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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1388430
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-31 
確定日 2022-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6973469号発明「半導体ナノ粒子集合体、半導体ナノ粒子集合体分散液、半導体ナノ粒子集合体組成物及び半導体ナノ粒子集合体硬化膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6973469号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6973469号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願は、令和元年12月17日に出願され、令和3年11月8日にその特許権の設定登録がされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1〜12に対し、令和4年5月31日に特許異議申立人松本慎一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明12」といい、これらを総称して「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、
前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が605〜655nmの間にあり、前記発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下であり、
前記半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を、445nmの励起光で励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3):
(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が28nm以下であること、
(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が10nm以上30nm以下であること、
(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が12nm以下であること、
の全てを満たすことを特徴とする半導体ナノ粒子集合体。
【請求項2】
前記半値幅(FWHM1)が38nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項3】
前記半値幅(FWHM2)の平均値が25nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項4】
前記標準偏差(SD2)が7nm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項5】
前記半値幅(FWHM1)が35nm以下であり、前記半値幅(FWHM2)の平均値が24nm以下であり、前記標準偏差(SD2)が6nm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が80%以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が85%以上であることを特徴とする請求項6に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項8】
前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が90%以上であることを特徴とする請求項7に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項9】
前記半導体ナノ粒子が少なくともIn、P、Zn、Se及びハロゲンを含有し、
前記半導体ナノ粒子において、原子換算で、Inに対するP、Zn、Se及びハロゲンの各モル比が、P:0.20〜0.95、Zn:11.00〜50.00、Se:7.00〜25.00、ハロゲン:0.80〜15.00であること、
を特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、有機分散媒に分散した半導体ナノ粒子集合体分散液。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、モノマーまたはプレポリマーに分散した半導体ナノ粒子集合体組成物。
【請求項12】
請求項1〜9の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、高分子マトリクス中に分散した半導体ナノ粒子集合体硬化膜。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立人は、新規性欠如及び進歩性欠如等の証拠方法として、甲第1号証〜甲第7号証(以下、「甲1」〜「甲7」ともいう。)を提出した。
甲1:米国特許出願公開第2019/0211261号明細書
甲2:”Nearly Blinking-Free, High-Purity SinglePhoton Emission by Colloidal InP/ZnSe Quantum Dots”, Vigneshwaran Chandrasekaran et al., Nano Letters 2017, 17, p.6104-6109
甲3:北原洋明、「ようやく本格的な離陸体制を整えた量子ドットテレビ」、2019年6月25日
(URL:https://news.mynavi.jp/techplus/article/20190625-848268/2)
甲4:国際公開第2019/131401号
甲5:CO@物理のかぎプロジェクト、「半値全幅(FWHM)と分散の関係」、2006年7月16日
(URL:http://hooktail.sub.jp/mathInPhys/fwhmsigma/index.pdf)
甲6:国際公開2018/092639号
甲7:特開2019−23297号公報

