• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A47G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47G
管理番号 1388688
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-08-19 
確定日 2022-09-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第6667748号発明「配送荷物保管装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許6667748号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成30年 1月30日 原出願(特願2018−25470号)
平成30年10月19日 本件特許出願(特願2018−197825号)
令和 2年 2月28日 設定登録
令和 2年 8月19日 審判請求書
令和 2年11月24日 答弁書
令和 3年 2月19日 審判事件弁駁書
令和 3年 5月21日付 審理事項通知書
令和 3年 6月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
令和 3年 8月10日 口頭審理陳述要領書(請求人)
令和 3年 8月30日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
令和 3年 9月 3日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
令和 3年 9月14日 口頭審理
令和 3年 9月21日 上申書(被請求人)
(なお,令和3年10月13日に,請求人から上申書(被請求人)に対する上申書の提出はない旨が確認された。)

第2 本件特許
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下,それぞれ,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,総称して「本件発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(甲1の1)。
「【請求項1】
開口部と収納部を備えた配送荷物収納体と,前記配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体と,前記配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続体とを備えた配送荷物保管装置であって,
前記配送荷物収納体は,配送荷物を収納しない第1の形態と,配送荷物を収納する第2の形態に変更することができ,前記第1の形態より,前記第2の形態が大きく,
前記接続体は,前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部を備え,
前記接続体は,前記伸縮部により,前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され,前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであり,
前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に前記伸縮部を短縮した状態として前記配送荷物収納体が前記ドアの一部に吊り下げられた状態とし,前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能としたことを特徴とする配送荷物保管装置。
【請求項2】
前記第1の形態は配送荷物収納体を折り畳み固定した状態であり,前記第2の形態は配送荷物収納体を広げた状態であることを特徴とする請求項1に記載された配送荷物保管装置。
【請求項3】
前記接続体は,本体部と,前記配送荷物収納体と接続する第1の接続部と,前記ドアの一部と接続する第2の接続部とを備え,前記第2の接続部に前記伸縮部を備え,前記第2の接続部を伸長した状態とした場合でも,前記本体部と前記配送荷物収納体とが近接することを特徴とする請求項1又は2に記載された配送荷物保管装置。
【請求項4】
前記接続体は,前記第1の接続部を施錠する施錠部を備えることを特徴とする請求項3に記載された配送荷物保管装置。
【請求項5】
前記施錠体は,電子錠であることを特徴とする請求項1乃至4に記載された配送荷物保管装置。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載された配送荷物保管装置を使用する方法であって,
配送荷物の荷受人が,前記配送荷物収納体を前記第1の形態で,かつ,前記接続体を短縮した状態で,前記接続体を前記ドアの一部に吊り下げて接続する第1のステップと,
配送荷物の配送人が,前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長すること及び前記配送荷物収納体を前記第2の形態に変更することをした上で,配送荷物を前記配送荷物収納体の収納部に収納し前記施錠体を施錠する第2のステップと,
配送荷物の荷受人が,前記施錠体を開錠し,前記配送荷物収納体に収納された配送荷物を取り出す第3のステップとを備える配送荷物保管装置を使用する方法。
【請求項7】
請求項1乃至5に記載された配送荷物保管装置を使用する方法であって,
配送荷物の荷送人が,前記配送荷物収納体が前記第2の形態で配送荷物を前記収納部に収納した上で前記施錠体を施錠すること及び前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態で前記接続体を前記ドアの一部に吊り下げて接続することを行う第1のステップと,
配送荷物の配送人が,前記施錠体を開錠し,前記配送荷物収納体に収納された配送荷物を取り出した上で,前記配送荷物収納体を前記第1の形態に変更すること及び前記伸縮部を短縮することを行う第2のステップとを備える配送荷物保管装置を使用する方法。」

第3 請求人の主張
請求人は,本件発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1号証〜甲第13号証(下記3。以下,各証拠について,証拠番号に従って「甲1」などという。)の証拠方法を提出し,以下の無効理由を主張する。
1 無効理由1
本件発明は,甲2〜7に記載された発明に基いて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。
(1) 甲2に記載された発明の盗難防止用連結ワイヤは「宅配容器盗難防止のため,玄関周りの固定部と宅配容器を連結し,宅配容器が持ち去られない」(甲2【0007】)ことを目的とするものであるから,盗難防止具として機能することは明らかである。
そして,一方の接続部を施錠対象物(甲2に記載された発明における「宅配容器」)に固定して施錠し,他方の接続部を固定物(甲2に記載された発明における「ドアノブ」)に固定する盗難防止具は,甲5〜7に開示がされているように,施錠対象物の種類のいかんを問わず適用し得る汎用性のある技術というべきである。
さらに,甲5〜7のように,施錠対象物と固定物との距離を伸縮可能とする伸縮部を有するもの,或いは有さないものの何れもが開示されている状況においては,周知の盗難防止具の中から具体的にどのような盗難防止具を選択するかという点については,何ら困難性が認められるものではない。
また,甲2及び4に記載された発明はともに宅配容器と錠と連結ワイヤを備えた配送荷物保管装置に関するものである点で技術分野が共通する。
そうすると,甲2に記載された配送荷物保管装置に,甲4に記載された発明及び甲5〜7の周知技術を適用し,甲2に記載された発明を出発点として,甲2に記載された発明の宅配容器の設置形態として,第1の形態と第2の形態を実現するために,甲2に記載された発明の盗難防止用連結ワイヤに代えて盗難防止具の一形式として周知の伸縮部を有する構造(甲7)を採用することにより,本件発明1に係る構成とすることは当業者が適宜なし得る事項というべきである。
なお,「施錠対象物と固定物との距離を伸縮可能とする伸縮部」としては,例えば結束バンド等で,余分なワイヤを結束して長さ調整を行うこと,或いはゴム等の伸縮性のある材料を採用する構成についても,甲5〜7に係る周知技術に基づけば,容易になし得る事項である。
(2) 本件発明2〜5は,甲2に記載された発明及び甲4〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 本件発明6,7は,甲2に記載された発明及び甲3〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 無効理由2
本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものでないこと,発明の内容が不明確であることから,本件特許は,特許法36条6項1号,同2号に規定する要件を満たしていない特許出願に付与されたものであり,本件特許は同法123条1項4号の規定に該当し,無効とすべきである。
(1) 「伸縮部」について
ア 本件発明は,「伸縮部」として,いかなる構造も含まれるものと解釈することができる。
これに対し,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には,伸縮部の構成として,図4に開示されている巻取り式ワイヤ錠の実施形態のみが記載され,「伸縮部34は,いかなる構造によって伸縮をしてもよい。」としつつも,「ワイヤーを巻き尺(メジャー)に用いられているぜんまいバネを用いて巻き取る構造としてもよい。また,例えば,ゴム等の伸縮性のある材料を用いて伸縮させてもよい」(甲1の1【0029】)と記載されているのみで,それ以外の実施形態については何ら示されていない。
以上のとおり,本件発明は,サポート要件を満たしていない。
イ また,本件発明の「伸縮部」の具体的な構成が不明確である。
(2) 「開口部」について
ア 本件発明の「開口部」とは,配送荷物収納体の内部と外部を連通するための開口部,或いは配送荷物収納体の側面等に形成し小物等を収納するための開口部のように,「開口部」の構成については多義的に解釈することができる。
これに対し,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には,「開口部」の説明として図2に加えて「配送荷物を収納するための開口部11,配送荷物を収納するための収納部12」(甲1の1【0023】),「また,配送荷物収納体1は,荷物を収納した場合,荷物の盗難等を防止する目的で,開口部11を施錠可能とするために,図示されていない,施錠体2を取り付けるための施錠体取付部を備える。」(同【0024】)と記載されていることから,「開口部」とは配送荷物収納体の内部と外部を連通するための開口部を意味するもので,その他の実施形態については本件特許明細書中にはサポートされていない。
以上のとおり,本件発明は,発明の詳細な説明の記載内容を不当に拡張するものである。
イ また,本件発明の「開口部」の具体的な構成が不明確である。
(3) 「施錠体」について
ア 本件発明1〜4,6及び7の「施錠体」とは,ダイヤルにより開錠可能なダイヤル式錠,電気により開錠可能な電子錠,鍵により開錠可能な鍵式錠等,あらゆる形態の施錠体が含まれるものと解釈できる。
これに対し,本件特許明細書においては,本件特許明細書中に挙げられている特許文献1(特開2003−189996号公報)の問題点として「住人と配達業者との間で事前に鍵を持ち合う必要があった。」(甲1の1【0005】)とし,その発明の効果として「荷受人と配達業者との間で鍵を持ち合う必要もないため,利用性がよい」(同【0019】)と記載されている。
そうすると,本件発明1〜4,6及び7の施錠体としては,鍵を用いないダイヤル式錠,電子錠のみがサポートされており,「住人と配達業者との間で事前に鍵を持ち合う」という鍵式錠については本件発明からは意識的に除外がされており,本件特許明細書中にはサポートされていない。
以上のとおり,本件発明1〜4,6及び7は,発明の詳細な説明の記載内容を不当に拡張するものである。
イ また,本件発明1〜4,6及び7の「施錠体」の具体的な構成が不明確である。
(4) 「接続体」について
ア 本件発明は,接続体の構造及び接続体のドアの一部に対する接続方法としてあらゆる形態のものが含まれるものと解釈できる。
これに対し,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,接続体とドアの一部は「配送物保管装置4の盗難を防止する」(甲1の1【0032】)ことができるように接続されている必要があるため,接続体の構造としては,ドアの一部に対して「配送物保管装置4の盗難を防止する」ことができる構造のみがサポートされ,それ以外の構造は本件特許明細書に記載の効果を奏するものとは認められず,本件特許明細書がサポートする範囲のものではない。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明の記載内容を不当に拡張するものである。
イ 本件発明の「前記接続体は,前記伸縮部により,前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され,前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであり,」との特定事項について,接続体の全体の形状が明らかにされていない以上,「一方」「他方」が何れの位置を示すのか明確でない。
ウ 本件発明の「接続体」の構成に係る「前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能とした」との特定事項において,「接続体」を接続する「ドア」を本件発明の構成要素として含むのか否か不明確であり,仮に「ドア」をその構成要素として含まない場合,「地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態」は,接続するドアの大きさや幅により変わるものであり,その構成が不明確となる。
また,この特定事項における「地面」については,「土地の表面」と解釈できるが,本件特許明細書においては,本件発明の「地面」が「土地の表面」を意味するのか,多層階の建物において2階より上のフロアの床面についても「地面」と定義するのか,本件特許明細書の記載からは明らかではない。

3 証拠方法
甲1の1 特許第6667748号公報(本件特許公報)
甲1の2 本件特許の登録原簿
甲2 特開2005−288065号公報
甲3 特表2017−521103号公報
甲4 特開平11−152190号公報
甲5 実願昭62−13036号(実開昭63−122564号)のマイクロフィルム
甲6 特開平9−212763号公報
甲7 実願昭55−99006号(実開昭57−21757号)のマイクロフィルム
甲8の1 平成31年1月31日付拒絶理由通知書
甲8の2 令和元年7月22日付拒絶理由通知書
甲9 平成11年(行ケ)第214号判決
甲10 訂正2005−39002号審決
甲11 「大辞林」の「地面」の項,第3版第1刷,株式会社三省堂,2006年10月27日
甲12 実願昭55−99006号(実開昭57−21757号)(甲7)についての経過情報照会のキャプチャ画像
甲13 平成23年(行ケ)第10144号判決

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,乙第1号証〜乙第15号証(以下,各証拠について,証拠番号に従って「乙1」などという。)の証拠方法を提出し,無効理由がない旨主張する。
(証拠方法)
乙1 「広辞苑」,第7版第1刷,株式会社岩波書店,2018年1月12日,p188−189
乙2 「広辞苑」,第7版第1刷,株式会社岩波書店,2018年1月12日,p.1826−1827
乙3の1 令和2年3月13日付通知書
乙3の2 郵便物等配達証明書
乙4の1 令和2年6月30日付通知書2
乙4の2 郵便物等配達証明書
乙5の1 乙4の1の別紙
乙5の2 書留・特定記録郵便物等受領証
乙5の3 検索結果詳細[郵便物等],<URL:https://trackings.post.japanpost.jp/services/srv/search/>
乙6 令和2年7月27日付通知書3
乙7 令和2年8月5日付通知書4
乙8 令和2年3月23日付御連絡
乙9 令和2年7月9日付御連絡
乙10 令和2年7月22日付御連絡
乙11 令和2年7月31日付御連絡
乙12 令和2年8月7日付御連絡
乙13 特許・実用新案審査基準(第III部第2章第2節 進歩性
乙14 平成27年(行ケ)第10149号判決
乙15 「広辞苑」,第7版第1刷,株式会社岩波書店,2018年1月12日,p.2728−2729

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1) 甲2について
ア 甲2には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。以下同様。)。
・「【請求項1】
受取側が留守宅や防犯上直接受取りせず,間接的に配達物を受取る宅配容器において下枠と折り畳まれる中間部筒状体に形状を確保する複数の中間枠を有し,
配達物を縦方向から投入ができ,投入配達物に挟み込まれている中間部筒状体も上枠を持ち上げることにより下枠固定状態で中間枠と共にスムーズに追随でき,上枠を配達物上部まで持ち上げることで初めて宅配容器形状になり,宅配容器の施錠方法として上枠部に容器開閉のファスナ部の引き手をダブルにし,ダブル引き手の穴に鍵部のツルを通すことで宅配容器の施錠できることを特徴とする宅配容器。」
・「【請求項5】
両端リングワイヤの片側ワイヤ部リングを玄関周りの固定物に引掛け,もう片側ワイヤ部のリングと宅配容器上枠ファスナ部のダブル引き手の穴に鍵部のツルを通し,連結させて鍵を掛けることと,取手のついた大型配達物も取手部分にワイヤ部リングを通過させ,ワイヤ部リングとワイヤに鍵のツル部を通して鍵が掛けられることを特徴とした,盗難防止両端リングワイヤ活用の請求項1の宅配容器。」
・「【0001】
本発明は宅配容器に係り,特に留守宅や防犯上間接的に配達物を受取るための宅配容器と悪戯,盗難防止としての警報装置及び両端リングワイヤと各配達員が認知できるナンバーとキーとの2種類の錠手段による符号錠に関する。」
・「【0002】
近年,宅配業者の進展に伴い,きめ細かいサービスが行なわれている。これに伴い殆どの配送荷物が宅配されているのが現実である。受取側をみると,大会社や共同住宅内で宅配ボックスの設置がされている所は大きな問題は起きてないが,共同住宅内に宅配ボックスが設置されているケースも少なく,況してや一般家庭においても固定物の宅配ボックスを設置する環境にない。
近年留守宅も多く,また防犯上間接的に配達物を受取る希望も多く,従来このような時は殆どの場合は再配送せざるを得ないため,配送効率も悪くしているのが現状である。
【0003】
よって,近年一般家庭向け宅配ボックスの多くの提案がされているが,殆んど宅配ボックスが堅牢で固定スペースが必要であり,複数の宅配業者を意識した施錠システムが確立していないため,普及していないのが現状である。
当然1日に複数宅配業者が同一宅配ボックスに入れることなど不可能である。」
・「【0004】
宅配容器については防犯対策を考慮するがあまりに,堅牢で持ち運びができず,外部に常時設置する必要がある。これでは無駄なスペースや邪魔になる為,余り実用には適さない。共同住宅の宅配ボックス以外,実施例が殆んどない。
よって,軽量で常に持ち運びができ,かつ大型配達物や複数の配達物が収納できる宅配容器の提供にある。
【0005】
また,当然宅配容器に対する防犯対策として,部外者による悪戯や配達物の破損・盗難等の防止に万全を期する必要がある。
【0006】
最大の課題は宅配容器用鍵の開錠・施錠が配達員にもでき,かつ部外者には鍵の開錠が出来ないことの条件が必要である。
これは配達員が認知できるナンバーを活用した鍵の提供にある。
【0007】
また宅配容器盗難防止のため,玄関周りの固定部と宅配容器を連結し,宅配容器が持ち去られない機能が必要である。
・「【0008】
本発明は,以上のような従来の欠点に鑑み,請求項1に記載の発明は,未収納時には鞄形状に収納でき,かつ軽量のため常時外部に設置しておく必要もなく,必要に応じてドアノブ等に掛けておけばよい構造とした。
宅配員はドアノブ等から外し,下枠を下にして床に置き,上枠ファスナ部ダブル引き手の鍵を開錠,ファスナを開け,配達物を投入する。

配達物投入時には宅配容器が鞄形状で折り畳まれており,中間部筒状体が配達物に挟み込まれているが,下枠が固定状態で上枠を持ち上げることができ,中間部筒状体も中間枠と共に軽くスムーズに追随できる構造とした。
収納配達物上部まで上枠を持ち上げ,上枠ファスナ部ダブル引き手を閉める。
上枠は収納物に支えられ,高さ方向は収納物の形状通りで初めて宅配容器形状になることを特徴とした。
このため,配達物以上の宅配容器スペースをとることもなく,フレキシブル性もあり,大型配達物や複数の配達物も受け取り可能な宅配容器とした。」
・「【0013】
請求項5に記載の発明は,両端リングワイヤにより請求項1の宅配容器盗難防止として,片側のリングを玄関内側ノブや玄関周りの固定物に引掛け,反対側のリングと宅配容器30のファスナ部ダブル引き手の穴に鍵部のツルを差込み,施錠連結することにより宅配容器盗難防止の役目をしている。」
・「【0015】
以上の説明から明らかなように,本発明の請求項1記載の発明は以上の構成とした。未収納時の宅配容器は鞄状態になりスペースを取らず,軽くて持ち運びが自由で必要に応じてドアノブ等に掛ければ良く,固定スペースが必要ない。
収納時には配達物の高さ以上に嵩張ることはなく,フレキシブル性もあり複数の配達物が収納できる。」
・「【0019】
また,本発明の請求項5記載の発明は以上のように構成した。
宅配容器を玄関周りの固定物とワイヤを符号錠にて連結施錠することにより宅配容器の盗難防止ができる。」
・「【0022】
本実施形態の宅配容器と盗難防止システムはワイヤ1を図3・図4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け,図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する。図3に示す玄関表側に宅配容器取っ手15をドアノブに掛け,受取人のリモート14にて警報装置10をONにする。

【0023】

図8に示す,宅配容器の符号錠2のダイヤル20を伝票記載の受取側電話番号にセットし,マスタキーを符号錠2の19に差込み開錠,…ファスナ部3のダブル引き手4にて開け,図5の状態にする。
【0024】
配達物を図5の宅配容器枠内に投入する。…
上枠5を持ち配達物上面まで持ち上げる。このとき投入配達物の下側に畳み込まれた中間部筒状体8は挟み込まれた状態になっている。
下枠6は固定状態で中間部筒状体8と中間枠7は上枠5に追随し,スムーズに持ち上げることができる。
【0025】
上枠5を配逹物上面に被せ,宅配容器上枠ファスナ部3を閉め,ワイヤ部1のリングとファスナ部のダブル引き手4の穴に符号錠部2のツルを通し,連結施錠し,図8の状態する。符号錠ダイヤル20をランダムにしてキーを抜く,図6の状態になる。高さ方向は配達物上面に上枠5が載った状態で容器形状を形成し,初めて宅配容器形状になる。

【0026】
配達物を取り出すには,受取人が警報装置をリモート14にてOFFにし,符号錠のダイヤル20を電話番号に合わせとキーにて開錠,配達物を取り出し,宅配容器を図2の鞄形状に収納する。
【0027】
このように構成した実施形態では今まで実現できなかった,軽量でスペースを取らず,持ち運び自由な図2の宅配容器でありながら,宅配容器・配達物に対する部外者の悪戯や盗難等を防止するために警報装置10 と図7のワイヤ1によって玄関周りの固定物と宅配容器を符号錠2にて連結施錠することで防止した。

また,宅配容器の施錠に符号錠を用い,配達員が認知できる受取側電話番号とマスタキーにより符号錠の施錠,開錠ができることが,今回の留守宅や防犯上間接的に配達物を配送可能にした最大の発明です。」
・「【0030】
1 盗難防止用連結ワイヤ2 符号錠
3 ファスナ 4 ファスナダブル引き手
5 上枠 6 下枠
7 中間枠 8 中間部筒状体

15 取っ手 16 収納物
17 宅配容器本体 18 取手付配達物
19 符号錠キー差込部 20 符号錠ダイヤル部」
・「


・「


イ 甲2に記載された事項(前記ア)から次のことがわかる。すなわち,
(ア) 甲2に記載された宅配容器は「収納時には配達物の高さ以上に嵩張ることはなく,フレキシブル性もあり複数の配達物が収納できる。」(【0015】)もので,配達員は「図8に示す,宅配容器の符号錠2のダイヤル20を伝票記載の受取側電話番号にセットし,マスタキーを符号錠2の19に差込み開錠,…ファスナ部3のダブル引き手4にて開け,図5の状態に(し)」(【0023】,図5,8),「配達物を図5の宅配容器枠内に投入する」(【0024】,図5)ものであるから,「宅配容器本体17」は「開口部」と「収納部」を備えるものである。
そして,「ワイヤ1を図3・図4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け,図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する」(【0022】,図2〜4,8)ものであるから,「宅配容器」は,「宅配容器本体17」の「開口部」を施錠する「符号錠2」と,「宅配容器本体17」と「ドアノブ」とを接続する「盗難防止用連結ワイヤ1」(【0030】)を備えるものである。
(イ) 「ワイヤ1を図3・図4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け,図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する」(【0022】,図2〜4,8)ものであるとともに,「配達物を図5の宅配容器枠内に投入する」(【0024】,図5)際に,「上枠5を配逹物上面に被せ,宅配容器上枠ファスナ部3を閉め,ワイヤ部1のリングとファスナ部のダブル引き手4の穴に符号錠部2のツルを通し,連結施錠し,図8の状態する。符号錠ダイヤル20をランダムにしてキーを抜く,図6の状態になる。高さ方向は配達物上面に上枠5が載った状態で容器形状を形成し,初めて宅配容器形状になる」(【0025】,図6,8)ものであるから,「宅配容器本体17」は,配達物を収納しない未収納時の形態と,配達物を収納する配達物投入時の形態に変更することができ,未収納時の形態より,前記配達物投入時の形態が大きくなるものである。
(ウ) 「ワイヤ1を図3・図4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け,図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する」(【0022】,図2〜4,8)ものであるから,「盗難防止用連結ワイヤ1」は,「盗難防止用連結ワイヤ1」の一方が「ドアノブ」に接続され,「盗難防止用連結ワイヤ1」の他方が「宅配容器本体17」に接続されるものである。
(エ) 「未収納時には鞄形状に収納でき,かつ軽量のため常時外部に設置しておく必要もなく,必要に応じてドアノブ等に掛けておけばよい構造とした。宅配員はドアノブ等から外し,下枠を下にして床に置き,上枠ファスナ部ダブル引き手の鍵を開錠,ファスナを開け,配達物を投入する。…配達物投入時には宅配容器が鞄形状で折り畳まれており,…収納配達物上部まで上枠を持ち上げ,上枠ファスナ部ダブル引き手を閉める。上枠は収納物に支えられ,高さ方向は収納物の形状通りで初めて宅配容器形状になる」(【0008】)もので,図2,3,5,6に示された「宅配容器」の態様からすると,「宅配容器本体17」が未収納時の形態の場合に「宅配容器本体17」がドアノブに掛けられた状態とし,「宅配容器本体17」が配達物投入時の形態の場合に「宅配容器本体17」を床に置ける状態として「宅配容器本体17」が床に置かれた状態とすることができるものである。
(オ) 前記【0008】の記載,図2,3,5,6に示された「宅配容器」の態様からすると,未収納時の形態は宅配容器本体17を折り畳み固定した状態であり,配達物投入時の形態は宅配容器本体17を広げた状態である。
(カ) 「両端リングワイヤの片側ワイヤ部リングを玄関周りの固定物に引掛け,もう片側ワイヤ部のリングと宅配容器上枠ファスナ部のダブル引き手の穴に鍵部のツルを通し,連結させて鍵を掛けることと,取手のついた大型配達物も取手部分にワイヤ部リングを通過させ,ワイヤ部リングとワイヤに鍵のツル部を通して鍵が掛けられ」(【請求項5】),「ワイヤ1を図3・図4に示すようにドアノブや玄関周り固定物に引っ掛け,図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する」(【0022】,図2〜4,8)ものであるから,「盗難防止用連結ワイヤ1」は,「宅配容器本体17」と接続する「一方のリング」と,ドアノブと接続する「他方のリング」とを備えるものである。
(キ) 「図2に示す鞄形状宅配容器のファスナ部3のダブル引き手4とワイヤ部1のリングを符号錠2にて図8に示す状態に施錠する」(【0022】,図2〜4,8)もので,「上枠5を配逹物上面に被せ,宅配容器上枠ファスナ部3を閉め,ワイヤ部1のリングとファスナ部のダブル引き手4の穴に符号錠部2のツルを通し,連結施錠し,図8の状態する。符号錠ダイヤル20をランダムにしてキーを抜く,図6の状態になる」(【0025】)ものであるから,「盗難防止用連結ワイヤ1」は,「一方のリング」を施錠するものである。
(ク) 前記【0025】の記載からすると,「符号錠2」は,「符号錠ダイヤル20」を有するものである。
ウ そうすると,甲2には以下の発明が記載されていると認められる(以下,それぞれ「甲2発明1」などという。)。
(ア) 甲2発明1
「開口部と収納部を備えた宅配容器本体17と,前記宅配容器本体17の開口部を施錠する符号錠2と,前記宅配容器本体17とドアノブとを接続する盗難防止用連結ワイヤ1とを備えた宅配容器であって,
前記宅配容器本体17は,配達物を収納しない未収納時の形態と,配達物を収納する配達物投入時の形態に変更することができ,前記未収納時の形態より,前記配達物投入時の形態が大きく,
前記盗難防止用連結ワイヤ1は,前記盗難防止用連結ワイヤ1の一方が前記ドアノブに接続され,前記盗難防止用連結ワイヤ1の他方が前記宅配容器本体17に接続されるものであり,
前記宅配容器本体17が前記未収納時の形態の場合に前記宅配容器本体17が前記ドアノブに掛けられた状態とし,前記宅配容器本体17が前記配達物投入時の形態の場合に前記宅配容器本体17を床に置ける状態として前記宅配容器本体17が床に置かれた状態とすることを可能とした宅配容器。」
(イ) 甲2発明2
「前記未収納時の形態は宅配容器本体17を折り畳み固定した状態であり,前記配達物投入時の形態は宅配容器本体17を広げた状態である甲2発明1に係る宅配容器。」
(ウ) 甲2発明3
「前記盗難防止用連結ワイヤ1は,前記宅配容器本体17と接続する一方のリングと,前記ドアノブと接続する他方のリングとを備える甲2発明1又は甲2発明2に係る宅配容器。」
(エ) 甲2発明4
「前記盗難防止用連結ワイヤ1は,前記一方のリングを施錠する甲2発明3に係る宅配容器。」
(オ) 甲2発明5
「前記符号錠2は,符号錠ダイヤル20を有する甲2発明1〜甲2発明4に係る宅配容器。」
(2) 甲3について
甲3には,以下の事項が記載されている。
・「【0052】
小荷物または配送物を安全に受け取り,また,玄関ドアの前で窃盗により小荷物を失う危険性を減少させるという目的を実現すために当該種々の実施例を実装するにあたり,潜在的に起こる3つお具体的な事象がある。それらは以下のものである。
1. 事象1:小荷物受取人または所有者が小荷物の受領を可能にするために共同住宅または滞在場所の前に小荷物袋を設置することに関連する小荷物受取人または所有者の行為。
2. 事象2:メール配送業者が,配送時に,小荷物を小荷物袋の中に配送し,配置し,かつ保全する行為。
3. 事象3:小荷物受取人または所有者が,住居,仕事場,または滞在場所に戻ったときにパッケージを受け取る行為。
【0053】
[事象1:小荷物を受け取り可能にするための小荷物袋の設置]
円形(図1a)または直線状(図1b)のドアノブについては,ドアノブ・ロック組立体(例えば図5a)を取り出して,ケーブル/ロープ/チェーン(108b)を伸ばして,まあは,緩めて,これがドアノブの周りを囲み,または輪をなすようになし,かつケーブル/ロープ/チェーン(108aおよび108b)が安全にドアノブの周りに締め付けられ,そこから取り外しできないようにする。ロック(120)は,安全にその位置で係合し,ロープ(123,108bおよび108a)がドアノブから緩むことがないようにする。物理的または技術的な解決手段(RFID,Bluetooth,モバイルソリューションまたはWiFi)を利用してロック(120)の機能を実現でき,これらは当該明細書中で詳細に説明されている。小荷物袋のジッパーの位置(図11a,139)は閉じられていない状態に維持され,小荷物袋は開状態とされなければならず,もって,配送担当者が小荷物を小荷物袋の内部に配置できるようになす。したがって,小荷物袋ロック(104)は,この時点で,未ロックの状態であるけれども,小荷物袋はケーブル/ロープ/チェーン(102)によってドアノブ・ロック組立体に安全に結合されている。

【0055】
図4は,小荷物袋をドアハンドル(図1c)に安全に取り付けることに関連するシナリオの高水準な概略を与える。この動作は,円形または直線状ドアノブの動作と類似であるけれども,事実上若干異なる。図12a,図12b,および図12cは,ドアハンドルに適切な使用を説明する。円形の金属リング(図12a,117)月のロープをドアハンドルの内部に移動させ,レバー(118)を内部に具備するロープの端部(115)を押して,これを安全に適所にロックする必要がある。ロック(図4,詳細部A,114)自体は,図4に示すように,ドアハンドルのまわりに安全に固着でき,あるいは,Y形状のケーブル(図4,113)の円形金属リング(117)がドアハンドルの内側,および,レバー(118)中へと滑り込むことができ,ロック(114)を安全に鍵かけすることができる。換言すると,ロック114の最初のオプションでは,ロック114は図4の詳細部Aに示すようになる。第2のオプションでは,円形のリング117がドアハンドル112を通り抜け,ロック114は暗にリング117を覆うだけであり,図示のようにレバー118の内部においてハンドル112を覆うということがない。ロック(114)上のリベット(115)によって,確実にロックが常時に小荷物袋に安全に結合されるよういなっている。小荷物袋は図示のとおり(図12aおよび図12b)開状態に維持されなければならず,ジッパー(139)を開位置にして未ロック状態に維持しなければならない。
【0056】
[事象2:小荷物または配送物の受領]
配送担当者が玄関ドアに到着したとき,配送担当者は小荷物を小荷物袋(103)の内部に置き,ジッパー139を図11aの一から固11bに示すロック位置まで移動させる。ジッパー139は,ロック(104)に鍵固定され,ジッパーが,ロック(104)のキーを保持し,またはロックの数字組み合わせを知らなければ,ジッパーが再度開状態にならないようになっている。ロックは図11aおよび図11bに示すように数字組み合わせタイプ,または任意の他のタイプであって良い。一旦,鍵掛が行われると,メール配送担当者でさえこれを開にして小荷物に触れることができない。
【0057】
[事象3:小荷物または荷物の受領]
住居,仕事場,または滞在場所に戻ると,小荷物受領者は,キーを用いてドアノブ・ロック機構(106または120)を開き,もって,レバー(126)が,スライドブロック組立体(119)が移動できるような態様で回転させられ,ロープ(108b)を緩めてドアノブ組立体の全体,および,ケーブル/ロープ/チェーンが,ドアノブから取り外し可能となるよういする。住居または滞在場所に入った後,利用者は,小荷物袋ロック(104)を解除でき,小荷物袋の内容物を取り出せる。図4に示すドアハンドルのシナリオでは,類似の手順が実行でき,ケーブル/ロープ/チェーン(113)がロック(114)およびドアハンドル(112)から取り外される。」
・「


・「


・「


・「


(3) 甲4について
甲4には,以下の事項が記載されている。
・「【0028】取付機構と荷物収納具とを取り外せないように連結する連結機構を,容易に切断できなくて可撓性のあるワイヤーやチェーンで構成することにより,取付機構をドアノブや水道管などの建造物に取り付けた場合に,配達する荷物を入れた荷物収納具を持ち去ることができないようにしている。
【0029】さらに,袋部に荷物を入れた荷物収納具をドアの開閉に支障のない位置の床面に置いた状態で,取付機構を玄関ドアのドアノブや水道管などの建造物に取り付けられる程度の長さで連結部を構成するため,重い荷物を荷物収納具に収納した場合でも,配達先の建造物に取り付けるための加工や工事が不要であり,ドアの開閉に支障を与えない状態で本発明の荷物配達用具を使用して留守宅へ荷物を届けることができるのである。
【0030】また,軽くて小さい荷物用として,ドアノブにぶら下げられるように短い連結機構と小さな荷物収納具で構成することもできる。
【0031】以上のように,本発明の荷物配達用具を使って留守宅に荷物を配達する場合は,袋部に荷物を収納してから袋口を袋口結束具で閉塞して,袋口用錠を施錠することで荷物を取り出せない状態として,ドアの開閉に支障のない場所に荷物収納具を置き,袋口用鍵などの解錠手段を配達先の郵便受けなどに入れて,取付機構を配達先のドアノブや水道管などの建造物に取り付けてから取付用錠を施錠して,配達員が取付用錠の解錠手段を持ち帰ることにより,配達作業は終了する。」
・「【0036】第1の実施例では,図1に示すように,横棒型のドアノブ42aに取り付けて使用できる構造の荷物配達用具を示しており,可撓性があって容易に切断できない可撓ベルト11を設けた取付機構1と,複数の数字を事前に設定した数字に一致させることで解錠できる数字式錠で構成した袋口用錠23aを設けた袋口結束具22を,切れにくい布に細いワイヤーを織り込んだ折り畳みできる構造の袋部21に取り付けた構造とした荷物収納具2とを,連結機構3により取り外せないように連結して構成している。
【0037】図1では,第1の実施例の荷物配達用具に配達する荷物を収納して,留守宅の玄関先の床に置いて届けた状態を示しているが,玄関ドア41のドアノブ42aに,取付機構1の可撓ベルト11を密着させた状態で巻き付けて取り付けており,この状態で取付用錠12aを施錠状態とすることにより,ドアノブ42aから取付機構1を外せないように取り付けることを可能にしている。
【0038】さらに,取付機構1と荷物収納具2を切り離せないように連結している連結機構3を,可撓性のあるワイヤー31に柔らかいビニールチューブ32被せた構造として,取付機構1をドアノブ42aに取り付けても玄関ドア41の開閉に支障を与えない位置に荷物収納具2を置くことができる長さとしている。
【0039】この実施例では,配達員は,配達先である留守宅の玄関ドア41の開閉に支障を与えない位置に荷物収納具2を置いて,袋部21に配達する荷物を入れて,袋口結束具22のワイヤー部24を,袋部21の袋口25に設けた袋口用リング26の中を通して袋口25を絞り込んで閉塞し,袋口用錠23aのワイヤー部受口27にワイヤー部24の先端を挿入し施錠状態としてから,連結機構3を伸ばして,ドアノブ42aの付け根に取付機構1の可撓ベルト11を巻き付けて密着させた状態で,取付用錠12aに可撓ベルト11を通して施錠したのち,数字式錠で構成している袋口用錠23aを解錠するための数字の組み合わせを記入した配達用のメモを,配達先の郵便受け43か玄関ドア41の隙間から入れることにより荷物の配達作業は終了する。」
・「【0047】第2の実施例では,図3に示すように,円筒型のドアノブ42bに取り付けて使用する場合に適した構造の取付機構1と,荷物収納具2の袋部21を折り畳みできる箱21aと蓋21bで構成したことを特徴としている。
【0048】具体的には,取付機構1に手錠型の保持部11aを設けて,保持部11aを回転させて円筒型のドアノブ42bに取り付けたときに,円筒型のドアノブ42bの取っ手に,取付機構1が引っ掛かって取れない状態となる構造としている。
【0049】また,連結機構3は,硬質プラスチックで作ったチェーンで構成しているため,軽量であるのに加えて,十分な強度もあり,玄関ドア41などに傷をつけることも防げるし,短く折り畳むこともできる。
【0050】さらに,荷物収納具2の袋部21を,外圧が加わっても変形や破損しない材質で作った折り畳みできる箱21aと蓋21bで構成しているため,持ち歩くときは,図4に示すように箱21aの側面中央部から折り曲げて箱21aを平板状にすることで,邪魔にならない状態で持ち歩けるし,外圧を加えない状態で配達しなければならない壊れ物などの荷物を,箱21aを立体的な状態に戻してから収納して,蓋21bで蓋をしてから掛金具29を袋口結束具22に嵌合させて,袋口用錠23aを施錠状態とすることで,荷物に外圧が加わらない状態でしかも荷物を取り出せない状態で配達することができる。
【0051】また,袋口結束具22に,袋口用錠23aの他に鍵固定用錠23cも設けているため,配達員が袋口用錠23aを施錠状態としたのち,鍵固定用錠23cを解錠状態にして袋口用鍵23bを抜き取って,さらに鍵固定用錠23cを施錠状態にして鍵固定用鍵23dも抜き取り,袋口用鍵23bのみを配達先の郵便受けなどに入れることで配達を終了する。」
・「【0055】 第3の実施例では,小さくて軽い荷物を配達する場合に効果的に利用できる荷物配達用具を示している。
【0056】取付機構1は,第1の実施例と同様の構造としているが,連結機構3は短くしており,荷物収納具2は,ドアノブに吊り下げてもドアノブの開閉操作に支障を与えない程度の重さと大きさにしているため,小さくて軽い荷物の場合には,本実施例の荷物配達用具を利用することにより,持ち運びが便利で,配達先にとっても比較的邪魔にならない状態で配達することができる。

【0058】さらに,袋口結束具22の袋口25を,ファスナー25bで開閉する構造としており,袋口25のファスナー25bを閉めて,ファスナーつまみ部25aを袋口用錠23aの袋口用錠保持部23fに引っ掛けて施錠すれば,袋口25を閉塞できるので,袋口25を配達員が閉塞するときも,配達先の人が帰宅したときに袋口25を開放するときも,ファスナー25bの開閉操作で容易に行うことができる。」
・「【0070】本発明の荷物配達用具では,留守である配達先の玄関のドアノブヘ取り付けることができるため,配達先の人が帰宅したときに間違いなく荷物が配達されていることを確認できるのに加え,ドアノブに取り付けた状態で荷物を収納した荷物収納具をドアの開閉に支障のない位置の床面に置くことができるため,ドアの開閉も自由に行えるし,ドアノブヘの重量負担を与えることもないため,配達先の迷惑になる可能性も少ない。」
・「


・「


(4) 甲5について
甲5には,以下の事項が記載されている。
・「本考案は,スキー,ストックなどを盗難から守る構造簡易なスキー盗難防止具に関するものである。」(1頁13〜15行)
・「本具により一組のスキー材5をフレーム6の桟7,固定桟杆などにつなぎ留める場合は次のようにする。
例えば第3図に示したようなフレーム6の桟7に紐状材1の一端部を略半巻し,止着用輪部2に反対側の錠止着用輪部3・4を順々に挿入して引き出して,第1図に示すように桟7に紐状材1の一端部を取り外し不能に巻付け,第2図に示すようにフレーム6に立て掛けた,一組のスキー材5の適当個所(金具8の中間が最適)を,引き出した紐状材1の錠止着用輪部3・4の間の部分で抱きかかえ状態に巻き,向かい合わせ状態の錠止着用輪部3・4に錠9を掛けると,紐状材1の一端部が桟7に連結され,一組のスキー材5がその他端部で抱持され,且つ施錠されるからスキー材5は紐状材1で桟7に取り外し不能に止着された状態に確保される。」(3頁4行〜4頁4行)
・「図面は紐状材1として,ワイヤーロープを採用し,所要長のワイヤーロープの一端部を輪状に折り返し,この折り返し端部をかしめ筒10によりかしめた場合を図示している。
図面は,前記ワイヤーロープの他端部と途中を止着用輪部2よりやや小さい輪状に折り返し,この折り返し端部を同じくかしめ筒10によりかしめて錠止着用輪部4を形成した場合を図示している。
尚,第2図は南京錠と呼ばれる錠9を2つの錠止着用輪部3・4間にかけた場合を図示している。
第4図は予め差込錠と呼ばれる錠9の一方の雌部9’を紐状材1の止着用輪部2に止着して置き,他方の雄部9”を途中の錠止着用輪部4に止着して置いた場合を図示しているが,この場合,差し込み錠付の製品として市販しても良い。」(4頁10行〜5頁8行)
・「




(5) 甲6について
甲6には,以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,不使用時に自転車やオートバイ等に装着して使用する盗難防止装置に関する。」
・「【0021】また,図3に示すようにチューブ4の基端部は錠本体9に固定され,基端部に設けた伸縮性を有する蛇腹11が液体10の内圧により伸展した状態になっている。さらに,図5に示すようにチューブ4の先端部には錠前差込金具7を設け,図2に示すようにチューブ4に設けた錠前受金具8に係脱可能に係止する。一方,鍵12を使用することにより,錠前差込金具7を錠前受金具8から離脱させることができる。また,フック3を解錠する場合には鍵13を使用する。
【0022】盗難防止装置2は,従来のワイヤ錠と同様,車輪1にフック3を通して施錠し,ワイヤ5入りのチューブ4をポール6に巻き付け,チューブ4先端部の錠前差込金具7をチューブ4に設けた錠前受金具8に係止することにより完全な施錠状態が得られる。」
・「


(6) 甲7について
甲7には,以下の事項が記載されている。
・「この考案は自転車,自動車などを固定物に継ぎ止める防犯嵌合具に関し,使用しない時は装飾品として普通の手錠の機能を有しガンマニアなどの好むものであり,使用する時は嵌合具本体同志を連結する条体を長くし移動物に一端の嵌合具本体を嵌合し,もう一端の嵌合具本体を木,ガードレールなどの固定物に嵌合することにより強固に移動物を固定できる手錠機能を備える防犯嵌合具に関するものである。」(2頁1〜9行)
・「この場合鎖を無端とするため長さが半分となり短くなるので固定場所が限られるしまた鎖を長くすれば持ち運びに不便となる欠点がある。
この考案は上記のような欠点を解決せんとするものであり,その要旨とするところは鍵機構を有する開閉自在な嵌合具本体を条体で連結してなる嵌合具において,前記条体中に伸縮体を介在せしめることにより未使用時は,手錠の機能を備え防犯的装飾効果があり,使用時は手錠機能により自動車,自転車などの移動物を固定物にワンタッチで嵌合できかつ車の固定場所が限定されず盗難防止を図ることができる手錠様能を備える防犯嵌合具を提供することを目的とする。」(3頁3〜15行)
・「本図では鍵で開けるようになっているが数字を組み合せロックが開放されるダイヤル式のものであってもよいことはもちろんである。このような嵌合具本体1同志を鎖などの条体9で連結して2つの嵌合具本体1が一体化されている。この条体9中にはコイルバネを各々条体9の端部に接続してなる伸縮体10を設けている。」(4頁12〜19行)
・「使用時にはこの蓋12を収納部11のネジからはずしコイルバネを伸長させ嵌合具本体同志を長くし各々固定物,移動物に嵌合できるようになっている。
第3図は本考案による手錠機能を備える防犯嵌合具の異なる実施例であり,上記実施例における伸縮体10をロッドで形成したものであり手で引き伸ばすだけである程度の長さが得られ嵌合具本体同志の引離しが容易な構造となっている。第4図は上記実施例における伸縮体10が条体9を収納するケースを設けたことにより条体9の伸長を図り嵌合具本体同志を引離すことができるようにしたものでこの場合条体9を一定の長さにセットするレバー13を備えている。」(5頁2〜15行)
・「この考案による手錠機能を備える防犯嵌合具は上記のように鍵機構を有する開閉自在嵌合具本体同志を条体で連結してなる嵌合具において,前記条体中に伸縮体を介在してなるものであるから,未使用時は手錠の機能を備えているので装飾的防犯効果が期待でき,使用時には伸縮体を伸長して一端の嵌合具本体を自動車,自転車の移動物に嵌合させ,他端をガードレール,木などの固定物に嵌合させ移動物の固定ができる。」(6頁4〜12行)
・「


(7) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明1とを,その有する機能に照らして対比すると,甲2発明1の「宅配容器本体17」は,本件発明1の「配送荷物収納体」に相当し,以下同様に,甲2発明1の「符号錠2」,「ドアノブ」,「盗難防止用連結ワイヤ1」,「宅配容器」,「配達物」,「未収納の形態」,「配達物投入時の形態」は,それぞれ,本件発明1の「施錠体」,「ドアの一部」,「接続体」,「配送荷物保管装置」,「配送荷物」,「第1の形態」,「第2の形態」に相当する。
そして,甲2発明1の「前記宅配容器本体17が前記ドアノブに掛けられた状態」は,本件発明1の「前記配送荷物収納体が前記ドアの一部に吊り下げられた状態」に相当し,甲2発明1の「前記宅配容器本体17を床に置ける状態として前記宅配容器本体17が床に置かれた状態」は,本件発明1の「前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態」と,「前記配送荷物収納体を地面に設置できる」状態として「前記配送荷物収納体が地面に設置された状態」との限りで一致する。
よって,本件発明1と甲2発明1とは,以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体と,前記配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体と,前記配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続体とを備えた配送荷物保管装置であって,
前記配送荷物収納体は,配送荷物を収納しない第1の形態と,配送荷物を収納する第2の形態に変更することができ,前記第1の形態より,前記第2の形態が大きく,
前記接続体は,前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され,前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであり,
前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に前記配送荷物収納体が前記ドアの一部に吊り下げられた状態とし,前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能とした配送荷物保管装置。」
(相違点1)
本件発明1は,「接続体」が,「前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部」を備えるのに対し,甲2発明1は,そのような構成を備えていない点。
(相違点2)
本件発明1は,「接続体」が,「前記伸縮部により,」前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され,前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであるのに対し,甲2発明1は,「盗難防止用連結ワイヤ1」が,前記盗難防止用連結ワイヤ1の一方が前記ドアノブに接続され,前記盗難防止用連結ワイヤ1の他方が前記宅配容器本体17に接続されるものであるが,伸縮部に係る構成を備えていない点。
(相違点3)
本件発明1は,前記配送荷物収納体が前記第1の形態の場合に「前記伸縮部を短縮した状態として」前記配送荷物収納体が前記ドアの一部に吊り下げられた状態とするのに対し,甲2発明1は,前記宅配容器本体17が前記未収納時の形態の場合に前記宅配容器本体17が前記ドアノブに掛けられた状態とするが,伸縮部に係る構成を備えていない点。
(相違点4)
本件発明1は,前記配送荷物収納体が前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる「長さに前記伸縮部を伸長した」状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とするのに対し,甲2発明1は,前記宅配容器本体17が前記配達物投入時の形態の場合に前記宅配容器本体17を床に置ける状態として前記宅配容器本体17が床に置かれた状態とするが,伸縮部に係る構成を備えていない点。
(イ) 判断
a そこで,上記相違点1〜4について検討する。
まず,甲2には,盗難防止用連結ワイヤ1を短くする点に関し特段記載がなく,宅配容器本体17が未収納時に盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した状態として宅配容器本体17がドアノブに吊り下げられた状態とすることについて記載はない。このように,甲2発明1において,盗難防止用連結ワイヤ1を短くし,宅配容器本体17が未収納時に盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した状態として宅配容器本体17がドアノブに吊り下げられた状態とする点について特段着目しておらず,甲2にはその示唆もないから,甲2発明1において,盗難防止用連結ワイヤ1を伸長,短縮する構成を採用する特段の事情は認められず,盗難防止用連絡ワイヤ1に伸縮部を備えさせ,宅配容器本体17が未収納時に盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した状態として宅配容器本体17がドアノブに吊り下げられた状態とし得るようにすることの動機が希薄である。
次に,甲4には,荷物配達方法及び荷物配達用具に関し,連結機構が長く,荷物収納具を床面においた状態とする第1の実施例(図1),連結機構が短く,荷物収納具をドアノブに吊り下げる第3の実施例(図5)が記載されているが,前者は重い荷物を配達する場合を想定し(【0029】,【0070】),後者は軽い荷物を配達する場合を想定している(【0030】,【0055】)ものと認められる。このように,甲4には,それぞれ想定する状況が異なる実施例について,各別に記載されているのであって,同じ連結機構について伸長,短縮する構成が記載されているものではない。このような異なる実施例に関する記載から,本件発明1の伸縮部に係る構成が導かれるものではない。
また,甲5〜7には,それぞれ,「スキー,ストックなどを盗難から守る構造簡易なスキー盗難防止具」(甲5),「不使用時に自転車やオートバイ等に装着して使用する盗難防止装置」(甲6),「自転車,自動車などを固定物に継ぎ止める防犯嵌合具」(甲7)が記載されているところ(前記(4)〜(6)),甲5〜7には,配送荷物保管装置に係る接続具は記載されていない。その公開された時期を考慮するとしても,甲5〜7に記載されたそれぞれ特定の用途のための盗難防止具に関する事項から,「一方の接続部を施錠対象物に固定して施錠し,他方の接続部を固定物に固定する盗難防止具」なるものが周知技術であるといえるかも定かでない。
そして,甲7に記載された防犯嵌合具は,「自転車,自動車などを固定物に継ぎ止める防犯嵌合具」であり,「使用しない時は装飾品として普通の手錠の機能を有しガンマニアなどの好むものであり,使用する時は嵌合具本体同志を連結する条体を長くし移動物に一端の嵌合具本体を嵌合し,もう一端の嵌合具本体を木,ガードレールなどの固定物に嵌合することにより強固に移動物を固定できる手錠機能を備える防犯嵌合具」(前記(6))であって,ドアノブに接続される配送荷物保管装置に係る接続具ではなく,配送荷物保管装置やその他の用途への適用を示唆する記載もない。
仮に,本件特許出願前に様々な盗難防止具が知られていたとしても(甲5〜甲7),その中で,甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤ1として,甲7の防犯嵌合具を採用すべき事情も特段認められない。
なお,甲3をみても,相違点1〜4に係る事項は記載されていない。
そうすると,甲2発明1において,盗難防止用連結ワイヤ1に関し,相違点1〜4に係る構成とする動機付けは,特段認められない。
本件発明1の奏する効果をみるに,本件発明1は,相違点1〜4に係る,伸縮部を備えた接続体に関する構成を備えることにより,「収納しない状態では,配送荷物保管装置をドア等に接続した状態でも目立たず,配送荷物を収納した状態では,配送荷物収納体を地面に置くことができる点で,重い荷物も受け取ることができ,利用性がよい。」(甲1の1【0018】)といった格別な効果を奏するものであって,相違点1〜4に係る構成が単なる設計的事項とはいえない。
よって,甲2発明1,甲4〜7に記載された事項に基づいて,相違点1〜4に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項とは認められない。
なお,甲2発明1に,盗難防止用連結ワイヤ1に伸縮部を備えさせ,宅配容器本体17が未収納時に盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した状態として宅配容器本体17がドアノブに吊り下げられた状態とし得るようにする動機が特段認められないのであるから,「伸縮部」としてゴム等の伸縮性のある材料を採用する構成等についても,同様に,甲2発明1,甲4〜7に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項とは認められない。
b 請求人は,甲2に記載された配送荷物保管装置に,甲4に記載された発明及び甲5〜7の周知技術を適用し,甲2に記載された発明を出発点として,甲2に記載された発明の宅配容器の設置形態として,第1の形態と第2の形態を実現するために,甲2に記載された発明の盗難防止用連結ワイヤに代えて盗難防止具の一形式として周知の伸縮部を有する構造(甲7)を採用することにより,本件発明1に係る発明の構成とすることは当業者が適宜なし得る事項というべきである,などと主張している。
しかしながら,既に述べたとおり,甲2発明1において,盗難防止用連絡ワイヤ1に伸縮部を備えさせ,宅配容器本体17が未収納時に盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した状態として宅配容器本体17がドアノブに吊り下げられた状態とし得るようにする動機は認められない。
また,甲4には,荷物配達方法及び荷物配達用具に関し,連結機構の長さが異なる実施例について記載されているにとどまり,連結機構を伸長,短縮する構成が記載されているものではないから,当業者が甲4を知り得たとしても,当然に,甲2発明1において,設置形態として,盗難防止用連結ワイヤ1を短縮した第1の形態と,盗難防止用連結ワイヤ1を伸長した第2の形態を実現する動機が生じるものとは認められない。
そして,本件特許出願前に様々な盗難防止具が知られていたとしても(甲5〜甲7),それぞれ特定の用途のための盗難防止具で,配送荷物保管装置用のものではなく,様々な盗難防止具の中で,甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤ1として,甲7の防犯嵌合具を採用すべき事情も特段認められない。
このように,甲2発明1に,甲4に記載された発明及び甲5〜7の周知技術を適用し,甲2発明1を出発点として,甲2発明の設置形態として,第1の形態と第2の形態を実現するために,甲2発明1の盗難防止用連結ワイヤ1に代えて盗難防止具の一形式として甲7に記載された伸縮部を有する構造を採用することが,当業者にとって容易に想到することができた事項とは認められない。本件発明1の奏する効果も踏まえれば,当業者が適宜になし得る事項とはいえない。
よって,請求人の主張は採用することができない。
(ウ) 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲2発明1及び甲4〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
イ 本件発明2〜7について
(ア) 本件発明2〜5は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2〜5は,本件発明1と同様の理由により,甲2発明2〜5及び甲4〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(イ) 本件発明6,7は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明6,7は,本件発明1と同様の理由により,甲2発明1〜5及び甲3〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
ウ 以上のとおり,本件発明1〜7は,甲2発明1〜5,甲3〜7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(8) 以上のとおりであるから,無効理由1は理由がない。

2 無効理由2について
(1)サポート要件違反(36条6項1号)について
ア 「伸縮部」について
(ア)a 発明の詳細な説明には,「伸縮部」に関し,以下の点が記載されている。
・「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体と,前記配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体と,前記配送荷物収納体と固定された物体とを接続する接続体とを備えた配送荷物保管装置」(甲1の1【0007】)
・「前記接続体は,前記物体と前記配送荷物収納体…との距離を伸縮可能とする伸縮部を備える」(同【0009】)
・「前記物体は,住宅や事業所等のドアの一部である」(同【0012】)
・「第2の接続部32は,金属製のワイヤーであり,固定された物体と配送荷物収納体1との距離を伸縮可能とするために,長さを伸縮可能な伸縮部34を備える。配送荷物収納体1に配送荷物を収納していない場合,伸縮部34を短縮した状態にすることにより,配送荷物保管装置4をコンパクトな大きさにすることができ,自宅の前に設置した際に,目立たないことから,見栄え良く,使用することができる。配送荷物収納体1に配送荷物を収納していない場合,伸縮部34を伸長した状態にすることにより,配送荷物収納体1を地面に置くことができ,重い配送荷物を収納する場合に,配送荷物収納体1や住宅のドアの取っ手等を変形等させないで使用することができる。伸縮部34は,少なくとも,第2の接続部32を住宅のドアの取っ手に固定した場合に,配送荷物収納体1を地面に置ける長さ,つまり,少なくとも,一般的な住宅のドアと地面の距離の長さに伸長できる。伸縮部34は,いかなる構造によって伸縮をしてもよい。例えば,ワイヤーを巻き尺(メジャー)に用いられているぜんまいバネを用いて巻き取る構造としてもよい。また,例えば,ゴム等の伸縮性のある材料を用いて伸縮させてもよいが,外力により破断しない材料である必要がある。」(同【0029】)
b 本件発明は,「ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部」を備えるものであるところ,上記のように,発明の詳細な説明には,ドアの一部と配送荷物収納体1との距離を伸縮可能とするために,長さを伸縮可能な伸縮部34を備えた接続体3が記載されており,その具体例として,ワイヤーを巻き尺(メジャー)に用いられているぜんまいバネを用いて巻き取る構造,ゴム等の伸縮性のある材料が記載されている。
したがって,発明の詳細な説明には,「ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部」が記載されている。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(イ)a 発明の詳細な説明には,本件発明が解決しようとする課題に関し,以下の点が記載されている。
・従来の「配送荷物保管装置は,収納体の容量が小さいことから,収納できる配送荷物の大きさが大きく制限されることや,配送荷物が収納されていない状態でも収納体の大きさが目立ち,見栄えが良くなかった。また,…住人と配送業者との間で事前に鍵を持ち合う必要があった。」(甲1の1【0005】)
・「このように従来の配送荷物保管装置は,使用者にとって利用性が良くなかった。そこで,本発明は,使用者にとって利用性が高い配送荷物保管装置を提供することにある。」(同【0006】)
b このように,本件発明が解決しようとする課題は,収納できる配送荷物の大きさの制限,配送荷物が収納されていない状態の収納体の大きさの目立ち,見栄え,住人と配送業者との間での鍵の持ち合いの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供することにあることがわかる。
そして,発明の詳細な説明には,配送荷物収納体1に配送荷物を収納していない場合,伸縮部34を短縮した状態にすることにより,配送荷物保管装置4をコンパクトな大きさにすることができ,自宅の前に設置した際に,目立たたないことから,見栄え良く,使用することができること,配送荷物収納体1に配送荷物を収納している場合,伸縮部34を伸長した状態にすることにより,配送荷物収納体1を地面に置くことができ,重い配送荷物を収納する場合に,配送荷物収納体1や住宅のドアの取っ手等を変形等させないで使用することができることが記載されている(前記(ア)a(同【0029】))。
そうすると,当業者は,発明の詳細な説明の記載により,伸縮部34を伸縮することによりドアの一部と配送荷物収納体1の距離を伸縮可能とし,配送荷物保管装置に荷物が収納されていない場合に,伸縮部34を短縮して,ドアの一部と配送荷物収納体1の距離を短くすることにより,見栄えの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供するといった,本件発明の課題を解決することができることを認識することができるといえ,本件発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決することができると認識することができる範囲のものであると認められる。
(ウ) 当業者は,発明の詳細な説明の記載から,物体と配送荷物収納体1との距離を伸縮可能であれば,発明の課題を解決することができることを認識することができるから,出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
また,特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていないことをもって,当然に,サポート要件違反の理由となるものではない。
イ 「開口部」について
(ア)a 発明の詳細な説明には,「開口部」に関し,以下の点が記載されている。
・「図1は,配送荷物収納体1の第1の形態の一例を示す図であり,第1の形態は,配送荷物収納体1に配送荷物を収納しない状態で用いることを想定した形態である。図2は,配送荷物収納体1の第2の形態の一例を示す図であり,第2の形態は,配送荷物収納体1に配送荷物を収納した状態で用いることを想定した形態である。」(甲1の1【0021】)
・「配送荷物収納体1は,折り畳むことが可能である。配送荷物収納体1を折り畳んだ状態にすることにより,配送荷物を収納しない場合に,配送荷物収納体1をコンパクトな大きさにすることができ,自宅の前に設置した際に,目立たないことから,見栄え良く,使用することができる。」(同【0022】)
・「配送荷物収納体1は,配送荷物を収納するための開口部11,配送荷物を収納するための収納部12,接続体3と接続するための接続部13,配送荷物収納体1を折り畳んだ状態に保持するための固定部14,荷受人が配送荷物収納体1を持ち運ぶ際に保持するための保持部15を備える。」(同【0023】)
b 本件発明は,「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体」であり,「開口部」から「収納部」に配送荷物を収納するものであるところ,発明の詳細な説明には,上記のように,配送荷物収納体1が配送荷物を収納するための開口部11を備えることが記載されているから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明である。
(イ) 上記のような発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明の配送荷物収納体は,広げて荷物を収納した状態と,折り畳み荷物を収納しない状態に変更できることにより,荷物を収納する場合に大きな荷物を収納可能とし,荷物を収納しない場合に,目立たなく,見栄え良く使用できるものとし,よって,収納できる配送荷物の大きさの制限,配送荷物が収納されていない状態の収納体の大きさの目立ち,見栄えの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供するといった,本件発明の課題を解決するものである。
そして,当業者は,発明の詳細な説明の記載から,開口部は,荷物の出し入れが可能であり,配送荷物収納体を,荷物を収納している状態及び荷物を収納していない状態として使用することができれば,発明の課題を解決することができることを認識することができることから,出願時の技術常識に照らしても,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
また,特定の具体例が発明の詳細な説明に記載されていないことをもって,当然に,サポート要件違反の理由となるものではない。
ウ 「施錠体」について
(ア)a 発明の詳細な説明には,「施錠体」に関し,以下の点が記載されている。
・「図6は,配送荷物を収納した配送荷物保管装置4の使用状態を示す図面である。配送荷物収納体1の収納部12には,荷物が収納されている。配送荷物収納体1の開口部11に備えられた両開きのファスナーの2つのスライダーのそれぞれのホールには,施錠体2の掛金部21が通された状態で,施錠体2が施錠されていることから,配送荷物を配送荷物収納体1から取り出すことができないため,配送荷物の盗難を防止することができる。」(甲1の1【0034】)
・「S11において,荷受人は,配送荷物収納体1を折り畳んだ状態,施錠体2を開錠した状態及び接続体3の伸縮部34を短縮した状態で,配送荷物保管装置4を,ドアの取っ手に接続し備え付ける。荷受人は,配送荷物保管装置4を備え付けた状態で,外出等することができる。S11が完了すると,図5の状態となる。
S12,S13において,荷受人が,配送荷物保管装置4を,上記の状態で備え付けることにより,配送荷物の配送業者は,伸縮部34を伸長した後,配送荷物収納体1を広げて収納部12に配送荷物を収納し,配送荷物収納体1を地面に置き,施錠体2を施錠する。施錠体2を施錠する時に,正しい鍵や正しい数字や文字は必要とならないことから,荷受人は,配送業者と鍵を持ち合う必要や,数字や文字を共有する必要がない。」(同【0037】,【0038】)
・「本実施形態では,施錠体2は,いわゆる南京錠であり,鍵又はダイアルにより開錠することとしていたが,電気で開閉操作を行う電子錠を用いることとしてもよい。電子錠にもさまざまなタイプがあるが,例えば,テンキーから,予め指定された開錠番号を入力する暗証番号型を用いることや,RFIDを用いて開錠するRFID型を用いることとしてもよい。電子錠を用いた場合,荷受人と配送業者の間で,鍵を容易に共有することができるため,鍵を共有する方法としても,利用性が失われない。電子錠を用いた場合,配送業者と容易に鍵を共有できることから,配送荷物保管装置4を,荷物の受取りだけでなく,荷物の発送に用いる場合にも,配送荷物の盗難を防止することができる。」(同【0047】)
b 本件発明1〜4,6,7は「配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体」を備えるものであるところ,発明の詳細な説明には,上記のように,配送荷物収納体1の開口部11に備えられた両開きのファスナーの2つのスライダーのそれぞれのホールに,施錠体2を通すことが記載され,施錠体2の具体例として,鍵又はダイヤル式の南京錠及び電子錠が記載されているから,発明の詳細な説明には,「配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体」が記載されている。
よって,本件発明1〜4,6,7は,発明の詳細な説明に記載された発明である。
(イ) 本件発明1〜4,6,7は,上記のように,荷受人が施錠体2を開錠した状態で配送荷物保管装置4を設置し,配送業者が設置された配送荷物保管装置4の配送荷物収納体1に荷物を収納した後,施錠体2で開口部11を施錠することにより,住人と配送業者との間での鍵の持ち合いの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供する課題を解決するものである。
また,当業者は,発明の詳細な説明の記載により,施錠体は開錠した状態又は開口部を施錠した状態とすることができれば,住人と配送業者との間での鍵の持ち合いの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供するといった,本件発明1〜4,6,7の課題を解決することができると認識することができる。
よって,本件発明1〜4,6,7は,発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決することができると認識できる範囲のものといえる。
(ウ) 発明の詳細な説明には,上記のように,ダイヤル式錠のほか,鍵式の南京錠も記載され,電子錠は住人と配送業者との間で容易に鍵を共有できる点で,住人と配送業者との間で事前に鍵を持ち合う方式でも,本件発明1〜4,6,7の課題を解決することができるものとして記載されている。
エ 「接続体」について
(ア)a 発明の詳細な説明には,「接続体」に関し,以下の点が記載されている。
・「図4は,配送荷物収納体1と物体を接続するための接続体3の一例を示す図である。接続体3は,配送荷物収納体1と接続体3を接続するための第1の接続部31と,固定された物体と接続体3を接続するための第2の接続部32と,第1の接続部31を施錠するための施錠部33とを備える。」(甲1の1【0026】)
b 本件発明は,「前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部を備え」,「配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続体」を備えるものであるところ,上記のように,発明の詳細な説明には,配送荷物収納体1と接続体3を接続するための第1の接続部31と,固定された物体と接続体3を接続するための第2の接続部32とを備えた接続体3が記載されているから,「配送荷物収納体とドアの一部とを接続する接続体」が記載されており,既に述べたとおり(前記ア),「前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部」を備える点についても,発明の詳細な説明に記載されている。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明である。
(イ) 接続体は,配送荷物収納体とドアの一部とを接続するものであり,当業者は,発明の詳細な説明の記載から,接続体3が備える伸縮部34を伸縮することにより,ドアの一部と配送荷物収納体1の距離を伸縮可能とし,配送荷物保管装置に荷物が収納されていない場合に,伸縮部34を短縮して,ドアの一部と配送荷物収納体1の距離を短くすることによって,見栄えの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供するといった,本件発明の課題を解決することができることを認識することができる。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決することができると認識することができる範囲のものといえる。
(ウ) 既に述べたとおり(前記ア(イ)),本件発明の課題は,収納できる配送荷物の大きさの制限,配送荷物が収納されていない状態の収納体の大きさの目立ち,見栄え,住人と配送業者との間での鍵の持ち合いの点で利用性が高い配送荷物保管装置を提供することにあるところ,「配送物保管装置4の盗難を防止」することは,本件発明1の直接の課題ではないから,フック等によりドアの一部に引っ掛けられているといった構造が発明の詳細な説明に記載されていないことにより,サポート要件違反とまではいえない。
オ 以上のとおり,本件発明は発明の詳細な説明に記載したものであり,本件特許に係る出願はサポート要件を満たしていると認められる。
(2) 明確性要件違反(36条6項2号)について
ア 「伸縮部」について
請求項1には,「前記接続体は,前記ドアの一部と前記配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部を備え(る)」と記載されており,「接続体」が「伸縮部」を備え,この「伸縮部」が,ドアの一部と配送荷物収納体との距離を伸縮可能とするものであることを特定していることは明らかであるから,その記載は明確である。
イ 「開口部」について
請求項1には,「開口部と収納部を備えた配送荷物収納体」と記載されており,「開口部」が収納部に配送荷物を収納するために開かれた口の部分であることを特定していることは明らかであるから,その記載は明確である。
ウ 「施錠体」について
請求項1には,「前記配送荷物収納体の開口部を施錠する施錠体」と記載されており,「施錠体」が配送荷物収納体の開口部を施錠するものであることを特定していることは明らかであるから,その記載は明確である。
エ 「接続体」について
(ア) 請求項1には,「前記接続体は,前記伸縮部により,前記接続体の一方が前記ドアの一部に接続され,前記接続体の他方が前記配送荷物収納体に接続されるものであ(る)」と記載されている。
ここで,「一方」は「一つの方面。ある方向。」(乙1)を意味し,「他方」は「他の方向。他の方面。」(乙2)を意味することから,本件発明における「一方」,「他方」が,「接続体」における「一つの方面。ある方向。」と,それ以外の方面・方向である「他の方向。他の方面。」を意味することは,「接続体」の全体の形状が特定されていなくとも明確であって,「接続体」において,ドアの一部に接続されている部位が「一方」で,配送荷物収納体に接続される部位が「他方」であることは,その記載から理解することができる。
(イ) 請求項1には,「接続体」に関し,更に「前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能とした」と記載されている。
ドアの大きさ等により,地面とドアの距離に差異があるとしても,本件発明は,伸縮部が,荷物収納体を地面に設置できる程の長さにまで伸長可能であることは明らかで,接続するドアの大きさや幅により地面との距離が変わり得ることは,技術常識を参酌すれば,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから,請求項の記載は明確であると認められる。
(ウ) 請求項1の記載から,本件発明は,ドアの一部に接続された配送荷物保管装置に関する発明であり,ドアの付近で用いられることは明らかである。
また,請求項1には,「前記第2の形態の場合に前記配送荷物収納体を地面に設置できる長さに前記伸縮部を伸長した状態として前記配送荷物収納体が地面に設置された状態とすることを可能とした」と記載されているところ,ここでいう「地面」とは,荷物を収納した配送荷物収納体が設置される場所の表面であることも明らかである。
そして,技術常識を参酌すれば,土地の表面に設置されたドアの場合には,「地面」が土地の表面を意味し,多層階の建物における2階より上のフロアに設置されたドアの場合には,「地面」が当該フロアの床面を意味することは明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから,請求項の記載は明確であると認められる。
オ 以上のとおり,本件発明は明確であり,本件特許に係る出願は明確性要件を満たしていると認められる。
(3) 以上のとおりであるから,無効理由2には理由がない。

第6 むすび
以上のとおり,無効理由1及び無効理由2はいずれも理由がなく,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2021-10-29 
結審通知日 2021-11-04 
審決日 2021-11-17 
出願番号 P2018-197825
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A47G)
P 1 113・ 121- Y (A47G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 小川 恭司
窪田 治彦
登録日 2020-02-28 
登録番号 6667748
発明の名称 配送荷物保管装置  
代理人 杉尾 雄一  
代理人 筒井 宣圭  
代理人 森田 靖之  
代理人 田中 雅敏  
代理人 堀田 明希  
代理人 有吉 修一朗  
代理人 遠藤 聡子  
代理人 山腰 健一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