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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1388421
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-02 
確定日 2022-08-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6959381号発明「抹茶風味付与剤及びこれを含有する緑茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6959381号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6959381号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和2年3月16日の出願であって、令和3年10月11日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年11月2日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月2日に特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年同月31日に特許異議申立人から上申書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、粉砕茶葉、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩からなる容器詰緑茶飲料であって、以下、(A)、(B)、(C)、及び(D)を満たす、前記緑茶飲料:
(A)緑茶飲料中の亜鉛含有量が、0.08〜4mg/100mLである;
(B)緑茶飲料の680nmにおける吸光度が、0.08〜0.85である;
(C)緑茶飲料のpHが5〜7である;
(D)緑茶飲料中のアスコルビン酸の含有量が、10〜80mg/100mLである。
【請求項2】
カテキン類の濃度が10〜40mg/100mLである、請求項1に記載の容器詰緑茶飲料。
【請求項3】
加熱殺菌済である、請求項1又は2に記載の容器詰緑茶飲料。
【請求項4】
緑茶飲料中の粉砕茶葉含有量が0.001〜0.1g/100mLである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器詰緑茶飲料。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年5月2日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(公然実施をされた発明に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1−1ないし1−4、2−1及び2−2並びに3号証の開示から、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされたと認められる発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲第1−1号証:様式I:届出食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け)、インターネット<URL:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc02/?recordSeq=42204210590901>
甲第1−2号証:様式VI:表示の内容/表示見本
甲第1−3号証:別紙様式(VI)表示見本 商品名「お〜いお茶お抹茶」
甲第1−4号証:様式VII:食品関連事業者及び届出食品に関する基本情報/作用機序
甲第2−1号証:「機能性表示食品の届出を公表するまでの期間について」、インターネット<URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/food_with_function_clains_190701_0005.pdf>
甲第2−2号証:「機能性表示食品コンサルティング 1−2―1−5:これまでの届出一覧(E1-E882)」、E805、インターネッ卜<URL:http://www.yakujihou.com/kinousei/member/kinou_db/1-2-1-5/>
甲第3号証:「ニュースリリース ITO EN MATCHA PROJECT 第一弾製品 日本初テアニンと茶カテキンの働きにより“認知機能(注意力・判断力)の精度を高める” 「お〜いお茶 お抹茶」 12月7日(月)新発売」、インターネット<URL:https://www.itoen.co.jp/news/detail/id=25647>
甲第4−1号証:薬食審第0902001号 答申書、インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0616-6.html>
甲第4−2号証:薬食審第0902001号 答申書 別記1、インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0616-6a.html>
甲第5−1号証:平成27年3月30日消食表第139号、インターネット<URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/150330_tuchi-bun.pdf>
甲第5−2号証:内閣府令第十号 食品表示基準 第2条、インターネット<URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220330_01.pdf>
甲第5−3号証:内閣府令第十号 食品表示基準 別表第十一(第2条第7条、第二十3条関係)、インターネット<URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220330_02.pdf>
甲第6号証:国際公開第2020/027283号
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1−1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 証拠に記載された事項
(1)甲1−1に記載された事項
甲1−1は、株式会社伊藤園による商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品の届出情報を消費者庁が公表したインターネットホームページであり、「様式II:安全性評価」、「様式III:生産・製造及び品質の管理」、「様式IV:健康被害の情報収集体制」、「様式V:機能性の科学的根拠」、「様式VI:表示の内容/表示見本」及び「様式VII:食品関連事業者及び届出食品に関する基本情報/作用機序」へのリンクが含まれている。
そして、甲1−1には、おおむね次のとおり記載されている。なお、下線は予め付されたものに加え、当審で付したものがある。また、ロゴマーク等の摘記は省略した。他の証拠も同様。

・「(2)当該製品の安全性に関する届出者の評価
届出食品は、1日摂取目安量(740ml/2本)当たり、テアニンを50.3mg、茶カテキンを171mg含むように設計された商品です。」(第1ページ中段)

・「よって、「お〜いお茶お抹茶」は740ml(2本)あたりテアニン50.3mg、茶カテキン171mgを含有しているため、認知機能のうち、注意力(注意を持続させて、一つの行動を続ける力)や判断力(判断の正確さや速さ、変化する状況に応じて適切に処理する力)の精度を高める機能があることが期待できます。」(第3ページ上段)

(2)甲1−2に記載された事項
甲1−2は、甲1−1のリンクから閲覧できる商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品の届出情報の一部であり、表示見本へのリンクが含まれている。
そして、甲1−2には、おおむね次のとおり記載されている。

・「機能性関与成分名:テアニン、茶カテキン
含有量:テアニン50.3mg、茶カテキン171mg」(第1ページ上段)

(3)甲1−3に記載された事項
甲1−3は、甲1−2のリンクから閲覧できる商品名「お〜いお茶お抹茶」の表示見本であり、おおむね次のとおり記載されている。

・「●品名;抹茶飲料(清涼飲料水)
●原材料名:抹茶(日本)、亜鉛酵母、緑茶(日本)/ビタミンC、テアニン
●内容量:370ml」(表示見本中央)

・「栄養成分表示
2本(740ml当たり)
・・・(略)・・・
食塩相当量: 0.18g
亜鉛: 23.0mg
機能性関与成分
テアニン50.3mg
茶カテキン171mg」(表示見本左端)

(4)甲1−4に記載された事項
甲1−4には、商品名「お〜いお茶お抹茶」の販売開始予定日が2020年12月7日であったことが記載されている。

(5)甲2−1に記載された事項
甲2−1には、おおむね次のとおり記載されている。

・「機能性表示食品の届出を公表するまでの期間について 消費者庁
令和元年7月
運用改善目標
○届け出に不備がない場合
消費者庁に届出資料が提出された日から50日を超えない期間に公表する。」(第1ページ上段)

(6)甲2−2に記載された事項
甲2−2は、株式会社薬事法ドットコムが提供する「機能性表示食品届出データベース」において、届出番号E805を検索した結果であり、届出番号E805の株式会社伊藤園の商品名「お〜いお茶お抹茶」について、届出の受理日が2020年4月30日であったことが記載されている(第2ページ)。

(7)甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次のとおり記載されている。

・「「お〜いお茶 お抹茶」
12月7日(月)新発売
株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)は、日本初(*1)テアニンと茶カテキンの働きにより“認知機能(注意力・判断力)の精度を高める”機能性表示食品「お〜いお茶 お抹茶」を12月7日(月)に新発売します。」(第1ページ上段)

(8)甲4−1に記載された事項
甲4−1には、おおむね次のとおり記載されている。

・「グルコン酸亜鉛及びグルコン酸銅について別記1のとおり使用基準を改正することが適当である。」(第1ページ中段)

(9)甲4−2に記載された事項
甲4−2には、おおむね次のとおり記載されている。

・「グルコン酸亜鉛の使用基準
グルコン酸亜鉛(下線太字部分が改正事項。)
グルコン酸亜鉛は,母乳代替食品及び保健機能食品以外の食品に使用してはならない。・・・グルコン酸亜鉛は,保健機能食品に使用したとき、当該食品の一日当たりの摂取目安量に含まれる亜鉛の量が15mgを超えないようにしなければならない。」(第1ページ上段)

(10)甲5−1に記載された事項
甲5−1には、おおむね次のとおり記載されている。

・「食品表示基準について
この度、食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項の規定に基づく食品表示基準が、平成27年3月20日に公布され、同年4月1日から施行されることとなりました。」(第1ページ中段)