2 理由1:新規性欠如
本件発明1〜4、6〜8、10〜12は、甲1に記載された発明(以下、番号に応じて「甲1発明」等ともいう。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3 理由2:進歩性欠如
(1) 甲1を主引例とした場合
本件発明1〜4、6〜8、10〜12は、甲1発明から、又は甲1発明及び甲2に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明5は、甲1発明及び甲3に記載された事項から、又は甲1発明、甲2及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明9は、甲1発明及び甲4に記載された事項から、又は甲1発明、甲2及び甲4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 甲2を主引例とした場合
本件発明1〜4、6〜8、10〜12は、甲2発明及び甲1に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明5は、甲2発明、甲1及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明9は、甲2発明、甲1及び甲4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 理由3:サポート要件違反
本件発明1〜8、10〜12は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 甲号証の記載
1 甲1
本件特許の出願日前に公開された甲1には次の記載がある。仮訳は、申立人が作成した抄訳を参考にしつつ、当審が作成した。
「[0003]Quantum dots (i.e., nano-sized semiconductor nanocrystals) may have different energy bandgaps by controlling sizes and compositions of nanocrystals, and thus may emit light of various photoluminescence wavelengths. Quantum dots may exhibit electroluminescent and photoluminescence properties. In a chemical wet process, organic materials such as ligands, dispersing agents or solvents are coordinated on, e.g., bound to, the surface of the semiconductor nanocrystal during a crystal growth to provide quantum dots having controlled sizes and photoluminescence characteristics. Photoluminescence properties of quantum dots may be applied in various fields. In terms of an environmental standpoint, developments for cadmium free quantum dots capable of providing improved photoluminescence properties are desirable.
・・・
[0049]The cadmium free quantum dot according to an embodiment may emit red light having a relatively narrow full width at half maximum (FWHM) as well as improved luminous efficiency. The composition including the cadmium free quantum dot according to an embodiment may provide improved process stability. The cadmium free quantum dot may be used in various display devices and biological labelling (e.g., bio sensor, bio imaging, etc.), a photo detector, a solar cell, a hybrid composite, and the like. A display device including the cadmium free quantum dot according to an embodiment may provide improved display quality (increased color reproducibility under the next generation color standard BT2020 reference).
・・・
[0101]・・・A quantum dot may emit light having theoretical quantum efficiency (QY) of about 100% and high color purity (e.g., less than or equal to about 40 nm of a full width at half maximum (FWHM)) and thus achieve increased luminous efficiency and improved color reproducibility.・・・
・・・
[0200]
・・・
EXAMPLES
・・・
2.Photoluminescence Analysis
[0202]A Hitachi F-7000 spectrometer is used to obtain a photoluminescence (PL) spectrum of the produced quantum dots with an excitation light having a wavelength of 450 nanometers (nm).
・・・
[0206]
・・・
Reference Example 1
[0207]Indium acetate and palmitic acid are dissolved in 1-octadecene in a 200 millimeter (mL) reaction flask, and the solution is heated at 120°C. under vacuum. Indium and palmitic acid are used in a mole ratio of 1:3. After one hour, an atmosphere in the reactor is converted into nitrogen. After heating the reactor at 280°C., a mixed solution of tris(trimethylsilyl)phosphine (TMS3P) and trioctylphosphine is rapidly injected thereinto, and the mixture is reacted for 20 minutes. The reaction solution is rapidly cooled down to room temperature, acetone is added thereto, the mixture is centrifuged to obtain a precipitate, and the precipitate is dispersed in toluene again. An amount of TMS3P is 0.5 moles (mol) per 1 mol of indium. An amount of TOP is 0.1 moles to 10 moles (e.g. 0.5 mole) per 1 mole of indium. An InP core obtained therefrom has a size of about 3 nm.
Example 1
・・・
[0209]Zinc acetate and oleic acid are dissolved in trioctylamine in a 200 mL reaction flask, and the solution is vacuum-treated at 120°C. for 10 minutes. After substituting the atmosphere inside the reaction flask with N2, a dispersion of InP semiconductor nanocrystals in toluene is added to the solution, while the solution is heated up to 320°C., the Se/TOP and optionally, the zinc acetate are three times injected into the reaction flask. The reaction proceeds to obtain a reaction solution including a particle having a ZnSe shell disposed on the core. A total reaction time is 80 minutes.
[0210]Subsequently, an S/TOP stock solution and the zinc acetate are injected into the reaction solution at the reaction temperature of 320°C. A reaction is performed to obtain a reaction solution including a particle having a ZnS shell disposed on the ZnSe shell. A total reaction time is 80 minutes.
・・・
[0212]An excess amount of ethanol is added to a reactant including the obtained core/multi-layered shell quantum dot, and the mixture is centrifuged. After the centrifugation, a supernatant is discarded therefrom, a precipitate therein is dried and then dispersed in chloroform or toluene to obtain a quantum dot solution (hereinafter, a QD solution).
[0213](2) An ICP-AES analysis of the obtained QD is performed, and the result is shown in Table 1. A TEM analysis, a UV-vis spectroscopy analysis, and a photoluminescence analysis of the QD are performed. The results are shown in Table 2.
・・・



