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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M |
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管理番号 | 1388392 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-10-12 |
確定日 | 2022-06-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6859651号発明「蓄電装置用外装材」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6859651号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 特許第6859651号の請求項1ないし2,5ないし10に係る特許を維持する。 特許第6859651号の請求項3ないし4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6859651号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は,平成28年10月7日に出願され,令和3年3月30日にその特許権の設定登録がされ,令和3年4月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は,次のとおりである。 令和3年10月12日 :特許異議申立人田中俊子(以下,「特許異議申 立人」という。)による請求項1ないし10に 係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年1月21日付け:取消理由通知 令和4年3月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和4年4月28日 :特許異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和4年3月22日の訂正請求の趣旨は,特許第6859651号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし10について訂正することを求めるものであり,その訂正(以下,「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1(請求項1について) 請求項1に「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって」とあるのを「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及び単層のシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし10も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2(請求項1について) 請求項1に「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み」とあるのを「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし10も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3(請求項2について) 請求項2に「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み」とあるのを「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項5ないし10も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4(請求項2について) 請求項2に「前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの少なくとも一層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」とあるのを,「前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの少なくとも前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項5ないし10も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5(請求項3ないし4について) 特許請求の範囲の請求項3ないし4を削除する。 (6)訂正事項6(請求項5について) 請求項5に「請求項4に記載の蓄電装置用外装材。」とあるのを,「請求項2に記載の蓄電装置用外装材。」に訂正する(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし10も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7(請求項6について) 請求項6に「請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」とあるのを,「請求項1,2及び5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」に訂正する(請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7ないし10も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8(請求項8について) 請求項8に「請求項1〜7のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」とあるのを,「請求項1,2及び5〜7のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」に訂正する(請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9ないし10も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9(請求項9について) 請求項9に「請求項1〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」とあるのを,「請求項1,2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。 (10)訂正事項10(請求項10について) 請求項10に「請求項1〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」とあるのを,「請求項1,2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」に訂正する。 (11)一群の請求項 前記訂正事項1ないし2,5ないし10に係る本件訂正前の請求項1,3ないし10について,請求項3ないし10は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって,訂正事項1ないし2によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから,請求項1,3ないし10は一群の請求項を構成する。 また,前記訂正事項3ないし10に係る本件訂正前の請求項2,4ないし10について,請求項4ないし10は請求項2を直接又は間接的に引用しているものであって,訂正事項3ないし4によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから,請求項2,4ないし10は一群の請求項を構成する。 そして,これら一群の請求項は,共通する請求項4ないし10を有するから,本件訂正前の請求項1ないし10は一群の請求項である。 以上の点より,本件訂正前の請求項1ないし10に対応する本件訂正後の請求項1ないし10は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「シーラント層」について「単層」のものに限定する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 そして,願書に添付した明細書の段落【0029】及び【0089】並びに図1には,「シーラント層」が単層であるものが記載されているから,新規事項の追加にも該当しない。 (2)訂正事項2 訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1における「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含」むものについて,「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3 訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項2における「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含」むものについて,「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4 訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項2における「複数の層からな」る「前記シーラント層」のうち「前記超高分子量ポリオレフィンを含む層」を,「そのうちの少なくとも一層」から「そのうちの少なくとも前記金属箔層に最も近い層」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 また,訂正前の請求項4には「前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」と記載されているから,新規事項の追加にも該当しない。 (5)訂正事項5 訂正事項5は請求項3ないし4を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6 訂正事項6に係る請求項5についての訂正は,請求項5が請求項4を引用し,請求項4が請求項1ないし3を引用していたものを,訂正事項4によって訂正前の請求項4に記載された事項が付加された訂正後の請求項2のみを引用するものに変更するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (7)訂正事項7ないし10 訂正事項7ないし10は,請求項6及び8ないし10の引用請求項を減少させるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (8)小括 以上のとおりであるから,訂正事項1ないし10に係る訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 なお,本件においては,訂正前の請求項1ないし10について特許異議の申立てがされているから,対応する訂正後の請求項1ないし10に係る発明について,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1ないし10に係る発明(以下,「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は,訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及び単層のシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, 前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く), 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である,蓄電装置用外装材。 【請求項2】 少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, 前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く), 前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの少なくとも前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である,蓄電装置用外装材。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記金属箔層に最も近い層が,酸変性ポリプロピレンと,アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体と,をさらに含む層である,請求項2に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項6】 前記超高分子量ポリオレフィンが超高分子量ポリプロピレンを含有する,請求項1,2及び5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項7】 前記超高分子量ポリプロピレンが超高分子量ランダムポリプロピレンを含有する,請求項6に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項8】 前記金属箔層と前記シーラント層との間に接着剤層をさらに備え, 前記接着剤層が,酸変性ポリオレフィンと,多官能イソシアネート化合物,グリシジル化合物,カルボキシ基を有する化合物,オキサゾリン基を有する化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と,を含む,請求項1,2及び5〜7のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項9】 前記腐食防止処理層が,酸化セリウムと,該酸化セリウム100質量部に対して1〜100質量部のリン酸又はリン酸塩と,カチオン性ポリマーと,を含む,請求項1,2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項10】 前記腐食防止処理層が,前記金属箔層に化成処理を施して形成されている,又は,前記金属箔層に化成処理を施して形成されており,且つ,カチオン性ポリマーを含む,請求項1,2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし10に係る特許に対して,当審が令和4年1月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 (1)下記の請求項に係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,下記の請求項に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)下記の請求項に係る発明は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,下記の請求項に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用文献1:特開2013−206878号公報(甲第1号証) 引用文献2:国際公開第2016/125684号(甲第2号証) 引用文献3:特開2016−35035号公報(甲第3号証) ア 引用文献1を主引用例とした場合 ●理由1(新規性)について ・請求項 1ないし5,10 ・引用文献 1 ●理由2(進歩性)について ・請求項 8 ・引用文献 1ないし3 ・請求項 9 ・引用文献 1ないし2 イ 引用文献2を主引用例とした場合 ●理由1(新規性)について ・請求項 1ないし3,6ないし7,9ないし10 ・引用文献 2 ●理由2(進歩性)について ・請求項 4ないし5 ・引用文献 2ないし3 2 引用文献の記載事項,引用発明 (1)引用文献1,引用発明1 ア 取消理由通知において引用した引用文献1には,図面とともに以下の事項が記載されている(なお,下線は当審で付与した。以下同様)。 「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は,上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ,少なくとも,基材層,金属層,接着樹脂層,及びシーラント層が順次積層された積層体からなる電池用包装材料において,前記接着樹脂層がカルボン酸変性ポリオレフィンを含み,且つ前記シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含むことによって,密封時のヒートシールによって電池の電極と包装材料の金属層との間で生じる短絡を防止でき,しかも包装材料におけるクラックの発生を抑制できることを見出した。本発明は,かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。」 