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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04G
管理番号 1388429
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-24 
確定日 2022-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6975691号発明「免震装置の取出方法、及び、上部構造物の駆体拡張構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6975691号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6975691号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年7月23日に出願され、令和3年11月10日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜4に係る特許に対し、令和4年5月24日に特許異議申立人冨田圭太郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に特許に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体の発明を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
下部構造物と上部構造物との間隙から既設の免震装置を取り出すための免震装置の取出方法において、
前記上部構造物の駆体の周囲に増し打ちコンクリートを打設することにより、前記上部構造物の駆体を拡張する拡張工程と、
前記増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材を緊張させることにより、前記増し打ちコンクリートを前記上部構造物の駆体に圧接する圧接工程と、
前記下部構造物と前記増し打ちコンクリートとの間隙にジャッキ装置を設置するジャッキ装置設置工程と、
前記ジャッキ装置を作動させて前記上部構造物をジャッキアップし、前記免震装置を間隙から取り出す取出工程と、を備え、
前記拡張工程では、前記増し打ちコンクリートを打設する際に、前記緊張材の一端部を内部に埋設しつつ前記緊張材の他端部を外部に配置しておき、
前記圧接工程では、前記緊張材の両端部のうち前記他端部のみを操作して前記緊張材を緊張させることを特徴とする、免震装置の取出方法。
【請求項2】
前記拡張工程では、前記増し打ちコンクリートを打設する際に、前記緊張材の一端部を、その前記緊張材の一端部に取り付けられた支圧板とともに内部に埋設する請求項1に記載の免震装置の取出方法。
【請求項3】
前記拡張工程では、前記緊張材の一端部を既存の周辺設備に設けた切り欠きに配置する請求項1または2に記載の免震装置の取出方法。
【請求項4】
下部構造物と上部構造物との間隙に設置された免震装置に接する前記上部構造物の駆体の周囲に打設された増し打ちコンクリートと、前記増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材とを備え、前記緊張材の緊張によって前記増し打ちコンクリートが前記上部構造物の駆体に圧接されているとともに、前記緊張材の一端部が前記増し打ちコンクリートの内部に埋設されている、上部構造物の駆体拡張構造。」

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立て理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。
(1)本件発明1は、甲1発明ないし甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)本件発明2は、甲1発明ないし甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(3)本件発明3は、甲1発明ないし甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(4)本件発明4は甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 証拠
甲第1号証:特開2017−186819号公報
甲第2号証:特開平10−299263号公報
甲第3号証:特開2018−59357号公報
甲第4号証:特開2006−112189号公報

第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は決定で付した。以下同様。)
ア「【0001】
本発明は、杭頭部に直接免震装置を設置して形成している所謂杭頭免震構造における免震装置を、新たな免震装置に取替えまたは交換する方法に関するものである。」

イ「【0017】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、図1〜3に示した第1の実施の形態に係る杭頭免震構造における免震装置の交換方法について、先に図15〜図18について従来技術として説明した広く採用されている杭頭免震構造に適用されるものであるので、該杭頭免震構造について説明する構成部分については、理解を容易にするため前記従来技術と同一部分には同一符号を付して説明する。
図1は要部の側面を示す説明図であって、要するに、従来例と同様に、下部構造体30の基礎杭1の杭頭部間に水平つなぎ部材2を設けて杭頭部の耐震性能を保持するようにした免震建物構造において、耐震性能の保持手段である杭頭部上の水平つなぎ部材2上に天端調整台3と上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に配設された免震装置7の交換方法であって、まず、上部構造体31におけるフーチング6の下面の面積を広げるためにフーチング6を挟んで両側と、基礎梁4を挟んで両側とにブロック状の複数(4個)の補助部材10を取り付ける。その理由は、後述する支持部材が当接して荷重を支えるための広さを確保する必要があるからである。なお、フーチング6の下面に十分な広さがある場合には、補助部材10の取り付けは不要である。なお、符号8はスラブである。
【0018】
このブロック状の補助部材10は、基礎梁4の高さと略一致するものであって、支持部材が配設される側に取り付けられるものであり、図2に示したように、その取り付けの具体例としては、例えば、複数本のPC鋼材11を用い、該PC鋼材11をフーチング6内を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付けられると共に、他方の複数のPC鋼材13によって基礎梁4を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付けるのである。なお、補助部材10をフーチング6の両側に取り付けるということは、補助部材10が取り付けられていない部分は、矢印a方向が免震装置7を交換するための支持部材を設置しない出し入れ口として解放するからである。
【0019】
さらに、下部構造体30の基礎杭1側においては、杭頭部の耐震性能を保持するように、杭頭部同士を連結して設けた耐震性能の保持手段である水平つなぎ部材2をそのまま生かして、図3に示したように、支持部材の反力を杭1に伝達するための反力受け部材15を杭頭部の周囲に構築する具体的な第1の実施例を示したものである。
この第1の実施例においては、水平つなぎ部材2の各隣接するコーナ部分を所要広さの作業領域16とし、各作業領域16から対向する作業領域16に向かって、水平つなぎ部材2の下部で基礎杭1の周囲の土壌を所要高圧ウオータージェットで所要深さまで掘削して除去し、全体が四角形状で所要深さの空間部を形成し、該空間部内に、例えば、基礎杭1を取り囲むように四角形状の型枠を組んで内部に所要の鉄筋や配線を配設すると共に、複数本のシース17と定着部材18とを配設し(好ましくは1つの側面側に沿って水平方向に2列で高さ方向に3段)、型枠内にコンクリートを打設して基礎杭1と水平つなぎ部材2との間に隙間なく強く詰め込み、養生してコンクリートが硬化した後に、各シース内にそれぞれPC鋼材11、13を挿通し、各PC鋼材11、13の両端部を定着部材18により緊張定着することによって、反力受け部材15にプレストレスを付与して強度アップすると共に、反力受け部材15を基礎杭1および水平つなぎ部材2に一体的に構築するのである。その後に、作業領域16は元通りに埋め戻される。
なお、PC鋼材は、PC鋼棒やPCケーブルから適宜に選択して使用しても良い。また、下部構造体30に設けられている反力受け部材15に配設されたPC鋼材11、13は、基礎杭1に損傷を与えないように基礎杭1の杭頭部に貫通しないこととする。
【0020】
このように反力受け部材15を構築することによって、図1と図3に示したように、既存の免震装置7を新しい免震装置19に交換する場合に、免震装置7の片方の側に3台の支持部材(ジャッキ)20が上下端の少なくとも一方の端部に滑り材21を介して配置されると共に、免震装置7を挟んで対向する側に同じく少なくとも一方の端部に滑り材21を介して3台の支持部材20が設置される。このように支持部材20が設置されることにより、下部構造体30側では、全ての支持部材20が反力受け部材15上に設置され、上部構造体31側では、両側の支持部材20が補助部材10に当接し中央部の支持部材20が基礎梁4に当接するようになるので、全体として支持部材20の力が均等に掛かるようになる。そして、既存の免震装置7を固定している上下のボルトを緩めて取り外してから、支持部材20を駆動して数mmのジャッキアップすることにより、上部構造体31の荷重は支持部材20と反力受け部材15を介して基礎杭1に伝達されて支持されるので、既存の免震装置7は上部構造体31の荷重から解放され、免震装置7に所要のワイヤ等を掛けて付設された架設レール(図示せず)の上で矢印a方向に引き抜くことができると共に、引き抜いた側から、新しい免震装置19を押し込むか、または引き抜き方向と同じ方向からワイヤ等を引っ掛けて引き込んで位置合わせをし、ボルトを挿入して締めることにより交換ができ、その後に支持部材20のジャッキアップを解放して取り外すことで交換作業が終了するのである。」

