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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
管理番号 1388371
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-05 
確定日 2022-06-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6826788号発明「吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6826788号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6826788号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6826788号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成27年9月29日の出願であって、令和3年1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許の異議申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年 8月 5日 :特許異議申立人金田綾香(以下、「申立人」という。)による本件特許の請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年10月27日付け:取消理由通知
同年12月22日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」といい、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)

なお、令和3年12月22日の訂正請求に対して、期間を指定して申立人に意見書の提出を求めたが、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正の適否
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも前記上層吸収体における幅方向中間部に、前後方向に延びるスリットが一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられており、」と記載されているのを
「少なくとも前記上層吸収体における幅方向中間部に、前後方向に延びるスリットが一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられており、
前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜5も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、前記スリットの前後方向長さは、前記上層吸収体の全長の30〜70%である、」との記載されているのを
「前記スリットの前後方向長さは、前記上層吸収体の全長の30〜70%である、」に訂正する
(請求項2の記載を引用する請求項3〜5も同様に訂正する。)。

2.一群の請求項について
(1)訂正前の請求項1〜5について、訂正前の請求項2〜5は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正は一群の請求項1ないし5について請求されている。

3.本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「スリット」を、「前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」と具体的に特定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明の「スリット」を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
「前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」との事項は、訂正前の請求項2に記載されている事項であるから、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正事項1によって請求項1に追加された「前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」との記載が、訂正前の請求項2の記載と重複するため、訂正前の請求項2から「前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」との記載を削除し、訂正後の請求項1の記載と、訂正後の請求項2の記載とを整合させ、発明を明確にするための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、請求項1と重複する請求項2の記載を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、請求項1と重複する請求項2の記載を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

4.むすび
上記3.のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、訂正事項1及び2に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜請求項5に係る発明(以下、各々「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜請求項5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である下層吸収体と、その表側に設けられた、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である上層吸収体とを備えた、吸収性物品において、
前記上層吸収体は、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが350〜500g/m2、かつパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が150〜200%であり、
前記下層吸収体は、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが250〜350g/m2、かつパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が30〜70%であり、
少なくとも前記上層吸収体における幅方向中間部に、前後方向に延びるスリットが一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられており、
前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、
前記下層吸収体の裏側全体が、液不透過性シートにより途切れなく覆われており、
前記上層吸収体及び前記下層吸収体に供給される排泄物の液分を当該吸収性物品の外部へ排出する手段を有せず、
前記下層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が20〜35秒かつ吸水量が50〜70g/gであり、前記上層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が60〜80秒かつ吸水量が50〜70g/gである、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記スリットの前後方向長さは、前記上層吸収体の全長の30〜70%である、請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記上層吸収体におけるパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が、前記スリットに近づくにつれて段階的又は連続的に高くなる、請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記下層吸収体におけるパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が、前記スリットに近づくにつれて段階的又は連続的に低くなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記上層吸収体と前記下層吸収体との間における前記スリットを除く位置に、前記下層吸収体よりも密度の高い親水性シートが介在されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
請求項1及び3〜5に係る特許に対して、当審が令和3年10月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、下記のとおりである。

(サポート要件)本件訂正前の請求項1及び請求項2を引用しない請求項3〜5に係る発明は、その発明特定事項としてスリットの幅を特定しないものであるから、当該請求項1及び請求項2を引用しない請求項3〜5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないから本件特許は取り消すべきものである。

第5 当審の判断
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「逆戻り防止性に優れた吸収性物品を提供する」こと(明細書の段落【0006】参照)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の吸収体では、排泄物の液分は上層吸収体にも供給されるが、それよりも優先的にスリットを通して下層吸収体に供給される。」(段落【0008】参照。)と作用・効果(以下、「スリットの作用・効果」という。)についての記載があり、本件特許に係る発明の課題を解決するためには、このスリットの作用・効果は必要不可欠であると認められる。
さらに、発明の詳細な説明には、「スリット17の幅17dは特に限定されないが、上層吸収体19の全幅19wの5〜20%とすることが望ましい。」(段落【0048】参照。)とした上で、「以上のように構成された吸収体18,19では、図11及び図12にそれぞれ吸収状態の変化を示すように、排泄物の液分Lは上層吸収体19にも供給されるが、それよりも優先的にスリット17を通して下層吸収体18に供給される。ここで、下層吸収体18におけるパルプ繊維18fに対する高吸収性ポリマー粒子18pの重量比率が上層吸収体19のそれよりも低いので、上層吸収体19よりもゲルブロッキングが生じにくく排泄物の液分が下層吸収体18内でより広範囲に拡散する。」(段落【0051】参照。)と記載されていることを勘案すると、スリットが上層吸収体の全幅に対して5〜20%の幅を備えることによって上記スリットの作用・効果が発揮されるから、上記課題を解決することができると認められる。
そして、上記本件訂正により、本件発明1〜5は、その発明特定事項としてスリットの幅を「上層吸収体の全幅の5〜20%」と特定するものとなった。
したがって、本件発明1〜5は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由及び証拠方法
1.特許法第29条第2項について
(1)申立人の主張
申立人は、主たる証拠として下記の甲第1号証並びに従たる証拠として甲第2号証〜甲第4号証を提出し、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(2)証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下に示す甲第1号証〜甲第4号証である。