「【0025】 [金属層] 本発明の電池用包装材料において,金属層は,包装材料の強度向上の他,電池内部に水蒸気,酸素,光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。金属層を形成する金属としては,具体的には,アルミニウム,ステンレス,チタン等の金属箔が挙げられる。これらの中でも,アルミニウムが好適に使用される。包装材料の製造時にしわやピンホールを防止するために,本発明において金属層として,軟質アルミニウム,例えば,焼きなまし処理済みのアルミニウム(JISA8021P−O)又は(JIS A8079P−O)等を用いることが好ましい。」 「【0027】 また,金属層は,接着の安定化,溶解の防止,耐食性の付与等のために,少なくとも一方の面,好ましくは少なくとも接着樹脂層Aと接する面,更に好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。 【0028】 ここで,化成処理とは,金属層の表面に耐酸性皮膜を形成する処理である。化成処理は,例えば,硝酸クロム,フッ化クロム,硫酸クロム,酢酸クロム,蓚酸クロム,重リン酸クロム,クロム酸アセチルアセテート,塩化クロム,硫酸カリウムクロム等のクロム酸化合物を用いたクロム酸クロメート処理;リン酸ナトリウム,リン酸カリウム,リン酸アンモニウム,ポリリン酸等のリン酸化合物を用いたリン酸クロメート処理;下記一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を用いたクロメート処理等が挙げられる。」 「【0034】 また,金属層に耐食性を付与する化成処理方法として,リン酸中に,酸化アルミ,酸化チタン,酸化セリウム,酸化スズ等の金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし,150℃以上で焼付け処理を行うことにより,金属層の表面に耐食処理層を形成する方法が挙げられる。また,前記耐食処理層の上には,カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層を形成してもよい。ここで,カチオン性ポリマーとしては,例えば,ポリエチレンイミン,ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体,アクリル主骨格に1級アミンをグラフトさせた1級アミングラフトアクリル樹脂,ポリアリルアミンまたはその誘導体,アミノフェノール等が挙げられる。これらのカチオン性ポリマーは1種単独で使用してもよく,また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また,架橋剤としては,例えば,イソシアネート基,グリシジル基,カルボキシル基,及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物,シランカップリング剤等が挙げられる。これらの架橋剤は1種単独で使用してもよく,また2種以上を組み合わせて使用してもよい。 【0035】 これらの化成処理は,1種の化成処理を単独で行ってもよく,2種以上の化成処理を組み合わせて行ってもよい。更に,これらの化成処理は,1種の化合物を単独で使用して行ってもよく,また2種以上の化合物を組み合わせて使用して行ってもよい。これらの中でも,好ましくはクロム酸クロメート処理,更に好ましくはクロム酸化合物,リン酸化合物,及び前記アミノ化フェノール重合体を組み合わせたクロメート処理が挙げられる。」 「【0047】 [シーラント層] 本発明の電池用包装材料において,シーラント層は,最内層に該当し,電池の組み立て時にシーラント層同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。 【0048】 本発明において,シーラント層は,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む樹脂層により構成される。」 「【0052】 また,前記シクロオレフィンコポリマーの数平均分子量については,特に制限されないが,例えば15000〜200000,好ましくは20000〜100000が挙げられる。ここで,平均分子量とは,GPCにより測定される数平均分子量を示す。また,重量分子量としては,例えば20000〜400000,好ましくは30000〜200000が挙げられる。更に,分子量分布(重量分子量/数平均分子量)としては,例えば1.0〜5.0,好ましくは1.0〜3.0が挙げられる。ここで示す平均分子量,重量分子量,及び分子量分布は,GPCにより測定される値である。」 「【0054】 シーラント層は,前記シクロオレフィンコポリマーのみから形成されていてもよいが,前記シクロオレフィンコポリマーと他の樹脂成分を含むブレンド樹脂から形成されていてもよい。このようなブレンド樹脂の好適な一例として,前記シクロオレフィンコポリマーと,ポリオレフィン及び/又はカルボン酸変性ポリオレフィンとのブレンド樹脂が挙げられる。 【0055】 また,シーラント層は,前記シクロオレフィンコポリマーの単独あるいは異なるメルトフローレートや数分子量や分子量分布のブレンド,さらには上記他の樹脂成分を含むブレンド樹脂の単層,あるいは上記ブレンド樹脂に用いられる樹脂との多層構成を用いることができる。 【0056】 また,シーラント層の厚みとしては,適宜選定することができるが,例えば,2〜2000μm,好ましくは5〜1000μm,更に好ましくは10〜500μmが挙げられる。また,シーラント層を多層化する場合であれば,前記シクロオレフィンコポリマーのみから形成されている層又は前記シクロオレフィンコポリマーと他の樹脂成分を含むブレンド樹脂から形成される層の厚みとしては,例えば0.3〜1500μm,好ましくは0.5〜1000μm,さらに好ましくは1〜400μmが挙げられる。 【0057】 ブレンド樹脂の一成分として使用されるポリオレフィンとしては,具体的には,低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;ホモポリプロピレンポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば,プロピレンとエチレンのブロックコポリマー),ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば,プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)等の結晶性又は非晶性のポリプロピレン;エチレン−ブテン−プロピレンのターポリマー;ポリメチルペンテン;環状オレフィン等が挙げられる。 【0058】 また,ブレンド樹脂の一成分として使用されるカルボン酸変性ポリオレフィン,及びカルボン酸変性ポリオレフィンの中でも好適な例については,前記接着樹脂層Aで使用されるものと同様である。」 「【0072】 <電池用包装材料の製造> 実施例1〜4では,上記基材層/接着樹脂層B/金属層からなる積層体の金属層(化成処理された面)に,接着樹脂層Aとシーラント層をサーマルラミネーション法で貼合することにより積層し,基材層/接着樹脂層B/金属層/接着樹脂層A/シーラント層からなる積層体を形成した。 【0073】 また,実施例5〜7及び比較例1では,上記基材層/接着樹脂層B/金属層からなる積層体の金属層(化成処理された面)に,接着樹脂層Aとシーラント層を共押出し方法で積層し,基材層/接着樹脂層B/金属層/接着樹脂層A/シーラント層からなる積層体を形成した。 【0074】 また,実施例8,9及び比較例2では,シーラント層を予め製膜したフィルムを用意し,上記基材層/接着樹脂層B/金属層からなる積層体の金属層(化成処理された面)に,接着樹脂層Aの構成樹脂を押出しながら,前記シーラント層フィルムを貼合するサンドラミネーション方法で積層し,基材層/接着樹脂層B/金属層/接着樹脂層A/シーラント層からなる積層体を形成した。 【0075】 前記実施例1〜9,比較例1,2では,得られた積層体を一旦冷却した後に,アルミニウム(金属層)を190℃になるまで加熱し,5秒間その温度を保持して熱処理を施すことにより,電池用包装材料を得た。」 「【0079】 [実施例3] 接着樹脂層A 構成樹脂:カルボン酸変性ランダムポリプロピレン(MFR8.0) 厚み:20μm シーラント層 層構造:下記層(1)と層(2)からなる2層 層(1)の構成樹脂:ブロックポリプロピレン50重量部,及びシクロオレフィンコポリマー(ガラス転移温度140℃,MFR0.08,重量分子量/数平均分子量の比1.9)50重量部からなるブレンド樹脂 層(1)の厚み:10μm 層(2)の構成樹脂:ランダムプロピレン 層(2)の厚み:15μm 層(1)が接着樹脂層Aと接面し,層(2)が最表面を形成するように積層した。」 イ よって,前記記載事項から次のことがいえる。 (ア)段落【0072】によれば,「基材層/接着樹脂層B/金属層からなる積層体」の「金属層(化成処理された面)」に「接着樹脂層Aとシーラント層」を積層し,「基材層/接着樹脂層B/金属層/接着樹脂層A/シーラント層からなる積層体」を形成したものである。 そして,段落【0075】によれば,「得られた積層体を一旦冷却した後に,アルミニウム(金属層)を190℃になるまで加熱し,5秒間その温度を保持して熱処理を施すことにより,電池用包装材料を得た」ものである。このとき,「電池用包装材料」が「積層体」と同じく「基材層/接着樹脂層B/金属層/接着樹脂層A/シーラント層からなる」ことは明らかである。 ここで段落【0025】によれば,「金属層」は金属箔からなるものである。 また,段落【0027】によれば,「金属層」は,「耐食性の付与」のために「少なくとも一方の面」,「好ましくは両面が化成処理されている」ものであるから,「耐食性の付与」のために「一方の面」又は「両面が化成処理されている」ものといえる。 そして段落【0028】によれば,「化成処理」とは「金属層」の表面に耐酸性皮膜を形成する処理である。 してみると,引用文献1の「金属層」は,耐食性の付与のための化成処理によって一方の面又は両面に耐酸性皮膜が形成された金属箔層といえる。 以上の点より,引用文献1には,「基材層/接着樹脂層B/耐食性の付与のための化成処理によって一方の面又は両面に耐酸性皮膜が形成された金属箔層/接着樹脂層A/シーラント層からなる電池用包装材料」が記載されている。 (イ)段落【0048】によれば,「シーラント層」は,「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー」を含むものである。 そして,段落【0052】によれば,当該シクロオレフィンコポリマーは重量分子量が20000〜400000のものである。ここで技術常識を鑑みれば,「重量分子量」なるものは「重量平均分子量」の誤記と認められる。 してみると,引用文献1には「シーラント層が20000〜400000の重量平均分子量を有する,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」ことが記載されている。 (ウ)段落【0079】によれば,「シーラント層」は,「ブロックポリプロピレン50重量部」及び「シクロオレフィンコポリマー」「50重量部」からなる「ブレンド樹脂」で構成され,厚みが10μmである層(1)と,「ランダムプロピレン」で構成され,厚みが15μmである層(2)とが積層されたものである。 (エ)段落【0079】によれば,「層(1)が接着樹脂層Aと接面」するように積層されたものである。 (オ)前記(ウ)のとおり,「シーラント層」の「層(1)」は,ブレンド樹脂で構成されるものである。 ここで段落【0054】によれば,「シーラント層」のブレンド樹脂は,シクロオレフィンコポリマーと,ポリオレフィン及び/又はカルボン酸変性ポリオレフィンを含んでもよいものである。 そして段落【0058】によれば,カルボン酸変性ポリオレフィンは,接着剤樹脂層Aで使用されるものと同様であるところ,段落【0079】によれば,接着樹脂層Aは,カルボン酸変性ランダムポリプロピレンから構成されるものである。 また,段落【0057】によれば,ポリオレフィンとして,「非晶性のポリプロピレン」が挙げられている。 以上の点より,引用文献1には,「層(1)のブレンド樹脂が,カルボン酸変性ランダムポリプロピレンと,非晶質のポリプロピレンとを含む」ものが記載されている。 また,引用文献1には,「接着樹脂層Aがカルボン酸変性ランダムポリプロピレンから構成される」ものが記載されている。 (カ)段落【0028】及び【0034】によれば,耐酸性皮膜は,リン酸中に酸化セリウムを分散させたものをコーティングして金属層の表面に耐食処理層を形成し,前記耐食処理層の上にカチオン性ポリマーを架橋させた樹脂層を形成する方法により形成されているものである。 (キ)段落【0027】ないし【0028】及び【0034】ないし【0035】によれば,耐酸性皮膜は,カチオン性ポリマーであるアミノ化フェノール重合体を組み合わせた化成処理によって形成されているものである。 ウ したがって,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「基材層/接着樹脂層B/耐食性の付与のための化成処理によって一方の面又は両面に耐酸性皮膜が形成された金属箔層/接着樹脂層A/シーラント層からなる電池用包装材料であって, シーラント層は,ブロックポリプロピレン50重量部,及び20000〜400000の重量平均分子量を有する,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー50重量部からなるブレンド樹脂で構成され,厚みが10μmである層(1)と,ランダムプロピレンからなり,厚みが15μmである層(2)とが,層(1)が接着樹脂層Aと接面するように積層されたものであり, 層(1)のブレンド樹脂が,カルボン酸変性ランダムポリプロピレンと,非晶質のポリプロピレンとを含み, 接着樹脂層Aは,カルボン酸変性ランダムポリプロピレンから構成され, 耐酸性皮膜は,リン酸中に酸化セリウムを分散させたものをコーティングして金属層の表面に耐食処理層を形成し,前記耐食処理層の上にカチオン性ポリマーを架橋させた樹脂層を形成する方法により形成されている,又は,カチオン性ポリマーであるアミノ化フェノール重合体を組み合わせた化成処理によって形成されている,電池用包装材料。」 (2)引用文献2,引用発明2 ア 取消理由通知において引用した引用文献2には,図面とともに以下の事項が記載されている。 「[0001] 本発明は,蓄電装置用外装材に関する。」 「[0066]<腐食防止処理層14> 腐食防止処理層14は,電解液,又は,電解液と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層13の腐食を防止するために設けられる層である。腐食防止処理層14としては,例えば,脱脂処理,熱水変成処理,陽極酸化処理,化成処理,あるいはこれらの処理の組み合わせにより形成される。」 「[0070] 化成処理としては,浸漬型,塗工型が挙げられる。浸漬型の化成処理としては,例えばクロメート処理,ジルコニウム処理,チタニウム処理,バナジウム処理,モリブデン処理,リン酸カルシウム処理,水酸化ストロンチウム処理,セリウム処理,ルテニウム処理,あるいはこれらの混合相からなる各種化成処理が挙げられる。一方,塗工型の化成処理としては,腐食防止性能を有するコーティング剤を金属箔層13上に塗工する方法が挙げられる。 [0071] これら腐食防止処理のうち,熱水変成処理,陽極酸化処理,化成処理のいずれかで腐食防止処理層の少なくとも一部を形成する場合は,事前に上述した脱脂処理を行うことが好ましい。なお,金属箔層13として脱脂処理済みの金属箔を用いる場合は,腐食防止処理層14の形成において改めて脱脂処理する必要なはい。 [0072] 塗工型の化成処理に用いられるコーティング剤は,好ましくは3価クロムを含有する。また,コーティング剤には,後述するカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーが含まれていてもよい。 [0073] また,上記処理のうち,特に熱水変成処理,陽極酸化処理は,処理剤によってアルミニウム箔表面を溶解させ,耐腐食性に優れるアルミニウム化物(ベーマイト,アルマイト)を形成させる。そのため,アルミニウム箔を用いた金属箔層13から腐食防止処理層14まで共連続構造を形成した形態になるので,化成処理の定義に包含される。また,後述するように化成処理の定義に含まれない,純粋なコーティング手法のみで腐食防止処理層14を形成することも可能である。この方法としては,例えば,アルミニウムの腐食防止効果(インヒビター効果)を有し,かつ,環境側面的にも好適な材料として,平均粒径100nm以下の酸化セリウムのような希土類元素酸化物のゾルを用いる方法が挙げられる。この方法を用いることで,一般的なコーティング方法でも,アルミニウム箔などの金属箔に腐食防止効果を付与することが可能となる。 [0074] 上記希土類元素酸化物のゾルとしては,例えば,水系,アルコール系,炭化水素系,ケトン系,エステル系,エーテル系などの各種溶媒を用いたゾルが挙げられる。なかでも,水系のゾルが好ましい。 [0075] 上記希土類元素酸化物のゾルには,通常その分散を安定化させるために,硝酸,塩酸,リン酸などの無機酸またはその塩,酢酸,りんご酸,アスコルビン酸,乳酸などの有機酸が分散安定化剤として用いられる。