、ZnをZnO換算で1.0重量%付与した顔料;大日精化工業(株)) ・・・ 100重量部 ・光重合性顔料分散剤(A) ・・・ 3.5重量部 ・分散剤(高分子分散剤;Disperbyk 111、ビックケミー・ジャパン(株)製) ・・・ 3.5重量部 ・ジエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 136重量部 ・乳酸エチル ・・・ 15重量部 上記の各成分を混合し、サンドミルにて十分に分散した。 【0098】 (2)遮光層用組成物の調製 ・(1)で作製した黒色顔料分散液 ・・・ 61重量部 ・アルカリ可溶性バインダー{昭和高分子(株)製、VR−60TH(ビスフェノールA型エポキシアクリレート)} ・・・ 2.8重量部 ・光重合性モノマー(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート) ・・・ 3.5重量部 ・光重合性開始剤 ・2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1ー(4−モルフォリノフェニル)−プタノン) ・・・ 1.6重量部 ・4,4′−ジエチルチオキサントン ・・・ 0.3重量部 ・2,4−ジエチルチオキサントン ・・・ 0.1重量部 ・ビイミダゾール ・・・ 0.4重量部 ・ジエチレングリコルジメチルエーテル ・・・ 30重量部 上記の各成分を十分に混合して、本発明の遮光層用組成物を得た。 【0099】(3)遮光層の作製 ガラス基板上に(2)で作製した遮光層用組成物をスピンコーターで塗布し、100℃で3分間乾燥させ、膜厚約1μmの遮光層を形成した。 【0100】(4)露光、及び現像 上記の遮光層に対して、窒素気流下、超高圧水銀灯で遮光層パターンを、露光量500mJ/cm2 、300mJ/cm2 の2通りで露光した後、1%水酸化カリウム水溶液で現像した。」 (カ)甲6 甲6には、以下の事項が記載されている。 (甲6a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 1級あるいは2級アミノ基を有する繰り返し単位を有する重合体と、片末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合体との付加反応により生成するグラフト型重合体。 【請求項2】 片末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合体の末端基がアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のグラフト型重合体。 【請求項3】 1級または2級アミノ基を有する繰り返し単位を有する重合体がポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン単位を有する重合体から選ばれることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のグラフト型重合体。 【請求項4】 有機溶媒中に有機顔料と請求項1から3に記載のグラフト型重合体とが分散されてなる顔料分散組成物。 【請求項5】 請求項4に記載の顔料分散組成物、酸性基を有するバインダーポリマー、エチレン性不飽和二重結合を二個以上有する多官能モノマー及び光重合開始剤とからなることを特徴とする着色感光性組成物。」 (甲6b)「【0011】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、顔料を凝集させず該顔料の安定かつ良好な分散性、流動性を実現し、かつ光透過性にも優れた顔料分散剤を得るのに有用な新規な構造を有する重合体を提供することを目的とする。また、本発明は、上記重合体を含有し、顔料の分散性、流動性等に優れ、かつ着色力が高く、アルカリ現像適性にも優れ、塗料、印刷インキ、カラー表示板等の広い範囲で好適に使用し得る顔料分散組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、該顔料分散組成物を含有し、着色力が高く、アルカリ現像適性に優れ、カラープルーフ等、基体上の多色画像の形成や、液晶カラーディスプレイ等に使用されるカラーフィルタの製造などに好適に使用し得る着色感光性組成物を提供することを目的とする。」 (甲6c)「【0081】 【実施例】以下に、本発明の重合体の合成例及び本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの合成例、実施例によって何ら限定されるものではない。 【0082】[合成例1]ピリジン42質量部、ポリエチレンイミン(分子量600)1.3質量部を三口フラスコに導入し、スリーワンモーターにて攪拌し、80℃まで昇温した。片末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(AA−6;東亜合成化学(株)製)27.0質量部を加え、窒素気流下攪拌しながら100℃で12時間加熱した。反応終了後、フラスコ内の溶液を室温まで冷却し、メタノール500質量部中に再沈し、白色粉末24質量部を得た。収率は85%であった。選られた重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は7000であった。 ・・・ 【0087】[実施例1]下記組成の赤色の顔料分散組成物を調製した。 ・C.I.ピグメントレッド254 8.28質量部 ・合成例1の重合体 2.48質量部 ・1−メトキシ−2−プロピルアセテート 69.24質量部 【0088】上記組成の赤色の顔料組成物を、モーターミルM50(アイガー社製)で、直径0.65mmのジルコニアビーズを用いて、周速9m/sで9時間分散し、赤色の顔料分散組成物を調製した。 【0089】得られた顔料分散組成物について下記の評価を行った。 (1)粘度測定:得られた顔料分散組成物について、E型粘度計を用いてその粘度を測定し、増粘の程度を評価した。その結果を表1に示した。ここで粘度が低いことは、分散安定性、流動性が安定かつ良好であることを示す。 ・・・ 【0109】[比較例5]実施例9において、実施例1の赤色の顔料分散組成物を、比較例4の赤色の顔料分散組成物に代えた外は、実施例9と同様にして着色感光性組成物を調製し、実施例9と同様にして評価した。 【0110】 【表1】 」 (キ)甲7 甲7には、以下の事項が記載されている。 (甲7a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 平均分子量が2000〜20,000のアルカリ可溶性バインダー、光重合性モノマー、塗膜物性改良剤、光重合性開始剤、顔料および溶剤を主成分とし、前記顔料がCuMn2 O4 、および該CuMn2 O4 のMnの一部をFe、Co、および/またはNiで置換した複合金属酸化物微粒子から選択された少なくとも1種であることを特徴とする非導電性遮光層用組成物。 ・・・ 【請求項10】 塗膜物性改良剤が、疎水性の主鎖と親水性の側鎖とからなるグラフト共重合物であることを特徴とする請求項1記載の非導電性遮光層用組成物。 【請求項11】 塗膜物性改良剤が、親水性の主鎖と疎水性の側鎖とからなるグラフト共重合物であることを特徴とする請求項1記載の非導電性遮光層用組成物。 【請求項12】 グラフト共重合物の疎水部の平均分子量が5000〜30,000で、親水部の平均分子量が1000〜30,000であり、グラフト共重合物の平均分子量が、1000〜100,000であることを特徴とする請求項10、又は請求項11記載の非導電性遮光層用組成物。 ・・・ 【請求項15】 塗膜物性改良剤が、反応性二重結合基を0モル〜20モル%含み、かつその酸価が0mgKOH/g〜250mgKOH/gであることを特徴とする請求項1記載の非導電性遮光層用組成物。」 (甲7b)「【0006】本発明の目的は、長期にわたり安定で、かつ、遮光能力、および黒色度に優れた非導電性遮光層を製造するのに適した非導電性遮光層用組成物、遮光能力、および黒色度に優れた非導電性遮光層およびカラーフィルターを提供することである。」 (甲7c)「【0071】塗膜物性改良剤としては、現像性や解像性等の非導電性遮光層の特性を保持したまま、べとつきのみを取り除ける特性を有することが望ましく、アルカリ可溶性バインダーとの相溶部(親水部)と非相溶部(疎水部)を合わせ持つグラフト共重合物やブロック共重合物が挙げられる。このような塗膜物性改良剤を非導電性遮光層中に添加すると、非導電性遮光層中に不均質部(疎水部)を均一に分布させることができ、非導電性遮光層の特性を保持しながら、べとつきのみを取り除くことができる。」 (甲7d)「【0078】このような塗膜物性改良剤として、例えば綜研化学(株)製「L−20−3(櫛形ポリマー)、二重結合基0モル%、酸価0mgKOH/g、平均分子量56,000」、「L−403A、二重結合基0モル%、酸価0mgKOH/g、平均分子量30,000」、「LH−448、二重結合基0モル%、酸価0mgKOH/g、平均分子量30,000」や、公知の方法で得られるエチレン性不飽和二重結合を含有する主鎖ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)/側鎖ポリメタクリル酸メチルのグラフトポリマー(二重結合基5モル%、酸価7mgKOH/g、平均分子量18,000)、エチレン性不飽和二重結合を含有する主鎖ポリメタクリル酸メチル)/側鎖ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)のグラフトポリマー(二重結合基5モル%、酸価7mgKOH/g、平均分子量13,600)等が挙げられる。」 (甲7e)「【0093】 【実施例】以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0094】 (実施例1) (1)黒色顔料分散液の調製 ・非導電性黒色顔料(CuMn2 O4 のMnの30重量%をFeに置換した複合金属酸化物微粒子、大日精化工業(株)製「TMブラック♯3950」、粒子径0.1μm、比表面積20m2 /g、水酸基量13μmol/g) ・・・・ 23重量部 ・高分子分散剤(ビックケミー・ジャパン(株)製 Disperbyk 111) ・・・・ 2重量部 ・溶剤(ジエチレングリコールジメチルエーテル) ・・ 75重量部 上記成分を混合し、サンドミルにて十分に分散し、黒色顔料分散液を調製した。 ・・・ 【0098】 (実施例2) (1)非導電性遮光層用組成物の調製 ・実施例1で作製した黒色顔料分散液 ・・・・ 61重量部 ・アルカリ可溶性バインダー(ビスフェノールA型エポキシアクリレート、昭和高分子(株)製「VR−60TH」、平均分子量7000、反応性二重結合基20モル%、酸価70mgKOH/g) ・・・・ 2.8重量部 ・光重合性モノマー(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート) ・・・・ 3.5重量部 ・塗膜物性改良剤{主鎖ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)/側鎖ポリメタクリル酸メチルのグラフトポリマー(二重結合基5モル%、酸価7mgKOH/g、平均分子量18,000)} ・・・・ 0.7重量部 ・光重合性開始剤 2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1 ・・・・ 1.6重量部 4,4−ジエチルチオキサントン ・・・・ 0.3重量部 2,4−ジエチルチオキサントン ・・・・ 0.1重量部 ビイミダゾール ・・・・ 0.4重量部 ・溶剤(ジエチレングリコールジメチルエーテル) ・・・ 30重量部 上記成分を十分に混合して本発明の非導電性遮光層用組成物(2)を得た。 ・・・ 【0105】以上の非導電性遮光層用組成物の特性比較結果を以下に示す。 【0106】(1)非導電性遮光層用組成物溶液の経時変化 実施例1、2の組成物溶液は1ヵ月以上に渡り粘度や粒度分布に変化が認められなかったが、比較例の組成物溶液は3日後に沈澱物が認められ、7日後に溶液全体が流動性を失った。」 (ク)甲8 甲8には、以下の事項が記載されている。 (甲8a)「請求の範囲 [請求項1] フッ素原子、珪素原子、炭素数8以上の直鎖アルキル基、及び、炭素数3以上の分鎖アルキル基からなる群から選択される1種以上、並びに、硬化性官能基を有する硬化性化合物と、 シランカップリング剤と、 黒色顔料と、を含む、硬化性組成物。」 (甲8b)「[0005] 本発明は、上記実情に鑑みて、遮光性に優れ、低反射性を示し、パターン直線性に優れ、さらに欠けが生じにくい遮光膜を製造するのに好適に用いられる、硬化性組成物を提供することを目的とする。 また、本発明は、上記硬化性組成物より形成される遮光膜を有する、遮光膜付き赤外光カットフィルタ及び固体撮像装置を提供することも目的とする。」 (甲8c)「[0013]<硬化性化合物> ・・・ [0038] 硬化性化合物が重合体である場合、重量平均分子量(Mw:ポリスチレン換算)が5,000〜100,000であることが好ましく、7,000〜50,000であることがより好ましい。硬化性化合物が重合体である場合、重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、7,000以上がより好ましい。 ・・・ [0039] 硬化性化合物の好適態様の一つとしては、特開2010−164965号公報の請求項10に記載の構造式(I)で表される繰り返し単位Aに類似する繰り返し単位、及び、一般式(II)で表される繰り返し単位Bに類似する繰り返し単位を有する硬化性化合物が挙げられる。 より具体的には、以下の式(A1)で表される繰り返し単位、及び、式(A2)で表される繰り返し単位を有する態様が挙げられる。 [0040] [0041] 式(A1)中、Raは、水素原子又はメチル基を表す。 式(A2)中、Rbは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。 式(A2)において、R71は下記構造式(71a)〜(71e)で表される繰り返し単位a〜eの1つ以上を有する部分構造を表す。 X及びYは、各々独立に、下記構造式(K1)〜(K3)の何れかを表す。尚、wは1〜20いずれかの整数を示す。 [0042][化10] [0043] [化11] 」 (甲8d)「実施例 [0190] 以下、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」「%」は質量基準である。また、室温は25℃を指す。 ・・・ [0191]<チタンブラックA−1の作製> BET比表面積110m2/gの酸化チタンTTO−51N(商品名:石原産業製)を120g、BET表面積300m2/gのシリカ粒子AEROSIL300(登録商標)300/30(エボニック製)を25g、及び、分散剤Disperbyk190(商品名:ビックケミー社製)を100g秤量し、イオン電気交換水71gを加えてKURABO製MAZERSTAR KK−400Wを使用して、公転回転数1360rpm、自転回転数1047rpmにて混合物を30分間処理することにより均一な水溶液を得た。この水溶液を石英容器に充填し、小型ロータリーキルン(株式会社モトヤマ製)を用いて酸素雰囲気中で920℃に加熱した。その後、小型ロータリーキルン内を窒素で雰囲気を置換し、同温度でアンモニアガスを100mL/minで小型ロータリーキルン内に5時間流すことにより窒化還元処理を実施した。終了後回収した粉末を乳鉢で粉砕し、Si原子を含み、粉末状の比表面積85m2/gのチタンブラック(A−1)〔チタンブラック粒子及びSi原子を含む被分散体〕を得た。 [0192]<チタンブラック分散物(TB分散液1)の調製> 下記組成1に示す成分を、攪拌機(IKA社製EUROSTAR)を使用して、15分間混合し、分散物aを得た。 なお、以下に記載の特定樹脂1は特開2013−249417号公報の記載を参照して合成した。なお、特定樹脂1の式中、xは43質量%、yは49質量%、zは8質量%であった。また、特定樹脂1の重量平均分子量は30000であり、酸価は60mgKOH/gであり、グラフト鎖の原子数(水素原子を除く)は117であった。 [0193](組成1) ・上記のようにして得られたチタンブラック(A−1) ・・・25質量部 ・特定樹脂1のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30質量%溶液 ・・・25質量部 ・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(溶剤) ・・・50質量部 [0194][化21] [0195] 得られた分散物aに対し、寿工業(株)製のウルトラアペックスミルUAM015を使用して下記条件にて分散処理を行い、チタンブラック分散物(以下、TB分散液1と表記する。)を得た。 ・・・ [0204][実施例1:硬化性組成物1の調製] 下記成分を混合することで、硬化性組成物1を得た。 また、硬化性化合物中におけるエチレン性不飽和基の量は3.2mol/gであった。 なお、後述のメガファックRS−72−Kは、上述したように、特開2010−164965号公報の請求項10に記載の構造式(I)で表される繰り返し単位Aに類似する繰り返し単位(式(A1)で表される繰り返し単位)、及び、一般式(II)で表される繰り返し単位Bに類似する繰り返し単位(式(A2)で表される繰り返し単位)を有する。 [0205]TB分散液1 63.9質量部 アルカリ可溶性樹脂:特定樹脂2(固形分30%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート) 10.24質量部 重合開始剤:Irgacure OXE02(BASFジャパン社製) 1.81質量部 重合性化合物:KAYARAD DPHA(商品名:日本化薬(株)製) 6.29質量部 界面活性剤:DIC(株)社製メガファックF781F(DIC(株)製、含フッ素ポリマー型界面活性剤) 0.02質量部 溶剤:シクロヘキサノン 4.66質量部 硬化性化合物:メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート) 10.65質量部 シランカップリング剤:以下の化合物1 0.36質量部 (化合物1の記載は省略する。) ・・・ [0221]<遮光膜の作製> 上記で作製した硬化性組成物1〜10、11〜13のいずれかを8inchガラス基板EagleXG(コーニング社製)にスピンコート法により塗布した後、80℃のホットプレートを用いて120秒間加熱処理(プリベーク)を行い、ガラス基板上に組成物層を形成した。