• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1388593
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-30 
確定日 2022-09-07 
事件の表示 特願2016−568653「全身性エリテマトーデスの治療のための3−(4−((4−(モルホリノメチル−ベンジル)オキシ)−1−オキソイソインドリン−2−イル)ピペリジン−2,6−ジオン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日国際公開、WO2015/179276、平成29年 8月10日国内公表、特表2017−522270〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月18日(パリ条約による優先権主張 2014年5月19日、2014年9月22日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

平成30年 5月17日 手続補正書の提出
平成31年 2月22日付け 拒絶理由通知書
令和 1年 9月 3日 手続補正書及び意見書の提出
同年12月25日付け 拒絶査定
令和 2年 4月30日 手続補正書及び審判請求書の提出
同年 6月12日 手続補正書(方式)及び手続補足書の提出
令和 3年 5月12日 拒絶理由通知書(当審)
同年11月17日 意見書及び手続補足書の提出

2 本願発明
本願の請求項1〜19に係る発明は、令和2年4月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
患者の全身性エリテマトーデス(SLE)を治療、予防、又は管理するための医薬組成物であって、式Iの化合物
【化1】

、又はその医薬として許容し得る塩、固体形態、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体、もしくはラセミ混合物を含み、
該化合物が、1日あたり約0.15mg〜約0.6mgの量で投与されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。」

3 拒絶の理由
令和3年5月12日に当審が通知した拒絶理由のうち、本願発明についての理由の要旨は、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1(国際公開第2014/025958号)に記載された発明に基づいて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 引用文献1の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1には、次の事項が記載されている(当審による訳文で示す。当審による下線を付した箇所がある。)。

(摘記1ア)
「請求の範囲
1. 免疫関連疾患又は炎症性疾患を治療する、予防する又は管理するための方法であって、それを必要とする患者に、有効量の式I

の化合物又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物を投与することを含む、前記方法。

4. 前記化合物が、(S)−3−[4−(4−モルフィリン−4−イルメチルベンジルオキシ)−1−オキソ−1,3−ジヒドロ−イソインド−2−イル]ピペリジン−2,6−ジオン塩酸塩である、請求項1記載の方法。

6. 前記疾患が全身性エリテマトーデスである、請求項1から5のいずれか記載の方法。

11. 全身性エリテマトーデスの症状を低減させる、阻害する又は予防するための方法であって、全身性エリテマトーデスの症状を有する患者に、有効量の化合物を投与することを含み、該症状が、関節痛、関節腫脹、関節炎、深呼吸時の胸痛、疲労、他の原因がない発熱、全身の不快感、不安、脱毛、口のびらん、リンパ節の腫大、日光過敏症、皮膚発疹、頭痛、無感覚(numbness)、刺痛、発作、視覚問題(vision problems)、人格変化、腹痛、悪心、嘔吐、心拍リズムの異常、喀血及び呼吸困難、斑状皮膚色並びにレイノー現象からなる群から選択され、該化合物が、式I

又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物に相当する、前記方法。

18. 前記有効量が、患者の体重1kgにつき約0.005mgから約10mgである、請求項1から17のいずれか記載の方法。」(特許請求の範囲)

(摘記1イ)
「7.2.2 エリテマトーデスの治療
[00160] ある特定の実施態様において、本明細書で提供されるのは、エリテマトーデス又はその症状を、治療する、予防する及び/又は管理する方法であって、治療有効量の化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物を、エリテマトーデスを有する患者に投与することを含む、前記方法である。…

[00162] ある特定の実施態様において、本明細書で提供されるのは、全身性エリテマトーデス (SLE)、皮膚エリテマトーデス (CLE)又は薬物誘発性狼瘡を、治療する、予防する及び/又は管理するための方法である。

[00165] 他の症状は、身体のどの部分が罹患しているかによって決まり、下記を包含し得る:
脳及び神経系:頭痛、無感覚(numbness)、刺痛、発作、視覚問題(vision problems)、人格変化、
消化管:腹痛、悪心、及び嘔吐、
心臓:心拍リズムの異常(不整脈)、
肺:喀血及び呼吸困難、並びに
皮膚:斑状皮膚色、寒冷時に変色する指(レイノー現象)。
[00166] 一部の患者は、皮膚症状のみを有する。これを円板状狼瘡と呼ぶ。」