これらの分散安定化剤のうち,特にリン酸は,外装材10において,(1)ゾルの分散安定化,(2)リン酸のアルミキレート能力を利用した金属箔層13との密着性の向上,(3)フッ酸の影響で溶出したアルミニウムイオンを捕獲(不動態形成)するとよる電解液耐性の付与,(4)低温でもリン酸の脱水縮合を起こしやすいことによる腐食防止処理層14(酸化物層)の凝集力の向上,などが期待される。 [0076] 上記リン酸またはその塩としては,オルトリン酸,ピロリン酸,メタリン酸,またはこれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられる。なかでも,外装材10における機能発現には,トリメタリン酸,テトラメタリン酸,ヘキサメタリン酸,ウルトラメタリン酸などの縮合リン酸,またはこれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩が好ましい。また,上記希土類元素酸化物のゾルを用いて,各種コーティング法により希土類元素酸化物からなる腐食防止処理層14を形成させる時の乾燥造膜性(乾燥能力,熱量)を考慮すると,低温での脱水縮合性に優れる点から,ナトリウム塩がより好ましい。リン酸塩としては,水溶性の塩が好ましい。 [0077] 希土類元素酸化物に対するリン酸(あるいはその塩)の配合比は,希土類元素酸化物100質量部に対して,1〜100質量部が好ましい。上記配合比が希土類元素酸化物100質量部に対して1質量部以上であれば,希土類元素酸化物ゾルがより安定になり,外装材10の機能がより良好になる。上記配合比は,希土類元素酸化物100質量部に対して5質量部以上がより好ましい。 また,上記配合比が希土類元素酸化物100質量部に対して100質量部以下であれば,希土類元素酸化物ゾルの機能が高まり,電解液の浸食を防止する性能に優れる。上記配合比は,希土類元素酸化物100質量部に対して,50質量部以下がより好ましく,20質量部以下がさらに好ましい。 [0078] 上記希土類元素酸化物ゾルにより形成される腐食防止処理層14は,無機粒子の集合体であるため,乾燥キュアの工程を経ても層自身の凝集力が低くなるおそれがある。そこで,この場合の腐食防止処理層14は,凝集力を補うために,下記アニオン性ポリマー,またはカチオン性ポリマーにより複合化されていることが好ましい。」 「[0091]本実施形態では,カチオン性ポリマーも腐食防止処理層14を構成する一構成要素として記載している。その理由は,蓄電装置用外装材で要求される電解液耐性,フッ酸耐性を付与するべく様々な化合物を用い鋭意検討を行った結果,カチオン性ポリマー自体も,電解液耐性,耐フッ酸性を付与することが可能な化合物であることが判明したためである。この要因は,フッ素イオンをカチオン性基で補足する(アニオンキャッチャー)ことで,アルミニウム箔が損傷することを抑制しているためであると推測される。」 「[0097]<接着性樹脂層15> 接着性樹脂層15は,主成分となる接着性樹脂組成物と必要に応じて添加剤成分とを含んで概略構成されている。接着性樹脂組成物は,特に制限されないが,変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また,添加剤成分は,アタクチック構造のポリプロピレン及び/又はプロピレン−αオレフィン共重合体を含むことが好ましい。中でも,添加剤成分は,アタクチック構造のポリプロピレン及び/又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c)を含むことがより好ましい。以下,各成分について説明する。 [0098](変性ポリオレフィン樹脂(a)) 変性ポリオレフィン樹脂(a)は,不飽和カルボン酸,不飽和カルボン酸の酸無水物,不飽和カルボン酸のエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分が,ポリオレフィン樹脂にグラフト変性された樹脂であることが好ましい。 [0099] ポリオレフィン樹脂としては,例えば,低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,エチレン−αオレフィン共重合体,ホモ,ブロック,あるいはランダムポリプロピレン,プロピレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィン樹脂などが挙げられるが,シーラント層16との接着性の観点からポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。」 「[0108] (マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)) マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は,変性ポリオレフィン樹脂(a)に対し,分散相サイズが200nmを超え,50μm以下の範囲でマクロ相分離構造を形成するものである。 [0109] 接着性樹脂組成物が,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分を含有することにより,接着性樹脂層15を構成する主成分となる変性ポリオレフィン樹脂(a)成分等をラミネートする際に発生する残留応力を開放することができ,熱弾性的な接着性を接着性樹脂層15に付与することができる。従って,接着性樹脂層15の密着性がより向上して,耐電解液性により優れた外装材10が得られる。 [0110] マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)は,変性ポリオレフィン樹脂(a)上で海島状に存在するが,分散相サイズが200nm以下であると,粘弾性的な接着性の改善を付与させることが困難になる。一方,分散相サイズが50μmを超えると,変性ポリオレフィン樹脂(a)とマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)とは本質的に非相溶性であるため,ラミネート適正(加工性)が著しく低下すると共に,接着性樹脂層15の物理的強度が低下しやすくなる。以上より,分散相サイズは,500nm〜10μmであることが好ましい。 [0111] このようなマクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)としては,例えば,エチレンおよび/またはプロピレンに,1−ブテン,1−ペンテン,1−ヘキセン,1−オクテン,4−メチル−1−ペンテンから選ばれるα−オレフィンを共重合させたポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーが挙げられる。 [0112] また,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分としては,市販品を使用することができ,例えば,三井化学社製の「タフマー」,三菱化学社製の「ゼラス」,モンテル社製の「キャタロイ」などが適している。」 「[0134]<シーラント層16> シーラント層16は,外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層である。シーラント層16は,単層であっても多層であってもよい。 [0135](第一の発明におけるシーラント層) 第一の発明におけるシーラント層16は,(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体を60〜95質量%と,(B)1−ブテンをコモノマーとする融点10℃以下のポリオレフィン系エラストマーを5〜40質量%と,を含有する樹脂組成物により形成された層を含む。シーラント層16は,(A)プロピレン−エチレンランダム共重合体を60〜95質量%と,(B)1−ブテンをコモノマーとする融点150℃以下のポリオレフィン系エラストマーを5〜40質量%と,を含有する樹脂組成物により形成された層であってもよい。以下,各成分について説明する。 [0136] ((A)プロピレン−エチレンランダム共重合体) (A)プロピレン−エチレンランダム共重合体は,プロピレン−エチレンブロック共重合体及びプロピレン単独重合体と比較して低温でのヒートシール性に優れており,電解液が関与するシール特性を向上させることができるとともに,(B)ポリオレフィン系エラストマーの影響により過剰シール部分が発生することを抑制することができる。 [0137] (A)プロピレン−エチレンランダム共重合体において,エチレン含有量は0.1〜10質量%であることが好ましく,1〜7質量%であることがより好ましく,2〜5質量%であることが更に好ましい。エチレン含有量が0.1質量%以上であると,エチレンを共重合させることによる融点低下効果が十分に得られ,電解液が関与するシール特性をより一層向上できる傾向がある。エチレン含有量が10質量%以下であると,融点が下がりすぎることを抑制でき,過剰シール部分の発生をより十分に抑制できる傾向がある。なお,エチレン含有量は,重合時のモノマーの混合比率から算出することができる。また,エチレン含有量は,赤外線吸収スペクトル法(IR法),核磁気共鳴吸収法(13C−NMR法,1H−NMR法)などで測定することができる。 [0138] (A)プロピレン−エチレンランダム共重合体の融点は,120〜145℃であることが好ましく,125〜140℃であることがより好ましい。融点が120℃以上であると,過剰シール部分の発生をより十分に抑制できる傾向がある。融点が145℃以下であると,電解液が関与するシール特性をより一層向上できる傾向がある。 [0139] (A)プロピレン−エチレンランダム共重合体の重量平均分子量は,融点が上記範囲内となるように適宜調整することが好ましいが,好ましくは10,000〜10,000,000であり,より好ましくは100,000〜1,000,000である。」 「[0176] 以上,本発明の蓄電装置用外装材の好ましい実施の形態について詳述したが,本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において,種々の変形・変更が可能である。 [0177] 例えば,図1では,腐食防止処理層14が金属箔層13の接着性樹脂層15側の面に形成されている場合を示したが,腐食防止処理層14は金属箔層13の第一の接着剤層12側の面に形成されていてもよく,金属箔層13の両面に形成されていてもよい。金属箔層13の両面に腐食防止処理層14が形成されている場合,金属箔層13の第一の接着剤層12側に形成される腐食防止処理層14の構成と,金属箔層13の接着性樹脂層15側に形成される腐食防止処理層14の構成とは,同一であっても異なっていてもよい。 [0178] また,図1では,接着性樹脂層15を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されている場合を示したが,図2に示す蓄電装置用外装材20のように,第二の接着剤層17を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されていてもよい。以下,第二の接着剤層17について説明する。」 [0179]<第二の接着剤層17> 第二の接着剤層17は,腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する層である。第二の接着剤層17には,金属箔層とシーラント層とを接着するための一般的な接着剤を用いることができる。」 「[0233] まず,第一の発明に係る実施例及び比較例を示す。 [0234][使用材料] 実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−5で使用した材料を以下に示す。 <基材層(厚さ25μm)> ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとナイロン(Ny)フィルムとの共押し出し多層延伸フィルム(グンゼ社製)を用いた。 [0235]<第一の接着剤層(厚さ4μm)> ポリエステルポリオール系主剤に対して,トリレンジイソシアネートのアダクト体系硬化剤を配合したポリウレタン系接着剤(東洋インキ社製)を用いた。 [0236]<第一の腐食防止処理層(基材層側)> (CL−1−1):溶媒として蒸留水を用い,固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」を用いた。なお,ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルは,酸化セリウム100質量部に対して,リン酸のNa塩を10質量部配合して得た。 (CL−1−2):溶媒として蒸留水を用い,固形分濃度5質量%に調整した「ポリアクリル酸アンモニウム塩(東亞合成社製)」90質量%と,「アクリル−イソプロペニルオキサゾリン共重合体(日本触媒社製)」10質量%からなる組成物を用いた。 [0237]<金属箔層(厚さ40μm)> 焼鈍脱脂処理した軟質アルミニウム箔(東洋アルミニウム社製,「8079材」)を用いた。 [0238]<第二の腐食防止処理層(シーラント層側)> (CL−1−1):溶媒として蒸留水を用い,固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」を用いた。なお,ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルは,酸化セリウム100質量部に対して,リン酸のNa塩を10質量部配合して得た。 (CL−1−3):溶媒として蒸留水を用い固形分濃度5質量%に調整した「ポリアリルアミン(日東紡社製)」90質量%と,「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製)」10質量%からなる組成物を用いた。 [0239]<接着性樹脂層(厚さ15μm)> 以下の材料の混合物を質量比でAR−1:AR−2:AR−3=3:1:1となるように混合して用いた。 (AR−1):非相容系ゴムとしてエチレン−プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレン(PP)ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物(三井化学社製)を用いた。 (AR−2):アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(住友化学社製,「タフセレンH」)を用いた。 (AR−3):アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(三井化学社製,「タフマーXM」)を用いた。 [0240]<第二の接着剤層(厚さ5μm)> トルエンに溶解させた無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し,イソシアヌレート構造のポリイソシアネート化合物を10質量部(固形分比)で配合した接着剤を用いた。 [0241]<シーラント層> 下記表1に示す各成分を同表に示す配合量(単位:質量部)で混合した樹脂組成物(SL−1−1〜SL−1−12)を用いた。なお,各成分の詳細を以下に示す。 (A)成分(ランダムPP):融点140℃のプロピレン−エチレンランダム共重合体(プライムポリマー社製,「プライムポリプロ」)。 (B−1)成分(プロピレン−1−ブテン):(A)成分に対して相溶性を有する,融点85℃のプロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー(三井化学社製,「タフマーXM」)。 (B−2)成分(エチレン−1−ブテン):(A)成分に対して相溶性を有さない,融点75℃のエチレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー(住友化学社製,「エクセレン」)。 水添スチレン系ゴム:(A)成分に対して相溶性を有する,水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製,「タフテック」)。 エチレン−プロピレン:(A)成分に対して相溶性を有さない,エチレン−プロピレン共重合体エラストマー(三井化学社製,「タフマーA」)。 [0242][表1] [0243][実施例1−1] まず,金属箔層に,第一の腐食防止処理層を以下の手順で設けた。すなわち,金属箔層の一方の面に(CL−1−1)を,ドライ塗布量として70mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工し,乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで,得られた層上に(CL−1−2)を,ドライ塗布量として20mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工することで,(CL−1−1)と(CL−1−2)からなる複合層を第一の腐防止処理層として形成した。この複合層は,(CL−1−1)と(CL−1−2)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。 [0244] 次に,金属箔層の他方の面に(CL−1−1)を,ドライ塗布量として70mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工し,乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで,得られた層上に(CL−1−3)を,ドライ塗布量として20mg/m2となるようにマイクログラビアコートにより塗工することで,(CL−1−1)と(CL−1−3)からなる複合層を第二の腐食防止処理層として形成した。この複合層は,(CL−1−1)と(CL−1−3)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。 [0245] 次に,第一及び第二の腐食防止処理層を設けた金属箔層の第一の腐食防止処理層側をドライラミネート手法により,ポリウレタン系接着剤(第一の接着剤層)を用いて基材層に貼りつけた。これを押出ラミネート機の巻出部にセットし,第二の腐食防止処理層上に290℃,100m/分の加工条件で共押出しすることで接着性樹脂層(厚さ15μm),シーラント層(厚さ30μm)の順で積層した。なお,接着性樹脂層及びシーラント層は,事前に二軸押出機を用いて各種材料のコンパウンドを作製しておき,水冷・ペレタイズの工程を経て,上記押出ラミネートに使用した。シーラント層の形成には,樹脂組成物(SL−1−1)を用いた。 [0246] このようにして得られた積層体を,該積層体の最高到達温度が190℃になるように,熱ラミネーションにより熱処理を施して,実施例1−1の外装材(基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層の積層体)を製造した。」 イ よって,前記記載事項から以下のことがいえる。 (ア)段落[0246]によれば,基材層/第一の接着剤層/第一の腐食防止処理層/金属箔層/第二の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層の外装材が記載されている。 ここで,段落[0001]によれば,前記「外装材」は「蓄電装置用外装材」である。 また,段落[0177]によれば,腐食防止処理層14が金属箔層13の接着性樹脂層15側の面に形成されていてもよく,金属箔層13の第一の接着剤層12側の面に形成されていてもよく,金属箔層13の両面に形成されていてもよいものである。 以上の点より,引用文献1には,基材層/第一の接着剤層/第一の接着剤層側の面,接着性樹脂層側の面,又は両面に腐食防止処理層が形成された金属箔層/接着性樹脂層/シーラント層からなる蓄電装置用外装材が記載されている。 (イ)段落[0241]ないし[0242]によれば,シーラント層に用いる樹脂組成物(SL−1−1)は,(A)成分:プロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部,(B−1)成分:プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマーを30質量部含むものである。ここで段落[0139]によれば,前記「プロピレン−エチレンランダム共重合体」は,より好ましくは100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するものである。 (ウ)段落[0239]によれば,「接着性樹脂層」は,「ランダムポリプロピレン」「ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」と,「アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体」である三井化学社製の「タフマー」と,「アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体」とを「質量比で」「3:1:1となるように混合し」たものである。 ここで段落[0112]によれば,三井化学社製の「タフマー」は「マクロ相分離熱可塑性エラストマー」である。 したがって,引用文献1には,「接着性樹脂層は,ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物と,アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体であるマクロ相分離熱可塑性エラストマーと,アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体とを,質量比で3:1:1となるように混合した」ものであることが記載されている。 (エ)段落[0245]によれば,「接着性樹脂層」の厚さは15μmであり,「シーラント層」の厚さは厚さ30μmである。 (オ)段落[0066]及び[0073]ないし[0078]によれば,腐食防止処理層は,酸化セリウムのような希土類元素酸化物のゾルと,希土類元素酸化物100質量部に対して1〜100質量部のリン酸又はリン酸塩と,カチオン性ポリマーとを含むものである。 (カ)段落[0066]及び[0070]によれば,腐食防止処理層は,化成処理により形成され,化成処理は,腐食防止性能を有するコーティング剤を金属箔層13上に塗工する方法が挙げられるものである。 また,段落[0072]及び[0091]によれば,化成処理に用いられるコーティング剤にはカチオン性ポリマーが含まれ,カチオン性ポリマーも腐食防止処理層を構成するものである。 してみると,引用文献2には,腐食防止処理層が,腐食防止性能を有するコーティング剤を金属箔層上に塗工する化成処理により形成され,且つカチオン性ポリマーを含むものが記載されている。 ウ したがって,引用文献2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「基材層/第一の接着剤層/第一の接着剤層側の面,接着性樹脂層側の面,又は両面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層/接着性樹脂層/シーラント層の蓄電装置用外装材であって, シーラント層が,100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部,プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマーを30質量部有し, 接着性樹脂層は,ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物と,アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体であるマクロ相分離熱可塑性エラストマーと,アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体とを,質量比で3:1:1となるように混合したものであり, 接着性樹脂層の厚さは15μmであり,シーラント層の厚さは厚さ30μmであり, 腐食防止処理層は,酸化セリウムのような希土類元素酸化物のゾルと,希土類元素酸化物100質量部に対して1〜100質量部のリン酸又はリン酸塩と,カチオン性ポリマーとを含むものであり,又は,腐食防止性能を有するコーティング剤を金属箔層上に塗工する化成処理により形成され,且つカチオン性ポリマーを含む,蓄電装置用外装材。」 (3)引用文献3 ア 取消理由通知において引用した引用文献3には,図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0011】 本発明は,特定のエポキシ化合物を硬化剤として用いることによって,上記課題を解決した。即ち,本発明は,カルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)と,2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって,芳香族アミノ基もしくはヘテロ原子として窒素原子を有する複素環の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(B)とを含有することを特徴とする接着剤組成物に関する。 【0012】 また,本発明は,前記接着剤組成物から形成される接着剤層を介して,金属箔層とヒートシール層とが積層されてなる積層体に関する。 【0013】 さらに本発明は,外層から順に,外層側樹脂フィルム層,外層側接着剤層,金属箔層,内層側接着剤層,ヒートシール層を必須とする蓄電デバイス用包装材において,前記内層側接着剤層が前記接着剤組成物から形成されることを特徴とする蓄電デバイス用包装材に関する。」 「【0021】 <カルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)> ポリオレフィン樹脂(A)は,接着剤組成物に使用する溶剤への溶解性や,その溶解した溶液が沈殿せず安定に保管できる(保存安定性を有する)ために,非結晶性を有することが好ましい。一方,積層体における接着剤層としての電解質耐性を向上するためには,結晶性部位も有すことが好ましく,そのバランスが重要となる。本発明で使用する前記ポリオレフィン樹脂(A)は,重量平均分子量が5万〜50万,融点が60〜110℃であり,融解エネルギー(ΔE)が15〜50(mJ/mg)であることが好ましい。 【0022】 ポリオレフィン樹脂(A)は,重量平均分子量(Mw)が5万〜50万であることによって,接着剤組成物を構成するポリオレフィン樹脂(A)の溶液としての保存安定性と,蓄電デバイス用包装材としての電解質耐性,ヒートシール性,塗工性を両立しやすくなる。より好ましくは,ポリオレフィン樹脂(A)のMwは10万〜40万である。 言い換えると,ポリオレフィン樹脂(A)のMwが5万未満であると,ポリオレフィン樹脂(A)のポリマー鎖の絡み合いが不足するため接着剤層の膜強度が低くなり電解質耐性が不足する恐れがある。また,Mwが50万より大きいとポリオレフィン樹脂(A)溶液としての25℃での保存安定性が低下したり,接着剤溶液の粘度が高すぎて塗工性が悪化したりする恐れがある。」 イ 以上の記載により,引用文献3には,次の技術(以下,「引用文献3記載の技術」という。)が記載されている。 「接着剤組成物において, カルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)と,エポキシ化合物(B)とを含有する接着剤組成物であって, 外層から順に,外層側樹脂フィルム層,外層側接着剤層,金属箔層,内層側接着剤層,ヒートシール層を必須とする蓄電デバイス用包装材において,前記内層側接着剤層が前記接着剤組成物から形成されるものであり, ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は10万〜40万であり, エポキシ化合物を硬化剤として用いること。」 3 当審の判断 (1)引用文献1を主引用例とした場合について ア 特許法第29条第1項第3号(新規性)について (ア)本件発明1について a 本件発明1と引用発明1との対比 (a)引用発明1の「耐食性の付与のための化成処理」は,腐食を防止するための処理といえる。してみると,引用発明1の「耐酸性皮膜」は,耐食性の付与のための化成処理によって形成されている層であるから,本件発明1の「腐食防止処理層」に相当する。 (b)引用発明1の「電池用包装材料」は,蓄電装置である電池を包装する外装の材料であるから,本件発明1の「蓄電装置用外装材」に相当する。 (c)よって,前記「(a)」及び「(b)」の点を踏まえると,引用発明1の「基材層/接着樹脂層B/耐食性の付与のための化成処理によって一方の面又は両面に耐酸性皮膜が形成された金属箔層/接着樹脂層A/シーラント層からなる電池用包装材料」は,本件発明1の「基材層」,一方の面又は両面に「腐食防止処理層」が形成された「金属箔層」,及び「シーラント層」と同様の構成をこの順で備える「蓄電装置用外装材」であるから,本件発明1の「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層を設けた金属箔層,及び」「シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。 但し,「シーラント層」について,本件発明1は「単層の」ものであるのに対して,引用発明1は「層(1)」と「層(2)」とが積層されたもの,つまり2層からなる点で相違する。 (d)引用発明1の「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー」は,本件発明1の「ポリオレフィン」に相当する。 そうすると,引用発明1の「20000〜400000の重量平均分子量を有する,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー」は,2.0×105(200000)〜4.0×105(400000)の重量平均分子量を有するポリオレフィンを含むものである。 以上の点より,引用発明1の「20000〜400000の重量平均分子量を有するシクロオレフィンコポリマー」は,本件発明1の「2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィン」に含まれる。 但し,「シーラント層」について,本件発明1は「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明は「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」点で相違する。 (e)引用発明1の「ブロックポリプロピレン50重量部,及びシクロオレフィンコポリマー50重量部からな」る「層(1)」は,層(1)の質量(ブロックポリプロピレン50質量部+シクロオレフィンコポリマー50質量部=100質量部)を基準として,シクロオレフィンコポリマーを50質量部/100質量部=50質量%含むものといえる。 してみると,引用発明1の「シーラント層は,ブロックポリプロピレン50重量部,及びシクロオレフィンコポリマー50重量部からなり,厚みが10μmである層(1)と,ランダムプロピレンからなり,厚みが15μmである層(2)とが積層されたものである」ことは,シクロオレフィンコポリマーが,シーラント層の総質量を基準として,50質量%×10μm/(10μm+15μm)=20質量%含むといえるから,本件発明1の「前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である」ことに含まれる。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明1と引用発明1とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって,前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み, 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である,蓄電装置用外装材。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1) 「シーラント層」について,本件発明1は「単層の」ものであるのに対して,引用発明1は2層からなる点。 (相違点2) 「シーラント層」について,本件発明1は「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明は「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」点。 c 本件発明1についてのまとめ 上記のとおり相違点があるから,本件発明1は,引用文献1に記載された発明ではない。 (イ)本件発明2について a 本件発明2と引用発明1との対比 (a)前記「(ア)a」と同様にして,本件発明2と引用発明1とは,「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって,前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含」む点で一致し,本件発明1は「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明は「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」点で相違するといえる。 (b)引用発明1の「シーラント層」が,「層(1)」と「層(2)」とが積層されたものであることは,本件発明2の「シーラント層が複数の層からな」ることに相当する。 また,引用発明1は「金属箔層/接着樹脂層A/シーラント層」という構成を有しているところ,「シーラント層」の「層(1)」は「接着樹脂層Aと接面するように積層されたものであ」るから,「層(2)」よりも「金属箔層」に近い層である。したがって,引用発明1の「層(1)」は,本件発明4の「そのうちの前記金属箔層に最も近い層」に相当する。 そして,前記「(ア)a(d)」と同様にして,引用発明1の「20000〜400000の重量平均分子量を有する,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー」は,本件発明2の「2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィン」に含まれるといえる。よって,引用発明1の「ブロックポリプロピレン50重量部,及び20000〜400000の重量平均分子量を有する,エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー50重量部からなるブレンド樹脂で構成され」る「層(1)」は,本件発明2の「前記超高分子量ポリオレフィンを含む層」に相当する。 