(仮訳)
「[0003]量子ドット(すなわち、ナノサイズの半導体ナノ結晶)は、ナノ結晶のサイズ及び組成を制御することによって、異なるエネルギーバンドギャップを有することができるので、様々な発光波長の光を発することができる。量子ドットは、エレクトロルミネセンス及びフォトルミネセンス特性を示すことができる。化学的ウェットプロセスでは、配位子、分散剤又は溶媒のような有機物質は、制御されたサイズ及び発光特性を有する量子ドットを提供するために、結晶成長中、例えば、これに結合され、半導体ナノ結晶の表面に配位される。量子ドットの光ルミネセンス特性は、様々な分野で適用されてもよい。環境の観点で、改善された光ルミネセンス特性を得ることができる、カドミウムを含まない量子ドットの開発が望ましい。
・・・
[0049]一実施形態によるカドミウムを含まない量子ドットは、比較的狭い半値全幅(FWHM)及び改善された発光効率を有する赤色光を放出し得る。一実施形態によれば、カドミウムを含まない量子ドットを備える組成物は、向上した加工安定性を提供することができる。カドミウムを含まない量子ドットは、各種表示装置、生物学的標識(例えば、バイオセンサー、バイオイメージング等)、光検出器、太陽電池、ハイブリッド複合材料等に使用することができる。一実施形態によれば、カドミウムを含まない量子ドットを備えた表示装置は、表示品位の向上(次世代のカラー標準BT2020基準下で高い色再現性)を提供することができる。
・・・
[0101]・・・液晶表示装置は、視野角が狭い吸収型カラーフィルタによる光の透過率が低い問題を有している。量子ドットは、理論上、量子効率(QY)が約100%で、色純度の高い(例えば、半値全幅(FWHM)約40nm以下の)光を放射し、したがって発光効率の向上及び色再現性の向上を達成することができる。・・・
・・・
[0200]
実施例
・・・
2.フォトルミネッセンス分析
[0202]Hitachi F−700分光計を使用して、波長450ナノメートル(nm)を有する励起光で生成された量子ドットのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを得る。
・・・
[0206]
・・・
参照実施例1
[0207]酢酸インジウム、パルミチン酸を200ミリリットル(mL)を反応フラスコに1-オクタデセンに溶解し、溶液を真空下で120℃に加熱する。インジウムとパルミチン酸とは1:3のモル比で使用される。1時間後、反応器内の雰囲気が窒素に置換される。反応器を280℃に加熱した後に、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(TMS3P)及びトリオクチルホスフィンの混合溶液に速やかに注入し、その混合物を20分間反応させる。反応溶液を室温まで冷却し、アセトンを加え、混合物を遠心分離して沈殿を得、沈殿を、再度トルエンに分散させる。TMS3Pの量は、インジウム1モルに対して0.5モル(mol)である。TOPの量は、インジウム1モルに対して0.1モル〜10モル(例えば0.5モル)である。そこから得られたInPコアは、約3nmのサイズを有している。
実施例1
・・・
[0209]酢酸亜鉛及びオレイン酸を、200mLの反応フラスコ中で、トリオクチルアミン中に溶解させ、溶液を120℃で10分間真空処理する。反応フラスコ内の雰囲気を、N2に置換した後に、この溶液に、トルエン中のInP半導体ナノ結晶の分散液を加え、この溶液に320℃まで加熱され、Se/TOP及び必要に応じて酢酸亜鉛を加え、反応フラスコに3度に分けて注入した。この反応によって、コアの上にZnSeシェルの沈殿を有する粒子を含む反応液を得た。全反応時間は80分である。
[0210]次に、S/TOPストック溶液及び酢酸亜鉛を320℃の反応温度で反応液に注入することにより、ZnSeシェル上に配置されたZnSシェルを有する粒子を含む反応溶液を得られた。全反応時間は80分である。
・・・
[0212]得られたコア/複数積層シェル量子ドットを含む反応物に過剰量のエタノールを添加し、混合物を遠心分離する。遠心分離後、上澄みを捨て、沈殿物を乾燥させた後、クロロホルムまたはトルエンに分散させて量子ドット溶液(以下、QD溶液)を得る。
[0213](2)得られたQDのICP-AES分析を実施し、その結果を表1に示す。TEM分析、紫外分光分析、及びQDのフォトルミネセンス解析が実施される。結果を表2に示す。
・・・





2 甲2
本件特許の出願日前に公開された甲2には次の記載がある。仮訳は、申立人が作成した抄訳を参考にしつつ、当審が作成した。
(1)第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行




