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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A23L
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  A23L
審判 全部無効 特39条先願  A23L
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1389237
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-05-17 
確定日 2022-06-12 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第6554730号発明「ビフィドバクテリウム・ロンガム及び海馬BDNF発現」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6554730号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−12〕について訂正することを認める。 特許第6554730号の請求項1−11についての本件審判の請求は、成り立たない。 特許第6554730号の請求項12についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6554730号(以下「本件特許」という。)は、2009年4月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年4月15日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2011−504422号(以下「原々出願」という。)の一部を、平成26年11月14日に新たな特許出願とした特願2014−231568号の一部を、平成29年3月15日に新たな特許出願(特願2017−49909号)としたものであり、その特許権について、令和1年7月19日に設定登録を受けた(請求項の数12。特許権者:ソシエテ・デ・ブロデュイ・ネスレ・エス・アー(以下、「被請求人」という。))。
その後、本件の特許請求の範囲の請求項1〜12に係る発明についての特許を無効とすることについて、令和3年5月17日に森永乳業株式会社(以下「請求人」という。)から、本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和3年 5月17日 審判請求書・甲第1〜28号証(枝番を含む
)提出
令和3年11月 1日 審判事件答弁書・乙第1〜10号証・訂正請
求書提出
令和3年11月11日 上申書1(請求人)提出(上申書1は計画対
話審理を希望することを上申するもの)
令和3年12月 9日 上申書2(被請求人)提出(上申書2は乙第
1〜7、10号証について関連箇所を明確に
し、乙第1〜7号証の抄訳を提出するもの)
令和4年 1月 7日付け 審理事項通知
令和4年 1月14日 上申書3(被請求人)提出(上申書3は審理
事項通知に対して回答するもの)
令和4年 1月17日 上申書4(請求人)提出(上申書4は審理事
項通知に対して回答し、甲第24号証抄訳を
提出するもの)
令和4年 2月 4日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
令和4年 2月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)・甲第7号証
抄訳、甲第29号証提出
令和4年 2月18日 上申書5(請求人)提出(審判請求書及び上
申書4の主張に対応して甲第30〜33号証
を提出するもの)
令和4年 2月28日 第1回口頭審理

上記において、上申書を提出順に「上申書1」などとした。以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などともいう。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
被請求人は、令和3年11月1日に訂正請求書を提出して、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜12について請求項ごとに訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
その訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む」を、「有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載された「不安及び/又は不安関連障害」を、「不安障害」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に記載された「食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、飲料、及び/又は医療用組成物である」を、「食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、及び/又は飲料である」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(5)訂正事項5
明細書の【0068】に記載された「L.ラムノサスで処理した上にB.ロンガムで処理をすると、」を「B.ロンガムでの処理がL.ラムノサスでの処理と同様に、」と訂正する。

2 訂正の適否についての検討
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜12は、請求項2〜12が請求項1の記載を引用する関係にあるので、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項に該当するものであるところ、本件訂正の請求は、当該一群の請求項である請求項1〜12についてされているから、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1における「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」について、「有効成分として」含むことを特定し、成分含有の意味を限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無について
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、請求項1における「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」について、「有効成分として」含むことを特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加の有無について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0012】には、「しかしながら本発明者らは、不安、不安関連障害及び/又は神経変性障害の、治療及び/又は予防における有効性は、用いる細菌の属、種及び株によって異なることを見出した。」との記載が、【0015】には、「したがって本発明の一実施形態は、ビフィドバクテリウム・ロンガム、特にビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む食用組成物である。」との記載が、【0018】には、「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が特に有効であることがわかった。」との記載があるから、「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」が食用組成物における有効成分であることが明らかであり、これらの記載に基づけば、請求項1に係る食用組成物に含まれる「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」が「有効成分」であるといえる。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項1に記載された「不安及び/又は不安関連障害」を「不安障害」と訂正するものである。
本件特許明細書等には「【背景技術】
【0002】
18歳以上のアメリカ人の成人約4千万人が不安障害に冒されている。これは平均すると成人人口の約18%を意味している。短期間の不安は、例えば試験又は少し恥ずかしいと思われる状況等のストレスのたまる出来事によって生じる場合がある。しかしながら不安は、ずっと長く、例えば半年以上続くこともあり、治療しなければ、この不安状態が続いてより重症になり精神障害(crippling)になる可能性がある。不安障害は、アルコール乱用や薬物乱用等の、他の精神疾患又は身体的疾患と一緒に生じることもある。代表的な不安障害は、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖症(即ち社会不安障害)、特定恐怖症及び全般性不安障害(GAD)である。
【0003】
現在利用できる不安関連障害の治療法はいくつかある。一般的には、不安障害は抗うつ薬、抗不安薬又はβ遮断薬等の薬物で治療する。
【0004】
これらの薬物は脳内の化学反応を変化させ、また時には激しい副作用がある。またこれらの薬物は、摂取頻度の高い薬物と望ましくない相互作用を有することもある。
・・・
【0009】
β遮断薬は、特定の不安障害、特に社会恐怖症に伴う身体症状を予防することができる。
【0010】
この薬物はすべて、望まれない副作用を生じることがある。重症度の差はあるが、多くの人々が不安関連障害に冒されているという事実を踏まえると、副作用のリスクがなく安全に投与できる組成物が利用可能であることが望ましい。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら本発明者らは、不安、不安関連障害及び/又は神経変性障害の、治療及び/又は予防における有効性は、用いる細菌の属、種及び株によって異なることを見出した。
【0013】
したがって、最新の技術水準を向上させること、及び特に、不安、不安関連障害又は神経変性障害等の、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすことが本発明の目的であった。」との記載がある。
したがって、本件特許明細書等には、訂正前に存在していた不安関連障害と併記して説明された箇所が存在するものの、背景技術として不安障害が記載され、不安障害は、不安状態が続いてより重症になった精神障害であり、また、不安障害の薬物治療について記載される一方で、発明が解決しようとする課題として、不安、不安関連障害又は神経変性障害等の、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすことが記載されているといえる。

そうすると、本件特許明細書等には、背景技術として、不安を伴いかつ不安により生じ、治療対象となる精神障害として不安障害が記載され、課題の一つとして挙げられている副作用がないとは、背景技術で挙げられた薬物治療において見られる副作用がないことであるといえ、さらに、本件請求項に係る発明は、抗うつ薬、抗不安薬、β遮断薬等の薬物にかえて細菌を用いたことにより該課題を解決したものであると理解できる。
一方で、「不安」について、甲11には、「安心のできないこと。気がかりなさま。心配。不安心。」と、甲12には、「安心できないこと.精神医学では特定の対象を恐れることを恐怖phobiaと呼ぶのに対して,はっきりとした対象がなく漠然と安心できない心の状態を不安と呼んで区別している.人間が不安を感じることそれ自体は決して病的ではない.」と記載されているところ、訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「不安・・・の治療又は予防のための」と記載があり、病的ではないものを含む「不安」の「治療」との記載は明瞭でない記載であるといえる。
してみると、訂正事項2は、「治療」との語の関係で不明瞭であった「不安」との事項を、精神障害であり治療の対象となるといえ、さらに背景技術との関係で訂正前の請求項1に係る発明の課題解決の対象疾患として想定し、訂正前の請求項1に係る発明の対象疾患であるといえる「不安障害」とすることで本来の意味に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、治療及び/又は予防の対象であった「不安関連障害」を削除することにより、治療及び/又は予防の対象の一つを削除するものでもあるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無について
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明の対象疾患であったといえる不安障害に訂正して明確にするとともに、不安関連障害を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加の有無について
上記アで述べたとおりであるから、本件特許明細書等には治療及び/又は予防の対象として「不安障害」が記載されているといえ、訂正事項2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、訂正事項2は、治療及び/又は予防の対象である「不安関連障害」を削除するものに過ぎない。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項2に記載された「食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、飲料、及び/又は医療用組成物」について、「医療用組成物」を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(なお、訂正請求書6頁下から7行の「訂正事項2」は「訂正事項3の誤記と認める。)。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
上記アで述べたとおり、訂正事項3は、請求項2に記載された組成物のうち、医療用組成物を削除するに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項及び第5項の規定に適合する。

(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項12を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
上記アで述べたとおり、訂正事項4は、請求項12を削除するものに過ぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項及び第5項の規定に適合する。

(6)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5について、本件特許に係る出願は特許法第36条の2第2項に規定する外国語書面出願であるところ、訂正事項5に係る本件特許明細書等の【0068】の「L.ラムノサスで処理した上にB.ロンガムで処理をすると」との記載は、外国語書面においては、その対応する箇所(12頁23行)に、「treatment with B. longum as well as with L. rhamnosus」と記載され、その日本語訳は正しくは「B.ロンガムでの処理がL.ラムノサスでの処理と同様に」である。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無、新規事項の追加の有無について
上記アで述べたとおり、訂正事項5は、本件特許明細書等の【0068】における誤訳を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、外国語書面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項及び第5項の規定に適合する。

ウ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項5は、誤記又は誤訳を訂正することを目的とするものであり、これは一群の請求項1〜12に関係する訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜12についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、同項ただし書2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正、又は同項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜12について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で示したとおり、請求項1〜12についての本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1〜11に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される、以下のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、併せて「本件発明」ということがある。)である。
「【請求項1】
有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、不安障害の治療又は予防のための食用組成物。
【請求項2】
食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、及び/又は飲料である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、少なくとも1種の他の種類の他の食品用微生物を追加的に含み、食品用微生物が、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオニバクテリア又はそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
プレバイオティクスが、オリゴ糖類からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
オリゴ糖類が、フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/若しくはイヌリン、食物繊維、又はそれらの混合物を含有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きていない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
日用量当たり、104〜1010のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の非複製細胞を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の乾燥重量1グラム当たり、102〜108のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の非複製細胞を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
海馬BDNF発現を増加させるための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
(削除)」

第4 請求人の請求の趣旨、主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 請求人の請求の趣旨、主張する無効理由の概要
請求人の請求の趣旨は、「特許第6554730号発明の特許請求の範囲の請求項1〜請求項12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であり、審判請求書、上申書4、口頭審理陳述要領書、上申書5において、以下の無効理由1〜6を主張している(口頭審理調書も参照。)。

(1)無効理由1(明確性
請求項1〜12について、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。


請求項1には「不安」及び「不安関連障害」との記載があるが、これらの用語の技術的意味が明確ではないから請求項の記載自体が不明確であり、また、これらの用語は範囲を曖昧にし得る表現である結果、発明の範囲が不明確である。

(2)無効理由2(実施可能要件
請求項1〜12について、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。


本件特許明細書に記載された実施例は、本件特許発明の効果を示しておらず、むしろ、本件特許の発明者らによって明らかにされた事実によれば、本件特許発明の食用組成物は、ヒトの不安及び/又は不安関連障害を治療又は予防する効果はないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(3)無効理由3(サポート要件)
請求項1〜12について、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。


本件特許明細書に記載された実施例は、本件特許発明の効果を示しておらず、むしろ、本件特許の発明者らによって明らかにされた事実によれば、本件特許発明の食用組成物は、ヒトの不安及び/又は不安関連障害を治療又は予防する効果はなく、請求項に係る発明の範囲にまで、本件特許発明の課題を当業者が解決できると認識できるとはいえないから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

(4)無効理由4(新規性
本件の請求項1、2、4、5、7、8、12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(5)無効理由5(進歩性
本件の請求項1〜12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1〜8号証、甲第27、28号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

(6)無効理由6(同日出願)
本件の請求項2に係る発明は、同日出願された甲第25号証に係る出願の発明と同一と認められ、かつ、当該出願に係る発明は特許されており協議を行うことができず、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る発明の特許は、同法第39条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

2 請求人が提出した証拠方法
証拠方法として、以下の証拠が提出されている。
甲1:The American Journal of Chinese Medicine、2004年、第32巻、第5号、pp.755〜770
甲2:日本乳酸菌学会誌、第18巻、第1号、pp.31〜36及び対応するインターネットのウェブサイトのプリントアウト
甲3:特表2006−525313号公報
甲4:J.Physiol.、2004年、第558.1巻、pp.263〜275
甲5:Nature Neuroscience、2007年9月(オンライン公開2007年8月)、第10巻、第9号、pp.1089〜1093
甲6:PNAS、2006年8月、第103巻、第35号、pp.13208〜13213
甲7:国際公開第2007/093619号
甲8:特開2003−252771号公報
甲9:Gastroenterology、2010年12月、第139巻、第6号、pp.2102〜2112及び表紙
甲10:Gastroenterology、2017年8月、第153巻、第2号、pp.448〜459及び表紙
甲11:新村出編、広辞苑第六版、株式会社岩波書店、2008年1月11日 第六版第一刷発行、p.2417
甲12:医学大辞典、株式会社南山堂、1991年3月25日、第17版2刷発行、p.1672
甲13−1:JAOA、2004年3月、第104巻、第3号、追補(Supplement)3、pp.S2−S5
甲13−2:Journal of the American Osteopathic Association set to relaunch with a new name and format、インターネットのウェブサイトのプリントアウト、URL:https://osteopathic.org/2020/12/07/journal-of-the-american-osteopathic-association-set-to-relaunch-with-a-new-name-and-format/
甲14:特表2007−536931号公報抜粋(pp.1、97)
甲15:欧州特許第3072398号公報
甲16:欧州特許第3072398号に対する異議申立手続において特許権者が提出した答弁書
甲17:特願2011−504422の国内移行当初の請求の範囲を表示するインターネットのJ−PlatPatにおける経過情報照会のプリントアウト
甲18:特表2007−525415号公報
甲19:欧州特許第3072398号に対する異議申立手続において提出された大草敏史博士の宣誓書本文
甲20:日薬理誌(日本薬理学雑誌)、2002年、第120巻、pp.173〜180及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト
甲21:脳と精神の医学、2009年、第20巻、第3号、pp.229〜235及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト
甲22:欧州特許公開第2291089号公報及びその公開日を示すウェブサイトのプリントアウト
甲23:欧州特許第3398446号公報
甲24:欧州特許第3398446号の特許異議申立において提出されたマシアス・シュミット博士の宣誓書本文及び宣誓書に添付された履歴書
甲25:特許第5964586号公報
甲26:International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、2002年、第52巻、pp.1945〜1951及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト
甲27:J Epidemiol Community Health、2001年、第55巻、pp.716〜720及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト
甲28:特開平8−205857号公報
甲29:Neuroscience and Biobehavioral Reviews、2004年、28、pp.273〜283
甲30:Behavioural Brain Research、2007年、179、pp.1〜18
甲31:Drug Discovery Today:Disease Models、2006年、第3巻、第4号、pp.369〜374
甲32:British Journal of Pharmacology、2011年、164、pp.1129〜1161
甲33:Behavioural Brain Research、2018年、352、pp.81〜93、オンライン公開2017年10月16日

第5 被請求人の答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法

1 被請求人の答弁書趣旨及びその主張の概要
被請求人の答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であり、審判事件答弁書、上申書2及び3、口頭審理陳述要領書において、請求人が主張する無効理由1〜6のいずれにも理由がない旨の反論をしている(口頭審理調書も参照。)。

2 被請求人が提出した証拠方法
証拠方法として、以下の証拠が提出されている。
乙1:The EMBO Journal、(2001)、Vol.20、No.21、pp.5887〜5897
乙2:Molecular Psychiatry、(2002)、7、pp.S29〜S34
乙3:Neuropsychopharmacology、(2002)、Vol.27、No.2、pp.133〜142
乙4:Biol.Psychiatry、(2005)、57,pp.1068〜1072
乙5:Frontiers in Integrative Neuroscience、29 July 2013、Volume 7、Article 55、pp.1〜11
乙6:欧州特許EP2289527に対する異議申立手続において提出されたPremysl Bercik教授の宣言書本文
乙7:J Neural Transm、(2006)、DOI 10.1007/s00702−006−0548−9
乙8:Clinical Microbiology and Infection、(2005)、Vol.11、No.12、pp.958〜966
乙9:欧州特許第2289527号公報
乙10:特表2013−503130号公報

第6 当審の判断
当審は、無効理由1〜6はいずれも理由がない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 甲各号証の記載事項
甲1〜33(枝番を含む)には、以下の記載がある。

(1)甲1(The American Journal of Chinese Medicine、2004年、第32巻、第5号、pp.755〜770)(訳文で示す。)。
甲1−1)「EH0202は、ハーブとある一種の選抜されたビフィドバクテリウム・ロンガムとの混合物である。このハーブ混合物は、インターフェロン(IFN)誘導作用を有する4種の異なるハーブの独自のブレンドである。免疫を強化するこの植物抽出物の独自のブレンドの開発は、200の中国の薬草からマクロファージ活性化による免疫刺激活性によってインターフェロン誘導効果を有する薬草をスクリーニングした小島の研究(1981年)に基づくものである。このマクロファージを活性化する漢方(MACH)の特定の混合物は有益な作用、例えば動物においてマクロファージの貪食能を促進などの作用を持つ(Toriumi et al., 2000; Yoshida et al., 2000; Takeishi et al., 2000; Chansue et al., 2000; Ponpornpisit et al., 2001)。さらにこれに加えてビフィドバクテリウム・ロンガムBB536とラクツロース(ミルクオリゴ糖)(森永乳業社製)とがプロバイオティクスおよびプレバイオティクスとして投与された。今日まで、IFN誘導物質を研究した者はほんのわずかであり、その重要性は認識されていない。精製されたIFNは、癌やウイルス性肝炎の治療に用いられてきたが、高価であり副作用を起こす。IFN誘導物質は体内で必要量のIFNを誘導すると考えられている。それらは高価ではなく毎日摂取することが可能で副作用もなく、日常的に容易に摂取できる。したがって、IFN誘導物質は幅広いアプリケーションの可能性がある。本報告でのEH0202との表示は、4種のハーブ(カボチャ種子、オオバコ種子、ベニバナの花、スイカズラの花)を、最大のマクロファージ活性化を得るために一定の割合で混合した混合物を示す。
我々は、日本の伝統的ハーブのサプリメントの一つであるEH0202が、閉経前後の女性の更年期症状および身体的症状に与える効果を検証した。」(757頁下から第22行〜末行)

甲1−2)「患者
閉経後の症状(例えば、血管運動症状)を示した閉経後の女性32人(年齢53.0±5.1歳、48〜66歳)を、書面によるインフォームドコンセントに基づいて本試験に登録した。更年期症状は以下の基準で状態を定義した。更年期の、血清中の卵胞刺激ホルモン値(FSH、30 mIU/ml以上)、黄体形成ホルモン値(LH、15 mIU/ml以上)、エストラジオール値 25pg/ml以下、の検出;更年期の身体症状と急性エストロゲン欠乏の兆候、及び精神症状;Greene climacteric scale(Greene, 1998)で、精神症状と身体症状がスコア13以上。Greene climacteric scaleから次の基準を使用して、ほてりの重症度を採点した。: 軽症 = > 1日3回、中等度 = > 1日5回、重症 = > 1日8回。」(第758頁2〜12行)

甲1−3)「ハーブの調製
本研究では、市販されている日本の伝統的ハーブサプリメント「InterPunch」(サンウェル社製)を使用した。ハーブ活性成分はカボチャ種子、オオバコ種子、ベニバナの花、スイカズラの花の独自のブレンドである。秤量した混合物を1:10 w/vで水に添加した。混合物を95 ± 5°C で30分間加熱し、次いで冷却し、さらに抽出物を金属フィルターを用いて遠心分離し、さらに濃縮した。この濃縮した抽出物に、ラクツロース、マルチトール、ラクトース、スターチを含む賦形剤および香料を添加混合し、細かい粒子に粉砕した(顆粒サイズ:0.1-0.2 mm)。最後に、この顆粒とビフィドバクテリウム・ロンガム(森永乳業社製)を混合してEH0202と称する化合物を調製した。」(758頁16行〜759頁2行、ただし、途中のTable 1を除く。)

甲1−4)「実験手順
32人の患者に、6か月間、毎日6gの用量でEH0202を投与した(2gのEH0202オリジナルの乾燥粉末から得られる顆粒6gを1日あたり4×1.5gのパッケージで、1日2回朝夕に3gずつ経口摂取した。)。ハーブ抽出物製剤が日本の臨床現場で使用される場合、それらの1日量は典型的には6または7.5g(1.75-6gのハーブを含む)である。したがって、本研究では、各製剤を1日に6g(ハーブ2g含有)の量で投与した。本研究では、1日に2回の投与量が与えられた。なぜなら、ハーブ抽出物は、臨床的に1日2〜3回投与されることが多いからである。EH0202は、水中の粉末懸濁液として経口的に摂取した。全体の症状の改善は、被験者の健康状態の主観評価を記録する視覚的アナログスケール(VAS)とGreene Climacteric Scaleで評価した。VASは個々の健康状態の主観的尺度であり、最悪の状態に対する現在の健康状態の相対パーセントで評価される(スコア0=完全に健康、100=最大に苦しい状態)。本スケールは説明しにくい痛みなど、客観評価が難しい症状の重篤度の評価に用いられ、主観的症状の緩和の評価に適する。このGreene Climacteric ScaleはオリジナルのGreene scaleの修正版として開発され、1970年代以降世界中で使用されている(Greene, 1976; Indira and Murthy, 1980; Kaufert and Syrotuik, 1981; Mikkelsen and Holte, 1982; Abe et al., 1984; Hunter et al., 1986; Holte and Mikkelsen, 1991)。オリジナルのGreene scaleからの変更点は以下4点である。
(1) 元のスケールの21の症状のうち16は変更されていない。省略された5つの症状のうち4つはコンセンサスの得られた他の症状によって置き換えられた。
(2) さらに他の4つの症状の表現は、表現の標準化のために修正された。
(3) 元のスケールにおける心理学的症状の一つの尺度は、不安と抑うつ気分のさらに2つの尺度となるように分けられている。
(4) 性的関心の喪失に関する項目が追加された。これは、より適切かつ敏感な評価によって、その領域の問題をフォローアップするための "探査的" 項目として意図されている(マッコイ、1998)。
Greene Climacteric Scaleは、血管運動、身体的および心理学的愁訴の簡便かつ標準的な評価を意図しており、医学、心理学、社会学、疫学のいずれであろうと、種々のタイプの研究にわたる相対的かつ再現性のある目的に使用される。」(759頁3行〜下から4行)

甲1−5)「結果
表1は、32人の女性参加者からなる研究集団の特徴を示す。この表に示すように、女性の約16%が肥満であり、9%が喫煙者であり、6%が高血圧であった。処置3か月後(14.0 ± 7.6; P = 0.0059)と6か月後(14.0 ± 7.6; P = 0.0059)においてclimacteric scaleが、初期値(20.1 ± 9.4)から有意に減少した(Fig.1A)。Greene Climacteric Scaleに寄与する4項目(動悸: −58.8%;、睡眠困難: −54.0%;、ほてり: −63.0%、寝汗 −50.2%)が有意に減少した(P < 0.0001)(初期値2.0以上、減少率50%以上)。VASについてもEH0202投与2か月後(59.5 ± 19.9; P < 0.0001)、3か月後(44.6 ± 17.4; P < 0.0001)、6か月後(32.7 ± 14.1; P < 0.0001)において、初期値(79.2 ± 12.8)からの有意な改善がみられた(Fig.1B)。6か月後にEH0202の投与を中止した場合、1か月以内に8人(25.0%)、3か月以内に4人 (12.5%)の女性が症状再発のため治療を再開した。」(760頁下から3行〜761頁11行)

甲1−6)「結論として、EH0202(MACH)が神経系に直接作用するのか、あるいは生体応答調節剤として間接的に作用するのかは不明だが、EH0202が全般的な更年期の症状を改善するだけでなく、血圧を低下させ、皮膚表面の過剰な血流を減少させ、脂質代謝を正常化することが見出された。したがって、本製品は閉経後の女性の健康維持に寄与する可能性がある。」(767頁19〜23行)

(2)甲2(日本乳酸菌学会誌、第18巻、第1号、pp.31〜36及び対応するインターネットのウェブサイトのプリントアウト)
甲2−1)「Bifidobacterium longum BB 536含有ドリンクタイプヨーグルトの摂取が排便回数および排便性状にどの様に影響するかを検討するために、便秘傾向の健常ボランティア55名(男性12名、女性43名、平均年齢31.6±7.2歳)に対する飲用試験を行った。試験期間は非摂取期間1を2週間設定した後、摂取期間1を2週間、非摂取期間2を2週間、摂取期間2を2週間の計8週間とした。試験は被験者を無作為に2群に分け、被験食品としてBifidobacterium longum BB 536を2×109/g以上含むドリンクタイプヨーグルトまたは、対照食品としてBB 536を含まないドリンクタイプヨーグルトを1日100g摂取させるダブルブラインド・クロスオーバー法により実施した。その結果、被験食品または対照食品の何れを摂取した場合にも、非摂取期と比較して排便日数、排便回数の有意な増加が確認された(それぞれp<0.001)。さらに、対照食品摂取期間と比較して、被験食品を摂取した期間では排便回数が有意に(P<0.05)に増加し、排便日数が増加傾向(p=0.070)を示した。被験食品または対照食品摂取による便の性状に対する改善効果も見られたが、群間での有意な差は認められなかった。また、被験食品が原因と思われる有害事象は認められなかった。これらの結果から、Bifidobacterium longum BB 536を配合したドリンクヨーグルト摂取による整腸作用が示唆された。」(31頁、要約)

甲2−2)「腸内フローラや腸内環境の改善は結果として腸の不全(便秘や下痢など)に対する改善効果をもたらし、ひいては腸疾患の改善・予防にもつながると考えられる。現代人は健常者であっても食生活の偏りや運動不足、恒常的なストレスなどから慢性的な腸の不全すなわち便秘や下痢に悩む人が多く、ビフィズス菌、乳酸菌などの機能性食品に対する期待が大きい。
Bifidobacterium longum BB 536(以下BB 536)は乳児より分離され乳製品などに広く利用されているビフィズス菌である。これまでに、BB 536含有プレーンヨーグルトや加糖ヨーグルトを1日100g摂取することにより、排便回数や便の性状、腸内細菌叢などの腸内環境が改善されることが明らかにされた4-6)。また、BB 536配・・・」(31頁左欄下から2行〜右欄下から3行)

甲2−3)「

」(33頁)

甲2−4)「

」(33頁)

甲2−5)「考察
便秘傾向者に対して、被験食品であるBB 536を配合したドリンクタイプヨーグルト(100g)を1日1本、2週間継続して摂取させたところ、非摂取期と比較して排便日数、排便回数の有意な増加が確認された(それぞれp<0.001)。・・・排便回数については、非摂取期では・・・、特に被験食品摂取期間での改善はより顕著であった。また、対照食品摂取期と比較しても被験食品摂取期では排便回数が有意な増加を示した(p<0.05)。これらの結果から、対照食品と比較しても、BB 536を含有する被験食品がより高い便秘改善効果をもたらすことが判明した。・・・
以上の結果から、BB 536を配合したドリンクタイプヨーグルトは便秘傾向者における排便改善効果を有し、安全性の面においても特に問題ないことが示唆された。」(35頁左欄10行〜右欄下から4行)

(3)甲3(特表2006−525313号公報)
甲3−1)「【請求項1】
細菌菌株を対象に投与する過程からなるうつ病の治療方法。
【請求項2】
前記細菌菌株がラクトバシルス菌である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記菌株がビフィドバクテリウム菌である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌菌株がプロバイオティック細菌である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プロバイオティック細菌がラクトバシルス・サリバリウスである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プロバイオティック細菌がラクトバシルス・カゼイである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記プロバイオティック細菌がビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティスである請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌菌株がラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌菌株がラクトバシルス・カゼイ菌AH113である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌菌株がビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プロバイオティック細菌を対象に投与する過程からなり、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法。
【請求項12】
前記疾患が、クッシング病、不安障害、心理社会的障害、ストレス、非定型うつ病、パニック障害及び疲労感からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記プロバイオティック細菌が、ラクトバシルス菌、ビフィドバクテリウム菌、ラクトバシルス・サリバリウス、ラクトバシルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118、ラクトバシルス・カゼイ菌AH113、及びビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記対象がヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、哺乳動物又は爬虫類である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
ラクトバシルス菌、ビフィドバクテリウム菌、ラクトバシルス・サリバリウス、ラクトバシルス・カゼイ、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ラクトバシルス・サリバリウス菌UCC118、ラクトバシルス・カゼイ菌AH113、及びビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624から選択される群からなる細菌細胞であって、前記細胞又はその成分若しくは突然変異体が死んでいる細菌細胞。
【請求項16】
食品、錠剤、カプセル又は他の製剤として投与するための、プロバイオティック、又はその活性誘導体、断片若しくは突然変異体からなる医薬組成物。
【請求項17】
経腸又は非経口投与のための、プロバイオティック、又はその活性誘導体、断片若しくは突然変異体からなる医薬組成物。」

甲3−2)「【背景技術】
【0003】
視床下部−脳下垂体−副腎軸(HPA)の機能の障害は、大部分のうつ病において一貫して最もよく現れる神経内分泌異常である。デキサメタゾンを一晩投与することで抑制されるコルチゾール過剰症及び関連する不全がしばしば認められる。また、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)免疫反応性の高いCSFレベルが、CRH刺激によるACTH放出の鈍化と共に報告されている。これらの変化は、CT又はMRI画像のいずれによっても証明可能な副腎過形成がある場合に起こる(Dinan T著, Glucocorticoids and the genesis of depressive illness: a psychobiological model, Brit. J. Psychiat, 1984年 ; 21: P.813-829)。
【0004】
また、大部分のうつ病には、インタロイキン−1(IL1)及びIL6のような炎症性サイトカインの著しい増加を示す証拠がある(Maes M著, The immunoregulatory effects of antidepressants, Hum. Psychopharmacol, 2001年; 16: P.95- 103.)。これらサイトカインは両方とも、HPAを強く活性化することが知られており、かつうつ病に見られるHPA活性化を持続する役割を果たすことがある。うつ病の有効な治療は、炎症性サイトカインの抑制及びHPAの活性化の減少を伴う。
・・・
【0007】
本発明は、HPA軸の調節により仲介されたプロバイオティック細菌の中心効果(central effect)に関する。プロバイオティック生物がHPAに影響を与え得るメカニズムの1つは、粘膜性上皮及び関連するリンパ様構造との相互作用を通じてのものであり、それによりホストに抗炎症性である分子を上方制御させかつ表現させる。これらは、IL−10及びTGFβのようなサイトカインを含むものである。本発明は、免疫調節機能及びHPA活性を減少させる能力を有するプロバイオティック菌株を目的としている。」

甲3−3)「【実施例1】
【0008】
血清サイトカインレベルへのプロバイオティック効果
ビフィドバクテリウム35624を15人の健康なボランティアに3週間に亘って摂取させた。血清サイトカインレベルを摂取前及び摂取後で検査した。可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルが、プロバイオティック給餌後に著しく減少した(図1)。SIL−6RがIL−6シグナル伝達に必要であるのに対し、IL−8は炎症性ケモカインである。
【実施例2】
・・・
【実施例3】
【0010】
リンパ節サイトカイン産生へのプロバイオティック効果
ヒト腸間膜リンパ節細胞(MLNC)を切除標本から分離し、かつ生体外でLb.サリバリウスUCC118、B.インファンティス35624又はサルモネラ・ティフィムリウムで3日間刺激した。上清を収穫し、かつELISAを用いてサイトカインレベルを評価した。
【0011】
プロバイオティック細菌Lb.サリバリウスUCC118及びB.インファンティス35624が、TNFαまたはIL−12のような炎症性サイトカインの誘導無しで、IL−10及びTGFβの産生を刺激した。対照的に、S.ティフィムリウムでの共インキュベーションにより、IL−10又はTGFβの放出無しで炎症性サイトカインの産生を誘導した。これらプロバイオティック細菌との接触後の生体内でのIL−10又はTGFβの産生により、異常なHPA活性を下方制御することができた(図3)。
【実施例4】
【0012】
実例の報告
患者1は、6週間のうつ病の症歴を有する36歳の男性であった。この男性は以前に4年前にうつ病を患っていた。患者1は、落ち込み、アンヘドニア、早朝覚醒、食欲不振、2kgの体重減少、大きな不安及び将来に関する悲観的な考えを訴えた。患者1のハミルトンうつ病スコアは23であった。
【0013】
患者1は気分障害に強い家系の病歴を持っていた。患者1は現れたとき薬物治療を課されていなかった。患者1にビフィドバクテリアをミルクに懸濁させて投与し、患者1はこれを12週間毎日摂取した。第2週の終わりには、患者1の精神状態に著しい改善があり、第3週までに患者1は症状が無くなり、ハミルトンうつ病スコアが4であった。
【0014】
患者2は2年間の病歴を有する56歳の女性であった。肉体的検査は全て陰性であったが、その症状に基づいて、疾病管理センターの規準を用いて慢性疲労症候群を患っていると診断された。患者2は、1クールの認知行動療法及び一定回数の選択的セロトニン再取り込み阻害剤の投与に反応できなかった。患者2には、ビフィドバクテリアをミルクに懸濁させて与え、これを20週間に亘って毎日摂取させた。
【0015】
第6週までに、患者2はその精力レベルに改善を示した。6週間後、患者2は散歩を毎日3.2km(2マイル)行っていた。このような力を発揮することは、最初に現れたときは不可能であった。18週間までに、患者2はパートタイムで働き始めた。」

(4)甲4(J.Physiol.、2004年、第558.1巻、pp.263〜275)(訳文で示す。)
甲4−1)「常在性微生物叢は、宿主の生理学的機能に対していくつかの有益な効果を有する。しかし、出生後の微生物の定着が脳可塑性とその後の生理学的システム応答の発達に影響を与えるかどうかについてはほとんど知られていない。このような微生物がストレスに対する内分泌反応を支配する神経系の発達に影響を及ぼす可能性があることを検証するために、無菌(GF)、特異的病原体フリー(SPF)およびノトバイオートのマウスを比較することにより、ストレスに対する視床下部-下垂体-副腎系(HPA)反応を調べた。拘束ストレスに対する血漿ACTHおよびコルチコステロンの上昇は、SPFマウスに比べてGFマウスではかなり高かったが、エーテルでの刺激には反応しなかった。さらに、GFマウスは、SPFマウスに比べて、皮質および海馬における脳由来神経栄養因子の発現レベルの低下も示した。GFマウスによる誇張HPAストレス応答は、ビフィドバクテリウム・インファンティスを用いた再構成によって逆転した。これに対し、腸管病原性大腸菌の単独定着はストレスに対する応答を増強したが、転座インティミン受容体遺伝子を欠いた変異株ではそうではなかった。重要なことに、GFマウスの増強されたHPA応答は、早期にSPFの糞便による再構成によって部分的に修正されたが、後の段階で行われたいかなる再構成によっても修正されず、このことはHPAシステムが阻害性神経調節に完全に感受性になるためには早期発達段階で微生物への暴露が必要であることを示している。これらの結果は、常在細菌叢がマウスにおけるHPAストレス応答の出生後の発達に影響を及ぼし得ることを示唆している。」(263頁要約)

甲4−2)「蓄積された証拠は、脳と腸の間の双方向コミュニケーションを示している。この分野の研究者は、このクロストークを選択的に「脳-腸軸」と呼ぶ(アジズ&トンプソン、1998)。実際、ストレスの多い経験は、胃腸の運動性、分泌および血流の変化につながり、その一方で、そのような胃腸機能の変化は脳に伝達され、最終的には吐き気、満腹感、及び痛みなどの内臓事象の知覚をもたらし得ることが示されている(ドロスマン、1998)。興味深いことに、多くの研究論文は、物理的および心理的ストレスがげっ歯類(ポーター&レトガー、1940、タノック&サベージ、1974、鈴木ら1983)、及び霊長類(ホルデマンら1976、ベイリー&コー、1999)の腸内微生物叢の組成に影響を与え得ることを報告している。今回の結果で、微生物を定着させることで、拘束ストレスに対するHPA反応が変化したことは、腸内の細菌と脳との相互作用も、脳と腸管軸と同様に双方向であることを示している。我々の知る限りでは、これはストレス応答性を制御するニューラルネットワークに影響を与える共生微生物を示す最初のレポートである。」(271頁左欄11〜31行)

(5)甲5(Nature Neuroscience、2007年9月(オンライン公開2007年8月)、第10巻、第9号、pp.1089〜1093)(訳文で示す。)
甲5−1)「うつと不安はしばしば併存するが、それらは異なる病因を有している。したがって、うつと不安におけるBDNFの特異的役割を調べることが重要である。しかし、現在利用可能な行動試験は、うつ行動と不安行動を実際上区別できないことがよくあり、せいぜい、ヒトの病因のある面の部分的な反映でしかない。したがって、我々は、行動データ、及び、それらとヒトにおけるそれらの行動との関連性の解釈には、注意を払うべきである。それでも、収斂する証拠は、BDNF-TrkBシグナリングは抗うつの主たるターゲットになり得ようが、この経路の阻害は不安の主たる要因にはならないかもしれないということを示している。」(1092頁左欄15〜25行)

(6)甲6(PNAS、2006年8月、第103巻、第35号、pp.13208〜13213)(訳文で示す。)
甲6−1)「海馬は不安様行動に介在するかもしれないことが示唆されている。海馬中でのBDNFの過剰発現は、ストレス非存在下でも不安を促進するが、慢性的なストレスの影響を相殺するため、海馬の萎縮がトランスジェニックマウスで見られる不安の細胞基質ではありそうもない。さらに、抗うつ薬やストレスのない回復のような、海馬の萎縮を逆行させる操作が、ストレスによって誘導される不安及び扁桃体の構造可塑性を防ぐことはできない。海馬又は扁桃体で特異的にBDNFが過剰発現するマウスは、この問題に対するさらなる理解を得るのに有用であろう。興味深いことに、最近、恐怖条件付けの合図の2時間後に、扁桃体基底外側部でBDNF mRNAが一時的に上昇することが見出された。合図特異的恐怖の形成後に扁桃体で観察された、この一時的に限られたBDNF mRNAレベル及びBDNFシグナル伝達は、そこで使われたトランスジェニックマウスで示された慢性的なBDNFタンパク質の発現上昇と対照的であり、これは我々のトランスジェニックマウスで観察された、合図非特異的及び一般的な恐怖、又は不安の根底にあり得る。」(13212頁左欄下から2行〜右欄17行)

甲6−2)「したがって、我々は、BDNFはうつ及び不安において異なる役割、すなわち、海馬で局所的にうつ症状を抑制し、扁桃体で局所的に不安様症状を促進する、という役割を果たしているということを提案する。これらのBDNFによる結果は、抗うつ薬が海馬と扁桃体で異なる作用を有しているのでなければ、それらは効果的な抗不安薬であるとは考えられないことを示唆している。この見解と一致して、いくつかの臨床報告は、特定のタイプの抗うつ薬治療の開始時に不安が実際に増加することを示している(37)。我々の細胞のデータに基づいて、不安に対比してうつ病に対するそのような薬物の作用の違いは、海馬と扁桃体に対するそれらの作用の結果であることを提案する。」(13212頁右欄35〜51行)

甲6−3)「さらに、病理学的不安障害は、扁桃体の容積および機能の増加を伴う。・・・基底外側扁桃体(BLA)・・・」(13208頁左欄下から7〜3行)

甲6−4)「前脳のBDNF過剰発現は、不安及びBLAのスパイン密度を増大させる。」(13209頁、図1の説明文の1〜3行)

甲6−5)「結論として、単一の遺伝子が操作されたマウス株から得られた我々のデータは、BDNFにより誘導される扁桃体のスパイン形成及び不安の促進の証拠を提供する。」(13213頁左欄16〜18行)

(7)甲7(国際公開第2007/093619号)(訳文で示す。)
甲7−1)「本発明は、予防の意味で、すなわち炎症を生じさせる基礎疾患がない状態で炎症を防ぐことが望まれる状況だけでなく、基礎疾患に関係ない腸炎、たとえば、食物アレルゲンに対する反応、炎症性腸疾患又は大腸炎、年配者における感染後炎症もしくは慢性の亜臨床的炎症のような消化管疾患により引き起こされる慢性又は急性の腸炎の予防又は低減が望まれる状況で使用され得る。」(2頁29〜35行)

甲7−2)「本明細書において、以下の用語は、発明の説明、実施例及び請求の範囲の読解及び解釈に際して考慮すべき定義が与えられる。
"幼児":12か月未満の年齢の子
"幼児用":生命の最初の4〜6か月の間の幼児の完全栄養食、及び、12歳までの他の食品の補助としての食品」(3頁10〜17行)

甲7−3)「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999("BL999")は、例えば、108コロニー形成単位(cfu)を含むカプセルに封入して単独で投与してもよいし、栄養的に完全なフォーミュラ(例えば、乳児用調整乳や臨床栄養製品)、乳製品、飲料粉末、脱水スープ、栄養補助食品、食事代替品、栄養バー、シリアル、菓子製品、乾燥ペットフードのような栄養組成物に配合してもよい。栄養組成物に配合する場合は、BL999は、104から1012cfu/g(乾燥重量)に相当する量で組成物中に存在させてもよい。これらの量の表現には、細菌が生きている、不活化されている、死んでいる、あるいはDNAや細胞壁物質などの断片や代謝物として存在している可能性も含まれる。言い換えると、細菌の量は、それらが実際に生きているか、不活化されているか、死んでいるか、断片化されているか、又はこれらの状態のいずれかもしくはすべての混合物であるかにかかわらず、すべての細菌が生きているかのように、その量の細菌のコロニー形成能で表される。好ましくは、BL999は、105から1010、より好ましくは107から1010 cfu/g乾燥組成物の間に相当する量で存在する。」(3頁26行〜4頁4行)

甲7−4)「実施例3
この実施例は、BL999とその代謝産物がIBDマウスモデルにおける炎症を防ぐ能力を示す。
IBD病理学の適切なモデルとして認知されている、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎マウスモデルを、この実験に使用した(Blumberg RS et al, Current Opin. Immunol. 1999; 11(6):648-56)。DSSの投与は、潰瘍性大腸炎患者で観察されるのと類似した、大腸における病理組織学的な損傷を誘導する。このDSS処理は、急性腸炎症を誘導するために投与された。」(10頁4〜14行)

甲7−5)「図2、3から、BL999は効果的に便特性を正常化し、DSS-MRS群で観察されたのと比べて、盲嚢と近位及び遠位大腸の炎症を大幅に減少させたことが見て取れる。このように、BL999は、DSSの投与前及び投与中の両方で細菌を与えられたDS-BL群のように、DSS誘導炎症を効果的に防ぐことが見て取れる。」(12頁10〜14行)

甲7−6)「1.哺乳動物の炎症を予防又は低減するための治療栄養組成物である医薬の製造におけるビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999の使用。
2.治療栄養組成物が幼児用調整乳である、請求項1の使用。
3.治療栄養組成物がペット用食品である、請求項1の使用。
4.炎症が腸の炎症である、前記請求項のいずれか一項の使用。」(17頁、特許請求の範囲、請求項1〜4)

(8)甲8(特開2003−252771号公報)
甲8−1)「【請求項6】ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を添加した代謝異常症の予防・改善・治療作用を有する飲食品。」

甲8−2)「【0012】本発明は、上述のようにして得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする。また、乾燥した粉末を有効成分としてもよい。これらの乾燥は凍結乾燥で行なうことが菌体を変質させることなく乾燥することができるので好ましい。これらの有効成分は経口摂取することが望ましい。また、これらの粉末は乳糖等の適当な賦形剤と混合し、粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤または粒剤等として経口投与することができる。投与量は、投与対象者の症状、年齢等を考慮してそれぞれ個別に適宜決定されるが、通常成人1日当たり乾燥物として0.5〜10gであり、これを1日数回に分けて投与するとよい。特に好ましくは、それぞれの株を生菌として、成人一人当たり108〜1012cuf/日投与することで本発明の目的とする効果を発揮させることが可能となる。このようにして摂取することによって腸管内に定着し所望の効果を発揮する。」

(9)甲9(Gastroenterology、2010年12月、第139巻、第6号、pp.2102〜2112及び表紙)(訳文で示す(図中を除く。)。)
甲9−1)「エタネルセプトの投与、及びそれよりも程度は低いがブデソニドは、行動を正常化し、サイトカイン及びキヌレニンレベルを減少させたが、BDNF発現に影響しなかった。プロバイオティックであるビフィドバクテリウム・ロンガムは、行動を正常化し、BDNF mRNAを正常化したが、サイトカインあるいはキヌレニンレベルに影響しなかった。」(2102頁左欄下から14〜9行)

甲9−2)「エタネルセプトは可溶性の腫瘍壊死因子(TNF)-αレセプターであり、ブデソニドは90%を超える肝臓初回通過代謝を持つ抗炎症コルチコステロイドである。」(2103頁右欄25〜28行)

甲9−3)「

図2 鞭虫感染マウスの行動。(A)プラセボ、エタネルセプト、ブデソニド、及び、プロバイオティックス(*P<.05 対コントロール、#P<0.05 対鞭虫+プラセボ)。(B)コントロール及び鞭虫感染マウスでの全体的な自発運動活性。(C)コントロール及び鞭虫感染マウスの迷走神経切離の効果(*P<.01 対コントロール)。」(2106頁、図2)

甲9−4)「

図3 海馬でのBDNF mRNAの発現。(A)異なる処置群の海馬でのBDNF mRNA発現の典型的な写真。(Bはコントロール及び鞭虫感染マウスでのBDNFレベル(*P<.05 対コントロール、#P<.05 対鞭虫+プラセボ)。」(2107頁、図3)

甲9−5)「ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001(ATCC BAA-999、最初は森永、東京、日本から提供された)」(2103頁左欄下から3〜1行)

(10)甲10(Gastroenterology、2017年8月、第153巻、第2号、pp.448〜459及び表紙)(訳文で示す。)
甲10−1)「我々は、IBS患者における不安及びうつに対するビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001(BL)の作用を評価するための予測的研究を行った。」(448頁左欄3〜5行)

甲10−2)「BLは不安及びIBS症状に有意な作用を示さなかった。」(448頁左欄26〜27行)

甲10−3)「結論:プラセボ−対照試験で、我々は、プロバイオティックであるBLが不安スコアではなくうつを低減し、IBS患者の生活の質を向上させることを見出した。これらの改善は、このプロバイオティックが大脳辺縁系の反応性を低減することを示す脳活性化パターンの変化と関連していた。」(448頁左欄下から4行〜右欄2行)

甲10−4)「この無作為プラセボ対照試験で、我々は、6週のBL投与は、不安ではなくうつを低減すること(これが我々の主な結果である)、及び、扁桃体及び前頭辺縁領域を含む、感情の処理に関与する複数の脳エリアにおける恐怖刺激への応答を低減することを見出した。」(455頁左欄下から2行〜右欄4行)

(11)甲11(新村出編、広辞苑第六版、株式会社岩波書店、2008年1月11日 第六版第一刷発行、p.2417)
甲11−1)「ふ・あん【不安】○1(審決注:○の中に1。以下同様。)安心のできないこと。気がかりなさま。心配。」(「ふあん」の項)

(12)甲12(医学大辞典、株式会社南山堂、1991年3月25日、第17版2刷発行、p.1672)
甲12−1)「不安[英 anxiety 独 Angst 仏 anxiete(審決注:「e」は2つとも「e」の上に「'」。)]安心できないこと.精神医学では特定の対象を恐れることを恐怖phobiaと呼ぶのに対して,はっきりとした対象がなく漠然と安心できない心の状態を不安と呼んで区別している.人間が不安を感じることそれ自体は決して病的ではない.」(「不安」の項)

(13)甲13−1(JAOA、2004年3月、第104巻、第3号、追補(Supplement)3、pp.S2−S5)(訳文で示す。)
甲13−1−1)「精神障害の診断と統計の手引き第4版(テキスト改訂版)(DSM-IV-TR)1は、社交不安障害(SAD)、パニック障害(PD)、強迫性障害(OCD)、全般性不安障害(GAD)、及び心的外傷後ストレス障害(PTSD)として、5つの主要な不安障害を定義している。不安の極度な形態を示すパニック発作は、それらの不安障害のほとんどと関連して起こりうるが、それらは通常はGADとは関連しない。主要な不安障害の障害有病率は、およそ3%(OCD)及び12%(SAD)の間にわたり、女性では男性よりもおよそ2倍である2,3。」(S2頁左欄1行〜中欄4行)

甲13−1−2)「パニック障害
上で議論したとおり、パニック発作は、通常10分以内にピークを迎える突然の症状発現の不連続な期間と定義され、ほとんどの不安障害で発生する可能性がある。
パニック発作のDSM-IV-TR基準は以下の通りである。
□動悸、心臓の鼓動、または心拍数の増加、
□発汗、
□震え(trembling)、または震え(shaking)、
□息切れまたは息苦しさ、
□窒息感、
□胸の痛みまたは不快感、
□吐き気または腹部の苦痛、
□めまい、ふらつき、頭のふらふら感、または失神する感覚、
□現実感喪失(非現実的な感覚)または離人感(隔離感)、
□コントロール喪失または発狂に対する恐怖、
□死に対する恐怖、
□感覚異常、
□寒気やほてり、
□1回以上の予期せぬパニック発作、
□認知や行動の変化を含む少なくとも1か月間の心配事、
□広場恐怖症の有無、または
□他の精神疾患、一般的な医学的状態、物質の影響によって説明できない発作。」(S3頁左欄下から13行〜中欄下から11行。中欄の「Checklist]は除く。)

(14)甲14(特表2007−536931号公報抜粋(pp.1、97))
甲14−1)「【0145】
語句「不安関連障害」とは、不安、気分、および物質乱用の障害(鬱病、汎発性不安障害、注意欠陥障害、睡眠障害、機能亢進障害、強迫障害、精神分裂病、認知障害、痛覚過敏症および感覚性障害が挙げられるが、これらに限定されない)をいう。このような障害としては、軽度から中程度の不安、全身の医学的状態に起因する不安障害、他の方法で特定されない不安障害、汎発性不安障害、パニック発作、広場恐怖症を伴うパニック障害、広場恐怖症なしのパニック障害、外傷後ストレス障害、対人恐怖症、社会不安、自閉症、特定の恐怖症、物質誘導性不安障害、急性アルコール離脱、脅迫障害、広場恐怖症、単極性障害、双極性障害Iまたは双極性障害II、他の方法で特定されない双極性障害、循環病性障害、抑鬱障害、大鬱病、気分障害、物質誘導性気分障害(substance−induced mood disorder)、認知機能の増強、アルツハイマー病と関連するがこれに限定されない認知機能の喪失、脳卒中、または脳に対する外傷性傷害、癲癇を含むがこれらに限定されない疾患または傷害から生じる発作、学習障害(learning disorder)/学習障害(learning disability)、脳性麻痺が挙げられる。さらに、不安障害は、以下の型が挙げられるが、これらに限定されない人格障害に適用され得る:偏執病様行動、反社会的行動、回避行動、境界型人格障害、依存性人格障害、演技性人格障害(histronic)、自己愛人格障害、強迫性人格障害、分裂病質人格障害、および精神分裂症型人格障害。」

(15)甲15(欧州特許第3072398号公報)(訳文で示す。)
甲15−1)「(62)欧州特許条約第76条に従う先の出願の書類番号:09733245.6/2 291 089)」(1頁左欄「(62)の項」)

甲15−2)「請求の範囲
1.ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999を含み、低下した海馬BDNF発現に関わる障害の治療又は予防に使用するための食用組成物であって、前記低下した海馬BDNF発現に関わる障害が、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会不安障害、全般性不安障害(GAD)、うつ病、物質乱用、過食症、及び並びにストレスの悪影響からなる群より選択される不安及び/又は不安関連障害である、食用組成物。」(8頁左欄、請求項1)

(16)甲16(欧州特許第3072398号に対する異議申立手続において特許権者が提出した答弁書)(訳文で示す。)
甲16−1)「(9) 本発明は、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999(以下、O(異議申立人のこと。請求人注)に合わせて"BB536"と記載する)を含み、海馬BDNF発現を上昇させることができ、それによって不安及び/又は不安関連障害を治療又は予防する、食用組成物に関する。」(2頁6〜9行)

甲16−2)「(12) OD(異議部のこと。請求人注)の便宜のため、本件特許の開示にしたがって、海馬BDNF発現に関わる障害である、不安障害と不安関連障害を区別するクレーム1の分説を我々は提供する。

」(2頁「(12)」の項」

(17)甲17(特願2011−504422の国内移行当初の請求の範囲を表示するインターネットのJ−PlatPatにおける経過情報照会のプリントアウト)
甲17−1)「【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む食用組成物。
・・・
【請求項10】
海馬BDNF発現を増加させるための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
不安及び/又は不安関連障害の治療又は予防のための、請求項10に記載の組成物。」

(18)甲18(特表2007−525415号公報)
甲18−1)「【0163】
・・・他の研究も、WSX−1−/−マウスが腸内蠕虫、ネズミ鞭虫(Trichuris muris)に感染したとき、寄生生物の排除亢進に結びつく過大のTh2応答を発現することを認めている(未公表データ)。」

甲18−2)「【0165】
免疫応答を調節する上でのIL−27R/WSX−1相互作用の重要性をさらに明らかにするため、我々は、腸内生息蠕虫、ネズミ鞭虫に感染したWSX−1−/−マウスのTヘルパー(Th)2型免疫応答の発現を示した。」

甲18−3)「【0328】
(実施例7)
ネズミ鞭虫による感染はIL−27 mRNA発現の上昇を導く」

(19)甲19(欧州特許第3072398号に対する異議申立手続において提出された大草敏史博士の宣誓書本文)(訳文で示す。)
甲19−1)「6.私はここに宣言する。
6.1.EP 3 072 398B1の実施例
6.1.1.対象特許で使用されるDSS処理マウスは、炎症性腸疾患(IBD)又は大腸炎のような炎症性疾患のモデルであるが、不安のモデルではない。

