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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1388993
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-10 
確定日 2022-09-26 
事件の表示 特願2017−559379「無線通信システムにおけるコンテンションウィンドウを調整する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月17日国際公開、WO2016/182398、平成30年6月14日国内公表、特表2018−516003、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2016年(平成28年)5月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年5月14日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 2月28日付け 拒絶理由通知書
令和2年 6月 9日 手続補正書、意見書の提出
令和2年 8月 4日付け 拒絶理由通知書(最後)
令和3年 1月12日 手続補正書、意見書の提出
令和3年 4月27日付け 令和3年1月12日にされた手続補正に対す
る補正の却下の決定、拒絶査定
令和3年 9月10日 審判請求書、手続補正書の提出
令和3年10月26日 上申書の提出
令和4年 1月20日 上申書の提出
令和4年 4月14日付け 拒絶理由通知書(当審)
令和4年 7月19日 手続補正書、意見書の提出


第2 原査定の概要

原査定(令和3年4月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(サポート要件)について
・請求項 1−10
請求項1の「前記第1のサブフレームは、前記基地局により最も最近に伝送された連続したフレームのうち、最初のフレームである」なる記載は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
明細書の段落[0130]を参照すれば、第1のサブフレームは、基地局により最近に伝送された連続したフレームのうち、最初のフレームであることが記載されているものの、第1のサブフレームは、基地局により最も最近に伝送された連続したフレームのうち、最初のフレームであることは記載されていない。
請求項1を引用する他の請求項も同様である。
・請求項 6
請求項6の「前記コンテンションウィンドウを所定のコンテンションウィンドウ候補値のうち最小値として設定する」なる記載は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
請求項6は、請求項5を引用したものである。したがって、明細書の段落[0110]を参照すれば、コンテンションウィンドウを最小値に設定することが記載されているものの、NACK信号の比率が所定の比率未満である場合、コンテンションウィンドウを最小値に設定することは記載されていない。
・請求項 8−9
請求項8−9の「カウンタ値」なる記載は、明細書に全く記載されてなく、発明の詳細な説明に記載したものでない。

●理由2(拡大先願)について
請求項1ないし5、7、及び10に対して、先願としてPCT/SE2016/050038号(国際公開第2016/148622号、特表2018−512795号公報)が引用された。


第3 当審拒絶理由の概要

当審における令和4年4月14日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


●理由1(明確性)について
・請求項 1ないし8
(1) 請求項1の第4段落の「前記第1のサブフレームから送信された多数のデータ」(下線は当審で付した。以下同様。)という記載は、同第3段落の「前記第1のサブフレームで送信された複数のデータ」という記載と表現が異なっており、両者が同じデータを意味するのか否か不明確である。
仮に両者が異なるデータを意味するのであれば、どのように異なるか明らかにされたい。
(2) 請求項1の第6段落の「前記第1のサブフレームは、前記基地局により最近に伝送された連続したフレームのうち、最初のフレームであり」という記載は、「サブフレーム」と「フレーム」の関係が整合しておらず、不明確である。
(3) 請求項1の第7段落の「前記NACK信号の比率を判定する過程」という記載は、同第4段落の「前記第1のサブフレームから送信された多数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップ」という記載との関係で、「過程」と「ステップ」とで表現が異なるため、両者が同じステップ(過程)を意味するのか否か、不明確である。また、同第9段落の「前記コンテンションウィンドウを調整または維持する過程」という記載と同第5段落の記載との関係においても同様に、不明確である。
(4) 請求項1の第10ないし第13段落の記載は、下記「ア」ないし「オ」の点が不明であるから、不明確である。
ア 第10ないし第13段落に記載された内容は、「コンテンションウィンドウ」について、単にその「内の任意の値をカウンタ値として設定する」(第10段落)ものに過ぎず、「コンテンションウィンドウを管理する方法」(第1段落)とどのように関係するのか不明である。
イ 第10ないし第13段落に記載された各「ステップ」が、第2ないし第5段落に記載された各ステップとの間で、どのような順序で実行されるのか不明である。
ウ 第10段落に記載された「前記コンテンションウィンドウ」とは、第5段落に記載された「調整または維持するステップ」が実行される前の「コンテンションウィンドウ」と、実行された後の「コンテンションウィンドウ」の、いずれを意味しているのか不明である。
エ 第11段落の「アイドル状態のチャンネルを感知する」という記載は、複数のチャンネルの中からアイドル状態にあるチャンネルを検出することを意味するのか、(1つの)チャンネルがアイドル状態であるかどうか判定することかを意味するのか、他の内容を意味するのか、不明である。
また、第12段落の「前記アイドル状態のチャンネルが感知される」という記載、並びに第13段落の「前記アイドル状態のチャンネルが感知されない」という記載、及び「前記アイドル状態のチャンネルを感知する」という記載についても、同様である。
オ 第12段落の「前記カウンタ値を減少させ、前記カウンタ値に基づいて」という記載における下線部は、減少させる前の「カウンタ値」と減少させた後の「カウンタ値」のいずれを意味しているのか不明である。
・請求項 8
(5) 請求項8の「請求項1及び2乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法のうち少なくとも一つ」という記載は、「及び」があるため請求項1が必須とも読み取れ、その場合には「いずれか1項」という記載との関係が不明確であり、更に、「いずれか1項」と「少なくとも一つ」との記載が両方記載されているためいずれの方法を特定しているのか不明であるから、不明確である。

●理由1(明確性)、理由2(サポート要件)について
・請求項 6ないし8
(6) 請求項6の「前記複数のデータを送信するために使用されるチャンネルが前記感知されたチャンネルと同一であるか、あるいは異なる」という記載について、「前記複数のデータを送信するために使用されるチャンネル」とは、請求項1の第2段落に記載された「第1のサブフレームで複数のデータを送信するステップ」で使用されるチャンネルを意味し、また、「前記感知されたチャンネル」とは、請求項1の第11段落に記載された「第1の区間でアイドル状態のチャンネル」を意味することが明らかである。
そして、請求項6の前記記載は、下記「ア」ないし「ウ」の不備が認められる。
ア 請求項6の前記記載は、「前記複数のデータを送信するために使用されるチャンネルが前記感知されたチャンネルと異なる」ことを含み、これは、アイドル状態として感知されていないチャンネルを使用してデータを送信することを意味するが、そのような構成とすることは、アイドル状態のチャンネルを使用してデータを送信するという技術常識に反し、技術的意義が不明であるから、請求項6の記載は不明確である。(明確性
イ 本願明細書の段落0049には、「アンライセンスバンドを使用しようとする送信器は、上記チャンネル感知動作(またはLBT)を通じて該当チャンネルを使用する他のデバイスが感知されない場合、チャンネルを使用できる」こと、すなわち、アイドル状態のチャンネルを使用して送信を行うことが記載されているといえるが、アイドル状態として感知されていないチャンネルを使用してデータを送信することは、段落0049を含む明細書全体をみても、記載されていない。
そうすると、「前記複数のデータを送信するために使用されるチャンネルが前記感知されたチャンネルと異なる」ことを含む請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。(サポート要件)
ウ 上記(4)「イ」で指摘したとおり、請求項1の第2段落に記載された「データを送信するステップ」と、同11段落に記載された「第1の区間でアイドル状態のチャンネルを感知するステップ」の実行順序は不明であるが、前記「送信するステップ」の後で前記「感知するステップ」が実行される場合、「前記複数のデータを送信するために使用されるチャンネルが前記感知されたチャンネルと同一である」とは、どのような状況を意味するのか不明であるから、請求項6の記載は不明確である。(明確性


第4 本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和4年7月19日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。(下線は請求人が付したものであり補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
無線通信システムにおいて基地局によりコンテンションウィンドウを管理する方法であって、
第1のサブフレームで複数のデータを送信するステップと、
前記第1のサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値を獲得するステップと、
前記第1のサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップと、
前記判定された比率に基づいて前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップと、を有し、
前記第1のサブフレームは、前記基地局により最近に伝送された連続したサブフレームのうち、最初のサブフレームであり、
前記NACK信号の比率を判定するステップは、
前記第1のサブフレームから送信された多数のデータそれぞれに対して受信結果値が検出されていない場合、受信結果値が検出されていないデータに対して前記NACK信号が受信されたと判定し、
前記第1のサブフレームを除いた残りのサブフレームは、前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップに使用されない
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1のサブフレームは、前記基地局で少なくとも一つの受信結果値を利用するように前記複数のデータを送信するサブフレームである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップは、 前記NACK信号の比率が所定の比率以上である場合、前記コンテンションウィンドウを増加させるステップを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コンテンションウィンドウを増加させるステップは、 前記コンテンションウィンドウを所定のコンテンションウィンドウ候補値のうち現在設定されたコンテンションウィンドウ値より大きい値として設定するステップを有する
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップは、 前記NACK信号の比率が所定の比率未満である場合、前記コンテンションウィンドウを初期値に設定するステップを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法を遂行する
ことを特徴とする無線通信システムの基地局。」


第5 先願、及び先願発明

原査定の拒絶の理由に先願1として引用され、本願の国際出願日である2016年(平成28年)5月13日より前の2016年1月22日を国際出願日とし、かつ、本願の優先日である2015年5月14日より前の2015年3月17日を優先日とする外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた、PCT/SE2016/050038号(国際公開第2016/148622号:特願2017−548290号:特表2018−512795号)(優先日:2015年3月17日(アメリカ合衆国)、国際出願日:2016年(平成28年)1月22日、国際公開日:2016年9月22日、出願人:TELEFONAKTIEBOLAGET LM ERICSSON (PUBL)、発明者:CHENG, Jung−Fu、KOORAPATY, Havish、LARSSON, Daniel、FALAHATI, Sorour、KANG, Du Ho、及びMUKHERJEE, Amitav)(以下「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書及び図面(以下「先願明細書等」という。)、並びに優先基礎出願(仮出願番号62/134,340号(アメリカ合衆国))の出願書類(以下「優先基礎出願書類」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。)

(1) 「The third Generation Partnership Project (3GPP) initiative called "License Assisted Access" (LAA) has the purposed to allow Long Term Evolution (LTE) device such as a User Equipment (UE) or a eNB base station to also operate in the unlicensed 5 GHz radio spectrum.」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第1ページ第12ないし15行)
(当審訳: 「ライセンス・アシステッド・アクセス」(LAA)と呼ばれる第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)の発議は、ユーザ端末(UE)又はeNB基地局などのロングタームエボリューション(LTE)機器が非ライセンス5GHz無線スペクトラムにおいても動作可能とすることを目的としている。)

(2) 「As previously described, in LAA systems a sharing of spectrum is performed wherein LTE which operates at a licensed spectrum and WLAN or WiFi operates at an unlicensed spectrum.」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第6ページ第4ないし6行)
(当審訳:先に述べたように、LAAシステムでは、スペクトルの共用が行われ、そこでは、LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作する。)

(3) 「It should be mentioned that when the medium becomes available, multiple WLAN stations may be ready to transmit, which can result in collision. To reduce collisions, stations intending to transmit select a random backoff counter and defer for that number of slot channel idle times. The random backoff counter is selected as a random integer drawn from a uniform distribution over the interval of [0, CW].」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第7ページ第12ないし16行)
(当審訳:媒体が利用可能となる場合、複数のWLANステーションが送信する用意を開始する可能性があり、結果として衝突が生じうることに言及すべきである。衝突を減らすため、送信を意図するステーションは、ランダムバックオフカウンタを選択し、そのスロットチャネルがアイドルの回数だけ保留する。ランダムバックオフカウンタは、[0,CW]の区間にわたる一様分布から引き出されたランダム整数として選択される。)

(4) 「Briefly described, exemplifying embodiments of a first communication device and a method therein for adapting and/or determining a random backoff contention window size in a licensed assisted access system comprising a primary cell and one or more secondary cells are provided.The first communication device maybe a network node e.g. a base station that is serving a secondary cell (SCell) and a PCell or the first communication device may be a user equipment (UE) configured with one primary cell and at least one SCell.」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第13ページ第15ないし21行)
(当審訳:簡潔に説明すると、プライマリセル及び1つ以上のセカンダリセルを含んだライセンス・アシステッド・アクセスシステムにおいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズの適合と決定との少なくともいずれかのための第1の通信機器とそれにおける方法の例示の実施形態を提供する。第1の通信機器は、ネットワークノード、例えばセカンダリセル(SCell)及びPCellを供給する基地局、であってもよいし、第1の通信機器は、1つのプライマリセルと少なくとも1つのSCellとを用いて構成されるユーザ端末(UE)であってもよい。)

(5) 「The embodiments address LBT for data (burst) transmissions that are carried for example on the PDSCH or PUSCH. The receiver(s) of a data transmission is configured to provide HARQ feedback to the transmitter to indicate whether the data has been received successfully (ACK) or not (NACK) according to the LTE specs. The random backoff contention window size, CW, is modified by the transmitter (first communication device) based on the HARQ feedback(s). The modifications are based on all the previously unused HARQ feedback received that is available at the time the LBT operation is performed to access the channel. By the receiver(s) is meant one or more second communication devices that provide HARQ feedback to the transmitter device i.e. the first communication device that transmitted the burst.」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第14ページ第10ないし20行)
(当審訳:実施形態は、例えばPDSCH又はPUSCHで運ばれるデータ(バースト)送信のためのLBTを検討する。データ送信の受信機は、LTE規格に従って、データの受信に成功した(ACK)か否(NACK)かを示すために、送信機へHARQフィードバックを提供するように構成される。ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)は、HARQフィードバックに基づいて、送信機(第1の通信機器)によって修正される。修正は、チャネルにアクセスするためにLBT動作が実行される際に利用可能である、以前に使用されていない受信されたHARQフィードバックの全てに基づく。受信機は、送信機機器、すなわち、バーストを送信した第1の通信機器へHARQフィードバックを提供する1つ以上の第2の通信機器を意味する。)

(6) 「For example, the contention window for the ith LBT operation, CW(i) = f(HARQ ACK/NACK) could be defined as follows:
CW(i) = CWmin, if NACK_ratio < TO
CW(i) = CW(i-1 ) ax , if NACK_ratio ≧ TO
where the multiplicative factor a is 2, NACK_ratio = (number of HARQ NACKs)/(total no. of available unused HARQ feedback values), TO is a threshold that can range from 0 to 1 and x is a function of the NACK_ratio.」(先願明細書等及び優先基礎出願書類の第21ページ第10ないし20行)
(当審訳:例えば、i番目のLBT動作に対するコンテンションウィンドウ、CW(i)=f(HARQ ACK/NACK)が、以下のように定められうる:
CW(i)=CWmin、 NACK_ratio<T0の場合
CW(i)=CW(i-1)×ax、NACK_ratio≧T0の場合
ここで、倍数因子aは2であり、NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)、T0は0から1まで変動可能な閾値であり、xはNACK_ratioの関数である。)

(7) 「

」(先願明細書等及び優先基礎出願書類のFIGURE 10)
(当審訳:HARQフィードバック、サブフレーム番号、図10)

先願明細書等の上記記載、及び移動体通信分野における技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

ア 上記(4)には「ライセンス・アシステッド・アクセスシステムにおいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズの・・・決定・・・のための第1の通信機器とそれにおける方法・・・を提供する。第1の通信機器は、・・・基地局、であってもよい」と記載されており、また上記(1)には、「「ライセンス・アシステッド・アクセス」(LAA)」と記載されているから、先願明細書等には、LAAシステムにおいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズを決定するための基地局における方法が、記載されているといえる。

イ 上記(2)には「LAAシステムでは、・・・LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作する。」と記載されているから、先願明細書等には、LAAシステムでは、LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作することが、記載されている。

ウ 上記(3)には、「衝突を減らすため、送信を意図するステーションは、ランダムバックオフカウンタを選択し、・・・ランダムバックオフカウンタは、[0,CW]の区間にわたる一様分布から引き出されたランダム整数として選択される。」と記載されており、また、上記(5)には「ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)」と記載されているから、先願明細書には、ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)は、送信を意図するステーションが、衝突を減らすため、[0,CW]の区間にわたる一様分布から引き出されたランダム整数としてランダムバックオフカウンタを選択するために使用されることが、記載されているといえる。

エ 上記(5)には「データ(バースト)送信のためのLBTを検討する。データ送信の受信機は、・・・データの受信に成功した(ACK)か否(NACK)かを示すために、送信機へHARQフィードバックを提供するように構成される。・・・受信機は、送信機機器、すなわち、バーストを送信した第1の通信機器へHARQフィードバックを提供する1つ以上の第2の通信機器を意味する。」と記載されており、また、上記(4)には「第1の通信機器は、・・・基地局、であってもよい」と記載されているから、先願明細書等には、データ送信の受信機は、データの受信に成功した(ACK)か否(NACK)かを示すために、データを送信した基地局へHARQフィードバックを提供することが、記載されているといえる。

オ 上記(7)からは、サブフレーム番号3及び4でデータ(バースト)送信が行われ、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値、及びサブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値は、サブフレーム番号10で開始するデータ(バースト)送信に対するLBT手順のためのランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(Out2)を決定するために使用されることが、読み取れる。
したがって、先願明細書等には、サブフレーム番号3及び4でデータ(バースト)送信が行われ、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値、及びサブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値は、サブフレーム番号10で開始するデータ(バースト)送信に対するLBT手順のためのランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(Out2)を決定するために使用されることが、記載されているといえる。

カ 上記(6)には「i番目のLBT動作に対するコンテンションウィンドウ、CW(i)=f(HARQ ACK/NACK)が、以下のように定められうる:CW(i)=CWmin、 NACK_ratio<T0の場合CW(i)=CW(i-1)×ax、NACK_ratio≧T0の場合ここで、・・・NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)・・・である。」と記載されており、また上記(5)には「ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)」と記載されているから、先願明細書等には、NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)を特定し、NACK_ratioの値に応じてi番目のLBT動作に対するランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ、CW(i)=f(HARQ ACK/NACK)を決定することが、記載されている。

以上を総合すると、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「 LAAシステムにおいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズを決定するための基地局における方法であって、
LAAシステムでは、LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作し、
ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)は、送信を意図するステーションが、衝突を減らすため、[0,CW]の区間にわたる一様分布から引き出されたランダム整数としてランダムバックオフカウンタを選択するために使用され
データ送信の受信機は、データの受信に成功した(ACK)か否(NACK)かを示すために、データを送信した基地局へHARQフィードバックを提供し、
サブフレーム番号3及び4でデータ(バースト)送信が行われ、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値、及びサブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値は、サブフレーム番号10で開始するデータ(バースト)送信に対するLBT手順のためのランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(Out2)を決定するために使用され、
NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)を特定し、NACK_ratioの値に応じてi番目のLBT動作に対するランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ、CW(i)=f(HARQ ACK/NACK)を決定する
方法。」


第6 対比及び判断

1 本願発明1について
本願発明1と先願発明を対比する。

(1) 先願発明の「LAAシステム」では、LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作し、ここで、「LTE」及び「WLAN又はWiFi」がいずれも無線通信方式であることは技術常識であるから、先願発明の「LAAシステム」は、本願発明1の「無線通信システム」に含まれるといえる。
また、先願発明の「ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)」は、送信を意図するステーションが、衝突を減らすため、[0,CW]の区間にわたる一様分布から引き出されたランダム整数としてランダムバックオフカウンタを選択するために使用されるものであるから、本願発明1と同様に「コンテンションウィンドウ」に含まれる。
そして一般に、決定することは管理することに含まれる。
したがって、本願発明1の「無線通信システムにおいて基地局によりコンテンションウィンドウを管理する方法」と、先願発明の「LAAシステムにおいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズを決定するための基地局における方法であって、LAAシステムでは、LTEがライセンススペクトルで動作し、WLAN又はWiFiが非ライセンススペクトルで動作」することは、「無線通信システムにおいて基地局によりコンテンションウィンドウを管理する方法」である点で、共通する。

(2) 先願発明は、「サブフレーム番号3で送信された2つのデータ」に対するHARQフィードバック値を使用するものであり、サブフレーム番号3で2つのデータを送信するステップを有することが明らかであるから、本願発明1と先願発明は、1つのサブフレームで複数のデータを送信するステップを有する点で、共通する。

(3) 先願発明の「サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値」は、データ送信の受信機が、データの受信に成功した(ACK)か否(NACK)かを示すために、データを送信した基地局へ提供する値であるから、本願発明1の「前記第1のサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値」と、先願発明の「サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値」は、前記1つのサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値である点で、共通する。
そして、先願発明は、前記「サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値」を基地局が獲得するステップを有することが明らかである。
したがって、本願発明1と先願発明は、「前記1つのサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値を獲得するステップ」を有する点で共通する。

(4) 先願発明の「NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)」について、前記「利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数」は、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値、及びサブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値を含み、また、前記「HARQ NACKの数」は、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値、及びサブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値のうち、データの受信に成功しなかった(NACK)ことを示すHARQフィードバック値の数を含むといえる。
また、先願発明の「(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)」は、「(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)」に対する「(HARQ NACKの数)」の比率を意味することが明らかである。
そうすると、本願発明1の「前記第1のサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率」と、先願発明の「NACK_ratio=(HARQ NACKの数)/(利用可能で使用されていないHARQフィードバック値の総数)」は、「送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率」である点で、共通する。
そして、先願発明において、NACK_ratioを特定することは、NACK_ratioを判定することと言い換えられ、先願発明が当該判定するステップを有することが明らかであるから、本願発明1と先願発明は、「送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップ」を有する点で共通する。

(5) 先願発明は、NACK_ratioを特定し、NACK_ratioの値に応じてi番目のLBT動作に対するランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ、CW(i)=f(HARQ ACK/NACK)を決定するものであり、ここで、特定したNACK_ratioの値に応じてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズを決定することは、特定されたNACK_ratioの値に基づいてランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズを調整または維持することに含まれるといえる。
また、上記(4)で説示したとおり、本願発明1の「前記第1のサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率」と、先願発明の「NACK_ratio」は、「送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率」である点で共通し、先願発明において、NACK_ratioを特定することは、NACK_ratioを判定することと言い換えられる。
さらに、上記(1)で説示したとおり、先願発明の「ランダムバックオフ・コンテンションウィンドウ・サイズ(CW)」は、本願発明1と同様に「コンテンションウィンドウ」に含まれる。
したがって、本願発明1と先願発明は、「前記判定された比率に基づいて前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップ」を有する点で、共通する。

以上のことから、本願発明1と先願発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「 無線通信システムにおいて基地局によりコンテンションウィンドウを管理する方法であって、
1つのサブフレームで複数のデータを送信するステップと、
前記1つのサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値を獲得するステップと、
送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップと、
前記判定された比率に基づいて前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップと、を有する、
方法。」

(相違点)
本願発明1では、「1つのサブフレームで複数のデータを送信するステップ」、及び「前記1つのサブフレームで送信された複数のデータに対応する受信結果値を獲得するステップ」における「1つのサブフレーム」は、「前記基地局により最近に伝送された連続したサブフレームのうち、最初のサブフレームであ」る「第1のサブフレーム」であり、また「送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップ」は、「前記第1のサブフレームで」送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するものであり、さらに「前記NACK信号の比率を判定するステップは、前記第1のサブフレームから送信された多数のデータそれぞれに対して受信結果値が検出されていない場合、受信結果値が検出されていないデータに対して前記NACK信号が受信されたと判定し、前記第1のサブフレームを除いた残りのサブフレームは、前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップに使用されない」という発明特定事項を含むのに対して、先願発明では、連続したサブフレームであるサブフレーム番号3及び4でデータ(バースト)送信が行われ、NACK_ratioを特定するために、サブフレーム番号3で送信された2つのデータに対するHARQフィードバック値のみならず、サブフレーム番号4で送信された1つのデータに対するHARQフィードバック値をも使用するから、「送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するステップ」について、「前記基地局により最近に伝送された連続したサブフレームのうち、最初のサブフレームであ」る「前記第1のサブフレームで」送信された複数のデータに対応する受信結果値に対する否定応答(NACK)信号の比率を判定するものではなく、また「前記第1のサブフレームを除いた残りのサブフレームは、前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップに使用されない」ものでもなく、さらに「前記NACK信号の比率を判定するステップは、前記第1のサブフレームから送信された多数のデータそれぞれに対して受信結果値が検出されていない場合、受信結果値が検出されていないデータに対して前記NACK信号が受信されたと判定」するという発明特定事項が特定されていない点。

したがって、本願発明1と先願発明は上記相違点で相違するから、本願発明1は先願発明と同一でない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むから、本願発明1と同じ理由により、先願発明と同一でない。


第7 原査定についての判断

1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
本件補正後の請求項1第6段落には、「前記第1のサブフレームは、前記基地局により最近に伝送された連続したサブフレームのうち、最初のサブフレームであり、」と記載されており、本件補正後の請求項1ないし6のいずれにも、本件補正前の請求項1ないし10に対する拒絶理由の原因となった「前記基地局により最も最近に伝送された連続したフレーム」という発明特定事項は含まれていない。
また、本件補正後の請求項1ないし6のいずれにも、本件補正前の請求項6に対する拒絶理由の原因となった、「NACK信号の比率が所定の比率未満である場合」に、「コンテンションウィンドウを所定のコンテンションウィンドウ候補値のうち最小値として設定する」という発明特定事項は含まれていない。
さらに、本件補正後の請求項1ないし6のいずれにも、本件補正前の請求項8ないし9に対する拒絶理由の原因となった「カウンタ値」という発明特定事項は含まれていない。

したがって、本願発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 理由2(特許法第29条の2)について
本願発明1ないし6は、上記「第6」の「1 本願発明1について」及び「2 本願発明2ないし6について」で説示したとおり、先願発明と同一でない。

3 まとめ
したがって、原査定の理由1及び2は、いずれも維持することができない。


第8 当審拒絶理由についての判断

1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1) 本件補正により、請求項1第4段落の「前記第1のサブフレームから送信された多数のデータ」という記載は、「前記第1のサブフレームで送信された複数のデータ」(下線は補正箇所を示す。以下同様。)へと補正されたから、当該拒絶理由は解消した。

(2) 本件補正により、請求項1第6段落の「前記第1のサブフレームは、前記基地局により最近に伝送された連続したフレームのうち、最初のフレームであり」という記載は、「前記第1のサブフレームは、前記基地局により最近に伝送された連続したサブフレームのうち、最初のサブフレームであり」へと補正されたから、当該拒絶理由は解消した。

(3) 本件補正により、請求項1第7段落の「前記NACK信号の比率を判定する過程」という記載は、「前記NACK信号の比率を判定するステップ」へと補正され、また、同第9段落の「前記コンテンションウィンドウを調整または維持する過程」という記載は「前記コンテンションウィンドウを調整または維持するステップ」へと補正されたから、当該拒絶理由は解消した。

(4) 本件補正により、本件補正前の請求項1第10ないし13段落の記載は削除されたから、当該拒絶理由は解消した。

(5) 本件補正により、本件補正前の請求項8の「請求項1及び2乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法のうち少なくとも一つ」という記載は、本件補正後の請求項6の「請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法」へと補正されたから、当該拒絶理由は解消した。

2 理由1(特許法第36条第6項第2号)及び理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(6) 本件補正により、本件補正前の請求項6及び7は削除されたから、当該拒絶理由は解消した。


第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-09-13 
出願番号 P2017-559379
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H04W)
P 1 8・ 537- WY (H04W)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 石田 紀之
圓道 浩史
発明の名称 無線通信システムにおけるコンテンションウィンドウを調整する方法及び装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 崔 允辰  
代理人 阿部 達彦  

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