次いで、i線ステッパー露光装置FPA−3000i5+(Canon(株)製)を使用して線形300μm(幅300μm、長さ4mm)を有するマスクを介して、200mJ/cm2の露光量で、上記で得られた組成物層を露光した。次に、AD−1200(ミカサ(株)製)を使用して、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)0.01質量%を用いたパドル現像処理(現像時間:40秒間)を、露光された組成物層に対して施した。さらに、クリーンオーブンCLH−21CDH(光洋サーモ(株)製)を用いて、現像処理が施された組成物層に対して、150℃で1時間加熱処理(ポストベーク)を行うことにより、膜厚が2〜2.5μmの遮光膜を形成した。 [0222]<OD(光学濃度)の評価> 作製した遮光膜に、400〜700nmの光を入射し、その透過率を日立ハイテクノロジー製分光器UV4100(商品名)により測定した。 ・・・ [0227] [表1] 」 イ 甲1及び甲2に記載された発明 (ア)甲1 甲1には、特許請求の範囲の請求項1に、「可視域の光を遮光する色材と、赤外線吸収剤とを含有する着色組成物。」が記載され、請求項1を引用する同請求項2に、「前記可視域の光を遮光する色材は、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している、請求項1に記載の着色組成物。」が記載され、また、請求項1を引用する請求項3に、「前記可視域の光を遮光する色材は、有機系黒色着色剤を含む、請求項1に記載の着色組成物。」が記載され、上記した請求項1〜3を引用する請求項10に、さらに、重合性化合物を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の着色組成物。」が記載されている。 そして、この特許請求の範囲に記載された発明の具体例として、段落[0313]の[表14]中の実施例4、実施例15、実施例17及び実施例18に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「顔料分散液1−2を28.96質量部 顔料分散液2−2を19.14質量部 顔料分散液2−5を22.75質量部 重合性化合物1を1.5質量部 アルカリ可溶性樹脂1を4.9質量部 光重合開始剤1を0.92質量部 界面活性剤1を0.42質量部 重合禁止剤1を0.001質量部 有機溶剤1を21.41質量部 からなる着色組成物」(以下「甲1発明A」という。) 「顔料分散液1−1を27.78質量部 顔料分散液2−1を6.48質量部 顔料分散液2−2を5.56質量部 顔料分散液2−5を17.74質量部 重合性化合物1を4.67質量部 アルカリ可溶性樹脂1を6.83質量部 光重合開始剤1を2.24質量部 基板密着剤1を0.73質量部 界面活性剤1を0.42質量部 重合禁止剤1を0.001質量部 有機溶剤1を27.55質量部 からなる着色組成物」(以下「甲1発明B」という。) 「顔料分散液1−7を21.32質量部 顔料分散液2−1を10.19質量部 顔料分散液2−5を11.82質量部 重合性化合物1を5.28質量部 アルカリ可溶性樹脂1を8.46質量部 光重合開始剤1を2.54質量部 基板密着剤1を0.73質量部 界面活性剤1を0.42質量部 重合禁止剤1を0.001質量部 有機溶剤1を39.239質量部 からなる着色組成物」(以下「甲1発明C」という。) 「顔料分散液1−6を21.32質量部 顔料分散液2−5を28.72質量部 重合性化合物1を4.96質量部 アルカリ可溶性樹脂1を7.34質量部 光重合開始剤1を2.38質量部 基板密着剤1を0.73質量部 界面活性剤1を0.42質量部 重合禁止剤1を0.001質量部 有機溶剤1を34.13質量部 からなる着色組成物」(以下「甲1発明D」という。) (イ)甲2 甲2には、特許請求の範囲の請求項1に「フッ素原子を含むオキシムエステル系光重合開始剤と、 エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物と、 アルカリ可溶性樹脂と、 着色剤と、 を含む着色感光性組成物であって、 前記着色感光性組成物を用いて、乾燥後の膜厚が2.0μmの膜を製膜した際に、前記膜の波長365nmにおける光学濃度が1.5以上である着色感光性組成物。」が記載され、その具体例である実施例2−1には、段落[0342]の[表2]に記載された「光重合開始剤A1」、「重合性化合物1」及び「特定樹脂2」を組み合わせたことが記載されている。 具体的には、段落[0337]に「下記の表2に示す原料を、下記組成に示す割合で混合した後、孔径0.45μmのナイロン製フィルタ(日本ポール(株)社製、DFA4201NXEY)を用いてろ過して、着色組成物を調製した。 以下のメガファックRS−72−Kには、フッ素原子を有するアルキレン基、及び、アクリロイルオキシ基が含まれていた。より具体的には、メガファックRS−72−Kは、以下のように、式(B1−1)で表される繰り返し単位及び式(B3−1)で表される繰り返し単位が含まれ、重量平均分子量は7400であった。なお、式(B3−1)中、Xは、パーフルオロメチレン基またはパーフルオロエチレン基を表し、rは繰り返し単位数を表す。 [化54] 」が記載され、同[0338]に「(組成) ・TB分散液1・・・63.9質量部 ・アルカリ可溶性樹脂(下記特定樹脂2または3)・・・10.24質量部 ・光重合開始剤・・・1.81質量部 ・重合性化合物・・・6.29質量部 ・界面活性剤・・・0.02質量部 ・溶剤(シクロヘキサノン)・・・4.66質量部 ・硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA)):10.65質量部 ・シランカップリング剤(KBM−4803(信越化学工業(株)製):0.36質量部」と記載されている。 上記組成中に含まれる「TB分散液1」は、段落[0334]に、「[チタンブラック分散物(TB分散液1)の調製] 下記組成1に示す成分を、攪拌機(IKA社製EUROSTAR)を使用して、15分間混合し、分散物aを得た。 得られた分散物aを、寿工業(株)製のウルトラアペックスミルUAM015を使用して、下記分散条件にて分散処理した。次いで、これを孔径0.45μmのナイロン製フィルタ(日本ポール(株)社製、DFA4201NXEY)を用いてろ過した。このようにして、チタンブラック分散物(以下、TB分散液1と表記する。)を得た。」ことが記載され、同[0335]に「(組成1) ・上記のようにして得られたチタンブラック(A−1)・・・25質量部 ・樹脂1のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)30質量%溶液・・・25質量部 ・PGMEA・・・50質量部 ・樹脂1:下記構造。特開2013−249417号公報の記載を参照して合成した。なお、樹脂1の式中、xは43質量%、yは49質量%、zは8質量%であった。また、樹脂1の重量平均分子量は30000であり、酸価は60mgKOH/gであり、グラフト鎖の原子数(水素原子を除く)は117であった。 [化53] 」ことが記載されている。 そうすると、甲2には、実施例2−1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。 「TB分散液1・・・63.9質量部 アルカリ可溶性樹脂(特定樹脂2)・・・10.24質量部 光重合開始剤A1・・・1.81質量部 重合性化合物1・・・6.29質量部 界面活性剤・・・0.02質量部 溶剤(シクロヘキサノン)・・・4.66質量部 硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA)):10.65質量部 シランカップリング剤(KBM−4803(信越化学工業(株)製):0.36質量部からなる着色剤感光性組成物」(以下「甲2発明」という。) ウ 対比・判断 (ア)本件発明1について a 甲1発明A〜甲1発明Dとの対比・判断 甲1発明A〜甲1発明Dをまとめて対比・判断する。 (a)対比 甲1発明A〜甲1発明Dに含まれる「顔料分散液2−5」には、可視域の光を遮光する色材として「黒色材1」が含まれており、「黒色材1」は、本件発明1の「遮光材」に相当することは明らかであり、また、本件発明1の「有機系黒色着色剤を含むもの」と「黒色着色剤」である限りにおいて一致する。 甲1発明A〜甲1発明Dに含まれる「アルカリ可溶性樹脂1」は、以下の式で表される樹脂であり、 Mwは12000であり、「Mw」は「重量平均分子量」であることは明らかであり、また、この樹脂の右端の繰り返し単位には、側鎖にメタアクリロイル基を有することが示されているから、甲1発明A〜甲1発明Dに含まれる「アルカリ可溶性樹脂1」は、本件発明1の「化合物A」と「ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有しする重量平均分子量3000以上の化合物A」であって、「化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基」は「(メタ)アクリロイル基」である限りにおいて一致する。 