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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1388384
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-10 
確定日 2022-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6840486号発明「炭素繊維強化プラスチックの処理方法及び燃料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6840486号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。 特許第6840486号の請求項3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6840486号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6840486号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年7月26日の出願であって、令和3年2月19日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年3月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月10日に特許異議申立人 松永 健太郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年12月16日に取消理由が通知され、令和4年2月9日に特許権者 太平洋セメント株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月18日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月22日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和4年2月9日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、を含むことを特徴とする燃料の製造方法。」とあるのを、
「炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。」に訂正する。
併せて、請求項3を引用する請求項4も請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、を含むことを特徴とする燃料の製造方法。」とあるのを、
「炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制し、前記炭素繊維強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。」に訂正し、訂正後の請求項5として追加する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2についての訂正について
訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項3についての訂正について
訂正事項3による請求項3についての訂正は、請求項1又は2を引用する請求項3のうち、請求項1のみを引用する請求項3の記載を引用しない独立形式に書き下したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項4についての訂正について
訂正事項3による請求項4についての訂正は、請求項1又は2を引用する請求項3のうち、請求項1のみを引用する請求項3の記載を請求項1の記載を引用しない独立形式に書き下した訂正後の請求項3を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項5についての訂正について
訂正事項4による請求項5についての訂正は、請求項1又は2を引用する請求項3のうち、請求項2を引用する請求項3の記載を引用しない独立形式に書き下した上で、新たな請求項5とするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし4による請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし4による請求項1ないし5についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし4による請求項1ないし5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料の製造方法において、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを3mm以下に粉砕する燃料の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制し、前記炭素繊維強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。」

第4 特許異議申立書等に記載した申立ての理由の概要
令和3年9月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)等に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第9号証を主引例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第9号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第2号証を主引例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明1の(条件2)では、「加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。」ことが特定されているが、この加熱時間がどのように設定されるのか、当業者は理解することができない。本件特許明細書の段落【0027】には、「加熱温度を300℃に設定するなら加熱時間を1時間、同様に400℃に設定するなら30分、500℃に設定するなら10分というように、加熱温度と加熱時間との関係は反比例するように設定することが好ましい。」と記載されているものの、本件特許発明1の(条件2)が、このように「反比例するように設定する」ことを意味するものなのか、それ以外の方法によって設定することも含むのかが明らかでない。
よって、本件特許発明1は不明確である。

5 証拠方法
甲第1号証:特開2011−68771号公報
甲第2号証:特開2016−108460号公報
甲第3号証:国際公開第2014/098229号
甲第4号証:特開2006−218793号公報
甲第5号証:特開2006−205833号公報
甲第6号証:特開2007−131463号公報
甲第7号証:豊田通商株式会社、平成27年度低炭素型3R技術・システム実証事業 報告書、「ミックスプラスチックの高度選別、コンパウンドによる工業製品化事業」、2016年2月29日(作成日)、p.1−59
甲第8号証:豊田通商株式会社、平成27年度低炭素型3R技術・システム実証事業 報告書、「ASRから材料リサイクルを図る仕組みづくり」、2016年2月29日(作成日)、p.1,6−23
甲第9号証:特開2001−49273号公報
甲第10号証:「プラスチック読本」、(株)プラスチックス・エージ、1992年(平成4年)8月15日改訂第18版、p.162,175
甲第11号証: 「プラスチック材料大全」、日刊工業新聞社、2015年12月19日、p.89
甲第12号証:「図解 プラスチック成形材料」、森北出版株式会社、2011年6月20日、p.52
甲第13号証:特開平11―147973号公報
甲第14号証:「炭素繊維の最先端技術」、株式会社シーエムシー出版、2013年4月8日、p.106,107
甲第15号証:「熱可塑性CFRP技術集 −材料・成形・加工・リサイクル−」、サイエンス&テクノロジー株式会社、2015年11月25日発行、p.348,349,378−381
甲第16号証:特開2009―138143号公報
甲第17号証:「平成22年度−平成24年度成果報告書 省エネルギー革新技術開発事業 先導研究 リサイクル炭素繊維の低コスト省エネ再生技術の研究開発」、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、2015年(平成27年)4月15日、p.1−25,38−40
甲第18号証:環境省ウェブサイト「平成23年度ベトナム国:再生燃料(RPF)製造販売事業並びにRPF製造システム販売事業(株式会社市川環境エンジニアリング)」、静脈産業の海外展開促進のための実現可能性調査事業(2/2)PDFファイルのp.52,53,60−73,95−104、インターネット<https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/information/vietnam.html>
甲第19号証:「CFRPの成形・加工・リサイクル技術最前線−生活用具から産業用途まで適用拡大を背景として」、株式会社エヌ・ティー・エス、2015年6月12日、p.342−345
甲第20号証:「熱分解法により廃CFRPから回収した炭素繊維の用途開発」、2014年10月22日〜2014年10月23日に開催された第51回石炭科学会議の予稿、p.84−85、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiesekitanronbun/51/ 0/5_84/_article/-char/ja/>
甲第21号証:「基礎高分子科学」、株式会社東京化学同人、2006年(平成18年)7月1日、p.394−397
甲第22号証:環境省ウェブサイト「平成27年度低炭素型3R技術・システム実証事業の成果について(お知らせ)」、インターネット<https://www.env.go.jp/press/102329.html>
甲第23号証:「安価な添加材を用いた廃プラスチック類からの高品質固体燃料製造方法の開発」、Journal of the Japan Institute of Energy,2011年10月7日,Vol.90,No.P.866−873
甲第24号証:特開2006−22337号公報
なお、甲第24号証は、令和4年3月22日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 取消理由の概要
令和3年12月16日付けで通知された取消理由の概要は次のとおりである。

