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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01R
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01R
管理番号 1388398
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-01 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6881258号発明「電気機器の接続構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6881258号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6881258号の請求項2〜6に係る特許を維持する。 特許第6881258号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6881258号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)11月28日の出願であって、令和 3年 5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月 2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 3年12月 1日 :特許異議申立人前田正夫(以下、「特許異議 申立人」という。)による請求項1〜6に係 る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 2月18日付け:取消理由通知
令和 4年 4月25日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求( 以下、この訂正請求を「本件訂正請求」とい い、この訂正請求による訂正を「本件訂正」 という。)

なお、特許異議申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、特許異議申立人からの応答はなかった。

第2 本件訂正の適否
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する係合溝で構成されている請求項1に記載の電気機器の接続構造。」と記載されているのを、「電気機器に形成されたねじ端子と、被接続部材に形成された被接続端子とを電気的に接続する電気機器の接続構造であって、
前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、
前記ねじ端子は、雌ねじ部を形成した端子板と、前記雌ねじ部に螺合する端子ねじとを有し、前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、
前記被接続端子は、前記端子ねじを挿通する挿通孔を有し、前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、
前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている電気機器の接続構造。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3ないし6も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記被接続部材は、前記被接続端子に電気的に接続されたスプリング端子を有する請求項1又は2に記載の電気機器の接続構造。」と記載されているのを、「前記被接続部材は、前記被接続端子に電気的に接続されたスプリング端子を有する請求項2に記載の電気機器の接続構造。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4ないし6も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記被接続部材を前記ねじ端子に接続した状態で当該被接続部材を覆う端子カバーを備えている請求項1から3の何れか一項に記載の電気機器の接続構造。」と記載されているのを、「前記被接続部材を前記ねじ端子に接続した状態で当該被接続部材を覆う端子カバーを備えている請求項2又は3に記載の電気機器の接続構造。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する)。

2.一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、訂正前の請求項2ないし6は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正は、一群の請求項1ないし6について請求されている。

3.本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであったところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項にするとともに、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「半径方向に延長する」「第1係合部」について、「半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する」ことを直列的に付加して減縮するとともに、「半径方向に延長」する「第2係合部」について、「半径方向のうち前記左右方向に延長」することを直列的に付加して減縮するとともに、「突条」について、「断面半円形状」であることを直列的に付加して減縮するとともに、「係合溝」について、「断面三角形状」であることを直列的に付加して減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項1を引用する請求項2を独立形式請求項にするとともに、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「半径方向に延長する」「第1係合部」、「半径方向に延長」する「第2係合部」、「突条」及び「係合溝」について発明特定事項を直列的に付加するものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項2のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「半径方向に延長する」「第1係合部」について、「半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する」ことを直列的に付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0011】に「また、熱動形過負荷リレー10は、図4に示すように、背面に3つの主端子12u、12v及び12wが左右方向に並列状態で配置されている。」と記載されており、【0014】に「各端子板15には、図8に拡大図示するように、雌ねじ部18の中心を通って半径方向の左右方向に延長する断面半円形状の突条20が形成されている。」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項2のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「半径方向に延長」する「第2係合部」について、「半径方向のうち前記左右方向に延長」することを直列的に付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0011】に「また、熱動形過負荷リレー10は、図4に示すように、背面に3つの主端子12u、12v及び12wが左右方向に並列状態で配置されている。」と記載されており、【0022】に「また、端子部37aには、図8で拡大図示するように、下面側に貫通孔37cを中心として半径方向の左右方向に延長する断面三角形状の係合溝37dが形成されている。」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項2のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「突条」について、「断面半円形状」であることを直列的に付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0014】に「各端子板15には、図8に拡大図示するように、雌ねじ部18の中心を通って半径方向の左右方向に延長する断面半円形状の突条20が形成されている。」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項2のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「係合溝」について、「断面三角形状」であることを直列的に付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0022】に「また、端子部37aには、図8で拡大図示するように、下面側に貫通孔37cを中心として半径方向の左右方向に延長する断面三角形状の係合溝37dが形成されている。」と記載されているから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、請求項1の削除に伴い、特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、請求項1の削除に伴い、特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項4は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項のうち、請求項1の引用を削除し整合をとるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

4.むすび
上記3.のとおり、訂正事項1ないし4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1ないし6について特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、訂正事項1ないし4に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、各々「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】
電気機器に形成されたねじ端子と、被接続部材に形成された被接続端子とを電気的に接続する電気機器の接続構造であって、
前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、
前記ねじ端子は、雌ねじ部を形成した端子板と、前記雌ねじ部に螺合する端子ねじとを有し、前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、
前記被接続端子は、前記端子ねじを挿通する挿通孔を有し、前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、
前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている電気機器の接続構造。
【請求項3】
前記被接続部材は、前記被接続端子に電気的に接続されたスプリング端子を有する請求項2に記載の電気機器の接続構造。
【請求項4】
前記被接続部材を前記ねじ端子に接続した状態で当該被接続部材を覆う端子カバーを備えている請求項2又は3に記載の電気機器の接続構造。
【請求項5】
前記ねじ端子は複数設けられ、複数のねじ端子に個別に前記被接続部材が接続され、前記端子カバーは複数の前記被接続部材を纏めて覆うように構成されている請求項4に記載の電気機器の接続構造。
【請求項6】
前記被接続部材と前記端子カバーとの間に取り外し不能な抜け止め機構が設けられている請求項5に記載の電気機器の接続構造。」

第4 取消理由の概要
当審が令和4年 2月18日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、単に「取消理由通知」という。)の概要は、次のとおりである。

理由(進歩性)本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1ないし3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開平10−177870号公報(特許異議申立人の提出した 甲第1号証)
引用文献2:実公昭2−5447号公報(当審にて新たに引用した文献)
引用文献3:特開平11−354003号公報(特許異議申立人の提出した 甲第4号証)

第5 当審の判断
1.引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア「【0016】
【発明の実施の形態】この発明の一実施の形態を図1ないし図9により説明する。すなわち、この速結端子装置は、端子螺子1を有し、この端子螺子1を受ける受け孔2のある端子板3を有する電気機器4に取着されるものである。実施の形態では電気機器4が回路遮断器であり、その一端に入力側の螺子締め方式の端子装置5を設け、他端に出力側の螺子締め方式の端子装置6を設けている。電気機器4の端子装置5,6の端子板2は奥壁20および両側壁21,22により包囲されている。また端子板3の受け孔2は貫通孔であり、その裏面側に端子螺子1を螺合するナット(図示せず)を設けているが、受け孔2を螺子孔に形成してもよい。7は壁面に取付ける取付面、8は取付用凹部である。
【0017】速結端子装置は、端子接続部10と、速結端子部23と、ケース12とを有する。端子接続部10は、端子板3に重ねられて、受け孔2に整合する螺子挿通孔11を有し、端子螺子1により螺子挿通孔11を通して端子板3に取着される。実施の形態では端子接続部10を端子板3と同程度の幅をもった導電板により形成し、端子螺子1を螺子挿通孔11および受け孔2に通しナットに螺合し端子接続部10を締付け固定する。
【0018】速結端子部23は、端子接続部10に電気的機械的に接続されて、電気機器4の取付面7と反対側から取付面7に対して略垂直な方向に電線導体33を差し込ませる鎖錠ばね13を有する。実施の形態では、速結端子部23が、差し込まれた電線導体33と接触する電線導体接触板14と、この電線導体接触板14に押し付けるように電線導体33を鎖錠する鎖錠ばね13と、この鎖錠ばね13を撓めて電線導体33を解錠する解錠部材15とで構成している。電線導体接触板14は図4に示すように端片14a,14cおよび中間片14bからなる断面コ字形に形成され、その端片14aの一端で端子接続部10と略L字状をなすように一体形成している。電線導体接触板14の中間片14bの略中央に位置決め突起40を切起こしにより形成している。鎖錠ばね13は板ばねの一端を折返して鎖錠片13aを形成し、他端をZ字形に折曲して接触片13bを形成し、鎖錠ばね13を電線導体接触板14の内側に嵌め、接触片13bの折曲部分を位置決め突起40に図6に示すように係合して電線導体接触板14の端片14cとの間に保持し、電線導体33は鎖錠片13aおよび接触片13bと端片14aとの間に挿通させることとしている。図7は電線導体33を差し込んだ状態であり、鎖錠片13aおよび接触片13bが撓んで電線導体33を電線導体接触片14の端片14aに押付け、鎖錠片13aの先端が電線導体33に食い込んで抜止めし、電線導体33が接触片13bに弾接して電気的に接続される。」

イ「【図1】



ウ「【図7】



エ「【図9】



オ 摘記事項アの段落【0016】の「実施の形態では電気機器4が回路遮断器であり、その一端に入力側の螺子締め方式の端子装置5を設け、他端に出力側の螺子締め方式の端子装置6を設けている。」との記載、同段落の「・・・受け孔2のある端子板3を有する電気機器4・・・」との記載、段落【0017】の「端子接続部10は、端子板3に重ねられて、受け孔2に整合する螺子挿通孔11を有し、端子螺子1により螺子挿通孔11を通して端子板3に取着される。」との記載、及び摘記事項イの【図1】の記載から、電気機器4に形成された螺子締め方式の端子装置5と、速結端子装置に形成された端子接続部10とを接続する電気機器4の接続構造が記載されていると認められる。また、端子とは電気回路の接続をするため設けた電流の出入口なのであるから、「端子装置5」と「端子接続部10」とは電気的に接続されていると認められる。

上記ア〜エの摘記事項及び上記オの認定事項からみて、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

【引用発明】
「電気機器4に形成された螺子締め方式の端子装置5と、速結端子装置に形成された端子接続部10とを電気的に接続する電気機器4の接続構造であって、
前記螺子締め方式の端子装置5は、螺子孔を形成した端子板3と、前記螺子孔に螺合する端子螺子1とを有し、
前記端子接続部10は、前記端子螺子1を挿通する螺子挿通孔11を有する電気機器4の接続構造。」

(2)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている(引用部分の摘記において、旧漢字及びカタカナ表記は、常用漢字及びひらがな表記に置き換えた。)。

ア「従来の「ターミナル」は平面接触にして捻子に依り締付使用する為め長時間使用中動揺に依り捻子の緩みを生し為に電流の供給に故障を惹起し且つ損害を受くること少からす本案は此の如き故障を未然に防かんか為め考案せられたるものなり」(「實用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項第1〜3行)

イ「本案は第一第二及ひ第三図に示す如く「ターミナル」の接触面に(8)(9)なる互いに噛合へき突起部と溝とを一定の角度を隔てて作り第三図の如く取付(4)(5)なる捻子に依り締付けるものなり図中(1)(2)は「ターミナル」の接触部分(3)は電線の入るへき穴(6)は(7)なる電線押へ捻子の捻子穴(10)は電線(11)は両部の噛合たる状態にて(12)(13)は(4)なる捻子の通るへき穴なり」(「實用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の項第6〜8行)

ウ「第一図



エ「第二図



オ「第三図



(3)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ア「【0045】(実施形態7)本発明の実施形態7を図23〜図27を参照して説明する。但し、本実施形態の基本的な構成は実施形態1と共通するので、共通する部分には同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態の特徴となる構成についてのみ説明する。
【0046】すなわち、本実施形態は、帯板状の導電バーに差込みにより接続され各電源側端子3,4を導電バーに電気的に接続するための接続変換アダプタ30と、接続変換アダプタ30に着脱自在に装着されて各電源側端子3,4の上部を塞ぐ端子カバー24とを備え、この端子カバーが、上段の電源側端子3の側面と下段の電源側端子4とを隔離する隔壁部24cと、端子カバー24を接続変換アダプタ30に装着した状態で各電源側端子3,4の端子ねじ3a,4aに臨む一対のドライバ挿通孔24dとを具備して成る点に特徴がある。」

イ「【0049】接続変換アダプタ30は、合成樹脂のような絶縁材料により形成されたハウジング31と、導電性材料により折曲形成された変換端子部材32,33とを備えている。ハウジング31は、図23及び図24に示すように、回路遮断器のケース1に取着される方向とは反対側の側面に導電バーである中性極バー及び電圧極バーが貫通する3つの切溝34,35,36が形成されており、後述する共通端子受け刃37及び選択端子受け刃38に導電バー(中性極バー及び電圧極バー)を電気的に接続するときに分岐バーをわざわざ介さずに接続できるようになっている。
【0050】また、このハウジング31内には略コ字状の内壁(図示せず)が形成されており、各変換端子部材32,33の絶縁を図って3つの収納スペースが形成されるようになっている。この3つの収納スペースのうち上段は共通端子受け刃37を収納する共通端子収納部、中段及び下段は選択端子受け刃38を収納する選択端子収納部である。例えば、本実施形態は100V用の回路遮断器であり、選択端子受け刃38を中段の選択端子収納部に配設している。また、ハウジング31のケース1に取着される側の端部は、ケース1の電源側端子3,4が配設されている側の端部に対して凹凸係合する形状に形成されている。そして、各電源側端子3,4の端子板3b,4b及び端子ねじ3a,4a間にハウジング31から貫通する各変換端子部材32,33を差し込んだ状態で、端子ねじ3a,4aを締め付けることによって接続変換アダプタ30が電源側端子3,4に接続される。」

ウ「【0052】一方、図23に示すように、端子カバー24は合成樹脂等の絶縁材料により、接続変換アダプタ30のハウジング31に装着される装着部24aと、装着状態で電源側端子3,4の上部を塞ぐカバー部24bと、カバー部24bの下側面から垂設された平板状の隔壁部24cとが一体に形成されており、カバー部24bには装着状態で電源側端子3,4に臨む一対のドライバ挿通孔24dが穿孔されている。装着部24aは、図26に示すように断面形状略コ字形に形成されている。」

エ「【0054】而して、本実施形態によれば、図25に示すように端子カバー24を取り外した状態で接続変換アダプタ30の接続部32a,33aを各電源側端子3,4に接続することができ、分電盤内における回路遮断器の取替え作業が容易になる。また、接続変換アダプタ30の共通端子受け刃37並びに選択端子受け刃38をそれぞれ導電バーに差し込み接続した後で接続変換アダプタ30に端子カバー24を装着すれば、2つの電源側端子3,4が端子カバー24の隔壁部24cによって隔離されるため、ドライバ挿通孔24dから挿通したドライバで下段の電源側端子4の端子ねじ4aを増し締めするときにドライバの側面導電部分が上段の電源側端子3の端子ねじ3a又は端子板3bに接触することがなく、通電状態での短絡事故の発生を防ぐことができる。」

オ「【図23】



カ「【図26】



2.対比・判断
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明とを対比する。
引用発明の「電気機器4」は、本件発明2の「電気機器」に相当し、引用発明の「螺子締め方式の端子装置5」は、本件発明2の「ねじ端子」に相当し、引用発明の「速結端子装置」は、本件発明2の「被接続部材」に相当し、引用発明の「端子接続部10」は、本件発明2の「被接続端子」に相当するため、引用発明の「電気機器4に形成された螺子締め方式の端子装置5と、速結端子装置に形成された端子接続部10とを電気的に接続する電気機器4の接続構造」は、本件発明2の「電気機器に形成されたねじ端子と、被接続部材に形成された被接続端子とを電気的に接続する電気機器の接続構造」に相当する。
引用発明の「螺子孔」は、本件発明2の「雌ねじ部」に相当し、引用発明の「端子板3」は、本件発明2の「端子板」に相当し、引用発明の「端子螺子1」は、本件発明2の「端子ねじ」に相当するため、引用発明の「前記螺子締め方式の端子装置5は、螺子孔を形成した端子板3と、前記螺子孔に螺合する端子螺子1とを有」することは、本件発明2の「前記ねじ端子は、雌ねじ部を形成した端子板と、前記雌ねじ部に螺合する端子ねじとを有」することに相当する。
引用発明の「螺子挿通孔11」は、本件発明2の「挿通孔」に相当するため、引用発明の「前記端子接続部10は、前記端子螺子1を挿通する螺子挿通孔11を有する」ことは、本件発明2の「前記被接続端子は、前記端子ねじを挿通する挿通孔を有」することに相当する。
以上のとおりであるから、本件発明2と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。

【一致点1】
「電気機器に形成されたねじ端子と、被接続部材に形成された被接続端子とを電気的に接続する電気機器の接続構造であって、
前記ねじ端子は、雌ねじ部を形成した端子板と、前記雌ねじ部に螺合する端子ねじとを有し、
前記被接続端子は、前記端子ねじを挿通する挿通孔を有する電気機器の接続構造。」

【相違点1】
本件発明2では、「前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、」「前記ねじ端子は、」「前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、」「前記被接続端子は、」「前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、」「前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている」のに対し、
引用発明では、回り止め機構がない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、上記2.(2)の摘記事項ア〜オから、ターミナルの接触部分2をターミナルの接触部分1に捻子4により締め付けて固定するターミナルの接続構造において、捻子4の緩みを防止するため、ターミナルの接触部分1は、ターミナルの接触部分2との接触面に、捻子4の通るべき穴12の中心を通って捻子4の通るべき穴12の半径方向に延長する突起部8が形成され、ターミナルの接触部分2は、捻子4の通るべき穴13を有し、ターミナルの接触部分1との接触面に、捻子4の通るべき穴13の中心を通って捻子4の通るべき穴13の半径方向に延長し、突起部8に係合する溝9が形成されるように構成することが記載されている。ここで、引用文献2における接触面に突起部8及び溝9を設けて突起部8に溝9が係合した状態で捻子4により締め付けて固定する構成は、ターミナルの接触部分2のターミナルの接触部分1に対する回転を抑制すると認められるため、引用文献2に記載された突起部8及び溝9は、回り止め機能を有すると認められるが、突起部8が断面半円形状であり且つ溝9が断面三角形状であることまでは、引用文献2に記載されていない。
そうすると、引用文献2は、「前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、」「前記ねじ端子は、」「前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、」「前記被接続端子は、」「前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、」「前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている」という構成を開示するものではなく、引用文献2に記載された技術的事項を引用発明に適用しても、相違点1に係る本件発明2の構成とすることはできない。
さらに、引用文献3並びに特許異議申立人の提出した甲第2号証及び甲第3号証を含め、他に「前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、」「前記ねじ端子は、」「前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、」「前記被接続端子は、」「前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、」「前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている」という構成が本件特許の出願前に周知技術又は技術常識であったとする証拠もないことから、引用発明を相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たということはできない。
したがって、本件発明2は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3ないし6について
本件発明3ないし6は、本件発明2を引用するものであって、本件発明2の発明特定事項の全てを含むものである。
そして、上記(1)で述べたとおり、本件発明2が引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできないのであるから、本件発明3ないし6が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないことが明らかである。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1には「前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、前記ねじ端子は・・・前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、前記被接続端子は・・・前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成されている」と記載されているが、「半径方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部」及び「半径方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部」における「半径方向」の寸法を規定しておらず、どの程度の長さ「半径方向に延長する」ものであれば、「半径方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部」及び「半径方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部」に該当するのか不明であるため、当該記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である旨を主張する(第45頁第23行〜第47頁第29行)。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0036】の記載に照らせば、「回り止め機構」とは互いに係合して回り止めの機能を発揮するためのものであると認められ、回り止めの機能を発揮できないものは「回り止め機構」に該当しないのであるから、「延長」との用語が「長く延びること。長く延ばすこと。また、その延びた部分。」(広辞苑 第六版)を意味することを考慮すると、回り止めの機能を発揮できる程度に「半径方向に」延びるものであれば、「半径方向」「に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部」及び「半径方向」「に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部」に該当すると当業者であれば理解できるため、当該記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものであるから同法第113条第4号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明でもないから同法第113条第2号にも該当しないので、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により、請求項1に係る特許は削除されたので、請求項1に係る特許に対して特許異議申立人がした特許異議の申立ては申立ての対象が存在しないため不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
電気機器に形成されたねじ端子と、被接続部材に形成された被接続端子とを電気的に接続する電気機器の接続構造であって、
前記ねじ端子及び前記被接続端子に互いに係合する回り止め機構を設け、
前記ねじ端子は、雌ねじ部を形成した端子板と、前記雌ねじ部に螺合する端子ねじとを有し、前記端子板の前記被接続端子との接合面に、前記雌ねじ部の中心を通って前記雌ねじ部の半径方向のうち前記ねじ端子が並んだ方向である左右方向に延長する前記回り止め機構を構成する第1係合部が形成され、
前記被接続端子は、前記端子ねじを挿通する挿通孔を有し、前記ねじ端子との接合面に、前記挿通孔の中心を通って前記挿通孔の半径方向のうち前記左右方向に延長し、前記第1係合部に係合する前記回り止め機構を構成する第2係合部が形成され、
前記第1係合部及び前記第2係合部は、一方は断面半円形状の係合突条で構成され、他方は前記係合突条に係合する断面三角形状の係合溝で構成されている電気機器の接続構造。
【請求項3】
前記被接続部材は、前記被接続端子に電気的に接続されたスプリング端子を有する請求項2に記載の電気機器の接続構造。
【請求項4】
前記被接続部材を前記ねじ端子に接続した状態で当該被接続部材を覆う端子カバーを備えている請求項2又は3に記載の電気機器の接続構造。
【請求項5】
前記ねじ端子は複数設けられ、複数のねじ端子に個別に前記被接続部材が接続され、前記端子カバーは複数の前記被接続部材を纏めて覆うように構成されている請求項4に記載の電気機器の接続構造。
【請求項6】
前記被接続部材と前記端子カバーとの間に取り外し不能な抜け止め機構が設けられている請求項5に記載の電気機器の接続構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-01 
出願番号 P2017-227742
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01R)
P 1 651・ 121- YAA (H01R)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 尾崎 和寛
段 吉享
登録日 2021-05-10 
登録番号 6881258
権利者 富士電機機器制御株式会社
発明の名称 電気機器の接続構造  
代理人 廣瀬 一  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

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