以上の点より,引用発明2の「ブロックポリプロピレン50重量部,及び20000〜400000の重量平均分子量を有するシクロオレフィンコポリマー50重量部からなるブレンド樹脂で構成され」る「層(1)」と,「層(2)とが,層(1)が接着樹脂層Aと接面するように積層されたものであ」ることは,本件発明2の「前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」ことに相当する。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明2と引用発明1とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, 前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み, 前記シーラント層が複数の層からなり,そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である,蓄電装置用外装材。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点3) 「シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量オレフィンを含」むことについて,本件発明1は「(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明は「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」点。 c 本件発明2についてのまとめ 上記のとおり相違点があるから,本件発明2は,引用文献1に記載された発明ではない。 (ウ)本件発明3及び本件発明4について 本件訂正により請求項3及び請求項4は削除されたため,請求項3及び請求項4に係る取消理由は,その対象が存在しないものとなった。 (エ)本件発明5及び本件発明10について 本件発明5及び本件発明10は,本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み,更に他の構成を付加したものである。 したがって,本件発明5及び本件発明10は,本件発明1ないし2と同様の理由により,引用文献1に記載された発明ではない。 イ 特許法第29条第2項(進歩性)について (ア)本件発明8について a 本件発明8と引用発明1との対比 (a)本件発明8は,請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものであるから,前記「ア」の「(ア)a」及び「(イ)a」と同様の検討により,前記「ア」の「(ア)b」で挙げた相違点1及び相違点2,又は,前記「ア」の「(イ)b」で挙げた相違点3を有する。 (b)引用発明1は「金属箔層/接着樹脂層A/シーラント層」を含むものである。してみると,引用発明1の「接着樹脂層A」は,「金属箔層」と「シーラント層」との間に備えられた接着層であるから,本件発明8の「前記金属箔層と前記シーラント層との間に」備えた「接着剤層」に相当する。 また,引用発明1の「接着樹脂層A」を構成する「カルボン酸変性ランダムポリプロピレン」は,「ポリプロピレン」がポリオレフィンの一種であるという技術常識より,本件発明8の「酸変性ポリオレフィン」に相当する。 よって,本件発明8と引用発明1とは,「前記金属箔と前記シーラント層との間に接着剤層をさらに備え,前記接着剤層が酸変性ポリオレフィンを含む」点で一致する。 但し,「接着剤層」について,本件発明8は「多官能イソシアネート化合物,グリシジル化合物,カルボキシ基を有する化合物,オキサゾリン基を有する化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤」を含むのに対して,引用発明1はそのような「硬化剤」を含むことは特定されていない点で相違する。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明8と引用発明1とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって,前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み, 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である,蓄電装置用外装材。」 であって, 「前記金属箔と前記シーラント層との間に接着剤層をさらに備え,前記接着剤層が酸変性ポリオレフィンを含む」 点で一致し,相違点1及び相違点2,又は相違点3の他,以下の点で相違する。 (相違点4) 「接着剤層」について,本件発明8は「多官能イソシアネート化合物,グリシジル化合物,カルボキシ基を有する化合物,オキサゾリン基を有する化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤」を含むのに対して,引用発明1はそのような「硬化剤」を含むことは特定されていない点。 c 相違点2及び相違点3の判断 事案に鑑みて,先に相違点2及び相違点3について判断する。 引用発明1は,「電池用包装材料」において「シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含むことによって,密封時のヒートシールによって電池の電極と包装材料の金属層との間で生じる短絡を防止でき,しかも包装材料におけるクラックの発生を抑制できることを見出した」ものであるから(引用文献1の段落【0009】を参照),「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む」ことが,「密封時のヒートシールによって電池の電極と包装材料の金属層との間で生じる短絡を防止でき,しかも包装材料におけるクラックの発生を抑制できる」という課題を解決する手段と認められる。 したがって,引用発明1において「シーラント層」が「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除」く相違点2及び相違点3に係る構成とすることは,引用発明1の課題の解決を阻害することになるから,引用文献1に接した当業者であればわざわざ構成の変更はしない。 d 本件発明8についてのまとめ したがって,相違点1及び相違点4について検討するまでもなく,本件発明8は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (イ)本件発明9について a 本件発明9と引用発明1との対比 (a)本件発明9は,請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものであるから,前記「ア」の「(ア)a」及び「(イ)a」と同様の検討により,前記「ア」の「(ア)b」で挙げた相違点1及び相違点2,又は,前記「ア」の「(イ)b」で挙げた相違点3を有する。 (b)引用発明1の「耐酸性皮膜」は,「リン酸中に酸化セリウムを分散させたものをコーティングして金属層の表面に耐食処理層を形成し,前記耐食処理層の上にカチオン性ポリマーを架橋させた樹脂層を形成する方法により形成されている」ことから,酸化セリウムと,リン酸と,カチオン性ポリマーとを含むものであるから,本件発明9の「前記腐食防止処理層」が,「酸化セリウム」と,「リン酸」と,「カチオン性ポリマー」とを含むことに相当する。 但し,「リン酸」について,本件発明9は「該酸化セリウム100質量部に対して1〜100質量部」含むのに対して,引用発明はそのようなものであることは特定されていない点で相違する。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明9と引用発明1とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって,前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み, 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である,蓄電装置用外装材。」 であって, 「前記腐食防止処理層が,酸化セリウムと,リン酸と,カチオン性ポリマーと,を含む」 点で一致し,前記相違点1及び相違点2,又は相違点3の他,以下の点で相違する。 (相違点5) 「リン酸」について,本件発明9は「該酸化セリウム100質量部に対して1〜100質量部」含むのに対して,引用発明はそのようなものであることは特定されていない点。 c 相違点の判断 しかしながら,前記「(ア)c」のとおり,引用発明1において相違点2及び相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことではない。 d 本件発明9についてのまとめ したがって,相違点1及び相違点5について検討するまでもなく,本件発明9は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (2)引用文献2を主引用例とした場合について ア 特許法第29条第1項第3号(新規性)について (ア)本件発明1について a 本件発明1と引用発明2との対比 (a)本件発明1の「シーラント層」は,本願明細書の記載によれば,「樹脂組成物βのみから形成されていてもよい」ものである(段落【0129】を参照)。 そして,「樹脂組成物βにおける接着性樹脂組成物は,特に制限されないが,変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また,添加剤成分は,アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c)を含むことが好ましい。」というものである(段落【0130】を参照)。 してみると,引用発明2の「接着性樹脂層」は,変性ポリオレフィン樹脂である「ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」と,「マクロ相分離熱可塑性エラストマー」と,「アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体」とが混合されたものであって,本願明細書の「樹脂組成物β」と同様のものであるから,本件発明1の「シーラント層」に含まれる。 以上の点より,引用発明2の「接着性樹脂層/シーラント層」は,合わせて本件発明1の「シーラント層」に相当する。 但し,「シーラント層」について,本件発明1は「単層」であるのに対して,引用発明2は「接着性樹脂層/シーラント層」の2層である点で相違する。 (b)前記「(a)」の点より,引用発明2の「基材層/第一の接着剤層/第一の接着剤層側の面,接着性樹脂層側の面,又は両面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層/接着性樹脂層/シーラント層の蓄電装置用外装材」は,少なくとも「基材層」,第一の接着剤層側の面及び接着性樹脂層側の面のうち一方又は両方の面に「腐食防止処理層」が形成された「金属箔層」,及び「接着性樹脂層/シーラント層」をこの順で備えているから,本件発明1の「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及び」「シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。 (c)引用発明2の「プロピレン−エチレンランダム共重合体」は,本件発明1の「ポリオレフィン」に相当する。 そうすると,引用発明2の「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体」は,2.0×105(200,000)〜1.0×106(1,000,000)の重量平均分子量を有するポリオレフィンを含むものである。 よって,引用発明2の「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体」は,本件発明1の「2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィン」と,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有するポリオレフィンを含む点で共通する。 (d)引用発明1の「シーラント層」が有する「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体」及び「プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー」,並びに,「接着性樹脂層」が有する「ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」,「アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体であるマクロ相分離熱可塑性エラストマー」,及び「アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体」は,いずれも本件発明1の「エチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマー」に含まれないものである。 よって,前記(a)及び(c)の点を踏まえると,引用発明2の「シーラント層が,100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部,プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマーを30質量部有し,接着性樹脂層は,ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物と,アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体であるマクロ相分離熱可塑性エラストマーと,アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体とを,質量比で3:1:1となるように混合したものであ」ることは,本件発明1の「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」ことに相当する。 (e)引用発明2の「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部,プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマーを30質量部有」する「シーラント層」は,「シーラント層」の質量(プロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部+プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー30質量部=100質量部)を基準として,「プロピレン−エチレンランダム共重合体」を70質量部/100質量部=70質量%含むものといえる。 そして,引用発明2は「接着性樹脂層の厚さは15μmであり,シーラント層の厚さは厚さ30μmである」から,「接着性樹脂層/シーラント層」中の「プロピレン−エチレンランダム共重合体」の含有量は,「接着性樹脂層/シーラント層」の総質量を基準として70質量%×30μm/(15μm+30μm)=46.6質量%であるといえる。 このことは,本件発明1の「前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である」ことに含まれる。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明1と引用発明2とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, 前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く), 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である,蓄電装置用外装材。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点6) 「シーラント層」について,本件発明1は「単層」であるのに対して,引用発明2は2層である点。 c 本件発明1についてのまとめ 上記のとおり相違点があるから,本件発明1は,引用文献2に記載された発明ではない。 (イ)本件発明2について a 本件発明2と引用発明2との対比 (a)前記「(ア)a」と同様にして,本件発明2と引用発明2とは,「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって,前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」点で一致するといえる。 (b)引用発明2は「金属箔層/接着性樹脂層/シーラント層」を含むものである。 そして,前記「(ア)a(a)」と同様にして,引用発明2の「接着性樹脂層/シーラント層」は合わせて,本件発明2の「前記シーラント層が複数の層からな」ることに相当するものといえる。 