・取消理由(甲9を主引例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由は申立理由2とおおむね同旨である。

第6 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲9に記載された事項及び甲9発明
ア 甲9に記載された事項
甲9には、「工業用固形燃料及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は他の文献を含め当審で付したものである。

・「【請求項5】 廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体と、廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体とを混合し、この混合物を溶融造粒工程に供して、前記廃繊維強化樹脂粒体の表面に、前記廃熱可塑性樹脂により形成された被覆層が固着している複合固形粒体を形成することを特徴とする、廃繊維強化樹脂物品から工業用固形燃料を製造する方法。
【請求項6】 前記廃繊維強化樹脂粒体が、5〜30mmの粒径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】 前記溶融造粒工程において、少なくとも廃熱可塑性樹脂粒体が加熱溶融して、前記廃繊維強化樹脂粒体の表面に付着する、請求項5に記載の方法。」

・「【0004】このため、廃繊維強化樹脂物品の破砕物を、その破砕装置から、セメント焼成装置の燃料用ホッパー迄ダンプトラックなどを用いて輸送されている。この場合、ダンプトラックにおける廃繊維強化樹脂物品の破砕物の積込み、積み下ろし作業、並びにセメント焼成装置の燃料ホッパーへの投入作業などの取扱いにおいて、破砕断面に突出している樹脂強化用繊維が破断し、微細繊維を空中に飛散させ作業環境を悪化するという問題がある。」

・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体を固形燃料として利用する場合、この破砕粒体から強化用繊維が破断飛散することがなく、又は少ない工業用固形燃料、及びその製造方法を提供しようとするものである。」

・「【0008】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる廃繊維強化樹脂物品は、それが可燃性である限り、繊維の種類、形状、寸法及び樹脂の種類、形状寸法に格別の限定はなく、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、又は高強度有機合成繊維(アラミドなど)により強化された熱可塑性樹脂材料、及び熱硬化性樹脂材料、からなる物品を包含する。廃繊維強化樹脂物品を、例えば粗破砕工程、1次破砕工程、及び2次破砕工程などを経て、粒径が5〜30mmの粒体に破砕する。
・・・(略)・・・
【0014】
【実施例】本発明を下記実施例によりさらに説明する。本実施例により使用された原材料は下記の通りである。
1.廃繊維強化樹脂材料
樹脂:不飽和ポリエステル
強化繊維:ガラス繊維
強化繊維含有量:全重量に対し30重量%
2.廃熱可塑性樹脂材料
樹脂:ポリエチレン
【0015】前記廃繊維強化樹脂材料を、2軸せん断破砕機を用いて、粒径100〜300mmに粗破砕し、さらに1軸せん断破砕機を用いて、粒径5〜10mmに2次破砕した。さらに前記廃熱可塑性樹脂材料を、2軸せん断破砕機を用いて粒径100〜300mmに粗破砕し、さらに1軸せん断破砕機を用いて粒径5〜10mmに2次破砕した。前記両破砕粒体を、重量比80:20で混合しつゝ、溶融造粒機(スクリュー押出し式プラスチック固化装置)に供給し、100〜120℃に加熱し、内径15mmの押出しノズルより押出し、長さ30mmに切断した。得られた粒体には、強化繊維の突出は認められず、その輸送中に、強化繊維の破断飛散は認められなかった。この粒体を、セメント焼成装置において、固形燃料として使用したところ、正常の焼成作業を行うことができた。
【0016】
【発明の効果】本発明の工業用固形燃料は、廃繊維強化樹脂物品から製造されたものであるが、強化繊維の表面突出がなく、従ってその破断飛散による作業環境の汚染がなく、また、造粒工程を経ているため、嵩が小さく、輸送効率を高めることができ、セメント焼成などの工業用固形燃料として有効に実用することができる。」