甲第1号証:国際公開第2012/086265号
甲第2号証:特開2010−51654号公報
甲第3号証:高吸水性樹脂の吸水量試験方法、日本工業規格、JIS K 7223−1996、1996年
甲第4号証:特開2006−122737号公報

(3)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。以下同様。)。
ア「[0013] 本発明の吸収体は、液拡散性が向上することにより、広い範囲に液体を拡散させることができ、また吸収体に供給された液体を密度の低い受液層部で平面方向に拡散し、その拡散した液体を受液層部に連続している密度の高い突出液吸収貯蔵部に吸収させて貯えることができるので、液体の吸収量が多くなり、吸収性能を高めることができる。また第1凹部による可撓性等の柔らかさを発現しつつ、第2、第3凹部により体型によくフィットするように各吸収部の形状が変化しやすく、各吸収部の肌面に対する必要とされる部分での密着性が高められるので、歩行している時や座っている時などでも体型適合性に優れる。
本発明の吸収性物品は、各吸収部の肌面に対する必要とされる部分での密着性が高められるので、歩行している時や座っている時などでも体型適合性に優れる。また第1凹部によって吸収体の側縁部分がそけい部にフィットしやすくなるので、第1吸収部に供給された液体の横漏れを防止できる。さらに肌への密着性(フィット感)が向上できる利点を維持しつつ、突出液吸収貯蔵部の上面側を肌当接面側に配置し、受液層部側を非肌当接面側に配置することで、肌へのべとつき感が低減できる。さらに、突出液吸収貯蔵部は受液層部に連続していることから、着用時の歩行等の動作によってよれることが低減され、突出液吸収貯蔵部が浮き上がることも無くなり、装着時の違和感が解消され、装着感がより良くなる。」

イ「[0018] 上記受液層部31の坪量は、好ましくは10g/m2以上300g/m2以下であり、より好ましくは30g/m2以上200g/m2以下であり、特に好ましくは40g/m2以上150g/m2以下である。
また、上記突出液吸収貯蔵部32の坪量は、突出液吸収貯蔵部32と接している受液層部31の合計の坪量として凹部にある受液層部31の坪量より高く、好ましくは200g/m2以上、800g/m2以下、より好ましくは300g/m2以上700g/m2以下であり、特に好ましくは400g/m2以上600g/m2以下である。突出液吸収貯蔵部32の坪量は、凹部における受液層部31の坪量の差分より算出できる。
上記突出液吸収貯蔵部32の坪量は、100g/m2以上、600g/m2以下、好ましくは200g/m2以上600g/m2以下であり、より好ましくは300g/m2以上600g/m2以下である。」

ウ「[0043] 図8(1)に示すように、本発明の吸収体10を用いて突出液吸収貯蔵部32側より液体が供給されるように吸収性本体15を構成するには、吸収体10の突出液吸収貯蔵部32側に表面シート16を配し、この表面シート16の周囲に接合するようにして、かつ吸収体10の受液層部31側を包み込むように裏面シート17を配するように構成すればよい。」

エ「[0045] 上記裏面シート17は、防水性があり透湿性を有していれば特に限定されない。(省略)」

オ「[0063] 次に平面視した場合の凹部の配置形態について、以下に説明する。
平面視した凹部の配置形態の第1例は、第1凹部21の配置形態の一例を示すもので、図13に示すように、第1吸収部11には複数本の第1凹部21が長手方向Lに配される。この第1凹部21は、第1凹部21全体として長手方向Lに配されていて、少なくとも平面視吸収体10の内側に配されていれば、直線状、曲線状または折れ線状等に構成されたものであっても、それらのいくつかを組み合わせたものであってもよい。この第1例は、第1凹部21の配置形態の基本形である。」

カ「[0078] 次に、本発明に係る吸収体および吸収性物品の好ましい第6実施形態について、図20を参照しながら、以下に説明する。
図20に示すように、本発明の吸収体10は、パルプ41と吸水性ポリマー42とを有し、[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比が1/3以上1/0.01以下であり、好ましくは1/2.5以上1/0.1以下であり、より好ましくは1/2以上1/0.5以下である。この吸収体10は、例えば、積繊して成形されるパルプ41間に吸水性ポリマー42が分散されているものである。または、積繊して成形されるパルプ41の層間に吸水性ポリマー42が分散されているものであってもよい。上記質量比が低すぎる場合にはパルプ量が少なすぎてパルプ41中に吸水性ポリマー42を保持することが困難となり、上記質量比が高すぎる場合には吸水性ポリマー42の量が少なくなりすぎるので液体の吸収量が不十分になる。よって、上記吸収量は上記範囲とした。」

