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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1388422
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-02 
確定日 2022-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6958217号発明「立体造形用樹脂粉末及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6958217号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6958217号(請求項の数7。以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年10月18日(優先権主張 平成29年1月12日)の出願であって、令和3年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和3年11月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年5月2日に、特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

[本件特許発明1]
「 樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末であって、
粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下であり、
粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であり、
個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して30個数% 以下であり、
体積平均粒子径(Dv)が40〜100μmであり、
BET法で測定した比表面積が0.06〜0.51m2/gであることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明2]
「 前記樹脂粒子は結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明3]
「 前記結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール、ポリイミド及びフッ素樹脂から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明4]
「 前記樹脂粒子は、PBT(ポリブタジエンテレフタレート)又はPP(ポリプロピレン)であることを特徴とする請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明5]
「 無機材料からなる充填材を含み、該充填材の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して0.1〜95重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明6]
「 前記充填材が層状珪酸塩、カーボン、ガラス、金属及び金属酸化物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の立体造形用樹脂粉末。」

[本件特許発明7]
「 請求項1〜6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末からなる粉末材料層を形成する工程と、前記粉末材料層を溶融させる工程と、を有し、これらの工程を繰り返して立体造形物を形成することを特徴とする立体造形物の製造方法。」


第3 特許異議申立ての理由
明確性要件違反
請求項1の記載によれば、「粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下」であるにも関わらず、「粒径32μm以下の前記樹脂粒子」に含まれうる「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下」となっており、「2重量%」を上回ることになる。したがって、請求項1の記載は不明確であり、請求項1を引用する請求項2〜7の記載も不明確である。
よって、当該請求項1〜7に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 サポート要件違反
本件特許発明1が解決すべき課題を解決できている実施例は、樹脂としてPBT、PA12又はPA66を使用し、体積平均粒子径(Dv)が70μm程度であり、粒径25μm以下の粒子も粒径32μm以下の粒子も含んでいない樹脂粉末を使用した場合のみである。これらの実施例の他には、発明の詳細な説明には、本件特許発明1による全てのパラメータ、つまり、粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量、粒径32μm以下の樹脂粒子の含有量、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の樹脂粒子の個数含有量、体積平均粒子径(Dv)及びBET法で測定した比表面積の全てを満たすことによって課題を解決できることを、その効果と共に示している具体的な記載は一切ない。また、これらのパラメータ全てを満たすことによって初めて「高寸法安定性を有し、高密度で高品質な造形物を形成可能であり、PBF方式に好適な立体造形用樹脂粉末を提供する」ことができるとの技術常識が出願時に存在していたと認める事情もない。そのため、たとえ当業者であっても、本件特許発明1により、発明の課題が解決できることを認識できるものではなく、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。本件特許発明2〜7についても同様である。
よって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

進歩性欠如
(1)本件特許発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証又は甲第5号証に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件特許発明1〜7は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証又は甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件特許発明1〜7は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証又は甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2005/111119号(以下「甲1」という。)
甲第1−1号証:特開2007−537064号公報(以下「甲1−1」という。)
甲第2号証:特開2007−277546号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:国際公開第2005/105891号(以下「甲3」という。)
甲第3−1号証:特表2007−534818号公報(以下「甲3−1」という。)
甲第4号証:Manfred Schmid,Antonio Amado and Konrad Wegener,“Materials perspective of polymers for additive manufacturing with selective laser sintering”,Journal of Materials Research,2014年,Volume 29,Issue 17,p.1824-1832(以下「甲4」という。)
甲第5号証:Manfred Schmid and Konrad Wegener,“Additive Manufacturing:Polymers applicable for Laser Sintering (LS)”,Procedia Engineering,2016年,Volume 149,p.457-464(以下「甲5」という。)


第4 当合議体の判断
明確性要件違反について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下であり、粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であり」と記載されている。しかしながら、当該記載は、粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量が4重量%以下である旨、その上限値を特定するものであって、当該粒子が2重量%以下である態様を文言上含むものであり、かつ、粒径32μm以下の樹脂粒子に、粒径25μm以下の樹脂粒子が含まれることは、技術的に明らかであるのだから、当該記載が結局のところ、粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量が、粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量と同様に、立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であることを意味することは明らかである。
してみると、請求項1における上記記載は、単なる文言上の不一致にすぎないものであって、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるものではなく、これにより、発明が不明確となるものではない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7においても同様である。
したがって、本件特許発明1〜7は明確であり、明確性要件に関する上記申立理由は、その理由がない。

