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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1389242
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-06 
確定日 2022-09-27 
事件の表示 特願2017−162533「車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年3月14日出願公開、特開2019−38415、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年8月25日の出願であって、令和3年7月21日付け(発送日:同年7月27日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年9月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月4日付け(発送日:同年11月9日)で拒絶査定がなされ、これに対し、令和4年1月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の概要は以下のとおりである。
「この出願については、令和3年7月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由1(特許法第29条第2項)について

請求項1、2及び4に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項3に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明並びに引用文献3及び4に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項5に係る発明は、引用文献1、2及び5に記載された発明並びに引用文献3及び4に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等一覧>
1.特開2007−106364号公報
2.特開2012−240444号公報
3.特開2014−113905号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2011−204125号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2010−52525号公報」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし請求項5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和4年1月6日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載されたとおりのものであるところ、本願発明1は、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
車両の位置情報及び走行路における風に関する風情報を取得する取得部と、
前記風情報に含まれる風速の横風成分が閾値より高い区間である横風区間に前記車両が進入する際に、前輪に駆動力を付与し後輪に制動力を付与する制駆動制御を開始する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記後輪に付与される制動力の前記制駆動制御における目標値である目標制動力を、前記横風区間における風速の横風成分に基づいて算出し、
前記制駆動制御を開始するまでの間に前記前輪及び前記後輪の駆動力配分率を第2時間変化率で前輪駆動状態の配分率へ移行させ、
前記前輪及び前記後輪の駆動力配分率を前記前輪駆動状態の配分率へ移行させた後において、前記車両が前記横風区間の開始地点に到達するより前に前記制駆動制御を開始し、
前記制駆動制御を開始した後において、前記車両が前記開始地点に到達するまでの間に前記後輪に付与される制動力を第1時間変化率で前記目標制動力へ移行させる、
車両の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1の記載及び引用発明
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2007−106364号公報)には、「走行支援装置及び走行支援方法」に関して、図面(図1ないし図3及び図6を参照。)とともに以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様)。

ア 「【0001】
本発明は、走行支援装置及び走行支援方法に関し、特に横風による舵角の揺れを抑制する走行支援装置及び走行支援方法に関する。」

イ 「【0004】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、横風による舵角の揺れを未然に抑制できる走行支援装置及び走行支援方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記目的を達成するための走行支援装置は、風向を含む風情報と道路地図情報とを取得するソース情報取得手段と、自車の現在位置を特定するロケータと、前記現在位置と前記道路地図情報と前記風向とに基づいて走行予定道路上で前記自車が横風を受けると予測される横風区間を設定する設定手段と、前記現在位置及び前記横風区間に基づいて、前記自車が前記横風区間より手前の予め決められた所定地点に到達すると予め決められた所定の横風対策制御を実行する制御手段と、を備える。
走行支援装置は、走行予定道路と風向との静的な関係(道路の通行方位、道路上の車両が影響を受ける可能性のある風向の方位など)と、走行予定道路で吹くと予測される風の風向とを特定することにより、走行予定道路上で自車が横風を受けると予測される横風区間を特定することができる。走行予定道路と風向との静的な関係は道路地図情報に基づいて特定可能である。例えば、道路地図情報によって道路の通行方位が特定される。走行予定道路で吹くと予測される風の風向は、通信による気象情報や、自車に搭載されている風センサの出力によって特定可能である。走行支援装置は、横風区間に進入する前に予め決められた所定の横風対策制御を実行することにより、横風による舵角の揺れを未然に防止することができる。
【0006】
(2)前記横風対策制御は、前記自車のロール剛性を上げる制御であってもよい。
ロール剛性が上がると、横風による舵角の揺れを抑えるためのドライバの操作負担が軽減される。
【0007】
(3)前記横風対策制御は、スタビライザ、サスペンション、車高の少なくともいずれか一つに対する制御であってもよい。
走行支援装置は、スタビライザ剛性を上げたり、サスペンションのダンパ減衰力を高めたり、サスペンションのばね定数を上げたり、車高を低くすることにより、ロール剛性を上げることができる。
【0008】
(4)前記横風対策制御は、ドライバに対する警告又は誘導であってもよい。
走行支援装置によって警告が行われると、ドライバの注意力が喚起されるため、車両が横風を受ける前や受けたときに、ドライバによって適切な操作が迅速に実行される可能性が高まる。また走行支援装置は、誘導によって、ドライバに、車両が横風を受けにくいルートや車線へと進路を変更させたり、走行速度を落とさせることができる。
【0009】
(5)前記風情報は、風速又は風力を含んでもよい。前記設定手段によって設定される前記横風区間は、風速又は風力が予め決められた所定値以上である横風を前記自車が受けると予測される区間であってもよい。
走行支援装置は、風速又は風力が所定値以上の横風を受けると予測される区間を横風区間として設定することにより、微弱な横風を受ける区間においてロール剛性を上げることによる乗り心地の低下を防ぐことができる。」

ウ 「【0015】
(11)上記目的を達成するための走行支援方法は、風向を含む風情報と道路地図情報とを取得し、自車の現在位置を特定し、前記現在位置と前記道路地図情報と前記風情報とに基づいて走行予定道路上で前記自車が横風を受けると予測される横風区間を設定し、前記現在位置及び前記横風区間に基づいて、前記自車が前記横風区間より手前の予め決められた所定地点に到達すると予め決められた所定の横風対策制御を実行する、ことを含む。
走行支援装置は、走行予定道路と風向との静的な関係(道路の通行方位、道路上の車両が影響を受ける可能性のある風向の方位など)と、走行予定道路で吹くと予測される風の風向とを特定することにより、走行予定道路上で自車が横風を受けると予測される横風区間を特定することができる。走行支援装置は、横風区間に進入する前に予め決められた所定の横風対策制御を実行することにより、横風による舵角の揺れを未然に防止することができる。」

エ 「【0017】
以下、本発明の複数の実施の形態を図に基づいて説明する。
(第一実施形態)
図2は、本発明による走行支援装置を適用したナビゲーション装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0018】
ハードディスク装置(HDD)16には、地図データベース(地図DB)が格納されている。ナビゲーション装置1が情報センタ50と通信することにより自車周辺の地図情報が取得されてもよい。
方位センサ26は、自律航法に用いられ、地磁気センサ、左右車両速度差センサ、振動ジャイロ、ガスレートジャイロ、光ファイバジャイロ等で構成されている。
【0019】
車速センサ28は、自律航法に用いられ、スピードメータに使用される車速センサである。車速を時間で積分することにより、走行距離が求まる。車速センサは、車輪回転速度を用いた車速センサの他、電波や超音波を用いたドップラ対地車速センサ、光と空間フィルタを用いた対地車速センサ等で構成することができる。
ロケータとしてのGPSユニット30は、衛星航法に用いる3個又は4個の衛星から送られてくる軌道データを受信するアンテナ、自車の現在位置の緯度経度データを出力するためのASIC等で構成される。
【0020】
カメラユニット34はレーンマーカ認識に用いるCCDカメラ、CMOSカメラ等のディジタルカメラで構成されている。カメラユニット34は自車の前方又は後方の路面画像を撮像することにより、自車の走行レーンを特定するためのレーンマーカを撮像することができる。ナビゲーション装置1は、誘導ケーブル方式、磁気マーカ方式、リフレクタ方式に対応したレーンマーカを認識することにより、自車の走行レーンを検出してもよい。また、ナビゲーション装置1は、カメラユニット34で撮像される高速道路本線等に設置されている吹流しを解析することにより、吹流しの角度に対応する風速又は風力、吹き流しの向きに対応する風向を認識することも可能である。
【0021】
舵角センサ24は、磁気、光等を用いた非接触方式の回転角センサ等で構成され、ステアリングホイールの絶対舵角を検出する。
スタビライザコントローラ40は、スタビライザのアーム部とバネ下とを結ぶリンクに設けられている油圧シリンダを制御する電磁弁のコントローラである。スタビライザコントローラ40によってスタビライザの剛性を上げることにより、車両のロール剛性を上げることができる。
【0022】
サスペンションのダンパを制御するためのダンパコントローラ42は、ダンパの電磁弁のアクチュエータコントローラである。ダンパコントローラ42によってダンパの減衰力を高めることにより、車両のロール剛性を上げることができる。尚、サスペンションのばね定数を上げることによって車両のロール剛性を上げてもよい。
車高コントローラ44は、コンプレッサ及び排気バルブのアクチュエータコントローラである。車高コントローラ44によって車高を低くすることにより、車両のロール剛性を上げることができる。
尚、本実施形態では、車両のロール剛性を上げるための制御対象としてスタビライザ剛性、ダンパ減衰力及び車高を例示したが、舵角の揺れを抑制するために、パワーステアリングの操舵力あるいは保舵力を制御するようにしてもよいし、エアスポイラの高さや角度を制御するようにしてもよい。」

