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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B29C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B29C |
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管理番号 | 1388375 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-10 |
確定日 | 2022-07-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6826785号発明「二軸配向ポリエステルフィルム、及び、二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6826785号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第6826785号の請求項1及び3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6826785号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6826785号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月5日(優先権主張 平成31年2月26日、令和1年7月26日、同年8月6日、令和2年1月28日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月20日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月10日に特許異議申立人 ジュネスプロパティーズ株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年11月5日付けで取消理由が通知され、同年12月2日に特許権者 東洋紡株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年12月16日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和4年1月21日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年4月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月23日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。 なお、令和3年12月2日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、下記第2のとおり、令和4年5月23日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)後の請求項1及び3ないし5は、それぞれ、本件訂正前の請求項2及び請求項2を引用する請求項3ないし5に相当し、本件訂正は、実質的に訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項3ないし5の削除のみの訂正であるといえ、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に意見書の提出の機会は与えない。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」とあるのを、「下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」に訂正した上で、特許請求の範囲の請求項1に、「(5)二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下。」を追加する訂正をする。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」と記載されているのを、「請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」に訂正する。 併せて、請求項3を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1〜3いずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」に訂正する。 併せて、請求項4を引用する他の請求項についても、請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。 (4)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」と記載されているのを、「請求項1、3、又は4に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「要件(5)」を満たすものであることを追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項2に記載された事項を追加するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2についての訂正について 訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3についての訂正について 訂正事項1による請求項3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項3による請求項3についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び3による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項4についての訂正について 訂正事項1及び3による請求項4についての訂正は、請求項1及び3についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項4による請求項4についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1、3及び4による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)請求項5についての訂正について 訂正事項1、3及び4による請求項5についての訂正は、請求項1、3及び4についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項5による請求項5についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1、3、4及び5による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1ないし5による請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし5による請求項1ないし5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物を含み、 積層数が7層以下であり、 下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。 (1)二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上。 (2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160。 (3)JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上0.9N/μm以下。 (4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下。 (5)二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の面での三次元平均粗さSRaと、前記他方の面での三次元平均粗さSRaとの差(絶対値)が0.01μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項4】 二軸配向ポリエステルフィルムの150℃で15分間加熱後の熱収縮率が、縦方向が0〜5%、横方向が−1〜5%であることを特徴とする請求項1又は3に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項5】 請求項1、3又は4に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、 二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物を冷却ロールにキャストして未延伸シートを形成する工程Aと、 前記冷却ロール上の前記未延伸シートに5℃以下の風を吹き付ける工程Bとを有することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年8月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記(1)及び(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)本件特許発明1には、二軸配向ポリエステルフィルムの積層数が7層以下であることが規定されている。 しかしながら、本件特許の明細書の実施例では、積層数1(すなわち単層)の二軸配向ポリエステルフィルムが具体的に製造・評価されているに過ぎない。 このような単層の二軸配向ポリエステルフィルムの結果に基づいて、積層数が2層から7層である場合に、本件特許発明1の課題「工業用途にも対応できる良好なフィルム品位を有し、且つ、深絞り成型が伴う離型フィルムにも好適な二軸配向ポリエステルフィルムを提供すること」が解決されると当業者は認識することができない。 また、本件特許発明2ないし5についても同様である。 したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を充足していない。 (2)本件特許発明1には、二軸配向ポリエステルフィルムの厚みが記載されていない。 これに対して、本件特許の明細書の実施例では、厚み15μmの積層数1(すなわち単層)の二軸配向ポリエステルフィルムのみが製造されているに過ぎない。 このような厚さ15μmの単層の二軸配向ポリエステルフィルムの結果のみに基づいて、例えば積層数が2層〜7層の複層構成の場合、「各層の厚み」及び「全体の厚さ」がいずれも任意の本件特許発明1の二軸配向ポリエステルフィルムについて、上記の本件特許発明1の課題が解決されると当業者は認識することができない。 また、本件特許発明2ないし5についても同様である。 したがって、本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を充足していない。 3 申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1では、「(4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下」であることが規定されている。 これに対して、本件特許の明細書の【0097】には、フィルムの厚み及び厚み斑の測定方法について、「長手方向及び幅方向にフィルムを長さ1m×幅40mmの長尺な短冊状にサンプリングし、ミクロン測定機株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5m/分の速度で測定した。 測定された厚みの標準偏差及び厚みの平均値から下式1で長手方向の厚み斑(%)と幅方向の厚み斑(%)とを算出し、さらに長手方向の厚み斑(%)及び幅方向の厚み斑(%)の平均値を厚み斑(%)とした。 厚み斑={(厚みの標準偏差)/(厚みの平均値)}×100 (%)・・・式1」と記載されている。 しかしながら、ミクロン測定機株式会社は、連続接触式厚み計の販売会社であって、連続接触式厚み計を製造していないことから、「ミクロン測定機株式会社製の連続接触式厚み計」なるものは存在しない。 さらに、ミクロン測定機株式会社は、様々なメーカーの連続接触式厚み計を販売しており、連続接触式厚み計の種類や測定条件の設定によって、本件特許発明1に規定された厚み斑の値が一義的に決まらないことは明らかである。 例えば、連続接触式厚み計でフィルムの厚みを連続的に測定する場合、通常測定ピッチを設定することになるが、測定ピッチをどの程度に設定するかによって、測定される厚みの平均値、厚みの標準偏差は変化し、これらから算出される厚み斑の値も変化する。 したがって、当業者は、本件特許発明1に規定された二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑を一義的に求めることはできない。 また、本件特許発明2ないし5についても同様である。 よって、本件特許発明1ないし5は第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確である。