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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B26D
管理番号 1388408
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-18 
確定日 2022-09-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6949294号発明「下刃及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6949294号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6949294号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜16に係る特許についての出願は、令和2年9月17日に出願された特願2020−156127号の一部を、令和3年4月12日に新たな特許出願(特願2021−67320号)としたものであって、同年9月27日にその特許権の設定登録がされ、同年10月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和4年2月18日に特許異議申立人 小西美奈子(以下「申立人」という。)により、請求項1〜16に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
1 本件発明1〜16
本件特許の請求項1〜16に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1〜16をまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用される下刃であって、
前記下刃は、リング状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備えており、
前記刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、
前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とすることを特徴とする下刃。
【請求項2】
前記粗面部は、前記刃部の周方向に沿って同一幅の帯状となるように形成されている請求項1に記載の下刃。
【請求項3】
前記粗面部は、前記刃部の側面に対し、ブラスト加工を施すことにより形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の下刃。
【請求項4】
前記粗面部は、前記刃部の周方向全域に形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の下刃。
【請求項5】
前記リング状の下刃は、半リング状に形成される切断加工用刃物を2つ組み合わせることにより構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の下刃。
【請求項6】
前記リング状の下刃は、扇状に形成される切断加工用刃物を複数組み合わせることにより構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の下刃。
【請求項7】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置において使用される下刃であって、
前記下刃は、リング状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備えており、
前記刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、
前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とすることを特徴とする下刃。
【請求項8】
前記粗面部は、前記刃部の周方向に沿って同一幅の帯状となるように形成されている請求項7に記載の下刃。
【請求項9】
前記粗面部は、前記刃部の側面に対し、ブラスト加工を施すことにより形成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の下刃。
【請求項10】
前記粗面部は、前記刃部の周方向全域に形成されることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の下刃。
【請求項11】
前記リング状の下刃は、半リング状に形成される切断加工用刃物を2つ組み合わせることにより構成されることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の下刃。
【請求項12】
前記リング状の下刃は、扇状に形成される切断加工用刃物を複数組み合わせることにより構成されることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の下刃。
【請求項13】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用され、切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑を前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能な下刃の製造方法であって、
リング状に構成される下刃の外周部に沿って配置される刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、ブラスト加工によって、最大高さSzが、10μm以上400μm以下の範囲となる微小な凹凸からなる粗面部を形成する粗面部形成ステップを備えることを特徴とする下刃の製造方法。
【請求項14】
前記ブラスト加工において、平均粒径が300μm以上1.1mm以下の珪砂または金属片が前記刃部の側面に吹きつけられることを特徴とする請求項13に記載の下刃の製造方法。
【請求項15】
前記粗面部形成ステップは、前記刃部の周方向に沿って同一幅の帯状の前記粗面部を形成するようにブラスト加工を施すことを特徴とする請求項13又は14に記載の下刃の製造方法。
【請求項16】
前記粗面部形成ステップは、前記刃部の周方向全域に前記粗面部を形成するようにブラスト加工を施すことを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の下刃の製造方法。」

2 本件発明の課題及び技術的意義等
ア 本件明細書を参照すると、本件発明の課題及び技術的意義について、以下の事項を理解できる。
(ア)一般的に、段ボールシートの一部にスリットを形成する際には、溝切り装置が用いられる(【0003】)。溝切り装置は、上刃である2枚の扇形状の刃物(【0004】、【0005】)と、下刃であるリング状の2枚の受刃で構成され(【0007】)、上刃である刃物が、下刃である2枚の受刃の隙間に挟み込まれることで、段ボールシートが切断され、スリットが形成される(【0008】)。
(イ)上刃が下刃に挟み込まれる際に、上刃は段ボールシートを上方から押しつぶすため、段ボールシートの中芯がS字状に変形して重なり部が形成され、当該重なり部が上刃と下刃で剪断されることで、スリット屑と分断された細い糸状の切断屑が形成されて、段ボールシート側に残ってしまう(【0010】)。段ボールシートに残った切断屑は、段ボール箱の品質を低下させ、また、段ボール箱に品物を箱詰めする際の振動で箱の内部に落ちてしまい、包装される品物に紛れ込むという課題があった(【0011】)。
(ウ)本件発明は、下刃の刃部の刃先を含む領域に微少な凹凸からなる粗面部を形成することで、段ボールシートが切断される過程において、下刃の粗面部と糸状の切断屑が接することにより、微少な凹凸の摩擦によって切断屑が下刃の刃先表面から離れにくくなり、切断屑が、段ボールシートの奥の方に移動することを抑制(【0054】)して、切断屑がスリットの下方側に落下することを補助することで上記の課題が解決される。

イ また、本件発明における粗面部の凹凸は、最大高さSzが10μm以上400μm以下の範囲のものである(【請求項1】、【請求項7】及び【請求項13】)。

第3 特許異議申立理由及び申立人が提出した証拠
1 特許異議申立理由の概要
(1)甲第1号証を主引用例とする特許法29条2項進歩性)の理由
ア 本件発明1〜6は、甲第1号証記載の発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
イ 本件発明7〜12は、甲第1号証記載の発明及び甲第2〜6号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
ウ 本件発明13〜16は、甲第1号証記載の発明及び甲第2〜4号証及び甲第6号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(2)甲第2号証を主引用例とする特許法29条2項進歩性)の理由
ア 本件発明1〜6は、甲第2号証記載の発明及び甲第1、3〜6号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
イ 本件発明7〜12は、甲第2号証記載の発明及び甲第1、3〜6号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
ウ 本件発明13〜16は、甲第2号証記載の発明並びに甲第1号証及び甲第3又は4号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

2 申立人が提出した証拠
甲第1号証:特開2011−245600号公報
甲第2号証:特開2014−91197号公報
甲第3号証:特許第6618650号公報
甲第4号証:特許第6648912号公報
甲第5号証:「近畿刃物工業株式会社」、[online]、
2015年11月26日、KINKI KNIVES INDUSTRIES
Corporation、[2022年1月21日検索]、
インターネット<URL:https://web.archive.org/web/
20151126082351/https://www.kinkihamono.co.jp/
03.html>
甲第6号証:特許第5505850号公報
なお、甲第5号証は、デジタルアーカイブであるウェイバックマシン(Wayback Machine)に2015年11月26日に保存された、近畿刃物工業株式会社のホームページであると認めることができる。
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)

第4 特許異議申立理由の当審の判断
1 甲1の記載事項及び甲1発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付したものである。以下同じ。)。
「【0001】
本発明は、段ボールシートに接ぎ代を形成するために角切り刃物と協働して段ボールシートのコーナ部を切断する溝切り刃物に関し、詳細には、そのコーナ部の切断時にコーナ屑と繋がる切り溝屑の発生を伴う切断加工を行う溝切り刃物に関する。」
「【0041】
《全体的構成》
図1は、本実施形態に係るスロッタ1の全体的構成を示す正面図であり、図2は、そのスロッタ1の全体的構成を示す斜視図である。スロッタ1は、上部回転軸2と、下部回転軸3とを備える。両回転軸2、3は、図1に矢印RUおよび矢印RLで示すように、公知の駆動モータにより互いに反対方向に回転する。複数の上部刃物台が、上部回転軸2に、その軸線方向に移動可能に取り付けられる。複数の下部刃物台も、下部回転軸3に、その軸線方向に移動可能に取り付けられる。図2には、上部刃物台4、5と、下部刃物台6、7とが示される。
【0042】
溝切り刃物8および角切り刃物9の組と、溝切り刃物10および角切り刃物11の組とが、上部刃物台4に取り付けられる。同様に、溝切り刃物12と、溝切り刃物13とが、上部刃物台5に取り付けられる。下部刃物台6は、図3に示すスペーサ14を挟んで所定の間隔で配置された一対の環状部材15、16を備える。嵌合溝17が、両環状部材15、16の間に形成される。同様に、下部刃物台7は、スペーサ14と同様のスペーサを挟んで所定の間隔で配置された一対の環状部材18、19を備える。嵌合溝20が、両環状部材18、19の間に形成される。嵌合溝17は、溝切り刃物8、10と嵌合し、嵌合溝20は、溝切り刃物12、13と嵌合する。本実施形態の上部刃物台4および下部刃物台6が、本発明の上部刃物台および下部刃物台の一例である。本実施形態の嵌合溝17が、本発明の嵌合溝の一例である。
【0043】
両環状部材15、16の外周縁は、受け刃15A、16Aを構成する。両環状部材18、19の外周縁は、受け刃18A、19Aを構成する。環状部材15の外周面は、角切り刃物9、11を受ける刃受け面15Bを構成する。図3は、図2において、嵌合溝17に沿って切断して左方からスペーサ14および環状部材15を見た拡大図である。図3において、多数の溝21が、環状部材15の側面に円周方向に等間隔で形成される。各溝21の形成方向は、図3に矢印RLで示す環状部材15の回転方向と直交する。多数の溝22が、多数の溝21と同様に、図2に示すように、環状部材16の側面に円周方向に等間隔で形成される。また、環状部材18、19の側面にも、多数の溝が、多数の溝21、22と同様に、円周方向に等間隔で形成される。隣り合う2つの溝の間隔は、図4に示す後述の切り溝屑107、111を嵌合溝17の内部に保持するために、切り溝屑107、111の搬送方向FDの長さより充分に小さい間隔に設定される。環状部材19に形成された多数の溝23が、図2に示される。両環状部材に形成された多数の溝は、後述の切り溝屑を嵌合溝17、20に保持する働きを有する。本実施形態では、両環状部材15、16の側面における溝21、22と、隣り合う溝の間に位置する部分とが、本発明の凹凸部の一例である。」
「【0046】
溝切り刃物8は、刃物本体30と、第1弾性体31、32とを備える。図7において、第1弾性体31、32は、二点鎖線で示される。刃物本体30は、図7に示すように、円弧状に形成される。刃物本体30は、対向する一対の側面部33、34と、その両側面部に連結された円弧状の外周部35とを含む。一方の側面部33が図5および図9に示され、他方の側面部34が図7および図9に示される。一対の溝切り刃33A、34Aが、図5に示すように、両側面部の外周縁に形成される。2つの長孔36、37が、刃物本体30に穿設される。両長孔は、溝切り刃物8を上部刃物台4に取り付けるためにボルトが挿通されるように形成される。」
「【0062】
溝切り刃物8および角切り刃物9が、図12Aに示す状態から、更に回転して下部刃物台6に接近し、段ボールシート100が上部刃物台4および下部刃物台6の間に搬送されると、第1弾性体31の押圧面31Aが段ボールシート100の上面に接触して第1弾性体31が弾性変形する。図12Bは、第1弾性体31が段ボールシート100に接触して弾性変形し、溝切り刃33A、34Aが段ボールシート100を切断する直前の状態を示す。図12Bに示す状態は、段ボールシート100の前コーナ部105との位置関係では、図4に示す位置PFBに対応する。
【0063】
溝切り刃33A、34Aが前コーナ部105を切断すると、切り溝屑107およびコーナ屑108が発生する。図4に示す切り溝屑107の前方部分107Aは、第1弾性体31の押圧面31Aからの弾性力により、嵌合溝17の内部に向かって押圧される。また、図4に示すコーナ屑108の前方部分108Aが、角切り刃物9の第2弾性体51の押圧面51Aと接触し、その押圧面51Aからの弾性力により、下部刃物台15の刃受け面15Bに向かって押圧される。図12Cは、第1弾性体31および第2弾性体51が、切り溝屑107の前方部分107Aおよびコーナ屑108の前方部分108Aを押圧する状態を示す。図12Cに示す状態は、段ボールシート100の前コーナ部105との位置関係では、図4に示す位置PFCに対応する。図13は、図12Cに示す状態において、下部刃物台6に対して、切り溝屑107の前方部分107Aおよびコーナ屑108の前方部分108Aを押圧する第1弾性体31および第2弾性体51を示す。切り溝屑107が発生すると、切り溝屑107の前方部分107Aは、第1弾性体31からの弾性力により嵌合溝17の内部に向かって押し込められ、嵌合溝17の内周面に形成された多数の溝21、22により嵌合溝17の内部に保持される。また、コーナ屑108が発生すると、コーナ屑108の前方部分108Aは、第2弾性体51からの弾性力を受け、その前方部分108Aの進行方向が、搬送方向FDから変更されて刃受け面15Bに沿う下方に規制される。」

