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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A41D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41D
管理番号 1388404
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-27 
確定日 2022-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6951205号発明「スパイダーシルク(spider silk)を含む衣料品または靴」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6951205号の請求項1〜16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6951205号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜16に係る特許についての出願は、平成29年11月15日(パリ条約による優先権主張 平成28年11月16日 ドイツ)を出願日とする出願であって、令和3年9月28日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和3年10月20日)がされ、その後、その特許について、令和3年12月27日に特許異議申立人アムシルク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜16に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(各発明を以下「本件発明1」のようにいう。)
【請求項1】
内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成し、
前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む、
衣料品または靴。
【請求項2】
前記第1の布地が前記第2の布地よりも小さな編み目を含む、請求項1に記載の衣料品または靴。
【請求項3】
前記第1の布地または前記第2の布地が、スパイダーシルクの繊維を含む不織布から成る、請求項1または2に記載の衣料品または靴。
【請求項4】
スパイダーシルクを含む複数の可剥性の層を含む、請求項1から3のいずれかに記載の衣料品または靴。
【請求項5】
前記第1の布地が、前記衣料品または靴に組み込まれる前に、水に晒すことによって縮められる、請求項1から4のいずれかに記載の衣料品または靴。
【請求項6】
前記第1のヤーンが、前記第1の布地を形成するために使用する前に縮められる、請求項1から5のいずれかに記載の衣料品または靴。
【請求項7】
前記第1のヤーンが、それを水槽を通過させることによって縮められる、請求項6に記載の衣料品または靴。
【請求項8】
前記第1のヤーンが、本質的にスパイダーシルクだけを含む、請求項7に記載の衣料品または靴)。
【請求項9】
前記第1のヤーンが、スパイダーシルクと異なる第2の材料を含む、請求項1から7のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項10】
前記スパイダーシルクおよび前記第2の材料が共押出される、請求項9に記載の衣料品または靴。
【請求項11】
前記第1のヤーンが嵩高加工された、請求項1から10のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項12】
前記第1の布地が、編物、織物または不織布である、請求項1から11のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項13】
前記内表面の前記領域が、スパイダーシルクを含む被覆を含む、請求項1から12のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項14】
前記内表面が、内張りの一部である、請求項1から13のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項15】
スパイダーシルクを含む外表面をさらに含む、請求項1から14のいずれか1つに記載の衣料品または靴。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1つに記載の衣料品または靴を製造する方法であって、前記衣料品または靴の内表面を提供するステップと、前記内表面の領域にスパイダーシルクを提供するステップとを含む、方法。

第3 特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立ての概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第9号証(以下「甲1」〜「甲9」という。)を提出して、以下の理由を申立てている。
甲1:米国特許出願公開第2016/0286898号明細書
甲2:米国特許出願公開第2015/0056256号明細書
甲3:特表2013−512773号公報
甲4:特表2015−532690号公報
甲5:特開2000−313082号公報
甲6:実願平5−72664号(実開平7−37147号)のCD−ROM
甲7:英国特許出願公開第2534181号明細書
甲8:特表2004−502050号公報
甲9:国際公開第2015/117646号

(1)進歩性に係る申立理由
ア 甲1を主引用例とする理由
イ 甲2を主引用例とする理由
ウ 甲7を主引用例とする理由
エ 甲8を主引用例とする理由
オ 甲9を主引用例とする理由