(2)第6105頁図1



(3)第6106頁左欄第8〜20行



(4)第6105頁図2



(仮訳)
(1)第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行
「ここでは、最近公開された手順に従って、リン前駆体としてトリス−ジエチルアミノホスフィンを使用して合成された個々のInP/ZnSeコア/シェルQD(3.2nmコア)の発光を調べる(詳細については、サポート情報S1を参照)。(34)図1aに示すように、得られたInP/ZnSeコア/シェルQDは約10nmの等価直径を持ち(挿入図を参照)、その吸収スペクトルは594nmで最大値を持つ典型的なバンド端遷移を示す。粒子の結晶化度は、図1aの挿入図に示すHR-TEM画像から明らかである。溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示した。先に示したように、この比較的大きな半値全幅(fwhm)(Cd系QD、CsPbBr3またはCdSeナノプレートレットは、それぞれ20nm、12nm、10nmという狭い集合体発光を有することができる)は、個々のInP QDの発光の特徴ではなく、サイズ分散に関連した不均一な拡がりの影響である。」
(2)第6105頁図1


図1.(a)溶液中のInP/ZnSeコア/シェルQDの吸収スペクトル(赤線)及び発光スペクトル(青線)。挿入図:InP/ZnSeコア/シェルQDのTEM及びHR-TEM画像。(b)445nmでのパルス励起後の薄膜におけるInP/ZnSeコア/シェルQDからの発光減衰。(c)445nmでの高強度cw励起下での発光飽和。」
(3)第6106頁左欄第8〜20行
「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDのPLに取り組むために、トルエン中の1nMのQD溶液をガラスカバースリップにドロップキャストし、0.25μm-2のQD表面密度を生じさせた。図2aは、単一のInP/ZnSeコア/シェルQDが、QD集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としていることを示している。72個の単一InP/ZnSeコア/シェルQDを系統的に調べたところ、QD集合体の発光スペクトルの範囲内に入る狭い輝線を示し(図2b参照)、集合体の発光は不均一に広がっていることを確認した。また、単一QDの発光線幅にはばらつきが見られた(図2c参照)。平均半値全幅(fwhm)は19.4nmである一方で、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示している。」
(4)第6105頁図2


図2.(a)ローレンツ関数に適合した単一QDの発光スペクトル。(b)72個の単一QDの集合における中心発光波長の統計分布。(c)同じ集合体の輝線幅の統計分布。(d)17.5nsの減衰時間で単一の指数関数に適合する単一のQDの発光減衰トレース。挿入図:25個の単一QDの集合体に基づく減衰時間の統計分布。」

3 甲3
本件特許の出願日前に公開された甲3には次の記載がある。
(1)「多様なQD技術の競争が市場を拡大する」第1〜2段落
「一言でQDと言っても多様な材料がある。最初にディスプレー応用で実用化されたのはCd系の材料であり、コアにCdSeを使うものである。QDを使う最大のメリットである発光ピークの半値幅(FWHM)が狭く純粋な色を出すことで、OLEDよりも広い色域を得ることが可能である。一方で、毒性物質であるCdへの抵抗からなかなか市場に受け入れられてこなかった。QD応用が伸び悩んでいる大きな理由である。
この市場の抵抗感を払拭するために採用されたのが、InPをコアに使うQDである。Samsungが最初に実用化して「QLED-TV」として市場に出し、LGのOLED-TVとの競争を繰り広げているものである。FWHMの値はCd系に比べてやや広くBT2020で求められる色域の値でもやや劣る面があるものの「Cd free」としての売り文句で徐々に市場に入りつつある。直近では日本の昭栄化学工業がこのInPの開発に成功し、性能的にもSamsungと遜色ない値を出して量産に入る計画を発表している。」
(2)「QD各社の材料と性能」




4 甲4
本件特許の出願日前に公開された甲4には次の記載がある。
「[0022](ハロゲン)
InP系半導体ナノ粒子のコア粒子に、更にハロゲン前駆体を加えることによりInP系半導体ナノ粒子の量子効率(QY)を向上させることができる。ハロゲンの添加はIn3+とZn2+のつなぎとしてダングリングボンドを埋め、陰イオンの電子に対する閉じ込め効果を増大させる効果を与えると発明者らは推測している。また、ハロゲンは高い量子効率(QY)を与え、コア粒子の凝集を抑える効果がある。・・・
・・・
[0082][表1]