図1


図2


図3


(2)甲1に記載された技術的事項
上記(1)の記載事項から、次の技術的事項を理解できる。
ア 甲1には、段ボールシートのコーナ部を切断する溝切り刃物(【0001】)が示されており、スロッタ1の全体的構成は、上部刃物台4と、下部刃物台6で構成されること(【0041】)。
イ 上部刃物台4には、溝切り刃物8及び角切り刃物9の組と、溝切り刃物10及び角切り刃物11の組が取り付けられること(【0042】及び図2)。
ウ 下部刃物台6には、一対の環状部材15及び16が備えられ、両環状部材15及び16の間に嵌合溝17が形成されること(【0042】)。
エ 環状部材15及び16の外周縁は、受け刃15A及び16Aを構成すること(【0043】)。
オ 環状部材15及び16の側面には、多数の溝21及び22が円周方向に等間隔に形成されること(【0043】及び図3)。
カ 段ボールシート100が上部刃物台4と、下部刃物台6との間に搬送されて(【0062】)、溝切り刃が段ボールシート100の前コーナ部105を切断すると、切り溝屑107及びコーナ屑108が発生するが、切り溝屑107は、嵌合溝17の内部に押し込められ、多数の溝21及び22により嵌合溝17の内部に保持されること(【0063】)。
キ 上記アの段ボールシートが、一対のライナーの間に中芯を備えるものであることは技術常識であるといえること。