オ 「【0025】
CPU20は、制御プログラムを実行することによりナビゲーション装置1の各部を制御する。
情報センタ50は、地域ごとの風向、風速及び風力を表す風情報を管理している気象情報データベース(気象情報DB)56と、FM多重放送、光ビーコン、赤外線ビーコン等により風情報を各車両に送信する通信部52とを備えている。
【0026】
図3は、ナビゲーション装置1の制御プログラムのソフトウェア構成を示すブロック図である。
地図DB60は、グラフ形式で地図をディジタル表現した情報で構成されるデータベースであって、道路網上の自車の現在位置の検出、経路探索、横風区間の予測などに用いられる。地図DB60では、交差点、合流点、曲がり点、行き止まり点などはノードであり、道路はノードとノードを結ぶリンクとして定義されている。各リンクには、通行方位、距離、レーン数、道路種別(高速道路、一般道など)、リンクID、始点及び終点のノード、右折専用レーン及び左折専用レーン等の車線情報、風に関する静的属性情報などが属性情報として定義されている。風に対する静的属性情報は、各リンクに対応する道路における側壁の有無、トンネル内、トンネル出口、周囲を山に囲まれているなど、風に影響する道路の形態や道路近傍地域の地形を規定する地物情報でもよいし、北西の風で横風の影響が強い、地域の気象予報よりも風力1だけ強い風が吹く、地域の気象予報が西風のときに北風が吹くというように、その道路に吹く風の性質を規定する情報でもよい。リンクに設けられる補間点を結ぶ短い直線毎に通行方位又は風に対する静的属性情報を定義してもよい。また、通行方位及び風に対する静的属性情報は、地図DB60自体で保持されてもよいし、地図DB60のリンクやその補間点を結ぶ短い直線を参照として地図DB60以外の記憶領域に保持されてもよい。
【0027】
図4は、地図DB60に記憶されている風に関する静的属性情報の一例を示す模式図である。リンクごとに横風の影響の有無が設定されている。横風の影響は、トンネルの中であったり側壁が周辺に有ったりしてそのリンクに対応する道路が風による影響を受けない場合は、「なし」が設定されている。横風の影響が有る場合は、そのリンクに対応する道路において風向毎に横風の影響の大きさを「大」・「中」・「小」の3段階で設定されている。例えば、北の風向について横風影響が「大」という設定は、北風が吹くと横風の影響が大きくなることを表している。尚、このような風向毎の静的属性情報は必ずしも必要ではない。道路の通行方位は、ノードや補間点の緯度経度に基づいて算定可能であり、道路の通行方位が北であれば、北風及び南風では横風の影響は無いと判定することができ、西風及び東風であれば横風の影響があると判定することができるからである。」