ウ 図面
(ア)図1




上記図1から、杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3と、上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に免震装置7が配置された点が看取できる。

(イ)図2





上記図1及び図2から、以下の点が看取できる。
a ブロック状の複数(4個)の補助部材10が、上部構造体31におけるフーチング6の周囲に設けられた点。
b PC鋼材11が、フーチング6及び補助部材10を貫通するとともに、PC鋼材13が、基礎梁4及び補助部材10を貫通している点。

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第1号証には、次の方法発明及び構造発明(以下、「甲1方法発明」及び「甲1構造発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、甲第1号証には、「支持部材(ジャッキ)20」及び「支持部材20」の記載があるが、以下では、「ジャッキ20」に統一して記載する。
(甲1方法発明)
「下部構造体30の基礎杭1の杭頭部間に水平つなぎ部材2を設けて杭頭部の耐震性能を保持するようにした免震建物構造において、耐震性能の保持手段である杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3と上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に配設された免震装置7の交換方法であり、
上部構造体31におけるフーチング6の下面の面積を広げるためにフーチング6を挟んで両側と、基礎梁4を挟んで両側とにブロック状の複数(4個)の補助部材10を取り付け、ブロック状の複数(4個)の補助部材10が、上部構造体31におけるフーチング6の周囲に設けられることにより、支持部材が当接して荷重を支えるための広さを確保し、
このブロック状の補助部材10は、基礎梁4の高さと略一致するものであって、ジャッキ20が配設される側に取り付けられるものであり、複数本のPC鋼材11を用い、該PC鋼材11をフーチング6及び補助部材10を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付けられると共に、他方の複数のPC鋼材13によって基礎梁4及び補助部材10を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付け、
さらに、下部構造体30の基礎杭1側においては、水平つなぎ部材2の各隣接するコーナ部分を所要広さの作業領域16とし、各作業領域16から対向する作業領域16に向かって、水平つなぎ部材2の下部で基礎杭1の周囲の土壌を所要高圧ウオータージェットで所要深さまで掘削して除去し、全体が四角形状で所要深さの空間部を形成し、該空間部内に、基礎杭1を取り囲むように四角形状の型枠を組んで内部に所要の鉄筋や配線を配設すると共に、複数本のシース17と定着部材18とを配設し、型枠内にコンクリートを打設して基礎杭1と水平つなぎ部材2との間に隙間なく強く詰め込み、養生してコンクリートが硬化した後に、各シース内にそれぞれPC鋼材11、13を挿通し、各PC鋼材11、13の両端部を定着部材18により緊張定着することによって、反力受け部材15にプレストレスを付与して強度アップすると共に、反力受け部材15を基礎杭1および水平つなぎ部材2に一体的に構築し、その後に、作業領域16は元通りに埋め戻され、
既存の免震装置7を新しい免震装置19に交換する場合に、免震装置7の片方の側に3台のジャッキ20が上下端の少なくとも一方の端部に滑り材21を介して配置されると共に、免震装置7を挟んで対向する側に同じく少なくとも一方の端部に滑り材21を介して3台のジャッキ20が設置され、
下部構造体30側では、全てのジャッキ20が反力受け部材15上に設置され、上部構造体31側では、両側のジャッキ20が補助部材10に当接し中央部のジャッキ20が基礎梁4に当接するようになり、
既存の免震装置7を固定している上下のボルトを緩めて取り外してから、ジャッキ20を駆動して数mmのジャッキアップすることにより、既存の免震装置7は上部構造体31の荷重から解放され、免震装置7に所要のワイヤ等を掛けて付設された架設レールの上で引き抜くことができると共に、引き抜いた側から、新しい免震装置19を押し込むか、または引き抜き方向と同じ方向からワイヤ等を引っ掛けて引き込んで位置合わせをし、ボルトを挿入して締めることにより交換ができ、その後にジャッキ20のジャッキアップを解放して取り外すことで交換作業が終了する、
免震装置を、新たな免震装置に交換する方法。」

