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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1388396
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-18 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6874759号発明「ポリイミドフィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6874759号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜4、6及び7]について訂正することを認める。 特許第6874759号の請求項2ないし7に係る特許を維持する。 特許第6874759号の請求項1に係る特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6874759号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)2月20日(優先権主張 平成28年3月25日)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年4月26日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年5月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月18日に特許異議申立人 川野 由希(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、令和4年1月27日付けで、取消理由が通知され、同年4月4日に特許権者 コニカミノルタ株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、下記第2 1のとおり、令和4年4月4日にされた訂正請求は、実質的に一部の請求項の削除のみを目的とするものであるから、特許法第120条の5第5項ただし書における特別の事情にあたるものと合議体は判断し、特許異議申立人に意見書の提出の機会は与えないこととした。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について当審が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「前記混合物が、製造されるポリイミドフイルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、「前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
特許請求の範囲の請求項6として、
「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に、「前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
特許請求の範囲の請求項7として、
「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0017】の記載を削除する。

(8)訂正事項8
明細書段落【0018】に、
「2. 前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とする第1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「2. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0019】に、
「3. 前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とする第1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「3. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0020】に「4. 前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。」と記載されているのを、
「4. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0021】に、「5. ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、
前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており、かつ、
ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「5. ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、
前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており、かつ、
ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
6. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
7. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0372】に、「(混合用ドープ301Aの調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン(沸点40℃)を添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミド溶液A及び残りの成分を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。」と記載されているのを、
「(混合用ドープ301Aの調製)
下記組成の混合用ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン(沸点40℃)を添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミド溶液A及び残りの成分を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、混合用ドープを調製した。」に訂正する。

なお、請求項1ないし4、6及び7は一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1に係る請求項1の訂正について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2)訂正事項2に係る請求項2の訂正について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2は請求項1の記載を引用する記載であったところ、請求項1の記載を引用しないものとするいわゆる引用関係の解消を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(3)訂正事項3に係る請求項3の訂正について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3は請求項1の記載を引用する記載であったところ、請求項1の記載を引用しないものとするいわゆる引用関係の解消を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(4)訂正事項4に係る請求項4の訂正について
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4は請求項1から請求項3までのいずれか一項を引用する記載であったところ、訂正前の請求項1の記載を引用するものについて、請求項1の記載を引用しないものとするいわゆる引用関係の解消を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(5)訂正事項5に係る請求項6の訂正について
訂正事項5に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項4は請求項1から請求項3までのいずれか一項を引用する記載であったところ、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載を引用するものについて、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用しないものとして新しい請求項6とする、いわゆる引用関係の解消を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(6)訂正事項6に係る請求項7の訂正について
訂正事項6に係る請求項7の訂正は、訂正前の請求項4は請求項1から請求項3までのいずれか一項を引用する記載であったところ、訂正前の請求項1を引用する請求項3の記載を引用するものについて、請求項1の記載を引用する請求項3の記載を引用しないものとして新しい請求項7とする、いわゆる引用関係の解消を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(7)訂正事項7ないし11について
訂正事項7ないし11は、訂正事項1ないし6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0017】〜【0021】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
また、当該訂正に係る請求項の全てについて訂正の請求は行われている。

(8)訂正事項12について
訂正事項12は、願書に添付した明細書の段落【0372】の「主ドープ」との記載を表題にある「混合用ドープ」に修正するもので、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜4、6及び7]について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」といい、これらを総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、
前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており、かつ、
ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項6】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。」

第4 申立ての理由の概要
申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2−1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由2−2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明が解決しようとする課題は、フィルムの面方向でのヘイズ値の標準偏差が0.6未満であるポリイミドフィルムを提供することであると認められるところ、ジメチルアセトアミド又はγ−ブチロラクトンに対する溶解度が規定されており、可溶性ポリイミドに無機微粒子をあらかじめ混合する工程を含んでいるからといって、ドープに含まれる無機微粒子の種類、疎水性、粒径、混合比率やドープに含まれる溶媒の種類等によっても変動する無機微粒子の偏りを少なくでき、得られるポリイミドフィルムのヘイズ値の面方向の標準偏差を0.6未満という特定の数値未満とできる理由はない。

5 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項5に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由4は、おおむね次のとおりである。
ヘイズ値の測定箇所が特定されていない結果、発明の範囲が不明確である。

6 申立理由5(実施可能要件
本件特許の請求項5に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである
申立理由5は、おおむね次の(6−1)、(6−2)のとおりである。
(6−1)「ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれて」いるポリイミドフィルムであっても、「ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下」との発明特定事項を充足しない場合、当該発明特定事項を充足するポリイミドフィルムをどのように製造すればよいのかが、発明の詳細な説明に記載されていない。
(6−2)ヘイズ値の測定箇所が特定されていないため、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

7 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2008/015889号
甲第2号証:国際公開第2013/172331号
甲第3号証:国際公開第2014/046180号
甲第4号証:特開2012−146905号公報
甲第5号証:国際公開第2013/183293号
甲第6号証:国際公開第2014/077253号
甲第7号証:特開2002−79534号公報
甲第8号証:特開2006−35600号公報
以下、順に「甲1」のようにいう。
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。

第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和4年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(甲1を主引用文献とする進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 取消理由についての当審の判断
上記第2 1のとおり、本件訂正請求により、請求項1は削除された。よって、上記第5の取消理由はその対象がなくなった。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
当審が令和4年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由通知書において採用しなかった申立理由は、請求項2ないし7に対しての申立理由2−1(甲1に基づく進歩性)、申立理由2−2(甲2に基づく進歩性)、申立理由3(サポート要件)及び申立理由4(明確性要件)であるので、順次検討する。なお、申立理由1は、その対象がなくなった。

1 申立理由2−1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「光学フィルムの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

「[1] 樹脂と粒子とを加熱溶融及び混練して、樹脂と粒子の混合材料を調製する工程、該混合材料を溶媒中に溶解して樹脂溶液とする工程、及び該樹脂溶液を溶液流延法により光学フィルムとする工程を経て光学フィルムを製造することを特徴とする光学フィルムの製造方法。」

「[4] 前記樹脂溶液は、前記混合材料に、更に樹脂を添加・溶解して調製することを特徴とする請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。」

「[0207] 粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機粒子や架橋高分子粒子を挙げることが出来る。樹脂がセルロースの場合、二酸化ケイ素のような粒子を後述する有機物やケイ素系の材料等で表面処理した粒子が活用出来、該表面処理した粒子は光学フィルムのヘイズを維持したまま本発明の目的を達成出来るため好ましい。」

「[0232] 《樹脂》
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる樹脂は、上述のように樹脂と粒子の混合材料を得るために熱可塑性樹脂を用いる場合、樹脂の種類に関して特に限定されるものではない。
[0233] 例えば、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、セルロース樹脂が挙げられる。中でもセルロース樹脂や脂環式構造含有ポリマーが好ましい。」

「[0281] (溶液流延)
本発明の光学フィルムの製造は、樹脂、粒子、好ましくは可塑剤、安定化剤を加熱溶融物として、混練押出しして得られたペレットを、溶媒に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。」

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特許請求の範囲の[4]を引用する[1]、[0207]、[0232]、[0233]、[0281]の記載を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1製法発明」、「甲1フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1製法発明>
「樹脂と粒子とを加熱溶融及び混練して、樹脂と粒子の混合材料を調製する工程、該混合材料を溶媒中に溶解して樹脂溶液とする工程、及び該樹脂溶液を溶液流延法により光学フィルムとする工程を経て光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法において、
前記樹脂溶液は、前記混合材料に、更に樹脂を添加・溶解して調製するものであり、
前記樹脂は、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド又はセルロース樹脂であり、
前記粒子は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機粒子又は架橋高分子粒子であり、
前記溶液流延法は、前記樹脂溶液であるドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程を含む、
光学フィルムの製造方法。」

<甲1フィルム発明>
「樹脂と粒子とを加熱溶融及び混練して、樹脂と粒子の混合材料を調製する工程、該混合材料を溶媒中に溶解して樹脂溶液とする工程、及び該樹脂溶液を溶液流延法により光学フィルムとする工程を経て得られた光学フィルムであって
前記樹脂溶液は、前記混合材料に、更に樹脂を添加・溶解して調製するものであり、
前記樹脂は、ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド又はセルロース樹脂であり、
前記粒子は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機粒子又は架橋高分子粒子であり、
前記溶液流延法は、前記樹脂溶液であるドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程を含む、
光学フィルム。」

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1製法発明とを対比する。
甲1製法発明において、光学フィルムに含まれる「樹脂」が「ポリカーボネート、脂環式構造含有ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド又はセルロース樹脂」であるとともに、光学フィルムに含まれる「粒子」が「二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機粒子又は架橋高分子粒子」であるから、甲1製法発明の「ポリイミド」と「無機粒子」とを含有する「光学フィルム」は本件特許発明2の「ポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルム」に相当し、また、甲1製法発明の「ポリイミド」と「無機粒子」の「混合材料」は本件特許発明2の「前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物」に相当する。
さらに、甲1製法発明において、「樹脂溶液」から溶液流延法によりフィルムを成形していることからみて、甲1製法発明の「樹脂溶液」は本件特許発明1の「ドープ」に相当し、また、甲1製法発明は、「混合材料を溶媒中に溶解して樹脂溶液とする工程」において、前記混合材料に、更に樹脂を添加・溶解して樹脂溶液を調製するから、甲1製法発明の当該工程は、本件特許発明2の「前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程」に相当する。
そして、甲1製法発明の「溶液流延法」に含まれる「前記樹脂溶液であるドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程」、「金属支持体から剥離する工程」、「更に乾燥する工程」は、それぞれ、本件特許発明2の「前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程」、「前記膜を支持体から剥離する工程」、及び、「剥離された膜を乾燥する乾燥工程」に相当する。

以上の点をふまえると、両者は、以下の点で一致する。
「ポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含むポリイミドフィルムの製造方法。」

そして、両者は、以下の点で相違する。

<相違点1−1>
ポリイミドに関して、本件特許発明2は「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミド」と特定するのに対して、甲1製法発明は、そのように特定されていない点
<相違点1−2>
無機微粒子を含有する混合物に関して、本件特許発明2は「前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品である」と特定するのに対し、甲1製法発明は、この点を特定しない点

事案に鑑み、相違点1−2から検討する。
無機微粒を含有する混合物として、用いられるポリイミドと用いられる無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品を利用することに関する証拠は、特許異議申立人からは提出されておらず、本件特許の優先日時点において、混合物として、用いられるポリイミドと用いられる無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品を利用することが、当業者において周知あるいは技術常識であったとも認められない。
そうすると、甲1製法発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「フィルムの搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供できる」(本件特許明細書の段落【0022】)という効果は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるといえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、両者は、上記(2)において一致するとした点で一致し、上記(2)の相違点1−1に加えて、以下の相違点1−3で相違する。

<相違点1−3>
無機微粒子を含有する混合物に関して、本件特許発明3は「前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープである」と特定するのに対し、甲1製法発明は、そのように特定されていない点

事案に鑑み、相違点1−3について検討する。
支持体上に流延するドープを混合物と前記ポリイミドと溶剤とから調整するものにおいての混合物が、「前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープである」ものは、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にもなく、本件特許の優先日時点において、混合物として、ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープを用いることが、当業者において周知あるいは技術常識であったとも認められない。
そうすると、甲1製法発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−3に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明3の奏する「フィルムの搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供できる」という効果は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるといえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1製法発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、両者は、上記(2)において一致するとした点で一致し、上記(2)の相違点1−1に加えて、以下の相違点1−4で相違する。

<相違点1−4>
無機微粒子を含有する混合物に関して、本件特許発明4は「製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されている」と特定するのに対し、甲1製法発明は、そのように特定されていない点

事案に鑑み、相違点1−4について検討する。
無機微粒子を含有する混合物をどの程度ポリイミドフィルムに配合するかについての記載は甲1にはないし、具体的な配合量についての言及もない。また、他の証拠にも記載も示唆もない。
そして、甲1製法発明において、混合物の配合量を相違点1−4のようにする動機付けもない。
そうすると、甲1製法発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−4に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明4の奏する「フィルムの搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供できる」という効果は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるといえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)本件特許発明5について
本件特許発明4と甲1フィルム発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、両者は、以下の点で一致する。

「ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルム。」

そして、両者は、以下の点で相違する。

<相違点1−5>
ポリイミドに関して、本件特許発明5は「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミド」と特定するのに対して、甲1製法発明は、そのように特定されていない点
<相違点1−6>
本件特許発明5は「前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており」と特定するのに対し、甲1フィルム発明は、この点を特定しない点
<相違点1−7>
本件特許発明5は「ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下である」と特定するのに対し、甲1フィルム発明は、この点を特定しない点

事案に鑑み、相違点1−6について検討する。
相違点1−6は、上記(4)における相違点1−4と同じであるから、その判断は、上記(4)に記載のとおりである。
そうすると、甲1フィルム発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1−6に係る本件特許発明5の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明5の奏する「フィルムの搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供できる」という効果は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるといえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1フィルム発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(6)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1製法発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、両者は、上記(2)において一致するとした点で一致し、上記(2)の相違点1−1、相違点1−2、相違点1−4で相違している。
そして、相違点1−2及び相違点1−4についての判断は、上記(2)、(4)に記載のとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(7)本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1製法発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つから、両者は、上記(2)において一致するとした点で一致し、上記(2)の相違点1−1、相違点1−3、相違点1−4で相違している。
そして、相違点1−3及び相違点1−4についての判断は、上記(3)、(4)に記載のとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲1製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項2ないし7に対する申立理由2−1には理由がない。

2 申立理由2−2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の[0161]−[0202]、[0212]、[0213]の記載を中心に整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2製法発明」、「甲2フィルム発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2製法発明>
「下記一般式(BI):


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基、Bは2価の芳香族基であり、R4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数3〜9のアルキルシリル基である。)
で表される構造単位を有するポリイミド前駆体であって、前記一般式(BI)中の基Bとして、下記式(BB1):


(式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基を示し、R3は水素原子、メチル基またはエチル基を示す。)
で表されるトリアジン部分構造を含むポリイミド前駆体と、第1の有機溶媒とを含有するポリイミド前駆体溶液を製造する工程と、
前記第1の有機溶媒を除去しながらイミド化してポリイミドを得る工程と、
製造されたポリイミドを第2の有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を製造する工程と、
前記ポリイミド溶液から得られるポリイミドフィルムの製造時に生じるピンニングスリット部など、フィルムの裁断により生じ、通常は製品として使用されない部分を再溶解させ、再びポリイミド溶液を得、
このようにして得られたポリイミド溶液をキャストし、乾燥させることにより、再びポリイミドフィルムを得る、
ポリイミドフィルムの製造方法。」