キ「[0080] また、所定の加圧下における排せつ液(試験は模擬液として人工尿または生理食塩水)の吸収量は、2kPaの加圧下において、20g/g以上40g/g以下であり、好ましくは20g/g以上35g/g以下であり、より好ましくは21g/g以上30g/g以下、特に好ましくは22g/g以上28g/g以下である。なお、加圧値の2kPaは、乳児が吸収体10の着用時に吸収体10を加圧するときの平均的な圧力の一例である。
上記吸水性ポリマー22の加圧下での吸収量が少なくなるケースとして、一般に(1)ポリマーの架橋が非常に強くゲル強度が高すぎる場合と、(2)ポリマーの架橋が非常に弱くゲル強度が低すぎる場合がある。(1)の場合、加圧下では吸水性ポリマー自体は潰れ難いが、吸水性ポリマーの液体を吸収するという能力が不十分であるため、加圧下での吸収量が少なくなり、液体は吸収体10中に吸収されず広がって漏れることになる。(2)の場合、加圧下では吸水性ポリマーは潰れやすく、程度を越えてゲルブロッキングを引き起こすと、吸収体10の吸収速度は遅く液戻り量が多く、吸収容量が少なくなる。
加圧下での吸収量が多い吸水性ポリマーは、一般に(1)ポリマーの架橋が非常に強く、加圧下では吸水性ポリマー自体が潰れないが吸水量は少ない。もしくは、(2)ポリマーの架橋が弱く、吸水時に弾性を示さず、加圧下では吸水性ポリマー自体が潰れやすい、場合がある。(1)の場合、吸水性ポリマーの液体を吸収するという能力が不十分であるため、液体は吸収体10中に吸収されず漏れることになる。(2)の場合、加圧下で吸水性ポリマーが程度を越えてゲルブロッキングを引き起こすと、吸収体10の吸収速度は遅く液戻り量が多く、吸収容量が少なくなる。
加圧下における排せつ液の吸収量を上記範囲に設定された吸水性ポリマー42は、架橋が適度に強いので吸水性ポリマー42自体が潰れにくい。したがって、液体(例えば、尿)が排出された状況の下、着用者の荷重が吸収体10にかけられた加圧下において潰れることがないので、後述する溝20の内側に吸水性ポリマー42がはみ出し吸水性ポリマー42によって溝20が塞がれることが抑制され、溝20(液体の通り道)が確保される。よって、溝20における通液性が確保され維持されるので、溝内の通液が速くなる。すなわち、液体を素早く拡散させることができるので、拡散速度が速くなり、液体の吸収時間が短くなる。しかも、液戻りが起こりにくい。
さらに、着用者の行動,流通状況等によって、吸水性ポリマー42が吸収体10のどこかに偏在する場合がある(例えば、図21に示した吸収体10の場合、中央部の吸収体ブロック44に偏在:着用者の股間部周辺に相当。)。一般に、加圧下の吸水量が低い吸水性ポリマーは、一定荷重下でも、パッキング密度(偏在状態に相当)が高いと膨潤阻害を受け、吸水量が低下する傾向にある。しかし、凹部を有する吸収体10では、凹部(溝20)の空間によって、ある程度、膨潤阻害を緩和することができる。
よって、吸水性ポリマー42の2kPaの加圧下での吸収量の下限は上記範囲とした。また、上記吸水性ポリマー42の加圧下での吸収量が多すぎる場合、吸水性ポリマー42は程度を越えて膨潤し、凹部(溝20)が埋没または閉塞し、繰り返しの排泄時に液体の通り道が確保されなくなる可能性があるため、2kPaの加圧下での吸収量の上限は上記範囲とした。」

ク「[0084] また、平面視した吸収体10の表面積に対して平面視した溝20の開口部の総面積は、10%以上40%以下であり、好ましくは15%以上35%以下であり、より好ましくは20%以上30%以下である。溝20の総面積が10%よりも少なすぎると、溝20を通液できる液体の量が少なくなるので液体の拡散性が低下し、吸収体10の広い範囲に液体を広げることが難しくなる。一方、溝20の総面積が大きくなりすぎると、液体の拡散性は高まるが、液体を溜め置く吸収体10の体積が少なくなりすぎて、液体を十分に吸収しておくことが困難になる。また、液体の流路としての機能も低下する。
[0085] 上記溝20の幅は、1mm以上10mm以下であり、好ましくは2mm以上8.5mm以下であり、より好ましくは3mm以上7mm以下である。溝20の幅が広すぎると溝としての機能を有さなくなり、狭すぎると通液性が低下して溝20を通して液体を拡散させる範囲が狭くなり、また液体の吸収量が少なくなって吸収体表面に液戻りされることになる。」