(2)記載不備に係る申立理由
ア 請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」との事項、「前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、」との事項について
(ア)請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」との事項は、
1)スパイダーシルクヤーン(すなわち、スパイダーシルクを含むヤーン)の割合、2)ヤーンに含まれるスパイダーシルクタンパク質の割合、および3)布地に含まれるスパイダーシルクタンパク質の割合を指す可能性があるものの、いずれを指しているのか明確でない。
(イ)発明の詳細な説明には、第1の布地が100%のスパイダーシルクを含む(スパイダーシルクを含むヤーン(第1のヤーン)の割合が100%である、または第1の布地に含まれるスパイダーシルクタンパク質の割合が100%である)場合に、第1の布地がスパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含む構成がどのようなものであるか、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載がなされていない。
(ウ)上記(ア)の1)の場合には、ヤーンに含まれるスパイダーシルクタンパク質の割合が相当に小さい場合には、所定の効果(悪臭対策、汗の管理)を達成することができないし、2)の場合には、スパイダーシルクを所定の割合で含むヤーンが第1の布地に占める割合が小さくて所定の効果を達成することができない形態が含まれることとなり、請求項1には、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が含まれることとなる。
(エ)第1の布地が100%のスパイダーシルクを含むときには、第1の布地はスパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含むことができないにもかかわらず、第2のヤーンが必須の特定事項として記載されているために、請求項1の記載に矛盾が生じており、明確でない。
イ 請求項1の「50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」と同様に「前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む、」との事項は明確でない。
ウ スパイダーシルクの割合を示す単位として「%」が用いられているが、質量基準であるのか体積基準であるのか明確でない。
エ 第1の布地に含まれる第1のヤーンおよび/または第2のヤーンが、請求項13の「スパイダーシルクを含む被覆」の対象であるのか、あるいは請求項1で特定される「第1の布地」それ自体が「スパイダーシルクを含む被覆」の対象であるのか、請求項13の記載からは明確ではない。

2.記載不備に係る申立理由についての判断
事案に鑑み、記載不備に係る申立理由より検討する。
(1)上記1.(2)アの申立理由について
ア 上記1.(2)ア(ア)について
請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」との事項は、「第1の布地」が、「スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含」むこと、及び「50%〜100%のスパイダーシルクを含」むことを意味すると理解できる。これは、請求項1に、「前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む、」とも記載されており、この記載が、「第2の布地」が、「10%〜65%のスパイダーシルクを含む」ことを意味することが明らかであり、請求項1の記載が、第1の布地と第2の布地のスパーダーシルクの含有率を対比して記載していることとも整合する。
また、この事項は、本件特許に係る令和3年8月6日の手続補正で請求項1に加えられた事項であるが、その補正の根拠として、発明の詳細な説明の段落【0019】を挙げ、そこには、「特に、布地を30%〜100%のスパイダーシルク、より特定すると40%〜100%のスパイダーシルクで形成してもよい。一般に、スパイダーシルクの量は特定の用途に依存する可能性があり、着用者の皮膚に近い場合は、50%〜100%でもよく、皮膚からより遠く引張強さの目的では10%〜75%、例えば衣料品または靴の外層では10%〜65%の間でもよい。」と記載され、「布地」自体のスパイダーシルクの含有量を示している。
よって、請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」との事項は、「第1の布地」が「50%〜100%のスパイダーシルクを含」むことを意味すると理解でき、その理解は、発明の詳細な説明における記載とも整合するから、請求項1は明確である。
イ 上記1.(2)ア(イ)について
請求項1は、「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」かつ「前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含」むものである。これは、「第1の布地」が「スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含」む場合、「第1の布地」の一部に「スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーン」を含み、スパーダーシルクが第1の布の「50%〜100%」の範囲内で含まれるとしたものであり、「50%〜100%」の範囲を満たす第1の布を製造することは当業者であればできるから、実施することができるものといえる。
ウ 上記1.(2)ア(ウ)について
上述のように、請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」との事項は、「第1の布地」が「50%〜100%のスパイダーシルクを含」むことを意味するものであるから、「着用者の皮膚と接触するように配置され」た「第1の布地」は、所定量のスパイダーシルクを含み、「悪臭形成の問題を克服または少なくとも低減する」(本件明細書の段落【0006】)という発明の課題を解決し得ると認識できるものである。
よって、申立人がいうような、ヤーンに含まれるスパイダーシルクタンパク質の割合が相当に小さく、所定の効果(悪臭対策、汗の管理)を達成することができないことはなく、また、スパイダーシルクを所定の割合で含むヤーンが第1の布地に占める割合が小さく、所定の効果を達成することができないということもない。
エ 上記1.(2)ア(エ)について
上述のように、請求項1の「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、」「前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、」との事項は、「第1の布地」が「スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含」む場合、「第1の布地」の一部に「スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーン」を含み、スパーダーシルクは第1の布の100%含まれることにならないが、「50%〜100%」の範囲内で含まれるものと理解できるから、請求項1の記載に何ら矛盾はない。