そうすると、本件発明1と甲1発明A〜甲1発明Dとでは、 「遮光材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、 前記遮光材は、黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており、 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種である組成物。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点1)遮光材が、本件発明1では、有機系黒色着色剤であるのに対し、甲1発明A〜甲1発明Dでは黒色材である点 (相違点2)化合物Aが、本件発明1では、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であるのに対し、甲1発明A〜甲1発明Dでは、明らかでない点 (相違点3)組成物が、本件発明1では、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上であるのに対し、甲1発明A〜甲1発明Dでは、明らかでない点 (b)判断 事案に鑑み、相違点2から検討する。 i 新規性についての判断 甲1発明A〜甲1発明Dのアルカリ可溶性樹脂1は、下記式で表される樹脂であり、 それぞれの繰り返し単位を含む樹脂であるが、重量平均分子量が1000以上であるグラフト鎖を有する繰り返し単位ではない。 そうすると、相違点2は実質的な相違点である。 よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。 ii 進歩性についての判断 相違点2の容易想到性について検討する。 甲1には、アルカリ可溶性樹脂が、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であることは記載されていない。 一方、甲3には、極めて高感度で硬化し、硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、硬化領域では硬質材料表面との密着性が高く、未硬化領域ではその除去性に優れる硬化性組成物を提供することを目的とすることが記載され(摘記(甲3b))、請求項1に、(A)エチレン性不飽和二重結合がペンダントされた構造単位を少なくとも2以上含む枝ポリマー部を有するグラフトポリマーを含有することを特徴とする硬化性組成物が記載され、請求項3には、更に、(C)着色剤を含有することが記載されている(摘記(甲3a))。 そして、実施例1〜9においては、顔料、分散剤、請求項1に記載されたグラフトポリマーの具体例である特定グラフトポリマー(I)〜(IX)、及び溶媒からなる混合液から調製された顔料分散液P1が記載され、この顔料分散液に、光重合開始剤、ペンタエリスルトールテトラアクリレート等を含む硬化性組成物を調製し、カラーフィルター中の着色層(硬化性組成物層)を形成することが記載され、この硬化性組成物層の物性(露光感度等)が具体的なデータと共に記載されている(摘記(甲3f))。 しかしながら、甲3に記載されるグラフトポリマーは、硬化性組成物に配合された場合に、極めて高感度で硬化し、硬質基材表面におけるパターン形成に適用した際に、硬化領域では硬質材料表面との密着性が高く、未硬化領域ではその除去性に優れることが記載されているのであり、実施例において、さらに分散剤を配合していることからみて、色ムラが少ない膜を製造するためのものではない。 甲4には、顔料の分散性および分散安定性を維持しつつ、低酸素濃度下に長時間置いても、良好な耐光性を維持できる分散剤および組成物、硬化膜、カラーフィルタ、積層体および顔料分散剤を提供することを課題とすることが記載され(摘記(甲4b))、請求項1に、(A)顔料、ならびに、(B)(b−1)バルキーアミン部位、(b−2)酸基、および(b−3)重量平均分子量が1000以上50000以下のマクロモノマーに由来する構成単位を有する重合体を含み、前記(b−1)バルキーアミン部位は、窒素原子と、前記窒素原子に結合する炭素原子X1と、前記炭素原子X1に結合する炭素原子Y1とを有し、前記炭素原子X1と前記炭素原子Y1の合計炭素数が7以上となる、組成物が記載されている(摘記(甲4a))。 そして、実施例においては、請求項1に記載された(B)成分の具体例として、合成例24において、以下の化学構造を有する重合体(B−24)を合成したことが記載され 実施例24においては、顔料、分散剤として重合体(B−24)、溶剤からなる顔料分散液が記載され、この顔料分散液にバインダー等を含む着色感光性組成物を調製し、着色層を形成することが記載され、初期粘度と45℃3日静置後の粘度を測定し粘度差から分散安定性を評価したことが具体的なデータと共に記載されている(摘記(甲4c))。 しかしながら、上記したように、甲4には、甲4に記載される(B)重合体は顔料分散剤として用いられること、粘度差からみられる分散安定性に優れることは記載されているが、色ムラが少ないことを示すものではない。 甲5には、分散安定性が高い光重合性顔料分散剤をであって、レジスト特性の向上に有効な顔料分散レジスト用分散剤、およびカラーフィルターの作製に適した感光性着色組成物、特に遮光層用組成物を提供することを課題とすることが記載され(摘記(甲5b))、請求項1に、主鎖を親水性部とし側鎖を疎水性部とするか、あるいは主鎖を疎水性部とし側鎖を親水性部とするグラフトポリマーであって、該グラフトポリマーがエチレン性不飽和二重結合を主鎖、側鎖の少なくとも一方に有するものであることを特徴とする光重合性顔料分散剤が記載され、請求項6に、アルカリ可溶性バインダー、光重合性モノマー、光重合性開始剤、分散剤、無機黒色顔料、及び溶剤を主成分とする遮光層用組成物が記載され、該分散剤が、主鎖を親水性部とし側鎖を疎水性部とするか、あるいは主鎖を疎水性部とし側鎖を親水性部とし、エチレン性不飽和二重結合を主鎖、側鎖の少なくとも一方に有するグラフトポリマーを少なくとも1種含むことが記載されている(摘記(甲5a))。 そして、実施例においては、主鎖(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル/メタクリル酸コポリマー)/側鎖ポリメタクリル酸メチルであるカルボキシル基含有グラフトポリマーにグリシジルメタクリレートを反応させた主鎖にメタクロイル基を含有するグラフトポリマーである光重合性顔料分散剤(A)が記載され、この光重合性顔料分散剤(A)に黒色顔料、分散剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル及び酢酸エチルを混合した黒色顔料分散液を調製し、この黒色顔料分散液に、光重合性モノマー等を配合した遮光層用組成物を調製し、膜厚1μmの遮光層を形成し、現像特性を評価したことが記載されている(摘記(5d))。 しかしながら、上記したように、甲5には、甲5に記載されるグラフトポリマーであって、グラフトポリマーがエチレン性不飽和二重結合を主鎖、側鎖の少なくとも一方に有するものである光重合性顔料分散剤が現像特性に優れることは記載されているが、色ムラが少ないことを示すものではない。 甲6には、請求項1に記載された重合体を含有し、顔料の分散性、流動性等に優れ、かつ着色力が高く、アルカリ現像適性にも優れ、塗料、印刷インキ、カラー表示板等の広い範囲で好適に使用し得る顔料分散組成物を提供することを目的とすることが記載され(摘記(甲6b))、請求項1に、1級あるいは2級アミノ基を有する繰り返し単位を有する重合体と、片末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合体との付加反応により生成するグラフト型重合体が記載され、請求項4に、有機溶媒中に有機顔料と請求項1から3に記載のグラフト型重合体とが分散されてなる顔料分散組成物が記載されている(摘記(甲6a))。 そして、実施例においては、ポリエチレンイミンに片末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレートを反応させて得られたグラフト型重合体を製造し、このグラフト重合体に、C.I.ピグメントレッド254と1−メトキシ−2−プロピルアセテートとを配合した顔料分散組成物を調製することが記載され、この顔料分散組成物の増粘の程度を評価し、粘度が低いことは分散安定性、流動性が良好であることを示すことが記載されている(摘記(甲6c))。 しかしながら、上記したように、甲6には、甲6に記載される重合体と顔料とを配合した顔料分散組成物は粘度が低いことは記載されているが、色ムラが少ないことを示すものではない。 甲7には、長期にわたり安定で、かつ、遮光能力、および黒色度に優れた非導電性遮光層を製造するのに適した非導電性遮光層用組成物を提供することを目的とすることが記載され(摘記(甲7b))、請求項1に、平均分子量が2000〜20,000のアルカリ可溶性バインダー、光重合性モノマー、塗膜物性改良剤、光重合性開始剤、顔料および溶剤を主成分とし、前記顔料がCuMn2 O4 、および該CuMn2 O4 のMnの一部をFe、Co、および/またはNiで置換した複合金属酸化物微粒子から選択された少なくとも1種であることを特徴とする非導電性遮光層用組成物であること、請求項10には、塗膜物性改良剤が、疎水性の主鎖と親水性の側鎖とからなるグラフト共重合物であることを特徴とする請求項1記載の非導電性遮光層用組成物であること、請求項11には、塗膜物性改良剤が、親水性の主鎖と疎水性の側鎖とからなるグラフト共重合物であることを特徴とする請求項1記載の非導電性遮光層用組成物が記載されている(摘記(甲7a))。 