(摘記1ウ)
「7.3 投与量及び投薬量
[00179] 患者に投与される化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物の用量は、かなり広く変動可能であり、医療従事者の判断に依存し得る。化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物の用量は、治療、予防、又は管理される具体的な適応症;患者の年齢及び状態;並びにもしあれば使用される第二の活性剤の量等の要因に応じて変動し得る。概して、化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物は、患者において、患者の体重1kgにつき約0.005mgから患者の体重1kgにつき約10mgの用量で、1日1から4回以上投与され得るが、上記の投与量は、患者の年齢、体重及び医学的状態、並びに投与の種類に応じて適正に変動し得る。一実施態様において、用量は、患者の体重1kgにつき約0.01mgから患者の体重1kgにつき約5mg、患者の体重1kgにつき約0.05mgから患者の体重1kgにつき約1mg、患者の体重1kgにつき約0.1mgから患者の体重1kgにつき約0.75mg、又は患者の体重1kgにつき約0.25mgから患者の体重1kgにつき約0.5mgである。
[00180] 一実施態様において、1日当たり1回用量が与えられる。任意の所与の事例において、投与される化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物の量は、活性構成要素の溶解性、使用される製剤、及び投与経路等の要因によって決まることになる。一実施態様において、局所濃縮物の適用は、細胞内暴露又は約0.01〜10μMの濃度を提供する。
[00181] ある特定の実施態様において、化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物は、1日当たり約0.1mgから約1000mgまでの量で使用され、従来の方式で(例えば、治療、予防又は管理期間の各日に同じ量が投与される)、サイクルで(例えば、1週間続け、1週間やめる)、又は治療、予防若しくは管理の経過にわたって増大若しくは減少する量で調整され得る。他の実施態様において、用量は、約1mgから約300mgまで、約0.1mgから約150mgまで、約1mgから約200mgまで、約10mgから約100mgまで、約0.1mgから約50mgまで、約1mgから約50mgまで、約10mgから約50mgまで、約20mgから約30mgまで、又は約1mgから約20mgまでであってよい。他の実施態様において、用量は、約0.1mgから約100mgまで、約0.1mgから約50mgまで、約0.1mgから約25mgまで、約0.1mgから約20mgまで、約0.1mgから約15mgまで、約0.1mgから約10mgまで、約0.1mgから約7.5mgまで、約0.1mgから約5mgまで、約0.1mgから約4mgまで、約0.1mgから約3mgまで、約0.1mgから約2mgまで、又は約1mgから約1mgまでであってよい。」

(摘記1エ)
「[00235] 一実施態様において、経口剤形は錠剤又はカプセル剤であり、この事例においては、固体添加剤が用いられる。」

(摘記1オ)
「8. 実施例
[00258] 下記の実施例は、限定ではなく例証として提示される。例において、試験化合物は、(S)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンを指す。」

(摘記1カ)
「 7.2.7 細胞生存分析

[00284] 試験化合物は、CD20-CD38+形質芽球の百分率を用量依存的に低減させ、CD20+CD38-活性化B細胞の百分率を増大させた。形質芽球集団(象限1)は、7日目のDMSO対照において30.4%であり、試験化合物は、集団を、2nMで27.3%、20nMで2.1%、及び200nMで0.4%に低減させた(図1)。試験化合物は、培養の最初の4日間の間にB細胞生存を低減させた(図2)。B及び形質細胞転写因子発現に対する試験化合物の効果を、図3において描写する。形質芽球培養物中におけるIgG産生に対する試験化合物の効果を、図4において描写する。