(2)上記1.(2)イの申立理由について
請求項1の「前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む、」との事項は、「第2の布地」が「10%〜65%のスパイダーシルクを含む」ことを意味するものと理解でき、この理解は、本件明細書の段落【0019】の上記記載とも整合する。

(3)上記1.(2)ウの申立理由について
請求項1には、「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み」、「前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」と記載されているが、技術常識を考慮すれば、それぞれの割合が布地の質量におけるスパイダーシルクの割合を意味することは明らかであり、布地の体積における割合であることを示す記載はない。
よって、請求項1の記載は明確である。

(4)上記1.(2)エの申立理由について
請求項1には、「衣料品または靴」の「前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含」み、「前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され」ると特定されるから、衣料品または靴の内表面の少なくとも一部は第1の布地によって形成され、第1の布地は、スパイダーシルクを含む領域を含むものと理解できる。
請求項13は、「前記内表面の前記領域」が、「スパイダーシルクを含む被覆を含む」ことを特定するから、「スパイダーシルクを含む被覆」の対象は、そのような「前記内表面の前記領域」を含む「第1の布地」であることは明らかである。
よって、請求項13の記載は明確である。

(5)記載不備に係る申立理由についてのまとめ
以上より、申立人の主張する記載不備に係る申立理由は、いずれも理由がない。

3.進歩性に係る申立理由についての判断
(1)甲1、甲2、甲7、甲8及び甲9の記載事項等
ア 甲1の記載事項、甲1に記載された発明
(ア)甲1には、次の事項が記載されている(和訳は、申立人が提出したものを基に作成したものである)。
「技術分野
[0002] 本発明は、スポーツシューズ用シューアッパー、スポーツシューズ、およびスポーツシューズ用シューアッパーの製造方法に関する。」
「[0063] 一般に、本発明の文脈では、任意のタイプの材料のヤーンおよび/または縫糸、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリル、絹、綿、炭素、ガラス、玄武岩、アラミド(例えば、パラアラミド繊維およびメタアラミド繊維)、超高分子量ポリエチレン、液晶高分子、銅、アルミニウム、鋼、タンパク質などの生体材料(例えば、スパイダーシルク)を使用することができる。一部のヤーンは上記の異なる材料を含むことができ、または異なる材料の複数本のヤーンを、縫糸の同じステッチでキャリア層に共に配置することができる。」
「[0137] 図3の実施形態に関して示したように、複数本のヤーン5を使用する場合、これらを層に配置してもよい。図3の実施形態では、第1のヤーン5aが第1の層8aを形成し、これは、実質的に、すなわち製造公差および場合により避けられない残留ヤーンを除いて、シューアッパー3の形状に対応し、第2のヤーン5bは、第1の層8aの上に配置される第2の層8bを形成する。したがって、第1の層8aは、実質的にシューアッパー3全体に配置されるが、第2の層8bはシューアッパー3の部分的な領域に配置される。」
「[0139] 第2の層8bを、シューアッパー3の選択された位置に配置してもよい。例えば、さらにより詳細に説明する図4aの実施形態では、第2の層8bを、踵領域9および中足領域10のみで第1の層8aの上に配置する。足首(図示せず)を越えて延びる、本発明のシューアッパーでは、第2の層が腫の領域に配置されることも考えられる。実質的に、第1のヤーンのセクションおよび/または第2のヤーンのセクションを第2の層に配置することができる。」
「図3


(イ)上記記載事項からみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
《甲1発明》
「第1のヤーン5aが第1の層8aを形成して、シューアッパー3の形状に対応し、第2のヤーン5bは、第1の層8aの上に配置される第2の層8bを形成して、第2の層8bはシューアッパー3の踵領域9および中足領域10の部分的な領域に配置される、スポーツシューズ。」

イ 甲2の記載事項、甲2に記載された発明
(ア)甲2には、次の事項が記載されている(和訳は、申立人が提出したものを基に作成したものである)。
「[0018] 遺伝子組み換え生物由来または遺伝子組み換え生物由来のスパイダーシルクタンパク質の湿式または電界紡糸により得られた、1本、2本、またはそれ以上の(組み換え)スパイダーシルクフィラメントを、本発明の方法で処理し、撚り合わせ、編み込み、またはケーブル化することにより、とりわけ代替品よりも強く、用途に応じて最適化された、スパイダーシルク糸が作られる。」
「[0022] 上述のスパイダーシルク糸に基づく織物および/または支持構造物の製造は、現在の代替品よりもはるかに強く、はるかに柔軟な素材という結果となる。」
「[0037] 図3a〜3c 織られたスパイダーシルク糸の複数の層11,12,13で作成され、数滴の接着剤15で互いに結合された、三次元織物。図3aは、三次元織物の分離した層を示し、図3bは、限られた量の接着剤で結合した2つの層の重なりを示し、図3cは、接着剤を含む3つの層からなる三次元生地の断面を示す。」
「例10
[0099] シャツ、セーター、下着、寝間着、アウターウェア、ランジェリー、ブラジャー、シャツ、ブレザー/ジャケット、 ドレス/スカート、ズボン、ネクタイ、靴下、タイツ、スカーフ、帽子、コルセット、ウェデイングドレス、サスペンダー、ベビー服、オーバーオール、レギンスなどの衣料品や、靴、スニーカー、ブーツなどの履物に使用される、より軽く、より柔軟で、より強い織物構造体。」
「図3a〜3c


(イ)上記記載事項からみて、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
《甲2発明》
「織られたスパイダーシルク糸の複数の層11,12,13で作成され、数滴の接着剤15で互いに結合された、衣料品や、靴、スニーカー、ブーツなどの履物に使用される、より軽く、より柔軟で、より強い織物構造体。」

ウ 甲7の記載事項、甲7に記載された発明
(ア)甲7には、次の事項が記載されている(和訳は、申立人が提出したものを基に作成したものである)。
「発明の属する技術分野
本発明は、保護要素を含む衣服、特にスポーツ衣服、特にサイクリングショーツで使用するものに関する。」(1頁3〜5行)
「本発明の一実施形態によれば、保護要素には3つの二次元スペーサー布地があり、第1の三次元スペーサー織物は着用者の皮膚に接触し、第3の三次元スペーサー布地は着用者が座っているサドルなどの表面に接触し、第2の三次元スペーサー織物は第1及び第3の三次元スペーサー織物の間の障壁として働き、表面に対してパッドによる保護として作用している。
典型的な実施形態によれば、スポーツ衣服はサイクリングショーツである。
本明細書及び添付の請求項において、保護要素における各三次元スペーサー布地はそれぞれ独立して、少なくとも第1、第2及び第3の布地の層からなる。」(4頁4〜18行)
「典型的には、第1の布地は、60℃で最大約4%の洗濯安定性を有し、第2の布地は、40℃で最大約3%の洗濯安定性を有し、第3の布地は、40℃で最大約5%の洗濯安定性を有している。
良好な洗濯安定性を示す保護要素は、スポーツ衣服を高温で洗濯することを可能にし、したがって、使用中に発生し得るあらゆる細菌の蓄積を大幅に減らし、それゆえ、本発明の使用を通じて付与される健康上の利点を促進する。
一実施形態によれば、本発明の保護要素は、少なくとも1種類のポリマーのみから構成されてもよく、好ましい実施形態では、ポリエステルである。保護要素を構成する単一のタイプのポリマーのみ有することにより、製品を容易にリサイクルすることができる。これにより、材料が埋立地に送られることを回避することができ、これは明らかな環境上の利点を有する。
本発明の保護要素の布地を構成するために使用されるポリマーは、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)などの熱可塑性合成繊維を含むがこれらに限定されない、任意の適切な材料であってよい。
好ましい実施形態では、保護要素の第1、第2及び第3の布地は、ポリエステルからなる。
あるいは、第3の布地は、30〜70%、好ましくは40〜60%、最も好ましくは50%のマイクロポリアミド;20〜50%、好ましくは30〜40%、最も好ましくは35%のポリエステル;及び5〜25%、好ましくは10〜20%、最も好ましくは15%のライクラからなる組成を有していてもよい。」(5頁5〜25行)
(イ)上記記載事項からみて、甲7には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。なお、「ライクラ」がポリウレタンからなる繊維であることは技術常識である。
《甲7発明》
「第1の布地は着用者の皮膚に接触し、第3の布地は着用者が座っているサドルなどの表面に接触し、第2の布地は第1及び第3の布地の間の障壁として働き、表面に対してパッドによる保護として作用し、第1、第2及び第3の布地は、好ましくはポリエステルからなり、第3の布地は、30〜70%、好ましくは40〜60%、最も好ましくは50%のマイクロポリアミド;20〜50%、好ましくは30〜40%、最も好ましくは35%のポリエステル;及び5〜25%、好ましくは10〜20%、最も好ましくは15%のライクラ(ポリウレタン)からなる組成を有していてもよい、サイクリングショーツ。」