<甲2フィルム発明>
「甲2製法発明により得られるポリイミドフィルム。」

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2製法発明とを対比すると、両者は、
「ポリイミドを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
混合物として前記ポリイミドを含有するフィルムの破砕物を準備する工程、
前記混合物としてのフィルムの破砕物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含むポリイミドフィルムの製造方法。」
で一致し、両者は、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
ポリイミドに関して、本件特許発明2は「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミド」と特定するのに対して、甲2製法発明は、そのように特定されていない点
<相違点2−2>
ポリイミドフィルムに関して、本件特許発明2は「無機微粒子」を含有するのに対して、甲2製法発明は、この点を特定しない点
<相違点2−3>
混合物に関し、本件特許発明2は「前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品である」と特定するのに対し、甲2製法発明は、ポリイミドフィルムを破砕した破砕品である点

事案に鑑み、相違点2−3から検討する。
甲2には、[0202]にフィルム製造時に生じるピンニングスリット部など、フィルムの裁断により生じ、通常は製品として使用されない部分を再溶解させ、再びポリイミド溶液を得ること、及び、[0212]、[0213]に無機微粒子を含有できることは記載されているものの、無機微粒子を含有するフィルムについて、通常は製品として使用されない部分を再溶解させ、再びポリイミド溶液を得ることは記載されていないし、相違点2−3に係る発明特定事項を採用する動機付けはない。
また、その効果については、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲2製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明3について
本件特許発明3と甲2製法発明とを対比すると、上記(1)の相違点2−1、2−2に加えて、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2−4>
混合物に関して、本件特許発明3は「前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープである」と特定するのに対し、甲1製法発明は、無機微粒子を含有しない前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品である点

事案に鑑み、相違点2−4について検討する。
支持体上に流延するドープを混合物と前記ポリイミドと溶剤とから調整するものにおいての混合物が、「前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープである」ものは、特許異議申立人が提出したいずれの証拠にもなく、本件特許の優先日時点において、混合物として、ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープを用いることが、当業者において周知あるいは技術常識であったとも認められない。
そうすると、甲2製法発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−4に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、その効果については、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲2製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲2製法発明とを対比すると、上記(1)の相違点2−1、2−2に加えて、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2−5>
混合物に関して、本件特許発明4は「無機微粒子を含有する混合物を製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されている」と特定するのに対し、甲2製法発明は、そのように特定されていない点

事案に鑑み、相違点2−5について検討する。
そもそも、甲2製法発明は無機微粒子を含有するフィルムではないから、無機微粒子を含有する混合物をどの程度ポリイミドフィルムに配合するかについての記載は甲2にはないし、具体的な配合量についての言及もない。また、他の証拠にも記載も示唆もない。
そして、甲2製法発明において、無機微粒子を含有する混合物の配合量を相違点2−5のようにする動機付けもない。
そうすると、甲2製法発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−5に係る本件特許発明4の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、その効果については、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲2製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲2フィルム発明とを対比すると、両者は、
「ポリイミドを含有する流延製膜されたポリイミドフィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−6>
ポリイミドに関して、本件特許発明5は「60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミド」と特定するのに対して、甲2フィルム発明は、そのように特定されていない点
<相違点2−7>
本件特許発明5はさらに、「無機微粒子を含有する」ものであって「前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており」と特定するのに対し、甲2フィルム発明は、この点を特定しない点
<相違点2−8>
本件特許発明5は「ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下である」と特定するのに対し、甲2フィルム発明は、この点を特定しない点

事案に鑑み、相違点2−7について検討する。
無機微粒子を含有するポリイミドフィルムにおいて、用いられるポリイミドと用いられる無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品を利用することに関する証拠は、特許異議申立人からは提出されておらず、本件特許の優先日時点において、当該事項が当業者において周知あるいは技術常識であったとも認められない。
また、甲2フィルム発明は無機微粒子を含有するフィルムではないから、無機微粒子を含有する混合物をどの程度ポリイミドフィルムに配合するかについての記載は甲2にはないし、具体的な配合量についての言及もない。また、他の証拠にも記載も示唆もない。
そして、甲2フィルム発明において、無機微粒子を含有する混合物の配合量を相違点2−7のようにする動機付けもない。
そうすると、甲2フィルム発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2−7に係る本件特許発明5の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、その効果については、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲2フィルム発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2製法発明とを対比すると、両者は、上記(1)において一致するとした点で一致し、上記(1)の相違点2−1、相違点2−2、相違点2−3、相違点2−5で相違している。
そして、相違点2−3及び相違点2−5についての判断は、上記(1)、(3)に記載のとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲2製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(7)本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1製法発明とを対比すると、両者は、上記(1)の相違点2−1、相違点2−3、相違点2−4で相違している。
そして、相違点2−3及び相違点2−4についての判断は、上記(1)、(4)に記載のとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲2製法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2−2には理由がない。

3 申立理由3(サポート要件)について
本件特許発明の課題は、「長尺のフィルムをロール状に巻き取った際に、搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供すること」(【0014】)である。そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明を見るに、「本発明に係る上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、可溶性ポリイミドと無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を調製し、この混合物を新たな可溶性ポリイミドに混合してドープを調製し溶液流延することにより、搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムが製造できることを見いだし本発明に至った。」(【0015】)、「可溶性ポリイミドに無機微粒子をあらかじめ混合させていることにより、新たな可溶性ポリイミドに対してなじみやすく、流延時に新たな可溶性ポリイミドが配向しても、無機微粒子の偏りが少な」(【0026】)くできるとの記載があり、具体的に記載された実施例及び比較例において、可溶性ポリイミドと無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を調製し、この混合物を新たな可溶性ポリイミドに混合してドープを調製し溶液流延している実施例は、混合しない比較例に比べて搬送性がよく、フィルムの面方向でのヘイズ値のばらつきが少ないことが確認されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「可溶性ポリイミドと無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を調製し、この混合物を新たな可溶性ポリイミドに混合してドープを調製し溶液流延して」製造されたポリイミドフィルムは、搬送性がよく、フィルムの面方向でのヘイズ値のばらつきが少ないものと理解することができる。
そして、本件特許発明2ないし4、6及び7は、「可溶性ポリイミドと無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を調製し、この混合物を新たな可溶性ポリイミドに混合してドープを調製し溶液流延して」製造するポリイミドフィルムをさらに限定したものであるから、本件特許発明の課題を解決するものと認識できる。
本件特許発明5は、無機微粒子を含有するポリイミドフィルムであって、ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下のポリイミドフィルムであることから、当業者は、本件特許発明の課題を解決するものと認識できる。
特許異議申立人は、本件特許の課題を実施例の評価基準(フィルムの面方向のヘイズ値の標準偏差が0.6未満)であると主張しているが、上述のとおり、本件発明の課題は、発明の詳細な説明の【0014】に記載されるとおりに認定されるものであり、当該特許異議申立人の主張は失当であり採用できない。
よって、申立理由3は理由がない。

4 申立理由4(明確性要件)について
請求項5の「ポリイミドフィルムのヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下」との記載は、それ自体明確である。
特許異議申立人は、ヘイズの測定箇所が特定されていないため、発明の範囲が明確でないと主張するが、「ヘイズ値」がいかなるものかを理解している当業者は、上記ヘイズ値の測定箇所は、フィルムの面方向の特定の箇所に集中させず、分散するように選択すると理解できる。
また、特許異議申立人は、フィルムのヘイズ値は、幅方向であれば両端に近いエリアと中央に近いエリアとで、長さ方向であれば始端や終端に近いエリアとそれ以外のエリアとで、大きく異なると主張している。しかし、当業者であれば、ヘイズ値の測定箇所を選択する際に、特許異議申立人の主張するような技術常識に照らせば、ヘイズ値の大きく異なり製品に適さない端部近傍を選択しないようにするのは明らかであるから、当該主張も失当であって採用できない。
よって、申立理由4は理由がない。

5 申立理由5(実施可能要件)について
本件特許の明細書の段落【0256】ないし【0326】には、本件特許発明5のポリイミドフィルムの製造方法が記載されており、さらに、【0329】ないし【0382】には、本件特許発明5の実施例が記載され、当該実施例において、ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6未満であるポリイミドフィルムが製造できたことを確認している。
したがって、これらの記載を参酌すれば、当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件特許発明5の物を生産し、かつ、使用できるものといえる。
よって、申立理由5は理由がない。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項2ないし7に係る特許は、取消理由、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】ポリイミドフィルム及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルム及びその製造方法に関し、より詳しくは、搬送性が良くかつ、面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置は大型化が進んでいる。近年、特にテレビ受像機の大型化が進んでおり、部屋の中に搬入するために曲げられるテレビ受像機や、使用しないときは丸めて保管するテレビ受像機(フレキシブルテレビ受像機)が求められている。また、曲面型テレビ受像機(カーブドテレビ)の需要も増加している。
【0003】
さらに、モバイル用途の中型画像表示装置又は小型画像表示装置では、携帯するために折り畳み式の画像表示装置とする要望も増加している。このように画像表示装置をフレキシブルディスプレイとすることが求められてきている。
【0004】
ポリイミドは折曲耐性に優れることや高弾性率であることから、上記のフレキシブルディスプレイへの用途が検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
また、ディスプレイの大型化が進むと、フィルムの広幅化、長尺化も求められる。
【0006】
しかし、ポリイミドフィルムは、長尺化してロール状に巻き取るとフィルム間の貼りつきが生じるため、搬送性が劣化したり、面欠陥が生じ平面性が劣化するという問題があった。
【0007】
貼りつきを防止するためには、無機微粒子を添加して滑り性を改良することが考えられるが、ポリイミドフィルムに無機微粒子を添加した場合には、他の樹脂と比べてフィルムのヘイズが高くなりやすくディスプレイ用途として不適切であるという問題があった。
【0008】
また、ポリイミドフィルムを作製する製造方法は、主に2種類の方法がある。一つは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸系化合物の溶液を支持体上に流延してフィルムを形成し、その後支持体上で閉環反応を行い、所望のポリイミドフィルムを得る方法である。二つ目は、調液釜においてポリアミド酸の閉環反応を行って、溶剤に対し可溶性があるポリイミド樹脂(以下、可溶性ポリイミドという。)を調製し、さらに当該可溶性ポリイミド樹脂を溶剤に再溶解して支持体上に流延することでポリイミドフィルムを得る方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
前者のポリアミド酸系化合物の溶液を支持体上に流延する方法は、支持体上に流延した後に閉環反応を行うためフィルムに対し高温処理する工程が必要である。しかし、後者の可溶性ポリイミド樹脂を用いる方法は、反応溶液中で閉環反応を行うため、前者のようなフィルムを高温処理する工程が無い。したがって、ディスプレイ用途で要求される高い平面性や光学物性の均一性にも対応することが可能である。
【0010】
そこで、本発明者は可溶性ポリイミドフィルムに無機微粒子を混合して、長尺ロールを製造する方法を種々検討した。
【0011】
しかし、可溶性ポリイミドフィルムに無機微粒子を混合して、長尺ロールを製造した場合には、フィルムの面方向でヘイズのバラツキが生じ、ヘイズ値の標準偏差が大きくなるという、可溶性ポリイミドを用いて製造したフィルム特有の問題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015−021022号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】NHK技研著「R&D/No.145」2014.5 p12−15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、長尺のフィルムをロール状に巻き取った際に、搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供することである。また、当該ポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、可溶性ポリイミドと無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を調製し、この混合物を新たな可溶性ポリイミドに混合してドープを調製し溶液流延することにより、搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムが製造できることを見いだし本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段により解決される。
【0017】
(削除)
【0018】
2. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0019】
3. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0020】
4. 60℃において、ジメチルアセトアミド100g又は−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【0021】
5. ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、
前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており、かつ、
ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
6.60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であり、前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
7.60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、及び、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであり、前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、フィルムの搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供することができる。また、当該ポリイミドフィルムの製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0024】
ポリアミド酸で溶液流延するポリイミドフィルムの製造方法においては、流延時には閉環反応が完了していないため、製膜時に化学反応が生じる。そのため、反応により樹脂が配向しやすく樹脂分子鎖と樹脂分子鎖の隙間に無機粒子が比較的均一に分布した状態でフィルム形成されると推察している。
【0025】
しかし、可溶性ポリイミドを用いたポリイミドフィルムの製造方法においては、流延時に既に閉環されたポリイミドの化学構造であるため、流延時に樹脂がより配向しがたく樹脂の極性など化学組成の影響を受けやすい。したがって混合されている無機微粒子の偏りが生じ、面方向でのヘイズのバラツキが生じやすいものと推察している。
【0026】
本発明においては、可溶性ポリイミドに無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を準備し、それをさらに新たな可溶性ポリイミドと混合してドープを調製した後に流延を行う。可溶性ポリイミドに無機微粒子をあらかじめ混合させていることにより、無機微粒子の周りに可溶性ポリイミド樹脂が絡み合っているため、新たな可溶性ポリイミドに対してなじみやすく、流延時に新たな可溶性ポリイミドが配向しても、無機微粒子の偏りが少ない。したがって、フィルムの面方向でのヘイズのバラツキも小さいものと推察している。
【0027】
上記のように、可溶性ポリイミドに無機微粒子をあらかじめ混合した混合物を準備し、それをさらに新たな可溶性ポリイミドと混合してドープを調製して流延を行うことにより、可溶性ポリイミドフィルムにおいて、初めて面方向のヘイズ値の標準偏差が1以下であるポリイミドフィルムを得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、前記膜を支持体から剥離する工程、剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法であることを特徴とする。この特徴は各請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0029】
本発明の実施態様としては、前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子を含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることが、面方向でのヘイズ値のバラツキが小さいという観点から好ましい。
【0030】
また前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤を含有するドープであることが、面方向でのヘイズ値のバラツキが小さいという観点から好ましい。
【0031】
さらに、前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることが、搬送性と面方向のヘイズ値のバラツキの観点から好ましい。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
<本発明のポリイミドフィルムの概要>
本発明のポリイミドフィルムは、可溶性ポリイミドを主成分として含有するポリイミドフィルムである。可溶性の目安として、60℃においてジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されることが好ましい。
【0034】
本発明において、ポリイミドを主成分として含有するとは、フィルム中のポリイミドの総量が50質量%以上であることを表す。好ましくは80質量%以上であることである。
【0035】
<ポリイミド>
本発明に係るポリイミドは、イミド構造を有する樹脂(以下、ポリイミド樹脂ともいう。)であり、繰り返し単位にイミド結合を含む樹脂である。ポリイミドは、ジアミン又はその誘導体と酸無水物又はその誘導体とから形成されることが好ましい。
【0036】
本発明に好ましいポリイミドは、下記式(1.1)で表される構造を有するポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、及ぶポリエステルイミド等を挙げることができる。
【0037】
(1)式(1.1)で表される構造を有するポリイミド
(1.1)酸無水物側の構造
本発明に用いることのできるポリイミドとしては、特に、下記式(1.1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドが好ましい。
【0038】
【化1】

