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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1389249
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-07 
確定日 2022-10-04 
事件の表示 特願2017−201751「電線」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月16日出願公開、特開2019− 75327、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成29年10月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 3年 3月25日付け:拒絶理由通知
令和 3年 5月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年10月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和 4年 1月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要

原査定(令和3年10月15日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

「理由1(特許法第29条第2項
請求項1−2に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2−4に記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特開2008−218273号公報
引用文献2 特開2002−179868号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3 特開2002−363365号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4 特開2017−155093号公報(周知技術を示す文献)」


第3 本願発明

本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、令和4年1月7日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−2に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、フェライトコアへの巻き付けに用いられる電線であって、
前記導体の断面積が5mm2以上20mm2以下であり、
前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、
前記絶縁体の厚さが0.4mm以上2.3mm以下であり、
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する、電線。

【請求項2】
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して60質量部以上120質量部以下で含有する、請求項1に記載の電線。」


第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献1(特開2008−218273号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1−1)「【0001】
本発明は、絶縁電線に関するものである。
・・・途中省略・・・
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、捻回伝播を抑制することができる絶縁電線を提供することにある。また他の課題は、この絶縁電線を用いたワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に絶縁層が設けられた絶縁電線であって、上記導体は、複数の素線を撚り合わせて構成された中心撚線と、上記中心撚線の外周に複数の素線を撚り合わせて構成された撚線層とを有し、上記撚線層の撚りピッチは、√(上記導体の断面積)の値の15倍以上であることを要旨とするものである。
【0015】
ここで、上記撚線層は、上記中心撚線および上記撚線層を構成する全素線本数の合計に対して、50%以上の素線を含んでいることが好ましい。
【0016】
また、上記中心撚線および上記撚線層の素線は、径がともに0.32mmかつ両素線の合計本数が168本である、または、径がともに0.45mmかつ両素線の合計本数が84本であることが好ましい。
【0017】
また、上記撚線層の撚りピッチは55mm以上であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有していると良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る絶縁電線によれば、中心撚線の外周に設けられた撚線層の撚りピッチを√(上記導体の断面積)の値の15倍以上にすることにより、捻回伝播を抑制することができる。」

(1−2)「【0022】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明による絶縁電線は、中心撚線と撚線層とを有する導体の外周に、絶縁層が形成されてなる。上記中心撚線は、複数の素線を撚り合わせてなる。また、上記撚線層は、中心撚線の外周に、複数の素線を撚り合わせてなる。
【0024】
ここで、上記撚線層は、√(上記導体の断面積)の値の15倍以上の撚りピッチで撚られている。導体の断面積とは、素線の断面の和の面積の値である。また、撚りピッチとは、素線を撚り合わせに沿って螺旋状に一回転させたときに進む距離をいう。
【0025】
上記撚線層の撚りピッチの好ましい下限値は、√(上記導体の断面積)の値の15倍超、16倍以上、16倍超、17倍以上、17倍超、18倍以上、18倍超、19倍以上、19倍超、20倍以上、20倍超などが挙げられる。
【0026】
また、上記撚線層の撚りピッチの上限値は大きいほど捻回が伝播し難いが、製造性などを考慮すると、√(上記導体の断面積)の値の30倍以下が好ましい。さらに、柔軟性を高める観点から、より好ましくは、20倍以下が良い。
【0027】
一方、中心撚線の撚りピッチは特に限定されず、必要に応じて変更することができる。
【0028】
また、撚線層の素線は、中心撚線の撚り方向に対して、同一方向に撚られていても良いし、逆方向に撚られていても良い。
【0029】
さらに、撚線層は、中心撚線および撚線層を構成する全素線本数の合計に対して、50%以上の素線を含んでいると良い。より好ましくは、70%以上の素線を含んでいると良い。撚線層が、中心撚線および撚線層を構成する全素線本数の合計に対して、50%以上の素線を含んでいれば、捻回伝播をより一層抑制することができるからである。
【0030】
中心撚線および撚線層を構成する素線の材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等を例示することができるが、特にこれに限定されない。
【0031】
中心撚線および撚線層は、1種の素線から撚られていても良いし、2種以上の素線から撚られていても良い。また、中心撚線および撚線層には、同種の素線を用いても良いし、異種の素線を用いても良い。
【0032】
また、素線径は、特に限定されるものではなく、導体断面積の大きさなどに応じて適宜変更することができる。例えば、中心撚線および撚線層は、素線径の異なる複数の素線より構成されていても良い。
【0033】
そして、中心撚線および撚線層を構成する全素線本数は、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。
【0034】
中心撚線および撚線層の素線は、具体的には、径がともに0.32mmかつ両素線の合計本数が168本、または、径がともに0.45mmかつ両素線の合計本数が84本、等を例示することができるが、特にこれに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0035】
上記導体の外周に設けられる絶縁層の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンーエチレン共重合体などのオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレンゴムやブタジエンゴムなどの樹脂に、金属水和物(水酸化マグネシウムなど)などのノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加してなる組成物を例示することができるが、特にこれに限定されない。
【0036】
また、絶縁層の厚さは、特に限定されるものではなく、導体断面積の大きさなどを考慮して、適宜定めることができる。」