[00287] 全身性エリテマトーデス (SLE)患者から単離された末梢血単核細胞において、試験化合物は、IgG及びIgM産生を、それぞれ3.2nM及び0.9nMのIC50で阻害した。これらの所見は、試験化合物が、形質細胞系統へのB細胞分化を阻害する可能性を有することを示し、試験化合物が、自己抗体の過剰産生を特徴とするSLE等の自己免疫障害の治療において有用となり得ることを示唆した。SLE患者のPBMC細胞中におけるB細胞分化及び機能に対する試験化合物の効果を、図10において描写する。正常及びSLE患者のPBMC細胞中におけるIgG及びIgM産生に対する試験化合物の効果を、表1において描写する。
[00288] 図11A及び11Bは、7日目のB細胞培養物中におけるヒトIgG及びIgM産生それぞれに対する試験化合物の効果を描写するものである。
[00289] 表1. IgG及びIgMの正常及びSLE PBMC産生の阻害のための効力



(摘記1キ)
「 8.4 実施例4:抗ヒトCD3刺激ヒトT細胞中におけるサイトカイン及びケモカイン産生に対する試験化合物の効果
[00301] この例は、抗ヒトCD3刺激ヒトT細胞中におけるサイトカイン及びケモカイン産生に対する、(S)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオン、(R)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオン及び3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンの効果を、マルチプレックスルミネックステクノロジーを使用して実証するものである。

[00308] 試験化合物は、刺激ヒトT細胞中における、IL-2、IL-3、IL-5、IL-10、IL-13、GM-CSF、IFN-γ、RANTES、及びTNF-α産生を増加させた。 …、抗CD3刺激ヒトT細胞中におけるサイトカイン及びケモカイン産生に対する3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンの効果を、それぞれ図21及び22において提供する。 …抗CD3刺激ヒトT細胞中におけるサイトカイン及びケモカイン産生に対する(S)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンの効果を、それぞれ図25及び26において提供する。」

(摘記1ク)
「 8.5 実施例5:抗炎症活性
[00309] 3-[4-(4-モルホリン-4-イルメチル-ベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル]-ピペリジン-2,6-ジオン、(R)-3-[4-(4-モルホリン-4-イルメチル-ベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-イル]-ピペリジン-2,6-ジオン及び(S)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンの抗炎症活性を、ヒト末梢血単核細胞(human peripheral blood mononuclear cells)(hPBMC)において研究した。…
[00310] 健康なドナー由来の50mlのバフィーコートを、…。

7.5.1 ヒト末梢血単核細胞の精製
[00311] 50mlのヒトバフィーコートを…。

7.5.2 ヒト末梢血単核細胞の処置
[00312] …
[00315] 以下の表4、並びに図27、29及び31におけるデータによって実証されるとおり、試験化合物は、検査した多数のサイトカイン、例えば、Il-6、IL-8、IL-1β、GM-CSF、MDC、MIP-1α、MIP-1β、及びTNF-αの阻害のための多様な効力を概して有する。」

(摘記1ケ)
「 8.12 実施例12:形質芽球及び形質細胞系統へのB細胞分化の阻害
[00362] B細胞から形質芽球及び形質細胞系統への分化に対するセレブロン(cereblon)(「CRBN」)標的化の効果、初代ヒトB細胞分化のインビトロモデルが開発された。
[00363] CD19+正常ドナー由来の末梢血ヒトB細胞、又は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus)(「SLE」)患者の全末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)PBMCを、インターロイキン(interleukin)(「IL」)-2、IL-10、IL15、TLR9アゴニスト、及びCD40Lの存在下で4日間、続いてIL-2、IL-6、IL-10及びIL-15の存在下でもう3日間培養した。細胞を計数し、生存を評定し、CD20、CD38、CD44、及びCD83の発現をフローサイトメトリーによって測定した。形質芽球系統因子IRF-4、BLIMP-1、XBP-1、及びIgJ、並びに胚中心マーカーPAX-5及びBCL-6を、qRT-PCRによって測定した。細胞内(Interacellular)タンパク質発現をレーザースキャニングサイトメトリーによって測定した。分泌された免疫グロブリンIgG及びIgMをELISAによって測定した。
[00364] 正常B細胞培養物において、(S)-3-(4-((4-モルフィリノメチル)ベンジル)オキシ)-1-オキソイソインドリン-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(「化合物I-S」)は、これらの培養物中における生存可能な全細胞の百分率を、4日後に、20nM又は200nM化合物I-Sでそれぞれ対照の69.6%(P≦0.05)又は35.8%(P≦0.001)に低減させた。化合物I-Sは、7日目における生存可能なCD20-CD38+形質芽球の百分率を、対照培養物中における30.4%から、用量依存様式で、2nM、20nM、及び200nMでそれぞれ27.3%、2.1%、及び0.4%に減少させた。7日目に、qRT-PCR分析は、化合物I-S(20nM)が、形質芽球系統因子IRF-4、BLIMP-1、XBP-1の発現、及びIgJ遺伝子発現を、それぞれ対照の20.5%、14.3%、15.1%、及び31.5%に低減させた(P≦0.001)ことを示した。
[00365] 細胞内フローサイトメトリーにより、化合物I-S(20nM)は、IRF-4(P<0.5)、BLIMP-1(P<0.05)、及びXBP-1(P<0.05)タンパク質発現を4日目に有意に減少させたが、BCL-6(P<0.05)タンパク質発現を7日目に有意に増大させた。7日目におけるレーザースキャニングサイトメトリーにより、化合物I-S(20nM)は、IRF-4(P≦0.001)及びBLIMP-1(P≦0.001)のCD38+細胞の細胞内タンパク質発現を低減させ、BCL-6発現(P≦0.05)(n=3)を増大させた。化合物I-Sは、分泌されたIgG産生をIC50=1.8nM(n=3)で阻害した。
[00366] SLE患者由来のPBMCにおいて、化合物I-S(20nM)は、正常B細胞と同様の効果を有し、BLIMP-1、XBP-1、及びIgJ遺伝子発現をそれぞれ対照の52.8%、49.2%、及び13.6%に低減させた(P≦0.001)(n=3)。化合物I-S(20nM)は、BLIMP-1(P≦0.01)及びIRF-4(P≦0.001)のCD38+形質芽球細胞内タンパク質発現を有意に低減させ、BCL-6(P≦0.05)(n=3)を増大させた。化合物I-Sは、SLE患者のPBMCにより分泌されたIgM及びIgG産生を、それぞれ0.9nM及び3.2nMのIC50で阻害した(n=3)。
[00367] これらの結果は、小分子免疫調節化合物である化合物I-Sを用いるE3ユビキチンリガーゼ複合体基質共受容体CRBNの標的化が、生存可能なCD38+細胞の百分率の低減によって示されるとおりの形質芽球系統へのB細胞分化の強力な阻害、BLIMP-1、XBP-1、IRF-4、及びIgJ遺伝子並びにタンパク質発現の減少、並びに分泌された免疫グロブリン産生の阻害をもたらすことを実証している。これらのデータは、形質細胞系統へのB細胞の分化におけるCUL4-CRBN複合体を暗示するものである。」

(2)上記(1)の記載事項によれば、引用文献1には、患者に、「式Iの化合物、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物」を投与する、全身性エリテマトーデスを治療、予防又は管理するための方法、又は、全身性エリテマトーデスの症状を低減、阻害又は予防するための方法が開示されているから(摘記1ア、1イ)、それらの方法に用いる医薬組成物も開示されていると認められる。
また、引用文献1の実施例には、式Iの化合物に含まれる、(S)-3-[4-(4-モルフィリン-4-イルメチルベンジルオキシ)-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-イソインド-2-イル]ピペリジン-2,6-ジオンである「試験化合物」が、全身性エリテマトーデス(SLE)患者から単離された末梢血単核細胞において、IgG及びIgM産生を阻害したことから、自己抗体の過剰産生を特徴とするSLE等の自己免疫障害の治療において有用となり得ることが示唆されたことが記載されている(摘記1オ、1カ、1ケ)。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「患者の全身性エリテマトーデスを治療、予防又は管理するための医薬組成物であって、下記式Iの化合物、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物を含む、前記医薬組成物。



5 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「患者の全身性エリテマトーデス(SLE)を治療、予防、又は管理するための医薬組成物であって、式Iの化合物

、又はその医薬として許容し得る塩、固体形態、溶媒和物、水和物、立体異性体 、互変異性体、もしくはラセミ混合物を含む、前記医薬組成物。」
<相違点>
本願発明においては、式Iの化合物が、「1日あたり約0.15mg〜約0.6mgの量で投与されるように用いられること」が特定されているのに対し、引用発明においては、1日当たりの投与量は特定されていない点。

(2)相違点について
ア 本願優先日当時、研究開発された薬物の臨床における有用性を評価するために、ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行うところ、その際の薬物の用量については、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増し、推定臨床投与量を上回るまで投与して、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、これらの成績に基づいて、具体的な用量を決定し、最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用量の検討を行うことが、技術常識となっていたと認められる(必要ならば、「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」平成4年6月29日薬新薬第43号各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知 https://www.pmda.go.jp/files/000206739.pdf)。

イ 引用文献1には、式Iの化合物の用量として、
「[00180] 一実施態様において、1日当たり1回用量が与えられる。任意の所与の事例において、投与される化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物の量は、活性構成要素の溶解性、使用される製剤、及び投与経路等の要因によって決まることになる。…
[00181] ある特定の実施態様において、化合物I、又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物、水和物、立体異性体、互変異性体若しくはラセミ混合物は、1日当たり約0.1mgから約1000mgまでの量で使用され、従来の方式で(例えば、治療、予防又は管理期間の各日に同じ量が投与される)、サイクルで(例えば、1週間続け、1週間やめる)、又は治療、予防若しくは管理の経過にわたって増大若しくは減少する量で調整され得る。他の実施態様において、用量は、約1mgから約300mgまで、約0.1mgから約150mgまで、約1mgから約200mgまで、約10mgから約100mgまで、約0.1mgから約50mgまで、約1mgから約50mgまで、約10mgから約50mgまで、約20mgから約30mgまで、又は約1mgから約20mgまでであってよい。他の実施態様において、用量は、約0.1mgから約100mgまで、約0.1mgから約50mgまで、約0.1mgから約25mgまで、約0.1mgから約20mgまで、約0.1mgから約15mgまで、約0.1mgから約10mgまで、約0.1mgから約7.5mgまで、約0.1mgから約5mgまで、約0.1mgから約4mgまで、約0.1mgから約3mgまで、約0.1mgから約2mgまで、又は約1mgから約1mgまでであってよい。」
と記載されている。
このように、引用文献1に記載された化合物の用量は、1日当たり最低用量として0.1mg、最大用量として約1000mgが記載され、より具体的な用量として、「約0.1mgから約2mg」、「約1mg」が記載されている。

ウ そうすると、上記アの技術常識を踏まえ、引用文献1に記載された用量の下限値を含み、より具体的な用量として記載された「約0.1mgから約2mg」に着目し、最も少ない量の約0.1mg、あるいは、それより少ない量から始めて、段階的に量を増やしながら臨床試験を行って、薬理効果が得られるような用量の検討を行うことは、当業者が格別の創意工夫を要することなく、通常行う事項である。
そして、その検討の結果、引用発明における全身性エリテマトーデスの治療に有効である式Iの化合物の1日当たりの用量を、引用文献1に記載された「約0.1mgから約2mg」の範囲内である「約0.15mg〜約0.6mg」の数値範囲とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。

(3)効果について
ア 本願明細書の実施例2について
(ア)本願明細書の実施例2は、SLE対象における化合物1Aの安全性及び認容性を評価するための無作為化、二重盲検、プラセボ対照、漸増用量試験の試験計画(第1部)、及び、皮膚が主体のSLE対象における化合物1Aの有効性及び安全性を評価するための無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群試験計画(第2部)が記載されている(【0153】〜【0211】)。


(イ)しかしながら、実施例2には、臨床試験計画が記載されているだけであって、その結果が記載されていないから、実施例2は、本願発明における「1日あたり約0.15mg〜約0.6mg」の数値範囲に臨界的な意義があり、本願発明が当業者の予測できない顕著な効果を奏することを裏付けるものではない。

イ 本願明細書の実施例4及び5について
(ア)本願明細書の実施例4(in vitro試験)には、化合物1A(本願発明の「式Iの化合物」に相当)が、健康な志願者由来の全血白血球サブセットにおけるAiolos及びIkarosタンパク質レベルを低減させたことが記載され、また、SLE患者由来のPBMCにおける抗dsDNA抗体及び抗リン脂質抗体の産生を阻害したことが記載されている(【0214】〜【0220】)。
また、本願明細書の実施例5(in vivo試験)には、健康な志願者に、0.03mg、0.1mg、0.3mg、1mg、又は2mgの用量の化合物1Aを、それぞれ1回投与したところ、以下の(i)〜(iii)の結果が得られたことが記載されている。
(i)0.3mg、1mg、及び2mgの用量を投与した場合にB細胞及びT細胞におけるAiolosの発現を低減させたこと(【0222】)
(ii)末梢血B細胞数を用量依存的に低減させ、また、末梢血B細胞の減少よりも穏やかではあるが、末梢血T細胞数も低減させたこと(【0223】【0224】)
(iii)0.3mg、1mg、及び2mg群において、生体外において抗CD3抗体により刺激された全血におけるIL-2の産生を増加させたこと(【0225】)
(iv)0.3mg、1mg、及び2mg群で用量依存的に、生体外IL-1β産生を減少させたこと(【0226】)

(イ)しかしながら、本願優先日当時、本願発明の「式Iの化合物」が、B細胞及びT細胞において、全身性エリテマトーデスで過剰発現されるAiolos及びIkarosの発現を低減させることが知られている(要すれば、原審の拒絶査定で引用された引用文献2(国際公開第2014/004990号)における[0050]の化合物B(本願発明の「式Iの化合物」に相当)、[00407]〜[00412]の記載を参照。)。そして、本願発明の「式Iの化合物」がAiolos及びIkarosの過剰発現を低減させることは、本願発明の「式Iの化合物」が全身性エリテマトーデスの治療に有効であることを意味するものと解される。

(ウ)また、引用文献1には、in vitro試験ではあるが、式Iの化合物が、正常ドナー由来のB細胞生存を低減させ(摘記1カ、1ケ)、正常ドナー及びSLE患者由来のIgG及びIgM産生を阻害し(摘記1カ、1ケ)、形質細胞系統へのB細胞分化を阻害したこと(摘記1カ、1ケ)、抗ヒトCD3刺激ヒトT細胞によるIL-2産生を増加させたこと(摘記1キ)、ヒト末梢血単核細胞のIL-1β産生を阻害したこと(摘記1ク)等が確認されており、これらの結果は、式Iの化合物が、SLEの治療効果を奏することを裏付ける試験結果であると解される。
そして、本願明細書の実施例4及び5において示された結果も、引用文献1に記載されたものと同様に、式Iの化合物が、自己免疫疾患であるSLEの治療効果を奏することを裏付ける試験結果であると解される。
そうすると、本願明細書の実施例4及び5に示された試験結果も、引用文献1において、全身性エリテマトーデスの治療に有効であることが裏付けられている式Iの化合物が示すものとして、当業者が予測可能なものということができる。

(エ)特に、本願明細書の実施例5はin vivoの試験ではあるものの、健康な志願者に、式Iの化合物を、0.03mg、0.1mg、0.3mg、1mg、又は2mgの用量でそれぞれ1回投与した場合の結果であって、全身性エリテマトーデスの患者における結果ではなく、当該患者において、「1日あたり約0.15mg〜約0.6mg」という数値範囲に臨界的な意義があることを具体的に示すものでもない。

ウ したがって、本願明細書に記載された本願発明の効果が、引用文献1の記載から当業者が予測できない顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 請求人の令和3年11月17日提出の意見書における主張について
なお、以下における用量は全て1日当たりの用量である。

(1)請求人は、引用文献1の[00181]に示される約0.1mg〜約1000mgという用量範囲は、本願発明の「約0.15mg〜約0.6mg」の範囲よりも、ほぼ1700倍広く、引用文献1に記載された「約0.1mg〜約2mg」という狭い範囲さえ、3倍以上も広い上に、引用文献1に示された最も好ましい数値である約1mgの用量は、本願発明の用量範囲の上限よりも高く、本願発明の用量範囲とは反対の方向の教示をしており、[00179]には患者の体重1kg当たり約0.25mg〜約0.5mg(体重60kgの成人では約15mg〜約30mg)という好ましい範囲も記載されているのであるから、審判官の「約0.1mg〜約2mg」という用量範囲へのフォーカスは、事後分析的思考に基づくものである旨を主張する(意見書2頁(3−5))。