ケ「[0105] 上記構成の吸収体の製造装置100では、供給部103により搬送気体(例えば空気)とともに供給された粉砕パルプおよび高吸水性ポリマーが積繊キャビティ107内に供給され、吸引部102の吸引力によって所定形状に堆積されることによって吸収体が製造される。粉砕パルプおよび高吸水性ポリマーの時間当たりの供給量、供給時の風速(風圧)等を調整することによって吸収体の密度を所望の密度にすることができる。
[0106] 具体的には、図24(1)に示すように、積繊ドラム101の外周に配された積繊キャビティ107内に、例えば粉砕パルプ111および高吸水性ポリマー112を堆積させる。なお、積繊キャビティ107は、積繊ドラム101の外周に配されているので、その外周面にそって底面が湾曲した形状になっていてもよい。続けて、図24(2)に示すように、さらに積繊キャビティ107内に粉砕パルプ111および高吸水性ポリマー112を堆積させて、突出液吸収貯蔵部32を成す。そして積繊キャビティ107内の突出液吸収貯蔵部32が突起部108と同等の高さになったところで、高吸水性ポリマー112の供給を抑制しつつ、粉砕パルプ111を供給して堆積し、図24(3)に示すように、受液層部31を成す。このように突出液吸収貯蔵部32と受液層部31とを連続して堆積するので、突出液吸収貯蔵部32と受液層部31との間に界面を生じることなく堆積を完了して吸収体10を製造することができる。その後、積繊キャビティ107内から堆積した吸収体10を剥離して、厚みの大きい突出液吸収貯蔵部32のみが圧力を受けるように加圧し圧縮するプレス工程を行い、突出液吸収貯蔵部32が高密度になるように凹部20底部の受液層部31とに密度差が生じる。さらに、上下を反転することで、図24(4)に示すように、吸収体10が完成する。
したがって、上記吸収体の製造装置100では、先に突出液吸収貯蔵部32が構成され、その後連続して受液層部31が構成される。」

コ「[0115] 例えば、前述のように突起部108を吸収体10の長手方向の中央部の厚みを2mm、外周部の厚みを1mmに形成した積繊キャビティ107内に粉砕パルプ111および高吸水性ポリマー112を堆積させることにより、図26(1)に示すように、吸収体10の中央部における凹部20底部の受液層部31の坪量が50g/m2となるように薄く堆積させることができ、吸収体10の外側部における凹部20底部の受液層部31の坪量が100g/m2となるように厚く堆積させることができる。
一方、突起部108の高さを変化さない場合には、図26(2)に示すように、吸収体10の全域にわたって凹部20底部の受液層部31の厚さが一定になるので、坪量も一定になる。」

サ「[0128] 以下に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1の吸収体10を以下のように作製した。まず、深さ6mmの積繊キャビティ107に対し、高さ2mmの突起部108を図26に示す形状が得られるように配置した。突起部108の断面形状は矩形である。そして、フラッフパルプ(ウェアハウザー社製、商品名NB416)と超吸収性ポリマー(日本触媒社製、商品名W101)を積繊キャビティ107内に堆積させた。この時、突出液吸収貯蔵部32の坪量は、パルプが200g/m2、超吸収性ポリマーが320g/m2であり、凹部20底部の受液層部31の坪量は、パルプが50g/m2、超吸収性ポリマーが50g/m2である。堆積後、積繊キャビティ107内から堆積した吸収体10を剥離し、圧力0.025MPaでプレス加工した。この吸収体10を反転させて、非肌当接面側に受液層部31を有するよう配置し、坪量16g/m2のティッシュで全体を被覆して作製した。(省略)」

シ「[0135] 次に、吸水性ポリマーの吸水量の測定法を以下に説明する。
吸水量の測定は、室温(20±5℃)で、吸水性ポリマー1.00gを室温(20±5℃)の生理食塩水(0.9%NaCl水溶液、大塚製薬製)150mLで30分間膨潤させた後、250メッシュの不織布袋に入れ、遠心分離機にて143Gで10分間脱水し、脱水後の総質量(全体質量)を測定する。そして、次式(1)に従って、遠心脱水後の生理食塩水の保持量を測定し、この値を吸水量とする。」

ス「[請求項5] 吸収体を長手方向に3区分した中間部の第1吸収部と、前記第1吸収部の一方側に区分された第2吸収部と、前記第1吸収部の他方側に区分された第3吸収部とを有し、
前記各吸収部は、液体を吸収して平面方向に拡散する受液層部と、該受液層部の一面側に該受液層部に連続して複数に分立して配され液体を吸収して貯える突出液吸収貯蔵部とを有し、かつ、一方の面にまたは両方の面の対向する位置に溝状に窪んだ凹部を有し、前記突出液吸収貯蔵部間に前記凹部が配され、
前記突出液吸収貯蔵部は前記凹部よりも面積率が高く、
前記凹部底部の前記受液層部は前記突出液吸収貯蔵部より坪量および密度が低い吸収体であって、
前記吸収体はパルプと吸水性ポリマーとを有する吸収体であり、前記凹部は該吸収体の厚みの20%以上100%未満の深さを有し、
前記吸収体における[パルプの質量]/[吸水性ポリマーの質量]で表される質量比が1/3以上1/0.01以下であり、
前記吸水性ポリマーは、吸水量が30g/g以上50g/g以下であり、2kPaの加圧下における液体の吸収量が20g/g以上40g/g以下である吸収体。」