(3)甲1発明
上記(2)の技術的事項を整理すると、甲1には次の発明が記載されているということができる。

「上部刃物台4の溝切り刃物8及び角切り刃物9の組と、溝切り刃物10及び角切り刃物11の組と、下部刃物台6の一対の環状部材15及び16との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートのコーナ部を切断するスロッタ1において使用される環状部材15及び16であって、
前記環状部材15及び16は、環状に構成され、その外周縁に受け刃15A及び16Aが構成され、
前記環状部材15及び16の側面に、多数の溝21及び22が円周方向に等間隔に形成されており、
段ボールシート100の前コーナ部105を切断する過程で形成される切り溝屑107と前記多数の溝21及び22の接触により切り溝屑107を嵌合溝17の内部に保持する環状部材15及び16。」
(以下「甲1発明」という。)

2 甲2の記載事項及び甲2発明
(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
「【0002】
物を保管又は移動等させるための包装箱として、図7に示すような段ボールシート50を組み立てて製造される段ボール箱が知られている。この段ボール箱の上蓋及び底板は、段ボールシート50の一部にスリット51,52を形成して切り離された部分を互いに重なり合うように折り畳んで形成される。
【0003】
このスリット51,52の形成に際して、溝切り装置が用いられるのが一般的であり、この溝切り装置には、図8に示すような切断加工用刃物60がよく用いられる(例えば、特許文献1の従来技術参照)。
【0004】
この切断加工用刃物60は、扇形状に形成された刃物本体部61に切込生成刃62と切断刃63とが一体形成されている。切込生成刃62は、刃物本体61の外周面の一端から径方向外方に、刃物本体61の端面と面一になるように突出しており、端面の幅方向両側に角部64を備えている。切断刃63は、刃物本体部61の外周面に沿って、刃物本体61の厚み方向両側にそれぞれ設けられている。」
「【0007】
一対の上側回転ホルダ73,73には、2枚の切断加工用刃物60a,60bがそれぞれボルト等の締結具(図示せず)により挟持されている。これら切断加工用刃物60a、60bは、一対の回転ホルダ73,73の外周に沿って所定の間隔を空けて、かつ、それぞれの切込生成刃62a,62bが、外周方向に沿って向き合うように取り付けられる。これに対し、一対の下側回転ホルダ74,74のそれぞれの対向面には、2枚の受刃75,75が、切断加工用刃物60a及び60bの厚み寸法に対応した所定間隔をあけて取り付けられる。」
「【0010】
ところが、従来から用いられている切断加工用刃物を用いてスリット加工を行った場合、図11に示すように、切断面に細いひげ状の切断屑50aが残ってしまうという問題があった。具体的に説明すると、上記切断加工用刃物により切断される段ボールは、通常、図12に示すように、表面ライナーaと裏面ライナーbとの間に波型形状の中芯cが配置される構造を有しており、切断時の切断加工用刃物と受刃との押圧により、図12に示す様に中芯cの山部分と谷部分との中間部分が略S字状に潰された状態で切断されることになり、切断線が中芯cの波形方向に平行ではなく複数の山部分や谷部分を斜めに横切ることがある。したがって、図12において、中芯cでのdで示す部分は細い切断屑50aとなり、段ボール紙の切断端部に繋がってひげ状にぶら下がって残留してしまう。この細い切断屑50aは、幅1〜2mm、長さは短いもので10数mm、長いもので300mm以上にもおよぶものが確認されている。」
「【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、段ボールシート等のシート材を切断した際に形成される切断面を綺麗な状態とすることができる切断加工用刃物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の前記目的は、シート材を切断する切断加工用刃物であって、扇形状の刃物本体と、前記刃物本体の外周部に沿って配置される刃部とを備え、前記刃物本体の側面には、前記刃部により切断したシート材の切断端面と接触する粗面部が形成されている切断加工用刃物により達成される。
【0013】
このような粗面部を刃物本体の側面に備えているため、刃部がシート材を切断し当該シート材の下方側に抜ける際に、粗面部がシート材の切断端面と接触しつつシート材の下方側に向けて移動することとなる。このときに粗面部における凹凸表面との摩擦によってシート材の切断端面に残留するひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことが可能となる。
【0014】
また、上記切断加工用刃物において、前記粗面部は、前記刃部の刃先との間に所定間隔をあけた状態で、前記刃物本体の周方向に沿って形成されていることが好ましい。このように、粗面部を刃物本体の周方向に沿うように構成することにより、シート材に形成される切断端面全域において、その切断面を綺麗な状態とすることが可能となる。」
「【0024】
粗面部3は、刃物本体2の側面に設けられる凹凸面により構成されており、刃部21により切断したシート材の切断端面と接触し、切断端面に残留する切断屑を除去する機能を有している。この粗面部3は、刃物本体2の厚み方向両側面にそれぞれ設けられており、刃物本体2の側面に対し、複数の線状溝31を形成することにより構成されている。より具体的には、例えば、1mm〜5mmの幅を有する深さ1mm〜5mmの線状溝31を1mm〜5mmのピッチ間隔で複数形成することにより構成されている。各線状溝31は、その長手方向が刃物本体2の径方向となるように形成されている。また、粗面部3は、刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で、刃物本体2の周方向に沿って形成されている。粗面部3の幅(刃物本体2の径方向における長さ)は、図1及び図2に示すように、刃物本体2の周方向に沿って同一寸法となるように(同一幅の帯状)となるように形成されており、粗面部3の最外表面3aは、図2の断面図に示すように、刃物本体2の外周部に沿って配置される刃部21の刃先部21aと面一となるように形成されている。なお、当該最外表面3aが、粗面部3が形成されていない刃物本体2の側面よりも僅かに外方(側面に対して垂直な方向)に突出するように構成し、刃部21の刃先部21aと面一とならないように構成してもよい。」
「【0027】
本実施形態に係る切断用加工刃物1は、刃物本体2の側面に、刃部21により切断したシート材の切断端面と接触する粗面部3が形成されているため、図3に示すように、刃部がシート材を切断し当該シート材の下方側に抜ける際に、粗面部がシート材の切断端面と接触しつつシート材の下方側に向けて移動することとなる。このときに粗面部における凹凸表面との摩擦によってシート材の切断端面に残留するひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことが可能となる。この結果、段ボールシート等のシート材を切断した際に形成される切断面を綺麗な状態とすることができる。
【0028】
また、粗面部3は、刃物本体2の周方向に沿うようにその略全域に構成されているため、シート材に形成される切断端面全域において、その切断面を綺麗な状態とすることが可能となる。」

図1

図2

図3

図4

図9


図10


(2)甲2に記載された技術的事項
上記(1)の記載事項から、次の技術的事項を理解できる。
ア 一般に、段ボールシートにスリットを形成する際に、溝切り装置が用いられる(【0003】)ところ、溝切り装置は、上側回転ホルダ73に締結された2枚の切断加工用刃物と、厚み方向に間隔をあけて下側回転ホルダ74に取り付けられた2枚の受刃75で構成されていること(【0007】)。
イ 従来の切断加工用刃物でスリット加工を行うと、切断面に細いひげ状の切断屑50aが残るという問題があったが、それは、段ボールの中芯が、切断時の切断加工用刃物と受刃との押圧により、略S字状に潰された状態で切断されることで、中芯が細い切断屑50aとなり、段ボール紙の切断端部に残留してしまうことによるものであること(【0010】)。
ウ 甲2の切断加工用刃物は、上記イの問題を解決し、段ボールシートの切断面をきれいな状態とすることを目的とし(【0011】)、扇形状の刃物本体2と、前記刃物本体の外周部に沿って配置される刃部21とを備え、前記刃物本体2の側面には、前記刃部により切断したシート材の切断端面と接触する粗面部3が形成されていること(【0012】)。
エ 粗面部3を刃物本体2の側面に備えているため、刃部がシート材を切断し当該シート材の下方側に抜ける際に、粗面部が切断端面と接触しつつ下方側に移動し、粗面部の凹凸表面との摩擦によってひげ状の切断屑を切断端面から削り落として取り除くことができること(【0013】)。
オ 粗面部3は、刃物本体2の側面に設けられる凹凸面により構成され、具体的には、1mm〜5mmの幅を有する深さ1mm〜5mmの線状溝31を1mm〜5mmのピッチ間隔で複数形成することにより構成されていること(【0024】)。
カ 上記アの段ボールシートは、表面ライナーaと裏面ライナーbの間に中芯cを備えるものであること(【0010】)。
キ 上記アの受刃75は、リング状に構成されており(図9及び図10)、技術常識をふまえると、受刃75の外周部に沿って刃部が配置されているといえること。

(3)甲2に記載された発明
ア 甲2発明
上記(2)の技術的事項を整理すると、甲2には次の発明が記載されているということができる。
「上側回転ホルダ73に締結された2枚の切断加工用刃物1と厚み方向に間隔をあけて下側回転ホルダ74に取り付けられた2枚の受刃75との協働によって、表面ライナーaと裏面ライナーbの間に中芯cを備える段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置において使用される受刃75であって、
前記受刃75は、リング状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備える、受刃75。」(以下「甲2発明」という。)

イ 甲2の刃物本体の発明
甲2には、刃物本体2について、以下の発明も記載されている。

「刃物本体2は、扇形状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備えており、
前記刃物本体2の側面には、凹凸面により構成される粗面部3が形成されており、
前記粗面部3は、1mm〜5mmの幅を有する深さ1mm〜5mmの線状溝31を1mm〜5mmのピッチ間隔で複数形成することにより構成されており、
刃部が段ボールシートを切断し当該段ボールシートの下方側に抜ける際に、粗面部が切断端面と接触しつつ下方側に移動し、粗面部の凹凸表面との摩擦によってひげ状の切断屑を切断端面から削り落として取り除くことができる刃物本体2。」(以下「甲2の刃物本体の発明」という。)

3 甲3ないし6の記載事項
(1)甲3の記載事項
甲3には、ブラスト加工について、以下の記載がある。
「【0037】
以上、本発明の一実施形態に係る切断加工用刃物1について説明したが、切断加工用刃物1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。・・・また、所定領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くすることにより刃物本体粗面部や取付部粗面部を形成してもよい。また、取付部粗面部を形成する領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くした上で、上述の複数の微小幅の取付部線状溝44を形成して取付部粗面部を構成してもよく、同様に、刃物本体粗面部を形成する領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くした上で、上述の複数の微小幅の刃物本体線状溝22を形成して刃物本体粗面部を構成してもよい。」

(2)甲4の記載事項
甲4には、ブラスト加工について、以下の記載がある。
「【0040】
以上、本発明の一実施形態に係る切断加工用刃物1について説明したが、切断加工用刃物1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。・・・或いは、所定領域に対してブラスト処理を行うことにより他の領域よりも表面を粗くすることにより粗面部を形成してもよい。また、粗面部は、取付部41の一方面の所定領域に対してブラスト処理を行うことにより他の領域よりも表面を粗くしたうえで、上述の複数の微小幅の線状溝44を形成することにより構成してもよい。」

(3)甲5の記載事項
甲5には、「角切下刃」についての以下の画像から、半リング状の刃物を2つ組み合わせることで、リング状の「角切下刃」が構成されていることを見て取ることができる。


(4)甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
「【要約】
【課題】段ボールシート等のシート材を切断した際に形成される切断面を綺麗な状態とすることができる切断加工用刃物を提供する。
【解決手段】シート材を切断する切断加工用刃物であって、扇形状の刃物本体と、前記刃物本体の外周部に沿って配置される刃部とを備え、前記刃物本体の側面には、前記刃部により切断したシート材の切断端面と接触する粗面部が形成されている切断加工用刃物。」
「【0021】
第1切断刃3及び第2切断刃4は、シート材にスリットを形成するための刃部であり、刃物本体2と同種の金属材料から形成され、刃物本体2の外周部21に沿って当該刃物本体2の厚さ方向両側にそれぞれ設けられている。・・・また、図1、及び、図2の矢印B方向から見た上面図の要部拡大図である図3(a)に示すように、第1切断刃3及び第2切断刃4における各刃先部32,42は、刃物本体2の周方向に沿って形成され、かつ、刃物本体2の厚さ方向(図3(a)における左右方向)に凸部10及び凹部11が繰り返される波型形状に形成されている。・・・」

図3


4 甲1を主引用例とする進歩性について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「上部刃物台4の溝切り刃物8及び角切り刃物9の組と、溝切り刃物10及び角切り刃物11の組」が、本件発明1の「上刃」に相当することは明らかであり、以下同様に、「下部刃物台6の一対の環状部材15及び16」又は「環状部材15及び16」が「下刃」に相当し、「段ボールシートのコーナ部を切断するスロッタ1」が「段ボールシートを切断する切断装置」に相当し、「環状に構成」されることが「リング状に構成」されることに相当し、「外周縁に受け刃15A及び16Aが構成」されることが「外周部に沿って配置される刃部を備」えることに相当する。
また、甲1発明の「環状部材15及び16の側面」と、本件発明1の「刃部の側面」を対比すると、両発明は「下刃の側面」という点で共通する。
また、甲1発明において「多数の溝21及び22が円周方向に等間隔に形成」されていることと、本件発明1において「微小な凹凸からなる粗面部が形成」されていることを対比すると、両発明は「凹凸が形成」されている点で共通する。
以上をまとめると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点1>
「上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用される下刃であって、
前記下刃は、リング状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備えており、
前記下刃の側面に、凹凸が形成されている下刃。」である点。

<相違点1>
下刃の側面の凹凸について、本件発明1は、「刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とする」ものであるのに対して、甲1発明は、環状部材15及び16の側面に、多数の溝21及び22が円周方向に等間隔に形成されており、段ボールシート100の前コーナ部105を切断する過程で形成される切り溝屑107と前記多数の溝21及び22の接触により切り溝屑107を嵌合溝17の内部に保持する」ものである点。

イ 相違点1の判断
相違点1について検討すると、本件発明1の下刃の刃部の側面の粗面部は、糸状の切断屑と接触することで、一対のライナー間から切断屑を離脱可能とするように作用するものである。これに対して、甲1発明の環状部材15及び16の側面の多数の溝21及び22は、切り溝屑107と接触することで、切り溝屑107を嵌合溝17の内部に保持するように作用する。したがって、本件発明1の粗面部と、甲1発明の多数の溝21及び22は、段ボールシートから切断される屑を保持するように作用する点では共通するといえる。
しかし、本件発明で発明特定事項とし、かつ発明が解決しようとする課題とする(上記第2の2)ような、糸状の細かい切断屑を対象として、最大高さSzが10μm以上400μm以下の範囲となるような微少な凹凸を、刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に形成することは、甲2〜6のいずれにも示されていないから、甲1発明の多数の溝21及び22に替えて、微少な凹凸を設ける動機があるとはいえない。
したがって、相違点1は、甲1発明及び甲2〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、本件発明1と申立人のいう甲第1号証に記載された発明(以下「申立人の甲1発明」という。)との相違点が、以下の相違点a〜cの3つであることを前提として、それぞれが容易想到である旨を主張している(異議申立書24ページ2行〜27ページ5行)ところ、そのうちの相違点bについて、切断屑の大きさに合わせて粗面部の凹凸の大きさを変更することは設計変更にすぎない旨を主張している(異議申立書26ページ14〜21行)。
相違点a:申立人の甲1発明は「該刃部の刃先を含む領域に・・・粗面部が形成」されていない点。
相違点b:申立人の甲1発明は「前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり」が開示されていない点。
相違点c:申立人の甲1発明は「切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とする」が明示されていない点。

(イ)申立人の主張の検討
申立人のいう相違点aは、粗面部の配置に関するものであり、相違点bは、粗面部の凹凸の大きさに関するものであり、相違点cは、粗面部の作用に関するものであるところ、いずれも段ボールシートの切断過程で形成される糸状の切断屑を離脱可能とするための構成であって、粗面部の構成や作用として、技術的な関連性を有するものといえる。そして、技術的に関連する事項は、上記相違点1のようにまとめて検討することが相当であって、申立人のいう相違点a〜cのように分割して、個別に検討することが適切とはいえない。
また、相違点bについて、切断屑の大きさに合わせて粗面部の凹凸の大きさを変更することは設計変更にすぎない旨を主張するが、細い糸状の切断屑に合わせて、粗面部の凹凸を微少なものとすることについて、甲2〜6のいずれにも示されていないから、上記相違点bを単なる設計変更などと評価することはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の小括
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を直接又は間接に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜6は、甲1発明及び甲2〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明7について
本件発明7と甲1発明を対比すると、甲1発明の「段ボールシートのコーナ部を切断するスロッタ」が本件発明7の「段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置」に相当するほかは、上記(1)アと同様に対比できるから、本件発明7と甲1発明は、上記相違点1と同じ点で相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明7は、甲1発明及び甲2〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明8〜12について
本件発明8〜12は、本件発明7を直接又は間接に引用し、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明7と同様の理由により、本件発明8〜12は、甲1発明及び甲2〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明13について
ア 粗面部形成ステップと粗面部の関係について
本件発明13は、下刃の製造方法に係る発明であって、「リング状に構成される下刃の外周部に沿って配置される刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、ブラスト加工によって、最大高さSzが、10μm以上400μm以下の範囲となる微小な凹凸からなる粗面部を形成する粗面部形成ステップ」という発明特定事項を含むものである。
そして、本件発明13の上記粗面部形成ステップにより、下刃に係る本件発明1と同様の「刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に」「最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲」の「微小な凹凸からなる粗面部が形成」されることは明らかである。

イ 粗面部形成ステップの容易想到性について
本件発明1の相違点1について検討したように、最大高さSzが10μm以上400μm以下の範囲となるような微少な凹凸を、下刃の刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に形成することは、甲2〜4、6のいずれにも示されておらず、本件発明1に係る粗面部は、甲1発明及び甲2〜4、6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
そうすると、粗面部を形成するための粗面部形成ステップについても、甲1発明及び甲2〜4、6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、本件発明13と申立人の甲1発明との相違点が、以下の相違点d〜gの4つであり、そのうちの相違点gについて、切断屑の大きさに合わせて粗面部の凹凸の大きさを変更することは設計変更にすぎないから、当業者にとって容易想到である旨を主張している(異議申立書37ページ下から2行〜38ページ最終行、26ページ14〜21行)。
相違点d:申立人の甲1発明は「切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑を前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能な」の部分が明らかでない点。
相違点e:申立人の甲1発明は「該刃部の刃先を含む領域に・・・粗面部を形成」が開示されていない点。
相違点f:申立人の甲1発明は「ブラスト加工によって」の部分が開示されていない点。
相違点g:申立人の甲1発明は「最大高さSzが、10μm以上400μm以下の範囲となる」の部分が開示されていない点。

