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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1388635
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-09 
確定日 2022-09-14 
事件の表示 特願2016−255688「誘電体ミラーベースのマルチスペクトルフィルタアレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日出願公開、特開2017−126742〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月28日(パリ条約による優先権主張2015年12月29日、米国、2016年2月12日、米国、2016年12月22日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年12月 6日 :手続補正書の提出
令和2年 1月 9日付け:拒絶理由通知書
令和2年 4月17日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 6月 5日付け:拒絶査定
令和2年10月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 2月19日 :上申書の提出
令和3年 4月26日付け:審尋
なお、令和3年4月26日付け審尋に対して、請求人より回答書は提出されなかった。

第2 令和2年10月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所として、請求人が付したものである。)

「【請求項1】
センサ素子のセットと、
基板と、
前記基板上に配置されたマルチスペクトルフィルタアレイと、
を含む光センサデバイスであって、
前記マルチスペクトルフィルタアレイは、
前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、
前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、
前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、
を含み、
前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み、
前記第2の誘電体ミラーは、前記センサ素子のセットの、2つ以上でありかつ過半数のセンサ素子と整列し、前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない光センサデバイス。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年4月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
センサ素子のセットと、
基板と、
前記基板上に配置されたマルチスペクトルフィルタアレイと、
を含む光センサデバイスであって、
前記マルチスペクトルフィルタアレイは、
前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、
前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、
前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、
を含み、
前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み、
前記第2の誘電体ミラーは、前記センサ素子のセットの2つ以上のセンサ素子と整列している光センサデバイス。」

「【請求項4】
前記第2の誘電体ミラーは、前記センサ素子のセットの過半数と整列している請求項1に記載の光センサデバイス。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2の誘電体ミラー」について、補正前の「前記センサ素子のセットの2つ以上のセンサ素子と整列している」との特定に、補正前の請求項4に基づき、「前記センサ素子のセットの、2つ以上でありかつ過半数のセンサ素子と整列し、前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2008/0042782号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。

「【特許請求の範囲】
1. A narrow bandpass filter array comprising
a substrate (1) and
a material having a structure of formula (LH)mxL(HL)m deposited on the substrate,
wherein
(LH)m represents a lower mirror stack;
(HL)m represents an upper mirror stack;
xL represents a spacer layer;
H is a high refractive index layer;
L is a low refractive index layer;
m is the number of high or low refractive index layer pairs, m≧2;
the optical thickness (nd) of the layers is λ0/4;
λ0 is the design wavelength of the initial filter structure;
x represents a thickness coefficient; and
1x3 or 3x5.1.
(当審訳:以下の構成を有する狭帯域通過フィルタアレイ。
基板(1)と、
前記基板上に成膜された、式(LH)mxL(HL)mの構造を有し、
(LH)mは、下側のミラースタックを表し、
(HL)mは、上側のミラースタックを表し、
xLは、スペーサ層を表し、
Hは、高屈折率層を表し、
Lは、低屈折率層を表し、
mは、高屈折率層または低屈折率層のペアの数、m≧2であり、
各層の光学的厚さ(nd)は、λ0/4であり、
λ0は初期フィルター構造の設計波長であり、
xは厚み係数を表し、1<x<3または3<x<5.1である。」

「[0028] 3. The shape and size of the filter arrays can be designed to match with detectors and be composed of spectral-distinguishable detectors.
This will remarkably simplify the structure of spectral apparatus and weighs in favor of its micromation and integration. This structure and technique is valid for most of the important optical ranges.
(当審訳:フィルターアレイの形状や大きさは、検出器に合わせて設計することができ、スペクトルを区別できる検出器で構成することができます。これにより、分光器の構造が大幅に簡素化され、小型化・高集積化に有利となります。この構造と技術は、重要な光学範囲のほとんどに有効です。)」

「[0043] The film structure was (LH)mxL(HL)m with design wavelength λ0 of 777.4 nm, wherein L and H represent SiO2 (n=1.47) and Nb2O5 (n=2.25) layers, respectively. n was the refractive index. m=7, where m was the number of (LH) pairs. x was in the range of 1.7-2.4 with the interval of 0.1. These 8 spacer layers having different thicknesses corresponded to 8 narrow bandpass filters with different passbands.
(当審訳:フィルム構造体は,設計波長λ0が777.4nmの(LH)mxL(HL)mで,LとHはそれぞれSiO2(n=1.47)とNb2O5(n=2.25)の層を表す。nは屈折率,mは(LH)ペアの数で7,xは0.1間隔で1.7〜2.4の範囲である。これらの厚さの異なる8枚のスペーサー層は、通過帯域の異なる8枚の狭帯域バンドパスフィルターに相当する。)」

「[0045] With reference to FIG. 1, firstly, a lower mirror stack 2: (LH)m was deposited on glass, quartz or sappare substrate 1, where L and H represent SiO2 and Nb2O5 layers, respectively. The number of (LH) pair was seven. At the same time, a spacer layer with thickness of 1.7 L was also deposited, as shown in FIG. 1(a).
(当審訳:図1を参照して、まず、ガラス、石英またはサファイアの基板1上に、LとHがそれぞれSiO2層とNb2O5層を表す下側ミラースタック2:(LH)mを成膜した。(LH)のペアの数は7個であった。同時に、図1(a)に示すように、厚さ1.7Lのスペーサー層も成膜した。)」

「[0046] Then, the combinatorial deposition process was carried out three times for different areas with mask 5 (see FIG. 1(b)), mask 6 (see FIG. 1(c)) and mask 7 (see FIG. 1(d)), respectively. The deposition thicknesses at each time were 0.4 L, 0.2 L and 0.1 L, respectively. This formed the spacer array 3 with same thickness difference (0.1 L). The corresponding thicknesses of each spacer element are shown in Table 1.
(当審訳:そして、マスク5(図1(b)参照)、マスク6(図1(c)参照)、マスク7(図1(d)参照)を用いて、それぞれ異なる領域に対してコンビナトリアル・デポジション・プロセスを3回行った。各回の蒸着厚は、それぞれ0.4L、0.2L、0.1Lであった。これにより、厚さの差が同じ(0.1L)のスペーサーアレイ3が形成された。各スペーサー素子の対応する厚さを表1に示す。)」

「[0047] Finally, the upper mirror stack 4: (HL)7 was deposited on the spacer array 3 as shown in FIG. 1(e).
(当審訳:最後に、図1(e)に示すように、スペーサーアレイ3上に上部ミラースタック4:(HL)7を蒸着した。)」

「図1


(イ)引用文献1に記載された技術的な事項
a 図1より、スペーサ層は、複数の層を積層した層とみてとれる。
b [0028]より、引用文献1には、スペクトルを区別できる検出器と狭帯域通過フィルタアレイとを含む、分光器が記載されている、と読みとれる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明1の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明1>
「スペクトルを区別できる検出器と、([0028])
基板と
前記基板上に成膜された、式(LH)m xL(HL)mの構造を有し、
(LH)mは、下側のミラースタックを表し、
(HL)mは、上側のミラースタックを表し、
xLは、スペーサー層を表し、
スペーサ層は、複数の層を積層した層であり、(上記(イ)a)
Hは、高屈折率層を表し、
Lは、低屈折率層を表し、
mは、高屈折率層または低屈折率層のペアの数、m≧2であり、
各層の光学的厚さ(nd)は、λ0/4であり、
λ0は初期フィルター構造の設計波長であり、
xは厚み係数を表し、1<x<3または3<x<5.1である、狭帯域通過フィルタアレイを含む、(請求項1)
分光器であって、(上記(イ)b)
フィルターアレイの形状や大きさは、検出器に合わせて設計する、([0028])
分光器。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013−512445号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「【0010】
公知のハイパースペクトル・イメージングシステムの構成:
ハイパースペクトル・イメージングシステムまたはカメラが、いろいろなディスクリート・コンポーネントで構成でき、例えば、到来する電磁スペクトルを受けるための光学サブシステムと、受けたスペクトル内で異なる帯域を生成する分光ユニットと、異なる帯域を検出するための画像センサアレイなどで構成される。光学サブシステムは、単一レンズまたは異なるレンズの組合せ、アパーチャ及び/又はスリットで構成できる。分光ユニットは、プリズム、グレーティング、光学フィルタ、音響光学チューナブルフィルタ、液晶チューナブルフィルタ等の1つ又はそれ以上、またはこれらの組合せで構成できる。」
「【0045】
画像センサアレイは、前面照射型センサとすることができ、この場合、分光ユニットは、センサを含む基板の上部に後付けされる。必要ならば、この基板は、後で薄型化され、これにより基板のバルクを除去して、画像センサアレイおよびこれにモノリシックに一体化した分光ユニットを含む薄いスライスを残す。代替として、画像センサアレイは、背面照射型センサとすることができ、この場合、最初にセンサを含む基板は、背面側から前方へ薄型化される。薄型化した基板の背面に、分光ユニットが後付けされる。
【0046】
好ましくは、分光ユニットは、ファブリペロフィルタのシーケンシャル1Dまたは2Dアレイである。このアレイは、単調なものにでき、ファブリペロフィルタの厚さは、アレイの片側から他の側へ単調に減少している。代替として、このアレイは、非調なものにでき、ファブリペロフィルタの厚さは、アレイの片側から他の側へ非単調に変化している。こうしたファブリペロフィルタを製造する方法を開示している。」
「【0052】
(モノリシック集積化)
フィルタは、画像センサアレイの上部に後付けされ、各ステップが、画像センサアレイの単一または複数の行または列に沿って整列している。ウェッジの各ステップが、異なるスペクトル帯域をフィルタ除去する。その結果、センサおよびウェッジフィルタの組合せは、プッシュブルーム(pushbroom)のラインスキャナー方式またはハイブリッドのラインスキャナ/観察器方式のハイパースペクトル撮像装置において使用できる。ハイパースペクトルカメラシステムが、上記で規定したような画像センサアレイに後付けされた光学フィルタを備えることができ、該システムはさらに、対物レンズ及び/又はスリット及び/又はコリメータを備える。」
「【0082】
(光学フィルタの設計)
反射面:空洞の両側にある反射面の設計および性能は、ファブリペロ光学フィルタの性能にとって重要である。高いフィネスを備え、良好なスペクトル分解能を持つファブリペロ光学フィルタは、高反射ミラーを用いることによって得られるだけである。ミラーの第2の重要なパラメータはこれらの吸収率であり、これはフィルタの効率を決定するからである。全範囲のファブリペロ光学フィルタをある波長範囲について構築する必要がある場合、これらの2つパラメータ(反射率と吸収率)がこのスペクトル範囲に渡って可能な限り一定のままであることが利益である。その場合、波長範囲は、ファブリペロフィルタの空洞長のみを変化させることによって、カバー/サンプリングでき、材料およびミラー層は一定に維持できる。選択した波長範囲は、選択した画像センサの感度と整合する必要があり、これはモジュールの第2コンポーネントである。」
「【0084】
こうした代替のミラーシステムの一例が、(分布)ブラッグスタックであり、これは、2つのタイプの誘電体を2つまたはそれ以上の材料の交互配置スタック(一方は低い屈折率を有し、他方は高い屈折率を有する)に組み合わせることによって形成される。ブラッグスタックの第1特性が、式(6)に示すように、その帯域幅、即ち、スペクトル範囲Δλ0であり、そこでは反射率は多かれ少なかれ一定である。」
「【0089】
(ウェッジフィルタ)
図6a〜図6bに示すようなウェッジフィルタが、ステップ状の構造からなる光学フィルタである。これらのステップは、高さが増加するように順序付けられ、この場合、単調なウェッジ状の構造を形成する。しかしながら、この順序は必須ではなく、即ち、非単調な構造も可能である。フィルタは、画像センサの上部に後付け、即ち、モノリシックに一体化され、各ステップが画像センサの複数の行または列の1つと整列している。ウェッジフィルタの各ステップが、異なるスペクトル帯域をフィルタ除去する。その結果、センサおよびウェッジフィルタの組合せは、プッシュブルーム(pushbroom)式、ラインスキャナ式またはハイブリッドラインスキャナ/観察器式のハイパースペクトル撮像装置に使用できる。」
「図6a


(イ)引用文献2に記載された技術的な事項
【0082】、【0089】及び図6aより、ファブリペロー光学フィルタは、ウェッジフィルタの両側に高反射ミラーを用いることによって得られるもの、と解される。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明2>
「受けたスペクトル内で異なる帯域を生成する分光ユニットと、
異なる帯域を検出するための画像センサアレイと、を有するハイパースペクトル・イメージングシステムであって、(【0010】)
分光ユニットは、ファブリペロフィルタのシーケンシャル1Dまたは2Dアレイであり、(【0046】)
ファブリペロ光学フィルタは、ウェッジフィルタの両側に高反射ミラーを用いることによって得られ、(上記(イ))
ミラーシステムは、(分布)ブラッグスタックであり、(【0084】)
ウェッジフィルタは、ステップ状の構造からなる光学フィルタであり、(【0089】)
ウェッジの各ステップが、異なるスペクトル帯域をフィルタ除去し、(【0089】)
フィルタは、画像センサアレイを含む基板上に後付けされ、各ステップが、画像センサアレイの単一または複数の行または列に沿って整列している、(【0045】及び【0052】)
ハイパースペクトル・イメージングシステム。」

(3)引用発明1及び引用発明2との対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明1とを、以下に対比する。
(ア)引用発明1の「スペクトルを区別できる検出器」は、その機能に照らせば、本件補正発明の「センサ素子のセット」に相当するといえる。
また、引用発明1の「基板」は、本件補正発明の「基板」に相当する。
更に、引用発明1の「狭帯域通過フィルタアレイ」は、その機能に照らせば、本件補正発明の「マルチスペクトルフィルタアレイ」に相当するといえ、「前記基板上に成膜された」ものであるから、本件補正発明の「前記基板上に配置された」との特定を満たすといえる。
そして、引用発明1の「分光器」は、「スペクトルを区別できる検出器」、「基板」及び「「狭帯域通過フィルタアレイ」を含むことから、本件補正発明の「光センサデバイス」に相当するといえる。

(イ)引用発明1の「狭帯域通過フィルタアレイ」は、「式(LH)m xL(HL)mの構造」を有しているところ、当該「(LH)m」、「xL」及び「(HL)m」は、それぞれ「下側のミラースタック」、「スペーサー層」及び「上側のミラースタック」を表しており、当該「狭帯域通過フィルタアレイ」が、「基板上に成膜された」ものであること、及び「下側」或いは「上側」との表記を踏まえると、当該「下側のミラースタック」は、基板上に有り、当該「スペーサー層」は、下側のミラースタック上にあり、当該「上側のミラースタック」は、スペーサー層上にあるものと理解できる。
そして、引用発明1の「狭帯域通過フィルタアレイ」が有する「下側のミラースタック」、「上側のミラースタック」及び「スペーサー層」は、それぞれ本件補正発明の「第1の誘電体ミラー」、「第2の誘電体ミラー」及び「スペーサ」に相当するといえるところ、引用発明1の「スペーサー層」は、「複数の層を積層した層」であるから、本件補正発明の「層のセットを含む」及び「前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み」との特定を満たすといえる。
以上より、引用発明1の「狭帯域通過フィルタアレイ」は、本願補正発明の「前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、を含み」及び「前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み」との構成を備えるといえる。

(ウ)以上のことから、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「センサ素子のセットと、
基板と、
前記基板上に配置されたマルチスペクトルフィルタアレイと、
を含む光センサデバイスであって、
前記マルチスペクトルフィルタアレイは、
前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、
前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、
前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、
を含み、
前記層のセットは、複数のスペーサ層を含む光センサデバイス。」

<相違点1>
「第2の誘電体ミラー」について、本件補正発明は、「前記センサ素子のセットの、2つ以上でありかつ過半数のセンサ素子と整列し、前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない」と特定されるのに対して、引用発明1の「上側ミラースタック」は、そのような特定がなされていない点。

(オ)判断
上記相違点1は、以下のとおり、当業者が適宜なし得る設計的な事項であるから、引用発明1の「上側ミラースタック」を、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

a 上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、「第2の誘電体ミラー」の配置を、「前記センサ素子のセットの、2つ以上でありかつ過半数のセンサ素子と整列し、前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない」と特定するものである。
ここで、本件の発明の詳細な説明の記載を参酌するに、【0014】には、「いくつかの実施形態では、誘電体ミラー110−1および/または110−2は、センサ素子の大多数、センサ素子のすべてなどの、センサシステムのセンサ素子と整列されてもよい」と記載されているところ、「大多数」との表記が、「過半数」といえることは明らかであり、「センサ素子の大多数」と「センサ素子のすべて」とを書き分けていることから、「大多数」は「すべて」を含まないものと理解できる。
よって、上記記載を参酌すると、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、「第2の誘電体ミラー」が、「センサ素子セットにおけるセンサ素子の大多数と整列する」配置、を特定するものと解することができる。

b ここで、引用発明1の「分光器」が、分光器として機能するには、引用発明1の「スペクトルを区別できる検出器」が備える複数のセンサ素子に対して、少なくとも2以上のセンサ素子に、異なる波長帯域の光を通過する狭帯域通過フィルタが配置されているものと解される。
更に、分光器として用いるには、大多数のセンサ素子に、狭帯域通過フィルタを配置することが技術常識と解されるところ、すべてのセンサ素子に、狭帯域通過フィルタが配置されるとき、最大数の分光が検出さるものと理解できる。
そして、センサ素子の大多数が機能していれば、「分光器」としてある程度機能し、著しく機能が損なわれているとまではいえないから、そのように構成することは、当業者が適宜なし得る設計事項の範疇にあるということができる。
一方、当該「複数のセンサ素子」のうち、分光器として機能していないセンサ素子には、「狭帯域通過フィルタ」が配置されていないと解されるところ、「狭帯域通過フィルタ」が、「下側のミラースタック」、「上側のミラースタック」及び「スペーサー層」より構成されるものであることに鑑みれば、「狭帯域通過フィルタ」が配置されない具体的な構成として、「上側のミラースタック」が整列していない構成の想起に、格別の困難性はないものである。

c 以上を踏まえると、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、当業者が所望によりなし得る設計的事項が特定されるにすぎないものといえる。

d 本件の発明の詳細な説明の記載について
上記相違点1に係る本件補正発明の構成について、本件の発明の詳細な説明の記載を参酌するに、【0014】において、「いくつかの実施形態では、誘電体ミラー110−1および/または110−2は、センサ素子の大多数、センサ素子のすべてなどの、センサシステムのセンサ素子と整列されてもよい」と記載されるのみであって、具体的な実施形態やその目的及び効果などの技術的意義についての記載はなく、技術常識に照らしても、その格別顕著な効果は見いだせない。

e 以上a〜dより、上記相違点1に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易になし得た事項であるといえる。

イ 本件補正発明と引用発明2とを、以下に対比・判断する。
(ア)引用発明2の「画像センサアレイ」は、本件補正発明の「センサ素子のセット」に相当する。
また、引用発明2の「画像センサアレイを含む基板」は、本件補正発明の「基板」に相当する。
更に、引用発明2の「分光ユニット」は、「受けたスペクトル内で異なる帯域を生成する」ものであるから、本件補正発明の「マルチスペクトルフィルタアレイ」に相当するといえ、「画像センサアレイを含む基板上に後付けされ」るから、本件補正発明の「前記基板上に配置された」との特定を満たすといえる。
そして、引用発明2の「ハイパースペクトル・イメージングシステム」は、「画像センサアレイ」、「画像センサアレイを含む基板」及び「分光ユニット」を含むことから、本件補正発明の「光センサデバイス」に相当するといえる。

(イ)引用発明2の「分光ユニット」は、「ファブリペロフィルタ」であり、当該「ファブリペロフィルタ」は、「ウェッジフィルタの両側に高反射ミラーを用いることによって得られ」(以下、「高反射ミラー」の一方を「画像センサ側ミラー」、他方を「入射光側ミラー」という。)、「画像センサアレイを含む基板上に後付けされ」るものであるから、当該「画像センサアレイを含む基板」、「画像センサ側ミラー」、「ウェッジフィルタ」及び「入射光側ミラー」の配置は、「画像センサアレイを含む基板」の上に「画像センサ側ミラー」、「ウェッジフィルタ」及び「入射光側ミラー」が、この順にあるものと理解できる。
そして、引用発明2の「分光ユニット」が備える「ウェッジフィルタの両側」に形成された「高反射ミラー」は、「(分布)ブラッグスタック」であるから、引用発明2の「画像センサ側ミラー」、「入射光側ミラー」及び「ウェッジフィルタ」は、それぞれ本件補正発明の「第1の誘電体ミラー」、「第2の誘電体ミラー」及び「スペーサ」に相当するといえるところ、当該「ウェッジフィルタ」は、「ステップ状の構造からなる」ので、本件補正発明の「層のセットを含むスペーサ」及び「前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み」との特定を満たすといえる。
以上より、引用発明2の「分光ユニット」は、本願補正発明の「前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、を含み」及び「前記層のセットは、複数のスペーサ層を含み」との構成を備えるといえる。

(ウ)以上のことから、本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「センサ素子のセットと、
基板と、
前記基板上に配置されたマルチスペクトルフィルタアレイと、
を含む光センサデバイスであって、
前記マルチスペクトルフィルタアレイは、
前記基板の上に配置された第1の誘電体ミラーと、
前記第1の誘電体ミラーの上に配置されたスペーサであって、層のセットを含むスペーサと、
前記スペーサの上に配置された第2の誘電体ミラーと、
を含み、
前記層のセットは、複数のスペーサ層を含む光センサデバイス。」

<相違点2>
「第2の誘電体ミラー」について、本件補正発明は、「前記センサ素子のセットの、2つ以上でありかつ過半数のセンサ素子と整列し、前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない」と特定されるのに対して、引用発明2の「入射光側ミラー」は、そのような特定がなされていない点。

(オ)判断
上記相違点2は、上記相違点1と同様である。
そして、引用発明2は、引用発明1と同様に、ファブリペローフィルタアレイとセンサアレイとを備え、異なる複数の波長を検出する検出器であるから、上記相違点2については、上記アの(オ)と同様に判断することができる。
したがって、引用発明2の「入射光側ミラー」を、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1或いは引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 結論
したがって、本件補正発明は、引用発明1或いは引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである

オ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「上記の補正により、請求項1,11,15において、第2の誘電体ミラーは、センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列しないものとなった。このような特徴は、引用文献1,2のいずれにも開示も示唆もされていない。」(第7頁第2行〜第3行)と述べるのみであって、当該構成の技術的意義については述べていない。
そして、上記ア(オ)及び上記イ(オ)のとおり、本件補正発明は、引用発明1或いは引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年10月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年4月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1を引用する請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
1.この出願の請求項4に係る発明は、本願の最先の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1或いは引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の請求項4に係る発明は、本願の最先の優先権主張の日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1或いは引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2008/0042782号明細書
引用文献2:特開2013−512445号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第2の誘電体ミラー」に係る「過半数」及び「前記センサ素子のセットの少なくとも1つのセンサ素子とは整列していない」との限定事項を削除したものであるから、上記相違点1及び相違点2は、なくなることとなる。
そうすると、本願発明は、引用発明1或いは引用発明2に記載された発明である。
仮に、相違点があるとしても、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明1或いは引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1或いは引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 瀬川 勝久
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-03-24 
結審通知日 2022-03-29 
審決日 2022-04-28 
出願番号 P2016-255688
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
野村 伸雄
発明の名称 誘電体ミラーベースのマルチスペクトルフィルタアレイ  
代理人 金田 隆章  
代理人 中野 晴夫  
代理人 徳山 英浩  
代理人 山田 卓二  

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