対象特許の実施例で用いられたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)処理マウス(DSSを経口投与されたマウス;以下、「DSS処理マウス」という。)は、対象特許の出願前に炎症性腸疾患(IBD)又は大腸炎のモデルとして公知である(Bercikらを参照; 別紙5、WO 2007/093619 (D21))。対象特許の実施例のDSS処理マウスは、私が開発・確立したモデルであり、モデル動物に3〜10%のDSSを与えることにより、急性及び慢性の潰瘍性大腸炎を誘導するものである(履歴書の第1章と参考文献を参照)。マウスへのDSS投与により誘導された大腸炎が潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患病理のモデルであることは、山田ら(別紙9)、有明ら(別紙10)及び藤原ら(別紙11)により報告されている。
特に3% DSSのマウスへの投与は、通常、結腸出血、下痢、血便、及び体重減少を引き起こし、結腸に潰瘍又は炎症が生じることが知られている。
さらに、合成DSS投与によりマウスに誘導された潰瘍性大腸炎に対するビフィドバクテリウム・ロンガムの抑制効果が明らかにされている。
WO 2007/093619(D21;出願人:NESTEC S.A.)において、DSSは潰瘍性大腸炎の誘導に使用されており、結腸損傷及び炎症はWallace基準に従って評価されている。さらに、D21では、BB536(D21でBL999又はATCC BAA-999と命名)がDSS処理マウスに投与されている。DSS-BL群(DSS処理マウスのうちBB 536の投与群)のマウスのBB536の投与のタイミングは、DSS投与前と投与中である。D21では、BB536がDSSにより誘導された炎症の予防に有効であると結論づけている。

したがって、対象特許及びD21において、DSS処理マウス及びBB536(BL999)の投与の効果は、実際には同じであり、その効果は不安症状に対する効果とはいえない。むしろ、当該効果は炎症性腸疾患又は大腸炎に対する炎症抑制効果であるといえる。」(2頁17行〜第3頁末行)

(20)甲20(日薬理誌(日本薬理学雑誌)、2002年、第120巻、pp.173〜180及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト)
甲20−1)「病態の解明や新薬の開発を直接ヒトで試みることは,倫理的にもまた方法論的にも不可能である.動物を用いてのアプローチは,ヒトと動物の共通点・類似点に着目し,動物で得られた所見がヒトに外挿できるとの仮定の上に成り立っている.しかし,精神医学の領域における動物モデルは,ヒトの高次知的機能を考慮に入れると常に臨床との相関性・相同性に疑問が持たれてきた.
一方,精神疾患の症状は,○1患者自身の言葉を介しての自発的な内省と○2患者の取る行動異常から診断される.動物の異常性を“診断”する場合,言語を介しての評価は不可能である.しかしその異常性を“行動の異常”として捉えれば,ヒトでの診断と一部類似する事になる.また精神疾患の成因を環境に対する適応不全と考えれば,ヒトと動物に共通するものであり動物を用いての生物学的アプローチに意義が出てくる.従って精神疾患の動物モデルはまずその症状の表面的な類似性“表面妥当性”(face validity),モデルの発想の基礎となる仮説に係わる“構成概念妥当性”(construct validity)およびモデルでの薬物の実験結果がヒトの病的状態への効果を反映するか否かの“予測妥当性”(predictive validity)によって評価される.」(173頁左欄下から6行〜右欄14行)

(21)甲21(脳と精神の医学、2009年、第20巻、第3号、pp.229〜235及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト)
甲21−1)「ヒトの精神疾患の動物モデルにおいては,以下の3つの妥当性を満たすことが理想的であるといわれている。それは,表面妥当性(face validity),構成妥当性(construct validity),予測妥当性(predictive validity)である(表2)。表面妥当性はその精神疾患の症状と似た症状をそのモデル動物が示すことであり,構成妥当性はモデル動物作製における精神疾患を引き起こす原因との類似性であり,予測妥当性は精神疾患において効果的な治療法がそのモデル動物においても予想通りに効果的であることである。これら3つの妥当性を完全に満たすことは,精神疾患では非常に難しいといわれている。」(230頁右欄2〜14行)

甲21−2)「

」(231頁)

(22)甲22(欧州特許公開第2291089号公報及びその公開日を示すウェブサイトのプリントアウト)(訳文で示す。)
甲22−1)「世界知的所有権機関によりWO2009/127566(EPC第153条(3))の番号で公開された国際出願」(4〜6行)

(23)甲23(欧州特許第3398446号公報)(訳文で示す。)
甲23−1)「(60) 分割出願
20150410.7
(62)欧州特許条約第76条に従う先の出願の書類番号:
16165862.0/3 072 398
09733245.6/2 291 089」(1頁左欄「(60)」及び「(62)」の項)

(24)甲24(欧州特許第3398446号の特許異議申立において提出されたマシアス・シュミット博士の宣誓書本文及び宣誓書に添付された履歴書)(訳文で示す(図中を除く。)。)
甲24−1)「5.EP'466特許で採用された動物モデルとその読み出しは適切ではない
異議申立特許は、要するに、特定のビフィドバクテリウム・ロンガム、すなわちATCC BAA-999は、不安の治療又は予防に有用であろうと提案している。このことは、しかし、信頼できる科学的証拠によってサポートされていない。なぜなら、私の意見では、異議申立特許で採用されたモデル及び試験は不安に対して妥当なモデルではなく、同特許で到達した結論は信頼できる科学的証拠によってサポートされていないからである。さらに、「海馬BDNF」発現と異議申立特許で主張されているような「不安関連行動」との間には因果関係がない。

5.1 EP'466で採用されたネズミ鞭虫及びDSSモデル
5.1.1 どちらもEP'446で採用されたデキストラン硫酸(DSS)モデル、及び、ネズミ鞭虫による消化管寄生虫感染を含む、炎症性腸疾患(IBD)又は大腸炎のモデルは、不安/不安障害のモデルとして適切ではない。実際に、例えば寄生虫ネズミ鞭虫の感染による大腸炎、又はDSS投与により引き起こされる炎症事象は、食物摂取、体重、及び不安への影響を偏らせる一般的な健康問題への多くの非特異的影響をもたらす。以下に、これらの2つのマウスモデルがB.ロンガム、特にBAA-999の不安に対する治療効果の評価にとって適切なモデルであるということが、2008年前後における不安及び恐怖の分野で研究していた神経科学者にとってなぜ信じられないかという私の意見を示す。

5.1.2 使用された「DSS」及び「ネズミ鞭虫」モデルは、決して不安障害の動物モデルではない
2007年にすでに、不安の動物モデルの最先端の総括的レビューには、IBDモデルやEP'466で採用された消化管炎症に関連するモデルは言及されていない(例えば証拠1として添付したKalueff et al. 2007を参照)。標準的及び国際的に受け入れられ/検証された不安の齧歯類モデルは、我々(証拠2として写しを添付したSchmidt et al. 2006)、及び他者(証拠3として添付したCryan et al. 2005(D37)及び2007)により広範囲にレビューされてきた。Cryanの両方の出版物は、不安の遺伝学的、環境又は化学モデルの総括的なリストが要約されているが、DSSとネズミ鞭虫モデルのいずれも言及されていない。同様の図式は、証拠4として添付したHarro et al. 2017による他の不安モデルの総括的レビューに現れている。したがって、少なくとも2006年(例えば前記Schmidt 2006)から2017年(例えば前記Harro 2017)までは、たとえ不安もうつも、下記のセクション6に見られるように、炎症性腸疾患のような腸疾患の併存症として起こるかもしれないとしても、当該分野のだれもが、不安の評価及び試験、又は他の臨床的精神病理学にさえも特許のモデルを真剣に採用しはしない。言い換えると、EP'466で採用された二つのマウスモデルは(慢性)消化管炎症及び/又は寄生虫感染のモデルとしては興味深いが、不安、ましてや臨床的不安の妥当なモデルではもちろんない。これらの「DSS」及び「ネズミ鞭虫」モデルは、せいぜい引き起こされた寄生虫感染(ネズミ鞭虫)及び/又はデキストラン硫酸(DSS)で誘導された大腸炎を患うマウスの非特異的行動変容のモデルでしかない。

5.1.3 1969年にMcKenney及びBunneyによって確立され、Willner(1984。証拠5として添付した)によってレビューされたように、ヒトの精神障害の妥当な動物モデルは、それらにおける病因、生化学、症候学、及び治療において、条件を類似させなければならない。Willnerは、それらの条件として「表面妥当性」、「予測妥当性」、及び「構成概念妥当性」の基準を確立した(前記Willner 1984、表紙、左の差し渡し段落参照)。これらの基準は、例えば証拠6として添付したBelzung(2011)(要約の最初の文章参照)のような精神障害用の動物モデルのレビューで証拠づけられるように、McKenney及びBunney、及びWillnerから当該分野で受け入れられ、動物モデル、特に精神神経障害の領域の評価の基準である。例えば、Cryan(2011、証拠3)の第1143頁の第1文で、以下のように確証されている。
「精神神経学的エンドフェノタイプの実験モデルの妥当性の決定には、うつについてMcKenney及びBunney (1969)により提案され、不安障害にも同様に適用可能な標準化された基準を用いることができる。」
Willner (1984)(前記証拠5、最初の頁の差し渡し段落)から明らかなように、「表面妥当性」、「予測妥当性」、及び「構成概念妥当性」は次のように定義される。

表面妥当性 モデルとモデル化された条件との間の現象学的類似性
予測妥当性 モデルから生じる予測の達成に関する
構成概念妥当性 理論的合理性

以下で詳細に論ずるように、EP'466特許で使用されたモデル及び試験は、不安障害の基本的特徴を評価するものでも、不安障害に特異的な方法で評価された行動でもない。したがって、EP'466で使用されたモデルは、表面妥当性、予測妥当性及び/又は構成概念妥当性の要件も満たさず、適当な選択ではない。

5.1.3.1 表面妥当性の欠如
EP'466は第1欄、第17〜23行で、特定の不安/不安障害に言及し、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖症(即ち社会不安障害)、特定恐怖症及び全般性不安障害(GAD)に言及している。以下に、なぜDSS及びネズミ鞭虫モデルが「表面妥当性」の中心的要件を満たさず、これらの不安/不安障害のいずれにとっても不十分であることを示す。

パニック障害:この不安障害は、パニック発作の自然発生により基本的に特徴づけられるその核心にある。確立された齧歯類モデルにおいて、これは、激しい恐怖やパニック応答により引き起こされ(得)る急性直近の脅威/環境的有害事象/予想できない期間の身体的恐慌に起因する通常防御的応答によって引き起こされる(Battaglia et al. 2005、証拠7参照、例えば「要約」)。これは、DSS及びネズミ鞭虫モデルにはあてはまらない。

OCD:OCDの本質的な特徴は、再発する強迫又は衝動であり、時間がかかり、重大な苦痛又は障害を引き起こす。これらの挙動はDSS及びネズミ鞭虫モデルでは評価されていない。

PTSD:診断としてのPTSDの中心的及び統一的特徴は、時間的に明確に定義された個別の外傷的出来事の発生である(証拠8として添付されているSiegmund et al. 2006 例えば要約及び図1参照、証拠9として添付したRichter-Levin et al. 2019、例えば第1136頁「PTSDの臨床的特徴」の下を参照)。これは、DSS及びネズミ鞭虫モデルにはあてはまらない。

社会的恐怖症:社会恐怖症の中心的症状は、社会的場面、すなわち同種の他者の存在において経験する極端な不安である。したがって、どんなモデルでも、社会恐怖症モデルの検証は、単一の動物よりも多くを含む試験を必要とする(Joel 2006)。これは、DSS及びネズミ鞭虫モデルでは行われなかった。

特定恐怖症:特定恐怖症は、特定の対象(例えば蜘蛛)又は状況(例えば狭所)への暴露に関連する不合理又は非理性的な恐怖の特異的なタイプに明確に関連する。これは、DSS及びネズミ鞭虫モデルで評価されておらず、これらのモデルにあてはまらない。

GAD:全般性不安障害は過度の不安又は心配により特徴づけられる。この疾患を齧歯類でモデル化することは、動物の将来の計画及び不確実性を結論づける試験状況を必要とするから、非常に困難である。DSS及びネズミ鞭虫モデルにはあてはまらず、評価もされていない。

EP'466は第1欄第11〜19行で、短期間の不安、及び、アルコール又は薬物乱用を含む、精神的又は身体的疾患が関わる障害に言及している。明らかに、それらの状況に対して、「DSS」及び「ネズミ鞭虫」モデルは、第一に両方のモデルで不安関連症状のすべての期間で評価されておらず、第二に、これらのモデルは薬剤乱用の利用を含んでおらず、「表面妥当性」の基準を満たしていない。
さらに、DSS及びネズミ鞭虫モデルに関し、EP'466の発明者を共著者としている文献(Bercik (2010)及びBercik (2011)1)は、これらの2つのモデルにおいて不安の評価に対する「表面妥当性」の基準が満たされていないことを示している。特に、Bercik (2010)は、ネズミ鞭虫感染は、B.ロンガム処理で正常化された、明/暗嗜好性試験(明/暗箱又は暗/明箱としても知られている)及びステップダウン試験における異常行動をきたすことを報告している。これらの知見は興味深く、消化管の健康が全般的な健康状態を助長するというよく知られた事実を指示しているが、この結果は臨床的な不安、病理及び臨床的に関する症状に関連する状況を反映していない。
1 両方の文献は鍋島教授及び大草教授の宣誓書でも提供され論じられている。(審決注:この一文は、6頁の脚注。)

同じ事が、DSS投与によりステップダウン試験における潜時が増加し、B.ロンガム処理により正常化されることが報告されているBercik (2011)にもあてはまる。両方のケースで評価された行動は、DSS又はネズミ鞭虫モデルにおいて観察された変化が確かに不安を反映していると評価するには不十分である。また、用いられた試験は、不安障害の中心的な特徴を評価するものではなく、これらの行動は決して不安障害に特異的でもない。したがって、確かに異常行動はDSS及びネズミ鞭虫モデルで引き起こされ、それはB.ロンガム処理で改善されるが、この証拠は、「表面妥当性」(したがって、モデルとモデル化された条件の間の現象学的な類似性)の重要な基準を満たしていないから、不安の文脈では適切ではない。

5.1.3.2 予測妥当性の欠如
DSS及びネズミ鞭虫モデルには、不安の評価に関する「予測妥当性」が欠如している。特に、陽性対照(活性対照)が存在しない。「予測妥当性」の基準を満たすためには、前臨床又は臨床試験には、信頼できる試験がこの対応する対照を必要とする。評価される治療の有効性は、Ohl (2005、証拠10として添付)、第36頁要約の最初の行に述べられているように、すでに確立した類似した症状の治療、本件では伝統的な抗不安薬と比較されなければならない。
「何が理想的な動物モデルの特徴か? 第一に抗不安剤で処理したときに不安が減少することを示さなければならない(予測妥当性)。」(Ohl 2005)

EP'466同様、二つのBercikらの論文(2010と2011)は、陽性対照として抗不安剤を使用していない。EP'466と対照的に、ネズミ鞭虫モデルを採用しているBercik (2010)刊行物は、少なくとも2つの陽性対照を使用している。しかし、これらの陽性対照は「エタネルセプト」(TNH受容体とIGG1抗体の定常ドメインとの融合タンパク質)と「ブデソニド」(コルチコステロイド型薬剤)、すなわち2つの抗炎症剤である。これらの2つの炎症の活性対照の使用は、Bercikと同僚は、これらの研究では不安障害に関連する表現型を試験することは全く意図していなかったことをはっきりと示している

5.1.3.3 構成概念妥当性の欠如
EP'466で用いられたモデルは、それらはまた不安の文脈で「行動変容の基礎となる病因学的原因との類似性と同様に、神経生物学機構の観点からヒトと動物の間の類似性」(例えばWillner (1984) Belzung (2011) 両方ともすでに上で引用した)として定義される「構成概念妥当性」の要件を満たさないから、特に臨床的及び病理学的不安の文脈では、適切な選択ではない。

不安/不安障害が多因生成リスクとストレス暴露としての環境因子との相互作用により引き起こされるのは明らかであり、病理学的不安の有効な動物モデルはそれを組み込むことが必要である。これは「DSS」もネズミ鞭虫モデルもあてはらまない。

さらに、後記セクション5.2でより詳細に議論するように、測定されたBDNF発現レベル(特許では背側海馬で測定されている。EP'466の図2参照)と不安/不安障害との確かな相関もない。また、このことは「構成概念妥当性」の基準が、EP'466特許で採用されたマウスモデルでは満たされていないことを示している。

5.1.4 なぜEP'466の消化管感染及び/又は炎症モデルが不安障害のモデルとして全く適当でないと考えられるかという他の非常によい理由も存在する。

齧歯類でのすべての標準的な不安試験は、試験条件での動物の自由探索に依拠している。一般的な歩行行動における相違は、例えば、結果の解釈における偏重につながる。これは疾病行動についても同様である。消化管感染及び/又は炎症モデル、特にDSSモデル又はネズミ鞭虫モデルは、大規模な免疫応答につながることが知られている(証拠11として添付した、ネズミ鞭虫モデルについて議論しているKlementowiz et al. (2012)参照)。そのような免疫応答系の活性化は疾病行動につながる。このことは、上記で論じたようにBercik (2010及び2011)にもあてはまる。

DSSモデルについても、例えば、結腸出血、下痢、血便、体重減少、及び重度の内臓痛を引き起こすことがよく知られている。これらのすべての症状及び疾病行動は一般に、試験中の動物の健康状態に関連する一方、運動や探索の減少が不安の増加と解釈される、暗-明箱やステップダウン試験を含む探索に基づく試験の解釈に偏向をもたらす。苦痛や不快を体験している動物は探索に基づく行動試験の評価に適切ではないことは、ありふれた明白な事実である。実際、大抵の国(ドイツを含む)では、なぜ実験目的が他の手段では達成できないかについて明確な理論的根拠がなければ、動物に痛みや苦しみを引き起こす動物実験は動物福祉が認めない。不安障害のケースでは、表面、構成概念、及び予測妥当性にはるかに優れ、かつ痛み、不快や苦しみをもたらさない、多数のモデル系が存在する(特にSchmidt (2006)、証拠2、例えばCryan (2005/2011)のようなCryanの刊行物からの相当する総説で総括されているように、又は、例えば証拠12として添付したLandgraf et al. 2002、証拠13として添付したGross et al. 2000で議論されているHAB及びLABラットについて提供されているように)。

さらに、免疫系活性化に関するマウスモデルは以前からずっと、不安障害ではなく、可能性のあるうつの動物モデルとして考えられてきた(証拠14として添付したGraza 2005、証拠15として添付したDanzer 2006)。他方、明-暗箱及びステップダウン試験は、うつ様行動の特定の側面を調べはせず、むしろ強制水泳試験、社会的敗北ストレス試験、又は無快感症試験が適切である。

結論として、「DSS」及び「ネズミ鞭虫」モデルのいずれも不安又は不安障害の妥当なモデルではない。

5.2 マウスの背側海馬BDNF mRNAレベルは不安の介在を示さず、EP'466の実験データから相当する結論は引き出し得ない。

5.2.1 EP'466はまた、ネズミ鞭虫モデルでの増加した不安は減少した海馬BDNFレベルと関係があると主張している。このデータの解釈は、2008年の当該分野における神経科学者の研究に明らかなように、正しくない。

5.2.2 相関解析がなされていない
EP'466には行動及びBDNF発現のグループ差異を示すデータはあるが、相関解析はなされていない。2つの因子の有意な相関は、2つの手段のグループ内相関が統計的に証明することができたときにのみ、結論することができる。

特許はさらに、B.ロンガム処理による不安関連行動の正常化は同細菌の抗炎症効果とは独立であり、L.ラムノサス処理は言い分によれば炎症を減少させたが、不安行動にははっきりとは影響しなかったと主張している。この特許の解釈は、B.ロンガム処理と不安行動間の相関関係がないから、科学的に正しくない。観察された行動は炎症の減少により実際に改善されたが、L.ラムノサス処理は行動の正常化を打ち消す炎症とは独立した追加的効果を有しているというのが非常にもっともらしい。

5.2.3 背側海馬におけるBDNF発現と不安は無関係である。

5.2.3.1 図2に示されるin situハイブリダイゼーション実験に基づくと、特許EP'466は、B.ロンガム処理(ATCC BAA-999株)は「海馬におけるBDNFレベル」のネズミ鞭虫が介在する減少を正常化すると論じ、B.ロンガムで処理したマウスでのみ観察されたと述べている。ネズミ鞭虫感染の行動(特許では「不安様」と呼ばれている)に対する効果は、B.ロンガムで処理したネズミ鞭虫感染マウスにおけるBDNF減少の正常化と相関すると主張されている(段落[0060]及びEP'466の図2の説明参照)。「海馬」で観察されたBDNFレベルの上昇は不安の改善と相関しているという推論は、多レベルで誤っている。

5.2.3.2 第一に、著者らはBDNF mRNAレベルを測定しただけである。BDNFの転写及び翻訳のバイオロジーは高度に複雑であることがよく知られている。BDNF遺伝子は少なくとも8つの別個のプロモーターを含み、機能が異なる少なくとも18個の異なる転写物が産生する(特に、証拠16として添付したAid et al. 2007、図1を参照)。したがって、単一のバージョンのmRNAのみの測定は、全く参考にならない。

加えて、BDNF mRNA発現がBDNFタンパク質発現とほとんど相関しないことは長く知られている(例えば、証拠17、18として添付したNawa et al. 1995、Tropea et al. 2001参照)。さらに、BDNFは最初に、生物学的に不活性な前駆体タンパク質プレプロBDNFとして合成される。他方、開裂型のプロBDNF及び成熟BDNF(mBDNF)は生物学的に活性であるが、多くの場合、分泌された後である。細胞内および細胞外のBDNFタンパク質発現の異なる形態を、時間および状況に特異的な方法で評価しなければ、B. longum処理による海馬のBDNF発現に影響する可能性があるとはいえない。

5.2.3.3 第二に、特許はさらに、海馬BDNF発現と被検マウスの「不安様行動」との間に因果関係があると主張している。また、この主張は、科学文献による裏付けがなく、神経科学者や精神疾患の生物学に精通する者にとっては、信用できないものである。EP'466では、海馬BDNF発現と被検マウスの「不安様行動」の間に因果関係はない。

すでに2003年に、Gorskiと同僚(証拠19として添付)は、齧歯類の前脳(海馬と扁桃体の構造を含む)において、BDNFの欠失が不安に影響を与えないことを報告している。この論文の表1に見られるように、高架式パス迷路(EPM)や黒/白箱などの不安試験の中核となる機能は、いずれもBDNF欠失によって有意な影響を受けず、著者らは第349頁右欄の最後の文で、前脳でのBDNF欠失がベースライン不安を有意に変化させないことを強調している。このことは要旨にも反映されており、次のように述べられている。

「これらのデータは、前脳BDNFの欠失は音響感覚処理を妨げず、ベースライン不安を変化させないが、特定の学習形態は著しく損なわれることを示唆している」。

これらのデータは、2007年にHeldtと同僚によって確認されている(証拠20として添付)。Heldtは、マウスの海馬特異的BDNF欠失は、特殊記憶と嫌悪記憶の消滅を減じるが、海馬特異的BDNF欠失(背側海馬、例えば、図2、およびHeldtの第8頁の下段参照)は、図4に示されるように恐怖行動には影響しないことを示している。このように、背側海馬内のBDNF欠失は、空間学習と新規物体認識を損なうが、不安は損なわない。

一方、最も重要なことは、海馬BDNFが増加すると、不安が増加することであり、これは鍋島教授も宣誓書で述べており、Govindaraian et al 2006(証拠21として添付)に記述されているとおりである。Govindaraian (2006)の図1 a, cでは、前脳/海馬でのBDNF過剰発現が不安を増大させることが示されており、著者らは、例えば、第13212頁右欄第2段落全体で次のように結論付けている。

「我々のデータは、BDNFがうつ病症状を改善するのに対し、不安様症状を増加させることを示している。したがって、我々はBDNFはうつ病と不安で異なる役割、すなわち海馬で局所的にうつ病症状を抑制し、扁桃体で局所的に不安様症状を促進することを示唆する。」

Govindaraian(2006)が報告した海馬におけるBDNFの不安惹起作用に関する知見は、2009年にDeltheilと同僚によって確認された。Deltheil(証拠22として添付)は、7〜8週齢の雄のスイスラットにおける、海馬内へのBDNF注入の効果を明らかにし、オープンフィールド(OF)テストや高架式プラス迷路(EM)などの不安テストを用い、これらの適切にコントロールした不安テストにおいて(陽性対照としてジアゼパムを採用)、BDNFの海馬内灌流(腹側海馬での微小透析)は被検マウスに対して不安誘発作用を有し、すなわち、海馬におけるBDNFレベルの増強は、不安様行動を引き起こすことを明らかにした。これはDeltheil (2009) の図3a〜3d にも示されており、「オープンフィールド」試験と「高架式十字迷路」(EPM)試験の両方で、海馬内へのBDNF注入が不安誘発作用をもたらすことが記述されている。

5.2.3.4 第三に、特許EP' 466のさらなる誤りは、解析されたBDNF発現の海馬領域である。EP'466の図2から明らかなように、BDNF mRNAの発現解析は、海馬背側で行われている。しかし、海馬のこの部分は、マウスの脳において、生理額的にも形態額的にも、腹側海馬や扁桃体とは異なるものである。このことは、以下の図に示されており(出典はFranklin/Paxinos (2007) "The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates", Academic Press/ Elsevier, Third Edition)、以下で論ずるBannerman (2004) のレビューにもある。

以下の図はFranklin/Paxinos (2007)からのものであり、背側海馬、特殊な腹側海馬、及び扁桃体を示しており、腹側海馬と扁桃体が近接していることも示している(これらの構造にマークを付け、該当する脳構造を強調している)。

I. 矢状面での背側海馬、腹側海馬と扁桃体

関連する構造を囲み、上(オレンジ色)は背側海馬、下(右と濃紺)は腹側海馬、左(水色)は扁桃体である。

II. 冠状面での背側海馬。オレンジで囲んである。(EP'466特許の図2にも示されているとおり)

III. 冠状面での腹側海馬。濃紺で囲んである。


上記のことから既に明らかなように、背側海馬、腹側海馬及び扁桃体は、解剖学的に異なる構造である。
さらに、Bannerman(2004、証拠23として添付)、第275頁、右欄、最終段落にも説明されている。
”解剖学的結合の正体及び腹側海馬との違いは、その機能に関する主要な手がかりをきっと提供するに違いない。腹側小領域は解剖学的結合において背側領域とは著しく異なる。腹側は前頭前皮質を投射(project)するが、背側海馬はそうではない。・・・腹側海馬は分界条床核(BNST)及び扁桃体と密接な関係がある・・・。”(強調を付加)。

神経生物学分野で知られているように、例えば、Bannermanのこの総説に示されているように、海馬は、様々な異なる領域に割り当てられた様々な機能を有する。Bannermanはまた、要約で次のように述べている。
”背側海馬は、学習及び記憶のある種の形態、特に空間学習において優先的役割を有しているが、腹側海馬は、不安関連行動に関連した脳過程において優先的役割を有している可能性がある。感情過程における後者の役割は、特に恐怖と関連する扁桃体とも著しく異なっている。”(強調を付加)

したがって、背側海馬は、構造的だけでなく機能的にも、腹側海馬とは著しく異なっている。後者は、扁桃体とも密接に関連しているが、背側海馬に相互投射(reciprocal projection)はない(例えばBannerman (2004)、第275頁、最終段落も参照)。第276頁の最初の段落で、Bannermanは、次のように述べている。

”腹側海馬と、視床下部及び扁桃体の両者との間の強い結合性(connectivity)は、恐怖、及び/又は不安における腹側海馬の役割を提唱する気にさせる。”(強調を付加)

したがって、神経生物学者にとっては、(EP'466特許、例えば図2で評価されているような)マウスの背側海馬は、不安を制御すると知られている領域ではない。さらに、特許出願人"Nestec"は、背側海馬におけるBDNF mRNA発現解析を行い、"不安様行動"とBDNFレベルとの間に関係があるだろうと主張している。そのことは、不安関連行動(不安/恐怖)は、げっ歯類の腹側海馬及び扁桃体によって制御され、EP'499で評価されたように背側海馬によってではないから、誤りである。」(2頁下から8行〜15頁7行)

(25)甲25(特許第5964586号公報)
甲25−1)「【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999を含み、不安及び/又は不安関連障害の治療又は予防のための薬物組成物。」

(26)甲26(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、2002年、第52巻、pp.1945〜1951及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト)(訳文で示す。)
甲26−1)「ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム、及びビフィドバクテリウム・スイスの間の関係を、炭水化物発酵、DNA-DNAハイブリダイゼーション、リボタイピング、及びランダム増幅多型DNA-PCR(RAPD-PCR)により調べた。この研究で使用したB.インファンティス、B.ロンガム、及びB.スイスの株間でのDNA-DNAハイブリダイゼーションのレベルは、最適条件(42℃)で67-81%、ストリンジェントな条件(52℃)で63-85%であった。菌株は種々の炭水化物発酵パターンを示したが、リボタイピング及びRAPD-PCRで、3つの種は3つのタイプ、すなわちインファンティス型、ロンガム型、及びスイス型に分けられた。これらの結果に基づき、B.インファンティス、B.ロンガム、及びB.スイスの菌株は、単一の種内の別個のグループと認識された。分子的方法により、B.インファンティス及びB.スイスは、B.ロンガム(この種はインファンティス型、ロンガム型、及びスイス型の3つのバイオタイプに分けられる)として統一されるべきであると結論された。」(1945頁要約)

(27)甲27(J Epidemiol Community Health、2001年、第55巻、pp.716〜720及び当該雑誌の発行者を示すウェブサイトのプリントアウト)(訳文で示す。)
甲27−1)「研究目的−うつ又は不安は、偶然に予想されるよりも頻繁に潰瘍性大腸炎(UC)又はクローン病(CD)に随伴するか、もしそうなら精神障害は概して炎症性腸疾患(IBD)に先行するか後に続くかを調べること。」(716頁左欄2〜8行)

甲27−2)「結論−UCとの診断前の1年又はそれ以内の、うつ又は不安のリスクの集中は、2つの精神疾患は、未だ診断未確定の胃腸状態の結果かもしれないことを示唆している。しかし、このデータは、この精神疾患はある程度のUC患者における病原学的因子であるかもしれないとの仮説とも両立する。IBDの診断に続いて診断されるほとんどの過剰な不安又はうつは、IBDと診断されてから1年以内に起こり、この精神疾患はIBDの後遺症であるという説明も可能である。」(716頁左欄32〜46行)

(28)甲28(特開平8−205857号公報)
甲28−1)「【発明の名称】 微生物保護剤及び該保護剤を用いた凍結又は凍結乾燥微生物の製造法」

甲28−2)「【0025】次に、試験例を示して本発明を詳述する。
試験例1
この試験は、急速凍結及び緩慢凍結の2種の凍結速度における凍結融解時の各アミノ酸又はそれらの誘導体の乳酸菌類菌体に対する保護効果を調べるために行った。
1)湿菌体の調製
ペプトン(ディフコ社製)1%、酵母エキス(ディフコ社製)2%、グルコ−ス(ディフコ社製)3%、リン酸1水素2ナトリウム(和光純薬工業社製)0.5%、リン酸2水素1ナトリウム(和光純薬工業社製)0.5%を含む液体培地(pH6.5)に、ラクトバシラス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)ATCC11842(ATCCから入手)を接種し、37℃で12時間培養した。培養終了後、培養液から菌体を集菌し、水で洗浄し、再び集菌し、乳酸菌の湿菌体を得た。
【0026】2)試料の調製
この湿菌体を、各1%濃度に調整した表1に示す20種のアミノ酸、グルタミン酸ナトリウム及びリジン塩酸塩(いずれも和光純薬工業社製)の水溶液に、菌体固形分濃度10%の割合で分散した試料、及び同一の湿菌体を同様に水に分散した試料(対照)を調製した。尚、全ての試料のpHを、10%水酸化ナトリウム溶液(ナカライテスク社製)により6.5に調整した。
【0027】3)試験方法
○1凍結方法について
各試料を、液体窒素を用いて急速凍結し、37℃の温湯で融解し、この凍結融解操作を5回反復した試料、及び−30℃の冷凍庫で緩慢凍結した試料を、室温で融解し、後記する方法により生残率を試験した。
○2生残率
各試料の凍結前後の生菌数を常法により測定し、次式から生残率を算出した。生残率(%)=(凍結融解後の試料1g当たりの生菌数/凍結前の試料1g当たりの生菌数)×100
【0028】4)試験結果
この試験結果は、表1に示すとおりである。
・・・
【0031】
【表1】



(29)甲29(Neuroscience and Biobehavioral Reviews、2004年、28、pp.273〜283)(訳文で示す。)
甲29−1)「海馬病変の健忘作用は十分に文書化されており、海馬機能の多数の記憶ベース理論に至っている。しかし、これらの理論に海馬損傷のすべての結果を満足に説明できるかものがあるは、疑問の余地がある。海馬障害は、行動の脱抑制と不安の減少という結果となる。ますます多くの研究は、これらの多様な行動的な影響が異なる海馬小区域と関係しているかもしれないことを示唆する研究が増えている。少なくとも2つの異なった機能的領域の証拠があるが、最近の神経解剖学的研究はこれが過小評価であるかもしれないことを示唆している。選択的な病変研究は、海馬は中隔側頭軸に沿って、それぞれが異なる一連の行動に関連する背側及び腹側領域再分化されることを示している。背側海馬には学習と記憶のある種の形態、特に空間学習において優先的な役割を有しているが、腹側海馬は、不安関連行動に関連した脳過程において優先役割を有している可能性がある。感情過程における後者の役割は、特に恐怖と関連する扁桃体とも著しく異なっている。グレイとマクノートンの説は、これらの明らかに異なった海馬機能をおおむね組み込むことができ、海馬機能の複数の側面についてもっともらしい単一の説明を提供する。」(273頁、要約)

甲29−2)「腹側海馬と行き来する解剖学的結合の正体は、その機能に関する主要な手がかりをきっと提供するに違いない。腹側小領域は解剖学的結合において背側領域とは著しく異なる。腹側は前頭前皮質を投射(project)するが、背側海馬はそうではない(11、49、65、131)。腹側は、視床下部−下垂体−副腎系(HPA)軸と関連する他の皮質下構造と同様に(3、62、118、123、133、)、分界条床核(BNST)及び扁桃体と密接な関係がある(57、72、102、123、129)。」(275頁右欄下から13〜3行)

甲29−3)「腹側海馬と、視床下部及び扁桃体の両者との間の強い結合性は、恐怖、及び/又は不安における腹側小領域の役割を提唱する気にさせ、したがって、もしかすると、いくつかの情動性に対するいくつかの海馬病変作用を説明するかもしれない。」(276頁左欄1〜5行)

(30)甲30(Behavioural Brain Research、2007年、179、pp.1〜18)(訳文で示す。)
甲30−1)「私のマウスモデルの問題点 不安と抑うつの動物モデリングにおける進歩と戦略」(1頁、表題)

甲30−2)「ストレスは、不安やうつの発症に重要な役割を果たす。これらの疾患の動物モデルは、行動神経科学において、ストレスによって誘発される脳の異常の探索、抗不安薬/抗うつ薬のスクリーニング、遺伝子標的動物やトランスジェニック動物の行動表現型の確立に広く用いられている。ここでは、これらの実験モデルの現状について述べ、この分野の技術の現状を分析的に評価する。不安やうつの動物モデルに新しいアイデア、特に新しいパラダイムが不足していることに注目し、既存の課題を再検討し、この分野のさらなる研究の重要な方向性を概説する。」(1頁、要約)

(31)甲31(Drug Discovery Today:Disease Models、2006年、第3巻、第4号、pp.369〜374)(訳文で示す。)
甲31−1)「不安の動物モデル」(369頁、表題)

甲31−2)「不安関連疾患は、世界的にクォリティ・オブ・ライフを低下させる主要な原因となっている。治療法は限られており、不安の分子メカニズムは十分に解明されておらず、優れた不安の動物モデルの必要性が根底にある。ここでは、遺伝子操作、系統の違い、双方向性繁殖、環境介入など、種々のアプローチについて簡潔に概説する。また、様々なアプローチの限界と不安の研究における最適な使用について論ずる。」(369頁左欄1〜10行)

(32)甲32(British Journal of Pharmacology、2011年、164、pp.1129〜1161)(訳文で示す。)
甲32−1)「不安の時代:創薬における抗不安作用の動物モデルの役割」(1129頁、表題)

甲32−2)「不安障害は、世界中でよく見られる深刻な健康問題であり、増加の一途をたどっている。しかし、ほとんどの精神疾患と同様に、不安障害の原因因子、病因および根底にあるメカニズムは依然としてあまり十分には理解されていない。動物モデルは、人間の不安障害の病因、神経生物学、そして最終的には治療法について洞察を得るための重要な助けとなる。しかし、このアプローチには多くの複雑な問題がある。特に、ヒトにおける不安障害の不均一な性質は、関連する多面的かつ描写的な診断基準と相まって、動物モデリングと臨床研究の両方において課題を生み出している。この論文では、既知および潜在的な治療薬の抗不安活性を評価するために、より広く使用されているいくつかのアプローチについて説明する。これらのアプローチには、倫理学的な、葛藤ベースの、食欲減退、発声ベースの、生理学的な、認知ベースのパラダイムが含まれる。また、新しい抗不安薬の開発において研究者が直面している課題、特に不安障害の臨床概念が絶え間なく変化していることなど、トランスレーショナルモデルの特性化における発展も要約されている。結論として、今日まで、不安の動物モデルは割と良い妥当性を有しているが、新しいメカニズムを持つ抗不安薬の出現は遅れている。この状況を変えるとすれば、基礎科学者と臨床科学者の間の相互交流のよりよい調整が必要であることは明らかである。」(1129頁、要約)

甲32−3)「精神神経学的エンドフェノタイプの実験モデルの妥当性の決定には、うつについてMcKenney及びBunney (1969)により提案され、不安障害にも同様に適用可能な標準化された基準を用いることができる。」(1143頁左欄1〜5行)

(33)甲33(Behavioural Brain Research、2018年、352、pp.81〜93、オンライン公開2017年10月16日)(訳文で示す。)
甲33−1)「動物、不安、不安障害 げっ歯類の不安の測定法とその理由」(81頁、表題)

甲33−2)「不安の測定は、創薬、並びに脳機能及び精神状態の理解のために望ましい。動物モデルは、詳細な神経生物学的分析、精神病理学の根底にある脳回路の特異的な要素の実験的操作、および臨床的な可能性を持つ新規な薬剤のスクリーニングの可能性という利点を提供する。現在では、非常に多種の不安モデル動物及び抗不安薬のスクリーニング試験が使用されている。しかし、知識の発展におけるそれらの価値及び薬剤の治療効果を予測することに疑いの余地はないが、その期待は高まっており、新規な薬剤のコンセプトが確立されていないことに対する不満が高まっている。不安試験における動物の行動を妨げ得る多くの因子、及び種々の不安障害の複雑な神経生物学が、各々の特異的な実験条件下における各々の不安試験の検証に高い要求を呈していることが論じられている。不安モデルは、概念が多様であり、モデルの検証および行動の読み取りの選択が神経生物学的モデルに決定的に依存するため、根底にある神経生物学の理論的パラダイムに明示的に関連させなければならない。モデル作製及び不安試験における環境条件には、超音波のようにあまり考慮されていない因子を含めて、一層の配慮が必要である。雄性と雌性での不安神経生物学の違いや、対処法における個体間差に更なる配慮が求められる。」(81頁、要約)

2 乙各号証の記載事項
(1)乙1(The EMBO Journal、(2001)、Vol.20、No.21、pp.5887〜5897)(訳文で示す。)
乙1−1)「グルタミン酸作動性シナプスの高周波刺激後のBDNFのシナプス分泌」(5887頁、表題)

乙1−2)「タンパク質である脳由来神経栄養因子(BDNF)は、長期増強および他の形態の活性依存性シナプス可塑性における逆行性またはパラクリンシナプスメッセンジャーであると仮定されている。この概念にとって重要であるが、BDNFの活動依存性シナプス放出の直接的なエビデンスはない。ここでは、生体海馬ニューロンのグルタミン酸作動性シナプス接合部での樹状突起におけるBDNF‐GFP小胞の蛍光強度の変化をモニタリングすることにより、緑色蛍光タンパク質(BDNF‐GFP)で標識したBDNFの分泌を調査した。グルタミン酸作動性シナプスの高周波活性化がシナプスに局在する分泌顆粒からのBDNF‐GFPの放出を誘発することを示した。この放出はシナプス後イオンチャネル型グルタミン酸受容体の活性化とシナプス後Ca2+流入に依存している。BDNF‐GFPの放出はシナプス外樹状突起の小胞クラスタからも観察され、特定のシナプス部位へのBDNF放出の空間的制限は、シナプス後脱分極が局所的である場合にのみ起こり得ることを示唆した。これらの結果は、BDNFがシナプス後ニューロンから放出される活動依存性シナプス可塑性のシナプスメッセンジャーであるという概念を支持する。」(5887頁左欄、要約)

乙1−3)「長期増強(LTP)は興奮性シナプスの活動依存性シナプス可塑性において広く受け入れられているモデルである。それは哺乳類の脳における記憶形成とシナプス結合の運動依存性再構成の基礎にあると考えられている(Bliss and Collingridge, 1993)。海馬のグルタミン酸作動性シナプスでのLTPの誘導は、高周波によるシナプス前活性化により典型的に誘導され、シナプス後Ca2+流入の臨界値を誘発する。LTPによるシナプス前変化が起こるためには、LTPのシナプス後誘導が成功したことがシナプス前ニューロンに伝達されなければならない。同様に、LTP中のシナプス後変化は、そのようなシナプス伝達物質のオートクリン/パラクリン作用から生じる可能性がある。他の分子の中で、脳由来神経栄養因子(BDNF)は、LTPにおける活性依存性逆行性シナプスメッセンジャーの役割と、頻繁に使用されるグルタミン酸作動性シナプスで局所的に分泌される活性依存性シナプス可塑性の他の形態を果たすものと考えられており、それによりシナプス効率の増強につながる変化を誘導する(参照:Thoenen,1995; Bonhoeffer, 1996; Katz and Shatz,1996)。
ニューロトロフィン[神経成長因子(NGF)、BDNF、NT-3、NT-4/5、NT-6およびNT-7からなる]のタンパク質ファミリーは、末梢神経系(PNS)と中枢神経系(CNS)ニューロンの生存と分化を調節することが知られている(Lewin and Barde, 1996)。近年、BDNFが、シナプス前終末からの伝達物質の放出を促進する(Figurov et al.,1996; Carmignoto et al.,1997; Lessmann and Heumann,1998; Li et al.,1998)か、シナプス後N‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)受容体機能を増強する(Levine et al., 1998)ことにより、海馬シナプス可塑性においてさらなる重要な役割を果たすというエビデンスが蓄積している(Lessmann et al.,1994; Kang and Schuman,1995; Levine et al.,1995)。LTPはBDNFノックアウトマウス(Korte et al.,1995; Patterson et al.,1996)の海馬で障害されるため、これらのデータはBDNFが哺乳類CNSで活性依存的シナプス可塑性を仲介できる候補分子の一つであることを示唆する。
しかし、BDNFがシナプス可塑性における逆行性またはパラクリンのメッセンジャーであるというこのモデルでは、高頻度のシナプス刺激に対して、このニューロトロフィンの活動依存的なシナプス後放出が必要である。この基本的な仮説は直接証明されていない。BDNFとNGFの神経放出は、細胞培養上清のウェスタンブロットと酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析(Blochl(審決注:「o」はoウムラウト。) and Thoenen,1995; Goodman et al.,1996; Canossa et al.,1997; Balkowiec and Katz,2000)、緑色蛍光タンパク質で標識した脳由来神経栄養因子(BDNF‐GFP)のエンドサイトーシス取り込みの免疫細胞化学的検出(Kohara et al.,2001)、海馬ニューロンにおけるBDNF‐GFP蛍光の長期変化の検出(Kojima et al.,2001)によって研究されている。しかしながら、シナプス部位からのBDNF分泌のリアルタイム動力学の測定は以前に行われておらず、BDNF分泌を誘導するために必要なシナプス活性レベルおよびニューロトロフィンのシナプス放出過程におけるCa2+流入の役割は明らかではなかった。
ここでは、生きたグルタミン酸作動性シナプスでのBDNF‐GFP小胞クラスタの蛍光強度の減少としてリアルタイムでBDNF分泌をモニタリングするために、ラット海馬ニューロンの微小培養でBDNF‐GFP融合タンパク質を発現させた。これらの結果は、高周波シナプス刺激がグルタミン酸作動性シナプスのシナプス後構造からのBDNFの放出を誘発することを示した。この放出過程は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体または電位依存性Ca2+チャンネルを介したCa2+のシナプス後流入に決定的に依存しており、BDNFがシナプス可塑性における逆行性またはパラクリン伝達物質である可能性の概念を立証する。」(5887頁左欄下から16行〜5888頁右欄末行)

乙1−4)「BDNF‐GFPのシナプス放出を誘導するために用いた電気刺激パターンは電気生理学的LTP誘導パラダイムに匹敵する(参照:Bliss and Lomo,1973; Kang et al.,1997)。同様に、BDNFがLTPの唯一のメディエーターではないことは確かであるが、BDNFの内因性レベルの低下は、げっ歯類海馬における破傷風誘発性LTPの発現を阻害する(Korte et al.,1995; Kang et al.,1997)。この欠乏は、外因性BDNFの長期供給によって克服できる(Figurov et al.,1996; Korte et al.,1996; Patterson et al.,1996)。しかし、これらの作用がLTPにおけるBDNFの許容的な役割を反映して誘導過程に有利に働くのか、あるいはBDNFの急性放出自体が直接LTPの誘導を誘発するのかは未解決のままであった。テタヌス刺激後の最初の2分以内におけるBDNF‐GFPの活動依存性シナプス後分泌の観察は、短時間スケールでのグルタミン酸作動性シナプス伝達の有効性を増強するBDNFの既知の効果(Lessmann,1998; Schuman,1999)と共に、BDNFが海馬におけるある種の活動依存性シナプス可塑性の誘導を実際に仲介できるという考えを支持する。しかし、高周波刺激後の樹状突起からのBDNF放出がシナプス可塑性の入力特異性を説明するのに十分な空間的制限を伴って起こるかどうかはまだ決定されていない。」(5895頁左欄25〜50行)

(2)乙2(Molecular Psychiatry、(2002)、7、pp.S29〜S34)(訳文で示す。)
乙2−1)「シナプス可塑性および気分障害」(S29頁、表題)

乙2−2)「最近の研究は、学習および記憶のモデルにおける神経可塑性を調節することが知られている分子要素が、うつ病および双極性障害の治療に用いられる薬物の作用にも関与していることを示している。これには、cAMP応答エレメント結合タンパク質などの転写因子および脳由来神経栄養因子などの神経栄養因子のアップレギュレーションが含まれる。これらの知見は、特定の神経回路における神経可塑性の調節が気分障害の治療的介入に統合的に関与する可能性を提起する。クロザピンやオランザピンなどの非定型抗精神病薬も双極性障害の治療に有効であり、また単極性うつ病の追加薬としても使用される。これらの非定型抗精神病薬が、気分障害の治療に用いられる薬物への反応に関与するシナプス可塑性の分子決定因子にも影響する可能性について考察した。」(S29頁、要約)

乙2−3)「序論
神経可塑性の分子および細胞決定因子、特に学習および記憶の基礎となる適応の理解は、著しく進歩がしている。神経可塑性において重要な役割を果たすことが同定されている因子の中には、サイクリックAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)および脳由来神経栄養因子(BDNF)がある。1, 2 これらの因子および関連要素は、辺縁神経回路におけるストレスおよび向精神薬に対する応答を含む適応応答にも関与する可能性がある。3-5 CREBとBDNFの完全性とそれらを制御する経路は、ストレスに対する正常な適応反応やストレスの影響に対する回復力にとって重要である。反復または重度のストレスによる、ないしは遺伝的脆弱性の結果としてのこれらの因子の破壊は、気分障害の病態生理に寄与する可能性がある。最近の研究では、ストレスがBDNFをダウンレギュレートし、CREBの機能を阻害することが明らかになっており、これは気分障害の治療に用いられる薬剤の作用とは逆の作用である。うつ病または双極性障害の治療に用いられる薬物によるこれらの因子の誘導は、それによって、適切な適応的可塑性およびそれらの治療効果に寄与しうる。
臨床研究では、非定型抗精神病薬が双極性障害の治療だけでなく単極性うつ病にも有効であることが示されている(本号のKrystal and Keckによるレビューを参照)。非定型抗精神病薬は多くのモノアミン受容体サブタイプの拮抗薬であり、これらの薬物の治療作用を理解することを目的とした研究の焦点となっている。しかし、CREBとBDNFが抗うつ薬や気分安定薬の作用に関与している可能性があることを考えると、気分障害の治療における抗精神病薬の作用にもこれらの因子や関連因子が関与している可能性がある。本総説の目的は、気分障害の治療と病態生理におけるCREBとBDNFの役割に関する現在の情報を簡単に評価し、非定型抗精神病薬が神経可塑性と生存のこれらメディエータの調節を部分的に介して作用するという仮説を考察することである。」(S29頁左欄1行〜右欄14行)

乙2−4)「



図1 抗うつ薬治療によって調節される受容体後シグナル伝達経路. 抗うつ薬によって調節される細胞内経路の一つはcAMPシグナル伝達カスケードである。急性ではないが反復性の抗うつ治療は、刺激性Gタンパク質(Gs)のアデニル酸シクラーゼ(AC)へのカップリングをアップレギュレートし、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)のレベルを増加させ、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)の機能と発現を増加させる。PKAはCa2+依存性プロテインキナーゼと同様に、特定のアミノ酸残基のリン酸化を介してCREBを活性化する。cAMPまたはCa2+シグナル伝達経路の活性化は神経伝達物質受容体(R)を介して起こる可能性がある。CREBは転写因子であり、cAMP‐CREBカスケードと抗うつ薬投与により調節される遺伝子の一つが脳由来神経栄養因子(BDNF)である。CREBとBDNFの増加は、シナプスリモデリングと神経形成の増加を含む抗うつ薬の栄養効果に寄与する可能性がある。」(S30頁、図1)

乙2−5)「気分障害におけるBDNFの役割
BDNFおよび神経成長因子(NGF)ファミリーの他のメンバーは、発達中のニューロンの分化に重要であるが、成人脳におけるニューロンの生存および可塑性にも寄与する。16, 17 BDNFは、NGF、ニューロトロフィン‐3およびニューロトロフィン-4も含む神経栄養因子ファミリーの中で最も豊富に発現している。BDNFの発現は活性依存性であり、学習と記憶の細胞モデルの根底にあるシナプス可塑性に寄与することが示されている。17 加えて、BDNFの発現は、低酸素症、虚血、神経毒への曝露などの神経損傷によって増加し、これらの状況下で神経保護効果をもたらす可能性がある。16

BDNFの発現は抗うつ薬治療によりアップレギュレートされる
もし構造的変化とシナプスリモデリングが気分障害の病態生理に関与しているならば、これらの障害の治療に用いられる薬物の作用は、これらの変化に拮抗するか、またはこれらの変化を逆転させる作用を含む可能性がある。神経栄養因子のアップレギュレーションは、これらの薬剤がこれらの構造変化に影響することができる1つの機構である。前臨床研究はこの可能性を支持している。NEまたは5‐HT選択的再取り込み阻害剤を含む反復的な抗うつ薬投与は、海馬におけるBDNFの発現を増加させる。18, 19 試験した治療の最大の効果をもたらす電気けいれん発作およびモノアミン酸化酵素阻害剤の投与も、前頭皮質のBDNF発現を増加させる。18 BDNFのアップレギュレーションは反復長期治療に依存し、抗うつ薬の治療作用の時間経過と一致する。この効果の薬理学的特異性は、モルヒネまたはコカインの投与が海馬または前頭皮質におけるBDNF発現に影響しないことでも示されている。抗うつ薬治療は、固定ストレスへの曝露によるBDNFのダウンレギュレーションも遮断する。18
双極性障害および統合失調症の治療に用いられる薬物の神経栄養因子発現に対する影響も調査された。予備研究は、リチウムの長期投与が大脳皮質におけるBDNFの発現を増加させることを示している。10 ハロペリドールの反復投与により、海馬、前頭皮質、扁桃体、腹側被蓋野におけるBNDF発現レベルがわずかに低下する。18, 20, 21 これらの研究の一つは、急性ハロペリドール投与(3日間)がこれらの脳領域の細胞体と線維におけるBDNF免疫染色を減少させるが、長期投与(21日間)後、線維ではなく細胞体における発現が逆転することを示している。21 対照的に、ある研究では、非定型抗精神病薬であるクロザピンの急性または反復投与は、皮質や海馬におけるBDNFの発現に影響しないことが報告されている。22 これらの脳領域におけるNGFの発現は、ハロペリドールの反復投与(14日間)により増加することが報告されている。23 神経栄養因子の調節が抗精神病薬の治療作用または副作用に寄与するかどうかを決定するためには、さらに多くの研究が必要である。BDNF発現に対するリチウムの効果を確認し、他の気分安定薬や非定型抗精神病薬の影響を調べるためにも、さらなる研究が必要である。これらの薬剤がストレスによるBNDFのダウンレギュレーションを遮断するかどうかを特定することも重要である。

BDNFはうつ病の行動モデルにおいて抗うつ作用を示す
抗うつ薬治療によるBDNFの発現に関するこれらの相関知見を拡張するために研究が行われている。これらの研究は組換え型BDNFの脳内注入によって行われた。CREBとは異なり、組換え型BDNFはその細胞外受容体であるTrkBに作用することによって細胞効果を発揮する。浸透圧ミニポンプを介した中脳への7日間のBDNFの投与は、強制水泳および学習無力パラダイムにおいて抗うつ効果を有することが示されている。24 BDNFの中脳注入の抗うつ作用は、5-HT神経伝達の亢進に起因すると考えられている。これは、BDNFが5‐HTニューロンに対する強力な神経栄養因子であるという報告と一致する。25
抗うつ薬が一貫してBDNFを増加させる海馬への直接BDNF注入の影響も調べられている。予備的な報告では、海馬の歯状回顆粒細胞層またはCA3のいずれかへのBDNFの直接注入は、学習された無力感およびうつ病の強制水泳モデルの両方で抗うつ効果を生じたが、CA1、錐体細胞層では認められなかった。26 NT-3投与でも同様の効果が認められたが、NGF投与では認められなかった。この効果は、BDNFまたはNT-3の自発運動に対する有意な効果がないという点で、ある程度特異的であると考えられる。この研究の最も驚くべき側面は、海馬のごく一部にBDNFまたはNT-3を単回局所注入した後に、抗うつ反応が観察されたことである。加えて、この効果は神経栄養因子注入3日後に観察され、少なくとも10日間持続した。これらの結果は、BDNFまたはNT-3の局所単回注入が、化学的抗うつ薬の全身性反復投与と同程度の抗うつ効果を生じ得ることを示す。

気分障害の病態生理学および治療における構造変化
ストレスおよび抗うつ薬投与によるBDNFの調節は、辺縁系回路の構造変化またはリモデリングも生じることを示唆する。この可能性は、ストレス、気分障害および抗うつ薬の前臨床および臨床研究により支持されている。
気分障害における神経萎縮と細胞喪失の前臨床研究では、実験動物に繰り返しストレスを与えると、CA3錐体ニューロンが萎縮したり、重症例では死に至ったりすることが示されている(図2)。27−29 BDNFの発現は、神経萎縮および細胞の喪失に寄与する可能性があり、ストレスによって劇的にダウンレギュレートされることも報告されている。30 臨床試験において、気分障害患者では辺縁系の萎縮や細胞死が認められている。脳画像検査では、うつ病または心的外傷後ストレス障害の患者で海馬の大きさが減少していることが報告されている。31−33 家族性うつ病または双極性障害の患者では、脳梁膝下野の容積が減少する。34 単極性うつ病又は双極性障害患者の側頭皮質では、ニューロン及びグリアの数が減少していることも報告されている。35, 36
大脳辺縁領域におけるニューロンの萎縮および喪失は、ストレス関連気分障害には神経化学的な不均衡と同様に構造的な不均衡があることを示している。これらの構造的異常は、過剰レベルの副腎のグルココルチコイド、グルタミン酸作動性興奮毒性、ウイルス感染、エキソトキシン、低酸素性虚血症または遺伝的変異の結果としてのこれらの因子に対する脆弱性を含む多くの異なる因子に起因する可能性がある。28, 29 生涯にわたってこれらの要因の一つ以上に曝露された場合の累積的影響も、ストレスに対する個人差の基礎となりうる。3, 4 しかしながら、気分障害におけるこれらの構造的異常の程度を決定し、それらが形質または状態のマーカーであるかどうかを決定するためには追加の研究が必要である。

抗うつ治療は成人の神経新生を増加させる
神経新生は、げっ歯類、鳥類および霊長類を含む様々な種の成体脳の選択された領域で報告されている。37, 38 哺乳類では、成体の神経新生は脳室下帯に局在している。脳室下帯では、細胞は吻側移動経路を通って嗅球に移動し、顆粒相では海馬の顆粒細胞層に細胞が生じる。成体海馬におけるニューロンの増殖と生存は極めて動的であり、運動、環境強化、海馬依存性学習およびエストロゲンによりアップレギュレートされる。対照的に、ストレスは成体げっ歯類および非ヒト霊長類の海馬における神経新生を減少させる。27, 39 成体のヒト海馬における成体の神経新生の意義はまだ確立されていないが、この効果はうつ病または心的外傷後ストレス障害患者で観察される海馬の容積減少に寄与する可能性がある。
これらの知見により、気分障害患者における構造的異常の報告と相まって、抗うつ薬治療が成人の神経新生に影響を及ぼすかどうかを決定する研究が促進された。抗うつ薬の反復投与により、海馬の細胞増殖率が有意に上昇することがわかっている(図2)。40 これには、NEまたは5-HT選択的再取り込み阻害薬の反復投与が含まれるが、急性投与は含まれない。この研究では、ハロペリドールの反復投与は神経新生に影響せず、モルヒネの反復投与は海馬神経新生を低下させることが報告されている。41 我々はまた、フルオキセチンの投与が、学習された無力感への曝露から生じる神経形成のダウンレギュレーションをブロックすることを見出した。40 他のいくつかの研究室でも、抗うつ薬による成人の神経新生の誘導が報告されている。42−44 さらに、長期リチウム投与は海馬の神経新生を亢進させる。45 これらの所見は、海馬の神経新生のアップレギュレーションがストレスの影響に対抗し、うつ病患者の脳で観察される萎縮を逆転させるという仮説を支持している。しかし、CA3ニューロンの萎縮は観察された海馬容積の減少に寄与している可能性がある。歯状回とCA3錐体細胞層の両方における海馬ニューロンの数とサイズの追加の死後研究がこの問題に取り組むために必要であろう。
ハロペリドールの長期投与が成体の神経新生に影響することを示す研究があり、1件の研究では増加、もう1件では減少が報告されている。46、47 しかし、高用量のハロペリドールの使用や、研究に選択された初期開発段階は、これらの研究は複雑なものとしている。神経新生の基礎速度またはストレスに反応した神経新生のダウンレギュレーションに対する非定型抗精神病薬の追加研究が必要である。
また、神経新生の調節におけるCREBとBDNFの役割が研究されている。予備研究は、cAMP‐CREBカスケード(すなわち、ロリプラムの投与)の薬理学的活性化が海馬神経新生を増加させることを示している。48 加えて、CREBのドミナントネガティブ変異体のトランスジェニック過剰発現は、成体マウス海馬における神経新生を減少させる。49 これらの知見は、CREBが神経新生に対する抗うつ薬および気分安定薬の作用を媒介できるという仮説と一致している。海馬ニューロンの増殖、分化および生存に対するBDNFの影響も研究されている。

CA3錐体細胞の萎縮
ストレスに反応したCA3錐体ニューロンの萎縮に対する抗うつ薬治療の影響を調べた研究が1件ある。この研究では、非定型抗うつ薬、チアンプチンの反復投与が、拘束ストレスに反応して生じるCA3錐体ニューロンの萎縮を阻害することが報告された。50 同研究でフルオキセチン治療が調査されたが、CA3萎縮には影響しなかったことが認められた。抗うつ薬、気分安定薬および抗精神病薬のさらなる研究は、CA3ニューロンの萎縮に対するこれらの異なるクラスの治療薬の影響をさらに解明するために必要である。CA3樹状突起の萎縮と神経新生の低下の組み合わせは、気分障害患者で観察される海馬容積の低下の基礎となる可能性がある。

今後の展望
気分障害の治療に用いられる薬物の作用におけるCREBおよびBDNFの役割を支持するデータには、いくつかの意味がある。第一に、これらの知見は、CREBに影響を及ぼすcAMPカスケードまたは代替経路を活性化する薬物が潜在的な治療薬となる可能性を有することを示唆する。潜在的な標的には、cAMP経路に正に共役するNEまたは5-HT受容体、およびロリプラムの副作用を有さないPDE4アイソザイムの選択的阻害剤が含まれる。3, 4 第二に、気分障害の治療に使用される他の薬物の作用を理解するための枠組みを提供することが肝要である。これには、単極性うつ病および双極性障害に使用される非定型抗精神病薬が含まれる。第三に、これらの研究は、気分障害は神経化学的不均衡だけでなく、構造的変化やリモデリングによっても起こりうるという仮説を支持している。これらの細胞とシナプスの変化の程度と原因の解明は、この問題に関係する資源と技術的アプローチ以外に制約を受けない。これを踏まえ、今後数年間に重要な進歩を期待することができる。」(S31頁右欄1行〜S33頁右欄本文下から5行)


(3)乙3(Neuropsychopharmacology、(2002)、Vol.27、No.2、pp.133〜142)(訳文で示す。)
乙3−1)「音刺激の提示中に行われたフットショックへの再曝露後の海馬歯状回におけるBDNF mRNAのダウンレギュレーション」(133頁、表題)

乙3−2)「この研究では、雄ラットの海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)mRNAの発現に対するフットショックストレスおよび音刺激の提示中のフットショックへの再曝露の影響を調査した。70dB、5秒の長純音と同時終了する20回の0.5秒、0.4mAのフットショックへの60分を超える曝露は、歯状回BDNF mRNAを21.5%減少させた。ベースラインBDNF mRNAレベルはフットショック曝露後2日までに正常に戻った。0.4mAのフットショックと組み合わされたチャンバーおよびトーンへの60分間の再曝露は、BDNF mRNAを12%低下させた。0.6mAのフットショックと組み合わされた条件付けチャンバーおよびトーンへの60分間の再曝露は、BDNF mRNAを20.8%低下させた。これらのデータは、心理学的および無条件の身体的ストレスが海馬BDNF mRNAを減少させることを示唆している。うつ病、心的外傷後ストレス障害、およびアルツハイマー病などの海馬機能および体積の欠損に関連するストレス関連および他の神経精神医学的障害の関与の可能性を考察した。」(133頁、要約)

乙3−3)「脳由来神経栄養因子(BDNF)は成長因子のニューロトロフィンファミリーのメンバーであり、これには神経成長因子とニューロトロフィン3と4も含まれる。BDNFは、これらの他のニューロトロフィンと同様に、発達中のニューロンの成長と分化に重要な役割を果たし、また成体脳におけるニューロンの生存、機能、および可塑性に寄与する(Lewin and Barde 1996)。このように、BDNFは脳のさまざまな領域でさまざまなメカニズムを介して、学習や記憶などの新たな現象に関与しており(Patterson et al. 1996; Mu et al.1999)、攻撃性などの明白な行動の調節にも寄与している(Lyons et al.1999)。これらの過程に影響を及ぼすBDNFの能力は、部分的には成体脳におけるBDNF発現の活性依存性調節に関連している(Lewin and Barde 1996)。
BDNFはストレスに対する細胞応答や行動応答にも関与していると考えられている(Duman et al.1997,2000)。不動化などの物理的ストレスへの曝露は海馬におけるBDNF発現をダウンレギュレートする(Smith et al.1995, Vaidya et al.1997,1999)。BDNFの発現低下は、ストレスに反応して実験動物の海馬ニューロンの萎縮に役割を果たすと仮定されている(Duman et al.1997,2000)。さらに、BDNFのダウンレギュレーションは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病などの精神障害で観察される海馬病変に寄与する可能性がある(Bremner et al.2000; Mervaala et al. 2000; Vakili et al.2000)。この可能性は、これらの疾患がストレスの多い経験に敏感であるという知見によって支持されている(Breslau et al.1995; Kendler et al.2000)。これらの観察と所見に基づき、心理的ストレスが、報告されている物理的ストレス因子の効果と同様に、海馬におけるBDNF発現に測定可能な影響を与えるかどうかを決定することに興味を持った。
そこで我々は、海馬の歯状回におけるBDNF mRNAレベルに対するフットショックと対になっていた手がかりへの曝露によって生じた心理的ストレスの影響を調査した。フットショックストレスに関連する音刺激への再曝露は、フットショック自体と同様に歯状回におけるBDNF mRNAを減少させると仮定した。結果は、このタイプの心理学的ストレスが、BNDFのダウンレギュレーションをもたらした中立的な音刺激に対する感受性の増加を生じ、他の疾患と同様に、PTSDおよびうつ病と関連している心理学的ストレスが海馬の神経栄養性支持の低下を生じることを示している。」(133頁左欄1行〜134頁左欄28行)

(4)乙4(Biol.Psychiatry、(2005)、57,pp.1068〜1072)(訳文で示す。)
乙4−1)「うつ病患者の血清中の低い脳由来神経栄養因子(BDNF)レベルは血小板反応性とは無関係な血小板BDNF放出の低下に起因する可能性がある」(1068頁、表題)

乙4−2)「背景:最近の報告は、精神疾患における脳由来神経栄養因子(BDNF)の役割を示唆している。大うつ病では血清BDNFレベルの低下が報告されているが、この低下の原因はまだ調査されていない。本研究の目的は、血中BDNFと血小板活性化指数PF4を評価することであった。
方法:大うつ病と診断された43名の無薬剤投与被験者(女性27例、男性16例)と35名の健常対照被験者(女性18例、男性17例)の血漿、血清および血中BDNF含量を評価した。脳由来神経栄養因子とPF4は酵素免疫測定法で測定し、うつ病の重症度はMontgomery‐Asbergうつ病評価尺度で評価した。
結果:血清および血漿中BDNFレベルは対照群に比べてうつ病被験者で減少していた。全血では、BDNFレベルは対照と比較してうつ病被験者で変化しなかった。血清/血液BDNF比は大うつ病被験者で低かった。血清PF4レベルではなく血漿PF4レベルの増加が、対照被験者と比較してうつ病被験者で観察された。
結論:血清あるいは血漿中BDNFの変化は血中BDNFの変化によるものではなく、BDNF放出の機序によるものと考えられた。BDNFの分泌は血小板反応性とは無関係であると考えられ、他の機構も関与している可能性があるため、更なる解明が必要である。」(1068頁、要約)

乙4−3)「脳由来神経栄養因子(BDNF)は、脳と末梢で豊富な、成長因子のニューロトロフィンファミリーの重要なメンバーである。神経系に及ぼす様々な影響が認識されており、神経細胞の成長、分化、シナプス結合、神経細胞の修復と生存などが挙げられる(Lewin and Barde 1996; Lindsay et al 1994)。
発達中のニューロトロフィンとしてのこの古典的な機能に加えて、ストレスおよび大うつ病におけるBDNFの関与も報告されている(Duman et al 1997)。過去10年間に、動物における誘発ストレスと、大うつ病、双極性感情障害、または心的外傷後ストレス障害などのストレス関連のヒトにおける精神病理の両方におけるその役割について、多くの研究で広範に報告されてきた(Altar 1999; Russo-Neustadt 2003; Smith et al 1995)。
初期の報告は、ラット脳におけるBDNF発現がストレスによって調節されることを示した(Smith et al 1995)。それ以来、臨床的および前臨床的証拠に基づくその後の研究は、うつ病のBDNF仮説を支持している。このように、うつ病の動物モデルでは脳BDNF含量の減少が認められた(Angelucci et al 2000; Roceri et al 2002)。ラット脳へのBDNFの外因性適用は抗うつ作用を生じ(Siuciak et al 1997; Shirayama et al 2002)、一方、異なるクラスの抗うつ薬と電気痙攣療法は、BDNFメッセンジャーリボ核酸(mRNA)とタンパク質のストレス誘導性減少を改善した(Altar et al 2003; Russo-Neustadt et al 2001)。
ヒトを対象とした研究からも、うつ病におけるBDNFの役割を支持する予備的データが得られている。死後海馬組織におけるBDNF免疫反応性の増加は、未治療の患者と比較して抗うつ薬治療被験者で観察された(Chen et al 2001)。さらに最近では、Dwivedi et al(2003)が、自殺犠牲者の死後の海馬および前頭皮質におけるBDNFのmRNAおよびタンパク質レベルの低下を報告しており、そのほとんどがうつ病と診断されていた。うつ病におけるBDNFのこの役割は、BDNF遺伝子がうつ病の主要なリスク遺伝子座であることを示す家族ベースの関連研究によって強化されている(Neves-Pereira et al 2002; Sklar et al 2002)。運動活動および不安の遅延または激越などのうつ病関連症状は、このニューロトロフィン系と関連していることが示唆されている(Adlard and Cotman 2003; Miyazaki et al 2004; Pandey et al 1999)。まとめると、これらすべてのデータはうつ病の生物学におけるBDNFの役割を強く支持しており、この問題をさらに広範囲に調査することにつながる。
BDNFは神経系に高濃度で存在するが、その機能がほとんど解明されていないヒトや他の哺乳類の血清中にも存在する(Fujimura et al 2002; Mori et al 2003; Radka et al 1996)。この血液中のBDNFは、基本的に血小板に貯蔵され、活性化または凝固過程を経て血漿中に放出されることが示されている(Fujimura et al 2002; Radka et al 1996)。血中BDNFの別の供給源は、内皮細胞(Nakazaki et al 2000)およびリンパ球(Noga et al 2003)で同定されているが、血小板からのバルク放出と比較するとその寄与は小さいと考えられている。著者らのグループ(Karege et al 2002)を含む最近の報告(Gonul et al 2003; Shimizu et al 2003)は、血清BDNFレベルが対照被験者よりも無薬物投与大うつ病被験者で低いことを示した。統合失調症患者を対象とした別の研究では、血清BDNFの減少が認められたが、全血BDNFには変化がみられなかった(Toyooka et al 2002)。そのため、我々は、BDNFの血清レベルで観察された低下は、大うつ病被験者と対照被験者における全血BDNF含量または血小板放出能の変動性によるのかを調査した。ニューロンおよび細胞培養においてBDNF放出が障害されていると仮定すると、大うつ病で観察される変動は、血中BDNF含量の変化よりも血小板放出の変化に関連している可能性がある。血漿BDNF含有量の評価は、このような変動がin vivoでどのように起こるかを示す可能性もある。さらに、うつ病患者では健常対照者と比較して血小板活性化の変化が認められることが報告されている(Larghissi-Thode et al 1997; Musselman et al 1996)。このため、血小板反応性の指標と考えられる因子である血小板因子4(PF4)を測定することにより、血小板反応性の評価を行った(Kaplan and Owen 1981)。血小板因子4は、α顆粒に貯蔵され、BDNFと同様に血小板活性化時に血漿中に分泌される血小板特異的タンパク質である(Rendu and Brohard-Bohn 2001)。
大うつ病における血清BDNF変化の意義をより明らかにするために、本研究では次の2つの質問に答えることを目的とした。1)うつ病における血清または血漿BDNFの減少は全血BDNFの減少と関連するか。2)回答が「関連しない」の場合、血小板BDNF放出の問題を示唆しているが、この血小板BDNF放出は血小板反応性の変化と関連しているのかどうか。」(1068頁左欄1行〜1069頁左欄26行)

乙4−4)「結論として、著者らは、無薬物投与うつ病被験者における全血BDNF含量の変化なしに、血清および血漿BDNFレベルの減少を確認し、報告した。さらに、この血清BDNFレベルの変化は血小板反応性に依存しない。このため、血小板BDNF放出は、細胞分泌の他の分子機構を含むが、更なる研究が解明に必要である。しかし、血小板は脳細胞ではなく、副次的な現象である可能性も否定できないため、結論を出す前に注意しなければならない。もう1つの限界は、血小板放出の、より直接的な証明がないことであるが、これには別の実験デザインが必要であり、これは著者らの次の研究で使用される。BDNF放出の複雑な生化学を研究することによって、うつ病の複雑な分子機構を解明することができるかもしれない。」(1071頁右欄14〜27行)

(5)乙5(Frontiers in Integrative Neuroscience、29 July 2013、Volume 7、Article 55、pp.1〜11)(訳文で示す。)

乙5−1)「不安障害における脳由来神経栄養因子(BDNF)タンパク質レベル:システマティックレビューとメタ回帰分析」(1頁、表題)

乙5−2)「背景:脳由来神経栄養因子(BDNF)は、ニューロンのシナプス可塑性と生存に関与するニューロトロフィンである。BDNFはいくつかの神経精神疾患の病因に関与すると考えられている。不安障害におけるBDNFレベルの知見は一致していないため、これらの障害におけるBDNFタンパク質レベルを評価する研究のシステマティックレビューとメタ解析を実施することを試みた。
方法:電子データベースを用いてレビューを行い、更なる研究のために関連文献の参照リストを検索した。不安障害におけるBDNFタンパク質レベルを測定し、対照群と比較した研究を含めた。不安障害群と対照群の間のBDNFレベルの差の影響の大きさを計算した。
結果:合計1179人の被験者による8つの研究が含まれた。初期所見は、BDNFレベルが、不安障害のない患者と比較して不安障害のある被験者でより低いことを示唆した[標準平均差(SMD)= -0.94(-1.75, -0.12)、p ≦(審決注:「<」の下に「−」。以下この項では同様。) 0.05]。しかし、これはBDNFタンパク質の供給源[血漿:SMD = -1.31 (-1.69, -0.92), p ≦ 0.01; 血清:SMD = -1.06 (-2.27, 0.16), p ≧ 0.01]、および不安障害の種類[PTSD:SMD = -0.05 (-1.66, 1.75), p ≧ 0.01; OCD:SMD = -2.33 (-4.21, -0.45), p ≦ 0.01]に依存していた。
結論:不安障害患者ではBDNF濃度が低下するようであるが、これは様々な不安障害で一貫しているわけではなく、主にOCDでみられるBDNFレベルの有意な低下によって説明される。結果はさらに、サンプリング方法の違いによって影響されていることが考えられる。しかし、この分野での研究の欠如により知見は限られており、不安障害のバイオマーカーとしてのBDNFの可能性を考えると、その関係をさらに明らかにすることは有用であると考えられる。」(1頁、要約)

乙5−3)「背景
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、末梢および中枢神経系におけるニューロンの増殖、生存および分化を促進するニューロトロフィン(NT)である(Lindsay et al.,1994; Aydemir et al.,2006)。BDNFは脳組織でより濃縮されているが、血流中に存在し、血小板や脳などの異なる起源に由来する(Yamamoto and Gurney, 1990; Radka et al.,1996; Lommatzsch et al.,2005)。BDNFが血液脳関門を通過することが報告されており(Pan et al.,1998)、げっ歯類では末梢血BDNFタンパクレベルと脳内BDNFレベルとの間に正の相関が報告されている(Karege et al.,2002a,b)。このことから、末梢血BDNF濃度が脳内BDNFレベルを反映している可能性が示唆される。BDNFの血中レベルは皮質の完全性と相関することも示されている(Lang et al.,2007)。したがって、臨床設定では、末梢血中レベル(すなわち、血清または血漿)が中心濃度の代用として広く用いられている。
BDNF発現に対する理解は不完全なままであるが、エストラジオールとテストステロンのようなホルモンおよびグルココルチコイド(GC)は、BDNF発現と機能の重要なメディエーターとして浮上しており、コルチコトロピン放出ホルモンおよび他の重要な神経ペプチドの調節のような、BDNFとGCの間の機能的相互作用の示唆がある(Carbone and Handa,2013)。BDNFは視床下部‐下垂体‐副腎系(HPA)を調節する伝達系を介してストレスに対する反応を調節する可能性がある(Smith et al.,1995; Champagne and Meaney, 2001; Duval et al.,2004)。早期生活ストレスは、GCおよびカテコールアミンのようなストレス応答性生物学的メディエーターの反復活性化により成人期まで影響を及ぼし続ける可能性がある(McEwen and Stellar, 1993; McEwen, 1998)。特に、BDNFおよび他の神経栄養因子は、海馬容積に対するストレスホルモンの負の影響を打ち消すと考えられている(Duman,2002; Manji et al.,2003)。BDNFは動物モデルにおいて不安様行動に関与することが示されており、多くのタイプのストレス因子がBDNFの発現低下を引き起こすことが見出されている(Hartmann et al.,2001; Duman,2002; Rasmusson et al.,2002)。
BDNFはまた、いくつかの神経精神疾患の病因に関与していると考えられており、多くの研究が、ヒトにおけるBDNFタンパク質レベルを、主にうつ病との関連において調査している(Karege et al.,2005; Molendijk et al.,2011a)。BDNFには診断特異性はないが、多くの精神疾患でBDNFの変化が認められることから、共通の病態生理学的メカニズムと高い併存率が示唆されている(Sen et al.,2008)。血清BDNF濃度は抗うつ薬の効力と相関し、治療開始後の早期時点で抗うつ薬治療に対する患者の反応を予測することが示されている。例えば、最近のメタ解析では、うつ病患者のBDNFタンパク質レベルは健常対照者と比較して有意に低いことが確認されており(Bocchio-Chiavetto et al.,2010)、BDNF濃度は抗うつ薬による治療後に正常化することが認められている(Brunoni et al.,2008; Sen et al.,2008)。また、初期血清BDNFの非増加とハミルトンうつ病評価尺度の初期での非改善の組み合わせが、最終的な治療失敗を100%の特異性で予測することが示された(Tadic(審決注:cの上に’) et al.,2011)。これらの知見は、BDNF遺伝子のエピジェネティック(メチル化)変化および大うつ病における不十分な抗うつ反応の最近の予備的エビデンスによって反映されている(Tadic(審決注:cの上に’) et al., 2013)。また、これらの知見は、BDNFレベルがうつ病および関連疾患のバイオマーカーである可能性が高く、症状の改善が抗うつ薬治療によって達成される神経可塑性変化と関連しているという考えを支持するものであることを示唆している(Hashimoto,2010)。さらに、BDNFレベルは臨床医が臨床転帰を予測するのに役立つ可能性がある。例えば、Kuritaら(2012)の所見は、血漿BDNFが定期的に測定されている患者で血漿BDNF濃度が低下するか変化しない場合、臨床医は治療戦略を再評価する必要があることを示している。
さらに、ヒトの死後脳を用いた研究では、気分障害や不安障害などのストレス関連の精神病理の病態生理にBDNFが関与していることが示されており(Duman and Monteggia,2006; Carola et al.,2008; Dunham et al.,2009)、Molendijk et al.(2012)のレビューでは、BDNFの発現が精神病理学的特徴に寄与していることが示唆されている。抑うつ障害と不安障害の高レベルの共存性およびそれらの病態生理学における類似性(Kendler et al.,1992, 1995; Klaassen et al.,1998; Maron et al.,2004; David et al.,2009)を考慮すると、不安障害におけるBDNFレベルは抑うつで認められる変化を反映し、末梢バイオマーカーとして潜在的に役立つ可能性があると考えられる。しかし、動物モデルでの不安障害におけるBNDFタンパク質レベル(Chen et al.,2006; Govindarajan et al.,2006; Monteggia et al.,2007)とヒトにおける同疾患のBNDFタンパクレベル(Maina et al.,2010; Molendijk et al.,2011b; Wang et al.,2011)の所見に一貫性は認められなかった。現在まで、不安におけるBDNFタンパク質レベルのメタ解析は発表されていない。これらの所見を明らかにすることは、不安障害の診断および治療におけるBDNF測定の関連性および臨床応用を明らかにする上で重要である。ランダム化比較試験における抗うつ薬治療の指針としての予測的臨床的有用性について、さらなる調査が必要であるが、それは不安障害の治療に意味を持ち、処方のより合理的な根拠を導く可能性があるためである。
そこで、不安障害[急性ストレス障害(ASD)、広場恐怖症(AGP)、全般性不安障害(GAD)、強迫性障害(OCD)、恐怖症、パニック障害(PD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖/社会不安障害(SAD)]におけるBDNFタンパク質レベル[血清、血漿または脳脊髄液(CSF)中]のすべての研究、特に対照試験を系統的にレビューすることを試みた。最初に、BDNFタンパク質レベルについて、不安障害が認められない患者よりも不安障害を呈する患者で低いかどうかを評価し、次に、異なる不安障害に関して効果の特異性があるかどうかを調べた(ASD、AGP、GAD、OCD、恐怖症、PD、PTSD、SAD)。」(1頁左欄1行〜2頁右欄17行)

乙5−4)「考察
我々は、研究課題に関連する研究を同定するために包括的な調査を行い、我々のレビューがこれまでの不安障害におけるBDNFの最も包括的な概観を与えると考えた。研究の同定、データの抽出と合成、および研究の質の評価におけるバイアスを減らすために系統的方法を用いた。最初の結果は、BDNFレベルが不安障害が認められない人と比較して不安障害を呈する患者の間で異なり、不安障害のある患者ではレベルが低いことを示唆した。しかし、これはBDNFタンパク質の供給源に依存していた。血漿検体を用いた試験では有意な影響が認められたが、血清検体を用いた試験では有意な傾向のみが認められた。
血漿所見と血清所見の相違は、血漿と血清の構成の相違に起因している可能性があり、その結果、生理的物質の別々のプールを表している(D’Sa et al.,2012)。実際、うつ病患者を対象とした研究では、血漿BDNFは状態依存性マーカーであり、血清BDNFは形質マーカーである可能性が示唆されている。前述の試験では、抗うつ薬は臨床的改善と一致して血漿中BDNF濃度のみを正常化し、血清中BDNF濃度は変化しなかった(Piccinni et al.,2008)。末梢血中のBDNFは大部分が血小板に貯蔵され、凝固過程で活性化された血小板から血清中に放出されることから、血清中と比較して血漿中のBDNF濃度が低いことが説明される(Rosenfeld et al.,1995; Radka et al.,1996)。さらに、血小板機能の差は、血液からBDNFを放出する能力またはBDNFを隔離する能力によるものであり、血清と血漿のBDNF濃度の差をもたらす可能性がある(Bus et al.,2011)。血漿中または血清中のBDNF濃度が脳内BDNFレベルの適切な代用値であるかどうかについては多くの議論があり、一部の著者は血清BDNF濃度の結果を血漿中または血小板中のBDNFの研究に一般化することはできないと指摘している(Bus et al.,2011)。
適格な研究が不足しているため、異なる不安障害のサブグループ解析はPTSDおよびOCD研究に限定された。PTSDサブグループ解析ではBDNFレベルに群間差は認められなかったが、OCD解析では対照と比較してOCD患者でBDNFレベルの有意な低下が認められた。PTSDにおける血漿研究のみがメタ解析の一般的方向における差を見出したが、2つの血清研究はOCDにおけるこれらの差を見出した。適格な研究が不足しているため、相違がタンパク質源に起因するかどうかを確認するためのさらなる分析はできなかったが、このことは、OCDにおけるBDNFのより強い生物学的影響を示唆している。注目すべきことに、メタ解析からOCDの研究を除外した場合、群間差は他の不安障害ではもはや有意ではなかった。従って、この効果はOCDに限定されると考えられる。
これまで、不安障害患者のBDNFを調べた研究の大半は、Val66Met多型と不安症の発症との遺伝的関連性に焦点を当てており、相反する結果が報告されている(Alonso et al.,2008; Hemmings et al.,2008; Wendland et al.,2008)。血清、血漿、CSFから得られたBDNFタンパク質レベルに焦点を当てたこのレビューとメタ解析の結果から、不安障害の被験者のBDNFレベルが対照群と比較して低下しているのは、OCD患者のBDNFレベルが有意に低下しているためであることが示された。個々の研究で関連性の方向性が異なる、あるいは関連性がないのは、BDNFの採取方法や分析方法(血清、血漿、CSFのいずれのBDNF濃度を測定したか、保存条件、使用したアッセイの種類など)の違い、あるいは集団間の遺伝的な違いによるものと考えられる。また、年齢、BMI、性別および性ホルモン、喫煙、飲酒、身体活動、採血の時間帯、保存期間の月数なども、健康な成人および精神疾患の診断を受けた人のBDNFレベルに影響を与えることがわかっている(Lommatzsch et al.,2005; Trajkovska et al.,2007; Ziegenhorn et al.,2007; Li et al.,2009; Bus et al.,2011; Maina et al.,2010; Ozan et al.,2010; Molendijk et al.,2011a)。
これらの知見は、末梢のBDNFレベルが脳内のBDNF量を反映しているという仮定に基づいており、BDNFの潜在的な供給源は他にもあるため、これには限界があることを念頭に置くことが重要である(Karege et al.,2002b)。循環血中濃度には脳が大きく関与している可能性があり(Rasmussen et al.,2009)、BDNFは血液脳関門を通過することがわかっている(Pan et al.,1998)。したがって、末梢のBDNFレベルは、CNSの神経細胞で発生したBDNFを含んでいる可能性が考えられる(Lommatzsch et al.,2005)。そのため、最近の動物実験では、血中と脳内のBDNF濃度に相関があることが報告されている(Karege et al.,2002a; Sartorius et al.,2009; Klein et al.,2011)が、すべての結果が一致しているわけではない(Elfving et al.,2010; Lanz et al.,2012)。
BDNFはproBDNFとして知られる前駆体タンパク質として合成され、続いて切断されて成熟BDNFを生じる。proBDNFは当初不活性であると考えられていたが、最近では汎ニューロトロフィン受容体p75に結合することにより、多くの生理機能に関与していることがわかってきた(Pang et al.,2004)。実際、神経栄養陰陽仮説では、proBDNFと成熟BDNFは神経可塑性に対して相反する作用を示し、proBDNFはアポトーシスシグナル伝達カスケードを開始し、成熟BDNFはチロシンキナーゼB受容体(TrkB)に結合することによって細胞生存経路を開始すると仮定されている(Lu et al.,2005)。従って、proBDNFと成熟BDNFのレベルを別々に調べることが有益である可能性がある。しかし、本レビューに含まれる研究は、BDNFの2つの型を識別できないELISAを利用した。
また、他の多くの制限が言及されるに値する。第一に、不安障害とうつ病は高度に共存しており、うつ病ではBDNFが低いことを示す証拠があるため、一部の研究にうつ病患者が含まれていることが、患者サンプルにおける血漿BDNF濃度の低下を部分的に説明している可能性がある。しかし、ここではこれは当てはまらず、含まれていた5件の研究のうち4件(Hauck et al.,2010; Maina et al.,2010; Bonne et al.,2011; Wang et al.,2011)では、過去および/または現在のうつ病の存在は有意な影響を示さなかったが、5つ目の研究では、BDNFレベルは実際にはMDD患者で上昇していたことが明らかになった(dos Santos et al.,2011)。
次に、メタ回帰に含まれる2件の研究には、向精神薬による治療を受けている患者が含まれており(Hauck et al.,2010; Wang et al.,2011)、BDNFと向精神薬の使用との関係を調べた先行研究(すなわち、セロトニン再取り込み阻害薬)では、向精神薬はヒトの末梢血BDNF濃度を上昇させることが示されている(Piccinni et al.,2008; Matrisciano et al.,2009)。しかしながら、いずれの試験においても、薬物療法は転帰に有意な影響を及ぼさないようであったことに留意すべきである。第三に、含まれた研究の質は全体的に十分であると判断されたが、全ての研究が潜在的交絡変数と分析におけるそれらの調整について報告したわけではないことを考えると、本研究の知見は慎重に解釈する必要がある。さらに、メタ解析データは、研究間のかなりの不均一性を考えると、慎重に解釈する必要がある。
以上のことから、不安障害では末梢のBDNFが低下するというエビデンスがあるが、これは他の不安障害ではなく、OCDでのBDNFの低下に特異的に起因すると考えられる。しかし、研究数が少なく、ほとんどの研究で被験者数が比較的少ないことや、上述のような制限があることから、不安障害におけるBDNFタンパク質の役割については、現時点ではまだ解明されていない。そのためには、大規模な前向き研究によるさらなるエビデンスが必要である。特に、血清や血漿サンプルの一般性や、末梢のBDNFの測定に至るまでの様々な手順を考慮した研究が求められる。」(7頁左欄6行〜9頁右欄末行)

(6)乙6(欧州特許EP2289527に対する異議申立手続において提出されたPremysl Bercik教授の宣言書本文)(訳文で示す。)
乙6−1)「Premysl Bercik教授の宣誓
私、Premysl Bercikは、私が考案者として名称表示された欧州特許第2 289 527号(以下「本特許」)の件に関して、次のように宣言する。

1. 私はカナダのハミルトンにあるマックマスター大学の医学部の教授である。私は、チェコスロバキアのプラハにあるチャールズ大学で医学の学位を取得後、スイスのローザンヌ大学で消化管運動の神経制御に関する博士号を取得した。私の研究は、腸脳シグナリング、低グレード腸炎症および機能的胃腸障害との関連における腸内細菌の役割に焦点を当てている。私は、消化器病学の研究で25年以上の経験を持ち、Science、Science Translational Medicine、Nature Communications、Nature Reviews Microbiology、Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology、およびGastroenterologyやGutなどの一流専門誌を含む100以上の査読済み科学論文を発表している。私のWeb of Scienceのh-indexは43(7,288件の引用)であり、Google Scholarに関しては50件(11,384件の引用)、28本の論文(100を超える引用)である。私の職務経歴書の写しは本宣誓書に添付されている。

2. 私は、特許請求の範囲に記載されている発明、特に本特許で使用されている不安症マウスモデル、および不安やIBSを含む不安に関連したFGIDを治療するためのB. longum ATCC BAA999の使用に関するいくつかの事項についてコメントを求められた。

3. この宣誓は、私がコメントを求められた問題についての私の真の完全な専門家としての意見を表している。
本特許で使用されている不安症のTrichuris murisモデルは、当該技術分野における容認された不安症マウスモデルである。

4. 本特許で使用されている動物モデルには、低負荷の寄生虫であるTrichuris murisに感染したマウスが含まれている。本特許で報告されているように、これらのマウスは不安様行動を示す。この行動は2つの試験で実証され、どちらもマウスにおける不安様行動を確立するための試験として受け入れられている。最初の試験は光嗜好性(暗い箱/明るい箱)試験である。本試験は、不安様行動を測定するためのゴールドスタンダードの1つとして、当該技術分野で広く説明されている。評価されたパラメータは、明るい箱の中で費やされた総時間、明るい箱に再度入るまでの待ち時間、および交差の回数を含む。不安様行動をとるマウスは、明るい箱にいる時間が短くなり、明るい箱に入る頻度も少なくなる傾向がある。2つ目の試験では、上昇したプラットフォームから降りるまでの待ち時間を測定した(ステップダウンテスト)。不安様行動を示すマウスは降りるまでの待ち時間が長く、抗不安薬による治療後に短縮する。

5. これらの試験は、本特許で使用されているだけでなく、精神疾患および腸脳相関の分野の文献、ならびに不安およびうつ病などの疾患、およびIBSなどの不安に関連するFIGD(審決注:原文の表記のまま)に対する腸内微生物叢の役割の研究においても使用されている。

6. そのような引用の1つに、67の別紙4がある(Bercik et al, Gastroenterology 2010; 139: 2102-2112)。Gastroenterologyは査読付き学術雑誌で、インパクトファクターは19.8である。本誌は、消化器・肝臓内科カテゴリーで80誌中1位となるなど、権威ある評判の高い学術雑誌として広く知られている。本誌に掲載されるためには、論文は査読の対象になる。査読プロセスは、研究成果が一般に公開される前に、それを検証することを目的としている。査読プロセスは、研究技術と結果を検証する。このモデルが、高いインパクトファクターを有する権威ある学術雑誌での発行のために受け入れられたという事実は、本特許および論文で使用されたモデルが、不安症の有効なモデルとして技術分野で受け入れられていることを示し、また、このモデルがIBSのような不安に関連するFGIDと整合的であるという技術分野での受け入れを表している。

7. 検索エンジンのGoogle Scholarによると、この論文は発行以来423回引用されている。引用文献には、さらに一次的な研究論文や腸脳相関に関するレビュー論文が含まれる。これらの論文のいずれもモデルの妥当性を疑問視しておらず、多くの論文が、本特許でも使用されているT.murisモデルを用いて得られた知見を検証している。このことは、T.murisモデルが技術分野で受け入れられていることを示している。

8. 本特許はまた、T.murisに感染したマウスが真の不安様行動を示していると信じる根本的なメカニズム的理由を提供する。D67感染マウスに関して本特許および別紙4の両方で報告されているように、海馬において変化したBDNFレベルを示した。このBDNFレベルの変化は不安様行動と関連していた。下痢の治療に効果があるとされるネガティブコントロールのL. rhamnosus(Li YT et al., World J Gastroenterol. 2019)ではなく、B. longum ATCC BAA999を投与したところ、BDNFレベルと不安様行動の両方が正常化した。BDNFは、不安や抑うつに関連するニューロトロフィン(神経細胞の生存、発達、機能を誘導する成長因子)であることが当分野で知られている(Krishnan & Nestler, Nature 2008のレビュー論文、Martinovic et al, Nature Neuroscience 2007, Zhong et al, Frontiers in Psychiatry 2019の最新原著論文)。

9. 結論として、当技術分野におけるコンセンサス見解は、不安関連FIGDのT.murisモデルの使用を支持し、観察された行動に対する基礎的な機構的説明も、ヒト不安および不安関連FIGDの有効なモデルであるモデルと一致する。」(1頁目1行〜2頁目末行)

乙6−2)「25. 要約すると、本特許は、B.longum ATCC BAA 999が不安に関連したFGIDを適切に治療することができ、B.longum ATCC BAA 999が不安に関連したFGIDの根底にあり、不安に関連したFGIDに寄与する不安に対して説明可能な治療効果を有することを実証するために、同様に不安に関連したIBSと一致する、低悪性度の腸炎症によって引き起こされる不安誘発マウスモデルを使用している。D68の別紙3で報告された後のパイロット試験は、IBSにおける治療効果、抑うつスコアの改善、不安の減少傾向、および患者の抑うつおよび不安に関連する複数の脳領域における活動の非常に有意な変化を示している。

26. 私が表明した意見は、それが言及されている事項に関する私の真の完全な専門的意見を表している。」(6頁目10〜18行)

(7)乙7(J Neural Transm、(2006)、DOI 10.1007/s00702−006−0548−9)(訳文で示す。)
乙7−1)「海馬および扁桃体における神経栄養因子のレベルはC57BL6マウスにおける不安および恐怖関連行動と相関する」(1ページ目、表題)

乙7−2)「行動アッセイの2日後に、海馬および扁桃体における脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)およびニューロトロフィン‐3(NT‐3)の死後定量のためにマウスを屠殺した。行動測定と死後の局所神経栄養因子含量との間に有意な相関が認められた。高架式十字迷路における不安様行動の大きさは背側海馬BDNFレベルと正の相関を示したが、背側海馬および扁桃体におけるNGFレベルとは負の相関を示した。一方、条件付け恐怖反応の発現は、扁桃体BDNFおよびNGFレベル、および背側海馬NGFレベルと正に相関している。」(1頁目左欄5〜15行)

(8)乙8(Clinical Microbiology and Infection、(2005)、Vol.11、No.12、pp.958〜966)(訳文で示す。)
乙8−1)「特定の株のプロバイオティック微生物が宿主に健康上の利益を与え、ヒトへの使用に安全であるという科学的証拠がある。しかし、これらの影響は菌株特異的であるため、この証拠を他の菌株に外挿することはできない。」(958頁、要約8〜10行)

(9)乙10(特表2013−503130号公報)
乙10−1「【0084】
デザイン:
慢性ネズミ鞭虫感染:
雄のAKRマウスに、ネズミ鞭虫(300個の卵/マウス)(n=26)又はプラセボ(n=9)を強制摂取させた。次に、感染マウスに、30日目から10日間、L.ラムノサス、B.ロンガム又は新鮮なMRSを毎日強制摂取させた。非感染マウスは、30日目から40日目まで毎日、新鮮なMRSを強制摂取させた。プロバイオティクス又はプラセボ投与の終了時に、マウスを暗箱/明箱試験及びステップダウン試験に供した。その後、マウスを屠殺し、組織サンプルを得た。大腸サンプルは、組織学的分析用にホルマリンで固定化するか、又はMPO測定用に急速凍結した。脳は液体窒素中で急速凍結し、in situハイブリダイゼーション用に保存した。」

3 引用発明
(1)甲1に記載された発明
甲1には、日本の伝統的ハーブのサプリメントの一つであるEH0202が、閉経前後の女性の更年期症状および身体的症状に与える効果の検証についての記載があるところ(摘示甲1−1)、EH0202の調製及びEH0202が閉経後の女性の更年期症状及び身体的症状である動悸、睡眠困難、ほてり、寝汗を改善した等の実験結果の記載がある(摘示甲1−2〜1−6)。
したがって、甲1には、
「ハーブ活性成分がカボチャ種子、オオバコ種子、ベニバナの花、スイカズラの花の独自のブレンドである日本の伝統的ハーブサプリメント「InterPunch」(サンウェル社製)を1:10w/vで水に添加し、混合物を95±5℃で30分間加熱し、次いで冷却し、さらに抽出物を金属フィルターを用いて遠心分離し、さらに濃縮した抽出物に、ラクツロース、マルチトール、ラクトース、スターチを含む賦形剤および香料を添加混合し、細かい粒子に粉砕した(顆粒サイズ:0.1〜0.2mm)顆粒とビフィドバクテリウム・ロンガムBB536(森永乳業社製)を混合して調製したEH0202と称する物質からなる、閉経後の女性の更年期症状及び身体的症状である、動悸、睡眠困難、ほてり、寝汗の改善剤。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)甲2に記載された発明
甲2には、Bifidobacterium longum BB 536(ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536)含有ドリンクタイプヨーグルトの摂取が便秘傾向者における排便回数及び排便性状に及ぼす影響を検討したことについての記載があるところ(摘示甲2−1)、その実験結果として、ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536を配合したドリンクタイプヨーグルトは便秘傾向者における排便改善効果を有することが示唆された旨の記載がある(摘示甲2−2〜2−5)。
したがって、甲2には、
「便秘傾向者における排便改善効果を有するビフィドバクテリウム・ロンガムBB536を配合したドリンクタイプヨーグルト。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

(3)甲3に記載された発明
甲3には、細菌菌株を対象に投与する過程からなるうつ病の治療方法、プロバイオティック細菌を対象に投与する過程からなり、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法、上記プロバイオティック細菌がビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス等であること、上記疾患が不安障害等であること、食品、錠剤、カプセル又は他の製剤として投与するための、プロバイオティック、又はその活性誘導体、断片若しくは突然変異体からなる医薬組成物についての記載があり(摘示甲3−1)、実施例として、ビフィドバクテリウム35624が、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルを著しく減少し、IL−10及びTGFβの産生を刺激したことが記載されている(摘示甲3−2)。
したがって、甲3には、
「食品として投与するための、ビフィドバクテリウム・インファンティス35624からなる、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルを著しく減少し、IL−10及びTGFβの産生を刺激する、医薬組成物。」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

(4)甲7に記載された発明
甲7には、哺乳動物の炎症を予防又は低減するための治療栄養組成物である医薬の製造におけるビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999の使用、炎症が腸の炎症であること、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999は、例えば、栄養補助食品、食事代替品等の栄養組成物に配合してもよいことについての記載があるから(摘示甲7−1〜7−6)、甲7には、
「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、腸の炎症を含む炎症を予防又は低減するための食用組成物。」の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

4 無効理由1について
(1)「不安障害」について
無効理由1は、本件訂正前の請求項1に記載の「不安」及び「不安関連障害」との用語の技術的意味が明確でないという理由に基づくものであったが、本件訂正により、「不安」は「不安障害」と訂正され、「不安関連障害」は削除された。
この「不安障害」との用語は、本件出願時(原々出願時のこと。以下同様。)の技術常識からみて明確な用語であって、その技術的意味は、請求項の他の記載との関係においても不明確なところはなく、その技術的範囲が不明確であるともいえない。
請求人は、上申書4及び口頭審理陳述要領書(請求人)において、本件訂正により特定された「不安障害」が明確でない旨主張するので、訂正された明細書及び願書に添付した図面との関係についても併せて念のため検討する。

「不安障害」について、本件訂正により訂正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に添付した図面(以下「本件明細書等」という。)には、「しかしながら不安は、ずっと長く、例えば半年以上続くこともあり、治療しなければ、この不安状態が続いてより重症になり精神障害(crippling)になる可能性がある。不安障害は、アルコール乱用や薬物乱用等の、他の精神疾患又は身体的疾患と一緒に生じることもある。代表的な不安障害は、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖症(即ち社会不安障害)、特定恐怖症及び全般性不安障害(GAD)である。」との記載されているところ(【0002】)、不安障害については、本件出願前に頒布された刊行物であり、当該技術分野のテキストといえる甲13−1には、「精神障害の診断と統計の手引き第4版(テキスト改訂版)(DSM-IV-TR)1は、社交不安障害(SAD)、パニック障害(PD)、強迫性障害(OCD)、全般性不安障害(GAD)、及び心的外傷後ストレス障害(PTSD)として、5つの主要な不安障害を定義している。」との記載(摘示甲13−1−1)が、本件出願後の刊行物であるものの乙5には、「不安障害[急性ストレス障害(ASD)、広場恐怖症(AGP)、全般性不安障害(GAD)、強迫性障害(OCD)、恐怖症、パニック障害(PD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖/社会不安障害(SAD)]」(摘示乙5−3)との記載があるとおり、本件出願時に当業者がその技術的意味を把握することができる明確な語であり、本件明細書等の上記記載事項は甲13−1及び乙5に記載の技術的内容とも整合しているといえる。
よって、「不安障害」との語は不明確な点は存在せず、請求項1〜11の特許を受けようとする発明は明確である。

(2)請求人の主張について
請求人は、被請求人は「「不安障害」は「不安」の下位概念である。」(訂正請求書5頁20〜21行)と述べているが、不安は不安障害の下位概念であるとはいえず、一般的に使用されている「不安障害」と同一の概念であるか、明細書の記載からは理解することはできず、不明確であること(口頭審理陳述要領書(請求人)2頁7行〜3頁11行)、仮に請求項に記載の「不安障害」が本件明細書等に記載の「不安障害」と同義であるとすると、本件明細書等には「現在利用できる不安関連障害の治療法はいくつかある。一般的には、不安障害は抗うつ薬、抗不安薬又はβ遮断薬等の薬物で治療する。」(【0003】)との記載からは、ここでいう一般的な不安障害は抗うつ薬で治療され得る障害、すなわちうつ病を含むことになるが、本件訂正により、うつ病を含む不安関連障害が除かれているから、被請求人によれば不安障害である「不安」と「不安関連障害」が区別できる概念であるのか重複する概念なのか不明確であること等(上申書4、11頁16行〜13頁末行)を主張する。
しかしながら、一般に不安障害は不安の下位概念であるといえないことは請求人の主張のとおりであるとしても、そのことが「不安障害」が不明確であることの根拠とはならず、上記(1)で摘示して述べたとおり、「不安障害」について、本件明細書等の不安障害についての記載と甲13−1に記載されるとおりの本件出願時の技術常識とに何ら矛盾する点はなく、請求項に記載の「不安障害」は一般的な「不安障害」と同一の技術的意味を有するといえる。
また、一般に「不安障害」と「うつ病」が異なる疾患であることは技術常識であり、(1)において検討したこと、及び本件明細書等にも不安障害にうつ病が含まれるとの記載はないことからも、本件発明における「不安障害」が「うつ病」を含む概念であるとはいえないから、不安障害が抗うつ薬で治療できるからといって、本件発明の「不安障害」にうつ病が含まれるとはいえず、したがって、不安障害と不安関連障害が区別できないともいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(3)まとめ
したがって、無効理由1には理由がない。

5 無効理由2について
(1)判断の前提
物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法及び使用することについての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

(2)本件明細書等の記載
本件明細書等には以下の記載がある。

本1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的にはプロバイオティクスを含む食用組成物に関する。より具体的には、本発明はビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999を含む食用組成物、並びに海馬BDNF発現の増加及び/又は不安及び関連障害の治療若しくは予防のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
18歳以上のアメリカ人の成人約4千万人が不安障害に冒されている。これは平均すると成人人口の約18%を意味している。短期間の不安は、例えば試験又は少し恥ずかしいと思われる状況等のストレスのたまる出来事によって生じる場合がある。しかしながら不安は、ずっと長く、例えば半年以上続くこともあり、治療しなければ、この不安状態が続いてより重症になり精神障害(crippling)になる可能性がある。不安障害は、アルコール乱用や薬物乱用等の、他の精神疾患又は身体的疾患と一緒に生じることもある。代表的な不安障害は、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖症(即ち社会不安障害)、特定恐怖症及び全般性不安障害(GAD)である。
【0003】
現在利用できる不安関連障害の治療法はいくつかある。一般的には、不安障害は抗うつ薬、抗不安薬又はβ遮断薬等の薬物で治療する。」

本2)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら本発明者らは、不安、不安関連障害及び/又は神経変性障害の、治療及び/又は予防における有効性は、用いる細菌の属、種及び株によって異なることを見出した。
【0013】
したがって、最新の技術水準を向上させること、及び特に、不安、不安関連障害又は神経変性障害等の、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすことが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはこのニーズに取り組んできた。本発明者らは、本独立クレームの主題によってこの目的が達成できるとわかって驚いた。本従属クレームでは、本発明のアイデアをさらに発展させている。
【0015】
したがって本発明の一実施形態は、ビフィドバクテリウム・ロンガム、特にビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999を含む食用組成物である。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は市販されている。
【0016】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999(BL999)は、例えば日本の森永乳業株式会社からBB536の商標で入手することができる。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999(BL999)は、任意の好適な方法に従って培養することができ、カプセル化用、又は例えば凍結乾燥形態若しくはスプレー乾燥形態の生成物への付加用に調製することができる。
・・・
【0018】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999が特に有効であることがわかった。」

本3)「【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】黒箱/明箱試験:明箱内で過ごした合計時間及び再び明箱に入るまでの潜時、並びにネズミ鞭虫(Tm)に感染したマウスのステップダウン試験の結果を示す図である。Tm−培地及びTm−B.ロンガムは、それぞれ新鮮な培地(陰性対照)及びビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したTm感染マウスであり、L.ラムノサス(L.rh)株で処理したTm群を比較のために示す。
【図2】ネズミ鞭虫(Tm)に感染したマウスの脳の海馬領域におけるinsituハイブリダイゼーションの結果を示す図である。Tm−B.ロンガムは、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したTm感染マウスであり、L.ラムノサス株で処理したマウスのTm群を比較のために示す。オートラジオグラフィー及び画像解析により、35Sシグナルの定量化を行った(右上パネル)。
【図3】ネズミ鞭虫(Tm)に感染したマウスにおける、ミエロペルオキシダーゼ活性測定で測定した大腸炎症(左パネル)及び単核細胞浸潤(右パネル)によって得られた結果を示す図である。Tm−培地及びTm−B.ロンガムは、新鮮な培地(陰性対照)及びビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したTm感染マウスであり、L.ラムノサス株で処理したマウスのTm群を比較のために示す。
【図4】黒箱/明箱試験:明箱内で過ごした合計時間及び再び明箱に入るまでの潜時、並びに慢性DSS誘発性大腸炎を有するマウスのステップダウン試験の結果を示す図である。DSS−培地及びDSS−B.ロンガムは、それぞれ、新鮮な培地(陰性対照)又はビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したDSS誘発性大腸炎を有するマウスである。
【図5】慢性DSS誘発性大腸炎を有するマウスの脳の海馬領域におけるinsituハイブリダイゼーションの結果を示す図である。DSS−培地及びDSS−B.ロンガムは、それぞれ新鮮な培地(陰性対照)又はビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したDSS誘発性大腸炎を有するマウスである。35Sシグナルの定量化は、オートラジオグラフィー及び画像解析により行った(右上パネル)。
【図6】慢性DSS誘発性大腸炎を有するマウスにおける、ミエロペルオキシダーゼ活性測定で測定した大腸炎症(左パネル)及び単核細胞浸潤(右パネル)によって得られた結果を示す図である。DSS−培地及びDSS−B.ロンガムはそれぞれ、新鮮な培地(陰性対照)又はビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999で処理したDSS誘発性大腸炎を有するマウスである。
【図7】慢性DSS誘発性大腸炎を有し、さらに新鮮な培地(MRS、陰性対照)又は様々なビフィドバクテリウム種で処理したマウスで実施した不安様行動試験(ステップダウン試験)の結果を示す図である。試験をしたB.ロンガム株はビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999であり、B.ラクティス株、B.アニマルス(B.animals)株及びB.インファンティス株によって得た結果を比較のために示す。
【図8】マウスの慢性ネズミ鞭虫感染、慢性DSS大腸炎、行動試験及びステップダウン試験を示す。」

本4)「【発明を実施するための形態】
【0020】
「食用」(“edible”)とは、ヒト又は動物による摂取が認可されている物質を意味する。
【0021】
「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999」という用語は、細菌、細菌の一部分及び/又は細菌で発酵させた増殖培地を含むことを意味している。
【0022】
食用組成物は薬剤であってもよいが、食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品(dietarysupplement)、栄養補助食品(nutraceutical)及び/又は飲料であることが好ましい。
・・・
【0025】
本発明に適用可能な食物製品としては、ヨーグルト、ミルク、フレーバーミルク、・・・が挙げられる。
【0026】
したがって、一実施形態において、本発明の組成物はヒト、ペット又は家畜用の食物製品である。・・・
【0027】
本発明の組成物は、保護親水コロイド(ゴム、タンパク質、加工デンプン等)、結合剤、被膜剤、・・・をさらに含有していてもよい。また本組成物は、・・・従来の医薬品添加物及び補助剤、賦形剤、並びに希釈剤を含有していてもよい。・・・
【0039】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本組成物は、少なくとも1種の他の種類の他の食品用微生物を含む。
【0040】
「食品用」(“food grade”)微生物とは、食品に使用しても安全な微生物である。
【0041】
食品用微生物は、好ましくは食品用細菌又は食品用酵母である。食品用細菌は、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオニバクテリア又はそれらの混合物からなる群より選択することができる。食品用酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビシエ及び/又はサッカロマイセス・ブラウディを用いることができる。
・・・
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、組成物は少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する。「プレバイオティクス」とは、腸内のプロバイオティクス細菌の増殖を促進するための食品物質を意味する。
・・・
【0048】
好ましくは、プレバイオティクスはオリゴ糖類からなる群より選択され、場合によりフルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/若しくはイヌリン、食物繊維、又はそれらの混合物を含有する。
【0049】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は、不活化菌種としてだけでなく生きた細菌としても用いることができる。
【0050】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の少なくとも一部分は、組成物中で生きていることが好ましく、腸内に生きて届くことが好ましい。このようにビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は腸内で生き残ることができ、増殖によってその有効性を増大させることができる。またビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は、共生細菌及び/又は宿主と相互作用することによって有効になることもできる。
【0051】
例えば特殊な滅菌した食物製品用又は薬剤用には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は組成物中で生きていないことが好ましい場合もある。ゆえに、本発明の一実施形態において、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の少なくとも一部分は組成物中で生きていない。
【0052】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999は、いかなる濃度でも有効となろう。
【0053】
本発明の組成物については、組成物の日用量には104〜1012cfu(コロニー形成単位)のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999が含まれていることが通常好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の特に好適な日用量は、105〜1011cfu、より好ましくは107〜1010cfuである。
【0054】
また本発明の組成物は、組成物の乾燥重量1グラム当たり、102〜1010cfu、好ましくは103〜108コロニー形成単位、より好ましくは105〜108cfuのビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999を含んでいてもよい。
【0055】
不活化ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の場合、本発明の組成物は、組成物の乾燥重量1グラム当たり、102〜1010のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の非複製細胞を含んでいることが通常好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の特に好適な用量は、組成物の乾燥重量1グラム当たり103〜108の非複製細胞、より好ましくは105〜108の非複製細胞である。」

本5)「【0056】
本発明者らは、本発明の組成物を首尾よく使用することにより、海馬BDNF発現を著しく増加させることができることを見出して特に驚いた。
【0057】
BDNF(脳由来神経栄養因子)は、神経細胞及び非神経細胞の増殖、分化、生存及び死に影響を及ぼすポリペプチド成長因子の独特のファミリーに由来する成長因子である。BDNF並びにその他の神経栄養因子、例えば、NGF(神経成長因子)、NT−3(ニューロトロフィン−3)及びNT−4(ニューロトロフィン−4)は、神経系の健康と安寧に必須であり、細胞生存におけるそれらの役割だけでなく、学習、記憶、行動等の高次活動を仲介する。ニューロトロフィンレベルの変化は、アルツハイマー病、ハンチントン病及びパーキンソン病等の神経変性障害、並びにうつ病及び物質乱用を含む精神障害に関与してきた(Chaoら、2006、Clin.Sci.、110:167−173)。
【0058】
したがって本発明の一実施形態は、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA −999を含む食用組成物、及び/又は海馬BDNF発現を増加させるためのその増殖培地である。
【0059】
本発明は、海馬BDNF発現を増加させる製剤を調製するための上記の組成物の使用にも関する。」

本6)「【実施例】
【0068】
寄生虫ネズミ鞭虫に慢性的に感染したマウスは、2つの行動試験で不安様行動の増加を示した。1)黒箱/明箱試験では、感染動物は明箱内で過ごした時間の減少、及び再び明箱に入るまでの潜時の増加を示し、2)ステップダウン試験では、感染によって台から降りる(ステップダウン)までの潜時が増加した(図1)。行動に与える影響は、B.ロンガムで処理したマウスのみで観察された、ネズミ鞭虫の介在による海馬のBDNFレベル低下の正常化と相関関係にあった(図2)。一方で、B.ロンガムでの処理がL.ラムノサスでの処理と同様に、ネズミ鞭虫感染によって既に誘発されていたミエロペルオキシダーゼ活性及び単核細胞浸潤が減少するという結果になり(図3)、これによって行動の正常化は細菌の抗炎症作用とは無関係であることが示された。
【0069】
B.ロンガムの作用は、慢性DSS誘発性大腸炎のマウスモデルにおいて確認された。ネズミ鞭虫感染の影響ほど重要ではないにしても、DSSは不安を増加させ(図4)、且つ海馬のBDNFレベルを低下させる傾向があった(図5)。黒箱/明箱試験での、明箱内で過ごした合計時間の増加及び再び明箱に入るまでの時間の減少並びに横断回数(図4)から、またステップダウン試験で観察された、台から降りるまでの潜時の減少(図4)からも明らかなように、DSS−マウスをB.ロンガムで処理すると不安が減少して対照マウスのレベルよりもさらに下回った。さらに行動試験によると、B.ロンガムで処理すると海馬のBDNFレベルが増加して基礎レベルを上回った(図5)。ネズミ鞭虫感染のモデルで観察されたものと同じように、B.ロンガムによって大腸炎症が減少した(図6)。
【0070】
変化した行動を正常化させるB.ロンガムの能力が他のビフィズス菌にも共通のものかどうかを判定するため、本発明者らは、DSS誘発性大腸炎のモデル及びステップダウン試験(図7)を用いて、B.ロンガムが行動に与える影響を、他の3つのビフィドバクテリウム種−1つはB.ラクティス、1つはB.アニマリス、及び1つはB.インファンティス−と並行して測定した。B.ロンガムを除き、試験した他のビフィドバクテリウム種はどれも台から降りるまでの潜時をできず、B.ロンガムのこの独特な性質をビフィドバクテリウム属の他の種にあてはめて推定することは不可能であることを明確に示している。
【0071】
材料及び方法:
細菌培養条件
プロバイオティクスを嫌気的条件下にてMan−Rogosa−Sharpe(MRS、BioMerieux)ブロス(0.5%システインを含むビフィズス菌)で増殖させた。37℃にて24時間後、600nm(1OD600=108細菌/mL)における光学密度を測定することにより細菌数を推定した。4℃にて15分間5000×gで遠心分離することにより細菌細胞をペレット化し、さらに濃度1010/mLで使用済み培地に再懸濁させた。1mLずつに分注したものを、使用するまで凍結保存した。
【0072】
動物
雄のBALB/cマウス又はAKRマウス(Harlan、Canada)は6〜8週齢の購入品であり、McMasterUniversityCentralAnimalFacilityの特定病原菌がいない通常ユニットに収容した。すべての実験はMcMasterUniversityAnimalCareCommitteeの承認を得て行った。
【0073】
設計
慢性ネズミ鞭虫感染(図8、パネルA参照):
雄のAKRマウスに、ネズミ鞭虫(300卵/マウス)(n=26)又はプラセボ(n=9)を強制摂取させた。次いで感染マウスに30日目から10日間、L.ラムノサス、B.ロンガム又は新鮮なMRSを毎日強制摂取させた。非感染マウスに、30日目から40日目までの毎日、新鮮なMRSを強制摂取させた。プロバイオティクス投与又はプラセボ投与の最後に、マウスを黒箱/白箱試験及び/又はステップダウン試験に供した。その後マウスを犠牲にして組織サンプルを得た。大腸サンプルは、組織学的解析用にホルマリンで固定するか、又はMPO測定用に急速凍結した。脳を液体窒素で急速凍結し、insituハイブリダイゼーション用に保存した。
【0074】
慢性DSS大腸炎(図8、パネルB参照):
雄のAKRマウス(n=20)を、3サイクルの3%デキストラン硫酸ナトリウム(MPBiomedicals、Solon、Ohio、USA)で処理した(1サイクルは1週間のDSSとそれに続く1週間の休薬期間からなる)。追加のマウスのグループ(n=10)にはプラセボ飲料水しか与えなかった。感染マウスに、DSS処理の最後のサイクルの2週間の間毎日、B.ロンガム又はその他のビフィズス菌を強制摂取させた。対照マウスに2週間MRSで毎日強制摂取させた。プロバイオティクス投与又はプラセボ投与の最後に、マウスを黒箱/白箱試験及び/又はステップダウン試験に供した。その後マウスを犠牲にして組織サンプルを得た。大腸サンプルは、組織学的解析用にホルマリンで固定するか、又はMPO測定用に急速凍結した。脳を液体窒素で急速凍結し、insituハイブリダイゼーション用に保存した。
【0075】
行動試験
黒箱/明箱(図8、パネルC参照):
マウスの不安行動を、文献に記載されているように黒箱/白箱を使用して個々に評価した。簡単に述べると、開口部(10×3cm)によってより小さい黒箱(30×15cm)とつながった照明のついた白箱(30×30cm)の中心に各マウスを置いた。白箱内での各マウスの運動行動をデジタルビデオカメラで10分間記録し、オフライン解析用にコンピュータに保存した。白箱内で過ごした合計時間、再び白箱に入るまでの潜時(最初に黒箱に入った後に黒箱内で過ごした時間)、及び横断回数(黒箱から白箱に渡った回数)を含むいくつかのパラメータが、盲検観察者によって評価された。
【0076】
ステップダウン試験(図8、パネルD参照):
不安行動を、文献に記載されているようにステップダウン試験を使用して評価した。簡単に述べると、各マウスを黒い床の中央に位置する高い壇(直径7.5cm、高さ3cm)の中心に置いた。台から降りるまでの潜時をストップウォッチで測定した。試験の最大持続時間は5分間であった。
【0077】
組織検査
大腸サンプルを10%のホルマリンに固定し、次いでヘマトキシリン−エオシンで染色した。スライドを光学顕微鏡法で観察し、急性及び慢性炎症性浸潤に類別した。
【0078】
ミエロペルオキシダーゼ活性測定
急性腸炎を評価するために、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性測定を、以前に記載されているように凍結組織で行った。MPO活性は組織1mg当たりの単位で表し、MPO1単位は1μmolの過酸化水素を1分間に室温で水に変換できる酵素の量と定義する。
【0079】
CNSでのinsituハイブリダイゼーション
海馬のBDNFレベルを、以前に記載されているように(Whitfieldら、1990;Fosterら、2002)、35S−標識RNAプローブを用いて凍結脳切片でのinsituハイブリダイゼーションで評価した。簡単に述べると、脳を除去し、−60℃の2−メチルブタンに浸漬させて急速に凍結させ、−70℃で保存した。クリオスタットで切った厚さ12μmの冠状の切片を、ゼラチンコーティングしたスライド上に解凍して載せ、乾燥させ、−35℃で保存した。組織切片を4%ホルムアルデヒドで固定し、0.1Mトリエタノールアミン−HCl中0.25%無水酢酸、pH8.0、でアセチル化し、脱水し、クロロホルムで脱脂した。α−35S−UTP(比活性>1000Ci/mmol;Perkin−Elmer、Boston、MA)を使用したリボプローブシステム(RiboprobeSystem)(PromegaBiotech、Burlington、ON)、並びにT3及びT7ポリメラーゼをそれぞれに用いて、アンチセンスBDNFリボヌクレオチドプローブを線状プラスミドから転写した。放射性標識プローブをハイブリダイゼーション緩衝液(0.6MNaCl、10mMトリスpH8.0、1mMEDTApH8.0、10%硫酸デキストラン、0.01%剪断サケ精子DNA、0.05%トータル酵母RNA、XI型、0.01%酵母tRNA、1×デンハルト溶液)中に希釈し、脳切片(約500,000CPM/切片)に適用した。スライドを加湿チャンバー中にて55℃で一晩インキュベートした。プローブの非特異的結合を減少させるため、スライドを室温で30分間20μg/mlリボヌクレアーゼ溶液中で洗浄し、その後50℃の2×SSC、55℃及び60℃の0.2×SSC中でそれぞれ1時間洗浄した。スライドを脱水し、オートラジオグラフィー用に風乾させた。スライド及び14Cプラスチック標準物質(plasticstandard)をX線カセットの中に置き、5日間フィルム(バイオマックスMR(BioMaxMR);EastmanKodak、Rochester、NY)に並置し、現像した(コダックメディカルX線プロセッサ(KodakMedicalX−RayProcessor))。脳切片及び標準物質のオートラジオグラフィーのフィルム画像を、Qキャプチャー(QCapture)ソフトウェア(Qアイカム(Qicam);QuorumTechnologiesInc.、Guelph、ON)を用いた60mmニコンレンズ付きの固体カメラ、及びイメージ(Image)ソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/nih−image)を用いたマッキントッシュコンピュータベースの画像解析システムでデジタル化した。モニター上に構造の輪郭を描くことによってフィルムの光透過率を測定した。BDNFmRNAに関しては、標準物質に適用したRodbard曲線を用いて透過率を放射能レベルに変換した。次に算出したDPMに面積を乗じて積分密度の測定値を出した。図示は、取り込み画像から直接行った。
【0080】
統計解析
データは適宜、平均値±標準偏差、又は中央値と四分位範囲で示す。データは適宜、二元配置ANOVA、検定又は対応のないt検定のいずれかを用いて解析した。p値が<0.05の場合に統計的に有意と見なした。」

本7)「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】



(3)判断
本件発明1は、「有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、不安障害の治療又は予防のための食用組成物。」である。
発明の詳細な説明には、不安状態が続いてより重症になり精神障害(crippling)になる可能性があること、代表的な不安障害は、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社会恐怖症(即ち社会不安障害)、特定恐怖症及び全般性不安障害(GAD)であること(以上、摘示本1)、不安、不安関連障害又は神経変性障害等の、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすことが本発明の目的であること、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999が特に有効であることがわかったこと(以上、摘示本2)が記載されている。
また、発明の詳細な説明には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の入手方法、調製、食用組成物の各種態様についての記載があり(摘示本2、本4)、本発明の組成物が海馬BDNF発現を著しく増加させることができることを見出したことが記載されている(摘示本5)。
そして、実施例として、寄生虫ネズミ鞭虫に慢性的に感染したマウスが、黒箱/明箱試験及びステップダウン試験の2つの行動試験で不安様行動の増加を示したところ、行動に与える影響は、B.ロンガム(実施例及び図面においては、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999のこと。以下同様。)で処理したマウスのみで観察され、ネズミ鞭虫の介在による海馬のBDNFレベル低下の正常化と相関関係にあった(図2)こと、一方で、B.ロンガムでの処理が、L.ラムノサスでの処理と同様に、ネズミ鞭虫感染によって既に誘発されていたミエロペルオキシダーゼ活性及び単核細胞浸潤が減少するという結果になり(図3)、これによって行動の正常化は細菌の抗炎症作用とは無関係であることが示されたことが記載されている(摘示本3、本6、本7)。
さらに、B.ロンガムの作用が慢性DSS誘発性大腸炎のマウスモデルにおいて確認されたこと、ネズミ鞭虫感染の影響ほど重要ではないにしても、DSSは不安を増加させ(図4)、且つ海馬のBDNFレベルを低下させる傾向があった(図5)こと、黒箱/明箱試験での、明箱内で過ごした合計時間の増加及び再び明箱に入るまでの時間の減少並びに横断回数(図4)から、またステップダウン試験で観察された、台から降りるまでの潜時の減少(図4)からも明らかなように、DSS−マウスをB.ロンガムで処理すると不安が減少して対照マウスのレベルよりもさらに下回ったこと、さらに行動試験によると、B.ロンガムで処理すると海馬のBDNFレベルが増加して基礎レベルを上回った(図5)こと、ネズミ鞭虫感染のモデルで観察されたものと同じように、B.ロンガムによって大腸炎症が減少した(図6)ことが記載されている(摘示本3、本6、7)。
以上指摘したとおりの、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識から、当業者はビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む食用組成物の製造方法を理解することができるといえる。
また、本件明細書等の記載及び本件出願時の技術常識からみて、不安障害は不安を伴いかつ不安により生じ、治療対象となる精神障害であるといえるところ、発明の詳細な説明には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安様行動を正常化することが具体的に記載されているといえるから、当業者は、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効な成分であると認識でき、不安障害の治療又は予防のための食用組成物として使用できることが理解できる。
してみると、本件発明1の食用組成物について、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を製造し、使用することができるといえる。
よって、本件発明1について、発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

本件発明1を引用する本件発明2〜11についても同様である。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書52頁10行〜59頁末行、上申書4、14頁1〜13行等、口頭審理陳述要領書3頁12行〜11頁下から4行等、上申書5において、概要、以下の点を指摘して、本件発明1〜11は実施可能要件を満たしていない旨を主張している。
(i) 本件明細書等の記載は、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は海馬BDNF発現を増加させることができ、BDNFは神経性障害や精神障害に関与するから、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は不安、及び/又は不安関連障害並びにそれらの症状の治療又は予防のために用いることができる、という三段論法である(審決注:この主張は本件訂正前の審判請求書においてされたものである。)ところ、B.ロンガムとある種の不安様行動、及び、B.ロンガムと海馬BDNFレベルとの関係は、一応示されてはいるものの、不安様行動と海馬BDNFレベルとの関係については直接示されておらず、甲9には、鞭虫感染によって低下した海馬BDNFレベルを全く改善していない一方、鞭虫感染によって変化した不安様行動が改善されていることが示されているから、前記三段論法は必ずしも成り立たないこと。
たとえ不安様行動が正常化されたとしても、不安障害を治療できるとは到底いえないこと。

(ii) 本件明細書等の実施例で使用された鞭虫感染マウスは、甲18の記載からみて、鞭虫感染における獲得免疫を評価するモデルであり、同慢性DSS誘発性大腸炎マウスは、甲19の記載からみて、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患病理のモデルであって、いずれも不安障害、不安又は不安関連障害を持つヒトのモデルとして使用できるという根拠はないこと。
また、本件特許明細書【0068】の「行動の正常化は細菌の抗炎症作用とは無関係であることが示された。」との記載について、図3に示されるように、急性腸炎の指標(ミエロペルオキシダーゼ)では、L.ラムノサスよりもB.ロンガムの方が有意差があることから、L.ラムノサスよりもB.ロンガムの方が抗炎症作用が高く、行動の正常化は細菌の抗炎症作用とは無関係とはいえないこと。
さらに、本件明細書等の実施例では、DSSマウスについては、抗炎症作用についてL.ロンガムと比較していないことから(図6)、行動の正常化が細菌の抗炎症作用とは無関係であると結論付ける根拠がないこと。
加えて、乙10に係る発明は、「機能性GI障害の治療及び/又は予防用組成物であって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する組成物。」であるところ、乙10の実施例における慢性ネズミ鞭虫感染マウスを用いた実験については、乙10の実施例は本件明細書等の実施例を流用したものであり、乙10の発明者らは、本件と同様にL.ラムノサスとの比較により、B.ロンガムによる行動の正常化は細菌の抗炎症効果とは無関係であると評価した上で、ATCC BAA-999を機能性胃腸障害の治療及び予防に使用できるとしており、乙10の発明者の認識が正しければ、本件明細書等の実施例における行動試験の正常化は、仮に炎症とは無関係であったとしても、機能性胃腸障害又はそれに類似する症状の低減に相当するものであって、必ずしも不安や不安障害と関連したものではないことが示唆されること。

(iii)甲20、21、甲24に記載のWillner(1984)に記載のとおり、精神疾患の動物モデルは、“表面妥当性”、“構成(概念)妥当性”、“予測妥当性”によって評価されるところ、本件明細書等の実施例に記載のネズミ鞭虫感染マウス及び慢性DSS誘発性大腸炎マウスはいずれも上記3つの妥当性の全てを欠いており、不安障害の評価に妥当な動物モデルとはいえないこと。

(iv)本件発明の効果はマウスを用いた実験結果を根拠としようとするものであるが、マウスを用いた実験結果が必ずしもヒトにあてはまるとは限らず、甲5には、行動試験のデータをヒトにおける行動を結びつけるには注意が必要であることが記載され、本件出願後に発表された論文(甲10)によれば、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999はヒトの不安や不安関連障害に有効であるとはいえないというのが事実であると評価されること。

(v)甲6によれば、不安に着目するならば、海馬ではなく扁桃体の活動を調べるべきであって、海馬のBDNF発現と不安を結び付けることは必ずしも適当であるとはいえず、しかも、海馬BDNFの発現増加は不安症状の治療又は予防にはつながらないどころか、症状を悪化させる可能性すらあること。
甲24には、背側海馬におけるBDNF発現と不安は無関係であると記載されているところ、本件明細書等ではBDNF発現は海馬の背側で評価されており、そこでのBDNFの発現増加は不安症状を治療又は予防できるという根拠にはならないこと。
乙7には、不安様行動が増加すると背側海馬BDNFレベルも増加することが示されており、不安様行動と海馬BDNFのレベルの関係性において本件明細書等の記載と真逆の結果が示されていること。
甲6及び乙7の記載から、本件明細書等の実施例の結果には、科学的に疑問があること。
被請求人が提示した乙1〜4には、不安障害とBDNFとの関連は全く示されておらず、少なくとも実施例で結論付けられた背側海馬のBDNFと不安障害との負の相関を示すものではないこと。
甲24には、上記に加えて、単一のバージョンのmRNAのみの測定は、全く参考にならないこと、BDNF mRNA発現がBDNFタンパク質発現とほとんど相関しないこと、甲24に記載の文献には、海馬特異的BDNF欠失(Heldt、第8頁の下段)は恐怖行動には影響しないことが示されていること、背側海馬、腹側海馬、及び扁桃体の構造の違いが図示されている(図I〜III)こと、引用文献のいくつかの記載を挙げて、「マウスの背側海馬は、不安を制御すると知られている領域ではない」、あるいは、「不安関連行動(不安/恐怖)は、げっ歯類の腹側海馬及び扁桃体によって制御され、背側海馬によってではない」(以上、摘示24−2)と結論付けることが記載されていること。
甲9には、ブデソニド及びエタネルセプトのような抗炎症剤が、鞭虫感染によって低下した海馬BDNFレベルを全く改善していない一方、鞭虫感染によって変化した不安様行動が改善されていることが示されており、行動の正常化と海馬BDNF発現は必ずしも連動しないこと。

そこで、検討する。
(i)について
本件明細書等には、本発明の組成物と海馬BDNF発現との関係、海馬BDNF発現の減少に関連する障害についての記載はあるものの(【0057】〜【0061】)、本件発明1には海馬BDNF発現についての特定はなく、実施例では、海馬BDNF発現の増加の有無とは別に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安様行動を正常化することが直接的に示されている(【0068】〜【0070】、図1、4、7、8)。
さらに、不安障害は不安を伴いかつ不安により生じ、治療対象となる精神障害であることは本件出願時に周知の技術的事項であるといえ、不安があれば不安様行動をとることは明らかであるから、不安様行動が正常化されれば、不安障害を治療できるといえる。
したがって、本件発明が、請求人の主張する三段論法に合致しているかどうかにかかわらず、本件明細書等においてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効であることが確認できるといえる。
なお、乙第5号証で、不安障害との関連の可能性が示唆されている海馬BDNFレベルの低下の正常化については、本件明細書等の実施例において確認されている(【0068】、図2)。

(ii)について
本審判事件において提出された各証拠方法には、本件明細書等に記載された寄生虫ネズミ鞭虫に慢性的に感染したマウスモデル及び慢性DSS誘発性大腸炎のマウスモデルが、不安障害に対する効果を確認するモデルであることが本件出願時に公知であったことを示す記載はない。
しかし、上記各モデルが不安が増加した状態であり、不安様行動を示すモデルであることは、本件明細書等の記載から明らかである(【0068】〜【0070】、図1、4、7)。
また、実施例に記載された黒箱/明箱試験は、不安様行動をとるマウスは、明るい箱にいる時間が短くなり、明るい箱に入る頻度も少なくなる傾向があることを利用した試験であり(摘示乙6−1、「4.」の項)、同ステップダウン試験は、不安様行動を示すマウスは降りるまでの待ち時間が長くなることを利用した試験であるといえ(摘示乙6−1、「4.」の項)、いずれの試験も不安様行動を確認できる試験であるといえる。
そして、上述のとおり、不安障害は不安を伴いかつ不安により生じ、治療対象となる精神障害であるといえるから、不安様行動を示すモデルについて行動を正常化したことが示されれば、不安を解消したといえ、不安障害に有効であることが示されるといえるところ、本件明細書等の実施例に記載のモデル及び試験は、不安様行動を示すモデルについて不安様行動の正常化を確認するものであるから、不安障害の有効性を判断するものとして使用できるものといえる。
また、本件明細書に記載の図3で示されたミエロペルオキシダーゼ活性及び単核細胞浸潤について、L.ラムノサスとB.ロンガムとの間で若干の相違がみられるもののほぼ同程度であり、少なくとも単核細胞浸潤については、L.ラムノサスの方がスコアが小さくなっているから、必ずしもB.ロンガムの抗炎症作用が高いとはいえないところ、いずれの細菌も対照と比較すれば抗炎症活性が認められるといえる一方で、図1で示された不安様行動については、上記2つの試験の両方においてB.ロンガムが正常化効果を示しているのに対し、L.ラムノサスは少なくとも黒箱/明箱試験において正常化効果を示しているとはいえない。
したがって、L.ラムノサスとB.ロンガムとで抗炎症作用と不安様行動の正常化に対する作用が大きく異なるといえる以上、これらの抗炎症作用と不安様行動の正常化とが無関係であり、少なくともB.ロンガムには、不安様行動の正常化効果があると結論付けることは自然である。
さらに、乙10に本件明細書等に記載されたのと同様の実験が記載され、乙10に「機能性GI障害の治療及び/又は予防用組成物であって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含有する組成物。」が記載されているとしても、機能性胃腸障害又はそれに類似する症状の低減と共に不安が解消されることに何ら不合理な点はないから、そのことが本件明細書等に記載の実施例が不安障害に有効であることを示すものではない理由とはならない。

(iii)について
甲20、21、24の記載(摘示甲20−1、甲21−1〜21−2、甲24−1の「5.1.3」の項)からみて、精神疾患における動物モデルは「表面妥当性」、「構成(概念)妥当性」、「予測妥当性」によって評価されることが本件出願時に知られていたといえる。
また、甲24には「DSS」及び「ネズミ鞭虫」モデルは、決して不安障害の動物モデルではなく、上記3つの妥当性の要件を満たさない旨の記載がある(摘示甲24−1の「5.1.2」〜「5.1.4」の項)。
しかし、本件出願当時に頒布された甲21に、上記3つの妥当性を満たすことが理想的であると記載されていること、精神疾患では3つの妥当性を完全に満たすことは,非常に難しいといわれていることが記載されている(摘示甲21−1)ことに鑑みれば、不安障害が含まれる精神疾患においては非常に難しいといわれている上記3つの妥当性を満たすことが必須であり、それらが満たされないと当該疾患のモデルとして適用できないとまでは認めることができず、また、甲24には上記のとおりの記載が一つの見解としてあるものの、甲24は、本件明細書等の実施例に記載のモデルが不安障害のモデルとして適当でないことを客観的かつ具体的な実験データ等の証拠を提示して示すものでもない。
さらに、甲24には、不安障害のケースで表面、構成概念、及び予測妥当性にはるかに優れ、かつ痛み、不快や苦しみをもたらさない、多数のモデル系が存在する旨の記載もあるが(「5.1.4」の項)、仮にそのようなモデル系が存在していたとしても、本件明細書等に記載の実施例のモデルが言及されていないことを示しているだけであり、不安障害に対する有効性を確認する際に、必ずそれらのモデル系を用いなければならないという理由はなく、本件明細書等に記載のモデルを用いた試験によって、当業者が、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効な成分であると認識できるといえることは、上記(3)で述べたとおりである。
また、請求人は、上申書5において、甲24に記載の「5.1.2」の項に記載された証拠1〜4に対応する甲30〜33について、本件明細書等に記載の実施例で使用されたようなマウスモデルが言及されていないとの指摘をしているが、甲30〜33には、本件明細書等の実施例に記載されたマウスモデルが言及されていないことが示されているだけで、動物モデルに関して、多くの複雑な問題があり、課題を生み出しているとされている(摘示甲32−2)上、当該マウスモデルが不安障害のモデルとして不適切であることは示していない。
したがって、本件明細書等の実施例に記載の動物モデルが不安障害の評価に妥当な動物モデルとはいえないということはできない。

一方、被請求人は、口頭審理陳述要領書において、乙6等に基づいて、本件明細書に記載の実施例に記載の動物モデルが上記3つの妥当性を有している旨主張しているが、乙6には上記3つの妥当性に関する記載はなく、3つの妥当性を有する根拠となる実験データ等の証拠は提示されておらず、また、乙6において、不安症の有効なモデルが示されているとされる「67の別紙4」は甲9に相当するものであって、甲9は本件出願後に頒布された刊行物であり、本件出願時の技術常識を示すものとはいえない。
以上のことを考慮すると、被請求人の本件明細書に記載の実施例に記載の動物モデルが上記3つの妥当性を有しているとの主張に関しては、直ちに認めることはできない。
しかしながら、上述のとおり、そもそも、不安障害が含まれる精神疾患においては非常に難しいといわれている上記3つの妥当性を満たすことが必須であり、それらが満たされないと当該疾患のモデルとして適用できないとまでは認めることができない事情に鑑みれば、本件明細書等に記載のモデルを用いた試験によって、当業者が、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効な成分であると認識できると理解しても技術的に何ら不合理な点はない。

(iv)について
一般にマウスを用いた実験結果が必ずしもヒトにあてはまるとは限らないことは請求人の主張のとおりであるが、医薬の分野においてヒトに対する薬理試験を行う前にマウス等の動物を用いて薬理試験を行い、その有効性を確認することは通常行われていることであり、先願主義を採用している我が国の特許制度下において、かならずヒトに対する薬理試験結果が示されていなければならないとすることはその趣旨にそぐわないといえ、マウス等による動物実験において一定の効果が示されていれば、その動物実験が当該疾患について適切でない等の特段の事情がない限り、当該疾患に有効であることを示すものとして採用されるべきであるといえる。そして、本件明細書等に記載された実験が不安障害について適切でないとはいえないことは上記「(iii)について」で述べたとおりである。
また、甲10には、ビフィドバクテリウム・ロンガムNCC3001(ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999)は不安に有意な作用を示さなかった旨の記載があるところ(摘示甲10−1〜10−4)、甲10は本件出願後に頒布された刊行物であって、本件出願時における本件発明についての実施可能要件を判断する材料として採用することはその時点の事実を示している記載もない以上、妥当とはいえない。仮に甲10の記載事項を参酌するとしても、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安に有意な作用を示さないことを示す1つの文献が存在するに過ぎず、そのことのみを以て、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効ではないと結論づけることが適切であるとはいえない。

(v)について
この指摘は、上記(i)と関連し、背側海馬BDNFレベルの上昇が不安障害の治療、予防に有効であることは本件出願時に技術常識ではないことを示そうとするものであると認められるが、上記「(i)について」で述べたとおりであって、背側海馬BDNFレベルの上昇が不安障害の治療、予防に有効であるかどうかに拘わらず、本件明細書等においてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害に有効であることが確認できるといえる。

したがって、上記請求人の指摘はいずれも実施可能要件を満たしていない理由とすることはできず、上記請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、無効理由2には理由がない。

6 無効理由3について
(1)判断の前提
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件明細書等の記載
上記5(2)で示したとおりである。

(3)本件発明の課題
本件明細書等の全体の記載事項及び本件出願時の技術常識からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「不安障害である、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすこと」であると認める。

(4)判断
上記5(3)で述べたとおり、本件発明1の食用組成物について、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を製造し、使用することができるといえるところ、本件明細書等には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999は市販されていることが記載されており(【0016】)、また、食品に使用しても安全であることが記載されているから(【0040】)、副作用がなく安全であると解され、ヨーグルト、ミルク等に適用されることが記載されている(【0025】)ことからみて、高価であるともいえない。
したがって、本件発明の詳細な説明及び図面には、本件発明1について「不安障害である、海馬BDNF発現が低いことに関連している障害の治療又は予防のために用いることができる、有効で、容易に入手可能で、低価格で、且つ投与しても望まれない副作用がなく安全な菌株を含む組成物を当該技術分野にもたらすこと」が記載されているといえ、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものである。

本件発明1を引用する本件発明2〜11についても同様である。

(5)請求人の主張について
無効理由3に関する請求人の主張は、無効理由2に関する主張と同様であるから、上記5(4)で述べたとおり、採用できない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、無効理由3には理由がない。

7 無効理由4について
(1)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536(森永乳業社製)」について、本件明細書等には、「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999(BL999)は、例えば日本の森永乳業株式会社からBB536の商標で入手することができる。」(【0016】)と記載されているから、本件発明1の「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1−1>
組成物について、本件発明1は「不安障害の治療又は予防のための食用」と特定しているのに対し、甲1発明は「閉経後の女性の更年期症状及び身体的症状である、動悸、睡眠困難、ほてり、寝汗の改善剤」である点。

<相違点1−1−2>
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999について、本件発明1は「有効成分として」含むと特定しているのに対し、甲1発明はかかる特定をしていない点。

相違点1−1−1について、本件発明1の対象疾患である「不安障害」と甲1発明の対象疾患及び症状である「閉経後の女性の更年期症状及び身体的症状である、動悸、睡眠困難、ほてり、寝汗」とは相違することは明らかであり、実質的に相違しないともいえない。また、「食用」であることと「改善剤」であることは同一の技術的意味を有しているとはいえず、実質的に相違しないともいえない。
相違点1−1−2について、治療又は予防のための有効成分であることと、単に含むこととは技術的に相違し、実質的に相違しないともいえない。

したがって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。

本件発明1を引用する本件発明2、4、5、7、8、12についても同様である。

(2)まとめ
したがって、無効理由4には理由がない。

8 無効理由5について
(1)本件発明1について
ア 甲1について
本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は、上記7(1)に示したとおりである。

上記相違点1−1−1、1−1−2について併せて検討するに、甲1には、実験手順として、「(3) 元のスケールにおける心理学的症状の一つの尺度は、不安と抑うつ気分のさらに2つの尺度となるように分けられている」との記載はあるものの(摘示甲1−4)、不安についての実験結果は示されておらず、ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536がどのような作用を有する物質であるかも記載されていないから、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を有効成分として、不安障害の治療、予防に適用することが記載ないし示唆されているとはいえない。
甲3には、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス等の細菌菌株を対象に投与する過程からなるうつ病の治療方法についての記載があるところ、上記4(2)で述べたとおり、うつ病は不安障害に含まれるものではなく、また、甲3には、具体的にビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティスがうつ病に効果があることが確認できるようには記載されておらず、さらに、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999がビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティスに包含される物であるとしても、具体的な菌の種類に応じて薬理効果が異なることが本件特許の優先日における技術常識であることに鑑みれば、甲3には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999が不安障害の治療、予防に有効であることが記載ないし示唆されているとはいえない。
そして、本件発明1は不安障害の治療又は予防に用いることができるという当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲1及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、請求人は、本件訂正後の「不安障害」を対象とする発明(本件発明1)が進歩性を有するものでないことについては、具体的な主張をしていない。

イ 甲2について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
上記7(1)で述べたとおりであるから、甲2発明の「ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536」は本件発明1の「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」に相当する。
また、甲2発明の「ドリンクタイプヨーグルト」は、本件発明1の「食用組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、食用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−2−1>
食用組成物について、本件発明1は「不安障害の治療又は予防のための」と特定しているのに対し、甲2発明は「便秘傾向者における排便改善効果を有する」としている点。

上記相違点について検討する。
甲2には、「現代人は健常者であっても食生活の偏りや運動不足、恒常的なストレスなどから慢性的な腸の不全すなわち便秘や下痢に悩む人が多」いことが記載されているところ(摘示甲2−2)、甲4には、「無菌(GF)、特異的病原体フリー(SPF)およびノトバイオートのマウスを比較することにより、ストレスに対する視床下部-下垂体-副腎系(HPA)反応を調べた」こと、「GFマウスは、SPFマウスに比べて、皮質および海馬における脳由来神経栄養因子の発現レベルの低下も示した」こと、「GFマウスによる誇張HPAストレス応答は、ビフィドバクテリウム・インファンティスを用いた再構成によって逆転した」こと(摘示甲4−1)が記載され、甲5には、「うつと不安におけるBDNFの特異的役割を調べることが重要である」ことが記載され(摘示甲5−1)、甲6には、「ストレスによって誘導される不安」との記載があり(摘示甲6−1)、「BDNFはうつ及び不安において異なる役割、すなわち、海馬で局所的にうつ症状を抑制し、扁桃体で局所的に不安様症状を促進する、という役割を果たしているということを提案する」ことが記載され(摘示甲6−2)、甲27には、「うつ又は不安は、偶然に予想されるよりも頻繁に潰瘍性大腸炎(UC)又はクローン病(CD)に随伴するか、もしそうなら精神障害は概して炎症性腸疾患(IBD)に先行するか後に続くかを調べること」を研究目的として(摘示甲27−1)、「UCとの診断前の1年又はそれ以内の、うつ又は不安のリスクの集中は、2つの精神疾患は、未だ診断未確定の胃腸状態の結果かもしれないことを示唆している」ことが記載されている(摘示甲27−2)。
甲2の上記記載事項から、便秘の原因の一つが恒常的なストレスであるといえるとしても、その原因がストレスに限られないことは甲2の記載から明らかであって、甲2で示された排便改善効果が、ストレスを原因とする便秘に関するものであるかは不明であり、甲4にはストレスに関する事項が、甲5には、うつと不安におけるBDNFの特異的役割に関する事項が、甲6には、不安がストレスにより誘導されること、BDNFのうつ及び不安における役割に関する事項が、甲27には、潰瘍性大腸炎(UC)とうつ又は不安の関係が記載されているに過ぎず、「便秘傾向者における排便改善効果を有する」物が「不安障害の治療又は予防」に有効であることを記載・示唆しているとはいえないから、「便秘傾向者における排便改善効果を有する」甲2発明の「ドリンクタイプヨーグルト」を「不安障害の治療又は予防のための」ものとすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明1は不安障害の治療又は予防に用いることができるという当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲2、4〜6、27に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 甲3について
(ア)対比・判断
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ビフィドバクテリウム・インファンティス35624」は、本件発明1の「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」と、ビフィドバクテリウム属の物である点で共通する。
甲3発明の「ビフィドバクテリウム・インファンティス35624」は医薬組成物における「有効成分」であるといえる。
甲3発明の「食品として投与するための」、「組成物」は、本件発明1の「食用組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、
「有効成分としてビフィドバクテリウムを含む、食用組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−3−1>
ビフィドバクテリウムについて、本件発明1は「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」と特定しているのに対し、甲3発明は「ビフィドバクテリウム・インファンティス35624」である点。

<相違点1−3−2>
食用組成物について、本件発明1は「不安障害の治療又は予防のための」と特定しているのに対し、甲3発明は「可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルを著しく減少し、IL−10及びTGFβの産生を刺激する」、「医薬組成物」である点。

上記相違点1−3−1、1−3−2について併せて検討する。
甲3には、ビフィドバクテリウム菌、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624についての記載はあるものの(摘示甲3−1〜3−2)、「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」についての記載・示唆はない。
また、甲3には、プロバイオティック細菌を対象に投与する過程からなり、視床下部−脳下垂体−副腎軸過敏性により特徴付けられる疾患を治療する方法(請求項11)、前記疾患が、クッシング病、不安障害、心理社会的障害、ストレス、非定型うつ病、パニック障害及び疲労感からなる群から選択されること(請求項12)、上記プロバイオティック細菌として、上記各種細菌が(請求項13)記載され、実施例として、ビフィドバクテリウム35624が、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)及びIL−8レベルを著しく減少し、IL−10及びTGFβの産生を刺激したことが記載されている(摘示甲3−3)ところ、不安障害についての具体的な薬理試験結果等の記載はない。
そして、本件特許の優先日において菌の種類に応じて薬理作用が異なることは周知の技術的事項であるといえる。
さらに、甲3には、大部分のうつ病には、インタロイキン−1(IL1)及びIL6のような炎症性サイトカインの著しい増加を示す証拠がある旨が記載されているところ(摘示甲3−2)、不安障害とインタロイキン−1(IL1)及びIL6のような炎症性サイトカインとの関係は記載も示唆もされていない。
したがって、甲3には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を不安障害の治療又は予防に用いることが記載・示唆されているとはいえない。
一方、甲1にビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を有効成分として、不安障害の治療、予防に適用することが記載ないし示唆されているとはいえないことは上記アで述べたとおりであるところ、甲1において改善することが示された動悸、睡眠困難、ほてり、寝汗について、その一部が甲13−1にパニック発作のDSM-IV-TR基準として示されているとしても、単に甲1に記載の閉経後の女性の更年期症状及び身体的症状とそれとは異なる疾患又は状態である甲13−1に記載のパニック発作の症状が一部一致しているというだけであり、そのことによって、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999自体の記載・示唆がない甲3に記載された発明において、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を不安障害の治療又は予防に用いることも当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
また、甲2には、「便秘傾向者における排便改善効果を有するビフィドバクテリウム・ロンガムBB536を配合したドリンクタイプヨーグルト。」の発明が(上記3(2))、甲7には、「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、腸の炎症を含む炎症を予防又は低減するための食用組成物。」の発明が(上記3(4))、甲4には、「GFマウスによる誇張HPAストレス応答は、ビフィドバクテリウム・インファンティスを用いた再構成によって逆転した」こと(摘示甲4−1)、「蓄積された証拠は、脳と腸の間の双方向コミュニケーションを示している」こと、「腸内の細菌と脳との相互作用も、脳と腸管軸と同様に双方向である」こと(以上、摘示甲4−2)が記載されているが、かかる記載のみでは、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999自体の記載・示唆がない甲3に記載された発明において、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を不安障害の治療又は予防に用いることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
そして、本件発明1は不安障害の治療又は予防に用いることができるという当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲1〜4、7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)甲3に記載された発明についての請求人の主張について
請求人は、上申書4(2頁12行〜4頁1行)において、甲3には、上記甲3発明に加えて
「ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、又はビフィドバクテリウム・インファンティス35624を含む、うつ病を治療する食用組成物、または
ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、又はビフィドバクテリウム・インファンティス35624を含む、不安障害治療剤。」の発明が記載されていると主張しているので、検討する。
甲3には、上記(ア)で示した事項が記載されているところ、「不安障害」、「うつ病」が記載された請求項12は請求項11を引用するが、請求項11には、「ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、又はビフィドバクテリウム・インファンティス35624」の記載はないので、甲3には形式的に、「うつ病」、「不安障害」に「ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス菌35624」を用いることは記載されておらず、実施例等の具体例においても,ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス35624がうつ病、不安障害に有効であることが直接確認できるように記載されているとはいえない。
甲3には、「大部分のうつ病には、インタロイキン−1(IL1)及びIL6のような炎症性サイトカインの著しい増加を示す証拠がある(・・・)。これらサイトカインは両方とも、HPAを強く活性化することが知られており、かつうつ病に見られるHPA活性化を持続する役割を果たすことがある。うつ病の有効な治療は、炎症性サイトカインの抑制及びHPAの活性化の減少を伴う。」、「本発明は、HPA軸の調節により仲介されたプロバイオティック細菌の中心効果(central effect)に関する。プロバイオティック生物がHPAに影響を与え得るメカニズムの1つは、粘膜性上皮及び関連するリンパ様構造との相互作用を通じてのものであり、それによりホストに抗炎症性である分子を上方制御させかつ表現させる。これらは、IL−10及びTGFβのようなサイトカインを含むものである。本発明は、免疫調節機能及びHPA活性を減少させる能力を有するプロバイオティック菌株を目的としている。」との記載がある(摘示甲3−2)。
しかし、かかる記載をみても、可溶性IL−6受容体のレベルの減少が直ちにうつ病又は不安障害の治療に有効であることを裏付けるものであるということはできないから、実施例1の記載を併せ考慮しても、ビフィドバクテリウム・インファンティス35624がうつ病、不安障害に有効であることが記載されているとはいえない。
甲3には、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティスについては、うつ病、不安障害に関しては、実施例等の具体的にその薬理作用を確認できる記載はない。
実施例3はうつ病に関する例であるが、用いた物質は「ビフィドバクテリア」と記載されるのみであり、ビフィドバクテリウム・ロンガム/インファンティス、又はビフィドバクテリウム・インファンティス35624であるとはいえない。
そして、本件特許の優先日において菌の種類に応じて薬理作用が異なることは技術常識である。
してみると、甲3に上記請求人が主張する発明が記載されているということはできない。

エ 甲7について
本件発明1と甲7発明とを対比すると、両者は、
「有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、食用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−7−1>
食用組成物について、本件発明1が「不安障害の治療又は予防のための」と特定しているのに対し、甲7発明は、「腸の炎症を含む炎症を予防又は低減するための」と特定している点。

上記相違点について検討する。
甲7には、不安障害の治療又は予防に関する記載・示唆はない。
甲27には、「うつ又は不安は、偶然に予想されるよりも頻繁に潰瘍性大腸炎(UC)又はクローン病(CD)に随伴するか、もしそうなら精神障害は概して炎症性腸疾患(IBD)に先行するか後に続くかを調べること」が研究目的であること、「UCとの診断前の1年又はそれ以内の、うつ又は不安のリスクの集中は、2つの精神疾患は、未だ診断未確定の胃腸状態の結果かもしれないことを示唆している。しかし、このデータは、この精神疾患はある程度のUC患者における病原学的因子であるかもしれないとの仮説とも両立する。IBDの診断に続いて診断されるほとんどの過剰な不安又はうつは、IBDと診断されてから1年以内に起こり、この精神疾患はIBDの後遺症であるという説明も可能である。」ことが記載されている(摘示甲27−1、27−2)から、炎症性腸疾患とうつ又は不安とに何らかの関連性がある可能性があるとはいえるものの、腸の炎症を含む炎症を予防又は低減することで、不安障害の治療又は予防に有効であることまでが記載ないし示唆されているとはいえないから、甲7に記載された発明において、不安障害の治療又は予防のための食用組成物とすることが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない、
そして、本件発明1は不安障害の治療又は予防に用いることができるという当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲7、27に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2〜11について
本件発明2〜11は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、
本件発明2は、組成物が「食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、及び/又は飲料である」ことを、
本件発明3は「組成物が、少なくとも1種の他の種類の他の食品用微生物を追加的に含み、食品用微生物が、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオニバクテリア又はそれらの混合物からなる群より選択される」ことを、
本件発明4は「組成物が、少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する」ことを、
本件発明5は「プレバイオティクスが、オリゴ糖類からなる群より選択される」ことを、
本件発明6は「オリゴ糖類が、フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/若しくはイヌリン、食物繊維、又はそれらの混合物を含有する」ことを、
本件発明7は「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きている」ことを、
本件発明8は「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きていない」ことを、
本件発明9は「日用量当たり、104〜1010のビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999の非複製細胞を含む」ことを、
本件発明10は「組成物の乾燥重量1グラム当たり、102〜108のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の非複製細胞を含む」ことを、
本件発明11は、組成物が「海馬BDNF発現を増加させるための」であることをそれぞれ特定するものである。
甲1〜3、7発明との対比において、本件発明2は追加の相違点はないが、本件発明3〜11についてはそれぞれの発明において特定された事項はいずれも追加の相違点であると認める。
そこで、上記相違点1−1−1〜2、1−2−1、1−3−1〜2、1−7−1(いずれも「不安障害の治療又は予防のための」との事項を包含する。)について検討するに、甲8には、「ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を添加した代謝異常症の予防・改善・治療作用を有する飲食品」との記載、「生菌として、成人一人当たり108〜1012cuf/日投与する」ことが記載され(摘示甲8−1,8−2)、甲28には、微生物保護剤及び該保護剤を用いた凍結又は凍結乾燥微生物の製造法についての記載があり、ラクトバシラス・ブルガリカスを含有する試料について凍結前後の生菌数を常法により測定した結果等の記載がある(摘示甲28−1、28−2)に過ぎず、これらの記載をみても、甲1〜3、7発明についての上記各相違点に係る本件発明1の技術的事項が当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
したがって、本件発明1について述べたのと同様に、本件発明2〜11は、甲1〜8、27、28に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、無効理由5には理由がない。

9 無効理由6について
(1)甲25の出願に係る発明
甲25の請求項1の記載からみて、甲25の出願(特願2011−504422号)の請求項1に係る発明は、
「【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含み、不安及び/又は不安関連障害の治療又は予防のための薬物組成物。」(以下「甲25発明」という。)であると認める。

(2)対比・判断
甲25発明の「ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999」は薬物組成物における有効成分であることは明らかである。したがって、本件発明1と甲25発明とは、
「有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA−999を含む、病気の治療又は予防のための組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1−25−1>
病気について、本件発明1が「不安障害」であるのに対し、甲25発明は「不安及び/又は不安関連障害」である点。

<相違点1−25−2>
組成物について、本件発明1が「食用組成物」であるのに対し、甲25発明は「薬物組成物」である点。

上記各相違点について検討するに、「不安障害」と「不安及び/又は不安関連障害」が同一であるとか、実質的に同一であるとはいえないし、「食用組成物」と「薬物組成物」が同一であるとか、実質的に同一であるとはいえない。
したがって、本件発明1は甲25発明と同一であるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、無効理由6には理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜11についての特許は、請求人が主張する無効理由及び証拠方法によっては、無効にすべきものとすることはできない。
また、本件訂正の請求により、請求項12は削除されたから、請求項12に係る特許についての本件審判の請求は、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第135条の規定により、却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999を含む、不安障害の治療又は予防のための食用組成物。
【請求項2】
食品組成物、ペットフード組成物、健康補助食品、及び/又は飲料である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、少なくとも1種の他の種類の他の食品用微生物を追加的に含み、食品用微生物が、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオニバクテリア又はそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、少なくとも1種のプレバイオティクスをさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
プレバイオティクスが、オリゴ糖類からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
オリゴ糖類が、フルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/若しくはイヌリン、食物繊維、又はそれらの混合物を含有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の少なくとも一部分が組成物中で生きていない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
日用量当たり、104〜1010のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の非複製細胞を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の乾燥重量1グラム当たり、102〜108のビフィドバクテリウム・ロンガムATCCBAA−999の非複製細胞を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
海馬BDNF発現を増加させるための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2022-03-31 
結審通知日 2022-04-05 
審決日 2022-04-22 
出願番号 P2017-049909
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A23L)
P 1 113・ 852- YAA (A23L)
P 1 113・ 4- YAA (A23L)
P 1 113・ 853- YAA (A23L)
P 1 113・ 537- YAA (A23L)
P 1 113・ 536- YAA (A23L)
P 1 113・ 851- YAA (A23L)
P 1 113・ 113- YAA (A23L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 吉岡 沙織
冨永 保
登録日 2019-07-19 
登録番号 6554730
発明の名称 ビフィドバクテリウム・ロンガム及び海馬BDNF発現  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  
代理人 戸津 洋介  
代理人 戸津 洋介  
代理人 渡辺 欣乃  
代理人 田村 明照  
代理人 田村 明照  
代理人 渡辺 欣乃  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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