そうすると,引用発明2の「接着性樹脂層」は,「接着性樹脂層/シーラント層」のうち「金属箔層」に最も近いから,本件発明2の「そのうちの前記金属箔層に最も近い層」に相当する。 また,引用発明2の「シーラント層」は「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体」を含むから,本件発明2の「前記超高分子量ポリオレフィンを含む層」に相当する。 但し,本件発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」のに対して,引用発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層」が「前記超高分子量ポリオレフィンを含む層」ではない点で相違する。 b 一致点・相違点 したがって,本件発明2と引用発明2とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, 前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く), 前記シーラント層が複数の層からなる,蓄電装置用外装材。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点7) 本件発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」のに対して,引用発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層」が「前記超高分子量ポリオレフィンを含む層」ではない点で相違する。 c 本件発明2についてのまとめ 上記のとおり相違点があるから,本件発明2は,引用文献2に記載された発明ではない。 (ウ)本件発明3について 本件訂正により請求項3は削除されたため,請求項3に係る取消理由は,その対象が存在しないものとなった。 (エ)本件発明6ないし7,9ないし10について 本件発明6ないし7,9ないし10は,本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み,更に他の構成を付加したものである。 したがって,本件発明6ないし7,9ないし10は,本件発明1ないし2と同様の理由により,引用文献1に記載された発明ではない。 イ 特許法第29条第2項(進歩性)について (ア)本件発明4について 本件訂正により請求項4は削除されたため,請求項4に係る取消理由は,その対象が存在しないものとなった。 (イ)本件発明5について a 本件発明5と引用発明2との対比 前記「ア(イ)a(b)」と同様にして,引用発明2の「接着性樹脂層」は,本件発明5の「前記金属箔層に最も近い層」に相当するといえる。 また,引用発明2の「ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」は,本件発明5の「酸変性ポリプロピレン」に相当する。 よって,引用発明2の「接着性樹脂層」が「ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物」と「アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体」とを混合したものであることは,本件発明5の「前記金属箔層に最も近い層が,酸変性ポリプロピレンと,アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体と,をさらに含む層である」ことに相当する。 b 一致点・相違点 そして,本件発明5は,本件発明2を引用しているから,前記相違点7において引用発明2と相違し,その余の点で一致しているといえる。 c 相違点7の判断 (a)引用発明2の「接着性樹脂層」は「ランダムポリプロピレンベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物と,アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体であるマクロ相分離熱可塑性エラストマーと,アタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体とを,質量比で3:1:1となるように混合した」ものであるから,硬化剤を含んでいないものである。 (b)してみると,引用文献3記載の技術の「接着剤組成物」は,硬化剤を含んでいるものであるから,シーラント層として機能する引用発明2の「接着性樹脂層」に適用して相違点7に係る構成とすることはできない。 (c)なお,本件発明2の「シーラント層」は,本願明細書の記載によれば,「樹脂組成物βのみから形成されていてもよい」ものである(段落【0129】を参照)。そして「樹脂組成物βにおける接着性樹脂組成物は,特に制限されないが,変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また,添加剤成分は,アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c)を含むことが好ましい。」というものである(段落【0130】を参照)。 これに対して,引用文献2の段落[0179]ないし[0190]によれば,「第二の接着剤層17」は,少なくとも「マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分」を含有することは特定されていないから,本件発明2の「シーラント層」に含まれるものとはいえない。 よって,仮に,引用発明2の「接着性樹脂層15」に代えて,「第二の接着剤層17」として引用文献3記載の技術を適用して当該相違点7に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことであったとしても,当該適用後の発明は本件発明2の「シーラント層は複数の層からな」る事項を満たさなくなる。 d 以上の点より,本件発明5は,引用文献2に記載された発明,及び,引用文献3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 3 取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ したがって,請求項1,2,5ないし10に係る特許は,当該取消理由通知に記載した取消理由により取り消すことはできない。 また,請求項3ないし4に係る特許は,訂正により削除されたため,請求項3ないし4に係る取消理由は,対象が存在しないものとなった。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立人は特許異議申立書において,下記の申立理由1ないし申立理由2より,請求項1ないし10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している。 (1)申立理由1(引用文献1及び引用文献3に対する進歩性) 訂正前の請求項1ないし5,9ないし10に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書の第26ないし31頁の「III−1」ないし「III−5」及び「III−7」ないし「III−8」を参照)。 また,訂正前の請求項8に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書の第29ないし30頁の「III−6」を参照)。 (2)申立理由2(引用文献2及び引用文献3に対する進歩性) 訂正前の請求項1ないし3,5ないし10に係る発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書の第31ないし37頁の「IV−1」ないし「IV−3」及び「IV−5」ないし「IV−10」を参照)。 また,訂正前の請求項4に係る発明は,引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書の第34頁の「IV−4」を参照)。 2 当審の判断 (1)申立理由1について ア 本件発明1について 本件発明1と引用発明1とが相違点1及び相違点2において相違することは,前記「第4」の「3(1)ア(ア)b」のとおりである。 そして,引用発明1において当該相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことではないことは,前記「第4」の「3(1)イ(ア)c」で判断したとおりである。 したがって,本件発明1は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 本件発明2について 本件発明2と引用発明1とが相違点3において相違することは,前記「第4」の「3(1)ア(イ)b」のとおりである。 そして,引用発明1において当該相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことではないことは,前記「第4」の「3(1)イ(ア)c」で判断したとおりである。 したがって,本件発明2は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 ウ 本件発明3ないし4について 本件訂正により請求項3及び請求項4は削除されたため,請求項3ないし4に係る特許異議申立人による特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなった。 エ 本件発明5,8ないし10について 本件発明5,8ないし10は,本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み,更に他の構成を付加したものである。 したがって,本件発明5,9ないし10は,本件発明1ないし2と同様の理由により,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 また,本件発明8は,本件発明1ないし2と同様の理由により,引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 オ 申立理由1についてのまとめ 以上のとおり,本件訂正後の請求項1ないし5,9ないし10に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,請求項1ないし5,9ないし10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 また,本件訂正後の請求項8に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,請求項8に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 また,本件訂正により請求項3及び請求項4は削除されたため,請求項3ないし4に係る特許異議申立人による特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなった。 したがって,申立理由1に係る特許異議申立人の主張は採用できない。 (2)申立理由2について ア 本件発明1について (ア)一致点・相違点 本件発明1と引用発明2とを対比すると,相違点6において相違し,その余の点で一致することは,前記「第4」の「3(2)ア(ア)」のとおりである。 (イ)相違点6の判断 a 引用文献2の段落[0178]によれば,「図1では,接着性樹脂層15を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されている場合を示したが,図2に示す蓄電装置用外装材20のように,第二の接着剤層17を用いて金属箔層13とシーラント層16とが積層されていてもよい」ものである。 してみると,引用発明2の「金属箔層/接着性樹脂層/シーラント層」を「金属箔層/第二の接着剤層/シーラント層」に変更することは,当業者が容易に為し得たことである。 b ここで,本件発明1の「シーラント層」は,本願明細書の記載によれば,「樹脂組成物βのみから形成されていてもよい」ものである(段落【0129】を参照)。 そして,「樹脂組成物βにおける接着性樹脂組成物は,特に制限されないが,変性ポリオレフィン樹脂(a)成分と,マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分とを含有することが好ましい。また,添加剤成分は,アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(c)を含むことが好ましい。」というものである(段落【0130】を参照)。 これに対して,引用文献2の段落[0179]ないし[0190]によれば,「第二の接着剤層17」は,少なくとも「マクロ相分離熱可塑性エラストマー(b)成分」を含有することは特定されていないから,本件発明1の「シーラント層」に含まれるものとはいえない。 よって,引用発明2において前記「a」の変更をしたものは,「シーラント層」のみが本件発明1の「シーラント層」に相当するから,相違点6に係る「単層のシーラント層」の構成を有する。 c しかしながら,引用発明2の「シーラント層」は,「100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部,プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマーを30質量部有」するから,「シーラント層」の質量(プロピレン−エチレンランダム共重合体を70質量部+プロピレン−1−ブテンランダム共重合体エラストマー30質量部=100質量部)を基準として,「プロピレン−エチレンランダム共重合体」を70質量部/100質量部=70質量%含むものといえる。 よって,引用発明2において前記「a」の変更をしたものは,本件発明1の「前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である」ことを満たさないものとなる。 (ウ)したがって,本件発明1は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 イ 本件発明2について (ア)一致点・相違点 本件発明2と引用発明2とを対比すると,相違点7において相違し,その余の点で一致することは,前記「第4」の「3(2)ア(イ)」のとおりである。 (イ)相違点7の判断 引用発明2において相違点7に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たこととはいえないことは,前記「第4」の「3(2)イ(イ)c」のとおりである。 (ウ)したがって,本件発明2は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 ウ 本件発明3ないし4について 本件訂正により請求項3及び請求項4は削除されたため,請求項3ないし4に係る特許異議申立人による特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなった。 エ 本件発明5ないし10について 本件発明5ないし10は,本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み,更に他の構成を付加したものである。 したがって,本件発明5ないし10は,本件発明1ないし2と同様の理由により,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 オ 申立理由2についてのまとめ 以上のとおり,本件訂正後の請求項1ないし2,5ないし10に係る発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,請求項1ないし2,5ないし10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 また,本件訂正により請求項3及び請求項4は削除されたため,請求項3ないし4に係る特許異議申立人による特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなった。 したがって,申立理由2に係る特許異議申立人の主張は採用できない。 第6 特許異議申立人が令和4年4月28日に提出した意見書について 1 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は,令和4年4月28日に提出した意見書において,本件発明1及び2は,甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1,2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨,及び,本件発明5ないし本件発明10は,甲第4号証に記載された発明並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1,2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している。 甲第4号証:特開2002−245983号公報 甲第5号証:特開2016−94529号公報 甲第6号証:特開2016−143615号公報 2 各号証の記載 (1)甲第4号証 ア 甲第4号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 少なくとも基材層,接着層1,化成処理層1,アルミニウム,化成処理層2,接着層2,ヒートシール層から構成されるリチウムイオン電池の外装体にリチウムイオン電池本体を挿入し,周縁をヒートシールするリチウムイオン電池用包装材料であって,前記ヒートシール層に接着性ポリメチルペンテン層を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用包装材料。 