セ [図8](1)

ソ [図26]


タ 図8(1)からは、裏面シート17を、吸収体10の裏面全体及び表面の一部に配した構成が見て取れる。

チ 図26からは、突出液吸収貯蔵部32の幅方向の中間の部分に、長手方向に延びる凹部20を設けた構成が見て取れる。

(4)甲1発明
上記(3)の記載事項ア〜ソ並びに認定事項タ及びチから、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

【甲1発明】
「積繊して成形されるパルプ間に超吸収性ポリマーが分散されている受液層部31と、該受液層部31の表面側に配された、積繊して成形されるパルプ間に超吸収性ポリマーが分散されている突出液吸収貯蔵部32を有する、吸収体10において、
前記突出液吸収貯蔵部32は、パルプの坪量が200g/m2、かつ超吸収性ポリマーの坪量が320g/m2であり、
前記受液層部31は、パルプの坪量が50g/m2、かつ超吸収性ポリマーの坪量が50g/m2であり、
前記突出液吸収貯蔵部32の幅方向の中間の部分に、長手方向に延びる凹部20が、幅方向に間隔を開けて複数本設けられており、
平面視した吸収体10の表面積に対して平面視した凹部20の開口部の総面積は、10%以上40%以下であり、
前記受液層部31を包み込むように、防水性のある裏面シート17が、前記吸収体10の裏面全体及び表面の一部に配された、
吸収体10。」


(5)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「【0049】
吸収構造体4に用いられる吸水性樹脂粉末47は、ボルテックス法(VORTEX法)による吸水速度が、好ましくは45秒以下、より好ましくは8〜40秒、更に好ましくは8〜35秒、特に好ましくは12〜30秒である。ボルテックス法は吸水性樹脂粉末47が強制的に液体にさらされるときの液の固定能力を示す方法として知られている。特に下層吸収部44はパルプレス構造の薄型吸収体であるため、吸収速度が速いことが望ましいところ、吸水性樹脂粉末47のボルテックス法による吸水速度が斯かる範囲にあることにより、下層吸収部44、延いては吸収構造体4の吸収速度の向上を図ることができ、一度に大量の尿が排泄されてもこれを素早く吸収することができる。このため、吸収構造体4(下層吸収部44)に液が素早く吸収され易くなるため尿漏れが生じ難くなり、また尿が広がることによって肌が広範囲に濡らされることが抑制容易になるので、衛生的である。また、吸水性樹脂粉末47の吸収速度が極端に速くない(即ち、ボルテックス法による吸水速度が8秒以上である)ので、長時間使用され繰り返して尿が排泄されるような場合には、排泄尿部付近で飽和吸収量に達しにくくなるため、尿を広い範囲で吸収可能となるため漏れや液戻りを有効に抑制可能となる。尚、本発明においてはボルテックス法による吸水速度の評価を、時間を測定することで評価しているため、測定時間が短いほど吸水速度が速いとみなされる。ボルテックス法による吸水速度は次のようにして測定される。
【0050】
(ボルテックス法による吸水速度の測定方法)
100mLのガラスビーカーに、生理食塩水(0.9重量%塩化ナトリウム水)50mLとマグネチックスターラーチップ(中央部直径8mm、両端部直径7mm、長さ30mmで、表面がフッ素樹脂コーティングされているもの)を入れ、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン製HPS−100)に載せる。マグネチックスターラーの回転数を600±60rpmに調整し、生理食塩水を攪拌させる。測定試料である吸水性樹脂粉末2.0gを、攪拌中の食塩水の渦の中心部で液中に投入し、JIS K 7224(1996)に準拠して該吸水性樹脂粉末の吸水速度(秒)を測定する。具体的には、吸水性樹脂粉末のビーカーへの投入が完了した時点でストップウォッチをスタートさせ、スターラーチップが試験液に覆われた時点(渦が消え、液表面が平らになった時点)でストップウォッチを止め、その時間(秒)をボルテックス法による吸水速度として記録する。測定はn=5測定し、上下各1点の値を削除し、残る3点の平均値を測定値とした。尚、これらの測定は23±2℃、湿度50±5%で行い、測定の前に吸水性樹脂粉末を同環境で24時間以上保存した上で測定する。
【0051】
上層吸収部42が吸水性樹脂粉末47を含んでいる場合、該上層吸収部42に用いられる吸水性樹脂粉末47のボルテックス法による吸水速度Aは、下層吸収部44に用いられる吸水性樹脂粉末47のボルテックス法による吸水速度Bよりも遅く、且つ両吸水速度の差(A−B)が10秒以上、特に15秒以上であることが好ましい。このように下層吸収部44の方が上層吸収部42よりも含有されている吸水性樹脂粉末47の吸水速度が速いことにより、排泄された尿は上層吸収部42よりも下層吸収部44でより多く吸収・固定することができるため、上層吸収部42の吸収負荷が低減し、繰り返しの吸収性能を維持することができるようになる。」