・・・
請求の範囲
[請求項1] 少なくとも、In、P、Zn、Se、S及びハロゲンを含む半導体ナノ粒子であって、
前記P、前記Zn、前記Se、前記S及び前記ハロゲンの含有率は、前記Inに対するモル比で、
P: 0.05 〜 0.95、
Zn: 0.50 〜 15.00、
Se: 0.50 〜 5.00、
S: 0.10 〜 15.00、
ハロゲン: 0.10 〜 1.50
である、半導体ナノ粒子。」

5 甲5
本件特許の出願日前に公開された甲5には次の記載がある。
(1)「半値全幅(FWHM)と分散の関係」
「ここではガウス分布(正規分布)に現れる分散σ2と,半値全幅(FWHM)の関係について解説します.
・・・



6 甲6
本件特許の出願日前に公開された甲6には次の記載がある。
「[0016] ・・・また、発光効率の悪化は、コア粒子表面の欠陥(コアとシェルとの界面の欠陥)や、シェル表面の欠陥などに原因があると推察される。具体的には、コア粒子表面やシェル表面の欠陥部位において、非発光性再結合を引き起こしたり、格子不整合が局所的に大きくなったりすることにより、発光効率が低下すると考えられる。・・・」

7 甲7
本件特許の出願日前に公開された甲7には次の記載がある。
「【0005】
単一コアナノ粒子は、単一の半導体材料からなり、ナノ粒子表面に位置する欠陥及びダングリングボンドで起こる電子−正孔再結合が非放射型の電子−正孔再結合になることで、量子効率が比較的低くなる傾向がある。」

第5 甲号証に記載された発明
1 甲1に記載された発明
甲1の[0049]には、「比較的狭い半値全幅(FWHM)及び改善された発光効率を有する赤色光を放出し得る」「カドミウムを含まない量子ドット」が記載されている。
甲1の[0101]には、「QY」が「量子効率」を意味することが記載されている。
甲1の[0202]には、実施例において「波長450ナノメートル(nm)を有する励起光で生成された量子ドットのフォトルミネッセンス(PL)スペクトル」を観察したことが記載されている。
甲1の[0207]には、実施例で用いた量子ドットが「InPコア」であることが記載され、同[0209]には「ZnSeシェルを有する」ことが記載され、同[0210]には「ZnSeシェル上に配置されたZnSシェルを有する粒子」となることが記載されている。すなわち、実施例で用いた量子ドットが、InPコア/ZnSeシェル/ZnSシェル構造であることが記載されている。
甲1の表2には、実施例1の量子ドットをクロロホルム又はトルエンに分散させた量子ドット溶液が、半値全幅(FWHM)39nm、量子効率(QY)89%、フォトルミネッセンス(PL)波長630nmであり、実施例2及び3の量子ドット溶液が、半値全幅(FWHM)38nm、量子効率(QY)90%、フォトルミネッセンス(PL)波長631nmであり、実施例4の量子ドット溶液が、半値全幅(FWHM)36nm、量子効率(QY)90%、フォトルミネッセンス(PL)波長628nmであることが記載されている。

してみると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が認められる。
<甲1発明>
「比較的狭い半値全幅(FWHM)及び改善された発光効率を有する赤色光を放出し得る、カドミウムを含まない量子ドットであって、InPコア/ZnSeシェル/ZnSシェル構造の量子ドットにおいて、
当該量子ドットをクロロホルム又はトルエンに分散させた量子ドット溶液の、波長450ナノメートル(nm)を有する励起光で生成されたフォトルミネッセンス(PL)スペクトルの波長が630、631又は628nmであり、半値全幅(FWHM)が39、38又は36nmである量子ドット。」

2 甲2に記載された発明
甲2の第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行(上記第4の2(1)参照。)には、「InP/ZnSeコア/シェルQD」の「溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示した」ことが記載されている。
甲2の第6106頁左欄第8〜20行(上記第4の2(3)参照。)には、「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDが、QD集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としている」こと、及び「平均半値全幅(fwhm)は19.4nmである一方で、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示している」ことが記載されている。
甲2の図2.(b)(上記第4の2(4)参照。)には、「72個の単一QDの集合における中心発光波長の統計分布」において、中心発光波長の分布の半値全幅が46nmであることが示されている。
甲5(上記第4の5参照。)には、σ2が分散であること、及びFWHM(半値全幅)はσに2.35を乗じたものであることが記載されており、分散の平方根であるσは標準偏差であるから、標準偏差(σ)はFWHM(半値全幅)を2.35で割ることで求められる。よって、甲2の中心発光波長の分布の半値全幅が46nmであることから、甲2の中心発光波長の標準偏差は、46/2.35≒19.6nmと認められる。

してみると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が認められる。
<甲2発明>
「InP/ZnSeコア/シェルQDにおいて、
InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示し、
単一のInP/ZnSeコア/シェルQDは、集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としており、平均半値全幅(fwhm)は19.4nmで、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示し、中心発光波長の標準偏差は19.6nmである、InP/ZnSeコア/シェルQD。」

第6 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
1 甲1を主引例とした場合
(1)本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「InPコア/ZnSeシェル/ZnSシェル構造の量子ドット」は本件発明1の「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子」に相当する。
甲1発明の「当該量子ドットをクロロホルム又はトルエンに分散させた量子ドット溶液」を構成する「量子ドット」は、「量子ドット溶液」の中に、多数の量子ドットの集合体として存在するものであるから、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体」に相当する。
甲1発明の「当該量子ドットをクロロホルム又はトルエンに分散させた量子ドット溶液の、波長450ナノメートル(nm)を有する励起光で生成されたフォトルミネッセンス(PL)スペクトル」は、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」に相当する。
甲1発明の「フォトルミネッセンス(PL)スペクトルの波長が630、631又は628nm」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が605〜655nmの間」に包含される。
甲1発明の「半値全幅(FWHM)が39、38又は36nm」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下」の範囲内に包含される。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、
前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が605〜655nmの間にあり、前記発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下である、
半導体ナノ粒子集合体。」

<相違点1>
本件発明1は「半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を、445nmの励起光で励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3):
(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が28nm以下であること、
(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が10nm以上30nm以下であること、
(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が12nm以下であること、の全てを満たす」のに対し、甲1発明は、半導体ナノ粒子の1粒子毎の発光スペクトルの特性が不明である点。

まず、上記相違点1について、新規性の観点で検討を行う。甲1発明は、1粒子毎の発光スペクトル(λ2)に着目した発明ではないため、甲1に1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性は記載されていない。そして、1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性は実際に測定してみなければわからないところ、甲1発明の1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性が、本件発明1で特定される条件を全て満たしているとは限らない。

また、甲1発明は「比較的狭い半値全幅(FWHM)及び改善された発光効率を有する赤色光を放出し得る、カドミウムを含まない量子ドット」である点で本件発明と共通しているが、これらの特徴が共通しているからといって、その1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性が、本件発明1で特定される範囲を全て満たす根拠とはならない。

さらに、甲2発明には、「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDは、集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴として」いること、及び「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示し、」「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」は「平均半値全幅(fwhm)は19.4nmで、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示し、中心発光波長の標準偏差は19.6nmである」であることが記載されている。
そして、甲1発明の「量子ドット」は、量子ドット溶液(量子ドットの集合体)として「波長450ナノメートル(nm)を有する励起光で生成されたフォトルミネッセンス(PL)スペクトルの波長が630、631又は628nmであり、半値全幅(FWHM)が39、38又は36nm」であるから、甲1発明の単一の量子ドットとしては、平均半値全幅(fwhm)が19.4nmより小さく、平均半値全幅(fwhm)の標準偏差が2.5nmより小さく、中心発光波長の標準偏差が19.6nmより小さい可能性が考えられる。しかしながら、数値の下限は特定されないため、甲1発明の量子ドットの中心発光波長の標準偏差は、10nmより小さい可能性も否めない。そうすると、甲2に記載された事項を参酌しても、甲1発明の量子ドット1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性が、本件発明1で特定される条件を全て満たしているとはいえない。