2 サポート要件違反について
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを検討することによりなされるものである。

(2)本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件明細書」という)の【0007】に記載されるとおり、「高寸法安定性を有し、高密度で高品質な造形物を形成可能であり、PBF方式に好適な立体造形用樹脂粉末を提供する」ことを発明の解決しようとする課題とするものであって、「立体造形用樹脂粉末」の粒度につき、「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量」、「粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量」、「個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量」、「体積平均粒子径(Dv)」及び「BET法で測定した比表面積」を所定の数値範囲とすることを発明特定事項として含むものである。

(3)他方、本件明細書には、【0013】に「高寸法安定性で高品質な造形物を得るには、材料である立体造形用樹脂粉末の粒度に関連があることを見出した。粒径25μmの粒子含有量を4重量%以下に制御することにより、積層時の表面平滑性を高温域まで保持でき、造形物の表面平滑性と密度を向上させ、高寸法安定性で高品質な造形物を得ることができる」旨、【0020】に「本実施形態の立体造形用樹脂粉末において、粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量が立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下である。粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量を少なく(本実施形態では4重量%以下)することにより、積層工程時にローラ等に樹脂粒子が付着することを抑えることができるため、積層表面のくぼみ、なみの発生を積層温度が立体造形用樹脂粉末の融点近くまで防止することができる。これにより、広い温度域で積層表面の平滑性を維持することができる」旨、【0027】に「本実施形態の立体造形用樹脂粉末の体積平均粒子径(Dv)が40〜100μmであることが好ましい。PBF方式の装置において、積層時の一層の厚みを100μm程度とした場合、100μmより大きな粒子が多数存在すると、積層表面に凹凸が生じたり、閉塞詰まりが発生することがある。造形物の寸法精度を向上させるためには、体積平均粒子径は小さい方が好ましい。しかし、40μmより小さくなると粉末組成物のかさ密度が小さくなり、造形物の密度低下が発生しやすくなる」旨、【0029】に「本実施形態の立体造形用樹脂粉末において、BET法で測定した比表面積が0.06〜5.8m2/gであることが好ましい。5.8より大きくなると熱溶融性が高くなり、レーザー照射による溶融時に周りの粒子まで溶融し、寸法安定性が低下することがある。また、0.06より小さくなると熱溶融性が低くなり、レーザー照射による溶融時に不完全に溶融された粒子同士が結着し、粗大粒子が発生しやすくなる」旨説明されたうえで、実施例には、本件所定の粒度を有する樹脂粒子を用いた場合について、寸法安定性で高品質な造形物を得られることが、比較例との対比をもって示されている。
そうすると、これらの記載からみて、立体造形用樹脂粉末の「粒径25μmの粒子含有量」その他につき、本件特許発明1において特定された所定の数値範囲とすることで、本件特許発明1の課題を解決し得ると当業者は認識する。

(4)してみれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、本件特許発明1の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された立体造形用樹脂粉末につき、当該樹脂粉末が備える粒度に係る数値範囲を、発明特定事項として全て含むのであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではない。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2〜7も同様である。

(5)したがって、本件特許の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。

進歩性について
(1)甲号証について
ア 甲1
(ア)甲1には、以下の記載がある。甲1に対応する甲1−1に基づいて摘記した。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下同じ。

a 「【特許請求の範囲】
・・・略・・・
【請求項5】
選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末において、該粉末が、少なくとも125J/gの溶融エンタルピーおよび少なくとも148℃の再結晶温度を有する少なくとも1種のポリアミド11を含有しならびに5m2/gより小さいBET−表面積および50〜70μmの平均粒径を有することを特徴とする、積層造型法において使用するためのポリマー粉末。」

b 「【0011】
従って本発明の課題は、可能な限り高い表面品質を有する可能な限り型に忠実な成形体(formtreuer Formkoerper)の製造を可能にするポリマー粉末を提供することであった。この場合、加工窓は非常に大きいので現在市場で得られる標準粉末の粒度を同時に保持しながらも上限または下限において処理する必要がない。この場合、加工方法は、選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーにより溶融し、かつそれが冷却後に互いに結合して所望された成形体となる積層造型法である。
【0012】
ところで請求項に記載されているように意想外にも発見されたのは、ポリアミド11の使用により沈殿結晶化によってポリマー粉末が製造されえ、該粉末から、選択的にそのつどの粉末層の領域を溶融する、積層造型法を用いて成形体を製造することができ、該成形体が表面品質および型の忠実性に関して利点を有しかつその際、加工性に関して、従来技術による、例えばDE19747309に記載のポリマー粉末からのものより良好な性質を有していることである。
【0013】
従って本発明の対象は、選択的にそのつどの層の領域を溶融する、積層造型法において加工するためのポリマー粉末であって、該粉末は、少なくとも1種のポリアミド11を、有利にはω−アミノウンデカン酸の重縮合により製造されたポリアミド11を含有することを特徴とする。その際、本発明によるポリマー粉末はDSCにより算出された少なくとも125J/gの溶融エンタルピーを有し、ならびに少なくとも148℃の再結晶ピークを、有利には少なくとも130J/gの溶融エンタルピーを有し、ならびに少なくとも150℃の再結晶ピーク、およびとりわけ有利には少なくとも130J/gの溶融エンタルピーならびに少なくとも151℃の再結晶ピークを有する。BET−表面積は、本発明によるポリアミド11−粉末の場合、6m2/g より小さく、有利には5m2/gより小さく、かつとりわけ有利には4m2/gより小さく、その際、平均粒径は有利には40〜120μmであり、かつ有利には45〜100μmであり、かつとりわけ有利には50〜70μmである。BET−表面積は、Brunauer、EmmetおよびTellerの原理に従う気体吸着により算定される; 引用された規格はDIN/ISO927766333である。」

c 「【0043】
例4:アミン末端ポリアミド11(PA11)の再沈殿(本発明による)
ジアミン末端の、ω−アミノウンデカン酸50kgを4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン(PACM、異性体混合物)250gの存在下で重縮合することにより製造された、1.82の相対溶液粘度およびCOOH15ミリモル/kgもしくはNH287ミリモル/kgの末端基含有率を有するPA11 4.0kgを、2−ブタノンおよび1%の水含有率で変性されたエタノール20lと共に5時間以内に40lの攪拌槽(D=40cm)中で152℃にしかつ攪拌しながら(ブレード攪拌機、d=30cm、回転数=89rpm)1時間この温度で放置する。引き続き、ジャケット温度を120℃に低下させかつ25K/hの冷却速度により同じ攪拌回転数で内部温度を125℃にする。それから同じ冷却速度でジャケット温度を内部温度より2K〜3K低く保ちかつ内部温度を同じ冷却速度で112℃にする。次いでこの内部温度を60分間、±0.5℃に一定に保つ。この温度で、発熱により認められる沈殿が始まる。30分後、内部温度は下がりこれにより沈殿が終了したことになる。この温度でさらに30分攪拌し、引き続き75℃に冷却しかつ懸濁液をその後パドル乾燥機中に移送する。エタノールを70℃/400mbarで留去しかつ残留物を引き続き20mbar/84℃で3時間、後乾燥する。
かさ密度486g/l。 BET:0.31m2/g
D(10%)=66μm D(50%)=110μm D(90%)=162μm
【0044】
例5および6:アミン末端ポリアミド11(PA11)の再沈殿(本発明による)
120rpm(例5)もしくは150rpm(例6)の攪拌回転数により例3を繰り返しかつ以下の沈殿粉末を得る:
例5:
かさ密度391g/l。 BET:4.80m2/g
D(10%)=44μm D(50%)=59μm D(90%)=84μm
例6:
かさ密度366g/l。 BET:4.70m2/g
D(10%)=28μm D(50%)=37μm D(90%)=51μm
【0045】
例7:アミン末端ポリアミド11の二段階の再沈殿(本発明による)
例3からのジアミン末端PA11 4.0kgを、2−ブタノンおよび1%の水含有率で変性されたエタノール20lと共に5時間以内に40lの攪拌槽(D=40cm)中で152℃にしかつ攪拌しながら(ブレード攪拌機、d=30cm、回転数=120rpm)1時間この温度で放置する。引き続き、ジャケット温度を120℃に低下させかつ25K/hの冷却速度により同じ攪拌回転数で内部温度を125℃にする。いまから内部温度を30分間一定に保つ。引き続き内部温度を同じ冷却速度で112℃にしかつそれから60分間一定に保つ。この温度で、発熱により認められる沈殿が始まる。35分後、内部温度は下がりこれにより沈殿が終了したことになる。この温度でさらに25分攪拌し、引き続き75℃に冷却しかつ懸濁液をその後パドル乾燥機中に移送する。エタノールを70℃/400mbarで留去しかつ残留物を引き続き20mbar/85℃で3時間、後乾燥する。
かさ密度:483g/l。 BET:0.28m2/g
D(10%)=42μm D(50%)=82μm D(90%)=127μm」