ここで、甲7に記載された塗膜物性改良剤は、現像性や解像性等の非導電性遮光層の特性を保持したまま、べとつきのみを取り除ける特性を有することが記載され(摘記(甲7c))、実施例においては、黒色顔料、塗膜物性改良剤として、主鎖ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)/側鎖ポリメタクリル酸メチルのグラフトポリマー、光重合性モノマー等を含む非導電性遮光層用組成物が記載され、この非導電性遮光層用組成物溶液の経時変化を見た場合、粘度や粒度分布に変化が認められなかったことが記載されている(摘記(甲7e))。 しかしながら、上記したように、甲7には、黒色顔料と主鎖ポリ(メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル)/側鎖ポリメタクリル酸メチルのグラフトポリマーである塗膜物性改良剤を含むとして非導電性遮光層用組成物が粘度や粒度分布に変化が認められなかったことは記載されているが、色ムラが少ないことを示すものではない。 甲8には、遮光性に優れ、低反射性を示し、パターン直線性に優れ、さらに欠けが生じにくい遮光膜を製造するのに好適に用いられる、硬化性組成物を提供することを目的とすることが記載され(摘記(甲8b))、請求項1に、フッ素原子、珪素原子、炭素数8以上の直鎖アルキル基、及び、炭素数3以上の分鎖アルキル基からなる群から選択される1種以上、並びに、硬化性官能基を有する硬化性化合物と、シランカップリング剤と、黒色顔料と、を含む硬化性組成物が記載され(摘記(甲8a))、実施例においては、黒色顔料と硬化性官能基を有する硬化性化合物としてメガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を含む硬化性組成物をガラス基板に塗布した後、露光して遮光膜を形成し、遮光膜が光学濃度等に優れることが記載されている(摘記(甲8d))。 しかしながら、上記したように、甲8には、黒色顔料と硬化性官能基を有する硬化性化合物としてメガファックRS−72−Kを含む硬化性組成物をガラス基板に塗布して作成した遮光膜が光学濃度等に優れることは記載されているが、色ムラが少ないことを示すものではない。 上記したように、甲3〜甲8には、顔料とグラフト重合体が含まれる組成物が色ムラを改善することは記載されていないから、甲1発明A〜甲1発明Dにおいて、色ムラを改善するために甲3〜甲8に記載されたグラフト重合体を適用することが動機づけられるとはいえない。 そして、効果について検討すると、本件発明1は、本件発明1の組成物を塗布した組成物層に対して露光して膜を形成した際の輝度分布を観察した時の色ムラが少ないという効果を奏するものである。 一方、甲1、甲3〜甲8には、遮光材とグラフト重合体を組み合わせることにより色ムラが少ないことについては記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1の効果は当業者の予測を超える顕著な効果であるということができる。 よって、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲3〜甲8に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明であるとはいえない。 (c)小括 したがって、本件発明1に対する甲1を主引用例とする申立理由1及び2は理由がない。 b 甲2発明との対比・判断 (a)対比 甲2発明に含まれる「TB分散液1」には、着色剤として「粉末状でありSi原子を含む、比表面積85m2/gのチタンブラック(A−1)」が含まれており、これは、本件発明1の「遮光材」と「添加材」である限りにおいて一致する。 甲2発明に含まれる「硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA))」は、以下の式で表される樹脂であり、 重量平均分子量は7400であり、また、この樹脂の左に示される繰り返し単位(B1−1)には、側鎖にアクリロイル基を有することが示されているから、甲2発明に含まれる「硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA))」は、本件発明1の「化合物A」と「ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有しする重量平均分子量3000以上の化合物A」であって、「化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基」は「(メタ)アクリロイル基」である限りにおいて一致する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とでは、 「添加材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種である組成物。」で一致し、次の点で相違する。 (相違点4)組成物が、本件発明1では、遮光材を含み、遮光材は、有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しているに対し、甲2発明では、粉末状でありSi原子を含む、比表面積85m2/gのチタンブラック(A−1)を含む点 (相違点5)化合物Aが、本件発明1では、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であるのに対し、甲2発明では、明らかでない点 (相違点6)組成物が、本件発明1では、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上であるのに対し、甲2発明では、明らかでない点 (b)判断 事案に鑑み、相違点5から検討する。 i 新規性についての判断 甲2発明の「硬化性化合物(メガファックRS−72−K(DIC(株)製、固形分30%、溶剤:PGMEA))」は、以下の式で表される樹脂であり、 2つの繰り返し単位を含む樹脂であるが、この樹脂の右に示される繰り返し単位(B3−1)は、左側のエチレン基の主鎖に−C(=O)−O−で表される側鎖である連結基と、右側のエチレン基の主鎖に−C(=O)−O−で表される側鎖である連結基とが、−C−(X−O)r−X−C−で表される連結基を介して結合されていることが示されており、このように、エチレン基で表される主鎖に結合する側鎖が連結基を介して他の主鎖と結合している構造は、グラフト鎖ではない。 そうすると、相違点5は実質的な相違点である。 よって、相違点4及び6について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。 ii 進歩性についての判断 相違点5の容易想到性について検討する。 甲2には、硬化性化合物が、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であることは記載されていない。 一方、上記a(b)iiで述べたように、甲3〜甲8には、顔料とグラフト重合体が含まれる組成物が色ムラを改善することは記載されていないから、甲2発明において、色ムラを改善するために甲3〜甲8に記載されたグラフト重合体を適用することが動機づけられるとはいえない。 そして、効果について検討すると、本件発明1は、本件発明1の組成物を塗布した組成物層に対して露光して膜を形成した際の輝度分布を観察した時の色ムラが少ないという効果を奏するものであるが、甲2、甲3〜甲8には、遮光材とグラフト重合体を組み合わせることにより色ムラが少ないことについては記載も示唆もされていない。 そうすると、本件発明1の効果は当業者の予測を超える顕著な効果であるということができる。 よって、本件発明1は甲2に記載された発明及び甲3〜甲8に記載された技術的事項から当業者が容易に想到できた発明であるとはいえない。 (c)小括 したがって、本件発明1に対する甲2を主引用例とする申立理由1及び2は理由がない。 (イ)本件発明2〜19について 本件発明2〜19は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2〜19は、上記「(ア)」で示した理由と同じ理由により、甲1又は甲2に記載された発明であるといえず、また、甲1又は甲2に記載された発明及び甲3〜甲8に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ 申立理由1及び2のまとめ 以上のとおりであるので、申立理由1及び2(新規性及び進歩性)は理由がない。 (2)申立理由3(サポート要件)について ア 申立人の主張 申立人は特許異議申立書において、概略、以下のように主張する。 (ア)申立人の主張の前提 本件発明1は、本件発明1の「組成物」が「前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」(以下「吸光度比」という。)という要件を満足する発明であると認められる。 申立人は、上記した事項を前提として、以下の2点を主張する。 (イ)本件特許発明における吸光度の比(以下「主張1」という。) 