してみると、本件発明1は、甲1発明に対して新規性がないということはできない。

次に、上記相違点1について、進歩性の観点で検討を行う。甲1発明は、「量子ドット」の集合体について「比較的狭い半値全幅(FWHM)」を目指すものであるから、その結果として、半導体ナノ粒子の1粒子毎の発光スペクトルについても、「半値全幅(FWHM)」の平均値や標準偏差がより小さい値になったり、同ピーク波長の標準偏差がより小さい値になったりすることは想定し得ることである。
しかしながら、同ピーク波長の標準偏差を「10nm以上」とすることについては、甲1発明には記載も示唆もないため、この点は、当業者が容易になし得たことではない。

また、甲2の第6106頁左欄第8〜20行には、上記新規性の観点での検討において示したとおりの事項が記載されているが、甲1発明の単一の量子ドットの特性を、甲2の上記記載のような範囲にすべき動機付けはない。そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。

さらに、甲3〜甲7のいずれにも、半導体ナノ粒子1粒子毎の発光スペクトルの特性についての記載は見当たらない。

そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲1〜甲7に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件発明2〜12
本件発明2〜12は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明2〜12は、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲1発明に対して新規性がないということはできないし、甲1発明及び甲1〜7に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものともいえない。

2 甲2を主引例とした場合
(1)本件発明1
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「InP/ZnSeコア/シェルQD」は本件発明1の「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子」に相当する。
甲2発明の「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液」を構成する「InP/ZnSeコア/シェルQD」は、当該「溶液」の中に、多数のInP/ZnSeコア/シェルQDの集合体として存在するものであるから、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体」に相当する。
甲2発明の「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)」は、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」と、「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」である点で共通する。
甲2発明の「629nm付近に付随するシングルピークスペクトル」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が605〜655nmの間」に包含される。
甲2発明の「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDは、集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としており、平均半値全幅(fwhm)は19.4nmで、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示し、中心発光波長の標準偏差は19.6nmである、InP/ZnSeコア/シェルQD。」と本件発明1の「前記半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を、445nmの励起光で励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3):
(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が28nm以下であること、
(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が10nm以上30nm以下であること、
(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が12nm以下であること、の全てを満たす」とは、ともに「前記半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3):
(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が28nm以下であること、
(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が10nm以上30nm以下であること、
(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が12nm以下であること、の全てを満たす」である点で共通する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、
前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が605〜655nmの間にあり、
前記半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3):
(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が28nm以下であること、
(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が10nm以上30nm以下であること、
(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が12nm以下であること、
の全てを満たすことを特徴とする半導体ナノ粒子集合体。」

<相違点2>
励起光の波長が、本件発明1は半導体ナノ粒子集合体に対して「450nm」かつ半導体ナノ粒子一粒子毎に対して「445nm」であるのに対し、甲2発明は明らかでない点。

<相違点3>
半導体ナノ粒子集合体の発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が、本件発明1は「43nm以下」であるのに対し、甲2発明は「47nm」である点。

まず、相違点2について検討する。半導体ナノ粒子の発光波長は、励起光の波長に依存しないから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

次に、相違点3について検討する。半導体ナノ粒子集合体の発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)について、甲1の[0101]の「色純度の高い(例えば、半値全幅(FWHM)約40nm以下の)光を放射し、したがって発光効率の向上及び色再現性の向上を達成することができる。」との記載や、甲3の「QDを使う最大のメリットである発光ピークの半値幅(FWHM)が狭く純粋な色を出すことで、OLEDよりも広い色域を得ることが可能である。」との記載(前記第4の3(1)参照)から、半値幅(FWHM1)を小さくすることで色純度を高めたいという課題が読み取れる。
そうすると、甲2発明においても、色純度を高めるために、「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)」の「半値全幅(fwhm)」を「43nm以下」とすることは、当業者が試みようとするところである。しかしながら、甲2発明において、「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)」の「半値全幅(fwhm)」を「43nm以下」とした結果、「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」について、「中心発光波長の標準偏差」の値も小さくなると考えられるところ、「19.6nm」であった標準偏差が、「10nm以上」を充足する保証はない。
そうすると、甲2発明をベースにして、甲2発明の「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」の特性が、本件発明1で特定される条件を全て満たすようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

さらに、甲1、甲3〜甲7のいずれにも、半導体ナノ粒子1粒子毎の発光スペクトルの特性についての記載は見当たらない。

そうすると、本件発明1は、甲2発明及び甲1〜甲7に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して特定するものであり、いずれも本件発明1の特定事項を全て包含するものである。よって、本件発明2〜12は、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲2発明及び甲1〜7に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

