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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K |
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管理番号 | 1388431 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-05-31 |
確定日 | 2022-09-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6973470号発明「半導体ナノ粒子集合体、半導体ナノ粒子集合体分散液、半導体ナノ粒子集合体組成物及び半導体ナノ粒子集合体硬化膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6973470号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6973470号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願は、令和元年12月17日に出願され、令和3年11月8日にその特許権の設定登録がされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1〜11に対し、令和4年5月31日に特許異議申立人松本慎一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、 前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が515〜535nmの間にあり、前記発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下であり、 前記半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を、445nmの励起光で励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3): (1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が15nm以上であること、 (2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が12nm以下であること、 (3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が2nm以上であること、 の全てを満たすことを特徴とする半導体ナノ粒子集合体。 【請求項2】 前記半値幅(FWHM1)が35nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項3】 前記標準偏差(SD1)が8nm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項4】 前記半値幅(FWHM1)が33nm以下であり、前記標準偏差(SD2)が5nm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項5】 前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が80%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項6】 前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が85%以上であることを特徴とする請求項5に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項7】 前記半導体ナノ粒子集合体の量子効率(QY)が90%以上であることを特徴とする請求項6に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項8】 前記半導体ナノ粒子が少なくともIn、P、Zn、Se及びハロゲンを含有し、 前記半導体ナノ粒子において、原子換算で、Inに対するP、Zn、Se及びハロゲンの各モル比が、P:0.20〜0.95、Zn:11.00〜50.00、Se:7.00〜25.00、ハロゲン:0.80〜15.00であること、 を特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体。 【請求項9】 請求項1〜8の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、有機分散媒に分散した半導体ナノ粒子集合体分散液。 【請求項10】 請求項1〜8の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、モノマーまたはプレポリマーに分散した半導体ナノ粒子集合体組成物。 【請求項11】 請求項1〜8の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子集合体が、高分子マトリクス中に分散した半導体ナノ粒子集合体硬化膜。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 申立人は、証拠方法として、甲第1号証〜甲第7号証(以下、「甲1」〜「甲7」ともいう。)を提出した。 甲1:米国特許出願公開第2019/0273178号明細書 甲2:米国特許出願公開第2019/0211265号明細書 甲3:”Nearly Blinking-Free, High-Purity SinglePhoton Emission by Colloidal InP/ZnSe Quantum Dots”, Vigneshwaran Chandrasekaran et al., Nano Letters 2017, 17, p.6104-6109 甲4:北原洋明、「ようやく本格的な離陸体制を整えた量子ドットテレビ」、2019年6月25日 (URL:https://news.mynavi.jp/techplus/article/20190625-848268/2) 甲5:国際公開第2019/131401号 甲6:国際公開2018/092639号 甲7:特開2019−23297号公報 2 理由1:新規性欠如 本件発明1〜7、9、11は、甲1に記載された発明(以下、番号に応じて「甲1発明」等ともいう。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 3 理由2:進歩性欠如 (1) 甲1を主引例とした場合 本件発明1、3、5〜7、9、11は、甲1発明から、又は甲1発明と甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明2、4は、甲1発明から、又は甲1発明と、甲3及び甲4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明8は、甲1発明と、甲2及び甲5に記載された事項から、又は甲1発明と、甲2、甲3及び甲5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明10は、甲1発明と甲2に記載された事項から、又は甲1発明と、甲2及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2) 甲2を主引例とした場合 本件発明1、3、5、9〜11は、甲2発明から、又は甲2発明と甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明2、4は、甲2発明から、又は甲2発明と、甲3及び甲4に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明6、7は、甲2発明と甲1記載の事項から、又は甲2発明と、甲1及び甲3に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 本件発明8は、甲2発明と甲5に記載された事項から、又は甲2発明と、甲3及び甲5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4 理由3:サポート要件違反 本件発明1〜7、9〜11は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 甲号証の記載 1 甲1の記載 本件特許の出願日前に公開された甲1には次の記載がある。仮訳は、申立人が作成した抄訳を参考に、当審の合議体が作成した。 「[0095] “Photoluminescence quantum yield” (PLQY) is the ratio of photons emitted to photons absorbed, e.g., by a nanostructure or population of nanostructures. As known in the art, quantum yield is typically determined by a comparative method using well-characterized standard samples with known quantum yield values. [0096] “Peak emission wavelength” (PWL) is the wavelength where the radiometric emission spectrum of the light source reaches its maximum. ・・・ [0098] As used herein, the term “full width at half-maximum” (FWHM) is a measure of the size distribution of nanoparticles. The emission spectra of nanoparticles generally have the shape of a Gaussian curve. The width of the Gaussian curve is defined as the FWHM and gives an idea of the size distribution of the particles. A smaller FWHM corresponds to a narrower quantum dot nanocrystal size distribution. FWHM is also dependent upon the peak emission wavelength. ・・・ [0216] The size distribution of the nanostructures can be relatively narrow. In some embodiments, the photoluminescence spectrum of the population of nanostructures can have a full width at half maximum of between 10 nm and 60 nm, 10 nm and 40 nm, 10 nm and 30 nm, 10 nm and 20 nm, 20 nm and 60 nm, 20 nm and 40 nm, 20 nm and 30 nm, 30 nm and 60 nm, 30 nm and 40 nm, or 40 nm and 60 nm. In some embodiments, the photoluminescence spectrum of the population of nanostructures can have a full width at half maximum of between 35 nm and 50 nm. ・・・ [0223] ・・・ EXAMPLES [0224] ・・・ Example 1 Preparation of an InP/ZnS/ZnSe/ZnS (1 Equivalent Inner Shell) [0225]InP/ZnS core/inner thin shell nanostructures with 1 equivalent of inner ZnS shell were made by combining indium myristate (0.4 mmol), zinc oleate (0.4 mmol), dodecanethiol (0.4 mmol), and tris(trimethylsilyl)phosphine (0.4 mmol) in octadecene (32 mL).・・・ ・・・ [0227]Further ZnSe and ZnS outer layers were grown as a secondary reaction on the isolated InP/ZnS core/inner thin shell nanostructure.・・・The material was isolated by the addition of 0.5 vol trioctylphosphine, 1 vol toluene, and 2 vol ethanol and dispersed as the isolated material in hexane (10 mL). A transmission electron micrograph of the isolated InP/ZnS/ZnSe/ZnS nanostructure is shown in FIG. 3. Example 2 Preparation of an InP/ZnS/ZnSe/ZnS (0.5 Equivalent Inner Shell) [0228]InP/ZnS core/inner thin shell nanostructures with 0.5 equivalents of thin ZnS shell were made by combining indium myristate (0.4 mmol), zinc oleate (0.4 mmol), dodecanethiol (0.2 mmol), and tris(trimethylsilyl)phosphine (0.4 mmol) in octadecene (32 mL).・・・ [0229]Further ZnSe and ZnS outer layers were grown as a secondary reaction on the isolated InP/ZnS core/inner thin shell nanostructure.・・・The material was isolated by the addition of 0.5 vol trioctylphoshine, 1 vol toluene, and 2 vol ethanol and dispersed as the isolated material in hexane (10 mL). ・・・ [0231] ・・・ Example 4 Comparison of Shell Structure [0232] Upon further shelling of the InP/ZnS core/inner thin shell with ZnSe and ZnS outer shell layers, the average quantum dot diameter increased from 2.1 nm for the InP/ZnSe core/inner thin shell nanostructure, to 6.8 nm for the final InP/ZnS/ZnSe/ZnS nanostructure (compare FIG. 2 and FIG. 3). As compared to similar ZnSe/ZnS structures grown onto InP cores, the effective Stokes shift of the InP/ZnS/ZnSe/ZnS core/inner thin shell structures is larger (34 nm versus 24 nm) as shown in TABLE 2 and FIG. 5. Moreover, the size of the effective Stokes shift can be controlled by the molar equivalents of S introduced in the InP/ZnS core synthesis. 」 (仮訳) 「[0095]「光ルミネセンス量子収率」(PLQY)は、例えばナノ構造体のナノ構造体集団によって吸収された光子に対する放出された光子の割合である。当技術分野で知られているように、典型的には、既知の量子収率値を有する十分に特徴付けられた標準サンプルを用いた比較方法により決定される。 [0096]「ピーク発光波長」(PWL)は、光源の放射分析発光スペクトルが最大となる波長である。 ・・・ [0098]本明細書で使用する用語「半値全幅」(FWHM)は、ナノ粒子のサイズ分布の測定結果である。ナノ粒子の発光スペクトルは、一般的にガウス曲線の形状を有する。ガウス曲線の幅は、半値全幅(FWHM)として定義され、粒子のサイズ分布の概念を与える。FWHMが小さいほど、量子ドットのナノ結晶のサイズ分布が狭くなる。FWHMは、ピーク放射波長に依存している。 ・・・ [0216]ナノ構造のサイズ分布は比較的狭くすることができる。いくつかの実施形態では、ナノ構造の集団のフォトルミネッセンススペクトルは、最大値の半分で10nmと60nm、10nmと40nm、10nmと30nm、10nmと20nm、20nmと60nm、20nmと40nm、20nmと30nm、30nmと60nm、30nmと40nmまたは40nmと60nmの間の半値全幅を有することができる。 ・・・ [0223] ・・・ 実施例 [0224] ・・・ 実施例1 InP/ZnS/ZnSe/ZnSの調製 (1 Equivalent Inner Shell) [0225]1当量内のZnSシェルを有するInP/ZnSコア/内側シェルのナノ構造は、ミリスチン酸インジウム(0.4mmol)、オレイン酸亜鉛(0.4mmol)、ドデカンチオール(0.4mmol)、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(0.4mmol)とオクタデセン(32mL)を反応させて作製した。・・・ ・・・ [0227]さらに、ZnSeとZnSの外側層は、単離したInP/ZnSコア/内側シェルの上に、ナノ構造体上の2次反応として成長させた。・・・材料を、0.5倍量のトリオクチルホスフィン、1volのトルエン、および2容量のエタノールを添加することにより単離し、ヘキサン(10mL)で単離された物質として分散させた。単離されたInP/ZnS/ZnSe/ZnSナノ構造体の透過電子顕微鏡写真を図3に示す。 実施例2 InP/ZnS/ZnSe/ZnSの調製 (0.5 Equivalent Inner Shell) [0228]0.5当量の薄いZnSシェルを有するInP/ZnSコア/内側シェルのナノ構造は、ミリスチン酸インジウム(0.4mmol)、オレイン酸亜鉛(0.4mmol)、ドデカンチオール(0.2mmol)、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(0.4mmol)とオクタデセン(32mL)を反応させて作製した。・・・ [0229]さらに、ZnSeとZnSの外側層は、単離したInP/ZnSコア/内側シェルの上に、ナノ構造体上の2次反応として成長させた。・・・物質を、0.5倍量のトリオクチルホスフィン、1volのトルエン、および2容量のエタノールを添加することにより単離し、ヘキサン(10mL)で単離された物質として分散させた。 ・・・ [0231] ・・・ 実施例4 シェル構造の比較 [0232]ZnSeとZnS外側シェル層を有するInP/ZnSコア/内側シェルのシェル化の際に、量子ドットの平均直径は、InP/ZnSeコア/内側シェルのナノ構造の2.1nmから、最終的なInP/ZnS/ZnSe/ZnSナノ構造の6.8nmへ増加した。(図2および図3を比較されたい)。InPコア上に成長させた同様のZnSe/ZnS構造体と比較して、表2及び図5に示すように、InP/ZnS/ZnSe/ZnSコア/内側シェル構造体の有効なストークスシフトがより大きい(34nm対24nm)。また、有効なストークスシフトの大きさは、InP/ZnSコアの合成で導入されたSのモル当量により制御することができる。 」 2 甲2の記載 本件特許の出願日前に公開された甲2には次の記載がある。仮訳は、申立人が作成した抄訳を参考に、当審の合議体が作成した。 「[0003]Quantum dots (e.g., nano-sized semiconductor nanocrystals) having different energy bandgaps may be obtained by controlling their sizes and compositions. Quantum dots may exhibit electroluminescent and photoluminescent properties. In a colloidal synthesis, organic materials such as a dispersing agent may coordinate, e.g., be bound, to a surface of the semiconductor nanocrystal during the crystal growth thereof, thereby providing a quantum dot having a controlled size and having luminescent properties. From an environmental standpoint, developing a cadmium free quantum dot with improved luminescent properties is desirable. ・・・ [0054]A population of cadmium free quantum dots of an embodiment may have increased solidity and improved size distribution. Thus, the population of cadmium free quantum dots of the embodiment may exhibit a decreased FWHM and a quantum dot polymer composite including the same may exhibit increased excitation light absorption rate and enhanced light conversion rate. The cadmium free quantum dot of the embodiments may be used in various display devices and biological labelling (e.g., bio sensor, bio imaging, etc.), a photo detector, a solar cell, a hybrid composite, and the like. A display device including the population of cadmium free quantum dots of the embodiment may exhibit improved display quality (e.g., increased color reproducibility under a next generation color standard, BT2020) ・・・ [0107]A population of the quantum dots having the aforementioned solidity and the particle size distribution may exhibit an improved level of a full width at half maximum. For example, a quantum dot population of an embodiment may have a FWHM of less than or equal to about 40 nm, for example, less than or equal to about 39 nm, less than or equal to about 38 nm, or less than or equal to about 37 nm. ・・・ [0126]The quantum dot may emit green light. The green light may have a maximum peak wavelength of greater than or equal to about 500 nm, for example, greater than or equal to about 510 nm, and less than or equal to about 600 nm, for example less than or equal to about 560 nm. The quantum dot may emit red light. The red light may have a maximum peak wavelength of greater than or equal to about 600 nm, for example, greater than or equal to about 610 nm, and less than or equal to about 650 nm, for example less than or equal to about 640 nm. [0127]The cadmium free quantum dot may have a quantum yield of greater than or equal to about 80%, greater than or equal to about 81%, or greater than or equal to about 82%. The cadmium free quantum dot may have a FWHM of less than or equal to about 45 nm, for example, less than or equal to about 44 nm, less than or equal to about 43 nm, less than or equal to about 42 nm, or less than or equal to about 41 nm. ・・・ [0258] ・・・ Reference Example 1 [0259]・・・The reaction mixture then is rapidly cooled to room temperature and acetone is added thereto to produce nanocrystals, which are then separated by centrifugation and dispersed in toluene to obtain a toluene dispersion of the InP core nanocrystals. The amount of the TMS3P is about 0.5 moles per one mole of indium. A size of the InP core thus obtained is about 2.2 nm. Example 1 ・・・ [0261]In a 200 mL reaction flask, zinc acetate and oleic acid are dissolved in trioctyl amine and the solution is subjected to vacuum at 120℃ for 10 minutes. The atmosphere in the flask is replaced with N2 while the oleyl amine is added thereto. While the resulting solution is heated to about 320℃, a toluene dispersion of the InP semiconductor nanocrystal core are injected thereto and a predetermined amount of Se/TOP stock solution is injected into the reaction flask over three times. A reaction is carried out to obtain a reaction solution including a particle having a ZnSe shell disposed on the InP core. A total of reaction time is 90 minutes. [0262]Then, at the aforementioned reaction temperature, the S/TOP stock solution and the zinc acetate are injected to the reaction mixture. A reaction is carried out to obtain a resulting solution including a particle having a ZnS based shell disposed on the ZnSe shell. A total of reaction time is 70 minutes. ・・・ [0264]・・・After centrifugation, the supernatant is discarded, and the precipitate is dried and dispersed in chloroform to obtain a quantum dot solution (hereinafter, QD solution). [0265]For the obtained QD solution, a ICP-AES analysis is made, and the results are shown in Table 1. A photoluminescence spectroscopic analysis and a TEM analysis are made for the QD solution, and the results are shown in Table 2. [0266] ・・・ Comparative Example 1 ・・・ [0268]In a 200 mL reaction flask, zinc acetate and oleic acid are dissolved in trioctyl amine and the solution is subjected to vacuum at 120℃ for 10 minutes. The atmosphere in the flask is replaced with N2. While the resulting solution is heated to about 320℃, a toluene dispersion of the InP semiconductor nanocrystal core is injected thereto and the Se/TOP stock solution, the S/TOP stock solution, and optionally the zinc acetate are injected into the reaction flask over at least three times. A reaction is carried out to obtain a reaction solution including a particle having a ZnSeS shell disposed on the InP core. A total of reaction time is 90 minutes. ・・・ [0273] ・・・ Comparative Example 2 [0274]A population of core-multishell quantum dots is prepared in the same manner as in Example 1, except that the oleyl amine is not used. A TEM analysis is made for the QD population, and the results are shown in Table 2. ・・・ [0276]The results of table 2 confirm that the quantum dots of Example 1 have a higher value of solidity and a uniform particle size distribution and exhibit a low level of FWHM and enhanced QY.」 (仮訳) [0003]異なるエネルギーバンドギャップを有する量子ドット(例えば、半導体ナノ結晶)は、それらのサイズおよび組成を制御することによって得ることができる。量子ドットは、エレクトロルミネセンスおよびフォトルミネセンス特性を示すことができる。コロイド合成法において、分散剤のような有機物質は、例えば、結合し、その結晶成長中に半導体ナノ結晶の表面とすることができ、それにより、制御されたサイズ及び発光特性を有する量子ドットを提供する。環境の観点から、改善された発光特性を有する、カドミウムを含まない量子ドットを開発することが望ましい。 ・・・ [0054]本実施の形態は、カドミウムを含まない量子ドットの集団は、ソリディティと改善された粒度分布を有していてもよい。このように、本実施形態では、カドミウムを含まない量子ドットの集団が、減少した半値全幅を示してもよく、同じものを含む量子ドット高分子複合材料が、増大する励起光吸収率及び光変換率を示してもよい。実施形態の、カドミウムを含まない量子ドットは、各種表示装置、生物学的標識(例えば、バイオセンサー、バイオイメージング等)、光検出器、太陽電池、ハイブリッド複合材料等に使用することができる。本実施の形態は、カドミウムを含まない量子ドットの集団を含む表示装置は、表示品位の向上(たとえば、色標準、BT2020で高い色再現性)を示し得る。 ・・・ [0107]上記の剛度および粒度分布を有する量子ドットの集合は、半値全幅の改善されたレベルを示すことができる。例えば、実施例の量子ドット集団は、約40nm以下、例えば、約39nm以下、約38nm以下、又は約37nm以下のFWHMを有してもよい。 ・・・ [0126]量子ドットは緑色光を発光し得る。緑色光は、約500nm以上、例えば、約510nm以上であって、約600nm以下、例えば、560nm以下の最大ピーク波長を有し得る。量子ドットは赤色光を放出することができる。赤色光は、約600nm以上、例えば、約610nm以上、約650nm以下の最大ピーク波長、例えば、640nm以下程度とすることができる。 [0127]カドミウムを含まない量子ドットは、約80%以上、約81%以上、又は約82%以上の量子収率を有していてもよい。カドミウムを含まない量子ドットは、例えば、約45nm以下、約44nm以下、約43nm以下、約42nm以下、または約41nm以下のFWHMを有することができる。 ・・・ [0258] ・・・ 参照実施例1 [0259]・・・次いで、反応混合物を急速に室温まで冷却し、アセトンを添加し、次いで遠心分離によって分離し、トルエンに分散されたInPコア型ナノ結晶のトルエン分散液を得た。TMS3Pの量はインジウムの1モル当たり約0.5モルである。このようにして得られたInPコアのサイズは約2.2nmである。 実施例1 ・・・ [0261]200mLの反応フラスコに、酢酸亜鉛、オレイン酸、トリオクチルアミンに溶解させ、溶液を120℃で10分間の真空に供される。フラスコ内の雰囲気を、オレイルアミンを添加して撹拌をN2で置換される。得られた溶液を約320℃に加熱しながら、InP半導体ナノ結晶コアのトルエン分散液が注入され、所定量Se/TOPのストック溶液を、3時間かけて反応フラスコに注入される。反応を行い、InPコア上にZnSeシェルを有する粒子を含む反応液を得た。全反応時間は90分である。 [0262]次いで、上記反応温度で、S/TOPストック溶液および酢酸亜鉛を反応混合物に注入される。反応はZnSeシェル上に配置されたZnSシェルを有する粒子を含む得られた溶液を得るために行われる。全反応時間は70分である。 ・・・ [0264]・・・遠心分離後、上清を廃棄し、沈殿物を乾燥し、クロロホルムに分散される量子ドット溶液(以下、「QD溶液」)を得ることができる。 [0265]得られたQD溶液について、ICP-AES分析を行い、結果を表1に示す。QD溶液の発光スペクトル分析およびTEM分析を行い、結果を表2に示す。 [0266] ・・・ 比較例1 ・・・ [0268]200mLの反応フラスコに、酢酸亜鉛、オレイン酸、トリオクチルアミンに溶解させ、溶液を120℃で10分間の真空に供される。フラスコ中の空気をN2で置換される。得られた溶液を約320℃に加熱しながら、InP半導体ナノ結晶コアのトルエン分散液を注入しSe/TOP原液、S/TOPストック溶液、及び場合により酢酸亜鉛を少なくとも3時間かけて反応フラスコに注入される。反応を行い、InPコアにZnSeSシェルを有する粒子を含む反応液を得た。全反応時間は90分である。 ・・・ [0273] ・・・ 比較例2 [0274]コア−マルチシェル量子ドットの集団は、オレイルアミンが使用されていない点を除いて、実施例1と同様に調製される。QD集団のTEM分析を行い、結果を表2に示す。 ・・・ [0276]表2の結果は、実施例1の量子ドットは、堅固さ及び均一な粒度分布の高い値を有しており、低いレベルの半値全幅(FWHM)及び高いQYを示すことが確認された。」 3 甲3の記載 本件特許の出願日前に公開された甲3には次の記載がある。仮訳は、申立人が作成した抄訳を参考にしつつ、当審の合議体が作成した。 (1)第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行 「 」 (2)第6105頁図1 「 」 (3)第6106頁左欄第8〜20行 「 」 (4)第6105頁図2 「 」 (仮訳) (1)第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行 「ここでは、最近公開された手順に従って、リン前駆体としてトリス−ジエチルアミノホスフィンを使用して合成された個々のInP/ZnSeコア/シェルQD(3.2nmコア)の発光を調べる(詳細については、サポート情報S1を参照)。(34)図1aに示すように、得られたInP/ZnSeコア/シェルQDは約10nmの等価直径を持ち(挿入図を参照)、その吸収スペクトルは594nmで最大値を持つ典型的なバンド端遷移を示す。粒子の結晶化度は、図1aの挿入図に示すHR-TEM画像から明らかである。溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示した。先に示したように、この比較的大きな半値全幅(fwhm)(Cd系QD、CsPbBr3またはCdSeナノプレートレットは、それぞれ20nm、12nm、10nmという狭い集合体発光を有することができる)は、個々のInP QDの発光の特徴ではなく、サイズ分散に関連した不均ーな拡がりの影響である。」 (2)第6105頁図1 「 図1.(a)溶液中のInP/ZnSeコア/シェルQDの吸収スペクトル(赤線)及び発光スペクトル(青線)。挿入図:InP/ZnSeコア/シェルQDのTEM及びHR-TEM画像。(b)445nmでのパルス励起後の薄膜におけるInP/ZnSeコア/シェルQDからの発光減衰。(c)445nmでの高強度cw励起下での発光飽和。」 (3)第6106頁左欄第8〜20行 「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDのPLに取り組むために、トルエン中の1nMのQD溶液をガラスカバースリップにドロップキャストし、0.25μm-2のQD表面密度を生じさせた。図2aは、単一のInP/ZnSeコア/シェルQDが、QD集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としていることを示している。72個の単一InP/ZnSeコア/シェルQDを系統的に調べたところ、QD集合体の発光スペクトルの範囲内に入る狭い輝線を示し(図2b参照)、集合体の発光は不均一に広がっていることを確認した。また、単一QDの発光線幅にはばらつきが見られた(図2c参照)。平均半値全幅(fwhm)は19.4nmである一方で、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示している。」 (4)第6105頁図2 「 図2.(a)ローレンツ関数に適合した単一QDの発光スペクトル。(b)72個の単一QDの集合における中心発光波長の統計分布。(c)同じ集合体の輝線幅の統計分布。(d)17.5nsの減衰時間で単一の指数関数に適合する単一のQDの発光減衰トレース。挿入図:25個の単一QDの集合体に基づく減衰時間の統計分布。」 4 甲4の記載 本件特許の出願日前に公開された甲4には次の記載がある。 (1)「多様なQD技術の競争が市場を拡大する」第1〜2段落 「一言でQDと言っても多様な材料がある。最初にディスプレー応用で実用化されたのはCd系の材料であり、コアにCdSeを使うものである。QDを使う最大のメリットである発光ピークの半値幅(FWHM)が狭く純粋な色を出すことで、OLEDよりも広い色域を得ることが可能である。一方で、毒性物質であるCdへの抵抗からなかなか市場に受け入れられてこなかった。QD応用が伸び悩んでいる大きな理由である。 この市場の抵抗感を払拭するために採用されたのが、InPをコアに使うQDである。Samsungが最初に実用化して「QLED-TV」として市場に出し、LGのOLED-TVとの競争を繰り広げているものである。FWHMの値はCd系に比べてやや広くBT2020で求められる色域の値でもやや劣る面があるものの「Cd free」としての売り文句で徐々に市場に入りつつある。直近では日本の昭栄化学工業がこのInPの開発に成功し、性能的にもSamsungと遜色ない値を出して量産に入る計画を発表している。」 (2)「QD各社の材料と性能」 「 」 5 甲5の記載 本件特許の出願日前に公開された甲5には次の記載がある。 「[0022](ハロゲン) InP系半導体ナノ粒子のコア粒子に、更にハロゲン前駆体を加えることによりInP系半導体ナノ粒子の量子効率(QY)を向上させることができる。ハロゲンの添加はIn3+とZn2+のつなぎとしてダングリングボンドを埋め、陰イオンの電子に対する閉じ込め効果を増大させる効果を与えると発明者らは推測している。また、ハロゲンは高い量子効率(QY)を与え、コア粒子の凝集を抑える効果がある。・・・ ・・・ [0082][表1] ・・・ 請求の範囲 [請求項1] 少なくとも、In、P、Zn、Se、S及びハロゲンを含む半導体ナノ粒子であって、 前記P、前記Zn、前記Se、前記S及び前記ハロゲンの含有率は、前記Inに対するモル比で、 P: 0.05 〜 0.95、 Zn: 0.50 〜 15.00、 Se: 0.50 〜 5.00、 S: 0.10 〜 15.00、 ハロゲン: 0.10 〜 1.50 である、半導体ナノ粒子。」 6 甲6の記載 本件特許の出願日前に公開された甲6には次の記載がある。 「[0016] ・・・また、発光効率の悪化は、コア粒子表面の欠陥(コアとシェルとの界面の欠陥)や、シェル表面の欠陥などに原因があると推察される。具体的には、コア粒子表面やシェル表面の欠陥部位において、非発光性再結合を引き起こしたり、格子不整合が局所的に大きくなったりすることにより、発光効率が低下すると考えられる。・・・」 7 甲7の記載 本件特許の出願日前に公開された甲7には次の記載がある。 「【0005】 単一コアナノ粒子は、単一の半導体材料からなり、ナノ粒子表面に位置する欠陥及びダングリングボンドで起こる電子−正孔再結合が非放射型の電子−正孔再結合になることで、量子効率が比較的低くなる傾向がある。」 第5 甲号証に記載された発明 1 甲1に記載された発明 甲1の[0095]には、「PLQY」が「光ルミネセンス量子収率」であり、「例えばナノ構造体のナノ構造体集団によって吸収された光子に対する放出された光子の割合である」ことが記載されている。 同[0096]には、「PWL」が「ピーク発光波長」であり、「光源の放射分析発光スペクトルが最大となる波長」であることが記載されている。 同[0098]には、「FWHM」が「半値全幅」であり、「FWHMが小さいほど、量子ドットのナノ結晶のサイズ分布が狭くなる」ことが記載されている。 同[0227]には、「単離されたInP/ZnS/ZnSe/ZnSナノ構造体」の集団が「ヘキサン」に「分散」されたことが記載されている。 同「表2」には、「実施例2」の「InP/ZnS/ZnSe/ZnS(0.5 eq inner ZnS)」ナノ構造体の集団のヘキサン分散液の発光スペクトルのピーク発光波長(PWL)が522.4nm、半値全幅(FWHM)が42.3nm、光ルミネセンス量子収率(PLQY)が86.7%であること、及び「実施例4」の量子ドットである「InP/ZnSe/ZnS」ナノ構造体の集団のヘキサン分散液の発光スペクトルのピーク発光波長(PWL)が532.9nm、半値全幅(FWHM)が38.6nm、光ルミネセンス量子収率(PLQY)が92.2%であることが記載されている。 してみると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 <甲1発明> 「InP/ZnS/ZnSe/ZnS(0.5 eq inner ZnS)ナノ構造体集団のヘキサン分散液のピーク発光波長(PWL)が522.4nm、半値全幅(FWHM)が42.3nm、光ルミネセンス量子収率(PLQY)が86.7%であり、InP/ZnSe/ZnSナノ構造体集団のヘキサン分散液のピーク発光波長(PWL)が532.9nm、半値全幅(FWHM)が38.6nm、光ルミネセンス量子収率(PLQY)が92.2%である、ナノ構造体集団。」 2 甲2に記載された発明 甲2の[0126]には、「量子ドットは」「約510nm以上」、「560nm以下の最大ピーク波長」の「緑色光を発光し得る」ことが記載されている。 甲2の[0261]〜[0262]、[0264]には、「実施例1」として、「InPコア上にZnSeシェルを有する粒子」の「ZnSeシェル上に配置されたZnSシェルを有する粒子」を得たこと、すなわち、「実施例1」のコアシェル粒子が、InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子であることが認められる。 甲2の[0264]〜[0265]には、実施例1のコアシェル粒子の「沈殿物を乾燥し、クロロホルムに分散される量子ドット溶液(以下、QD溶液)を得」て、「得られたQD溶液について、」「QD溶液の発光スペクトル分析およびTEM分析を行」ったことが記載されている。 甲2の[表2]には、実施例1のQD溶液の発光スペクトルのFWHMが36nmであり、量子収率が78%であることが示されている。 してみると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 <甲2発明> 「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子の沈殿物をクロロホルムに分散させた量子ドット溶液の発光スペクトルは、FWHMが36nmであり、量子収率が78%であり、 量子ドットは、約510nm以上、560nm以下の最大ピーク波長の緑色光を発光し得るコアシェル粒子の沈殿物。」 3 甲3に記載された技術 甲3の第6105頁左欄第26行〜同頁右欄13行(上記第4の3(1)参照。)には、「InP/ZnSeコア/シェルQD」の「溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示した」ことが記載されている。 甲3の第6106頁左欄第8〜20行(上記第4の3(3)参照。)には、「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDが、QD集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としている」こと、及び「平均半値全幅(fwhm)は19.4nmである一方で、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示している」ことが記載されている。 甲3の図2.(b)(上記第4の3(4)参照。)には、「72個の単一QDの集合における中心発光波長の統計分布」において、中心発光波長の分布の半値全幅が46nmであることが示されている。 ここで、正規分布(ガウス分布)における標準偏差と半値全幅の関係について、標準偏差(σ)≒半値全幅(FWHM)/2.35であることは当該分野の技術常識であるから、甲3の中心発光波長の標準偏差は、46/2.35≒19.6nmと認められる。 してみると、甲3には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が認められる。 <甲3技術> 「InP/ZnSeコア/シェルQDにおいて、 InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示し、 単一のInP/ZnSeコア/シェルQDは、集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴としており、平均半値全幅(fwhm)は19.4nmで、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示し、中心発光波長の標準偏差は19.6nmである、InP/ZnSeコア/シェルQD。」 第6 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について 1 甲1を主引例とした場合 (1)本件発明1 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「InP/ZnS/ZnSe/ZnS(0.5 eq inner ZnS)ナノ構造体集団」及び「InP/ZnSe/ZnSナノ構造体集団」は本件発明1の「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体」に相当する。 甲1発明の「ナノ構造体のナノ構造体集団のヘキサン分散液の発光スペクトル」は、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」と、ともに「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」である点で共通する。 甲1発明の「ピーク発光波長(PWL)が522.4nm」及び「ピーク発光波長(PWL)が532.9nm」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が515〜535nmの間」に包含される。 甲1発明の「半値全幅(FWHM)が42.3nm」及び「半値全幅(FWHM)が38.6nm」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下」の範囲内に包含される。 そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、 前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が515〜535nmの間にあり、前記発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下である、半導体ナノ粒子集合体。」 <相違点1> 半導体ナノ粒子集合体に対する励起光の波長が、本件発明1は「450nm」であるのに対し、甲1発明は明らかでない点。 <相違点2> 本件発明1は「半導体ナノ粒子集合体を構成する半導体ナノ粒子を、445nmの励起光で励起させて得られる1粒子毎の発光スペクトル(λ2)が、以下の要件(1)〜(3): (1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値が15nm以上であること、 (2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)が12nm以下であること、 (3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が2nm以上であること、の全てを満たす」のに対し、甲1発明は、半導体ナノ粒子の1粒子毎の発光スペクトルの特性が不明である点。 まず、相違点1について検討する。半導体ナノ粒子の発光波長は、励起光の波長に依存しないから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 次に、相違点2について、新規性の観点で検討を行う。甲1発明は、1粒子毎の発光スペクトル(λ2)に着目した発明ではないため、甲1に1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性は記載されていない。そして、1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性は実際に測定してみなければわからないところ、甲1発明の1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性が、本件発明1で特定される条件を全て満たしているとは限らない。 また、甲3技術には、「単一のInP/ZnSeコア/シェルQDは、集合体で観察されるものよりも遥かに狭い輝線を特徴として」いること、及び「InP/ZnSeコア/シェルQDの溶液中のフォトルミネッセンス(PL)は、629nm付近に付随するシングルピークスペクトル、47nmの半値全幅(fwhm)、65%のPL量子効率を示し、」「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」は「平均半値全幅(fwhm)は19.4nmで、分布は、2.5nmの標準偏差及び13〜24nmの測定値を示し、中心発光波長の標準偏差は19.6nmである」であることが記載されている。 これに対し、甲1発明の「ナノ構造体集団」は「発光スペクトルのピーク発光波長(PWL)」が「522.4nm」及び「532.9nm」であるから、甲1発明の単一の量子ドットの発光スペクトルの特性が、甲3技術の「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」の特性と一致するとは限らない。 仮に一致するとした場合、甲1発明の単一の量子ドットの発光スペクトルの特性が、平均半値全幅(fwhm)が19.4nmより小さく、平均半値全幅(fwhm)の標準偏差が2.5nmより小さく、中心発光波長の標準偏差が19.6nmより小さい可能性が考えられる。しかしながら、数値の下限は特定されないため、甲1発明の単一の量子ドットの発光スペクトルの特性は、平均半値全幅(fwhm)が15nmより小さかったり、平均半値全幅(fwhm)の標準偏差が2nmより小さかったりする可能性も否めない。そうすると、甲3技術の記載を参酌しても、甲1発明の量子ドット1粒子毎の発光スペクトル(λ2)の特性が、本件発明1で特定される条件を全て満たしているとはいえない。 してみると、本件発明1は、甲1発明に対して新規性がないということはできない。 さらに、上記相違点2について、進歩性の観点で検討を行う。例えば、甲1の[0098]の「FWHMが小さいほど、量子ドットのナノ結晶のサイズ分布が狭くなる。」との記載に基づいて、甲1発明の「量子ドット」のサイズ分布を狭くすることにより「FWHM」を小さな値とし、その結果として、半導体ナノ粒子の1粒子毎の発光スペクトルについても、「半値全幅(FWHM)」の平均値や標準偏差をより小さい値にしたり、同ピーク波長の標準偏差をより小さい値にしたりすることは、当業者が試みることといえる。 しかしながら、甲1発明の単一の量子ドットの発光スペクトルの「半値全幅(FWHM)」の平均値を15nm以上としたり、同標準偏差を2nm以上としたりすることについては、甲1発明には記載も示唆もないため、この点は、当業者が容易になし得たことではない。 また、甲3の第6106頁左欄第8〜20行には、上記新規性の観点での検討において示したとおりの事項が記載されているが、甲1発明の単一の量子ドットの特性を、甲3の記載に基づいて特定の値に調整すべき動機付けはないし、仮に甲1発明の単一の量子ドットの特性を甲3技術の「単一のInP/ZnSeコア/シェルQD」の特性のとおりになるように調整したとしても、本件発明1で特定される条件を全て満たすものとはならない。 そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲3に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。 加えて、甲2、甲4〜甲7のいずれにも、半導体ナノ粒子1粒子毎の発光スペクトルの特性についての記載は見当たらない。 そうすると、本件発明1は、甲1発明、甲3技術及び甲1〜甲7に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)本件発明2〜11 本件発明2〜11は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明2〜11は、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲1発明に対して新規性がないということはできないし、甲1発明、甲3技術及び甲1〜7に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものともいえない。 2 甲2を主引例とした場合 (1)本件発明1 本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子の沈殿物」は、多数の「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子」の集合であるから、本件発明1の「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体」に相当する。 甲2発明の「沈殿物をクロロホルムに分散させたQD溶液の発光スペクトル」と、本件発明1の「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で450nmの励起光で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」とは、いずれも「半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)」である点で共通する。 甲2発明の「発光スペクトルは、FWHMが36nm」は、本件発明1の「発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下」に包含される。 そうすると、両者の一致点は次のとおりである。 <一致点> 「In及びPを含有するコアと1層以上のシェルとを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合である半導体ナノ粒子集合体であって、 前記半導体ナノ粒子集合体を分散媒中に分散させた状態で励起させたときの発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が43nm以下である、半導体ナノ粒子集合体。」 そして、両者は、上記1(1)の<相違点1>及び<相違点2>に加え、以下の点で相違する。 <相違点3> 発光スペクトル(λ1)のピーク波長(λ1MAX)が、本件発明1は「515〜535nmの間」であるのに対し、甲2発明は「約510nm以上、560nm以下の最大ピーク波長の緑色光を発光し得る」ものであるが、具体的な波長は不明である点。 まず、事案に鑑み、上記相違点2について検討すると、甲2の[0107]の「上記の剛度および粒度分布を有する量子ドットの集合は、半値全幅の改善されたレベルを示すことができる。」との記載に基づいて、甲2発明の「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子」のサイズ分布を狭くすることにより「FWHM」を小さな値とし、その結果として、「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子」の1粒子毎の発光スペクトルについても、「FWHM」の平均値や標準偏差をより小さい値にしたり、ピーク波長の標準偏差をより小さい値にしたりすることは、当業者が試みることといえる。 しかしながら、甲2発明の「InP/ZnSe/ZnSコアシェル粒子」1粒子毎の発光スペクトルの「FWHM」の平均値を15nm以上としたり、同標準偏差を2nm以上としたりすることについては、甲2発明には記載も示唆もないため、この点は、当業者が容易になし得たことではない。 また、上記相違点2は、上記1(1)の相違点2についての項で述べたとおり、甲3技術の記載を参酌しても容易とはいえないし、甲1、甲4〜甲7に記載された事項を参酌しても容易とはいえない。 そうすると、本件発明1は、甲2発明、甲3技術及び甲1〜甲7に記載された技術事項から当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)本件発明2〜11 本件発明2〜11は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。よって、本件発明2〜11は、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲2発明、甲3技術及び甲1〜7に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 3 申立人の主張 申立人は、異議申立書第24頁第21行〜第29行において「仮に本件特許発明1が上記(1)〜(3)を規定している点で、これらを明示していない甲1発明と相違するとしても、本件特許明細書の比較例(実験例8〜10)においては、全てFWHM1が本件特許発明1で規定されているFWHM1の範囲から外れているために、本件特許明細書には、FWHM1の範囲を満たすが、上記(1)〜(3)を満たさない比較例は記載されていない。従って、本件特許明細書からは上記(1)〜(3)を満たすことによる効果を確認することができない。また、本件特許明細書において、上記(1)〜(3)に臨界的意義も認められない。」と主張する。 しかしながら、本件特許の明細書の段落【0098】の【表2】には、(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)、(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が、本件発明1の範囲を満たすものが、高い量子効率と狭い半値幅を両立することが示されている。 そうすると、本件特許の明細書から、上記(1)〜(3)を満たすことによる効果を確認することができるから、申立人の主張は採用できない。 4 小括 上記1〜3で検討したとおり、理由1及び理由2には理由がない。 第7 理由3(サポート要件)について 1 本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件特許の明細書の段落【0013】の記載から見て、In及びPを含有するコアと1層以上のシェルからなるコア/シェル型半導体ナノ粒子の集合体であって、高い量子効率と狭い半値幅を両立できる半導体ナノ粒子の集合体を提供することにあると認める。 2 判断 これに対して、本件特許の明細書の段落【0098】の【表2】には、(1)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、(2)発光スペクトル(λ2)のピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)、(3)発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)が、本件発明1で特定される範囲を満たす実験例1〜8において、量子効率(QY)が82〜94%であり、発光スペクトル(λ1)の半値幅(FWHM1)が29〜42nmであること、すなわち、高い量子効率と狭い半値幅を両立したことが示されているから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2〜11についても同様である。 3 申立人の主張 申立人は、異議申立書第42頁第17行〜第43頁第13行において「しかしながら、In及びPを含有する半導体ナノ粒子の量子効率の低下は、コア粒子表面やシェル表面の欠陥やダングリングボンド等が要因であることが技術常識である(甲第6号証の(記載事項6−1)、甲第7号証の(記載事項7−1)参照)。このことは、出願人が本件特許権者と同一人である甲第4号証の(記載事項4−2)(当審注:「甲第4号証の(記載事項4−2)」は「甲第5号証の(記載事項5−2)」の誤記と認める。)における「InP系半導体ナノ粒子のコア粒子に、更にハロゲン前駆体を加えることによりInP系半導体ナノ粒子の量子効率(QY)を向上させることができる。ハロゲンの添加はIn3+とZn2+のつなぎとしてダングリングボンドを埋め、陰イオンの電子に対する閉じ込め効果を増大させる効果を与えると発明者らは推測している。」という記載とも合致する。 従って、発光スペクトル(λ1)、発光スペクトル(λ2)の半値幅(FWHM2)の平均値、ピーク波長(λ2MAX)の標準偏差(SD1)及び半値幅(FWHM2)の標準偏差(SD2)を規定したとしても、これらは欠陥やダングリングボンドとは何ら関係がないため、高い量子効率は得られない。なお、付言すると、単一のQDからの蛍光測定において、量子効率と関係するのは、「単一QDごとの蛍光強度の時間平均を、多くのQDで平均したもの」である。この点についても、本件特許明細書中では全く触れられていないので、不自然であり、かつ当業者の技術常識を著しく逸脱している。 また、本件特許明細書の実施例(実験例1〜8)の半導体ナノ粒子は、全てハロゲンを含んでいる。本件特許明細書の[0034]には、「半導体ナノ粒子がハロゲンを上記範囲で含むことにより、高い蛍光量子効率、狭い半値幅を得ることができる。」と記載されている。すなわち、高い量子効率を得るためには、ハロゲンは必須要件であり、ハロゲンを規定していない本件特許発明1〜7、9〜11はサポート要件を満たしていない。」と主張する。 しかしながら、上記主張は、半導体ナノ粒子の量子効率の低下の要因が、コア粒子表面やシェル表面の欠陥やダングリングボンドのみであることを示すものではなく、また、ハロゲンを含まなければ高いQY(量子効率)を実現することが不可能であることを示すものでもない。 そうすると、申立人の主張は、課題を解決できない恐れがあるということを主張するにとどまり、本件発明1〜11の範囲内に現実に課題を解決できない部分があることを具体的に主張、立証するものではないから、申立人の主張は採用できない。 4 小括 上記1〜3で検討したとおり、理由3には理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、異議申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-08-31 |
出願番号 | P2019-227246 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K) P 1 651・ 537- Y (C09K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
門前 浩一 |
特許庁審判官 |
田澤 俊樹 関根 裕 |
登録日 | 2021-11-08 |
登録番号 | 6973470 |
権利者 | 昭栄化学工業株式会社 |
発明の名称 | 半導体ナノ粒子集合体、半導体ナノ粒子集合体分散液、半導体ナノ粒子集合体組成物及び半導体ナノ粒子集合体硬化膜 |
代理人 | 特許業務法人あしたば国際特許事務所 |