エ 甲8の記載事項、甲8に記載された発明
(ア)甲8には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、外部シェルと内部シェルを含む衣料品アセンブリ及び該アセンブリで使用するためのライナーに関する。特に、本発明は、内部ライナーが耐水性かつ透湿性で、外部シェルが固定されているか又は交換可能な衣料品アセンブリに関する。」
「【0007】
特に、本発明は、
- 内部ライナーをとり囲む外部シェル;
- 第1の側面と第2の側面をもつ耐水透湿性材料を含み、該第1の側面が外部シェルに面し、該第1の側面に耐摩耗性重合体材料の不連続パターンが具備されている、内部ライナー、
を含んで成る衣料品を提供する。」
「【0010】
外部シェルを、内部ライナーに固定することもできる。しかしながら、特に好ましい実施形態においては、外部シェルは取外し及び取換えが可能である。例えば、各々色又は生地が異なるか又は各々に異なるロゴ又は文言のついた一定数の外部シェルを具備することができる。例えば、救急現場にやってくる救急医療師がその内部ライナー上に、「主任」といったような特別の文言を記した外部シェルを取付ける可能性もある。」
「【0018】
従来の繊維製品ライニングを、ライナ材料の第2の側面つまり内部側面に積層することが可能である。」
「【0028】
外部シェル4に適した生地としては、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アラミド及びメラミンを含む任意の適切な繊維のフィラメント、ステープル又はその配合物が含まれる。これらは、ニット、織布、不織布、含浸織地又は多孔質被覆織地でありうる。一般的に、生地は、4000〜19000g/m2/24時間の範囲内の透湿度(MVTR)を有する。
【0029】
外部シェルのための好ましい材料は、撥水加工処理を受けた(MVTR19000g/m2/24時間)の65%ポリエステル、35%綿の綾織配合織物(重量300g/m2)である。」
「【0034】
内部ライナーの内部面に積層されているのは、見た目に美しい繊維製品材料であり、ナイロン、アラミド、メラミン、アクリルを含む任意のタイプの繊維による任意の織布、ニット又は不織布材料であってよい。標準的には、繊維製品ライニング30は、約110g/m2の質量をもつ100%ポリエステルのたて編スエード材料である。」
(イ)上記記載事項からみて、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
《甲8発明》
「内部ライナーをとり囲む外部シェルと、第1の側面と第2の側面をもつ耐水透湿性材料を含み、該第1の側面が外部シェルに面し、該第1の側面に耐摩耗性重合体材料の不連続パターンが具備されている、内部ライナーを含んで成る衣料品であって、
外部シェルのための好ましい材料は、撥水加工処理を受けた、65%ポリエステル、35%綿の綾織配合織物であり、
内部ライナーの内部面に繊維製品ライニングが積層され、ナイロン、アラミド、メラミン、アクリルを含む任意のタイプの繊維による任意の織布、ニット又は不織布材料であってよく、標準的には、100%ポリエステルのたて編スエード材料からなる、衣料品。」