(甲1構造発明)
「免震建物構造において、
耐震性能の保持手段である杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3と上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に配設された免震装置7を有し、
上部構造体31におけるフーチング6の下面の面積を広げるためにフーチング6を挟んで両側と、基礎梁4を挟んで両側とにブロック状の複数(4個)の補助部材10を取り付け、ブロック状の複数(4個)の補助部材10が、上部構造体31におけるフーチング6の周囲に設けられることにより、支持部材が当接して荷重を支えるための広さを確保し、
複数本のPC鋼材11を用い、該PC鋼材11をフーチング6及び補助部材10を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付けられると共に、他方の複数のPC鋼材13によって基礎梁4及び補助部材10を貫通させてそれぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付けた、
免震建物構造。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、既存建物を免震構造化する方法、特に既存建物の柱を利用して免震構造化する方法に関する。」

イ「【0012】
【発明の実施形態及び実施例】請求項1記載の発明に係る既存建物の免震構造化方法は、その手順の第1として、図1aに示したように、既存建物において免震装置を取り付けるべき柱1の躯体表面に目荒らし処理2を施す。ここで言う目荒らし処理2は、後で打設される増打ちコンクリートとの付着性を可及的に高めるための手段であり、支圧効果の大きい凹凸を形成するのが好ましい。場合によってはインサートアンカーによりスタッドを突設した構成も好ましい。図1bは柱1の横断面が四角形であることを示している。
【0013】次に、図2は前記柱1において免震装置の取り付け部位を除く上部と下部の外周に、プレストレス導入用のPC鋼線3を配置した増打ちコンクリート4を上下に構築した段階を示している。図2bは前記PC鋼線3が半円状(U字形状)に形成され、それを当該柱1の外周に約180°対称な配置に二つ組み合わせて1個の円形を形成したこと、及び同PC鋼線3の両端を矢印で示した接線方向へ等しく引っ張ることにより、増打ちコンクリート4をまるでタガを締めるが如く水平内向きに締め付けるプレストレスが導入され、もって柱1が負担する軸力を増打ちコンクリート1で伝達可能なまでに両者が一体化されることを示している。
【0014】前記プレストレスの導入を容易にするため、PC鋼線3はアンボンド処理を施したものとされる。また、前記プレストレスの導入は、増打ちコンクリート4が所定の強度を発現した後に行う。図2aは、上下の増打ちコンクリート4にPC鋼線3が各々上下方向に2段に配置された構成を示している。しかし、この例の限りではなく、PC鋼線は増打ちコンクリート4と柱1とをプレストレスによる締め付けで一体化させるのに必要な段数配置する。
【0015】図2bは増打ちコンクリート4の外周部分に約180°対称な配置で一対のジャッキ取り付け用リブ4a,4aを突設した形態を示している。もっとも、ジャッキ取り付け用リブ4aは1対の限りではなく、直交4方向に2対設けるなど必要に応じて更に多数対設けて実施する。図3a,bは、上下の増打ちコンクリート4,4の端面間、特には柱1から比較的離れたジャッキ取り付け用リブ4a,4aの部位に、支保用ジャッキ5を2本づつ設置し、各支保用ジャッキ5を働かせて当該柱1が負担している軸力を前記増打ちコンクリート4から支保用ジャッキ5へ盛り替えて柱下部へ伝達させる状態としたこと、及び当該柱1の免震装置の取り付け部位は切除した段階を示している。勿論、支保用ジャッキ5は2本づつに限らず、柱1の軸力を盛り替えるのに適切な本数を適切な配置で使用する。図3aが特徴的に表現しているように、本発明の方法は、柱1の鉛直荷重負担の一時的な盛り替えを、あくまでも柱1が本来的に備えている耐力性能を前提として利用し、補完的に設けた増打ちコンクリート4に力の流れを迂回させるに過ぎず、他の建物構造要素(梁等)へは一切軸力を負担させないのである。従って、従来方法のように、建物の梁等を補強する必要がなく、また、軸力を一時的に負担する借受け支柱等を別途用意する必要もないのである。
【0016】図4は先に切除された柱1の空所へ免震装置6を取り付け、ボルト7で上下の増打ちコンクリート4と結合した段階を示している。更に図5は免震装置6の取り付け後に、支保用ジャッキ5を緩めて当該柱1が負担している軸力を前記免震装置6が負担するように荷重の盛り替えを行い、その後前記支保用ジャッキ6は撤去した段階を示している。
【0017】以上で当該柱1に関する免震装置6の取り付け作業は終了である。その後は増打ちコンクリート4に働いているPC鋼線3によるプレストレスを一旦解消させるが、そのまま増打ちコンクリート4は残存させる。次に予定される免震装置6の交換等のメンテナンスの便宜を考慮した結果である。もっとも、前記の考慮が必要でなければ、増打ちコンクリート4に対するPC鋼線3によるプレストレスを解消させた後に、増打ちコンクリート4を撤去し、その後当該柱1の外周には前記免震装置6を目隠しする化粧を施して、既存建物の使用に便ならしめる方法も実施可能である。
【0018】いずれにしても、上記の方法で当該既存建物の全ての柱へ免震装置を取り付けることにより、同既存建物の免震構造化は完成するに至る。」