(イ)甲1発明
甲1には、請求項5に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。以下「甲1発明」という。
「選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末において、該粉末が、少なくとも125J/gの溶融エンタルピーおよび少なくとも148℃の再結晶温度を有する少なくとも1種のポリアミド11を含有しならびに5m2/gより小さいBET−表面積および50〜70μmの平均粒径を有することを特徴とする、積層造型法において使用するためのポリマー粉末。」

イ 甲2
(ア)甲2には、以下の記載がある。

a 「【特許請求の範囲】
・・・略・・・
【請求項9】
3次元の成形体を積層式で成形用具を使用せずに製造するための方法で使用するのに適した粉末であって、該粉末が少なくとも1種のポリマー粉末又はコポリマー粉末を含有することを特徴とし、該ポリマー粉末又はコポリマー粉末が、0.001質量%〜5質量%のポリマー型のポリオールの含有量を有し、その際、そのポリマー型のポリオールがポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールからなる群から選択されることを特徴とする粉末。
・・・略・・・
【請求項12】
請求項9から11までのいずれか1項記載の粉末であって、該粉末が平均粒径8〜80μmを有することを特徴とする粉末。
・・・略・・・
【請求項15】
請求項9から14までのいずれか1項記載の粉末であって、該粉末が1m2/g未満又はそれと等しいDIN ISO 9277によるBET表面積を有することを特徴とする粉末。」

b 「【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って本発明の課題は、3次元の成形体を積層式で成形用具を使用せずに製造するための方法を、使用可能な原材料の選択と同様に経済性に関しても、より広範に使用できる粉末及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題は、3次元の成形体を積層式で成形用具を使用せずに、その都度の粉末層の選択的な領域を電磁エネルギーの導入によって溶融させて製造するための方法に適した粉末の製造方法において、該製造方法が、ポリマー又はコポリマーと少なくとも1 種の水溶性のポリマー型のポリオールとを混合すること、該混合物を水中に溶解させて分散液を形成させること、ポリマー粒子又はコポリマー粒子を分散液から分離すること、分離されたポリマー粒子又はコポリマー粒子を洗浄及び乾燥させることを含み、そのポリマー型のポリオールがポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールからなる群から選択される方法によって解決される。」

c 「【0057】
BET表面積は、該分散液から製造された粉末の場合に、10m2/g未満、有利には3m2/g未満、特に有利には1m2/g未満である。平均粒径d50は、有利には5μm〜100μm、特に有利には8μm〜80μmである。」

(イ)甲2発明
甲2には、請求項9を引用する請求項12を引用する請求項15に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。以下「甲2発明」という。
「3次元の成形体を積層式で成形用具を使用せずに製造するための方法で使用するのに適した粉末であって、該粉末が少なくとも1種のポリマー粉末又はコポリマー粉末を含有することを特徴とし、該ポリマー粉末又はコポリマー粉末が、0.001質量%〜5質量%のポリマー型のポリオールの含有量を有し、その際、そのポリマー型のポリオールがポリエチレングリコール及びポリビニルアルコールからなる群から選択され、
該粉末が平均粒径8〜80μmを有し、該粉末が1m2/g未満又はそれと等しいDIN ISO 9277によるBET表面積を有する、粉末。」