【0039】
式(1.1)中、Rは、芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環、又は、炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を表す。Aは、炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせからなる基を表し、結合基として、−O−、−SO2−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、−OSi(CH3)2−、−C2H4O−及び−S−からなる群から選ばれる少なくとも一つの基を含有していても良い。
【0040】
Rで表される芳香族炭化水素環としては、例えば、フルオレン環、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
【0041】
また同様に、Rで表される芳香族複素環としては、例えば、シロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、チエノチオフェン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わったものを表す)、ジベンゾシロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環やジベンゾフラン環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わった環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジチエノベンゼン環等が挙げられる。
【0042】
Rで表される炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブタン−1,1,4,4−テトライル基、オクタン−1,1,8,8−テトライル基、デカン−1,1,10,10−テトライル基等の基が挙げられる。
【0043】
また、Rで表される炭素数4〜39の4価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロブタン−1,2,3,4−テトライル基、シクロペンタン−1,2,4,5−テトライル基、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクタンー2,3,5,6一テトライル基、3,3′,4,4′−ジシクロヘキシルテトライル基、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基等の基が挙げられる。
【0044】
Aで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0045】
【化2】

【0046】
上記構造式において、nは、繰り返し単位の数を表し、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。また、Xは、炭素数1〜3のアルカンジイル基、すなわち、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基であり、メチレン基が好ましい。
【0047】
Aで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0048】
【化3】

【0049】
Φで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0050】
【化4】

【0051】
Aで表される脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
【0052】
【化5】

【0053】
Aで表される基としては、結合基を有する炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基、又は該芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基の組み合わせであることが好ましく、特に、以下の構造式で表される基が好ましい。
【0054】
【化6】

【0055】
本発明に用いられる酸無水物はカルボン酸無水物であり、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸の誘導体であることが好ましく、例えば、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸エステル類、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。なお、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体のうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0056】
ここで、誘導体とは、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸に変化しうる化合物であり、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物の場合、当該無水物に代えて二つのカルボキシ基を有する化合物、これら二つのカルボキシ基の中の片方又は両方がエステル化されたエステル化物である化合物、又はこれら二つのカルボキシ基の中の片方又は両方がクロル化された酸クロライド等が好適に用いられる。
【0057】
このようなアシル化合物を用いることにより、高い耐熱性と優れた光学特性とを有し、着色(黄変)の少ないポリイミドフィルムを得ることができる。
【0058】
脂肪族テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0059】
脂肪族テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂肪族テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。脂環式テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂環式テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。なお、アルキル基部位は、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。
【0060】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。特に好ましくは、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。一般に、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドは、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な塩を形成するため、高分子量化するためには塩の溶解性が比較的高い溶剤(例えばクレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等)を用いることが好ましい。ところが、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドでも、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を構成成分としている場合には、ポリアミド酸とジアミンの塩は比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が容易で、フレキシブルなフィルムが得られやすい。
【0061】
他にも、例えば、4,4′−ビフタル酸無水物、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンー1,2−ジカルボン酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,4′−オキシジフタル酸無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(ピグメントレッド224)1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物トリシクロ[6.4.0.02,7]ドデカン−1,8:2,7−テトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
【0062】
また、フルオレン骨格を有する酸無水物又はその誘導体を用いても良い。ポリイミド特有の着色を改善する効果を有する。フルオレン骨格を有する酸無水物としては、例えば、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン酸二無水物、9,9−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン酸二無水物等を用いることができる。
【0063】
芳香族、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。また、ポリイミドの溶剤可溶性、ポリイミドフィルムのフレキシビリティ、熱圧着性、透明性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸又はその誘導体(特に二無水物)を併用しても良い。
【0064】
かかる他のテトラカルボン酸又はその誘導体としては、例えば、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン等の芳香族系テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物);エチレンテトラカルボン酸等の炭素数1〜3の脂肪族テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物)等が挙げられる。
【0065】
酸二無水物としては、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド又はビフェニルテトラカルボン酸二無水物であることが、透明性に優れる点、及び熱収縮による熱矯正をしやすい観点で好ましい。
【0066】
前記式(1.1)で表される繰り返し単位は、全ての繰り返し単位に対して好ましくは10〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。また、当該ポリイミド1分子中の式(1.1)の繰り返し単位の個数は、10〜2000、好ましくは20〜200であり、この範囲において、更にガラス転移温度(Tg)が230〜350℃であることが好ましく、250〜330℃であることがより好ましい。
【0067】
(1.2)ジアミン側の構造
ジアミン又はその誘導体としては、例えば、芳香族ジアミン又はイソシアン酸エステル等が好ましく、芳香族ジアミンが好ましい。
【0068】
本発明に用いられるジアミン又はその誘導体としては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン又はこれらの混合物のいずれでも良く、芳香族ジアミンであることがポリイミドフィルムの白化を抑制できる観点から、好ましい。
【0069】
なお、本発明において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子等。)を含んでいても良い。「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香族炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子等。)を含んでいても良い。
【0070】
芳香族ジアミンの例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3′−ジヒドロキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジクロロ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジフルオロ−4,4′−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルエ−テル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,4−フェニレンジアミン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3−アミノベンジルアミン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ビス(2−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−エチレンジアニリン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
【0071】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノメチルシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
【0072】
また、ポリイミド特有の着色を改善する目的でフルオレン骨格を有するジアミン又はその誘導体を用いても良い。例えば、9,9−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(2−アミノフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(4−アミノ−3−メチルフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(4−アミノ−2−メチルフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレン、9,9−ビス〔4−(4−アミノ−3−エチルフェノキシ)−3−フェニルフェニル〕フルオレンなどを用いることができる。
【0073】
また、下記式で表されるトリアジン母核を有するジアミン化合物を好ましく用いることができる。
【0074】
【化7】

【0075】
トリアジン母核を有する上記式のジアミン化合物において、R1は水素原子又は炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基又はアリール基を表し、R2は炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜10、さらに好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基又はアリール基を表し、R1とR2は異なっていても良く、同じであっても良い。
【0076】
R1とR2の炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基としては、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、フェニル、ベンジル、ナフチル、メチルフェニル、ビフェニルなどが挙げられる。
【0077】
トリアジンの二つのNH基に接続するアミノアニリノ基は、4−アミノアニリノ又は3−アミノアニリノであり、同じであっても異なっていても良いが、4−アミノアニリノが好ましい。
【0078】
トリアジン母核を有する上記式で表されるジアミン化合物としては、具体的には、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−アニリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ベンジルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−ベンジルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ナフチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ビフェニルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジフェニルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−ジフェニルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジベンジルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジナフチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−N−メチルアニリノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−N−メチルナフチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−メチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジエチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(4−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(3−アミノアニリノ)−6−アミノ−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
【0079】
ジアミン誘導体であるイソシアン酸エステルとしては、例えば、上記芳香族又は脂肪族ジアミンとボスゲンを反応させて得られるジイソシアネートが挙げられる。
【0080】
また、他のジアミン誘導体としては、ジアミノジシラン類も挙げられ、例えば上記芳香族又は脂肪族ジアミンとクロロトリメチルシランを反応させて得られるトリメチルシリル化した芳香族又は脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0081】
ジアミンとしては、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニルであることが、透明性に優れる点、及び熱収縮による熱矯正を行いやすい観点で好ましい。
【0082】
以上のジアミン及びその誘導体は任意に混合して用いても良いが、それらの中におけるジアミンの量が50〜100モル%となることが好ましく、80〜100モル%となることがより好ましい。
【0083】
(1.3)ポリアミド酸の合成法及びイミド化
(1.3.1)ポリアミド酸の合成
ポリアミド酸は、適当な溶剤中で、前記テトラカルボン酸類の少なくとも1種類と、前記ジアミン類の少なくとも1種類を重合反応させることにより得られる。
【0084】
また、ポリアミド酸エステルは、前記テトラカルボン酸二無水物を、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコールを用いて開環することによりジエステル化し、得られたジエステルを適当な溶剤中で前記ジアミン化合物と反応させることにより得ることができる。更に、ポリアミド酸エステルは、上記のように得られたポリアミド酸のカルボン酸基を、上記のようなアルコールと反応させることによりエステル化することによっても得ることができる。
【0085】
前記テトラカルボン酸二無水物と、前記ジアミン化合物との反応は、従来知られている条件で行うことができる。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の添加順序や添加方法には特に限定はない。例えば、溶剤にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを順に投入し、適切な温度で撹拌することにより、ポリアミド酸を得ることができる。
【0086】
ジアミン化合物の量は、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、通常0.8モル以上、好ましくは1モル以上である。一方、通常1.2モル以下、好ましくは1.1モル以下である。ジアミン化合物の量をこのような範囲とすることにより、得られるポリアミド酸の収率が向上し得る。
【0087】
溶剤中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の濃度は、反応条件やポリアミド酸溶液の粘度に応じて適宜設定する。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との合計の質量は、特段の制限はないが、全溶液量に対し、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、一方、通常70質量%以下、好ましくは30質量%以下である。反応基質の量をこのような範囲とすることにより、低コストで収率良くポリアミド酸を得ることができる。
【0088】
反応温度は、特段の制限はないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、一方、通常100℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、特段の制限はないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上であり、一方、通常100時間以下、好ましくは24時間以下である。このような条件で反応を行うことにより、低コストで収率良くポリアミド酸を得ることができる。
【0089】
この反応で用いられる重合溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレン等の炭化水素系溶剤;四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びフルオロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及びメトキシベンゼン等のエーテル系溶剤;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン系極性溶剤;ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン及びイソキノリン等の複素環系溶剤;フェノール及びクレゾールのようなフェノール系溶剤、等が挙げられるが、特に限定されるものではない。重合溶剤としては、1種のみを用いることもできるし、2種類以上の溶剤を混合して用いることもできる。
【0090】
ポリアミド酸の末端基は、重合反応時のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物のいずれか一方を過剰に用いることによって、酸無水物基とアミノ基を任意に選ぶことができる。
【0091】
末端基を酸無水物末端とした場合には、その後の処理を行わず酸無水物末端のままでも良く、加水分解させてジカルボン酸としても良い。また、炭素数が4以下のアルコールを用いてエステルとしても良い。更に、単官能のアミン化合物又はイソシアネート化合物を用いて末端を封止しても良い。ここで用いるアミン化合物又はイソシアネート化合物としては、単官能の第一級アミン化合物又はイソシアネート化合物であれば、特に制限はなく用いることができる。例えば、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、トリメチルアニリン、エチルアニリン、ジエチルアニリン、トリエチルアニリン、アミノフェノール、メトキシアニリン、アミノ安息香酸、ビフェニルアミン、ナフチルアミン、シクロヘキシルアミン、フェニルイソシアナート、キシリレンイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、メチルフェニルイソシアネート、トリフルオロメチルフェニルイソシアネート等を挙げることができる。
【0092】
また、末端基をアミン末端とした場合には、単官能の酸無水物によって、末端アミノ基を封止することで、アミノ基が末端に残ることを回避できる。ここで用いる酸無水物としては、加水分解した際にジカルボン酸又はトリカルボン酸となる単官能の酸無水物であれば、特に制限なく用いることができる。例えば、マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、コハク酸無水物、ノルボルネンジカルボン酸無水物、4−(フェニルエチニル)フタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、フタル酸無水物、メチルフタル酸無水物、ジメチルフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ナフタレンジカルボン酸無水物、7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−オキサトリシクロ[5.2.2.02,6]ウンデカン−3,5−ジオン、オクタヒドロ−1,3−ジオキソイソベンゾフラン−5−カルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ジメチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0093】
(1.3.2)イミド化法
ここで、ポリイミドは、ポリアミド酸溶液を加熱してポリアミド酸をイミド化させる方法(熱イミド化法)、又は、ポリアミド酸溶液に閉環触媒(イミド化触媒)を添加してポリアミド酸をイミド化させる方法(化学イミド化法)により得ることができる。
【0094】
また、ポリアミド酸溶液を加熱してポリアミド酸をイミド化させる方法(熱イミド化法)、又は、ポリアミド酸溶液に閉環触媒(イミド化触媒)を添加してポリアミド酸をイミド化させる方法(化学イミド化法)については、酸無水物とジアミンからポリアミド酸を重合する反応釜をそのまま継続して反応釜中でイミド化させてもよい。
【0095】
反応釜中での熱イミド化法においては、上記重合溶剤中のポリアミド酸を、例えば80〜300℃の温度範囲で0.1〜200時間加熱処理してイミド化を進行させる。また、上記温度範囲を150〜200℃とすることが好ましく、150℃以上とすることにより、イミド化を確実に進行させて完了させることができ、一方、200℃以下とすることにより、溶剤や未反応原材料の酸化、溶剤の揮発による樹脂濃度の上昇を防止することができる。
【0096】
更に、熱イミド化法においては、イミド化反応により生成する水を効率良く除去するために、上記重合溶剤に共沸溶剤を加えることができる。共沸溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等を用いることができる。共沸溶剤を使用する場合は、その添加量は、全有機溶剤量中の1〜30質量%程度、好ましくは5〜20質量%である。
【0097】
一方、化学イミド化法においては、上記重合溶剤中のポリアミド酸に対し、公知の閉環触媒を添加してイミド化を進行させる。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン等の脂肪族第3級アミン及びイソキノリン、ピリジン、ピコリン等の複素環式第3級アミン等が挙げられるが、これ以外にも例えば、置換若しくは非置換の含窒素複素環化合物、含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換若しくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物又は芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾール等の低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジン等の置換ピリジン、p−トルエンスルホン酸等を好適に使用することができる。閉環触媒の添加量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。閉環触媒を使用することによって、得られるポリイミドの物性、特に伸びや破断抵抗が向上する場合がある。
【0098】
また、上記熱イミド化法又は化学イミド化法においては、ポリアミド酸溶液中に脱水剤を添加しても良く、そのような脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用することができる。また、脱水剤を用いると、低温で反応を進めることができ好ましい。なお、ポリアミド酸溶液に対し脱水剤を添加するのみでもポリアミド酸をイミド化させることが可能ではあるが、反応速度が遅いため、上記したように加熱又は閉環触媒の添加によりイミド化させることが好ましい。
【0099】
このように反応釜中でイミド化させたポリイミド溶液は、経時による加水分解による分子量低下が起き難いので有利である。
【0100】
また、あらかじめイミド化反応が進んでいるため例えば、イミド化率100%のポリイミドの場合は、流延膜やフィルム上でのイミド化が不要となり乾燥温度を下げることができる。
【0101】
また、閉環したポリイミドを、貧溶剤などを用いて再沈殿、精製して固体にしてから溶剤に溶解し流延乾燥して製膜を行っても良い。
【0102】
この方法によれば、重合溶剤と流延する溶剤とを異なる種類とすることが可能となり、それぞれに最適な溶剤を選択することで、ポリイミドフィルムの性能をより引き出すことが可能になる。
【0103】
例えば、ポリアミド酸を高分子量化させるためにジメチルアセドアミドを用いて重合、閉環し、メタノールを用いて固体化、乾燥したのちにジクロロメタンで溶液化してから流延、乾燥することで、高分子量化と低温乾燥が可能となる。
【0104】
また、溶剤としてジクロロメタンを使う場合、他の溶剤と組み合わせて使用することができる。テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、エタノール、メタノール、ブタノール、イロプロパノールなど、適宜補助溶剤を使用することもできる。
【0105】
(1.4)その他のポリイミド
上記したポリイミドのほかに、リン、ケイ素、イオウなどの原子を含むポリイミドを用いることもできる。
【0106】
例えば、リンを含むポリイミドとしては、特開2011−74209号公報の段落[0010]−[0021]及び特開2011−074177号公報の段落[0011]−[0025]にそれぞれ記載のポリイミドを用いることができる。
【0107】
ケイ素を含むポリイミドとしては、特開2013−028796号公報の段落[0030]−[0045]に記載の、ポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドを用いることができる。
【0108】
イオウを含むポリイミドとしては、特開2010−189322号公報の段落[0009]−[0025]、特開2008−274234号公報の段落[0012]−[0025]及び特開2008−274229号公報の段落[0012]−[0023]にそれぞれ記載の、ポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドを用いることができる。
【0109】
その他にも、特開2009−256590号公報の段落[0008]−[0012]、特開2009−256589号公報の段落[0008]−[0012]に記載の脂環式ポリイミドなどを好ましく用いることができる。
【0110】
(2)ポリアミドイミド
本発明に用いられるポリアミドイミドは、酸成分として、トリカルボン酸又はテトラカルボン酸、ジカルボン酸、アミン成分としてジアミンを構成単位として含むポリアミドイミドである。
【0111】
用いられるポリアミドイミドは、酸成分として、
a)トリカルボン酸;ジフェニルエーテル−3,3′,4′−トリカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3′,4′−トリカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3′,4′−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸などのトリカルボン酸等の一無水物、エステル化物などの単独、又は2種以上の混合物。
【0112】
b)テトラカルボン酸;ジフェニルスルホン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸一無水物、二無水物、エステル化物などの単独、又は2種以上の混合物。
【0113】
c)ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン−4,4′−ジカルボン酸のジカルボン酸、及びこれらの一無水物やエステル化物。
【0114】
アミン成分としては、
d)アミン成分
3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジエトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、3,4′−ジアミノベンゾフェノン、2,6−トリレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサン−1,4−ジアミン、ジアミノシロキサン、又はこれらに対応するジイソシアネート単独、又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0115】
特に、酸成分として、無水トリメリット酸(TMA)、3,3,4′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、及び3,3,4′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、を含む原料で重合されたポリアミドイミド樹脂であることが好ましい。
【0116】
ポリアミドイミドのイミド結合とアミド結合のモル比は、99/1〜60/40モル比が好ましく、より好ましくは99/1〜75/25であり、さらにより好ましくは90/10〜80/20である。イミド結合とアミド結合のモル比が、60/40以上では、耐熱性、耐湿信頼性、耐熱信頼性が向上する。また、99/1以下であると、弾性率が低くなり、耐折特性、屈曲特性が向上する傾向にある。
【0117】
(2.1)式(2)で表される構造を必須成分とするポリアミドイミド
一つの好ましい実施態様は、式(2)で表される構造を必須成分とし、更に、式(3)、式(4)及び式(5)で表される群より選ばれる少なくとも1種の構造を、繰り返し単位として分子鎖中に含有するポリアミドイミド樹脂である。
【0118】
【化8】

【0119】
【化9】

【0120】
(Xは、酸素原子、CO、SO2、又は、結合を表す。nは0又は1を表す。)
【化10】

【0121】
(Yは、酸素原子、CO、又はOOC−R−COOを表す。nは0又は1を、Rは二価の有機基を表す。)
【化11】

【0122】
ここで、式(3)中、Xが、SO2、又は、結合(ビフェニル結合)であること、又は、n=0であることが好ましい。更に好ましくは、Xが結合(ビフェニル結合)であること、又はn=0であることである。式(4)中、Yは、ベンゾフェノン型(CO)、又は、結合型(ビフェニル結合)が好ましい。
【0123】
一つの好ましい実施態様は式(2)が無水トリメリット酸と1,5−ナフタレンジイソシアネートからの繰り返し単位、式(3)がテレフタル酸と1,5−ナフタレンジイソシアネートからの繰り返し単位、式(4)がビフェニルテトラカルボン酸二無水物、又は、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と1,5−ナフタレンジイソシアネートからの繰り返し単位で、その含有比が式(2)/{式(3)+式(4)+式(5)}=1/99〜40/60モル比で、かつ、式(3)/式(4)=10/90〜90/10モル比が好ましい。
【0124】
イミド化率は高いほど好ましく上限は100%である。上記ポリアミドイミド樹脂は、通常の方法で合成することができる。例えば、イソシアネート法、アミン法(酸クロリド法、低温溶液重合法、室温溶液重合法等)などであるが、本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は有機溶剤に可溶なものが好ましく、前記のとおり、ピール強度(接着強度)の信頼性確保などの理由から、イソシアネート法による製造が好ましい。また、工業的にも、重合時の溶液がそのまま塗布できるため好ましい。
【0125】
(2.2)式(6)又は式(7)で表される構造を有するポリアミドイミド好ましいポリアミドイミド樹脂として、下記式(6)を構成単位として含む化合物を好ましく用いることができる。以下式(6)で表される構造を有する化合物について説明する。
【0126】
【化12】

【0127】
(式中、R1はアリール基、シクロアルカン基であり、窒素、酸素、硫黄、ハロゲンを含んでもよい。)
(ポリアミドイミド樹脂のジアミン成分)
また、ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、3,4′−ジアミノベンゾフェノン、2,6−トリレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、P−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、4−メチル−1,3−フェニレンジアミン、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2ノ−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジエトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン(トランス/シス混合物)、1,3−ジアミノシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジアミン(トランス体、シス体、トランス/シス混合物)、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルシクロヘキシルアミン)、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミンなどの単独、若しくは、2種以上の混合物、又は、これらに対応するジイソシアネートなどの単独、若しくは、2種以上の混合物をジアミン成分として用いることができる。
【0128】
好ましくは、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、ジシクロヘキシルメタン−4,42−ジアミン(トランス体、シス体、トランス/シス混合物)、4,4′−ジアミノジフェニルエ−テル、p−フェニレンジアミン、4−メチル−1,3−フェニレンジアミンなどの単独、若しくは、2種以上の混合物、又は、これらに対応するジイソシアネ−トなどの単独、若しくは、2種以上の混合物をジアミン成分として用いることができる。
【0129】
より好ましくは、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジアミン(トランス体、シス体、トランス/シス混合物)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4−メチル−1,3−フェニレンジアミンなどの単独、若しくは、2種以上の混合物、又は、これらに対応するジイソシアネートなどの単独、若しくは、2種以上の混合物をジアミン成分として用いることができる。
【0130】
さらに好ましくは、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、ジシクロへキシルメタンー4,4′−ジアミン(トランス体、シス体、トランス/シス混合物)、4−メチル−1,3−フェニレンジアミンなどの単独、若しくは、2種以上の混合物、又は、これらに対応するジイソシアネートなどの単独、若しくは、2種以上の混合物をジアミン成分として用いることができる。
【0131】
(好ましい酸成分、ジアミン成分の組み合わせ)
上記酸成分、ジアミン成分の中でも、フィルム化するプロセスでの耐熱性、耐溶剤性、及び耐久性、並びに、製造されるポリアミドイミドフィルムの耐熱性、表面平滑性、及び透明性から、以下の成分が好ましく用いられる。
【0132】
酸成分として、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を用いることができる。シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を酸成分とするポリアミドイミド樹脂を用いることができる。
【0133】
ジアミン成分として、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル及び4−メチル−1,3−フェニレンジアミンからなる群より選ばれた少なくとも1種又は2種の化合物、又は、3,3′−ジメチル−4,4′−ジイソシアネートビフェニル(o−トリジンジイソシアネート)、及び4−メチル−1,3−フェニレンジイソシアネート(トリレンジイソシアネート)からなる群より選ばれた少なくとも1種又は2種の化合物を用いることができる。
【0134】
また、好ましいポリアミドイミド樹脂として、下記式(7)で表される構造を構成単位として含む化合物を用いることができる。
【0135】
【化13】

【0136】
(式中、R2、R3はそれぞれ水素、炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基を表し、窒素、酸素、硫黄、ハロゲンを含んでもよい。)
なお、全酸成分を100モル%とした場合、例示した酸成分は50モル%以上100%以下含まれるのがよく、より好ましくは70モル%以上100%以下含まれるのがよい。また、全ジアミン成分を100モル%とした場合、例示したジアミン成分は50モル%以上100%以下含まれるのがよく、より好ましくは70モル%以上100%以下含まれるがよい。これらの範囲であれば、フィルム化するプロセスでの耐熱性、耐久性がよく、得られるポリアミドイミドフィルムの耐熱性、表面平滑性、及び透明性が特に良くなる。
【0137】
用いられるポリアミドイミド樹脂の分子量は、N−メチル−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/cm3)、30℃での対数粘度にして0.3から2.5cm3/gに相当する分子量を有するものが好ましく、より好ましくは0.5から2.0cm3/gに相当する分子量を有するものである。対数粘度が0.3cm3/g以上であればフィルム等の成型物にしたとき、機械的特性が十分となる。また、2.0cm3/g以下であると溶液粘度が高くなり過ぎず、成形加工が容易となる。
【0138】
(3)ポリエーテルイミド
本発明に用いられるポリエーテルイミドは、その構造単位に芳香核結合及びイミド結合を含む熱可塑性樹脂であり、特に制限されるものでなく、具体的には、下記式(8)又は下記式(9)で表される構造の繰り返し単位を有するポリエーテルイミドであることが好ましい。
【0139】
【化14】

【0140】
上記式(8)で表される構造の繰り返し単位を有するポリエーテルイミドは、ゼネラルエレクトリック社製の商品名「Ultem 1000」(ガラス転移温度:216℃)、「Ultem 1010」(ガラス転移温度:216℃)、上記式(9)で表される構造の繰り返し単位を有するポリエーテルイミドは、「Ultem CRS5001」(ガラス転移温度Tg226℃)、が挙げられ、そのほかの具体例として、三井化学株式会社製の商品名「オーラムPL500AM」(ガラス転移温度258℃)などが挙げられる。
【0141】
当該ポリエーテルイミドの製造方法は特に限定されるものではないが、通常、上記式(8)で表される構造を有する非晶性ポリエーテルイミドは、4,4′−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とm−フェニレンジアミンとの重縮合物として、また上記構造式(9)で表される構造を有するポリエーテルイミドは、4,4′−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの重縮合物として公知の方法によって合成される。
【0142】
また、ポリエーテルイミドには、本発明の主旨を超えない範囲でアミド基、エステル基、スルホニル基など共重合可能なほかの単量体単位を含むものであってもよい。なお、ポリエーテルイミドは、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
(4)ポリエステルイミド
本発明に用いられるイミド構造を有する樹脂は、式(10)で表されるポリエステルイミド構造を構成単位中に含有することが好ましい。
【0144】
【化15】

【0145】
(式(10)中、R1は特定の構造を有する2価の基を表す。R2は2価の鎖式脂肪族基、2価の環式脂肪族基又は2価の芳香族基を表す。)
式(10)中、R1は、それぞれ、式(11)、式(12)又は式(13)で表される構造を有する2価の基を表す。
【0146】
(式(11)で表される構造を有する2価の基)
【化16】

【0147】
式(11)中、Rは、それぞれ2価の、鎖式脂肪族基、環式脂肪族基又は芳香族基を表し、複数個のRは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。これらの鎖式脂肪族基、環式脂肪族基又は芳香族基を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0148】
mは1以上の正の整数であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。また、mの上限は特に限定されないが、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。25を超える場合では耐熱性が低下する傾向にある。
【0149】
前記鎖式脂肪族基、環式脂肪族基又は芳香族基は、「2価のヒドロキシ基を有する鎖式脂肪族化合物」、「2価のヒドロキシ基を有する環式脂肪族化合物」又は「2価のヒドロキシ基を有する芳香族化合物」等のジオールから誘導される残基であることが望ましい。また、前記ジオールと炭酸エステル類やホスゲン等から重合され得る「ポリカーボネートジオール」から誘導される残基であってもよい。
【0150】
「2価のヒドロキシ基を有する鎖式脂肪族化合物」としては、二つのヒドロキシ基を有する分岐状、又は直鎖状のジオールを用いることができる。例えば、アルキレンジオール、ポリオキシアルキレンジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等が挙げられる。「2価のヒドロキシ基を有する鎖式脂肪族化合物」として使用できる二つのヒドロキシ基を有する分岐状又は直鎖状のジオールを以下に挙げる。
【0151】
アルキレンジオールとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0152】
ポリオキシアルキレンジオールとして、例えば、ジメチロールプロピオン酸(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)、ジメチロールブタン酸(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、テトラメチレングリコールとネオペンチルグリコールとのランダム共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシテトラメチレングリコールがよい。
【0153】
ポリエステルジオールとしては、例えば、以下に例示される多価アルコールと多塩基酸とを反応させて得られる、ポリエステルジオール等が挙げられる。
【0154】
ポリエステルジオールに用いる「多価アルコール成分」としては、任意の各種多価アルコールが使用可能である。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、シクロヘキサンメタノール、ネオペンチルヒドロキシピパリン酸エステル、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物、水添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物及びプロピレンオキサイド付加物、1,9−ノナンジオール、2−メチルオクタンジオール、1,10−ドデカンジオール、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオール、トリシクロデカンメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール等を使用できる。
【0155】
ポリエステルジオールに用いる「多塩基酸成分」としては、任意の各種多塩基酸を使用することができる。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタル酸、2,6−ナフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、2,2′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などの脂肪族や脂環族二塩基酸が使用できる。
【0156】
ポリエステルジオールの市販品として、具体的には、ODX−688(DIC(株)製脂肪族ポリエステルジオール:アジピン酸/ネオペンチルグリコール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2000)、Vylon(登録商標)220(東洋紡(株)製ポリエステルジオール、数平均分子量約2000)などを挙げることができる。
【0157】
ポリカプロラクトンジオールとして、例えば、γ−ブチルラクトン、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類を開環付加反応させて得られるポリカプロラクトンジオール等が挙げられる。
【0158】
上述の「2価のヒドロキシ基を有する鎖式脂肪族化合物」を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0159】
「2価のヒドロキシ基を有する環式脂肪族化合物」又は「2価のヒドロキシ基を有する芳香族化合物」としては、「芳香環やシクロヘキサン環に二つのヒドロキシ基を有する化合物」、「2個のフェノール若しくは脂環式アルコールが2価の官能基で結合された化合物」、「ビフェニル構造の両方の核にヒドロキシ基を一つずつ有する化合物」、「ナフタレン骨格に二つのヒドロキシ基を有する化合物」などが用いられる。
【0160】
「芳香環やシクロヘキサン環に二つのヒドロキシ基を有する化合物」として、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2−フェニルヒドロキノン、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−アダマンタンジオール、ジシクロペンタジエンの2水和物、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸等のカルボキシ基含有ジオール等が使用できる。
【0161】
「2個のフェノール」、又は、「脂環式アルコールが2価の官能基で結合された化合物」の例としては、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ジフェノール、4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等が使用できる。
【0162】
また、「ビフェニル構造の両方の核にヒドロキシ基を一つずつ有する化合物」の例として、4,4′−ビフェノール、3,4′−ビフェノール、2,2′−ビフェノール、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ビフェノールなどが使用できる。
【0163】
「ナフタレン骨格に二つのヒドロキシ基を有する化合物」の例としては2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,8−ナフタレンジオール等が使用できる。
【0164】
前記ジオールの数平均分子量は、100以上30000以下であることが好ましく、より好ましくは150以上20000以下であり、さらに好ましくは200以上10000以下である。数平均分子量が100未満では、低吸湿性、柔軟性が十分発揮できない。
【0165】
また、30000より大きいと、「ジオール」の組成、構造、後に説明するジアミン成分(又はイソシアネート成分)の組成、構造によっては、相分離し、機械的特性、無色透明性を十分発揮できない場合がある。
【0166】
ポリカーボネートジオールとしては、その骨格中上述した複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートジオール(共重合ポリカーボネートジオール)であってもよい。例えば、2−メチルー1,8−オクタンジオールと1,9−ノナンジオールの組み合わせ、3−メチルー1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの組み合わせ、1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの組み合わせなどにより合成され得る共重合ポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。好ましくは、2−メチルー1,8−オクタンジオールと1,9−ノナンジオールの組み合わせより合成され得る共重合ポリカーボネートジオールである。これらのポリカーボネートジオールを2種以上併用することもできる。
【0167】
使用できるポリカーボネートジオールの市販品として(株)クラレ製クラレポリオールCシリーズ、旭化成ケミカルズ(株)デュラノールシリーズなどが挙げられる。例えば、クラレポリオールC−1015N、クラレポリオールC−1065N((株)クラレ製カーボネートジオール:2−メチルー1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオール、数平均分子量約1000)、クラレポリオールC−2015N、クラレポリオールC2065N((株)クラレ製カーボネートジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオール、数平均分子量約2000)、クラレポリオールC−1050、クラレポリオールC−1090((株)クラレ製カーボネートジオール:3−メチルー1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約1000)、クラレポリオールC−2050、クラレポリオールC−2090((株)クラレ製カーボネートジオール:3−メチルー1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2000)、ヂュラノールT5650E(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約500)、ヂュラノールT5651(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約1000)、ヂュラノールT5652(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2000)などを挙げることができる。好ましくは、クラレポリオールC−1015N等が挙げられる。
【0168】
ポリカーボネートジオールの製造方法としては、原料ジオールと炭酸エステル類とのエステル交換、原料ジオールとホスゲンとの脱塩化水素反応を挙げることができる。原料である炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート;ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート;及びエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0169】
(式(12)で表される構造を有する2価の基)
式(12)で表される構造を有する2価の基について説明する。
【0170】
【化17】

【0171】
式(12)中、R3は、直結、アルキレン基(−CnH2n−)、パーフルオロアルキレン基(−CnF2n−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、カーボネート基(−OCOO−)、又はフルオレニリデン基を表す。nは1以上の正の整数である。nの上限は特に限定されないが、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。X1〜X8は、それぞれが同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲン又はアルキル基を表す。
【0172】
式(12)で表される構造を有する2価の基の具体例としては、特に限定されないが、ジフェニルエーテル骨格、ジフェニルスルホン骨格、9−フルオレニリデンジフェノール骨格、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物骨格又はビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格等が挙げられる。
【0173】
前記骨格は、式(12)の両方のベンゼン環に各1個のヒドロキシ基を有する化合物から誘導される残基であることが好ましい。式(12)で表される構造を有する2価の基の原料としては、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ジフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、4,4′−ビフェノール、3,4′−ビフェノール、2,2′−ビフェノール、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ビフェノール、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール又は1,8−ナフタレンジオール等が使用できる。
【0174】
好ましくは、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ジフェノール又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物がよい。さらに好ましくは、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物である。
【0175】
これらの化合物を単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの原料を用いることで、式(10)のR1位に、前記ジフェニルエーテル骨格等を導入することができる。
【0176】
(式(13)で表される構造を有する2価の基)
【化18】

【0177】
式(13)中、R4は、直結、アルキレン基(−CnH2n−)、パーフルオロアルキレン基(−CnF2n−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、カーボネート基(−OCOO−)、又はフルオレニリデン基を表す。nは1以上の正の整数である。nの上限は特に限定されないが、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。X1′〜X8′は、それぞれが同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲン又はアルキル基を表す。
【0178】
式(13)で表される構造を有する2価の基の具体例としては、特に限定されないが、ジシクロヘキシルエーテル骨格、ジシクロヘキシルスルホン骨格、水添ビスフェノールA骨格、水添ビスフェノールF骨格、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物骨格又は水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物骨格等が挙げられる。
【0179】
前記骨格は、式(13)の両方のシクロヘキサン環に各1個のヒドロキシ基を有する化合物から誘導される残基であることが好ましい。式(13)で表される構造を有する2価の基の原料としては、4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホン、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物又は水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が使用できる。
【0180】
好ましくは、4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテル又は4,4′−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホンがよい。
【0181】
これらの化合物を単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの原料を用いることで、式(10)のR1位に、前記ジシクロヘキシルエーテル骨格等を導入することができる。
【0182】
式(10)の構造は、一例を挙げるならば、シクロヘキサントリカルボン酸無水物のハロゲン化物とジオール類とを反応させエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を得、次いで、そのエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネート等とを縮合反応(ポリイミド化)させて得ることができる。
【0183】
(式(14)で表される構造を有する2価の基)
ポリエステルイミド樹脂は、さらに、式(14)で表される構造を構成単位中に含有するのがよい。
【0184】
【化19】

【0185】
式(10)のR2及び式(14)のR2′について説明する。R2及びR2′はそれぞれ独立して、2価の鎖式脂肪族基、2価の環式脂肪族基又は2価の芳香族基であれば特に限定されない。これらの「2価の鎖式脂肪族基」、「2価の環式脂肪族基」、「2価の芳香族基」を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0186】
好ましくは、R2は下記式(15)で表される構造を有する2価の基であり、R2′は下記式(16)で表される構造を有する2価の基である。
【0187】
(式(15)で表される構造を有する2価の基)
前記式(10)におけるR2としては、耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、式(15)で表される構造を有する2価の基であることが好ましい。
【0188】
【化20】

【0189】
式(15)中、R5は、直結、アルキレン基(−CnH2n−)、パーフルオロアルキレン基(−CnF2n−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、スルフィニル基(−SO−)又はスルフェニル基(−S−)を表す。nは1以上10以下の正の整数であることが好ましく、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1以上3以下である。X9〜X16は、同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲン又はアルキル基を表す。
【0190】
(式(16)で表される構造を有する2価の基)
前記式(14)におけるR2′としては、耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、式(16)で表される構造を有する2価の基であることが好ましい。
【0191】
【化21】

【0192】
式(16)中、R5′は、直結、アルキレン基(−CnH2n−)、パーフルオロアルキレン基(−CnF2n−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、スルフィニル基(−SO−)又はスルフェニル基(−S−)を表す。nは1以上10以下の正の整数であることが好ましく、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1以上3以下である。X9′〜X16′は、同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲン又はアルキル基を表す。
【0193】
式(10)及び式(14)において、「2価の鎖式脂肪族基」、「2価の環式脂肪族基」又は「2価の芳香族基」を式(10)のR2位及び式(14)のR2′位に導入するためには、それぞれ対応するジアミン成分又はジイソシアネート成分を用いることが好ましい。すなわち、「芳香族ジアミン又はそれに対応する芳香族ジイソシアネート」、「環式脂肪族ジアミン又はそれに対応する環式脂肪族ジイソシアネート」、「鎖式脂肪族ジアミン又はそれに対応する鎖式脂肪族ジイソシアネート」を適宜選択することによって、耐熱性、柔軟性、低吸湿性に優れたポリエステルイミド樹脂を得ることができる。
【0194】
式(10)のR2及び式(14)のR2′のジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分は同一であっても異なっていてもよい。後述する好ましい製造方法に基づくならば、同一あるのが好ましい。
【0195】
R2及びR2′を基本骨格とするジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分について説明する。
【0196】
「芳香族ジアミン又はそれに対応する芳香族ジイソシアネート」としては、具体的には、ジアミン化合物として例示すると、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、2,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、3,3′−ジアミノジフェニルプロパン、4,4′−ジアミノベンズアニリド、P−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミン、ベンジジン、3,3′−ジヒドロキシベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2′−ジメチル−4,4′−ジアミノビフェニル、2,2′−ジエチル−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジエトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ジアミノターフェニル等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0197】
また、「環式脂肪族ジアミン又はそれに対応する環式脂肪族ジイソシアネート」としては、ジアミン化合物として例示すると、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン(トランス/シス混合物)、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(トランス体、シス体、トランス/シス混合物)、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルシクロヘキシルアミン)、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0198】
「鎖式脂肪族ジアミン又はそれに対応する鎖式脂肪族ジイソシアネート」としては、ジアミン化合物として例示すると、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0199】
耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、式(10)中のR2及び式(14)中のR2′のジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分として好ましい成分は、ジアミン化合物として例示すると、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジアミン、o−トリジン、ジアミノターフェニル、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン等から誘導される残基である。より好ましくは、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジアミン、o−トリジンであり、さらに好ましいのは、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、o−トリジンである。最も好ましくは4,4′−ジアミノジフェニルメタン、o−トリジンから誘導される残基である。
【0200】
本発明に係るポリイミドには、フッ化ポリイミドを含有することが、ポリイミドフィルムの透明性に優れる点、及び熱収縮による熱矯正を行いやすい観点から好ましい。フッ素の含有率としては、フィルム中に1〜40質量%の範囲で含有されることが本発明の効果が大きくより好ましい。
【0201】
<ポリイミドフィルムの物性>
(全光線透過率)
本発明のポリイミドフィルムは、透明のポリイミドフィルムであることが好ましく、透明性の目安として、厚さ55μmのサンプルを作製した場合の、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。全光線透過率は高いほど透明性が高くなるので好ましい。全光線透過率が80%以上という数値の記載は、その好ましい範囲を示したものである。
【0202】
ポリイミドフィルムの全光線透過率は、23℃・55%RHの空調室で24時間調湿したポリイミドフィルム試料1枚をJIS K 7375−2008に従って測定できる。測定は(株)日立ハイテクノロジーズの分光光度計U−3300を用いて可視光領域(400〜700nmの範囲)の透過率を測定することができる。
【0203】
全光線透過率を80%以上とするには、上記ポリイミドの種類を選択することで調整できる。
【0204】
(イエローインデックス値(YI値))
本発明のポリイミドフィルムは、無色のポリイミドフィルムであることが好ましい。無色である目安としては、イエローインデックス値(YI値)が、4.0以下であることが好ましい。より好ましくは0.3〜2.0の範囲内であり、特に好ましくは0.3〜1.6の範囲内である。イエローインデックス値(YI値)は小さいほど着色が少ないので好ましい。イエローインデックス値(YI値)が4.0以下という数値の記載は、その好ましい範囲を示したものである。
【0205】
前記YI値の値は、上記ポリイミドの種類を選択することで調整することができる。
【0206】
イエローインデックス値は、JIS K 7103に定められているフィルムのYI(イエローインデックス:黄色味の指数)に従って求めることができる。
【0207】
イエローインデックス値の測定方法としては、フィルムのサンプルを作製し、(株)日立ハイテクノロジーズの分光光度計U−3300と附属の彩度計算プログラム等を用いて、JIS Z 8701に定められている光源色の三刺激値X、Y、Zを求め、下式の定義に従ってイエローインデックス値を求める。
【0208】
イエローインデックス値(YI値)=100(1.28X−1.06Z)/Y
(溶解度)
本発明に係るポリイミドは、60℃においてジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し溶解する限界量(溶解度)が1g以上である。ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gのいずれかに対し溶解度が1g以上であればよい。溶解度が1g以上であれば、溶液流延法により製造できやすくなる。溶解度は大きいほど溶液流延法による製造ができやすくなるので好ましい。溶解度が1g以上との数値の記載は、可溶性ポリイミドとしての好ましい範囲の目安を示したものである。
【0209】
本発明に係るポリイミドの溶解度は、前記本発明に用いられるポリイミドの種類を選択することにより調整することができる。
【0210】
ポリイミドは可溶性にするためには、ポリイミドの分子骨格の平面性を高める方向に働くイミド基及び芳香族炭化水素の構造の割合を低減させることが有効である。また、構造異性体、屈曲基の導入、芳香族基の代わりに脂肪族基や脂環式基の導入、フッ素原子やフルオレンなどの嵩高い骨格の導入することも有効である。
【0211】
化合物例としては、脂環式、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、(ビシクロ[4.2.0]オクタンー3,4,7,8−テトラカルボン酸2無水物)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジメタンアミン、屈曲基を持つ構造としては、2,3′,3,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4′−オキシジフタル酸無水物、4,4′オキシジフタル酸無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、が挙げられる。
【0212】
また、フッ素原子を含有する化合物としては、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、フルオレン基を含有する化合物としては、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)−フェニル]フルオレン無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)−フェニル]フルオレン無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレンニ無水物が挙げられる。
【0213】
(ヘイズ値)
本発明では、熱処理後のロール体のポリイミドフィルムについて、ヘイズ値が4%以下であることが、ポリイミドフィルムの透明性が高いという観点で好ましい。
【0214】
ヘイズの測定は、JIS K 7136に準拠して、ヘイズメーターNDH−2000(日本電色工業株式会社製)にてヘイズ(全ヘイズ)を測定できる。23℃・55%RHの条件下で測定し、ヘイズメーターの光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とする。
【0215】
(ヘイズ値の面方向のバラツキ(標準偏差))
本発明では、熱処理後のロール体のポリイミドフィルムについてヘイズ値の面方向のバラツキが小さくその標準偏差が、1以下である。より好ましくは、0.6以下である。
【0216】
標準偏差(σ)は、測定値の平均値に対する分散σ2の平方根である。
【0217】
平均値は、下記式により算出する(ここで、Xiは、各測定値あり、nは測定点の数である)。
【0218】
【数1】

分散σ2は下記式により計算する。
【0219】
【数2】

ヘイズ値の面方向の標準偏差の測定には、1000〜1900mm幅のロール体のポリイミドフィルムを用いる。ロール体の幅手方向に100mm間隔で5点について、上記のヘイズ値の測定を行う。これを3本のロール体について行い、合計150〜285点について、ヘイズの測定を行う。
【0220】
合計150〜285点のヘイズ値の標準偏差を計算して、面方法でのヘイズ値のバラツキ(標準偏差)を得ることができる。
【0221】
<無機微粒子>
本発明のポリイミドフィルムには、無機微粒子が混合される。
【0222】
無機微粒子のポリイミドフィルム中への混合比率は0.01質量%以上で滑り性が改良される。したがって、長尺巻きのポリイミドフィルムでの平面性の劣化が生じにくい。また2.0質量%以下とすることで、ポリイミドフィルムのヘイズ増加を防止する効果がある。
【0223】
無機微粒子としては、下記の無機化合物の微粒子を用いることが好ましい。無機化合物の微粒子の例として、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。
【0224】
微粒子の一次粒子の平均粒径は、5〜400nmの範囲内が好ましく、さらに好ましいのは10〜300nmの範囲内である。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの範囲内の2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径80〜400nmの範囲内の粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
【0225】
無機微粒子の一次粒子の平均粒径は小さいほうが、本発明の効果である面方向のヘイズ値のバラツキが少ない観点から好ましい。一次粒子の平均粒径は、30nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0226】
また、無機微粒子は表面修飾が行われており、表面がより疎水性であることが、本発明の効果である面方向のヘイズ値のバラツキが少ない観点から好ましい。
【0227】
無機微粒子の疎水的処理としては、表面修飾剤として、メチル(トリメトキシ)シラン、エチル(トリメトキシ)シラン、ヘキシル(トリメトキシ)シラン、デシル(トリメトキシ)シラン、ビニル(トリメトキシ)シラン、2−〔(3,4)−エポキシシクロヘキシル〕エチル(トリメトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピル(トリメトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピル(トリメトキシ)シラン、3−アクリロキシプロピル(トリメトキシ)シラン、ジメチルシリル、アルキルシラン、トリメチルシリル、シリコーンオイル、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0228】
例えば、エポキシ基を有するものとして、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ(3−グリシジロキシプロピル)メチルシランなどが例示される。
【0229】
また、アミノ基を有するシランカップリング剤として、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(3−アミノプロピルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(3−アミノプロピルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが例示される。
【0230】
3官能性アルコキシシランとしては、2−〔(3,4)−エポキシシクロヘキシル〕エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0231】
3官能性アルコキシシランは、公知の方法に従って合成することができる。また、市販品としては、2−〔(3,4)−エポキシシクロヘキシル〕エチルトリメトキシシランとして「KBM−303」(信越化学工業社製)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランとして「KBM−403」(信越化学工業社製)が好適に使用される。
【0232】
アミノ基を有する表面処理剤としては、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロジプトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロジプトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(3−アミノプロピルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(3−アミノプロピルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランO−ホスホリルエタノールアミンフッ素含有アルコキシシランは、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシトリフルオロメチルシラン、1,1,2,2−テトラヒドロペルフルオロヘキシルトリエトキシシラン、トリエトキシー3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルシラン、トリエトキシ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]シラン、及びトリエトキシ(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル)シランが挙げられる。
【0233】
ポリイミドフィルム中のこれらの微粒子の含有量は、0.01〜1質量%の範囲内であることがさらに好ましく、特に0.05〜0.5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0234】
共流延法による多層構成のポリイミドフィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが、好ましい。
【0235】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル、株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0236】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0237】
樹脂の微粒子の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0238】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが、ポリイミドフィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0239】
<その他の添加剤>
(紫外線吸収剤)
本発明のポリイミドフィルムは、紫外線吸収剤を含有することが耐光性を向上する観点から好ましい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐光性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が、0.1〜30%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜20%の範囲、更に好ましくは2〜10%の範囲である。
【0240】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤である。
【0241】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン(株)製の市販品であり好ましく使用できる。この中ではハロゲンフリーのものが好ましい。
【0242】
このほか、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0243】
本発明のポリイミドフィルムは、紫外線吸収剤を2種以上含有することが好ましい。
【0244】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。また、紫外線吸収剤は、ハロゲン基を有していないことが好ましい。
【0245】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやジクロロメタン、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶剤又はこれらの混合溶剤に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0246】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、ポリイミドフィルムの乾燥膜厚が15〜50μmの場合は、ポリイミドフィルムに対して0.5〜10質量%の範囲が好ましく、0.6〜4質量%の範囲が更に好ましい。
【0247】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に電子デバイスなどが置かれた場合には、ポリイミドフィルムの劣化が起こる場合がある。
【0248】
酸化防止剤は、例えば、ポリイミドフィルム中の残留溶剤量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりポリイミドフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、本発明のポリイミドフィルム中に含有させるのが好ましい。
【0249】
このような酸化防止剤としては、特開2010−271619号公報の段落番号0108〜0119に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0250】
これらの化合物の添加量は、ポリイミドフィルムに対して質量割合で1ppm〜1.0%の範囲が好ましく、10〜1000ppmの範囲が更に好ましい。
【0251】
(位相差制御剤)
液晶表示装置等の画像表示装置の表示品質の向上のため、ポリイミドフィルム中に位相差制御剤を添加するか、配向膜を形成して液晶層を設け、偏光板保護フィルムと液晶層由来の位相差を複合化することにより、ポリイミドフィルムに光学補償能を付与することができる。
【0252】
位相差制御剤としては、欧州特許911656A2号明細書に記載されているような、2以上の芳香族環を有する芳香族化合物、特開2006−2025号公報に記載の棒状化合物等が挙げられる。また、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。この芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む芳香族性ヘテロ環であることが好ましい。芳香族性ヘテロ環は、一般に不飽和ヘテロ環である。中でも、特開2006−2026号公報に記載の1,3,5−トリアジン環が好ましい。
【0253】
これらの位相差制御剤の添加量は、ポリイミドフィルム系樹脂100質量%に対して、0.5〜20質量%の範囲内であることが好ましく、1〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0254】
(剥離促進剤)
本発明のポリイミドフィルムには、フィルム製造時の剥離性を改良するために剥離促進剤を添加しても良い。
【0255】
ポリイミドフィルムの剥離抵抗を小さくする添加剤としては界面活性剤に効果の顕著なものが多く、好ましい剥離剤としてはリン酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸又はカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸又はスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。以下に剥離剤を例示する。
RZ−1 C8H17O−P(=O)−(OH)2
RZ−2 C12H25O−P(=O)−(OK)2
RZ−3 C12H25OCH2CH2O−P(=O)−(OK)2
RZ−4 C15H31(OCH2CH2)5O−P(=O)−(OK)2
RZ−5 {C12H25O(CH2CH2O)5}2−P(=O)−OH
RZ−6 {C18H35(OCH2CH2)8O}2−P(=O)−ONH4
RZ−7 (t−C4H9)3−C6H2−OCH2CH2O−P(=O)−(OK)2RZ
−8 (iso−C9H19−C6H4−O−(CH2CH2O)5−P(=O)−(OK)
(OH)
RZ−9 C12H25SO3Na
RZ−10 C12H25OSO3Na
RZ−11 C17H33COOH
RZ−12 C17H33COOH・N(CH2CH2OH)3
RZ−13 iso−C8H17−C6H4−O−(CH2CH2O)3−(CH2)2SO3
Na
RZ−14 (iso−C9H19)2−C6H3−O−(CH2CH2O)3−(CH2)4SO3Na
RZ−15 トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−16 トリ−t−ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−17 C17H33CON(CH3)CH2CH2SO3Na
RZ−18 C12H25−C6H4SO3・NH4
剥離促進剤の添加量はポリイミドに対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が更に好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
【0256】
<ポリイミドフィルムの製造方法>
上記ポリイミドフィルムの製造方法の具体例について以下説明する。
【0257】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程(混合物準備工程)、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程(ドープ調製工程)、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程(流延工程)、支持体上で流延膜から溶剤を蒸発させる工程(溶剤蒸発工程)、前記膜を支持体から剥離する工程(剥離工程)、及び剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする。
【0258】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法としては、前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程(混合物準備工程)、前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程(ドープ調製工程)、前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程(流延工程)、前記膜を支持体から剥離する工程(剥離工程)、得られた流延膜を乾燥させてフィルムを得る工程(第1乾燥工程)、乾燥されたフィルムを延伸する工程(延伸工程)、延伸後のフィルムを更に乾燥させる工程(第2乾燥工程)、得られたポリイミドフィルムを巻き取る工程(巻取り工程)、更に必要であればフィルムを加熱処理してイミド化させる工程(加熱工程)等を含むことがより好ましい。
【0259】
以下、各工程について具体的に説明する。
【0260】
(混合物準備工程)
本発明に係る混合物準備工程は、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解される可溶性ポリイミドと無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程である。
【0261】
前記混合物としては、可溶性ポリイミドと無機微粒子とを含有するものであれば、どのような形態のものであっても良いが、例えば前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることや、前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることが好ましい。混合物が可溶性ポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることが、ヘイズ値の膜厚方向の偏差がより小さいのでより好ましい。
【0262】
混合物が、前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤を含有するドープである場合には、溶解されたドープを60℃以上の環境下で2時間以上保管することにより、フィルム面方向のヘイズバラツキが、より小さくなるのでより好ましい。
【0263】
<可溶性ポリイミドと無機微粒子を含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品>
本発明に係る混合物は、前記可溶性ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることが好ましい。
【0264】
破砕品は、ポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることが好ましい。10質量%以上であると面方向のヘイズ値のバラツキが小さいという観点から好ましく、70質量%以下であれば搬送性が良いという観点から好ましい。破砕品は樹脂となじみが良いためヘイズのばらつきという観点では良いが、無機微粒子の効果が出難く搬送性は効果が薄くなる。
【0265】
破砕品は、ポリイミドフィルムの乾燥中又は最終段階で、フィルムロール両端のきり落とし、作業開始直後とか条件調整中のロス、又は突発事故による製品とならなかったウェブ又はフィルムで発生したものを再使用することが好ましい。
【0266】
これらを混合物として再使用する際、まず、フィルムを0.5〜40mmの大きさ、好ましくは10〜30mmに、破砕機で破砕しチップとする。
【0267】
この際、チップの除電により、チップの破砕機への張り付きや詰まり、チップ同士の凝集、壁面へのチップの貼り付きを防止することができる。
【0268】
粉砕したチップをブロワーのような空気輸送手段で配管を移送して一旦貯蔵容器に蓄え、続いて決められた投入量を計量器で計量し、溶解タンクに投入する。
【0269】
溶解タンクでは、新たな可溶性ポリイミド及び溶剤とともに、加熱撹拌溶解してドープを調製する。溶解終了後、送液ポンプで送液し、濾過器で不純物を濾過し、静置貯蔵タンク13に静かに貯めて脱泡する。
【0270】
本発明において、破砕品をチップとして溶解タンクに投入する方法のほかに、破砕品を別に溶解して返材溶液として投入する方法もある。
【0271】
(ドープ調製工程)
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記可溶性ポリイミドと無機微粒子を含有する混合物と、新たな可溶性ポリイミドとを、溶剤に溶解してドープを調製し、当該ドープを用いて溶液流延製膜方法によって製膜することが好ましい。さらに好ましくは、可溶性ポリイミドと無機微粒子を含有する混合物と、新たな可溶性ポリイミドと新たな無機微粒子とを、溶剤に溶解してドープを調製し、当該ドープを用いて溶液流延製膜方法によって製膜することである。