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2005−60617号公報 甲第2号証:国際公開第2017/170495号 甲第3号証:特開2008−239788号公報 甲第4号証:特開2012−140601号公報 甲第5号証:特開2018−127605号公報 甲第6号証:特開2001−270937号公報 甲第7号証:特開2006−143908号公報 甲第8号証:特開平5−261809号公報 甲第6ないし8号証は令和4年1月21日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 令和4年4月14日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 令和4年4月14日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明1は、請求項1の記載によると、「二軸配向ポリエステルフィルム」という物の発明であるが、請求項1の「メルトラインにスタティックミキサーを導入しないで製造した」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえる。 ここで、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 そこで、検討する。 本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面には、請求項1の記載について、不可能・非実際的事情が存在することの記載はみあたらない。 また、特許権者は、請求項1に物の製造方法を記載することについて、不可能・非実際的事情が存在することの主張・立証を何らしていない(例えば、令和3年12月2日に提出された意見書など)。 さらに、当業者にとって、請求項1の記載について、不可能・非実際的事情の存在が明らかであるともいえない。 したがって、請求項1の記載について、不可能・非実際的事情の存在を認める理由は見いだせず、本件特許発明1は明確であるとはいえない。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし4も同様に明確であるとはいえない。 第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 取消理由(決定の予告)は、請求項1の「メルトラインにスタティックミキサーを導入しないで製造した」という記載に起因する理由であるところ、本件訂正後の請求項1には「メルトラインにスタティックミキサーを導入しないで製造した」という記載はない。 したがって、取消理由(決定の予告)によっては、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく進歩性)、申立理由2(サポート要件)及び申立理由3(明確性要件)である。 以下、検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「ポリエステルフィルム」に関しておおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「【0055】 1.面配向係数 アッベの屈折計を用い、縦延伸方向の屈折率(Nx)、横延伸方向の屈折率(Ny)、および厚さ方向の屈折率(Nz)を測定し、面配向係数を下記式により求めた。 【0056】 面配向係数=((Nx+Ny)/2)−Nz・・・(1)」 ・「【0065】 (実施例1) 樹脂Aとして予め二酸化珪素(F)(富士シリシア社製サイリシア310)を2000ppm重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(A1)(還元粘度0.75)、樹脂Bとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)(還元粘度1.20)、を樹脂A1/樹脂B1=40/60(重量部)となるように単軸押出機(65φ)に投入した。押出機の温度設定は、押出機の供給部(Ex1)、圧縮部(Ex2)、計量部(Ex3)及びフィルタまでの流路、フィルタ部、ダイまでの流路、ダイの温度設定をEx1は240℃、Ex2からフィルタ部までは260℃、それ以降は255℃に設定して樹脂を供給した。なお、樹脂のT−ダイから出た直後に実測した樹脂の温度は258℃であった。なおフィルタは200メッシュのものを使用した。T−ダイから出た樹脂は、静電密着にて20℃に冷却したロール上で急冷し、厚さ約200μmの未延伸フィルムを得た。そのフィルムを、ロール延伸機に供給し、75℃で3.5倍に縦方向に延伸した。引き続いてテンター内において85℃で3.9倍に横延伸し、そのままテンター内にて200℃で約10秒、210℃で約10秒、7%横方向に緩和しながら熱固定処理し、約15μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価してその結果を表1に示す。」 ・「【0075】 【表1】 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認める。 <甲1発明> 「樹脂Aとして予め二酸化珪素(F)(富士シリシア社製サイリシア310)を2000ppm重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(A1)(還元粘度0.75)、樹脂Bとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)(還元粘度1.20)、を樹脂A1/樹脂B1=40/60(重量部)となるように単軸押出機(65φ)に投入し、押出機の温度設定は、押出機の供給部(Ex1)、圧縮部(Ex2)、計量部(Ex3)及びフィルタまでの流路、フィルタ部、ダイまでの流路、ダイの温度設定をEx1は240℃、Ex2からフィルタ部までは260℃、それ以降は255℃に設定して樹脂を供給し、樹脂のT−ダイから出た直後に実測した樹脂の温度は258℃であり、フィルタは200メッシュのものを使用し、T−ダイから出た樹脂は、静電密着にて20℃に冷却したロール上で急冷し、厚さ約200μmの未延伸フィルムを得、そのフィルムを、ロール延伸機に供給し、75℃で3.5倍に縦方向に延伸し、引き続いてテンター内において85℃で3.9倍に横延伸し、そのままテンター内にて200℃で約10秒、210℃で約10秒、7%横方向に緩和しながら熱固定処理し、得た還元粘度0.88dL/g、面配向係数0.158、厚さ約15μmのポリエステルフィルム。」 <甲1製造方法発明> 「甲1発明の製造方法であって、 T−ダイから出た樹脂を、静電密着にて20℃に冷却したロール上で急冷し、厚さ約200μmの未延伸フィルムを得る工程を有する甲1発明の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「樹脂Aとして予め二酸化珪素(F)(富士シリシア社製サイリシア310)を2000ppm重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(A1)(還元粘度0.75)、樹脂Bとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)(還元粘度1.20)、を樹脂A1/樹脂B1=40/60(重量部)となるように単軸押出機(65φ)に投入」された「樹脂」は、樹脂100重量部中、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)」が60重量部、すなわち60重量%であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂(A1)が40重量部、すなわち40重量%であるから、本件特許発明1における「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物」を含むという要件を満たす。 甲1発明における「ポリエステルフィルム」は1層であることは明らかであるから、本件特許発明1における「積層数が7層以下」であるという要件を満たす。 本件特許明細書の【0095】並びに甲1の【0055】及び【0056】の記載によると、甲1発明における「面配向係数」は本件特許発明1における「面配向度ΔP」に相当するから、甲1発明における「面配向係数0.158」は本件特許発明1における「(2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160」であるという要件を満たす。 甲1発明における「ポリエステルフィルム」は、「ロール延伸機に供給し、75℃で3.5倍に縦方向に延伸し、引き続いてテンター内において85℃で3.9倍に横延伸」されているから、本件特許発明1における「二軸配向ポリエステルフィルム」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物を含み、 積層数が7層以下であり、 下記要件(2)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。 (2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「(1)二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上。」の要件を満たすと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「(3)JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上0.9N/μm以下。」の要件を満たすと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点3> 本件特許発明1においては、「(4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下。」の要件を満たすと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点4> 本件特許発明1においては、「(5)二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下。」の要件を満たすと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、事案に鑑み、相違点3から検討する。 甲1には、「二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑」に関して何ら記載されていない。 また、他の証拠にも「二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑」に関する記載はない。 したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、「二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑」に着目し、その値を「0.7%以下」とする動機付けがあるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「良好な深絞り成型性を有し、且つ、品位に優れる二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。」(本件特許明細書の【0022】)という当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。 ウ 特許異議申立人の特許異議申立書における主張について 特許異議申立人は、甲2ないし5に接した当業者であれば、ポリエステルフィルムの冷却固化工程において、ポリエステルフィルムの結晶化(球晶の発生)を抑制するために、未延伸フィルムを冷却ロールに接触させる際に例えば5℃程度の冷風を吹き付ける動機付けは十分にあり、そして、このようにして得られるポリエステルフィルムは、本件特許発明1の二軸配向ポリエステルフィルムと組成及び製造条件が共通することから、その厚み斑についても、同程度になるといえる旨主張する(特許異議申立書第26ページ第14ないし23行)。 そこで、検討する。 甲2ないし5に、ポリエステルフィルムの冷却固化工程において、未延伸フィルムを冷却ロールに接触させる際に冷風を吹き付けることが記載されているとしても、上記のとおり、いずれの証拠にも、「二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑」に着目することが記載されていない以上、甲1発明において、「ポリエステルフィルムの冷却固化工程において、未延伸フィルムを冷却ロールに接触させる際に冷風を吹き付ける」という工程を採用するに止まり、「二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑」の値を「0.7%以下」とすることには至らない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明3及び4について 本件特許発明3及び4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明5について 本件特許発明5は本件特許発明1、3又は4の製造方法の発明であり、甲1製造方法発明は甲1発明の製造方法の発明である。 したがって、本件特許発明1、3又は4が甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明5が甲1製造方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明1及び3ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明の記載はおおむね次のとおりである。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、二軸配向ポリエステルフィルム、及び、二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。 