(11)甲5−2に記載された事項
甲5−2は、甲5−1に記載された平成27年4月1日から施行されている食品表示基準であり、おおむね次のとおり記載されている。

・「十一 栄養機能食品 食生活において別表第十一の第一欄に掲げる栄養成分(ただし、錠剤、カプセル剤等の形状の加工食品にあっては、カリウムを除く。)の補給を目的として摂取をする者に対し、当該栄養成分を含むものとしてこの府令に従い当該栄養成分の機能の表示をする食品(特別用途食品及び添加物を除き、容器包装に入れられたものに限る。)をいう。」(第4及び5ページ)

(12)甲5−3に記載された事項
甲5−3は、食品表示基準の別表第十一であり、栄養成分である亜鉛の下限値が2.64mgであり、上限値が15mgであることが記載されている。

(13)甲6に記載された事項
甲6には、「クロロフィルを含有する植物抽出液の製造方法」に関して、おおむね次のとおり記載されている。

・「[0001] 本発明は、クロロフィルを含有する植物体の抽出液の製造方法に関する。」

・「[0006] 近年の飲料製品は、容器として透明のペットボトルを用いたものがほとんどである。透明容器入り飲料の場合、飲料の色味が商品価値の重要な要素となる。
本発明は、透明容器入り飲料の原料として使用可能な、清涼感を有するクロロフィルを含有する植物抽出液の製造方法を提供することを目的とする。
[0007] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、微粉砕したクロロフィルを含有する植物体を、亜鉛を含む溶液に懸濁させることにより、脂溶性のクロロフィルが多く溶出し、さらにそのクロロフィルが亜鉛型クロロフィルになることを見出した。そして、この亜鉛型クロロフィルを高濃度で含有する液を固液分離することにより、鮮やかな緑色を有し、かつ清澄性の高い溶液が得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。本発明はこれに限定されるものではないが、本発明は以下に関する。
(1)下記(a)〜(c)の工程;
工程(a):クロロフィルを含有する植物体を粉砕して粉末植物体を得る粉砕工程、
工程(b):亜鉛を含む溶液に前記粉末植物体を懸濁させる懸濁工程、および
工程(c):前記得られた懸濁液の固体成分と液体成分とを分離する固液分離工程
を含む、クロロフィルを含有する植物抽出液の製造方法。
(2)クロロフィルを含有する植物体が茶葉である、(1)に記載の方法。
(3)亜鉛が、亜鉛酵母の形態で添加されたものである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1に記載の製造方法で得られる、植物抽出液。
(5)(4)に記載の植物抽出液を含有する、飲料。
(6)(1)〜(3)のいずれか1に記載の方法により得られた植物抽出液を配合する工程を含む、飲料の製造方法。」

・「[0034] 本発明の飲料は、特に限定されないが、使用される植物体は茶葉が好ましいことから、茶飲料であることが好ましい。茶飲料とは、茶葉の抽出液を含有する飲料であり、具体的には、緑茶、ほうじ茶、ブレンド茶、麦茶、マテ茶、ジャスミン茶、紅茶、ウーロン茶、杜仲茶などが挙げられる。本発明において特に好ましい茶飲料は、緑茶飲料である。」

・「[0036] 実験例1:亜鉛酵母の影響(1)
粉末植物体として、石臼を用いて平均粒子径10μmに粉砕された抹茶(碾茶の粉末体)を用いた。亜鉛としては、水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)を用いた。抹茶2.5gを秤量し、亜鉛酵母エキス0.3g及び80倍量の温水(85℃)を混合し、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間))を用いて懸濁させた後、懸濁液を遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件:6300rpmで2分間遠心した上澄みを採取し、さらにこの上澄みについてフィルターろ過(スリーエムジャパン株式会社、商品名「Zeta Plus(TM)B90-10S」する))し、高清澄度の抽出液を得た(試料1)。この抽出液について加熱殺菌処理を行い、55℃で1週間保管した。殺菌直後及び保管後の外観を4名のパネルにより評価した(+++:鮮やかな緑色、++:やや鮮やかな緑色、+:やや黄色みがかった緑色、±:黄色〜褐色)。評価結果については、抽出液の外観評価を各自が実施した後、パネル全員で協議して決定した。なお、55℃で1週間の保管は、長期保存(常温3ヶ月相当)の加速試験を意味する。また、亜鉛酵母を、不溶性成分を含む亜鉛酵母(ミネラル酵母シリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)に変えたものも製造し(試料1’)、評価した。さらに対照として、亜鉛酵母を添加しない以外は同様にして抽出液を製造し(試料2)、評価した。」