オ 甲9の記載事項、甲9に記載された発明
(ア)甲9には、次の事項が記載されている(和訳は、申立人が提出したものを基に作成したものである)。
「本発明は、一般に、スポーツ衣料の分野に関するものである。より詳細には、水上スポーツ活動用、特に競泳用のスイムスーツまたは水着に関する。」(1頁3〜5行)
「本発明の一態様によれば、スイムスーツ1は、外部シェル2に連続的に接続され、使用時に大腿後面筋を覆う大腿部7の大腿後部領域9から、使用時に臀部を覆う体幹部の体幹後部領域にわたって大腿部7のそれぞれの一方の概ね軸方向または長手方向にそれぞれ延びる2本の背部補強ライン8を備え、前記背部補強ラインは前記外部シェル2の引張剛性より大きな引張剛性を有する。」(3頁27〜33行)
「実施形態(図9、図10)によれば、背部補強ライン8は、重なり合って接着された(例えば
接着された)、複数層(例えば二層)の外部シェル2布地の筋を含む。
加えて、またはこれに代えて、背部補強ライン8は、外部シェル2の布地の外部または内部に固定された追加のテープ10を有してよい。」(4頁12〜16行)
「例示的な非限定的な実施形態では、外部シェル2布地は、以下を含むことができる。
-45重量%〜58重量%、好ましくは約52重量%の範囲内のポリアミド、および
-41%〜54%、好ましくは約47重量%の範囲のエラスタン○R(当審注:○の中にR 以下同じ)、および
-0,7%〜1.5%、好ましくは約1重量%の炭素繊維。
補強ラインに沿って配置されるテープは以下を含むことができる。
-60重量%〜70重量%、好ましくは約65重量%の範囲のポリアミド、および
-29重量%〜39重量%、好ましくは約34重量%の範囲のエラスタン○R、および
-0,7%〜1.5%、好ましくは約1重量%の炭素繊維。」(8頁8〜15行)
(イ)上記記載事項からみて、甲9には、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されている。なお、「エラスタン○R」がポリウレタンからなる繊維であることは技術常識である。
《甲9発明》
「スイムスーツ1は、外部シェル2に連続的に接続される、背部補強ライン8を備え、背部補強ライン8は、外部シェル2の布地の外部または内部に固定された追加のテープ10を有してよく、
外部シェル2の布地は、45重量%〜58重量%のポリアミド、41%〜54%のポリウレタン、および、0.7%〜1.5%の炭素繊維からなり、
補強ラインに沿って配置されるテープは、60重量%〜70重量%のポリアミド、29%〜39%のエラスタン○R(ポリウレタン)、および、0.7%〜1.5%の炭素繊維からなる、スイムスーツ1。」