【0272】
溶剤は、沸点80℃以下の低沸点溶剤を主溶剤として用いることが、フィルムの製造プロセス温度(特に乾燥温度)を低減でき、着色や熱収縮率を低減できるので好ましい。ここで「主溶剤として用いる」とは、混合溶剤であれば、溶剤全体量に対して55質量%以上を用いることをいい、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上用いることである。もちろん単独使用であれば100質量%となる。
【0273】
低沸点溶剤は、ポリイミド、及びその他の添加剤を同時に溶解するものであれば良く、例えば、塩素系溶剤としては、ジクロロメタン、非塩素系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等を挙げることができる。
【0274】
中でも沸点80℃以下の低沸点溶剤としては、上記溶剤の中で、ジクロロメタン(40℃)、酢酸エチル(77℃)、メチルエチルケトン(79℃)、テトラヒドロフラン(66℃)、アセトン(56.5℃)、及び1,3−ジオキソラン(75℃)の中から選択される少なくとも1種を主溶剤として含有することが好ましい(括弧内はそれぞれ沸点を表す。)。
【0275】
また、混合溶剤の場合に含有される溶剤としては、本発明に係るポリイミドを溶解し得るものであれば、本発明の効果を阻害しない範囲で用いることができ、上記したもの以外の溶剤として、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m−クレゾール、フェノール、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロペンタノン、イプシロンカプロラクタム、クロロホルム等が使用可能であり、2種以上を併用しても良い。また、これらの溶剤と併せて、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の貧溶剤を、本発明に係るポリイミド及びカルボニル基を有する有機化合物が析出しない程度に使用しても良い。
【0276】
また、アルコール系溶剤を用いることも好ましく、当該アルコール系溶剤が、メタノール、エタノール及びブタノールから選択されることが、剥離性を改善し、高速度流延を可能にする観点から好ましい。中でもメタノール又はエタノールを用いることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になる。
【0277】
ポリイミド、その他の添加剤の溶解には、常圧で行う方法、主溶剤の沸点以下で行う方法、主溶剤の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、又は特開平9−95538号公報に記載の冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の高圧で行う方法等、種々の溶解方法を用いることができる。
【0278】
調製したドープは、送液ポンプ等により濾過器に導いて濾過する。例えば、ドープの主たる溶剤がジクロロメタンの場合、当該ジクロロメタンの1気圧における沸点+5℃以上の温度で当該ドープを濾過することにより、ドープ中のゲル状異物を取り除くことができる。好ましい温度範囲は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0279】
また、ドープ調製に用いられる樹脂の原料としては、あらかじめポリイミド及びその他の化合物などをペレット化したものも、好ましく用いることができる。
【0280】
(流延膜形成工程)
調製したドープを、送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通してダイスに送液し、無限に移送する無端の支持体、例えば、ステンレススチールベルト又は回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、ダイスからドープを流延する。
【0281】
流延(キャスト)における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、支持体としては、ステンレススチールベルト又は鋳物で表面をめっき仕上げしたドラム等の金属支持体が好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mの範囲、好ましくは1.5〜3mの範囲、更に好ましくは2〜2.8mの範囲とすることができる。なお、支持体は、金属製でなくとも良く、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレン等のベルト等を用いることができる。フレキシブル基板としてポリイミドを用いる場合、ポリイミドを流延した金属支持体や上記フィルムごとポリイミドを巻き取っても良い。
【0282】
金属支持体の走行速度は特に制限されないが、通常は5m/分以上であり、好ましくは10〜180m/分、特に好ましくは80〜150m/分の範囲内である。金属支持体の走行速度は、高速であるほど、同伴ガスが発生しやすくなり、外乱による膜厚ムラの発生が顕著になる。
【0283】
金属支持体の走行速度は、金属支持体外表面の移動速度である。
【0284】
金属支持体の表面温度は、温度が高い方が流延膜の乾燥速度を速くできるため好ましいが、余り高すぎると流延膜が発泡したり、平面性が劣化したりする場合があるため使用する溶剤の沸点に対して−50〜−10℃の温度の範囲内で行うことが好ましい。
【0285】
ダイスは、幅方向に対する垂直断面において、吐出口に向かうに従い次第に細くなる形状を有している。ダイスは通常、具体的には、下部の走行方向で下流側と上流側とにテーパー面を有し、当該テーパー面の間に吐出口がスリット形状で形成されている。ダイスは金属からなるものが好ましく使用され、具体例として、例えば、ステンレス、チタン等が挙げられる。本発明において、厚さが異なるフィルムを製造するとき、スリット間隙の異なるダイスに変更する必要はない。
【0286】
ダイスは、ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイを用いることが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。厚さが異なるフィルムを連続的に製造する場合であっても、ダイスの吐出量は略一定の値に維持されるので、加圧ダイを用いる場合、押し出し圧力、せん断速度等の条件もまた略一定の値に維持される。また、製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して積層しても良い。
【0287】
(溶剤蒸発工程)
溶剤蒸発工程は、金属支持体上で行われ、流延膜を金属支持体上で加熱し、溶剤を蒸発させる予備乾燥工程である。
【0288】
溶剤を蒸発させるには、例えば、乾燥機により流延膜側及び金属支持体裏側から加熱風を吹き付ける方法、金属支持体の裏面から加熱液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等を挙げることができる。それらを適宜選択して組み合わせる方法も好ましい。金属支持体の表面温度は全体が同じであっても良いし、位置によって異なっていても良い。加熱風の温度は10〜220℃の範囲内が好ましい。
【0289】
加熱風の温度(乾燥温度)は、200℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。
【0290】
溶剤蒸発工程においては、流延膜の剥離性及び剥離後の搬送性の観点から、残留溶剤量が10〜150質量%の範囲内になるまで、流延膜を乾燥することが好ましい。
【0291】
本発明において、残留溶剤量は下記の式で表すことができる。
【0292】
残留溶剤量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mは流延膜(フィルム)の所定の時点での質量、NはMのものを200℃で3時間乾燥させた時の質量である。特に、溶剤蒸発工程において達成された残留溶剤量を算出するときのMは剥離工程直前の流延膜の質量である。
【0293】
(剥離工程)
金属支持体上で溶剤が蒸発した流延膜を、剥離位置で剥離する。
【0294】
金属支持体と流延膜とを剥離する際の剥離張力は、通常、60〜400N/mの範囲内であるが、剥離の際に皺が入りやすい場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましい。
【0295】
本発明においては、当該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜60℃の範囲内とするのが好ましく、10〜40℃の範囲内がより好ましく、15〜40℃の範囲内とするのが最も好ましい。
【0296】
剥離された流延膜(剥離された後の流延膜はフィルムともいう。)は、延伸工程に直接送られても良いし、所望の残留溶剤量を達成するように第1乾燥工程に送られた後に延伸工程に送られても良い。本発明においては、延伸工程での安定搬送の観点から、剥離工程後、フィルムは、第1乾燥工程及び延伸工程に順次送られることが好ましい。
【0297】
(第1乾燥工程)
第1乾燥工程は、フィルムを加熱し、溶剤を更に蒸発させる乾燥工程である。乾燥手段は特に制限されず、例えば、熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等を用いることができる。簡便さの観点からは、千鳥状に配置したローラーでフィルムを搬送しながら、熱風等で乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、残留溶剤量及び搬送における伸縮率等を考慮して、30〜200℃の範囲が好ましい。
【0298】
乾燥温度は、200℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。
【0299】
乾燥温度を低温にすることで、フィルムの熱収縮率を大きくすることができる。
【0300】
(延伸工程)
金属支持体から剥離されたフィルムを延伸することで、フィルムの膜厚や平坦性、配向性等を制御することができる。
【0301】
本発明のフィルムの製造方法においては、長手方向又は幅手方向に延伸することが好ましい。
【0302】
延伸操作は多段階に分割して実施しても良い。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行っても良いし、段階的に実施しても良い。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
【0303】
すなわち、例えば、次のような延伸ステップも可能である:
・長手方向に延伸→幅手方向に延伸→長手方向に延伸→長手方向に延伸
・幅手方向に延伸→幅手方向に延伸→長手方向に延伸→長手方向に延伸
また、同時二軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を、張力を緩和して収縮する場合も含まれる。好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。ここで延伸倍率は、(フィルムの延伸後の幅手又は長手の長さ)/(フィルムの延伸前の幅手又は長手の長さ)である。
【0304】
延伸開始時の残留溶剤量は0.1〜200質量%の範囲内であることが好ましい。
【0305】
当該残留溶剤量は、0.1質量%以上であれば、延伸による平面性向上の効果が得られ、200%以下であると延伸しやすい。
【0306】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法においては、延伸後の膜厚が所望の範囲になるように長手方向又は幅手方向に、好ましくは幅手方向に延伸しても良い。ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)に対して、(Tg−200)〜(Tg+100)℃の温度範囲で延伸することが好ましい。上記温度範囲で延伸すると、延伸応力を低下できるのでヘイズが低くなる。また、破断の発生を抑制し、平面性、ポリイミドフィルム自身の着色性に優れたポリイミドフィルムが得られる。延伸温度は、(TgL−150)〜(TgH+50)℃の範囲で行うことがより好ましい。
【0307】
本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法では、支持体から剥離された自己支持性を有するフィルムを、延伸ローラーで走行速度を規制することにより長手方向に延伸することができる。
【0308】
幅手方向に延伸するには、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全処理又は一部の処理を幅方向にクリップ又はピンでフィルムの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式と呼ばれる。)、中でも、クリップを用いるテンター方式が好ましく用いられる。
【0309】
長手方向に延伸されたフィルム又は未延伸のフィルムは、クリップに幅方向両端部を把持された状態にてテンターへ導入され、テンタークリップとともに走行しながら、幅方向へ延伸されることが好ましい。
【0310】
幅手方向への延伸に際し、フィルム幅手方向に50〜1000%/minの範囲内の延伸速度で延伸することが、フィルムの平面性を向上する観点から、好ましい。
【0311】
延伸速度は50%/min以上であれば、平面性が向上し、またフィルムを高速で処理することができるため、生産適性の観点で好ましく、1000%/min以内であれば、フィルムが破断することなく処理することができ、好ましい。
【0312】
より好ましい延伸速度は、100〜500%/minの範囲内である。延伸速度は下記式によって定義される。
【0313】
延伸速度(%/min)=[(d1/d2)−1]×100(%)/t
(上記式において、d1は延伸後の樹脂フィルムの延伸方向の幅寸法であり、d2は延伸前の樹脂フィルムの延伸方向の幅寸法であり、tは延伸に要する時間(min)である。)
延伸工程では、通常、延伸した後、保持・緩和が行われる。すなわち、本工程は、フィルムを延伸する延伸段階、フィルムを延伸状態で保持する保持段階及びフィルムを延伸した方向に緩和する緩和段階をこれらの順序で行うことが好ましい。保持段階では、延伸段階で達成された延伸倍率での延伸を、延伸段階における延伸温度で保持する。緩和段階では、延伸段階における延伸を保持段階で保持した後、延伸のための張力を解除することによって、延伸を緩和する。緩和段階は、延伸段階における延伸温度以下で行えば良い。
【0314】
(第2乾燥工程)
次いで、延伸後のフィルムを加熱して乾燥させる。熱風等によりフィルムを加熱する場合、使用済みの熱風(溶剤を含んだエアーや濡れ込みエアー)を排気できるノズルを設置して、使用済み熱風の混入を防ぐ手段も好ましく用いられる。熱風温度は、40〜350℃の範囲がより好ましい。また、乾燥時間は5秒〜30分程度が好ましく、10秒〜15分がより好ましい。
【0315】
また、加熱乾燥手段は熱風に制限されず、例えば、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等を用いることができる。簡便さの観点からは、千鳥状に配置したローラーでフィルムを搬送しながら、熱風等で乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、40〜150℃の範囲であることが加熱収縮が大きくなりやすい観点から好ましい。さらに40〜120℃であることがより好ましい。
【0316】
第2乾燥工程においては、残留溶剤量が0.5質量%以下になるまで、フィルムを乾燥することが好ましい。
【0317】
(巻取り工程)
巻取り工程は、得られたポリイミドフィルムを巻き取って室温まで冷却する工程である。巻取り機は、一般的に使用されているもので良く、例えば、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻取り方法で巻き取ることができる。
【0318】
ポリイミドフィルムの厚さは特に制限されず、例えば、1〜200μm、特に1〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0319】
巻取り工程においては、延伸搬送したときにテンタークリップ等で挟み込んだポリイミドフィルムの両端をスリット加工しても良い。スリットしたポリイミドフィルム端部は、1〜30mm幅の範囲内に細かく断裁された後、溶剤に溶解させて返材として再利用することが好ましい。
【0320】
上述した溶剤蒸発工程から巻取り工程までの各工程は、空気雰囲気下で行っても良いし、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行っても良い。また、各工程、特に乾燥工程や延伸工程は、雰囲気における溶剤の爆発限界濃度を考慮して行う。
【0321】
(加熱工程)
上記巻取り工程後に、ポリマー鎖分子内及びポリマー鎖分子間でのイミド化を進行させて機械的特性を向上させるべく、上記第2乾燥工程で乾燥したポリイミドフィルムを更に熱処理する加熱工程を行っても良い。
【0322】
なお、上記第2乾燥工程が、加熱工程を兼ねるものであっても良い。
【0323】
加熱手段は、例えば、熱風、電気ヒーター、マイクロ波等の公知の手段を用いて行われる。電気ヒーターとしては、上記した赤外線ヒーターを用いることができる。
【0324】
加熱工程において、ポリイミドフィルムを急激に加熱すると表面欠点が増加する等の不具合が生じるため、加熱方法は適宜選択することが好ましい。また、加熱工程は、低酸素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0325】
第二乾燥工程及び加熱工程における加熱温度は450℃を超えると、加熱に必要なエネルギーが非常に大きくなることから製造コストが高くなり、更に、環境負荷が増大するため、当該加熱温度は450℃以下にすることが好適である。
【0326】
なお、巻取り工程後であって、加熱工程の前又は後に、ポリイミドフィルムの幅方向端部をスリットする工程や、ポリイミドフィルムが帯電していた場合にはこれを除電する工程等を更に行うものとしても良い。
【0327】
<ポリイミドフィルムの形状>
本発明のポリイミドフィルムは、長尺であることが好ましく、具体的には、100〜10000m程度の範囲内の長さであることが好ましく、ロール状に巻き取られる。また、本発明のポリイミドフィルムの幅は1m以上であることが好ましく、更に好ましくは1.4m以上であり、特に1.4〜4mであることが好ましい。
【0328】
<用途>
本発明のポリイミドフィルムは、画像表示装置の透明フィルムとして使用できる。特にフレキシブル画像表示装置に好ましく適用できる。適用されるデバイスは、特に限定されないが、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)画像表示装置、液晶画像表示装置(LCD)、有機光電変換デバイス、タッチパネル、偏光板、位相差フィルム等を挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、有機エレクトロルミネッセンス(EL)画像表示装置、液晶画像表示装置(LCD)などのフレキシブルテレビ受像機、及びフレキシブルディスプレイ用前面部材に好ましく用いられる。
【実施例】
【0329】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0330】
[実施例1]
実施例に用いた化合物の構造を以下に列挙する。
【0331】
【化22】