ウ 甲3
(ア)甲3には、以下の記載がある。甲3に対応する甲3−1に基づいて摘記した。

a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末において、該粉末が、少なくとも125J/gの溶融エンタルピーおよび少なくとも148℃の再結晶温度を有する、ジアミンとジカルボン酸との重縮合により製造された少なくとも1種のホモポリアミドを含有することを特徴とする、積層造型法において使用するためのポリマー粉末。」

b 「【0012】
従って本発明の課題は、可能な限り高い表面品質を有する可能な限り型に忠実な成形体(formtreuer Formkoerper)の製造を可能にするポリマー粉末を提供することであった。この場合、加工方法は、選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーにより溶融し、かつそれが冷却後に互いに結合して所望された成形体となる、積層造型法である。」

c 「【0050】
例3:PA1012の一段階の再沈殿(本発明による)
例1に従って、以下の性質を有する1,10−デカンジアミンとドデカン二酸との重縮合により得られるPA1012の顆粒サンプル400kgを再沈殿させる:ηrel=1.76、[COOH]46ミリモル/kg、[NH2]=65ミリモル/kg。
【0051】
沈殿条件を、例1に対して以下のように変更する:
溶液温度:155℃、沈殿温度:123℃、沈殿時間:40分、攪拌回転数:110rpm
かさ密度:510g/l
篩分析:<32μm:0.2質量%
<100μm:44.0質量%
<250μm:99.8質量%
【0052】
例4:PA1012の一段階の再沈殿(本発明による)
以下の変更を加えて例3を繰り返す:
沈殿温度:125℃、沈殿時間:60分
かさ密度:480g/l
篩分析:<32μm:0.1質量%
<100μm:72.8質量%
<250μm:99.7質量%
【0053】
例5:PA1012の一段階の再沈殿(本発明による)
以下の変更を加えて例4を繰り返す:
沈殿温度:128℃、沈殿時間:90分
かさ密度:320g/l
篩分析:<32μm:0.5質量%
<100μm:98.5質量%
<250μm:99.6質量%
【0054】
例6:PA1212の一段階の再沈殿(本発明による)
例1に従って、以下のデータを有する1,10−デカンジアミンと1,12−ドデカン二酸との重縮合により得られるPA1212の顆粒サンプル400kgを再沈殿させる:
ηrel=1.80、[COOH]3ミリモル/kg、[NH2]=107ミリモル/kg。
【0055】
沈殿条件を、例1に対して以下のように変更する:
溶液温度:155℃、沈殿温度:117℃ 、沈殿時間:60分、攪拌回転数110rpm
かさ密度:450g/l
篩分析:<32μm:0.5質量%
<100μm:54.0質量%
<250μm:99.7質量%
・・・略・・・
【0058】
例8:PA1012の二段階の再沈殿(本発明による)
例7に従って、以下のデータを有する1,10−デカンジアミンとドデカン二酸との重縮合により得られるPA1012の顆粒サンプル400kgを再沈殿させる:ηrel=1.76、[COOH]=46ミリモル/kg、[NH2]=65ミリモル/kg(例えば例3に記載)。
【0059】
沈殿条件を、例7に対して以下のように変更する:
溶液温度:155℃、核生成温度:141℃、沈殿温度:123℃、沈殿時間:40分、攪拌回転数:110rpm
かさ密度:530g/l
篩分析:<32μm:1.3質量%
<100μm:34.1質量%
<250μm:99.7 質量%
【0060】
例9:PA1012の二段階の再沈殿(本発明による)
以下の変更を加えて例7を繰り返す:
核生成時間:90分
かさ密度:530g/l
篩分析:<32μm:0.8質量%
<100μm:32.2質量%
<250μm:99.8質量%
【0061】
例10:PA1012の二段階の再沈殿
以下の変更を加えて例7を繰り返す。
【0062】
核生成温度:120分
かさ密度:530g/l
篩分析:<32μm:0.3質量%
<100μm:28.4質量%
<250μm:99.8質量%
【0063】
例11:PA1212の二段階の再沈殿(本発明による)
例7に従って、以下のデータを有する1,10−デカンジアミンと1,12−ドデカン二酸との重縮合により得られるPA1212の顆粒サンプル400kgを再沈殿させる:
ηrel=1.80、[COOH]=3ミリモル/kg、[NH2]=107ミリモル/kg。
【0064】
沈殿条件を、例1に対して以下のように変更する:
溶液温度155℃、核生成温度:123℃、核生成時間:60分、沈殿温度:117℃、沈殿時間:60分、攪拌回転数:110rpm
かさ密度:480g/l
篩分析:<32μm:1.3質量%
<100μm:56.6質量%
<250μm:99.8質量%
【0065】
例12:PA613の二段階の再沈殿(本発明による)
例7を、ヘキサメチレンジアミンとブラシル酸との重縮合により得られるPA613−溶液粘度ηrel=1.83、[COOH]=17ミリモル/kg、[NH2]=95ミリモル/kg−の使用下で以下の変更:溶液温度:152℃、核生成温度:125℃、核生成時間:45分、沈殿温度:114℃、沈殿時間:120分、攪拌回転数:110rpmを加えて繰り返す。
【0066】
かさ密度:380g/l BET=11.19m2/g
レーザー回折:D10:55μm
D50:78μm
D90:109μm
【0067】
例13:PA613の一段階の再沈殿(本発明による)
例1を、ヘキサメチレンジアミンとブラシル酸との重縮合により得られるPA613−溶液粘度ηrel=1.65、[COOH]=33ミリモル/kg、[NH2]=130ミリモル/kg− の使用下で以下の変更: 溶液温度:152℃、沈殿温度:119℃、沈殿時間:150分、攪拌回転数:110rpmを加えて繰り返す。
【0068】
かさ密度:426g/l BET=7.63m2/g
レーザー回折:D10:50μm
D50:89μm
D90:132μm」