(2)甲1を主引用例とする申立理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明を対比する。
本件発明1の「第1の布地」は、着用者の皮膚と接触するように配置され、「第2の布地」は外側に配置されることになるから、甲1発明の「第1の層8a」は人の肌に触れるシューアッパー3を構成し、「第2の層8b」はシューアッパー3の上で、踵領域9および中足領域10の部分的な領域に配置されることから、甲1発明の「第1の層8a」は本件発明1の「内表面」及び「第1の布地」に、甲1発明の「第2の層8b」は本件発明1の「外表面」及び「第2の布地」に相当する。また、甲1発明の「スポーツシューズ」は本件発明1の「衣料品または靴」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、
前記内表面の少なくとも一部が第1の布地によって形成され、着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記外表面の少なくとも一部が第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成す、
衣料品または靴。」で一致し、
次の相違点1で相違する。
《相違点1》
本件発明1が、「前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成し、
前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」のに対し、
甲1発明は、「第1の層8a」及び「第2の層8b」の材料について特定されていない点。
(イ)上記相違点1について検討する。
甲1の【0063】には、「第1の層8a」及び「第2の層8b」の材料として、「タンパク質などの生体材料(例えば、スパイダーシルク)を使用することができる」旨の記載があるが、特に、スパイダーシルクを好ましいとする記載はなく、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリル、絹等の多数の材料の例示の中から、特にスパイダーシルクを選択する動機付けはない。
仮に、甲1発明において、材料としてスパイダーシルクを選択することができたとしても、着用者の皮膚と接触する部位と、衣料品または靴の外層に配置される部位について、好適なスパイダーシルクの含有率を示唆する記載はなく、それぞれ、50%〜100%、10%〜65%に設定することが、当業者にとって容易に想到できたものとはいえない。
また、他に、これらのことを記載する証拠は提出されておらず、本件発明1の上記相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2〜16について
本件発明2〜16は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記アで判断した理由と同様に、本件発明2〜16も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲2を主引用例とする申立理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「織られたスパイダーシルク糸の複数の層11,12,13」は、それぞれ布地を構成し、層11と層13のいずれか一方が、衣料品や靴の内表面として着用者の皮膚に接触するように配置され、他方が外表面として外層に配置されることになるから、本件発明1と甲2発明は、
「内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成す、
衣料品または靴。」で一致し、
次の相違点2で相違する。
《相違点2》
本件発明1が、「前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され」、「前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」のに対し、
甲2発明は、スパイダーシルクの含有率について特定されていない点。
(イ)上記相違点2について検討する。
甲2には、着用者の皮膚と接触する部位と、衣料品または靴の外層に配置される部位について、好適なスパイダーシルクの含有率を示唆する記載はなく、甲2発明において、それぞれ、50%〜100%、10%〜65%に設定することの動機付けはない。
また、他に、このことを示す証拠は提出されておらず、本件発明1の上記相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2〜16について
本件発明2〜16は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記アで判断した理由と同様に、本件発明2〜16も、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲7を主引用例とする申立理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲7発明を対比すると、甲7発明の「第1の布地」は本件発明1の「内表面」及び「第1の布地」に、甲7発明の「第3の布地」は本件発明1の「外表面」及び「第2の布地」に、甲7発明の「サイクリングショーツ」は本件発明1の「衣料品または靴」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲7発明は、
「内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、
前記内表面の少なくとも一部が第1の布地によって形成され、着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記外表面の少なくとも一部が第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成す、
衣料品または靴。」で一致し、
次の相違点3で相違する。
《相違点3》
本件発明1が、「前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成し、
前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」のに対し、
甲7発明は、「第1、第2及び第3の布地は、好ましくはポリエステルからなり、第3の布地は、30〜70%、好ましくは40〜60%、最も好ましくは50%のマイクロポリアミド;20〜50%、好ましくは30〜40%、最も好ましくは35%のポリエステル;及び5〜25%、好ましくは10〜20%、最も好ましくは15%のライクラ(ポリウレタン)からなる組成を有していてもよい」とされる点。
(イ)上記相違点3について検討する。
甲7には、第1、第2及び第3の布地の材料としてスパイダーシルクを例示しておらず、甲7発明のポリエステル等の材料に換える動機付けはない。
仮に、甲7発明において、材料としてスパイダーシルクを選択することができたとしても、着用者の皮膚と接触する部位と、衣料品または靴の外層に配置される部位について、好適なスパイダーシルクの含有率を特定することまでできたとはいえず、それぞれ、50%〜100%、10%〜65%に設定することが、当業者にとって容易に想到できたものとはいえない。
また、他に、これらのことを記載する証拠は提出されておらず、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲7発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2〜16について