発明の詳細な説明の実施例においては、「組成物」から形成した加熱処理後の「膜」における吸光度比を算出しており、「膜」の吸光度と「組成物」の吸光度の値は同一ではないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない、というものである(特許異議申立書第139頁第4行〜第141頁第12行)。 (ウ)本件特許発明の具体例における吸光度(以下「主張2」という。) 本件明細書をみると、本件発明において「組成物」の特定波長における吸光度を調整することで、「膜」の特定波長における吸光度も調整することができるといえるが、「組成物」における吸光度と「膜」における吸光度とは異なる値となる蓋然性が高いため、「組成物」における吸光度を調整しても、「膜」における吸光度を同様に調整することは困難であるから、「組成物」の吸光度を調整することにより本件発明の課題を解決できるのか認識できない、というものである(特許異議申立書第141頁第13行〜第144頁第3行)。 イ 検討 (ア)特許法第36条第6項第1号の考え方について 上記2(2)イ(ア)で述べたとおりである。 (イ)本件発明の課題について 上記2(2)イ(イ)cで述べたとおりであり、再掲すると、本件発明の課題は、遮光材として着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することであると認める。 (ウ)主張1及び2の判断 本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、吸光度に関しては、「前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である」とされ、吸光度を測定するに当たり、膜の状態で吸光度を測定すると特定された。 このため、本件発明1において、「組成物」に対して吸光度を測定する、という申立人の主張1及び2の前提が誤りとなるので、申立人の主張はいずれも採用できない。 ウ 申立理由3についてのまとめ 以上のとおりであるので、申立理由3(サポート要件)は理由がない。 (3)申立理由4(明確性)について ア 申立人の主張 申立人は特許異議申立書において、概略、以下のように主張する。 (ア)本件特許発明における化合物Aが有するグラフト鎖(以下「主張3」という。) 本件発明1の組成物は、「化合物A」を含むが、化合物Aが有する「グラフト鎖」が、具体的にどのような構造、分子量、または原子数などを示すのか明確でない、また、「グラフト鎖」は「ポリマー鎖」を意味するといえるが、何をもって「ポリマー鎖」というのか明確でない、というものである。 (イ)本件発明における吸光度の比(以下「主張4」という。) 本件発明1の吸光度比は、「組成物」に対して測定する、ということを前提として、「組成物」に含まれる成分の濃度、光路長等、吸光度を測定するための要件が特定されていないから、本件発明1は明確でない、というものである。 イ 検討 (ア)特許法第36条第6項第2号の考え方について 上記2(1)イ(ア)で述べたとおりである。 (イ)判断 a 本件発明1が明確か否かについて 本件発明1は、上記2(2)イ(イ)cで述べたとおり、遮光材として着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することを課題とし、上記「第3」で示したように、「遮光材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、 前記遮光材は、有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており、 前記化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり、 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種であり、 前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である、組成物。」とする発明である。 この本件発明1に対して、発明の詳細な説明の段落【0014】には、「本発明の組成物は、色ムラの抑制された膜を製造できる。このような効果が得られる理由としては次によるものであると推測される。化合物Aのラジカル重合性のエチレン性不飽和基や酸基と、遮光材とが相互作用することにより化合物Aが遮光材と近接し、遮光材は化合物Aに包まれるようにして組成物中に存在していると推測される。そして、この化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を有するので、グラフト鎖による立体障害によって遮光材の凝集などを抑制できると推測される。また、化合物Aはラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有するが、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、反応性に優れるため、遮光材の近傍で化合物Aが硬化すると考えられる。このため、製膜時において遮光材などの凝集を効果的に抑制できると推測される。このため、本発明によれば、色ムラの少ない膜を製造することができる推測される。」と記載されている。 この記載は、遮光材が化合物Aに包まれるように存在し、化合物Aのグラフト鎖による立体障害により遮光材の凝集が抑制され、化合物Aがラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有することで遮光材の近傍で硬化することにより遮光材の凝集を抑制できること、すなわち、本件発明1で特定される化合物Aと遮光材を含む組成物が、本件発明の課題を解決できると認識できる作用機序が記載されているといえるものである。 また、発明の詳細な説明の段落【0038】〜【0084】には、上記化合物Aについて、より具体的な記載がされており、特に、同【0049】〜【0063】には、グラフト鎖を有する繰り返し単位の具体的な例示が記載され、同【0083】には、化合物Aの具体例が記載されている。 さらに、同【0023】〜【0037】には、上記遮光材について、より具体的な記載がされている。 そして、実施例においては、本件発明1の具体的な組成物が、色ムラが少ないことに優れることが具体的なデータと共に記載されている。 以上のことからすると、本件発明1は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 b 主張3について 本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、グラフト鎖に関しては、「前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり」とされ、グラフト鎖の分子量、グラフト鎖がポリマー鎖であることは明らかとなった。また、「グラフト鎖」の具体的な化学構造を明示しなくても、上記aで述べたとおり、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 c 主張4について 上記(2)イ(ウ)で述べたように、本件訂正により請求項1に係る発明は訂正され、吸光度を測定するに当たり、膜厚を調整して膜の状態で吸光度を測定すると特定された。 このため、本件発明1において、「組成物」に対して吸光度を測定する、という申立人の主張4の前提が誤りとなるので、申立人の主張は採用できない。 d さらなる検討 念のため、膜厚を調整して膜の状態で吸光度を測定することについて検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】には、「吸光度は、従来公知の分光光度計を用いて測定できる。吸光度の測定条件は特に限定はないが、波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminが、0.1〜3.0になるように調整した条件で、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxを測定することが好ましい。このような条件で吸光度を測定することで、測定誤差をより小さくできる。波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminが、0.1〜3.0になるように調整する方法としては、特に限定はない。例えば、・・・膜の状態で吸光度を測定する場合は、膜厚を調整する方法などが挙げられる。」と記載されており、この記載に沿って吸光度を測定すればいいのであるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 ウ 申立理由4についてのまとめ 以上のとおりであるので、申立理由4(明確性)は理由がない。 4 令和4年2月7日に提出した意見書での主張 申立人は、令和4年2月7日に提出した意見書にて、サポート要件及び明確性について以下の点を主張するので検討する。 (1)申立人の主張について ア 主張(ア)グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量について 本件発明1では、グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量は「1000以上」と特定されるだけであり、上限値が特定されていない。 (ア)サポート要件について 本件明細書の発明の詳細な説明において記載される具体例は、上記重量平均分子量は1000〜7000程度のものが開示されているだけであり、極めて高分子量の場合には、溶剤に対する溶解性や、溶液中の挙動は大きく異なるため、遮光材に対する相互作用なども変化するから、具体的に示される範囲を超える場合において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 (イ)明確性について グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量の上限値が特定されていないから、範囲が明確でない、というものである。 イ 主張(イ)化合物Aの重量平均分子量について 本件発明1では、化合物Aの重量平均分子量は「3000以上」と特定されるだけであり、上限値が特定されていない。 (ア)サポート要件について 本件明細書の発明の詳細な説明において記載される具体例は、上記重量平均分子量は18000〜23000程度のものが開示されているだけであり、この値が3000程度の場合は、溶液中での立体障害の挙動が大きく異なると考えられ、また、極めて高分子量の場合には、溶剤に対する溶解性や、溶液中の挙動は大きく異なるため、遮光材に対する相互作用なども変化するから、具体的に示される範囲を超える場合において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 (イ)明確性について 化合物Aの重量平均分子量の上限値が特定されていないから、範囲が明確でない、というものである。 ウ 主張(ウ)化合物Aの重量平均分子量とグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量との関係について 本件発明1では、グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量は「1000以上」と特定されるだけであり、上限値が特定されていない。また、化合物Aの重量平均分子量は「3000以上」と特定されるだけであり、上限値が特定されていない。 (ア)サポート要件について 化合物Aのグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量は「1000以上」と特定されるだけであり、また、化合物Aの重量平均分子量は「3000以上」と特定されるだけである。具体的には、化合物Aのグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量は「10000」であって、化合物Aの重量平均分子量が「3000」である場合も権利範囲に含まれる。本件発明1で特定される数値範囲全体において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 (イ)明確性について 化合物Aの重量平均分子量とグラフト鎖を有する繰り返し単立の重量平均分子量の要件との関係に関する範囲が明確でない、というものである。 エ 主張(エ)グラフト鎖を有する繰り返し単位における構造について 本件発明1では、化合物A中のグラフト鎖を有する繰り返し単位における繰り返し数及びグラフト鎖の構造が特定されていない。 (ア)サポート要件について 化合物A中のグラフト鎖を有する繰り返し単位における繰り返し数は特定されておらず、また、グラフト鎖の構造も特定されていない。具体的には、グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000であって、グラフト鎖中に分子量が1000程度の連結基を有する場合、繰り返し数は1となるが、これは繰り返し単位ではないので、グラフト鎖中に繰り返し単位を含まない場合も権利範囲に含まれる。本件発明1で特定される範囲全体において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 (イ)明確性について 化合物Aにおけるグラフト鎖を有する繰り返し単位に関する範囲が明確でない、というものである。 オ 主張(オ)化合物Aにおける構造について 本件発明1では、化合物Aの主鎖の樹脂構造が特定されていない。 (ア)サポート要件について 化合物Aにおける構造、特に主鎖の樹脂構造は特定されていない。具体的には、化合物Aの主鎖の樹脂構造がアクリル樹脂構造、ポリシロキサン構造等、異なる場合には、溶剤に対する溶解性等、挙動は大きく異なるため、遮光材に対する相互作用なども変化するから、本件発明1で特定される範囲全体において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 (イ)明確性について 化合物Aにおけるグラフト鎖を有する繰り返し単位を含む構造に関する範囲が明確でない、というものである。 (2)検討 ア サポート要件について (ア)特許法第36条第6項第1号の考え方について 上記「2(2)イ(ア)」で述べたとおりである。 (イ)本件発明の課題について 上記「2(2)イ(イ)a」で述べたとおり、遮光材として着色剤を用いた際でも色ムラの少ない膜を製造できる組成物を提供することであると認める。 (ウ)申立人がする主張(ア)、(イ)及び(オ)についての判断 申立人がする主張(ア)、(イ)及び(オ)は、要すれば、本件発明1は上記(ア)、(イ)及び(オ)で示した特定がされておらず、これらのような特定がないと遮光材に対する相互作用なども変化するから、本件発明1は、具体的に示される範囲を超え、発明の課題を解決できない、というものである。 そこで、これらの点について検討する。 上記(ア)について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0063】には、「グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量(Mw)としては、1000以上であることが好ましく、1000〜10000であることがより好ましく、」と記載されており、請求項1にグラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量の上限が規定されていなくても、実際上はここに記載された程度であるということができる。 上記(イ)について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0039】には、「化合物Aの重量平均分子量は、3000以上であり、3000〜50,000であることが好ましく、」と記載されており、請求項1に化合物Aの重量平均分子量の上限値が特定されていなくても、実際上はここに記載された程度であるということができる。 上記(オ)について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】には、「本発明の組成物は、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、かつ、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量(Mw)3000以上の化合物Aを含む。」と記載され、同【0042】には、「化合物Aにおいて、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、繰り返し単位の側鎖に有していることが好ましい。すなわち、化合物Aは、下記式(A−1−1)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。 式(A−1−1)において、X1は繰り返し単位の主鎖を表し、L1は単結合または2価の連結基を表し、Y1はラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する基を表す。」と記載され、同【0043】には、「式(A−1−1)において、X1が表す繰り返し単位の主鎖としては、特に限定はない。公知の重合可能なモノマーから形成される連結基であれば得に制限ない。例えば、ポリ(メタ)アクリル系連結基、ポリアルキレンイミン系連結基、ポリエステル系連結基、ポリウレタン系連結基、ポリウレア系連結基、ポリアミド系連結基、ポリエーテル系連結基、ポリスチレン系連結基などが挙げられ、原料素材の入手性や製造適性の観点からポリ(メタ)アクリル系連結基、ポリアルキレンイミン系連結基が好ましく、(メタ)アクリル系連結基がより好ましい。」と記載され、同【0058】には、「グラフト鎖を有する繰り返し単位としては、下記式(A−1−2)で表される繰り返し単位が挙げられる。 【化7】 」が記載され、同【0059】には、「式(A−1−2)において、X2は繰り返し単位の主鎖を表し、L2は単結合または2価の連結基を表し、W1はグラフト鎖を表す。 式(A−1−2)におけるX2が表す繰り返し単位の主鎖としては、式(A−1−1)のX1で説明した構造が挙げられ、好ましい範囲も同様である。」と記載されている。 そうすると、請求項1に化合物Aの主鎖の樹脂構造が特定されていなくても、実際上はここに記載された構造であるということができる。 そして、本件発明1は、上記「2(2)イ(エ)b」で述べたように、詳細な説明の記載及び特許権者の説明みた当業者であれば、課題を解決できると認識できるといえることは明らかであるといえる。 一方、申立人は、ただ、これらのような特定がないと遮光材に対する相互作用なども変化すると述べるだけであり、客観的な証拠を挙げているわけでもない。 よって、申立人のこれらの主張は採用できない。 (エ)申立人がする主張(ウ)及び(エ)についての判断 申立人がする主張(ウ)及び(エ)は、要すれば、本件発明1は上記(ウ)及び(エ)で示した特定がされていないと、化合物Aは、本件発明1で特定されるすべての事項を満足しない化合物も含まれ、本件発明1で特定される範囲全体において、発明の課題を解決できると認識できない、というものである。 しかしながら、本件発明1は、請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本件発明1で特定されるすべての事項を満足しない化合物は含まれないことは明らかである。 したがって、申立人が上記(ウ)及び(エ)での主張で述べている権利範囲に含まれるとされる具体的な例は、本件発明1に含まれない。 よって、申立人が主張する上記(ウ)及び(エ)は、その前提において誤りがあり、採用できない。 イ 明確性について (ア)特許法第36条第6項第2号の考え方について 上記2(1)イ(ア)で述べたとおりである。 (イ)申立人が主張する上記(ア)、(イ)及び(オ)についての判断 申立人が主張する上記(ア)、(イ)及び(オ)は、要すれば、本件発明1は上記(ア)、(イ)及び(オ)で示した特定がされておらず、これらのような特定がないと本件発明1は、明確でない、というものである。 しかしながら、上記「3(3)イ(イ)a」で述べたように、本件発明1は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであるから、申立人が主張する上記(ア)、(イ)及び(オ)で示した特定がされていなくても第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (ウ)申立人がする主張(ウ)及び(エ)についての判断 申立人がする主張(ウ)及び(エ)は、要すれば、本件発明1は上記(ウ)及び(エ)で示した特定がされていないと、化合物Aは、本件発明1で特定されるすべての事項を満足しない化合物も含まれ、本件発明1は明確ではない、というものである。 しかしながら、本件発明1は、請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本件発明1で特定されるすべての事項を満足しない化合物は含まれないことは明らかである。 したがって、申立人が上記(ウ)及び(エ)での主張で述べている権利範囲に含まれるとされる具体的な例は、本件発明1に含まれない。 よって、申立人が主張する上記(ウ)及び(エ)は、その前提において誤りがあり、採用できない。 (3)小括 以上のとおりであるので、令和4年2月7日に提出した意見書での申立人の主張はいずれも採用できない。 第6 むすび 特許6804567号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜19]について訂正することを認める。 本件発明6に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。 当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1〜5、7〜19に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜5、7〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 遮光材と、 ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する重量平均分子量3000以上の化合物Aと、を含む組成物であり、 前記遮光材は、有機系黒色着色剤を含むものであるか、または、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成しており、 前記化合物Aは、グラフト鎖を有する繰り返し単位を含み、前記グラフト鎖を有する繰り返し単位の重量平均分子量が1000以上であり、 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニロキシ基、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、スチレン基、シンナモイル基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種であり、 前記組成物は、前記組成物をガラス基板上にスピンコートし、100℃で120秒間乾燥して製膜した膜の波長400〜640nmの範囲における吸光度の最小値Aminと、波長1100〜1300nmの範囲における吸光度の最大値Bmaxとの比であるAmin/Bmaxが5以上である、組成物。 【請求項2】 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基、スチレン基およびマレイミド基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記化合物Aが有するラジカル重合性のエチレン性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基である、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 前記グラフト鎖は、ポリエステル構造、ポリエーテル構造、ポリ(メタ)アクリル構造、ポリウレタン構造、ポリウレア構造およびポリアミド構造から選ばれる少なくとも1種の構造を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 前記グラフト鎖は、ポリエステル構造を含む、請求項4に記載の組成物。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 前記化合物Aは、ラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する繰り返し単位と、グラフト鎖を有する繰り返し単位とを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項8】 前記化合物Aは、下記式(A−1−1)で表される繰り返し単位と、下記式(A−1−2)で表される繰り返し単位とを含む、請求項1〜5、7のいずれか1項に記載の組成物; 【化1】 式(A−1−1)において、X1は繰り返し単位の主鎖を表し、L1は単結合または2価の連結基を表し、Y1はラジカル重合性のエチレン性不飽和基を有する基を表す; 式(A−1−2)において、X2は繰り返し単位の主鎖を表し、L2は単結合または2価の連結基を表し、W1はグラフト鎖を表す。 【請求項9】 前記化合物Aは、更に、酸基を有する繰り返し単位を含む、請求項1〜5、7、8のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項10】 前記化合物Aのラジカル重合性のエチレン性不飽和基量が0.2〜5.0mmo1/gである、請求項1〜5、7〜9のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項11】 前記化合物Aの酸価が20〜150mgKOH/gである、請求項1〜5、7〜10のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項12】 前記遮光材は、2種類以上の有彩色着色剤を含み、2種以上の有彩色着色剤の組み合わせで黒色を形成している、請求項1〜5、7〜11のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項13】 前記遮光剤は、有機系黒色着色剤を含む、請求項1〜5、7〜12のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項14】 更に、近赤外線吸収剤を含む、請求項1〜5、7〜13のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項15】 請求項1〜5、7〜14のいずれか1項に記載の組成物から得られる膜。 【請求項16】 請求項15に記載の膜を有する赤外線透過フィルタ。 【請求項17】 請求項15に記載の膜を有する固体撮像素子。 【請求項18】 請求項15に記載の膜を有する画像表示装置。 【請求項19】 請求項15に記載の膜を有する赤外線センサ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照 |
異議決定日 | 2022-06-06 |
出願番号 | P2018-564627 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C08F)
P 1 651・ 537- YAA (C08F) P 1 651・ 121- YAA (C08F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 佐藤 健史 |
登録日 | 2020-12-04 |
登録番号 | 6804567 |
権利者 | 富士フイルム株式会社 |
発明の名称 | 組成物、膜、赤外線透過フィルタ、固体撮像素子、画像表示装置および赤外線センサ |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |