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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特174条1項  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1388413
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-13 
確定日 2022-08-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6947495号発明「GABAを有効成分とする活気および/または活力向上剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6947495号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6947495号(以下「本件特許」という。)は、平成28年8月3日を出願日とする特願2016−153043号についての特許であって、令和3年9月21日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、令和3年10月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年4月13日に、請求項1〜4に係る本件特許に対して、特許異議申立人である菅野歩(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤。
【請求項2】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤。
【請求項3】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物。
【請求項4】
飲食品組成物の材料にGABAを配合する工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物の製造方法。」

以下、請求項番号に対応して、請求項1〜4に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明4」といい、本件発明1〜4をまとめて「本件発明」ともいう。

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、以下の甲第1号証〜甲第9号証(以下、それぞれ、「甲1」等と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許は、以下の申立理由1〜5により、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規事項の追加
令和3年6月1日提出の手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、新規事項の追加に該当し、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当する。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1〜4は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許は、特許請求の範囲(請求項1〜4)の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
(3)申立理由3(明確性要件違反)
本件発明1〜4は明確ではなく、本件特許は、特許請求の範囲(請求項1〜4)の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
(4)申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲3〜6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。
(5)申立理由5(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜4は、甲2に記載された発明及び甲8〜9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。

2 証拠方法
(1)甲1:特開2007−31309号公報
(2)甲2:Food Sci.Biotechnol.,2016年,Vol.25,No.2,p547−551
(3)甲3:特開2012―19739号公報
(4)甲4:(社)日本理学療法士協会主催「第45回日本理学療法学術大会(2010年5月27〜29日)」の学術大会抄録集、項目O1−222(項目タイトル:教育・管理系理学療法2 POMSを利用した臨床実習生のストレス管理について)
(5)甲5:理学療法科学,2015年,Vol.30,No.1,p11−14
(6)甲6:「2011年8月31日 ファイザー株式会社 全国4,000名を対象にした『不眠に関する意識調査』 参考資料 調査結果のまとめ」と題する資料
(7)甲7:アミノヘルス(有)オンラインショップウェブページ(https://www.aminohealth.net/mart/#05)2022年3月2日閲覧・印刷
(8)甲8:Journal of Psychosomatic Research,2016年,Vol.87,p85−92
(9)甲9:「厚生労働科学研究費補助金(健康科学総合研究事業)健康日本21こころの健康づくりの目標達成のための休養・睡眠のあり方に関する根拠に基づく研究 H18年度 総括・分担研究報告書」平成19年3月発行、日本大学医学部精神医学講座 教授 主任研究者 内山 真、p64〜69

第4 甲号証の記載事項
甲1〜9には、それぞれ以下の記載がある。以下において、下線は、当審による。また、甲2及び甲8は、英語の文献なので、当審による訳文で摘記する。

1 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1に記載された事項
1a(【要約】)
「【課題】 副作用等の心配がなく、生活の質(Quality of Life:QOL)の向上、特に、ストレス解消に有用で日常的に連用可能な抗ストレス組成物を提供する。
【解決手段】 天然物由来成分であるトリプトファン、L−テアニンおよびγ−アミノ酪酸の三成分を混合配合することによって、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善するのに有効な抗ストレス組成物を調製する。」

1b(【特許請求の範囲】)
「【請求項1】
トリプトファン、テアニンおよびγ−アミノ酪酸を有効成分として含有する抗ストレス組成物。
・・・
【請求項4】
陰性感情因子である緊張−不安、抑うつ−落胆、怒り−敵意、疲労および混乱を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることを特徴とする請求項1記載の抗ストレス組成物。」

1c(【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、QOLの向上のため、ストレス解消に対してより高い効果を有し、かつ、日常的に連用可能な組成物の開発に鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、トリプトファン、テアニンおよびGABAの三成分を併用することによって、従来にない高い効率で、不安感、抑うつ、怒り等の陰性感情因子を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることを明らかにし、上記三成分を含有する抗ストレス組成物を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含有する抗ストレス組成物を提供する。本発明の抗ストレス組成物は、上記3つの有効成分を含有するので、高い効率でストレスを解消し、精神を安定にすることができる。
【0010】
QOLまたはストレスの度合いを数値化することを目的として、不安、緊張などの情動(感情・気分)を評価するための様々な評価試験が開発されている。なかでも、気分プロフィール試験[Profile of Mood States:POMS)は、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての感情・気分を総合評価するのに非常に有用である。
POMSは、McNairら(1971)によって開発され、65項目の質問に答えることによって、6つの尺度、すなわち、緊張と不安(Tension−Anxiety:T−A)、抑うつと落胆(Depression−Dejection:D)、怒りと敵意(Anger−Hostility:A−H)、活気(Vigor:V)、疲労(Fatigue:F)、混乱(Confusion:C)から構成される一時的な感情・気分の状態を同時に測定することができる評価試験であり、スポーツ選手の心身チェックやコンディション調整、介護や福祉の分野での気分、疲労度の状態チェックや環境改善のために利用され、種々の実験的研究の効果判定に信頼性が高く非常に敏感な尺度であることが実証されている。上記の6つの尺度のうち、緊張−不安(T−A)、抑うつ一落胆(D)、怒り一敵意(A−H)、疲労(F)、混乱(C)は陰性の感情因子であり、活気(V)は陽性の感情因子である。特に、活気の低下は重要なストレス反応を示していると考えられる。
さらに、POMSTM短縮版を用いれば、質問項目数を30項目に削減することによって被験者の負担感を軽減し、被験者のそのときの気分、感情を的確に把握しやすく、介入効果を損なうことなく測定を可能にしつつ、上記65項目版と同様の測定結果を得ることができる。
【0011】
本発明の抗ストレス組成物は、POMSを用いて評価すると、陰性感情因子である緊張一不安、抑うつ一落胆、怒り一敵意、疲労および混乱を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗ストレス組成物によれば、緊張−不安、抑うつ−落胆、怒り−敵意、活気、疲労および混乱の6種類の感情・気分の尺度のうち、陰性感情因子である緊張−不安、抑うつ−落胆、怒り−敵意、疲労および混乱を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることができた。すなわち、本発明の抗ストレス組成物は、感情・気分のバランスを改善することによって、ストレスを解消し、精神を安定させることができる。
また、本発明の抗ストレス組成物の有効成分は天然物由来成分であるので、日常的に摂取しても副作用の問題がない。」

1d(実施例1、比較例1〜3及び【表1】並びに実施例2、比較例4〜7及び【表2】)
「【0019】
実施例1:本発明のドリンク剤の調製
トリプトファン50mg、L−テアニン50mg、γ−アミノ酪酸高含有エキス(GABA換算量50mg)、塩酸ピリドキシン10mg、ニコチン酸アミド20mg、リン酸リボフラビンナトリウム5mg、クエン酸130mg、果糖ブドウ糖液2500mg、大豆オリゴ糖シロップ3000mg、ハチミツ1500mgを精製水に溶解し、適量の香料を添加した後、さらに精製水を添加して全量が50mLのドリンク剤Aを得た。このドリンク剤の最終的な配合を表1に示す。
また、このとき得られたドリンク剤Aには、目視観察により、沈殿や濁りは確認されなかった。
【0020】
比較例1〜3:比較のドリンク剤の調製
トリプトファン、L−テアニンおよびGABAのうちいずれか2つの有効成分のみを含有させる以外は、実施例1と同様にして、表1に示した配合のドリンク剤B、CおよびDを得た。これらのドリンク剤にも、目視観察により、沈殿や濁りは確認されなかった。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例2:本発明のドリンク剤の調製
トリプトファン30mg、L−テアニン100mg、γ−アミノ酪酸高含有エキス(GABA換算量50mg)、塩酸ピリドキシン10mg、ニコチン酸アミド20mg、リン酸リボフラビンナトリウム2mg、クエン酸130mg、果糖ブドウ糖液2500mg、大豆オリゴ糖シロップ3000mg、ハチミツ1500mgを精製水に溶解し、適量の香料を添加した後、さらに精製水を添加して全量が50mLのドリンク剤Eを得た。このドリンク剤の最終的な配合を表2に示す。
また、このとき得られたドリンク剤Eには、目視観察により、沈殿や濁りは確認されなかった。
【0023】
比較例4:対照のドリンク剤の調製
トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの有効成分のいずれも含有させない以外は、実施例2と同様にして、表2に示した配合のドリンク剤Fを得た。・・・
【0024】
比較例5〜7:比較のドリンク剤の調製
トリプトファン、L−テアニンおよびGABAのうちいずれか2つの有効成分のみを含有させる以外は、実施例2と同様にして、表2に示した配合のドリンク剤G、HおよびIを得た。これらのドリンク剤にも、目視観察により、沈殿や濁りは確認されなかった。
【0025】
【表2】