イ「【0077】(下層吸収部の作製) 第1シート材45としての親水性エアスルー不織布(坪量20g/m2)に、スロットスプレーでホットメルト接着剤(坪量3g/m2)を散布し、該接着剤の散布面上に、ボルテックス法による吸水速度が16秒の吸水性樹脂粉末43をシート長手方向に延びるストライプ状に散布した。(省略)」

ウ「【0080】〔実施例4〕 実施例1において、上層吸収部42を構成する吸水性樹脂粉末としてボルテックス法による吸水速度が35秒の吸水性樹脂粉末を用いた以外は実施例1と同様にして尿とりパッド作製し、これを実施例4のサンプルとした。」

(6)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「6.操作 操作は次のとおり行う。
(1) 試験液が脱イオン水の場合,試料約0.20gを0.001gまで素早く量り採りaとする。0.9M/v%(当審注:正誤票から、「0.9質量%」の意味と認める。以下同様。)の食塩水の場合は,試料約1.00gを0.001gまで素早く量り採りaとする。
(省略)
(3) 試料をティーバッグの底部に均一になるように入れ,ままこ(継粉)を生じないように静かにティーバッグの下部約150mmを試験液に規定時間浸せき(1)する。浸せき時間は脱イオン水の場合は3時間及び24時間,0.9M/v%の食塩水の場合は1時間、3時間及び24時間とする。
注(1) 試験液1lに1個のティーバッグを浸せきする。
(省略)
(6) (1)〜(4)の操作を,5回繰り返す。測定後にティーバッグから吸水した試料の漏れの有無を観察する。漏れが観察されたときは,その分を再試験する。」(2頁最下行〜3頁15行)

(7)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0019】
本発明の吸水剤の生理食塩水に対する1時間後の吸収量(g/g)は、50〜75が好ましく、さらに好ましくは52〜73、特に好ましくは54〜71である。この範囲であると、本発明の吸水剤を吸収性物品に適用したときさらに優れた耐モレ性を発揮する。なお、吸水剤の生理食塩水に対する1時間後の吸収量(g/g)は、下記測定方法で求められる値である。測定法: 目開き63μmのナイロン網(JIS Z8801−1:2000)で作成したティーバッグ(縦20cm、横10cm)に測定試料1.00gを入れ、生理食塩水(食塩濃度0.9重量%)1,000cc中に無撹拌下、1時間浸漬した後、15分間吊るして水切りする。その後、ティーバックを含めた重量(k1)を測定し次式から吸収量を求める。なお、使用する生理食塩水及び測定雰囲気の温度は25±2℃である。
【0020】
【数1】
吸収量(g/g)=(k1)−(k2)
(k2)は、測定試料の無い場合について上記と同様の操作により計測したティーバックの重量である。
【0021】
本発明の吸水剤の生理食塩水に対する1時間後の保水量(g/g)は、30〜65が好ましく、さらに好ましくは31〜60、特に好ましくは32〜58である。この範囲であると、本発明の吸水剤を吸収性物品に適用したときさらに優れた耐モレ性を発揮する。吸水剤の生理食塩水に対する1時間後の保水量(g/g)は、下記測定方法で求められた値である。
測定法:
目開き63μmのナイロン網(JIS Z8801−1:2000)で作成したティーバッグ(縦20cm、横10cm)に測定試料1.00gを入れ、生理食塩水(食塩濃度0.9重量%)1,000cc中に無撹拌下、1時間浸漬した後、15分間吊るして水切りする。その後、ティーバッグごと、遠心分離器にいれ、150Gで90秒間遠心脱水して余剰の生理食塩水を取り除き、ティーバックを含めた重量(h1)を測定し次式から保水量を求める。なお、使用する生理食塩水及び測定雰囲気の温度は25℃±2℃である。
【0022】
【数2】
保水量(g/g)=(h1)−(h2)
(h2)は、測定試料の無い場合について上記と同様の操作により計測したティーバックの重量である。」

(8)進歩性についての検討
ア 請求項1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「パルプ」は、本件発明1の「パルプ繊維」に相当し、以下同様に、
「超吸収性ポリマー」は「高吸収性ポリマー粒子」に、
「受液層部31」は「下層吸収体」に、
「表面側」は「表側」に、
「突出液吸収貯蔵部32」は「上層吸収体」に、
「吸収体10」は「吸収性物品」に、
「突出液吸収貯蔵部32の幅方向の中間の部分」は「上層吸収体における幅方向中間部」に、
「長手方向」は「前後方向」に、
「凹部20」は「スリット」に、
「幅方向に間隔を開けて複数本設けられて」いることは「一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられて」いることに、
「防水性のある裏面シート17」は「液不透過性シート」に、それぞれ相当する。

