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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B08B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B08B
審判 全部無効 特39条先願  B08B
審判 全部無効 1項2号公然実施  B08B
審判 全部無効 2項進歩性  B08B
管理番号 1388686
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-07-03 
確定日 2022-09-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第5976858号発明「真空洗浄装置および真空洗浄方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5976858号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る発明についての特許出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2012年(平成24年)11月20日を国際出願日(優先権主張 平成23年11月25日)とする特願2013−545937号の一部を平成27年2月6日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月29日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされたものである。

その後、平成31年2月12日に請求人高砂工業株式会社(以下、「請求人」という。)より請求項1〜5に係る特許について特許無効審判請求(無効2019−800011号。以下、「先の無効審判請求」という。)がされ、令和元年12月20日付けで、審判の請求は成り立たない旨の審決(以下、「先の審決」という。)がなされた。
なお、この審決を不服として、請求人は、被請求人株式会社IHI及び株式会社IHI機械システム(以下、「被請求人ら」という。)を被告として、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(令和2年(行ケ)第10009号)を提起した。

そして、令和2年7月3日に請求人より請求項1〜5に係る特許について本件審判に係る特許無効審判請求がされ、同年10月2日に被請求人らより無効審判答弁書が提出された。その後、同年10月12日及び同月23日に被請求人らにより営業秘密に関する申出書が提出され、同年11月27日付けで審理事項通知書が通知され、令和3年1月7日に被請求人らより口頭審理陳述要領書が提出され、同年1月8日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年1月20日付けで口頭審理中止通知書が通知され、同年1月25日にテレビ会議システムを用いて口頭審尋が行われ、同年3月15日に被請求人より上申書が提出され、同年3月23日に請求人より上申書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件特許発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、特許請求の範囲の請求項1〜5において、「A」等の記号による発明特定事項の分説はされていないが、以下の便宜のため、請求人が審判請求書で示した記号をもとに、当審で「A」等の記号を付加した(以下、付された記号に従って「構成要件A」のようにいうこともある。)。

「【請求項1】
A:真空ポンプと、
B:石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
C:前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
D:前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
E:前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
F:前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
G:前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる
H:ことを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
I:前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴とする請求項1記載の真空洗浄装置。
【請求項3】
J:前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の真空洗浄装置。
【請求項4】
K:前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
【請求項5】
L:真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程と、
M:石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
N:減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
O:前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、
P:を含む真空洗浄方法。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、本件特許の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人らの負担とする、との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審尋調書によれば、概略以下の無効理由1〜無効理由6を主張している。また、証拠方法として甲第1号証〜甲第41号証(枝番を含む)を提出している(以下、「甲第1号証」については、「甲1」と表記し、「甲第2号証」等についても、同様に表記する。)。

[無効理由1]
本件特許発明1〜5は、甲1に記載された発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術と甲3〜甲8、「HWBV−3N」型真空脱脂洗浄機(以下、「実施品1」という。)、「HWBV−3VS」型真空脱脂洗浄機(以下、「実施品2」という。)に示されるような周知技術との組み合わせ、又は甲1に記載された発明に基いて、甲2に記載の発明と、甲3〜甲8のいずれかに記載の発明との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由2]
本件特許発明1〜3は、甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許発明1〜3に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許発明1〜3、5は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許発明4は、甲4に記載された発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由3]
本件特許発明1〜3は、優先日前に実施品1として公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、本件特許発明1〜3に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許発明1〜3、5は、優先日前に実施品1として公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許発明4は、優先日前に実施品1として公然実施された発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由4]
本件特許発明1〜4は、優先日前に実施品2として公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、本件特許発明1〜4に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許発明1〜5は、優先日前に実施品2として公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由5]
本件特許発明1〜5は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許発明1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由6]
本件特許発明1〜5は、特許第6043888号の請求項1〜5の発明と同一の発明であり、本件特許発明1〜5に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲1 特開2000−160378号公報
甲2 特開平6−220672号公報
甲3 特開平3−26383号公報
甲4 特開2000−51802号公報
甲5 仏国特許出願公開第2698558号明細書
甲6 欧州特許出願公開第1249263号明細書
甲7 特開2000−334402号公報
甲8 米国特許第5045117号明細書
甲9 取扱説明書 工番W03467 型式HWBV−3N,1997年11月20日出図,株式会社日本ヘイズ
甲10 確定図面 工番W03467 型式HWBV−3N,1997年10月31日出図,株式会社日本ヘイズ
甲11 シーケンス・プログラム1 工番W03467 型式HWBV−3N,株式会社日本ヘイズ
甲12 シーケンス・プログラム2 工番W03467 型式HWBV−3N,株式会社日本ヘイズ
甲13 陳述書(戸谷 竹志氏)
甲14 MACHINE DRAWING FINAL DRAWING Serial No.W272100 Type HWBV−3VS,2010年3月3日出図,株式会社IHI機械システム
甲15 シーケンス・プログラム Serial No.W272100 Type HWBV−3V,2010年3月3日出図,株式会社IHI機械システム
甲16 INSPECTION REPORT Local Serial No.W272100 Type HWBV−3V,2010年3月3日出図,株式会社IHI機械システム
甲17 陳述書(戸谷 竹志氏)
甲18 工業用潤滑油 適油選定ガイドライン,出光興産(http://www.idss.co.jp/business/lube/products/select/industrial/seisou.html より2020年2月16日に取得)
甲19の1〜17 陳述書(増田 寿男氏ほか)
甲20 審査基準第II部第2章第2節サポート要件,特許庁
甲21 特許第6043888号公報
甲22 特許第5976858号公報
甲23 審決(無効2019−800011)
甲24 無効審判答弁書(抜粋)(無効2019−800011)
甲25 米国特許第6004403号明細書
甲26 平本 昇,“石油系溶剤による蒸気洗浄機”,Surface Control & 洗浄設計,株式会社近代編集社,1993,No.58,p39−45
甲27 新村 出編,広辞苑,第7版,株式会社岩波書店,平成30年1月12日(「連通管」について)
甲28 特開平10−57909号公報
甲29 特開2003−236479号公報
甲30 特開平7−227581号公報
甲31 特開平6−15239号公報
甲32 特開平5−123658号公報
甲33 実願昭63−73934号(実開平1−179784号)のマイクロフィルム
甲34 製品カタログ(HWV−V型真空脱脂洗浄機)
甲35 平成29年(ワ)第7207号 特許権侵害差止等請求事件 判決文
甲36 特許第5695762号公報
甲37 特許第5707527号公報
甲38 特許第6220018号公報
甲39 特許第6783209号公報
甲40 技術説明資料,高砂工業株式会社
甲41 平成29年(ワ)第7207号 特許権侵害差止等請求事件 準備書面(原告その2)

2 被請求人らの主張及び証拠方法
被請求人らは、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。また、証拠方法として乙第1号証〜乙第12号証を提出している(以下、「乙第1号証」については、「乙1」と表記し、「乙第2号証」等についても、同様に表記する。)。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙1 日経産業新聞,平成26年2月28日,p16
乙2 陳述書(中本 一朗氏)
乙3 試験報告書,平成30年4月24日,中本 一朗
乙4 北村健三・大竹一友,基礎伝熱工学,初版,共立出版株式会社,平成3年12月25日,p130−133
乙5 一色尚次・北山直方,伝熱工学,第1版,森北出版株式会社,昭和57年8月20日,p104−107
乙6 実願昭63−54595号(実開平1−163486号)のマイクロフィルム
乙7 実願昭63−73934号(実開平1−179784号)のマイクロフィルム
乙8 欧州特許出願公開第1249263号明細書
乙9の1〜14 陳述書(堀田 章仁氏ほか)
乙10 技術説明資料,株式会社IHI機械システム 株式会社IHI
乙11 特許第6067823号公報
乙12 平本 昇,“石油系溶剤による蒸気洗浄機”,Surface Control & 洗浄設計,株式会社近代編集社,1993,No.58,p39−45

第4 当審の判断
1 本件特許発明の解釈
(1)構成要件G、構成要件Oの解釈(「連通させてワークを乾燥させる」の解釈)について
ア 請求人の主張の要点
構成要件G、構成要件Oの解釈、特に「連通させてワークを乾燥させる」の解釈について、審判請求書、口頭審理陳述要領書の記載からみて、請求人の主張の要点は以下のとおりである(下線は当審で付した。以下同様。)。

(ア)先の審決では、本件特許発明を「凝縮室が、開閉バルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持され、洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるもの」が特徴であると限定的に解釈し、甲1にはこの特徴が開示も示唆もないとした。しかし、先の審決が認定した特徴は、甲3〜甲8、実施品1及び実施品2(甲9〜甲17)に代表されるように周知技術であり、当該特徴は進歩性を肯定するに足りない。(審判請求書第22ページ第6〜13行参照)
(イ)特許請求の範囲で使用される用語は、明細書に特段の定義がない限り、その普通の意味で使用しなければならず、また、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用しなければならない。「連通」とは一般に2つ又は2つ以上の器を連結してその内部を自由に流通できるようにすることを意味する(甲27)。現に、請求項1において、同様に「連通させ(て)」との文言が含まれる「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、」という記載においては、「連通させ」とは、単に、開閉バルブの開弁によって凝縮室の内部空間と、洗浄室の内部空間とが連結され、気体が流通可能になること、つまり、普通の意味で使用されている。そして、請求項1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」の「連通させて」も同様の意味に解釈する必要があるところ、前記「連通させ(て)」の解釈からすれば、ワークの乾燥が、単に、開閉バルブの開弁によって凝縮室の内部空間と洗浄室の内部空間とが連結された状態で行われることを意味すると理解するほかなく、それ以上に、温度設定、圧力設定、凝縮室のサイズ、あるいは凝縮室と洗浄室との距離や配管の仕様といった、急速な減圧(乾燥)を実現する特有の態様が規定されているとはいえない。本件特許明細書にも「連通」あるいは「連通させて乾燥」に関する特段の定義は存在しない。本件特許明細書においても、“連通”なる用語は、いずれもバルブで遮断される二つの空間を連結する意味で用いられており、急速な減圧(乾燥)を実現する特有の態様を特定する用語として用いられてはいない。(口頭審理陳述要領書第7ページ下3行〜第11ページ第1行、上申書第4ページ下7行〜第5ページ第7行参照)
(ウ)本件特許発明の乾燥は、減圧乾燥(真空乾燥)による(構成要件G)。減圧乾燥は、洗浄室(乾燥室)を減圧し、ワークに付着した溶剤の気化を促進しつつ、外部に排気する。減圧乾燥自体は何ら目新しいものではない。被請求人らが従来技術と呼ぶ真空ポンプを用いた乾燥手法は減圧乾燥である。減圧乾燥では、気化した溶剤を洗浄室の外部に排気するための排気手段(負圧源)が必要となる。排気能力が高ければ高い程、乾燥時間が短縮化される。本件特許発明は、乾燥手法自体に特徴があるのではない。洗浄室の排気手段に関する発明である。(口頭審理陳述要領書第13ページ第4〜17行参照)
(エ)被請求人らは、凝縮室を予め減圧した上で洗浄室と連通させ乾燥することは前提条件に過ぎず、この前提条件を備えた従来技術では急速な乾燥という効果を得られないのであって、本件特許発明のポイントは、むしろ洗浄室と凝縮室の温度設定、圧力設定、凝縮室のサイズ、凝縮室と洗浄室との距離や配管の仕様等を適宜設定することにより、大がかりな装置を用いなくても急速な乾燥という効果を得られるようにした点にあり、本件特許発明の「連通させて・・・乾燥させる」との記載は、急速な乾燥を生じさせ得る新規の態様を示しているなどと主張している。しかしながら、「連通させて・・・乾燥させる」との文言が、洗浄室と凝縮室の温度設定、圧力設定、凝縮室のサイズ、凝縮室と洗浄室との距離や配管の仕様等が適宜設定されていることを規定しているとは解釈できない。(口頭審理陳述要領書第5ページ第2行〜第6ページ第5行参照)
(オ)急速な減圧(乾燥)を実現する構成とは、“急速”の基準、程度が不明であるから、その構成を特定できない。諸条件の設定については、諸条件となり得る要素を例示するのみで、その仕様が如何なるものかを特定できない。(口頭審理陳述要領書第11ページ第10〜12行参照)

イ 被請求人らの主張の要点
「連通させてワークを乾燥させる」の解釈について、答弁書、口頭審理陳述要領書の記載からみて、被請求人らの主張の要点は以下のとおりである。

(ア)本件特許明細書や技術常識に基づいて本件特許発明を解釈すれば、「連通させて・・・乾燥させる」との技術的事項が急速な減圧(乾燥)を生じさせ得る態様を示していることは明らかである。(答弁書第14ページ第18〜21行、口頭審理陳述要領書第13ページ第12行〜第14ページ第14行参照)
(イ)請求人が進歩性欠如の主引例として挙げる甲1、甲4、あるいは公然実施品と称する技術は、いずれも、乾燥工程において、洗浄室の蒸気を真空ポンプの吸引力によって吸い上げるという、本件特許明細書が開示する従来技術そのものの技術であって、本件特許発明とは明らかに異なる発明である。すなわち、従来技術においては、真空ポンプによる吸引力を真空ポンプ手前に設けられた凝縮器(「アフタークーラ」ともいう。)で蒸気を凝縮させる技術であり、乾燥工程において真空ポンプを必須の構成とするものである。これに対し、本件特許発明は、洗浄機とは別に設けられ、乾燥前に予め低温かつ低圧に保持された凝縮室の凝縮力によって乾燥させる技術であり、これにより、従来技術であれば、例えば、302Paまで508秒かかって減圧していたのに対し、44秒で280Paまで減圧するような急速な減圧乾燥を可能にしたものである。(答弁書第10ページ第19行〜第11ページ第11行参照)
(ウ)本件特許発明では、従来技術においても同様に存在していた「蒸気生成手段」、「真空ポンプ」、「洗浄室」、「凝縮室」といった各構成要素に「凝縮による乾燥」という技術思想を導入したことで、急速な乾燥という効果を奏する新たな発明を完成させたことが重要なのである。(答弁書第11ページ第13〜19行参照)
(エ)本件特許発明における凝縮力による急速な乾燥を実現するためには、凝縮室を乾燥前に減圧かつ低温に保持しておくことは必要であるが、これは凝縮力による急速な乾燥を起こすための前提条件に過ぎず、相違点1−1−2のポイントは、そのような凝縮室と連通させることで急速な減圧を生じさせることにある。この点、先の審決における実施可能要件にかかる判断などにも示されているとおり、本件特許発明の効果である急速な乾燥を生じさせるためには、温度設定、圧力設定、凝縮室のサイズ、あるいは凝縮室と洗浄室との距離や配管の仕様といった諸条件の設定は必要となるが、これは、本件特許明細書に接し、大がかりな装置を用いなくても凝縮作用を用いれば急速な乾燥という効果が得られることを理解した当業者であれば適宜設定できることであるが、このような技術思想を知らない当業者であれば、到底、想到することはない。(答弁書第11ページ第21行〜第12ページ第20行参照)
(オ)従来の技術であっても、乾燥前に凝縮器(アフタークーラ)の凝縮作用を利用しているのであるから、請求人が周知技術として主張するとおり、凝縮を生じさせやすくするために凝縮器を予め減圧することはあろう。しかしながら、例えば、実施品1や実施品2(被請求人の旧製品)に基づいて説明すれば、当該装置には凝縮による乾燥という技術思想がなかったことから、洗浄室は2インチ(=5.08cm。甲10・7頁「溶剤配管図」、甲14・8頁「溶剤配管図」)程度の細い配管で長い距離をもって凝縮器とつながり、また、凝縮器と真空ポンプの間も同じ太さの長い配管でつながれていたなど、凝縮による乾燥という技術思想を実施する構成にはなっていなかった。そのために、本件発明のような急速な乾燥は生じていなかった(乙2)。被請求人らが先の無効審判から指摘している「真空ポンプによる乾燥」という従来技術は、このような技術を含めたものである。(答弁書第12ページ第21行〜第13ページ第9行参照)
(カ)甲1の図2のような従来技術は現在に至るまで数多く製造販売されているが、このような構成では、請求人が述べるような乾燥前の工程において凝縮器(アフタークーラ)の減圧が行われている場合であっても、本件特許発明のような急速な乾燥は生じていない。これは、凝縮力によって洗浄室を急速に乾燥させるとの技術思想に基づく構成を採用していないからに他ならないのであって、この点は装置の客観的な構成の相違である。(口頭審理陳述要領書第14ページ第4〜9行参照)

ウ 「連通させてワークを乾燥させる」の解釈についての当審の判断
(ア)特許請求の範囲の記載に基づく解釈
a 本件特許発明1
本件特許発明1は、以下の構成要件D、E、Gを備えている。
「D:前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、」
「E:前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、」
「G:前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」
ここで、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)という発明特定事項において、当該洗浄室よりも低い温度に保持された「前記凝縮室」とは、洗浄室よりも低い温度に保持されたものであるから、構成要件Eにおいて前記された「前記洗浄室よりも低い温度に保持」された「前記凝縮室」であるといえる。
また、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」(構成要件E)という発明特定事項における「前記凝縮室」とは、構成要件Dとして前記された「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」であるといえる。
これらを総合すると、本件特許発明1における凝縮室は、「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持され」(構成要件D)、「前記洗浄室よりも低い温度に保持」(構成要件E)され、「前記開閉バルブによって前記洗浄室」「と連通させてワークを乾燥させる」(構成要件G)ものであって、凝縮室に対して、このような順で処理が行われるものと解される。
そして、凝縮室に対して、前記のような順で処理が行われることからみて、本件特許発明1の構成要件Gにおいて、洗浄室を前記凝縮室と「連通させてワークを乾燥させる」とは、「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持され」(構成要件D)、「前記洗浄室よりも低い温度に保持」(構成要件E)された凝縮室と洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることによりワークの乾燥を生じさせる、すなわち、減圧の状態が保持され、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、洗浄室とを、連通させることによりワークの乾燥を生じさせることを意味していると解される。

b 本件特許発明5
本件特許発明5は、以下の構成要件L、N、Oを備えている。
「L:真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程と、」
「N:減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、」
「O:前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、」
ここで、本件特許発明5のワークを乾燥させる工程(構成要件O)は、「前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させ」るものであるから、このワークを乾燥させる工程(構成要件O)の前に、凝縮室は洗浄室よりも低い温度に保持されているといえる。すると、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)は、ワークを乾燥させる工程(構成要件O)の前に実行されるものといえる。
また、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」(構成要件N)は、「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する」ものであるから、この低い温度に保持する工程(構成要件N)の前に、凝縮室は減圧下にされているといえる。すると、凝縮室を減圧する工程(構成要件L)は、減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程(構成要件N)の前に実行されるものといえる。
これらを総合すると、本件特許発明5において、凝縮室に関する各工程(構成要件L,N,O)は、凝縮室を減圧する工程(構成要件L)、減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程(構成要件N)、前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程(構成要件O)の順に実行されるものと解される。
そして、凝縮室に関する各工程が、前記のような順で実行されることからみて、本件特許発明5の構成要件Oにおいて、洗浄室を前記凝縮室と「連通させてワークを乾燥させる」とは、減圧下とされ、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることによりワークの乾燥を生じさせることを意味していると解される。

(イ)発明の詳細な説明の記載との関係
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】、【0006】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであり、その課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、これにより、洗浄室2が減圧されることから、ワークWに付着している石油系溶剤及び洗浄室2内の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動し、ワークWを乾燥させ、搬出工程において、開閉扉4を開放して開口3aからワークWを搬出するという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。そして、発明の詳細な説明の「この乾燥工程は、開閉バルブ20を開弁して、洗浄室2と凝縮室21とを連通させることによって行われる。」(段落【0029】)という記載によると、凝縮室と洗浄室とを「連通させる」ことは、ワークの乾燥を生じさせるための手段であるといえる。
そして、この発明の詳細な説明の記載を考慮すると、本件特許発明1及び本件特許発明5は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するために、減圧の状態に保持され、洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と、洗浄室とを、開閉バルブによって連通させることにより、洗浄室から凝縮室に蒸気を移動させ、凝縮室内で蒸気を凝縮させてワークを乾燥させるという技術思想(以下、「凝縮により乾燥させる技術思想」という。)に基づくものといえる。

そうすると、前記(ア)に示した、構成要件G及び構成要件Oの解釈は、この発明の詳細な説明の記載とも整合するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、前記アのとおり、「連通させ」の通常の意味からは、温度設定、圧力設定、凝縮室のサイズ、あるいは凝縮室と洗浄室との距離や配管の仕様といった、急速な減圧(乾燥)を実現する特有の態様が規定されているとはいえないし、本件特許明細書にも「連通」あるいは「連通させて乾燥」に関する特段の定義は存在せず、本件特許発明の乾燥は、真空ポンプを用いた従来の乾燥手法の減圧乾燥(真空乾燥)であると主張している。
この点に関しては、構成要件G及び構成要件Oは、前記(ア)のとおり解釈され、その解釈は前記(イ)のとおり発明の詳細な説明の記載とも整合するから、請求人の主張は失当である。
したがって、請求人の主張は採用できない。

2 書証の記載事項
(1)甲1
ア 甲1に記載された事項
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電機部品、機械部品その他の部材に、洗浄及び乾燥処理を施すための洗浄装置に係るもので、各処理を、迅速かつ経済的に行うことが出来るようにしたものである。」

(イ)「【0006】本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、洗浄槽を蒸気洗浄部と蒸気発生部とに分割し、この蒸気洗浄部と蒸気発生部との間の連通口に、密閉蓋体を設け、この密閉蓋体を上下方向に移動する事により、連通口の開口と密閉を可能とするものである。その結果、一つの洗浄槽で蒸気洗浄処理と乾燥処理を行う事を可能とするとともに、無駄な設置スペースを省いて、洗浄装置をコンパクトで経済的に形成しようとするものである。」

(ウ)「【0022】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1、図2に於て説明すれば、(1)は縦型の洗浄槽で、仕切壁(2)を介して上部側を蒸気洗浄部(3)、下部側を蒸気発生部(4)としている。そして、蒸気洗浄部(3)には、被洗浄物(5)を載置するための載置台(6)を配置している。この載置台(6)は、金網材やパイプ材等で形成する事により、蒸気発生部(4)から導入される洗浄蒸気が、載置台(6)を通過して、被洗浄物(5)に到達が可能なものとしている。
【0023】また、蒸気発生部(4)には、洗浄液(7)を充填しており、電気ヒーター、加熱オイルを流通した加熱パイプ等の適宜の加熱手段(8)により、この洗浄液(7)の蒸気化を可能としている。また、蒸気発生部(4)には、サーモスタット(32)を設置し、加熱手段(8)による洗浄液(7)の加熱を制御している。そして、仕切壁(2)には、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)とを連通するとともに、蒸気発生部(4)で発生する洗浄蒸気を蒸気洗浄部(3)内に導入するための連通口(10)を開口している。
【0024】この連通口(10)には、連通口(10)よりも径大な板状部材で形成した密閉蓋体(11)を接続する事により、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)との連通を遮断するとともに、蒸気洗浄部(3)内の密閉も可能としている。この密閉蓋体(11)は、蒸気発生部(4)側に配置し、図示しない適宜の上下動機構により、仕切壁(2)の下面に付き当て可能とするとともに、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との接続部に、オーリング、パッキン等のシール部材(12)を配置する事により、密閉性を高めている。また、このシール部材(12)は、図1に示す如く、上部側に位置する仕切壁(2)の下面に配置している。また、密閉蓋体(11)の上下動機構は、シリンダー、ボールネジ方式、電動式ピストン、チェーンブロック等、適宜の従来公知のものを用いる事ができる。
【0025】また、洗浄槽(1)は、被洗浄物(5)の出し入れを行う開口部に、開閉蓋(30)を着脱可能に接続している。また、開閉蓋(30)と洗浄槽(1)との接続部に於いて、開閉蓋(30)の下面にシール部材(31)を配置する事により、密閉性を高めるとともに、接続部への凝縮液や汚物の付着を防止可能としている。しかし、洗浄槽(1)の開口部を介して洗浄液(7)の流通を行う事はないし、凝縮液が付着する可能性も少ないので、必ずしもシール部材(31)を開閉蓋(30)の下面に設ける必要はなく、洗浄槽(1)の上面に設けても良い。
【0026】また、蒸気洗浄部(3)は、第1電磁弁(17)を介してバキュームポンプ(14)に連結し、蒸気洗浄部(3)内を減圧可能としている。また、第1電磁弁(17)とバキュームポンプ(14)との間には、凝縮器(15)を介在し、蒸気洗浄部(3)の減圧の際に、蒸気洗浄部(3)内の洗浄蒸気を凝縮器(15)に導入可能としている。この凝縮器(15)の内部には、冷却水が流通する冷却パイプ(9)を挿通し、凝縮器(15)に導入された洗浄蒸気を凝縮可能としている。このように凝縮器(15)で凝縮された凝縮液は、第2電磁弁(35)を介して蒸気発生部(4)内に移送され、再生使用を可能としている。
【0027】また、蒸気洗浄部(3)には、減圧蒸気洗浄、減圧乾燥を行う場合に備えて、圧力調整弁(図示せず)等の減圧蒸気洗浄、減圧乾燥に対応する適宜の弁機構を配置している。
【0028】そして、上述の如き洗浄槽(1)で被洗浄物(5)の蒸気洗浄及び乾燥処理を行う手順を説明する。大気圧蒸気洗浄を行うには、蒸気洗浄部(3)内の載置台(6)に、被洗浄物(5)を載置する。そして、仕切壁(2)の連通口(10)を被覆する密閉蓋体(11)を、蒸気発生部(4)側に下降する事により、洗浄蒸気が流通する僅かな流通間隔(27)を介して連通口(10)を開口し、蒸気発生部(4)と蒸気洗浄部(3)とを連通する。
【0029】すると、適宜の加熱手段(8)により、蒸気発生部(4)内で発生した洗浄蒸気は、図1の矢印で示す如く、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との狭い流通間隔(27)でも、確実に通過した後、連通口(10)を介して蒸気洗浄部(3)内に流入する。このように、連通口(10)の開口に密閉蓋体(11)を大きく移動する必要がないので、洗浄槽(1)をコンパクトに形成する事ができる。そして、洗浄蒸気と被洗浄物(5)とが接触して凝縮する事により、大気圧蒸気洗浄が行われる。」