(イ)申立人の主張の検討
相違点gは、相違点b(上記(1)ウ(ア))と同様のものであるから、相違点bと同様に、相違点gを単なる設計変更などと評価することはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 甲1を主引用例とする本件発明13の進歩性の小括
以上から、本件発明13は、甲1発明及び甲2〜4、6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)本件発明14〜16について
本件発明14〜16は、本件発明13を直接又は間接に引用し、本件発明13の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明13と同様の理由により、本件発明14〜16は、甲1発明及び甲2〜4、6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

5 甲2を主引用例とする進歩性について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「上側回転ホルダ73に締結された2枚の切断加工用刃物1」が、本件発明1の「上刃」に相当することは明らかであり、以下同様に、「厚み方向に間隔をあけて下側回転ホルダ74に取り付けられた2枚の受刃75」が「下刃」に相当し、「表面ライナーaと裏面ライナーbの間に中芯cを備える段ボールシート」が「一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシート」に相当し、「段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置」が「段ボールシートを切断する切断装置」に相当する。
以上をまとめると、本件発明2と甲1発明は、以下の点で一致及び相違する。

<一致点2>
「上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用される下刃であって、
前記下刃は、リング状に構成され、その外周部に沿って配置される刃部を備える、下刃。」

<相違点2>
本件発明1の下刃は、「前記刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とする」ものであるのに対して、甲2発明の受刃75は、粗面部を有していない点。

イ 相違点2の判断
相違点2について検討すると、本件発明で発明特定事項とし、かつ発明が解決しようとする課題とする(上記第2の2)ような、糸状の細かい切断屑を対象として、最大高さSzが10μm以上400μm以下の範囲となるような微少な凹凸を、下刃の刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に形成することは、甲1、3〜6のいずれにも示されていないから、甲2発明の受刃75の刃部の側面に、微少な凹凸を設ける動機があるとはいえない。
なお、甲2には、上刃に関して、甲2の刃物本体の発明(上記第4の2(3)イ)が認められるものの、下刃の刃部の側面に関するものではないし、下刃への適用を示唆するものでもない。
したがって、相違点2は、甲2発明及び甲1、3〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、申立人のいう甲第2号証に記載された発明(以下「申立人の甲2発明」という。)について、粗面部についても認定すること(異議申立書20ページ7〜19行)、本件発明1と申立人の甲2発明との相違点が、以下の相違点h〜jの3つであることを前提として、それぞれが容易想到である旨を主張している(異議申立書27ページ6行〜30ページ8行)。
相違点h:申立人の甲2発明は「該刃部の刃先を含む領域に・・・粗面部が形成」されていない点。
相違点i:申立人の甲2発明は「・・・粗面部が下刃に形成される」ことが開示されていない点。
相違点j:申立人の甲2発明は「前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり」が明示されていない点。

(イ)申立人の主張の検討
申立人は、申立人の甲2発明について、下刃(受刃75)であることを認定し、同時に、上刃の粗面部についても認定しているが、上刃と下刃とは異なるから、仮にそれらを認定するとしても、上記2(3)ア及びイに示すように、別の発明として認定することが相当である。
そして、受刃に係る発明(甲2発明)と、刃物本体に係る発明(甲2の刃物本体の発明)を、それぞれ認定しても、糸状の細かい切断屑を対象として、最大高さSzが10μm以上400μm以下の範囲となるような微少な凹凸を、下刃の刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に形成することは、記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性の小括
以上から、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を直接又は間接に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜6は、甲2発明及び甲1、3〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明7〜12について
本件発明7と甲2発明を対比すると、甲2発明の「段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置」が本件発明7の「段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置」に相当するほかは、上記(1)アと同様に対比できるから、本件発明7と甲2発明は、上記相違点2と同じ点で相違する。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明7は、甲2発明及び甲1、3〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、本件発明8〜12は、本件発明7を直接又は間接に引用し、本件発明7の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明7と同様の理由により、本件発明8〜12は、甲2発明及び甲1、3〜6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明13〜16について
上記4(5)に説示するとおり、本件発明13の粗面部形成ステップにより、本件発明1と同様の「刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に」「最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲」の「微小な凹凸からなる粗面部が形成」されるところ、本件発明1に係る粗面部が、甲2発明及び甲1、3〜4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明13に係る粗面部形成ステップについても、甲2発明及び甲1、3〜4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、本件発明13は、甲2発明及び甲1、3〜4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、本件発明14〜16は、本件発明13を直接又は間接に引用し、本件発明13の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明13と同様の理由により、本件発明14〜16は、甲2発明及び甲1、3〜4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1〜16に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-08-24 
出願番号 P2021-067320
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B26D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 刈間 宏信
中里 翔平
登録日 2021-09-27 
登録番号 6949294
権利者 近畿刃物工業株式会社
発明の名称 下刃及びその製造方法  
代理人 藤飯 章弘  

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