(当審注:【0024】に「トリプトファン、L−テアニンおよびGABAのうちいずれか2つの有効成分のみを含有させる」とあるのは、表2の記載からみて、「トリプトファン、L−テアニンおよびGABAのうちいずれか1つの有効成分のみを含有させる」の誤記と認める。また、上記表中のマーカーは、申立人による。以下の甲1のマーカー部も同様である。)

1e(実施例6並びに実施例7、【表4】及び【図8】)
「【0029】
実施例6:抗ストレス組成物の情動に対する効果(1)
まず、強いストレスを自覚している被験者の情動を試験開始前に評価した。次に、実施例1および比較例1〜3で調製したドリンク剤A〜Dを就寝1時間前に毎日一本(50mL)摂取してもらい、1週間後および2週間後に再び情動を評価することによって、各ドリンク剤の情動に対する影響を調べた。各ドリンク剤につき、被験者を15人とした。
この実施例では、POMSTM短縮版を用いて、盲検による情動の評価を行った。
・・・
【0036】
いずれか2つの有効成分のみ含有するドリンク剤B〜Dは、特に、活気(V)の向上に対して全く効果を示さなかった。
さらに、トリプトファンを含有しないドリンク剤BおよびGABAを含有しないドリンク剤Dは、怒り−敵意(A−H)および混乱(C)のPOMS得点をさらに増大させる傾向を示した。
【0037】
すなわち、トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの3つの有効成分のうちいずれか1成分でも欠如すると、ストレスを有効に解消することができず、むしろ悪影響を与える場合があることが分かった。一方、3つの有効成分の相乗効果により、ストレスが全般的に解消され、特に、QOL向上に対して大きく寄与する活気(V)の向上に非常に有効であることが確認された。
【0038】
実施例7:抗ストレス組成物の情動に対する効果(2)
まず、強いストレスを自覚している被験者の情動を試験開始前に評価した。次に、実施例2および比較例4〜7で調製したドリンク剤E〜Iを就寝1時間前に毎日一本(50mL)摂取してもらい、1月後に再び情動を評価することによって、各ドリンク剤の情動に対する影響を調べた。各ドリンク剤につき、被験者を15人とした。
この実施例でも、実施例6と同様に、POMSTM短縮版を用いて、盲検による情動評価を行った。
【0039】
各被験者の各感情因子につき、試験前に得られたPOMS得点をT0とし、ドリンク剤を1月間摂取した後に得られたPOMS得点をT1とし、式1を用いて、T0を基準(100%)とするPOMS得点の変化率(%)を算出した。
【0040】
試験前後におけるPOMS得点の変化率の平均値および標準偏差を表4に示した。なお、各POMS得点は省略する。
【0041】
【表4】

【0042】
陰性の感情因子である緊張−不安(T−A)、抑うつ−落胆(D)、怒り−敵意(A−H)、疲労(F)、混乱(C)については、POMS得点が減少する、すなわち、変化率(%)が100%を下回り小さくなるほど、抗ストレス組成物の摂取によって、より高い抑制効果が得られたことを意味する。一方、陽性感情因子である活気(V)については、POMS得点が増加する、すなわち、変化率(%)が100%を上回り大きくなるほど、抗ストレス組成物の摂取によって、より高い向上効果が得られたことを意味する。
【0043】
全ての感情因子に対する各ドリンク剤の全般的な抗ストレス効果を比較するために、POMS得点の変化率を図8に示した。
この図から分かるように、トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの3つの有効成分を全て含有するドリンク剤Eは、いずれの有効成分も含有しないドリンク剤Fまたはトリプトファン、L−テアニンおよびGABAの3つの有効成分のうちいずれか1成分のみ含有するドリンク剤G〜Iに比べて、陰性感情因子である緊張−不安(T−A)、抑うつ−落胆(D)、怒り−敵意(A−H)、疲労(F)および混乱(C)のいずれにおいても有意にPOMS得点を減少させ、陽性感情因子である活気(V)のPOMS得点を増加させた。
【0044】
すなわち、本発明の抗ストレス組成物は、トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの三成分を混合配合されているので、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善してストレスを全般的に解消することが確認された。」
「【図8】



(2)甲1に記載された発明
上記(1)の甲1の記載、特に、請求項1を引用する請求項4の記載、及び、実施例7において、抗ストレス組成物の有効成分として、GABAのみを有効成分として含むγ−アミノ酪酸高含有エキス(ドリンク剤50mL中のGABA換算量は50mg)を含有する、比較例7のドリンク剤I(摘記1dの【表2】)を、強いストレスを自覚している被験者に1ヶ月間毎日一本(50mL)摂取させ、POMS(TM(登録商標))短縮版を使用して情動評価を行ったところ(摘記1eの【0038】)、陰性感情因子である緊張−不安(T−A)、怒り−敵意(A−H)、及び混乱(C)が有意(P<0.05)に低減し、かつ、陽性感情因子である活気(V)が有意(P<0.05)に向上したとの結果が得られた旨の記載(摘記1eの【表4】)によれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。

「GABAのみを有効成分として含むγ−アミノ酪酸高含有エキスからなる、POMS(登録商標)評価における陰性感情因子である緊張−不安(T−A)、怒り−敵意(A−H)、及び混乱(C)を低減し、かつ、陽性感情因子である活気(V)を向上させる抗ストレス組成物であって、強いストレスを自覚している被験者に対して、1ヶ月継続して毎日GABA換算量50mgの一日摂取量で摂取されるものである、ドリンク剤に添加される抗ストレス組成物。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
(1) 甲2に記載された事項
2a(タイトル及びAbstract)
「経口γ−アミノ酪酸(GABA)投与がヒトの睡眠及び吸収に与える影響

要約 経口投与後のγ−アミノ酪酸(GABA)が、睡眠と血中濃度に対して与える影響を、ヒトで調査した。睡眠に対するGABAの効果を評価するために、無作為化、単一盲検、プラセボ対照クロスオーバーデザイン試験が実施された。睡眠は、GABAの経口投与後に脳波検査(EEG)によって評価された。GABAは、入眠潜時を有意に短縮し、ノンレム睡眠時間の合計を増加させた。質問票により、GABAを投与された被験者が睡眠への影響を自覚していたことが示された。さらに、投与後のGABAの血中濃度が調査され、GABAの吸収率と代謝率が測定された。GABAは急速に吸収され、GABAの血中濃度は経口投与後30分で最高になり、その後濃度が低下した。GABAは睡眠の初期段階に強く影響するため、睡眠に対するGABAの影響は、血中のGABAのレベルに関連している可能性がある。」

2b(p548左欄2段落〜右欄2段落「Study1:Sleep evaluation by EEGs])
「研究1:EEGによる睡眠評価
サンプル 試験サンプルは、ゼラチンカプセル内の112mgのGABA粉末(100mgのGABA、4.7mgのグルタミン酸、2.3mgの他のアミノ酸、3.4mgのミネラル、及び1.6mgの水)又は112mgのプラセボ、デキストリンで構成した。GABA粉末は、特定の乳酸菌株を使用した自然発酵によって製造した(PharmaGABA(登録商標);純度89%;Pharma Foods International Co.,Ltd.、京都、日本)。予備調査から、GABAの経口投与は対象が100mgの用量で確実な効果を感じることができることがわかったため、本研究は100mgのGABAを使用して実施した。

被験者 被験者は、本研究のために募集された、32人の日本人ボランティアから選ばれた。被験者たちは、通常オフィスで働き、深刻な健康上の問題はなかった。対象のスクリーニングには、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)(12)が使用された。PSQI質問票は、各被験者の睡眠状態と睡眠の質に関する18の質問で構成され、得られたデータは21点満点のスコアとして表される。PSQIスコアが高いほど、睡眠の質が低いことを示す。PSQIスコアが6以上のボランティアは、睡眠障害の疑いがあり、睡眠不足に分類されたため、本研究に適格であった(13)。ただし、睡眠時無呼吸症候群、夜間ミオクローヌス症候群、むずむず脚症候群、夜間前頭葉てんかんなどの重篤な睡眠障害のあるボランティアは除外した。最終的に、軽度の睡眠障害が疑われるが患者ではない10人の対象(平均年齢:37.7±11.5、年齢範囲:24〜57歳、6人の男性及び4人の女性)が本研究に参加した。研究を通して脱落した者はいなかった。

