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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G |
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管理番号 | 1389121 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-11-09 |
確定日 | 2022-09-20 |
事件の表示 | 特願2019− 26627「蓄電デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月31日出願公開、特開2020−136436、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成31年2月18日の出願であって、令和3年5月28日付けで拒絶理由が通知され、令和3年7月30日に手続補正がされ、令和3年9月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和3年11月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和3年9月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 「本願の下記の請求項に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1−3,5,6 ・引用文献等 1−3 <引用文献等一覧> 1.特開2018−166060号公報 2.特開2015−079636号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2015−198007号公報(周知技術を示す文献)」 第3 本願発明 本願請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和3年7月30日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。 「【請求項1】 正極と、 芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む負極と、 支持塩として少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含み、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、 前記負極は、ビフェニル骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(1)〜(5)のうち1以上を満たすか、又は、 前記負極は、ナフタレン骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(6)〜(8)のうち1以上を満たす、蓄電デバイス。 (1)蓄電デバイス用電極をX線回折測定したときの(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示す。 (2)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示す。 (3)前記X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示す。 (4)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示す。 (5)前記X線回折測定での(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す。 (6)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(002)のピーク強度比P(002)/P(011)が0.25以上を示す。 (7)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(102)のピーク強度比P(102)/P(011)が0.50以上を示す。 (8)X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(112)のピーク強度比P(112)/P(011)が0.60以上を示す。 【請求項2】 前記イオン伝導媒体は、前記支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液であり、前記LiFSIが0.5mol/L以上2.0mol/L以下の濃度で含有する、請求項1に記載の蓄電デバイス。 【請求項3】 前記負極は、式(1)〜(3)のうち1以上で表される構造を有する前記層状構造体を含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。 【化1】 【請求項4】 前記負極は、ナフタレン骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(9)〜(13)のうち1以上を満たす、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。 (9)X線回折測定での(002)面の面間隔が0.42400nm以上0.42700nm以下の範囲である。 (10)X線回折測定での(102)面の面間隔が0.37000nm以上0.37350nm以下の範囲である。 (11)X線回折測定での(112)面の面間隔が0.30400nm以上0.30600nm以下の範囲である。 (12)X線回折測定での(211)面の面間隔が0.32250nm以上0.32520nm以下の範囲である。 (13)X線回折測定での(200)面の面間隔が0.50500nm以上0.50900nm以下の範囲である。 【請求項5】 前記負極は、リチウム、ナトリウム及びカリウムのうち1以上を有する前記アルカリ金属元素層を備える前記層状構造体を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。 【請求項6】 前記負極は、前記負極活物質と導電材と水溶性ポリマーとを負極合材として含み、前記負極合材の全体のうち前記水溶性ポリマーとしてのカルボキシメチルセルロースを1.5質量%以上3.5質量%以下の範囲で含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。」 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本明細書で開示する発明は、電極活物質、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び電極活物質の製造方法に関する。」 「【0006】 上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を噴霧乾燥して作製するものとすると、電極抵抗をより低減し、放電容量をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。」 「【0018】 この層状構造体において、有機骨格層は、2以上の芳香環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。」 「【0019】 ・・・(省略)・・・この層状構造体は、例えば、2、6−ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4、4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩及びテレフタル酸アルカリ金属塩のうち1以上が好ましい。」 「【0022】 析出工程では、調製溶液を噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥することにより、層状構造体の剥片の集合を内包して形成される中空球状構造を有する電極活物質を析出させる。この層状構造体は、上記電極活物質で説明したものであり、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えるものである。」 「【0025】 (蓄電デバイス) この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、キャリアイオンを吸蔵放出する正極活物質を含むものとしてもよい。負極は、キャリアである金属イオンを吸蔵放出する上述した層状構造体の電極活物質を含む蓄電デバイス用電極であるものとしてもよい。また、イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在しキャリアイオン(カチオン及びアニオン)を伝導するものである。」 「【0029】 この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。」 「【0035】 [実施例1] (電極活物質:4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成) ・・・(省略)・・・4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを合成した。 【0036】 (電極:4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製) ・・・(省略)・・・ 【0037】 (蓄電デバイス:二極式評価セルの作製) エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質の六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にて作製した4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。 