イ 甲9発明
甲9に記載された事項を、特に請求項5及び7並びに【0006】に関して整理すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。

<甲9発明>
「廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体と、廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体とを混合し、この混合物を少なくとも廃熱可塑性樹脂粒体が加熱溶融して、前記廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体の表面に付着する溶融造粒工程に供して、前記廃熱可塑性樹脂により形成された被覆層が固着して、破砕粒体から強化用繊維が破断飛散することがなく、又は破断飛散が少ない複合固形粒体を形成する方法により、廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体と、廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体とを処理する工程を含む工業用固形燃料を製造する方法。」

(2)甲6に記載された事項
甲6には、「炭素繊維を含む廃プラスチックの処理方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
炭素繊維を含む廃プラスチックをセメントキルンに供給し燃焼処理を行うことにより生じる排気ガスを集塵装置に供給して、前記排気ガス中の煤塵を捕集するようにした炭素繊維を含む廃プラスチックの処理方法において、炭素繊維を含む廃プラスチックを平均粒径が3mm以下になるように粉砕し、セメントキルンの内部温度が1200℃以上である位置に供給することを特徴とする炭素繊維を含む廃プラスチックの処理方法。」

・「【0009】
炭素繊維を含む廃プラスチック用タンク2に貯蔵された炭素繊維を含む廃プラスチックは、ベルトコンベア3によって粉砕装置1に供給される。粉砕装置としては、竪型ローラミルやボールミルなどが挙げられるが、竪型ローラミルが好ましく使用される。炭素繊維を含む廃プラスチックは、粉砕装置1において、平均粒径が3mm以下に破砕される。ここで、平均粒径とは、粉砕品を篩にかけて篩上の質量%を測定し、篩上質量50%に相当する径を算出した平均粒子径をいう。
平均粒径が3mm以下となるように破砕された炭素繊維を含む廃プラスチックは、粉砕装置内を通過する空気によって集塵器4に供給される。集塵器4において捕集された炭素繊維を含む廃プラスチックは、圧縮空気によってキルンバーナ21および/または廃プラバーナ22に供給される。」

・「【図1】



2 本件特許発明3について
(1)対比
本件特許発明3と甲9発明を対比する。
甲9発明における「廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体」は本件特許発明3における「炭素繊維強化プラスチック」と、「繊維強化プラスチック」という限りにおいて一致する。
甲9発明における「廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体」は本件特許発明3における「シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂」と、「熱可塑性樹脂」という限りにおいて一致する。
甲9発明における「少なくとも廃熱可塑性樹脂粒体が加熱溶融して、前記廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体の表面に付着する溶融造粒工程」は本件特許発明3における「条件1及び2に従い加熱処理を施」す工程(当審注:「条件1及び2」は、次のとおりであり、以下、単に「条件1及び2」とのみ記す。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。)と、「加熱処理を施」す工程という限りにおいて一致する。
甲9発明における「前記廃熱可塑性樹脂により形成された被覆層が固着して、破砕粒体から強化用繊維が破断飛散することがなく、又は破断飛散が少ない複合固形粒体を形成する」は本件特許発明3における「前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」と、「前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」という限りにおいて一致する。
甲9発明における「工業用固形燃料」は本件特許発明3における「燃料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維強化プラスチックと、熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記繊維強化プラスチックの飛散を抑制する繊維強化プラスチックの処理方法により、繊維強化プラスチックと、熱可塑性樹脂とを処理する工程を含む燃料の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点9−1>
「繊維強化プラスチック」に関して、本件特許発明3においては、「炭素繊維強化プラスチック」と特定されているのに対し、甲9発明においては、「廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体」と特定されている点。