しかしながら、上記5(2)アに説示したとおり、ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行う際の薬物の用量については、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増し、推定臨床投与量を上回るまで投与して、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べることが技術常識となっていたから、まず、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定するに当たり、引用文献1に記載された用量の中で、[00179]に記載された数値範囲(体重1kg当たり約0.25mg〜約0.5mg)よりも下限値が少ない、[00181]に記載された「約0.1mg〜約2mg」を、初回投与量の参考として着目し、その下限値である約0.1mgやそれより少ない数値を初回投与量として臨床試験を行うことは、当業者であれば当然のことといえる。
そして、引用文献1の「約1mgから約1mgまでであってよい。」との記載は、「約0.1mg〜約2mg」を初回投与量の参考として着目することについて阻害要因となるものでもない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)請求人は、臨床試験の成功率はほんの10〜15%にすぎず、引用文献1における一般的な用量情報から出発して、適切な第2相臨床用量が存在する保証などなく、引用文献1に記載された「約0.1mg〜約2mg」という用量範囲も事後分析的思考に基づいて恣意的に決められたものであるから、引用文献1に、本願発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在するとは到底いえない旨を主張する(意見書3頁(3−7))。

しかしながら、医薬品の製造販売の承認申請に必要な臨床試験の成功率が低いことは、臨床試験を行うこと自体に創意工夫を要することを意味するものではないし、また、臨床試験を行うことの困難性を、発明の想到困難性と同一視することもできないから、臨床試験の成功率が低いことは、本願発明が進歩性を有することを肯定するものであるとはいえない。
そして、引用文献1の「約0.1mg〜約2mg」という用量範囲が事後分析的思考に基づいて恣意的に決められたものとの主張が採用できないことは、上記(1)に説示したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)請求人は、参考資料1及び2(いずれも2017年公開)に示されるように、第II相SLE試験において、CC-220(本願発明の「式Iの化合物」に含まれる。参考資料3参照。)の「0.3mg1日おき、0.3mg毎日、0.6mgと交互になっている0.3mg毎日、及び0.6mg毎日」という用量が、有望な臨床試験結果であったことは驚くべきものであり、参考資料2に記載された「そのベースラインCLASIスコアが少なくとも10であった患者」についても、本願明細書の【0172】等に記載されているものであるし、参考資料1及び2における用量も、最初から本願明細書に具体的に記載されていたものであるから、当業者であれば、本願発明の用量が、本願明細書に記載されている「CLASI等」や「そのベースラインCLASIスコアが少なくとも10であった患者」に関して「有望な結果」をもたらすことを十分に推論できるから、本願発明の進歩性を検討するに当たり、参考資料1及び2を参酌すべきである旨を主張する(意見書3〜4頁(3−8)〜(3−15))。

しかしながら、本願優先日後の参考資料1及び2の実験データのうち、定量的に示されたデータそのもの(参考資料1「Results」における有効性の程度を示す数値等)を、本願明細書に記載された本願発明の効果として参酌することはできない。
本願明細書に記載された範囲内で、「式Iの化合物は、1日あたり約0.15mg〜約0.6mgの投与量で、全身性エリテマトーデスの治療に使用し得る」という効果を裏付けるものとして参考資料1及び2を参酌しても、上記5(2)及び5(3)に説示したとおり、引用発明における式Iの化合物の1日当たりの用量を「0.15mg〜約0.6mg」とすることは、当業者が容易に想到することができたといえるから、この数値範囲において全身性エリテマトーデスの治療に使用し得るという上記の効果は、当業者の予測を超える顕著に優れた効果であると認めることはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 前田 佳与子
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-24 
結審通知日 2022-03-29 
審決日 2022-04-14 
出願番号 P2016-568653
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 藤原 浩子
鳥居 福代
発明の名称 全身性エリテマトーデスの治療のための3−(4−((4−(モルホリノメチル−ベンジル)オキシ)−1−オキソイソインドリン−2−イル)ピペリジン−2,6−ジオン  
代理人 石川 徹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