【背景技術】 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 PBT樹脂は結晶化速度が速いため、キャスト時にも結晶化が進行する。特に、キャストして得られたフィルムの端部は、製造上の理由で中央部に比較して厚くなる傾向にある。そのため、キャストして得られるフィルムの端部において、結晶化はより顕著となる。 上記の特許文献1ではスタティックミキサーを用いて溶融樹脂をT−ダイスから押し出す前に超多層している。そのため、層間で結晶が成長せずに結果的にキャスト時の結晶化を抑制することができる。一方でメルトラインにスタティックミキサーを導入したことによってデッド部分(滞留部分)が増え、その部分にゲルが発生して、結果的に得られたフィルム中のフィッシュアイ(小さな粒子状欠陥)が増加して、高い品位が求められる工業用途としては不十分な品位となる可能性がある。 上記の特許文献2、3では、ポリエチレンテレフタレートを基材フィルムとして用いることで離型フィルムとして好適に用いられている。一方で、成型が伴う離型フィルム用途では、基材であるポリエチレンテレフタレートの特性に基づいて深い絞り成形には対応できない可能性がある。 【0008】 本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、工業用途にも対応できる良好なフィルム品位を有し、且つ、深絞り成型が伴う離型フィルムにも好適な二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、二軸配向ポリエステルフィルムについて鋭意検討を行った。その結果、下記構成を採用することにより、良好な深絞り成型性を有し、且つ、品位に優れる二軸配向ポリエステルフィルムが得られること見出し、本発明を完成するに至った。 【0010】 すなわち、本発明に係る二軸配向ポリエステルフィルムは、 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60〜100質量%含有するポリエステル樹脂組成物を含み、 積層数が7層以下であり、 下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする。 (1)二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上。 (2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160。 (3)JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上。 (4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.70%以下。 【0011】 前記構成によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60質量%以上含有するポリエステル樹脂組成物を含むため、突刺し強さを向上させることができる。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60質量%以上含有するポリエステル樹脂組成物を含むため、絞り成型性を良好なものとすることができる。 また、積層数が7層以下であるため、メルトラインにスタティックミキサーを導入しなくても製造することが可能である。従って、スタティックミキサーを導入することによって生じるフィルム中のフィッシュアイ(小さな粒子状欠陥)の発生を防止することができる。その結果、高い品位を有するフィルムとすることができる。 また、前記フィルムの固有粘度が、0.70dl/g以上であるため、キャスト時の結晶化が抑制され、未延伸シートの降伏応力が低くなるため、結果的に延伸時に破断が生じ難くなる傾向となる。 また、前記面配向度ΔPが0.145以上であるため、面配向が好適に高く、突刺し強さが充分となり、深絞り成型性により優れる。また、前記面配向度ΔPが0.160以下であるため、熱収縮率を低く維持することができ、熱安定性をより良好なものとすることができる。 また、前記突刺し強さが0.40N/μm以上であるため、深絞り成型性を良好なものとすることができる。 また、前記厚み斑が0.70%以下であるため、深絞り成型を行った際に均一な成型ができ、フィルムの裂けやピンホールが発生しにくい。 【0012】 前記構成において、前記ポリエステル樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有することが好ましい。 【0013】 前記ポリエステル樹脂組成物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有すると、二軸延伸を行う時の製膜性や得られたフィルムの力学特性を調整することができる。」 ・「【0014】 前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下であることが好ましい。 【0015】 前記フィッシュアイが5個/m2以下であると、当該二軸配向ポリエステルフィルムの一方の面に、離型層を有していても、巻き取り保管時に、離型層とは反対側の面上に、フィッシュアイによる離型層への凹凸転写を抑制することができる。その結果、フィルム品位を損ない難くすることができる。また、フィルムに精巧な印刷層をも設けることができる。 【0016】 前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の面での三次元平均粗さSRaと、前記他方の面での三次元平均粗さSRaとの差(絶対値)が0.01μm以下であることが好ましい。 【0017】 前記差が0.010μm以下であると、前記一方の面のラミネート強度と前記他方の面のラミネート強度との差が大きくなりすぎることを抑制する。すなわち、ラミネート強度が低い面に応力が集中することを抑制し、耐破袋性をより充分なものとすることができる。 【0018】 前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルムの150℃で15分間加熱後の熱収縮率が、縦方向(MD方向)が0〜5%、横方向(TD方向)が−1〜5%であることが好ましい。 【0019】 前記二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向における150℃で15分間加熱後の熱収縮率が5%以下であると、後加工で熱を加えた際にフィルムが大きく縮んでしまうことを抑制でき、加工がより容易となる。 前記二軸配向ポリエステルフィルムのMD方向における150℃で15分間加熱後の熱収縮率が0%以上であると、突刺し強さを高めることができ、耐破袋性を高く維持できる。 