(1−3)「【0049】
(実施例2)
本実施例2では、素線に径0.45mmの軟銅を用い、中心撚線および撚線層を形成した。中心撚線には42本の素線を用い、上記素線を撚りピッチ30mmで撚り合わせた。
【0050】
この中心撚線の外周に、42本の素線を撚りピッチ60mm(√(導体の断面積13.36mm2)の16.4倍の撚りピッチ)で、中心撚線の撚り方向に対して同一方向に撚り合わせ、撚線層を形成した。そして、上記中心撚線および撚線層からなる導体の外周に、絶縁層を1.1mm被覆し、外径7.0mmの絶縁電線を製造した。」

(1−4)「【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る絶縁電線は、自動車などの車両、特に電気自動車などに好適に用いることができる。」

そこで、上記(1−1)から(1−4)の記載事項を踏まえると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「捻回伝播を抑制することができる絶縁電線であって(【0013】)、
絶縁電線は、導体の外周に絶縁層が設けられ、導体は、複数の素線を撚り合わせて構成された中心撚線と、中心撚線の外周に複数の素線を撚り合わせて構成された撚線層とを有し、撚線層の撚りピッチは、√(上記導体の断面積)の値の15倍以上であり(【0014】)、
上記絶縁層の材料としては、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンーエチレン共重合体などのオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレンゴムやブタジエンゴムなどの樹脂に、金属水和物(水酸化マグネシウムなど)などのノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加してなる組成物が用いられ(【0035】)、
上記素線としては径0.45mmの軟銅を用い、中心撚線および上記撚線層を形成し(【0049】)、
上記中心撚線としては42本の素線を用い、上記素線を撚りピッチ30mmで撚り合わせ(【0049】)、
この中心撚線の外周に、42本の素線を撚りピッチ60mm(√(導体の断面積13.36mm2)の16.4倍の撚りピッチ)で、中心撚線の撚り方向に対して同一方向に撚り合わせ、撚線層を形成し(【0050】)、
上記中心撚線および撚線層からなる導体の外周に、絶縁層を1.1mm被覆した外径7.0mmである(【0050】)、
自動車などの車両、特に電気自動車などに好適に用いられる絶縁電線(【0064】)。」

2.引用文献2(特開2002−179868号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(2−1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遠赤外線素子入り塩化ビニル系樹脂組成物及びこれを被覆した電線に係り、特には遠赤外線特性により融雪、着雪防止性能に優れた電線の被覆原料として有用な、遠赤外線素子入り塩化ビニル系樹脂組成物及びこれを被覆した電線に関する。」

(2−2)「【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の遠赤外線素子入り塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、50重量%以上の塩化ビニル単量体と、これと共重合可能なビニル系単量体との共重合体、またはこれら以外の重合体に塩化ビニルをグラフト重合させたグラフト共重合体等が挙げられるが、中でも塩化ビニル単独重合体が好ましい。」