また、甲1発明の「積繊して成形されるパルプ間に超吸収性ポリマーが分散されている」ことは、本件発明1の「パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である」ことに相当する。

さらにまた、甲1発明の「前記受液層部31を包み込むように、防水性のある裏面シート17が、前記吸収体10の裏面全体及び表面の一部に配された」との構成は、本件発明1の「前記下層吸収体の裏側全体が、液不透過性シートにより途切れなく覆われて」いる構成に相当するとともに、「前記上層吸収体及び前記下層吸収体に供給される排泄物の液分を当該吸収性物品の外部へ排出する手段を有せず」との構成に相当する。

そして、甲1発明における「突出液吸収貯蔵部32は、パルプの坪量が200g/m2、かつ超吸収性ポリマーの坪量が320g/m2」である構成は、換算すればパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率は160%であるから、本件発明1の「上層吸収体は、」「パルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が150〜200%」である構成に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。

[一致点]
「パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である下層吸収体と、その表側に設けられた、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である上層吸収体とを備えた、吸収性物品において、
前記上層吸収体は、パルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が150〜200%であり、
少なくとも前記上層吸収体における幅方向中間部に、前後方向に延びるスリットが一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられており、
前記下層吸収体の裏側全体が、液不透過性シートにより途切れなく覆われており、
前記上層吸収体及び前記下層吸収体に供給される排泄物の液分を当該吸収性物品の外部へ排出する手段を有しない、
吸収性物品。」

[相違点1]
本件発明1の「上層吸収体」は、「パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが350〜500g/m2、」であるのに対し、甲1発明の「突出液吸収貯蔵部32」は、「パルプの坪量が200g/m2、かつ超吸収性ポリマーの坪量が320g/m2」である点。

[相違点2]
本件発明1の「下層吸収体」は、「パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが250〜350g/m2、かつパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が30〜70%」であるのに対し、甲1発明の「受液層部31」は、「パルプの坪量が50g/m2、かつ超吸収性ポリマーの坪量が50g/m2」である点。

[相違点3]
本件発明1の「スリット」については、「スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%」と特定されるのに対し、甲1発明の「凹部20」については、「平面視した吸収体10の表面積に対して平面視した凹部20の開口部の総面積は、10%以上40%以下」と特定される点。

[相違点4]
本件発明1は「前記下層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が20〜35秒かつ吸水量が50〜70g/gであり、前記上層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が60〜80秒かつ吸水量が50〜70g/g」であるのに対し、甲1発明は、このような構成を有しない点。

(イ)判断
以下、事案に鑑み上記相違点4について先に検討する。

甲第2〜4号証のいずれにも、下層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子の吸水速度「20〜35秒」とし、上層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子の吸水速度を「60〜80秒」とする構成は、記載も示唆もされていない。
また、本件の出願時に、下層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子の吸水速度を「20〜35秒」とし、上層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子の吸水速度を「60〜80秒」とすることが技術常識であったとも認められない。
そうであれば、甲1発明に甲第2〜4号証に記載された技術的事項を組み合わせても、相違点4に係る本件発明1の構成に至らない。

そして、本件発明1は、上記相違点4に係る本件発明1に係る構成により、
「排泄物の液分Lは上層吸収体19にも供給されるが、それよりも優先的にスリット17を通して下層吸収体18に供給され」「下層吸収体18内で」「広範囲に拡散」し、「下層吸収体18に吸収された液分は、少なくとも下層吸収体18の吸収飽和後には、上層吸収体19に吸い上げられるようにして上層吸収体19に移行するようになり、上層吸収体19に吸収保持される」ことで、「下層吸収体18が優先的に吸収を行うため、吸収体18,19の表側(肌側)には最後まで吸収余力が残されることになる。」(明細書段落【0051】参照。)という吸収メカニズムが好適に機能すると認められるから、相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者が適宜なし得た設計的事項とはいえない。

また、全体として、本件発明1の作用・効果は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された技術的事項から当業者が予測できたものとは認められない。

したがって、上記相違点1〜3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1をさらに限定したものであり、甲1発明との間に少なくとも上記ア(ア)で示した相違点4を有するものである。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜5は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)小括
本件発明1〜5は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記(1)の申立人の主張は採用できない。