本件発明2〜16は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記アで判断した理由と同様に、本件発明2〜16も、甲7発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲8を主引用例とする申立理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲8発明を対比すると、甲8発明の「繊維製品ライニング」は本件発明1の「内表面」及び「第1の布地」に、甲8発明の「外部シェル」は本件発明1の「外表面」及び「第2の布地」に、甲8発明の「衣料品」は本件発明1の「衣料品または靴」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲8発明は、
「内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、
前記内表面の少なくとも一部が第1の布地によって形成され、着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記外表面の少なくとも一部が第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成す、
衣料品または靴。」で一致し、
次の相違点4で相違する。
《相違点4》
本件発明1が、「前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成し、
前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」のに対し、
甲8発明は、「外部シェルのための好ましい材料は、撥水加工処理を受けた、65%ポリエステル、35%綿の綾織配合織物であり、内部ライナーの内部面に繊維製品ライニングが積層され、ナイロン、アラミド、メラミン、アクリルを含む任意のタイプの繊維による任意の織布、ニット又は不織布材料であってよく、標準的には、100%ポリエステルのたて編スエード材料からなる」点。
(イ)上記相違点4について検討する。
甲8には、外部シェル及び繊維製品ライニングの材料としてスパイダーシルクを例示しておらず、甲8発明の好ましいとされる各材料に換える動機付けはない。
仮に、甲8発明において、材料としてスパイダーシルクを選択することができたとしても、着用者の皮膚と接触する部位と、衣料品または靴の外層に配置される部位について、好適なスパイダーシルクの含有率を特定することまでできたとはいえず、それぞれ、50%〜100%、10%〜65%に設定することが、当業者にとって容易に想到できたものとはいえない。
また、他に、これらのことを記載する証拠は提出されておらず、本件発明1の上記相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲8発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2〜16について
本件発明2〜16は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記アで判断した理由と同様に、本件発明2〜16も、甲8発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)甲9を主引用例とする申立理由について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲9発明を対比すると、甲9発明の「外部シェル2」は、水着本体であるから、本件発明1の「内表面」及び「第1の布地」に相当し、甲9発明の「背部補強ラインに沿って配置されるテープ」は、外部シェル2の布地の内部に固定され得るものであり、本件発明1の「外表面」及び「第2の布地」に相当し、甲9発明の「スイムスーツ」は本件発明1の「衣料品または靴」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲9発明は、
「内表面及び外表面を含む衣料品または靴であって、
前記内表面の少なくとも一部が第1の布地によって形成され、着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記外表面の少なくとも一部が第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成す、
衣料品または靴。」で一致し、
次の相違点5で相違する。
《相違点5》
本件発明1が、「前記内表面及び前記外表面がスパイダーシルクを含む領域を含み、
前記内表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第1の布地によって形成され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクを含む第1のヤーンを含み、50%〜100%のスパイダーシルクを含み、前記衣料品または靴を着用したときに、前記スパイダーシルクが着用者の皮膚と接触するように配置され、
前記第1の布地が、スパイダーシルクと異なる材料から作られた第2のヤーンを含み、
前記外表面の少なくとも一部が、前記領域を含む第2の布地によって形成され、衣料品または靴の外層を成し、
前記第2の布地が、10%〜65%のスパイダーシルクを含む」のに対し、
甲9発明は、「外部シェル2の布地は、45重量%〜58重量%のポリアミド、41%〜54%のポリウレタン、および、0.7%〜1.5%の炭素繊維からなり、補強ラインに沿って配置されるテープは、60重量%〜70重量%のポリアミド、29%〜39%のエラスタン○R(ポリウレタン)、および、0.7%〜1.5%の炭素繊維からなる」点。
(イ)上記相違点5について検討する。
甲9には、外部シェル及びテープの材料としてスパイダーシルクを例示しておらず、甲9発明の好ましいとされる各材料に換える動機付けはない。
仮に、甲9発明において、材料としてスパイダーシルクを選択することができたとしても、着用者の皮膚と接触する部位と、衣料品または靴の外層に配置される部位について、好適なスパイダーシルクの含有率を特定することまでできたとはいえず、それぞれ、50%〜100%、10%〜65%に設定することが、当業者にとって容易に想到できたものとはいえない。
また、他に、これらのことを記載する証拠は提出されておらず、本件発明1の上記相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲9発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2〜16について
本件発明2〜16は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記アで判断した理由と同様に、本件発明2〜16も、甲9発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)進歩性に係る申立理由についてのまとめ
以上より、申立人の主張する進歩性に係る申立理由は、いずれも理由がない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-08-19 
出願番号 P2017-219705
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A41D)
P 1 651・ 537- Y (A41D)
P 1 651・ 121- Y (A41D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 井上 茂夫
柳本 幸雄
登録日 2021-09-28 
登録番号 6951205
権利者 アディダス アーゲー
発明の名称 スパイダーシルク(spider silk)を含む衣料品または靴  
代理人 田村 啓  
代理人 小林 浩  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 大森 規雄  
代理人 江間 晴彦  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 藤 拓也  
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