(2−3) 「【0013】
本発明の遠赤外線素子入り塩化ビニル系樹脂組成物には、さらに可塑剤を添加配合することが好ましい。
このような可塑剤としては、上記塩化ビニル系樹脂と相溶性のあるものであればよく、これには例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル類;リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−n−エチルヘキシル、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類;トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリブチル等のトリメリット酸エステル類;ペンタエリスリトールエステル、ジエチレングリコールベンゾエート等のグリコールエステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化エステル類;アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリオクチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート等のクエン酸エステル類;テトラ−n−オクチルピロメリテート、ポリプロピレンアジペート、その他ポリエステル系可塑剤等が挙げられ、これらは1種単独または2種以上の組み合わせで使用される。
これら例示した中では、遠赤外線素子が添加された塩化ビニル系樹脂組成物において、発熱することで融雪を行なっているため、耐熱性(熱老化性)が要求される、トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリブチル等のトリメリット酸エステル類が特に好ましく採用される。
また、可塑剤の添加量は、本発明の目的を達成できる範囲であれば特に制限はないが、好ましくは塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、5〜300重量部、特に好ましくは10〜200重量部の範囲内である。」

そこで、上記(2−1)から(2−3)の記載事項を踏まえると、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

「遠赤外線素子入り塩化ビニル系樹脂組成物を被覆した電線に用いられる塩化ビニル系樹脂組成物には、可塑剤を添加配合することが好ましく、可塑剤の添加量は、好ましくは塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、5〜300重量部、特に好ましくは10〜200重量部の範囲内である。」


3.引用文献3(特開2002−363365号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(3−1)「【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、特定の塩化ビニル樹脂および無機化合物を含有することによって、耐スパーク性に優れた軟質塩化ビニル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は(a)重合度1,500〜5,000の部分架橋された塩化ビニル樹脂100重量部に対し、(b)トリメリット酸エステル系可塑剤20〜120重量部、(c)水酸化アルミニウム20〜120重量部、および(d)三酸化アンチモン2〜50重量部を含有することを特徴とする耐スパーク性塩化ビニル樹脂組成物に関する。」

(3−2)「【0007】
(b)成分(トリメリット酸エステル)
本発明における(b)トリメリット酸エステル系可塑剤としては、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM)、トリ−(ノルマル−オクチル)トリメリテート(TnOTM)、トリ−(イソノリル)トリメリテート(TINTM)、トリ−(イソデシル)トリメリテート(TIDTM)などが挙げられる。また、ピロメリット酸エステル系可塑剤として、テトラ−(2−エチルヘキル)ピロメリテート(TOPM)、テトラ−(ノルマル−オクチル)ピロメリテート(TnOPM)などが挙げられる。好ましくはトリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM)、トリ−(ノルマル−オクチル)トリメリテート(TnOTM)である。
(b)成分の使用量としては、(a)成分100重量部に対して、20〜120重量部、好ましくは40重量部〜90重量部、さらに好ましくは、50重量部〜70重量部である。20重量部未満であると押出し加工性が困難である。一方、120重量部を超えると、耐スパーク性、物性面の低下が見られる。」

(3−3)「【0012】
本発明の耐スパーク性塩化ビニル樹脂組成物の製造方法としては、特に制限は無い。組成物の各成分が実質的に均一に分散、混合、混練される方法であれば、どのような製造方法を採用する事もできる。例えば、上記(a)〜(e)成分、その他(f)添加剤をバンバリーミキサー型、コニーダー型、2軸同方向押出機、2軸異方向型押出機など、ロール式混練機、バッチ式混練機、押出機などの混練機で混練し、コンパウンドを得ることができる。得られたコンパウンドは、公知の電線成形用押出し機によって成形し、本発明の組成物で被覆した電線を製造することができる。」

そこで、上記(3−1)から(3−3)の記載事項を踏まえると、引用文献3には、以下の技術事項が記載されている。

「電線に被覆する耐スパーク性に優れた軟質塩化ビニル樹脂組成物であって、
(a)重合度1,500〜5,000の部分架橋された塩化ビニル樹脂100重量部に対し、(b)トリメリット酸エステル系可塑剤20〜120重量部、好ましくは40重量部〜90重量部、さらに好ましくは、50重量部〜70重量部、(c)水酸化アルミニウム20〜120重量部、および(d)三酸化アンチモン2〜50重量部を含有する。」


4.引用文献4(特開2017−155093号公報)について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(4−1)「【0001】
本発明は、電線を被覆する電気絶縁材料として有用なポリ塩化ビニル樹脂組成物、及びそれを用いた電線及びケーブルに関する。」

(4−2)「【0008】
すなわち本発明は以下の(1)〜(4)の通りである。
(1)ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、可塑剤として炭素数が9のn−アルキル基を有するトリメリット酸エステルを20〜100質量部及び安定剤を5〜20質量部含有することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂組成物。
(2)前記安定剤が、Ca−Zn系安定剤、錫系安定剤及びバリウム系安定剤からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする前記(1)に記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物。
(3)導体と該導体の外側に被覆された絶縁層からなり、前記絶縁層が前記(1)又は(2)に記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物で形成されていることを特徴とする電線。
(4)前記(3)に記載の電線を有することを特徴とするケーブル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭素数が9のn−アルキル基を有するトリメリット酸エステルと安定剤を配合することにより、耐熱性を向上させて優れた耐熱老化性を有するとともに、優れた耐寒性と耐摩耗性を有する塩化ビニル樹脂組成物を得ることができる。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて、耐熱性、耐寒性及び耐摩耗性がバランス良く向上した電線を・ケーブル得ることができる。」

そこで、上記(4−1)から(4−2)の記載事項を踏まえると、引用文献4には、以下の技術事項が記載されている。

「耐熱性、耐寒性及び耐摩耗性がバランス良く向上した電線を被覆する電気絶縁材料として有用なポリ塩化ビニル樹脂組成物であって、
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、可塑剤として炭素数が9のn−アルキル基を有するトリメリット酸エステルを20〜100質量部及び安定剤を5〜20質量部含有することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂組成物。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(1−1)『導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、』について

引用発明の「絶縁電線」は、「導体の外周に絶縁層が設けられ、導体は、複数の素線を撚り合わせて構成された中心撚線と、中心撚線の外周に複数の素線を撚り合わせて構成された撚線層とを有し」ているものであるから、引用発明の「中心撚線及び撚線層」は、本願発明1でいう『導体』に相当する。
また、引用発明の「絶縁層」としては、「ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンーエチレン共重合体などのオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレンゴムやブタジエンゴムなどの樹脂に、金属水和物(水酸化マグネシウムなど)などのノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加してなる組成物が用いられ」るのであるから、引用発明の「絶縁層」は、本願発明1でいう『前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体』に相当する。

(1−2)『前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、フェライトコアへの巻き付けに用いられる電線であって、』について

引用発明においては、「上記素線としては径0.45mmの軟銅を用い、中心撚線および上記撚線層を形成し、上記中心撚線としては42本の素線を用い、上記素線を撚りピッチ30mmで撚り合わせ、この中心撚線の外周に、42本の素線を撚りピッチ60mm(√(導体の断面積13.36mm2)の16.4倍の撚りピッチ)で、中心撚線の撚り方向に対して同一方向に撚り合わせ、撚線層を形成」している。
ここで、引用発明の「撚線層」は、「42本の素線を撚りピッチ60mmで撚り合わせて形成」されており、素線の「数」や「撚りピッチ」が本願発明1のそれと重複しているものの、前記「(1−1)」で言及した様に、引用発明の「中心撚線及び撚線層」が本願発明1でいう『導体』に相当するのであるから、『導体』の構成としてみると、本願発明1は、いわゆる「単層」であり、引用発明は「2層(「中心撚線」及び「撚線層」)」という明らかな相違がある。
そうすると、引用発明の「撚線層」が本願発明1でいう『前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり』に対応しているとはいえない。

さらに、引用発明の「絶縁電線」は、「自動車などの車両、特に電気自動車などに好適に用いられ」「捻回伝播を抑制することができる」ものであり、本願発明1のように『フェライトコアへの巻き付けに用いられる』との用途は特定されていない。

(1−3)『前記導体の断面積が5mm2以上20mm2以下であり、前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、』について

引用発明においては、「上記素線としては径0.45mmの軟銅を用い、中心撚線および上記撚線層を形成し、上記中心撚線としては42本の素線を用い、上記素線を撚りピッチ30mmで撚り合わせ、この中心撚線の外周に、42本の素線を撚りピッチ60mm(√(導体の断面積13.36mm2)の16.4倍の撚りピッチ)で、中心撚線の撚り方向に対して同一方向に撚り合わせ、撚線層を形成」している。
そうすると、引用発明の「導体の断面積(13.36mm2)」と「素線の径(0.45mm)」は、本願発明1でいう『前記導体の断面積が5mm2以上20mm2以下であり、前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、』との要件を充足している。

(1−4)『前記絶縁体の厚さが0.4mm以上2.3mm以下であり、前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する、』について

引用発明の「絶縁電線」は、「上記中心撚線および撚線層からなる導体の外周に、絶縁層を1.1mm被覆した外径7.0mmである」から、引用発明の「絶縁層」は、本願発明1でいう『前記絶縁体の厚さが0.4mm以上2.3mm以下であり』との要件を充足している。
一方、引用発明の「絶縁電線」は、「絶縁層」に用いられる「ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂」に「ノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加」することは特定されているものの、本願発明1のように『可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する』との事項は特定されていない。


(2)一致点及び相違点

上記「(1)対比」で言及した事項を踏まえると、本願発明1と引用発明との間には、以下のような一致点、相違点がある。

(一致点)
「導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体の断面積が13.36mm2であり、
前記導体素線の素線径が0.45mmであり、
前記絶縁体の厚さが1.1mmである、電線。」

(相違点1)
本願発明1には、『前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、フェライトコアへの巻き付けに用いられる電線であって、』との事項が特定されているに対し、引用発明には、かかる事項が特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1には、『前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する』との事項が特定されているのに対し、引用発明には、かかる事項が特定されていない点。


(3)判断

相違点1について検討する。

上記「第5 対比・判断」の「1 本願発明1について」の「(1)対比」の「(1−2)」でも言及したように、本願発明1の『導体』は、いわゆる「単層(『前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、』)」であり、引用発明のそれは「2層(「中心撚線」及び「撚線層」)」である。
つまり、本願発明1と引用発明とは、『導体』の構成が明らかに相違しており、引用発明において、「2層(「中心撚線」及び「撚線層」)」で構成される「導体」を本願発明1のように「単層(『前記導体が20〜170本の導体素線を45〜170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、』)」に変更する合理的な動機はなく、如何に当業者といえどもそのような構成の変更を容易になし得るとはいえない。

さらに、引用発明の「絶縁電線」は「自動車などの車両、特に電気自動車などに好適に用いられ」「捻回伝播を抑制することができる」ものであり、これらの「用途先(自動車などの車両、特に電気自動車)」や「特性(捻回伝播を抑制することができる)」についての事項から、直ちに『フェライトコアへの巻き付けに用いられる』との用途限定が導き出される合理的な理由や相関関係もない。

また、引用文献2−4は、上記「第4 引用文献、引用発明等」で言及したように、電線に用いられる絶縁材料として、ポリ塩化ビニル樹脂組成物に可塑剤を含有させたものが周知である旨を示しているにすぎず、上記相違点1にかかる事項については開示も示唆もされていない。

してみると、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は引用発明及び引用文献2−4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。


2 本願発明2について

本願発明2は、請求項1に係る発明を引用しつつ、可塑剤の含有量を更に限定したものであるから、上記相違点1に係る構成を備えるものである。
してみると、本願発明2も本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2−4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、本願発明1及び2は、引用発明及び引用文献2−4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-09-21 
出願番号 P2017-201751
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 佐藤 智康
小田 浩
発明の名称 電線  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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