脳波(EFG)測定 ・・・

視覚的アナログ尺度(VAS) ・・・

研究デザインおよび試験手順 10人の対象をランダムに5人ずつの2つのグループ(グループ1とグループ2)に分けた。本研究は、2つの摂取期間(各1週間)と摂取期間間のウォッシュアウト期間(1週間)で構成した。最初の摂取期間中、グループ1と2の対象は、1週間毎日就寝する30分前に、それぞれGABAとプラセボを摂取した。2回目の摂取期間中、処置をグループ間で交換した(つまり、グループ1とグループ2の対象はそれぞれプラセボとGABAを服用した。・・・各摂取期間の前夜、被験者が睡眠中にEEG記録を取得し、ベースラインデータとして使用した。EEGは、摂取期間の最後の夜にも収集された。・・・。EEG測定に続いて、被験者はVASを使用し、眠りやすさ、目覚めたときの気持ち、睡眠の満足度を評価した。被験者は、テストサンプルからプラスの効果を感じた場合に高い得点を与えた。各被験者の睡眠の質を評価するためにVASに加えてPSQIが使用された。」

2c(p549Fig.2)


(図2.EEG試験の結果
値は、サンプル投与前後の、入眠潜時(A)、深いノンレム睡眠潜時(B)、浅いノンレム睡眠時間(C)、深いノンレム睡眠時間(D)、合計ノンレム睡眠時間(E)、レム睡眠時間(F)、覚醒頻度(G)、睡眠効率(H)、及び最初の睡眠サイクル中のデルタ波パワー(I)における変化の平均±SDである。*はプラセボと比較して有意差を示す(p<0.05)。)」

2d(p550左欄下から8〜6行及びFig.3)
「VAS評価票とPSQIによる睡眠評価の結果を図3に示す。GABAグループではVASとPSQIのすべての項目が改善した。」


(図3.VAS評価票とPSQIの結果
値は、睡眠満足度、目覚めたときの気持ち、眠りやすさ(A)、及びサンプル投与前後のPSQIスコアの変化(B)に関するVAS値の変化の平均±SDである。*はプラセボと比較して有意差を示す(p<0.05)。)」

2e(p551左欄 本文下から3〜1行)
「本研究は重要な結果を提供し、GABAを含む機能性食品が睡眠の改善に役立ち得ることを示唆している。」

(2)甲2に記載された発明
上記(1)の甲2の記載、特に、研究1(EEGによる睡眠評価)において、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者に、100mgのGABAを含むGABA粉末が内填されたゼラチンカプセルを1週間毎日摂取させたところ(摘記2b)、被験者の入眠潜時が有意に短縮し、ノンレム睡眠時間の合計を増加したとの結果の記載(摘記2cの図3の特に(A)及び(E)、摘記2aの要約)、並びに、VAS評価票及びPSQIによれば、GABAを摂取した被験者が睡眠が改善していたことを示す結果の記載(摘記2dの図3)、及び本研究がGABAを含む機能性食品が睡眠の改善に役立ち得ることを示唆しているとの記載(摘記2e)によれば、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「GABA粉末であって、112mg中に100mgのGABA、4.7mgのグルタミン酸、2.3mgの他のアミノ酸、3.4mgのミネラル、及び1.6mgの水を含み、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者に、ゼラチンカプセルの形態で、1週間継続して毎日、GABAの一日摂取量100mgで経口投与され、入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有するGABA粉末。」(以下「甲2発明」という。)

3 甲3に記載された事項
甲3は、ピロロキノリンキノンを含む、ストレス、疲労感を低減させ、睡眠の質を改善するストレス低減食品についての技術を開示する文献であって、POMSのTスコアに関し、以下の記載がある。

3a(【0022】)
「【0022】
POMSのTスコアはT−Aが63.4、Dが62.0、A−Hが63.7、Vが35.5、Fが68.8、Cが65.4であり、POMSプロファイルも典型的な下に尖った逆氷山型を示していることから、高ストレス状態にあったと推測された。」

4 甲4に記載された事項
甲4は、理学療法・作業療法の臨床実習学生の、POMS(登録商標)を利用したストレス管理について検討した文献であり、以下の記載がある。

4a
「【方法】
対象は・・・当院での臨床実習を修了した学生12名・・・であった。方法は、被験者のおかれた条件により変化する一時的な気分・感情の状態を測定できるという特徴を有するProfile of Mood Stats検査(以下:POMS)を、実習開始日、毎週末、及び実習終了1週後に行い、感覚尺度(緊張・不安:以下TA、抑うつ・落ち込み:以下D、怒り・敵意:以下AH、活気:以下V、疲労:以下F、混乱:以下C)毎に標準化得点に換算した。当院では実習期間によらず3週目に初期発表、4週目に中間成績評価、最終週に最終発表を行っている。被験者の実習期間は7週〜9週とばらつきがあったため、6週目以降は最終発表の日程を基準とし、開始時、1週目、2週目、初期発表、中間評価、5週目、最終発表前週、最終発表、終了後としてデータを扱い、一元配置分散分析及び多重比較検定を行った。・・・
・・・
【結果】
一元配置分散分析の結果、TA、D、V、F、Cにて有意差が認められた。多重比較検定の結果は、TAは終了後が最低値で開始時・1週目・2週目・初期発表・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。Dは終了後が最低値で1週目・2週目・初期発表・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。Vは最終発表前週が最低値で1週目との間に有意差が認められた。Fは最終発表前週が最高値で開始時・最終発表・終了後の間に、また2週目が2番目に高値で終了後との間に有意差が認められた。Cは終了後最低値で1週目・2週目・初期発表・中間評価・5週目・最終発表前週との間に有意差が認められた。AHは常に低く変化の傾向は認められなかった。
【考察】
POMSの感覚尺度のうち、TA、D、AH、F、CはNegativeな尺度で高値を示すほどストレスが高いものと捉えられる。このうちTA、D、F、Cでは、終了後がもっとも低値を示し、実習中との有意値が認められることが多かった。このことから実習中の学生は常に何らかのストレスを抱えていることが予測できる。このなかでD、Cは標準化得点の平均値にて初期及び最終発表前週に向け漸増し、その後落ち着く傾向が認められているため、発表に向けての評価及びそのまとめ作業を行う過程で、抑うつ・落ち込み・混乱が伴うことが窺える。またTAは開始時が最も高く、その後はD、Cと同様の傾向が認められているため、実習開始に対して緊張・不安が強いことが予測される。TA・Dに関しては終了後と5週目に有意差が認められず、Cにおいても標準化得点の平均値が低下していることから、他の時期との有意値が認められているわけではないが、初期発表を終えた安堵感や、指導者からの中間評価によるストレスの緩和が窺える。Fに関しても初期及び最終発表前週と他の時期との有意値が認められており、精神的・身体的に疲労・ストレスが高まっていることが予測される。一方Positiveな尺度であるVに関しては、1週目が最も高く、最終発表前週に向け徐々に低下して傾向が見られ、1週目と最終発表前週との間に有意差が認められている。緊張とともに活気を持って実習に望むが、ストレスの蓄積とともに活気が低下していく様子が窺える。」

5 甲5に記載された事項
甲5は、理学療法養成校1−3年の平常時と定期テスト前のストレス比較を、主観的ストレス評価と心理テスト(POMS(登録商標))を併用して行った結果の報告に関する文献であり、以下の記載がある。

5a(p12右欄「2.方法」の1〜2段落)
「2.方法
質問用紙によるアンケートと心理検査を2回行った。その1回目は5月初旬の平常時,2回目は7月中旬の定期テスト開始1週間前とし.その調査内容は被験者の平常時と定期テスト前における主観的ストレスをVisuaual analog scate(以下VAS)のテストを使用して評価し、心理変化をProfile of mood states(以下POMS)短縮版のテストを使用し評価した.
VASは,長さ10cmの線分の左端を「ストレスがない」,右端を「想像する最悪のストレス」として,被験者自身に現在のストレスをペンで示してもらった.線分上の位置の左端からの距離(mm)をもってその指標とした.」

5b(p12右欄「III.結果」〜p13左欄「IV.考察」の1段落、表1及び表2)
「III.結果
VASの結果を表1に示す.平常時と定期テスト前とで比較すると1−3年生のすべての学年で有意差が認められテスト前に高値を示した.
POMSの結果を表2に示す.・・・

IV.考 察
VASは1−3年生のすべての学年で平常時に比べ,定期テスト前に高値を示した.これは定期テストでは,今回計測したすべての学年で,主観的にストレスを感じている,精神的に負担の大きいイベントであることを示唆している.