・「[0052] 実験例9:茶飲料の製造
粉砕工程(a)、懸濁工程(b)、固液分離工程(c)を経て得られた実験例1の試料1の抽出液を用いて容器詰飲料を製造した。具体的には、実験例1の試料1の抽出液200gに水800g、酸化防止剤(アスコルビン酸)、及びpH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を混合し、pHを6.4に調整した。これを透明ペットボトル容器に充填して加熱殺菌処理を行い、容器詰飲料を得た。殺菌直後及び55℃で1週間保管後の外観を評価したところ、鮮やかな緑色を有し、清涼感のある飲料であった。また、飲用してその風味を評価したところ、抹茶の香りと渋みのバランスが良く、キレがあって飲みやすい飲料であった。」

2 申立理由1(公然実施をされた発明に基づく進歩性)について
(1)「株式会社伊藤園による商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品」の公然実施性について
令和4年5月31日に特許異議申立人が提出した上申書に添付された参考資料1−1ないし1−3によると、甲1−1ないし1−4に示された株式会社伊藤園による商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品の消費者庁への届出日は、本件特許の出願前の2020年3月9日であるといえる(なお、甲1−1ないし1−4、2−1、2−2及び3並びに参考資料1−1ないし1−3からは、届出の内容が公表された日は不明である。甲2−2には、「受理日は2020/04/30」という記載があるが、受理日が公表された日のことであるかは不明である。)。
ところで、「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明をいうところ、消費者庁への届出の内容は公表されるまでは誰もが知り得る状態にあるわけではなく、届出の内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で届出をされたとはいえないから、本件特許の出願前の2020年3月9日に消費者庁に株式会社伊藤園による商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品の届出がされたとしても、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされたことにはならない。
したがって、甲1−1ないし1−4から、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明を認定することはできないので、当然、本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

仮に、甲1−1ないし1−4に示された「株式会社伊藤園による商品名「お〜いお茶お抹茶」の機能性表示食品」(以下、「お〜いお茶お抹茶」という。)が本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であると認められるとして、さらに検討を進める。

(2)本件特許発明1ないし4と「お〜いお茶お抹茶」との対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1は、「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、粉砕茶葉、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩からなる容器詰緑茶飲料」であり、「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母」、「緑茶葉エキス」、「粉砕茶葉」、「アスコルビン酸又はその塩」及び「pH調整のためのアルカリ金属塩」以外の原料を含まないものである。
他方、「お〜いお茶お抹茶」は、甲1−1ないし1−4によると、「原材料として、抹茶(日本)、亜鉛酵母、緑茶(日本)、ビタミンC、テアニンが使用され、栄養成分として2本(740ml当たり)に食塩相当量が0.18g、亜鉛が23.0mg含まれ、機能性関与成分としてテアニンが50.3mg、茶カテキンが171mg含まれている内容量370mlの抹茶飲料(清涼飲料水)」である。
そうすると、「お〜いお茶お抹茶」は、「原材料」として「テアニン」を使用するものであるから、本件特許発明1のように「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母」、「緑茶葉エキス」、「粉砕茶葉」、「アスコルビン酸又はその塩」及び「pH調整のためのアルカリ金属塩」以外の原料を含まないものではない。
そして、「お〜いお茶お抹茶」は、「テアニン」を含有することによって、認知機能のうち、注意力(注意を持続させて、一つの行動を続ける力)や判断力(判断の正確さや速さ、変化する状況に応じて適切に処理する力)の精度を高める機能があることが期待されるものであるから、「お〜いお茶お抹茶」において、「原材料」として「テアニン」を使用しないようにすることの動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。
また、本件特許発明1の奏する「抹茶等の粉砕茶葉の使用量を減らしながらも、粉砕茶葉のコクや甘みが増強された緑茶飲料を提供することが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0010】)という効果は、「お〜いお茶お抹茶」に関する甲1−1ないし1−4の記載からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、本件特許発明1は、「お〜いお茶お抹茶」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、「お〜いお茶お抹茶」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので申立理由1によっては取り消すことはできない。

3 申立理由2(甲6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3に基づく進歩性)について
(1)甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を、特に実験例9に関して整理すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

<甲6発明>
「抹茶2.5gを秤量し、水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)0.3g及び80倍量の温水(85℃)を混合し、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間))を用いて懸濁させた後、懸濁液を遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件:6300rpmで2分間遠心した上澄みを採取し、さらにこの上澄みについてフィルターろ過(スリーエムジャパン株式会社、商品名「Zeta Plus(TM)B90-10S」)する)し、高清澄度の抽出液を得、該抽出液200gに水800g、酸化防止剤(アスコルビン酸)、及びpH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を混合し、pHを6.4に調整し、これを透明ペットボトル容器に充填して加熱殺菌処理を行い、得た容器詰飲料。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明における「高清澄度の抽出液」は、「抹茶2.5gを秤量し、水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)0.3g及び80倍量の温水(85℃)を混合し、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間))を用いて懸濁させた後、懸濁液を遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件:6300rpmで2分間遠心した上澄みを採取し、さらにこの上澄みについてフィルターろ過(スリーエムジャパン株式会社、商品名「Zeta Plus(TM)B90-10S」)する)し」て得たもの、すなわち、遠心処理して得られた上澄みをフィルターろ過したものであるから、温水に溶けた状態の「水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)」及び温水に溶けた状態の「抹茶」を含むとはいえるものの、「粉砕茶葉」のような固形状のものを含まないことは明らかである。
したがって、甲6発明における「高清澄度の抽出液」は本件特許発明1における「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母」及び「緑茶葉エキス」に相当する。
甲6発明における「酸化防止剤(アスコルビン酸)」は本件特許発明1における「アスコルビン酸又はその塩」に相当する。
甲6発明における「pH調整剤(炭酸水素ナトリウム)」は本件特許発明1における「pH調整のためのアルカリ金属塩」に相当する。
上記相当関係を踏まえると、甲6発明における「抹茶2.5gを秤量し、水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)0.3g及び80倍量の温水(85℃)を混合し、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間))を用いて懸濁させた後、懸濁液を遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件:6300rpmで2分間遠心した上澄みを採取し、さらにこの上澄みについてフィルターろ過(スリーエムジャパン株式会社、商品名「Zeta Plus(TM)B90-10S」する)し、高清澄度の抽出液を得、該抽出液200gに水800g、酸化防止剤(アスコルビン酸)、及びpH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を混合し」という発明特定事項は本件特許発明1における「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、粉砕茶葉、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩からなる」という発明特定事項と、「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩を含む」という限りにおいて一致する。
甲6発明における「容器詰飲料」は本件特許発明1における「容器詰緑茶飲料」に相当する。
甲6発明は、「高清澄度の抽出液」を得るために「水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)」を使用するものであるから、「容器詰飲料」中に「亜鉛」を含有しているとはいえるものの、遠心分離をしていることから、「容器詰飲料」中の「亜鉛」の含有量は不明である。
甲6発明における「容器詰飲料」の「pH」は「6.4」であるから、甲6発明は本件特許発明1における「(C)緑茶飲料のpHが5〜7である」という発明特定事項の条件を満たす。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩を含む容器詰緑茶飲料であって、以下、(C)を満たす、前記緑茶飲料:
(C)緑茶飲料のpHが5〜7である。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6−1>
「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩を含む」に関して、本件特許発明1においては、さらに「粉砕茶葉」を含むことが特定された上で、「亜鉛の水溶性塩又は亜鉛含有酵母、緑茶葉エキス、粉砕茶葉、アスコルビン酸又はその塩、及びpH調整のためのアルカリ金属塩からなる」と特定されているのに対し、甲6発明においては、「抹茶2.5gを秤量し、水溶性の亜鉛酵母である亜鉛酵母エキス(イーストリッチシリーズ(亜鉛)、オリエンタル酵母工業株式会社、5%亜鉛含有)0.3g及び80倍量の温水(85℃)を混合し、マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、商品名「T.K.ロボミックス」、仕様:T.K.ホモミキサー、処理条件:回転数10,000rpm×5分間))を用いて懸濁させた後、懸濁液を遠心分離(株式会社コクサン製、商品名「冷却/高速遠心機 H-9R」、処理条件:6300rpmで2分間遠心した上澄みを採取し、さらにこの上澄みについてフィルターろ過(スリーエムジャパン株式会社、商品名「Zeta Plus(TM)B90-10S」する)し、高清澄度の抽出液を得、該抽出液200gに水800g、酸化防止剤(アスコルビン酸)、及びpH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を混合し」と特定されている点。

<相違点6−2>
本件特許発明1においては、「(A)緑茶飲料中の亜鉛含有量が、0.08〜4mg/100mLである」ことが特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点6−3>
本件特許発明1においては、「(B)緑茶飲料の680nmにおける吸光度が、0.08〜0.85である」ことが特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点6−4>
本件特許発明1においては、「(D)緑茶飲料中のアスコルビン酸の含有量が、10〜80mg/100mLである」ことが特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、検討する。
(ア)相違点6−1について
甲6発明において、「粉砕茶葉」を含ませることの動機付けとなる記載は甲6にはないし、甲4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3にもない。
したがって、甲6発明において、甲6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3に記載された事項を考慮しても、相違点6−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(イ)相違点6−2について
甲6発明において、「容器詰飲料」中の「亜鉛含有量」を、「0.08〜4mg/100mL」とすることの動機付けとなる記載は甲6にはない。
また、甲4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3には、保健機能食品や栄養機能食品に亜鉛を使用する際の上限値が15mgであり、下限値が2.64mgであることが記載されているものの、これらの記載は、甲6発明のような「容器詰飲料」において、「亜鉛含有量」を「0.08〜4mg/100mL」とする動機付けとなる記載ではない。
したがって、甲6発明において、甲6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3に記載された事項を考慮しても、相違点6−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)相違点6−3について
甲6発明において、「容器詰飲料」の「680nmにおける吸光度」を「0.08〜0.85」とすることの動機付けとなる記載は甲6にはないし、甲4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3にもない。
したがって、甲6発明において、甲6、4−1及び4−2並びに5−1ないし5−3に記載された事項を考慮しても、相違点6−3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(エ)効果について
本件特許発明1の奏する「抹茶等の粉砕茶葉の使用量を減らしながらも、粉砕茶葉のコクや甘みが増強された緑茶飲料を提供することが可能となる」という効果は、甲6発明並びに甲6、4−1、4−2及び5−1ないし5−3に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、相違点6−4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明並びに甲6、4−1、4−2及び5−1ないし5−3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6発明並びに甲6、4−1、4−2及び5−1ないし5−3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので申立理由2によっては取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-08-12 
出願番号 P2020-045478
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 ▲吉▼澤 英一
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
登録日 2021-10-11 
登録番号 6959381
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 抹茶風味付与剤及びこれを含有する緑茶飲料  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  
代理人 國枝 由紀子  
代理人 松尾 淳一  

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