カ 「【0032】
図1は、ロール制御設定処理の流れを示すフローチャートである。図1に示す処理は、CPU20がロール制御設定モジュール66を実行することによって実行され、ナビゲーション装置1が最新の風情報を情報センタ50から受信したときに起動される。
ステップS100では、走行予定道路の最新の風情報が取得される。具体的には、路車間通信または車車間通信により受信した風向及び風力を含む最新の風情報が地域ごとに取得される。本実施形態では横風区間の予測に風力を用いるが、風力に代えて風速が用いられてもよいことはいうまでもない。
【0033】
このように、路車間通信や車車間通信により風情報を取得することにより、情報センタや自車近傍のプローブカーから走行予定地点のより高精度な風情報を得ることができる。また、通信によって現在位置の風情報だけでなく現在位置から遠い地域の風情報も取得することができるので、経路探索により走行予定道路が遠方まで特定可能な状況では、通信によって取得される風情報に基づいて全走行予定道路における横風の影響を予測することができる。
【0034】
尚、CPU20は、カメラユニット34により高速道路等に設置されている吹流しを撮像した画像を解析して現在位置の風力及び風向を検出してもよい。またCPU20は、風向、風力等を検出する自車の風センサの出力を用いて現在位置の風力及び風向を検出してもよい。現在位置の風向及び風力は現在位置周辺でほぼ一定であると想定されるので、現在位置の風情報に基づいて現在位置周辺の走行予定道路における横風の影響を予測することができる。
【0035】
次にステップS102では、ステップS104からステップS108までの処理の対象となる処理対象リンクが設定される。具体的には、現在位置より前方の誘導経路を構成しているリンクが抽出され、抽出されたリンクが処理対象リンクとして設定される。誘導経路が存在しない場合であっても、高速道路、有料道路、山道などの、分岐点が前方の所定範囲内にない道路の場合には、現在位置点から分岐点までのリンクが抽出され、抽出されたリンクが処理対象リンクとして設定されてもよい。
【0036】
ステップS104では、全ての処理対象リンクについて、リンクの属性情報が取得され、リンクの属性情報とステップS100で取得された風情報とに基づいて、各リンクに対応する道路で横風の影響を受けるか否かが予測され、横風の影響を受けると予測されるリンクが特定される。具体的には、地図DB60においてリンクの風に関する静的属性情報として横風影響が「あり」に設定されているリンクが抽出される。次に、ステップS100で取得された地域ごとの風情報に含まれる風向及び風力に基づいて、横風影響が「あり」に設定されているリンクごとに向きと大きさを持つ風のベクトルが定められる。このとき、リンクのある地域に対応する地域の風情報に基づいて各リンクについて風のベクトルが定められる。次に、横風影響が「あり」に設定されている各リンクについて、地図DB60に基づいてリンクの通行方位が特定される。リンクの通行方位は、ノードや補間点の緯度経度に基づいて算定可能である。次に、横風影響が「あり」に設定されている各リンクについて風のベクトルのリンクの通行方位に垂直な方向の成分(以下、横風成分という。)の大きさが算定され、横風成分の大きさが予め決められた所定値以上になるリンクが横風の影響を受けると予測されるリンクとして特定される。その結果、リンクの通行方位に対して垂直な方向に吹く風、すなわち横風の風力が所定値以上になると予測されるリンクが特定される。
【0037】
尚、風情報を各リンクの風に関する静的属性情報に基づいて変換し、変換された風情報に基づいて横風の影響が判断されてもよい。具体的には例えば、風の影響のないトンネル内、側壁のある場所、山に囲まれていることなどが静的属性情報で定義されている場合には、風力が0に変換される。また例えば、静的属性情報が「地域の気象予報よりも風力1だけ強い風が吹く」と定義されている場合には、風力に1が加算されたり、静的属性情報が「地域の気象情報が西風のときに北風が吹く」と定義されている場合には、西の風向きが北に変換される。また例えば、リンクの通行方位が東、風情報が風向:北、風力:7であって、風に関する静的属性情報が「北風の影響大」と定義されている場合には、北風の風力に3が加算されて風のベクトルが算定されたり、風情報が風向:北、風力:7であっても、風に関する静的属性情報が「北風の影響小」と定義されている場合には、北風の風力から3が減算されて風のベクトルが算定される。このように各リンクの風に関する静的属性情報に基づいて変換された風向及び風力と道路の通行方位とに基づいて横風になるか向かい風になるか追い風になるかが特定可能である。
【0038】
また、道路の通行方位を特定せずに横風を受ける区間を予測することも可能である。例えば、リンクの風に関する静的属性情報において道路の通行方位が勘案された横風の影響が定義されていれば道路の通行方位を特定する必要はない。具体的には例えば、リンクの風に関する静的属性情報が「北風の影響大」と定義されていれば、そのリンクのある地域の風ベクトルの北方向の成分の大きさから横風の影響を予測することができる。
【0039】
ステップS106では、ステップS104で特定された、横風の影響を受けると予測されるリンクに基づいて、ロール剛性を上げる制御を行う対象となる横風区間が設定される。まず、横風の影響を受けると予測されるリンクが連続しているか判定される。例えば、属性情報であるリンクIDに連続性があったり、リンクの始点及び終点のノードが一致している場合には、2つのリンクは連続していると判定される。リンクが連続している場合、連続している複数のリンク全体について1つの横風区間が設定される。連続していないリンクは、1つのリンクに1つの横風区間が設定される。また、設定された横風区間同士の距離が所定距離以下、例えば30m以下になる場合には、それらの横風区間が結合された1つの横風区間が設定される。
【0040】
ステップS108では、ステップS106で設定された横風区間毎にスタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、及び車高コントローラ44の制御量、制御開始点及び制御終了点を含む制御値が設定される。まず、設定された横風区間毎に、その区間に含まれるリンクについて算定された横風成分のうち、最も大きい横風成分が選択される。そして、最も大きい横風成分に対して制御量が設定される。例えば、横風成分に対して予め設定された第一、第二のしきい値に対して制御量が以下のように設定される。
横風成分が第二のしきい値より大きい場合:大
横風成分が第一のしきい値以上で第二のしきい値未満の場合:中
横風成分が第一のしきい値未満の場合:小
【0041】
次に、制御開始点及び制御終了点が設定される。設定された横風区間毎に、その区間の両端のノードの位置が地図DB60から取得される。次に、現在位置に近い側(手前側)のノードより予め決められた所定距離手前の地点、例えば30m手前の地点が制御開始点として設定され、現在位置から遠い側のノードの位置が制御終了点として設定される。尚、制御開始点が例えばトンネル内、橋梁上、側壁がある道路上になる場合には、トンネル、橋梁、側壁等の終点から予め決められた所定距離手前の地点、例えば30m手前の地点が制御開始点として設定されてもよい。また制御開始点を自車の速度に応じて設定することもできる。具体的には、横風区間の現在位置に近い側のノードに到達するまでの時間が予め決められた所定の時間、例えば5秒になる距離を算出し、横風区間よりも、算出された距離だけ手前の地点を制御開始点に設定することができる。
【0042】
図5は、制御値のデータ構造の一例を示す図である。
制御値は横風区間毎に設定される。制御開始点リンクIDは、制御開始点のあるリンクを識別するためのデータである。制御対象リンクIDは、横風区間にあるリンクを識別するためのデータである。制御開始点及び制御終了点は緯度経度で設定される。制御量はスタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、車高コントローラ44の少なくとも1つについてそれぞれ設定される。制御開始点を横風区間の手前に設定することにより、車両が横風区間に侵入する前に車両のロール剛性を上げる制御を行うことができ、横風による舵角の揺れを未然に防止することができる。
【0043】
図6は、誘導モードにおいて実行されるロール制御処理を示すフローチャートである。図6に示す処理は、誘導経路に沿って車両が走行している状態で一定時間毎に起動され、CPU20がロール制御モジュール68を実行することによって実行される。
ステップS200では、自車の現在位置が制御開始点と一致しているか判定される。両者が一致していない場合、ロール制御は実行されない。具体的には、CPU20において、ロケータモジュール62で算定される現在位置の緯度経度データと、制御開始点の緯度経度データとが照合される。尚、現在位置と制御開始点との一致判定は、完全一致判定でなくてもよい。例えば、制御始点を中心に予め設定された範囲に現在位置が入ったときにロール制御を開始してもよい。
【0044】
自車の現在位置が制御開始点と一致すると、ロール制御の実行が開始される(ステップS202)。制御開始点は自車が横風の影響を受ける横風区間の手前に設定されているため、自車が横風の影響を受ける可能性が高い区間に入る前にロール制御が開始される。具体的には、CPU20は、スタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、及び車高コントローラ44を、これらに設定されている各制御量に基づいて制御し、車両のロール剛性を高くする。」

キ 【図1】


ク 【図2】


ケ 【図3】


コ 【図6】


上記の記載及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「自車の現在位置の検出及び走行予定道路における風向、風速及び風力を表す風情報を取得し、
前記風情報に含まれる風速が所定値以上となるリンクである横風区間の所定距離手前の地点で、スタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、車高コントローラ44を制御し、自車のロール剛性を高めるロール制御を行うロール制御モジュール68と、
を備えた、ナビゲーション装置1。」

2.引用文献2の記載
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献2(特開2012−240444号公報)には、「車両」に関して、図面(図5を参照。)とともに以下の記載がある。

サ 「【0007】
そこで、本発明は、前輪と後輪に付与する駆動力を調整することで車高を変更することができるようにした車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の車両は、車体と、前記車体の進行方向前側に設けられる前輪と、前記車体の進行方向後側に設けられる後輪と、前記前輪に駆動力を付与する前輪駆動力付与手段と、前記後輪に駆動力を付与する後輪駆動力付与手段と、前記前輪駆動力付与手段によって前記前輪に前記車体を前進させる正方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向下向きの荷重が前記車体に生じるように、前記前輪と前記車体とを接続する前輪車体接続手段と、前記後輪駆動力付与手段によって前記後輪に前記車体を前進させる正方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向上向きの荷重が前記車体に生じるように、前記後輪と前記車体とを接続する後輪車体接続手段と、前記前輪車体接続手段および前記後輪車体接続手段を通じて前記車体に重力方向における所定の荷重が生じるように、前記前輪駆動力付与手段が前記前輪に付与する正方向の駆動力の大きさおよび前記後輪駆動力付与手段が前記後輪に付与する正方向の駆動力の大きさを調整する調整手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載の車両は、車体と、前記車体の進行方向前側に設けられる前輪と、前記車体の進行方向後側に設けられる後輪と、前記前輪に駆動力を付与する前輪駆動力付与手段と、前記後輪に駆動力を付与する後輪駆動力付与手段と、前記前輪駆動力付与手段によって前記前輪に前記車体を前進させる正方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向下向きの荷重が前記車体に生じる一方、前記前輪駆動力付与手段によって前記前輪に前記正方向とは反対方向の負方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向上向きの荷重が前記車体に生じるように、前記前輪と前記車体とを接続する前輪車体接続手段と、前記後輪駆動力付与手段によって前記後輪に前記車体を前進させる正方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向上向きの荷重が前記車体に生じる一方、前記後輪駆動力付与手段によって前記後輪に前記正方向とは反対方向の負方向の駆動力が付与されているときに付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向下向きの荷重が前記車体に生じるように、前記後輪と前記車体とを接続する後輪車体接続手段と、前記前輪車体接続手段および前記後輪車体接続手段を通じて前記車体に重力方向における所定の荷重が生じるように、前記前輪駆動力付与手段が前記前輪に付与する駆動力の方向と大きさおよび前記後輪駆動力付与手段が前記後輪に付与する駆動力の方向と大きさを調整する調整手段と、を有し、前記調整手段は、前記前輪車体接続手段および前記後輪車体接続手段を通じて前記車体に重力方向における所定の荷重を生じさせるに際し、前記前輪駆動力付与手段が前記前輪に付与する駆動力の方向と前記後輪駆動力付与手段が前記後輪に付与する駆動力の方向とを逆向きとすることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載の車両は、請求項1または請求項2に記載の車両において、前記前輪車体接続手段は、前記前輪との接続箇所が前記車体との接続箇所に対して進行方向前側とされるリーディングアーム式サスペンションである一方、前記後輪車体接続手段は、前記後輪との接続箇所が前記車体との接続箇所に対して進行方向後側とされるトレーリングアーム式サスペンションであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の車両によれば、前輪と後輪に付与する駆動力を調整することで車高を変更することができる。
【0012】
本発明の請求項2に記載の車両によれば、前輪車体接続手段を通じて車体に生じる重力方向の荷重と後輪車体接続手段を通じて車体に生じる重力方向の荷重とが同一方向となるため、前輪駆動力付与手段が前輪に付与する駆動力の方向と後輪駆動力付与手段が後輪に付与する駆動力の方向とを逆向きとしない場合に比べて、車高を大きく変更することができる。
【0013】
本発明の請求項3に記載の車両によれば、公知のサスペンション形式を採用しながら、請求項1または請求項2について述べた効果を得ることができる。」

シ 「【0016】
図1に示すように、本発明に係る車両10は、車体12と、該車体12の進行方向前側に設けられる前輪14と、該車体12の進行方向後側に設けられる後輪16と、前輪14に駆動力を付与する前輪駆動力付与手段の一例としての前輪電動モータ18と、後輪16に駆動力を付与する後輪駆動力付与手段の一例としての後輪電動モータ20と、前輪14と車体12とを接続する前輪車体接続手段の一例としての前輪サスペンション22と、後輪16と車体12とを接続する後輪車体接続手段の一例としての後輪サスペンション24と、前輪電動モータ18が前輪14に付与する駆動力および後輪電動モータ20が後輪16に付与する駆動力を調整する調整手段26とを有している。
【0017】
車両10は4輪車であり、車体12には前輪14として車幅方向(図1において紙面垂直方向)において左前輪および右前輪が設けられると共に、後輪16として車幅方向において左後輪および右後輪が設けられている。
【0018】
前輪電動モータ18は左前輪および右前輪にそれぞれ設けられると共に、後輪電動モータ20は左後輪および右後輪にそれぞれ設けられている。尚、左前輪および右前輪を共通に駆動するものとして前輪電動モータ18を1個、左後輪および右後輪を共通に駆動するものとして後輪電動モータ20を1個設けるようにしてもよい。
【0019】
車両10は、このようなインホイール型モータによって各輪が駆動されることで前進または後進可能とされる。尚、本発明の性質上、左右輪を区別して説明する必要がないので、以降、左前輪および右前輪を総称して前輪14といい、左後輪および右後輪を総称して後輪16という。
【0020】
前輪電動モータ18は、車体12を前進させる正方向の駆動力とそれとは反対方向の負方向の駆動力(車体12を後進させる駆動力、あるいは、車体12が前進駆動されている場合、車体12を制動する制動力)とを選択的に前輪14に付与可能とされている。後輪電動モータ20も、前輪電動モータ18と同様、車体12を前進させる正方向の駆動力とそれとは反対方向の負方向の駆動力(車体12を後進させる駆動力、あるいは、車体12が前進駆動されている場合、車体12を制動する制動力)とを選択的に後輪16に付与可能とされている。
【0021】
前輪サスペンション22の一端側は前輪14、具体的には前輪14の回転軸を回転自在に支持する支持部材(図示省略)に接続されており、他端側は車体12の所定箇所に接続されている。前輪サスペンション22は、前輪14との接続箇所28が車体12との接続箇所30に対して進行方向前側とされるリーディングアーム式サスペンションから構成されている。前輪サスペンション22は、接続箇所28と接続箇所30とにおいて揺動可能とされている。
【0022】
後輪サスペンション24の一端側は後輪16、具体的には後輪16の回転軸を回転自在に支持する支持部材(図示省略)に接続されており、他端側は車体12の所定箇所に接続されている。後輪サスペンション24は、後輪16との接続箇所32が車体12との接続箇所34に対して進行方向後側とされるトレーリングアーム式サスペンションから構成されている。後輪サスペンション24は、接続箇所32と接続箇所34とにおいて揺動可能とされている。
【0023】
前輪サスペンション22はリーディングアーム式であるため、前輪14に正方向の駆動力(矢印Aで示す)が付与されているとき、車体12には車体12を前進させる力(矢印Bで示す)が作用すると共に、付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向下向きの荷重、即ち車体12を押し下げる力(矢印Cで示す)が作用する。一方、前輪14に負方向の駆動力(矢印Dで示す)が付与されているとき、車体12には車体12を前進させる力とは反対方向の力(車体12を後進させる力、あるいは、車体12が前進駆動されている場合、車体12を制動する制動力)(矢印Eで示す)が作用すると共に、付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向上向きの荷重、即ち車体12を持ち上げる力(矢印Fで示す)が作用する。
【0024】
後輪サスペンション24はトレーリングアーム式であるため、後輪16に正方向の駆動力(矢印Gで示す)が付与されているとき、車体12には車体12を前進させる力(矢印Hで示す)が作用すると共に、付与されている駆動力の大きさに応じた重力方向上向きの荷重、即ち車体12を持ち上げる力(矢印Iで示す)が作用する。一方、後輪16に負方向の駆動力(矢印Jで示す)が付与されているとき、車体12には車体12を前進させる力とは反対方向の力(車体12を後進させる力、あるいは、車体12が前進駆動されている場合、車体12を制動する制動力)(矢印Kで示す)が作用すると共に、付与されている駆動力(制動力)の大きさに応じた重力方向下向きの荷重、即ち車体12を押し下げる力(矢印Lで示す)が作用する。
【0025】
調整手段26は、CPU、RAMおよびROMなどからなる制御装置であり、前輪電動モータ18および後輪電動モータ20に信号線を通じて電気的に接続されている。そして、調整手段26は、前輪電動モータ18に対して前輪14に付与する駆動力の方向と大きさに関する制御信号を送信すると共に、後輪電動モータ20に対して後輪16に付与する駆動力の方向と大きさに関する制御信号を送信する。
【0026】
車体12と前輪14との間には前輪コイルバネ36が設けられると共に、車体12と後輪16との間には後輪コイルバネ38が設けられている。車体12はこれら前輪コイルバネ36および後輪コイルバネ38によって前輪14および後輪16に対して弾性支持されている。
【0027】
車体12の重力方向における位置(車高)は、これら前輪コイルバネ36および後輪コイルバネ38の弾性力と、車体12にかかる重力と、前輪14および後輪16に正方向または負方向の駆動力を付与することで前輪サスペンション22および後輪サスペンション24を通じて車体12に作用する荷重との釣り合いによって定まる。
【0028】
別言すると、前輪電動モータ18が前輪14に付与する駆動力の方向と大きさおよび後輪電動モータ20が後輪16に付与する駆動力の方向と大きさを調整手段26によって調整することで、車体12に重力方向における所望の方向および大きさの荷重を作用させることができる。それにより、車体12の重力方向における位置(車高)を変更することができる。以下、具体的に説明する。」

ス 「【0032】
図5に示すように、前輪14に正方向の駆動力(矢印Aで示す)を付与する一方、後輪16に負方向の駆動力(制動力)(矢印Jで示す)を付与する場合(例えば、合計「60」の正方向の駆動力の内、前輪14に「80」の駆動力、後輪16に「−20」の駆動力を配分する場合)、前輪サスペンション22を通じて車体12に作用する重力方向下向きの荷重(矢印Cで示す)は図4の場合に比べて大きくなる。さらに、車体12には、後輪サスペンション24を通じて重力方向下向きの荷重(矢印Lで示す)が作用する。即ち、車体12には、合計として図4の場合よりも大きな重力方向下向きの荷重が作用する。その結果、図5に示す車高は、図4に示す車高よりも低くなる。」

セ 【図5】


上記の記載及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。

「前輪14に駆動力を付与し後輪に制動力16を付与することで車高を低くすること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「自車」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「車両」に相当し、以下同様に、「走行予定道路」は「走行路」に、「風向、風速及び風力を表す」は「風に関する」に、「リンク」は「区間」に、「ナビゲーション装置1」は「車両の制御装置」にそれぞれ相当する。
また、後者の「現在位置の検出」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「位置情報」を「取得する」ことに相当するから、後者の「自車の現在位置の検出及び走行予定道路における風向、風速及び風力を表す風情報を取得する」ことは前者の「車両の位置情報及び走行路における風に関する風情報を取得する」ことに相当するから、後者は、前者の「車両の位置情報及び走行路における風に関する風情報を取得する」、「取得部」に相当する事項を備えている。同様に、後者の「風速の横風成分が所定値以上となる」ことは、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「風速の横風成分が閾値より高い」ことに相当し、後者の「横風区間の所定距離手前の地点で」は前者の「横風区間に前記車両が進入する際に」に相当するから、後者の「前記風情報に含まれる風速の横風成分が所定値以上となるリンクである横風区間の所定距離手前の地点で」は前者の「前記風情報に含まれる風速の横風成分が閾値より高い区間である横風区間に前記車両が進入する際に」に相当する。
そして、後者の「スタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、車高コントローラ44を制御し、自車のロール剛性を高めるロール制御を行うロール制御モジュール68」と前者の「前輪に駆動力を付与し後輪に制動力を付与する制駆動制御を開始する制御部」とは、その機能、構成及び技術的意義を踏まえると「車両のロール剛性を高める制御を開始する制御部」という限りで一致するといえる。

したがって、両者は、
「車両の位置情報及び走行路における風に関する風情報を取得する取得部と、
前記風情報に含まれる風速の横風成分が閾値より高い区間である横風区間に前記車両が進入する際に、車両のロール剛性を高める制御を開始する制御部と、
を備える、車両の制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
「制御部」に関し、前者は「前輪に駆動力を付与し後輪に制動力を付与する制駆動制御」を実行するものであって、さらに「後輪に付与される制動力の制駆動制御における目標値である目標制動力を、横風区間における風速の横風成分に基づいて算出」し、「制駆動制御を開始するまでの間に前輪及び後輪の駆動力配分率を第2時間変化率で前輪駆動状態の配分率へ移行」させ、「前輪及び後輪の駆動力配分率を前輪駆動状態の配分率へ移行させた後において、車両が横風区間の開始地点に到達するより前に制駆動制御を開始」し、「制駆動制御を開始した後において、車両が横風区間の開始地点に到達するまでの間に後輪に付与される制動力を第1時間変化率で目標制動力へ移行させる」ものであるのに対し、後者は「スタビライザコントローラ40、ダンパコントローラ42、車高コントローラ44を制御」し、自車のロール剛性を高める制御を行うものである点。

そこで、当該相違点について検討するに、引用文献2の記載事項は、本願発明1の用語を用いると「前輪に駆動力を付与し後輪に制動力を付与することで車高を低くすること。」を開示するものである。そして、引用発明のロール制御設定モジュール66は、車高コントローラ44を制御し、ロール剛性を高めるロール制御を行うものも含むから、引用発明と引用文献2の記載事項とは車高の制御を行う技術を含む点では共通する。しかしながら、引用文献2の記載事項を含め、引用文献2には、相違点に係る本願発明1の発明特定事項が備える「制駆動制御を開始するまでの間に前輪及び後輪の駆動力配分率を第2時間変化率で前輪駆動状態の配分率へ移行」させ、「前輪及び後輪の駆動力配分率を前輪駆動状態の配分率へ移行させた後」に、「前輪に駆動力を付与し後輪に制動力を付与する制駆動制御を開始」するとの事項は明記されていない。また、当該事項を導き出せる引用文献2の記載を見出すことはできず、当該事項は引用文献2に示唆されているということもできない。
加えて、引用文献1及び原査定において拒絶の理由に引用した引用文献3ないし5に示された事項から、当該事項が技術常識であるとはいえず、技術常識から当業者の通常の創作能力の範囲で容易になし得たことということもできない。
そうすると、仮に、当業者の通常の創作能力の範囲で引用発明に引用文献2の記載事項を適用したとしても、当該適用したものが、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を全て満たすものになるとはいえない。

そして、当業者の通常の創作能力の範囲内で、引用発明及び引用文献2の記載事項から相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとする他の事情を見出すこともできない。

さらに、本願発明1は、相違点にかかる本願発明1の発明特定事項により、引用発明が備える課題を解決できるという格別顕著な効果も奏する(本願の発明の詳細な説明の段落【0003】及び【0004】を参照)。

したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2. 本願発明2ないし本願発明5
本願発明2ないし本願発明5は、その記載からみていずれも本願発明1を直接又は間接的に引用し、更に本願発明2ないし本願発明5で新たに特定される発明特定事項を備えるものである。そうすると、本願発明2ないし本願発明5も、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。
また、原査定において本願発明3の拒絶の理由に引用した引用文献3及び引用文献4並びに原査定において本願発明5の拒絶の理由に引用した引用文献5は、本願発明1と引用発明との相違点に係る発明特定事項が技術常識であることを示すものでないことも、上述したとおりである。

したがって、本願発明2ないし本願発明5は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに引用文献3ないし引用文献5に示された事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明5は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに引用文献3ないし引用文献5に示された事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-09-13 
出願番号 P2017-162533
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 河端 賢
特許庁審判官 水野 治彦
木村 麻乃
発明の名称 車両の制御装置  
代理人 特許業務法人青海特許事務所  

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