(エ)「【0030】また、大気圧蒸気洗浄とは別個に減圧蒸気洗浄を行うには、蒸気発生部(4)と蒸気洗浄部(3)との連通状態で、バキュームポンプ(14)を作動して減圧する。そして、この減圧によって洗浄液(7)の沸点が低下し、洗浄液(7)の加熱温度よりも沸点が低くなると、洗浄蒸気が発生する。そして、この洗浄蒸気が蒸気洗浄部(3)側に流動し、被洗浄物(5)と接触して凝縮する事により、減圧蒸気洗浄が行われる。この減圧蒸気洗浄は、低温で蒸気洗浄ができるため、洗浄液(7)の熱劣化を防止するとともに、耐熱性の低い被洗浄物(5)の洗浄に適したものとなる。
【0031】そして、上述の如き洗浄処理で凝縮された凝縮液は、被洗浄物(5)から洗い流された汚物とともに、連通口(10)を介して蒸気発生部(4)側に流下する。ところで、本実施例では、シール部材(12)は、密閉蓋体(11)と仕切壁(2)との接続部に於いて、仕切壁(2)の下面に配置している。もし、図19に示す如く、シール部材(12)を、密閉蓋体(11)の上面に配置すると、密閉蓋体(11)の上面と、この密閉蓋体(11)の上面に突出したシール部材(12)の内周面とで構成される凹部(16)や、シール部材(12)の上面に、汚物や洗浄液(7)が滞留してしまう。この状態で、密閉蓋体(11)を仕切壁(2)に接続すると、この接続部に汚物が介在するものとなり、シール部材(12)や密閉蓋体(11)を破損し、密閉性を損なう虞れがある。また、次工程の乾燥処理の際に、凹部(16)に滞留した洗浄液(7)も乾燥するものとなり、乾燥時間を長くしたり、エネルギー効率を悪くする可能性もある。
【0032】しかしながら、前述の如く、本実施例では、シール部材(12)を仕切壁(2)の下面に設けているので、シール部材(12)には、密閉蓋体(11)との接続面に、汚物等の異物が付着する事はない。また、仕切壁(2)とシール部材(12)とで形成される凹部(16)は、図1に示す如く、下側を向いているので、汚物や洗浄液(7)が滞留する事もない。そのため、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)の内部に付着した凝縮液が、蒸気発生部(4)側に確実に流下し、蒸気洗浄部(3)内は良好な液切りが行われるものとなる。また、蒸気発生部(4)内に流下した凝縮液は、蒸留再生使用が可能となり、無駄に消費される事がないので、洗浄液(7)の経済的な使用も可能となる。
【0033】そして、洗浄処理が終了したら、乾燥処理を行うが、それには、図2に示す如く、連通口(10)に密閉蓋体(11)を接続して蒸気洗浄部(3)内への洗浄蒸気の流入を遮断するとともに蒸気洗浄部(3)内を気密的に密閉する。この密閉蓋体(11)の接続に於いて、前述の如く、仕切壁(2)に配置したシール部材(12)には、密閉蓋体(11)との接続部に、汚物等の異物が付着していないので、接続によるシール部材(12)の破損を防止する事ができる。
【0034】また、特開平6−15239号の従来発明は、ゲート弁の上部側で乾燥を行い、ゲート弁の下部側で洗浄を行うものであるが、作業の切り換え時に、ゲート弁を摺動する事により、ゲート弁のシール部材が摩耗して、乾燥時の密閉性を損なうものであった。しかし、本発明の密閉蓋体(11)は、上下動による開閉なので、摩擦によるシール部材(12)の摩耗を防止する事ができる。従って、連通口(10)に密閉蓋体(11)を良好に接続でき、蒸気洗浄部(3)の気密性を長期に保つ事が可能となる。
【0035】次に、この蒸気洗浄部(3)に接続するバキュームポンプ(14)を稼働して、蒸気洗浄部(3)内を急速に減圧する。この急速減圧により、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)内に付着した洗浄液(7)の沸点が低下し、急速な乾燥が可能となる。この乾燥処理の際も、前述の如く、被洗浄物(5)や、蒸気洗浄部(3)内の余分な洗浄液(7)の液切りが良好に行われているので、乾燥時間を短縮する事ができるとともに、乾燥に使用するエネルギーを節約でき、乾燥処理を迅速かつ経済的に行う事が可能となる。
【0036】また、バキュームポンプ(14)により蒸気洗浄部(3)内を減圧すると、蒸気洗浄部(3)内に残留していた洗浄蒸気が、第1電磁弁(17)を介して凝縮器(15)に移動し、凝縮液化する。そして、この凝縮液を、第2電磁弁(35)を介して蒸気発生部(4)に移送する事により、再び洗浄蒸気化し、蒸留再生使用が可能となり、洗浄液(7)の経済的な再生使用が可能となる。尚、蒸気発生部(4)には、ボールタップ等の液面制御機構(18)を設置している。この液面制御機構(18)により、第2電磁弁(35)の開閉を制御し、凝縮器(15)からの凝縮液の移送を調節して、蒸気発生部(4)内の洗浄液(7)量を適量に保っている。
【0037】そして、乾燥処理が終了したら、蒸気洗浄部(3)に接続した真空破壊弁(26)を介して、蒸気洗浄部(3)内にエアーを導入する。このエアーの導入により、蒸気洗浄部(3)内が常圧状態に戻るので、洗浄槽(1)の開閉蓋(30)を外して、蒸気洗浄部(3)内の被洗浄物(5)を安全に取り出す事ができる。
【0038】また、上記第1実施例では、蒸気洗浄部(3)内を急速減圧する事により、突沸乾燥処理を行っているが、他の異なる実施例として、蒸気洗浄部(3)内に、適宜の手段で冷風や温風を導入する事により、乾燥処理を行うものであっても良いし、他の適宜の従来技術を用いて乾燥処理を行っても良い。何れの場合でも、蒸気洗浄部(3)内の液切りが良好に行われているので、乾燥時間の短縮やエネルギーの節約が可能となり、経済的な乾燥処理が可能となる。」

(オ)「【0063】また、エゼクター部(24)を用いた他の異なる第8、第9実施例について説明する。上記第6、第7実施例では、径大な板状部材で形成した密閉蓋体(11)を配置した洗浄槽(1)に於いて、蒸気発生部(4)にエゼクター部(24)を接続している。一方、他の異なる第8、第9実施例では、図15〜図18に示す如く、径小な密閉蓋体(11)を配置した洗浄槽(1)に於いて、蒸気発生部(4)にエゼクター部(24)を接続している。尚、この径小な密閉蓋体(11)は、シリンダー(22)にて上下動可能としている。
【0064】更に、第8、第9実施例では、蒸気洗浄の前洗浄として行う浸漬洗浄を、洗浄槽(1)の蒸気洗浄部(3)内で行う事を可能としている。そして、蒸気洗浄部(3)は、洗浄液(7)を充填した洗浄液槽(20)と、第7電磁弁(45)を介して連結し、この洗浄液槽(20)を、浸漬洗浄に使用する洗浄液(7)のリザーブタンクとして使用可能としている。また、洗浄液槽(20)は、第6電磁弁(41)を介して、蒸気発生部(4)とも接続し、蒸気発生部(4)内への洗浄液(7)の移送も可能としている。
【0065】そして、第8実施例の洗浄装置で、第1工程の浸漬洗浄処理を行うには、図15に示す如く、蒸気洗浄部(3)内に被洗浄物(5)を収納した後、密閉蓋体(11)を連通口(10)に接続して、蒸気洗浄部(3)を密閉する。次に、蒸気洗浄部(3)と接続する真空破壊弁(26)と第7電磁弁(45)を閉止した後、バキュームポンプ(14)により、蒸気洗浄部(3)内を減圧して、真空状態とする。この真空状態で第7電磁弁(45)を開弁すると、洗浄液槽(20)の洗浄液(7)が、第7電磁弁(45)を介して蒸気洗浄部(3)内に吸引され、図15の点線で示す如く、蒸気洗浄部(3)内に、浸漬洗浄のための十分な洗浄液(7)が導入される。
【0066】また、この蒸気洗浄部(3)への洗浄液(7)の導入の際に、洗浄液槽(20)の真空破壊弁(44)を開弁しておく事により、洗浄液槽(20)内の減圧を防止して、スムーズな導入が可能となる。この導入が完了したら、第7電磁弁(45)を閉止し、被洗浄物(5)の浸漬洗浄処理を行う。
【0067】そして、浸漬洗浄が終了したら、第7電磁弁(45)を開弁するとともに真空破壊弁(26)を開弁して、蒸気洗浄部(3)内にエアーを導入する。すると、蒸気洗浄部(3)内の洗浄液(7)が、重力により、洗浄液槽(20)内に排出される。この場合も、洗浄液槽(20)の真空破壊弁(44)を開弁しておく事により、洗浄液槽(20)への洗浄液(7)のスムーズな排出が可能となる。
【0068】次に、第2工程の蒸気洗浄処理を行うには、シリンダー(22)を上昇して、密閉蓋体(11)を上部方向に移動し、図16に示す如く、連通口(10)を開口する。この開口により、蒸気洗浄部(3)と蒸気発生部(4)とを連通する。そして、蒸気発生部(4)の洗浄蒸気を、連通口(10)を介して蒸気洗浄部(3)内に導入する事により、被洗浄物(5)の蒸気洗浄を行う。この蒸気洗浄処理に於いて、洗浄蒸気が、被洗浄物(5)の微細な凹凸や隙間に入り込んで凝縮し、この凝縮液は汚れとともに落下するので、浸漬洗浄では落とせなかった汚れを確実に除去する事ができる。また、蒸気洗浄処理は、バキュームポンプ(14)を作動して減圧蒸気洗浄を行う事も可能である。
【0069】また、洗浄液槽(20)では、冷水を流通したパイプ等の冷却手段(23)により、洗浄液(7)を冷却しているから、第1工程で浸漬洗浄した被洗浄物(5)の表面温度は非常に低いものである。そのため、第2工程の蒸気洗浄に於いて、洗浄蒸気がこの低温状態の被洗浄物(5)と接触する事により、凝縮効果が促進され、洗浄効果が向上するものとなる。
【0070】また、蒸気発生部(4)内の洗浄液(7)が不足したら、液面制御機構(18)により、第6電磁弁(41)を開弁して、洗浄液槽(20)内の洗浄液(7)を導入し、補充する事も可能である。そして、このように蒸気発生部(4)に洗浄液槽(20)の洗浄液(7)を導入して蒸気化する事により、浸漬洗浄で汚れた洗浄液(7)の蒸留再生が可能となる。そのため、洗浄液(7)の経済的な使用が可能となるとともに、洗浄蒸気の発生作業と浄化を同時に行えるので、作業効率やエネルギー効率が良好なものとなる。
【0071】そして、第3工程では、図15に示す如く、シリンダー(22)を下降して、密閉蓋体(11)を連通口(10)に接続する事により、蒸気洗浄部(3)内を密閉する。そして、バキュームポンプ(14)で蒸気洗浄部(3)内を減圧する事により、被洗浄物(5)の減圧乾燥処理を行う。この乾燥処理の際も、他の実施例と同様に、蒸気洗浄部(3)内の液切りが良好に行われているので、乾燥時間やエネルギーの無駄を省いて、効率的な乾燥処理を行う事ができる。
【0072】そして、蒸気洗浄部(3)内の余分な洗浄蒸気は、このバキュームポンプ(14)による吸引により、第1電磁弁(17)を介して凝縮器(15)に移送され、凝縮される。この凝縮液は、エゼクター部(24)の吸引力により、第2電磁弁(35)を介して洗浄液槽(20)内に迅速に移送される。また、蒸気発生部(4)の洗浄蒸気を、エゼクター部(24)の吸引力により、第5電磁弁(40)を介して、洗浄液槽(20)に直に導入し、凝縮液化する。これらの凝縮液は、再び浸漬洗浄や蒸気洗浄作業に使用でき、効率的な蒸留再生使用が可能となる。」

(カ)前記(ア)の段落【0001】によると、甲1に記載された発明は、洗浄装置に係るものであり、甲1には、当該洗浄装置による洗浄方法も記載されていることは明らかである。

(キ)前記(ウ)の段落【0023】によると、蒸気発生部4は、洗浄液7を蒸気化するものである。

(ク)前記(エ)の段落【0030】によると、蒸気洗浄部3は、蒸気発生部4との連通状態で、バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって洗浄液7の沸点が低下して蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われるものである。

(ケ)前記(ウ)の段落【0026】及び前記(エ)の段落【0030】によると、減圧蒸気洗浄を行う際、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動して減圧するから、蒸気洗浄部3とバキュームポンプ14の間に介在する凝縮器15も減圧されることは明らかであり、凝縮器15は、減圧蒸気洗浄が行われる際、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3とともに、バキュームポンプ14により減圧されるものである。
また、前記(ウ)の段落【0026】並びに前記(エ)の段落【0033】、【0035】及び【0036】によると、乾燥処理を行う際、バキュームポンプ14により蒸気洗浄部3内を減圧するから、蒸気洗浄部3とバキュームポンプ14の間に介在する凝縮器15も減圧されることは明らかであり、凝縮器15は、乾燥処理を行う際、蒸気洗浄部3とともに、バキュームポンプ14により減圧され、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化するものである。

(コ)前記(ウ)の段落【0026】によると、冷却パイプ9は、冷却水が流通するとともに、凝縮器15の内部に挿通され、凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にするものであり、冷却パイプ9の温度は、冷却パイプ9が挿通された凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能なものである。また、凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程を備えるものである。

(サ)前記(ウ)の段落【0026】によると、第1電磁弁17は、凝縮器15と蒸気洗浄部3との間に介在するものである。

(シ)前記(エ)の段落【0033】には、「洗浄処理が終了したら、乾燥処理を行うが、それには、図2に示す如く、連通口(10)に密閉蓋体(11)を接続して蒸気洗浄部(3)内への洗浄蒸気の流入を遮断するとともに蒸気洗浄部(3)内を気密的に密閉する。」と記載されており、この「洗浄処理」とは、前記(ウ)の段落【0028】、【0029】に記載された大気圧蒸気洗浄と、前記(エ)の段落【0030】に記載された減圧蒸気洗浄との、いずれにも限定されずに記載されているから、両者の洗浄処理が含まれるものであって、減圧蒸気洗浄が終了した際にも、蒸気洗浄部3内は密閉される、つまり第1電磁弁17は閉弁されるものである。また、同じく段落【0035】には、「次に、この蒸気洗浄部(3)に接続するバキュームポンプ(14)を稼働して、蒸気洗浄部(3)内を急速に減圧する。この急速減圧により、被洗浄物(5)や蒸気洗浄部(3)内に付着した洗浄液(7)の沸点が低下し、急速な乾燥が可能となる。」と記載されているから、この乾燥は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して行われるものである。そうすると、前記(エ)の段落【0030】、【0033】、【0035】及び【0036】によると、洗浄蒸気が蒸気洗浄部3に流動し、被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより被洗浄物5に付着した洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化するもの、及びこのような工程を備えるものである。

(ス)前記(ウ)の段落【0026】及び前記(エ)の段落【0036】によると、蒸気洗浄部3から凝縮器15に導入されて凝縮された凝縮液を、凝縮器15から第2電磁弁35を介して蒸気発生部4に移送するものである。

(セ)前記(オ)の段落【0064】〜【0067】によると、蒸気洗浄部3に、洗浄液7を充填した洗浄液槽20から洗浄液7を導入して、被洗浄物5の浸漬洗浄処理を行うものである。

(ソ)前記(ウ)の段落【0023】及び前記(エ)の段落【0030】によると、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態で、バキュームポンプ14を作動して減圧し、その後、この減圧によって洗浄液7の沸点が低下し、洗浄液7の加熱温度よりも沸点が低くなると、洗浄蒸気が発生して、減圧蒸気洗浄が行われるものであるから、蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と、洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の蒸気洗浄部3に流動して被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程とを備えるものである。

イ 甲1に記載された発明の認定
甲1には、前記アに記載した事項を踏まえると、次の発明(以下、「甲1発明1」〜「甲1発明2」という。また、「甲1発明1」〜「甲1発明2」をまとめて、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明1]
バキュームポンプ14と、
洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4と、
前記蒸気発生部4との連通状態で、前記バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3と、
前記減圧蒸気洗浄が行われる際、前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、また、乾燥処理を行う際、前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化する凝縮器15と、
冷却水が流通するとともに、前記凝縮器15の内部に挿通され、前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9と、
前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17と、を備え、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する
洗浄装置。

[甲1発明2]
蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と、
洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程と、
凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程と、
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後、前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する工程と、
を含む洗浄方法。

(2)甲4
ア 甲4に記載された事項
請求人が無効理由1及び無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えばHC(ハイドロカーボン、炭化水素系溶剤の一つ)などの蒸気によりワークを減圧乃至真空状態下において蒸気洗浄および乾燥処理するような蒸気洗浄装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、蒸気洗浄装置としては例えば実開平1−179784号公報に記載の装置がある。すなわち、洗浄槽内の溶剤をヒータにより加熱気化させて、この気化蒸気により被洗浄物(ワーク)を脱脂洗浄する蒸気洗浄器において、上述の洗浄槽内の雰囲気圧力を下げる減圧手段を設けた蒸気洗浄装置である。
【0003】この従来装置によれば、上述の減圧手段の駆動により洗浄槽内部の圧力を下げると、溶剤の沸点が低下するので、溶剤を低温条件下にて気化させることができ、これにより上述のヒータによる消費電力の低減(消費エネルギの低減)を達成することができる利点がある反面、ワークの気化溶剤による蒸気洗浄の後に、ワークを乾燥させる場合、洗浄槽内の溶剤貯溜部に存在する溶剤の一部が気化して、ワークの乾燥が阻害される問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明の請求項1記載の発明は、蒸気洗浄後にタンク内の溶剤をタンク外へ導出し、ワークの乾燥後にタンク外の溶剤をタンクの溶剤貯溜部に還流させることで、ワークの乾燥時においてタンク内の溶剤が気化してワークの乾燥が妨げられることがなく、良好なワーク乾燥を実行することができる蒸気洗浄装置の提供を目的とする。
【0005】この発明の請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明の目的と併せて、上述のタンクの少なくとも溶剤蒸気層に加熱管を配置して、この加熱管内を流通する熱媒(例えば加熱オイル)によりタンク内部を加熱することで、ワークの乾燥効率をさらに向上させることができる蒸気洗浄装置の提供を目的とする。」

(イ)「【0008】
【発明の作用及び効果】この発明の請求項1記載の発明によれば、上述のワークは減圧乃至真空状態下においてタンク内部で蒸気洗浄されるが、上述の導出手段はワークの蒸気洗浄後つまりワークの乾燥に先立ってタンク内の溶剤をタンク外へ導出するので、ワークの乾燥時においてタンク内の溶剤が気化してワークの乾燥が妨げられることがなく、良好なワーク乾燥を実行することができる効果がある。
【0009】また、上述の還流手段がワークの乾燥後においてタンク外の溶剤をタンクの溶剤貯溜部に還流させるので、次のワークの蒸気洗浄に備えることができる効果がある。
【0010】この発明の請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果と併せて、上述のタンクの少なくとも溶剤蒸気層に配置された加熱管の内部に熱媒を流通させると、この熱媒によりタンク内部を加熱することができて、ワークの乾燥効率をさらに向上させることができる効果がある。
【0011】
【実施例】この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。図面は蒸気洗浄装置を示し、図1において、この蒸気洗浄装置は、ワークを減圧乃至真空状態下にて蒸気洗浄する減圧タンク1と、冷却コイル2が内設されてインレットポート3とアウトレットポート4との間を仕切板5で区画した冷却タンク6と、蒸気洗浄後に減圧タンク1内の溶剤A(例えばHC)を一時貯溜するサブタンク7(貯溜手段)と、2つのプールタンク8,9と、減圧手段としての真空ポンプ10と、この真空ポンプ10に接続され水(H2O)を用いて溶剤を浄化する浄化タンク11と、一方のプールタンク8と他方のプールタンク9との間に接続された真空蒸留機12(蒸溜手段)とを備えている。
【0012】上述の減圧タンク1の溶剤蒸気層(図1において図示の便宜上、多点を施して示す部分)には加熱管(加熱手段)としての加熱コイル13を配置し、ワークの乾燥時にのみバルブ14を開いて高温に加熱された加熱オイル(熱媒)を該加熱コイル13内に流通させて、タンク1内部乃至ワークを加熱乾燥処理すべく構成している。
【0013】上述の加熱コイル13に分岐接続された別の加熱コイル15(溶剤加熱手段)を設け、この加熱コイル15を減圧タンク1における溶剤貯溜部1aの液中に配置して、バルブ16の開時に溶剤Aを加熱して、溶剤蒸気Bを形成するように構成している。」

(ウ)「【0015】またポート18とエゼクタ26の負圧形成部26aとの間を、バルブ27が介設されたライン28(真空状態保持経路)で接続している。さらにポート19と冷却タンク6のインレットポート3との間を、バルブ29が介設されたライン30(真空状態形成経路)で接続している。」

(エ)「【0020】ところで、上述の冷却タンク6のアウトレットポート4と真空ポンプ10との間を、バルブ49が介設されたライン50で接続すると共に、この冷却タンク6のロアポート51とプールタンク9のポート9aとの間を、バルブ52が介設されたライン53で接続している。」

(オ)「【0025】図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。まず、真空ポンプ10を駆動すると共に、バルブ29,49を開弁して各要素19,30,29,3,4,50,49を介して減圧タンク1内を真空状態にすると共に、バルブ16を開弁して加熱コイル15に加熱オイル(熱媒)を流通させ、減圧タンク1内の溶剤Aを真空状態下にて加熱して、溶剤蒸気Bを発生させる。
【0026】このようにして、溶剤蒸気Bを発生させた後に、真空ポンプ10の駆動を停止すると共に、各バルブ29,49を閉弁する。一方、バルブ27を開弁してエゼクタ26の負圧形成部26aに形成される負圧を利用して、ライン28を介して減圧タンク1内の真空状態を保持し、この状態下において上述の溶剤蒸気Bによりワークを蒸気洗浄する。
【0027】ワークの蒸気洗浄終了前において、真空ポンプ10を駆動し、またバルブ42を開弁して、ライン43を介してサブタンク7内を予め真空状態に成す。而して、ワークの蒸気洗浄終了後においては、ワークの乾燥処理に先立って、バルブ23,36を開弁し、ライン25に作用する大気圧とライン37に作用する負圧との差圧を利用して、減圧タンク1内の加熱された溶剤Aを、該タンク1外へ導出して、この溶剤Aをサブタンク7内に一時貯溜する。
【0028】減圧タンク1内の溶剤Aをサブタンク7内に吸引完了した時点で、上述の各バルブ23,36を閉弁する。次に真空ポンプ10を駆動すると共に、バルブ49を開弁して冷却タンク6内を予め真空状態に成し、その後、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを、ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引する。この場合、ライン30からのインレットポート3を介して冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝縮されると共に、仕切板5による区画構成により、溶剤蒸気Bがアウトレットポート4からライン50および真空ポンプ10側に直接吸込まれるのを防止することができる。
【0029】このような条件下において減圧タンク1内のワークを乾燥処理する。つまり、バルブ14を開いて加熱コイル13に加熱オイルを流通させ、この熱媒により減圧タンク1内およびワークを加熱して、該ワークを乾燥させる。
【0030】ところで、プールタンク9には真空蒸溜機12にて蒸溜された溶剤Aを貯溜し、送液ポンプ31の駆動によりエゼクタ26を含む循環ライン58を循環する蒸溜溶剤Aの流動で、エゼクタ26の負圧形成部26aに負圧が形成され、ライン28、バルブ27、ポート18を介して上述の減圧タンク1内を真空状態に維持する。
【0031】上述のワークに対する蒸気洗浄および乾燥の一連の処理終了後において、バルブ32,33を開弁し、各要素32,34,33,20を介して蒸溜溶剤Aを減圧タンク1の溶剤貯溜部1aに供給して、次のワークの蒸気洗浄および乾燥処理に備える。」

(カ)「【0033】このように上記構成の蒸気洗浄装置によれば、上述のワークは減圧乃至真空状態下において減圧タンク1内部で蒸気洗浄されるので、上述の導出手段(ライン37参照)はワークの蒸気洗浄後つまりワークの乾燥に先立って減圧タンク1内の溶剤Aを減圧タンク1外へ導出するので、ワークの乾燥時において減圧タンク1内の溶剤Aが気化してワークの乾燥が妨げられることがなく、良好なワーク乾燥を実行することができる効果がある。」

(キ)図1には、以下の事項が示されている。


(ク)前記(ア)の段落【0001】によると、甲4に記載された発明は、蒸気洗浄装置に係るものであり、甲4には、当該蒸気洗浄装置による蒸気洗浄方法も記載されていることは明らかである。

(ケ)前記(ア)の段落【0001】及び前記(イ)の段落【0013】によると、加熱コイル15は、ハイドロカーボンなどの溶剤蒸気を形成するものである。

(コ)前記(イ)の段落【0013】及び前記(オ)の段落【0025】〜【0026】によると、減圧タンク1は、真空ポンプ10によって真空にされ、真空状態で溶剤貯留部1aの液中に配置された加熱コイル15により溶剤を加熱し溶剤蒸気を発生させ、当該溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄するものである。

(サ)前記(ウ)、前記(オ)の段落【0025】〜【0028】及び前記(キ)によると、バルブ29は、冷却タンク6と減圧タンク1のポート19との間に介設され、開弁または閉弁を行うものである。

(シ)前記(オ)の段落【0026】〜【0028】及び前記(サ)によると、冷却タンク6は、ワークの蒸気洗浄終了後において、減圧タンク1のポート19との間に介設されたバルブ29を開く前に真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49を開弁することで予め真空状態に成すものである。

(ス)前記(イ)の段落【0011】及び前記(オ)の段落【0028】によると、冷却コイル2は、冷却タンク6に内設され、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気を凝縮するものである。

(セ)前記(オ)の段落【0027】〜【0029】によると、ワークを蒸気洗浄した後、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引し、凝縮させ、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理するものである。

(ソ)前記(エ)、前記(オ)の段落【0025】及び前記(サ)によると、真空ポンプ10によって、ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6のアウトレットポート4と真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49及び減圧タンク1のポート19と冷却タンク6のインレットポート3との間に介設されたバルブ29を開弁して減圧タンク1内を真空状態にする工程を含むものである。

(タ)前記(オ)の段落【0026】〜【0028】及び前記(シ)によると、ワークの蒸気洗浄終了後にバルブ29を開く前に真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49を開弁することで冷却タンク6を予め真空状態に成す工程を含むものである。

(チ)前記(イ)の段落【0013】、前記(オ)の段落【0025】〜【0026】、前記(ケ)及び前記(コ)によると、真空状態にされた減圧タンク1内において、溶剤貯留部1aの液中に配置された加熱コイル15によりハイドロカーボンなどの溶剤を加熱し溶剤蒸気を発生させ、当該溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する工程を含むものである。

(ツ)前記(イ)の段落【0011】、前記(オ)の段落【0028】及び前記(ス)によると、予め真空状態に成した冷却タンク6内の冷却コイル2の温度を、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気を凝縮させるものとする工程を含むものである。

(テ)前記(オ)の段落【0027】〜【0029】及び前記(セ)によると、減圧タンク1内でのワークの蒸気洗浄終了後であり、冷却タンク6を予め真空状態に成した後、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引し、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気は冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理する工程を含むものである。

イ 甲4に記載された発明の認定
甲4には、前記アに記載した事項を踏まえると、次の発明(以下、「甲4発明1」〜「甲4発明2」という。また、「甲4発明1」〜「甲4発明2」をまとめて、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲4発明1]
真空ポンプ10と、
ハイドロカーボンなどの溶剤蒸気を形成する加熱コイル15と、
前記真空ポンプ10によって真空にされ、真空状態で溶剤貯留部1aの液中に配置された前記加熱コイル15により溶剤を加熱し前記溶剤蒸気を発生させ、当該溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する減圧タンク1と、
ワークの蒸気洗浄終了後において、前記減圧タンク1のポート19との間に介設されたバルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49を開弁することで予め真空状態に成す冷却タンク6と、
前記冷却タンク6に内設され、前記冷却タンク6に吸引された前記溶剤蒸気を凝縮する冷却コイル2と、
前記冷却タンク6と前記減圧タンク1のポート19との間に介設され、開弁または閉弁を行う前記バルブ29と、を備え、
前記溶剤蒸気によりワークを蒸気洗浄した後、前記バルブ29を開いて前記減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して前記冷却タンク6に差圧吸引し、凝縮させ、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて前記減圧タンク1内のワークを乾燥処理する
蒸気洗浄装置。

[甲4発明2]
真空ポンプ10によって、ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6のアウトレットポート4と前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49及び減圧タンク1のポート19と前記冷却タンク6のインレットポート3との間に介設されたバルブ29を開弁して前記減圧タンク1内を真空状態にする工程、及びワークの蒸気洗浄終了後に前記バルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設された前記バルブ49を開弁することで前記冷却タンク6を予め真空状態に成す工程と、
真空状態にされた減圧タンク1内において、溶剤貯留部1aの液中に配置された加熱コイル15によりハイドロカーボンなどの溶剤を加熱し溶剤蒸気を発生させ、当該溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する工程と、
予め真空状態に成した前記冷却タンク6内の冷却コイル2の温度を、前記冷却タンク6に吸引された前記溶剤蒸気を凝縮させるものとする工程と、
前記減圧タンク1内での前記ワークの蒸気洗浄終了後であり、前記冷却タンク6を予め真空状態に成した後、バルブ29を開いて前記減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して前記冷却タンク6に差圧吸引し、前記冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気は前記冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて前記減圧タンク1内の前記ワークを乾燥処理する工程と、
を含む蒸気洗浄方法。

(3)甲2
請求人が無効理由1、無効理由2及び無効理由3に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属製や合成樹脂製の機械部品・熱処理部品・メッキ部品等のワークを減圧下で蒸気洗浄する真空脱脂洗浄方法とその方法に使用する真空洗浄機に関する。」

イ 「【0018】本発明で使用する上記石油系溶剤としては、第4類第3石油類の洗浄性を有するものが、望ましい。なぜなら、この種の溶剤では、消防法上の貯溜量を、大容量の2000リットル未満まで可能としているからである。かかる石油系溶剤は、一般的にクリーニングソルベントと呼ばれており、具体的には、「クリーンソルG」(日本石油製)・「ダフニーソルベント」(出光石油製)等を使用することができる。」

ウ 「【0021】そして、この真空脱脂洗浄方法では、蒸気洗浄に使用する溶剤が、石油系溶剤であることから、従来の塩素系溶剤やフッ素系溶剤と相違して、毒性が低く無害である。そのため、本発明では、排水処理施設を利用しなくとも、ワークを洗浄することができる。また、本発明では、作業環境の悪化や公害の発生を防止して、ワークを洗浄することができる。
【0022】また、減圧下で蒸気洗浄するため、ワークの隅々まで、溶剤が行き渡るので、良好に洗浄することができる。
【0023】さらに、石油系溶剤は、塩素系溶剤やフッ素系溶剤に比べて、略全て回収できることとなる。なぜなら、石油系溶剤は、比揮発度を1/300〜1/600として揮発し難い。そして、蒸気を発生させないように大気圧に復圧させたり冷却させた後に、ワークの搬入や搬出を行なえば、揮発分は無視できる程度となるからである。
【0024】さらにまた、使用する石油系溶剤は、交換することなく、長い時間にわたって、高い洗浄効果を維持することができる。なぜなら、石油系溶剤を減圧下で蒸発させる際、石油系溶剤と石油系溶剤に混合される油脂類との比揮発度の差は、減圧するにしたがって広がる。すなわち、洗浄後の石油系溶剤が、ワークの洗浄後に汚れて油脂類との混合液となっても、純度の高い石油系溶剤を蒸発させることが可能となる。そのため、石油系溶剤は、交換することなく、長い時間にわたって、高い洗浄効果を維持することができ、ランニングコストを低減することができる。」

エ 「【0029】さらにまた、この洗浄方法では、安全に洗浄することができる。なぜなら、減圧(例えば5〜100Torr)した後に、石油系溶剤を蒸発させているため、発火に必要な酸素が極めて少なくなるからである。さらに、洗浄時に、減圧下を維持するため、洗浄室が密閉構造となり、石油系溶剤の発火が抑えられるからである。
【0030】なお、洗浄後のワークを取り出す際にも発火を防止することができる。すなわち、窒素ガス等の不活性ガスを洗浄室に導入して復圧させるようにすれば、酸素が少なくなって、かつ、蒸発していた石油系溶剤が圧力の上昇で液化してしまうことから、ワーク取出時の発火も防止することができるからである。」

オ 「【0063】図4に示す真空洗浄機M3は、蒸気発生装置34を洗浄室31と分離させている。また、洗浄室31内の下部に、浸漬槽32を設けている。浸漬槽32には、溶剤4と同様な浸漬用溶剤33が貯溜されている。この真空洗浄機M3は、洗浄室31内のワークWを載せる架台を昇降可能にして、蒸気洗浄する前段階において、ワークWを浸漬洗浄できるように構成したものである。すなわち、この真空洗浄機M3を使用する場合には、蒸気洗浄工程と乾燥工程との2工程でワークWを洗浄し、蒸気洗浄工程において浸漬洗浄も行なう。」

カ 「【0065】そして、蒸気洗浄工程において、まず、ワークWを、開閉扉3を開けて洗浄室31の図示しない架台上に載置し、開閉扉3を閉めた後、洗浄室31内を5〜100Torrに減圧する。その後、図示しない架台を下方・上方へ数回移動させて、ワークWを浸漬槽32で洗浄した後、再度、架台を上昇させ、上下の電磁弁Vを開弁させる。すると、洗浄室31内が上方の電磁弁Vから流入した溶剤蒸気で充満され、ワークWを蒸気洗浄することとなる。なお、この時、油脂類を溶解させた溶剤は、浸漬槽32に滴下し、下方の電磁弁Vから蒸気発生装置34に戻り、循環使用されることとなる。」

(4)甲3
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「(産業上の利用分野)
この発明に係る有機溶剤を使用する洗浄装置は、フロン等の有機溶剤を用いて各種物品の表面に付着した油等の汚れを落とす為に利用するものである。
(従来の技術)
金型、空気軸受用の多孔質焼結金属、或はIC基板等、各種物品の表面に付着した油等の汚れを、フロン、トリクロルエチレン等の有機溶剤を洗浄液として使用する事で洗浄する事が、一般的に行なわれている。」(公報第1ページ右欄第12行〜第2ページ左上欄第2行)

イ「(発明が解決しようとする課題)
ところが、上述の様に構成され作用する、先発明に係る洗浄装置に於いては、次に述べる様な不都合を生じる。
即ち、洗浄作業を開始する際、更には洗浄槽2内に有機溶剤を送り込む事で、被洗浄物17の洗浄作業を行ない、洗浄槽2から液状の有機溶剤を排出した後には、洗浄槽2内に存在する空気、或は有機溶剤蒸気を、真空ポンプ13により排出するが、この真空ポンプ13による空気、或は有機溶剤蒸気の排出速度と到達可能な真空度とは、真空ポンプ13の能力により決定される。
洗浄効果を上げる為には、被洗浄物17に付着した液滴を突沸させる事で、被洗浄物17の表面に付着した汚れを吹き飛ばす事が効果があるが、この様に液滴を突沸させる為には、洗浄槽2からの気体の排出速度を速くする必要がある。
又、洗浄作業終了後、蓋1を開いた場合に、周囲に拡散する有機溶剤蒸気の量を少なくする為には、到達可能な真空度を高める必要がある。
上述の様な問題に対処する為には、真空ポンプ13として、大型のもの、或は高性能のものを使用する必要があるが、真空ポンプ13を大型化したり、高性能化したりする場合、設置スペースが嵩むだけでなく、真空ポンプのコストが極端に高くなる(特に真空度を高める場合)為、好ましくない。
本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置は、上述の様な不都合を解消するものである。」(公報第2ページ右下欄第18行〜第3ページ右上欄第6行)

ウ「更に、本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置に於いては、上記洗浄槽と上記再生回収手段との間に、内部に冷却手段を有する密閉容器を設けると共に、この密閉容器と上記洗浄槽とを、途中に第一の開閉弁を有する第一の接続管により、密閉容器と上記再生回収手段の内部とを、途中に第二の開閉弁を有する第二の接続管により、それぞれ接続している。
(作 用)
上述の様に構成される、本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置により、被洗浄物を洗浄する場合の作用自体は、前述した先発明の洗浄装置と同様である。
但し、本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の場合、洗浄槽内からの気体の排出を迅速に行ない、しかも必要とすれば、洗浄槽内の真空度を高める事が出来る。
即ち、本発明の洗浄装置に於いて、洗浄槽内の気体を排出する場合には、先ず、第一の開閉弁を閉じ、洗浄槽と密閉容器との連通を断った状態のまま、第二の開閉弁を開き、再生回収手段の内部に存在する有機溶剤蒸気を、上記密閉容器内に導入する。
密閉容器内に有機溶剤蒸気を導入したならば、第一、第二の開閉弁を何れも閉じ、上記密閉容器内に設けた冷却手段を運転する事により、密閉容器内の有機溶剤蒸気を凝縮液化する。
この結果、密閉容器内の圧力が低下する為、第二の開閉弁を閉じたまま、それ迄閉じていた第一の開閉弁を開けば、洗浄槽内に存在する気体が密閉容器内に吸引され、洗浄槽内の圧力が急激に低下する。
密閉容器内に吸引された気体の内に有機溶剤蒸気が含まれる場合、この有機溶剤蒸気は、この密閉容器内の冷却手段により次々に凝縮液化され、密閉容器内の圧力が低下する為、洗浄槽から密閉容器への有機溶剤蒸気を含む気体の吸引は、その後も継続して行なわれる。」(公報第3ページ右上欄第17行〜第3ページ右下欄第14行)

エ「第1図は本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の第一実施例の要部を示す略縦断面図である。
上端開口部に蓋1を設け、内部に被洗浄物を収納した状態で密閉自在な洗浄槽2と、再生回収手段である蒸留器12との間には、密閉容器26を設けている。
この密閉容器26の内部には、冷却手段である冷却パイプ27を配設して、密閉容器26内に送り込まれた気体を冷却自在としている。
この様な密閉容器26と上記洗浄槽2とは、途中に第一の開閉弁28を有する第一の接続管29により接続する事で、洗浄槽2内に存在する気体を、第一の接続管29を通じて、密閉容器26内に吸引自在としている。
又、密閉容器26の側面を貫通して設け、途中に第二の開閉弁30を設けた第二の接続管31の他端を、上記蒸留器12の中間部側面を貫通させ、この蒸留器12内に開口させて、蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気を、密閉容器26内に導入自在としている。
又、密閉容器26の底部に一端を接続し、途中に第三の開閉弁32を設けた第三の接続管33の他端は、上記蒸留器12の下部側面を貫通して、この蒸留器12内に開口させ、密閉容器26内で有機溶剤蒸気が凝縮する事で生じた液状の有機溶剤を、蒸留器12内に送り込み自在としている。
更に、前記第一の接続管29の途中で、第一の開閉弁28と密閉容器26との間部分には、三方弁34を設けている。三つのポートの内の二つのポートを、上記第一の接続管29に接続した三方弁34の、残り一つのポートには、吸入管35の一端を接続しており、この吸入管35の他端を、真空ポンプ13の吸入口に接続している。そして、この真空ポンプ13の吐出口に一端を接続した吐出管36の他端は、上記密閉容器26を気密に貫通させ、この密閉容器26内に開口させている。
上述の様に構成される、本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の他の構成部分、及び洗浄槽2内に収納した被洗浄物を洗浄する際の作用自体は、前述した先発明の洗浄装置と同様である。
但し、本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の場合、洗浄糟2内の気体を排出する為の真空ポンプ13の性能を特に向上させなくても、液状の有機溶剤を使用して被洗浄物を洗浄した後、この液状の有機溶剤を洗浄槽2から排出する作業を迅速に行ない、しかも洗浄槽2内の真空度を高める事が出来る。
即ち、本発明の洗浄装置に於いて、洗浄後に洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を排出する場合には、先ず、第一の接続管29の途中に設けた第一の開閉弁28を閉じ、洗浄槽2と密閉容器26との連通を断った状態のまま、第二の開閉弁30を開き、再生回収手段である蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気を、第二の接続管31を通じて、上記密閉容器26内に導入する。この際、第一の接続管29の途中の三方弁34は、第一の接続管29をそのまま連通する状態に(第一の接続管29と吸入管35とは連通させない状態に)、切り換えておく。
この様にして、密閉容器26内に有機溶剤蒸気を導入したならば、第一、第二、第三の開閉弁28、30、32を何れも閉じ、上記密閉容器26内に設けた、冷却手段である冷却パイプ27内に冷媒を流通させる事により、密閉容器26内の有機溶剤蒸気を凝縮液化する。
密閉容器26内で有機溶剤蒸気が凝縮液化する結果、密閉容器26内の圧力が低下する。
そこで、第二、第三の開閉弁30、32を閉じたまま、それ迄閉じていた第一の開閉弁28を開き、前記洗浄槽2内に残留していた有機溶剤蒸気を上記密閉容器26内に吸引する。
第一の接続管29を通じ、洗浄槽2内の有機溶剤蒸気が密閉容器26内に吸引されるのは、極く短時間の間に行なわれる為、洗浄槽2内の圧力が急激に低下し、この洗浄槽2内に収納された被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し、この被洗浄物の表面に付着した汚れを吹き飛ばして、続いて行なわれる洗浄作業による洗浄効果を向上させる。
第一の接続管29を通じて密閉容器26内に吸引された有機溶剤蒸気は、この密閉容器26内に設けられた冷却パイプ27により冷却されて、次々に凝縮液化される為、洗浄槽2から密閉容器26に有機溶剤蒸気が吸引されても、密閉容器26内の圧力は殆ど上昇せず、洗浄槽2から密閉容器26への有機溶剤の吸引は、その後も継続して行なわれ、洗浄槽2内の圧力が低下する。
上述の様に、密閉容器26内で有機溶剤蒸気を凝縮液化する事で、洗浄槽2内の圧力を相当に低下させる事が出来るが、この凝縮液化による圧力低下のみでは、洗浄槽2内の真空度が不十分である場合は、第一の接続管29の途中の三方弁34を、第一の接続管29と真空ポンプ13の吸入管35とを通じさせる状態に切り換え、この真空ポンプ13を運転する。
この様にして真空ポンプ13を運転した場合、洗浄槽2内の有機溶剤蒸気が、第一の接続管29、吸入管35、真空ポンプ13、吐出管36を通じて、密閉容器26内に送り込まれ、この密閉容器26内で凝縮液化する。
この様にして真空ポンプ26による蒸気排出を行なう際、真空ポンプ13の吐出口は密閉容器26内に、吸入口は洗浄槽2内に、それぞれ連通するが、この際には密閉容器26内の圧力も相当に低くなっている為、真空ポンプの吸入側と吐出側との圧力差を小さくする事が出来、真空ポンプ13として格別高性能のもの(高真空型のもの)を使用しなくても、洗浄槽2内の真空度を十分に高める事が出来る。」(公報第3ページ右下欄第18行〜第5ページ右上欄第8行)

オ 第1図には、以下の事項が示されている。


(5)甲5
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、[ ]内に示した翻訳は、請求人が甲5に添付した翻訳を参考にした当審の翻訳であり、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、甲5に添付した翻訳について、意見はないとしている。



(明細書第1ページ第9〜16行)
[この発明は特に塩素系溶剤を用いる機械部品のクリーニング機械であって、一般的には制御下の温度の液状溶剤を含む主要槽で形成される機械に関わるものであり、主要槽内には、洗浄すべき部品と、この槽に隣接させて、沸騰した溶剤を含む槽とを導入する。上方に向けて開口するこれら二つの槽の上には溶剤で飽和する蒸気の領域がある。]



(明細書第2ページ第18〜30行)
[これらの欠点を回避するために、洗浄チャンバーの下流に真空低温凝縮器を包含し、この凝縮器の下流に前記凝縮器を負圧にするための真空ポンプを包含する機械が既に提案されている。溶剤蒸気が真空凝縮器内に吸い込まれるときに、この凝縮器の内側に行き渡る低温により溶剤蒸気は瞬時に凝縮されるので、この機械により洗浄チャンバーの排出アイドルタイムを著しく低減することが可能となる。このことにより、比較的低減されたサイズの吸い込みポンプを予定することが可能となり、それによって、周知の技術の機械よりも経済的であると同時に効率的な機械を予定することが可能となる。]




(明細書第2ページ第31行〜第3ページ第9行)
[その反面、このタイプの機械は、機械の実際の熱量吸収に対して大きすぎる冷凍コンプレッサの使用が必要となるという欠点を呈する。
例えば、およそ5分の期間のサイクルを有し、乾燥フェイズのために150Kcalの吸収を必要とする機械を参照するなら、この吸収は、可能な限り短い(およそ30秒の)乾燥時間で実現されるために、18,000Kcal/hの吸収ピークを必要とすることが容易に分かる。冷凍コンプレッサがこの吸収のために寸法を定められねばならないとすると、冷凍コンプレッサは対応する出力を有さなければならないことに気づくのは容易い。他方で、このコンプレッサはサイクルタイムの残りの4.5分の間ほぼ全く使用されないままとなる。]



(明細書第3ページ第22〜33行)
[本発明の目的は、これらの欠点を回避することができ、かつ、大きすぎるコンプレッサの使用を回避すると同時に十分に少ない応答時間を維持することを可能にする冷凍システムを特に備える洗浄機械を実現することである。本発明によると、凝縮すべき気体状流体と接触する面を有する熱交換壁を包含し、前記熱交換壁はその反対側で大きなボリュームの冷気蓄積を画定することを特徴とする流体低温凝縮器の実施により、これらの結果が得られる。]



(明細書第4ページ第19行〜27行)
[チャンバー1は、使用される溶剤の凍結温度を下回る温度で(同様に図示されていない)適切な冷凍コンプレッサにより冷却される凝縮器4と、バルブ3を備える配管2を介して連通する。
この凝縮器4の作業温度は例えば、パークロロエチレンのような−20℃に近い凍結温度を有する溶剤を用いるとき、−25℃で選択される。]



(明細書第4ページ第28〜33行)
[次いで第二配管7が、制御バルブ8を介して凝縮器4を真空ポンプPVに連通する。もう一つの別のバルブ10が配管7を大気と連通する。所望であれば、大気の方への流出が場合によっては活性炭フィルタFFを介して実行されることができる。]



(明細書第5ページ第13〜18行)
[本発明によると、凝縮器4は図2に図式的に図解されるように実現される。壁4の内側には円筒状タンク20が組み立てられる。このタンクの外側表面と壁4の内部表面との間には、ポンプPVを使って真空に維持される中間ボリュームVが設けられた。]



(明細書第6ページ第3〜10行)
[容易に分かるように、タンク20内に含まれる流体質量は冷気蓄積ボリュームを構成し、フライホイールの代わりを務め、最大要求の際に非常に短い時間で、−多くの熱量であっても− 冷気を譲渡することができる。ただし、この同じボリュームは、冷気を、すなわち、先に譲渡されたのと同じ熱量を、サイクルの全期間の間に蓄積することができる。]



(明細書第6ページ第11〜26行)
[各サイクルタイムにつき150Kcalが要求された先の例と同じ例を参照するなら、これらの熱量は、凝縮の温度を5℃下回る温度を有する30リットルの流体質量により譲渡されることができることに気づくのは容易い。その場合、例えば40リットルの容量のタンク20を用いて、要求される熱量の吸収は、30秒という要求される最小時間で実行されることが確かにできる。他方で、上述の例においては、30秒で必要な効率を持つために18,000Kcal/hの冷凍コンプレッサの出力が予定されていたが、予定される熱量が5分の全サイクルタイム、すなわち10倍上回る時間で回復されるので、冷凍コンプレッサの出力は同時に十分の一に低減されうることは明らかである。]




(明細書第6ページ第27行〜第7ページ第1行)
[本発明による凝縮器の作用は明白である。ダクト2を介して洗浄チャンバー1から来る溶剤蒸気は、真空空間V内に吸い込まれ、タンク20の冷たい壁と接触して凝縮する。凝縮液はこの同じ壁を伝って流れ、凍結される前に底に落ちて蓄積される。凍結された溶剤のベールが壁20上に形成されるとしても、このベールは後続のサイクルの際に熱い蒸気の到来により溶かされるであろう。次々に、中間空間Vを大気圧に戻した後、液状溶剤はバルブ25を介して定期的に除去される。]



(明細書第7ページ第2〜16行)
[一般的に、タンク20のサイズが妥当なら、このタンク内に含まれる冷却流体質量は、蒸気の凝縮フェイズの間に温度の増大を被るが、そのボリュームが大きいので、温度の増大は非常に限定され、いずれにせよ流体質量は依然として蒸気の凝縮温度を下回る温度のままである。
したがって、本発明による実施の長所は、既に述べたように出力が顕著に下回るであろう冷凍コンプレッサの費用の観点からだけでなく、サイクルタイムの全体の間に規則的かつ一様に機能するので、とりわけその活用と保守との観点からも、全く明らかである。]

シ Fig.1には、以下の事項が示されている。


ス Fig.2には、以下の事項が示されている。


(6)甲6
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲6には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、[ ]内に示した翻訳は、請求人が甲6に添付した翻訳を参考にした当審の翻訳であり、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、甲6に添付した翻訳について、異論はないとしている。



[[0001]
本発明は、洗浄設備を運転するための方法に関する。
[0002]
このような設備は、閉鎖可能な作業チャンバ内で溶剤によって被加工物を洗浄するために用いられる。溶剤として、通常、炭化水素、塩素化炭化水素およびアルコールが使用される。]





[[0003]
公知の洗浄設備(Pero-Reinigungsanlage 2500)では、洗浄すべき被加工物を作業チャンバ内にもたらした後、作業チャンバが閉鎖され、作業チャンバに負圧が加えられ、これによって、作業チャンバ内に存在する空気が十分に除去される。次いで、予め設定された洗浄プログラムが実行される。この洗浄プログラムでは蒸気脱脂も行われる。このために、作業チャンバと蒸気容器との間に接続路が形成される。これによって、溶剤蒸気が作業チャンバ内に流れる。洗浄プログラムの終了後、乾燥プロセスが開始される。この乾燥プロセスでは、ブロワが溶剤蒸気を処理チャンバから凝縮器に圧送する。この凝縮器は、極低温で作動する冷凍ユニットから成っている。この冷凍ユニットは、使用される溶剤に応じて−40℃〜−60℃の温度を有している。これによって、溶剤蒸気が凝縮する。作業チャンバから最後の溶剤残分を除去するために、作業チャンバ内に存在する溶剤含有の空気が、高い負圧を加えることによって吸引され、凝縮器に供給される。この凝縮器から空気がガス集合容器に達する。このガス集合容器内の空気は、溶剤蒸気の残分をまだ含んでいる。いま、通気弁が開放される。これによって、作業チャンバ内に新気が流入することができる。この作業チャンバ内に正常圧が形成されると、作業チャンバが開放され、洗浄
された被加工物が取り出される。
[0004]
この洗浄設備における装置上の手間は、特に冷凍ユニットとして形成された凝縮器のため多大である。この凝縮器は極低温で作動するにもかかわらず、乾燥プロセス時に処理チャンバ内に導入された溶剤含有の空気から、この空気の吸引後に溶剤を完全に除去することが不可能であり、これによって、付加的な手間として、ガス集合容器が必要になってしまう。
[0005]
独国特許出願公開第19527317号明細書に基づき、作業チャンバの排気後に溶剤蒸気を作業チャンバに供給し、洗浄工程後に真空ポンプによって再生のために凝縮器内に到達させ、発生させられた溶剤凝縮物を蓄え容器に供給し、作業チャンバにおいて通気を行って、洗浄物を取り出す洗浄法がすでに公知である。]



[[0008]
本発明に係る方法の主要な利点は、比較的高価で保守の頻度が高い冷凍ユニットを省略することができる点にある。方法を実施するためには、より簡単に構成された僅かな構成部材しか必要とならない。これによって、保守の手間を減らすことができ、運転コストを削減することができる。本発明に係る方法によって、低い温度範囲で、例えばプラスチックを洗浄することも可能となり、これによって、クロロフルオロカーボンを代替することができる。溶剤排出が少ないことに基づき、手間のかかる濾過・回収システムなしでも、方法を実施することができる。]



[[0010]
概略的に図示した洗浄設備は、蒸気発生器1を有している。この蒸気発生器1内では、液状の溶剤が加熱されて、飽和した溶剤蒸気が発生させられる。蒸気発生器1から、遮断弁3が内部に配置された第1の蒸気管路2が、圧力密に閉鎖可能な作業チャンバ4に通じている。この作業チャンバ4内には、洗浄すべき部材が洗浄工程中に収納されている。作業チャンバ4には、通気弁5が配置されている。蒸気発生器1から、蒸気圧弁7を備えた第2の蒸気管路6が、空冷式または水冷式の凝縮器8の第1の部分8aに通じている。作業チャンバ4は、第1の吸引管路9を介して第1の真空ポンプ10に接続されている。第1の吸引管路9内には、弁11が配置されている。さらに、第1の真空ポンプ10は、第2の吸引管路12を介して凝縮器8に接続されている。第2の吸引管路12内には、別の弁13が介装されている。さらに、作業チャンバ4から、弁15を備えた第1の分岐管路14が凝縮器8の第1の部分に通じている。さらに、作業チャンバ4には、第2の分岐管路16が接続されている。この第2の分岐管路16は、弁17を介して第2の真空ポンプ18に通じている。この第2の真空ポンプ18の出口は、別の弁19を介して圧縮機20の入口に接続されている。この圧縮機20の出口は、凝縮器8の第2の部分8bに接続されている。]



[[0013]
本来の洗浄運転前に、まず、真空ポンプ10を介して、システム内に存在する空気が吸引される。システムから空気がなくなると、真空ポンプ10を引き続き作動させることなく、連続的な蒸留を行うことができる。この場合、蒸気発生器1内で発生させられた溶剤蒸気が、弁3を閉鎖したまま、管路6を介して凝縮器8の部分8aに流れ、そこで、液化される。凝縮器8から流出した凝縮物が水分離器22内に達する。そこで水から分離された蒸留物が、ポンプ25によって管路27を介して再び蓄え容器28内に導入される。余剰の溶剤は、オーバフロー管路37を介して蒸気圧容器1内に導出させることができる。連続的な蒸留によって、不変の洗浄クオリティを保証することができ、溶剤へのオイルおよびグリースの添加を阻止することができる。]



[[0014]
作業チャンバ4が、洗浄すべき部材で満たされ、閉鎖され、真空ポンプ10によって管路9を介して、1mbarを下回る圧力にまで排気された後、弁11が閉鎖され、選択可能な洗浄プログラムに応じた部材の本来の洗浄を行うことができる。
[0015]
部材を洗浄浴内で洗うために、弁29が開放される。これによって、作業チャンバ4に、蓄え容器28内で加熱された溶剤を送り込むことができる。浴洗浄の終了後、溶剤が、この場合に開放された弁33、34とフィルタ32とを介して流出させられ、ポンプ25を介して再び蓄え容器28内に返送されるようになっている。
[0016]
蒸気脱脂を実施するために、弁3が開放される。これによって、蒸気発生器1内に存在する溶剤飽和蒸気が、管路2を介して作業チャンバ内に流れる。この作業チャンバ1内では、溶剤蒸気によって、洗浄すべき物品から、付着しているグリースまたはオイルが除去される。
[0017]
この洗浄ステップの終了時には、弁15が開放される。これによって、空冷式または水冷式の凝縮器8の凝縮圧に近似の圧力が達成されるまで、飽和蒸気が作業チャンバ4から凝縮器の部分8aに流れ、そこで、液化される。凝縮器8から流出した凝縮物は、水分離器22とポンプ25とを介して再び蓄え容器28に供給される。]



[[0018]
作業チャンバ4と凝縮器8の部分8aとの間で圧力均等化が生じると、弁15が閉鎖され、弁17が開放される。第2の真空ポンプ18を介して、まだ作業チャンバ4内に存在している残りの溶剤蒸気が吸引され、圧縮機20によって圧縮される。この圧縮機20を介して圧力が増加させられ、こうして、残りの溶剤蒸気を空冷または水冷によって完全に凝縮させることができる。増圧は、使用される溶剤に左右される。溶剤として、例えばトリクロロエチレンまたはパークロロエチレンが使用される場合には、圧力が、1barを上回る圧力に増加させられる。クロロメタンの使用時には、圧力が、2barよりも高い圧力に増加させられる。これによって、溶剤蒸気が、空冷または水冷により容易に凝縮可能となる程度に温められる。こうして、圧縮機20を介して圧縮された蒸気が、凝縮器8の部分8b内で液化され、凝縮物が、凝縮物分離器39と水分離器22とを介して再び蓄え容器28に供給されるようになっている。]



[[0020]
残りの溶剤蒸気が作業チャンバ4から吸引されると、弁17は閉鎖される。いま、通気弁5を開放することができる。これによって、新気が作業チャンバ4内に流れる。周辺と作業チャンバ4との間に圧力均等化が生じると、作業チャンバ4を開放して、洗浄された被加工物を取り出すことができる。]

ケ Fig.1には、以下の事項が示されている。


(7)甲7
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲7には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品、機械部品、プリント基板等の被洗浄物を、炭化水素系溶剤、アルコール溶剤等の可燃性溶剤を用いて減圧蒸気洗浄するための減圧蒸気洗浄装置に関するものである。」

イ「【0010】本発明の課題は、これらの問題点に着目して、小型で廉価に製造でき、溶剤保有量が少なく、しかも、効率的な蒸気発生を行うことのできる蒸気発生機構を備えた減圧蒸気洗浄装置を提案することにある。また、本発明の課題は、蒸気洗浄に使う溶剤蒸気の品質の向上かつ安定化を図り、汚れであるオイルミストを容易に分離することのできる減圧蒸気洗浄装置を提案することにある。」

ウ「【0025】(第1実施例)図1は、第1実施例に係る減圧蒸気洗浄装置を示す概略構成図である。この図を参照して説明すると、減圧蒸気洗浄装置1Aは、蒸気洗浄槽1を有し、この上部には密閉可能な蓋1aが取付られている。蒸気洗浄槽1の下部には、蒸気発生機構を構成している蒸発器用熱交換器3における溶剤蒸気吹き出し口3aが直接接続されている。この蒸発器用熱交換器3は、入口3bから溶剤を供給すると出口から溶剤蒸気が出る形式の熱交換器である。」

エ「【0029】蒸気洗浄槽1は、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と凝縮器4を介して、真空ポンプ6に接続されており、これで真空引きされる。凝縮器4は冷却水で冷却されており、真空引きされた溶剤蒸気は凝縮器4で凝縮し、溶剤に戻る。また蒸気洗浄槽1には、真空度を測定する真空計8と真空状態を解除するための大気ベントバルブ16とサイレンサー17がつけてある。」

オ「【0032】次に、この構成の減圧蒸気洗浄装置1Aによる減圧蒸気洗浄及び真空乾燥の手順を説明する。まず、蒸気洗浄槽1に被洗浄物の入った洗浄バスケット2をセットし、蓋1aを閉める。次に真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と溶剤回収タンク真空引きバルブ19を開け、蒸気洗浄槽1と蒸発器用熱交換器3と溶剤回収タンク5を真空引きする。この時、蒸気洗浄槽排液バルブ15を開ける。蒸気洗浄槽の真空度は、真空計8で測定し、真空度が50Torrになったら、真空ポンプ6を停止し、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と溶剤回収タンク真空引きバルブ19を閉じる。
【0033】この後に、溶剤供給バルブ10を開ける。この結果、蒸発器用熱交換器3に溶剤が供給され、スチーム又は熱媒油と熱交換して沸騰し、蒸発器用熱交換器入口3bから供給された溶剤は蒸発器用熱交換器出口3aから溶剤蒸気となって出てくる。蒸発器用熱交換器3の出口3aは、蒸気洗浄槽1の下部の供給口1dに接続しており、溶剤蒸気は、ここから蒸気洗浄槽1の内部に供給される。ここで、蒸発しきれなかった溶剤も一部噴出するが、これは遮蔽板1bに当たって蒸気洗浄槽1の底を流れ、蒸気洗浄槽排液バルブ15を通って、溶剤回収タンク5に回収される。
【0034】溶剤蒸気9は、溶剤蒸気よりも低い温度の被洗浄物や洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1に凝縮するので、この過程で蒸気洗浄される。凝縮することで溶剤蒸気の熱量が被洗浄物や洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1に与えられ、これらの温度が上昇する。これらの温度が溶剤蒸気と同一の温度に達すると、それ以上は溶剤蒸気が凝縮しなくなり、蒸気洗浄が終了する。被洗浄物や洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1に凝縮して垂れた溶剤は、蒸気洗浄槽排液バルブ15を通って、溶剤回収タンク5に回収される。
【0035】蒸気洗浄中の蒸気洗浄槽1の真空度は真空計8で管理し、所定の真空度より低くなったら真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と溶剤回収タンク真空引きバルブ19を開き蒸気洗浄槽1と溶剤回収タンク5を真空引きし、所定の真空度に達したら真空ポンプ6を停止させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と溶剤回収タンク真空引きバルブ19を閉じるという制御を行う。
【0036】真空引きするときには、溶剤蒸気を引くため、凝縮器4で溶剤蒸気を凝縮させ、この溶剤も凝縮器排液バルブ20を介して、溶剤回収タンク5に回収する。溶剤回収タンクの溶剤レベルが液面計22の位置に達すると、自動的に回収タンク排液バルブ21を開け、溶剤ポンプ7を作動させて、溶剤回収タンク内の溶剤を排出する。
【0037】所定の時間、減圧蒸気洗浄を行った後、溶剤供給バルブ10を閉じ、その後蒸気洗浄槽排液バルブ15を閉じ、真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開いて、真空乾燥を行う。この過程でも、被洗浄物、洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1、蒸発器用熱交換器3に付着している溶剤が気化し溶剤蒸気が発生するので、凝縮器4で凝縮回収を行う。
【0038】真空乾燥時の到達真空度は10Torr以下である。真空乾燥時間を短縮するため、真空乾燥スタート時に蒸発器用熱交換器3内の溶剤が空になっているように、減圧蒸気洗浄後半に溶剤供給バルブ10を閉じる方が好ましい。
【0039】真空乾燥が終了すると、大気ベントバルブ16を開け、蒸気洗浄槽1の真空を解除し、蓋1aを開け、洗浄バスケット2を取り出す。この時、被洗浄物、洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1、蒸発器用熱交換器3は完全に乾燥している。」

カ 図1(平成11年7月5日提出の手続補正書による)には、以下の事項が示されている。


(8)甲8
請求人が無効理由1に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲8には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、[ ]内に示した翻訳は、請求人が甲8に添付した翻訳を参考にした当審の翻訳であり、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、甲8に添付した翻訳について、意見はないとしている。

ア「The present invention relates to techniques for use in the manufacture of printed wiring assemblies and more particularly to systems for cleaning rosin flux residues off of printed wiring assemblies.」(第1欄第6〜9行)
[本発明は、プリント配線アセンブリを製造する際に使用する技術に関し、特に、プリント配線アセンブリからロジンフラックス残渣を洗浄するシステムに関する。]

イ「Referring now to FIG. 1, the present invention comprises the system 10 which is adapted for removing rosin flux residues present on printed wiring assemblies which may be resident within the confined spaces around and under the circuit components and integrated circuit chips mounted on wiring assemblies. The system 10 comprises a processing chamber 12, a solvent holding tank 14, a vacuum pump 16, a vacuum holding tank 18, a cold trap 20, and a pair of liquid-phase pumps 22 and 24. The vacuum pump 16 is connected to the processing chamber 12 by way of the vacuum holding tank 18 and the cold trap 20. The pipes 30, 32 and 34 which connect the pump 16 to the tank 18, the tank 18 to the trap 20 and the trap 20 to the chamber 12 provide the necessary conduits for the flow of gas (air) from the processing chamber 12 to the vacuum pump 16. The valves 31, 33 and 35 control flow through the pipes 30, 32 and 34 and allow the pipes to be sealed off during various stages of processing operations. The pipe 36 allows for the flow of condensed solvent material from the cold trap 20 back into the processing chamber 12 when the valve 37 is open.」(第2欄第49行〜第3欄第2行)
[図1を参照すると、本発明は、配線アセンブリに取り付けられた回路構成要素及び集積回路チップの周囲及び下方の閉じ込め空間内に存在し得るプリント配線アセンブリ上のロジンフラックス残渣を除去するように構成されたシステム10を備える。システム10は、処理チャンバ12と、溶剤保持タンク14と、真空ポンプ16と、真空保持タンク18と、コールドトラップ20と、一対の液相ポンプ22及び24とを備える。真空ポンプ16は、真空保持タンク18及びコールドトラップ20を介して処理チャンバ12に接続される。ポンプ16をタンク18に接続する管30と、タンク18をトラップ20に接続する管32と、トラップ20をチャンバ12に接続する管34とは、処理チャンバ12から真空ポンプ16への気体(空気)の流れに必要な導管を提供する。バルブ31、33及び35は管30、32及び34を通る流れを制御し、これらのバルブにより、処理動作の種々の段階において管が密閉される。管36は、バルブ37の開弁時に凝縮溶剤物質がコールドトラップ20から処理チャンバ12へ流れるようにする。]

ウ「The vacuum pump 16 comprises a conventional vacuum pump of the type sufficient to pump down the chamber 12 to a partial vacuum of approximately 1 mm of mercury. The vacuum holding tank 18 is of sufficient size to provide a substantial pressure reservoir so as to equalize loading on the vacuum pump 16 and speed up the pumping down of pressure within the processing chamber 12. The cold trap 20 includes cooling coils 76 cooled by liquid nitrogen and adapted for maintaining the trap 20 at very low temperatures operative for condensing solvent.」(第3欄第48〜58行)
[真空ポンプ16は、チャンバ12を約1mm水銀の部分真空まで排気するのに十分な種類の従来の真空ポンプを含む。真空保持タンク18は、真空ポンプ16に対する負荷を均等化し且つ処理チャンバ12内の減圧を加速するように、実質的な蓄圧器を提供するのに十分なサイズを有する。コールドトラップ20は冷却コイル76を含む。冷却コイル76は液体窒素により冷却され、溶剤を凝縮するように動作可能な非常に低い温度にトラップ20を維持するように構成される。]

エ「Referring back to FIG. 2, the assemblies are then washed with solvent in order to dissolve and remove the flux residues in accordance with step 84. A number of different solvent mixtures and azetropes can be used for cleaning the wiring assemblies including 1,1,1,-trichlorethane, various Freon solvents, alcohols, halons and hydrocarbons such as terpenes and combinations of these solvents with ionic compounds to assist in the removal activators in the rosin flux.」
(第4欄第29−37行)
[図2に戻ると、次に、ステップ84に従って、フラックス残渣を溶解して除去するために、アセンブリを溶剤で洗浄する。配線アセンブリの洗浄には、1, 1, 1ートリクロロエタン、各種フレオン溶剤、アルコール、ハロン、テルペンなどの炭化水素、並びにこれらの溶剤とロジンフラックスの除去活性剤を補助するイオン性化合物との組み合わせを含む多くの異なる溶剤混合物及び共沸混合物を使用できる。]

オ「Reviewing the operation of the system 10 in somewhat greater detail, printed wiring assemblies including SMDs are placed within the processing chamber 12 on the rack 72 immediately after soldering and before flux residues have time to harden. The lid 70 is then clamped in place and all valves are closed so as to seal the chamber 12 sufficiently for a vacuum to be drawn within it. The sequencer/timer 26 is then actuated by the operator in order to begin processing operations which subsequently proceed under control of the sequencer/timer 26. The valves 31, 33 and 35 are opened so as to provide a path between the vacuum pump 16 and chamber 12. The vacuum pump 16 is turned on and air is drawn out of the chamber 12 until a partial vacuum approaching 1 mm of mercury is achieved as signalled by the vacuum gauge 64 whereupon the valves 33 and 35 are closed in order to seal off the chamber 12. The flux residues should now have migrated out of any confined spaces on the on the wiring assemblies on the rack 72 within the processing chamber 12.」(第5欄第4〜23行)
[システム10の動作を更に詳細に検討すると、SMDを含むプリント配線アセンブリは、はんだ付けの直後であってフラックス残渣が硬化する前に処理チャンバ12内のラック72に載置される。次に、チャンバ12内に真空を生成するためにチャンバ12が十分に密閉されるように、蓋70が所定の位置に固定され、全てのバルブが閉じられる。次に、処理動作を開始するためにシーケンサ/タイマ26が操作者により作動され、以降、処理動作はシーケンサ/タイマ26の制御下で進む。真空ポンプ16とチャンバ12との間に経路を提供するために、バルブ31、33及び35が開かれる。真空ポンプ16がオンにされ、1mm水銀に近い部分真空が達成されて真空計64により信号が送信されるまでチャンバ12から空気が抜き出され、チャンバ12を密閉するためにバルブ33及び35が閉じられる。この時点で、フラックス残渣は、処理チャンバ12内のラック72上の配線アセンブリ上の閉じ込め空間から移動している。]

カ「The valve 51 is then opened allowing solvent from the tank 14 to surge down into the processing chamber 12 and flood over the assemblies and the rack 72 in an omnidirectional manner as the chamber is repressurized with solvent. The solvent is thereby enabled to enter confined areas under the influence of pressure differentials and capillary force which might otherwise be inaccessible and further dissolves and washes away flux residues on the assemblies. It should be noted that the solvent may be heated in order to promote its cleaning action however this is not always necessary and may in fact be undesirable with some solvents. After the processing chamber 12 is flooded with solvent, the valve 51 is closed and the valves 53, 43 and 45 are opened as the pumps 22 and 24 are turned on. Solvent is cycled between the tank 14 and the chamber 12 as it is pumped by the pump 22 into the chamber 12 and overflows into the pipe 74 and is further pumped by the pump 24 back into the tank 14. Solvent is thereby flushed through the processing chamber 12 past the assemblies on the rack 72 so as to provide further washing and cleaning action effective for the removal of flux residues. The valve 43 is then closed and the valve 47 is opened as operation of the pump 22 is shut down. All of the free standing solvent is pumped out of the processing chamber 12 into the holding tank 14 by the pump 24.」(第5欄第24〜50行)
[次に、バルブ51が開かれ、溶剤がタンク14から処理チャンバ12に流れ込み、チャンバが溶剤で再加圧されて、アセンブリ及びラック72が全方向に溶剤で満たされる。これにより、溶剤は、圧力差と毛管力の影響を受けて、他の状況ではアクセスできない閉じ込め領域に進入し、アセンブリ上のフラッス残渣を更に溶解して洗い流すことができる。尚、洗浄作用を促進するために溶剤を加熱してもよいが、これは必ずしも必要ではなく、実際、一部の溶剤は加熱が望ましくない場合がある。処理チャンバ12が溶剤で満たされた後、バルブ51が閉じられ、ポンプ22及び24がオンにされるとバルブ53、43及び45が開かれる。溶剤は、ポンプ22によりチャンバ12に送り出され、管74に溢れ出し、更にポンプ24によりタンク14に送り戻されるため、タンク14とチャンバ12との間で循環される。それにより、溶剤は、ラック72上のアセンブリを通過して処理チャンバ12内で流動し、そのため、フラックス残渣の除去に有効な更なる洗浄作用を提供する。次に、ポンプ22の動作が停止すると、バルブ43が閉じられ、バルブ47が開かれる。流動溶剤は全て、ポンプ24により処理チャンバ12から保持タンク14に吸い出される。]

キ「The valves 53, 45 and 47 are then closed as the valves 33 and 35 are again opened. Air is pumped out of the processing chamber by the vacuum pump 16 for a second time until a partial vacuum approaching 1 mm of mercury is again achieved within the chamber 12 as sensed by the vacuum gauge 64. Solvent is thereby evaporated and evacuated from the processing chamber 12 so that the wiring assemblies on the rack 72 are clear of solvent materials.」(第5欄第51〜59行)
[その後、バルブ33及び35が再び開かれると、バルブ53、45及び47が閉じられる。このように、チャンバ12内で1mm水銀に近い部分真空が再度達成されたと真空計64により検出されるまで、真空ポンプ16により処理チャンバから空気が再度吸い出される。これにより、溶剤が蒸発して処理室12から排出され、ラック72上の配線アセンブリに溶剤物質が存在しなくなる。]

ク Fig.1には、以下の事項が示されている。


(9)甲9
請求人が提出した甲9は、株式会社日本ヘイズが作成した工番W03467、型式HWBV−3Nの取扱説明書であり、第1ページ目の中央よりやや上部に「取扱説明書\工番W03467 型式HWBV−3N」(引用記載中の「\」は、原文の改行箇所を示す。以下同様。)の記載と、中央より下部に株式会社日本ヘイズのロゴ、同社の住所、「株式会社日本ヘイズ」の文字及び同社の連絡先が順に示され、「’97.11.20」の日付の出図印がある。そして、第2ページ目には、その中央よりやや上部に「真空脱脂洗浄機取扱説明書\型式:HWBV−3N型\工番:W03467」の記載と、中央より下部に「製造元:株式会社日本ヘイズ」の記載がある。

(10)甲10
請求人が提出した甲10は、株式会社日本ヘイズが作成した確定図面であり、第1ページ目の中央よりやや上部に「確定図面\工番W03467 型式HWBV−3N」の記載と、中央より下部に株式会社日本ヘイズのロゴ、同社の住所、「株式会社日本ヘイズ」の文字及び同社の連絡先が順に示され、「’97.10.31」の日付の出図印がある。
甲10の第2ページ目は、1997年10月31日の日付があり、ノボル鋼鉄株式会社に宛てた、「記:『真空脱脂洗浄機』確定図\型式;HWBV−3N 工番;W03467」とする文書であり、以下の記載がある。
「貴社 益々ご清栄のことと、お慶び申しあげます。
この度、弊社真空脱脂洗浄機を導入頂き誠にありがとうございます。
早速ではございますが首記に関する件につきまして、下記内容で関係図面をご送付申し上げます。


甲10の第7ページには、名称「溶剤配管図」、図番「B−W034−11−503」の記載とともに、以下の図面が示されている。


(11)甲11
請求人が提出した甲11は、株式会社日本ヘイズが作成したシーケンス・プログラム1であり、第1ページ目の中央よりやや上部に「シーケンス・プログラム 1\工番W03467 型式HWBV−3N」の記載と、中央より下部に株式会社日本ヘイズのロゴ、同社の住所、「株式会社日本ヘイズ」の文字及び同社の連絡先が順に示されている。

(12)甲12
請求人が提出した甲12は、株式会社日本ヘイズが作成したシーケンス・プログラム2であり、第1ページ目の中央よりやや上部に「シーケンス・プログラム 2\工番W03467 型式HWBV−3N」の記載と、中央より下部に株式会社日本ヘイズのロゴ、同社の住所、「株式会社日本ヘイズ」の文字及び同社の連絡先が順に示されている。

(13)甲13
請求人が提出した甲13は、令和2年3月5日付けで戸谷 竹志氏が作成した陳述書であり、真空脱脂洗浄機 型式:HWBV−3Nについて、以下の記載及び図面がある。なお、下記ウの「5 溶剤配管図」は、前記(10)の型式HWBV−3Nの溶剤配管図のことである。
ア 「1 経歴
私は、2013年に高砂工業株式会社に入社し、当社において、洗浄機、真空炉といった装置の制御プログラムの開発に従事しています。また、高砂工業株式会社の入社前の1984年〜2013年までの間、当時の株式会社日本ヘイズ(現在の株式会社IHI機械システム)に所属しており、真空脱脂洗浄機の制御プログラムの開発に従事しておりました。したがいまして、真空脱脂洗浄機及びその制御については熟知しております。」(第1ページ第7〜13行)

イ 「2 真空脱脂洗浄機型式:HWBV−3Nについて
1994年頃〜1999年頃までの間、株式会社日本ヘイズはN型シリーズと呼ばれる真空脱脂洗浄機の製造、販売を行っており、HWBV−3NはこのN型シリーズの一機種です。経験と下記資料から私が理解したことを説明いたします。
なお、確定図面とは洗浄機の設計図であり、シーケンス・プログラムとは洗浄機の制御プログラムです。いずれも洗浄機の納品時にお客様にお渡し、その後のメンテナンスのために保管して頂く書類です。工番とは洗浄機の個体番号です。」(第1ページ第14〜21行)

ウ 「(1)洗浄機の構成と動作について
確定図面の「5 溶剤配管図」に洗浄機の概略が図示されています。この洗浄機は、浸漬槽と洗浄室とが分離した構造です。浸漬槽では液体の石油系溶剤にワークを浸漬してその洗浄を行います。ワークは、その後、洗浄室に搬送され、洗浄室内では、石油系溶剤の蒸気によるワークの洗浄を行い、洗浄後には洗浄室内の蒸気を排気してワークの乾燥を行います。」(第2ページ第1〜6行)

エ 「洗浄室における洗浄機の自動制御は、初期動作の後、ワークの搬入動作→ワークの蒸気洗浄→ワークの乾燥→ワークの搬出動作を実行します。
真空ポンプは、水色の経路で示すように、アフタークーラ及び洗浄室メイン真空弁を介して洗浄室と連通しています。

蒸気洗浄では、まず、洗浄室メイン真空弁を開弁して真空ポンプによって洗浄室内を減圧します。その後、洗浄室メイン真空弁を閉弁し、ダンパーを開弁して蒸気発生槽で発生した溶剤蒸気を洗浄室内に吸引します。蒸気発生槽には液状の石油系溶剤に加熱コイルが浸漬されており、その発熱により、溶剤蒸気が発生します。洗浄室内に溶剤蒸気が充満して、ワークの蒸気洗浄を行います。

蒸気洗浄が終了すると、洗浄室メイン真空弁を開弁してワークの乾燥を行います。洗浄室内の溶剤蒸気は、水色の経路で真空ポンプに吸引され、排出されます。これにより、洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥します。
その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されます。アフタークーラには、水を媒体とした熱交換器が内蔵されており、溶剤蒸気を水との熱交換により凝縮する凝縮器です。凝縮した液状の溶剤は、緑色の経路で示すように凝縮タンクに回収され、更に、蒸気発生槽へ戻されて再利用されます。

ワークの乾燥が終了すると、ワークの搬出動作を行います。洗浄室を大気に解放し、洗浄室からワークを搬出します。」(第2ページ下4行〜第3ページ第15行)

オ 「(2)真空ポンプの稼働と洗浄室メイン真空弁の開閉について
真空ポンプは初期動作で稼働を開始した後、異常等が発生しない限り、継続的に運転されます。したがって、アフタークーラは真空ポンプによって常時減圧された状態にあります。
洗浄室メイン真空弁は蒸気洗浄中、閉弁しています。その間、真空ポンプは稼働し続けます。したがって、ワークの乾燥を開始するために洗浄室メイン真空弁を開弁する際、アフタークーラは真空ポンプによって事前に減圧された状態にあると言えます。」(第4ページ第5〜12行)

カ 第2ページには、以下の図面が示されている。


(14)甲14
請求人が提出した甲14は、株式会社IHI機械システムが作成したMACHINE DRAWING FINAL DRAWINGであり、第1ページ目の中央よりやや上部に「MACHINE DRAWING\FINAL DRAWING\Serial No.W272100 Type HWBV−3VS」の記載と、中央より下部に「株式会社IHI機械システム」の文字が記載され、「10.3.03」の日付の出図印がある。
甲14の第2ページ目は、2010年3月3日の日付があり、興光熱処理股ふん(「にんべん」に分)有限公司に宛てた、「記:『真空脱脂洗浄機』確定図面\型式;HWBV−3VS 工番;W272100」とする文書であり、以下の記載がある。
「貴社 益々ご清栄のことと、お慶び申しあげます。
この度、弊社真空脱脂洗浄機を導入頂き誠にありがとうございます。
早速ではございますが首記に関する件につきまして、下記内容で関係図面をご送付申し上げます。



甲14の第8ページには、名称「溶剤配管図」、図番「B−W134−11−502」の記載とともに、以下の図面が示されている。



(15)甲15
請求人が提出した甲15は、株式会社IHI機械システムが作成したシーケンス・プログラムであり、第1ページ目の中央よりやや上部に「シーケンス・プログラム\SEQUENCE PROGRAM\Serial No.W272100 TYPE HWBV−3VS」の記載と、中央より下部に「株式会社IHI機械システム」の文字及び「10.3.03」の日付の出図印がある。

(16)甲16
請求人が提出した甲16は、株式会社IHI機械システムが作成したINSPECTION REPORT Localであり、第1ページ目の中央よりやや上部に「INSPECTION REPORT\Local\Serial W272100 Type HWBV−3V」の記載と、中央より下部に「株式会社IHI機械システム」の文字及び「10.3.03」の日付の出図印がある。

(17)甲17
請求人が提出した甲17は、令和2年3月5日付けで戸谷 竹志氏が作成した陳述書であり、真空脱脂洗浄機 型式:HWBV−3VSについて、以下の記載及び図面がある。なお、下記ウの「6 溶剤配管図」は、前記(14)の型式HWBV−3VSの溶剤配管図のことである。
ア 「1 経歴
私は、2013年に高砂工業株式会社に入社し、当社において、洗浄機、真空炉といった装置の制御プログラムの開発に従事しています。また、高砂工業株式会社の入社前の1984年〜2013年までの間、当時の株式会社日本ヘイズ(現在の株式会社IHI機械システム)に所属しており、真空脱脂洗浄機の制御プログラムの開発に従事しておりました。したがいまして、真空脱脂洗浄機及びその制御については熟知しております。」(第1ページ第7〜13行)

イ 「2 真空脱脂洗浄機型式:HWBV−3VSについて
2002年頃から株式会社日本ヘイズはV型シリーズと呼ばれる真空脱脂洗浄機の製造、販売を行っており、HWBV−3VSはこのV型シリーズの一機種です。経験と下記資料から私が理解したことを説明いたします。なお、MACHINE DRAWING FINAL DRAWINGとは洗浄機の設計図であり、シーケンス・プログラムとは洗浄機の制御プログラムです。いずれも洗浄機の納品時にお客様にお渡し、その後のメンテナンスのために保管して頂く書類です。Serial No.工番とは洗浄機の個体番号です。INSPECTION REPORT Localは、試運転の報告書です。これらの書類の型式表記において、“3VS”と“3V”が混在していますが、“S”は有効寸法と処理重量が異なることを表すもので、それ以外は同じ洗浄機です。」(第1ページ第14〜23行)

ウ 「(1)洗浄機の構成と動作について
MACHINE DRAWING FINAL DRAWINGの「6 溶剤配管図」に洗浄機の概略が図示されています。この洗浄機は、浸漬室の上に洗浄室が配置された構造でワークを浸漬室と洗浄室の間で昇降できます。浸漬室では液体の石油系溶剤にワークを浸漬してその洗浄を行います。洗浄室では石油系溶剤によるシャワー洗浄、蒸気洗浄、乾燥を行います。」(第2ページ第1〜6行)

エ 「洗浄室における洗浄機の自動制御は、初期動作の後、ワークの搬入動作→ワークのシャワー洗浄→ワークの蒸気洗浄→ワークの浸漬洗浄→ワークの乾燥→ワークの搬出動作を実行します。

真空ポンプは、水色の経路で示すように、アフタークーラ及び洗浄室メイン真空弁を介して洗浄室と連通しています。
蒸気洗浄では、まず、洗浄室メイン真空弁を開弁して真空ポンプによって洗浄室内を減圧します。その後、洗浄室メイン真空弁を閉弁し、再生した清浄な石油系溶剤でシャワー洗浄を行い、次に蒸気発生室で発生した溶剤蒸気を洗浄室内に吸引します。蒸気発生室には液状の石油系溶剤に加熱コイルが浸漬されており、その発熱により、溶剤蒸気が発生します。洗浄室内に溶剤蒸気が充満して、ワークの蒸気洗浄を行います。
蒸気洗浄後の浸漬洗浄では、ワークを浸漬室に降下させて液状の石油系溶剤に浸漬してその洗浄を行います。

浸漬洗浄が終了すると、ワークを洗浄室に上昇させた後、洗浄室メイン真空弁を開弁してワークの乾燥を行います。なお、浸漬室内の石油系溶剤の温度は、蒸気洗浄の石油系溶剤蒸気温度とほぼ同じ高い温度に保持されているので、浸漬後のワークが洗浄室に戻された状態は蒸気洗浄が終了したときの飽和蒸気状態と同じです。
洗浄室内の溶剤蒸気は、水色の経路で真空ポンプに吸引され、排出されます。これにより、洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥します。
その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されます。アフタークーラには、水を媒体とした熱交換器が内蔵されており、溶剤蒸気を水との熱交換により凝縮する凝縮器です。凝縮した液状の溶剤は、緑色の経路で示すように蒸気発生室へ戻されて再利用されます。

ワークの乾燥が終了すると、ワークの搬出動作を行います。洗浄室を大気に解放し、洗浄室からワークを搬出します。」(第2ページ下2行〜第3ページ最終行)

オ 「(2)真空ポンプの稼働と洗浄室メイン真空弁の開閉について
真空ポンプは初期動作で稼働を開始した後、異常等が発生しない限り、継続的に運転されます。したがって、アフタークーラは真空ポンプによって常時減圧された状態にあります。
洗浄室メイン真空弁は乾燥直前の浸漬槽から洗浄室へワークの移動中、閉弁しています。その間、真空ポンプは稼働し続けます。したがって、ワークの乾燥を開始するために洗浄室メイン真空弁を開弁する際、アフタークーラは真空ポンプによって事前に減圧された状態にあると言えます。」(第4ページ第13〜20行)

カ 第2ページには、以下の図面が示されている。



(18)甲19
請求人が提出した甲19の1は、2020年2月12日付けで増田 寿男氏が作成した陳述書であり、以下の記載がある。

ア「私は、弊社が購入した下記の真空脱脂洗浄機(以下「本洗浄機」といいます。)について、以下のとおり陳述いたします。

真空脱脂洗浄機
型式:HWBV−3N
製造番号:W03467
製造元:株式会社日本ヘイズ(現在の株式会社IHI機械システム)
購入時期:1997年」(第1ページ第2〜8行)

イ「この本洗浄機では、洗浄室と真空ポンプの間に凝縮器が設けられており、洗浄室と凝縮器はバルブを介して接続されています。凝縮器は真空ポンプによって減圧されます。洗浄室内で部品を洗浄した後、バルブが開くと、洗浄室内の溶剤蒸気が予め減圧された凝縮器へ流れ込み、洗浄室内の部品が乾燥されます。

本洗浄機では、自動運転中、真空ポンプは基本的に常時作動しており、部品の乾燥のためにバルブが開く前から真空ポンプは作動しています。よって、バルブが開く前に凝縮器は真空ポンプで減圧されています。その状態でバルブが開くことから、洗浄室内の溶剤蒸気が減圧された凝縮器へ流れ込み、洗浄室内の部品を乾燥することができると理解しております。
本洗浄機のように凝縮器内を予め減圧しておく洗浄機は、当時から一般的であったと認識しております。」(第1ページ第9〜19行)

請求人が提出した甲19の2〜甲19の17については、いずれも当時の株式会社日本ヘイズが販売していた真空脱脂洗浄機(陳述者によって型式はHWBV−3N、HWBV−3VS、HWBV−3V、HWV−3N、HWV−3V、HWV−4V、HWBV−4Vと異なる)を購入したか、株式会社日本ヘイズに在籍していた者により作成された陳述書であり、前記イの内容と同じ内容を少なくとも陳述している。

(19)乙2
被請求人らが提出した乙2は、令和2年9月29日付けで中本 一朗氏が作成した陳述書であり、以下の記載がある。

「私は、現在、熱処理テクニカルセンター長の責にあり、またその前には設計部に所属していました。請求人が、公然実施品として主張している当社製の工番W03467(甲9等、「公然実施品1」)、工番W272100(甲14等、「公然実施品2」)について、以下ご説明します。
公然実施品1、2は、真空ポンプの吸引力によって洗浄室の蒸気を吸い上げて乾燥させるという、従来技術品であり、アフタークーラで凝縮させて乾燥させるという技術ではありません。
これらの製品に使用されているアフタークーラは、真空ポンプに吸引される蒸気量を低減させるために、真空ポンプに吸引されてアフタークーラ内を通過する蒸気の一部を凝縮する部材です。
また、アフタークーラで蒸気を凝縮させて乾燥させるためには、洗浄室とアフタークーラの間の配管を太く短くするなど、洗浄室の蒸気が短時間で大量にアフタークーラに流入して、効率よく凝縮が生じるように設計する必要があります。しかし、公然実施品1、2では、洗浄室とアフタークーラの間の配管は、共に、2インチ(=5.08cm。甲10・7頁「溶剤配管図」、甲14・8頁「溶剤配管図」)と細く、また、アフタークーラまでの距離も長いものでした。また、アフタークーラと真空ポンフ間の配管にもこれと同じ太さの細い配管が使用され、かつ、長く設けられています。このような構成では、洗浄室からアフタークーラまでの配管の気体の排気能力は、真空ポンプによる排気能力と同程度となり、蒸気の凝縮による急速乾燥を実現することなどできません。
実際、公然実施品1、2と指摘されている洗浄機では、乾燥工程の所要時間は15分とされていました。」(第1ページ第7行〜下2行)

(20)乙9
被請求人らが提出した乙9の1は、2020年10月付けで堀田 章仁氏が作成した陳述書であり、以下の記載がある。

ア「Ipsenグループは70年以上の歴史を有し、世界の43か国に拠点(ドイツとアメリカには技術センター)を持ち、お客さまは60か国に亘っており、「熱処理装置・技術のグローバルリーダー」を自認しています。
私は現在、Ipsenグループの日本法人Ipsen株式会社で、「プロダクトマーケティングマネジャー」の職にあり、競合他社含めてこの分野に精通しておりますので、業界の一般的な共通認識について、以下のとおり陳述いたします。」(第1ページ第2〜7行)

イ「(対象製品)
1)株式会社日本ヘイズ(現在の株式会社IHI機械システム)製造の真空脱脂洗浄機で、「浸漬あり」タイプ(型式:HWBV−3V、HWBV−4V、HWV−3V、HWV−4Vなど) (以下「IHI製洗浄機の浸漬ありタイプ」といいます)

2)高砂工業株式会社製造の真空脱脂洗浄機で、「浸漬なし」タイプ(形式:TVD−1,TVD−2、TVD−3) (以下「高砂製洗浄機」といいます)」(第1ページ第8〜13行)

ウ「上記「IHI製洗浄機の浸漬ありタイプ」は、真空ポンプを用いて乾燥させるもので、以前から一般的であった洗浄機です(凝縮器はありますが、乾燥とは関係ありません)。一方で、後から販売された「高砂製洗浄機」は「浸漬なし」の蒸気洗浄で、株式会社IHI機械システムが製造販売している「浸漬なしタイプ」製品と同じく、凝縮器を用いての急速乾燥が特徴の製品であり、上記「IHI製洗浄機の浸漬ありタイプ」とは特徴が大きく異なる製品です。またこれは、業界の一般的な共通認識であるとも思っています。」(第1ページ14〜19行)

エ「さらに、熱処理用の真空脱脂洗浄機で、「急速乾燥」をセールスポイントとしたものは欧州・米国を始め世界的にも聞いたことがなく、株式会社IHI機械システムが「凝縮室を使った急速乾燥」を売りとした洗浄機を発売したときには画期的だと思いましたし、その後に高砂工業株式会社が、同じような「急速乾燥」を売りにした洗浄機を発売開始したときには、「やはり同じ日本ヘイズをルーツとする会社だな」と感じていました。」(第1ページ第20〜24行)

被請求人らが提出した乙9の2〜乙9の14については、乙9の1とは異なる者により作成された陳述書であり、概ね前記ウの内容を少なくとも陳述している。

3 実施品1
(1)実施品1発明の認定
前記2(10)及び前記2(13)によると、真空脱脂洗浄機 型式:HWBV−3Nで特定される実施品1について、以下が理解できる。なお、前記2(13)の甲13の陳述内容につき、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、特に意見はないとしている。

ア 前記2(13)エ及び前記2(13)オによると、真空ポンプと、蒸気発生槽と、洗浄室と、アフタークーラと、熱交換器と、洗浄室メイン真空弁とを備えるもので、実施品1に係る発明は、真空脱脂洗浄機に係るものであり、真空脱脂洗浄方法に係るものである。

イ 前記2(13)エによると、蒸気発生槽は、石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させるものである。

ウ 前記2(10)の溶剤配管図によると、配管を通して真空ポンプ、アフタークーラ、バルブ○9(丸数字の9)、洗浄室がこの順で接続されていることから、前記2(13)エの記載とあわせて、洗浄室メイン真空弁は洗浄室とアフタークーラの間に介在し、開弁し、または閉弁するものである。

エ 前記2(13)ウ、前記2(13)エ、及び前記2(13)オによると、洗浄室は、洗浄室メイン真空弁を開弁して真空ポンプによって減圧され、その後、洗浄室メイン真空弁を閉弁し、ダンパーを開弁して蒸気発生槽で発生した溶剤蒸気を洗浄室内に吸引し、内部に溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行うものである。

オ 前記2(13)エ及び前記2(13)オによると、洗浄室メイン真空弁は蒸気洗浄中、閉弁し、その間、真空ポンプは稼働し続け、ワークの乾燥を開始するために洗浄室メイン真空弁を開弁する際、アフタークーラは真空ポンプによって事前に減圧された状態にあることから、アフタークーラは、洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧されるものである。

カ 前記2(13)エによると、アフタークーラは、溶剤蒸気が凝縮されるもので、熱交換器は、水を媒体とし、アフタークーラに内蔵されているもので、熱交換器の温度は、アフタークーラによって溶剤蒸気を凝縮可能なものである。

キ 前記2(13)エによると、蒸気洗浄が終了した後、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるもので、また、洗浄室においてワークの蒸気洗浄が終了した後、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮される工程を含むものである。

ク 前記ア、前記イ及び前記エによると、石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、溶剤蒸気を洗浄室内に吸引し、内部に溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行う工程を含むものである。

ケ 前記2(13)ウ及び前記ア〜オによると、真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬送された洗浄室を、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、蒸気洗浄中において洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される真空ポンプによりアフタークーラを常時減圧する工程を含むものである。

コ 前記ア、前記オ及び前記カによると、常時減圧されるアフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、アフタークーラによって溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程を含むものである。

実施品1には、前記ア〜コの事項を踏まえると、次の発明(以下、「実施品1発明1」〜「実施品1発明2」という。また、「実施品1発明1」〜「実施品1発明2」をまとめて、「実施品1発明」という。)が認められる。

[実施品1発明1]
真空ポンプと、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させる蒸気発生槽と、
前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、ダンパーを開弁して前記蒸気発生槽で発生した前記溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行う洗浄室と、
前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラと、
前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体とする熱交換器と、
前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉弁する前記洗浄室メイン真空弁と、を備え、
蒸気洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される、
真空脱脂洗浄機。

[実施品1発明2]
真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、蒸気洗浄中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する工程と、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程と、
常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程と、
前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程と、
を含む真空脱脂洗浄方法。

(2)実施品1発明が本件優先日前に公然実施されていたことについての当審の判断
前記2(13)(甲13)によると、1994年頃〜1999年頃までの間、株式会社日本ヘイズは実施品1(「HWBV−3N」型真空脱脂洗浄機)の製造、販売を行っており、洗浄機の設計図(確定図面)は洗浄機の納品時に顧客に渡されること、工番とは洗浄機の個体番号であることが理解できる。
前記2(10)(甲10)によると、型式がHWBV−3N、工番がW03467で特定される真空脱脂洗浄機の確定図であって、1997年10月31日に出図された確定図が、同日に株式会社日本ヘイズからノボル鋼鉄株式会社に提供されたと理解できる。そうすると、同年同月同日に、実施品1がノボル鋼鉄株式会社に譲渡されたものと認められる。
また、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、社会通念に照らし、顧客には被請求人ら製品の構造について守秘義務が存在すると考えていると述べているものの、顧客が当然に守秘義務を認識するとまで解することはできず、実施品1の譲渡時に、販売者と譲受人との間に守秘義務を有する等の特段の事情があったことをうかがわせる具体的な事情は認められない。
そうすると、実施品1に係る実施品1発明は、本件特許の優先日(平成23年11月25日)前に日本国内又は外国において公然実施されていると推認される。

4 実施品2
(1)実施品2発明の認定
前記2(14)及び前記2(17)によると、真空脱脂洗浄機 型式:HWBV−3VSで特定される実施品2について、以下が理解できる。なお、前記2(17)の甲17の陳述内容につき、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、特に意見はないとしている。

ア 前記2(17)エ及び前記2(17)オによると、真空ポンプと、蒸気発生室と、洗浄室と、アフタークーラと、熱交換器と、洗浄室メイン真空弁とを備えるもので、実施品2に係る発明は、真空脱脂洗浄機に係るものであり、真空脱脂洗浄方法に係るものである。

イ 前記2(17)エによると、蒸気発生室は、石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させるものである。

ウ 前記2(14)の溶剤配管図において、配管を通して真空ポンプ、アフタークーラ、バルブ○10(丸数字の10)、洗浄室がこの順で接続されていることから、前記2(17)エの記載とあわせて、洗浄室メイン真空弁は洗浄室とアフタークーラの間に介在し、開弁し、または閉弁するものである。

エ 前記2(17)ウ、前記2(17)エ、及び前記2(17)オによると、洗浄室は、洗浄室メイン真空弁を開弁して真空ポンプによって減圧され、その後、洗浄室メイン真空弁を閉弁し、次に蒸気発生室で発生した溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行い、蒸気洗浄後に浸漬洗浄を行うものである。

オ 前記2(17)エ及び前記2(17)オによると、洗浄室メイン真空弁は乾燥直前の浸漬室から洗浄室へワークの移動中、閉弁し、その間、真空ポンプは稼働し続け、ワークの乾燥を開始するために洗浄室メイン真空弁を開弁する際、アフタークーラは真空ポンプによって事前に減圧された状態にあることから、アフタークーラは、洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧されるものである。

カ 前記2(17)エによると、アフタークーラは、溶剤蒸気が凝縮されるもので、熱交換器は、水を媒体とし、アフタークーラに内蔵されているもので、熱交換器の温度は、アフタークーラによって溶剤蒸気を凝縮可能なものである。

キ 前記2(17)エによると、蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了した後、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるもので、また、洗浄室においてワークの蒸気洗浄後に浸漬室での浸漬洗浄が終了した後、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮される工程を含むものである。

ク 前記ア、前記イ及び前記エによると、石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、溶剤蒸気を洗浄室内に吸引し、内部に溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行う工程を含むものである。

ケ 前記2(17)ウ及び前記ア〜オによると、真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬入された洗浄室を、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、浸漬室から洗浄室へワークの移動中において洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される真空ポンプによりアフタークーラを常時減圧する工程を含むものである。

コ 前記ア、前記オ及び前記カによると、常時減圧されるアフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、アフタークーラによって溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程を含むものである。

前記ア〜コから、実施品2には、次の発明(以下、「実施品2発明1」〜「実施品2発明2」という。また、「実施品2発明1」〜「実施品2発明2」をまとめて、「実施品2発明」という。)が認められる。

[実施品2発明1]
真空ポンプと、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生させる蒸気発生室と、
前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、次に前記蒸気発生室で発生した前記溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行い、蒸気洗浄後に浸漬洗浄を行う洗浄室と、
前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラと、
前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体とする熱交換器と、
前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉弁する前記洗浄室メイン真空弁と、を備え、
蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される、
真空脱脂洗浄機。

[実施品2発明2]
真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬入された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、浸漬室から前記洗浄室へ前記ワークの移動中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する工程と、
石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程と、
常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程と、
前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄後に浸漬室での浸漬洗浄が終了した後、前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程と、
を含む真空脱脂洗浄方法。

(2)実施品2発明が本件優先日前に公然実施されていたことについての当審の判断
前記2(17)(甲17)によると、2002年頃から株式会社日本ヘイズ(現在の株式会社IHI機械システム)は実施品2(「HWBV−3VS」型真空脱脂洗浄機)の製造、販売を行っており、洗浄機の設計図(MACHINE DRAWING FINAL DRAWING)及び制御プログラム(シーケンス・プログラム)は洗浄機の納品時に顧客に渡されること、工番とは洗浄機の個体番号であることが理解できる。
前記2(14)(甲14)によると、型式がHWBV−3VS、工番がW272100で特定される真空脱脂洗浄機の確定図面であって、2010年3月3日に出図された確定図面が、同日に株式会社日本ヘイズから興光熱処理股ふん(「にんべん」に分)有限公司に提供されたと理解できる。そうすると、同年同月同日に、実施品2が興光熱処理股ふん有限公司に譲渡されたものと認められる。
また、被請求人らは、口頭審理陳述要領書において、社会通念に照らし、顧客には被請求人ら製品の構造について守秘義務が存在すると考えていると述べているものの、顧客が当然に守秘義務を認識するとまで解することはできず、実施品2の譲渡時に、販売者と譲受人との間に守秘義務を有する等の特段の事情があったことをうかがわせる具体的な事情は認められない。
そうすると、実施品2に係る実施品2発明は、本件特許の優先日(平成23年11月25日)前に日本国内又は外国において公然実施されていると推認される。

5 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明1の対比
甲1発明1の「バキュームポンプ14」は、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
甲1発明1の「蒸気発生部4」は、本件特許発明1の「蒸気生成手段」に相当し、甲1発明1の「洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4」と、本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」とは、「溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」において共通する。
甲1発明1の「洗浄蒸気」、「被洗浄物5」及び「蒸気洗浄部3」は、本件特許発明1の「蒸気」、「ワーク」及び「洗浄室」にそれぞれ相当し、甲1発明1の「前記蒸気発生部4との連通状態で、前記バキュームポンプ14が作動して減圧され、この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し、被洗浄物5と接触して凝縮する事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
甲1発明1の「凝縮器15」は、その内部空間において、洗浄蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明1の「凝縮室」に相当し、甲1発明1の「前記減圧蒸気洗浄が行われる際、前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、また、乾燥処理を行う際、前記蒸気洗浄部3とともに、前記バキュームポンプ14により減圧され、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し、凝縮液化する凝縮器15」と、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」とは、「前記真空ポンプによって減圧される凝縮室」において共通する。
甲1発明1の「冷却パイプ9」は、凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮器15内で凝縮液化するためのものであって、この凝縮液化を行うためには、凝縮器15の内壁面や凝縮器15内に配置された部材の固体表面の温度を蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、本件特許発明1の「温度保持手段」に相当し、甲1発明1の「冷却水が流通するとともに、前記凝縮器15の内部に挿通され、前記凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
甲1発明1の「第1電磁弁17」は、本件特許発明1の「開閉バルブ」に相当し、甲1発明1の「前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17」は、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
甲1発明1の「洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後」は、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
甲1発明1の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことと、本件特許発明1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲1発明1の「洗浄装置」は、バキュームポンプ14を使用して洗浄するものであるから、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点1−1]
「真空ポンプと、
溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって減圧される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の各点で相違する。
[相違点1−1]
溶剤について、本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対し、甲1発明1の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。

[相違点1−2]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲1発明1は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており、凝縮器15が蒸気洗浄部3とは独立して減圧され、第1電磁弁17によって蒸気洗浄部3を当該減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
(ア)相違点1−1について
甲1発明1の洗浄装置は、前記2(1)ア(ア)によると、機械部品等の洗浄を行うものであるところ、機械部品を洗浄する真空洗浄装置の技術分野において、洗浄に用いる溶剤として、石油系溶剤を用いることは、甲2に記載されているように、本件特許の優先日前から周知の事項である。そして、この周知の事項については、甲13の段落【0021】、【0023】、【0024】に記載されているような、石油系溶剤の毒性が低い、回収しやすい、ランニングコストが低減されるといったメリットや、甲13の段落【0029】、【0030】に記載されているような、石油系溶剤の発火を抑制するための安全対策も含めて周知の事項であるといえる。
そうすると、バキュームポンプ14を稼働し、蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより被洗浄物5に付着した洗浄液7を急速に乾燥させる甲1発明1の洗浄液7として、前記周知の事項である石油系溶剤のメリットに着目し、必要な安全対策を施しつつ、石油系溶剤を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ)相違点1−2について
a 本件特許発明1は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Gは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、甲1発明1は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させるものであり、甲1には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていない。

b 次に、請求人は、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る事項は、甲3〜甲8のいずれかに記載の発明との組み合わせ、又は甲3〜甲8、実施品1、実施品2に示されるような周知技術との組み合わせにより容易想到である旨主張するので(審判請求書第31ページ第13行〜第62ページ下5行参照)、この点について検討する。

(a)甲3についての判断
前記2(4)ア〜オによると、甲3に係る洗浄装置は、洗浄槽内からの気体の排出を迅速に行ない、洗浄槽内の真空度を高めることを目的とし、洗浄後に洗浄槽2内に残留するフロン等の有機溶剤蒸気を排出する場合には、再生回収手段である蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気を密閉容器26内に導入し、密閉容器26内に設けた冷却手段である冷却パイプ27内に冷媒を流通させる事により、密閉容器26内の有機溶剤蒸気を凝縮液化させ、その結果、密閉容器26内の圧力が低下し、そこで、第一の開閉弁28を開き、洗浄槽2内に残留していた有機溶剤蒸気を密閉容器26内に吸引し、洗浄槽2内の圧力が急激に低下し、この洗浄槽2内に収納された被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し、この被洗浄物の表面に付着した汚れが吹き飛ばされるものであり、また、密閉容器内に吸引された有機溶剤蒸気は、密閉容器内の冷却手段により次々に凝縮液化される為、密閉容器26内の圧力は殆ど上昇せず、洗浄槽から密閉容器への有機溶剤蒸気を含む気体の吸引は、その後も継続して行われるものである。
このように、甲3の洗浄槽2、密閉容器26、開閉弁28、蒸留器12の構成は、洗浄作業後に、汚れを吹き飛ばし、その後、洗浄槽内から有機溶剤蒸気の排出を迅速に行なうための構成であり、甲3には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。また、甲3の密閉容器26は、有機溶剤蒸気を含む気体を吸引する前に、有機溶剤蒸気を導入し、内部で凝縮液化させ、その結果、内部の圧力を低下させるもので、真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持されるものではない。
そうすると、甲1発明1に甲3に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲3の、洗浄槽2内の圧力が急激に低下して、被洗浄物に付着した溶剤が突沸するとの記載はワークの乾燥に他ならないこと、甲3における洗浄槽の排気は、有機溶剤の回収による被洗浄物の乾燥のために行われることを前提としたものであることを主張するとともに、溶剤を回収すれば自ずと乾燥が生じるのであるから、甲3において、回収と乾燥とを区別する意味はないと主張する(審判請求書第39ページ下11〜10行、口頭審理陳述要領書第20ページ第15〜16行、第16ページ第13〜15行、上申書第8ページ第18〜22行参照)。
この点に関しては、甲3には、ワーク上の溶剤が気化することを連想させる記載はみられ、溶剤蒸気の回収を行えば、ワークが乾燥するといえるかもしれないものの、甲3には総じて洗浄槽内からの溶剤蒸気の排出(回収)に関する技術が記載されており、甲3の記載から前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握できるものとはいえない。

また、請求人は、甲3において密閉容器26が洗浄槽2から溶剤蒸気を吸引する工程は、密閉容器26内に吸い込まれた溶剤蒸気を凝縮して内圧の増加を抑制し、洗浄室から凝縮室へ溶剤蒸気を継続的に排気する現象であり、本件特許発明の“連通による乾燥”あるいは“凝縮による乾燥”と全く同じ物理現象であることを主張する(口頭審理陳述要領書第19ページ第14〜18行参照)。
この点に関しては、甲3における第一の開閉弁28を開き、洗浄槽2内に残留していた有機溶剤蒸気を圧力が低下した密閉容器26内に吸引することが、本件特許発明1の「連通させてワークを乾燥させる」ことと、現象として同じことであったとしても、そのことをもって、甲3の溶剤蒸気の排出(回収)に関する技術から、前記凝縮により乾燥させる技術思想が把握できるものではない。
よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(b)甲4についての判断
前記2(2)ア(オ)の段落【0001】、【0027】〜【0029】によると、甲4に係る洗浄装置は、ハイドロカーボンなどの蒸気によりワークを減圧乃至真空状態下において蒸気洗浄および乾燥処理するものであり、ワークの蒸気洗浄終了後に、真空ポンプ10を駆動すると共に、バルブ49を開弁して冷却タンク6内を予め真空状態に成し、その後、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを冷却タンク6に差圧吸引し、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において減圧タンク1内のワークを乾燥処理、つまり、加熱コイル13に加熱オイルを流通させ、この熱媒により減圧タンク1内およびワークを加熱して、該ワークを乾燥させるものである。
このように、甲4においては、真空ポンプ10を駆動し、バルブ49を開弁して冷却タンク6内を予め真空状態に成し、その後、バルブ29を開いて減圧タンク1内の溶剤蒸気Bを冷却タンク6に差圧吸引し、当該溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させ、減圧タンク1内のワークを乾燥処理するものであり、甲4には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲4に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲4発明では、冷却タンク6に移動した溶剤蒸気が凝縮することにより、冷却タンク6の圧力を上昇させず、溶剤蒸気の移動が継続することは明らかであり、冷却タンク6への溶剤蒸気の吸引はワークの乾燥処理の一部を構成しており、ワークの乾燥は、減圧タンク1から溶剤蒸気Bを排気することが乾燥の“主”であると主張する(審判請求書第86ページ下7行〜第87ページ第5行、口頭審理陳述要領書第21ページ第15〜16行、上申書第14ページ下2行〜第15ページ第3行参照)。
この点に関しては、甲4では、乾燥処理において、冷却タンク6での凝縮が、ワークに付着した溶剤の気化に一部寄与しているとはいえるものの、真空ポンプ10を用いなくても乾燥処理が行えることは記載されておらず、乾燥処理における溶剤蒸気の移動(排気)、又は減圧タンク1と冷却タンク6との間の差圧関係の維持は、真空ポンプ10による減圧効果を必須とするものといえ、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づきバルブ29を開くものではないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(c)甲5についての判断
前記2(5)ア〜スによると、甲5に係る塩素系溶剤を用いる機械部品のクリーニング機械においては、凝縮器の下流に前記凝縮器を負圧にするための真空ポンプを含み、凝縮器により溶剤蒸気を瞬時に凝縮させ、排出アイドルタイムを著しく低減する機械をさらに改良し、チャンバー1と凝縮器4とがバルブ3を備える配管2を介して連通され、第二配管7が、凝縮器4を、制御バルブ8を介して真空ポンプPVに連通され、前記凝縮器4の壁内に、冷気を蓄積する妥当なサイズのタンク20を備え、凝縮器4のタンク20の中間ボリュームVが真空ポンプPVを使って真空に維持され、全サイクルタイムで冷凍コンプレッサにより凝縮器4に冷気を蓄積するようにしたので、大きすぎるコンプレッサの使用を回避すると同時に十分に少ない応答時間を維持することが可能となり、例えば、乾燥フェイズのために従来18,000Kcal/hの吸収ピークを必要とする冷凍コンプレッサが予定されていたが、その出力が十分の一に低減できるものである。
このように、甲5においては、凝縮器により溶剤蒸気を瞬時に凝縮させ、乾燥フェイズの排出アイドルタイムを著しく低減する装置において、大容量で内部の中間ボリュームVが真空ポンプPVによって真空に維持される凝縮器4を用いて、凝縮器4内の全サイクルタイムで冷凍コンプレッサにより凝縮器4に冷気を蓄積するようにすることが記載されているものの、甲5には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲5に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲5発明では、凝縮器4が、バルブ3によって洗浄チャンバー1と連通される時点で既に減圧され、バルブ3は洗浄チャンバー1から溶剤蒸気を排出する際に開弁され、凝縮器4が予め真空状態に維持されてチャンバー1内の溶剤蒸気Bを吸い出すから、凝縮器4内における“凝縮”によってこの差圧関係が維持され、凝縮による乾燥が生じていると主張する(口頭審理陳述要領書第24ページ第11〜13行、第23ページ第9〜14行、上申書第8ページ下5行〜第9ページ第1行参照)。
この点に関しては、凝縮器4での凝縮が、チャンバー1からの溶剤の排出に一部寄与しているとはいえるものの、甲5は真空ポンプを用いてチャンバー1から溶剤を排出することを前提技術としており、真空ポンプを用いてチャンバー1から溶剤を排出するためにバルブ3を開弁するのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づきバルブ3を開弁するものではないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(d)甲6についての判断
前記2(6)ア〜ケによると、溶剤として炭化水素、塩素化炭化水素およびアルコールが使用され、乾燥プロセスではブロワが溶剤蒸気を処理チャンバから凝縮器に圧送するという公知技術に対し、甲6に係る被加工物の洗浄設備は、まず、真空ポンプ10を介して、システム内に存在する空気が吸引され、システムから空気がなくなると、真空ポンプ10を引き続き作動させることなく、連続的な蒸留を行うことができ、作業チャンバ4が、洗浄すべき部材で満たされ、1mbarを下回る圧力にまで排気され、その後、浴洗浄及び蒸気脱脂が実施され、洗浄ステップの終了時には、弁15が開放され、凝縮器8の凝縮圧に近似の圧力が達成されるまで、飽和蒸気が作業チャンバ4から凝縮器の部分8aに流れ、そこで、液化され、作業チャンバ4と凝縮器8の部分8aとの間で圧力均等化が生じると、弁15が閉鎖され、弁17が開放され、第2の真空ポンプ18を介して、まだ作業チャンバ4内に存在している残りの溶剤蒸気が吸引され、圧縮機20によって圧縮され、残りの溶剤蒸気を完全に凝縮させることができ、凝縮物が、再び蓄え容器28に供給されるものである。
このように、甲6の凝縮器8、弁15、真空ポンプ18、圧縮機20等の構成は、洗浄ステップの終了後、溶剤の一部を再び蓄え容器28に供給するための構成であり、甲6には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲6に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲6には、凝縮器8が事前に減圧され、弁15によって作業チャンバ4を凝縮器8と連通させてワーク乾燥する点が開示されていると主張する(審判請求書第54ページ第4〜7行、上申書第9ページ第2〜7行参照)。
この点に関しては、凝縮された溶剤蒸気の蓄え容器28への供給、すなわち溶剤蒸気の回収を行えば、ワークが乾燥するといえるかもしれないものの、甲6には総じて作業チャンバ4内からの溶剤蒸気の回収に関する技術が記載されており、また、甲6では、弁15が開放されて一部の溶剤蒸気の凝縮を行った後、第2の真空ポンプ18及び圧縮機20を用いて、まだ作業チャンバ14内に存在している残りの溶剤蒸気を吸引し、完全に凝縮させており、弁15の開放により溶剤蒸気の回収が完了するわけではないから、甲6の記載から前記凝縮により乾燥させる技術思想を把握できるものとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(e)甲7についての判断
前記2(7)ア〜カによると、甲7に係る減圧蒸気洗浄装置は、炭化水素系溶剤、アルコール溶剤等の可燃性溶剤を用いて減圧蒸気洗浄するための減圧蒸気洗浄装置であって、蒸気洗浄槽1は、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と凝縮器4を介して、真空ポンプ6に接続されており、蒸気洗浄槽1を真空引きし、その後に蒸気洗浄槽1の内部に溶剤蒸気が供給され蒸気洗浄が行われ、所定の時間、減圧蒸気洗浄を行った後、溶剤供給バルブ10を閉じ、その後蒸気洗浄槽排液バルブ15を閉じ、真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開いて、真空乾燥を行い、被洗浄物、洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1、蒸発器用熱交換器3に付着している溶剤が気化し溶剤蒸気が発生するので、凝縮器4で凝縮回収を行い、真空乾燥が終了すると、被洗浄物、洗浄バスケット2、蒸気洗浄槽1、蒸発器用熱交換器3は完全に乾燥しているものである。
このように、甲7においては、真空ポンプ6を作動させ、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開いて、真空乾燥を行い、凝縮器4で溶剤蒸気の凝縮回収を行うものであり、甲7には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲7に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲7には、凝縮器4が事前に減圧され、蒸気洗浄槽真空引きバルブ18によって蒸気洗浄槽1を凝縮器4と連通させてワーク乾燥する点が記載されていると主張する(審判請求書第56ページ下5行〜最終行参照)。
この点に関しては、凝縮器4での凝縮が、被洗浄物上の溶剤の気化に一部寄与しているとはいえるものの、甲7では、真空乾燥のために蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開くのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開くものではないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(f)甲8についての判断
前記2(8)ア〜クによると、甲8に係るプリント配線アセンブリ上のロジンフラックス残渣を除去するように構成されたシステム10において、真空ポンプ16と、真空保持タンク18と、コールドトラップ20を備え、コールドトラップ20の冷却コイル76は溶剤を凝縮するように動作可能な非常に低い温度にコールドトラップ20を維持するように構成され、プリント配線アセンブリは、処理チャンバ12内のラック72に載置され、処理チャンバ12が十分に密閉されたうえでバルブ31、33及び35が開かれて内部を真空とされ、次にチャンバ12を密閉するためにバルブ33及び35が閉じられ、バルブ51が開かれ、溶剤がタンク14から処理チャンバ12に流れ込み、溶剤は、ラック72上のアセンブリを通過して処理チャンバ12内で流動し、そのため、フラックス残渣の除去に有効な更なる洗浄作用を提供し、次にポンプ24により流動溶剤は処理チャンバ12から保持タンク14に吸い出され、その後、バルブ33及び35が再び開かれ、真空ポンプ16により処理チャンバから空気が再度吸い出され、これにより、溶剤が蒸発して処理室12から排出され、ラック72上の配線アセンブリに溶剤物質が存在しなくなるものである。
このように、甲8においては、バルブ33及び35が開かれ、真空ポンプ16により処理チャンバから空気が再度吸い出され、これにより、溶剤が蒸発して処理室12から排出され、ラック72上の配線アセンブリに溶剤物質が存在しなくなり、その過程において、コールドトラップ20において溶剤が凝縮するものであり、甲8には、前記凝縮により乾燥させる技術思想については、何ら開示されていない。
そうすると、甲1発明1に甲8に記載の技術事項を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、甲8には、コールドトラップ20が事前に減圧され、バルブ33によって処理チャンバ12をコールドトラップ20と連通させてワーク乾燥する点が記載されていると主張する(審判請求書第62ページ第1〜4行参照)。
この点に関しては、コールドトラップ20での凝縮が、プリント配線アセンブリ上の溶剤の気化に一部寄与しているとはいえるものの、甲8では、真空ポンプ16により空気を吸い出し、溶剤を蒸発させ処理室12から排出するためにバルブ33及び35を開くのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づきバルブ33及び35を開くものではないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(g)周知技術についての判断
請求人は、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成は、甲3〜甲8、実施品1、実施品2に代表されるように周知技術であると主張する(審判請求書第31ページ第13行〜第62ページ最終行参照)。
この点に関しては、前記(a)〜(f)に示したとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想は開示されていない。そして、実施品1に係る甲9〜甲13の記載(前記2(9)〜(13))、実施品2に係る甲14〜甲17の記載(前記2(14)〜(17))、被請求人らが製造販売していた実施品に係る甲19の陳述(前記2(18))を参照しても、これらの実施品は、真空ポンプを用いた乾燥であり、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想は開示されていない。
そうすると、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づく洗浄機の構成は、請求人が提出した証拠からは周知とはいえないから、甲1発明1に周知技術を適用しても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成にはならない。

請求人は、凝縮室を事前に減圧したうえで洗浄室と連通させる技術は周知技術であり、甲1発明1にこの周知技術を適用して、前記相違点1−2に係る構成とすることが容易に想到できたものと主張する(審判請求書第31ページ第13行〜第62ページ最終行参照)。
この点に関しては、前記aで示したとおり、本件特許発明1においては、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであるから、甲1発明1に、単に凝縮室を事前に減圧したうえで洗浄室と連通させる技術を適用したとしても、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る構成とはならないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

c そして、本件特許発明1は、前記相違点1−2に係る「前記洗浄室とは独立して」減圧され、「当該減圧の状態が保持される」凝縮室を備え、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲1発明1、甲2〜甲8に記載の技術事項、又は周知技術から当業者が予測できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明1に基いて、甲2に記載されるような周知技術と甲3〜甲8、実施品1、実施品2に示されるような周知技術との組み合わせ、又は甲1発明1に基いて、甲2に記載された発明と、甲3〜甲8のいずれかに記載された発明との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも前記相違点1−2において、本件特許発明2〜4と甲1発明1とは相違する。そして、本件特許発明1は、前記(1)イ(イ)のとおり、当業者であっても、甲1発明1において、本件特許発明1の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、本件特許発明2〜4もまた、当業者であっても、甲1発明1において、本件特許発明2〜4の前記相違点1−2に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

(3)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と甲1発明2の対比
甲1発明2の「バキュームポンプ14」、「被洗浄物5」、「蒸気洗浄部3」、「洗浄蒸気」及び「第1電磁弁17」は、本件特許発明5の「真空ポンプ」、「ワーク」、「洗浄室」、「蒸気」及び「開閉バルブ」にそれぞれ相当し、甲1発明2の「凝縮器15」は、その内部空間において、洗浄蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明5の「凝縮室」に相当する。
甲1発明2の「蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程」において、バキュームポンプ14を作動させて、蒸気洗浄部3を減圧する際、バキュームポンプ14と蒸気洗浄部3との間に介在する凝縮器15も減圧することになるから、甲1発明2の「蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を作動させて、被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を、第1電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」において共通する。
甲1発明2の「洗浄液7を蒸気化し、洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程」と、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」とは、「溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」において共通する。
甲1発明2の「冷却パイプ9」は、凝縮器15に移動した洗浄蒸気を凝縮器15内で凝縮液化するためのものであって、この凝縮液化を行うためには、凝縮器15の内壁面や凝縮器15内に配置された部材の固体表面の温度を蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、甲1発明2の「凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工程」と、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」とは、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」において共通する。
甲1発明2の「洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し、前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
甲1発明2の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことにおいて、洗浄蒸気が凝縮器15で凝縮液化する際、凝縮器15内の固体表面の温度が蒸気洗浄部3の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、第1電磁弁17が開弁され蒸気洗浄部3が凝縮器15と連通した状態で被洗浄物5の乾燥が行われるものであるから、甲1発明2の「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する」ことと、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲1発明2の「洗浄方法」は、バキュームポンプ14を使用して洗浄するから、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。
したがって、本件特許発明5と甲1発明2とは、以下の点で一致し、
[一致点1−2]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点1−3]
溶剤について、本件特許発明5は「石油系溶剤」であるのに対し、甲1発明2の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。

[相違点1−4]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、洗浄室および凝縮室を「各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程とを備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲1発明2は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており、蒸気洗浄部3および凝縮器15を「各々独立して」減圧し、第1電磁弁17を開弁することにより蒸気洗浄部3を減圧下にある凝縮器15と連通させて乾燥させているとはいえない点。

[相違点1−5]
凝縮室について、本件特許発明5は「当該洗浄室に隣接し」ているのに対し、甲1発明2は、そのようなものであるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1−3について
前記(1)イ(ア)に示した相違点1−1についての判断と同様である。

(イ)相違点1−4について
a 本件特許発明5は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Oは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、甲1発明2は、バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させるものであり、前記(1)イ(イ)(a)〜(1)イ(イ)(g)で示したように甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想について何ら開示されておらず、前記凝縮により乾燥させる技術思想は周知技術ともいえないから、甲1発明2に甲3〜甲8のいずれかに記載の技術事項を適用し、又は周知技術を適用しても、本件特許発明5の前記相違点1−4に係る構成にはならない。

そして、本件特許発明5は、前記相違点1−4に係る、洗浄室および凝縮室を「各々独立して」減圧する工程と、「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲1発明2から当業者が予測できるものではない。

(ウ)相違点1−5について
甲1発明2は、「前記バキュームポンプ14を稼働し、第1電磁弁17を開弁して、前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ、その際、前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が、前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し、凝縮液化する工程」を備えるものであるが、蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気を、凝縮器15に移動させる流路について、その長さが長ければ、配管抵抗による圧力損失が大きくなることや、装置の大型化につながるなどといった課題が生じることは、当業者であれば、当然、認識できるものである。
そうすると、甲1発明2において、前記課題を認識した当業者が、蒸気洗浄部3と凝縮器15との間の蒸気の流路を可能な限り短くし、蒸気洗浄部3と凝縮器15とを隣接させることに格別の困難性はない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、甲1発明2に基いて、甲2に記載されるような周知技術と甲3〜甲8、実施品1、実施品2に示されるような周知技術との組み合わせ、又は甲1発明2に基いて、甲2に記載された発明と、甲3〜甲8のいずれかに記載された発明との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜5は、甲1発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術と甲3〜甲8、実施品1、実施品2に示されるような周知技術との組み合わせ、又は甲1発明に基いて、甲2に記載の発明と、甲3〜甲8のいずれかに記載の発明との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、無効理由1によって、無効とすべきものではない。

6 無効理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲4発明1の対比
甲4発明1の「真空ポンプ10」は、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
甲4発明1の「ハイドロカーボンなどの溶剤蒸気」は、本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気」に相当し、また、甲4発明1の「加熱コイル15」は、蒸気洗浄のための溶剤蒸気を形成、すなわち生成するから、本件特許発明1の「蒸気生成手段」に相当し、したがって、甲4発明1の「ハイドロカーボンなどの溶剤蒸気を形成する加熱コイル15」は、本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段」に相当する。
甲4発明1の「溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する減圧タンク1」、「真空にされ」及び「真空状態で」は、本件特許発明1の「洗浄室」、「減圧され」及び「減圧の状態において」にそれぞれ相当し、甲4発明1の「前記溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する」は、本件特許発明1の「蒸気によってワークを洗浄する」に相当する。また、甲4発明1の「前記加熱コイル15により溶剤を加熱し」「発生させ」た「前記溶剤蒸気」は、前記溶剤蒸気がワークを蒸気洗浄するためのもので、減圧タンク1において蒸気洗浄を行うもので、本件特許発明1の「前記蒸気生成手段から供給される」「蒸気」に相当するから、甲4発明1の「前記真空ポンプ10によって真空にされ、真空状態で前記加熱コイル15により溶剤を加熱し発生させた前記溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する減圧タンク1」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
甲4発明1の「冷却タンク6」は、溶剤蒸気を凝縮するものであるから、本件特許発明1の「凝縮室」に相当し、甲4発明1の「冷却タンク6」について「ワークの蒸気洗浄終了後において、前記減圧タンク1のポート19との間に介設されたバルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49を開弁することで予め真空状態に成す」は、蒸気洗浄終了後に冷却タンク6と減圧タンク1とが連通しない状態で、冷却タンク6と真空ポンプ10とを連通するので、冷却タンク6は減圧タンク1とは独立して真空にされ、またバルブ29を開く前に予め真空状態に成すものである。そうすると、甲4発明1の「ワークの蒸気洗浄終了後において、前記減圧タンク1のポート19との間に介設されたバルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49を開弁することで予め真空状態に成す冷却タンク6」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」に相当する。
甲4発明1の「冷却コイル2」は、冷却タンク6に内設し、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気を凝縮し、この凝縮のためには、冷却タンク6の内部を洗浄室の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、本件特許発明1の「温度保持手段」に相当し、甲4発明1の「前記冷却タンク6に内設され、前記冷却タンク6に吸引された前記溶剤蒸気を凝縮する冷却コイル2」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
甲4発明1の「前記冷却タンク6と前記減圧タンク1のポート19との間に介設され、開弁または閉弁を行う前記バルブ29」は、バルブ29を開弁すると冷却タンク6と減圧タンク1が連通し、バルブ29を閉弁すると、冷却タンク6と減圧タンク1の連通が遮断されるから、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
甲4発明1の「前記溶剤蒸気によりワークを蒸気洗浄した後」は、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
甲4発明1の「前記バルブ29を開いて前記減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して前記冷却タンク6に差圧吸引し、凝縮させ、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて前記減圧タンク1内のワークを乾燥処理する」ことと、本件特許発明1の前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
甲4発明1の「蒸気洗浄装置」は、真空ポンプ10を使用して洗浄するものであるから、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲4発明1とは、以下の点で一致し、

[一致点2−1]
「真空ポンプと、
石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の点で相違する。
[相違点2−1]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲4発明1は、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引し、凝縮させ、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理させており、バルブ29を開弁することにより減圧タンク1を冷却タンク6と連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
前記相違点2−1について検討する。本件特許発明1は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Gは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、甲4発明1は、真空ポンプ10を使用し、バルブ29を開き、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理させるものであり、甲4には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていない。
そうすると、前記相違点2−1は本件特許発明1と甲4発明1との実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲4に記載された発明ではない。
そして、本件特許発明1の前記相違点2−1に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、甲4発明1において、本件特許発明1の前記相違点2−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、甲4発明1ではなく、また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲4発明1において、本件特許発明1の前記相違点2−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも前記相違点2−1において、本件特許発明2〜4と甲4発明1とは相違する。よって、本件特許発明2〜3は、甲4に記載された発明ではない。
そして、本件特許発明1は、前記(1)イのとおり、当業者であっても、甲4発明1において、本件特許発明1の前記相違点2−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、本件特許発明2〜3もまた、当業者であっても、甲4発明1において、本件特許発明2〜3の前記相違点2−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。また、甲2には本件特許発明4の前記相違点2−1に係る発明特定事項が開示されていないことが明らかであり、本件特許発明4もまた、当業者であっても、甲4発明1において、本件特許発明4の前記相違点2−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

(3)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と甲4発明2の対比
甲4発明2の「真空ポンプ10」は、本件特許発明5の「真空ポンプ」に相当し、甲4発明2の「減圧タンク1」は、溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄するものであるから、本件特許発明5の「洗浄室」に相当し、甲4発明2の「冷却タンク6」は、溶剤蒸気を凝縮させるものであるから、本件特許発明5の「凝縮室」に相当する。
甲4発明2の「ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6のアウトレットポート4と前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49及び減圧タンク1のポート19と前記冷却タンク6のインレットポート3との間に介設されたバルブ29を開弁して前記減圧タンク1内を真空状態にする工程」は、ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6と減圧タンク1、及び冷却タンク6と真空ポンプ10とを連通し、冷却タンク6と連通状態にある減圧タンク1内を真空状態にするもので、減圧タンク1は冷却タンク6とは独立して真空にされず、甲4発明2の「ワークの蒸気洗浄終了後に前記バルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設された前記バルブ49を開弁することで前記冷却タンク6を予め真空状態に成す工程」は、蒸気洗浄終了後に冷却タンク6と減圧タンク1とが連通しない状態で、冷却タンク6と真空ポンプ10とを連通するので、冷却タンク6は減圧タンク1とは独立して真空にされ、またバルブ29を開く前に予め真空状態に成すものである。そうすると、甲4発明2の「真空ポンプ10によって、ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6のアウトレットポート4と前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49及び減圧タンク1のポート19と前記冷却タンク6のインレットポート3との間に介設されたバルブ29を開弁してワークが搬送された前記減圧タンク1内を真空状態にする工程、及びワークの蒸気洗浄終了後に前記バルブ29を開く前に前記真空ポンプ10との間に介設された前記バルブ49を開弁することで前記冷却タンク6を予め真空状態に成す工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」において共通する。
甲4発明2の「溶剤蒸気」は、ハイドロカーボンなどの溶剤を加熱し発生させるものであるから、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気」に相当し、また、甲4発明2の「溶剤蒸気を発生させ」は、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し」に相当する。そうすると、甲4発明2の「真空状態にされた減圧タンク1内において、溶剤貯留部1aの液中に配置された加熱コイル15によりハイドロカーボンなどの溶剤を加熱し溶剤蒸気を発生させ、当該溶剤蒸気によってワークを蒸気洗浄する工程」は、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」に相当する。
甲4発明2の「冷却コイル2」は、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気を冷却タンク6において凝縮するためのものであって、この凝縮のためには、冷却タンク6の内部を減圧タンク1の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、甲4発明2の「予め真空状態に成した前記冷却タンク6内の冷却コイル2の温度を、前記冷却タンク6に吸引された前記溶剤蒸気を凝縮させるものとする工程」は、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」に相当する。
甲4発明2の「前記減圧タンク1内での前記ワークの蒸気洗浄終了後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
甲4発明2の「前記冷却タンク6を予め真空状態に成した後、バルブ29を開いて前記減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して前記冷却タンク6に差圧吸引し、前記冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気は前記冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて前記減圧タンク1内の前記ワークを乾燥処理する工程」において、溶剤蒸気が冷却タンク6で凝縮する際、冷却タンク6内の温度が減圧タンク1の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、バルブ29を開いた状態で減圧タンク1が冷却タンク6と連通した状態でワークを乾燥処理するから、甲4発明2の「前記冷却タンク6を予め真空状態に成した後、バルブ29を開いて前記減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して前記冷却タンク6に差圧吸引し、前記冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気は前記冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて前記減圧タンク1内の前記ワークを乾燥処理する工程」と、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」とは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程」において共通する。
甲4発明2の「洗浄方法」は、真空ポンプ10を使用して洗浄するから、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。

したがって、本件特許発明5と甲4発明2とは、以下の点で一致し、
[一致点2−2]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点2−2]
洗浄室および凝縮室を減圧する工程について、本件特許発明5は「各々独立して」減圧するのに対し、甲4発明2は、ワークの蒸気洗浄前に冷却タンク6のアウトレットポート4と前記真空ポンプ10との間に介設されたバルブ49及び減圧タンク1のポート19と前記冷却タンク6のインレットポート3との間に介設されたバルブ29を開弁して前記減圧タンク1内を真空状態にしており、減圧タンク1は冷却タンク6と独立して減圧可能とはいえない点。

[相違点2−3]
凝縮室について、本件特許発明5は「洗浄室に隣接した凝縮室」であるのに対し、甲4発明2は、冷却タンク6が減圧タンク1に隣接しているかどうかが不明な点。

[相違点2−4]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、甲4発明2は、バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気を、ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引し、冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝縮され、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理させており、バルブ29を開弁することにより減圧タンク1を冷却タンク6と連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
事案に鑑み、前記相違点2−4から判断する。本件特許発明5は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Oは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、甲4発明2は、真空ポンプ10を使用し、バルブ29を開き、このような条件下において、加熱コイル13に加熱オイルを流通させて減圧タンク1内のワークを乾燥処理させるものであり、甲4には、前記凝縮により乾燥させる技術思想について、何ら開示されていない。
そうすると、少なくとも前記相違点2−4は本件特許発明5と甲4発明2との実質的な相違点である。
そして、本件特許発明5の前記相違点2−4に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、甲4発明2において、本件特許発明5の前記相違点2−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

そして、本件特許発明5は、前記相違点2−4に係る、減圧下にある凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」ワークを乾燥させるという発明特定事項を備えることにより、乾燥工程で真空ポンプを用いなくてもワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上できるという作用効果を奏するものであって(本件特許明細書の段落【0005】、【0006】、【0012】参照。)、このような作用効果については、前記凝縮により乾燥させる技術思想が何ら示唆されていない甲4発明2から当業者が予測できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、当業者であっても、甲4発明2において、少なくとも本件特許発明5の前記相違点2−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、前記相違点2−2、相違点2−3について判断するまでもなく、甲4発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜3は、甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件特許発明1〜3、5は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、本件特許発明4は、甲4に記載された発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、無効理由2によって、無効とすべきものではない。

7 無効理由3について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と実施品1発明1の対比
実施品1発明1の「真空ポンプ」は、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
実施品1発明1の「石油系溶剤の溶剤蒸気」、「発生させる」及び「蒸気発生槽」は、それぞれ本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気」、「生成する」及び「蒸気生成手段」にそれぞれ相当する。
実施品1発明1の「洗浄室」は、本件特許発明1の「洗浄室」に相当し、実施品1発明1の「アフタークーラ」は、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧され、溶剤蒸気が凝縮されるものであるから、本件特許発明1の「凝縮器」に相当し、実施品1発明1の「洗浄室メイン真空弁」は、洗浄室とアフタークーラの間に介在され、開弁して連通し、または閉弁して連通を遮断するものであるから、本件特許発明1の「開閉バルブ」に相当する。
実施品1発明1の洗浄室が真空ポンプによって減圧された後、減圧の状態を維持するのは明らかであり、実施品1発明1の「前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、ダンパーを開弁して前記蒸気発生槽で発生した溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行う洗浄室」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
実施品1発明1のアフタークーラは、洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって洗浄室とは関係なく減圧されることは明らかであるから、実施品1発明1の「前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラ」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」に相当する。
実施品1発明1の「熱交換器」は、溶剤蒸気が凝縮されるアフタークーラに内蔵され、溶剤蒸気の凝縮のためには、アフタークーラの内部を洗浄室の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、本件特許発明1の「温度保持手段」に相当し、実施品1発明1の「前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体とする熱交換器」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
実施品1発明1の「前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉弁する前記洗浄室メイン真空弁」は、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
実施品1発明1の「蒸気洗浄が終了した後」は、溶剤蒸気を洗浄室内部に吸引してワークの蒸気洗浄を行った後であるから、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
実施品1発明1の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される」ことと、本件特許発明1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
実施品1発明1の「真空脱脂洗浄機」は、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。

したがって、本件特許発明1と実施品1発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点3−1]
「真空ポンプと、
石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の点で相違する。
[相違点3−1]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品1発明1は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
前記相違点3−1について検討する。本件特許発明1は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Gは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、実施品1発明1は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものではない。このことは、乙2(前記2(19))における、実施品1は、真空ポンプの吸引力によって洗浄室の蒸気を吸い上げて乾燥させるものであるという陳述、乙9(前記2(20))における、実施品1は、真空ポンプを用いて乾燥させるもので以前から一般的であった洗浄機であるという陳述、甲19(前記2(18))における、実施品1は、自動運転中、真空ポンプは基本的に常時作動しており、その状態でバルブが開き、洗浄室内の溶剤蒸気が減圧された凝縮器へ流れ込み、洗浄室内部の部品を乾燥するという陳述からも裏付けられる。

そうすると、前記相違点3−1は本件特許発明1と実施品1発明1との実質的な相違点であり、本件特許発明1は、実施品1発明1ではない。
そして、本件特許発明1の前記相違点3−1に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、実施品1発明1において、本件特許発明1の前記相違点3−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、実施品1発明1ではなく、また、本件特許発明1は、当業者であっても、実施品1発明1において、本件特許発明1の前記相違点3−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、実施品1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも前記相違点3−1において、本件特許発明2〜4と実施品1発明1とは相違する。よって、本件特許発明2〜3は、実施品1として公然実施された発明ではない。
そして、本件特許発明1は、前記(1)イのとおり、当業者であっても、実施品1発明1において、本件特許発明1の前記相違点3−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、本件特許発明2〜3もまた、当業者であっても、実施品1発明1において、本件特許発明2〜3の前記相違点3−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。また、甲2には凝縮室について記載されていないから、本件特許発明4の前記相違点3−1に係る発明特定事項が開示されていないことは明らかであり、本件特許発明4もまた、当業者であっても、実施品1発明1において、本件特許発明4の前記相違点3−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

(3)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と実施品1発明2の対比
実施品1発明2の「真空ポンプ」及び「洗浄室」は、本件特許発明5の「真空ポンプ」及び「洗浄室」にそれぞれ相当する。
実施品1発明2の「アフタークーラ」は、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧され、溶剤蒸気が凝縮されるものであるから、本件特許発明5の「凝縮器」に相当し、実施品1発明2の「洗浄室メイン真空弁」は、洗浄室とアフタークーラの間に介在され、開弁して連通し、または閉弁して連通を遮断するものであるから、本件特許発明5の「開閉バルブ」に相当する。
実施品1発明2の「真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し」は、ワークの蒸気洗浄中より前にアフタークーラと洗浄室、及びアフタークーラと真空ポンプとは連通され、アフタークーラと連通状態にある洗浄室内を真空状態にするもので、洗浄室はアフタークーラとは独立して真空にされず、実施品1発明2の「蒸気洗浄中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する」は、蒸気洗浄中にアフタークーラと洗浄室とが連通しない状態で、アフタークーラと真空ポンプとを連通するもので、アフタークーラは洗浄室とは独立して真空にされ、洗浄室メイン真空弁を開く前にアフタークーラを予め真空状態にするものである。そうすると、実施品1発明2の「真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、蒸気洗浄中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」において共通する。
実施品1発明2の「溶剤蒸気」及び「発生し」は、本件特許発明5の「蒸気」及び「生成し」にそれぞれ相当し、また、実施品1発明2において、「前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満」することは、本件特許発明5の「当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給」することに相当するから、実施品1発明2の「石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程」は、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」に相当する。
実施品1発明2の「熱交換器」は、溶剤蒸気をアフタークーラにおいて凝縮するためのものであって、この凝縮のためには、アフタークーラの内部を洗浄室の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、実施品1発明2の「常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程」は、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」に相当する。
実施品1発明2の「前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄が終了した後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
実施品1発明2の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程」において、溶剤蒸気がアフタークーラで凝縮する際、アフタークーラ内の温度が洗浄室の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、洗浄室メイン真空弁を開いた状態で洗浄室がアフタークーラと連通した状態でワークが乾燥するから、実施品1発明2の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程」と、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」とは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程」において共通する。
実施品1発明2の「真空脱脂洗浄方法」は、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。

したがって、本件特許発明5と実施品1発明2とは、以下の点で一致し、
[一致点3−2]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点3−2]
洗浄室および凝縮室を減圧する工程について、本件特許発明5は「各々独立して」減圧するのに対し、実施品1発明2は、ワークが搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧しており、洗浄室はアフタークーラと独立して減圧可能とはいえない点。

[相違点3−3]
凝縮室について、本件特許発明5は「洗浄室に隣接した凝縮室」であるのに対し、実施品1発明2は、アフタークーラが洗浄室に隣接しているかどうかが不明な点。

[相違点3−4]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品1発明2は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
事案に鑑み、前記相違点3−4から判断する。本件特許発明5は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Oは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、実施品1発明2は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものではない。このことは、乙2、乙9及び甲19の陳述(前記(1)イ参照)からも裏付けられる。
そうすると、少なくとも前記相違点3−4は本件特許発明5と実施品1発明2との実質的な相違点である。
そして、本件特許発明5の前記相違点3−4に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、実施品1発明2において、本件特許発明5の前記相違点3−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、当業者であっても、実施品1発明2において、少なくとも本件特許発明5の前記相違点3−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、前記相違点3−2、相違点3−3について判断するまでもなく、実施品1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
本件特許発明1〜3は、優先日前に実施品1として公然実施された発明ではないから、特許法第29条第1項第2号に該当せず、また、本件特許発明1〜3、5は、優先日前に実施品1として公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、本件特許発明4は、優先日前に実施品1として公然実施された発明に基いて、甲2に記載されるような周知技術との組み合わせにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、無効理由3によって、無効とすべきものではない。

8 無効理由4について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と実施品2発明1の対比
実施品2発明1の「真空ポンプ」は、本件特許発明1の「真空ポンプ」に相当する。
実施品2発明1の「石油系溶剤の溶剤蒸気」、「発生させる」及び「蒸気発生室」は、それぞれ本件特許発明1の「石油系溶剤の蒸気」、「生成する」及び「蒸気生成手段」にそれぞれ相当する。
実施品2発明1の「洗浄室」は、本件特許発明1の「洗浄室」に相当し、実施品2発明1の「アフタークーラ」は、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧され、溶剤蒸気が凝縮されるものであるから、本件特許発明1の「凝縮器」に相当し、実施品2発明1の「洗浄室メイン真空弁」は、洗浄室とアフタークーラの間に介在され、開弁して連通し、または閉弁して連通を遮断するものであるから、本件特許発明1の「開閉バルブ」に相当する。
実施品2発明1の洗浄室が真空ポンプによって減圧された後、減圧の状態を維持するのは明らかであり、実施品2発明1の「前記真空ポンプによって減圧した後、洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を閉弁し、次に前記蒸気発生室で発生した前記溶剤蒸気を内部に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満してワークの蒸気洗浄を行い、蒸気洗浄後に浸漬洗浄を行う洗浄室」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室」に相当する。
実施品2発明1のアフタークーラは、洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって洗浄室とは関係なく減圧されることは明らかであるから、実施品2発明1の「前記洗浄室メイン真空弁を閉弁した後、継続的に運転される前記真空ポンプによって常時減圧される前記アフタークーラ」は、本件特許発明1の「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」に相当する。
実施品2発明1の「熱交換器」は、溶剤蒸気が凝縮されるアフタークーラに内蔵され、溶剤蒸気の凝縮のためには、アフタークーラの内部を洗浄室の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、本件特許発明1の「温度保持手段」に相当し、実施品2発明1の「前記溶剤蒸気が凝縮される前記アフタークーラに内蔵され、水を媒体とする熱交換器」は、本件特許発明1の「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」に相当する。
実施品2発明1の「前記洗浄室と前記アフタークーラの間に介在され、開弁し、または閉弁する前記洗浄室メイン真空弁」は、本件特許発明1の「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブ」に相当する。
実施品2発明1の「蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了した後」は、蒸気洗浄において蒸気を洗浄室に吸引し、蒸気洗浄後の浸漬洗浄が終了することによって、ワークの洗浄が完了するのであるから、本件特許発明1の「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後」に相当する。
実施品2発明1の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される」ことと、本件特許発明1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」こととは、ともに開閉バルブによって洗浄室が凝縮室と連通した状態でワークの乾燥が行われるものであるから、「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる」ことにおいて共通する。
実施品2発明1の「真空脱脂洗浄機」は、本件特許発明1の「真空洗浄装置」に相当する。

したがって、本件特許発明1と実施品2発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点4−1]
「真空ポンプと、
石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。」

以下の点で相違する。
[相違点4−1]
ワークの乾燥について、本件特許発明1は、開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品2発明1は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
前記相違点4−1について検討する。本件特許発明1は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Gは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、実施品2発明1は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものではない。このことは、乙2(前記2(19))の実施品2は、真空ポンプの吸引力によって洗浄室の蒸気を吸い上げて乾燥させるものであるという陳述、乙9(前記2(20))の実施品2は、真空ポンプを用いて乾燥させるもので以前から一般的であった洗浄機であるという陳述、甲19(前記2(18))の実施品2は、自動運転中、真空ポンプは基本的に常時作動しており、その状態でバルブが開き、洗浄室内の溶剤蒸気が減圧された凝縮器へ流れ込むという陳述からも裏付けられる。

そうすると、前記相違点4−1は本件特許発明1と実施品2発明1との実質的な相違点であり、本件特許発明1は、実施品2発明1ではない。
そして、本件特許発明1の前記相違点4−1に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、実施品2発明1において、本件特許発明1の前記相違点4−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1は、実施品2発明1ではなく、また、本件特許発明1は、当業者であっても、実施品2発明1において、本件特許発明1の前記相違点4−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、実施品2発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも前記相違点4−1において、本件特許発明2〜4と実施品2発明1とは相違する。よって、本件特許発明2〜4は、実施品2として公然実施された発明ではない。
そして、本件特許発明1は、前記(1)イのとおり、当業者であっても、実施品2発明1において、本件特許発明1の前記相違点4−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、本件特許発明2〜4もまた、当業者であっても、実施品2発明1において、本件特許発明2〜4の前記相違点4−1に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

(3)本件特許発明5について
ア 本件特許発明5と実施品2発明2の対比
実施品2発明2の「真空ポンプ」及び「洗浄室」は、本件特許発明5の「真空ポンプ」及び「洗浄室」にそれぞれ相当する。
実施品2発明2の「アフタークーラ」は、継続的に運転される真空ポンプによって常時減圧され、溶剤蒸気が凝縮されるものであるから、本件特許発明5の「凝縮器」に相当し、実施品2発明2の「洗浄室メイン真空弁」は、洗浄室とアフタークーラの間に介在され、開弁して連通し、または閉弁して連通を遮断するものであるから、本件特許発明5の「開閉バルブ」に相当する。
実施品2発明2の「真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬入された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し」は、ワークの蒸気洗浄中より前にアフタークーラと洗浄室、及びアフタークーラと真空ポンプとは連通され、アフタークーラと連通状態にある洗浄室内を真空状態にするもので、洗浄室はアフタークーラとは独立して真空にされず、実施品2発明2の「浸漬室から洗浄室へ前記ワークの移動中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する」は、浸漬室から洗浄室へ前記ワークの移動中にアフタークーラと洗浄室とが連通しない状態で、アフタークーラと真空ポンプとを連通するので、アフタークーラは洗浄室とは独立して真空にされ、また洗浄室メイン真空弁を開く前に予め真空状態に成すものである。そうすると、実施品2発明2の「真空ポンプを用いることにより、蒸気洗浄において、まず、ワークが搬入された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧し、浸漬室から洗浄室へ前記ワークの移動中において前記洗浄室メイン真空弁は閉弁され、その間継続的に運転される前記真空ポンプにより前記アフタークーラを常時減圧する工程」と、本件特許発明5の「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室を各々独立して減圧する工程」とは、「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程」において共通する。
実施品2発明2の「溶剤蒸気」及び「発生し」は、本件特許発明5の「蒸気」及び「生成し」にそれぞれ相当し、また、実施品2発明2において、「前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満」することは、本件特許発明5の「当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給」することに相当するから、実施品2発明2の「石油系溶剤の溶剤蒸気を発生し、前記溶剤蒸気を前記洗浄室内に吸引し、内部に前記溶剤蒸気が充満して前記ワークの蒸気洗浄を行う工程」は、本件特許発明5の「石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程」に相当する。
実施品2発明2の「熱交換器」は、溶剤蒸気をアフタークーラにおいて凝縮するためのものであって、この凝縮のためには、アフタークーラの内部を洗浄室の温度よりも低い状態に保持する必要があることは明らかであるから、実施品2発明2の「常時減圧される前記アフタークーラに内蔵される、水を媒体とした熱交換器の温度を、前記アフタークーラによって前記溶剤蒸気を凝縮可能なものとする工程」は、本件特許発明5の「減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」に相当する。
実施品2発明2の「前記洗浄室において前記ワークの蒸気洗浄後に浸漬室での浸漬洗浄が終了した後」は、本件特許発明5の「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後」に相当する。
実施品2発明2の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程」において、溶剤蒸気がアフタークーラで凝縮する際、アフタークーラ内の温度が洗浄室の温度よりも低い状態に保持されていることは明らかであり、また、洗浄室メイン真空弁を開いた状態で洗浄室がアフタークーラと連通した状態でワークが乾燥するから、実施品2発明2の「前記洗浄室メイン真空弁を開弁して、前記洗浄室内の前記溶剤蒸気は前記真空ポンプに吸引され、排出され、これにより前記洗浄室内の前記ワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、前記ワークが乾燥し、その過程で前記アフタークーラによって、前記溶剤蒸気が凝縮される工程」と、本件特許発明5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」とは、「開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程」において共通する。
実施品2発明2の「真空脱脂洗浄方法」は、本件特許発明5の「真空洗浄方法」に相当する。

したがって、本件特許発明5と実施品2発明2とは、以下の点で一致し、
[一致点4−2]
「真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブが開弁され前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる工程と、を含む真空洗浄方法。」

以下の各点で相違する。
[相違点4−2]
洗浄室および凝縮室を減圧する工程について、本件特許発明5は「各々独立して」減圧するのに対し、実施品2発明2は、ワークが搬送された洗浄室を、前記洗浄室とアフタークーラの間に介在する洗浄室メイン真空弁を開弁することにより減圧しており、洗浄室はアフタークーラと独立して減圧可能とはいえない点。

[相違点4−3]
凝縮室について、本件特許発明5は「洗浄室に隣接した凝縮室」であるのに対し、実施品2発明2は、アフタークーラが洗浄室に隣接しているかどうかが不明な点。

[相違点4−4]
ワークの乾燥について、本件特許発明5は、「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させているのに対し、実施品2発明2は、洗浄室メイン真空弁を開弁して、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるものであり、洗浄室メイン真空弁を開弁することにより洗浄室をアフタークーラと連通させて乾燥させているとはいえない点。

イ 判断
事案に鑑み、前記相違点4−4から判断する。本件特許発明5は、前記1(1)ウ(イ)において示したように、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものであり、構成要件Oは、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づき、この技術思想を実現する構成である。
一方、実施品2発明2は、真空ポンプを必須の構成とし、洗浄室メイン真空弁を開弁した後、洗浄室内の溶剤蒸気は真空ポンプに吸引され、排出され、これにより洗浄室内のワークに付着した溶剤が蒸気となって排出され、ワークが乾燥し、その過程でアフタークーラによって、溶剤蒸気が凝縮されるのであって、前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づくものではない。このことは、乙2、乙9及び甲19の陳述(前記(1)イ参照)からも裏付けられる。
そうすると、少なくとも前記相違点4−4は本件特許発明5と実施品2発明2との実質的な相違点である。
そして、本件特許発明5の前記相違点4−4に係る発明特定事項について、前記5(1)イ(イ)のとおり、甲3〜甲8には前記凝縮により乾燥させる技術思想が開示されておらず、またその点は周知技術ともいえないから、請求人が提出した証拠を検討しても、実施品2発明2において、本件特許発明5の前記相違点4−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明5は、当業者であっても、実施品2発明2において、少なくとも本件特許発明5の前記相違点4−4に係る発明特定事項とすることを容易に想到できるものではないから、前記相違点4−2、前記相違点4−3について判断するまでもなく、実施品2発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
本件特許発明1〜4は、優先日前に実施品2として公然実施された発明ではないから、特許法第29条第1項第2号に該当せず、また、本件特許発明1〜5は、優先日前に実施品2として公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、無効理由4によって、無効とすべきものではない。

9 無効理由5について
(1)請求人の主張の要点
無効理由5における、請求人の主張の要点は以下のとおりである。

ア 請求項1の「前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」とは、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。請求項1を引用する請求項2〜請求項4も同様である。また、請求項5の「開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程」も同様である。(審判請求書第105ページ第2〜6行、第107ページ第9〜12行参照)

イ 本件特許発明の課題は、「【0006】本発明は、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置および真空洗浄方法を提供することを目的とする。」とされている。しかし、請求項1の上記の記載のように、単に開閉バルブを開けて洗浄室と凝縮室とを連通させるだけでは、ワークの乾燥が生じることがないことは明らかである。つまり、洗浄室内でワークに付着した溶剤が凝縮室に回収される現象が生じるための前提条件を定義することが必要であるが請求項1はその前提条件を欠いている。(審判請求書第105ページ第7〜14行参照)

ウ 請求項1は、「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室」と規定するのみで減圧の程度が規定されておらず、乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係は不明である。(審判請求書第106ページ第1〜3行参照)

エ 請求項1の記載では、乾燥の際に、洗浄室と凝縮室との差圧が微差であり、ワークの乾燥時間を短縮させる程の溶剤蒸気の移動を生じない態様も含んでいるだけでなく、乾燥の際に、洗浄室が凝縮室よりも低圧の場合、つまり、溶剤蒸気を洗浄室が吸い込むという課題解決に矛盾する態様もその発明の範囲に含んでいる。(審判請求書第106ページ第4〜8行参照)

オ 請求項1の上記記載では、開閉バルブを開弁させることしか規定していないのであるから、開弁後に作動される真空ポンプで真空引きして乾燥する態様も包含しているが、これは本件発明が従来技術として位置付ける態様である。(審判請求書第106ページ第9〜12行参照)

カ 凝縮室において溶剤蒸気が凝縮するためには凝縮室が凝縮点温度よりも低い温度に維持されていることが必要であるが、請求項1には、「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」、「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させて」と規定するのみで、溶剤の凝縮点温度との関係は規定されていない。請求項1の記載では、乾燥の際に、凝縮室に吸い込まれた溶剤蒸気が凝縮せずに、凝縮室の圧力を上昇させ、溶剤蒸気の移動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでいる。(審判請求書第106ページ第13〜20行参照)

キ 請求項1の記載では、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係も規定されていないため、凝縮室の容積が小さく、洗浄室内の溶剤蒸気を吸い込んだならば直ぐに溶剤蒸気で満杯になり、凝縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ、溶剤蒸気の移動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでいる。(審判請求書第106ページ下4行〜最終行参照)

(2)被請求人らの主張の要点
無効理由5における、被請求人らの主張の要点は以下のとおりである。

ア 請求人の主張は、実質的には、先の無効審判における主張の繰り返しであり、それに対する反論は先の無効審判に係る審決が認定するとおりであるから、請求人の主張には理由がない。(答弁書第44ページ第13〜15行参照)

イ 前記(1)ウの主張について、どの程度の減圧を行うかは当業者が適宜設定すれば足りる事項であるから、請求項に減圧の程度や乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係を規定しなくても、サポート要件違反になるはずがない。(答弁書第46ページ最終行〜第47ページ第2行参照)

ウ 前記(1)エ、カ、キの主張について、請求人が主張しているのは、敢えて不十分な作用効果しか奏さないような構成も想定しうると述べているだけであって、なんらサポート要件違反の主張になっていない。(答弁書第47ページ第3〜5、10〜12行参照)

エ 前記(1)オの主張について、本件特許発明は、「開閉バルブを開弁することしか規定していない」などということはなく、凝縮室を予め減圧・低温にしてこれを保持し(構成要件D、E)、この凝縮室と洗浄室を連通させて乾燥させるとして(構成要件G)、凝縮乾燥(連通乾燥)を明確に規定しており、従来技術である真空ポンプ乾燥を含まないことは明らかである。(答弁書第47ページ第6〜10行参照)

(3)無効理由5についての当審の判断
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について
前記1(1)ウ(イ)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】、【0006】によると、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであり、その課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0023】〜【0031】には、準備工程で減圧され、減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と、搬入工程でワークWが搬入され、減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを、乾燥工程において、開閉バルブ20を開弁して連通させることによって、洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し、これにより洗浄室2が減圧され、ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2内の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動し、ワークWを乾燥させ、搬出工程において、開閉扉4を開放して開口3aからワークWを搬出するという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。
また、その効果についても、発明の詳細な説明の段落【0032】〜【0038】、及び図3〜図6に、乾燥工程で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置との比較が記載されており、少なくともこの従来の真空洗浄装置を用いた真空洗浄方法よりも乾燥工程に要する時間が短縮化されることが示されている。
これらを総合すると、発明の詳細な説明には、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための手段として、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が開示されているといえる。

ウ 本件特許発明1について
本件特許発明1は、真空洗浄装置に関する発明であって、前記1(1)ウ(ア)aに示したとおり解釈し得るものである。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記イに示すとおり、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。
そして、前記のように解釈される本件特許発明1は、前記イに示した、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための、段落【0023】〜【0031】に記載された、真空洗浄装置の一連の処理工程と対応するものであるから、本件特許発明1は、前記イに示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そうすると、本件特許発明1は、サポート要件に違反するものではない。

エ 本件特許発明5について
本件特許発明5は、真空洗浄方法に関する発明であって、前記1(1)ウ(ア)bに示したとおり解釈し得るものである。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記イに示すとおり、前記真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。さらに、本件特許の【図1】の記載から、凝縮室21が、洗浄室2に隣接していることは明らかである。
そして、前記のように解釈される本件特許発明5は、前記イに示した、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための、段落【0023】〜【0031】に記載された、真空洗浄装置の一連の処理工程と対応するものであるから、本件特許発明5は、前記イに示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そうすると、本件特許発明5は、サポート要件に違反するものではない。

オ 本件特許発明2〜本件特許発明4について
本件特許発明2〜本件特許発明4は、本件特許発明1を引用するものであるところ、本件特許発明1は、前記ウに示したように、発明の詳細な説明に記載された発明であり、さらに、本件特許発明2において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0023】に、本件特許発明3において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0019】、及び図1に、さらに本件特許発明4において付加された発明特定事項については、発明の詳細な説明の段落【0043】、及び図7に、それぞれ記載されているから、本件特許発明2〜本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、本件特許発明1は、前記ウに示したように、前記イに示した課題を解決するための手段が反映されているといえるから、本件特許発明2〜本件特許発明4についても、前記イに示した課題を解決するための手段が反映されているといえる。

カ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、本件特許発明は、乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係、凝縮室の温度と溶剤の凝縮点温度との関係、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係、が規定されておらず課題解決手段が反映されていないと主張する(前記(1)ウ、カ、キ参照)。この点に関し、発明の詳細な説明の段落【0030】には、「したがって、開閉バルブ20を開弁すると、洗浄室2内に充満している蒸気は、凝縮室21に移動して凝縮する。これにより、洗浄室2が減圧されることから、ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2内の石油系溶剤が、全て気化して、凝縮室21に移動する。その結果、従来に比べて極めて短時間で、洗浄室2(ワークW)を乾燥させることが可能となる。」
と記載されており、当該記載から、ワークの乾燥は、当業者であれば、乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係、凝縮室の温度と溶剤の凝縮点温度との関係、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係の影響を受けることを、当然に理解することができる。
そうすると、本件特許発明には,「ワークを乾燥させる」と特定されているのだから、乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係、凝縮室の温度と溶剤の凝縮点温度との関係、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係は、いずれもワークを乾燥させるような関係となっていることは明らかである。
したがって、本件特許発明は、乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧関係、凝縮室の温度と溶剤の凝縮点温度との関係、洗浄室と凝縮室との間の容積の関係が特定されてなくても、発明の課題を解決することができるものであるといえる。
よって、本件特許発明は、前記課題を解決するための手段が反映されているといえる。

(イ)請求人は、本件特許発明は、開弁後に作動される真空ポンプで真空引きして乾燥する態様も包含されると主張する(前記(1)オ参照。)。この点に関し、本件特許発明が解決しようとする課題は、乾燥工程において、蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では、乾燥工程に長時間を要するところ、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供するというものであるから、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上することが課題であって、前記ウ、エ、オのとおり、本件特許発明は、前記課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、本件特許発明においては、発明の詳細な説明に開示された前記凝縮により乾燥させる技術思想に基づく凝縮による乾燥手段が反映されている限りにおいて、本件特許発明は、発明が解決しようとする課題を解決できるのであるから、開弁後に作動される真空ポンプで真空引きして乾燥する態様が含まれても、発明が解決しようとする課題を解決できるものである。

(ウ)よって、請求人の主張はいずれも採用できない。

(4)まとめ
したがって、本件特許発明1〜5は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、無効理由5によって、無効とすべきものではない。

10 無効理由6について
(1)本件特許発明
本件特許発明は、前記第2に示したとおりのものである。

(2)甲21発明
本件特許の遡及日と同日に同一出願人により出願され(本件特許の孫出願(特願2016−146784号))、平成28年11月18日に特許権の設定登録がされた特許第6043888号(甲21)の請求項1〜5に係る発明(以下、「甲21発明1」などといい、これらの発明をまとめて「甲21発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、特許請求の範囲の請求項1〜5において、前記第2の分説に倣って、当審で「A」等の記号を付加した。

「【請求項1】
A:真空ポンプと、
B:石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と、
C:前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と、
D:前記真空ポンプによって減圧され、当該減圧の状態が保持される凝縮室と、
E:前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と、
F:前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ、または、その連通を遮断する開閉バルブと、を備え、
G:前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後、前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる
H:ことを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
I:前記温度保持手段は、
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴とする請求項1記載の真空洗浄装置。
【請求項3】
J:前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を、前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の真空洗浄装置。
【請求項4】
K:前記洗浄室に接続され、前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
【請求項5】
L:真空ポンプを用いることにより、ワークが搬入された洗浄室および凝縮室を減圧する工程と、
M:石油系溶剤の蒸気を生成し、当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給して前記ワークを洗浄する工程と、
N:減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と、
O:前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後、開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と、
P:を含む真空洗浄方法。」

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲21発明1とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点6−1]
真空ポンプによって減圧の状態が保持される凝縮室について、本件特許発明1は「前記洗浄室とは独立して減圧され」ることが特定されているのに対し、甲21発明1は洗浄室との関係が特定されていない点。

イ 判断
前記相違点6−1について検討すると、甲21発明1は、真空ポンプによる凝縮室の減圧について、洗浄室との関係について特定されておらず、一方、本件特許発明1は、真空ポンプによる凝縮室の減圧が、洗浄室とは独立して減圧されることを特定しており、両者は構成が異なるから、前記相違点6−1は実質的な相違点である。
請求人は、洗浄室と凝縮室とを独立して減圧する構成は、甲3〜甲7や実施品1、実施品2に示されるように周知技術であり、また、当該構成によって新たな効果を奏するものでもなく、したがって、当該構成は、周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではなく、本件特許発明1と甲21発明1は実質的に同一であると主張する(審判請求書第109ページ第2〜6行参照)。
この点に関して、本件特許発明1においては、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するために、凝縮室が洗浄室とは独立して減圧される構成により、凝縮室の減圧がより効率良く行え、減圧の状態かつ低い温度に保持された凝縮室と洗浄室との連通によりワークを乾燥させて全体の処理能力を向上することができることは明らかであるから、当該構成は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、前記相違点6−1は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえず、本件特許発明1と甲21発明1とが、実質的に同一の発明であるとすることはできない。

(4)本件特許発明2〜4について
本件特許発明2〜4と、甲21発明2〜4とは、前記相違点6−1において相違し、その余の点で一致する。そして、前記相違点6−1については、前記(3)のとおり、課題解決のための具体化手段における微差とはいえないから、本件特許発明2〜4と甲21発明2〜4とが、実質的に同一の発明であるとすることはできない。

(5)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と甲21発明5とを対比すると、両者は以下の各点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点6−2]
凝縮室について、本件特許発明5は「洗浄室に隣接した」ものであることが特定されているのに対し、甲21発明5は、洗浄室との配置関係が特定されていない点。

[相違点6−3]
真空ポンプを用いることにより洗浄室および減圧室を減圧する工程について、本件特許発明5は「各々独立して減圧する」ことが特定されているのに対し、甲21発明5は洗浄室と減圧室との関係が特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点6−2について
甲21発明5は、凝縮室と洗浄室の配置関係について特定されておらず、一方、本件特許発明5は、凝縮室が洗浄室に隣接したことを特定しており、両者は構成が異なるから、前記相違点6−2は実質的な相違点である。
請求人は、洗浄室と凝縮室とが隣接している点は単なる設計事項であって、そもそも、隣接とはどの程度、洗浄室と凝縮室とが接近しているのかも不明であり、周知技術の付加に類する程度の相違でしかなく、当該相違によって新たな効果を奏するものでもないと主張する(審判請求書第110ページ第7〜10行参照)。
この点に関して、本件特許発明5においては、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するために、洗浄室と凝縮室とが隣接していることにより、配管による損失が小さくなり、減圧の状態かつ低い温度に保持された凝縮室と洗浄室との連通によりワークを乾燥させて全体の処理能力を向上することができることは明らかであるから、この点は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(イ)相違点6−3について
甲21発明5は、真空ポンプによる凝縮室及び減圧室の減圧について、洗浄室と減圧室との関係について特定されておらず、一方、本件特許発明5は、真空ポンプによる凝縮室及び減圧室の減圧が、各々独立して減圧することを特定しており、両者は構成が異なるから、前記相違点6−3は実質的な相違点である。
請求人は、洗浄室と凝縮室とを独立して減圧する構成は、甲3〜甲7や実施品1、実施品2に示されるように周知技術であり、また、当該構成によって新たな効果を奏するものでもなく、したがって、当該構成は、周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないと主張する(審判請求書第110ページ第3〜6行参照)。
この点に関して、本件特許発明5においては、ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するために、凝縮室及び減圧室の減圧が、各々独立して行われる構成により、凝縮室の減圧がより効率良く行え、減圧の状態かつ低い温度に保持された凝縮室と洗浄室との連通によりワークを乾燥させて全体の処理能力を向上することができることは明らかであるから、当該構成は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(ウ)まとめ
よって、本件特許発明5と甲21発明5とが、実質的に同一の発明であるとすることはできない。

(6)まとめ
よって、本件特許発明1〜5は、特許第6043888号の請求項1〜5の発明と同一の発明ではなく、本件特許発明1〜5に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものではないから、無効理由6によって、無効とすべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1〜5の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-05 
審決日 2021-05-07 
出願番号 P2015-022618
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B08B)
P 1 113・ 4- Y (B08B)
P 1 113・ 112- Y (B08B)
P 1 113・ 113- Y (B08B)
P 1 113・ 537- Y (B08B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 長馬 望
上田 真誠
登録日 2016-07-29 
登録番号 5976858
発明の名称 真空洗浄装置および真空洗浄方法  
代理人 大塚 康徳  
代理人 牧野 知彦  
代理人 加治 梓子  
代理人 木村 秀二  
代理人 加治 梓子  
代理人 佐々木 奏  
代理人 牧野 知彦  
代理人 平田 憲人  
代理人 位田 陽平  
代理人 大塚 康弘  
代理人 倉貫 北斗  
代理人 小野寺 良文  

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