ウ 図面
図1〜5は下記のとおりである。









(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2発明)
「既存建物を免震構造化する方法であって、
柱1において免震装置の取り付け部位を除く上部と下部の外周に、プレストレス導入用のPC鋼線3を配置した増打ちコンクリート4を上下に構築し、
前記PC鋼線3が半円状(U字形状)に形成され、それを当該柱1の外周に約180°対称な配置に二つ組み合わせて1個の円形を形成し、同PC鋼線3の両端を接線方向へ等しく引っ張ることにより、増打ちコンクリート4をまるでタガを締めるが如く水平内向きに締め付けるプレストレスが導入され、もって柱1が負担する軸力を増打ちコンクリート1で伝達可能なまでに両者が一体化され、
上下の増打ちコンクリート4,4の端面間に、支保用ジャッキ5を2本づつ設置し、各支保用ジャッキ5を働かせて当該柱1が負担している軸力を前記増打ちコンクリート4から支保用ジャッキ5へ盛り替えて柱下部へ伝達させる状態とし、当該柱1の免震装置の取り付け部位は切除し、
切除された柱1の空所へ免震装置6を取り付け、ボルト7で上下の増打ちコンクリート4と結合し、
免震装置6の取り付け後に、支保用ジャッキ5を緩めて当該柱1が負担している軸力を前記免震装置6が負担するように荷重の盛り替えを行い、その後前記支保用ジャッキ6は撤去した、
既存建物を免震構造化する方法。」

3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明は緊張材が内部に配置され、その軸方向の端部が端面から突出した梁部材等のプレキャストコンクリート部材を隣接する柱部材等の支持部材間に架設した後、支持部材上に現場で打設される接合部コンクリート中に埋設される緊張材の端部を利用して接合部コンクリートにプレストレスを導入する現場打ちコンクリートへのプレストレスの導入方法に関するものである。」

イ「【0047】
接合部コンクリート4へのプレストレスは以下の手順により導入される。まず突出区間31の内の、PC部材1寄りの区間である端面側端部32を、緊張材3に張力が付与された状態でPC部材1の端面、もしくはPC部材1内の端面付近に配置された定着板5の突出区間31側に重なる被定着材6に定着具7を用いて定着させると共に、被定着材6を用いて定着具7の定着板5側への移動を拘束する。
【0048】
続いて支持部材2上の、端面側端部32を含む定着具7と被定着材6を除いた領域に接合部コンクリート4を打設する。この接合部コンクリート4が、緊張材3に付与されている張力が失われない程度の強度を発現した後、被定着材6による定着具7の拘束を解除して定着具7の定着板5側への移動を生じさせる。定着具7の定着板5側への移動により突出区間31の、PC部材1の反対側の先端部(定着部31b)が接合部コンクリート4中に定着されたまま、端面側端部32がPC部材1の端面より軸方向中間部側へ移動し、接合部コンクリート4にプレストレスが導入される。支持部材2上の、定着具7と被定着材6を除いた領域は接合部コンクリート4、またはPC部材1の空洞4a、1aになり、この空洞4a、1a内に定着具7と被定着材6が配置される。」

ウ 図面
(ア)図1





(イ)図3




(ウ)図4




(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「プレキャストコンクリート部材を隣接する柱部材等の支持部材間に架設した後、支持部材上に現場で打設される接合部コンクリート中に埋設される緊張材の端部を利用して接合部コンクリートにプレストレスを導入する現場打ちコンクリートへのプレストレスの導入方法であって、
突出区間31の内の、PC部材1寄りの区間である端面側端部32を、緊張材3に張力が付与された状態でPC部材1の端面、もしくはPC部材1内の端面付近に配置された定着板5の突出区間31側に重なる被定着材6に定着具7を用いて定着させると共に、被定着材6を用いて定着具7の定着板5側への移動を拘束し、
支持部材2上の、端面側端部32を含む定着具7と被定着材6を除いた領域に接合部コンクリート4を打設し、
この接合部コンクリート4が、緊張材3に付与されている張力が失われない程度の強度を発現した後、被定着材6による定着具7の拘束を解除して定着具7の定着板5側への移動を生じさせ、
定着具7の定着板5側への移動により突出区間31の、PC部材1の反対側の先端部(定着部31b)が接合部コンクリート4中に定着されたまま、端面側端部32がPC部材1の端面より軸方向中間部側へ移動し、接合部コンクリート4にプレストレスが導入される、
現場打ちコンクリートへのプレストレスの導入方法。」

4 甲第4号証
(1)甲第4号証の記載
本件特許出願前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
本願発明は、コンクリートにプレストレスを導入するための緊張材を、緊張力が導入された状態でコンクリート構造体に定着する緊張材定着具に関する。」

イ「【0007】
また、コンクリート橋に横方向のプレストレスを導入する緊張材については、次にような問題点が生じる。 床版125の横締めでは、定着具121が突き出した部分を、図17に示すように地覆122と一体となった水切り123によって被覆することが行われる。しかし、定着具121および緊張材124の端部の突き出し長が大きいと、この水切りの厚さを大きく設定する必要があり、死荷重が増加して、橋桁を構築するための費用が増大してしまう。一方、定着端部を、図18に平面図を示すように、床版125の縁部に設けた切り欠き部126内で緊張材124を定着することもできるが、切り欠き部を各横締め緊張材について設けるためには、型枠、鉄筋の加工等に多くの工数が必要となり、経済的ではない。また、図17に示すように横桁の横締め用の緊張材127でも、いわゆる箱抜きと称される切り欠き部128を設けて、この切り欠き部内で緊張材を定着することが行われるが、箱抜きによって切り欠き部を設けるためには鉄筋、型枠の加工に多くの手間と多くの費用を要することになる。また、切り欠き部を設けることによって構造上の弱点が生じることもある。」

ウ 図17





上記図17から、床版125の縁部に設けた切り欠き部126内に、定着具121及び緊張材124の端部を設けた点が看取できる。

(2)引用文献4に記載された発明
上記(1)から、引用文献4には、以下の事項(以下、「引用文献4に記載の技術事項」という。)が記載されている。
(引用文献4に記載の技術事項)
「コンクリートにプレストレスを導入するための緊張材を、緊張力が導入された状態でコンクリート構造体に定着する緊張材定着具において、
床版125の縁部に設けた切り欠き部126内に、定着具121及び緊張材124の端部を設けて、緊張材124を定着させる技術事項。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1方法発明とを対比する。
ア 甲1方法発明の「杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3」、「水平つなぎ部材2」及び「基礎杭1」は、本件発明1の「下部構造物」に相当する。
甲1方法発明の「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」は、本件発明1の「上部構造物」に相当する。
甲1方法発明の「既存の免震装置7」は、本件発明1の「既設の免震装置」に相当する。
また、甲1方法発明の「免震装置7」の「交換」は、「免震装置7」を取り出すこと、及び、「新しい免震装置19」を取り付けることを含んでいることは明らかである。
そうすると、甲1方法発明の「免震装置7の交換方法」と、本件発明1の「免震装置の取出方法」とは、「免震装置の取出方法」の点で共通する。
以上のことから、甲1方法発明の「杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3と上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に配設された免震装置7の交換方法」と、本件発明1の「下部構造物と上部構造物との間隙から既設の免震装置を取り出すための免震装置の取出方法」とは、「下部構造物と上部構造物との間隙から既設の免震装置を取り出すための免震装置の取出方法」の点で共通する。

イ 甲1方法発明の「上部構造体31におけるフーチング6」は、本件発明1の「上部構造物の駆体」に相当する。
甲1方法発明の「補助部材10」を「設け」ることと、本件発明1の「打ち増しコンクリートを打設すること」とは、「部材」を「設け」る点で共通する。
また、甲1方法発明において、「フーチング6」の周囲に「補助部材10」を設けると、フーチング6の部分が拡張されることは明らかである。
そうすると、甲1方法発明の「ブロック状の複数(4個)の補助部材10が、上部構造体31におけるフーチング6の周囲に設けられ、支持部材が当接して荷重を支えるための広さを確保」することと、本願発明1の「前記上部構造物の駆体の周囲に増し打ちコンクリートを打設することにより、前記上部構造物の駆体を拡張する拡張工程」とは、「前記上部構造物の駆体の周囲に部材が設けられ、前記上部構造物の駆体を拡張する拡張工程」で共通する。

ウ 甲1方法発明の「PC鋼材11」は、本件発明1の「緊張材」に相当する。
そうすると、甲1方法発明の「フーチング6及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」、及び、「基礎梁4及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」のそれぞれと、本件発明1の「増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材」とは、「部材の内部に配置された緊張材」の点で共通する。

上記イのとおり、甲1方法発明の「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」における「フーチング6」は、本件発明1の「上部構造物の駆体」に相当し、さらに、甲1方法発明の「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」における「基礎梁4」も、本件発明1の「上部構造物の駆体」に相当する。
また、甲1方法発明において、「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付け」、また、「他方の複数のPC鋼材13」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付け」ていることから、「補助部材10」が「フーチング6」及び「基礎梁4」に圧接していることは明らかである。
そうすると 甲1方法発明の「フーチング6及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付け」、また、「基礎梁4及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付け」ることと、本件発明1の「前記増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材を緊張させることにより、前記増し打ちコンクリートを前記上部構造物の駆体に圧接する圧接工程」とは、「部材の内部に配置された緊張材を緊張させることにより、前記増し打ちコンクリートを前記上部構造物の駆体に圧接する圧接工程」である点で共通する。

エ 甲1方法発明の「基礎杭1および水平つなぎ部材2に一体的に構築」された「反力受け部材15」は、免震建物構造における下部において構築された構造物であるといえる。そうすると、甲1方法発明の「反力受け部材15」は、本件発明1の「下部構造物」に相当する。
また、甲1方法発明は、「ジャッキ20」が「反力受け部材15上に設置され、上部構造体31側では、両側のジャッキ20が補助部材10に当接し中央部のジャッキ20が基礎梁4に当接」していることから、「ジャッキ20」が、「下部構造体」(反力受け部材15)と「補助部材10」ないしは「上部構造体31」のと間に設置されているといえる。
そうすると、甲1方法発明の「ジャッキ20」が「反力受け部材15上に設置され、上部構造体31側では、両側のジャッキ20が補助部材10に当接し中央部のジャッキ20が基礎梁4に当接」していることと、本件発明1の「前記下部構造物と前記増し打ちコンクリートとの間隙にジャッキ装置を設置するジャッキ装置設置工程」とは、「前記下部構造物と前記部材の間隙にジャッキ装置を設置するジャッキ装置設置工程」で共通する。

オ 甲1方法発明の「ジャッキ20を駆動して数mmのジャッキアップすること」は、本件発明1の「前記ジャッキ装置を作動させて前記上部構造物をジャッキアップ」することに相当する。
甲1方法発明の「免震装置7」は、「フーチング6」と「天端調整台3」の間隙に存在していることは、明らかである。
そうすると、甲1方法発明の「免震装置7に所要のワイヤ等を掛けて付設された架設レールの上で引き抜くこと」は、「前記免震装置を間隙から取り出す取出工程」に相当する。

以上のことをふまえると、本件発明1と甲1方法発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「下部構造物と上部構造物との間隙から既設の免震装置を取り出すための免震装置の取出方法において、
前記上部構造物の駆体の周囲に部材を設けることにより、前記上部構造物の駆体を拡張する拡張工程と、
前記部材の内部に配置された緊張材を緊張させることにより、前記部材を前記上部構造物の駆体に圧接する圧接工程と、
前記下部構造物と前記部材との間隙にジャッキ装置を設置するジャッキ装置設置工程と、
前記ジャッキ装置を作動させて前記上部構造物をジャッキアップし、前記免震装置を間隙から取り出す取出工程と、を備えた、
免震装置の取出方法。」

<相違点1>
「拡張工程」について、本件発明1では、「前記上部構造物の駆体の周囲に増し打ちコンクリートを打設し」、「前記増し打ちコンクリートを打設する際に、前記緊張材の一端部を内部に埋設しつつ前記緊張材の他端部を外部に配置して」いるのに対して、甲1方法発明では、「ブロック状の複数(4個)の補助部材10が、上部構造体31におけるフーチング6の周囲に設けられ」、「PC鋼材11」の一端部を補助部材10の内部に埋設していない点。

<相違点2>
「圧接工程」について、本件発明1では、「前記増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材を緊張させることにより、前記増し打ちコンクリートを前記上部構造物の駆体に圧接」し、「前記緊張材の両端部のうち前記他端部のみを操作して前記緊張材を緊張させる」のに対して、甲1方法発明では、「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付け」、また、「他方の複数のPC鋼材13」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させる」点。

<相違点3>
「ジャッキ装置設置工程」について、本件発明1では、「前記下部構造物と前記増し打ちコンクリートとの間隙にジャッキ装置を設置する」のに対して、甲1方法発明では、「下部構造体」(反力受け部材15)と「補助部材10」ないしは「上部構造体31」の間に設置されている点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
甲2発明の「増打ちコンクリート4」は、本件発明1の「増し打ちコンクリート」に相当するといえる。
しかしながら、甲2発明において、「プレストレス」は、「半円状(U字形状)に形成」された「PC鋼線3の両端を接線方向へ等しく引っ張ること」で導入されるものであるから、甲2発明の「PC鋼線3」(緊張材)は、相違点1に係る本件発明1にように、緊張材の一端部を内部に埋設しつつ緊張材の他端部を外部に配置しているものではないことは明らかである。
よって、甲2発明は、相違点1に係る本件発明1の構成を有していない。
したがって、甲1方法発明に甲2発明を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることはできない。

また、甲3発明における「プレストレス」は、「接合部コンクリート中に埋設される緊張材の端部」(本件発明1の「一端部」に相当)を利用して導入するものであり、また、他端部は、「接合部コンクリート」の外部に配置されている。
しかしながら、甲3発明において「プレストレス」が導入される対象は、「プレキャストコンクリート部材を隣接する柱部材等の支持部材間に架設した後、支持部材上に現場で打設される接合部コンクリート」であって、何らかの広さを確保するために打設されるコンクリートではなく、また、「打設される接合部コンクリート」における「緊張材」は、「プレキャストコンクリート部材」の「緊張材3」のうちの「突出区間31」であり、「緊張材」の他端部が、「打設される接合部コンクリート」の近傍にあるものでもない。
よって、甲1方法発明と甲3発明とは、「コンクリート」が存在している点では共通するものの、当該「コンクリート」を設ける目的が異なるとともに、甲1方法発明の「PC鋼材」は「フーチング6及び補助ブロック10」を貫通しているのに対して、甲3発明の「緊張材3」の「突出区間31のPC部材1の反対側の先端部(定着部31b)が接合部コンクリート4中に定着する」点で、「緊張材」の配置状況が異なっているから、甲3発明を甲1方法発明に適用する動機付けは存在しない。
したがって、甲1方法発明に、甲3発明を適用することはできない。