(当審注:上記表中のマーカーは、申立人による。)

6 甲6に記載された事項
甲6は、ファイザー株式会社が全国4000名を対象に行った「不眠に関する意識調査」の結果をまとめた文献であり、以下の記載がある。

6a(p6のQ6の結果)



(当審注:上記冒頭の四角囲い内のマーカーは、申立人による。)

7 甲7に記載された事項
甲7には、本件明細書の実施例で使用された(有)アミノヘルスの商品である「ギャバ」についてのものであり、以下の記載がある。

7a




(当審注:上記表中のマーカーは、申立人による。)

8 甲8に記載された事項
甲8は、不眠症の3つのスクリーニングツールの診断精度のメタ分析結果を報告する文献であり、以下の記載がある。

8a(ABSTRACT)
「バックグラウンド:不眠症は、現代社会で非常に蔓延している健康上の苦情である。しかし、不眠症は診断も治療も不十分なままである。不眠症のリスクを評価するために、不眠症重症度指数(ISI)、アテネ睡眠尺度(AIS)、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)を含むスクリーニングツールが広く使用されているが、診断特性はまだ体系的にはまだ要約化されていない。
目的:不眠症スクリーニングのためのISI、AIS及びPSQIの診断精度を推定及び比較すること。
データソース:我々は、EMBASE、PubMed、PsycINFO、CINAHL、Chinese Electronic Periodic Servicesで、開始から2015年5月20日までのデータを体系的に検索した。
データの選択:成人参加者(年齢>18歳)の参照基準に対してISI、AIS、又はPSQIの感度と特異性を評価した元の記事が含まれていた。
結果:4693人の参加者からなる合計19の研究を基に検証した。ISI、AIS及びPSQIのプールされた感度は、それぞれ88%(95%信頼区間[CI]=0.79〜0.93)、91%(0.87〜0.93)及び94%(0.86〜0.98)であった。プールされた特異性は、85%(0.68から0.94)、87%(0.68から0.95)、及び76%(0.64から0.85)であった。プールされたDOR(当審注:表3脚注にあるとおり、「診断オッズ比」を意味する。)は、それぞれ41.93(8.77〜200.33)、67.7(23.4〜196.1)及び53(15.5〜186.2)であった。要約推定値は、ISI、AIS及びPSQI間で有意差はなかった(すべてP>0.05)。
結論:現在の証拠は、ISI、AIS及びPSQIが不眠症スクリーニングに妥当な診断上の特性を有することを示している。

9 甲9に記載された事項
甲9は、睡眠不足症候群の患者に対する休養・睡眠のあり方についての研究を記載する文献である。

9a(研究要旨)
「【研究要旨】
近年わが国でも増加傾向にある睡眠不足症候群(insufficient sleep syndrome;以下ISS)の性格傾向と治療前後の眠気・気分状態・生活の質の推移を検討した。1)未治療のISS患者25例の性格傾向をモーズレイ性格検査(MPl)で検討したところ、患者群ではControl群に比べて外向性尺度が有意に低かった。またPOMS(気分状態)では「活力」を示すV尺度が有意に低く、「混乱」を示すC尺度が有意に高かった。2)主たる治療は生活指導で、治療開始後平均13.5ヶ月(n=17)では、主に入眠時刻の前進(45分)により、睡眠時間が有意に延長(50分)し、ESS得点は有意に低下したが、治療後の平均のEpworth Sleepiness Scale(ESS)は13.3点で眠気はなお残存していた。3)治療後のPOMSでは、治療前に低かったV,C尺度は共に有意に改善していたがControl群に比べるとなお低かった。QOL26(生活の質の評価)では全ての項目で治療後に有意な改善が認められた。4)治療前後の睡眠時間の増加がPOMSのD尺度と有意な負の相関を、意欲との関連が強いV尺度が治療後の睡眠時間と有意な正の相関が認められた。本研究の結果はISSの発症に性格傾向も関与している可能性があること、睡眠不足とうつ尺度が密接に関わりあっていることを示した。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(新規事項の追加)について
(1)申立理由1は、概略、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して」投与される「GABAを有効成分として含む」、「活気および/または活力の向上剤」、「活気および/または活力の向上用食品添加剤」又は「活気および/または活力の向上用飲食品組成物」に関して、令和3年6月1日提出の手続補正書でした補正は、請求項1〜3並びに明細書の【0009】、【0010】及び【0011】に「少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される」との事項を追加したものであって、これは、新規事項を追加するものであるというものである。そして、申立書には、【0037】に記載された、有効成分を毎日継続摂取した後に摂取6週目の時点において統計学的に有意な差が認められたという事実は、必ずしも有効成分の投与を示すものではないし、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)において統計学的に優位な差が認められたのは摂取6週間の時点のみであり、8週目以降は統計学的な有意差が認められていないから、このような記載を根拠として「少なくとも6週間継続」して毎日投与するという事項を導き出すことはできない旨が記載されている。(申立書のp8〜9の(3))、当審注:上記の下線は当審が付した。新規事項に該当するとされる部分である。)

(2)まず、本件特許に係る出願の出願当初の明細書又は特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。)には、請求項1〜8の記載によれば、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して投与されるGABAを有効成分として含む、「活気および/または活力の向上剤」、「活気および/または活力の向上用食品添加剤」又は「活気および/または活力の向上用飲食品組成物」であって、「毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される」ものが記載されていた。

(3)そして、上記(2)の「活気および/または活力の向上剤」、「活気および/または活力向上用食品添加剤」及び「活気および/または活力向上用飲食品組成物」(以下、これらをまとめて「活気・活力向上剤等」ともいう。)の発明の具体的態様として、当初明細書等の実施例1(【0024】〜【0038】)には、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人の気分変調等に対する臨床試験(【0024】)において、試験食品として、GABA100mgを主成分として含有するカプセル(【0025】)1日1回1カプセルずつを、12週間にわたって毎日連続摂取させたところ(【0026】)、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価において、事前検査値(0週)と比較して、全検査時点(2〜12週)で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大きく、摂取6週目では統計的に有意差が認められたことが記載されており(【0032】、【0033】の【表3】)、実施例1では、上記カプセルは6週間を越えて12週目まで摂取させている。
また、GABAは、飲食品の形態としても摂取されるものであり(【0017】、【0025】)、長期間にわたって毎日連続摂取されることも想定されていたといえる。
そうすると、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)において統計学的に有意差が認められたのは摂取6週目の時点のみであるとしても、6週目以降を含む2〜12週で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大きいことが記載されているので、GABAの一日摂取量である10〜3000mgを、「少なくとも6週間継続」して投与することは、当初明細書等に記載されていた範囲内の事項であり、新たな技術的事項を導入するものではない。

(4)以上のとおりであるから、申立人が指摘する上記補正は、当初明細書等に記載された範囲内のものであり、新規事項を追加するものではないから、申立理由1には、理由がない。

2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)申立理由2は、概略、以下の理由で、本件発明1〜4は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないというものである(申立書のp9〜10の(4))。
(i)有意差を伴ってPOMS2―ASの活気一活力を向上させたことが示されているのは、毎日100mgのGABAを投与して6週間後の時点のみであり、本件発明の「少なくとも6週間」の全ての時点(例えば、10週間後)において本件発明の課題が解決できると理解することはできない。
(ii)実施例で使用された「アミノヘルス『ギャバ』」(甲7)はGABAだけでなく、L−テアニンも含み、実施例の表3の効果が、GABA単独によって奏されるのか不明であるから、本件発明の課題をGABA単独の投与で解決できると理解することはできない。

(2)特許請求の範囲の請求項1〜4の記載、並びに、発明の詳細な説明の「慢性的な睡眠不調は日中の眠気、注意力低下、遂行能力低下などに加えて、イライラ、うつ状態など感情面の変化が現れる。さらに、持続的なストレスは・・・精神的あるいは器質的な障害を引き起こす。したがって、・・・慢性的な疲労やストレス状態に対するGABA投与の影響を調査することが重要である。」(【0006】)及び「本発明は、GABAの活気および/または活力を向上する、あるいはサポートする機能を利用する用途を開発することを目的とする。」(【0007】)なる記載によれば、本件発明1〜4が解決しようとする課題(以下「本件発明1の課題」等という。)は、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対する、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤、当該向上用食品添加物、当該向上用飲食品組成物又は当該向上用飲食品組成物の製造方法を提供すること」であるといえる。

(3)本件発明1〜4の課題の解決に関し、発明の詳細な説明の【0009】〜【0012】には、本件発明1〜4の課題解決手段として、本件発明1〜4に特定される事項が記載されている。
また、発明の詳細な説明の実施例1には、上記1(3)で記載したとおり、臨床試験の結果として、日頃から睡眠の問題やストレス、疲労を感じているヒトを対象として臨床試験において、GABA100mgを主成分として含有するカプセルを、1日1回1カプセルずつ12週間にわたって毎日連続摂取させたところ、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気及び/又は活力が、事前検査値(0週)と比較して、全検査時点(2〜12週)で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大きくなったことが記載されている。
より具体的には、【表3】によれば、GABAの摂取6週では、事前検査値(0週)からの変化率が、プラセボ群9.3%に対し18.1%(プラセボ群と比較したp値0.045)、8週ではプラセボ群7.9%に対し17.3%(同p値0.085)、10週ではプラセボ群10.0%に対し19.3%(同p値0.106)、12週ではプラセボ群8.8%に対し20.9%(同p値0.051)と、いずれの週もプラセボ群よりGABA摂取群でより変化率が高かったことが示されている。
そして、【0032】にも記載のとおり、表3に有意差(p<0.05)を伴ってPOMS2―ASの活気一活力を向上させたことが示されているのは、毎日100mgのGABAを投与して6週間後の時点のみではあるが、実施例1には、「全検査時点で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大き」かったこと(【0037】)が明記されているし、表3では、GABA摂取の6週以降、事前検査値(0週)からの変化率が10週におけるプラセボ群10.0%に対し19.3%との数値を含め、上述のとおり、GABA摂取群では、プラセボ群よりも試験された全期間(2〜12週)にわたって、改善の幅(変化率)が大きくなっており、GABA摂取により、プラセボに比べて、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気及び/又は活力が改善できる傾向であることが理解できる。その上、プラセボ群と比較したp値は0.045(6週)→0.085(8週)→0.106(10週)→0.051(12週)となっており、一般的な「有意」の指標とされるp値(0.05未満)を満たすのは6週のみではあるものの、8〜12週では、p値が概ね0.1程度で推移しており、12週では一般的な有意の指標値の値とほぼ同程度である。
そうすると、表3における10週目の時点における結果を含め、6〜12週の時点での全ての結果の記載、及び【0037】を含めた発明の詳細な説明の記載全体から、GABAを少なくとも6週間継続して摂取することで、プラセボ群に比べて、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気及び/又は活力が改善できることを、当業者は十分理解できるといえる。
したがって、表3の記載に接した当業者は、GABA100mgを毎日6〜12週間継続して経口摂取すると、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気及び/又は活力を改善でき、本件発明1〜4の課題が解決できることを十分に理解することができる。

ここで、臨床試験においてGABA群に投与された試験食品である、アミノヘルス(有)製の市販商品である「ギャバ」カプセルは、甲7によれば、原材料が「ギャバ(国内製造)100mg、プルラン、澱粉、ミルクカルシウム、結晶セルロース、環状オリゴ糖、ショ糖エステル、L−テアニン」を含むものであり、GABA以外にL−テアニンを含むものであるところ、本件明細書の記載によれば、プラセボ(食品)群は、「GABAの代わりに澱粉を含有させたもの」(【0025】)であるから、「ギャバ」カプセル中のGABAのみを澱粉に置き換えただけのものと理解できる。
そうすると、プラセボ群とGABA摂取群とに投与した成分の違いは、GABAの有無のみであるから、当業者は、発明の詳細な説明の記載、特に、実施例1の記載全体から、【表3】に示される効果が、試験食品にL−テアニン等の他の成分が含有されていることによるものではなく、GABA自体による効果であると理解できる。

そうすると、実施例1の記載を含めた本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体から、当業者は、実施例で用いられたGABAの摂取量と投与期間を含む、GABAを「少なくとも6週間継続して毎日100〜300mgの一日摂取量を経口投与」する本件発明1〜4により、本件発明1〜4の課題が解決できると認識できるといえる。

(4)以上のとおりであるから、本件発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、申立理由2には、理由がない。

3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)申立理由3は、概略、以下の理由で本件発明1〜4は明確ではないというものである(申立書のp10〜12の(5))
(i)「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」に関し、「日ごろ」がどの程度の日数であるか不明確であるし、「睡眠の不調を感じている人」とは、睡眠のどのような要素について何を感じている人を意味するか不明確であるし、「疲労を感じている人」も同様である。また、「日ごろから」が「睡眠の不調」にのみ係るのか、「疲労」についても係るのかも不明確である。
(ii)「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」が、明細書の【0024】に記載の臨床試験の登録基準の対象者であると解釈しても、その対象が除外基準から除外された対象であるか不明である。
(iii)また、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」が、明細書の【0024】に記載の、アテネ式不眠尺度(AIS)が6点以上、POMS(登録商標)2−ASにの「疲労一無気力(FI)」のTスコアが50点以上かつ「活気一活力(VA)」のTスコアが50点以下である対象であるとした場合、対象者は、実際にこれらの評価で確認された対象であるのか、実際の確認はされていないものの、潜在的にこれらのスコアを満たす者も含めて対象としているのかが明確ではない。

(2)「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」の明確性について
請求項1等の「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」との記載において、「感じている」のは「睡眠の不調および疲労」であり、その「睡眠の不調および疲労」の両方を「日ごろから」「感じている」ものであると理解するのが相当である。そうすると、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」が「日ごろから睡眠の不調を感じ、かつ日ごろから、疲労を感じている人」であることは、明らかである。
また、上記記載における「日ごろから」とは、徹夜が続いた後に起こる一時的な睡眠不調や、激しい筋トレの後に感じる一時的な疲労といった、「一時的な睡眠不調」や「一時的な疲労」を有する対象ではなく、「慢性的な睡眠不調」や「慢性的な疲労」を感じている人であることも明らかである。
このことは、本件明細書の【0006】に「慢性的な睡眠不調は日中の眠気、注意力低下、遂行能力低下などに加えて、イライラ、うつ状態など感情面の変化が現れる。さらに、持続的なストレスは恒常性の維持機構を破綻させ、精神的あるいは器質的な障害を引き起こす。したがって、一時的な精神的ストレスのみならず、慢性的な疲労やストレス状態に対するGABA投与の影響を調査することが重要である。」と記載され、「一時的な」状態ではなく、「慢性的な」睡眠不調や疲労についての問題があることが記載され、また、【0009】等に、これらの問題を解決する課題解決手段として「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」の気分変調等に対するGABA経口投与の活気・活力向上用途を開発した旨が記載されることからも理解できる。
そして、そのような対象の代表例には、実施例1の臨床試験の被験者とされている、過去1ヶ月間に少なくとも週3回以上あてはまる症状である項目の得点を指標とした(【0027】)AISが6点以上であり、かつ、POMS(登録商標)2−ASの「疲労一無気力(FI)」のTスコアが50点以上かつ「活気一活力(VA)」のTスコアが50点以下である対象が含まれている(【0024】の「1.1 登録基準」)とはいえるが、本件発明の対象は、請求項1等に記載されるとおり、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であれば足り、本件明細書の記載を参酌しても、上記登録基準を満たす対象に限定されると解釈すべき根拠はないし、また、除外基準に該当する人が除かれると解釈すべき根拠もない。
したがって、本件発明1〜4における「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」は明確である。

(3)以上のとおりであるから、本件発明1〜4は、明確であり、申立理由3には、理由がない。

4 申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲1発明
上記第4の1(2)に記載したとおり、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる
「GABAのみを有効成分として含むγ−アミノ酪酸高含有エキスからなる、POMS(登録商標)評価における陰性感情因子である緊張−不安(T−A)、怒り−敵意(A−H)、及び混乱(C)を低減し、かつ、陽性感情因子である活気(V)を向上させる抗ストレス組成物であって、強いストレスを自覚している被験者に対して、1ヶ月継続して毎日GABA換算量50mgの一日摂取量で摂取されるものである、ドリンク剤に添加される抗ストレス組成物。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・甲1発明における「POMS(登録商標)評価における」「陽性感情因子である活気(V)を向上させる抗ストレス組成物」は、本件発明1の「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」する、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」と、「POMS(登録商標)の活気評価による活気を向上」する、「POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上剤」で
ある限りにおいて一致している。
・甲1発明の「毎日」「摂取される」「抗ストレス組成物」は、本件発明1の「継続して毎日」「経口投与される」「体外からGABAを摂取させるための」ものに相当する。
・甲1発明の「強いストレスを自覚している被験者」と本件発明1の「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」とは、「人」である限りにおいて一致している。
・甲1発明の組成物は、「GABAのみを有効成分として含むγ−アミノ酪酸高含有エキスからなる」ものであるから、甲1発明と本件発明1とは、「GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)」点で一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)、POMS(登録商標)の活気評価による活気を向上し、かつ、人に継続して毎日一日摂取量が経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上剤。
<相違点1>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上剤を投与される人が、本件発明1では「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であるのに対し、甲1発明では「強いストレスを自覚している被験者」である点。
<相違点2>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上剤が、本件発明1では、GABAの一日摂取量「100〜3000mg」で投与され、継続して毎日の投与が「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲1発明では、GABAの一日摂取量「50mg」で投与され、継続して毎日の投与が「1ヶ月」行われる点。
<相違点3>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上剤が、本件発明1では、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するためのものであるのに対し、甲1発明では、「POMS(登録商標)評価における陽性感情因子である活気(V)を向上」させるためのものである点。

イ 判断
相違点1及び2について検討する。
(ア) 甲1の請求項1に、「トリプトファン、テアニンおよびγ−アミノ酪酸を有効成分として含有する抗ストレス組成物。」(摘記1b)と記載されるとおり、甲1の請求項1に係る発明は、有効成分としてトリプトファン、L−テアニン及びγ−アミノ酪酸の3成分を必須成分として含有する抗ストレス組成物の発明であるところ、甲1発明は、比較例として記載されたものであり(比較例7のドリンク剤I(摘記1d))、有効成分としてγ−アミノ酪酸のみを含み、トリプトファンとL−テアニンは含まれない。

(イ) また、甲1の要約に、「ストレス解消に有用で日常的に連用可能な抗ストレス組成物を提供する。」という課題の解決手段として、「天然物由来成分であるトリプトファン、L−テアニンおよびγ−アミノ酪酸の三成分を混合配合することによって、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善するのに有効な抗ストレス組成物を調製する。」(摘記1a)と、また、【0008】に、「驚くべきことに、トリプトファン、テアニンおよびGABAの三成分を併用することによって、従来にない高い効率で、不安感、抑うつ、怒り等の陰性感情因子を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることを明らかにし、上記三成分を含有する抗ストレス組成物を完成するに至った。」(摘記1c)と、さらに、【0014】に、発明の効果として、「本発明の抗ストレス組成物によれば、緊張−不安、抑うつ−落胆、怒り−敵意、活気、疲労および混乱の6種類の感情・気分の尺度のうち、陰性感情因子である緊張−不安、抑うつ−落胆、怒り−敵意、疲労および混乱を低減し、かつ、陽性感情因子である活気を向上させることができた。すなわち、本発明の抗ストレス組成物は、感情・気分のバランスを改善することによって、ストレスを解消し、精神を安定させることができる。」(摘記1c)と記載されているとおり、甲1は、天然物由来成分であるトリプトファン、L−テアニン及びγ−アミノ酪酸の3成分を混合配合することによって、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善するのに有効な抗ストレス組成物を提供する点に特徴を有している。
そして、甲1の実施例6(摘記1e)には、3成分の有効成分のうち2成分のみを75mgずつ含むドリンク剤の毎日2週間の摂取の結果、「3つの有効成分のうちいずれか1成分でも欠如すると、ストレスを有効に解消することができず、むしろ悪影響を与える場合があることが分かった」ことも記載されている(【0037】)し、実施例7(摘記1e)には、甲1発明の抗ストレス組成物を含有するドリンク剤に相当するドリンク剤Iを毎日1ヶ月摂取したところ、活気(V)が改善したことは示されている(【0041】の【表4】及び【図8】)が、3成分を併用したドリンク剤Eと比べて劣る結果となっており、当該結果を受けて、【0043】には、「トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの3つの有効成分を全て含有するドリンク剤Eは、いずれの有効成分も含有しないドリンク剤Fまたはトリプトファン、L−テアニンおよびGABAの3つの有効成分のうちいずれか1成分のみ含有するドリンク剤G〜Iに比べて、陰性感情因子である緊張−不安(T−A)、抑うつ−落胆(D)、怒り−敵意(A−H)、疲労(F)および混乱(C)のいずれにおいても有意にPOMS得点を減少させ、陽性感情因子である活気(V)のPOMS得点を増加させた。」と、【0044】には、「本発明の抗ストレス組成物は、トリプトファン、L−テアニンおよびGABAの三成分を混合配合されているので、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善してストレスを全般的に解消することが確認された。」と記載され、3成分を併用とすることの利点が具体的に記載されている。

(ウ) そうすると、上記の甲1の記載を含め、甲1の記載全体に接した当業者が、3成分を併用した組成物ではなく、あえて、有効成分としてGABAのみを含有する比較例7のドリンク剤Iに注目し、その上、GABAの投与量を、甲1に具体的なGABAの投与量としては記載のない「100〜3000mg」の一日摂取量に調整するとともに、投与日数を、甲1に具体的な記載のない「少なくとも6週間」として、甲1発明を、本件発明1の相違点2を備えた組成物とすることを動機付けられるとはいえない。

(エ) また、申立人が提出した他のいずれの証拠にも、甲1に記載される、有効成分としてGABAのみを含有する比較例7のドリンク剤I(甲1発明)に注目して、一日摂取量及び投与日数を調整することを当業者に動機付けるような記載はない。

(オ) 仮に、当業者が、比較例7のドリンク剤Iに注目した場合であっても、甲1発明の対象は「強いストレスを自覚している被験者」(相違点1)であるところ、申立人が提出したいずれの証拠からも、甲1発明の「強いストレスを自覚している被験者」が本件発明1の「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であるとはいえない。
すなわち、甲3〜5(上記第4の摘記3a、4a、5a)からは、ストレスが強くなるとPOMS(登録商標)の評価による疲労(F)が増え、活気(V)が低くなる傾向にあること、また、甲6(摘記6a)からは、「常に不安やストレスを感じている人」の中には、アテネ不眠尺度5点以下の人と6点以上の両方の人がいることを、当業者が理解できるものの、これらの記載を参照しても、甲1発明の「強いストレスを自覚している被験者」が、「日ごろからの睡眠の不調および疲労を感じている人」であるとはいえない。
そして、甲1発明の「強いストレスを自覚している被験者」に、「日ごろからの睡眠の不調および疲労を感じている人」が含まれることを当業者が想定できたとしても、そもそも、甲1に接した当業者が、比較例7のドリンク剤Iである甲1発明を、「強いストレスを自覚している被験者」の中でも特に「日ごろからの睡眠の不調および疲労を感じている人」に適用し、更にGABAの一日摂取量及び投与日数を甲1に記載されていない範囲に設定することが容易に想到することができたとまではいえない。

(カ) したがって、甲3〜6を含め、申立人が提出したいずれの証拠を検討しても、甲1発明を相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を備えるものとすることを当業者が動機付けられるとはいえない。

(キ) さらに、本件発明1の効果に関し、本件明細書の実施例1には、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人の気分変調等に対する臨床試験(【0024】)において、試験食品として、GABA100mgを主成分として含有するカプセル(【0025】)を、1日1回1カプセルずつ、12週間にわたって毎日連続摂取させたところ(【0026】)、PSQI−j(ピッツバーグ睡眠質問票日本語版)及びAIS(アテネ式不眠尺度)による睡眠状態の評価において、GABA摂取群とプラセボ群とに統計学的な有意差は全く観察されなかった(【0034】及び【表4】並びに【0035】及び【表5】;6〜12週の範囲でp値は最高でもPSQI−j評価の合計スコアで0.476、AIS評価で0.340)し、また、VAS疲労感評価においても、GABA摂取群とプラセボ群とに統計学的な有意差は全く観察されなかった(【0035】及び【表6】;6〜12週の範囲でp値は最高でも0.285)一方で、上記2(3)で記載したとおり、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価において、事前検査値(0週)と比較して、全検査時点(2〜12週)で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大きく、摂取6週目では統計的に有意差が認められ、それ以降もp値がほぼ0.1で推移していたことが記載されている(【0032】、【0033】の【表3】)。

(ク) そうすると、本件明細書の記載から、当業者は、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」が「少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量」でGABAを摂取することにより、睡眠状態や疲労の改善がなされないにもかかわらず、プラセボの摂取に比べて、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気及び/又は活力を改善できることを理解することができる。
そして、この効果は、甲1発明及び甲3〜6を含め申立人が提出した証拠からは予測できない効果である。

ウ 小括
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1について、甲1発明及び甲3〜6の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、相違点2に関し、申立書のp20において、GABAの1日投与量100mgというのはごく一般的な投与量であるし(必要であれば、甲2を参照。)、GABAは継続的に長期間摂取するものであるから、投与期間を甲1発明の1ヶ月から、本件発明1のように6週間に延長することは当業者が容易に想到し得る事項である旨主張する。

(イ) そこで、検討する。
GABAの投与量として1日投与量100mgは甲2にも記載される(摘記2b)一般的な投与量であり、また、GABAは継続的に長期間摂取することが可能であるとしても、甲1の特許請求の範囲に記載の発明が、トリプトファン、L−テアニン及びγ−アミノ酪酸の3成分を混合配合することによって、ストレス反応の結果惹起されるほぼ全ての情動をバランス良く改善するのに有効な抗ストレス組成物を提供する点に特徴を有するものであって、当業者が、有効成分としてGABAのみを含有する比較例7のドリンク剤Iに注目して、その上、GABAの投与量及び投与期間を調整して、本件発明1の相違点2に係る構成を備えた組成物とすることを動機付けられるとはいえないことは、上記イで記載したとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2は、実質的に、本件発明1のPOMS(登録商標)2−ASの活気・活力(VA)向上剤が「食品添加剤」の形態である発明に相当する。
そして、甲1発明の抗ストレス組成物は、ドリンク剤に添加されるものであるから(上記第4の1(2))、これは、本件発明2の「食品添加物」に相当するといえる。
そうすると、上記(2)における本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて本件発明2と甲1発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
<一致点>
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)、POMS(登録商標)の活気評価による活気を向上し、かつ、人に継続して毎日一日摂取量が経口投与される、体外からGABAを摂取させるためのPOMS(登録商標)の活気評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤。
<相違点1’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用食品添加剤を投与される人が、本件発明2では「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であるのに対し、甲1発明では「強いストレスを自覚している被験者」である点。
<相違点2’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用食品添加剤が、本件発明2では、GABAの一日摂取量「100〜3000mg」で投与され、継続して毎日の投与が「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲1発明では、GABAの一日摂取量「50mg」で投与され、継続して毎日の投与が「1ヶ月」行われる点。
<相違点3’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用食品添加剤が、本件発明2では、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するためのものであるのに対し、甲1発明では、「POMS(登録商標)評価における陽性感情因子である活気(V)を向上」させるためのものである点。

イ 判断
相違点1’〜3’は、実質的に上記(2)アで記載した相違点1〜3と同じである。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、甲3〜6を含め、申立人が提出した証拠を検討しても、甲1発明を相違点1’及び相違点2’に係る本件発明2の構成を備えるものとすることを当業者が動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2について、甲1発明及び甲3〜6の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3は、実質的に、本件発明2のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤を、飲食品組成物の形態に加工したものに相当する。
そうすると、上記(2)アにおける本件発明1と甲1発明との対比及び上記(3)アにおける本件発明2と甲1発明との対比を踏まえて本件発明3と甲1発明を対比すると、本件発明3の「飲食品組成物」と甲1発明の「抗ストレス組成物」は、組成物である限りにおいて一致しているといえるから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
<一致点>
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)、POMS(登録商標)の活気評価による活気を向上し、かつ、人に継続して毎日一日摂取量が経口投与される、体外からGABAを摂取させるためのPOMS(登録商標)の活気評価による活気および/または活力の向上用の組成物。
<相違点1’’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用の組成物を投与される人が、本件発明3では「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であるのに対し、甲1発明では「強いストレスを自覚している被験者」である点。
<相違点2’’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用の組成物が、本件発明3では、GABAの一日摂取量「100〜3000mg」で投与され、継続して毎日の投与が「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲1発明では、GABAの一日摂取量「50mg」で投与され、継続して毎日の投与が「1ヶ月」行われる点。
<相違点3’’>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用の組成物が、本件発明3では、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するためのものであるのに対し、甲1発明では、「POMS(登録商標)評価における陽性感情因子である活気(V)を向上」させるためのものである点。
<相違点4>
POMS(登録商標)の活気評価による活気の向上用の組成物が、本件発明3では、「飲食品組成物」であるのに対し、甲1発明では、ドリンク剤に添加されるもの(つまり、飲食品組成物用の食品添加物)であって、飲食品組成物ではない点。

イ 判断
相違点1’’〜3’’は、実質的に上記(2)アで記載した相違点1〜3と同じである。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、申立人が提出した証拠を検討しても、甲1発明を相違点1’’及び相違点2’’に係る本件発明3の構成を備えるものとすることを当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明3について、甲1発明及び甲3〜6の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の飲食品組成物の製造方法の発明であるから、本件発明4と甲1発明とは、少なくとも、上記(4)アで記載した、本件発明3と甲1発明との相違点1’’〜3’’及び相違点4で相違する。
そして、上記(2)イ及び(4)イで記載したと同様の理由により、申立人が提出した証拠を検討しても、甲1発明を相違点1’’及び相違点2’’に係る本件発明4の構成を備えるものとすることを当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明4について、甲1発明及び甲3〜6の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜4について、甲1発明及び甲3〜6の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、申立理由4には、理由がない。

5 申立理由5(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲2発明
上記第4の2(2)に記載したとおり、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認められる
「GABA粉末であって、112mg中に100mgのGABA、4.7mgのグルタミン酸、2.3mgの他のアミノ酸、3.4mgのミネラル、及び1.6mgの水を含み、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者に、ゼラチンカプセルの形態で、1週間継続して毎日、GABAの一日摂取量100mgで経口投与され、入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有するGABA粉末。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
・甲2発明においてGABA粉末に含まれる「GABA」が「有効成分」であることは明らかである。また、甲2発明の「GABA粉末」も、本件発明1の「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」も「組成物」であるといえる。
そうすると、甲2発明の「GA粉末」は、本件発明1の「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」と、「GABAを有効成分として含む組成物」である限りにおいて一致しているといえる。
・甲2発明の「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者」と本件発明1の「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」とは、「人」である限りにおいて一致している。
・甲2発明の「1週間継続して毎日」「経口投与され」るGABA粉末は、本件発明1の「継続して毎日」「経口投与される」「体外からGABAを摂取させるための」ものに相当する。
・甲2発明の「GABAの一日摂取量100mg」は、本件発明1の「100〜3000mgの一日摂取量」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
GABAを有効成分として含む、人に継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための組成物。
<相違点5>
本件発明1では、GABAを有効成分として含む組成物を投与される人が、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であり、GABAを有効成分として含む組成物が、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」であるのに対し、甲2発明では、GABAを有効成分として含む組成物を投与される人が、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者」であり、GABAを有効成分として含む組成物が、「入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有するGABA粉末」である点。
<相違点6>
GABAを有効成分として含む組成物の継続して毎日の経口投与が、本件発明1では「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲2発明では、「1週間」行われる点。
<相違点7>
GABAを有効成分として含む組成物について、本件発明1では、「(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)」と特定されているのに対し、甲2発明では特定されていない点。

イ 判断
まず、相違点5について検討する。
(ア) 甲2発明でGABA粉末を投与される対象は、「軽度の睡眠障害が疑われる被験者」であって、甲2には、当該被験者が「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」、つまり、慢性的な睡眠不調及び慢性的な疲労を感じている対象であることは記載されていないし、「軽度の睡眠障害が疑われる被験者」に「慢性的な睡眠不調及び疲労を感じている人」が含まれることが本件特許の出願時の技術常識であったとも解されない。

(イ) また、甲2発明のGABA粉末は、「入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有する」ものであるところ、入眠潜時を短縮し、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有する組成物であれば、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」として有用であるとの、本件特許の出願時の技術常識があったとも解されない。

(ウ) 甲9には睡眠とPOMS(登録商標)における活力(V)の関係に関し、睡眠不足症候群の患者に生活指導中心での治療を行ったところ、睡眠時間が有意に延長(50分)し、治療前に低かった活力(V)が有意に改善したことが記載されている(上記第4の摘記9a)。しかしながら、甲9の患者は、甲9のp64左欄下から3〜1行に記載のとおり「強い眠気が睡眠時間の不足により生じた」患者であり、治療前までは多忙な生活により十分な睡眠時間を確保することができなかった生活であったのが、生活指導により生活を変えることで十分な睡眠時間が確保できて、POMS(登録商標)における活力(V)が改善したものである。
一方、甲2発明の被験者は、PSQIスコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある者であり、甲2には、甲2発明の被験者が多忙な生活に起因して睡眠不足が生じている睡眠不足症候群の患者であるとの記載はなく、むしろ、甲2のp547左欄の「Introduction」の2段落目に、日本では、20%を超える成人が不眠症を患っていること、及び睡眠が日本における深刻な社会問題であることが記載され、また、甲2の図2で脳波(EFG)測定により入眠潜時やノンレム睡眠時間の合計時間を測定してその改善状態を確認していることに鑑みるに、甲2の被験者は、甲9のような十分な睡眠時間を確保することができない生活をしている睡眠不足症候群の患者ではないと考えられる。

(エ) そうすると、甲9に、睡眠不足症候群の患者が十分な睡眠時間を確保できる生活とすることで、POMS(登録商標)における活力(V)が改善したことが示されているとしても、甲2発明の「PSQIスコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者」のように、睡眠不足症候群の患者ではない場合であっても、GABA粉末の投与により、睡眠改善がなされることで、POMS(登録商標)における活力(V)の改善が行えるかは不明である。まして、甲2発明の被験者より重篤な状態と解される、慢性的な睡眠不調及び疲労がある「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」の場合に、POMS(登録商標)における活力(V)の改善が行えるかは全く不明であるといわざるを得ない。

(オ) してみると、本件特許の出願前に、POMS(登録商標)2がPOMS(登録商標)の改訂版であり(必要ならhttps://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/n3e1aa83f6f13参照。なお「AS」とは、成人用の短縮版のことである。)、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価が甲9に記載のPOMS(登録商標)の活気(V)評価に対応するものであることが周知であるとしても、当業者が、甲2発明の「入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有するGABA粉末」が、POMS(登録商標)における活力(V)の改善を行えるかは不明なのであるから、当業者が、当該GABA粉末を、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」とすることを動機付けられるとはいえない。

(カ) そして、不眠症のリスクを評価するための、アテネ睡眠尺度(AIS)、ピッツバーグ睡眠品質指数(PSQI)(及び不眠症重症度指数(ISI))が、いずれも、不眠症スクリーニングに妥当な診断上の特性を有していることを記載する甲8を含め、申立人が提出したいずれの証拠にも、甲2発明のGABA粉末を、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤」とすることを動機付ける記載はない。

(キ) したがって、甲8〜9を含め、申立人が提出したいずれの証拠を検討しても、甲2発明を相違点5に係る本件発明2の構成を備えるものとすることを、当業者が動機付けられるとはいえない。

ウ 小括
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1について、甲2発明及び甲8〜9の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、相違点5(これは、申立書のp27における相違点1及び3に相当する。)に関し、甲8によれば、甲2発明の「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上」の被験者は、本件明細書の実施例1に登録基準として記載される「AISが6点以上」の被験者に相当するし、甲9によれば、甲2発明の「PSQIスコアが6以上」の被験者は、「POMS2−ASの『疲労無気力(FI)』のTスコアが50点以上かつ『活気一活力(VA)』のTスコアが50点以下」を満たす蓋然性が高いから、甲2発明の「PSQIスコアが6以上」の被験者は、本件発明1の「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」に相当し、甲9によれば、睡眠の質が向上することによって、自ずとPOMSのVは向上する傾向にあるといえるから、甲2発明においても、睡眠の質が向上することによって自動的にPOMS(登録商標)2−ASのVAスコアも向上することになる蓋然性が高く、相違点5は実質的には相違点ではない旨主張する(申立書のp27〜31)。

(イ) そこで、検討する。
上記イで説示したとおり、甲8には、AISとPSQIが、いずれも、不眠症スクリーニングに妥当な診断上の特性を有していることは記載されるが、甲8には、「PSQIスコアが6以上」の被験者は、「AISが6点以上」の被験者に相当することは記載されていない。また、甲9には、睡眠不足症候群の患者が十分な睡眠時間を確保できる生活とすることで、POMS(登録商標)における活力(V)が改善したことが示されているのみであり、甲9の記載を参酌しても、睡眠不足症候群の患者であるとはいえない、より重篤な(慢性的な)「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」に甲2発明のGABA粉末を投与した場合に、睡眠の質が向上することで、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)スコアの改善が行えるかは不明である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2は、実質的に、本件発明1のPOMS(登録商標)2の活気・活力(VA)向上剤が「食品添加剤」の形態である発明に相当する。
そして、甲2発明のGABA粉末は、ゼラチンカプセルの形態で経口投与されるもの、つまり、食品の形態で投与されるものであるから、ゼラチンカプセル内に含まれるGABA粉末は、本件発明2の「食品添加剤」に相当するといえる。
そうすると、上記(2)における本件発明1と甲2発明との対比を踏まえて本件発明2と甲2発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
<一致点>
GABAを有効成分として含む、人に継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための食品添加剤。
<相違点5’>
本件発明2では、GABAを有効成分として含む食品添加剤を投与される人が、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であり、GABAを有効成分として含む食品添加剤が、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用」のものであるのに対し、甲2発明では、GABAを有効成分として含むGABA粉末(食品添加物)を投与される人が、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者」であり、GABAを有効成分として含むGABA粉末(食品添加物)が、「入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有する」ものである点。
<相違点6’>
GABAを有効成分として含む食品添加剤の継続して毎日の経口投与が、本件発明2では「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲2発明では、「1週間」行われる点。
<相違点7’>
GABAを有効成分として含む食品添加剤について、本件発明2では、「(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)」と特定されているのに対し、甲2発明では特定されていない点。

イ 判断
相違点5’〜7’は、実質的に上記(2)アで記載した相違点5〜7と同じである。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、甲8〜9を含め、申立人が提出したいずれの証拠を検討しても、甲2発明を相違点5’に係る本件発明2の構成を備えるものとすることを当業者が動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2について、甲1発明及び甲8〜9の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3は、実質的に、本件発明2のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤を、飲食品組成物の形態に加工したものに相当する。
そうすると、上記(2)アにおける本件発明2と甲1発明との対比を踏まえて本件発明3と甲2発明を対比すると、本件発明3の「飲食品組成物」と甲1発明の「GABA粉末」は、組成物である限りにおいて一致しているといえるから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
<一致点>
GABAを有効成分として含む、人に継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための組成物。
<相違点5’’>
本件発明3では、GABAを有効成分として含む組成物を投与される人が、「日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人」であり、GABAを有効成分として含む組成物が、「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上」するための「POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物剤」であるのに対し、甲2発明では、GABAを有効成分として含む組成物を投与される人が、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアが6以上で、軽度の睡眠障害の疑いがある被験者」であり、GABAを有効成分として含む組成物が、「入眠潜時を短縮し、かつ、ノンレム睡眠時間の合計を増加させる、睡眠改善効果を有するGABA粉末」である点。
<相違点6’’>
GABAを有効成分として含む組成物の継続して毎日の経口投与が、本件発明3では「少なくとも6週間」行われるのに対し、甲2発明では、「1週間」行われる点。
<相違点7’’>
GABAを有効成分として含む組成物について、本件発明3では、「(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)」と特定されているのに対し、甲2発明では特定されていない点。
<相違点8>
GABAを有効成分として含む組成物が、本件発明3では、「飲食品組成物」であるのに対し、甲2発明では、飲食品組成物ではない点。

イ 判断
相違点5’’〜7’’は、実質的に上記(2)アで記載した相違点5〜7と同じである。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、申立人が提出したいずれの証拠を検討しても、甲2発明を相違点5’’に係る本件発明3の構成を備えるものとすることを当業者が動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明3について、甲2発明及び甲8〜9の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の飲食品組成物の製造方法の発明であるから、本件発明4と甲2発明とは、少なくとも、上記(4)アで記載した、本件発明3と甲1発明との相違点5’’〜7’’及び相違点8で相違する。
そして、上記(2)イ及び(4)イで記載したと同様の理由により、申立人が提出した証拠を検討しても、甲2発明を相違点5’’に係る本件発明4の構成を備えるものとすることを当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明4について、甲2発明及び甲7〜8の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜4について、甲2発明及び甲7〜8の記載から、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、申立理由5には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、申立理由1〜5にはいずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-08-09 
出願番号 P2016-153043
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 55- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 原田 隆興
渕野 留香
登録日 2021-09-21 
登録番号 6947495
権利者 三和酒類株式会社
発明の名称 GABAを有効成分とする活気および/または活力向上剤  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 須藤 晃伸  

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