【0038】 [実施例2] スプレードライヤーにて4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した後に、120℃で真空乾燥を行った以外は,実施例1と同じものを実施例2とした。 【0039】 [実施例3、4] 4,4’−ビフェニルジカルボン酸に対する水酸化リチウムのモル比を2.5として水溶液を調製し,スプレードライヤーにて合成した以外は,実施例1と同じものを実施例3とした。また、スプレードライヤーにて4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを合成した後に、120℃で真空乾燥を行った以外は実施例3と同じものを実施例4とした。」 「【0053】 …(省略)…表2には、比較例1、実施例1〜4のピーク強度比とIV抵抗値とをまとめて示した。図14〜16に示すように、各ピーク強度比は、大きくなるほどIV抵抗が低くなる傾向を示した。また、ピーク強度比P(300)/P(111)やピーク強度比P(300)/P(011)は、2.0以上を示すことが好ましいことがわかった。また、ピーク強度比P(100)/P(111)は6.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(011)は5.0以上を示すことが好ましいことがわかった。また、ピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示すことが好ましいことがわかった。図17に示すように、(100)、(300)は、層状構造体のアルカリ金属元素層の結晶面を反映したものであり、(011)、(111)は、有機骨格層の結晶面を反映したものである。したがって、この電極では、アルカリ金属元素層の結晶面のピーク強度がより高いことが、IV抵抗をより低減するなど、電池特性をより向上するのに好ましいことがわかった。 「【0054】 」 (2)引用文献1に記載され技術事項 ア 段落【0001】より、引用文献1は、「蓄電デバイス」に関するものであることがわかる。 イ 段落【0025】より、「蓄電デバイスは」、「正極と、負極活物質を有する負極と、イオン伝導媒体とを備え」、「負極は」、「層状構造体の電極活物質を含む」との技術事項を読み取ることができる。 ウ 段落【0018】、【0019】及び【0022】より、「層状構造体は、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備え」、「有機骨格層は、ビフェニル」「として」「よく」、「4、4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩」「が好ましい」との技術事項を読み取ることができる。 エ 段落【0029】より、「蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は」、「支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含」み、「支持塩としては」、「キャリアをリチウムイオンとした場合」、「公知のリチウム塩を含むものとしてもよい」との技術事項を読み取ることができる。 オ 段落【0035】ないし【0039】より、実施例1ないし実施例4は「作用極」(リチウム金属箔を対極としているから、負極)の「電極活物質」として「4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体」を用いているものであるから、段落【0053】及び【表2】に記載された実施例1ないし4の電極の「XRDピーク強度比」は、「負極」の「電極活物質」として「4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体」を用いた場合の「XRDピーク強度比」であり、当該「XRDピーク強度比」が、「ピーク強度比P(300)/P(111)やピーク強度比P(300)/P(011)は、2.0以上を示」し、「ピーク強度比P(100)/P(111)は6.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(011)は5.0以上を示」し、「ピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す」との技術事項を読み取ることができる。 (3)引用文献1に記載された発明について 上記(2)アないしオより、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる(下線は、当審で付与した。)。 「蓄電デバイスであって、 蓄電デバイスは、正極と、負極活物質を有する負極と、イオン伝導媒体とを備え、負極は、層状構造体の電極活物質を含み、 層状構造体は、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備え、有機骨格層は、ビフェニルとしてよく、4、4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩が好ましく、 イオン伝導媒体は、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含み、支持塩としては、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよく、 負極の電極活物質として4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体を用いた場合のXRDピーク強度比が、ピーク強度比P(300)/P(111)やピーク強度比P(300)/P(011)は、2.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(111)は6.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(011)は5.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す、 蓄電デバイス。」 2.引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明はリチウムイオン二次電池に関する。」 「【0010】 1.電解質 本発明のリチウムイオン二次電池は、電解液中、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSI)を0.7〜4mol/L含有する。・・・(省略)・・・ 【0011】 また、LiFSIは、電池駆動時に正極および/または負極と反応して、電極表面上に被膜を形成する。この被膜は、電解液分解抑制効果を有しており、これにより、電解液の性能を損なうことなく安定した容量維持作用(サイクル特性)が発揮される。」 「【0047】 実験例1(負極ハーフセルのサイクル特性評価) [電解液の調製] 実施例1では、露点−55℃以下のドライルームで、エチレンカーボネート(EC、環状カーボネート)とジメチルカーボネート(DMC、鎖状カーボネート)とを1:9(体積比)で混合し、続いて露点−80℃以下のアルゴングローブボックス内で得られた混合溶媒に、LiFSIを1M/L(mol/Lの意味;以下同様)となるように溶解させ、電解液(1)とした。実施例2では、実施例1と同様にして、フルオロエチレンカーボネート(FEC、環状カーボネート)とDMCとを1:9(体積比)で混合した非水溶媒に、LiFSIを1M/Lとなるように溶解させ、電解液(2)とした。 比較例1では、ECとDMCとを1:1(体積比)で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)が1M/L含まれている市販の電解液(キシダ化学株式会社製)を電解液(3)とした。なお、比較例1では、ECを少なくすると電池性能が出ないため、ECとDMCとを1:1(体積比)で用いた。比較例2では、DMCにLiFSIを1M/Lとなるように溶解させ、電解液(4)とした。」 「【0077】 本発明のリチウム二次電池は、ハイレート特性、サイクル特性に優れているので、各種用途に有用である。」 (2)引用文献2に記載された技術 したがって、上記引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。 「リチウムイオン二次電池の電解液中に、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSI)を含有させ、ハイレート特性、サイクル特性を優れたものとする技術。」 3 引用文献3 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は、非水系二次電池用電極及び非水系二次電池に関する。」 「【0020】 水溶性ポリマーは、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうちの少なくとも一方である。水溶性ポリマーは、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める結着材としての役割を果たす。カルボキシメチルセルロースは、例えば、カルボキシメチル基の末端がナトリウムやカルシウムなどである無機塩としてもよいし、カルボキシメチル基の末端がアンモニウムであるアンモニウム塩としてもよい。」 (2)引用文献3に記載された技術 よって、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。 「非水系二次電池用電極において、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める結着材としての役割を果たす水溶性ポリマーを、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうちの少なくとも一方とする技術。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について1 (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明1における「正極」、「負極活物質を有する負極」及び「イオン伝導媒体」が、それぞれ、本願発明1における「正極」、「負極活物質」を「含む負極」、及び「イオン伝導媒体」に相当する。 イ (負極について) 引用発明1における「負極は、層状構造体の電極活物質を含み、層状構造体は、芳香族骨格を有するジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備え、有機骨格層は、ビフェニルとしてよく、4、4’−ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩」であることが、本願発明1における「芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む負極」であって「前記負極は、ビフェニル骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含」むことに相当する。 ウ (イオン伝導媒体について) 蓄電デバイスにおけるイオン伝導媒体が、正極と前記負極との間に介在していることは技術常識であるから、引用発明1における「イオン伝導媒体は、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含み、支持塩としては、キャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものと」することと、本願発明1における「支持塩として少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含み、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体」とは、「支持塩を含み、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体」の点で一致する。 しかしながら、本願発明1では、支持塩として「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」むのに対し、引用発明1では、支持塩は「公知のリチウム塩を含む」とされているものの、「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」むことは特定されていない点で相違する。 エ 引用発明1における「負極の電極活物質として4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体を用いた場合のXRDピーク強度比が、ピーク強度比P(300)/P(111)やピーク強度比P(300)/P(011)は、2.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(111)は6.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(011)は5.0以上を示し、ピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す」ことは、本願発明1における「前記負極は、ビフェニル骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(1)〜(5)のうち1以上を満た」し、「(1)蓄電デバイス用電極をX線回折測定したときの(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示す。 (2)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示す。 (3)前記X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示す。 (4)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示す。 (5)前記X線回折測定での(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す。」との要件を満足している。 オ 引用発明1における「蓄電デバイス」が、本願発明1における「蓄電デバイス」に相当する。 よって、上記アないしオより、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「正極と、 芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む負極と、 支持塩を含み、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、 前記負極は、ビフェニル骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(1)〜(5)のうち1以上を満たす、蓄電デバイス。 (1)蓄電デバイス用電極をX線回折測定したときの(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示す。 (2)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示す。 (3)前記X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示す。 (4)前記X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示す。 (5)前記X線回折測定での(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示す。」 (相違点) 本願発明1では、支持塩として「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」むのに対し、引用発明1では、支持塩は「公知のリチウム塩を含む」とされているものの、「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」むことは特定されていない点。 (2)相違点についての判断 そこで上記相違点について検討すると、引用文献2には「リチウムイオン二次電池の電解液中に、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSI)を含有させ、ハイレート特性、サイクル特性を優れたものとする技術」が記載されている。 しかしながら、引用文献1の記載をみても、引用発明1における「ハイレート特性、サイクル特性」を改善しなければならない特段の理由を見出すことはできないから、引用発明1において「ハイレート特性、サイクル特性を優れたものとする」との新たな課題を設定すること、そして、そのための数多くの解決手段の中から特に引用文献2に記載された技術に思い至り、引用発明1に示された「公知のリチウム塩」として、引用文献1の段落【0029】に列挙された「LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2など」ではなく、特に引用文献2に記載された技術における「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSI)」を採用することは、当業者であっても、極めて困難なことである。 また、引用文献3に記載された技術には、「支持塩」として「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」ようにすることは何ら示されていない。 したがって、上記相違点は当業者であっても、容易になし得たことではない。 (3)まとめ よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2ないし6について 本願発明2ないし6に係る請求項2ないし6は、請求項1を引用しているから、本願発明1と同じく、支持塩として「少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含」む構成を備えるものである。 よって、本願発明2ないし6は、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 拒絶査定では、「『公知のリチウム塩』として出願時において公知のリチウム塩であるLiFSIを採用することは当業者が容易になし得たことと認められる。」、「また、引用文献1に記載の発明において、リチウム塩としてLiFSIを採用することを阻害する要因はない。」としている。 しかし、特定の作用効果を得るには、組み合わせに阻害要因がない材料同士の多数の組み合わせによる過度の試行錯誤を要するものと認められ、公知のリチウム塩の中から、特定の負極材料と組み合わせることで「IV抵抗」を低下し得る特定のリチウム塩として「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)」を見つけ出すことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 よって、原査定の理由は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし6は、当業者が引用発明1及び引用文献2、引用文献3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-09-06 |
出願番号 | P2019-026627 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01G)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
清水 稔 須原 宏光 |
発明の名称 | 蓄電デバイス |
代理人 | 特許業務法人アイテック国際特許事務所 |