さらに、申立人が提出したその余の証拠をみても、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
よって、甲1方法発明に甲2発明、甲3発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項に基いて、相違点1に係る本件発明1の構成とすることはできない。

(3)申立人の主張
ア 申立人は、甲第1号証に記載された発明において、拡張工程は、ジャッキ装置を設置する領域を形成するために行われており、下部で行われる拡張工程を、上部に適用することに何ら困難性はなく、(F)拡張工程で、緊張材の一端部を内部に埋設しつつ前記緊張材の他端部を外部に配置しておき、(G)前記圧接工程で、前記緊張材の両端部のうち前記他端部のみを操作して前記緊張材を緊張させることは、設計事項である。例えば、甲第1号証に記載された発明においても、複数本のシース17と、PC鋼材11、13の一端部の定着部材18とを配設して、コンクリートに定着部材18を埋め込み、養生してコンクリートが硬化した後に、PC鋼材11、13の他端部の締付部材14を用いてPC鋼材11、13を緊張させている旨主張する。(申立書11頁12−22行)
しかしながら、甲1方法発明における上部の拡張工程と下部の拡張工程とは、上部の拡張工程において、「PC鋼材」が「フーチング6及び補助ブロック10」を貫通しているのに対して、下部の拡張工程において、基礎杭1の周囲の土壌を掘削して除去した空間部内に、型枠を組んで内部に所要の鉄筋や配線を配設すると共に、複数本のシース17と定着部材18とを配設し、型枠内に打設したコンクリートが硬化した後に、各シース内にそれぞれPC鋼材11、13を挿通し、各PC鋼材11、13の両端部を定着部材18により緊張定着する点で、「緊張材」の配置状況が異なっているから、下部で行われる拡張工程を、上部で行われる拡張工程に適用する動機付けは存在しない。

イ 申立人は、甲第3号証に記載された発明においても、コンクリートを打設する際に、緊張材の一端部を内部に埋設しつつ緊張材の他端部を外部に配置しておき、緊張材の両端部のうち他端部のみを操作して緊張材を緊張させる。従って、甲第3号証に記載された発明のように、甲第1号証に記載された発明において、一端部を埋め込んで、他端部を締め付けて緊張材を緊張させることに何ら困難性はない旨主張する。(申立書11頁23−27行)
しかしながら、甲3発明は、確かに、緊張材の一端部を打設したコンクリートの内部に埋設しつつ緊張材の他端部をその外部に配置するものであるものであるが、上記(2)アで説示したとおり、甲1方法発明に適用できるものではない。

ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用することはできない。

(4)小括
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1方法発明、甲2発明、甲3発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記1で検討した理由と同じ理由により、本件発明2及び3は、甲1方法発明、甲2発明、甲3発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明4について
(1)対比
本件発明4と甲1構造発明とを対比する。
ア 甲1構造発明の「杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3」、「水平つなぎ部材2」及び「基礎杭1」は、本件発明4の「下部構造物」に相当する。
甲1構造発明の「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」は、本件発明4の「上部構造体」に相当する。
甲1構造発明の「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」における、「フーチング6」及び「基礎梁4」はいずれも、本件発明4の「上部構造物の駆体」に相当する。
甲1構造発明の「設け」られた「補助部材10」と、本件発明4の「打設された打ち増しコンクリート」とは、「設け」られた「部材」である点で共通する。
甲1構造発明の「免震装置7」は、「杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3」と「上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6」の間隙に存在していて、上記「フーチング6」に接していることは明らかである。
そうすると、甲1構造発明の「杭頭部上の水平つなぎ部材2上の天端調整台3と上部構造体31の基礎梁4及び柱5が取り付けられたフーチング6との間に配設された免震装置7」において「フーチング6の周囲に設けられ」た「ブロック状の複数(4個)の補助部材10」と、本願発明4の「下部構造物と上部構造物との間隙に設置された免震装置に接する前記上部構造物の駆体の周囲に打設された増し打ちコンクリート」とは、「下部構造物と上部構造物との間隙に設置された免震装置に接する前記上部構造物の駆体の周囲に打設された部材」で共通する。

イ 甲1構造発明の「PC鋼材11」は、本件発明4の「緊張材」に相当する。
そうすると、甲1構造発明の「フーチング6及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」、及び、「基礎梁4及び補助部材10を貫通させ」た「PC鋼材11」のそれぞれと、本件発明4の「増し打ちコンクリートの内部に配置された緊張材」とは、「部材の内部に配置された緊張材」の点で共通する。

ウ 上記アのとおり、甲1構造発明の「上部構造体31におけるフーチング6」は、本件発明4の「上部構造物の駆体」に相当し、さらに、甲1構造発明の「基礎梁4」についても、本件発明4の「上部構造物の駆体」に相当する。
また、甲1構造発明において、「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付け」、また、「他方の複数のPC鋼材13」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付け」ていることから、「PC鋼材11」及び「PC鋼材13」が緊張し、これにより、「補助部材10」が「フーチング6」及び「基礎梁4」に圧接されていることは明らかである。
そうすると 甲1構造発明の「PC鋼材11」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材12により締め付けることによって、両側の補助部材10を緊張定着してフーチング6に一体的に取り付け」、また、「他方の複数のPC鋼材13」「それぞれの両端部を定着部材または締付部材14により締め付けて緊張させることによって、基礎梁4に隣接する補助部材10を基礎梁4に緊張定着して一体的に取り付け」ていることと、本件発明4の「前記緊張材の緊張によって前記増し打ちコンクリートが前記上部構造物の駆体に圧接されている」こととは、「前記緊張材の緊張によって前記部材が前記上部構造物の駆体に圧接されている」点で共通する。