2.特許法第36条第4項第1号実施可能要件)について
(1)「吸水量」について
申立人は、本件訂正前の請求項1〜5に特定された「吸水量」の測定に際し、どの試験液を選択し、浸漬時間をどの程度にすればよいかについて、発明の詳細な説明の記載には、当業者が理解できる程度に記載されていないから、請求項1〜5に係る特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(特許異議申立書27頁9行〜28頁5行)。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0057】に「・「吸水量」は、JIS K7223−1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」によって測定する。」と記載されており、甲第3号証(高吸水性樹脂の吸水量試験方法、日本工業規格、JIS K 7223−1996、1996年)の6.(3)には「浸せき時間は脱イオン水の場合は3時間及び24時間,0.9M/v%の食塩水の場合は1時間、3時間及び24時間とする。」との記載がある。
そして、本件特許の明細書の段落【0057】に「・「吸水速度」は、2gの高吸収性ポリマー及び50gの生理食塩水を使用して、JIS K7224−1996「高吸水性樹脂の吸水速度試験法」を行ったときの「終点までの時間」とする。」との記載があり、生理食塩水は一般に0.9質量%の食塩水を指すから、本件発明の「吸水量」の測定においても、当業者であれば、試験液をJIS K7223−1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」にある「0.9M/v%の食塩水」を用いることができる。
また、試験液を「0.9M/v%の食塩水」とした場合、JIS K7223−1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」における浸せき時間は「1時間」、「3時間」及び「24時間」の3種類であるが、本件発明の高吸収性ポリマー粒子の吸水速度は最大でも80秒であり、1時間経過後で、すでに吸水能力は飽和している蓋然性が高く、浸せき時間を「1時間」、「3時間」及び「24時間」と変化させても、得られる吸水量の値は同じになると考えるのが妥当である。
そうであれば、本件の明細書の発明の詳細な説明は、「吸水量」の測定に関して、本件発明1〜5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するから、申立人の上記の主張は採用できない。

(2)「スリットの幅」について
申立人は、1本あたりのスリットの幅を、合計面積割合、または、請求項2のように上層吸収体の全幅に対する割合として規定しても、全てのスリットで優先的にスリットを通して下層吸収体に液分が供給されるという作用効果を奏し得ず、スリット幅をどうやって決めるのか、明細書に十分に開示されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1〜5に係る発明を当業者が実施できる程度に記載されたものでなく、請求項1〜5に係る特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している(特許異議申立書26頁18行〜27頁5行)。
しかしながら、本件訂正により本件発明1〜5は、「スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、」との事項が特定され、また、本件発明1〜5に係る吸収性物品は排泄物の液分を吸収するために必要な上層吸収体の全幅を当然に有することを考慮すると、本件発明1〜5は、「スリットの幅」を「上層吸収体の全幅の5〜20%」とすることによって、明細書の段落【0051】に記載されたとおり、「優先的にスリット17を通して下層吸収体18に供給される。」及び「下層吸収体18に吸収された液分は、少なくとも下層吸収体18の吸収飽和後には、上層吸収体19に吸い上げられるようにして上層吸収体19に移行するようになり、上層吸収体19に吸収保持される」という作用により、「吸収体18,19の表側(肌側)には最後まで吸収余力が残されることになる。その結果、本吸収性物品は、逆戻り防止性に一段と優れたものとなる。」との効果が発揮されると解される。
そうであれば、本件の明細書の発明の詳細な説明は、「スリットの幅」に関して、本件発明1〜5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するから、申立人の上記の主張は採用できない。

第7 むすび
したがって、取消理由通知書において通知した理由並びに特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である下層吸収体と、その表側に設けられた、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の混合集積物である上層吸収体とを備えた、吸収性物品において、
前記上層吸収体は、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが350〜500g/m2、かつパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が150〜200%であり、
前記下層吸収体は、パルプ繊維及び高吸収性ポリマー粒子の総目付けが250〜350g/m2、かつパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が30〜70%であり、
少なくとも前記上層吸収体における幅方向中間部に、前後方向に延びるスリットが一本又は幅方向に間隔を空けて複数本設けられており、
前記スリットの幅は、前記上層吸収体の全幅の5〜20%であり、
前記下層吸収体の裏側全体が、液不透過性シートにより途切れなく覆われており、
前記上層吸収体及び前記下層吸収体に供給される排泄物の液分を当該吸収性物品の外部へ排出する手段を有せず、
前記下層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が20〜35秒かつ吸水量が50〜70g/gであり、前記上層吸収体に含まれる高吸収性ポリマー粒子は吸水速度が60〜80秒かつ吸水量が50〜70g/gである、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記スリットの前後方向長さは、前記上層吸収体の全長の30〜70%である、請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記上層吸収体におけるパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が、前記スリットに近づくにつれて段階的又は連続的に高くなる、請求項1又は2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記下層吸収体におけるパルプ繊維に対する高吸収性ポリマー粒子の重量比率が、前記スリットに近づくにつれて段階的又は連続的に低くなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記上層吸収体と前記下層吸収体との間における前記スリットを除く位置に、前記下層吸収体よりも密度の高い親水性シートが介在されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-13 
出願番号 P2015-190788
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61F)
P 1 651・ 121- YAA (A61F)
P 1 651・ 113- YAA (A61F)
P 1 651・ 536- YAA (A61F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 内田 博之
平田 信勝
登録日 2021-01-20 
登録番号 6826788
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 吸収性物品  
代理人 永井 義久  
代理人 弁理士法人永井国際特許事務所  
代理人 弁理士法人永井国際特許事務所  
代理人 永井 義久  

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