(イ)甲3発明
甲3には、請求項1に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。以下「甲3発明」という。
「選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末において、該粉末が、少なくとも125J/gの溶融エンタルピーおよび少なくとも148℃の再結晶温度を有する、ジアミンとジカルボン酸との重縮合により製造された少なくとも1種のホモポリアミドを含有することを特徴とする、積層造型法において使用するためのポリマー粉末。」

エ 甲4
甲4には、以下の記載がある。甲第4号証抄訳に基づいて摘記した。

1827頁
「E.粉末
SLS(選択的レーザー焼結)用粉末は、SLS装置で使用するために一定の粒径分布(PSD)を有している必要がある。この粒径分布は、市販の装置の場合、20μmから80μmが好ましい。しかし、体積基準のPSDのみでなく、特に小さい粒子の割合が重要であることから、その特定が必要である。特に、粉末が合理的なSLS加工性を示すか否かは、小さい粒子の量に左右される可能性がある。図4は、このようなケースを示している。「粉末1」と「粉末2」は、体積分布を見ると、いずれも良好で許容可能なPSDを有している(図4、中段)。したがって、どちらの粉末もSLS装置で加工可能なはずである。しかし、実際には、「粉末2」については、その試みは失敗に終わった。その理由は、数平均PSD(図4右)から読み取ることができる。「粉末2」は、微粒子を高い割合で含んでおり、このような微粒子は、粉末中で粘着性を誘発する可能性がある18。粒子間の粘着性が高まることで、粉末の流動性が低減され、SLS加工が妨げられる。特に、低温粉砕された粉末は微粒子を多量に含んでいることが多く、このことは、このような粉末がSLS加工において効果的ではないもう1つの理由である。」