【請求項2】 前記ヒートシール層が,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなる共押出しフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用包装材料。」 「【0009】 リチウムイオン電池の外装体は,リチウムイオン電池本体の性能を長期にわたって維持する性能を有することが求められ,基材層,バリア層,ヒートシール層等を各種のラミネート法によって積層している。特に,リチウムイオン電池の外装体(以下,外装体)を構成する積層体のヒートシール層がポリオレフィン系樹脂等からなる場合,リチウムイオン電池本体を外装体に収納し,その周縁をシールして密封する際,タブが存在する部分において,例えば,接着性フィルムとして酸変性ポリオレフィンを用いる場合,図10(b)に示すようにヒートシールのための熱と圧力によって前記外装体のヒートシール層と接着性フィルム層とがともに溶融し,また,加圧によって,絶縁層となっていた外装体のバリア層12’より内側の層,および,接着性フィルム層6’が,共に加圧部の領域の外に押し出されることがある。その結果,外装体のバリア層12’であるアルミニウム箔と金属からなるタブ4’とが接触しショートSすることがあった。 【0010】 本発明者らは,前記ショートSを防止することについて,鋭意研究の結果,少なくとも外装体のヒートシール層を,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなる共押出しフィルムとすることによって,前記課題を解決し得ることを見出し,本発明を完成するに到った。すなわち,本発明のリチウムイオン電池用包装材料の構成例としては,図1(a)に示すように,ヒートシール層を,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルベンテン層,ポリオレフィン層の共押出し3層とし,バリア層とドライラミネート法により形成された積層体である。」 「【0025】 次に,本発明のリチウムイオン電池用包装材料を適用する外装体10の材質例について説明する。前記外装体は,図8(a)?図8(d)に示すように,例えば,少なくとも基材層11,接着層16,バリア層12,化成処理層15(2),接着樹脂層13ヒートシール層14から構成されるものである。外装体がエンボスタイプの場合には,図8(a)または図8(b)に示すように,基材層11,接着層16,化成処理層15(1),バリア層12,化成処理層15(2),接着樹脂層13,ヒートシール層14の構成とする。」 「【0036】 前記バリア層12は,外部からリチウムイオン電池の内部に特に水蒸気が浸入することを防止するための層で,バリア層単体のピンホール,及び加工適性(パウチ化,エンボス成形性)を安定化し,かつ耐ピンホールをもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム,ニッケルなどの金属,又は,無機化合物,例えば,酸化珪素,アルミナ等を蒸着したフィルムなども挙げられるが,バリア層として好ましくは厚さが20〜80μmのアルミニウムとする。ピンホールの発生をさらに改善し,リチウムイオン電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする場合,エンボス成形におけるクラックなどの発生のないものとするために,本発明者らは,バリア層として用いるアルミニウムの材質が,鉄含有量が0.3〜9.0重量%,好ましくは0.7〜2.0重量%とすることによって,鉄を含有していないアルミニウムと比較して,アルミニウムの展延性がよく,積層体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり,かつ前記エンボスタイプの外装体を成形する時に側壁の形成も容易にできることを見出した。前記鉄含有量が,0.3重量%未満の場合は,ピンホールの発生の防止,エンボス成形性の改善等の効果が認められず,前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は,アルミニウムとしての柔軟性が阻害され,積層体として製袋性が悪くなる。」 「【0038】 本発明者らは,リチウムイオン電池用包装材料のバリア層12であるアルミニウムの表,裏面に化成処理を施すことによって,前記包装材料として満足できる積層体とすることができた。前記化成処理とは,具体的にはリン酸塩,クロム酸塩,フッ化物,トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによってエンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止と,リチウムイオン電池の電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により,アルミニウム表面の溶解,腐食,特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解,腐食することを防止し,かつ,アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ,エンボス成形時,ヒートシール時の基材層11とアルミニウム12とのデラミネーション防止,電解質と水分との反応により生成するフッ化水素によるアルミニウム内面側でのデラミネーション防止効果が得られた。各種の物質を用いて,アルミニウム面に化成処理を施し,その効果について研究した結果,前記耐酸性皮膜形成物質のなかでも,フェノール樹脂,フッ化クロム(3)化合物,リン酸の3成分から構成されたものを用いるリン酸クロメート処理が良好であった。または,少なくともフェノール樹脂を含む樹脂成分に,モリブデン,チタン,ジルコン等の金属,または金属塩を含む化成処理剤が良好であった。」 イ 前記記載事項から,次のことがいえる。 (ア)段落【0025】によれば,「基材層11,接着層16,化成処理層15(1),バリア層12,化成処理層15(2),接着樹脂層13,ヒートシール層14の構成とする」「リチウムイオン電池用」の「外装体」である。 (イ)段落【0036】によれば,「前記バリア層12」は「厚さが20〜80μmのアルミニウム」である。 (ウ)段落【0010】によれば,「外装体」の「ヒートシール層」は,「ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層」からなるものである。 (エ)段落【0038】によれば,「化成処理」とは「アルミニウム表面の」「腐食」を防止するものである。 ウ したがって,甲第4号証には,次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されている。 「基材層11, 接着層16, アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(1), 厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12, アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(2), 接着樹脂層13, ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなるヒートシール層14の構成とするリチウムイオン電池用の外装体。」 (2)甲第5号証 ア 甲第5号証には,以下の事項が記載されている。 「【背景技術】 【0002】 近年,種々の包装材料が提案され,様々なヒートシール強度を有するシーラントフィルムの開発が所望されている。例えば,熱に弱い食品を包装する際には,内容物を保護するために,比較的低温で包装材料をヒートシールする必要がある。そのため,熱に弱い被包装物の包装材料に利用されるシーラントフィルムには,低温シール条件でも高いシール強度を示す特性が求められている。 【0003】 食品等の包装材料として汎用されている4−メチル−1−ペンテン重合体は,融点が高く,離型性を有するため,4−メチル−1−ペンテン重合体で主に構成されたフィルム(以下,適宜「4−メチル−1−ペンテン系重合体フィルム」と称する。)をシーラントフィルムとして利用するには,ヒートシール温度を高くする必要がある上,シール強度が低いという問題があった。 そこで,4−メチル−1−ペンテン系重合体フィルムに対してヒートシール性を付与する方法して,4−メチル−1−ペンテン系重合体フィルムに,他の熱可塑性樹脂,例えばオレフィン系重合体で構成されたフィルム(以下,適宜「オレフィン系重合体フィルム」と称する。)を積層する方法が検討されている(例えば,特許文献1参照)。 【0004】 ところで,シーラントフィルムには,上述したような低温シール条件でも高いシール強度を示す特性だけでなく,幅広いヒートシール温度領域を有し,ヒートシール温度を変えることにより,イージーピール性と密封シール性との両方の機能を併せ持つ特性も求められている。」 「【0015】 [フィルム] 本発明のフィルムは,4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位を80モル%以上99モル%以下,及び4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位を1モル%以上20モル%以下有し,上記4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と,上記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位とが合計で100モル%の共重合体である熱可塑性樹脂(A)と,エチレン系重合体及びプロピレン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体である,上記熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)と,を含み,上記熱可塑性樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して,上記熱可塑性樹脂(A)の含有量が2質量部以上50質量部以下であり,上記熱可塑性樹脂(B)の含有量が50質量部以上98質量部以下である樹脂組成物を含有するフィルムである。 本発明によれば,低温シール条件(例えば,130℃)では,シール性とイージーピール性とが良好な,ある程度高いシール強度(例えば,3.0N/15mm以上10N/15mm未満)を示すとともに,高温シール条件(例えば,180℃)では,高いシール強度(例えば,10N/15mm以上)を示すフィルムを実現する。 本発明の作用機構は明確ではないが,本発明者は,以下の如く推測している。 【0016】 フィルムの材料の1つである熱可塑性樹脂(A)を,4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位以外に,炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位を有する共重合体(4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位:80モル%以上99モル%以下,炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位:1モル%以上20モル%以下,4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位との合計:100モル%)とすることにより,低温条件でのヒートシールが可能となると考えられる。 4−メチル−1−ペンテンを骨格に多く含む熱可塑性樹脂(A)と,エチレン系重合体及びプロピレン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体である熱可塑性樹脂(B)とを,熱可塑性樹脂(A)の割合が,熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して2質量部以上50質量部以下となるように混合し,フィルムを形成すると,ヒートシール性を有するもののシール強度が低い熱可塑性樹脂(A)と,低温シール条件でも高いシール強度が得られる熱可塑性樹脂(B)と,が適度に分散したフィルムが形成されると考えられる。 その結果,低温シール条件では,シール性とイージーピール性とが良好な,ある程度高いシール強度を示すとともに,高温シール条件では,高いシール強度を示すフィルムの実現が可能となると考えられる。 【0017】 以下,本発明のフィルムに含まれる成分について説明する。 【0018】 〔樹脂組成物〕 本発明における樹脂組成物は,熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む樹脂組成物である。すなわち,本発明における樹脂組成物は,4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位(以下,適宜「4MP1単位」と称する。)を80モル%以上99モル%以下,及び4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位(以下,適宜「AO単位」と称する。)を1モル%以上20モル%以下有し,上記4MP1単位と,上記AO単位とが合計で100モル%の共重合体(以下,適宜「4MP1系共重合体」と称する。)である熱可塑性樹脂(A)と,エチレン系重合体及びプロピレン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体である,上記熱可塑性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂(B)と,の混合物である。 本発明における樹脂組成物中の上記熱可塑性樹脂(A)の含有量は,上記熱可塑性樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して,2質量部以上50質量部以下である。また,本発明における樹脂組成物中の上記熱可塑性樹脂(B)の含有量は,上記熱可塑性樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して,50質量部以上98質量部以下である。」 「【0036】 本発明における4MP1系共重合体の重量平均分子量(Mw)は,フィルムの成形性の観点から,1×104〜2×106であることが好ましく,1×104〜1×106であることがより好ましい。 また,本発明における4MP1系共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は,フィルムのべたつき及び外観の観点から,1.0〜3.5であることが好ましく,1.1〜3.0であることがより好ましい。」 「【0071】 本発明のフィルムは,シーラント材の材料として用いることができる。本発明のフィルムは,低温シール条件で良好なイージーピール性を発現させることができるため,本発明のフィルムを含むシーラント材は,特にイージーピール用シーラント材として好ましく用いられる。また,本発明のシーラント材を含む積層体は,包装材又はその材料としても好適に用いられる。」 イ 前記記載事項から,次のことがいえる。 (ア)段落【0015】によれば,「フィルム」は,「4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位を80モル%以上99モル%以下,及び4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位を1モル%以上20モル%以下有し,上記4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と,上記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位とが合計で100モル%の共重合体」を含むものである。 (イ)段落【0018】によれば,前記「(ア)」の「共重合体」を「4MP1系共重合体」と称するところ,段落【0036】によれば,「4MP1系共重合体」の「重量平均分子量(Mw)」は「1×104〜1×106」である。 してみると,甲第5号証には,前記「(ア)」の「共重合体」の「重量平均分子量(Mw)」は「1×104〜1×106」であることが記載されている。 (ウ)段落【0071】によれば,「フィルムを含むシーラント材」である。 ウ したがって,甲第5号証には,以下の技術(以下,「甲第5号証記載の技術」という。)が記載されている。 「4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位を80モル%以上99モル%以下,及び4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位を1モル%以上20モル%以下有し,上記4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と,上記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位とが合計で100モル%の共重合体を含むフィルムであって, 当該共重合体の重量平均分子量(Mw)は1×104〜1×106であるフィルム を含むシーラント材。」 (3)甲第6号証 甲第6号証には,以下の記載がある。 「【0187】 <接着性樹脂層(厚さ15μm)> 以下の材料の混合物を質量比でAR−1:AR−2:AR−3=3:1:1となるように混合して用いた。 (AR−1):非相容系ゴムとしてエチレン−プロピレンゴムを配合したランダムポリプロピレン(PP)ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物(三井化学社製)を用いた。 (AR−2):アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(住友化学社製,「タフセレンH」)を用いた。 (AR−3):アイソタクチック構造のプロピレン−αオレフィン共重合体(三井化学社製,「タフマーXM」)を用いた。」 3 対比・判断 (1)本件発明1について ア 本件発明1と引用発明4との対比 (ア)引用発明4の「アルミニウムであるバリア層12」は「厚さが20〜80μm」と薄いことから,本件発明1の「金属箔層」に相当する。 また,引用発明4の「化成処理層15(1)」及び「化成処理層15(2)」は,「アルミニウム表面の腐食を防止する」ものであるから,本件発明1の「腐食防止処理層」に相当する。 してみると,引用発明4の「アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(1),厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(2)」は,本件発明の「一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層」に含まれるものである。 (イ)本願明細書の段落【0088】によれば,本件発明1の「シーラント層」は,「外装体」に「ヒートシールによる封止性を付与する」ものである。 してみると,引用発明4の「ヒートシール層14」は,本件発明1の「シーラント層」に相当する。 但し,「シーラント層」について,本件発明1は「単層の」ものであるのに対して,引用発明4は「ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなる」多層のものである点で相違する。 (ウ)引用発明4の「基材層11,接着層16,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(1),厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(2),接着樹脂層13」,「ヒートシール層14の構成とする」ことは,「基材層11」と,「化成処理層15(1)」,「バリア層12」,及び「化成処理層(2)」と,「ヒートシール層14」とをこの順で備えているといえる。 このことは,前記「(ア)」及び「(イ)」を踏まえると,本件発明1の「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及び」「シーラント層をこの順で備える」ことに相当する。 (エ)引用発明4の「リチウムイオン電池」は,本件発明4の「蓄電装置」に相当する。 よって,引用発明4の「リチウムイオン電池用の外装体」は,本件発明4の「蓄電装置用外装材」に相当する。 (オ)本件発明1は「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点で相違する。 (カ)本件発明1は「前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点で相違する。 イ 一致点・相違点 したがって,本件発明1と引用発明4とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点8) 「シーラント層」について,本件発明1は「単層の」ものであるのに対して,引用発明4は「ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなる」多層のものである点。 (相違点9) 「シーラント層」について,本件発明1は「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点。 (相違点10) 本件発明1は「前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が,前記シーラント層の総質量を基準として,5.0〜50.0質量%である」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点。 ウ 相違点8の判断 甲第4号証の請求項1の「前記ヒートシール層に接着性ポリメチルペンテン層を含む」という記載は,「ヒートシール層」が「接着性ポリメチルペンテン層」の単層であるものを含み得る。 しかしながら,引用発明4は,「外装体のバリア層12’であるアルミニウム箔と金属からなるタブ4’とが接触しショートSすることがあった。」という課題を解決するために(甲第4号証の段落【0009】を参照),「外装体のヒートシール層を,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層」としたものである(甲第4号証の段落【0010】を参照)。 よって,前記課題を解決し得るものとして,甲第4号証に実質的に開示されているのは,「外装体のヒートシール層を,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層」としたものと認められる。 したがって,引用発明4の「ヒートシール層」を「接着性ポリメチルペンテン層」の単層として,相違点8に係る構成とすることは,前記課題の解決を阻害するから,当業者が容易に為し得たこととはいえない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上の点より,相違点9ないし10について判断するまでもなく,本件発明1は,甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (2)本件発明2について ア 本件発明2と引用発明4との対比 (ア)本件発明2は「シーラント層」が「単層の」ものであることは特定されていないところ,この点を除いて前記「(1)ア」の「(ア)」ないし「(ウ)」と同様にして,引用発明4の「基材層11,接着層16,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(1),厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(2),接着樹脂層13」,「ヒートシール層14の構成とする」ことは,本件発明2の「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える」ことに相当するといえる。 (イ)前記「(1)ア」の「(エ)」と同様にして,引用発明4の「リチウムイオン電池用の外装体」は,本件発明2の「蓄電装置用外装材」に相当するといえる。 (ウ)本件発明2は「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点で相違する。 (エ)引用発明4の「ヒートシール層」が「ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなる」ことは,本件発明2は「前記シーラント層が複数の層からな」ることに相当する。 但し,本件発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」のに対して,引用発明4は,そのようなことは特定されていない点で相違する。 イ 一致点・相違点 したがって,本件発明2と引用発明4とは, 「少なくとも基材層,一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層,及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって, シーラント層が複数の層からなる,蓄電装置用外装材。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点11) 本件発明2は「前記シーラント層が,2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し,シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)」のに対して,引用発明4はそのようなことは特定されていない点。 (相違点12) 本件発明2は「そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である」のに対して,引用発明4は,そのようなことは特定されていない点。 ウ 相違点12の判断 事案に鑑みて,先に相違点12について判断する。 (ア)甲第5号証記載の技術の「4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位を80モル%以上99モル%以下,及び4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位を1モル%以上20モル%以下有し,上記4−メチル−1−ペンテンに由来する構成単位と,上記4−メチル−1−ペンテン以外の炭素数2以上20以下のα−オレフィンに由来する構成単位とが合計で100モル%の共重合体」は,いずれもオレフィンである「4−メチル−1−ペンテン」と「α−オレフィン」が「合計で100モル%」の「共重合体」であるから,本件発明2の「ポリオレフィン」に相当する。 また,甲第5号証記載の技術の「前記共重合体の重量平均分子量(Mw)は1×104〜1×106である」ことは,重量平均分子量が2.0×105〜1×106であるものを含むから,本件発明2の「ポリオレフィン」が「2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量」のものであることに含まれる。 (イ)そして,引用発明4の「接着性メチルペンテン層」と,甲第5号証記載の技術の「熱可塑性樹脂(A)」とは,「メチル」「ペンテン」を含む点で共通する。 (ウ)しかしながら,引用発明4は「基材層11,接着層16,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(1),厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12,アルミニウム表面の腐食を防止する化成処理層15(2),接着樹脂層13,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層からなるヒートシール層14の構成とする」ものであるから,「ヒートシール層」のうち「厚さが20〜80μmのアルミニウムであるバリア層12」に最も近いのは「ポリオレフィン層」である。 よって,引用発明4に甲第5号証記載の技術を適用しても,「ヒートシール層14」のうち「バリア層12」に最も近い層ではない「接着性メチルペンテン層」に本件発明2の「2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィン」に相当するものが含まれるに過ぎず,相違点12に係る構成とはならない。 (エ)また,甲第4号証に実質的に開示されているのは,「外装体のヒートシール層を,ポリオレフィン層,接着性ポリメチルペンテン層,ポリオレフィン層」としたものと認められることは,前記「(1)ウ」のとおりである。 したがって,引用発明4において,「バリア層12」に最も近い「ポリオレフィン層」を取り除いて,「ヒートシール層14」のうち「接着性ポリメチルペンテン層」を「バリア層12」に最も近い層として,相違点12に係る構成とすることは,引用発明4による課題の解決を阻害するから,当業者が容易に為し得たこととはいえない。 エ 本件発明2についてのまとめ 以上の点より,相違点11について判断するまでもなく,本件発明2は,甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)本件発明5ないし10について 本件発明5ないし10は,本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み,更に他の構成を付加したものである。 したがって,本件発明5ないし10は,本件発明1ないし2と同様の理由により,並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 第7 むすび 以上のとおり,請求項1ないし2,5ないし10に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに,他に請求項1ないし2,5ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項3ないし4に係る特許は,上記のとおり訂正により削除された。これにより,特許異議申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び単層のシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、 前記シーラント層が、2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し、シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)、 前記シーラント層中の前記超高分子量ポリオレフィンの含有量が、前記シーラント層の総質量を基準として、5.0〜50.0質量%である、蓄電装置用外装材。 【請求項2】 少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及びシーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、 前記シーラント層が、2.0×105〜1.0×106の重量平均分子量を有する超高分子量ポリオレフィンを含み(但し、シーラント層がエチレンとノルボルネンの共重合体からなるシクロオレフィンコポリマーを含む場合を除く)、 前記シーラント層が複数の層からなり、そのうちの少なくとも前記金属箔層に最も近い層が前記超高分子量ポリオレフィンを含む層である、蓄電装置用外装材。 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 前記金属箔層に最も近い層が、酸変性ポリプロピレンと、アタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレンーαオレフィン共重合体と、をさらに含む層である、請求項2に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項6】 前記超高分子量ポリオレフィンが超高分子量ポリプロピレンを含有する、請求項1、2及び5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項7】 前記超高分子量ポリプロピレンが超高分子量ランダムポリプロピレンを含有する、請求項6に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項8】 前記金属箔層と前記シーラント層との間に接着剤層をさらに備え、 前記接着剤層が、酸変性ポリオレフィンと、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、を含む、請求項1、2及び5〜7のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項9】 前記腐食防止処理層が、酸化セリウムと、該酸化セリウム100質量部に対して1〜100質量部のリン酸又はリン酸塩と、カチオン性ポリマーと、を含む、請求項1、2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 【請求項10】 前記腐食防止処理層が、前記金属箔層に化成処理を施して形成されている、又は、前記金属箔層に化成処理を施して形成されており、且つ、カチオン性ポリマーを含む、請求項1、2及び5〜8のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-10 |
出願番号 | P2016-199360 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 木下 直哉 |
登録日 | 2021-03-30 |
登録番号 | 6859651 |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | 蓄電装置用外装材 |
代理人 | 鈴木 洋平 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 鈴木 洋平 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |