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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12Q
管理番号 1388399
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-02 
確定日 2022-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6880692号発明「改良された腸内細菌のスクリーニング方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6880692号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6880692号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6880692号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成28年12月9日に出願(特願2016−239230号)され、令和3年5月10日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、同年6月2日である。)。
その後、同年12月2日に、本件特許の請求項1〜6に係る特許に対して、特許異議申立人である杉浦健文(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。
手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年12月 2日 特許異議申立書
令和4年 1月26日付け 取消理由通知書
同年 3月29日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月 5日付け 通知書(申立人宛)
同年 5月 6日 意見書(申立人)

2.証拠方法
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2012−50391号公報
甲第2号証:Journal of Food Protection,
2007,Vol.70(6),1366−1372
甲第3号証:Foodborne Pathogens and
Disease,2014,Vol.11(3),
207−214
甲第4号証:Japanese Journal of
Infectious Diseases,2016,
Vol.69,471−476
甲第5号証:腸内細菌遺伝子検出キット−プローブ検出−(Code
No.FIK−351)取扱説明書、TOYOBO
CO.,LTD.
甲第6号証:感染症学雑誌,2012,Vol.86,No.6,
741−748
甲第7号証:特開2016−42802号公報
(以下、上記の甲第1号証〜甲第7号証を、「甲1」〜「甲7」という。)

第2 訂正の適否
1.訂正事項
令和4年3月29日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。

特許請求の範囲の請求項1において、
「(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程」を
「(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程であって、前記プール糞便が糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液である、工程」
に訂正する。

2.一群の請求項について
訂正前の請求項2〜6は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって記載が、訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1〜6は、一群の請求項に該当するものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項〔1〜6〕に対してなされたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・
変更の存否
訂正事項は、訂正前の請求項1に記載されていた「「(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程」で用いられる「プール糞便」について、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0022】の「本発明において、プール糞便とは、1〜20v/v%で水に懸濁されたA種(Aは2以上の整数を示す。)の便懸濁液からなるものである」との記載に基づき、「糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液である」ものに限定するものであるから、当該訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

4.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

5.小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
以下、訂正後の本件発明を、項番に従い、「本件発明1」などといい、これらを総称して、「本件発明」という。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」などといい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。

「【請求項1】
糞便試料中におけるサルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)および赤痢菌の3菌種のうちいずれかの菌種の有無を検査する方法であって、次の(1)から(5) までの工程を含むことを特徴とする検査方法。
(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程であって、前記プール糞便が糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液である、工程
(2)工程(1)にて作製したプール糞便を用いて、前記3菌種をターゲットとするマルチプレックスPCRにて1次スクリーニングを行う工程であって、前記3菌種のうちの2種以上の菌種が存在する疑いがある前記プール糞便から、蛍光プローブの蛍光波長の違いを利用することにより陽性の各菌種を分離検出する、工程
(3)工程(2)によって、前記3菌種のいずれかの菌種が陽性となったプール糞便を選抜する工程
(4)工程(3)により選抜されたプール糞便に使用した個々の糞便を用いて、さらにY個(YはXよりも小さい整数を示す。)の便検体懸濁液からなるプール糞便を作成する工程
(5)工程(4)により作製したプール糞便を用いて、前記3菌種のうちいずれか1菌種をターゲットとするPCRにより2次スクリーニングを行う工程
【請求項2】
前記Xが20以上の整数である請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記Yが30以下の整数である請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
工程(2)のマルチプレックスPCRに用いる試薬に内部標準遺伝子を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の検査方法。
【請求項5】
工程(5)のPCRに用いる試薬に内部標準遺伝子を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
工程(1)のプール糞便が、糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液を、75℃から100℃で30秒から20分の熱処理を行って不活化した後、遠心して得られる熱処理検体である、請求項1から5のいずれかに記載の検査方法。」

第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
1.当審が通知した取消理由通知の概要
当審が令和4年1月26日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。

訂正前本件発明1〜6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1〜4、文献A〜Cに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、文献A〜Cは、当審により職権で追加した、以下の文献である。

A 食安監発1120第1号,平成26年11月20日
B Vita,Vol.18,No.1,2001,p.42−49
C 千葉県衛研年報,2016年,第65号,p.55−61

2.特許異議申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。

訂正前本件発明1〜6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1〜7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断
本件発明1〜6に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人による申立理由によっては、取り消すことができない、と判断する。

1.甲1に記載された事項及び引用発明
(1)甲1に記載された事項
甲1(特開2012−50391号公報)には、以下のとおりの記載がある。下線は当審で付与した。

甲1a
「【請求項1】
便検体から細菌類を検出する方法であって、
(1)細菌類由来DNAを増幅しうるプライマー対を用いたPCRを、X種(Xは2以上の整数を示す。)の便から採取された便検体からなるプール検体を含む溶液中で行う工程
を含む方法。
【請求項2】
前記工程(1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、
(2−1)前記プライマー対を用いたPCRを、前記X種の便から適宜選択したY種(YはXよりも少ない整数を示す。)の便から採取された便検体からなる第一次小分けプール検体を含む溶液中で行う工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(2−1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、
(3−1)前記プライマー対を用いたPCRを、前記Y種の便から適宜選択したZ種(ZはYよりも少ない整数を示す。)の便から採取された便検体からなる第二次小分けプール検体を含む溶液中で行う工程
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、
(2−2)生化学性状試験、血清凝集試験、及び免疫学的試験からなる群より選択される少なくとも一種の試験を、前記X種の便から適宜選択したY種の便から採取される便検体からなる第一次小分けプール検体に対して行う工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Xが、50〜100である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記Yが、5〜10である、請求項5に記載の方法。

【請求項8】
前記PCRが、二種以上の細菌類に由来するDNAをそれぞれ増幅しうるマルチプレックスPCRである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌類が、サルモネラ、ベロ毒素産生菌、及び赤痢菌を含む、請求項8に記載の方法。
…」

甲1b
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の方法に比べて迅速に、高い検出感度で、かつより客観的に細菌類を便検体から検出できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の末、細菌類由来DNAを増幅しうるプライマー対を用いたPCRを、二種以上の便から採取された便検体からなる検体(プール検体)を含む溶液中で行うと、予想外にも正確な検出が可能であることを見出した。

【発明の効果】
【0008】
本発明によって、(I)迅速に、(II)良好な検出感度で、かつ(III)客観性をもって便検体から細菌類を検出することができる。
【0009】
特に、本発明は、プール検体を用い、かつPCRによって検出するため、(1)迅速に細菌類を検出できる。また、本発明は、PCRによって検出するため、(2a)検出対象の細菌類が休眠状態にあっても検出でき、(2b)検出対象の細菌類がごく微量であっても検出できる。また、本発明は培養工程が不要のため(2c)培養工程において検出対象の細菌類が増殖しないことが原因で検出できないという問題は生じない。さらに本発明は、(3)検出対象の細菌類の有無を、目的のDNAが増幅したか否かで判定するので、客観性をもって細菌類を検出できる。」

甲1c
「【0015】
ここでいうX種の便とは、X種の個体が排泄したそれぞれの便であってもよいし、同一個体が排泄したX種の便であってもよい。Xについては、特に限定されないが、検出しようとする細菌類の検出率(100個の便から採取された便検体のうち、1個の便検体においてその細菌類が検出されるとき、検出率が1%であるとする。)に基づいて最適な数を設定することができる。便検体としてヒトの便から採取された便検体を用い、細胞侵入性タンパク質invAを標的とするPCRによってサルモネラを検出しようとする場合、サルモネラの検出率は約0.05%である。この場合、1000種の便から採取された便検体からなるプール検体を用いて検出を行えば、サルモネラが検出される確率は、1000(検体)×0.05%=50%となる。したがって、順次別々のプール検体を入れ替えて検出をすると、2回に1回の確率でサルモネラが検出されることになる。同じ場合に、100種の便から採取された便検体からなるプール検体を用いて検出を行えば、20回に1回の確率でサルモネラが検出されることになる。同じ場合に、10種の便から採取された便検体からなるプール検体を用いて検出を行えば、200回に1回の確率でサルモネラが検出されることになる。順次別々のプール検体を入れ替えて検出をする場合、どの程度の確率で目的の細菌類が検出されれば作業を効率的に進めることができるかを考慮して、プール検体に含まれる便検体の種類を決定することができる。通常は、数十回に1回の確率で目的の細菌類が検出されるようにするのが好ましい。
【0016】
例えば、便検体としてヒトの便から採取された便検体を用い、invAを標的とするPCRによってサルモネラを検出しようとする場合、50〜200種の便から採取された便検体からなるプール検体を用いて検出を行えば、10〜40回に1回の確率でサルモネラを検出できる計算になる。通常であれば検出率をこの程度とするのが好ましいので、この場合は、50〜200種の便から採取された便検体からなるプール検体を用いるのが好ましい。
【0017】
なお、二種以上の細菌類を一度に検出する場合、Xをどのように設定すべきかについても、上で説明したのと同様に決定することができる。ただし、検出しようとする細菌類のうちもっとも検出率が高いものを基準に考えるか、もっとも検出率が低いものを基準に考えるか、又は検出しようとする細菌類個々の検出率の平均値を基準に考えるかについては、場合に応じて決定することができる。

【0019】
本発明において細菌類とは、特に限定されないが、例えば、サルモネラ、病原性大腸菌、赤痢菌、カンピロバクター、ノロウイルス、黄色ブドウ球菌、リステリア、セレウス、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオ、エルシニア等が挙げられる。病原性大腸菌としては、ベロ毒素産生菌、腸管侵入性大腸菌等が挙げられる。

【0022】
PCRによってDNAの特定の部分領域が増幅されれば、検体中に細菌類が存在していると判定できる。
【0023】
DNAの特定の部分領域が増幅されたか否かは、特に限定されないが、例えばPCR後のPCR反応液を電気泳動に供すること等によって検出することができる。特に限定されないが、例えば、アガロースゲル電気泳動の他、キャピラリー電気泳動等によって検出することができる。好ましくは、PCRによってDNAの特定の部分領域が特異的に増幅(非特異的増幅は除く。)されたことを確認する。

【0035】
便検体の混合割合は、適切にPCRが行われればよく特に限定されないが、例えば、1〜10v/v%の範囲内で適宜調整することができる。

【0037】
また、本発明におけるPCRは、二種以上の細菌類に由来するDNAをそれぞれ増幅しうるマルチプレックスPCRであってもよい。マルチプレックスPCRとは、複数の標的DNA断片を増幅させるためにPCR反応液中において複数のプライマー対を混合させた状態でPCRを行うものである。緩衝液の成分、プライマーの設計及び濃度、金属塩の選択及び濃度、DNAポリメラーゼの選択及び濃度、及びdNTPの濃度、並びに温度サイクル等をはじめとするマルチプレックスPCRの諸条件は、適宜設定することができる。必要であればプライマーの濃度を通常のPCRを行う場合よりも高濃度とする。
4.小分けプール検体を便検体として細菌類を検出する工程
上述のようにX種の便から採取された便検体からなるプール検体(出発検体)に対して検出(出発検出という。)を行い、所望のDNA断片の増幅が確認されることにより細菌類が検出された場合に、X種の便から適宜選択されたY種(YはXよりも少ない整数を示す。)の便から採取される便検体からなる第一次小分けプール検体を便検体として用い、この便検体に対してさらに同じ細菌類の検出(第一次小分け検出という。)を行う方法も、本発明に含まれる。
【0038】
Yが2以上である場合であって、かつ第一次小分け検出においても目的の細菌類が検出された場合は、さらに第一次小分けプール検体を構成するY種の便から適宜選択されたZ種(ZはYよりも少ない整数を示す。)の便から採取される便検体からなる第二次小分けプール検体を便検体として用い、この便検体に対してさらに同じ細菌類の検出(第二次小分け検出という。)を行う方法も、本発明に含まれる。

【0044】
特に限定されないが、例えばYはXの5〜20分の1(具体的には例えば10分の1)とすることができる。同様に、ZはYの5〜20分の1(具体的には例えば10分の1)とすることができる。一例として、Xが、50〜100である場合、Yを5〜10、Zを1とすること等が挙げられる。」

甲1d
「【実施例】
【0045】…
実施例1
本発明の方法を用いてヒトの便検体からサルモネラ、ベロ毒素産生菌、及び赤痢菌を検出した。なお、従来技術である塗沫培養法との比較も行った。
1.塗沫培養法
次のようにして行った。採便管内の便をCT−SMAC寒天培地に塗沫し、37℃、20h培養した。培養後コロニーを採取し、生化学的性状試験及び血清凝集試験を行って判定を行った。

2.本発明の方法
(1)プール検体の調製
ヒトの便検体は次のようにして調製した。採便管内の糞便少量を、滅菌水(1mL程度)の入った試験管に懸濁したものを採便管毎に調製し、100種の便検体を等量ずつ(数μL程度)1本のチューブにプールした。95℃5min熱処理後、遠心上清を検体とした。
採便管
(2)PCR
サルモネラを検出するプライマーとして細胞侵入性タンパク質invAの遺伝子を増幅しうるプライマー対を用意した。
【0046】
ベロ毒素産生菌を検出するプライマーとしてVT1及びVT2の遺伝子をそれぞれ増幅しうる二種のプライマー対を用意した。
【0047】
赤痢菌を検出するプライマーとして病原性因子ipaHの遺伝子を増幅しうるプライマー対を用意した。
【0048】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems社製.)を使用し、全量を50lとして実施した。5μlの糞便懸濁溶液と試薬混合物(東洋紡製 Blend Taq(登録商標)−plus− 2.5U、10XPCR緩衝液5.0μl、200μMのdNTP、各々0.3μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・30秒の変性工程、55℃・30秒のアニーリング工程、72℃・30秒の伸長工程のサイクルを40回繰り返した。なお、その他のPCR条件は常法通りである(例えば、遺伝子 操作技術マニュアル、医学書院、1995年発行を参照)。
(3)検出
(2)で得られたPCR産物は、キャピラリー電気泳動によって検出した。キャピラリー電気泳動はマイクロチップ電気泳動装置MultiNA(島津社製)を使用して行った。
3.結果
従来法である塗沫培養法(1回目)では、サルモネラしか検出できなかった。これに対して、本発明の方法では、サルモネラ由来のinvAのみならず、塗沫培養法では検出されなかったベロ毒素産生菌由来のVTも検出できた。
【0049】
そこで、塗沫培養法(2回目)を再度同じ検体群に対して実施したところ、今回はベロ毒素産生菌を検出することができた。
【0050】
このように、本発明の方法によれば、従来の塗沫培養法と同等の又はより高い感度で細菌類を検出できることが実証された。
実施例2
本発明の方法を用いてヒトの便検体からサルモネラを検出した。陽性率が0.10%であることが分かっているプール検体を予め用い、出発検体を100種の便から採取された便検体からなるプール検体、第一次小分けプール検体を10種の便から採取された便検体からなるプール検体、さらに第二次小分けプール検体を1種の便から採取された便検体からなるプール検体として、出発検出、第一次小分け検出、及び第二次小分け検出を逐次行った。
1.方法
(1)プール検体の調製
ヒトの便検体は次のようにして調製した。採便管内の糞便少量を、滅菌水(1mL程度)の入った試験管に懸濁したものを採便管毎に調製し、100種の便検体を等量ずつ(数μL程度)1本のチューブにプールした。95℃5min熱処理後、遠心上清を検体とした。
(2)PCR
サルモネラを検出するプライマーとして細胞侵入性タンパク質invAの遺伝子を増幅しうるプライマー対を用意した。
【0051】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(AppliedBiosystems社製.)を使用し、全量を50μlとして実施した。5μlの糞便懸濁溶液と試薬混合物(東洋紡製BlendTaq(登録商標)−plus−2.5U、10XPCR緩衝液5.0μl、200μMのdNTP、各々0.3μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・30秒の変性工程、55℃・30秒のアニーリング工程、72℃・30秒の伸長工程のサイクルを40回繰り返した。なお、その他のPCR条件は常法通りである(例えば、遺伝子操作技術マニュアル、医学書院、1995年発行を参照)。
(3)検出
(2)で得られたPCR産物は、キャピラリー電気泳動によって検出した。キャピラリー電気泳動は実施例1と同様に行った。
2.結果
検出の結果をそれぞれ図1〜3(出発検出(図1)、第一次小分け検出(図2)、及び第二次小分け検出(図3))に示す。各図中「※」はサルモネラが検出された検体を示している。
【0052】
出発検出の結果、出発検体Dからサルモネラが検出された。続いて第一次小分け検出の結果、一つの第一次小分け検体D−6からサルモネラが検出された。最後に第二次小分け検出の結果、一つの第二次小分け検体D−6−1からサルモネラが検出された。









(2)引用発明
甲1の特許請求の範囲の請求項1、2、9の記載(甲1a)、【0023】の記載(甲1c)、及び、実施例1の【0045】〜【0048】の記載(甲1d)によると、甲1には、次の発明(以下、引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「便検体から細菌類を検出する方法であって、
(1)細菌類由来DNAを増幅しうるプライマー対を用いたPCRを、X種(Xは2以上の整数を示す。)の便から採取された便検体からなるプール検体を含む溶液中で行う工程、
(2)前記工程(1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、前記プライマー対を用いたPCRを、前記X種の便から適宜選択したY種(YはXよりも少ない整数を示す。)の便から採取された便検体からなる第一次小分けプール検体を含む溶液中で行う工程を含み、
前記細菌類が、サルモネラ、ベロ毒素産生菌、及び赤痢菌を含み、
前記便検体は糞便試料を水に懸濁し95℃5min熱処理後、遠心分離した上清であり、
キャピラリー電気泳動によってPCR産物を検出する、方法。」

2.当審が通知した取消理由の検討
(1)本件発明1と引用発明の対比
本件発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「便検体から細菌類を検出する方法であって、」「前記細菌類が、サルモネラ、ベロ毒素産生菌、及び赤痢菌を含サルモネラ、ベロ毒素産生菌、及び赤痢菌を含」む方法は、本件発明1の「糞便試料中におけるサルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)および赤痢菌の3菌種のうちいずれかの菌種の有無を検査する方法」に相当する。
引用発明の「X種(Xは2以上の整数を示す。)の便から採取された便検体からなるプール検体」は、本件発明1の「X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし」た「プール糞便」に相当する。
引用発明の「工程(1)においてDNAが増幅された場合」は、本件発明1の「工程(2)によって」「菌種が陽性となった」場合に相当するから、「工程(1)においてDNAが増幅された場合に」「前記X種の便から適宜選択したY種(YはXよりも少ない整数を示す。)の便から採取された便検体からなる第一次小分けプール検体」は、本件発明1の「菌種が陽性となったプール糞便を選抜する工程」「により選抜されたプール糞便に使用した個々の糞便を用いて、さらにY個(YはXよりも小さい整数を示す。)の便検体懸濁液からなるプール糞便Y個(YはXよりも小さい整数を示す。)の便検体懸濁液からなるプール糞便」に相当する。
引用発明の「(1)細菌類由来DNAを増幅しうるプライマー対を用いたPCRを」「溶液中で行う工程」、「(2)前記工程(1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、前記プライマー対を用いたPCRを」「第一次小分けプール検体を含む溶液中で行う工程」は、本件発明1の「PCRにて1次スクリーニングを行う工程」、「工程(4)により作製したプール糞便を用いて」「PCRにより2次スクリーニングを行う工程」にそれぞれ相当する。

以上からすると、本件発明1と引用発明は、
「糞便試料中におけるサルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)および赤痢菌の3菌種のうちいずれかの菌種の有無を検査する方法であって、次の(1)から(5)までの工程を含むことを特徴とする検査方法。
(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程
(2)工程(1)にて作製したプール糞便を用いて、PCRにて1次スクリーニングを行う工程であって、前記プール糞便から、陽性の菌種を分離検出する、工程
(3)工程(2)によって、菌種が陽性となったプール糞便を選抜する工程
(4)工程(3)により選抜されたプール糞便に使用した糞便を用いて、さらにY個(YはXよりも小さい整数を示す。)の便検体懸濁液からなるプール糞便を作成する工程
(5)工程(4)により作製したプール糞便を用いて、PCRにより2次スクリーニングを行う工程」で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1では、「工程(2)によって、前記3菌種のいずれかの菌種が陽性となったプール糞便を選抜」し、「選抜されたプール糞便に使用した個々の糞便を用いて」「プール糞便を作成」して、「3菌種のうちいずれか1菌種をターゲットとするPCRにより2次スクリーニング」を行っているのに対して、
引用発明では、「工程(1)においてDNAが増幅された場合に」、工程(1)で記載した「プライマー対を用いたPCR」を「第一次小分けプール検体を含む溶液中で行」っている点

<相違点2>
本件発明1では、「3菌種をターゲットとするマルチプレックスPCRにて1次スクリーニングを行」い「3菌種のうちの2種以上の菌種が存在する疑いがある前記プール糞便から、蛍光プローブの蛍光波長の違いを利用することにより陽性の各菌種を分離検出」しているのに対して、
引用発明では、「3菌種をターゲットとするマルチプレックスPCR」を用いることの特定はなく、「キャピラリー電気泳動によってPCR産物を検出」して細菌類の検出を行っている点

<相違点3>
本件発明1では、工程(1)のプール糞便について、「糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液である」と規定しているのに対して、
引用発明では、工程(1)のプール検体における便の濃度が特定されていない点

(2)本件発明1の進歩性の検討
ア.相違点1の容易想到性の検討
甲1の請求項2には、「前記工程(1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、(2−1)前記プライマー対を用いたPCRを…第一次小分けプール検体を含む溶液中で行う」(甲1a)、請求項3には、「前記工程(2−1)においてDNAが増幅された場合に、さらに、(3−1)前記プライマー対を用いたPCRを…第二次小分けプール検体を含む溶液中で行う」(甲1a)、【0037】には、「X種の便から適宜選択されたY種…の便から採取される便検体からなる第一次小分けプール検体を便検体として用い、この便検体に対してさらに同じ細菌類の検出(第一次小分け検出という。)を行う方法も、本発明に含まれる。」(甲1c)、【0038】には、「Y種の便から適宜選択されたZ種(ZはYよりも少ない整数を示す。)の便から採取される便検体からなる第二次小分けプール検体を便検体として用い、この便検体に対してさらに同じ細菌類の検出(第二次小分け検出という。)を行う方法も、本発明に含まれる。」(甲1c)との記載がある(下線は当審で付与した。)。
そして、これらの記載事項を具体化した実施例2(【0050】〜【0052】)においても、「サルモネラを検出するプライマー」の「プライマー対」を用いて、「出発検体を100種の便、から採取された便検体からなるプール検体、第一次小分けプール検体を10種の便から採取された便検体からなるプール検体、さらに第二次小分けプール検体を1種の便から採取された便検体からなるプール検体として、出発検出、第一次小分け検出、及び第二次小分け検出を逐次行った」こと、「出発検体Dからサルモネラが検出された。続いて第一次小分け検出の結果、一つの第一次小分け検体D−6からサルモネラが検出された。最後に第二次小分け検出の結果、一つの第二次小分け検体D−6−1からサルモネラが検出された。」ことが記載されており(甲1d)(下線は当審で付与した。)、出発プール検体、第一次小分けプール検体、第二次小分けプール検体の全てで、同じプライマー対を用い、同じ細菌類の検出が行われている。
そうすると、甲1には、引用発明の工程(1)と工程(2)において、異なるプライマー対を用い、異なる細菌類を検出することが記載も示唆もされていないといえるから、甲1の記載事項に基づいて、引用発明の工程(1)で、3菌種の菌種の検出を行い、工程(2)で、3菌種のうち工程(1)で陽性となったいずれか1菌種の検出を行うことを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

ここで、申立人は、令和4年5月6日付け意見書において、a)「甲1の段落【0040】に「第一次以降の小分け検出においては、細菌類の検出を、出発検出におけるのと同様にPCRで行ってもよいし、生化学性状試験、血清凝集試験、及び免疫学的試験からなる群より選択される少なくとも一種の試験によって行ってもよい。」と記載されているように、小分け検出(2次スクリーニング)に使用できる検出手段は何ら限定されていない」点(3頁25行〜30行)、b)「甲1の請求項2には、「前記プライマー対を用いたPCR」との記載はあるものの、特許権者が意見書で述べるような「全て同じプライマー対を使用する」ことまでの記載は無い」点(3頁33行〜35行)を理由に挙げ、「1次スクリーニングで3菌種をターゲットとするマルチプレックスPCRで行い、DNAが増幅された場合に、次に行う2次スクリーニングでは1菌種をターゲットとするPCRを行うことに困難性は無く当然であるし、甲1の記載の範囲内である。」(4頁18行〜22行)と主張している。
しかるところ、甲1の【0040】の記載は、出発プール検体で検出した細菌類とは異なる細菌類の検出を、第一次小分けプール検体、第二次小分けプール検体で行うことを示唆するものではないし、甲1の【0037】、【0038】、実施例2(【0050】〜【0052】)では、いずれも出発プール検体、第一次小分けプール検体、第二次小分けプール検体で、同じ細菌類の検出を行うこと、すなわち、全て同じプライマー対を使用することが記載されているので、申立人が挙げた上記a)、b)の点は、引用発明の工程(1)で、3菌種の菌種の検出を行い、工程(2)で、3菌種のうち工程(1)で陽性となったいずれか1菌種の検出を行うことが甲1の記載の範囲内であることやこのことが当業者にとって困難性は無く、当然であることを根拠付けるものとは認められない。
したがって、申立人の上記主張は、理由がない。

一方、甲2には、「プライマーおよび蛍光プローブ」を用いた「マルチプレックスリアルタイムPCRおよび免疫磁気分離による牛挽肉中の大腸菌O157:H7、サルモネラ菌、および赤痢菌の迅速かつ同時の定量」に関する記載(甲2抄訳)、甲3には、「2種の蛍光体で混合標識化された」「プローブ」と「プライマー」を用いた「一反応における8種の食中毒病原菌の同時検出のための改変モレキュラービーコンに基づくマルチプレックスリアルタイムPCRアッセイ及びその応用」に関する記載(甲3抄訳)、甲4には、「レポーター6−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)および蛍光消光物質6−カルボキシテトラメチルローダミン(6−TAMRA)で標識された」「プローブ」および「特異的プライマー」を用いた「ヒト糞便中の食中毒病原細菌を検出するための迅速かつ簡便なリアルタイムPCRアッセイ」に関する記載(甲4抄訳)、文献A〜Cには、甲2〜4と同様の蛍光プローブを用いた食中毒菌の検出・特定に関する記載などがある。
しかしながら、甲2〜4、文献A〜Cのいずれにも、引用発明において、工程(1)で、3菌種の菌種の検出を行い、工程(2)で、3菌種のうち工程(1)で陽性となったいずれか1菌種の検出を行うことを当業者に動機付ける記載や示唆は何ら見当たらない。
したがって、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲1〜4,文献A〜Cの記載事項に基づいても当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

イ.本件発明1の効果の検討
本件明細書の【0015】の「本発明者らは…プール糞便からマルチプレックスPCR法を用いて一次スクリーニングを行った後、陽性プールのみを対象に二次スクリーニングを実施することで、陽性検体の絞り込みが容易に可能であることを見出した。また、一次スクリーニングに、蛍光プローブを用いて各菌種を分離検出できる方法を採用することで、より効率よくスクリーニングが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った」との記載によると、本件発明1は、相違点1、2で挙げた本件発明1の発明特定事項を組み合わせることで、本件明細書の【0017】に記載された「より多くの陰性検体を早期に確定することができ…検査の効率化が可能である。」との効果(以下、「本件発明の効果」という。)を奏するものと認められる。
これに対し、甲1の【0023】には、「DNAの特定の部分領域が増幅されたか否かは、特に限定されないが、例えばPCR後のPCR反応液を電気泳動に供すること等によって検出」されると記載され、陰性検体の早期確定に劣る検出方法のみが例示されるから(甲1c)、引用発明が「より多くの陰性検体を早期に確定すること」を念頭に置いた発明であるとは認められない。加えて、甲2〜4、文献A〜Cを参照しても、プール糞便を用いて一次スクリーニングと二次スクリーニングを行うことの記載はなく、これらの証拠からは「より多くの陰性検体を早期に確定する」という本件発明の効果が甲2〜4、文献A〜Cにおいて認識されていたとは認められない。
したがって、本件発明1の効果は、甲1〜4、文献A〜Cの記載事項に基づき、当業者が期待し、予測し得るものとは評価できない。

ウ.小括
以上からすると、本件発明1は、相違点2、3について検討するまでもなく、引用発明、すなわち甲1に記載された発明に甲1〜4、文献A〜Cの記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜6の進歩性の検討
本件発明2〜6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜6は、甲1に記載された発明に甲1〜4、文献A〜Cの記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)当審が通知した取消理由の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由により取り消すことはできない。

3.取消理由通知書で採用しなかった申立理由について
申立人による申立理由と当審が取消理由通知書で通知した取消理由は、甲1を主引例とする訂正前本件発明1〜6の進歩性欠如で共通している。
もっとも、申立人は、取消理由で採用した甲1〜4に加え、甲5〜7を副引用例に提示しているので、甲5〜7の記載事項を勘案した、本件発明1〜6の進歩性の検討を、以下で行う。
甲5は、頒布日が記載されていない「腸内細菌遺伝子検出キット−プローブ検出―」に関する取扱説明書であり、甲5には、「プローブ法の採用により、複数の菌種が感染したプール検体(共感染検体) において複数菌種を同時に検出することが可能になりました」などと記載されている。
甲6、甲7には、混合糞便検体(プール検体)からのマルチプレックスPCR(直接PCR)と融解曲線解析(MCA)を用いた検出方法により食中毒3菌種(ベロ毒素産生菌、サルモネラ属菌、赤痢菌)を同時検出すること、混合糞便検体(プール検体)が、糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液を、75℃から100℃で30秒から20分の熱処理を行って不活化した後、遠心して得られる熱処理検体であることなどが記載されている。
しかし、甲1〜4、文献A〜Cと同様に、甲5〜7のいずれにも、引用発明において、工程(1)で、3菌種の菌種の検出を行い、工程(2)で、3菌種のうち工程(1)で陽性となったいずれか1菌種の検出を行うことを当業者に動機付ける記載や示唆は何ら見当たらないし、甲5〜7には、プール糞便を用いて一次スクリーニングと二次スクリーニングを行うことの記載や示唆もないから、甲5〜7において「より多くの陰性検体を早期に確定する」という本件発明の効果が認識されていたとも認められない。
したがって、本件発明1〜6は、引用発明、すなわち甲1に記載された発明に甲1〜7、文献A〜Cの記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立人による申立理由は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。
本件特許の請求項1〜6に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便試料中におけるサルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)および赤痢菌の3菌種のうちいずれかの菌種の有無を検査する方法であって、次の(1)から(5)までの工程を含むことを特徴とする検査方法。
(1)X個(Xは10以上の整数を示す。)の便検体懸濁液をプールし、プール糞便を作製する工程であって、前記プール糞便が糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液である、工程
(2)工程(1)にて作製したプール糞便を用いて、前記3菌種をターゲットとするマルチプレックスPCRにて1次スクリーニングを行う工程であって、前記3菌種のうちの2種以上の菌種が存在する疑いがある前記プール糞便から、蛍光プローブの蛍光波長の違いを利用することにより陽性の各菌種を分離検出する、工程
(3)工程(2)によって、前記3菌種のいずれかの菌種が陽性となったプール糞便を選抜する工程
(4)工程(3)により選抜されたプール糞便に使用した個々の糞便を用いて、さらにY個(YはXよりも小さい整数を示す。)の便検体懸濁液からなるプール糞便を作成する工程
(5)工程(4)により作製したプール糞便を用いて、前記3菌種のうちいずれか1菌種をターゲットとするPCRにより2次スクリーニングを行う工程
【請求項2】
前記Xが20以上の整数である請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記Yが30以下の整数である請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
工程(2)のマルチプレックスPCRに用いる試薬に内部標準遺伝子を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の検査方法。
【請求項5】
工程(5)のPCRに用いる試薬に内部標準遺伝子を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
工程(1)のプール糞便が、糞便試料を1〜20v/v%濃度で含む便検体懸濁液を、75℃から100℃で30秒から20分の熱処理を行って不活化した後、遠心して得られる熱処理検体である、請求項1から5のいずれかに記載の検査方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-21 
出願番号 P2016-239230
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12Q)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 上條 肇
特許庁審判官 伊藤 良子
福井 悟
登録日 2021-05-10 
登録番号 6880692
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 改良された腸内細菌のスクリーニング方法  

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