<相違点9−2>
「熱可塑性樹脂」に関して、本件特許発明3においては、「シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂」と特定されているのに対し、甲9発明においては、「廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体」と特定されている点。

<相違点9−3>
「加熱処理を施」す工程に関して、本件特許発明3においては、「条件1及び2に従い加熱処理を施」す工程であると特定されているのに対し、甲9発明においては、「少なくとも廃熱可塑性樹脂粒体が加熱溶融して、前記廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体の表面に付着する溶融造粒工程」と特定されている点。

<相違点9−4>
本件特許発明3においては、「前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程」を含むことが特定されているのに対し、甲9発明においては、そのようには特定されていない点。

(2)判断
そこで、事案に鑑み、相違点9−4から検討する。
相違点9−4に係る本件特許発明3の「前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程」という発明特定事項における「前記処理」とは、「条件1及び2」に従う「加熱処理」を施し、「熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより」、「炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理」のことであるが、甲9及び他の証拠のいずれにも、「条件1及び2」に従う「加熱処理」を施し、「熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより」、「炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理」の後に「炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程」は記載されていない。
また、甲9及び他の証拠のいずれにも、甲9発明において、相違点9−4に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載もない。

なお、甲6には、「炭素繊維を含む廃プラスチックを平均粒径が3mm以下になるように粉砕し」(甲6の【請求項1】)及び「炭素繊維を含む廃プラスチックは、粉砕装置1において、平均粒径が3mm以下に破砕される」(同【0009】)という記載があるところ、仮に、甲6に記載された事項を甲9発明に適用することが動機付けられるとしても、甲9の「この破砕粒体から強化用繊維が破断飛散することがなく、又は少ない工業用固形燃料、及びその製造方法を提供しようとするものである。」(甲9の【0006】)、「廃繊維強化樹脂物品を、例えば粗破砕工程、1次破砕工程、及び2次破砕工程などを経て、粒径が5〜30mmの粒体に破砕する。」(同【0008】)及び「前記廃繊維強化樹脂材料を、2軸せん断破砕機を用いて、粒径100〜300mmに粗破砕し、さらに1軸せん断破砕機を用いて、粒径5〜10mmに2次破砕した。さらに前記廃熱可塑性樹脂材料を、2軸せん断破砕機を用いて粒径100〜300mmに粗破砕し、さらに1軸せん断破砕機を用いて粒径5〜10mmに2次破砕した。前記両破砕粒体を、重量比80:20で混合しつゝ、溶融造粒機(スクリュー押出し式プラスチック固化装置)に供給し、100〜120℃に加熱し、内径15mmの押出しノズルより押出し、長さ30mmに切断した。」(同【0015】)という記載からみて、甲6に記載された事項を甲9発明に適用しようとする当業者であれば、「廃繊維強化樹脂物品の破砕粒体と、廃熱可塑性樹脂物品の破砕粒体とを混合し、この混合物を少なくとも廃熱可塑性樹脂粒体が加熱溶融」する前の「廃繊維強化樹脂物品」を「破砕粒体」にする段階で適用するのが合理的といえる。そして、その場合、相違点9−4に係る本件特許発明3の発明特定事項には至らない。

したがって、甲9発明において、甲9及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点9−4に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本件特許発明4について
本件特許発明4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4は甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3に「前記炭素繊維強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする」という発明特定事項を追加したものに相当し、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明5は甲9発明並びに甲9及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明3ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項3ないし5に係る特許は特許法第113条第2号に該当しないので、取消理由によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)、申立理由3(甲2を主引例とする進歩性)及び申立理由4(明確性要件)である。
以下、検討する。

1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「固体燃料及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項12】
熱可塑性プラスチックを含むプラスチックと石炭を粉砕して得られた微粉炭とを加熱装置に投入する投入工程と、前記熱可塑性プラスチック及び前記微粉炭を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を加熱して固体燃料を得る加熱工程と、を有する固体燃料の前記投入工程では、前記プラスチック100質量部に対して、水分の含有率が0.1〜50質量%である前記微粉炭を50〜500質量部投入し、
前記加熱工程では、前記混合物を加熱して前記熱可塑性プラスチックを溶融物とした後に当該溶融物を固化して得られる再固化物と、微粉炭及び当該微粉炭の熱分解物の少なくとも一方と、を含む前記固体燃料を得る、固体燃料の製造方法。」