オ 甲5
甲5には、以下の記載がある。甲第5号証抄訳に基づいて摘記した。

460頁
「2.2.外因的な特性ー粉末
LS(レーザー焼結)用粉末は、LS装置で加工することができるためには一定の粒径分布(PSD)が必要である。この粒径分布は、市販の装置では20μmから80μmが好ましい。PSDは通常、レーザー回折装置で測定される。しかし、この測定では、小さな粒子の割合が無視されることが多い。ところが、粉末が妥当なLS加工性を示すか否かは、特に微粒子の量に左右されることが多い。
図5は、そのようなケースを示したものである。「粉末1」と「粉末2」は、体積分布を見ると、いずれも良好で許容可能なPSDを有している(図5、中欄)。この観点から、どちらの粉末もLS装置で加工可能なはずである。しかし実際には、「粉末2」については、その試みは失敗に終わった。その理由は、数平均分布(図5右欄)から読み取ることができる。「粉末2」は、微粒子を非常に高い割合で含んでおり、この微粒子は、粉末中で粘着性を誘発する可能性がある。粒子間の粘着性が高まることで、粉末の流動性が低減され、LS加工が妨げられる。特に、粉砕された粉末は微粒子を多量に含んでいることが多く、このことは、このような粉末がLS加工でうまくいかないもう1つの理由である。」

(2)甲1発明を主引用発明とする場合
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明は「選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末」であるから、樹脂粒子を有する立体造形用の樹脂粉末であるということができる。
そうすると、甲1発明の「ポリマー粉末」は、本件特許発明1の「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明は、下記aの点で一致し、下記bの点で相違する。

a 一致点
「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末。」

b 相違点1
本件特許発明1は、「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下であり、粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であり、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して30個数% 以下であり、体積平均粒子径(Dv)が40〜100μmであり、BET法で測定した比表面積が0.06〜0.51m2/gである」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

(ウ)判断
本件特許発明1は、高寸法安定性で高品質な造形物を得るためには、材料である立体造形用樹脂粉末の粒度に関連があること見出しなされたものであって(【0013】)、当該粒度につき相違点1に係る「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量」、「粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量」、「個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量」、「体積平均粒子径(Dv)」及び「BET法で測定した比表面積」の数値(以下、「本件パラメータ」という。)を所定の数値範囲としたものである。すなわち、粒径25μm以下の樹脂粒子の含有量を少なくすることにより、積層工程時にローラ等に樹脂粒子が付着することを抑えることができるため、積層表面のくぼみ、なみの発生を積層温度が立体造形用樹脂粉末の融点近くまで防止することができ、これにより、広い温度域で積層表面の平滑性を維持することができること(【0020】)、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の樹脂粒子の個数含有量を所定量以下とすることにより、加熱時の粗大粒子の発生を更に防止でき、積層温度が高温になっても積層表面の平滑性をより高レベルに維持することができること(【0027】)、体積平均粒子径(Dv)につき、PBF方式の装置において、積層時の一層の厚みを100μm程度とした場合、100μmより大きな粒子が多数存在すると、積層表面に凹凸が生じたり、閉塞詰まりが発生することがあるため、造形物の寸法精度を向上させるためには、体積平均粒子径は小さい方が好ましいこと(【0029】)「BET法で測定した比表面積が所定の値より大きくなると熱溶融性が高くなり、レーザー照射による溶融時に周りの粒子まで溶融し、寸法安定性が低下することがあり、他方、0.06より小さくなると熱溶融性が低くなり、レーザー照射による溶融時に不完全に溶融された粒子同士が結着し、粗大粒子が発生しやすくなること(【0029】)から、上記相違点1に係る本件パラメータを設定したものである。しかるところ、甲1には、BET比表面積についての記載がされるにとどまり、本件パラメータに係る他の値について制御しようとする技術思想が何ら示されていない。この点は、甲2〜5についても同様である。特に、甲4,5には、SLS(選択的レーザー焼結)用粉末は、SLS装置で使用するために一定の粒径分布(PSD)を有している必要があり、この粒径分布は、市販の装置の場合、20μmから80μmが好ましい旨、また、微粒子の量が多いと、粒子間の粘着性が高まることで、粉末の流動性が低減され、LS加工が妨げられる旨の記載がされているものの、相違点1に係る、25μmあるいは35μ以下の粒子の含有量や、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量を制御しようとする記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点1に係る構成を採用する動機づけを見いだすこともできず、甲1発明において、上記相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、一部のパラメータ(例えば、粒径32μm以下の樹脂粒子の含有量、BET法で測定した比表面積)の値が上記相違点1に係る数値範囲内にある立体造形用樹脂粉末が周知であるから、他のパラメータも満たす蓋然性が高い旨主張するが、一部のパラメータ条件を満たすことをもって、直ちに他のパラメータも満たすものとする理由はないし、また、そのように推認すべき技術常識もない。また、特許異議申立人は、甲4及び甲5を根拠として技術常識に関する主張をするが、甲4又は甲5には、上述のとおり、粉末が微粒子を多く含むと、粉末の流動性が低減され、LS(レーザー焼結)加工が妨げられることが記載されているにすぎず、特定の粒径の微粒子の含有量が、造形物の高寸法安定性、高密度・高品質性に寄与することなどは記載されていないのであるからから、仮に、甲1発明において、甲4又は甲5に記載された事項を採用したとしても、上記相違点1に係る構成に想到することはない。