酸無水物A:ビシクロ[4.2.0]オクタン−3,4,7,8−テトラカルボン酸2無水物
ジアミン化合物B:2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジアミン
なお、上記の化合物の市販品の入手先は以下のとおりである。
酸無水物1:ダイキン工業株式会社
酸無水物2:マナック株式会社
酸無水物3:株式会社ダイセル
ジアミン1:ダイキン工業株式会社
ジアミン2:三井化学ファイン株式会社
ジアミン6:和歌山精化株式会社
ジアミン化合物B:昭和化学株式会社
<ポリイミドフィルム101A(混合物用ポリイミドフィルム)の作製>
(ポリイミド溶液Aの調製)
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたDean−Stark凝集器、撹拌 機を備えた4ロフラスコに、前記酸無水物2(マナック株式会社製)17.87g(57 .6mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(134g)に加え、窒素気流下、室温 で撹拌した。
【0332】
それに前記ジアミン2(三井化学ファイン株式会社製)11.53g(60mmol)を加え、80℃で6時間加熱撹拌した。その後、外温を190℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンとともに共沸留去した。6時間加熱、還流、撹拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続きトルエンを留去しながら7時間加熱し、さらにトルエン留去後にメタノールを投入して再沈殿し、固形分を乾燥後に8質量%のジクロロメタン溶液にしてポリイミド樹脂Aを含有するポリイミド溶液Aを調製した。
【0333】
(破砕品作製用主ドープの調製)
下記組成の破砕品作製用主ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン(沸点40℃)を添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミド溶液A及び残りの成分を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、破砕品作製用主ドープを調製した。
【0334】
(破砕品作製用主ドープの組成)
ジクロロメタン 30質量部
ポリイミド溶液A 100質量部
無機微粒子(アエロジル R972V、日本アエロジル(株)製)
0.04質量部
(流延工程)
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1500mm幅でステンレススチールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススチールベルトの温度は30℃に制御した。
【0335】
(剥離工程)
ステンレススチールベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶剤量が75%になるまで溶剤を蒸発させ、次いで剥離張力180N/mで、ステンレススチールベルト支持体上から剥離した。
【0336】
(延伸工程)
剥離したフィルムを、120℃の熱をかけながらクリップ式テンターを用いて幅方向に、延伸速度100%/minで、1.40倍延伸した。延伸開始時の残留溶剤量は8質量%であった。
【0337】
(乾燥工程)
延伸したフィルムを、搬送張力100N/m、乾燥時間15分間として、残留溶剤量が0.5質量%未満となるまで乾燥温度120℃で乾燥させ、乾燥膜厚51μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを巻き取って、混合物用ポリイミドフィルム101Aを得た。
【0338】
<ポリイミドフィルム102A〜108A及び110A(混合用ポリイミドフィルム)の作製>
上記混合用ポリイミドフィルム101Aの作製における、使用した酸無水物、ジアミンの種類、及び無機微粒子の質量混合比を表2で表されるように変更した以外は混合用ポリイミドフィルム101Aと同様にして、混合用ポリイミドフィルム102A〜108A及び110Aを作製した。なお、混合用ポリイミドフィルム101A〜108A及び110Aの作製において、使用したポリイミドフィルムの原料となる酸無水物とジアミンは表1に記載された化合物であり、それぞれ混合用ポリイミドフィルム101Aと同モル量を用いた。
【0339】
【表1】

【0340】
上記の各混合用ポリイミドフィルムは、幅1900mm、長さ8000mの長尺フィルムの形状で作製した。
【0341】
<ロール体101A〜108A及び110Aの作製>
上記の混合用ポリイミドフィルム101A〜110A(幅1900mm、長さ8000m)の巻取りロール体を、下記の巻取り条件で作製し、ロール体101A〜108A及び110Aとした。
【0342】
(巻取り条件)
タッチローラー:直径120mm、長さ2600mm
タッチローラーの材質:NBRゴム(明和ゴム工業株式会社製)ホワイトエレコン
硬さ35度、厚さ10mm、CFRP(CarbonFiberReinforced Plastics)芯
タッチローラーの押圧:50N/m
巻取り張力:初期張力250N/mテーパー90%コーナー25%
巻取り速度:100m/min
巻取り軸の直径:15.24cm
巻取り軸の材質:FRP(FiberReinforcedPlastics)
(破砕品の作製)
ロール体101A〜108A及び110Aの幅手方向両端部から、フィルムを採取し、10〜30mmの大きさに、破砕機1で破砕しチップとし、それぞれ破砕品101A〜108A及び110Aとした。
【0343】
<ポリイミドフィルム101の作製>
(ポリイミド溶液Aの調製)
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたDean−Stark凝集器、撹拌機を備えた4口フラスコに、前記酸無水物2(マナック株式会社製)17.87g(57.6mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(134g)に加え、窒素気流下、室温で撹拌した。
【0344】
それに前記ジアミン2(三井化学ファイン株式会社製)11.53g(60mmol)を加え、80℃で6時間加熱撹拌した。その後、外温を190℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンとともに共沸留去した。6時間加熱、還流、撹拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続きトルエンを留去しながら7時間加熱し、さらにトルエン留去後にメタノールを投入して再沈殿し、固形分を乾燥後に8質量%のジクロロメタン溶液にしてポリイミド樹脂Aを含有するポリイミド溶液Aを調製した。
【0345】
(ドープの調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン(沸点40℃)を添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミド溶液A及び残りの成分を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。
【0346】
(主ドープの組成)
ジクロロメタン 30質量部
ポリイミド溶液A 100質量部
無機微粒子(アエロジル R972V、日本アエロジル(株)製)
0.04質量部
この主ドープを主ドープ101とした。この主ドープ101に破砕品101Aを、混合となるように添加し、再度混合溶解した。
【0347】
なお、混合物質量比とは、混合に用いた主ドープ101中のポリイミド樹脂の質量(X)と、混合に用いた破砕品101A中のポリイミド樹脂の質量(Y)の合計に対する、混合に用いた破砕品101A中のポリイミド樹脂の質量(Y)の割合を質量%で表したものである。
【0348】
(流延工程)
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1500mm幅でステンレススチールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススチールベルトの温度は30℃に制御した。
【0349】
(剥離工程)
ステンレススチールベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶剤量が75%になるまで溶剤を蒸発させ、次いで剥離張力180N/mで、ステンレススチールベルト支持体上から剥離した。
【0350】
(延伸工程)
剥離したフィルムを、120℃の熱をかけながらクリップ式テンターを用いて幅方向に、延伸速度100%/minで、1.40倍延伸した。延伸開始時の残留溶剤量は8質量%であった。
【0351】
(乾燥工程)
延伸したフィルムを、搬送張力100N/m、乾燥時間15分間として、残留溶剤量が0.5質量%未満となるまで乾燥温度120℃で乾燥させ、乾燥膜厚51μmのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを巻き取って、ポリイミドフィルム101を得た。
【0352】
<ポリイミドフィルム102〜110作製>
上記ポリイミドフィルム101の作製における、使用した酸無水物、ジアミンの種類、無機微粒子の質量比率、及び混合物質量比率を表2で表されるように変更した以外は混合用ポリイミドフィルム101と同様にして、ポリイミドフィルム102〜110を作製した。なお、ポリイミドフィルム101〜110の作製において、使用したポリイミドフィルムの原料となる酸無水物とジアミンは表1に記載された化合物であり、それぞれポリイミドフィルム101と同モル量を用いた。
【0353】
上記の各ポリイミドフィルムは、幅1900mm、長さ8000mの長尺フィルムの形状で作製した。
【0354】
<ロール体101〜110の作製>
上記のポリイミドフィルム101〜110(幅1900mm、長さ8000m)の巻取りロール体を、下記の巻取り条件で作製し、ロール体101〜110とした。
【0355】
(巻取り条件)
タッチローラー:直径120mm、長さ2600mm
タッチローラーの材質:NBRゴム(明和ゴム工業株式会社製)ホワイトエレコン
硬さ35度、厚さ10mm、CFRP(CarbonFiberReinforced Plastics)芯
タッチローラーの押圧:50N/m
巻取り張力:初期張力250N/mテーパー90%コーナー25%
巻取り速度:100m/min
巻取り軸の直径:15.24cm
巻取り軸の材質:FRP(FiberReinforcedPlastics)
(溶解度)
ポリイミドフィルムの製造に用いた各ポリイミドを、60℃においてジメチルアセトアミド100gに対して溶解させ溶解できる上限を測定した。
【0356】
(ヘイズ)
各ロール体のポリイミドフィルムについて、ヘイズ(全ヘイズ)を、JISK7136に準拠して、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)にて測定し、以下の基準で評価した。ヘイズメーターの光源は、5V9Wのハロゲン球とし、受光部は、シリコンフォトセル(比視感度フィルター付き)とした。ヘイズの測定は、23℃・55%RHの条件下にて行った。
【0357】
(面方向のヘイズ値のバラツキ(標準偏差))
1900mm幅の各ロール体のポリイミドフィルムを用いた。ロール体の幅手方向に10mm間隔で5点について、上記のヘイズ値の測定を行った。これを3本のロール体について行い、合計285点について、ヘイズの測定を行った。
【0358】
285点のヘイズ値の標準偏差を計算して、面方向のヘイズ値のバラツキ(標準偏差)を測定した。標準偏差を測定したのち、下記評価基準に従ってバラツキを評価した。
【0359】
◎:面方向のヘイズ値の標準偏差が0.3未満
○:面方向のヘイズ値の標準偏差が0.3以上 0.6未満
×:面方向のヘイズ値の標準偏差が0.6以上
(搬送性)
各ロール体のポリイミドフィルムについて、搬送性を下記のように評価した。
【0360】
繰り出し張力100N/m、巻取り張力150N/mで搬送を行う際に、ロールにおいて、フィルムが接する面(鏡面)の幅2mでロールスパン50cmの箇所で、10分間での蛇行量を評価した。
【0361】
◎:蛇行量3mm以下(合格)
○:蛇行量3mmより大きく、蛇行量5mm以下(合格)
×:蛇行量5mmより大きい(不合格)
各ポリイミドフィルムの組成及び、搬送性とヘイズ値の面方向のバラツキ(標準偏差)の評価結果を表2に示す。
【0362】
【表2】

【0363】
表2示されるように、本発明のポリイミドフィルムでは搬送性が良く、ヘイズ値の面方向のバラツキ(標準偏差)が小さいポリイミドフィルムが得られたことがわかる。
【0364】
[実施例2]実施例1のポリイミドフィルム101及びポリイミドフィルム109について、下記のように折曲耐性を評価した。
【0365】
(折曲耐性)
作製したポリイミドフィルムに対して、JISC5016に規定された屈曲疲労試験機による耐屈曲性試験(摺動屈曲試験)を行った。なお、屈曲半径2.5mm、屈曲速度2000回/min、屈曲ストローク25mmの条件で、屈曲時に配線形成面が外側となるように1方向に繰り返して屈曲させ、屈曲方向の外側に位置する配線が断線するに至った屈曲回数(耐屈曲回数)を求めた。
【0366】
◎:5000回以上
○:1000回以上5000回未満
×:1000回未満
折曲耐性の評価結果を、表3に示す。
【0367】
【表3】

【0368】
表3に示されるように、本発明のポリイミドフィルムでは折曲耐性が改良されることがわかる。
【0369】
[実施例3]
実施例1のポリイミドフィルム101の作製での主ドープの調製において、破砕品101Aの代わりに下記混合用ドープ301Aを表4に示される混合物質量比となるように添加した以外は、ポリイミドフィルム101と同様のポリイミドフィルム301を作製した。
【0370】
(混合用ドープ301Aの調整)
(ポリイミド溶液301Aの調製)
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたDean−Stark凝集器、撹拌機を備えた4口フラスコに、前記酸無水物2(マナック株式会社製)17.87g(57.6mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(134g)に加え、窒素気流下、室温で撹拌した。
【0371】
それに前記ジアミン2(三井化学ファイン株式会社製)11.53g(60mmol)を加え、80℃で6時間加熱撹拌した。その後、外温を190℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンとともに共沸留去した。6時間加熱、還流、撹拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続きトルエンを留去しながら7時間加熱し、さらにトルエン留去後にメタノールを投入して再沈殿し、固形分を乾燥後に8質量%のジクロロメタン溶液にしてポリイミド樹脂Aを含有するポリイミド溶液Aを調製した。
【0372】
(混合用ドープ301Aの調製)
下記組成の混合用ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにジクロロメタン(沸点40℃)を添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミド溶液A及び残りの成分を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、混合用ドープを調製した。
【0373】
(混合用ドープ301Aの組成)
ジクロロメタン 30質量部
ポリイミド溶液A 0.3質量部
無機微粒子(アエロジル R972V、日本アエロジル(株)製)
0.03質量部
このようにして作製したポリイミドフィルム301と、実施例1で作製したポリイミドフィルム101及びポリイミドフィルム109について、実施例1と同様に、搬送性及び値の面方向のバラツキ(標準偏差)を評価した。
【0374】
結果を表4に示す。
【0375】
【表4】

【0376】
表4に示されるように混合用ドープを用いても、本発明の効果があることがわかる。
【0377】
また、破砕品を使用したポリイミドフィルムのほうがより効果が大きいことがわかる。
【0378】
[実施例4]
実施例1のポリイミドフィルム101の作製で用いた無機微粒子(アエロジルR972V、日本アエロジル(株)製)の代わりに表5に示されるように無機微粒子(日本アエロジル(株)製)の種類を変更した以外はポリイミドフィルム101と同様のポリイミドフィルム401〜405を、実施例1と同様にして作製した。
【0379】
ポリイミドフィルム101及びポリイミドフィルム401〜405について、実施例1と同様にして、搬送性及び面方法でのヘイズ値のバラツキ(標準偏差)を測定した。
【0380】
結果を表5に示す。
【0381】
【表5】

【0382】
表5に示されるように、修飾されている無機微粒子のほうが、本発明の効果がより大きいことがわかる。また無機微粒子の一次粒子の平均粒径が小さいほうが、本発明の効果がより大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0383】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、搬送性が良く、フィルムの面方向でのヘイズ値のバラツキが少ないポリイミドフィルムを提供することができるため、当該ポリイミドフィルムは、小型から大型までのフレキシブルディスプレイ用部材として好適である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100に対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100に対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100に対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
ポリイミドと無機微粒子とを含有する流延製膜されたポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100gに対し1g以上溶解されるポリイミドであり、
前記ポリイミドの全量に対して、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する前記ポリイミドフィルムを破砕した破砕品由来のポリイミドが、10〜70質量%の範囲内で含まれており、かつ、
ヘイズ値の面方向での標準偏差が0.6以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項6】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100に対し1以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムを破砕した破砕品であり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
60℃において、ジメチルアセトアミド100g又はγ−ブチロラクトン100に対し1g以上溶解されるポリイミドと無機微粒子とを含有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記ポリイミドと前記無機微粒子とを含有する混合物を準備する工程、
前記混合物と前記ポリイミドと溶剤とを含有するドープを調製する工程、
前記ドープを支持体上に流延して膜を形成する工程、
前記膜を支持体から剥離する工程、及び、
剥離された膜を乾燥する乾燥工程を含み、
前記混合物が、前記ポリイミドと前記無機微粒子と溶剤とを含有するドープであり、
前記混合物が、製造されるポリイミドフィルムに対し10〜70質量%の質量比率で含有されていることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2018-507136
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
奥田 雄介
登録日 2021-04-26 
登録番号 6874759
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 ポリイミドフィルム及びその製造方法  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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