・「【背景技術】
【0002】
廃棄物を有効に活用するために、都市ゴミや産業廃棄物に含まれる廃プラスチックを固体燃料として使用することが検討されている。通常、このような固体燃料は、廃プラスチックを石炭とともに加熱炉で加熱処理することによって作製される(例えば、特許文献1及び2参照)。」

・「【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、原料として熱可塑性プラスチックを用いても、加熱装置内部への融着を抑制することが可能であり、良好な燃焼性を有する固体燃料を高収率で容易に製造することが可能な固体燃料の製造方法を提供することを目的とする。また、良好な燃焼性を有しており、加熱装置への融着を十分に低減することが可能な固体燃料を提供することを目的とする。」

・「【0062】
熱可塑性プラスチックとしては、通常の廃プラスチックを用いることができる。廃プラスチックは通常汎用プラスチックが廃棄されたものであり、汎用プラスチックの大部分は熱可塑性である。
【0063】
本実施形態の廃プラスチックには、熱可塑性樹脂(本実施形態の熱可塑性プラスチックと同様の成分である)及び/又はエラストマーが添加配合されている。」

・「【0095】
加熱工程後に、得られた固体燃料を粉砕する粉砕工程を行ってもよい。」

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「熱可塑性プラスチックとしての廃プラスチックを含むプラスチックと石炭を粉砕して得られた微粉炭とを加熱装置に投入する投入工程と、前記熱可塑性プラスチックとしての廃プラスチック及び前記微粉炭を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を加熱して固体燃料を得る加熱工程と、得られた固体燃料を粉砕する粉砕工程と、を有する固体燃料の製造方法。」

(2)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「熱可塑性樹脂を含む混合物に、加熱処理を施す工程と、
前記処理後の熱可塑性樹脂を粉砕する工程と、
を含む燃料の製造方法。」

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては、「炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理方法」により「処理する工程」を含むことが特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点1−1について検討する。
甲1及び他の証拠のいずれにも、甲1発明において、「熱可塑性樹脂を含む混合物」として「炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物」を採用する動機付けとなる記載はないし、当然、該「混合物」に「以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理方法」により「処理する工程」を採用する動機付けとなる記載もない。
したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−1に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2ないし8を提示した上で、廃プラスチックとして、炭素繊維強化プラスチック及びシュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂が周知であるから、甲1発明の「廃プラスチック」として炭素繊維強化プラスチック及びシュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂を選択することは当業者にとって当たり前である旨主張する(特許異議申立書第22ページ第3行ないし第23ページ第19行)。
そこで、検討するに、仮に、廃プラスチックとして、炭素繊維強化プラスチック及びシュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂が周知であるとしても、甲1発明において、「廃プラスチック」として、炭素繊維強化プラスチックとシュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂の2つを選択する動機付けはない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2を提示した上で、甲1発明における微粉炭の一部を炭素繊維含有廃棄物に置き換えることは容易想到である旨主張する(特許異議申立書第26ページ第1行ないし第28ページ下から2行)。
そこで、検討するに、甲1の【0002】及び【0010】の記載によると、甲1発明は、「廃プラスチック」と「石炭」を用いることを前提とするものであるから、「廃プラスチック」ではなく「石炭を粉砕して得られた微粉炭」の一部を炭素繊維含有廃棄物である炭素繊維強化プラスチックに置き換える動機付けがあるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張も採用できない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明3は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3に「前記炭素繊維強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする」という発明特定事項をさらに追加したものに相当し、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明5は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明3ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項3ないし5に係る特許は特許法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由3(甲2を主引例とする進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「燃料、燃料の製造方法及び炭素繊維含有廃棄物の燃焼処理方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項5】
炭素繊維含有廃棄物と、ASR、石炭、樹脂、廃プラスチック、RDF、RPF、廃タイヤ、木屑、下水汚泥、廃油及び肉骨粉からなる群から選択される少なくとも一種以上とを、前記炭素繊維含有廃棄物が含有する炭素繊維の平均繊維長が500μm以下となり、かつ全体の揮発分が10%以上となるように混合粉砕することを特徴とする燃料の製造方法。」

