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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1388727 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-24 |
確定日 | 2022-08-29 |
事件の表示 | 特願2019−127763「基板付蒸着マスク」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019−173181〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年9月28日に出願された特願2015−190264号(以下「原出願」という。)の一部を令和元年7月9日に新たな特許出願(特願2019−127763号)としたものであって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知書(特許法第50条の2の通 知を伴う拒絶理由通知) 令和 2年 8月28日 :意見書、手続補正書の提出 令和 3年 1月 8日付け:令和2年8月28日にされた手続補正につ いての補正の却下の決定、拒絶査定 令和 3年 2月24日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和3年2月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和3年2月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 ガラス製基板と、 前記ガラス製基板上にめっき処理されて形成され、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有するめっき層からなる複数の蒸着マスクとを備え、 複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されており、 前記ガラス製基板は、ガラス基板と、前記ガラス基板上に位置する導電性パターンと、を含み、 前記めっき層は、前記導電性パターン上に位置する第1金属層と、前記第1金属層上に位置する第2金属層と、を含み、 前記第1金属層には、第1開口部が設けられており、 前記第2金属層には、前記第1開口部に連通する第2開口部が設けられており、 前記第2開口部の輪郭が前記第1開口部の輪郭を囲んでいる、ことを特徴とする基板付蒸着マスク。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載される次のとおりである(なお、令和2年8月28日にされた手続補正は、令和3年1月8日付けの補正の却下の決定によって却下された。)。 「【請求項1】 ガラス製基板と、 基板上にめっき処理されて形成され、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有するめっき層からなる複数の蒸着マスクとを備え、 複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されていることを特徴とする基板付蒸着マスク。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「基板」、及び「めっき層」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用発明、引用文献に記載された技術事項、周知技術 ア 引用文献2に記載された発明 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2003−107723号公報(平成15年4月9日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、各種電子デバイスの製造工程、特に、エレクトロルミネッセンス(EL)素子の製造工程に用いて好適なメタルマスクの製造方法に関するものである。」 「【0009】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、製造工程における寸法管理が容易で、高精度のメタルマスクを多数枚、同一の精度で作製することができるメタルマスクの製造方法を提供することを目的とする。」 「【0026】[第1の実施の形態]本発明の第1の実施の形態のEL素子用蒸着用メタルマスクの製造方法について図1に基づき説明する。 【0027】まず、図1(a)に示すように、蒸着またはスパッタリングにより、ガラス基板1の表面(一主面)に導電性材料である、例えば厚みが0.1μmのCr(クロム)膜(導電膜)2を成膜し、スピンコート法等により、このCr膜2上に、例えば厚みが0.7μmの感光材料(第1のレジスト膜)3を形成する。 【0028】次いで、電子ビーム露光法、レーザビーム露光法等により、感光材料3にマスクパターン3aを直接形成する。次いで、この感光材料3をマスクとしてCr膜2をエッチングし、図1(b)に示すように、このCr膜2に前記マスクパターン3aと同一形状のマスクパターン2aを形成し、その後、感光材料3を剥離(除去)する。このプロセスに、一般的に知られているものを適宜選択して使用することができる。例えば、上述の電子ビーム露光法や、レーザビーム露光法では、電子ビームやレーザビームを感光材料3の所定の領域に走査して、その領域を感光する。また、マスタマスクを用いて、所定の領域にのみ光を照射し、感光材料3を感光してもよい。 【0029】次いで、このCr膜2上に厚みが50μmのドライフィルム4をラミネート(形成)し、このCr膜2をマスクとしてドライフィルム4をガラス基板1側から光5を照射して露光する。この結果、図1(c)に示すように、ドライフィルム4にマスクパターン2aと同一形状のマスクパターン4aが形成される。 【0030】次いで、図1(d)に示すように、Cr膜2に前処理を施した後、該Cr膜2上に電気メッキにより、例えば、Ni、Ni−Co合金、Ni−W合金等からなる金属メッキ層6を形成する。金属メッキ層6の厚さは30μm〜50μm程度である。その後、この金属メッキ層6を剥離し、マスクパターン4aと同一形状のマスクパターン7aが形成されたメタルマスク7とする。」 「【0036】次に、Cr膜2が形成されたガラス基板1を利用してメタルマスクを製造する際の手順について、図2を用いてさらに詳細に説明する。 <途中省略> 【0047】ここで、S16においてドライフィルム4を感光する際に、ガラス基板1を移動したりすることによって、ガラス基板1の裏面から照射される光により、感光されるドライフィルム4のエリアが徐々に広がるように形成することが好適である。すなわち、照射される光が完全な平行光でなければ、ガラス基板1を移動することにより、照射される光がCr膜2の裏側へ若干回り込み、感光する領域が広がる。また、照射される光をCr膜2の近辺で焦点を合わせ、その後若干広がるように設定しても同様の感光が行える。