エ 甲1構造発明は、「補助部材10」を「フーチング6に一体的に取り付け」ることで、「フーチング6の下面の面積を広げる」ものであるから、甲1構造発明の「補助部材10」を「フーチング6に一体的に取り付け」た構造は、本件発明4の「上部構造物の駆体拡張構造」に相当する。

以上のことをふまえると、本件発明4と甲1構造発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「下部構造物と上部構造物との間隙に設置された免震装置に接する前記上部構造物の駆体の周囲に設けられた部材と、前記部材の内部に配置された緊張材とを備え、前記緊張材の緊張によって前記部材が前記上部構造物の駆体に圧接されているとともに、前記緊張材の一端部が前記部材の内部に埋設されている、上部構造物の駆体拡張構造。」

<相違点4>
「上部構造物の駆体の周囲」に設けられた部材が、本件発明4では「打設された増し打ちコンクリート」であるのに対して、甲1構造発明では、「ブロック状の補助部材10」である点。

<相違点5>
「緊張材」について 本件発明4では、「緊張材の一端部が前記増し打ちコンクリートの内部に埋設されている」のに対して、甲1構造発明では、そのような構成を有していない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点5から検討する。
甲2発明の「増打ちコンクリート4」は、本件発明4の「増し打ちコンクリート」に相当するといえる。
しかしながら、甲2発明において、「プレストレス」は、「半円状(U字形状)に形成」された「PC鋼線3の両端を接線方向へ等しく引っ張ること」で導入されるものであるから、甲2発明の「PC鋼線3」(緊張材)は、相違点5に係る本件発明4にように、「緊張材の一端部が前記増し打ちコンクリートの内部に埋設されている」ものではないことは明らかである。
よって、甲2発明は、相違点5に係る本件発明4の構成を有していない。
したがって、甲1構造発明に甲2発明を適用して、相違点5に係る本件発明4の構成とすることはできない。

また、申立人が提出した甲第3号証には、「プレストレス」は、「接合部コンクリート中に埋設される緊張材の端部」(本件発明4の「一端部」に相当)を利用して導入することや、他端部が、「接合部コンクリート」の外部に配置されている点が記載されている。
しかしながら、甲3発明において「プレストレス」が導入される対象は、「プレキャストコンクリート部材を隣接する柱部材等の支持部材間に架設した後、支持部材上に現場で打設される接合部コンクリート」であって、何らかの広さを確保するために打設されるコンクリートではなく、また、「打設される接合部コンクリート」における「緊張材」は、「プレキャストコンクリート部材」の「緊張材3」のうちの「突出区間31」であり、「緊張材」の他端部が、「打設される接合部コンクリート」の近傍にあるものでもない。
よって、甲1構造発明と甲3発明とは、「コンクリート」が存在している点では共通するものの、当該「コンクリート」を設ける目的が異なるとともに、甲1構造発明の「PC鋼材」は「フーチング6及び補助ブロック10」を貫通しているのに対して、甲3発明の「緊張材3」の「突出区間31のPC部材1の反対側の先端部(定着部31b)が接合部コンクリート4中に定着する」点で、「緊張材」の配置状況が異なっているから、甲3発明を甲1構造発明に適用する動機付けは存在しない。
したがって、甲1構造発明に、甲3発明を適用することはできない。

さらに、申立人が提出した甲第4号証をみても、相違点5に係る本件発明4の構成は記載も示唆もされていない。
よって、甲1構造発明に甲2発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項を適用しても、相違点5に係る本件発明4の構成とすることはできない。

(3)申立人の主張
申立人は、本件発明4では、「緊張材の一端部が前記増し打ちコンクリートの内部に埋設されている」のに対して、甲第1号証に記載された発明では、PC鋼材11の両端部に定着部材または締付部材14を配置する点で異なるが、甲第1号証に記載された下部構造物では、定着部材18は、コンクリート打設される反力受け部材15の側面に対して内部に配置される。従って、上部構造物においても、かかる構成を用いることに困難性はない旨主張する。(申立書13頁16−21行)
しかしながら、甲第1号証に記載された下部構造物は、基礎杭1の周囲の土壌を掘削して除去した空間部内に、型枠を組んで内部に所要の鉄筋や配線を配設すると共に、複数本のシース17と定着部材18とを配設し、型枠内に打設したコンクリートが硬化した後に、各シース内にそれぞれPC鋼材11、13を挿通し、各PC鋼材11、13の両端部を定着部材18により緊張定着して構築されたものであり、「緊張材」の配置状況が、甲1構造発明の上部構造部(「PC鋼材」が「フーチング6及び補助ブロック10」を貫通している構造)とは異なっているから、下部構造物に係る構成を、上部構造物に適用する動機付けは存在しない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(4)小括
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1構造発明、甲2発明、及び、申立人が提出したその余の証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、甲1方法発明、甲2発明、甲3発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明4は、甲1構造発明、甲2発明、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-08-08 
出願番号 P2018-137366
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2021-11-10 
登録番号 6975691
権利者 鹿島建設株式会社
発明の名称 免震装置の取出方法、及び、上部構造物の駆体拡張構造  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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