・「【0008】
ここで、炭素繊維含有廃棄物とは、炭素繊維を用いた複合材料である炭素繊維強化プラスチックや炭素繊維強化炭素複合材料からなる航空・宇宙航空機、自動車、ゴルフクラブのシャフト等のスポーツ用品、建築材料、プラスチック製品、医療機器等の部品の廃棄物や、炭素繊維そのものを含む廃棄物をいう。」

・「【0010】
ASR(Automobile Shredder Residue)は、自動車を破砕した際に生じる残さであって、使用済みの自動車からドア、エンジン、エアバッグ等を取り外し、破砕して有用金属を回収した後の残さである。」

イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「炭素繊維を用いた複合材料である炭素繊維強化プラスチックの廃棄物と、ASR(Automobile Shredder Residue)とを混合粉砕する燃料の製造方法。」

(2)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を粉砕する工程を含む燃料の製造方法。」

そして、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2−1>
本件特許発明3においては、「以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理方法」により「処理する工程」を含むことが特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点2―1について検討する。
甲2及び他の証拠のいずれにも、甲2発明において、「以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する」「処理方法」により「処理する工程」を採用する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、甲2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−1に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲19ないし21を提示した上で、加熱処理による熱分解によって、炭素繊維の強度も低下し、樹脂強度も低下することが当業者の周知技術ないし当業者における技術常識であることから、甲2発明の混合粉砕を円滑にするために、本件特許発明1の条件1及び2を満たす範囲で加熱処理を施すことは容易なことであり、そのような加熱処理を行えば、甲2発明の炭素繊維含有廃棄物の表面に軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が付着、絡み合い、被覆して炭素繊維含有廃棄物の飛散が抑制されることは自明である旨主張する(特許異議申立書第54ページ第4行ないし第55ページ第14行)。
そこで、検討するに、仮に、「加熱処理による熱分解によって、炭素繊維の強度も低下し、樹脂強度も低下することが当業者の周知技術ないし当業者における技術常識」であり、甲2発明において、該「当業者の周知技術ないし当業者における技術常識」を適用することが容易に想到することができたとしても、加熱処理を施し、炭素繊維の強度及び樹脂強度を低下する処理方法により処理する工程が採用されるのに止まる。また、甲2発明において、加熱処理を施し、炭素繊維の強度及び樹脂強度を低下する処理方法により処理する工程を採用した場合に、炭素繊維含有廃棄物の表面に軟化又は溶融した熱可塑性樹脂が付着、絡み合い、被覆して炭素繊維含有廃棄物の飛散が抑制されるようになることを示す証拠はない。
そもそも、甲2発明は、加熱することなく、混合粉砕ができているのであるから、わざわざ加熱する動機付けがあるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明3は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4は請求項3を引用するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明3に「前記炭素繊維強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする」という発明特定事項をさらに追加したものに相当し、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3と同様に、本件特許発明5は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明3ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項3ないし5に係る特許は特許法第113条第2号に該当しないので、申立理由3によっては取り消すことはできない。

3 申立理由4(明確性要件)について
申立理由4は、本件特許の請求項1に係る特許を対象とする理由であるところ、本件訂正により請求項1は削除された。
したがって、申立理由4はその対象が存在しないものとなった。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項3ないし5に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書等に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1及び2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制する炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料の製造方法において、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを3mm以下に粉砕する燃料の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを混合して得た混合物を、以下の条件1及び2に従い加熱処理を施し、前記熱可塑性樹脂への付着、絡み合い、及び被覆の少なくとも1つにより、前記炭素繊維強化プラスチックの飛散を抑制し、前記炭素繊椎強化プラスチックの混合割合を5〜50質量%とする炭素繊維強化プラスチックの処理方法により、炭素繊維強化プラスチックと、シュレッダーダストに由来する熱可塑性樹脂とを処理する工程と、
前記処理後の炭素繊維強化プラスチックを粉砕する工程と、
を含むことを特徴とする燃料の製造方法。
(条件1)混合物の加熱温度を250〜500℃とする。
(条件2)加熱温度に応じて10分〜12時間の範囲内で加熱時間を設定する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-20 
出願番号 P2016-146680
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 須藤 康洋
加藤 友也
登録日 2021-02-19 
登録番号 6840486
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 炭素繊維強化プラスチックの処理方法及び燃料の製造方法  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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