さらに、ガラス基板1の裏面側に、照射光を回折板や散乱板を設け、これによって平行光線を各種の方向を向く散乱光に変換して露光してもよい。これによっても、Cr膜2の開口を通過した光が開口から広がってドライフィルム4を感光することができる。 【0048】また、露光の際に、図3に示すように、ドライフィルム4のガラス基板1とは反対の方向に乱反射板10を配置し、この乱反射板(拡散ボード)10による反射光をドライフィルム4に対し照射することも好適である。すなわち、この構成によって、ドライフィルム4を一旦通り抜けた光が乱反射板10により反射され、再度ガラス基板1に向けて照射される。従って、ガラス基板1から離れるに従って、感光される領域が広がる。 【0049】さらに、ドライフィルム4のエッチングの方法を適宜選択することで、このようなテーパ状のドライフィルム4のエッチングが行える。 【0050】そして、このようにすると、S17の現像において、図4(a)に示すように、上方に向けてより広い面積のドライフィルム4を残留させることができる。従って、電気メッキにより形成される金属メッキ層6は、図4(b)に示すように、Cr膜2上で、最も面積が広く、上方に向けて面積が小さくなるテーパ状の側面を有する。このため、剥離された金属メッキ層6からなるメタルマスク7は、図3に示すように、開口の最も小さい箇所がCr膜2と同様の形状になり、そこから厚み方向(図における上方)に向けて開口が大きくなる。 【0051】このようなメタルマスクは、使用したときに開口を規定するのは、開口の最も小さい場所であり、この場所はCr膜2と同一に形成されている。従って、非常に精度の高いメタルマスクが得られる。 【0052】さらに、このようなメタルマスクは、蒸着マスクに利用した場合において、適切な蒸着が行える。すなわち、ELパネルが大きくなってくると、蒸着を行う基板も大きくなる。このような大基板に蒸着を行う際にメタルマスクの開口がまっすぐの孔であると、周辺部分と中心部分とで、蒸着量に差が生じやすい。しかし、メタルマスクの開口にテーパが付いていることによって、周辺部において斜め方向から飛来する蒸発物の蒸着が可能になり、蒸着量の均一化が図れる。なお、メタルマスクは、開口の小さい側を基板側として、蒸着を行う。これにより、蒸着を行う面積自体は正確なものに維持できる。」 「【図1】 ![]() 」 「【図3】 ![]() 」 「【図4】 ![]() 」 (イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 a 引用文献2に記載された技術は、各種電子デバイスの製造工程、特に、エレクトロルミネッセンス(EL)素子の製造工程に用いて好適なメタルマスクに関するものであり(【0001】)、製造工程における寸法管理が容易で、高精度のメタルマスクを多数枚、同一の精度で作製することができるメタルマスクの製造方法を提供することを課題としたものである(【0009】)。 b 引用文献2には、以下の手順でEL素子用蒸着用メタルマスクを製造する方法が記載されている(【0026】〜【0030】)。 (a)ガラス基板1の表面に導電性材料である、例えばCr(クロム)膜(導電膜)2を成膜し、このCr膜2上に、感光材料(第1のレジスト膜)3を形成する工程。 (b)感光材料3にマスクパターン3aを形成し、この感光材料3をマスクとしてCr膜2をエッチングし、このCr膜2に前記マスクパターン3aと同一形状のマスクパターン2aを形成し、その後、感光材料3を剥離(除去)する工程。 (c)このCr膜2上にドライフィルム4をラミネート(形成)し、このCr膜2をマスクとしてドライフィルム4をガラス基板1側から光5を照射して露光して、ドライフィルム4にマスクパターン2aと同一形状のマスクパターン4aを形成する工程。 (d)Cr膜2に前処理を施した後、該Cr膜2上に電気メッキにより、例えば、Ni、Ni−Co合金、Ni−W合金等からなる金属メッキ層6を形成する工程。 (e)この金属メッキ層6を剥離し、マスクパターン4aと同一形状のマスクパターン7aが形成されたメタルマスク7を得る工程。 c ドライフィルム4を感光する際に、ガラス基板1を移動したりすることによって、ガラス基板1の裏面から照射される光により、感光されるドライフィルム4のエリアが徐々に広がるように形成することが好適であり(【0047】)、上方に向けてより広い面積のドライフィルム4を残留させることで、電気メッキにより形成される金属メッキ層6は、Cr膜2上で、最も面積が広く、上方に向けて面積が小さくなるテーパ状の側面を有するものとなり、このため、剥離された金属メッキ層6からなるメタルマスク7は、開口の最も小さい箇所がCr膜2と同様の形状になり、そこから厚み方向に向けて開口が大きくなる(【0050】)。 d このようなメタルマスクは、蒸着マスクに利用した場合において、適切な蒸着が行える。すなわち、ELパネルが大きくなってくると、蒸着を行う基板も大きくなり、このような大基板に蒸着を行う際にメタルマスクの開口がまっすぐの孔であると、周辺部分と中心部分とで、蒸着量に差が生じやすいが、メタルマスクの開口にテーパが付いていることによって、周辺部において斜め方向から飛来する蒸発物の蒸着が可能になり、蒸着量の均一化が図れる(【0052】)。 (ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献2には、EL素子用蒸着用メタルマスクを製造する工程の途中の、金属メッキ層6を剥離する前の時点において製造される、以下の構造物に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ガラス基板と、 前記ガラス基板の表面に成膜され、エッチングによってマスクパターンが形成されたCr膜(導電膜)と、 前記Cr膜上に電気メッキにより形成された、例えば、Ni、Ni−Co合金、Ni−W合金等からなる金属メッキ層とを備えた構造物であって、 前記金属メッキ層は、剥離されて、EL素子用蒸着用メタルマスクとなるものであり、 剥離されてメタルマスクとなる前記金属メッキ層は、開口の最も小さい箇所がCr膜と同様の形状になり、そこから厚み方向に向けて開口が大きくなる、 前記構造物。」 イ 引用文献3に記載された技術事項 (ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2002−83679号公報(平成14年3月22日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【請求項1】第一電極が形成された1枚の基板上に、n面(nは3以上の整数)の少なくとも有機化合物からなる発光層を含む薄膜層および第二電極を形成し、その後、基板をn個に切断する工程を含む有機電界発光装置の製造方法であって、前記発光層もしくは前記第二電極の少なくとも一方を、1枚の基板に対してm個(mは2以上n未満の整数)のシャドーマスクを配置させたマスク蒸着法によりパターニングすることを特徴とする有機電界発光装置の製造方法。 【請求項2】1個のシャドーマスクがk面(kは2以上n未満の整数)に対応したマスクパターンを有しており、n=m×kであることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光装置の製造方法。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機などの分野に利用可能な、電気エネルギーを光に変換できる有機電界発光装置の製造方法に関する。」 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来技術では大きな基板で小さな表示装置を大量に多面取りする場合に、シャドーマスクの数が多くなりすぎて、それぞれの相対位置合わせを行う手間が増大するという問題があった。また、シャドーマスクを保持するフレームの幅やシャドーマスク同士の隙間などに起因する蒸着無効エリアが相対的に広くなる、つまり、基板の有効活用面積が低下するので、1枚の基板から製造できる表示装置数が理想状態に比べて減少するという問題があった。 【0007】本発明はかかる問題を解決し、シャドーマスク数の過度な増大を防ぎ、基板面積を効率的に活用することが可能な、マスク蒸着法による有機電界発光装置の多面取り製造方法を提供する。」 「【0010】本発明の好ましい一形態を図1の概念図に示す。1枚の基板上に16面の少なくとも有機化合物からなる発光層を含む薄膜層および第二電極を形成し、その後、基板を16個に切断する場合に(n=16)、発光層もしくは第二電極の少なくとも一方を、1枚の基板に対して4個のシャドーマスク30を配置させたマスク蒸着法によりパターニングする例である(m=4)。それぞれ1個のシャドーマスクはさらに4面に対応したパターンを有しているので(k=4)、n=m×kの関係にある。」 「【0023】シャドーマスクの好ましい厚みは、マスク部分の幅の3倍以下、より好ましくは2倍以下である。開口部をエッチング法で除去して作製する場合と電鋳法のようにマスク部を形成して作製する場合などシャドーマスクの作製方法によって、制約される条件が異なるので、選択できる厚さの範囲も異なってくる。本発明に用いるような微細なマスク部分を有するシャドーマスクの作製は、これに限定されるものではないが、電鋳法が好ましい。」 「【0045】実施例1 発光層パターニング用としてマスク部分と補強線とが同一平面内に形成されたNi合金からなるシャドーマスクを作製した。1個のシャドーマスクの外形は120×84mm、マスク部分の厚さは25μmである。1面に対応するマスクパターンとして、長さ29mm、幅100μmのストライプ状開口部がピッチ300μmで324本配置され、各ストライプ状開口部には、開口部と直交する幅20μm、厚さ25μmの補強線が0.9mm間隔に形成されている。1個のシャドーマスクには、前記パターンが4面分形成されている(k=4)。また、シャドーマスクは外形が等しい幅4mmのステンレス鋼製フレームに固定されている。このように作製した4個のシャドーマスクを、図1に示したように、長辺方向に10mm、短辺方向に16mmの間隔をあけて、それぞれの相対位置を合わせて2×2の配列に配置した(m=4)。」 「【図1】 ![]() 」 上記【0010】の記載を参酌すると、上記【図1】から、1個のシャドーマスクには、4面(k=4)のマスクパターンが2段、2列毎に配置されるとともに、各マスクパターンが形成されている領域を囲むように、マスクパターンが形成されていない領域が存在することを見て取ることができる。 (イ)上記(ア)の【請求項2】及び【0001】の記載によれば、シャドーマスクは、電気エネルギーを光に変換できる有機電界発光装置の製造に用いられるものであり、同【0023】の記載によれば、シャドーマスクは、電鋳法により作製されることが好ましいものであるといえる。 また、同【請求項2】及び【0045】の記載によれば、1個のシャドーマスクには、k面(kは2以上n未満の整数)に対応したマスクパターンが形成されるものであり、同【0007】及び【0010】の記載によれば、シャドーマスクは、1枚の基板から有機電界発光装置を多面取りするためのものであるといえる。 そうすると、1個のシャドーマスクに形成されるマスクパターンの配置は、上記【図1】から見て取れる2段、2列毎に限定されるものではなく、複数段、複数列毎に配置されるものであるといえる。 (ウ)以上によれば、引用文献3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。 「電気エネルギーを光に変換できる有機電界発光装置の製造に用いられるシャドーマスクは、 複数のマスクパターンが、複数段、複数列毎に配置され、各マスクパターンが形成されている領域を囲むように、マスクパターンが形成されていない領域が存在し、 前記シャドーマスクは、電鋳法で作製されることが好ましいこと。」 ウ 引用文献4に記載された技術事項 (ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010−62125号公報(平成22年3月18日出願公開。以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ストライプ状のスリットを備えた薄膜蒸着用マスク及びこのマスクを用いた有機電界発光素子の製造方法に関する。」 「【0028】 本実施例の薄膜蒸着用マスク10は、電鋳工程などの素材成形技術により製造され得る。電鋳工程を用いると、微細なパターニング及び優れた表面平滑性を得ることができる。」 「【0037】 図3は、本発明の一実施例による薄膜蒸着用マスクの分解斜視図である。 【0038】 同図に示すように、本実施例のマスクアセンブリは、大量生産のための装置であって、マスク10aと、フレーム20aとを備える。 【0039】 マスク10aは、有機電界発光素子をなす単位基板を一度に複数枚ずつ蒸着できるように、金属薄板のベース部材11aに形成された複数の単位マスキングパターン部12aを備える。複数の単位マスキングパターン部12aは、格子状に配列され得る。各単位マスキングパターン部12aは、1つの素子に有機物を蒸着することができるものであり、所望する形状にパターニングされた複数のスリット13aと、隣接するスリット間に位置するリブ15aとを備える。」 「【図3】 ![]() 」 上記【0037】〜【0039】の記載を参酌すると、上記【図3】から、薄膜蒸着用マスク10aには、複数の単位マスキングパターン部12aが、9段、7列毎に配置され、各単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように、単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域が存在することを見て取ることができる。 (イ)上記(ア)の【0039】によれば、薄膜蒸着用マスク10aは、有機電界発光素子をなす単位基板を一度に複数枚ずつ蒸着できるものであり、金属薄板のベース部材11aに形成された複数の単位マスキングパターン部12aを備え、複数の単位マスキングパターン部12aは、格子状に配列され得るものである。 そうすると、薄膜蒸着用マスク10aに形成される複数の単位マスキングパターン部12aの配列は、上記【図3】から見て取れる9段、7列毎に限定されるものではなく、複数段、複数列毎に配列されるものであるといえる。 また、同【0028】には、薄膜蒸着用マスク10は、電鋳工程などの素材成形技術により製造され得ることが記載されている。 (ウ)以上によれば、引用文献4には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「有機電界発光素子をなす単位基板を一度に複数枚ずつ蒸着できる薄膜蒸着用マスク10aは、 金属薄板のベース部材11aに形成された複数の単位マスキングパターン部12aを備え、複数の単位マスキングパターン部12aは、複数段、複数列毎に配列され、各単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように、単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域が存在し、 前記薄膜蒸着用マスク10は、電鋳工程などの素材成形技術により製造され得るものであること。」 エ 引用文献6に記載された技術事項 (ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2001−237073号公報(平成13年8月31日出願公開。以下「引用文献6」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電流の注入によって発光するエレクトロルミネッセンス(以下、ELともいう)を呈する有機化合物材料の薄膜からなる発光層(以下、有機発光層という)を各々が備えた複数の有機EL素子を所定パターンでもって基板上に形成された有機EL表示パネルの製造方法に関し、特に該製造方法の蒸着工程に用いるメタルマスク及びその製造方法に関する。」 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】小型表示パネルを製造する場合、蒸着法を用いる製造プロセスにおいて、小型表示パネル用透明基板を大型の透明基板からの多面取りすることによりにより製造効率を高めている。大型化した透明基板を用いた場合、媒体の蒸着工程において、図1に示すように、複数のメタルマスク領域101を有する多面取り用メタルマスク102を用いなければならない。 【0006】しかしながら、多面取り用メタルマスクの大型化によって、複数のメタルマスク領域のうち1つでも、精度不良、開口部のバリ、つぶれなどの欠陥があると、多面取り用メタルマスクの製造歩留まりが低下するという問題点があった。また、開口部が大きくスリットが細いパターンの場合にはマスク強度が不足し、各メタルマスクが撓む問題により、微細なパターンが形成できない問題があった。」 「【図1】 ![]() 」 上記【0005】の記載を参照すると、上記【図1】から、多面取り用メタルマスク102が有する複数のメタルマスク領域101は、2段、3列毎に配列され、各メタルマスク領域101を囲むように、メタルマスク領域101が形成されていない領域が存在することを見て取ることができる。 (イ)上記(ア)の【0001】には、電流の注入によって発光するエレクトロルミネッセンス(以下、ELともいう)を呈する有機化合物材料の薄膜からなる発光層(以下、有機発光層という)を各々が備えた複数の有機EL素子を所定パターンでもって基板上に形成された有機EL表示パネルの製造方法の蒸着工程に用いるメタルマスクが記載されている。 また、同【0005】の記載によれば、多面取り用メタルマスク102が有する複数のメタルマスク領域101は、多面取りのために複数となっているものであるから、当該複数のメタルマスク領域101は、上記【図1】から見て取れる2段、3列毎に限定されるものではなく、複数段、複数列毎に配列されるものであるといえる。 (ウ)以上によれば、引用文献6には、以下の技術事項が記載されていると認められる。 「電流の注入によって発光するエレクトロルミネッセンス(以下、ELともいう)を呈する有機化合物材料の薄膜からなる発光層を各々が備えた複数の有機EL素子を所定パターンでもって基板上に形成された有機EL表示パネルの製造方法の蒸着工程に用いる多面取り用メタルマスク102は、 複数のメタルマスク領域101を有し、複数のメタルマスク領域101は、複数段、複数列毎に配列され、各メタルマスク領域101を囲むように、メタルマスク領域101が形成されていない領域が存在すること。」 オ 周知技術 (ア)本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2003−231964号公報(平成15年8月19日出願公開。以下「周知文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、薄膜パターンの形成に使用される蒸着マスクおよびその製造方法、並びに該蒸着マスクを使用して薄膜層が形成された有機電界発光装置に関する。」 「【0031】本発明の蒸着マスクの一例を、図1から図3に示す。蒸着する際に基板側に位置する1層目30には蒸着パターンである発光層パターンに対応した形状の開口部a(図中、32)と補強線33が設けられている。【0032】補強線は開口部aの変形を防止するために導入され、蒸着物をマスクすることが目的ではない。したがって、画素の上に補強線の影が生じないように、画素と画素の隙間の非発光領域に位置するように補強線は配置される。 【0033】2層目31には、1層目の開口部aよりも大きな開口部b(図中、34)が設けられている。3層以上の複数層を設ける場合は、3層目以降の層に1層目の開口部aよりも大きな開口部bを設けてもよい。 【0034】補強線は、蒸着マスクが2層からなる場合は1層目のみに設け、3層以上からなる場合は1層目の開口部aよりも大きい開口部bを持つ層の直前の層まで設けてもかまわない。蒸着マスクが2層からなる場合は、2層目の開口部bが、1層目の開口部aおよび補強線を露出させる。 【0035】上記の多層構成をとることで、1層目は比較的薄く形成でき開口部aを精度良く形成可能であり、かつ、補強線も細くできる。蒸着パターンは1層目の開口部aによって規定されるので、目的とする蒸着パターンの精度が向上する。また、補強線を細くできるので非発光領域を小さく設計でき、開口率が大きく、耐久性に優れた有機電界発光装置を得ることができる。 【0036】2層目以降を設ける目的の一つは、蒸着マスクの強度向上である。図1に示したように、蒸着マスクは取り扱いを容易にするためフレーム35に固定されることが多い。この際に蒸着マスクには張力が付加されるが、1層目だけではこの張力に耐えることができず、蒸着マスクの寸法が伸びたり、シワがよるといった問題が生じることがある。2層目以降を付加することでこの問題を解決することができる。 【0037】さらに2層目もしくは2層目以降の層の開口部bを1層目の開口部より大きくすることで、前述の蒸着影の影響が軽減される。すなわち、図2における角度θを蒸着物の入射角より大きくすることで蒸着影を軽減できる。さらに1層目の断面をテーパー形状にすればより好ましい。薄い1層目をテーパー形状にすることは、蒸着マスク全体の厚さをテーパー形状にするよりも寸法精度の点で優れる。もちろん2層目をテーパー加工してもよい。」 「【0045】蒸着マスクの好ましい製造方法を、図4〜9を使用して説明する。 【0046】はじめに電鋳母型37上に通常のフォトリソグラフィ法などを利用してレジストパターン38を形成する(図4)。このレジストパターンは1層目の開口部aや位置マークのパターンに対応している。次に、電鋳法によって電鋳母型上にNiやNi−Co合金などを析出させ、マスク部分の1層目30のパターンを形成する(図5)。レジストパターンを一旦除去した後に、再度レジストパターン39を形成する(図6)。電鋳法によって1層目の上にマスク部分の2層目31のパターンを形成する(図7)。レジストパターンを除去して電鋳母型からこの積層体を剥離する(図8)。この積層体に張力を付加しながらフレーム35に接着し(図9)、不要部分を切り取ることで蒸着マスクが得られる。1層目と2層目は必ずしも同一材料で形成する必要はない。必要に応じて各層の組成を最適化できる。」 「【図1】 ![]() 【図2】 ![]() 【図3】 ![]() 」 a 上記【0033】の記載を参照すると、上記【図1】、【図2】から、「2層目31の開口部34の輪郭が1層目30の開口部32を囲むように形成されていること」を見て取ることができる。 b 上記記載から、引用文献8には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「有機電界発光装置を形成するための蒸着マスクを多層構成とし、1層目30を比較的薄く形成することで蒸着パターンを規定する開口部32を精度良く形成可能とし、2層目31を設けることで蒸着マスクの強度向上が可能となり、さらに2層目31の開口部34を1層目30の開口部32より大きくすることで、蒸着影の影響が軽減されること。」 「2層目31の開口部34の輪郭が1層目30の開口部32を囲むように形成されていること」 「蒸着マスクの1層目30を電鋳法により形成し、2層目31も電鋳法により形成すること。」 (イ)本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2005−154879号公報(平成17年6月16日出願公開。以下「周知文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、蒸着用メタルマスク、および蒸着用メタルマスクの製造方法に関し、特に有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルの製造において、蒸着法で素子を形成する際に用いられる蒸着用メタルマスクに関する。」 「【0011】 本発明は、平面基板にマスク蒸着するための複数の蒸気通孔を有する蒸着用メタルマスクにおいて、該蒸着用メタルマスクが少なくとも2種以上の異なる金属層からなる積層体であることを特徴とする蒸着用メタルマスクである。 特に有機EL表示パネル製造用の蒸着用メタルマスクであって、該蒸着用メタルマスクが少なくとも2種以上の異なる金属層を重ね合せた積層体からなることを特徴とする。この金属層のいずれかの層には、単一の金属だけではなく合金を用いることも好ましい。」 「【実施例1】 【0018】 <途中省略>本実施の形態では、図1に示す蒸着用メタルマスク7の平面方向の熱膨張係数と、ガラス基板1の熱膨張係数とを略同一に調整している例を示す。その製造工程の概略を図2に示すが、電鋳法によって第一の金属層のニッケル層13と、第二の金属層のニッケル−鉄合金層15からなる積層体として蒸着用メタルマスクを製造するものである。 <途中省略> 【0020】 <途中省略> 図4にこの平面図を示す。200mm四方の蒸着メタルマスクの中に、小さな開口17で第一の金属層が形成されており、その上に大きな開口18で第二の金属層が形成されている。こうすることで開口部16のパターン形状は周囲を第一の金属層によって正確に形成されており、また蒸着用メタルマスクの機械的な強度に関しては、第二の金属層の強度で支持している。」 「【図2】 ![]() 」 「【図4】 ![]() 」 a 上記【0018】、【0020】の記載を参照すると、上記【図2】、【図4】から、「第二の金属層15の開口18の輪郭が第一の金属層13の開口17を囲むように形成されていること」を見て取ることができる。 b 上記記載から、引用文献9には、次の技術事項が記載されていると認められる。 「2種以上の異なる金属層を重ね合せた積層体で形成した有機EL表示パネル製造用の蒸着用メタルマスクについて、小さな開口17を第一の金属層13に形成し、大きな開口18を第二の金属層15に形成することにより、開口部16のパターン形状は周囲を第一の金属層13によって正確に形成されており、また蒸着用メタルマスクの機械的な強度に関しては、第二の金属層15の強度で支持すること。」 「第二の金属層15の開口18の輪郭が第一の金属層13の開口17を囲むように形成されていること。」 「蒸着用メタルマスクを構成する積層体について、電鋳法により第一の金属層13のニッケル層と第二の金属層15のニッケル−鉄合金層を形成すること。」 (ウ)周知技術の認定 周知文献1には、有機電界発光装置を形成するための蒸着マスクを多層構成とし、電鋳法で1層目を比較的薄く形成することで蒸着パターンを規定する開口部を精度良く形成可能とし、電鋳法で2層目を設けることで蒸着マスクの強度向上を可能とし、さらに2層目の開口部を1層目の開口部より大きくすることで、蒸着影の影響を軽減するという技術において、前記2層目の開口部の輪郭が1層目の開口部を囲むように形成されることが記載されている(上記(ア)b)。 また、周知文献2にも、有機EL表示パネル製造用の蒸着用メタルマスクについて、小さな開口を有する第一の金属層を電鋳法で形成し、大きな開口を有する第二の金属層を電鋳法で形成することで、開口部のパターン形状の周囲を第一の金属層によって正確に形成するとともに、蒸着用メタルマスクの機械的な強度を第二の金属層の強度で支持するという技術において、第二の金属層の開口の輪郭が第一の金属層の開口を囲むように形成されることが記載されている(上記(イ)b)。 ここで、周知文献1、2に記載の「電鋳」法は、金属めっきの一種といえるし、周知文献1、2に記載の「有機電界発光装置を形成するための蒸着マスク」及び「有機EL表示パネル製造用の蒸着用メタルマスク」は、いずれも「EL素子用蒸着マスク」といえるから、上記周知文献1、2の記載から、EL素子用蒸着マスクを、第一の金属めっき層と第二の金属めっき層とを含む積層構造にし、第一の金属めっき層を比較的薄く形成して蒸着パターンを規定する開口部を精度良く形成可能にするとともに、第二の金属めっき層によりメタルマスクの強度を向上させ、さらに第二の金属めっき層の開口部を第一の金属めっき層の開口部より大きく形成することで蒸着影の影響を軽減するとともに、前記第二の金属めっき層の大きな開口部の輪郭が前記第一の金属めっき層の開口部の輪郭を囲むように形成するという技術は、本願の原出願の出願日当時における周知技術であったと認められる。 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「ガラス基板の表面に成膜され、エッチングによってマスクパターンが形成されたCr膜(導電膜)」は、本件補正発明の「ガラス基板上に位置する導電性パターン」に相当する。 したがって、引用発明の「ガラス基板」と「前記ガラス基板の表面に成膜され、エッチングによってマスクパターン2aが形成されたCr膜(導電膜)」とからなる部材は、本件補正発明の「ガラス基板と、前記ガラス基板上に位置する導電性パターンと、を含」む「ガラス製基板」に相当する。 (イ)引用発明の「例えば、Ni、Ni−Co合金、Ni−W合金等からなる金属メッキ層」は、「Cr膜上に電気メッキにより形成された」ものであり、「剥離されて、EL素子用蒸着用メタルマスク」となるから、引用発明の「金属メッキ層」は、本件補正発明の「導電性パターン上に位置する第1金属層」であって、「めっき層からなる」「蒸着マスク」に相当する。 (ウ)引用発明の「金属メッキ層」の「開口」は、本件補正発明の「第1金属層」に設けられた「第1開口部」に相当する。 (エ)引用発明の「金属メッキ層」に形成された「開口」が位置する領域は有孔領域といえる。そして、有孔領域の周囲において、当該有孔領域を囲む「金属メッキ層」は無孔領域といえる。したがって、引用発明の「金属メッキ層」と、本件補正発明の「めっき層」とは、「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」点で一致する。 (オ)上記(ア)〜(エ)より、本件補正発明と引用発明とは、「基板付蒸着マスク」である点で共通するといえる。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「ガラス製基板と、 前記ガラス製基板上にめっき処理されて形成され、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有するめっき層からなる蒸着マスクとを備え、 前記ガラス製基板は、ガラス基板と、前記ガラス基板上に位置する導電性パターンと、を含み、 前記めっき層は、前記導電性パターン上に位置する第1金属層を含み、 前記第1金属層には、第1開口部が設けられている、基板付蒸着マスク。」 【相違点1】 「蒸着マスク」を、本件補正発明は、「ガラス製基板上」に「複数」備え、「複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置」されているのに対し、引用発明は、当該構成について特定されていない点。 【相違点2】 「めっき層」について、本件補正発明は、「輪郭が前記第1開口部の輪郭を囲んでいる」「第1開口部に連通する第2開口部が設けられ」た「第1金属層上に位置する第2金属層」を含むのに対し、引用発明は、「開口の最も小さい箇所」「から厚み方向に向けて開口が大きくなる」「金属メッキ層」を含む点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について (ア)引用文献2には、上記(2)アのとおり、EL素子用蒸着用メタルマスクの製造方法が記載されているところ、同引用文献には、図1、図3、及び図4等に、製造されるEL素子用蒸着用メタルマスクの開口の近傍の様子が模式的に記載されているだけであって、製造されるEL素子用蒸着用メタルマスクの全体の形状・構造について、具体的な記載はない。 しかしながら、引用発明に係る「構造物」の金属メッキ層は、剥離されて、EL素子用蒸着用メタルマスクとなるのであるから、引用発明の金属メッキ層の全体の形状・構造としては、EL素子用蒸着用メタルマスクとして通常用いられているものと同様の形状・構造が想定されていると考えることが自然かつ合理的である。 (イ)一方、上記(2)イ(ウ)のとおり、引用文献3には、「電気エネルギーを光に変換できる有機電界発光装置の製造に用いられるシャドーマスクは、複数のマスクパターンが、複数段、複数列毎に配置され、各マスクパターンが形成されている領域を囲むように、マスクパターンが形成されていない領域が存在し、前記シャドーマスクは、電鋳法で作製されることが好しいこと。」という技術事項(以下、「引用文献3技術事項」ともいう。)が記載されているところ、引用文献3の上記(2)イ(ア)の【0045】には、「1面に対応するマスクパターンとして、長さ29mm、幅100μmのストライプ状開口部がピッチ300μmで324本配置され、各ストライプ状開口部には、開口部と直交する幅20μm、厚さ25μmの補強線が0.9mm間隔に形成されている。」と記載されていることから、上記「マスクパターンが形成されている領域」は、開口部を有している領域、すなわち、孔を有している領域であるから、有孔領域であるといえ、上記「マスクパターンが形成されている領域を囲むように」「存在する」「マスクパターンが形成されてない領域」は、有孔領域を囲む孔の無い領域、すなわち、有効領域を囲む無孔領域であるといえる。 そして、本件補正発明の「蒸着マスク」は、「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」ものであって、さらに、本願明細書の【0031】において、「図示された例では、一つの有孔領域22が一つの有機ELディスプレイ装置に対応するようになっている。さらに、一つの有孔領域22が、一つの蒸着マスク20及び後述する一つの単位レジストパターン3Bに対応するようにしてもよい。すなわち、図1(a)(b)(c)に示された蒸着マスク装置10(蒸着マスク20)によれば、多面付蒸着が可能となっている。」と、一つの有孔領域22が一つの蒸着マスク20に対応することが記載されていることを踏まえれば、引用文献3技術事項の「マスクパターンが形成されている領域」、「マスクパターンが形成されている領域を囲むように」「存在する」「マスクパターンが形成されてない領域」は、それぞれ、本件補正発明の「有孔領域」、「無孔領域」に相当し、引用文献3技術事項の「マスクパターンが形成されている領域」、及び、「マスクパターンが形成されている領域を囲むように」「存在する」「マスクパターンが形成されてない領域」は、本件補正発明の「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」「蒸着マスク」に相当する。 また、引用文献3技術事項の「シャドーマスク」は、「電鋳法で作製されることが好ましい」ものであるから、技術常識に照らせば、メタルマスクであるといえ、同「有機電界発光装置」は、「EL素子」であるといえる。 そうすると、引用文献3には、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する複数の蒸着マスクとを備え、複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されるという、EL素子用メタルマスクの形状・構造が記載されているといえる。 また、引用文献4には、上記(2)ウ(ウ)のとおり、「有機電界発光素子をなす単位基板を一度に複数枚ずつ蒸着できる薄膜蒸着用マスク10aは、金属薄板のベース部材11aに形成された複数の単位マスキングパターン部12aを備え、複数の単位マスキングパターン部12aは、複数段、複数列毎に配列され、各単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように、単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域が存在し、前記薄膜蒸着用マスク10は、電鋳工程などの素材成形技術により 製造され得るものであること。」という技術事項(以下、「引用文献4技術事項」という。)が記載されているところ、引用文献4の上記(2)ウ(ア)の【0039】には、「各単位マスキングパターン部12aは、・・・所望する形状にパターニングされた複数のスリット13aと、隣接するスリット間に位置するリブ15aとを備える。」と記載されていることから、上記「単位マスキングパターン部12aが形成されている領域」は、スリットを有している領域、すなわち、孔を有している領域であるから、有孔領域であるといえ、上記「単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように」「存在する」「単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域」は、有孔領域を囲む孔の無い領域、すなわち、有効領域を囲む無孔領域であるといえる。 そうすると、引用文献3技術事項について検討したのと同様に、引用文献4技術事項の「単位マスキングパターン部12a」、「単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように」「存在する」「単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域」は、それぞれ、本件補正発明の「有孔領域」、「無孔領域」に相当し、引用文献4技術事項の「単位マスキングパターン部12a」、及び、「単位マスキングパターン部12aが形成されている領域を囲むように」「存在する」「単位マスキングパターン部12aが形成されていない領域」は、本件補正発明の「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」「蒸着マスク」に相当する。 また、引用文献4技術事項の「薄膜蒸着用マスク10」は、「電鋳工程などの素材形成技術により製造され得るもの」であるから、技術常識に照らせば、メタルマスクであるといえ、同「有機電界発光素子」は、「EL素子」であるといえる。 そうすると、引用文献4には、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する複数の蒸着マスクとを備え、複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されるという、EL素子用メタルマスクの形状・構造が記載されているといえる。 加えて、引用文献6には、上記(2)エ(ウ)のとおり、「ELを呈する有機化合物材料の薄膜からなる発光層を各々が備えた複数の有機EL素子を所定パターンでもって基板上に形成された有機EL表示パネルの製造方法の蒸着工程に用いる多面取り用メタルマスク102は、複数のメタルマスク領域101を有し、複数のメタルマスク領域101は、複数段、複数列毎に配列され、各メタルマスク領域101を囲むように、メタルマスク領域101 が形成されていない領域が存在すること。」という技術事項(以下、「引用文献6技術事項」という。)が記載されているところ、引用文献6の上記(2)エ(ア)の【0005】には、「多面取り用メタルマスクの大型化によって、複数のメタルマスク領域のうち1つでも、精度不良、開口部のバリ、つぶれなどの欠陥があると、多面取り用メタルマスクの製造歩留まりが低下するという問題点があった。また、開口部が大きくスリットが細いパターンの場合にはマスク強度が不足し、各メタルマスクが撓む問題により、微細なパターンが形成できない問題があった」と記載されていることから、上記「メタルマスク領域101」は、開口部を有している領域、すなわち、孔を有している領域であるから、有孔領域であるといえ、上記「メタルマスク領域101を囲むように」「存在する」「メタルマスク領域101が形成されていない領域」は、有孔領域を囲む孔の無い領域、すなわち、有効領域を囲む無孔領域であるといえる。 そうすると、引用文献3技術事項について検討したのと同様に、引用文献6技術事項の「メタルマスク領域101」、「メタルマスク領域101を囲むように」「存在する」「メタルマスク領域101が形成されていない領域」は、それぞれ、本件補正発明の「有孔領域」、「無孔領域」に相当し、引用文献6技術事項の「メタルマスク領域101」、及び、「メタルマスク領域101を囲むように」「存在する」「メタルマスク領域101が形成されていない領域」は、本件補正発明の「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」「蒸着マスク」に相当する。 また、引用文献6技術事項の「有機EL素子」は、「EL素子」であるといえる。 そうすると、引用文献6には、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する複数の蒸着マスクとを備え、複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されるという、EL素子用メタルマスクの形状・構造が記載されているといえる。 すなわち、引用文献3〜4、6の記載から、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する複数の蒸着マスクとを備え、複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置されるという形状・構造は、EL素子用蒸着用メタルマスクとして通常用いられていた形状・構造であったと認められる。 (ウ)してみれば、金属メッキ層の全体の形状・構造が特定されていない引用発明の具体化に際し、引用文献3〜4、6に記載される、EL素子用蒸着用メタルマスクとして通常用いられていた形状・構造を採用すること、すなわち、引用発明において、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。 イ 相違点2について (ア)上記(2)ア(イ)dのとおり、引用文献2には、ELパネルが大きくなってくると、蒸着を行う基板も大きくなり、このような大基板に蒸着を行う際にメタルマスクの開口がまっすぐの孔であると、周辺部分と中心部分とで、蒸着量に差が生じやすいが、メタルマスクの開口にテーパが付いていることによって、周辺部において斜め方向から飛来する蒸発物の蒸着が可能になり、蒸着量の均一化が図れるとの認識が示されている。 そして、引用発明は、「剥離されてメタルマスクとなる前記金属メッキ層は、開口の最も小さい箇所がCr膜と同様の形状になり、そこから厚み方向に向けて開口が大きくなる」という構成を備えていることから、引用発明が解決しようとする課題には、基板が大きくなっても、蒸着量の均一化を図ることが含まれている。 (イ)上記(2)オ(ウ)のとおり、EL素子用蒸着マスクを、第一の金属めっき層と第二の金属めっき層とを含む積層構造にし、第一の金属めっき層を比較的薄く形成して蒸着パターンを規定する開口部を精度良く形成可能にするとともに、第二の金属めっき層によりメタルマスクの強度を向上させ、さらに第二の金属めっき層の開口部を第一の金属めっき層の開口部より大きく形成することで蒸着影の影響を軽減するとともに、前記第二の金属めっき層の大きな開口部の輪郭が前記第一の金属めっき層の開口部の輪郭を囲むように形成するという技術は、本願の原出願の出願日当時における周知技術であるところ、上記周知技術における「第一の金属めっき層」、「第一の金属めっき層の開口部」、「第二の金属めっき層」及び「第二の金属めっき層の開口部」は、それぞれ、本件補正発明の「第1金属層」、「第1開口部」、「第2金属層」及び「輪郭が前記第1開口部の輪郭を囲んでいる」「第1開口部に連通する第2開口部」に相当し、上記周知技術における「第一の金属めっき層」及び「第二の金属めっき層」は、本件補正発明の「めっき層」に相当する。 また、上記周知技術における、「前記第二の金属めっき層の大きな開口部の輪郭が前記第一の金属めっき層の開口部の輪郭を囲む」は、本件補正発明の「前記第2開口部の輪郭が前記第1開口部の輪郭を囲んでいる」に相当する。 (ウ)引用発明の「EL素子用蒸着用メタルマスク」と、上記周知技術の「第一の金属めっき層」及び「第二の金属めっき層」で構成される「EL素子用蒸着マスク」とは、いずれも、EL素子用蒸着用メタルマスクという点で共通するから、引用発明と上記周知技術の技術分野は関連している。 また、上記周知技術の「蒸着影の影響を軽減する」との課題は、引用発明の「蒸着量の均一化を図ること」との課題と共通する。 さらに、「金属メッキ層」について、引用発明の「開口の最も小さい箇所」「から厚み方向に向けて開口が大きく」することは、周辺部において斜め方向から飛来する蒸着物の蒸着を可能にして蒸着量の均一化を図るという機能を有し(上記(2)ア(イ)d)、これは、上記周知技術の「第二の金属めっき層の開口部を第一の金属めっき層の開口部より大きく形成すること」ことにより、蒸着影の影響を軽減するという機能と共通する。 してみれば、引用発明の「金属メッキ層」に換えて、共通の機能を有する上記周知技術の「第一の金属めっき層」及び「第二の金属めっき層」を採用し、第一の金属めっき層に蒸着パターンを規定する開口部を形成し、かつ第二の金属めっき層の開口部を第一の金属めっき層の開口部より大きく形成するとともに、前記第二の金属めっき層の大きな開口部の輪郭が前記第一の金属めっき層の開口部の輪郭を囲むように形成することは、当業者であれば適宜なし得たことである。 ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献3〜4、6に記載された技術事項ないし周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献3〜4、6に記載された技術事項ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和3年2月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1又は2に記載された発明及び引用文献3〜6に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 1.特開2015−151579号公報 2.特開2003−107723号公報 3.特開2002−83679号公報 4.特開2010−62125号公報 5.特開2006−37203号公報 6.特開2001−237073号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2〜4及び引用文献6の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 (1)引用発明との対比 ア 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「ガラス基板」と、「前記ガラス基板の表面に成膜され、エッチングによってマスクパターン2aが形成されたCr膜(導電膜)」とからなる部材は、本願発明の「ガラス製基板」に相当する。 (イ)引用発明の「例えば、Ni、Ni−Co合金、Ni−W合金等からなる金属メッキ層」は、「Cr膜上に電気メッキにより形成された」ものであり、「剥離されて、EL素子用蒸着用メタルマスク」となるから、引用発明の「金属メッキ層」は、本願発明の「基板上にめっき処理されて形成され」た「めっき層からなる」「蒸着マスク」に相当する。 (ウ)引用発明の「金属メッキ層」に形成された「開口」が位置する領域は有孔領域といえる。そして、有孔領域の周囲において、当該有孔領域を囲む「金属メッキ層」は無孔領域といえる。したがって、引用発明の「金属メッキ層」と、本願発明の「めっき層」とは、「有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有する」点で一致する。 (エ)上記(ア)〜(ウ)より、本願発明と引用発明とは、「基板付蒸着マスク」である点で共通するといえる。 イ 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「ガラス製基板と、 基板上にめっき処理されて形成され、有孔領域と、この有孔領域を囲む無孔領域とを有するめっき層からなる蒸着マスクとを備えた基板付蒸着マスク。」 【相違点3】 「蒸着マスク」を、本願発明は、ガラス製基板上に「複数」備え、「複数の蒸着マスクは複数段、複数列毎に配置」されているのに対し、引用発明は、当該構成について特定されていない点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点3について 相違点3は、上記第2[理由]2(4)アで検討した相違点1と同一である。したがって、上記「相違点1について」で検討した理由と同様の理由によって、当業者が容易に想到し得たことである。 イ したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献3〜4、6に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-06-29 |
結審通知日 | 2022-07-01 |
審決日 | 2022-07-19 |
出願番号 | P2019-127763 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
P 1 8・ 575- Z (C23C) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
河本 充雄 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 関根 崇 |
発明の名称 | 基板付蒸着マスク |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 宮嶋 学 |
代理人 | 岡村 和郎 |
代理人 | 堀田 幸裕 |