前記二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向における150℃で15分間加熱後の熱収縮率が5%以下であると、後加工で熱を加えた際にフィルムが大きく縮んでしまうことを抑制でき、加工がより容易となる。 前記二軸配向ポリエステルフィルムのTD方向における150℃で15分間加熱後の熱収縮率が−1%以上であると、突刺し強さを高めることができ、耐破袋性を高く維持できる。 【0020】 また、本発明は、前記二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、 二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物を冷却ロールにキャストして未延伸シートを形成する工程Aと、 前記冷却ロール上の前記未延伸シートに5℃以下の風を吹き付ける工程Bとを有することを特徴とする。 【0021】 前記構成によれば、冷却ロール上の未延伸シートに5℃以下の風を吹き付け、未延伸シートのB面(冷却ロールに接した面とは反対の面)を急冷することによって、F面(冷却ロールに接した面)との結晶化度の差が小さくなる。また、未延伸シート全体の結晶化度が低く結晶化度の斑が少なくなる。その結果、2軸延伸が容易にでき、面配向度と突刺し強さが高く、厚み斑が少ないフィルムを得ることができる。」 ・「【発明の効果】 【0022】 本発明によれば、良好な深絞り成型性を有し、且つ、品位に優れる二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。」 ・「【0095】 [フィルムの面配向度ΔP] 実施例、比較例で作製したフィルムから、フィルム幅方向の中央位置を中心とする縦5mm×横5mmのサンプルをそれぞれ切り出した。 サンプルについてJIS K 7142−1996 A法により、ナトリウムD線を光源として接触液としてジヨードメタンを用いてアッベ屈折率計によりフィルム長手方向の屈折率(Nx)、幅方向の屈折率(Ny)、厚み方向の屈折率(Nz)を測定し、下式によりΔPを算出した。 面配向度(ΔP)=[(Nx+Ny)/2]−Nz」 ・「【0097】 [フィルムの厚み及び厚み斑] 長手方向及び幅方向にフィルムを長さ1m×幅40mmの長尺な短冊状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5m/分の速度で測定した。 測定された厚みの標準偏差及び厚みの平均値から下式1で長手方向の厚み斑(%)と幅方向の厚み斑(%)とを算出し、さらに長手方向の厚み斑(%)及び幅方向の厚み斑(%)の平均値を厚み斑(%)とした。 厚み斑={(厚みの標準偏差)/(厚みの平均値)}×100 (%)・・・式1」 ・「【0113】 [実施例1] 一軸押出機を用い、PBT樹脂(1100−211XG(CHANG CHUN PLASTICS CO.,LTD.、固有粘度1.28dl/g))とテレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる固有粘度0.62dl/gのPET樹脂を表1の記載の通りの比率としたポリエステル樹脂組成物と、平均粒径2.4μmのシリカ粒子とを配合した二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物を290℃で溶融させた後、250℃のT−ダイスからキャストし、10℃の冷却ロールに静電密着法により密着させながら、図1に示すように未延伸シート全幅に冷風がかかるように冷却ロールから15cmの高さにマルチダクトを設置して、5℃、150m/minの冷風をB面に吹き付けて未延伸シートを得た。この際、マルチダクトの縦幅は、50cmであり、未延伸シートの移動速度は、60m/分であった。また、前記樹脂組成物が冷却ロールにキャストされた時点から、当該部分に冷風が吹き付けられるまでの時間は、0.6秒であった。 なお、二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物中のシリカ粒子の含有量は、シリカ濃度として0.16質量%である。 【0114】 次いで、得られた未延伸シートを70℃の温度で長手方向(MD)に3.3倍で延伸し、次いで、テンターに通して80℃で幅方向(TD)に4.0倍で延伸し、200℃で3秒間の熱固定処理と1秒間9%の緩和処理を実施して、厚さ15μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。ポリエステル樹脂組成物の樹脂組成、および、製膜条件を表1に示した。また、得られたフィルムの物性及び評価結果を表1、表2に示した。 【0115】 [実施例2、3、5] 実施例1において、ポリエステル樹脂組成物の樹脂組成を表1に記載したとおり変えた以外は実施例1と同様に二軸配向フィルムを製膜して、厚さ15μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性及び評価結果を表1、表2に示した。 【0116】 [実施例4] 実施例1において、熱固定処理工程においてF面側とB面側の温風の温度を変えて、ポリエステル樹脂組成物の樹脂組成および製膜条件を表1に記載した以外は実施例1と同様に二軸配向フィルムを製膜して、厚さ15μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性及び評価結果を表1、表2に示した。 【0117】 ・・・(略)・・・ 【0123】 【表1】 【0124】 【表2】 【0125】 表1、表2に示すように、本発明によって得られた二軸延伸ポリエステルフィルム(実施例1〜5)は、厚み斑が少なく、良好な深絞り成型性を有し、且つ、品位に優れる二軸配向ポリエステルフィルムが得られた。 一方、比較例1〜4においては、溶融樹脂を冷却ロールに密着させる際にB面側からマルチダクトで冷風を吹き付けなかったため、得られたフィルムは、厚み斑が大きく、深絞り成型性が劣っていた。また、フィルムF面とB面の結晶性の差が大きいため、ラミ強度が低く、水平落としの耐破袋性が不良であった。 また、比較例6及び7は、PBTの比率が低いため突き刺し強度が悪かった。 参考例1では、メルトラインにスタティックミキサーを導入して1024層からなる同一樹脂組成の多層フィルムを得た。得られたフィルムのフィッシュアイの個数は、実施例に比べて多く、高品位が要求される用途には適さなかった。 参考例2では、樹脂を溶融し押し出す温度が高すぎたためフィルムの固有粘度が低くなり、幅方向の延伸工程でフィルムが破断してフィルムの評価をするためのサンプルが得られなかった。」 (4)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0008】によると、本件特許発明1、3及び4の解決しようとする課題は「工業用途にも対応できる良好なフィルム品位を有し、且つ、深絞り成型が伴う離型フィルムにも好適な二軸配向ポリエステルフィルムを提供すること」であり、本件特許発明5の解決しようとする課題は「工業用途にも対応できる良好なフィルム品位を有し、且つ、深絞り成型が伴う離型フィルムにも好適な二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。 他方、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には「本発明に係る二軸配向ポリエステルフィルムは、 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60〜100質量%含有するポリエステル樹脂組成物を含み、積層数が7層以下であり、下記要件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする。(1)二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上。(2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160。(3)JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上。(4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.70%以下。」と記載され、【0012】には「前記構成において、前記ポリエステル樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有することが好ましい。」と記載され、【0014】には「前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下であることが好ましい。」と記載され、【0016】には「前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の面での三次元平均粗さSRaと、前記他方の面での三次元平均粗さSRaとの差(絶対値)が0.01μm以下であることが好ましい。」と記載され、【0018】には「前記構成においては、二軸配向ポリエステルフィルムの150℃で15分間加熱後の熱収縮率が、縦方向(MD方向)が0〜5%、横方向(TD方向)が−1〜5%であることが好ましい。」と記載され、【0020】には「本発明は、前記二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物を冷却ロールにキャストして未延伸シートを形成する工程Aと、前記冷却ロール上の前記未延伸シートに5℃以下の風を吹き付ける工程Bとを有することを特徴とする。」と記載されている。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】には「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60質量%以上含有するポリエステル樹脂組成物を含むため、突刺し強さを向上させることができる。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を60質量%以上含有するポリエステル樹脂組成物を含むため、絞り成型性を良好なものとすることができる。」、「前記フィルムの固有粘度が、0.70dl/g以上であるため、キャスト時の結晶化が抑制され、未延伸シートの降伏応力が低くなるため、結果的に延伸時に破断が生じ難くなる傾向となる。」、「前記面配向度ΔPが0.145以上であるため、面配向が好適に高く、突刺し強さが充分となり、深絞り成型性により優れる。また、前記面配向度ΔPが0.160以下であるため、熱収縮率を低く維持することができ、熱安定性をより良好なものとすることができる。」、「前記突刺し強さが0.40N/μm以上であるため、深絞り成型性を良好なものとすることができる。」及び「前記厚み斑が0.70%以下であるため、深絞り成型を行った際に均一な成型ができ、フィルムの裂けやピンホールが発生しにくい。」と記載され、【0013】には「前記ポリエステル樹脂組成物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)以外のポリエステル樹脂(B)を含有すると、二軸延伸を行う時の製膜性や得られたフィルムの力学特性を調整することができる。」と記載され、【0015】には「前記フィッシュアイが5個/m2以下であると、当該二軸配向ポリエステルフィルムの一方の面に、離型層を有していても、巻き取り保管時に、離型層とは反対側の面上に、フィッシュアイによる離型層への凹凸転写を抑制することができる。その結果、フィルム品位を損ない難くすることができる。」と記載されている。 さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0113】ないし【0125】において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物であって、積層数が1層であり、二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160、JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上0.9N/μm以下、二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下、二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下の二軸配向ポリエステルフィルムである実施例1ないし5が、そのような二軸配向ポリエステルフィルムではない比較例1ないし7並びに参考例1及び2と比べて、良好な深絞り成型性を有し、且つ、品位に優れることを確認している。 そうすると、これらの記載及び当業者の出願時の技術常識から、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物であって、二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上、二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160、JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上0.9N/μm以下、二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下、二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下の二軸配向ポリエステルフィルム」及びその製造方法は、それぞれ、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。 