3 申立人の主張
申立人は、異議申立書第24頁第25行〜第25頁第1行において「また、本件特許明細書の比較例(実験例7〜11)においては、全てFWHM1が本件特許発明1で規定されているFWHM1の範囲から外れているために、本件特許明細書には、FWHM1の範囲を満たすが、上記(1)〜(3)を満たさない比較例は記載されていない。このため、本件特許明細書からは上記(1)〜(3)を満たすことによる効果を確認することができない。」と主張する。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0099】の【表2】には、(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)、(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が、本件発明1の範囲を満たすものが、高い量子効率と狭い半値幅を両立することが示されている。
そうすると、本件特許の明細書から、上記(1)〜(3)を満たすことによる効果を確認することができるから、申立人の主張は採用できない。

4 小括
上記1〜3で検討したとおり、理由1及び理由2には理由がない。

第7 理由3(サポート要件)について
1 本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件特許の明細書の段落【0013】の記載から見て、In及びPを含有するコアと1層以上のシェルからなるコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合体であって、高い量子効率と狭い半値幅を両立できる半導体ナノ粒子の集合体を提供することにあると認める。

2 判断
これに対して、本件特許の明細書の段落【0099】の【表2】には、(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)、(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が、本件発明1で特定される範囲を満たす実験例1〜6において、量子効率(QY)が81〜94%であり、発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が32〜42nmであること、すなわち、高い量子効率と狭い半値幅を両立したことが示されているから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2〜12についても同様である。

3 申立人の主張
申立人は、異議申立書第44頁第4行〜第25行において「しかしながら、In及びPを含有する半導体ナノ粒子の量子効率の低下は、コア粒子表面やシェル表面の欠陥やダングリングボンド等が要因であることが技術常識である(甲第6号証の(記載事項6−1)、甲第7号証の(記載事項7−1)参照)。このことは、出願人が本件特許権者と同一人である甲第4号証の(記載事項4−2)における「InP系半導体ナノ粒子のコア粒子に、更にハロゲン前駆体を加えることによりInP系半導体ナノ粒子の量子効率(QY)を向上させることができる。ハロゲンの添加はIn3+とZn2+のつなぎとしてダングリングボンドを埋め、陰イオンの電子に対する閉じ込め効果を増大させる効果を与えると発明者らは推測している。」という記載とも合致する。
従って、発光スペクトル(λ1)、発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、ピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)及び半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)を規定したとしても、これらは欠陥やダングリングボンドとは何ら関係がないため、高い量子効率は得られない。
また、本件特許明細書の実施例(実験例1〜6)の半導体ナノ粒子は、全てハロゲンを含んでいる。本件特許明細書の[0035]には、「半導体ナノ粒子がハロゲンを上記範囲で含むことにより、高い蛍光量子効率、狭い半値幅を得ることができる。」と記載されている。すなわち、高い量子効率を得るためには、ハロゲンは必須要件であり、ハロゲンを規定していない本件特許発明1〜8、10〜12はサポート要件を満たしていない。」と主張する。
しかしながら、上記主張は、半導体ナノ粒子の量子効率の低下の要因が、コア粒子表面やシェル表面の欠陥やダングリングボンドのみであることを示すものではなく、また、ハロゲンを含まなければ高いQY(量子効率)を実現することが不可能であることを示すものでもない。
そうすると、申立人の主張は、課題を解決できない恐れがあるということを主張するにとどまり、本件発明1〜12の範囲内に現実に課題を解決できない部分があることを具体的に主張・立証するものではないから、申立人の主張は採用できない。

4 小括
上記1〜3で検討したとおり、理由3には理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-08-31 
出願番号 P2019-227245
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 113- Y (C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 田澤 俊樹
関根 裕
登録日 2021-11-08 
登録番号 6973469
権利者 昭栄化学工業株式会社
発明の名称 半導体ナノ粒子集合体、半導体ナノ粒子集合体分散液、半導体ナノ粒子集合体組成物及び半導体ナノ粒子集合体硬化膜  
代理人 特許業務法人あしたば国際特許事務所  

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