(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2〜7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件特許発明2〜7は、本件特許発明1の構成を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明2〜7も、同様に、甲1に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)甲2を主引用文献とする場合
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明は「3次元の成形体を積層式で成形用具を使用せずに製造するための方法で使用するのに適した粉末であって、該粉末が少なくとも1種のポリマー粉末又はコポリマー粉末を含有する」から、樹脂粒子を有する立体造形用の樹脂粉末であるということができる。
そうすると、甲2発明の「粉末」は、本件特許発明1の「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲2発明は、下記aの点で一致し、下記bの点で相違する。

a 一致点
「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末。」

b 相違点2
本件特許発明1は、「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下であり、粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であり、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して30個数% 以下であり、体積平均粒子径(Dv)が40〜100μmであり、BET法で測定した比表面積が0.06〜0.51m2/gである」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

(ウ)判断
上記相違点2は、上記(2)ア(イ)における相違点1と同旨であり、上記(2)ア(ウ)と同様に判断される。
すなわち、甲2には、BET比表面積についての記載がされるにとどまり、本件パラメータに係る他の値について制御しようとする技術思想が何ら示されておらず、甲4〜5を参照しても、当該相違点に係る特定事項を導きだすことはできない。

(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、又は、甲2に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2〜7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件特許発明2〜7は、本件特許発明1の構成を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明2〜7も、同様に、甲2に記載された発明に基づいて、又は、甲2に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲3を主引用文献とする場合
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明は「選択的にそのつどの粉末層の領域を電磁エネルギーの導入により溶融する、積層造型法において使用するためのポリマー粉末」から、樹脂粒子を有する立体造形用の樹脂粉末であるということができる。
そうすると、甲3発明の「ポリマー粉末」は、本件特許発明1の「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲3発明は、下記aの点で一致し、下記bの点で相違する。

a 一致点
「樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末。」

b 相違点3
本件特許発明1は、「粒径25μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して4重量%以下であり、粒径32μm以下の前記樹脂粒子の含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して2重量%以下であり、個数粒子径分布から算出した粒径2μm以下の前記樹脂粒子の個数含有量が前記立体造形用樹脂粉末に対して30個数% 以下であり、体積平均粒子径(Dv)が40〜100μmであり、BET法で測定した比表面積が0.06〜0.51m2/gである」のに対し、甲3発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

(ウ)判断
上記相違点3は、上記(2)ア(イ)における相違点1と同旨であり、上記(2)ア(ウ)と同様に判断される。
すなわち、甲3には、平均粒径、及び、篩分析に付した後の「<32μm」の質量%についての記載がされるにとどまり、本件パラメータに係る他の値について制御しようとする技術思想が何ら示されておらず、甲4〜5を参照しても、当該相違点に係る特定事項を導きだすことはできない。

(エ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明に基づいて、又は、甲3に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2〜7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件特許発明2〜7は、本件特許発明1の構成を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明2〜7も、同様に、甲3に記載された発明に基づいて、又は、甲3に記載された発明及び甲4又は甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上によれば、特許異議申立書に係る特許異議申立ての理由によっては、請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-08-18 
出願番号 P2017-201647
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 植前 充司
関根 洋之
登録日 2021-10-11 
登録番号 6958217
権利者 株式会社リコー
発明の名称 立体造形用樹脂粉末及び立体造形物の製造方法  
代理人 舘野 千惠子  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 バーナード 正子  

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