そして、本件特許発明1、3及び4は上記二軸配向ポリエステルフィルムをさらに限定したものであり、本件特許発明5は上記二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1及び3ないし5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1及び3ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (5)特許異議申立人の上記第4 2の主張について 特許異議申立人の上記第4 2の主張について検討する。 本件特許の発明の詳細な説明の【0007】の「上記の特許文献1ではスタティックミキサーを用いて溶融樹脂をT−ダイスから押し出す前に超多層している。そのため、層間で結晶が成長せずに結果的にキャスト時の結晶化を抑制することができる。一方でメルトラインにスタティックミキサーを導入したことによってデッド部分(滞留部分)が増え、その部分にゲルが発生して、結果的に得られたフィルム中のフィッシュアイ(小さな粒子状欠陥)が増加して、高い品位が求められる工業用途としては不十分な品位となる可能性がある。」という記載によると、発明の課題を解決できるかどうかに影響を与えるのは、「フィッシュアイ」の個数であり、層数は関係がない。 また、「各層の厚み」及び「全体の厚さ」も、発明の課題を解決できるかどうかとは関係がない。 したがって、特許異議申立人の上記第4 2の主張は採用できない。 (6)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由2によっては、取り消すことはできない。 3 申立理由3(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1及び3ないし5の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。 したがって、本件特許発明1及び3ないし5に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の上記第4 3の主張について 特許異議申立人の上記第4 3の主張について検討する。 「厚み斑」に関して、本件特許の発明の詳細な説明の【0097】に「長手方向及び幅方向にフィルムを長さ1m×幅40mmの長尺な短冊状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5m/分の速度で測定した。測定された厚みの標準偏差及び厚みの平均値から下式1で長手方向の厚み斑(%)と幅方向の厚み斑(%)とを算出し、さらに長手方向の厚み斑(%)及び幅方向の厚み斑(%)の平均値を厚み斑(%)とした。厚み斑={(厚みの標準偏差)/(厚みの平均値)}×100 (%)・・・式1」と記載されている。 すなわち、本件特許明細書に「厚み斑」の定義式は明確に記載されているし、「連続接触式厚み計」を用いて測定することも明確に記載されている。 そして、仮に、「ミクロン測定機株式会社製の連続接触式厚み計」なるものが存在しないとしても、「連続接触式厚み計」の種類によって、「厚み」の測定値にそれほど差が生じるとは考えられず、「式(1)」により算出される「厚み斑」の値にもそれほど差が生じるとは考えられないし、また、差が生じることを示す証拠もない。 したがって、本件特許発明1及び3ないし5に規定された「厚み斑」の値が一義的に決まらないとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記第4 3の主張は採用できない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由3によっては、取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1及び3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項2に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)60〜100質量%、及び、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)40〜0質量%からなるポリエステル樹脂組成物を含み、 積層数が7層以下であり、 下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。 (1)二軸配向ポリエステルフィルムの固有粘度が0.7dl/g以上。 (2)二軸配向ポリエステルフィルムの面配向度ΔPが0.145〜0.160。 (3)JIS−Z1707に準じた突き刺し試験で測定した二軸配向ポリエステルフィルムの突刺し強さが0.40N/μm以上0.9N/μm以下。 (4)二軸配向ポリエステルフィルムの厚み斑が0.7%以下。 (5)二軸配向ポリエステルフィルム上の最大直径が0.3mm以上のフィッシュアイが5個/m2以下。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 二軸配向ポリエステルフィルムの前記一方の面での三次元平均粗さSRaと、前記他方の面での三次元平均粗さSRaとの差(絶対値)が0.01μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項4】 二軸配向ポリエステルフィルムの150℃で15分間加熱後の熱収縮率が、縦方向が0〜5%、横方向が−1〜5%であることを特徴とする請求項1又は3に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項5】 請求項1、3又は4に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、 二軸配向ポリエステルフィルム製造用の樹脂組成物を冷却ロールにキャストして未延伸シートを形成する工程Aと、 前記冷却ロール上の前記未延伸シートに5℃以下の風を吹き付ける工程Bとを有することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-24 |
出願番号 | P2020-531795 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B29C)
P 1 651・ 537- YAA (B29C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 奥田 雄介 |
登録日 | 2021-01-20 |
登録番号 | 6826785 |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 二軸配向ポリエステルフィルム、及び、二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |